以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図2を用いて、本発明による微細構造を有する高分子薄膜の製造プロセス(化学的レジストレーションプロセス)の概略を説明し、その後に各プロセスステップに関して詳述する。
まず、図2(a)に示すように微細構造を有する高分子薄膜の土台となる基板10を準備する。次に、図2(b)に示すように、この基板表面を化学的性質の異なる表面1と表面2にパターン化する。図2(c)に示すように、この基板表面に高分子ブロック共重合体を主成分とする高分子樹脂組成物11を成膜する。図2(d)に示すように、高分子樹脂組成物11をミクロ相分離することにより高分子組成物層に高分子相1および高分子相2からなる微細構造を形成する。この際、図2(b)に示す段階で準備した表面1に対して高分子相1が高分子相2より濡れ性がよく、また、表面2に対しては高分子相2が高分子相1より濡れ性がよいように表面1,表面2の化学状態および高分子組成物の化学組成を設計しておくと、図2(d)に示すように、高分子相1および高分子相2が表面1および表面2上に配置される。最後に、図2(e)に示すように、片側の高分子相を除去することにより、微細構造を有する高分子薄膜を形成することができる。
以後、本発明の微細構造を有する高分子薄膜の製造プロセスに用いる材料について詳述する。
(高分子ブロック共重合体組成物)
本発明に用いる第1の高分子ブロック共重合体組成物は、主成分の高分子ブロック共重合体Aに副成分としてホモポリマHを混合(ブレンド)してなるものであり、基板表面に成膜した状態でミクロ相分離により所望の微細構造を発現するためのものである。また、本発明に用いる第2の高分子ブロック共重合体組成物は、主成分の高分子ブロック共重合体Aに副成分として第2の高分子ブロック共重合体Bを混合(ブレンド)してなるものであり、基板表面に成膜した状態でミクロ相分離により所望の微細構造を発現するためのものである。
まず、第1および第2の高分子ブロック共重合体組成物の主成分として共通に用いる高分子ブロック共重合体Aは第1モノマーの重合体からなる第1のブロック鎖A1と第2モノマーの重合体からなる第2のブロック鎖A2からなる。ここで、第1のブロック鎖A1と第2のブロック鎖A2は、相分離する組み合わせであればよいが、より望ましくは、図2(e)に示したプロセス段階において、ブロック鎖A1が主成分であるミクロドメイン、またはブロック鎖A2が主成分であるミクロドメインが選択的に除去できる組み合わせであればなお望ましい。
以上のような条件を満足する高分子ブロック共重合体Aとしては、例えば、ポリブタジエン−ポリジメチルシロキサン,ポリブタジエン−4−ビニルピリジン,ポリブタジエン−メチルメタクリレート,ポリブタジエン−ポリ−t−ブチルメタクリレート,ポリブタジエン−t−ブチルアクリレート,ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−4−ビニルピリジン,ポリエチレン−ポリメチルメタクリレート,ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリ−2−ビニルピリジン,ポリエチレン−ポリ−2−ビニルピリジン,ポリエチレン−ポリ−4−ビニルピリジン,ポリイソプレンーポリー2−ビニルピリジン,ポリメチルメタクリレート−ポリスチレン,ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリスチレン,ポリメチルアクリレート−ポリスチレン,ポリブタジエンーポリスチレン,ポリイソプレン−ポリスチレン,ポリスチレン−ポリ−2−ビニルピリジン,ポリスチレン−ポリ−4−ビニルピリジン,ポリスチレン−ポリジメチルシロキサン,ポリスチレン−ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド,ポリブタジエン−ポリアクリル酸ナトリウム,ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド,ポリ−t−ブチルメタクリレート−ポリエチレンオキシド,ポリスチレン−ポリアクリル酸,ポリスチレン−ポリメタクリル酸等を挙げることができる。なお、本発明はこれらの高分子ブロック共重合体に限定されるわけではなく、ミクロ相分離を発現する組み合わせであれば広く用いることができる。
本発明における第1の高分子ブロック共重合体組成物は、主成分である高分子ブロック共重合体Aに副成分としてホモポリマH1,ホモポリマH2、もしくはその両方を配合してなるものである。ここで、ホモポリマH1は主成分である高分子ブロック共重合体Aのブロック鎖A1と相溶するように高分子であり、ホモポリマH2は主成分である高分子ブロック共重合体Aのブロック鎖A2と相溶するように高分子である。このような組み合わせとすることにより、高分子ブロック共重合体組成物が相分離してブロック鎖A1を主成分とするミクロドメイン1と、ブロック鎖A2を主成分とするミクロドメイン2とが発現した場合、ホモポリマH1はミクロドメイン1に、ホモポリマH2はミクロドメイン2に、選択的に相溶した状態が実現される。
具体的に、高分子ブロック共重合体Aとしては、ポリスチレン−ブロック−ポリメチルメタクリレート共重合体(PS−b−PMMA)の場合を例にとり、ホモポリマ1およびホモポリマ2として適用することができる高分子を例示する。
まず、ホモポリマH1には、ポリスチレンを適用することができるほか、ポリスチレンに相溶する高分子であるポリフェニレンエーテル,ポリメチルビニルエーテル,ポリαメチルスチレン,ニトロセルロース等を適用することができる。
また、ホモポリマH2には、ポリメチルメタクリレートを適用することができるほか、ポリメチルメタクリレートに相溶する高分子であるスチレン−アクリロニトリル共重合体,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体,フッ化ビニリデン−トリフロロエチレン共重合体,フッ化ビニリデン−テトラフロロエチレン共重合体,フッ化ビニリデン−ヘキサフロロアセトン共重合体,ビニルフェノール−スチレン共重合体,塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体,フッ化ビニリデンホモポリマ等を適用することができる。
なお、以上の高分子でも、分子量や濃度、さらに共重合体の場合は組成によっては非相溶になる場合もある。また、温度によっても非相溶になる場合があり、熱処理時の温度においても相溶状態であることが望ましい。
次に、本発明に適用する高分子ブロック共重合体Aとホモポリマ1とホモポリマ2の分子量の関係について説明する。まず、高分子ブロック共重合体Aを構成するブロック鎖1の分子量をMn(A1),ブロック鎖2の分子量をMn(A2),ホモポリマ1の分子量をMn(H1),ホモポリマ2の分子量をMn(H2)とすると、各分子量は以下の式を満足する必要がある。
Mn(H1)<Mn(A1)÷3
Mn(H2)<Mn(A2)÷3
この関係を満足するように分子量を組み合わせることにより、化学的レジストレーション法によるパターン形成の際の課題である、マクロスコピックな相分離を抑制し、パターンのサイズのばらつきや欠陥の低減した微細構造を有する高分子薄膜を製造することが可能となる。さらに、周期が異なる規則的パターンからなる領域を共存させたり、規則構造のパターンの周期に分布を有する高分子薄膜の製造が可能となり、得られたパターンを元に、パターン基板を製造することが可能となる。
次に、本発明における第2の高分子ブロック共重合体組成物は、主成分である高分子ブロック共重合体Aに副成分として、第2の高分子ブロック共重合体Bが配合されて成る。ここで、高分子ブロック共重合体Bは第1の高分子ブロック鎖に相溶する第3の高分子ブロック鎖B1と、第2の高分子ブロック鎖に相溶する第4の高分子ブロック鎖B2からなる。このような組み合わせとすることにより、高分子ブロック共重合体組成物が相分離してブロック鎖A1を主成分とするミクロドメイン1と、ブロック鎖A2を主成分とするミクロドメイン2とが発現した場合、ブロック鎖B1はミクロドメイン1に、ブロック鎖B2はミクロドメイン2に、選択的に相溶した状態が実現される。
具体的に、高分子ブロック共重合体Aとしては、PS−b−PMMAの場合を例にとり、ブロック鎖B1およびブロック鎖B2として適用することができる高分子を例示する。
まず、ブロック鎖B1には、ポリスチレンを適用することができるほか、ポリスチレンに相溶する高分子であるポリフェニレンエーテル,ポリメチルビニルエーテル,ポリαメチルスチレン,ニトロセルロース等を適用することができる。
また、ブロック鎖B2には、ポリメチルメタクリレートを適用することができるほか、ポリメチルメタクリレートに相溶する高分子であるスチレン−アクリロニトリル共重合体,アクリロニトリル−ブタジエン共重合体,フッ化ビニリデン−トリフロロエチレン共重合体,フッ化ビニリデン−テトラフロロエチレン共重合体,フッ化ビニリデン−ヘキサフロロアセトン共重合体,ビニルフェノール−スチレン共重合体,塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体,フッ化ビニリデンホモポリマ等を適用することができる。
なお、以上の高分子でも、分子量や濃度、さらに共重合体の場合は組成によっては非相溶になる場合もある。また、温度によっても非相溶になる場合があり、熱処理時の温度においても相溶状態であることが望ましい。
次に、本発明に適用する高分子ブロック共重合体Aと高分子ブロック共重合体Bの分子量の関係について説明する。まず、高分子ブロック共重合体Bを構成するブロック鎖B1の分子量をMn(B1),ブロック鎖B2の分子量をMn(B2)とすると、各分子量は以下の式を満足する必要がある。
Mn(A2)>Mn(A1)かつMn(B2)>Mn(A2)
この関係を満足するように分子量を組み合わせることにより、化学的レジストレーション法によるパターン形成の際の課題である、マクロスコピックな相分離を抑制し、パターンのサイズのばらつきや欠陥の低減した微細構造を有する高分子薄膜を製造することが可能となる。さらに、周期が異なる規則的パターンからなる領域を共存させたり、規則構造のパターンの周期に分布を有する高分子薄膜の製造が可能となり、得られたパターンを元に、パターン基板を製造することが可能となる。
なお、第1の高分子ブロック共重合体組成物,第2の高分子ブロック共重合体組成物、いずれの場合においても、主成分である高分子ブロック共重合体Aが全体に占める重量分率は75%以上95%以下であることが望ましい。重量分率がこの範囲を逸脱するとミクロ相分離の際、高分子ブロック共重合体Aが副成分である高分子ブロック共重合体BやホモポリマH1,H2とマクロスコピックに相分離してしまう可能性が高くなる。
以上の条件を満足した上で、高分子ブロック共重合体組成物は目的とするパターンの形状やサイズに応じて、高分子ブロック共重合体組成物を構成する高分子鎖の分子量や組成比を選択すればよい。
すなわち、高分子ブロック共重合体組成物がミクロ相分離によりブロック鎖A1を主成分とする高分子相1(ミクロドメイン1を形成する相)およびブロック鎖A1を主成分とする高分子相2(ミクロドメイン2を形成する相)に相分離する場合、高分子相1が全体積に占める割合が0%から50%に増加するにつれ、ミクロ相分離の構造は、球状のミクロドメイン1が高分子相2からなるマトリックス中に規則的に配列した構造から、シリンダ(柱)状のミクロドメイン1が高分子相2からなるマトリックス中に規則的に配列した構造、さらに、板(ラメラ)状のミクロドメイン1とミクロドメイン2が交互に配列した構造へと変化する。さらに高分子相1が全体積に占める割合を増加すると、今度は逆に、板(ラメラ)状のミクロドメイン1とミクロドメイン2が交互に配列した構造から、シリンダ(柱)状のミクロドメイン2が高分子相1からなるマトリックス中に規則的に配列した構造、さらに、球状のミクロドメイン2が高分子相1からなるマトリックス中に規則的に配列した構造へと変化する。
また、パターンのサイズは主に高分子ブロック共重合体Aの全分子量により規定され、分子量が大きくなると構造のサイズが大きくなる。
なお、以上の説明では高分子ブロック共重合体Aは二種類のブロック鎖が結合してなる高分子ジブロック共重合体を例として説明した。しかし、本発明で用いられる高分子ブロック共重合体は、このような形態に限定されるものでなく、その他ABA型高分子トリブロック共重合体、三種以上の高分子セグメントからなるABC型高分子ブロック共重合体等の直鎖状高分子ブロック共重合体、又はスター型の高分子ブロック共重合体であっても構わない。
また、高分子ブロック共重合体やホモポリマは適切な方法で合成すればよいが、ミクロ相分離構造の規則性を向上するためにはできる限り分子量分布が小さくなるような合成手法、例えばリビング重合法を用いることが適切である。
さて、本発明の高分子ブロック共重合体組成物はミクロ相分離により微細な球状,シリンダ状,ラメラ状等の構造を発現する。上記したように、その構造やサイズは、高分子ブロック共重合体組成物の組成に応じて決定される。すなわち、高分子ブロック共重合体組成物が発現する構造やサイズは、それを構成する高分子の分子量や組成に応じて固有のものとなる。ここで、ミクロ相分離により発現する規則的な構造の周期を固有周期d0とする。ミクロ相分離構造がシリンダ状である場合、シリンダは図3(a)に示すようにヘキサゴナルにパッキングして規則的に配列する。この場合、固有周期d0はヘキサゴナル配列の格子間隔で定義される。また、図3(b)に示すように、ミクロ相分離構造がラメラ状である場合、ラメラは交互に積層した構造となる。この場合、固有周期d0はラメラ間の間隔で定義される。さらに、ミクロ相分離構造が球状である場合、球は体心立法格子(BCC)状に配列した構造となる。この場合、固有周期d0はBCC格子の間隔で定義される。なお、固有周期d0は化学パターンを施していない基板表面において、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させたときの微細構造の周期とする。
(基板)
化学的レジストレーション法では、図2(b)に示すように、基板表面を化学的性質の異なる表面1と表面2にパターニング化し、それぞれの表面に高分子ブロック共重合体組成物が形成するミクロドメイン1とミクロドメイン2を配置することにより、ミクロ相分離構造を制御する。ここでは、基板表面を化学的性質の異なる表面Aと表面Bにパターニング化する方法について説明する。
まず、図2(a)に示す基板の材質は特に限定されるものではない。例えばガラスやチタニア等の無機物,シリコンやGaAsのような半導体,銅,タンタル,チタンのような金属、さらには、エポキシ樹脂やポリイミドのような有機物からなる基板を目的に応じて選択すればよい。
基板表面を化学的に性質の異なる表面1と表面2にパターン化する方法の1例を、図4を用いて説明する。この例は、高分子ブロック共重合体組成物を構成する主成分である高分子ブロック共重合体がPS−b−PMMAであり、そのため、ミクロ相分離により、ポリスチレン(PS)を主成分とするミクロドメインと、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を主成分とするミクロドメインが発現する場合を前提としたものである。
まず、図4(a)に示すように、基板10の表面全面をPMMAに比べてPSがより濡れやすい表面とするため、基板表面を化学的に修飾する。化学修飾はシランカップリング等による単分子膜形成や高分子のグラフト化等の方法を用いると良い。基板表面をPSと親和性のよい表面とするためには、例えば、単分子膜形成であれば、フェニチルトリメトキシシランのカップリング反応によるフェニチル基の導入や、高分子修飾であれば、PSと相溶する高分子を基板表面にグラフト処理により導入すればよい。
高分子のグラフト処理は、基板表面に重合開始の基点となる化学基をカップリング法等によりまず導入し、その重合開始点から高分子を重合する方法や、基板表面と化学的にカップリングする官能基を末端や主鎖中に有する高分子を合成し、その後に基板表面にカップリング化する方法等がある。特に、後者の方法は簡便であり推奨される。
ここでは、具体的には、シリコン基板表面をPSが好む表面にするため、ポリスチレンをシリコン表面にグラフト化する手法について説明する。まず、末端に水酸基を有するポリスチレンを既定のリビング重合により合成する。次に、シリコン基板を酸素プラズマに暴露したり、ピラニア溶液に浸漬することにより、基板表面の自然酸化膜表面の水酸基密度を向上する。末端に水酸基を有するポリスチレンをトルエン等の溶媒に溶解し、シリコン基板にスピンコート等の手法により成膜する。その後、真空オーブン等を用いて、得られた基板を真空雰囲気化で72時間程度、170程度の温度で加熱する。この処理により、基板表面の水酸基とポリスチレン末端の水酸基が脱水縮合し、基板表面近傍のポリスチレンが基板と結合する。最後に、基板をトルエン等の溶媒で洗浄し、基板表面と未結合のポリスチレンを除去することによりポリスチレンがグラフト化されたシリコン基板が得られる。
ポリマを基板表面にグラフト化する場合、グラフト化する高分子の分子量に特に制限は無いが、分子量を1,000程度から10,000程度とすると、上記グラフト方法を用いて基板表面に膜厚が数nmの高分子の極薄膜を形成することができる。
次に、基板表面に設けた化学修飾層をパターン化する。パターン化の方法は所望のパターンサイズに応じて、フォトリソグラフィーや電子線直接描画法等、公知のパターン化技術を適用すればよい。すなわち、図4に示すように、まず、基板10(図4(a))表面に化学的修飾層12を形成し(図4(b))、その表面にレジスト膜13を形成し(図4(c))、そのレジスト膜を露光によりパターン化し(図4(d))、現像処理(図4(e))を経て、レジストをパターンマスク化し、その後、酸素プラズマ処理等の手法で化学修飾層をエッチングする(図4(f)(g))ことによりパターン化すればよい。最後に、残留している化学修飾層の上にあるレジスト膜を取り除けば、パターン化された化学修飾層が得られる(図4(h))。なお、本プロセスは一例であり、基板表面に設けた化学修飾層をパターン化できるのであれば他の手段を用いてもよい。また、図4では基板表面上に化学的修飾層を離散的に配置する方法について述べたため、得られる基板の断面は図5(a)に模式的に示したように、基板表面に基板とは化学的に性質の異なる薄膜が形成されている構成となる。しかしながら、本発明においては、図5(b)に模式的に示すように、表面状態が基板と化学的に異なる領域が基板内部の離散的に埋め込まれたような基板や、図5(c)に模式的に示すように、基板表面に化学的に性質の異なる2種類の薄膜がパターン化されて配置されている基板等を適用してもよい。
図4に示した方法によると、シリコン基板表面にパターン化されたポリスチレン修飾層を有する基板が得られる。すなわち、基板表面はシリコン基板が露出した表面1とポリスチレン修飾層からなる表面2にパターン化されるが、シリコン表面はポリスチレンよりポリメチルメタクリレートを好む性質を有するため、結果的に、PS−b−PMMAを主成分とする高分子ブロック共重合体混合物が発現するポリスチレンを主成分とするミクロドメインとポリメチルメタクリレートを主成分とするミクロドメインそれぞれに対して選択性のある表面が得られる。
以上、PS−b−PMMAを主成分とする高分子ブロック共重合体混合物を対象として基板表面のパターン化法について詳述したが、他の高分子ブロック共重合体混合物であっても、同様な方法で基板表面を化学的にパターン化すればよい。
(化学的レジストレーション)
化学的レジストレーション法は、高分子ブロック共重合体が自己組織化により形成するミクロ相分離構造の長距離秩序性を、基板表面に設けた化学的マークにより向上する目的で開発された方法であり、短距離秩序性、すなわち、微視的な構造のパターンやその周期構造は高分子ブロック共重合体が有する固有のパターンと同等に設計する必要があった。
例えば、シリンダ状ミクロドメインが格子間隔d0でヘキサゴナルに規則配列するミクロ相分離構造を固有に有する高分子ブロック共重合体を用いる場合、図6に示すように、化学的パターンの形状およびサイズは、シリンダ状ミクロドメインの直径に相当する円形パターンを周期d0の自然数倍でパターングする必要があった。逆に言えば、従来の化学的レジストレーション法では、用いる高分子ブロック共重合体の固有パターンを固有周期d0で長距離に渡って規則的に形成することは可能ではあるが、固有パターンとは異なった形状や異なった周期で形成することはできなかった。
化学的レジストレーションにより形成するパターンの任意性を向上させる方法としては本発明と同様に、単一の高分子ブロック共重合体に代え、ホモポリマや第二の高分子ブロック共重合体を混合した高分子ブロック共重合体混合系を用いる方法が公知であった。この方法は、高分子ブロック共重合体にホモポリマや第二の高分子ブロック共重合体をブレンドすることにより、高分子ブロック共重合体混合系が形成するミクロ相分離構造に自由度を与えることにより、高分子ブロック共重合体混合系の固有パターンから、配列や周期がずれた形状を有する基板の化学的パターンにも対応できるようにするという概念に基づくものである。
しかしながら、高分子ブロック共重合体混合系を用いる従来の方法では、パターンによっては、高分子ブロック共重合体混合系がマクロスコピックな相分離をしたり、パターンのサイズのばらつきや欠陥が発生するといった問題点があった。本発明は、上述したように第1および第2の高分子ブロック共重合体組成物を用いることにより、このような課題を解決するためになされたものである。
本発明によって化学的レジストレーション法を適用して安定的に精度よく形成することが可能となったパターンの代表例を以下に示す。高分子ブロック共重合体混合系の固有パターンがシリンダ状であり、その固有周期がd0である場合について可能となったパターンを図7を用いて説明する。図7は基板に平行な方向のパターンの断面図である。
図7(a)はシリンダ状ミクロドメインが基板に直立した状態でヘキサゴナルに周期d0で基板全面に渡って配列したパターンを示している。このパターンについては、図7(a)と同一形状で化学的にパターン化された基板表面に単一高分子ブロック共重合体を成膜した従来の方法でも対応が可能であった。
次に、図7(b)はシリンダ状ミクロドメインが基板に直立した状態でヘキサゴナルに周期dで基板全面に渡って配列したパターンを示している。このパターンの場合、図7(a)とは異なり、周期dは固有周期d0と同一ではない。本発明の組成を有する高分子ブロック共重合体混合物を用いると、dが0.9×d0<d<1.3×d0の範囲内であればd≠d0の場合においても安定的に精度よく化学的レジストレーションが実現される。
図7(c−1)〜図7(c−3)はシリンダ状ミクロドメインが基板に直立した状態でヘキサゴナルに配列しており、その周期dが均一ではない場合を示している。図7(c−1)に示すように、一軸方向についてdが変化する場合や、図7(c−2)に示すように格子サイズが全体に大きくなる場合、図7(c−3)に示すようにdが異なった複数の領域が共存するようなパターンについても、dが0.9×d0<d<1.3×d0の範囲内であれば安定的に精度よく化学的レジストレーションが実現される。
図7(d)はシリンダ状ミクロドメインが基板に直立した状態でほぼヘキサゴナルに配列しているが、その格子が円弧状に歪んでいる場合を図示している。このような構造では円弧上に歪んだ格子の上部と下部でdの値が異なるだけでなく、格子点に隣接する第1近接格子の方位がヘキサゴナル格子からはずれるが、格子間隔のdが0.9×d0<d<1.3×d0の範囲内であれば安定的に精度よく化学的レジストレーションが実現される。
以上、シリンダ状ミクロドメインを例にとって説明したが、ラメラ状ミクロドメインが基板に対して直立した状態で配列したパターンの場合においても、同様に、ラメラ間の間隔やラメラの曲げ等に対するケミカルレジストレーションの自由度が本発明の第1と第2の組成を有する高分子ブロック共重合体組成物を適用することにより増加する。また、図7では、パターンの周期に着目して本発明の特徴を説明したが、本発明の第1と第2の組成を有する高分子ブロック共重合体組成物を適用することによりドメインサイズにも自由度が増し、パターン周期のみならず、パターンのサイズや形状についても分布を有するようなパターンの作成も可能となる。すなわち、シリンダ状ミクロドメインの場合を適用する場合、シリンダの直径に分布を設けたり、シリンダの断面を円から楕円に変化させたりすることも可能となる。
さらに、本発明によると第1と第2の組成を有する高分子ブロック共重合体組成物を適用することにより、図8に示すように、シリンダとラメラが共存したパターンもケミカルレジストレーション法により作成することができる。
(高分子ブロック共重合体組成物の成膜と相分離)
上述した方法により準備した化学的パターン化した基板上に高分子ブロック共重合体組成物を成膜してミクロ相分離を発現させる。その方法を以下に記す。
まず、高分子ブロック共重合体組成物を溶媒に溶解して希薄な高分子ブロック共重合体組成物溶液を得る。次に、図2(c)に示すように化学的パターン化した基板表面に高分子ブロック共重合体組成物溶液を成膜する。成膜法は特に限定されるものではなく、スピンコートやディップコート等の方法を用いればよい。スピンコートを用いる場合、一般的に溶液の重量濃度を数%とし、スピンコートの回転数を1000〜5000回転とすれば、数10nmの膜厚を有する高分子ブロック共重合体組成物薄膜が安定的に得られる。また、高分子ブロック共重合体組成物の膜厚も特に限定されるものではないが、化学的レジストレーションの効果を最大限生かすためには高分子ブロック共重合体組成物の固有周期d0の5倍以下程度とするのが望ましい。
化学的パターン化した基板表面に成膜した高分子ブロック共重合体組成物の構造は、その成膜方法にもよるが、一般的に平衡構造とはなっていない。すなわち、成膜時の溶媒の急激な気化に伴い、高分子ブロック共重合体組成物はそのミクロ相分離が十分に進行せず、構造が非平衡な状態、あるいは全くのディスオーダー状態で凍結された状態である場合が多い。そこで、高分子ブロック共重合体組成物のミクロ相分離過程を十分に進行させ、平衡構造を得るために、基板をアニールする。アニールは高分子ブロック共重合体組成物のガラス転移温度以上に加熱した状態で放置する熱アニールや、高分子ブロック共重合体組成物の良溶媒蒸気に暴露した状態で放置する溶媒アニール等で行うことができる。PS−b−PMMAを主成分とする高分子ブロック共重合体組成物の場合、熱アニールが簡便であり、真空雰囲気化、温度170〜200℃において数時間から数日加熱することによりアニール処理は完了する。
(パターン基板について)
次に、図9を参照して、高分子ブロック共重合体組成物のミクロ相分離構造を用いてパターン基板を作成する種々の方法について説明する。なお、図9では基板表面にパターン化された状態で存在する化学的に性質の異なる表面については省略している。ここで、パターン基板とは、基板表面にミクロ相分離構造の規則配列パターンに対応する凹凸面が形成されているものを指す。また、以後の説明は、簡便にするため、ミクロ相分離のパターンとして、シリンダ状の構造を前提とするが、ラメラ状の構造やラメラとシリンダが共存した構造等においても同様な方法でパターン基板を得ることができる。
まず、図9(a)に示す高分子相A(連続相),高分子相B(柱状相)で構成されたミクロ相分離構造のうち、片側の高分子相Bを選択的に除去して、図9(b)に示すような、複数の微細孔Hが規則配列パターンを形成した多孔質薄膜Dを得る。
なお、図示しないが、連続相Aの高分子相を選択的に除去して、複数の柱状構造体(柱状相B)が規則配列パターンを形成した高分子薄膜を得ることもできる。このように、複数の微細孔H又は柱状構造体が規則配列パターンを形成する多孔質薄膜Dが基板20上に形成されて、パターン基板が製造されたことになる。
また、詳しく述べないが、図9(b)において、残存した他方の高分子相(図では連続相Aからなる多孔質薄膜D)を基板20の表面から剥離して、単独の多孔質薄膜Dをパターン基板として製造することもできる。
ところで、図9(b)に示すように、高分子薄膜Cを構成する連続相A又は柱状相Bのいずれか一方の高分子相を選択的に除去する方法としては、リアクティブイオンエッチング(RIE)、又はその他のエッチング手法により各高分子相間のエッチングレートの差を利用する方法を用いる。ここで、連続相A又は柱状相Bのいずれか一方の高分子相に金属原子等をドープすることによりエッチングの選択性を向上させることも可能である。例えポリスチレンとポリブタジエンである高分子ブロック共重合体の場合、ポリブタジエンからなる高分子相は、ポリスチレンからなる高分子相と比較してよりオスミウムがドープされやすい。この効果を利用して、ポリブタジエンからなるドメインのエッチング耐性を向上させることが可能である。
次に、図9(c)(d)を参照して、パターン基板の製造方法の他の例を説明する。
図9(b)に示す連続相Aのように残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)をマスクとして基板をRIEやプラズマエッチング法でエッチング加工する。すると、図9(c)に示すように、微細孔Hを介して選択除去された高分子相の部位に対応する前記基板の表面部位が加工され、ミクロ分離構造の規則配列パターンが基板の表面に転写されることになる。そして、このパターン基板の表面に残存した多孔質薄膜をRIEまたは溶媒で除去すると、図9(d)に示すように、柱状相Bに対応した規則配列パターンを有する微細孔Hが表面に形成されたパターン基板が得られることになる。
次に、図9(e)(f)を参照して、パターン基板の製造方法に係る他の実施形態について説明する。
図9(b)に示す連続相Aのように残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)を、図9(e)のように被転写体30に密着させて、ミクロ相分離構造の規則配列パターンを被転写体30の表面に転写する。その後、図9(f)に示すように、被転写体をパターン基板21から剥離することにより、多孔質薄膜Dの規則配列パターンが転写されたレプリカ(パターン基板31)を得る。
ここで、被転写体の材質は、金属であればニッケル,白金,金等、無機材料であればガラスやチタニア等、用途に応じて選択すればよい。被転写体が金属製の場合、スパッタ,蒸着,めっき法、又はこれらの組み合わせにより、被転写体をパターン基板の凹凸面に密着させることが可能である。
また、被転写体が無機物質の場合は、スパッタやCVD法のほか、例えばゾルゲル法を用いて密着させることができる。ここで、めっきやゾルゲル法は、ミクロ相分離構造における数十ナノメートルの微細な規則配列パターンを正確に転写することが可能であり、非真空プロセスによる低コスト化も望める点で好ましい方法である。
前記した製造方法により得られたパターン基板は、その表面に形成される規則配列パターンの凹凸面が微細でかつアスペクト比が大きいことから、種々の用途に適用される。
例えば、製造されたパターン基板の表面を、ナノインプリント法等により被転写体に繰り返し密着させることにより、同じ規則配列パターンを表面に有するパターン基板のレプリカを大量に製造するような用途に供することができる。
以下に、ナノインプリント法によりパターン基板の凹凸面の微細な規則配列パターンを被転写体に転写する方法について示す。
第1の方法は、作製したパターン基板を被転写体(図示せず)に直接インプリントして規則配列パターンを転写する方法である(本方法を、熱インプリント法という)。この方法は、被転写体が直接インプリントすることが可能な材質である場合に適する。例えばポリスチレンに代表される熱可塑性樹脂を被転写体とする場合、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱した後に、パターン基板をこの被転写体に押し当てて密着させ、ガラス転移温度以下まで冷却した後にパターン基板を被転写体の表面から離型するとレプリカを得ることができる。
また、第2の方法として、パターン基板がガラス等の光透過性の材質である場合は、光硬化性樹脂を被転写体(図示せず)として適用する(本方法を、光インプリント法という)。この光硬化性樹脂をパターン基板に密着させた後に光を照射すと、この光硬化性樹脂は硬化するので、パターン基板を離型して、硬化後の光硬化性樹脂(被転写体)をレプリカとして用いることができる。
さらに、このような光インプリント法において、ガラス等の基板を被転写体(図示せず)とする場合、パターン基板と被転写体の基板とを重ねた隙間に光硬化性樹脂を密着させて光を照射する。そして、この光硬化性樹脂を硬化させた後に、パターン基板を離型して、表面に凹凸を有する硬化後の光硬化性樹脂をマスクにして、プラズマやイオンビーム等でエッチング加工して、基板上に規則配列パターンを転写する方法もある。
(磁気記録用パターン媒体について)
本発明で実現されるデバイスの例として、磁気記録メディアについて言及する。磁気記録メディアは、データの記録密度を向上させることが常に要求されている。このため、データを刻む基本単位となる磁気記録メディア上のドットも、微小化するとともに隣接するドットの間隔も狭くなり、高密度化している。
ちなみに、記録密度が1テラビット/平方インチの記録媒体を構成するためには、ドットの配列パターンの周期は約25ナノメートルになるようにする必要があるとされている。このように、ドットの高密度化が進むと、一つのドットをON/OFFするために付与された磁気が、隣接するドットに影響を及ぼすことが懸念される。
そこで、隣接するドットの方から漏洩してくる磁気の影響を排除するために、磁気記録メディア上のドットの領域を物理的に分断したパターン媒体が検討されている。
本発明はこのパターン媒体、あるいはパターン媒体製造のためのマスターの製造に適用することができる。特に、パターン媒体では、微小な凸凹を、欠陥なく、規則的に、かつ円弧上に配列する必要がある。図7(d)に示したように、このようなパターンは本発明により実現できるものである。また、磁気記録用パターン媒体のパターンとしては、記録層となるドットパターンと記録再生動作を行うためのサーボパターンを有しており、ドットパターンとサーボパターンとは異なる周期,形状で設けられるため、パターン任意性を向上できる本発明を適用することは有効である。
本実施例では本発明の第1の微細構造を有する高分子薄膜の製造方法に関して、高分子ブロック共重合体としてポリスチレン−ブロック−ポリメチルメタクリレート共重合体(PS−b−PMMA)を用いて行った検討の結果を、比較事例を適宜参照しながら説明する。
(化学的パターン化基板の準備)
基板には自然酸化膜を有するSiウエハを用い、その表面全面にポリスチレンをグラフト化した後に、ポリスチレングラフト層を電子ビーム(EB)リソグラフィーによりパターニングすることによりポリスチレンとポリメチルメタクリレートに対して異なる濡れ性を有する表面がパターン化された基板を得た。以下、手順を詳述する。
ポリスチレングラフト基板は以下の方法で作成した。まず、自然酸化膜を有するSiウエハ(4インチ)をピラニア溶液により洗浄した。ピラニア処理は酸化作用を有するため基板表面の有機物除去に加えて、Siウエハ表面を酸化し、表面水酸基密度を増加させることができる。次に、Siウエハ表面に、トルエンに溶解した水酸基で末端をダーミネートされたポリスチレン(PS−OH)(濃度1.0wt%)をスピンコータ(ミカサ株式会社製1H−360S)を用いて回転数は3,000rpmの条件で成膜した。ここで、PS−OHの分子量は3700とした。得られたPS−OHの膜厚は約50nm程度であった。次に、PS−OHを塗布した基板を真空オーブンに投入し140℃において48時間加熱した。この処理によりPS−OH末端の水酸基が基板表面の水酸基と脱水反応により化学的に結合する。最後に、未反応のPS−OHを、基板をトルエンに浸漬し超音波処理することにより除去しPSグラフト層を有する基板を得た。
PSグラフト基板の表面状態を評価するために、PSグラフト層の厚み、基板表面のカーボン量および基板表面に対するPSの接触角を測定した。PSグラフト層の厚みの測定は分光エリプソメトリー法を、表面カーボン量の定量にはX線光電子分光法(XPS法)を用いた。
基板表面に対するPSの接触角測定は以下の方法により実施した。まず、基板の表面に分子量4000のホモポリスチレンhPSの薄膜を厚みが約80nmとなるようにスピンコートした。次に、hPSを成膜した基板を、真空雰囲気化において、温度170℃で24時間アニールした。この処理により、hPS薄膜は基板表面でdewettingし微小な液滴となった。加熱処理後、基板を加熱炉から取り出し液体窒素に浸漬することにより急冷し、液滴の形状を凍結した。得られた液滴の断面形状を原子間力顕微鏡により測定し、基板と液滴の界面の角度を測定することにより加熱温度におけるhPSの基板に対する接触角を決定した。この際、角度の測定は6点について行いその平均値を接触角とした。
測定の結果、ポリスチレンをグラフトした基板表面のグラフト層の厚みは5.1nmであった。ポリスチレングラフト処理前後における基板表面のカーボン量をXPSで同定したところ、そのC1Sに由来するピークの積分強度は4,500cpsおよび27,000cpsであった。また、hPSの接触角は9度となりグラフト処理前のSiウエハに対する接触角35度より小さくなった。このことから、シリコンウエハ表面にポリスチレングラフト膜が形成できたことを確認できた。
PSグラフト基板表面のPSグラフト層をEBリソグラフィー法によりパターニングし、PSグラフト層表面にSiウエハが露出した半径rの円形の領域が、格子間隔dでヘキサゴナルに配列した化学的パターン基板を作成した。作成した基板上のパターン配置を図10に示す。1枚の基板上には格子間隔dが26nmから48nmまで2nm間隔で異なったヘキサゴナルパターンを有する領域(50μm四方)が連続的に配置されている。半径rは格子間隔dの約25%〜30%の長さとした。
図4を参照して化学的パターン基板の製造プロセスを模式的に示す。まず、上記方法で作成した4インチのPSグラフト基板を2cm四方の大きさにダイシングした基板を準備した(図4(b))。次に、その表面にPMMAレジストを厚み85nmとなるようにスピンコートした(図4(c))。次に、EB描画措置を用いて加速電圧100kVでPMMAレジストを露光し(図4(d))、その後にPMMAレジストを現像した(図4(e))。ここで、パターンの半径rは各格子点における電子ビームの露光量で調整した。次に、パターン化したPMMAレジストをマスクとして、PSグラフト層を酸素ガスを用いた反応性ドライエッチ(RIE)によりエッチングした(図4(f)(g))。RIE処理はICPドライエッチ装置を用いて実施した。RIE条件は出力40W、酸素ガス圧力4Pa、ガス流量30cm3/分、エッチング時間5〜10秒とした。最後に、基板表面に残存したPMMAレジストをトルエンにより除去することにより、表面にパターン化されたPSグラフト層を有する基板を得た(図4(h))。
(高分子ブロック共重合体混合系の準備)
本実施例では高分子ブロック共重合体混合系としてPS−b−PMMAに種々の分子量のホモポリスチレンhPSを種々の混合比でブレンドしたものを用いた。ここで、PS−b−PMMAとしては、PSの数平均分子量Mnが46,100,PMMAの数平均分子量Mnが21,000,分子量分布(Mw/Mn)が1.09のものを用いた。このPS−b−PMMAは自己組織化によりPMMAからなるシリンダがPSからなる連続相中で規則的に配列した構造を発現する。準備した混同系の組成を表1に示す。
(固有周期の測定)
各高分子ブロック共重合体混合系(PS−b−PMMA/hPS)の固有周期d0を以下の方法で決定した。まず、所定の混合比でブレンドしたPS−b−PMMA/hPS混合系サンプルを半導体グレードのトルエンに溶解することにより所定の濃度1.0wt%のPS−b−PMMA溶液を得た。次に、シリコン基板表面にPS−b−PMMA溶液をスピンコータを用いて45nmの厚みとなるように塗布した。次に、基板を170℃において24時間真空オーブンを用いてアニール処理しミクロ相分離過程を進行させ平衡状態の自己組織化構造を発現させた。
基板表面に成膜したPS−b−PMMA薄膜中のミクロ相分離構造を原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)と走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。
AFM観察は試料表面に窒素雰囲気化でUV光を6分間照射した後に実施した。UV光照射には1kVAの高圧水銀ランプを有するサムコ社製UVエッチング装置UV−1を用いた。この処理により試料表面が約10nm程度エッチングされるが、PMMA相のエッチングレートがPS相のエッチングレートより大きいため、試料表面に表面近傍のミクロ相分離構造を反映した深さ数ナノメートルの凸凹が形成される。AFM測定にはVeeco Instruments社製Nanoscope IIIaを用い、タッピングモードで高さ像と位相像を観察した。
この際、探針にはオリンパス社製OMCL−AC160TS−W2(カンチレバー長:11μm、バネ定数:42N/m、共振周波数:300kHz)を用いた。
代表的なAFM観察像を図11に示す。基板表面でPS−b−PMMA/hPSはシリンダが基板に対して直立した状態で、ローカルにはヘキサゴナルに配列する場合が多く、そのような構造のAFM観察像(図11(a))から、固有周期d0を決定した。d0の決定は、AFM観察像を汎用の画像処理ソフトにより2次元フーリエ変換することにより行った。すなわち、図11(b)に示すように、シリコン基板表面上で配列したシリンダの2次元フーリエ変換像は多数のスポットが集合したハローパターンを与えたので、その第1ハロー半径からd0を決定した。
各PS−b−PMMA/hPSについて決定したd0を表1に記す。
(ケミカルレジストレーション)
化学的にパターングした基板表面上にPS−b−PMMA/hPSを製膜し、ミクロ相分離構造を発現させた。方法は、上記の手法と同一である。得られたPS−b−PMMA/hPS薄膜中のパターン形状を走査型電子顕微鏡により観察した。
SEM観察は、日立製作所製S4800を用い加速電圧0.7kVの条件で実施した。SEM観察用の試料は以下の方法で作成した。まず、PS−b−PMMA薄膜中に存在するPMMAミクロドメインを酸素RIE法により分解除去することにより、ミクロ相分離構造に由来するナノスケールの凸凹形状を有する高分子薄膜を得た。RIEにはサムコ社製RIE−10NPを用い、酸素ガス圧1.0Pa、ガス流量10cm3/分、パワー10Wにおいて10秒間のエッチングを実施した。なお、微細構造を正確に測定するため、SEM観察において通常帯電防止のために実施する試料表面へのPt等の蒸着は行わず、加速電圧を調整することで必要なコントラストを得た。
代表的な結果を示す図12に示す。まず、図12(a)にケミカルレジストレーションにより、PS−b−PMMA/hPSの自己組織化が制御できた場合のSEMを示す。PS−b−PMMA/hPSが形成するPMMAシリンダが化学的パターン化基板表面のSiウエハ露出部に選択的に濡れることによりその位置が拘束され、PS−b−PMMA/hPSが形成するPS連続相はパターン化基板表面のポリスチレングラフト表面に選択的に濡れることにより、PS−b−PMMA/hPSが形成する規則構造は欠陥もなく長距離にわたり周期的に配列している様子が見て取れる。それに対して、ケミカルレジストレーションによる自己組織化制御が不完全な場合の代表的パターンを図12(b)と(c)示す。図12(b)に示したSEM像は基板の化学的パターン周期dとポリマの固有周期d0が若干ずれている場合等によく観察される構造であり、全体としては、シリンダが一定の方向に配向しているものの、シリンダが基板に対して寝た状態の領域や点欠陥が多数認められる。図12(c)は基板の影響をほぼ受けることなくシリンダがランダムに配列した状態を示す例である。
表1に各種組成のPS−b−PMMA/hPS混合系について、種々の周期dからなるヘキサゴナルパターンを有する基板を用いて行った実験の結果をまとめた。この表で「◎」は図12(a)と同様なパターンが得られた状態を、「○」は図12(b)と同様なパターンが得られた結果を示している。一方「×」は図12(c)と同様にシリンダの配列に対する化学的パターン基板の影響が認められなかった状態を示している。また、特にhPSの分子量が大きく、かつhPSの混合量が大きい場合、PS−b−PMMA/hPSがアニール後に、PS−b−PMMAを主成分とする領域とhPSを主成分とする領域にマクロスコピックに相分離する状態が観察された。この場合、PS−b−PMMAが主成分とする領域では化学的にパターン化された基板によりシリンダの配列が一方向に配向する様子が観察されたが、基板上にhPSからなるパターンの存在しない領域が島状にPS−b−PMMAを主成分とする領域内に分布する様子が観察された。このような状況が発現すると得られたパターンは実用に適さない。表1ではこのような状況が発現し場合には「マクロ相分離」と表示した。
表1の結果より、PS−b−PMMA単独系の場合、良好なケミカルレジストレーションの実現のためには固有周期d0と基板のパターン周期dがほぼ一致している必要があることが分かる。
それに対して、分子量4,000のhPSを混合した系では、hPSの混合量が5重量%以上25重量%以下であり、かつ高分子混合系の固有周期d0に対する基板のパターンの周期dが0.9〜1.3の範囲内であれば良好なケミカルレジストレーションが実現できることが判明した。
hPSの分子量を大きくして同様の実験を行った結果、hPSの分子量が12,000の場合では分子量4,000とほぼ同等条件範囲でケミカルレジストレーションが実現することが判明した。しかしながら、hPSの混合量を30重量%とした場合には、混合系はマクロスコピックに相分離した。
hPSの分子量をさらに大きく36,000とした場合には、良好なケミカルレジストレーションが実現できる範囲が極端に小さくなった。すなわち、hPSの混合量を15重量%以上とした場合には、混合系はマクロスコピックに相分離した。また、混合量が10重量%以下ではマクロスコピックな相分離は観察されなかったが良好なケミカルレジストレーションが実現できたのは固有周期d0に対する基板のパターンの周期dとほぼ同一の場合のみであった。
本実験では、1枚の基板上に周期dが異なるヘキサゴナルパターンからなる領域を形成したが、上述したように、本発明で既定した組成のPS−b−PMMA/hPSを用いることにより、周期dの異なるパターンを一度に形成できることが示された。この結果は、パターンサイズごとに用いる高分子ブロック共重合体混合系の濃度や組成を調整する必要が無いばかりではなく、基板表面にサイズの異なったパターンが複雑に混在したようなパターンにも対応が可能なことを示唆する結果である。
本実施例では本発明の第2の微細構造を有する高分子薄膜の製造方法に関して、高分子ブロック共重合体として、分子量の異なる2種類のPS−b−PMMAを混合した系を用いて行った検討の結果を、比較事例を適宜参照しながら説明する。
実験に用いた4種類のPS−b−PMMAに関して以下に詳述する。まず、主成分として、PSセグメントの数平均分子量Mnが35,500,PMMAセグメントの数平均分子量Mnが12,200である第1のPS−b−PMMAを用いた。PS−b−PMMA全体としての分子量分布Mw/Mnは1.04であった。この主成分に重量分率にして0〜30%の割合で、以下に示す3種のPS−b−PMMAを副成分として混合して用いた。
副成分として用いた第2のPS−b−PMMA:PSセグメントの数平均分子量Mn:52,000,PMMAセグメントの数平均分子量Mn:52,000,分子量分布:1.10。
副成分として用いた第3のPS−b−PMMA:PSセグメントの数平均分子量Mn:46,100,PMMAセグメントの数平均分子量Mn:21,000,分子量分布:1.09。
副成分として用いた第4のPS−b−PMMA:PSセグメントの数平均分子量Mn:12,800,PMMAセグメントの数平均分子量Mn:12,900,分子量分布:1.05。
ここで、第1のPS−b−PMMAはPSセグメントの分子量が35,000であり、PMMAセグメントの分子量が12,000であるため、PMMAからなるシリンダがPSからなる連続相中で配列したミクロ相分離構造を形成する。また、第1のPS−b−PMMAではPSセグメントの分子量がPMMAセグメントの方が大きい。そこで、本発明における第2の高分子ブロック共重合体組成物の組成の規定範囲である
Mw(A2)>Mw(A1)かつMw(B2)>Mw(A2)
の関係を満足するためには、副成分のPSセグメントの分子量が35,000より大きい必要がある。上記第2および第3のPS−b−PMMAはこの条件を満足するが、第4のPS−b−PMMAはこの条件を満足しない。
これらのPS−b−PMMA混合系を用い、実施例1と同様な方法で実験を実施した。
ここで、PS−b−PMMA混合系の膜厚は35nmとした。また、化学的パターン基板の周期dは24nm〜46nmの範囲で2nmピッチで変化させた。得られた結果を表2にまとめた。この表で「◎」は図12(a)と同様なパターンが得られた状態を、「○」は図14(b)と同様なパターンが得られた結果を示している。一方「×」は図14(c)と同様にシリンダの配列に対する化学的パターン基板の影響が認められなかった状態を示している。
表2の結果より、PS−b−PMMA単独系の場合、良好なケミカルレジストレーションの実現のためには固有周期d0と基板のパターン周期dがほぼ一致している必要があることが分かった。
それに対して、副成分として第3のPS−b−PMMAを混合した場合、その混合割合が10重量%および20重量%であった試料は、パターンの周期dが0.9〜1.3の範囲内であれば良好なケミカルレジストレーションが実現できることが判明した。
また、副成分として第2のPS−b−PMMAを混合した場合は、混合割合が10重量%の場合のみ供試したが、パターンの周期dが0.9〜1.3の範囲内であれば良好なケミカルレジストレーションが実現できることが判明した。
一方、第4のPS−b−PMMAを混合した場合は、混合割合が10重量%の場合であってもパターンの周期dが固有周期d0とほぼ同等の場合にのみ良好なケミカルレジストレーションが実現できることが判明した。
本実験では、1枚の基板上に周期dが異なるヘキサゴナルパターンからなる領域を形成したが、上述したように、本発明で規定した組成のPS−b−PMMA混合系を用いることにより、周期dの異なるパターンを一度に形成できることが示された。この結果は、パターンサイズごとに用いる高分子ブロック共重合体混合系の濃度や組成を調整する必要が無いばかりではなく、基板表面にサイズの異なったパターンが複雑に混在したようなパターンにも対応が可能なことを示唆する結果である。
次に、パターン基板を製造した実施例について示す。まず、図9(a),(b)に示す工程に従い、高分子薄膜C中の柱状相を分解除去し、基板の表面に多孔質薄膜を形成する例について示す。
実施例1の手順に従い、PMMAからなる柱状相Bが膜表面に対して直立(膜の貫通方向に配向)した構造をとった高分子薄膜を基板表面に作成した。ここで、パターンの配置は実施例1と同様に図10に示す配置を適用した。また、高分子ブロック共重合体組成物としては、実施例1と同様に、主成分のPS−b−PMMAとしてはPSの数平均分子量Mnが46,100,PMMAの数平均分子量Mnが21,000,分子量分布(Mw/Mn)が1.09のものを用いた。また、hPSとしてはMnが4000のものを用いた。
PS−b−PMMA/hPSはhPSが15重量%となるように混合した。
化学的パターン基板にPS−b−PMMA/hPSを膜厚45nmとなるように塗布し、熱アニールに供することによりミクロ相分離を発現させ、PMMAからなるシリンダがPSからなる連続相中で規則的に配列した構造をえた。次に、RIEによりPMMA相を除去する操作を行い、多孔質薄膜Dを得た。ここで酸素のガス圧力は1Pa、出力は20Wとした。エッチング処理時間は90秒とした。
作製した多孔質薄膜Dの表面形状を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。
その結果、多孔質薄膜Dには全面に渡り、膜の貫通方向に配向して柱状の微細孔Hが形成されていることが確認された。ここで、微細孔Hの直径は約18nmであった。さらに、得られた多孔質薄膜Dにおける微細孔Hの配列状態を詳細に分析した結果、周期d=30〜36nmの範囲で化学的に表面がパターン化された領域では微細孔Hは欠陥なく一方向に配向した状態でヘキサゴナルに配列している様子が見て取れた。それに対して、化学的にパターン化されていない領域や、化学的パターンの周期dが26nm以下、あるいは42nm以上の領域では微細孔Hは微視的にはヘキサゴナルな配列を取っているものの、巨視的にはヘキサゴナルに配列した領域がグレインを形成しており、かつ、特にグレインの界面領域に多くの格子欠陥が存在することが判明した。
ここで、多孔質薄膜Dの厚みをその一部を鋭利な刃物で基板20の表面から剥離し、基板20の表面と多孔質薄膜D表面の段差をAFM観察で測定したところ、その値は40nmであった。
得られた微細孔Hのアスペクト比は2.6であり、球状ミクロドメイン構造では得られない大きな値が実現されている。なお、高分子薄膜Cの膜厚が、RIEの実施前で45nmあったものが、40nmに減少したのは、RIEの実施によりPMMA相とともにPS連続相Aも若干エッチングされたためと考えられる。
次に、多孔質薄膜Dをマスクとして、シリコン基板20をエッチングすることにより、多孔質薄膜Dのパターンを基板に転写した。ここで、エッチングはCF4ガスによるドライエッチにより実施した。その結果、多孔質薄膜D中の微細孔Hの形状と配置をシリコン基板に転写することに成功した。