以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、1種類の抗体を使用し、均一溶液中で検出対象物質である特定の1種類の抗原を検出する。図1(A)および図1(B)は、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置100における抗原抗体反応の概要を示した模式図である。図1(A)および図1(B)を用いて、液中での抗原抗体反応について説明する。図1(A)において、円筒形の試薬カップ10の中に乾燥した抗体12が入れられている。抗体12はナノロッド8に結合されている。ナノロッドとは、ナノサイズの柱状の微粒子のことである。
本実施の形態においては、検体は全血から分離した血漿16である。試薬カップ10に血漿16を分注して撹拌すると、抗体12と特異的に結合する抗原18が血漿16中に存在する場合は、抗体12と抗原18との間で抗原抗体反応が起こり、図1(B)に示すように抗原12に抗体18が特異的に結合する。抗体12は抗原18に対して十分に多い量が入れられているため、一部の抗体12は抗原抗体反応をしないまま血漿溶液中に残る。以下、抗原抗体反応で結合した抗体12および抗原18ならびにナノロッド8の複合体をバインディング分子と呼ぶ。また、抗原18と結合していない抗体12およびナノロッド8の複合体をフリー分子と呼ぶ。血漿16にフリー分子を混合させると、一定時間経過後、バインディング分子およびフリー分子が混在した血漿溶液となる。なお、血漿中には抗原18以外の成分も存在するが、説明を簡単にするため、図1(A)および(B)では抗原18以外の成分は省略してある。
生体分子検出装置100は、フリー分子およびバインディング分子が混在している溶液に対して光を照射し、当該溶液による吸光度、特にナノロッド8による吸光度を測定することにより抗原18の検出および定量を行う。ここで、ナノロッド8は、フリー分子に付随するものとバインディング分子に付随するものとが存在する。フリー分子およびバインディング分子は当該溶液中に混在しているため、当該溶液の吸光度は、当該溶液中に存在する全てのナノロッド8による吸光度の合算値である。そのため、抗原18を含むバインディング分子に付随するナノロッド8による吸光度への寄与分を算出することは困難である。そこで、生体分子検出装置100は、溶液中においてフリー分子およびバインディング分子は運動のし易さが異なること、ならびにフリー分子およびバインディング分子に付随するナノロッドの長軸方向の向きと光の振動方向との関係が吸光度に影響を与えることを利用して溶液の吸光度を測定して抗原18の検出および定量を行う。具体的には、フリー分子およびバインディング分子を配向させ、配向方向の切り替えに伴うフリー分子の吸光度の時間変化とバインディング分子の吸光度の時間変化との差から、溶液全体の吸光度におけるバインディング分子の吸光度の寄与分を算出する。そして、算出されたバインディング分子の吸光度(寄与分)に基づいて、抗原18の検出および定量を行う。
生体分子検出装置100において、バインディング分子による吸光度への寄与分と、フリー分子による吸光度への寄与分とを算出する原理を説明するために、生体分子検出装置100に用いるフリー分子およびバインディング分子の構造について、図2(A)および図2(B)を用いて説明する。図2(A)はフリー分子20の模式図を表す。フリー分子20は、抗体12およびナノロッド8を有する。
ナノロッド8と抗体12は結合されている。ナノロッド8と抗体12との結合は、公知の任意の方法を用いることができる。例えば、アビジン金標識ナノロッドとビオチン化抗体を混合することにより結合させることができる。別の方法としては、プロテインAの物理吸着を利用し、プロテインAを介して金ナノロッドに抗体を結合させる方法がある。具体的には、まず金ナノロッドにプロテインAを物理吸着させ、続いて抗体を吸着させる。一般的に金属類はタンパク質をよく吸着することが知られているため、金ナノロッドにプロテインAを物理吸着させるため、無処理の金ナノロッド液にプロテインA液を添加し1時間程度放置する。1時間後に、スピンフィルターで未吸着の金ナノロッドおよびプロテインAをろ過分離すれば、プロテインAが吸着した金ナノロッドが得られる。続いて、プロテインAが吸着した金ナノロッド液に抗体を添加し、1時間程度放置する。1時間後に、スピンフィルターで未吸着の金ナノロッドおよび抗体をろ過分離すれば、抗体が結合した金ナノロッドが得られる。ここでプロテインAとは、黄色ブドウ球菌の細胞壁成分の5%を占めるタンパク質である。プロテインAは、抗体と特異的に結合する。
抗体12は、抗原18と特異的に結合する物質であり、ナノロッド8に結合されている。抗体12は、生体分子検出装置100のユーザーが検出したい検出対象物質と特異的に結合するものを使用する。
本実施の形態では、検体に全血から分離した血漿を用い、検出対象物質と特異的に結合する抗体12に抗PSA抗体を用いる。そのため、検出対象物質である抗原18としてPSA(Prostate Specific Antigen)を検出することとなる。
ナノロッド8は、図2(A)に示すように短軸方向と長軸方向との長さが異なり、アスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きく細長い柱状の形状を有する。ナノロッドは、金属の微粒子である。
フリー分子20が示す吸光度もバインディング分子22が示す吸光度も、主にナノロッド8による吸光の影響が大半である。従って、抗体12や抗原18による吸光現象の程度は、ナノロッド8による吸光に比べると無視できるほど小さい。
ナノロッド8の吸光スペクトルを説明するため、まず金属の微粒子の吸光特性について説明する。一般に、溶液中に分散した金属の微粒子に光を照射すると、特定の波長(プラズモン共鳴波長)の光が金属のプラズモンと共鳴して吸収されることが知られている。これは局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon Resonance)と呼ばれる。局在表面プラズモン共鳴におけるプラズモン共鳴波長は、金属微粒子の種類、形状、配列などの構造によって異なる。例えば、球状の金微粒子が水に分散した場合は、プラズモン共鳴波長が530nm程度となる。
柱状の金属微粒子であるナノロッドは、球状の金属微粒子の場合とは異なり、短軸方向のプラズモン共鳴波長と長軸方向のプラズモン共鳴波長とが異なり、2つのピークを有する吸光スペクトルが得られる(図3に模式図を示す)。この吸光スペクトルにおける波長500nm付近に位置するピークは、ナノロッドの短軸方向のプラズモン共鳴によるものである。また、波長900nm付近のピークは、ナノロッドの長軸方向のプラズモン共鳴によるものである。
ナノロッドの長軸方向由来のプラズモン共鳴波長は、ナノロッドのアスペクト比が高くなると、すなわちより細長い形状となると、長波長側にシフトしていくことが知られている。本実施の形態では、短軸10nm、長軸50nmの金ナノロッドを使用する。この金ナノロッドは、長軸方向由来のプラズモン共鳴波長が約900nmとなる。
金ナノロッドは、低分子化合物や高分子化合物を保護剤としてナノロッド表面に吸着ないし結合させることによって、金属微粒子が凝集することなく安定的に溶媒に分散する。
図2(B)はバインディング分子22の模式図を表す。バインディング分子22は、抗体12、ナノロッド8および抗原18を有する。バインディング分子22においては、抗体12が抗原18と結合している。
ナノロッド8に光を照射する場合、光の振動方向とナノロッド8の長軸の方向との関係は、ナノロッド8による光の吸光度に影響を与える。光は電磁波の一種であるが、ここでは「光の振動方向」とは電場の振動方向を意味するものとする。本実施の形態では、図4(A)および(B)に示すように、直線偏光された光19がナノロッド8に照射される場合を例にとって説明する。ここで、直線偏光とは、光の振動方向が一定であり、偏光面が変化しない光を指す。図4(A)および(B)の場合においては、直線偏光された光19は、xy平面内を振動しながらy軸の正の方向に向かって進行する。光19の運動を進行方向と振動方向とに分けて考えると、y軸の正の方向が進行方向となり、x軸方向が振動方向となる。直線偏光した光の進行方向および振動方向が存在する面(ここではxy平面)を偏光面という。また、直線偏光した光の振動方向を偏光軸という。直線偏光された光19の振動方向がナノロッド8の長軸方向と平行な場合(図4(A))には、ナノロッド8の長軸方向由来の吸光度が最大となる。直線偏光された光の振動方向とナノロッド8の長軸方向とが垂直な場合(図4(B))には、ナノロッド8の長軸方向由来の吸光度が最小となる。つまり、溶液中におけるナノロッド8の向きは、ナノロッド8による吸光度に影響を与える。
このように、ナノロッドの長軸方向と光の振動方向との関係は、ナノロッドの吸光度に影響を与えるが、ナノロッドの長軸方向と光の振動方向との関係は、フリー分子20に付随するナノロッド8およびバインディング分子22に付随するナノロッド8においても同様である。
溶液中ではフリー分子20およびバインディング分子22は運動しており、溶液中におけるフリー分子20およびバインディング分子22の向き、すなわち双方の分子におけるナノロッド8の向きは溶液の吸光度に影響する。そこで、溶液中におけるフリー分子20およびバインディング分子22の運動について検討する。フリー分子20およびバインディング分子22は、溶液中で不規則にブラウン運動しており、溶液中において移動および回転運動を行っている。従って、フリー分子20の向きおよびバインディング分子22の向きは様々である。
溶液中での分子のブラウン運動は、絶対温度、分子の体積または質量、溶媒の粘度等の影響を受けることが知られている。バインディング分子22は、抗原18の分だけフリー分子20より体積および質量が大きく、溶液中でブラウン運動しにくい。フリー分子20およびバインディング分子22が溶液中でブラウン運動のしやすさが異なることを利用して、ブラウン運動の変化からバインディング分子22の検出を行う方法が知られているが、ブラウン運動というランダムな運動を利用しているため検出感度に限界がある。
そこで、生体分子検出装置100は、配向制御光たるレーザーを利用して溶液中のフリー分子20の配向およびバインディング分子22の配向を制御する。溶液中に存在するフリー分子20およびバインディング分子22にレーザーを照射すると、主にナノロッド8が外力を受け、溶液中でランダムな運動をしていたフリー分子20およびバインディング分子22は、特定の一方向を向く。なお、このように外力を受けて複数存在する分子の全てが特定の一方向を向いた状態を「配向が完了」した状態と表現することとする。フリー分子20およびバインディング分子22は、体積または質量の違いにより溶液中における回転運動のしやすさが異なるため、例えば、レーザーで溶液中の分子の配向を制御した場合においても、フリー分子20とバインディング分子22とでは、レーザーが照射されてから配向が完了するまでに要する時間に差が生じる。生体分子検出装置100は、回転運動のし易さが異なることを利用して、溶液の吸光度からバインディング分子による吸光度を分離し、生体分子を検出する。より詳細には、本実施の形態では、フリー分子とバインディング分子と配向完了に要する時間の差を用いて生体分子を検出する。生体分子検出装置100は、フリー分子20が配向を完了するまでに要する時間とバインディング分子22が配向を完了するまでに要する時間との差を利用して、フリー分子20による吸光度が変化する速さとバインディング分子22による吸光度が変化する速さとの間に差を生じさせ、溶液の吸光度におけるバインディング分子22による寄与分を算出する。
続いて、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置100の構成について説明する。
図5(A)は、生体分子検出装置100の外観斜視図である。生体分子検出装置100の側面には、表示部102、ユーザー入力部104および開閉部106が設けられている。表示部102は、測定結果等を表示する。ユーザー入力部104は、モードの設定、検体情報の入力等を行う。開閉部106は、上蓋の開閉が可能な構成となっており、検体のセット時には上蓋を開け、測定時は上蓋を閉じる。この構成により、外部の光が測定に影響を与えることを防いでいる。
図5(B)は、開閉部106を開いた場合における生体分子検出装置100の外観斜視図である。開閉部106を開くと、生体分子検出装置100の中には試薬カップ108および保持台110がある。試薬カップ108は、保持台110に保持されており、保持台110から着脱可能となっている。試薬カップ108は、溶液を入れる円柱状の容器である。ユーザーは、試薬カップ108に検体を分注し、上蓋を閉じて測定を行う。図示しないが、生体分子検出装置100内には試薬タンクおよび分注部が設けられており、測定が開始されると、分注部は試薬タンク内から試薬(例えば、抗体およびナノロッド)を吸い上げて試薬カップ108内に分注する。
図6は、生体分子検出装置100の主要な構成を説明するための機能ブロック図である。生体分子検出装置100は、表示部102、ユーザー入力部104、試薬カップ108、試薬タンク112、分注部114、配向制御用光源部116、光源部118、AOD(Acousto Optic Deflector)120、ファンクションジェネレータ(以下、FGと示す)122、受光部124、増幅部126、A/D変換部128、サンプリングクロック発生部130、CPU132およびダイクロイックミラー138を有する。
試薬カップ108は、試薬タンク112に保存してある試薬と患者等から採取した検体とを反応させる容器である。試薬カップ108は、円柱状の形状を有している。試薬カップ108は、生体分子検出装置100から着脱可能となっている。試薬カップ108の容量は、約120μLである。
試薬タンク112は、複数種類の試薬をそれぞれ別の容器に入れて貯めておくタンクである。ここで、試薬とは、抗原、抗体、ナノロッドまたはそれらの複合体等、生体分子検出装置100における測定に係わる物質をいう。本実施の形態では、フリー分子20は試薬タンク112中に保存されている。
分注部114は、着脱可能なピペットや吸引器によって構成される。分注部114は、CPU132から出力される命令に従い、測定に使用する試薬を試薬タンク112からピペットで吸い上げ、試薬カップ108へ分注する。
配向制御用光源部116は、配向制御光117をAOD120に向けて照射し、試薬カップ108内の溶液中に存在するフリー分子およびバインディング分子に外力を加えて分子の配向を制御する。配向制御光117には、波長1000nm、出力700mWのレーザーを用いる。配向制御光117は、試薬カップ108の溶液全体を照らす程度のビーム幅を有している。
光源部118は、内部に備えた偏光子により直線偏光した吸光度測定用の光(以下、吸光度測定光119という)を試薬カップ108の側面から試薬カップ108を挟んで受光部124に向けて照射する。吸光度測定光119には、波長905nm、出力0.1mWの光を用いる。なお、吸光度測定光119には、ナノロッド8の長軸方向由来のピークが生じる波長の光を用いることが望ましいが、ここでは光源の入手の容易性を考えて波長905nmの光を用いる。
AOD120は、音響光学効果を利用して、入力電圧に基づいて内部の屈折率を変化させることにより、入射した光の進行方向を切り替える。AOD120は、FG122から出力された電圧信号(以下この信号を配向制御信号という)が示す電圧に基づいて、内部の屈折率を変化させて配向制御光117の進行方向を切り替える。すなわち、配向制御光117の進行方向は、FG122が発生する電圧信号によって決まる。
FG122は、様々な周波数と波形をもった電圧信号を発生させることのできる装置で、CPU132から出力される命令を受けて、AOD120およびサンプリングクロック発生部130へそれぞれ異なる電圧信号を出力する。
CPU132は、生体分子検出装置100の各部の動作を統括的に制御すると共に、測定結果の演算等を行う。CPU132は、FG122が出力する配向制御信号を指定することにより、AOD120が配向制御光117の照射方向を切り替えるタイミングを制御する。
受光部124は、試薬カップ108を挟んで光源部118の対面に設けられている。受光部124は、試薬カップ108を透過した吸光度測定光119を受光し、アナログ電気信号に変換して増幅部126へ出力する。
増幅部126は、受光部124から出力されたアナログデータを増幅してA/D変換部128へ出力する。
サンプリングクロック発生部130は、FG122から入力される電圧信号に基づいて、A/D変換部128がアナログデータをサンプリングするタイミングを指定するサンプリングクロックをA/D変換部128に入力する。
A/D変換部128は、サンプリングクロック発生部130から出力されるサンプリングクロックに基づいて、増幅部126から出力されたアナログデータのサンプリングを行い、アナログデータをデジタルデータに変換してCPU132へ出力する。
CPU132は、A/D変換部128から出力されたデジタルデータを基に、吸光度測定光119に対する溶液の吸光度の演算および検出対象物質の定量を行い、その結果を表示部102へ出力する。また、CPU132は、ユーザー入力部104から入力される信号に基づき、配向制御用光源部116、光源部118、分注部114およびFG122の各々の動作に対する指示命令を行う。具体的には、CPU132は、配向制御用光源部116および光源部118に対し、オン/オフ命令を行う。また、分注部114に対して、使用する試薬を指定する命令および分注動作開始命令を行う。さらに、FG122に対して、出力する信号波形の指示命令および出力命令を行う。
ダイクロイックミラー138は、特定波長の光を反射し、その他の波長の光を透過するミラーである。ダイクロイックミラー138は、配向制御光117を反射し、吸光度測定光119を透過させる。
図7は、配向制御用光源部116から照射される配向制御光117の照射方向の切り替えを、生体分子検出装置100の上方から見た模式図である。図7を用いて、試薬カップ108に対する配向制御光117の照射方向の切り替えについて詳細に説明する。
配向制御用光源部116から照射される配向制御光117は、AOD120を通って試薬カップ108へ照射される。
AOD120は、FG122から5Vの配向制御信号が入力された場合は、配向制御光117の進行方向を切り替える。この場合、配向制御光117は、配向制御光134の方向へ進んで試薬カップ108の側面に入射する。
AOD120は、FG122から0Vの配向制御信号が入力された場合は、配向制御光117を素通りさせ、配向制御光136の方向へ進ませる。配向制御光136は、ダイクロイックミラー138によって反射され、配向制御光134の進行方向と垂直な方向に進んで試薬カップ108の側面に入射する。上方から見た試薬カップ108を時計の文字盤に例えると、配向制御光134は9時の方向から入射して3時の方向へ進行し、配向制御光136は6時の方向から入射して12時の方向へ進行する。
ダイクロイックミラー138は、配向制御光117として用いた波長の光のみを反射し、その他の波長の光を透過する。光源部118から照射された吸光度測定光119は、ダイクロイックミラー138を透過し、ダイクロイックミラー138で反射した配向制御光136と同じ方向に進行して試薬カップ108の側面に入射する。
このような構成により、生体分子検出装置100は、配向制御光117が試薬カップ108へ照射される方向を、角度が90度異なる2つの方向に切り替えることができる。AOD120と試薬カップ108との間には遮光板140が設けられ、配向制御光134の進行方向および配向制御光136の進行方向以外に進行する配向制御光117は、試薬カップ108へ照射されない。また、配向制御光117は、配向制御光134の進行方向に進行した場合においても、配向制御光136の進行方向に進行した場合においても、円柱状の試薬カップ108の側面から入射される。試薬カップ108は円柱状の形状を有しているため、配向制御光117の進行方向が切り替わっても、試薬カップ108の配向制御光117が入射する側面の形状は同じである。従って、配向制御光117がいずれの方向に進行しても、試薬カップ108の形状により与えられる影響は同等となる。
配向制御用光源部116は、AOD120を介して配向制御光134、136という外力をフリー分子20およびバインディング分子22に加えることにより、フリー分子20およびバインディング分子22を特定の方向へ配向させる。配向制御光134、136による外力は、これらの光がフリー分子20およびバインディング分子22に当たって散乱する際の反作用として生じるものである。フリー分子20およびバインディング分子22は、図2に示したように、主要部分を占めるナノロッド8が細長い形状を有しているため、分子全体として観てもナノロッド8の長軸方向に伸びた異方性を有した分子となっている。従って、配向制御光134、136がフリー分子20またはバインディング分子22に当たった場合、配向制御光134、136に対する反作用がより小さくなるように(配向制御光134、136に当たる面積がより小さくなるように)フリー分子20またはバインディング分子22は回動する。その結果、フリー分子20およびバインディング分子22の向き(ナノロッド8の長軸の向き)と配向制御光134、136の進行方向とが平行となるようになる。この平行関係となったときがエネルギー的に最も安定した状態であるため、フリー分子20およびバインディング分子22の回動はここで停止する。換言すると、フリー分子20およびバインディング分子22は、配向制御光134、136が照射されていないときは、溶液中でランダムな方向を向いて分散しているが、配向制御光134が照射されると、フリー分子20およびバインディング分子22が回動し、その全てのナノロッド8の長軸方向が配向制御光134の進行方向に揃うような位置で停止する。配向制御光136が照射される場合も同様に、フリー分子20およびバインディング分子22が回動し、その全てのナノロッド8の長軸方向が配向制御光136の進行方向に揃うような位置で停止する。配向制御光136が照射される場合も同様に、フリー分子20およびバインディング分子22が回動し、その全てのナノロッド8の長軸方向が配向制御光136の進行方向に揃うような位置で停止する。
図8(A)および(B)は、レーザーの照射方向とフリー分子20またはバインディング分子22の配向方向との関係を表した模式図である。図8(A)および(B)は、試薬カップ108を上方から見た図である。
図8(A)は、試薬カップ108の側面から配向制御光136が照射され、フリー分子20およびバインディング分子22の双方が配向制御光136の進行方向と同方向に配向した場合を示した図である。この図に示すように、配向制御光136の照射を受けている溶液中に存在する全てのフリー分子20およびバインディング分子22が同一方向に配向する。すなわち、フリー分子20に付随するナノロッド8の長軸方向およびバインディング分子22に付随するナノロッド8の長軸方向が同一方向に揃う。
図8(B)は、図8(A)に示した配向制御光136とは90度異なる方向に進行する配向制御光134が試薬カップ108の側面から照射され、フリー分子20およびバインディング分子22が配向制御光134の進行方向と同方向に配向した場合を示した図である。配向制御光136から配向制御光134へのように、配向制御光の照射方向が90度切り替わると、配向制御光136の進行方向に(ナノロッドの長軸方向を向けて)配向していたフリー分子20は回動する方向の力を受ける。バインディング分子22も同様に、配向制御光の照射方向が90度切り替わると、回動する方向の力を受ける。その後、十分な時間が経過すれば、フリー分子20およびバインディング分子22は、配向制御光134の照射方向、すなわち紙面左右方向にナノロッドの長軸方向を向けて配向する。この場合においても、フリー分子20に付随するナノロッド8の長軸方向、およびバインディング分子22に付随するナノロッド8の長軸方向が同一方向に揃う。配向制御光の照射方向を切り替えて十分な時間が経過すれば、全てのフリー分子20に付随するナノロッド8の長軸方向、および全てのバインディング分子22に付随するナノロッド8の長軸方向は同一方向に揃うが、フリー分子20が配向を完了するまでに要する時間と、バインディング分子22が配向を完了するまでに要する時間とには差が生じる。
図9(A)〜(C)に示す模式図を用いて、配向制御用光源部116から照射される配向制御光117の進行方向の切り替えに伴うフリー分子20およびバインディング分子22の動作を詳細に説明する。なお、ここでは理解を容易にするために、試薬カップ108中にフリー分子20およびバインディング分子22がそれぞれ1つずつ存在する場合を例に取り説明する。
図9(A)は、AOD120が配向制御光117を素通りさせた場合(配向制御光117の進行方向に変化がない場合)におけるフリー分子20の配向方向およびバインディング分子22の配向方向を示す図である。配向制御光136が紙面下から上に進行して試薬カップ108に入射すると、フリー分子20およびバインディング分子22は、それぞれに付随するナノロッド8の長軸方向が配向制御光136の進行方向と平行となる向き(この場合、紙面上下方向)に配向する。
図9(B)は、AOD120が配向制御光117の進行方向を切り替えた場合のフリー分子20およびバインディング分子22の動作を説明するための図である。配向制御光134が紙面左から右に進行して試薬カップ108に入射すると、フリー分子20およびバインディング分子22は、それぞれに付随するナノロッド8の長軸方向が配向制御光117の進行方向と同一方向となるように回動する。この場合、バインディング分子22に比べて体積および質量が小さいフリー分子20の方が速く回動し、配向完了までに要する時間が短い。バインディング分子22は、フリー分子20より遅れて配向を完了する。
図9(C)は、AOD120が配向制御光117の進行方向を切り替えた場合におけるフリー分子20の配向方向およびバインディング分子22の配向方向を示す図である。配向制御光134が紙面左から右に進行して試薬カップ108に入射すると、フリー分子20およびバインディング分子22は、それぞれに付随するナノロッドの長軸方向が配向制御光134の進行方向と平行となる向き(この場合紙面左右方向)に配向する。
このようにして、生体分子検出装置100は、フリー分子20の配向方向およびバインディング分子22の配向方向を、角度が互いに90度異なる2つの方向に切り替えることができる。
次いで、フリー分子20およびバインディング分子22の各々の配向方向と吸光度測定光119との関係について、図10(A)および(B)を用いて説明する。
図10(A)は、FG122からAOD120への出力が0Vの場合における、フリー分子20およびバインディング分子22の各々の配向方向と吸光度測定光119の振動方向との関係を示した模式図である。
FG122からAOD120への出力が0Vの場合、吸光度測定光119の振動方向とナノロッド8の長軸方向とが垂直となる。この場合、フリー分子20に付随するナノロッド8の長軸方向に由来する吸光度も最小となるし、バインディング分子22に付随するナノロッド8の長軸方向に由来する吸光度も最小となる。
図10(B)は、FG122からAOD120への出力が5Vの場合における、フリー分子20およびバインディング分子22の各々の配向方向と吸光度測定光119の振動方向との関係を示した模式図である。
FG122からAOD120への出力が5Vの場合、吸光度測定光119の振動方向とナノロッド8の長軸方向とが平行となる。この場合、フリー分子20に付随するナノロッド8の長軸方向に由来する吸光度も最大となるし、バインディング分子22に付随するナノロッド8の長軸方向に由来する吸光度も最大となる。
このように、AOD120による配向制御光117の照射方向の切り替え、すなわちフリー分子20およびバインディング分子22の配向方向の切り替えは、フリー分子20またはバインディング分子22に付随するナノロッド8の長軸方向由来の吸光度を最大と最小との間で切り替えることになる。図11は、フリー分子20およびバインディング分子22の配向方向の切り替えに伴う吸光度の変化を示したグラフである。本実施の形態に用いたナノロッド8の場合は、波長900nm付近の光に対する吸光度が、吸光度測定光119の振動方向とナノロッドの長軸方向との関係により変化する。吸光度測定光119の振動方向とナノロッドの長軸方向とが垂直関係にある場合に吸光度が最小となり、吸光度測定光119の振動方向とナノロッドの長軸方向とが平行関係にある場合に吸光度が最大となる。ここで、ナノロッド8の配向方向の変化に伴い吸光度が最も大きく変化するのは、ピークが表れる波長の光に対する吸光度、すなわち900nmの光に対する吸光度である。
配向制御光の117の照射方向の切り替えによりフリー分子20およびバインディング分子22の配向方向は切り替わるが、フリー分子20およびバインディング分子22は、体積、質量が異なるため、配向制御光117の照射方向の切り替えに対して配向を切り替える速度が異なる。フリー分子20は、バインディング分子22に比べて体積、質量が小さいため、配向制御光117の照射方向の切り替えに対してバインディング分子22よりも早く配向方向が変化する。つまり、バインディング分子22より早く配向が完了するため、1分子あたりの吸光度が最大となる時間的タイミングがバインディング分子22よりも早い段階で現れる。
生体分子検出装置100は、配向制御光117の照射方向の切り替えに伴いフリー分子20の吸光度とバインディング分子22の吸光度とが変化するタイミングが異なることを利用して、配向制御光117の照射方向の切り替えに伴う溶液の吸光度の時間変化に基づいて、吸光度の合計に対するフリー分子20の寄与分とバインディング分子22の寄与分との分離を行う。
続いて図12を用いて受光部124の詳細な構成について説明する。図12は、受光部124の詳細な構成を表した模式図である。受光部124は、レンズ142、フィルタ144、偏光子146、レンズ148およびフォトダイオード150を含む。
受光部124は、試薬カップ108の底面側から試薬カップ108を透過した吸光度測定光119を受光する。試薬カップ108内のフリー分子20またはバインディング分子22を透過した吸光度測定光119は、レンズ142によって集光され、フィルタ144、偏光子146およびレンズ148を通ってフォトダイオード150へ入射される。この図では、吸光度測定光119の左端147および右端149を用いて光の進行方向を表してある。
フィルタ144は、吸光度測定光119の波長以外の波長の光をカットするバンドパスフィルタであり、配向制御光等の吸光度測定光119以外の光がフォトダイオード150へ入射することを防いでいる。
偏光子146は、吸光度測定光119の振動方向と同じ方向に振動する光のみを透過させる。
フォトダイオード150は、レンズ148によって集光された吸光度測定光119を受光し、吸光度測定光119の強度に応じた電荷を発生させて増幅部126へ出力する。このようにして受光部124は、試薬カップ108内を透過した吸光度測定光119のみを受光し、ノイズの原因となるその他の光を受光しない。
続いて、生体分子検出装置100の測定時における動作について説明する。図13は、検体の準備から廃棄までの流れを模式的に表した図である。
測定の準備にあたり、まず患者から50μL採集した全血156を遠心分離し、血漿16を分離する。分離して取り出した血漿16を、生体分子検出装置100の検体セット部152にセットする。ここまでの作業はユーザーが行う。
生体分子検出装置100は、検体セット部152にセットされた血漿を、試薬カップストック部160にストックしてある未使用の試薬カップ108の中に分注する。続いて、生体分子検出装置100は、試薬タンク112の中に存在するフリー分子20をピペット158で吸い上げ、試薬カップ108の中に分注する。試薬カップ108内に血漿16およびフリー分子20を注入後、生体分子検出装置100は、試薬カップ108を37℃で温調しながら、内蔵したボルテックスミキサーによって振動させ、抗原抗体反応を起こさせる。その後、生体分子検出装置100は、吸光度測定光119の照射、検出対象物質の検出もしくは定量等の測定を行い、測定終了後に試薬カップ108を内蔵のごみ箱154へ廃棄する。
測定の際にFG122が出力する配向制御信号の変化、および試薬カップ内の溶液による波長905nmの光の吸光度の変化について、図14を用いて説明する。図14は、縦軸が生体分子検出装置100における配向制御信号の電圧または波長905nmの配向制御光の吸光度を表し、横軸が時間tを表したグラフである。なお、ここでは説明を容易にするため、波長905nmの光の吸光度については、グラフを模式的に示してある。
FG122から出力される配向制御信号は、測定前は0Vとなっている。測定前においては、配向制御光117を試薬カップ108内の溶液中に照射して、フリー分子20およびバインディング分子22を同一方向に配向させておく。測定の開始に伴い、CPU132は吸光度測定光119の照射を開始する命令を光源部118へ出力する。配向制御信号が0Vの場合、試薬カップ108内の溶液の吸光度はizの値となる。
試薬カップ108に向けて吸光度測定光119が照射されると、溶液内のナノロッド8は、局在表面プラズモン共鳴を起こし、吸光度測定光119を吸収する。吸光度測定光119は、ナノロッド8により吸収され弱められながら溶液を透過し、受光部124内のフォトダイオード150へ入射する。光源部118から照射された吸光度測定光119の当初の出力と、フォトダイオード150で受光された吸光度測定光119の出力とから、配向制御信号が0Vの場合におけるナノロッド8による吸光度測定光119の吸光度izが測定される。
続いて、CPU132は、時刻T1で配向制御信号を5Vにする命令を出力する。配向制御信号を5Vとすると、AOD120が配向制御光117の照射方向を90度切り替える。配向制御光117の照射方向の切り替えに伴い、試薬カップ108内に存在するフリー分子20およびバインディング分子22は、配向方向が90度切り替わる。
フリー分子20の配向方向の切り替え、およびバインディング分子22の配向方向の切り替えが開始され、吸光度測定光119の振動方向とナノロッド8の長軸方向とが同方向に近づくほど、吸光度測定光119とナノロッド8とが局在表面プラズモン共鳴を起こす割合が増加し、吸光度が増加する。従って、フリー分子20の配向方向の切り替え、およびバインディング分子22の配向方向の切り替えが開始することに伴い、波長905nmの光に対する溶液の吸光度もizから増加していく。この場合、バインディング分子22に比べて体積、質量の小さいフリー分子20の方が配向方向の切り替えが速いため、フリー分子20の方が吸光度の変化も速くなる。
配向方向の切り替えが完了した(ここでは、吸光度測定光119の振動方向とナノロッド8の長軸方向とが平行となった)フリー分子20およびバインディング分子22は、吸光度測定光119の吸光度が最大となる。フリー分子20の方が配向方向の切り替えが速いため、時刻T2で全てのフリー分子20の配向方向の切り替えが完了すると、波長905nmの光の吸光度は、値ifで飽和する。
その後、バインディング分子22の配向方向が切り替わることに伴い、吸光度のグラフは時刻T3で再び増加していく。時刻T4で全てのバインディング分子22の配向方向の切り替えが完了すると、波長905nmの光の吸光度は値itで飽和する。
配向制御信号は、5Vの出力がT秒間続いた後0Vとなる。このT秒は、波長905nmの光の吸光度が時刻T4において2度目の飽和をするのに充分な時間を少なくとも設定する。配向制御信号が5Vから0Vに切り替わると、波長905nmの光の吸光度は、しばらくitの値を示すが、その後izの値まで減少する。波長905nmの光の吸光度がizとなる理由は、配向制御信号が0Vに切り替わったことに伴い、吸光度測定光119の振動方向とフリー分子20およびバインディング分子22に付随する双方のナノロッド8の長軸方向とが垂直となり、フリー分子20またはバインディング分子22の1分子あたりの吸光度が減少するためである。配向制御信号が0Vとなった状態においても波長905nmの光の吸光度がしばらくの時間はitという値を示す理由は、フリー分子20およびバインディング分子22の配向方向の切り替えタイミングが、配向制御信号の切り替えタイミングに対して少し時間的に遅れるためである。
ここで、配向制御信号を0Vとする期間は、配向制御信号を5Vとしていた期間と同じT秒とした。これは、配向制御光117の出力が一定という条件下では、溶液中のフリー分子20およびバインディング分子22の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間は、配向制御信号を0Vから5Vとした場合と、配向制御信号を5Vから0Vにした場合とで、ほぼ同じ時間がかかるためである。配向制御信号が0Vから5Vに変わって時間Tだけ経過し、配向制御信号が0Vに戻り、時間Tだけ経過するまでが、生体分子検出装置100における測定の1周期である。すなわち、生体分子検出装置100における1周期の測定時間は2Tである。
なお、吸光度の時間変化が非常に緩やかなために、ifの値が明確に判別できない場合においては、フリー分子20による吸光度の成分とバインディング分子22による吸光度の成分とをコンピュータシミュレーションによって分離し、ifの値を求めるようにしても良い。
図15は、生体分子検出装置100における配向制御信号を複数周期に亘って示したグラフである。生体分子検出装置100は、図15に示すように、配向制御信号を所定の間隔で切り替えて上記1周期の測定を複数回行い、得られた複数のit、ifおよびizの値を、それぞれ加算平均を行って、it、ifおよびizの値の平均値を求める。本実施の形態では、上記1周期の測定を10回行い、it、ifおよびizの値の平均値を求める。これにより、様々な要因により発生する測定結果のばらつきを平均化している。
CPU132は、得られたit、if、izの平均値から、バインディング分子22の濃度を算出する。具体的には、初めに測定値Sを、次式(1)によって求める。
S=(it−if)/(it−iz)・・・(1)
式(1)において、(it−if)は、バインディング分子22が配向方向を切り替えることに伴い増加した吸光度を求めている。(it−iz)は、得られた吸光度の最大値から測定当初の吸光度を減ずることにより、フリー分子20およびバインディング分子22が配向方向を切り替えることに伴い増加した吸光度を求めている。(it−if)を(it−iz)で除算することにより、光学系変動等の測定結果の再現性を悪化させる要因をキャンセルしている。
CPU132は、ここで求めた測定値Sから、診断値C(検出対象物質の濃度)を求める。診断値Cは、次式(2)によって求める。
C=f(S)・・・(2)
ここで、f(S)は、検量線関数である。あらかじめ既知の複数濃度の標準検体を用いてスペクトルと濃度との関係を取得しておき、この関係を基にスペクトル変化と濃度との関数を示す検量線関数を求めておけば、スペクトルの変化から検出対象物質の濃度を求めることができる。生体分子検出装置100は、測定項目ごとに異なる検量線関数を記憶しておき、測定値Sを診断値Cに変換する。CPU132は、得られた診断値Cを表示部102へ出力する。このように、受光部124、増幅部126、A/D変換部128およびCPU132が協働することで、吸光度を測定して生体分子を検出する検出手段となる。
以上説明したように、本発明の実施の形態1に係る生体分子検出装置100によれば、配向制御光117の照射方向の切り替えにより、溶液中のフリー分子20の配向方向およびバインディング分子22の配向方向を切り替えることが可能な構成とした。配向制御光117により切り替えるフリー分子20の配向方向およびバインディング分子22の配向方向は、フリー分子20に付随するナノロッド8の長軸方向およびバインディング分子22に付随するナノロッド8の長軸方向が、吸光度測定光119の振動方向に対して平行な方向と、垂直な方向である。すなわち生体分子検出装置100は、配向制御光117の照射方向の切り替えにより、フリー分子20およびバインディング分子22の1分子あたりの吸光度を切り替える。また、フリー分子20およびバインディング分子22は、配向制御光117の照射方向の切り替えに伴う配向方向の切り替えに要する時間に差が生じるため、それぞれの分子の吸光度が増加するタイミングが異なる。従って生体分子検出装置100は、溶液中のバインディング分子に付随したナノロッドによる吸光度への寄与分を算出することができ、簡便な構成で検出対象物質の濃度を正確に測定することができる。
また、以上の構成において、生体分子検出装置100は、配向制御光117による外力によって、フリー分子20の配向およびバインディング分子22の配向を全て同じ方向に制御するため、ブラウン運動というランダムな運動を利用して測定する場合に比べて、高感度な測定をすることができる。
なお、本実施の形態では、抗原抗体反応を利用する場合を例にとって説明したが、検出対象物質と、検出対象物質に特異的に結合する物質との組み合わせは、抗原、抗体に限られず、例えば、抗原を用いて抗体を検出する場合や、特定のDNAを用いて当該DNAとハイブリダイゼーションをするDNAを検出する場合、DNAを用いてDNA結合性たんぱく質を結合する場合、リガンドを用いてレセプターを検出する場合、糖を用いてレクチンを検出する場合、プロテアーゼ検出を利用する場合、高次構造変化を用いる場合等がある。検出対象物質と検出対象物質に特異的に結合する物質の組み合わせが、抗原と抗体以外の場合においても、検出対象物質に特異的に結合する物質とナノロッドとを結合させてフリー分子を構成し、フリー分子と検出対象物質とを結合させてバインディング分子を構成すれば、本実施の形態に係る生体分子検出装置により検出対象物質の濃度を測定することができる。
また、本実施の形態では、測定結果から検出対象物質の濃度の算出までの説明を容易にするため、測定結果のグラフを模式的な図とした場合における検出対象物質の算出の説明を行ったが、必ずしもこのように算出する必要はなく、例えば、グラフ中の変曲点に基づいて、フリー分子による吸光度が飽和した点を決定して検出対象物質の濃度の算出を行っても良い。
また、配向制御信号を5Vと0Vとの間で切り替える際の時間間隔は、フリー分子やバインディング分子の体積、溶媒の粘度、溶液の温度等に基づいて変化させることが望ましい。すなわち、フリー分子が、配向制御光の照射方向の切り替わりにより配向方向が変化し始め、その切り替わりが完了するまでに要する時間は、フリー分子の体積、溶媒の粘度、溶液の温度、溶液中におけるフリー分子の回転しやすさ等によって決まる。また、バインディング分子が配向方向の切り替わりに要する時間も、バインディング分子の体積、溶媒の粘度、溶液の温度、溶液中におけるバインディング分子の回転しやすさ等によって決まる。例えば、検体の粘度が高い場合等、フリー分子が溶液中で回転しにくい場合は、フリー分子の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間が長くなるため、配向制御信号を5Vまたは0Vとする期間を、フリー分子の配向方向の切り替えが完了する程度まで長くすることが望ましい。バインディング分子の配向方向の切り替えについても同様のことが言える。ここで、フリー分子およびバインディング分子の双方の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間は、吸光度測定の結果に基づいて決定することができる。例えば、図14においては、吸光度が最大値となった時刻T4から初めに配向制御信号を5Vにした時刻T1を減算すること、すなわちT4−T1を行うことにより、フリー分子およびバインディング分子の双方の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間を求めることができる。
また、本実施の形態では、配向制御光117として波長1000nm、出力700mWのレーザーを用いたが、配向制御光117はこのレーザーに限られない。配向制御光117の波長および出力強度は、フリー分子およびバインディング分子の体積、質量等、これらに起因する溶液中での回転しやすさに基づいて決定することが望ましい。配向制御光117の波長は、フリー分子およびバインディング分子を配向させることができ、吸光度測定に影響を与えない波長であれば何でも良い。また、レーザーの出力は、フリー分子とバインディング分子との間に、配向方向の切り替えに要する時間に差が表れる程度の出力とすることが望ましい。
また、本実施の形態では、吸光度測定光119に波長905nm、出力0.1mWの光を用いたが、吸光度測定光119に用いる光はこの光に限られない。吸光度測定光119の波長は、ナノロッドの配向方向の変化に伴い吸光度に変化が生じる波長であれば良いが、ナノロッドによる吸光度が最大となる波長の光を用いることが望ましい。ナノロッドによる吸光度が最大となる波長の光を使用して吸光度測定を行うと、ナノロッドの配向方向の変化に伴い吸光度が最も大きく変化するため、フリー分子とバインディング分子を分離して算出することが容易となる。また、吸光度測定光119の出力は、吸光度測定が可能な出力であれば何でも良い。また、光源部118はランプと干渉フィルタの組み合わせによって構成しても良い。
なお、本実施の形態では、繰り返し測定を行って測定結果の加算平均を求めたが、加算平均は必ずしも行う必要はなく、ユーザーが何を重視するかによって決定すれば良い。例えば、ユーザーが素早く測定を行いたい場合は、測定を1周期のみ行って結果を表示すれば良い。また、ユーザーがより高精度な測定を行いたい場合は、何周期かに亘って測定を行い、測定精度を向上させた結果を表示すれば良い。
なお、図2(A)および(B)では、説明を分かりやすくするためにナノロッド8を円柱で示したが、実際のナノロッド8は完全な円柱状の形状とは限らない。また、ナノロッド8は、吸光度測定光の振動方向に対する長軸方向の向きにより、吸光度に変化が現れる形状であれば良い。
(実施の形態2)
実施の形態2は、2種類の抗体を使用し、均一溶液中で検出対象物質である特定の2種類の抗原を検出する態様である。図16(A)および(B)は、本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置の抗原抗体反応の概要を示した模式図である。ここでは、試薬カップ108の中に、抗体32および抗体34が入れられている。抗体32は、ナノロッド36と結合してフリー分子を形成している(以下、フリー分子Aという)。抗体34は、ナノロッド38と結合してフリー分子を形成している(以下、フリー分子Bという)。
試薬カップ108の中に検体16を入れて撹拌すると、抗体32と特異的に結合する抗原44が検体中に存在する場合は、フリー分子Aと抗原44との間で抗原抗体反応が起こり、抗体32および抗原44が特異的に結合する。同様に抗体34と特異的に結合する抗原46が検体中に存在する場合は、フリー分子Bと抗原46との間で抗原抗体反応が起こり、抗体34および抗原46が特異的に結合する。実施の形態1で説明した場合と同様に、一部の抗体32および抗体34は、抗原抗体反応をしないまま溶液中に存在する。以下、抗原抗体反応をしたフリー分子Aおよび抗原44の複合体をバインディング分子Aと呼び、抗原抗体反応をしたフリー分子Bおよび抗原46の複合体をバインディング分子Bと呼ぶ。本実施の形態では、検出対象物質である抗原44はPSA、抗原46はSCC(Squamous Cell Carcinoma)抗原とする。また、抗体32としてPSAと特異的に結合する抗PSA抗体を用い、抗体34としてSCC抗原と特異的に結合するSCC抗体を用いる。
図17(A)および(B)は、バインディング分子Aおよびバインディング分子Bをナノロッド36およびナノロッド38の上方から見た図である。ナノロッド36とナノロッド38とは、長軸方向の長さが異なり、ナノロッド38の方が長軸方向の長さが長い。本実施の形態では、ナノロッド36には短軸10nm、長軸50nmの金ナノロッドを使用する。また、ナノロッド38には短軸10nm、長軸60nmの金ナノロッドを使用する。
図18は、光の波長に対するナノロッド36またはナノロッド38による吸光度の変化を描いたグラフである。グラフ50は、ナノロッド36による吸光度を表したグラフである。グラフ52は、ナノロッド38による吸光度を表したグラフである。一般的にナノロッドは、長軸方向の長さが長いほど、長軸方向由来のプラズモン共鳴波長が長波長側に現れる。この例では、ナノロッド36の長軸方向由来のピークが波長900nm付近に表れる。また、ナノロッド38の長軸方向由来のピークは、波長1000nm付近に現れる。なお、ここでは説明を容易にするためグラフを模式的に示してある。
本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置は、2種類のフリー分子と2種類のバインディング分子とが混在する溶液に吸光度測定光を照射し、2種類の検出対象物質それぞれの検出または定量を行う。以下、本実施の形態に係る生体分子検出装置について詳細に説明する。
図19は、本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置200の主要な構成を示すブロック図である。なお、実施の形態1で示した生体分子検出装置100と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
生体分子検出装置200は、実施の形態1で示した生体分子検出装置100の構成に対して、光源部201、受光部202、分注部204、試薬タンク206およびCPU208が主に異なる。
分注部204は、複数の抗体がそれぞれ別の容器に入った試薬タンク206からユーザーによって指定された抗体を吸い上げ、試薬カップ108内へ分注する。
光源部201は、内部に備えた偏光子により直線偏光した光を試薬カップ108に向けて照射する。光源部201は、波長905nmの光と波長1.1μm(1100nm)の光とから照射する光を選択することができる光源である。光源部201の出力は0.1mWである。光源部201が照射することができる2種類の波長は、それぞれナノロッド36の長軸方向由来のピークが現れる付近の波長と、ナノロッド38の長軸方向由来のピークが現れる付近の波長である。以下、光源部201から照射される光を吸光度測定光209という。
受光部202は、試薬カップ108を透過した吸光度測定光209を受光する。受光部202は、CPU208から出力される命令(S1)を受けて、吸光度測定光209の波長に応じたフィルタを用いて吸光度測定光209を受光するように構成されている。受光部202の詳細な構成については後述する。
CPU208は、A/D変換部128から出力されたデジタルデータの演算を行い、その結果を表示部102へ出力する。また、CPU208は、ユーザー入力部104から入力される信号に基づき、配向制御用光源部116、光源部201、分注部204、FG122および受光部202の各々の動作に対する指示命令を行う。具体的には、CPU208は、配向制御用光源部116および光源部201に対し、オン/オフ命令を行う。また、分注部204に対して、使用する試薬を指定する命令および分注動作開始命令を行う。さらに、FG122に対して、出力する信号波形の指示命令および出力命令を行う。また、受光部202に対してフィルタの切り替え命令を行う。
受光部202の構成について、図20を用いて詳細に説明する。図20は、実施の形態2に係る生体分子検出装置200における受光部202の詳細な構成を表した模式図である。
受光部202内のフィルタ切替部210は、フィルタ212およびフィルタ214の2種類のフィルタを備えている。この2種類のフィルタは可動式となっており、レンズ142によって集光された光が通るフィルタを切り替えることができる。フィルタ切替部210は、CPU208からの命令(S1)を受信して、光源201から照射されている吸光度測定光209の波長に合わせて使用するフィルタを切り替える。具体的には、レンズ142で集光された光が通る位置に使用するフィルタを移動させ、使用しないフィルタを光が通らない位置に退避させる。本実施の形態では、フィルタ212は、波長905nmの光を透過するバンドパスフィルタを用いる。フィルタ214は、波長1.1μmの光を透過するバンドパスフィルタを用いる。CPU208は、光源部201に波長905nmの光を照射させる場合はフィルタ212を使用する命令を受光部202に出力する。また、CPU208は、光源部201に波長1.1μmの光を照射させる場合はフィルタ214を使用する命令を受光部202に出力する。この構成により、吸光度測定光209に用いた波長以外の光が受光部202に入射することを防ぎ、ノイズを減少させることができる。
本実施の形態においても、AOD120による配向制御光117の照射方向の切り替えは、ナノロッド36およびナノロッド38の長軸方向由来の吸光度を最大と最小との間で切り替える。図21は、ナノロッド36およびナノロッド38の配向方向の切り替えに伴う吸光度の変化を示したグラフである。図21において、曲線50は波長の変化に対するナノロッド36による吸光度を表したグラフである。曲線52は波長の変化に対するナノロッド38による吸光度を表したグラフである。なお、図21のグラフは説明を容易にするために模式的に描いてある。
本実施の形態に用いたナノロッド36の波長900nm付近の光に対する吸光度は、ナノロッド36の長軸方向の向きが吸光度測定光209の振動方向に対して平行方向に近づくほど増加する。図21には、ナノロッド36の配向方向の切り替えに伴う吸光度の変化を、破線で示す曲線54によって示す。また、ナノロッド38の波長1.1μm付近の光に対する吸光度は、ナノロッド38の長軸方向の向きが吸光度測定光209の振動方向に対して平行方向に近づくほど増加する。図21には、ナノロッド38の配向方向の切り替えに伴う吸光度の変化を、破線で示す曲線56によって示す。
ナノロッド36においてもナノロッド38においても、吸光度測定光209の振動方向とナノロッドの長軸方向とが垂直の場合に吸光度が最小となり、吸光度測定光209の振動方向とナノロッドの長軸方向とが平行の場合に吸光度が最大となる。しかし、ナノロッド36の長軸方向由来の吸光度のピークが現れる波長と、ナノロッド38の長軸方向由来の吸光度のピークが現れる波長とは十分離れている。また、ナノロッド36およびナノロッド38の吸光度スペクトルにおいて、ピーク付近の吸光度以外は配向の変化に伴う変化が非常に少ない。そのため、ナノロッド36を含むフリー分子およびバインディング分子を測定する場合は、吸光度測定光209として波長900nm付近の光を用いるとナノロッド38の影響を無視して吸光度測定を行うことができる。同様に、ナノロッド38を含むフリー分子およびバインディング分子を測定する場合は、吸光度測定光209として波長1.1μm付近の光を用いる。このように、複数種類のフリー分子およびバインディング分子が混在していても、ナノロッドの長軸方向由来のピークが表れる波長が異なるので、所望のフリー分子およびバインディング分子の各々の吸光度を測定することができる。
本実施の形態に係る生体分子検出装置200は、実施の形態1と同様に、配向制御光の照射に伴いフリー分子が配向を完了するまでに要する時間とバインディング分子が配向を完了するまでに要する時間との差を利用して測定を行う。すなわち、配向制御光を照射することにより、フリー分子に付随するナノロッドによる吸光度ナノロッドの吸光度が変化するタイミングとバインディング分子に付随するナノロッドの吸光度が変化するタイミングとに差を生じさせる。そして、溶液の吸光度の時間変化から、バインディング分子に付随したナノロッドによる吸光度への寄与分を算出し、検出対象物質の定量を行う。吸光度測定においては、測定する対象のフリー分子およびバインディング分子の双方に付随するナノロッドの長軸方向由来の吸光度が現れる波長帯の光を用いる。
続いて生体分子検出装置200の測定動作について説明する。生体分子検出装置200の測定動作は、実施の形態1で説明した生体分子検出装置100の測定動作と基本的には同じであるが、細かな点で異なる。フリー分子とバインディング分子が混在した溶液からバインディング分子を分離して検出する原理については実施の形態1で説明したため、ここでは溶液中に混在する2種類のバインディング分子から目的のバインディング分子のみを検出する原理について説明する。
生体分子検出装置200は、初めに2種類のバインディング分子のどちらを先に検出するか決定する。例えば、生体分子検出装置200を使用するユーザーが、ユーザー入力部104を用いて任意に決定することができる。
ここでは、ナノロッド36を有するバインディング分子Aから先に測定を行う場合を説明する。CPU208は、受光部202内のフィルタ切替部210に、フィルタ212の使用を指示する命令を出力する。フィルタ切替部210は、CPU208からの命令を受信し、レンズ142で集光された光が通る位置にフィルタ212を移動させる。また、CPU208は、光源部201に、波長905nmの吸光度測定光209を照射する命令を出力する。
試薬カップ108に向けて吸光度測定光209が照射されると、溶液内のナノロッド36は、吸光度測定光209と局在表面プラズモン共鳴を起こし吸光度測定光209を吸収する。また、ナノロッド38も同様に吸光度測定光209を吸収するが、その割合はナノロッド36に比べると無視できるほど少ない。
吸光度測定光209は、ナノロッド36により吸収され弱められながら溶液を透過し、受光部202へ入射する。吸光度測定光209は、レンズ142によって集光され、フィルタ212へ入射する。フィルタ212は905nmの波長の光を通すため、吸光度測定光209はフィルタ212を透過してフォトダイオード150に到達する。光源部201から照射された当初の吸光度測定光209の出力と、フォトダイオード150で受光された吸光度測定光209の出力とから、配向制御信号が0Vの場合におけるナノロッド36による吸光度測定光209の吸光度iz1が測定される。
生体分子検出装置200によって試薬カップ108内の溶液の吸光度測定を行った結果を図22(A)および(B)に示す。なお、ここでは説明を容易にするためグラフを模式的に示してある。
図22(A)は試薬カップ108内の溶液による波長905nmの光の吸光度の時間に対する変化である。この吸光度は、主にナノロッド36による吸光度である。T11での測定の開始に伴い、フリー分子Aおよびバインディング分子Aの双方の配向が変化して吸光度は増加していく。フリー分子Aの方がバインディング分子Aに比べて速く配向方向の切り替えが完了し、時刻T12で全てのフリー分子Aの配向方向の切り替えが完了すると、波長905nmの光の吸光度は、値if1で飽和する。その後、吸光度のグラフは時刻T13で再び増加する。T14でバインディング分子Aの配向方向の切り替えが完了すると、波長905nmの光の吸光度は値it1で飽和する。T15で配向制御信号が0Vになると、波長905nmの光の吸光度は、時刻T15からやや遅れてiz1となる。
生体分子検出装置200は、配向制御信号を所定の間隔で切り替えて上記1周期の測定を複数回行い、得られた複数のiz1、if1およびit1の値をそれぞれ加算平均して、iz1、if1およびit1の値の平均値を求める。
続いて、CPU208は、得られたiz1、if1およびit1の平均値から、バインディング分子Aの濃度を算出する。具体的には、実施の形態1で測定値Sを求めた場合と同じ演算を行い、測定値S1を求める。そして、検量線関数f1(S)を用いて、測定値S1から濃度C1に変換する。CPU208は、得られた濃度C1を表示部102へ出力する。
次に、生体分子検出装置200は、バインディング分子Bの測定を行う。CPU208は、受光部202内のフィルタ切替部210に、フィルタ214の使用を指示する命令を出力する。フィルタ切替部210は、CPU208からの命令を受信し、レンズ142で集光された光が通る位置にフィルタ214を移動させる。また、CPU208は、光源部201に、波長1.1μmの吸光度測定光209を照射する命令を出力する。
図22(B)は試薬カップ108内の溶液による波長1.1μmの光の吸光度の時間に対する変化である。この吸光度は、主にナノロッド38による吸光度である。
配向制御信号が0Vの場合におけるナノロッド38による吸光度測定光209の吸光度はiz2を示す。T21での測定の開始に伴い、フリー分子Bおよびバインディング分子Bの双方の配向方向が変化して吸光度は増加する。フリー分子Bの方がバインディング分子Bに比べて速く配向方向の切り替えが完了するため、時刻T22で全てのフリー分子Bの配向方向の切り替えが完了すると、波長1.1μmの光の吸光度は値if2で飽和する。その後、吸光度のグラフは時刻T23で再び増加し、T24でバインディング分子Aの配向方向の切り替えが完了すると、波長1.1μmの光の吸光度は値it2で飽和する。T25で配向制御信号が0Vになると、波長1.1μmの光の吸光度は、時刻T25からやや遅れてiz2となる。
生体分子検出装置200は、配向制御信号を所定の間隔で切り替えて上記1周期の測定を複数回行い、得られた複数のiz2、if2およびit2の値をそれぞれ加算平均して、iz2、if2およびit2の値の平均値を求める。
バインディング分子Bを測定する場合の配向制御信号の切り替えタイミングは、バインディング分子Aを測定する場合と異なる。これは、バインディング分子A、フリー分子A、バインディング分子Bおよびフリー分子Bそれぞれの体積および質量が異なり、それぞれの分子が配向を完了するまでに要する時間が異なるためである。
図22(A)および(B)に示したように、バインディング分子Aを測定する場合と、バインディング分子Bを測定する場合とでは、吸光度が増加したり飽和したりするタイミングは異なる。これは、バインディング分子Aとバインディング分子Bとの、体積の違いによる溶液中での運動しやすさに起因する。
続いて、CPU208は、得られたiz2、if2およびit2の平均値から、バインディング分子Bの濃度を算出する。具体的には、実施の形態1で測定値Sを求めた場合と同じ演算を行い、測定値S2を求める。そして、検量線関数f2(S)を用いて、測定値S2から濃度C2に変換する。CPU208は、得られた濃度C2を、表示部102へ出力する。
以上説明したように、本発明の実施の形態2に係る生体分子検出装置200によれば、実施の形態1で説明した生体分子検出装置100の構成に加え、2種類のナノロッドを用い、フィルタ切替部210を2種類のフィルタの切り替えが可能な構成とした。2種類のナノロッドは、配向方向の切り替えに伴う長軸方向由来の吸光度の変化が現れる波長が異なる。そのため、検出対象物質を含むバインディング分子に付随するナノロッドに対応した波長の光を吸光度測定光として使用することにより、検出対象物質を含むバインディング分子の吸光度のみを測定することができる。すなわち、複数の成分が混在した検体から検出対象物質の濃度を正確に測定することができる。このように、一つの検体から複数の検出対象物質を検出することは、免疫診断の精度を上げるために重要である。
なお、本実施の形態では、2種類のナノロッドとして短軸10nm、長軸50nmの金ナノロッドおよび短軸10nm、長軸60nmの金ナノロッドを用いたが、測定に用いるナノロッドはこの長さまたはアスペクト比のものに限られない。2種類のナノロッドとしては、一方のナノロッドの吸光度のみを測定できる程度に長軸方向由来のプラズモン共鳴波長に差があるものを用いれば良い。
また、本実施の形態では、配向制御光117に波長1000nm、出力700mWのレーザーを用いたが、配向制御光117はこのレーザーに限られない。配向制御光117の出力は、フリー分子の体積および質量ならびにバインディング分子の体積および質量等に起因する溶液中での回転しやすさに基づいて決定することが望ましい。配向制御光117の波長は、フリー分子およびバインディング分子を配向させることができ、吸光度測定に影響を与えない波長であれば何でも良い。
また、本実施の形態では、吸光度測定光209に波長905nm、出力0.1mWの光および波長1.1μm、出力0.1mWの光を用いたが、吸光度測定光209に用いる光はこれらの光に限られない。吸光度測定光209の波長は、ナノロッドの配向方向の変化に伴い吸光度に変化が生じる波長であれば良いが、ナノロッドによる吸光度が最大となる波長の光を用いることが望ましい。ナノロッドによる吸光度が最大となる波長の光を用いて吸光度測定を行うと、ナノロッドの配向方向の変化に伴い吸光度が最も大きく変化するため、フリー分子とバインディング分子を分離して算出することが容易となる。また、吸光度測定光209の出力は、吸光度測定が可能な出力であれば何でも良い。また、光源部201はランプと干渉フィルタの組み合わせによって構成しても良い。
なお、本実施の形態では、抗原抗体反応を利用する場合を例にとって説明したが、検出対象物質と、検出対象物質に特異的に結合する物質との組み合わせは、抗原、抗体に限られず、例えば、抗原を用いて抗体を検出する場合や、特定のDNAと当該DNAとハイブリダイゼーションをするDNA、DNAとDNA結合性たんぱく質、リガンドとレセプター、糖とレクチン、プロテアーゼ検出、高次構造変化等を用いても良い。検出対象物質と検出対象物質に特異的に結合する物質の組み合わせが、抗原および抗体以外の場合においても、検出対象物質に特異的に結合する物質とナノロッドとを結合させてフリー分子を構成し、フリー分子と検出対象物質とを結合させてバインディング分子を構成すれば、本実施の形態に係る生体分子検出装置により検出対象物質の濃度を測定することができる。
また、本実施の形態では検出対象物質が2種類の場合について説明したが、検出対象物質の種類は3種類以上でも良い。その場合においても、各検出対象物質と特異的に結合する物質を用い、それぞれ異なったアスペクト比を有するナノロッドと結合させて同様の測定を行うと、各検出対象物質の濃度を測定することができる。
また、実施の形態1や実施の形態2において、配向制御光として直線偏光された光を用いて偏光軸を回動させ、これによりフリー分子およびバインディング分子を配向させるような態様としても良い。直線偏光された光を照射されたフリー分子および直線偏光された光を照射されたバインディング分子は、光の偏光軸によって決まる特定の方向に配向する。配向制御光として直線偏光された光を用いる場合は、AODの代わりにλ/2波長板を用いることができる。λ/2波長板は、垂直な方向に振動する光の光路差を1/2波長変化させる機能を有する位相板であり、光の偏光軸を回動操作するために用いられる。λ/2波長板の光学軸方向と平行な方向に直線偏光した光はλ/2波長板を素通りするが、λ/2波長板の光学軸方向と45度の角度をなす方向に直線偏光した光は偏光軸が90度回動する。つまり、直線偏光した光に対するλ/2波長板の角度を切り替えることにより、光を素通りさせる場合と、光の偏光軸を90度変化させる場合とを切り替えることができる。すなわち、λ/2波長板を用いて直線偏光した光の偏光軸を回動させることにより、フリー分子およびバインディング分子を2つの方向へ配向させることができる。
なお、実施の形態1および実施の形態2では、直線偏光した吸光度測定光を溶液に照射する場合、すなわち偏光面が単一の吸光度測定光を溶液に照射する場合を例にとって説明したが、吸光度測定光は必ずしも単一の偏光面を有する直線偏光した光である必要はない。実施の形態1および実施の形態2の効果を奏するためには、吸光度測定光が特定方向の直線偏光成分を少なくとも1つ有していれば良い。ここで、特定方向の直線偏光成分を有する光とは、ナノロッドの配向方向の変化により、ナノロッドと特定方向の直線偏光成分との向きの関係が変化して、特定方向の直線偏光成分に対してナノロッドによる吸光度に変化が生じる光である。例えば、ランダム偏光した吸光度測定光を照射し、受光部の前に検光子を設けて特定方向の直線偏光成分のみを受光するように構成しても良い。ここでランダム偏光とは、光の振動方向がランダムであり、様々な方向に振動する成分が存在することをいう。
図23Aおよび図23Bは、それぞれ配向制御光134、136を照射した際のナノロッド8の配向方向とランダム偏光した吸光度測定光218の振動方向とを表した概念図である。配向制御光134は、配向制御光136に対して照射方向が90度異なる。吸光度測定光218の振動方向220a〜220dは、吸光度測定光218の進行方向に対して垂直な平面内における光の振動方向を表す。図23Aおよび図23Bでは、振動方向220a〜220dによって吸光度測定光218の振動方向が様々な方向であることを表しているが、実際は、図示した成分だけでなく、あらゆる角度方向のより多くの成分が含まれている。
検光子216は、ナノロッド8を透過した吸光度測定光218のうち特定の方向に振動する成分を透過し、それ以外の方向に振動する成分を遮断する。換言すれば、検光子216を透過した光は特定の方向にのみ振動する光となる。検光子216が透過する特定の方向に振動する成分とは配向制御光134によって配向したナノロッド8の長軸方向と同一の方向に振動する成分である。検光子216を透過した吸光度測定光218の振動方向は、図23AおよびBにおいて振動方向220aとなる。これにより、図23Aに示すように、ナノロッド8を透過した吸光度測定光218のうち、配向制御光134によって配向したナノロッド8の長軸方向と同一の方向に振動する成分のみをフォトダイオード150に到達させることができる。一方、図23Bに示すように、配向制御光134と照射方向が90度異なる配向制御光136によって配向したナノロッド8の長軸方向に対しては、垂直な方向に振動する成分のみがフォトダイオード150に到達する。このような構成にすることで、吸光度測定光218としてランダム偏光した光を用いても、直線偏光した吸光度測定光を照射した場合と同様に、特定の方向に振動する光に対する溶液の吸光度測定を行うことができる。なお、検光子216が透過させる特定の方向に振動する成分とは必ずしもここで示した方向に振動する成分に限られず、ナノロッド8の配向方向の変化に伴いナノロッド8による吸光度に差が生じる成分であれば何でも良い。
また、図23Aおよび図23Bでは吸光度測定光がいずれの方向に振動する場合においても振幅が一定である例を示したが、必ずしも全ての方向において振幅が一定である必要はない。フォトダイオード150が受光する成分は特定方向に振動する成分のみであるので、その他の方向に振動する成分は遮断される。
図23Bに示す配向制御信号が0Vの場合、配向制御光136により配向したナノロッド8の長軸方向と検光子216を透過可能な光の振動方向とは垂直となる。この場合、吸光度測定光218の各方向に振動する成分のうち検光子216を透過可能な方向に振動する成分は、ナノロッド8に吸収されにくい。
一方、図23Aに示す配向制御信号が5Vの場合、配向制御光134により配向したナノロッド8の長軸方向と検光子216を透過可能な光の振動方向とは平行となる。この場合、吸光度測定光218の各方向に振動する成分のうち検光子216を透過可能な方向に振動する成分はナノロッド8に吸収されやすい。
このような構成とした場合においても、配向制御信号を0Vから5Vに変化させると、ナノロッド8の配向方向が変化し、ナノロッド8の長軸方向と検光子216が透過可能な光の振動方向とが徐々に平行に近づく。それに伴い、検光子216を透過可能な方向に振動する光に対するナノロッド8の吸光度が増加し、溶液の吸光度は増加する。この場合、フリー分子とバインディング分子とでは、配向を完了するまでに要する時間が異なるため、吸光度が増加して飽和するタイミングも異なる。そのため、このような構成とした場合においても、配向制御信号を0Vから5Vに変化させた際の、時間に対する溶液の吸光度の変化のグラフは、図14と同様の形状となる。つまり、この場合においても溶液の吸光度のグラフについて実施の形態1と同様の計算を行うことにより、検出対象物質の濃度を測定することができる。
(実施の形態3)
図24Aは、生体分子検出装置300の主要な構成を説明するための機能ブロック図である。図24Bは、光源部304および配向制御用光源部322と第1の受光部306との位置関係を表した図である。図24Bにおいては、説明に使用する構成を図24Aから抜き出して描いてあり、その他の構成は省略して示している。なお、図24Aおよび図24Bにおいて、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
光源部304は、内部に備えた偏光子により2つの直交する方向に振動する成分のみを有する吸光度測定光312を、図24Bに示すように、試薬カップ108の底面から試薬カップ108の上方に設けられた第1の受光部306に向けて照射する。吸光度測定光312には、波長905nm、出力0.1mWの光を用いる。
偏光ビームスプリッタ310は、試薬カップ108と第1の受光部306との間に設けられている。偏光ビームスプリッタ310は、試薬カップ108を透過した2つの直交する方向に直線偏光した吸光度測定光312のうち、一方の直線偏光成分314を透過し、他方の直線偏光成分316を直線偏光成分314とは90度異なる方向に反射する。
第1の受光部306は、図24Bに示すように試薬カップ108の上方かつ試薬カップ108を挟んで光源部304の対面に設けられている。第1の受光部306は、内部にフォトダイオードを有する。第1の受光部306は、試薬カップ108および偏光ビームスプリッタ310を透過した直線偏光成分314をフォトダイオードで受光し、アナログ電気信号に変換して増幅部126へ出力する。また、第1の受光部306の内部にはバンドパスフィルタが設けられている。このバンドパスフィルタは、吸光度測定光312と同一の波長の光のみをフォトダイオードに到達させる。これにより、吸光度測定光312と異なる波長の光がフォトダイオードに到達してノイズとなることを防いでいる。
第2の受光部308は、偏光ビームスプリッタ310によって反射される直線偏光成分316の光路上に設けられている。第2の受光部306は、偏光ビームスプリッタ310によって反射された直線偏光成分316を内部に設けられたフォトダイオードで受光し、アナログ電気信号に変換して増幅部126へ出力する。第2の受光部306の内部にはバンドパスフィルタが設けられている。このバンドパスフィルタは、吸光度測定光312と同等の波長を持つ光のみをフォトダイオードに到達させる。
FG318は、様々な周波数と波形をもった電圧信号を発生させることのできる装置であり、CPU320から出力される命令を受けて、偏光方向制御部324およびサンプリングクロック発生部130へそれぞれ異なる電圧信号を出力する。以下、FG318から偏光方向制御部324へ出力される信号を偏光方向制御信号という。
配向制御用光源部322は、図24Bに示すように試薬カップ108の下部に設けられ、内部に備えた偏光子により直線偏光した配向制御光326を、偏光方向制御部324を通って試薬カップ108の底面から上方に向けて照射し、試薬カップ108内の溶液中に存在するフリー分子およびバインディング分子に外力を加えてこれらの配向を制御する。配向制御光326には、波長1.3μm、出力700mWのレーザーを用いる。配向制御光326は、試薬カップ108の溶液全体を照らす程度の幅を有している。
偏光方向制御部324は、配向制御光326の偏光方向(振動方向)を切り替えることで、フリー分子およびバインディング分子の配向方向を切り替える。偏光方向制御部324は、λ/2波長板を有する。λ/2波長板は、垂直な方向に振動する偏光の光路差を1/2波長変化させる機能を有する位相板であり、光の偏光面を回転操作するために用いられる。λ/2波長板の光学軸方向と平行な方向に直線偏光した光はλ/2波長板を素通りするが、λ/2波長板の光学軸方向と45度の角度をなす方向に直線偏光した光は振動方向が90度変化する。つまり、直線偏光した光に対するλ/2波長板の角度を切り替えることで、光を素通りさせる場合と、光の振動方向を90度変化させる場合とを切り替えることができる。λ/2波長板は、電子式のλ/2波長板回転素子に保持されている。偏光方向制御部324は、FG318から出力される偏光方向制御信号を受信して、専用のコントローラによりλ/2波長板回転素子を回動させることでλ/2波長板を回転させ、配向制御光326の振動方向を90度切り替える。換言すれば、配向制御光326の振動方向は、FG318が発生する電圧信号によって決まる。
CPU320は、生体分子検出装置300の各動作を統括的に制御し、測定結果の演算等を行う。CPU320は、FG318が出力する偏光方向制御信号を指定することで、偏光方向制御部324が配向制御光326の振動方向を切り替えるタイミングを制御する。
図25Aおよび図25Bに示す概念図を用いて、配向制御光326の振動方向に対するナノロッドの配向方向と吸光度測定光312の振動方向との向きの関係について説明する。なお、図25Aおよび図25Bにおいては、説明に不要な要素は省略して描いてある。吸光度測定光312は、進行方向に対して垂直な平面内において振動方向330a、330bに振動する成分を有する。また、振動方向330aと振動方向330bは直交している。つまり、吸光度測定光312は互いに直交する2つの直線偏光成分を有する光である。
図25Aは、偏光方向制御信号が0Vの場合の概念図である。偏光方向制御信号が0Vの場合、振動方向334に振動する配向制御光326が試薬カップ108に照射される。偏光方向制御信号が0Vの場合の配向制御光326の振動方向334と、吸光度測定光312の振動方向330aとは平行である。振動方向334の方向に振動する配向制御光326を照射されたナノロッド8は、振動方向334と同一の方向に長軸方向を向けて配向する。
偏光ビームスプリッタ310は、吸光度測定光312のうち振動方向330aに振動する直線偏光成分314を透過し、振動方向330bに振動する直線偏光成分316を反射する。偏光ビームスプリッタ310を透過した直線偏光成分314は、第1の受光部306内に設けられたフォトダイオード340に到達する。偏光ビームスプリッタ310で反射した直線偏光成分316は、第2の受光部308内に設けられたフォトダイオード342に到達する。
図25Bは、偏光方向制御信号が5Vの場合の概念図である。偏光方向制御信号が5Vの場合、振動方向340に振動する配向制御光326が試薬カップ108に照射される。偏光方向制御信号が5Vの場合の配向制御光326の振動方向340と、吸光度測定光312振動方向330bとは平行である。振動方向340の方向に振動する配向制御光326を照射されたナノロッド8は、振動方向340と同一の方向に長軸方向を向けて配向する。
図26は、縦軸が生体分子検出装置300における偏光方向制御信号の電圧または吸光度を表し、横軸が時間tを表したグラフである。なお、ここでは説明を容易にするため、偏光ビームスプリッタを透過した配向制御光の吸光度、偏光ビームスプリッタで反射した配向制御光の吸光度および正規化した吸光度については、グラフを模式的に示してある。
本実施の形態においても実施の形態1と同様にFG318から出力される偏光方向制御信号は、測定前は0Vとなっている。測定前においては、配向制御光326を試薬カップ108内の溶液中に照射して、フリー分子およびバインディング分子を同一方向に配向させておく。測定の開始に伴い、CPU320は、吸光度測定光312の照射を開始する命令を光源部304へ出力する。
偏光ビームスプリッタ310で反射する直線偏光成分316に着目すると、直線偏光している方向と、ナノロッド8の長軸方向との関係は実施の形態1と同様になる。従って、試薬カップ108内の溶液による直線偏光成分316の吸光度の時間変化は、実施の形態1の図14に示したグラフと同様のグラフとなる。つまり、時刻T31における配向制御光326の振動方向の変化に伴ってフリー分子およびバインディング分子の配向方向が切り替わり、直線偏光成分316に対するナノロッド8の吸光度が当初の値iz3から増加するが、フリー分子が配向を完了することにより吸光度は時刻T32において値if3で飽和する。その後、バインディング分子の配向方向が切り替わることに伴い時刻T33で吸光度は再び増加し、全てのバインディング分子が配向を完了した時刻T34において値it3で飽和する。偏光方向制御信号は、5Vの出力がT秒間続いた後0Vとなる。偏光方向制御信号が5Vから0Vに切り替わると、直線偏光成分316の吸光度は、しばらくit3の値であるが、その後iz3の値まで減少する。
偏光ビームスプリッタ310を透過する直線偏光成分314に着目する。直線偏光成分314の振動方向とナノロッド8の長軸方向とが時刻T31までは平行であるため吸光度が最大となる。時刻T31における配向制御光326の振動方向の変化に伴ってフリー分子およびバインディング分子の配向方向が切り替わり、直線偏光成分314に対するナノロッド8の吸光度は当初の値it4から減少する。フリー分子が配向を完了することにより吸光度は時刻T32において値if4で一定となる。その後、バインディング分子の配向方向が切り替わることに伴い時刻T33で吸光度は再び減少し、全てのバインディング分子が配向を完了した時刻T34において値iz4で最小値となる。偏光方向制御信号は、5Vの出力がT秒間続いた後0Vとなる。偏光方向制御信号が5Vから0Vに切り替わると、直線偏光成分314の吸光度は、しばらくiz4の値であるが、その後it4の値まで増加する。これは、直線偏光成分314の振動方向とナノロッド8の長軸方向が平行に戻るためである。
CPU320は、直線偏光成分316の吸光度をPp、直線偏光成分314の吸光度をPvとして、これらを次式(3)に従って正規化する。
K=(Pp−Pv)/(Pp+Pv)・・・(3)
このように、2つの吸光度を正規化することで、ナノロッド8の濃度ばらつきや、光学系の励起パワー変動などの影響を低減させることができる。
正規化した吸光度のグラフから、バインディング分子の濃度を算出する。具体的には、測定値S3を次式(4)によって求める。
S3=(it5−if5)/(it5−iz5)・・・(4)
CPU320は、ここで求めた測定値S3から、実施の形態1と同様にして検量線関数を用いて診断値C3(検出対象物質の濃度)を求めて、得られた診断値C3を表示部102へ出力する。
以上説明したように、本発明の実施の形態3に係る生体分子検出装置300によれば、配向制御光326の振動方向の切り替えにより溶液中のフリー分子およびバインディング分子の配向方向を切り替えることが可能な構成とした。また、吸光度測定光312として、2つの直交する方向に振動する成分のみを有する光を用い、溶液を透過した吸光度測定光312を偏光ビームスプリッタで振動方向によって分離して直線偏光成分毎の吸光度を測定した。このようにして得られた直線偏光成分毎の吸光度を正規化して、正規化された吸光度を正規化することで、ナノロッド8の濃度ばらつきや、光学系の励起パワー変動などの影響を低減させることができる。正規化された吸光度から、実施の形態1と同様に溶液中のバインディング分子に付随したナノロッドによる吸光度への寄与分を算出することができ、簡便な構成で検出対象物質の濃度を正確に測定することができる。
なお、以上説明した本発明に係る各実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。本発明に係る生体分子検出装置は、上記各実施の形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能である。
例えば、溶液中の分子の配向方向の切り替えは、光によるものに限られず、フリー分子の配向方向の切り替えおよびバインディング分子の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間に差が生じる程度の外力を加えるものであれば、磁気的な方法や電気的な方法としても良い。光による分子の配向制御を行うと、磁力等によって分子の配向を制御する場合に比べ複雑な機構が必要ないという利点がある。例えば、磁力を用いて分子の配向を制御するためには、それぞれの分子が磁性を持ったものであるか、磁性を持った分子を用意して配向を制御したい分子に結合させる必要があり、測定にあたっての準備が煩雑となる。
また、本発明に係る各実施の形態では、配向制御光の照射方向を2つの直交する方向の間で切り替えたが、必ずしもこの2つの直交する方向の間で切り替える必要はない。フリー分子およびバインディング分子は、配向する方向が異なればそれぞれが有するナノロッドの吸光度が異なり、フリー分子の1分子あたりの吸光度またはバインディング分子の1分子あたりの吸光度も異なる。従って、配向制御光の照射方向を2つの直交する方向、すなわちフリー分子の配向方向およびバインディング分子の配向方向を2つの直交する方向としなくとも、フリー分子およびバインディング分子を分離して算出することができる。配向制御光の照射方向が直交していれば、フリー分子の配向およびバインディング分子の配向が完了するまでの時間差が最大となって最もS/Nが良くなる。一方で、例えば配向制御光の照射方向を、それぞれの照射方向の成す角度が60度とすれば、直交する2つの方向に配向制御光の照射方向を切り替える場合と比べ、フリー分子の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間およびバインディング分子の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間が短くなり、測定に要する時間も短くなる。このように配向制御光を照射する2つの方向の成す角度が90度より小さいほど、フリー分子の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間およびバインディング分子の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間が短くなり測定時間も短くなる。
また、溶液中に検出対象物質が存在するか否か、すなわちバインディング分子が存在するかしないかのみを測定したい場合は、フリー分子とバインディング分子とに配向方向の切り替えに時間差が生じる程度だけ角度を変えた2つの方向で配向制御光の照射方向を切り替えれば良い。フリー分子とバインディング分子とに配向方向の切り替えに時間差が生じれば、その差は吸光度の変化として表れるため、バインディング分子の存在を確認できる。
また、分子の配向方向を切り替えるため、本発明に係る実施の形態1および2では、AODにより配向制御光の進行方向を切り替え、実施の形態3では直線偏光した配向制御光の振動方向を切り替えたが、分子の配向方向の切り替えには必ずしもこれらの方法を用いる必要はない。例えば、配向制御光の照射方向を変えた配向制御用光源部を複数設けて、使用する配向制御用光源部を切り替えることにより配向制御光の照射方向を切り替えても良い。
また、配向制御用光源部は必ずしも1つの照射方向に1つのみを設ける必要はなく、複数の配向制御用光源部を設けて、同一方向に複数の配向制御光を照射しても良い。また、配向制御光は、進行方向に垂直な方向の断面形状がどのようなものであっても良い。例えば、図27(A)に示すように、振動方向352の方向に振動する直線偏光した配向制御光350が照射される場合を考える。この場合、配向制御光は、進行方向に垂直な方向の断面形状が略長方形である。このとき、配向制御光350の中心に位置するナノロッド354と配向制御光350の周縁部に位置するナノロッド356の挙動を考える。
図27(B)に示すように、配向制御光350の偏光軸を回動させると、回動軸(偏光軸の回動中心)上に位置するナノロッド354は、偏光軸の回動に追従して回動する。一方、配向制御光350の周縁部に位置するナノロッド356は、偏光軸の回動に追従できず、偏光軸から離れることになる。その後しばらくすると、ナノロッド356も偏光軸に引き込まれて配向する。そして、図27(C)のように、配向制御光350の偏光軸を、図27(A)に対して90度回転させても、ナノロッド354は追従し、ナノロッド356は追従できず、しばらくして配向制御光350に引き込まれて配向する。つまり、偏光軸の中心に位置するナノロッド354は、配向制御光の振動方向に同期して回動するが、偏光軸の周縁部に位置するナノロッド356の動きは、偏光軸の中心に対して公転するような動きとなり、配向制御光の振動方向に同期しない。
このように、配向制御光の偏光軸の回動に追従できないナノロッドが存在すると測定に影響を与えることがある。その場合は、図28(試薬カップ108の上面図)に示すように、360a〜360iの9点にそれぞれ対応した9本の配向制御光を入射させるような態様でも良い。このようにすると、配向制御光の偏光軸の中心に位置するナノロッドが増えるため、測定への影響を低減することができる。なお、ここでは9点に配向制御光を入射させる例を示したが、配向制御光を入射させる点は9点に限られず、9点より多くても少なくても良い。配向制御光を絞るほど、多くの点に入射させることが望ましい。これにより、複数箇所で配向に同期してナノロッドを回転させることができる。その結果、突発的な吸光度の変動を低下させることができ、相対的な散らばりを表す指標である変動係数(Coefficient of Variation)を改善させることができる。
このように、配向制御光を多点に入射させるための配向制御用光源部402の構造について図29に示す。配向制御用光源部402は、3×3の2次元レーザーアレイである。配向制御用光源部402は、発光点404a〜404iの9点が発光する。発光点の大きさは縦が1μmで横が100μmである。発光点の間の距離は約100μmである。この配向制御用光源部402を用いた光学系の一例を図30に示す。なお図30では、配向制御光および吸光度測定光の光学系以外の構成要素は省略して描いてある。
配向制御用光源部402から照射された直線偏光した配向制御光422は、コリメータレンズ406を通って焦点において平行光線となる。コリメータレンズ406を通った配向制御光422は、ビームエキスパンダ408およびビームエキスパンダ410を通ってλ/2波長板412に入射する。ビームエキスパンダ408およびビームエキスパンダ410を通った配向制御光422は、特定の倍率の平行光束に広げられる。λ/2波長板412は回転ステージ上にあり、回転可能となっている。これにより配向制御光422の偏光軸を回動することができる。λ/2波長板412を透過した配向制御光422は、ダイクロイックミラー418で反射してレンズ420により集光されて試薬カップ108の底面から上面に向かって入射される。
光源部414から照射された吸光度測定光424は、レンズ426を通ってダイクロイックミラー416により反射される。ダイクロイックミラー416により反射された吸光度測定光424は、ダイクロイックミラー418を透過してレンズ420により集光されて試薬カップ108の底面から上面に向かって入射する。
図30に示す光学系において、コリメータレンズ406の焦点距離を3.1mm、レンズ420の焦点距離を4mmとすると、倍率は1.29倍となる。そのため、試薬カップ108の底面において、配向制御光422の大きさは約1.3μm×130μmとなり、ピッチは約129μmとなる。
配向制御光を多点に入射させる別の光学系の例について図31に示す。なお図31においても、配向制御光および吸光度測定光の光学系以外は省略して描いてある。また、図30と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図31に示す光学系において、配向制御用光源部116は実施の形態1と同様のものである。配向制御光432は、コリメータレンズ406、ビームエキスパンダ408およびビームエキスパンダ410を通り、マイクロレンズアレイ428へ入射する。マイクロレンズアレイ428は、図32に示すように、複数のマイクロレンズ430を格子状に並べたものである。マイクロレンズアレイ428を通った配向制御光432は、複数の光源から照射された光のように、異なる位置で焦点を結ぶ複数の光束となる。配向制御光432は、ピンホールアレイ430によって絞られ、ダイクロイックミラー418で反射してレンズ420を通って試薬カップ108の底面から上面に向かって入射する。このようにマイクロレンズアレイを用いても、配向制御光を多点に入射させることができる。
また、実施の形態1のような配向制御光を照射する方向を変える光学系においては、配向光を多点に照射するために、光学系を複数段用意しても良い。例えば、同様の光学系を3段重ねれば、3つの配向制御用光源部から配向制御光が照射され、試薬カップ108へ3点から入射させることができる。このようにしても、配向制御光を多点から照射することができ、複数箇所でナノロッドを回動させることができる。
なお、ここでは直線偏光した配向制御光を複数の位置から照射して多点に入射させるための光学系について示したが、直線偏光していない配向制御光を多点に入射させ、照射方向を切り替えることでナノロッドの配向方向を切り替えても良い。その場合も、2次元レーザーアレイやマイクロレンズアレイ等を用いて配向制御光を複数の位置から照射する。配向制御光の照射方向の切り替えは、AOD等を用いて切り替えても良いし、配向制御光の照射方向が異なる複数の光源を設けて使用する光源を切り替えても良い。
また、本発明に係る各実施の形態では、生体分子検出装置内に試薬カップを1つ設ける場合を説明したが、必ずしも試薬カップは1つである必要はなく、装置内に複数の試薬カップを設けて複数の検体をセットできる構成としても良い。その場合は、装置が試薬カップを順に測定位置に移動させて測定を行う構成とすれば、自動で複数の検体を測定することができる。
また、上記各実施の形態では試薬カップを円柱状の形状としたが、試薬カップは必ずしも円柱状の形状とする必要は無い。例えば、図33に示すように、四角柱状の形状を有し、内部に四角柱状の容器保持部を有する試薬カップ432を用いても良い。このような四角柱状の容器保持部を有する試薬カップ432は、特にフリー分子およびバインディング分子が、配向制御光によって、配向制御光の進行方向へ圧力を受けて容器壁面に押しつけられる場合に適している。これは、フリー分子およびバインディング分子の質量が軽い場合などに起こり、配向制御光からの力を受けてフリー分子およびバインディング分子が溶液中を移動してしまうことが原因である。この場合、容器保持部が四角柱であると、フリー分子およびバインディング分子は溶液と試薬カップ432との界面である平面に押しつけられ配向される。界面が平面であるため、フリー分子およびバインディング分子は横に移動して配向制御光の外に出ることがない。また、フリー分子およびバインディング分子が壁面に押しつけられる場合には、配向制御光の焦点の位置を工夫するとより配向させやすい。
図34は、直線偏光した配向制御光の焦点の位置の一例を示す図である。配向制御光434は、レンズ436に入射し、血漿16と試薬カップの壁面432bとの界面において焦点434aを結ぶ。配向制御光の焦点の位置は、配向制御光が最も強い力でフリー分子およびバインディング分子を配向させる。従って、図34のように配向制御光を入射させると、配向制御光は、焦点434cの位置においてフリー分子およびバインディング分子を壁面432bに押しつけつつ、より効率的にフリー分子およびバインディング分子を配向させることができる。この場合においても、直線偏光した配向制御光の偏光軸を回動させることで、フリー分子およびバインディング分子の配向方向を焦点434cの位置において変化させることができる。
なお、容器保持部は必ずしも四角柱状の形状を有している必要はなく、少なくとも一面に平面を有していれば良い。その平面において焦点を結ぶように配向制御光を照射すればフリー分子およびバインディング分子は横に移動して配向制御光の外に出ることがなく、平面に押しつけられて配向される。
なお、本発明に係る各実施の形態では、ナノロッドと結合した抗体を用いた例を説明したが、抗体は、必ずしもナノロッドと結合させておく必要はない。例えば、抗体および抗原の結合と、抗体およびナノロッドの結合とを同時に試薬カップ内で行っても良い。この場合、ユーザーは、抗体およびナノロッドをそれぞれ別の試薬タンクに用意しておく。測定時には、生体分子検出装置が、抗体、ナノロッドおよび検体をそれぞれ試薬カップへ分注して反応させる。
また、配向制御用光源部116や光源部118は、生体分子検出装置から着脱可能な構成として、検出対象物質およびナノロッドの種類に応じて、適切なものに交換できるようにしても良い。
また、配向制御の方向を所定の時間間隔で切り替え、得られた複数の吸光度の加算平均を行って、上記検出対象物質の検出または定量を行うと、ノイズによる測定精度への影響を減少させることができ、より高精度な測定が可能となる。
配向制御の方向を切り替える所定の時間間隔は、溶液中に存在する全てのフリー分子および溶液中に存在する全てのバインディング分子の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間間隔とすることが望ましい。溶液中に存在する全てのフリー分子およびバインディング分子の配向方向の切り替えが完了するまでに要する時間は、例えば、吸光度が変化する時間に基づいて求めることができる。生体分子検出装置による測定を何周期か繰り返せば、吸光度が飽和するまでに要する時間がおおよそ分かる。吸光度が飽和するまでに要する時間は、溶液中に存在する全てのフリー分子およびバインディング分子が配向方向の切り替えを完了するまでに要する時間である。そのため、吸光度が飽和するまでに要する時間を上記所定の時間間隔とすることが望ましい。また、吸光度が飽和するまでに要する時間を加算平均して、算出した時間を所定の時間間隔として決めれば、ノイズ等による測定毎のばらつきの影響を減少させることができる。このように所定の時間間隔を設定すると、溶液中の全てのフリー分子および溶液中の全てのバインディング分子が配向を完了した後も同一方向に配向制御光を照射することがなくなり、消費電力を削減することができる。さらに、測定時間も短くすることができる。
また、溶液中に存在する全てのフリー分子および溶液中に存在する全てのバインディング分子が配向方向の切り替えを完了するまでに要する時間は、フリー分子およびバインディング分子のそれぞれの質量または体積、配向制御手段により配向を制御する外力の強度、溶媒の粘度等から求めることもできる。
なお、本発明に係る各実施の形態では、説明を容易にするためナノロッドに1つの抗体が結合している場合を例に取って説明したが、ナノロッドに結合させる抗体は必ずしも1つである必要はない。
なお、本発明に係る各実施の形態では、検体として全血から分離した血漿を用いる場合を例にとって説明したが、検体は全血から分離した血漿に限られず、尿や隋液等、検出対象物質が溶液中に分散していれば検体とすることができる。
また、本発明に係る各実施の形態では、ナノロッドおよび抗体が固定された基板を用いず、抗原、抗体およびナノロッドが液体中に分散している系で測定ができるため、抗原等を基板に固定して測定を行う測定に比べ、前処理が簡単であるという利点がある。また、抗原、フリー分子共に溶液中を自由に動き回れるため、基板を用いる系に比べて反応が早いという利点がある。
また、本発明に係る各実施の形態では、ナノロッドとして金ナノロッドを例にとって説明したが、ナノロッドを構成する材料は金に限られず、プラズモン共鳴が生じ得る金属が含まれていれば良い。例えば、銀や銅などを使用することができる。
また、本発明に使用することができるナノロッドのサイズは、本発明に係る各実施の形態で使用したものに限られず、配向方向の変化により光の吸光度が変化するサイズであれば何でも良い。
また、本発明に係る各実施の形態では、ナノロッドの中央付近に抗体が結合されている場合を例にとって説明したが、抗体は必ずしもナノロッドの中央付近に結合される必要はない。抗体がナノロッドのいずれの場所に結合されていても、抗体に抗原が結合すれば、溶液中におけるフリー分子の回転し易さとバインディング分子の回転し易さに差が生じる。フリー分子とバインディング分子の回転し易さに差が生じれば、本発明に係る生体分子検出装置によりフリー分子の寄与分とバインディング分子の寄与分を分離することができ、検出対象物質を検出することができる。
また、本発明に係る各実施の形態では、1つのナノロッドに1つの抗体が固定されている場合を例にとって説明したが、ナノロッドに固定される抗体は必ずしも1つである必要はない。1つのナノロッドに複数の抗体が固定されていても良い。
また、本発明に係る各実施の形態では、飽和した吸光度の値を基にバインディング分子の濃度を求めたが、必ずしもそのような方法で求める必要はない。例えば、図35(A)および(B)に示すように、配向制御信号の周波数を変え、ロックインアンプを用いて配向制御信号の周波数に同期した成分を抽出する。図35(A)においては、配向制御信号の周期t1が十分長く、配向制御信号を5Vにしている期間が長いため、全てのフリー分子およびバインディング分子が配向して、吸光度は最大値となり、ロックインアンプの出力は最大値I1となる。一方、図35(B)は配向制御信号の周期t2が短く、全てのフリー分子およびバインディング分子が配向する前に配向制御信号が0Vになるため、吸光度は最大値とならず、ロックインアンプ出力はI2となる。I2はI1より小さい。同様にして3種のバインディング分子の濃度に対して、配向制御信号の値を切り替える周波数に対するロックインアンプ出力について予め検量線データを取得したグラフの例を図36に示す。
抗原の濃度が大きいほどバインディング分子の濃度が増え、バインディング分子の方がフリー分子より質量および体積が大きいため、配向制御信号の切り替えに追従しにくい。すなわち、抗原の濃度が大きいほどロックインアンプの出力を最大値I1にするために配向制御信号を長時間5Vにする必要があり、配向制御信号の周期が長い必要がある。周波数は周期の逆数であるため、溶液中の抗原の濃度が大きいほど、ロックインアンプの出力がI1となる周波数の最大値は小さくなる。逆に、溶液中の抗原の濃度が小さいほどロックインアンプの出力がI1となる周波数の最大値は大きくなる。例えば、図36に示す3種の検量線において、検量線502は最も抗原濃度が大きく、次いで検量線504の抗原濃度が大きく、検量線506は最も抗原濃度が小さい。例えば、溶液を測定することによって得られたロックインアンプ出力の最大値に対して半値となる周波数がf1であった場合、検量線502と一致することが分かり、検量線502を取得した際の抗原の濃度が溶液中の抗原の濃度として出力される。
また、本発明に係る各実施の形態においては、吸光度の測定に基づいて検出対象物質の定量を行ったが、必ずしも吸光度のみの測定を行う必要はない。例えば、吸光度に加え、フリー分子およびバインディング分子による散乱光を測定して、光の減光量を測定しても良い。減光量とは、吸収される光の量と散乱される光の量との双方の寄与からなる。従って、溶液を透過する前後の配向制御光の光量を調べてフリー分子およびバインディング分子による配向制御光の吸光度を測定し、フリー分子およびバインディング分子による配向制御光の散乱光を測定することにより、配向制御光の減光量を求めることができる。また、フリー分子およびバインディング分子による配向制御光の散乱光のみを測定しても良い。フリー分子およびバインディング分子による配向制御光の散乱光の強度は、配向制御光の吸収量と同様にフリー分子およびバインディング分子の配向方向によって変化する。従って、散乱光のみを測定しても、吸光度を求めた場合と同様に測定を行うことができる。散乱光を測定する場合は、一般的に暗視野顕微鏡で用いられる方法で測定を行う。すなわち、開口数(NA)の大きな輪帯光で照明し、受光側でその輪帯光をカットし散乱光のみ受光する。輪帯光とは、断面がリング状の光のことである。
なお、フリー分子およびバインディング分子による配向制御光の散乱光のスペクトルは既知のため、フリー分子およびバインディング分子による配向制御光の散乱光を測定するためには、受光部に散乱光の波長の光のみを通すバンドパスフィルタを設ければ良い。また、吸光度と散乱光との双方を測定する場合、すなわち、透過光と散乱光を受光する場合は、フリー分子およびバインディング分子を含む溶液から出射する光をダイクロイックミラー等を用いて分光し、バンドパスフィルタを通して透過光と散乱光をそれぞれ受光すれば良い。