JP5640443B2 - 糖又はその誘導体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、糖又はその誘導体の製造方法並びにセルロース系材料の分解用触媒に関し、特にセルロース系バイオマスを分解して糖化することにより、糖又はその誘導体を製造するのに好ましい方法に関する。
近年、セルロースなどの植物等が生産する循環利用可能なバイオマスを有用物質に変換して利用することが試みられている。セルロースを利用する場合、セルロースをその構成単糖、オリゴ糖又はこれらの誘導体にまで分解することが好ましい。こうして得られる分解物は、多くの微生物を始めとする生物が代謝可能であるほか、工業的に利用が容易になる。
セルロース系バイオマスは、通常、セルロースの結晶構造を含むとともに複雑な三次元構造を有するリグニンと複合化しているため、難分解性である。セルロースの分解方法には、セルロース分解性微生物等に由来する酵素を用いる酵素法、硫酸を用いる硫酸法等がある。しかしながら、酵素法は、分解速度が遅く、また、バイオマスの前処理が必須であるほか、酵素が高価であるため、高い生産性を得ることができていない。また、硫酸法では、セルロースの糖化物の分離に多くのプロセスを要するほか、過度に分解される傾向があった。このため、セルロースの糖化を容易にするために、セルロース系バイオマスの前処理方法や、分解活性の高い触媒などの開発が進められている。
そこで、近年、バイオマスの利用のために、バイオマスをマイクロ波で前処理した後、酵素で分解する方法が各種試みられている(非特許文献1、2)。また、固体触媒を用いてセルロースを糖化する方法(非特許文献3)も試みられている。
一方、ショ糖などの二糖類やスターチ等の多糖類をオリゴ糖や単糖類に分解するために、細孔表面に存在する有機基にスルホン基が結合したメソポーラスシリカ材料を触媒として用いることが開示されている(特許文献1)。
特開2006−88041号公報
Process Biochemistry, 40, 3082-3086 (2005 Biosystems Engineering, 93, 279-283 (2006) Angew. Chem. Int. Ed., 45, 5161-5163 (2006)
しかしながら、マイクロ波で前処理することでリグニン−セルロース複合体からセルロースの分離が促進されるものの、最終的に酵素処理して得られる変換効率は、プロセス及び酵素コストを考慮すると優れているとはいえなかった。また、固体触媒を用いる場合であっても、高い変換効率を得られていなかった。
そこで、本発明は、より効率的にセルロース系材料を分解糖化して糖又はその誘導体を製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、水酸基などの極性官能基を有するセルロースを含むセルロース系材料とある種のシリカ系多孔体とをマイクロ波照射下に接触させることで、予想を超えて糖化反応が促進され、セルロースが高効率に分解糖化されることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
本発明によれば、ポリシロキサン含有骨格からなる複数の細孔を備え、前記細孔内表面に以下の(1)式で表されるパーフルオロスルホン酸基を備える多孔体と、セルロース系材料とをマイクロ波の照射下で接触させて前記セルロース系材料を糖化する工程、を備える、糖又はその誘導体の製造方法が提供される。
−[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO3H ・・・(1)
(但し、Xは、O又は直接結合、n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数を表す。)
前記多孔体は、ヘキサゴナル構造びラメラ構造からなる群から選択される細孔構造を有することができる。また、前記セルロース系材料は、セルロース系バイオマスであるとすることができる。さらに、前記糖化工程は、反応室として空胴共振器を備えるマイクロ波照射装置を用いることができる。
本発明によれば、ポリシロキサン含有骨格からなる複数の細孔を備え、前記細孔内表面に以下の(1)式で表されるパーフルオロスルホン酸基を備える多孔体を含む、セルロース系材料の分解用触媒が提供される。
−[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO3H・・・・・(1)
(但し、Xは、O又は直接結合、n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数を表す。)
また、本発明によれば、ポリシロキサン含有骨格からなる複数の細孔を備えるラメラ構造を有し、前記細孔内表面に有機スルホン酸基を備える多孔体を含む、セルロース系材料の分解用触媒も提供される。
ヘキサゴナル構造を有するシリカ系多孔体(a)及びラメラ構造を有するシリカ系多孔体(b)の一例を示す図である。
本発明は、糖及びその誘導体の製造方法に関する。本発明によれば、有機スルホン酸基を有するシリカ系多孔体が、マイクロ波照射下、セルロース系材料に対して固体酸触媒として機能し、その結果、効率的にセルロース系材料を分解して、糖又はその誘導体を製造することができる。
本発明者らは、固体酸触媒によるセルロース分解性能は、マイクロ波により双極子を有する基質、固体酸触媒及び基質−固体酸触媒複合体の活性化作用によるものと推論している。すなわち、基質であるセルロースが固体酸触媒に配位又は吸着することで、基質であるセルロースの分子内結合が弱められ、特に、セルロースは、水酸基などの極性官能基を多数備えていることから、水素結合等に基づく分子間相互作用により、基質−固体酸触媒複合体形成が有利になると考えられる。これにより、中間体が安定化され、且つ反応物の濃縮効果も期待され、その結果、反応速度が著しく増大すると考えられる。一方、極性基を有する分子など双極子を有する分子は、マイクロ波を選択的に吸収して回転運動などのエネルギーを得るとともに分極が促進される。また、中性の物質であっても分極が誘起される。この結果、基質であるセルロースと固体酸触媒においては、マイクロ波照射により、上記分子間相互作用が強化され、基質−固体酸触媒複合体の形成が促進される、と同時に、反応生成物(分解中間体)の分極も促進されると考えられる。
有機スルホン酸基、特に、式(1)で表される有機スルホン酸基を有するシリカ系多孔体は、その細孔構造及び細孔内表面にある前記有機スルホン酸基により、前記有機スルホン酸基及びセルロースのマイクロ波の選択的吸収による触媒−基質複合体の形成及び反応物の分極が促進され、この結果容易に化学結合(グリコシド結合など)を切断する反応(加水分解反応)が進行するものと考えられる。なお、以上の推論は、本発明を拘束するものではない。
本発明の糖及びその誘導体の製造方法によれば、有機スルホン酸基、特に、式(1)で表される有機スルホン酸基を有するシリカ系多孔体とマイクロ波とを組み合わせることによって、セルロース系材料に対して高活性な反応系を提供し、セルロース系材料を効率的に分解・糖化することができるようになる。また、マイクロ波の照射によれば、急速加熱冷却が可能であるため、分解物の過度な分解を抑制できるため、高収率で高品質な糖化が期待できる。
また、本発明の製造方法によれば、簡単且つ経済的なセルロース系材料からの糖及びその誘導体の精製方法を提供できる。具体的には、反応後、濾過または遠心分離等の従来の固液分離手段により、容易に糖化物を含有する液体(溶液)を分離できるとともに、上記シリカ系多孔体も反応系から分離回収できる。さらに、回収した触媒の繰り返し利用も容易である。さらにまた、本発明の製造方法によれば、硫酸などの化学薬品を使わなくても糖化できるため方法は、環境負荷が少なくて済むといったメリットがある。また、マイクロ波はリグニンを選択的に低分子化できるため、実バイオマスからのセルロースの分解、糖化を促進することもできる。以下、本発明の実施するための最良の形態について詳細に説明する。
(糖又はその誘導体の製造方法)
本発明の製造方法は、特定のシリカ系多孔体とセルロース系材料とをマイクロ波の照射下で接触させて前記セルロース系材料を分解して糖化する工程を備えることができる。この結果、再生産可能なセルロース系材料や未利用資源であるセルロース系材料を、多くの生物が代謝可能な有用物質であるとともに又は工業的に有用な工業材料に変換可能な有用物質であるグルコースなどの単糖、オリゴ糖又はその誘導体に効率的に変換することができる。
(セルロース系材料)
本発明においてセルロース系材料とは、セルロースを含有していればいかなる形態であってもよい。セルロースとしては、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合により重合した重合体及びその誘導体が挙げられる。グルコースの重合度は特に限定しない。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。また、セルロースは、その部分分解物である、セロオリゴ糖、セロビオースであってもよい。さらに、セルロースは、配糖体であるβ−グルコシド、リグニン及び/又はヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロース、さらにペクチンなどとの複合体であってもよい。なお、リグノセルロースはいわゆるセルロース系バイオマスの主成分である。セルロースは、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよい。さらに、セルロースは、天然由来のものでも、人為的に合成したものでもよい。セルロースの由来も特に限定しない。植物由来のものでも、真菌由来のものでも、細菌由来のものであってもよい。
セルロース系材料はいかなる形態であってもよい。セルロース系材料としては、例えば、リグノセルロース系材料、結晶性セルロース材料、不溶性セルロース材料などの各種セルロース系材料等が含まれる。リグノセルロース系材料としては、例えば、木本植物の木質部や葉部及び草本植物の葉、茎、根等においてリグニン等を複合した状態のリグノセルロース系材料、すなわち、セルロース系バイオマスが挙げられる。こうしたセルロース系バイオマスとしては、例えば、稲ワラ、麦ワラ、トウモロコシの茎葉、バガス等の農業廃棄物、収集された木、枝、枯葉等又はこれらを解繊して得られるチップ、おがくず、チップなどの製材工場廃材、間伐材や被害木などの林地残材、建設廃材等の廃棄物であってもよい。マイクロ波の照射は、リグノセルロース系材料においてセルロースの分離を促進することがわかっている(非特許文献1、2等)ことから、固体酸触媒とセルロース系バイオマスとをマイクロ波の照射下で接触させることによって、リグノセルロース系材料中のセルロースを効果的に糖化できる。
結晶性セルロース系材料及び不溶性セルロース系材料としては、リグノセルロース系材料からリグニン等を分離後の結晶性セルロース及び不溶性セルロースを含む結晶性又は不溶性セルロース系材料が挙げられる。セルロース材料としては、また、使用済み紙製容器、古紙、使用済みの衣服などの使用済み繊維製品、パルプ廃液を由来としてもよい。さらに、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)等のセルロース生産微生物が生産するセルロースを由来としてもよい。
(糖及びその誘導体)
本明細書において、糖及びその誘導体における「糖」とは、セルロースを分解してられるものであればよく、グルコースのほか、セロビオースやセロオリゴ糖であってもよい。また、セルロース系材料中のセルロースとともに併存するヘミセルロースやペクチンなどの完全分解物や部分分解物であってもよい。また、糖及びその誘導体における「その誘導体」とは、上記した「糖」の誘導体であり、天然又は人工的セルロース系材料を分解して得られるものであれば特に限定されない。典型的には、「糖」の水酸基の水素原子がアルキル基等などの置換基で置換された形態が挙げられる。なお、誘導体における水酸基における修飾形態は特に問わない。
(シリカ系多孔体)
本製造方法で用いるシリカ系多孔体は、ポリシロキサン含有骨格からなる複数の細孔を備えるとともに、細孔孔内表面に有機スルホン酸基を備える多孔体である。シリカ系多孔体は、ポリシロキサン含有骨格を有している。ポリシロキサン含有骨格は、ポリシロキサン構造、すなわち、Si−O結合を主体とする三次元骨格を主体としていることが好ましい。なお、ポリシロキサン含有骨格は、ケイ素以外の他の金属を含んでいてもよく、こうした金属のメタロキサン構造部分を有していてもよい。そのほか、不可避成分を含んでいてもよい。
また、シリカ系多孔体は、中心細孔直径が1〜30nm、好ましくは1〜10nm、より好ましくは1〜5nm、である複数の細孔を有している。中心細孔直径が1nm未満である場合は、細孔の平均の大きさが分解の対象となる酵素の大きさよりも小さくなることが多くなるため、触媒性能が低下する。他方、中心細孔直径が30nmを超える場合は、触媒の比表面積が低下して、触媒性能が低下する。
ここで、本明細書における「中心細孔直径」とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(以下、「細孔径分布曲線」という)の最大ピークにおける細孔直径である。また、細孔径分布曲線は、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、シリカ系多孔体を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston-Inklay法、Pollimore-Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
また、本明細書におけるシリカ系多孔体は、細孔径分布曲線における中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれることが好ましい。ここで、「細孔径分布曲線における最大ピークを示す細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれる」とは、例えば、中心細孔直径が3.00nmである場合、この3.00nmの±40%、すなわち1.80〜4.20nmの範囲にある細孔の容積の合計が、全細孔容積の60%以上を占めていることを意味する。この条件を満たすシリカ系多孔体は、細孔の直径が非常に均一であることを意味する。
さらに、本製造方法に用いるシリカ系多孔体の比表面積は、特に制限されないが、700m2/g以上であることが好ましい。このような比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
また、本製造方法に用いるシリカ系多孔体は、そのX線回折パターンにおいて、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。X線回折ピークはそのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
本製造方法に用いるシリカ系多孔体の有する細孔は、多孔体の表面のみならず内部にも形成される。かかる多孔体における細孔の配列状態(細孔配列構造又は構造)は特に制限されないが、例えば、ヘキサゴナル構造、ラメラ構造などが挙げられる。ヘキサゴナル構造としては、2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造が好ましい。このような細孔配列構造は、ディスオーダの細孔配列構造を有するものであってもよい。
ヘキサゴナル構造とは、細孔の配置が六方構造であることを意味する(S.Inagaki et al., J.Chem.Soc.,Chem.Commun., p.680(1993)、S.Inagaki et al., Bull.Chem.Soc.Jpn., 69,p.1449(1996)、Q.Huo et al., Science, 268,p.1324(1995)参照)。ヘキサゴナル構造を有するシリカ多孔体の一例を図1(a)に示す。また、ディスオーダの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が不規則であることを意味する(P.T.Tanev et al., Science, 267,p.865(1995)、S.A.Bagshaw et al., Science, 269,p.1242(1995)、R.Ryoo et al., J.Phys.Chem., 100,p.17718(1996)参照)。
ラメラ構造とは、所定の間隔を隔てて平行に配列しているポリシロキサン含有骨格からなる層(以下、単にシリカ層という。)と前記層の層間を繋ぐシロキサン含有骨格からなるピラー(以下、単にシリカピラーという。)とを備えた多孔体をいう。ラメラ構造を有するシリカ系多孔体の一例を図1(b)に示す。なお、ポリシロキサン骨格は、既に説明したのと同義の内容を有する。シリカは、層及びピラー(柱)の製造が比較的容易であるので、ラメラ多孔体の骨格を構成する材料として好適である。ラメラ構造は、シリカ層の層間がシリカピラーで繋がれているので、有機スルホン酸基の高配列制御が可能となっている。
なお、ラメラ構造を有するシリカ系多孔体において、「シリカ層が平行に配列している」とは、ゼオライトに含まれる空間より大きなナノ空間(1.0〜50nm)が層間に形成されるように、シリカ層が所定の間隔を隔てて配列していることをいう。「平行に配列」とは、X線回折によりシリカ層の層間距離に対応する回折ピークが観測できる程度にシリカ層が配列していることを言う。シリカ層の厚さは、界面活性剤の種類などにより制御することができる。シリカ層の厚さは、通常、1〜4nm程度となる。シリカピラーによって、シリカ層の層間距離は、ほぼ一定に保たれる。
こうした各種の細孔配列構造は、シリカ系多孔体の製造時における主としてミセルの形状及び配列状態に依拠して構築できる。ミセルの形状や配列状態は、ポリシロキサン含有骨格を形成する際の溶液組成(特に、界面活性剤の種類や濃度及びpH)により制御することができる。例えば、一般に、界面活性剤の濃度が低いときには球状のミセルが形成されやすく、界面活性剤の濃度が高いときにはパイプ状のミセルが形成されやすい。界面活性剤の濃度がさらに高くなると、平板状ミセルが形成される。こうしたミセルに後述するポリシロキサン含有骨格を構成する第1の前駆体及び有機スルホン酸基を構成する第2の前駆体が吸着し縮重合することで、各種の細孔構造の基礎となる複合体が形成される。例えば、ヘキサゴナル構造おける細孔径及びラメラ構造におけるシリカ層の層間距離Dは、使用する界面活性剤の分子長で制御することができる。また、例えば、ラメラ構造におけるシリカ層の層間距離は、使用する界面活性剤の分子長の約2倍程度であり、使用する界面活性剤の種類にもよるが、通常、1〜5nm程度となる。
(有機スルホン酸基)
本明細書において、「有機スルホン酸基」とは、細孔内表面を修飾する酸基であって、有機基と、有機基に結合しているスルホン酸基とを備えているものをいう。「有機基」とは、パーフルオロアルキレン基、アルキレン基、芳香環、複素環などの少なくとも1つの炭素原子を備えた基をいう。有機スルホン酸基としては、例えば、パーフルオロスルホン酸基、アルキルスルホン酸基、フェニルスルホン酸基などがある。特に、ラメラ構造の場合、有機スルホン酸基を高密度に配列できるため、こうした各種の有機スルホン酸基を細孔内表面に有することで良好なセルロース系材料の分解糖化用の固体酸触媒として機能できる。
(パーフルオロスルホン酸基)
有機スルホン酸基としては、パーフルオロスルホン酸基が好ましい。本明細書において「パーフルオロスルホン酸基」とは、ポリシロキサン含有骨格に基づく多孔体の細孔内表面に存在する酸基であって、パーフルオロアルキレン基を有し、当該基に結合したスルホン酸基を備えた基をいう。典型的には、(1)式で表される構造を備えたパーフルオロスルホン酸基が好ましい。但し、Xは、O又は直接結合、n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数を表す。
−[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO3H・・・(1)
(1)式中、「−[C(H、F)2]n−」は、アルキレン基を表す。アルキレン基は、C−H結合のみを含むものでも良く、あるいは、Hの全部又は一部がFに置換されていても良い。また、アルキレン基は、直鎖状又は分岐状のいずれであっても良い。(1)式中、「−(CF2)m−」は、パーフルオロアルキレン基を表す。パーフルオロアルキレン基の末端にSO3H基を結合させると、電気陰性度の大きいF原子によって、末端のSO3H基の酸強度が増大する。アルキレン基とパーフルオロアルキレン基は、直接結合していても良く、あるいは、O原子を介して結合していても良い。アルキレン基及びパーフルオロアルキレン基のいずれも、炭素数が多くなりすぎると、ラメラ構造を形成するのが困難となる。従って、これらの炭素数は、それぞれ、3以下が好ましい。
有機スルホン酸基は、ポリシロキサン含有骨格に含まれるSiと結合した状態にある。次の(a)式に、Siを含むポリシロキサン含有骨格の表面に、−(CH2)3−O−(CF2)2−SO3H基が結合しているシリカ系多孔体の一例を示す。
「有機スルホン酸基の分子長L」とは、有機スルホン酸基が結合しているSi原子からスルホン酸基の先端までの距離をいう。例えば、(a)式で表されるパーフルオロスルホン酸基の場合、その分子長Lは、1.1nmとなる。
(酸基密度)
シリカ系多孔体は、有機スルホン酸基のH+量に基づき、イオン交換容量を規定することができる。例えば、シリカ系多孔体は、0.2mmol/g以上2mmol/g以下のイオン交換容量を備えることができる。なかでも、シリカ系多孔体がラメラ構造を有する場合、シリカ層の内表面が有機スルホン酸基で修飾されるため、他の細孔構造を有する場合に比較して導入可能なイオン交換容量の限界値を格段に大きくすることができる。また、後述する方法を用いると、イオン交換容量が0.5mmol/g以上であるラメラ多孔体が得られる。触媒活性を高めるためには、イオン交換容量は高いほど良い。イオン交換容量は、さらに好ましくは0.6mmol/g以上、さらに好ましくは0.7mmol/g以上である。但し、イオン交換容量が高くなりすぎると、ラメラ構造を維持するのが困難となる場合がある。従って、イオン交換容量は、1.5mmol/g以下が好ましい。より好ましくは、1.0mmol/g以下である。イオン交換容量は、酸量として滴定法により求めることができる。例えば、シリカ系多孔体を所定の濃度の塩化ナトリウム水溶液に分散させた後、所定の濃度の水酸化ナトリウム水溶液で滴定することによって、スルホン基の量(酸量)を求めることができる。
(形状)
本発明に係るシリカ系多孔体は、製造方法に応じて、膜状又は粉末状の形態を取る。膜状のシリカ系多孔体は、そのまま膜状の固体酸触媒として用いることができる。また、粉末状のシリカ系多孔体は、セルロース系材料と混合して使用することができる他、成形又は固相担体に担持させたり、膜化して使用できる。例えば、膜化には、以下の方法が挙げられる。
(1)シリカ系多孔体の粉末のみをプレス成形する方法、
(2)シリカ系多孔体の粉末と、高分子化合物(例えば、ポリテトラフルオロエチレンなど)とを混合し、膜化する方法、
(3)シリカ系多孔体の粉末と、有機スルホン酸(例えば、ポリパーフルオロカーボンスルホン酸など)とを混合し、膜化する方法、
などがある。
(シリカ系多孔体の製造方法)
本製造方法において用いるシリカ系多孔体の製造方法は、特に制限されず、シリカ系多孔体の少なくとも細孔内壁面にスルホン基が導入されてなるものを得ることができる方法であればよいが、例えば、後述するシリカ原料を界面活性剤を含む水溶液に加えて酸性又はアルカリ性条件下で加水分解及び重縮合せしめてシリカ系多孔体を得る際に、後述するスルホン基を導入するための化合物を前記水溶液に同時に添加して本発明の触媒を製造する方法が挙げられる。
以下、この製造方法について説明する。この方法によれば、複合体製造工程、界面活性剤除去工程及びプロトン化工程を有し、ラメラ構造を得る場合には、界面活性剤除去工程前に、ピラー形成工程を実施する。
シリカ系多孔体を合成する際に用いるシリカ原料としては、第1の前駆体と第2の前駆体を用いることができる。第1の前駆体としては、「第1前駆体」とは、ポリシロキサン含有骨格を形成するための原料をいう。第1前駆体は、ポリシロキサン含有骨格を形成でき、かつ後述する第2前駆体と共重合可能なものであれば良い。
第1前駆体としては、具体的には、以下のようなものがある。これらは、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
(1)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン。
(2)トリメトキシシラノール、トリエトキシシラノール、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシ−3−グリシドキシプロピルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのトリアルコキシシラン。
(3)ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシランなどのジアルコキシシラン。
(4)メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、オルトケイ酸ナトリウム(Na4SiO4)、二ケイ酸ナトリウム(Na2Si25)、四ケイ酸ナトリウム(Na2Si49)、水ガラス(Na2O・nSiO2、n=2〜4)などのケイ酸ナトリウム。
(5)カネマイト(NaHSi25・3H2O)、二ケイ酸ナトリウム結晶(α、β、γ
、δ−Na2Si25)、マカタイト(Na2Si49)、アイアライト(Na2Si817
・xH2O)、マガディアイト(Na2Si1417・xH2O)、ケニヤイト(Na2Si20
41・xH2O)などの層状シリケート。
(6)Ultrasil(Ultrasil社)、Cab-O-Sil(Cabot社)、HiSil(Pittsburgh Plate Glass社)等の沈降性シリカ、コロイダルシリカ、Aerosil(Degussa-Huls社)等のフュームドシリカ。
(7)テトラキス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、テトラキス(3−ヒドロキシプロポキシ)シラン、テトラキス(2−ヒドロキシプロキシ)シラン、テトラキス(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)シランなどのテトラキス(ヒドロキシアルコキシ)シラン。
(8)メチルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、エチルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、フェニルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−メルカプトプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シランなどのトリス(ヒドロキシアルコキシ)シラン。
これらの中でも、テトラメトキシシラン(Si(OCH3)4)、及び、テトラエトキシシラン(Si(OC25)4)は、結晶性の良好なメソ多孔体が得られるので、第1前駆体として特に好適である。
なお、第1前駆体として、アルコキシシラン、ヒドロキシアルコキシシラン等のシラン化合物を用いる場合には、これをそのまま出発原料として用いる。一方、第1前駆体としてシラン化合物以外の化合物を用いる場合には、予め、水(又は、必要に応じてアルコールが添加されたアルコール水溶液)に第1前駆体を加えて、水酸化ナトリウム等の塩基性物質を加える。塩基性物質の添加量は、第1前駆体中のケイ素原子と等モル程度の量とするのが好ましい。シラン化合物以外の第1前駆体を含む溶液に塩基性物質を加えると、第1前駆体中に既に形成されているSi−(O−Si)4結合の一部が切断され、均一な溶液が得られる。溶液中に含まれる塩基性物質の量は、複合体の収量や気孔率に影響を及ぼすので、均一な溶液が得られた後、溶液に希薄酸溶液を加え、溶液中に存在する過剰の塩基性物質を中和させる。希薄酸溶液の添加量は、第1前駆体中のケイ素原子に対して1/2〜3/4倍モルに相当する量が好ましい。
(第2前駆体)
「第2前駆体」とは、シリカ層の内表面を有機スルホン酸基で修飾するための原料をいう。第2前駆体には、有機基と、有機基に結合しているスルホニルフロリド基とを備えたモノマーを用いる。「有機基」の詳細は、上述した通りである。第2前駆体は、特に、次の(2)式で表されるものが好ましい。(2)式で表される第2前駆体は、第1前駆体との共縮重合が容易であり、しかも、シリカ層の層間に多量の酸基を導入するのが容易であるという利点がある。
3Si−[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO2F ・・・(2)
但し、Zは、−OCH3、−OC25、又は、ハロゲン、Xは、O又は直接結合、n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数を表す。(2)式中、Zは、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
次の(2a)式に、第2前駆体の一種であるフルオロ(1,1,2,2−テトラフルオロ−2−(4,4,4−トリエトキシ−4−シラブトキシ)エチル)スルホン)(FTFTESBS)の構造式を示す。
(2)式で表される第2前駆体は、市販されているか、あるいは、類似の分子構造を持つ化合物を出発原料に用いて、公知の方法により合成することができる。例えば、FTFTESBSは、白金触媒を用いて、CH2=CHCH2O(CF2)2SO2FをHSi(OEt)3で、脱水トルエン下でハイドロシリル化することにより、室温下で合成することができる。
(界面活性剤)
界面活性剤は、シリカ系多孔体を形成するためのテンプレートとなる。界面活性剤には、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤のいずれも使用することができる。使用する界面活性剤の種類に応じて、ラメラ多孔体の層間距離D、シリカ層の厚みなどを変化させることができる。
カチオン系界面活性剤としては、具体的には、次の(3)式で表されるアルキル4級アンモニウム塩などがある。
CH3−(CH2)n−N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(3)
(3)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1〜3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。(3)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。(3)式中、nは7〜21の整数を表す。
アニオン系の界面活性剤としては、具体的には、脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩などがある。ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、1級アルキルアミンなどがある。
複合体を合成する場合において、1種類の界面活性剤を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、界面活性剤は、シリカ系多孔体を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、細孔径やシリカ層の層間距離等に大きな影響を与える。より均一な層間距離を有する複合体を合成するためには、1種類の界面活性剤を用いるのが好ましい。
(溶媒)
原料を溶解させる溶媒は、第1前駆体及び第2前駆体の種類に応じて最適なものを選択する。溶媒には、通常、水、アルコール、水とアルコールの混合溶媒などを用いる。アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、エチレングリコール等の2価のアルコール、グリセリン等の3価のアルコールのいずれでも良い。
(触媒)
第1前駆体及び第2前駆体を縮重合させ、シリカ系多孔体を得るためには、一般に、第1前駆体及び第2前駆体を含む溶液に触媒を加える。触媒は、第1前駆体及び第2前駆体の種類に応じて、最適なものを選択する。例えば、シリカを含む粒子状のシリカ系多孔体を合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いるのが好ましい。また、例えば、シリカを含む膜状のラメラ多孔体を合成する場合、触媒には、塩酸、硝酸、ホウ酸、臭素酸、フッ素酸、硫酸、リン酸などの酸を用いるのが好ましい。
(溶液組成)
溶媒の種類、第1前駆体及び第2前駆体の濃度及び比率、界面活性剤の種類及び濃度、触媒の種類及び濃度などの溶液組成は、出発原料の種類やシリカ系多孔体に要求される特性に応じて、最適なものを選択するのが好ましい。
例えば、第1前駆体及び第2前駆体の比率は、ラメラ多孔体電解質の酸基密度に影響を与える。一般に、第1前駆体に対する第2前駆体の比率が高くなるほど、酸基密度の高いラメラ多孔体電解質が得られる。一方、第2前駆体の比率が過剰になると、ラメラ構造を維持するのが困難になる場合がある。
また、例えば、薄膜を合成する場合において、溶液中の前駆体の濃度が低すぎると、溶液の粘度が低下し、均一な膜が得られない。また、粒子を合成する場合において、溶液中の前駆体の濃度が低すぎると、粒子の収率が低下し、あるいは、粒子の粒径や粒度分布の制御が困難となる。一方、薄膜を合成する場合において、溶液中の前駆体の濃度が高すぎると、前駆体を鎖状に縮重合させるのが困難となる。また、粒子を合成する場合にいて、溶液中の前駆体の濃度が高すぎると、粒径及び粒度分布の制御が困難となり、粒径の均一性が低下する。例えば、薄膜を形成する場合、溶媒は、前駆体0.01molに対して0.2〜10molが好ましい。
また、例えば、界面活性剤の量は得られるミセル構造に関与する。界面活性剤の量が少なすぎると、界面活性剤の量が不足し、ラメラ状物質が生成しない。一方、界面活性剤の量が過剰になると、界面活性剤がミセルを形成せず、ラメラ構造を形成することができない。例えば、ラメラ構造を有する薄膜を合成する場合、界面活性剤は、前駆体0.01molに対して、0.001〜0.003molが好ましい。さらに、複合体を作製する場合において、界面活性剤の種類や添加量を制御すると、細孔径やシリカ層の層間距離D、シリカ層の厚みなどを制御することができる。
また、例えば、薄膜を合成する場合において、溶液中の触媒濃度が低すぎると、加水分解速度及び重縮合速度が遅くなり、薄膜の作製が困難となる。また、粒子を合成する場合において、溶液中の触媒濃度が低すぎると、粒子の収率が極端に低下する。一方、薄膜を合成する場合において、溶液中の触媒濃度が高すぎると、加水分解速度及び重縮合速度が速くなり過ぎ、均質な重合体が得られない。また、薄膜の結晶性、表面の平滑性、及び、細孔やシリカ層の配向性が不十分となる。また、粒子を合成する場合において、溶液中の触媒濃度が高すぎると、シリカ系多孔体の合成が困難となる場合がある。例えば、薄膜を合成する場合、触媒は、前駆体0.01molに対して、1.0〜8.0×10-5molが好ましく、さらに好ましくは、3.0〜6.0×10-5molである。
(複合体の作製工程)
粉末状の複合体は、(1)第1前駆体及び第2前駆体を含む混合液に界面活性剤及び触媒(例えば、アルカリ水溶液)を加えてこれらを反応させ、(2)生成した粒子を混合液から分離する、ことにより得られる。また、膜状の複合体は、(1)第1前駆体及び第2前駆体を含む混合液に触媒(例えば、酸水溶液)を加えて、第1前駆体及び第2前駆体の加水分解及び部分重合を生じさせ、(2)第1前駆体及び第2前駆体の部分重合体を含む溶液中に界面活性剤を加えてゾル溶液とし、(3)ゾル溶液を基板表面に塗布し、溶媒を揮発させる、ことにより得られる。
第1前駆体及び第2前駆体を含む混合液に触媒として酸又はアルカリを添加すると、第1前駆体及び第2前駆体の加水分解及び部分重合が起こる。この溶液に界面活性剤を添加すると、界面活性剤は、溶液中でミセルを形成する。この時、界面活性剤の濃度を最適化すると意図した形態のミセルが形成される。このミセルが超分子鋳型となり、その周囲に加水分解又は部分重合した第1前駆体及び第2前駆体が吸着する。ミセルの内部には部分重合体が入り込まないため、ミセルの内部は、最終的には細孔の中空部やシリカ層の層間部分となる。従って、界面活性剤の分子鎖長を制御することにより、細孔径やシリカ層の層間距離を制御することができる。
前駆体を吸着したミセルは、やがて互いに平行な方向に配列する。これを乾燥させ又は溶液中でさらに反応させると、配列したミセル間において前駆体が縮重合する。しかも、第2前駆体は、専ら有機スルホニルフロリド基をミセル側に向けた状態でミセルに吸着する。その結果、細孔を取り囲むポリシロキサン含有骨格の壁構造や層間に界面活性剤が充填され、かつ、細孔内やシリカ層の内壁が有機スルホニルフロリド基で修飾された複合体が得られる。
(ピラー形成工程)
ラメラ構造を形成する場合には、さらにピラー形成工程を実施する。ラメラ構造を形成する場合には、平板状ミセルを鋳型とするシリカ層の層間に界面活性剤が充填された複合体のシリカ層間にピラーを形成する工程である。第1前駆体と第2前駆体を共縮重合させた直後の複合体は、シリカ層間が界面活性剤のみによって繋がっている。そのため、共縮重合直後の複合体から界面活性剤を除去すると、シリカ層間が剥離し、ラメラ多孔体は得られない。ラメラ多孔体を得るためには、シリカ層間にシリカピラーを形成し、シリカ層とシリカピラーの間にSi−O−Si結合を形成する必要がある。
シリカ層間にシリカピラーを形成する方法には、種々の方法がある。中でも、(1)共縮重合直後の複合体を第1前駆体の蒸気に曝しシリカ層間に第1前駆体を充填し、(2)第1前駆体が充填された複合体を触媒を含む蒸気に曝し、シリカ層間に充填された第1前駆体をシリカピラーにすると同時に、シリカ層とシリカピラーの間にSi−O−Si結合を形成する、方法が好適である。シリカピラーの直径、シリカピラーの密度(単位面積当たりのシリカピラーの個数)等は、特に限定されるものではなく、シリカ層の層間距離を一定に保つことができる限りにおいて、任意に選択することができる。
複合体と第1前駆体の蒸気との接触は、オートクレーブに複合体及び第1前駆体を入れ、所定の温度で所定時間保持することにより行うことができる。複合体と触媒を含む蒸気との接触も、これと同様の方法により行うことができる。蒸気との接触温度及び接触時間は、複合体の構造、第1前駆体の種類、触媒の種類等に応じて最適な条件を選択する。例えば、第1前駆体としてTMOS、TEOSなどのアルコキシドを用いる場合、80〜200℃で1〜10時間処理するのが好ましい。また、例えば、触媒としてアンモニア水を用いる場合、50〜120℃で1〜20時間処理するのが好ましい。
(界面活性剤除去工程)
界面活性剤除去工程は、ヘキサゴナル構造の複合体やシリカピラーが形成された複合体から界面活性剤を除去する工程である。界面活性剤の除去方法は、特に限定されるものではなく、界面活性剤の種類や複合体の構造等に応じて最適な方法を選択するのが好ましい。界面活性剤の除去方法としては、具体的には、複合体を界面活性剤の良溶媒(例えば、少量の塩酸を含むメタノール)中に浸漬し、所定の温度(例えば、50〜70℃)で加熱しながら攪拌し、複合体中の界面活性剤を抽出するイオン交換法がある。本発明において、複合体は、シリカ層の内表面が有機スルホニルフロリド基で修飾されているので、界面活性剤の除去は、イオン交換法を用いるのが好ましい。
(プロトン化工程)
プロトン化工程は、シリカ層の内表面を修飾する有機スルホニルフロリド基を有機スルホン酸基に変換する工程である。有機スルホニルフロリド基をプロトン化する方法としては、具体的には、有機スルホニルフロリド基を備えたラメラ多孔体を酸で処理する方法がある。
(マイクロ波)
マイクロ波としては、特に限定されないが、水の加熱に用いられる周波数(300MHz以上30GHz以下程度)を用いることができる。好ましくは、0.8GHz以上10GHz以下である。典型的には、周波数2.45GHz程度のものが挙げられるが、これに限定するものではない。固体酸触媒のブレンステッド酸点等に応じた周波数の設定がなされていてもよい。出力は特に限定されない。
マイクロ波の照射は、マイクロ波照射用の空胴共振器を備えるマイクロ波照射装置を用いて行われる。空胴共振器は、マイクロ波発生手段から照射されたマイクロ波を共振させるためのものである。空胴共振器はシングルモードの直方体型空胴共振器、シングルモードの円筒型空胴共振器、又は、マルチモードのマイクロ波オーブン(電子レンジ)のいずれであっても良い。シングルモードの空胴共振器は、反応管内容物を急速加熱することができるので、極めて短時間で反応を行うことが出来るという利点がある。一方、マルチモードのマイクロ波オーブンは、空胴共振器内の共振を制御する必要がなく、任意の位置に反応物を置くことが出来るという利点がある。加熱速度と加熱効率の点では、空胴共振器は、シングルモード方式が好ましい。
空胴共振器がシングルモード方式である場合、基質と固体酸触媒が導入された反応容器は、空胴共振器内の電界成分が最大となる位置(定在波の腹の位置)に挿入される。一方、空胴共振器がマルチモード方式である場合、反応容器の位置は、特に限定されるものではない。空胴共振器には、通常、アルミニウム、銅、黄銅などが用いられるが、耐熱性が必要となる場合には、ステンレス鋼を用いても良い。
また、シングルモード方式の場合、共振がとれるように、マイクロ波周波数に応じて空胴共振器の断面寸法が決められている。例えば、直方体型空胴共振器の場合、マイクロ波周波数が2.45GHzであるときには、断面寸法(マイクロ波の進行方向に対して垂直方向の高さ寸法×幅寸法)は、約55mm×110mmとなる。さらにこの場合、直方体型空胴共振器のほぼ中央に、マイクロ波の進行方向に対して垂直方向に反応容器が挿入される。
シングルモードの電磁界モードには、種々のモードがあるが、高い電界強度を得るためには、TE10n(nは整数)モードを用いるのが好ましい。ここで、1つ目の添字「1」は、直方体型空胴共振器の幅方向の定在波(1/2波長)の数が1個であることを意味する。また、2つ目の添字「0」は、直方体型空胴共振器の高さ方向の定在波がゼロであることを意味する。さらに、3つ目の添字「n」は、直方体型空胴共振器のマイクロ波の進行方向に沿う定在波の数がn個であることを意味する。電界強度を高くするためには、nは、3以下が好ましい。今回用いた反応装置はn=1である。
空胴共振器の共振状態とは、空胴共振器の周波数がマイクロ波周波数に一致する状態であり、この状態では、マイクロ波の反射率(=反射電力×100/入射電力)がほぼゼロとなる。しかしながら、空胴共振器の断面寸法は、空胴共振器内が空の状態において共振を得るように設計されているので、空胴共振器に反応容器を挿入したり、反応容器に内容物がある場合、共振がとれなくなる場合がある。このような場合には、空胴共振器の共振を調整する必要がある。このため、空胴共振器の片端には、マイクロ波が入射する開口部の開口面積を変化させるための器具が設けられる。
なお、触媒反応における媒体、温度条件、圧力条件、時間条件等については、適宜設定することができる。媒体は、特に限定しないが、反応促進の観点から、水を含む極性溶媒を含んでいることが好ましい。極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)アセトニトリル、ジオキサン等が挙げられる。
なお、水は、セルロース系材料に含まれている水のほか、液体、気体及び固体の状態のいずれであっても、マイクロ波照射下において固体酸触媒表面に供給されるものであればよい。媒体には、水、水と相溶する/相溶しない極性の有機溶媒、水と相溶する/相溶しない非極性の有機溶媒、これらのうちの2種類以上の混合溶媒を用いることができる。媒体の構成は、適宜決定される。触媒反応は、固体酸触媒とセルロース系材料と適当な媒体中で攪拌しつつ分散状態で実施することもできる。また、触媒反応は、水と非相溶の有機溶媒とを媒体とし、攪拌によりこれら分散状態において実施してもよいし、分離された2相系のいずれかの相で実施してもよい。
反応温度は、特に限定しないが、室温(1℃以上)から300℃以下で行うことができる。好ましくは、80℃以上250℃以下である。この範囲であっても、効率的にセルロース系材料を分解することができる。なお、マイクロ波照射により反応系は加熱されるが、必要に応じ反応系の温度を制御することができる。例えば、反応を促進するために、別の加熱手段により加熱してもよい。一方、セルロースの分解を制御する場合には、冷却手段を用いてマイクロ波による加熱状態を冷却するようにしてもよい。反応時間も、特に限定しない。反応時間は、マイクロ波照射出力により応じて適宜設定され、通常、数分から数時間程度であるが、好ましくは数十分以内である。
こうした触媒反応により、セルロース系材料を分解することで、糖又はその誘導体が得られる。糖としては、セルロースの構成単糖であるグルコースのほかヘミセルロースの構成単糖が挙げられる。また、糖には、分子量4000以下のセルロース由来のオリゴ糖類(セロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロヘキサオースなど)や、ヘミセルロース由来のオリゴ糖が挙げられる。誘導体としては、これらの糖の糖アルコール、糖エステル、糖チオール、糖リン酸、糖塩のほか、内部脱水生成物が挙げられる。なお、触媒反応により、これらの全てが生成されるわけではない。得られる糖又はその誘導体は、基質に用いるセルロース系材料の種類のほか、反応条件等によっても相違する。
以上説明したように、本願発明の製造方法によれば、効率的にセルロース系材料を分解糖化してセルロース系材料由来の糖又はその誘導体を得ることができる。
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(ヘキサゴナル構造を有するパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体の作製1)
テトラエトキシシラン(TEOS)(3.9g)とFluoro(1,1,2,2-tetrafluoro-2-(4,4,4-triethoxy-4-silabutoxy)ethyl)sulfone (FTFTESBS)(以下の「化3」に示す。) (0.4g)とを原料として用いた。また、界面活性剤はC16TMABr(1.27g)、H2O(40.9g)、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(10wt%)(6.56g)の混合物に、2時間、室温で撹拌しつつ上記原料を添加した。さらに、この混合物を環流下で96℃、2日間反応させた。得られた沈殿物を洗浄(エタノール及び水)し、ろ過し、100℃で15時間かけて乾燥した。さらに、得られた粉体を塩酸溶液(1質量%、エタノール希釈)によって60℃で15時間かけて、界面活性剤を抽出して、実施例1のパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体(TEOSとFTFTESBSの総モル数に対してFTFTESBSを5モル%含む(以下、こうした原料配合比をPer5%と称する。))を作製した。
(ヘキサゴナル構造を有するパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体の作製2)
TEOSを3.7g、FTFTESBSを0.8g及びC16TMABrを1.47gとする以外は、実施例1と同様に操作して、実施例2のパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体(Per10%)を作製した。
(ヘキサゴナル構造を有するパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体の作製3)
TEOSを3.5g、FTFTESBSを1.2g及びC16TMABrを1.60gとする以外は、実施例1と同様に操作して、実施例3のパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体(Per15%)を作製した。
(ヘキサゴナル構造を有するパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体の作製4)
TEOSを3.3g、FTFTESBSを1.6g及びC16TMABrを1.50gとする以外は、実施例1と同様に操作して、実施例4のパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体(Per20%)を作製した。
(ラメラ構造を有するパーフルオロスルホン酸シリカ系多孔体(実施例5a〜5d)の作製)
原料であるテトラメトキシシラン(TMOS)(0.99g)とFTFTESBS(1.6g)にエタノール(5.0ml)を添加した後、H2O(993μl)と2N-HCl(7μl)を混合し、室温下1時間撹拌(200rpm)した。さらに、界面活性剤であるCnTMA+Cl-(n=18のとき1.3g、n=14のとき1.4g、n=12のとき1.4g、n=10のとき1.6g)エタノール(10ml)、H2O(0.1ml)及び2N-HCl(10μl)の混合物をTMOS/FTFTESBSゾル溶液に添加し、2hr撹拌(300rpm)した。
次いで、上記ゾル溶液を用いて、ガラス基板にコートした。その薄膜をオートクレーブに入れ、TMOS(150μl)を添加し、120℃で2時間処理した。さらに、28%NH3水(100μl)を添加し、100℃で2時間処理した後、薄膜を100℃で1時間乾燥させ、界面活性剤を室温下で界面活性剤を抽出(1wt%塩酸溶液:エタノール希釈)した。上記方法で得られた薄膜に対して、0.1N−HCl水溶液(RT−2hr)、純水による洗浄(80℃−2hr)を施し、60℃−1hr乾燥させ、実施例5a〜5dのラメラ多孔体膜を得た。
なお、これらのラメラ構造を有するシリカ系多孔体に関し、X線回折を行ったところ、いずれもシリカ層間距離に相当する回折ピークが観察され、シリカ層が平行に配列しているラメラ多孔体電解質であること、及び、ラメラ多孔体電解質のシリカ層の層間距離Dは、実施例5a〜5dにつき、2.4nm、2.2nm、1.8nm、及び、1.1nmであることがわかった。これらの層管距離は、いずれも、TEM観察によっても支持されていた。
(シリカ系多孔体によるセルロース系材料の糖化)
以上の実施例1〜4で取得したヘキサゴナル構造を有するシリカ系多孔体及び採用した比較例の物性値を以下の表に示す。細孔径及び比表面積は、クリプトン吸着等温線に基づき、それぞれBJH法及びBETプロットより求めた。また、スルホン酸量(イオン交換容量)は、酸塩基滴定により求めた。また、比較例1としては、FTFTESBSを用いない以外は、実施例1と同様にして作製したシリカ系多孔体、比較例2としては、酸としてプロピルスルホン酸を導入したシリカ系多孔体、比較例3としては、酸としてフェニルスルホン酸を導入したシリカ系多孔体、比較例4としては、市販のナフィオンNR50(商品名)、比較例5としてはH−ZSM−5ゼオライトを用いた。なお、比較例2、3のシリカ系多孔体は、以下のようにして作製した。
(比較例2)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)(0.39g)、TEOS(3.74g)及びC16TMABr(0.97g)とする以外は、実施例1と同様に操作して、比較例2のシリカ系多孔体を得た。
(比較例3)
2−(4−クロロサルフォニルフェニル)エチルトリメトキシシラン(0.64g)、TEOS(3.74g)及びC16TMABr(0.97g)とする以外は、実施例1と同様に操作して、比較例3のシリカ系多孔体を得た。
これらの実施例1〜4及び比較例1〜5につき、マイクロ波照射下におけるセルロース系材料の糖化能力について評価した。
本実施例では、マイクロ波照射装置として、シングルモード共振器(キャビティ)を備え、温度・圧力をモニター可能なマイクロ波加熱装置(2.45GHz)を使用した。また、反応液は、5mlの耐圧製試験管にそれぞれ準備した実施例1〜4及び比較例1〜5の粉末17mg、結晶セルロース粉末(Avicel PH101/Fulka社製)40mg、蒸留水4mlを加えて攪拌し、バイアル瓶キット(テフロン栓付アルミシールキャップ)で密閉した。反応条件は、210℃、30分、0.1MPa(反応開始時、室温)とした。なお、反応時間は設定温度に達してからの経過時間でカウントした。設定時間経過後、直ちに容器を冷却し、室温まで戻したのちキャビティより取り出し内容物を分析した。
糖化率(グルコースへ糖化率)の算出は、以下のように行った。すなわち、反応終了後、触媒反応液に含まれる固形物を遠心分離により採取した。固形分を蒸留水で十分洗浄したのち、凍結乾燥し、次いで、水に不溶性の固形分(セルロース及び固体酸触媒)の重量を測定し、水不溶性成分の重量%を求めた。次に、この値を用いて、反応によって生じた水可溶性成分の重量%(重量減少率)を算出し、反応率(%、収量)とした。また、グルコース生成量は、反応終了後、反応容器を直ちに室温まで冷却し、遠心分離後、上澄み成分である水溶液に対して、TZアッセイ(Jue CK and Lipke PN (1985) Journal of Biochemical and Biophysical Methods, 11, 109-115)により、「還元糖-末端基定量」を行い、還元糖生成量をグルコースに換算して求めた。結果を表2に示す。
表2に示すように、酸を全く導入していないシリカ系多孔体である比較例1やパーフルオロスルホン酸でないスルホン酸を導入したシリカ系多孔体である比較例2及び3に比較して、実施例1〜4のパーフルオロスルホン酸を導入したシリカ系多孔体は、高い糖化率を示した。また、比較例4及び5の糖化率も一層低く、セルロース系材料の糖化触媒としては、実施例1〜3とはその糖化能力が大きく相違していた。
以上の結果から、パーフルオロスルホン酸基を備えるシリカ系多孔体は、セルロース系材料の糖化のための固体酸触媒として有用であることがわかった。

Claims (5)

  1. ポリシロキサン含有骨格からなる複数の細孔を備え、前記細孔内表面に以下の(1)式で表されるパーフルオロスルホン酸基を備える多孔体と、セルロース系材料とをマイクロ波の照射下で接触させて前記セルロース系材料を糖化する工程、を備える、糖又はその誘導体の製造方法。
    −[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO3H ・・・(1)
    (但し、Xは、O又は直接結合、n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数を表す。)
  2. 前記多孔体は、ヘキサゴナル構造及びラメラ構造からなる群から選択される細孔構造を有する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記セルロース系材料は、セルロース系バイオマスである、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記糖化工程は、反応室として空胴共振器を備えるマイクロ波照射装置を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. ポリシロキサン含有骨格からなる複数の細孔を備え、前記細孔内表面に以下の(1)式で表されるパーフルオロスルホン酸基を備える多孔体を含む、セルロース系材料の分解用触媒。
    −[C(H、F)2]n−X−(CF2)m−SO3H ・・・(1)
    (但し、Xは、O又は直接結合、n、mは、それぞれ、1以上3以下の整数を表す。)
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