JP5633540B2 - 海水淡水化前処理用分離膜、海水淡水化前処理装置、海水淡水化装置および海水淡水化方法 - Google Patents

海水淡水化前処理用分離膜、海水淡水化前処理装置、海水淡水化装置および海水淡水化方法 Download PDF

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Description

本発明は、海水の濁質を効果的に除去することができる海水淡水化前処理用分離膜、海水淡水化前処理装置、海水淡水化装置および海水淡水化方法に関する。
海水の淡水化処理方法の1つに、海水に圧力をかけて逆浸透膜(RO膜、Reverse Osmosis Membrane)に通すことにより、脱塩して淡水を得る方式がある。この逆浸透膜は0.1〜0.5nm程度の径の超微細孔を有する半透膜であり、水分子だけを選択的に透過させ、塩等の不純物は透過しない性質を有している。
しかし、原水である海水には、粗大な粒子からなる濁質を含むものも多い。そこで、この濁質による逆浸透膜の汚染を防ぐため、一般的に、逆浸透膜による処理の前に、原水中から濁質を除去する前処理が行われている。
この前処理の一例として、砂濾過や、逆浸透膜の孔より大きな孔を有する膜による濾過、例えば精密濾過(microfiltration、MF)や限外濾過(ultrafiltration、UF)、およびこれらの組合せ等が行われている(非特許文献1)。
精密濾過とは、孔径が100〜1000nm程度の精密濾過膜(MF膜)に原水を通すことにより濁質を取り除く方法を言い、また、限外濾過とは、孔径が1〜100nm程度の限外濾過膜(UF膜)に原水を通すことにより濁質を取り除く方法を言う。
福岡地区水道企業団"淡水化のしくみ"、[online]、[平成22年6月7日検索]、インターネット<URL:http://www.f−suiki.or.jp/seawater/facilities/mechanism.php>
しかしながら、海水中には、プランクトンや微生物が細胞外に分泌するTEP(transparent exopolymer particles:透明細胞外高分子粒子)と呼ばれる粘着性物質が、1〜数ppm程度存在している。TEPは主成分が糖質で、ポリマー架橋体に水を取り込んで100倍もの体積に膨れあがる粒径が1〜200μm程度のゼリー状粒子であり、本発明者らは、海水をMF膜やUF膜で濾過した場合、このTEPが膜表面に粘着して広がり、MF膜やUF膜のファウリング(目詰まり)を発生させることを見出した。そして、ファウリングが多くなるに伴って、流束(単位面積、単位時間あたりの濾過量)が急速に低下する。
このため、MF膜やUF膜による濾過に先立って、1μm以上の平均孔径を有する濾過膜(LF膜)を用いて、予めTEPの除去を行うこと等を本発明者らは検討しているが、このLF膜においても、前記したファウリングの発生に伴う流束の低下が早い段階で引き起こされる場合があり、充分とは言えない。
即ち、従来の前処理においては、TEPの除去率と流束との間には負の相関関係があり、除去率を増加させた場合には、より短時間でファウリングが発生して、流束の急速な低下を招く。このため、流束の低下に合わせて圧力を上げることにより、流束を一定に保って、RO膜にTEPが除去された原水をコンスタントに供給することが行われている。
しかし、圧力が上がると膜を薬品などで洗浄する必要がありコストが嵩み、目詰まりすると洗浄しても回復しなくなり膜交換が必要となってメンテナンスコストが大きくなる。また、流束が小さくなると多くの膜面積を必要とし設備コストが大きくなる。そして、圧力を上げるためにはより強力なポンプが必要となり、余分な設備コストが発生する。また、膜の耐圧性の面からも、圧力を上げることには限度がある。
そこで、本発明は、高い除去率でTEPの除去を行いながらも、高い流束を維持して、圧力を大きく上げることなく、充分な量の原水をコンスタントにRO膜に供給することができる海水淡水化前処理用分離膜と海水淡水化前処理装置および海水淡水化方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、従来の前処理用分離膜は、連通孔を有する多孔質体を用いて、その孔径により径の大きなTEPを捕捉しているが、捕捉と同時に孔が封止されてファウリングが発生し、流束を低下させていることを考慮して、TEPを確実に捕捉することができる膜材を求めて、種々の実験と検討を行った。
その結果、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が、この膜材として好適であることが分かった。即ち、PTFEは、島状に分布する樹脂の塊により形成された大きな孔と、この樹脂の塊間に微細繊維が入り組んだフィブリル構造とを有する多孔質体であるため、大きな孔径により充分な流束を確保することができる一方、孔径がTEPの径よりも大きい場合であっても、入り組んだ微細繊維によりTEPの捕捉を行うことができる。
次に、本発明者らは、流束の確保に関する指標として以下に示す標準流束Aを、また、TEPの除去率に関係する指標として以下に示す糖類除去率Bを用いて、膜材を具体的な数値によって評価した。
標準流束Aは、一定流束で濾過を行い、初期30分の平均膜間差圧P1と、120分経過以降30分間の平均膜間差圧P2との間で、P2≦1.5×P1を満足することができる流束の最高値を指す。
糖類除去率Bは、TEPが糖質を主成分とするゼリー状粒子であることから、TEPの除去率に関係する指標として用いるものであり、下式により求められる。
糖類除去率B=(1−濾過水中の糖類量/原水中の糖類量)
上記糖類除去率Bの計算において、糖類量は、水中の各有機物毎にその糖類量を定量分析し、それらを総合計することにより求められる。しかし、水中の有機物の種類は膨大であるため、本発明者らは、より簡便に、水中の有機物をまとめて測定する方法として、水中の有機物を有機体炭素の総量(炭素量)として測定するTOC(Total Organic Carbon:全有機炭素)に着目した。
そして、TOC計を用いて、原水および濾過水について、TOCおよびDOC(Dissolved Organic Carbon:溶存有機炭素)を測定し、両者の差としてPOC(Particulate Organic Carbon:懸濁体有機炭素、粒状カーボン)を求め、得られた各POCに基づいて下式により求められた粒状カーボン除去率Cが、上記糖類除去率Bに替えてTEPの除去率に関係する指標として有用であることを見出した。
粒状カーボン除去率C=(1−濾過水中のPOC/原水中のPOC)
上記の各指標につき、種々の実験を行い、検討した結果、標準流束Aが2m/d以上であり、かつ糖類除去率Bまたは粒状カーボン除去率Cが0.3以上、望ましくは0.5以上の膜材を用いることにより、充分な流束を確保しながら、高い除去率でTEPの除去を行うことができることが分かった。
なお、m/dは、単位膜面積(1m)当たり1日(day)の濾過流量(m)を示す。
上記の各指標に基づいて、前記PTFEにつき評価した結果、標準流束Aについては、従来の膜材では1.5m/d程度であったのに対し、PTFEでは2m/d以上であり、数値的にも明確にPTFEが優れていることが確認できた。また、糖類除去率Bおよび粒状カーボン除去率Cについても、PTFEの場合、従来の膜材では得られなかった0.4以上の除去率を示しており、この面でも、PTFEが数値的にも明確に優れていることが確認できた。
このように、標準流束Aが2m/d以上であり、かつ糖類除去率Bまたは粒状カーボン除去率Cが0.3以上、望ましくは0.5以上の膜材を用いることにより、充分な流束を確保しながら、高い除去率でTEPの除去を行うことができる。
以上の評価結果は、PTFE膜材に限らず、大きな孔とフィブリル構造とを有する多孔質体であれば、同様の評価結果を得ることができると考えられる。
さらに、前記した標準流束Aと、糖類除去率Bまたは粒状カーボン除去率Cとを掛け合わした値を指標とした場合、この値が2以上となったときには、効果が相乗的となり、極めて優れた前処理を行うことができることが分かった。PTFEはこのような値も満足している。前記の値は、5以上であればより好ましく、10以上であればさらに好ましい。
請求項1〜5に記載の発明は、これらの知見に基づくものである。即ち、請求項1に記載の発明は、
逆浸透膜を用いた海水淡水化の前処理に用いられる海水淡水化前処理用分離膜であって、
一定流束で濾過を行い、初期30分の平均膜間差圧P1と、120分経過以降30分間の平均膜間差圧P2との間で、P2≦1.5×P1を満足することができる流束の最高値として定義される標準流束Aが、2m/d以上であると共に、
下式で示される糖類除去率Bが、0.3以上である
ことを特徴とする海水淡水化前処理用分離膜である。
糖類除去率B=(1−濾過水中の糖類量/原水中の糖類量)
そして、請求項2に記載の発明は、
前記糖類除去率Bが0.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の海水淡水化前処理用分離膜である。
また、請求項3に記載の発明は、
逆浸透膜を用いた海水淡水化の前処理に用いられる海水淡水化前処理用分離膜であって、
一定流束で濾過を行い、初期30分の平均膜間差圧P1と、120分経過以降30分間の平均膜間差圧P2との間で、P2≦1.5×P1を満足することができる流束の最高値として定義される標準流束Aが、2m/d以上であると共に、
下式で示される粒状カーボン除去率Cが、0.3以上である
ことを特徴とする海水淡水化前処理用分離膜である。
粒状カーボン除去率C=(1−濾過水中のPOC/原水中のPOC)
但し、POC:懸濁体有機炭素量(全有機炭素量と溶存有機炭素量との差)
そして、請求項4に記載の発明は、
前記粒状カーボン除去率Cが0.5以上であることを特徴とする請求項3に記載の海水淡水化前処理用分離膜である。
また、請求項5に記載の発明は、
前記海水淡水化前処理用分離膜が、ポリテトラフルオロエチレン製であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜である。
次に、請求項6に記載の発明は、
前記海水淡水化前処理用分離膜の孔径が、1μm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜である。
本発明においては、孔径が1μm以上のLF膜を用いることが好ましい。ここで膜の孔径は平均孔径で表す。平均孔径とは、バブルポイント法(エアーフロー法)で求めた孔径を意味する。
具体的には、この孔径は、イソプロピルアルコールを用いASTM F316に基づき測定されたIPAバブルポイント値(圧力)をP(Pa)、液体の表面張力(dynes/cm)をγ、Bを毛細管定数としたとき、次の式で表わされる径d(μm)を意味する。なお、MF膜、UF膜等の平均孔径についても同じである。
d=4Bγ/P
LF膜は1μm以上の平均孔径を有するので、単位膜面積当たりの流量(流束)を大きくすることができ、逆から見れば、より小さい設備で所望の処理量を得ることができる。LF膜の平均孔径が小さい程、より小さな粒子の除去が可能になり、前処理における濁質やTEP等の有機性粒子の除去率は向上する。一方、LF膜の平均孔径が小さい程、単位膜面積当たりの流量(流束)は小さくなる。従って、濁質やTEP等の有機性粒子の所望の除去率及び単位膜面積当たりの流量(流束)を考慮して最適の孔径が選択される。
請求項7に記載の発明は、
前記海水淡水化前処理用分離膜が、親水化加工されてないことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜である。
膜がPTFE膜等の疎水性の材質からなる高分子膜(疎水性高分子膜)である場合、一般的には、被処理液との親和性を向上させるために、例えば、PTFE膜をビニルアルコール等の親水化化合物で表面架橋する方法で親水化加工が施される。
しかし、本願発明者らは、前処理用分離膜として用いる場合には、親水性材料を膜表面に架橋・固定化する親水化加工が施されていないことにより、高い流束と糖類除去率あるいは粒状カーボン除去率を確保することができることを見出した。
なお、このような加工とは異なり、被処理液を透過させる前に、膜と親水性アルコールを接触させ、膜の表面(孔内を含む)を親水性アルコールで覆う方法での親水化処理は用いることが好ましい。親水性アルコールとしては、エタノール、プロパノール等を挙げることができ、特にイソプロパノールが好ましく用いられる。
請求項8に記載の発明は、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜が濾過膜として用いられていることを特徴とする海水淡水化前処理装置である。
充分に有機物を除去することができ、しかも流束の低下を充分に抑制することができる海水淡水化前処理用分離膜を用いているため、海水淡水化装置に、有機物を除去した充分な量の原水を安定して送ることができる。
請求項9に記載の発明は、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜を用いた前処理手段の後に、精密濾過膜または限外濾過膜を用いた前処理手段が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の海水淡水化前処理装置である。
より孔径が小さい精密濾過膜または限外濾過膜をさらに配することにより、前記海水淡水化前処理用分離膜により除去された有機物以外の微細な濁質をさらに除去することができる優れた濾過特性の海水淡水化前処理装置を提供することができる。
請求項10に記載の発明は、
請求項8または請求項9に記載の海水淡水化前処理装置と、
逆浸透膜を用いた脱塩処理装置と
を有することを特徴とする海水淡水化装置である。
優れた濾過特性の海水淡水化前処理装置を用いることにより、充分に有機物が除去された原水を供給することができるため、逆浸透膜を用いた脱塩処理装置で、長時間に亘って、脱塩処理を行った場合でも、RO膜にファウリングが発生することが抑制された海水淡水化装置を提供することができる。
請求項11に記載の発明は、
請求項8または請求項9に記載の海水淡水化前処理装置を用いて濾過された原水を、
逆浸透膜法を用いて脱塩処理すること
を特徴とする海水淡水化方法である。
充分に有機物が除去された原水に対して脱塩処理を行うため、長時間に亘って、脱塩処理を行った場合でも、RO膜にファウリングが発生することが抑制される。
本発明によれば、高い除去率でTEPの除去を行いながらも、高い流束を維持して、圧力を上げることなく、充分な量の原水をコンスタントにRO膜に供給することができる。
本実施の形態の分離膜を説明する図であり、(a)は分離膜を平面的に見た模式図、(b)は結節部と細繊維の構造によりゼリー状の対象物Mを補足する様子を示す模式図である。 本発明の分離膜を用いた前処理装置を備える海水淡水化装置の構成を示すブロック図である。
以下、図面を用いて本発明を実施の形態に基づいて説明する。
1.分離膜
はじめに、本実施の形態の海水淡水化前処理用分離膜について説明する。図1は本実施の形態の分離膜を説明する図である。図1(a)は当該分離膜を平面的に見た模式図である。
本実施の形態に係る分離膜は、PTFE製の多孔膜であって、図1(a)に示すように、多数の結節部1と、結節部1同士を繋ぐ太さが1μm以下の多数の細繊維(フィブリル)3から構成されており、各結節部1の間に多数の細孔2が形成されている。
図1(b)は結節部1と細繊維3の構造によりゼリー状の対象物Mを補足する様子を示す模式図である。細繊維3は、平面方向および厚さ方向に不規則に入り組んだ状態で存在しているため、細孔2の孔径が大きくても、膜の厚さ方向全体を通して糖類を主成分とするゼリー状のカーボンを確実に捕捉することができる。ゼリー状のカーボンを除去することにより、原水中の全カーボン(TOC)が減少し、中でも粒状カーボン(POC)が減少する。これにより、例えば、5m/dと、従来の1.5m/d程度の分離膜に比べて高流束を維持しながら、高い除去率で糖類を濾過することができる。
2.流束の測定
流束は、一定流束で濾過を行い、初期30分の平均膜間差圧P1と、120分経過以降30分間の平均膜間差圧P2との間で、P2≦1.5×P1を満足することができる流束の最高値を求め、標準流束Aとする。
3.除去率の測定
次に、除去率の測定方法について説明する。除去率は、一般的には糖類除去率で評価されるが、測定の簡便さの観点から、糖類除去率に替えて、粒状カーボン除去率で評価することもできる。
(1)糖類除去率
糖類除去率は、
糖類除去率=1−濾過水中の糖類量/原水中の糖類量
で表され、糖分分析により濾過水中の糖類量および原水中の糖類量を測定する。
具体的には、糖分析計、例えば、電気化学検出器を備える日本ダイオネクス社製の糖分析計ICS−3000を用いて、水中の各種糖を定量分析し、その総和をppmで表す。
(2)粒状カーボン除去率
粒状カーボン除去率は、
粒状カーボン除去率=1−濾過水中のPOC/原水中のPOC
で表され、濾過水中および原水中のPOCは、以下の手順で算定される。
イ.試料(原水および濾過水)のTOCをTOC計で測定する。
ロ.試料を孔径0.1μmのフィルタで濾過する(これにより、POCが100%除去
され、濾過水にはDOCのみが残る。)
ハ.濾過水中に含まれるDOCをTOC計で測定する。
ニ.測定したTOCとDOCから
POC=TOC−DOC
によりPOCを算定する。
上記において、TOCは、原水中に存在する有機化合物中の全炭素量(全有機炭素、Total Organic Carbon)を示し、DOCは、濾過水中に存在する有機化合物中の炭素量(溶存有機炭素、Dissolved Organic Carbon)を示し、POCは、除去された粒状カーボン(懸濁体有機炭素、Particulate Organic Carbon)を示す。
なお、TOCは、燃焼酸化非分散赤外線吸収方式により測定される。具体的には、白金触媒を使い高温で高純度の空気または酸素で有機物を燃焼させる。燃焼で発生した二酸化炭素濃度をガス分析計で測定し、TOCを測定する。TOC計としては、例えば島津製作所社製、TOC−Vcシリーズを用いる。
4.海水淡水化装置
次に、海水淡水化装置について説明する。図2に示す海水淡水化装置は、前処理装置11と前処理した海水を脱塩する脱塩装置10とから構成されている。図中の矢印は処理対象である水の流れを表し、前処理装置11の前段にはポンプが配置されている。
(1)前処理装置
前処理装置11は、前記した構成の分離膜を備えている。前述の分離膜のみでの1段濾過で構成しても良く、また、前記した構成の分離膜を備えた第1の前処理装置と、UF膜による限外濾過やMF膜による精密濾過を行う第2の前処理装置との2段濾過として前処理装置を構成してもよい。1段濾過でも充分糖類除去の効果があり、前処理装置全体の膜面積を少なくすることができる点で効果的であるが、2段濾過にすることでさらに他の除去対象物を含めた濾過の程度を向上させることができる。
(2)脱塩装置
脱塩装置10は、孔径が1〜2nm程度の逆浸透膜を備えている。脱塩装置10は、逆浸透膜がスパイラル型やチューブラー型に構成されたものであってもよいし、中空糸膜から構成されたものであってもよいが、大量の海水を処理するための構造とすることが必要である。
上記のように構成された海水淡水化装置は、まず、海水を前処理装置11で上記した分離膜に通すことにより前処理して、海水中の有機濁質や無機固形物を濾過して除去する。次いで、前処理装置11で有機濁質や無機固形物を除去した海水を、脱塩装置10に通して脱塩し、淡水を得る。
長期間の運転により、前処理装置11や脱塩装置10の能力が低下したような場合には、逆洗して能力を戻し、くり返し海水の脱塩処理に使用することができる。
本発明の分離膜を用いた海水淡水化の前処理装置11は、上記した分離膜を通すことにより、海水中の有機濁質や無機固形物を濾過して除去する。このため、脱塩装置での目詰まりを効果的に防ぐことができ、脱塩装置を小型化することができると共に、脱塩コストを低減することができる。
以下、本発明の分離膜を用いた前処理装置を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
本実施例では、粒状カーボン除去率を用いて、分離膜の評価を行っている。
1.濾過
海水を原水として本発明の分離膜を備えた親水TT方式の前処理装置を用いて濾過した。ここで、親水TT方式とは、本発明に使用するフィブリル構造を有した膜を用いた処理方式を命名したものであり、表面に親水ポリマーを架橋固定して親水化加工した膜(PTFE製LF膜)を「親水TT膜」と呼び、TTはTEP Trapの頭文字から命名されたものである。後述する「疎水TT方式」は、親水化加工を施さない疎水性の膜を用いた場合(アルコールによる親水化処理は最初に行う)の方式を呼ぶ。
(1)中空糸モジュール
フィブリル構造を有するPTFE製の中空糸膜(ポアフロン(登録商標) タイプ:TBW−2311−200)を設けた中空糸膜モジュールを用いた。この中空糸膜モジュールの詳細は以下の通りである。
標準流束:10m/d
中空糸膜:本数 360本
有効長 1000mm
中空糸外径 2.3mm
中空糸内径 1.1mm
中空糸膜厚さ 600μm
孔径 2.0μm(平均の粒子阻止率90%以上)
気孔率 70%
ここで、気孔率=100×{1−(中空糸樹脂体積cc)/中空糸嵩体積cc)}
中空糸樹脂体積=中空糸重量g/PTFE密度
中空糸嵩体積=中空糸断面積cm×長さcm
(2)濾過条件
圧力:50kPaの圧力の下で濾過を行った。
2.流束および除去率の測定
(1)測定方法
イ.流束の測定
一定時間にメスシリンダに溜まる濾過水量により流束を測定した。
ロ.粒状カーボン除去率の測定
燃焼触媒酸化方式のTOC計(全有機体炭素計)、島津製作所社製、タイプTOC−Vcを用いて粒状カーボン除去率を測定した。なお、参考としてシリカ、アルミニウム、鉄についても分析を行った。
(2)測定結果
イ.流束
流束は、10m/dであった。
ロ.除去率
測定結果を表1に示す。
Figure 0005633540
表1より、POCは0.23ppmから0ppmに除去されている、即ち、粒状カーボン除去率1.0で除去されていることが分った。なお、シリカ、アルミニウム、鉄についても除去されていることが確認された。
以上より、本発明の海水淡水化前処理用分離膜を用いると、流束を高くすることができ、さらに、除去率も高くできることが分かる。
(実施例2)
本実施例では、糖類除去率を用いて、分離膜の評価を行っている。
1.濾過
静岡県静岡市沿岸の海水を原水として本発明の分離膜を備えた親水TT方式および疎水TT方式の前処理装置を用いて濾過した。なお、比較のため2μmメッシュの金網を用いて濾過した。以下の測定以外は実施例1と同様である。
2.測定
(1)糖類除去率の測定
糖分分析によりTOCおよびガラクトース、グルコースについて除去率の測定を行った。具体的には以下の手順で分析を行った。
a.試料の調整
試料980mL(ミリリットル)を数回に分けて凍結乾燥を行い、水を用いて洗い込み正確に100mLとした。
b.加水分解
調整した試料1mLと4mol/Lトリフルオロ酢酸1mLを混合し、減圧封管後、100℃で3時間加熱し、加水分解を行った。
室温まで放冷後、遠心エバポレータにて溶剤を留去し、水1mLを正確に加えて超音波を照射した。
この溶液を、イオン交換樹脂入りフィルターユニット(0.45μm)に入れ、1分間遠心分離(10000rpm)を行い、試料溶液とした。
c.標準溶液調整
アラビノース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、およびラムノース、各々10mgに水を加えて正確に50mLとした。この溶液5mLを正確にとり、水を加えて正確に50mLとし、標準溶液とした。標準溶液を水で正確に希釈し、標準溶液1(各約0.2μg/mL)、標準溶液2(各約1μg/mL)、標準溶液3(各約5μg/mL)を調整した。
d.測定条件
糖分析計 :日本ダイオネクス製 ICS−3000
検出器 :電気化学検出器
カラム :CarboPacPA10(4mmI.D×250mm)
カラム温度:25℃付近一定温度
移動相A:10mmol/L水酸化ナトリウム溶液
移動相B:200mmol/L水酸化ナトリウム溶液
グラジエント条件は、表2に示す。
Figure 0005633540
(2)除去率の測定結果
表3に結果を示す。
Figure 0005633540
表3より、糖類除去率は、以下のように計算され、金網に比べてガラクトースおよびグルコースが良く除去されていることが分かる。
糖類除去率B = ( 1 − 濾過水中の糖類量 / 原水中の糖類量 )
海水中の糖類:0.021+0.031=0.052ppm
親水TT濾過液中:0.012+0.022=0.034ppm
疎水TT濾過液中:0.006+0.012=0.018ppm
よって、
親水TTの糖類除去率B=(1−0.034/0.052)=0.34
疎水TTの糖類除去率B=(1−0.018/0.052)=0.65
このように、本発明によれば、有機濁質を高効率で除去することができ、脱塩装置の目詰まりを長期に防ぐことができ、コストを低減することができる。また、親水TT方式に比べて疎水TT方式ではその効果が大きいことが分かる。
以上本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
1 結節部
2 細孔
3 細繊維
10 脱塩装置
11 前処理装置

Claims (10)

  1. 逆浸透膜を用いた海水淡水化の前処理に用いられる海水淡水化前処理用分離膜であって、
    島状に分布する樹脂の塊により形成された孔と、この樹脂の塊間に微細繊維が入り組んだフィブリル構造とを有し、前記孔の孔径が1μm以上であり、
    一定流束で濾過を行い、初期30分の平均膜間差圧P1と、120分経過以降30分間の平均膜間差圧P2との間で、P2≦1.5×P1を満足することができる流束の最高値として定義される標準流束Aが、2m/d以上であると共に、
    下式で示される糖類除去率Bが、0.3以上である
    ことを特徴とする海水淡水化前処理用分離膜。
    糖類除去率B=(1−濾過水中の糖類量/原水中の糖類量))
  2. 前記糖類除去率Bが0.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の海水淡水化前処理用分離膜。
  3. 逆浸透膜を用いた海水淡水化の前処理に用いられる海水淡水化前処理用分離膜であって、
    島状に分布する樹脂の塊により形成された孔と、この樹脂の塊間に微細繊維が入り組んだフィブリル構造とを有し、前記孔の孔径が1μm以上であり、
    一定流束で濾過を行い、初期30分の平均膜間差圧P1と、120分経過以降30分間の平均膜間差圧P2との間で、P2≦1.5×P1を満足することができる流束の最高値として定義される標準流束Aが、2m/d以上であると共に、
    下式で示される粒状カーボン除去率Cが、0.3以上である
    ことを特徴とする海水淡水化前処理用分離膜。
    粒状カーボン除去率C=(1−濾過水中のPOC/原水中のPOC)
    但し、POC:懸濁体有機炭素量(全有機炭素量と溶存有機炭素量との差)
  4. 前記粒状カーボン除去率Cが0.5以上であることを特徴とする請求項3に記載の海水淡水化前処理用分離膜。
  5. 前記海水淡水化前処理用分離膜が、ポリテトラフルオロエチレン製であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜。
  6. 前記海水淡水化前処理用分離膜が、親水化加工されてないことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜。
  7. 請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜が濾過膜として用いられていることを特徴とする海水淡水化前処理装置。
  8. 請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の海水淡水化前処理用分離膜を用いた前処理手段の後に、精密濾過膜または限外濾過膜を用いた前処理手段が設けられていることを特徴とする海水淡水化前処理装置。
  9. 請求項7または請求項8に記載の海水淡水化前処理装置と、
    逆浸透膜を用いた脱塩処理装置と
    を有することを特徴とする海水淡水化装置。
  10. 請求項7または請求項8に記載の海水淡水化前処理装置を用いて濾過された原水を、逆浸透膜法を用いて脱塩処理することを特徴とする海水淡水化方法。
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