発明者らは、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる軽水炉の実現を図るために、様々な検討を行なった。この結果、(1)炉心内に存在して超ウラン核種を含む核燃料物質を有する核燃料物質領域であって高さが20cm〜250cmの範囲にある核燃料物質領域の上方に、中性子吸収部材を配置する、(2)核燃料物質領域の上方に形成された長さが400mm〜2500mmの範囲内に存在するプレナムの外径を、3mm以上で核燃料物質領域での燃料棒の外径よりも小さくする、及び(3)下部燃料領域の全核燃料物質に占める核分裂性プルトニウム(以下、核分裂性Puという)の割合を、上部燃料領域の全核燃料物質に占める核分裂性Puの割合よりも大きくする、のいずれかの構成を有する炉心において、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができることが分かった。
さらに、発明者らが、超ウラン核種を含む核燃料物質の多重リサイクルについても、合せて検討した。この結果、(4)超ウラン核種のリサイクルの回数が異なっている複数の燃料集合体のうち、リサイクルの回数が最も少ない超ウラン核種を含む複数の燃料集合体を炉心の中央部に配置し、この中央部と炉心最外層領域の間において、リサイクル回数の多い超ウラン核種を含む燃料集合体ほど、炉心最外層領域側に配置することによって、使用済燃料集合体の体数を低減できることを新たに見出した。なお、核燃料物質は、核分裂性物質(U−235及びPu−239等)、及び親物質(Th−232及びU−238等)を含んでいる。
安全余裕については、安全性のレベルを、以下の三段階に分けて取り扱っている。レベル1は設計基準事故であり、レベル2は第1設計基準外事故であり、レベル3は第2設計基準外事故である。
設計基準事故は、安全審査の対象となっている事象(異常な過渡変化および事故)である。この設計基準事故に対しては、原子炉固有の安全性及び通常の安全系が作動することにより、「異常な過渡変化」については燃料棒がバーンアウトしない範囲にMCPRの低下が収まるように設計することが求められる。燃料棒は再使用可能である。「事故」では、燃料棒の被覆管最高温度が1200度以下、燃料棒がその形状を維持し、燃料棒の冷却を継続できる範囲に収まるように設計することが求められる。
第1設計基準外事故は、現在安全審査の対象外であるが、軽水炉では設計の際に考慮している事象である。この設計基準外事故において、最も厳しいと考えられている事故は、炉心に冷却材を供給する冷却材供給ポンプ(再循環系ポンプまたはインターナルポンプ)が全数停止し、その際、全制御棒が作動しない事故が同時に起こる複合事象である。この複合事象に対しては、非常用炉心冷却系の高圧炉心注水ポンプ(容量は冷却材供給ポンプの合計容量の5%程度)が作動して、BWRの固有の安全性により負の反応度係数で、高圧注水ポンプの流量で、燃料棒が冷却可能な出力まで自動的に低下するよう設計することが求められる。
第2設計基準外事故は、事故のシナリオとは無関係に、炉心全体が100%ボイド状態になることを仮定する事象である。この設計基準外事故に対しては、正の反応度が投入されないように設計することが求められる。
上記の(1)はレベル3(第2設計基準外事故)の安全余裕を実現した軽水炉の炉心である。上記の(2)はレベル2(第1設計基準外事故)の安全余裕を実現した軽水炉の炉心である。
上記した(1)〜(4)の各構成を、以下に詳細に説明する。上記した(1)〜(4)の構成のそれぞれは、核燃料の再処理によって使用済核燃料から回収した超ウラン核種を、新たな燃料集合体の各燃料棒に充填してリサイクルする軽水炉に適用される。
この軽水炉のうち、増殖炉としての性能を向上させた軽水炉の炉心について説明する。例えば、核分裂性Puの残存比が1以上になる沸騰水型増殖炉は、特許3428150号公報で初めて実現された。軽水炉で増殖炉を実現するためには、炉心内の中性子のエネルギーを高く保つ必要がある。しかし、高速増殖炉で、通常、冷却材として使用されるNaの質量に比べて、軽水炉で冷却材として用いられる水を形成している水素原子の質量が小さいため、軽水増殖炉では、中性子が一回の衝突で失うエネルギーが大きく、核燃料物資の単位体積あたりの冷却材の割合を小さくする必要がある。全てのTRU中に占めるPu−239の割合が60%よりも大きな範囲にある核燃料物質でリサイクルを行った場合には、(a)炉心内の核燃料物質に対する冷却能力が不足する、(b)燃料集合体の燃焼度が低くなって燃料経済性が損なわれる、及び(c)燃料集合体を構成する燃料棒間隙が狭くなりすぎて燃料集合体の製作が困難になる、等の不都合が生じる。全てのTRU中に占めるPu−239の割合が40%未満になっている核燃料物質でリサイクルした場合には、(d)核分裂断面積が大きい奇数核種の割合が、核分裂断面積の小さい偶数核種のそれに比べて小さくなって、核分裂性Puの残存比1以上を実現することが困難になる、及び(e)臨界状態を保つために炉心が大きくなって安全性の指標であるボイド係数が悪化する、等の不都合が生じる。したがって、軽水増殖炉では、全TRU中に含まれるPu−239の割合を40%以上60%以下の範囲内にする必要がある。
また、全てのTRU中に占めるPu−240の割合が35%より小さな範囲にある核燃料物質でリサイクルを行った場合には、上記した(a)、(b)及び(c)等の不都合が生じる。全てのTRU中に占めるPu−240の割合が45%より大きくなっている核燃料物質でリサイクルした場合には、(d)及び(e)等の不都合が生じる。したがって、軽水増殖炉では、全TRU中に含まれるPu−240の割合を35%以上45%以下の範囲内にする必要がある。
次に、不要になったときに長寿命放射性廃棄物として処分することが検討されているTRUを核燃料物質として利用しつつ最後に一つの炉心分のTRU以外のTRUをすべて核分裂させることを実現する軽水炉(TRU消滅炉)の炉心について説明する。発明者らは、TRUが不要になった場合には、TRUを核分裂させて減少させ、減少量に応じて多くの炉心に分散されていたTRUを集約し、最後は一つの炉心にのみTRUが残されるようにすることを考えた。このとき、TRUが超寿命放射性廃棄物になることを防ぐために、全TRU中に含まれるPu−239の割合が40%以上の状態で核燃料物質をリサイクルする場合には、TRUが減少する速度が遅くTRUを一つの炉心に集約するのに時間がかかりすぎる。また、全TRU中に占めるPu−239の割合が5%未満の核燃料物質を用いてリサイクルした場合には炉心が大きくなってボイド係数が悪化する。したがって、TRU消滅炉では、全TRU中に含まれるPu−239の割合を5%以上40%未満の範囲にする必要がある。
また、TRUが超寿命廃棄物になることを防ぐために、全TRU中に含まれるPu−240の割合が35%以下の状態で核燃料物質をリサイクルする場合には、TRUが減少する速度が遅くTRUを一つの炉心に集約するのに時間がかかりすぎる。また、全TRU中に占めるPu−240の割合が45%以上の核燃料物質を用いてリサイクルした場合には炉心が大きくなってボイド係数が悪化する。したがって、TRU消滅炉では、全TRU中に含まれるPu−240の割合を35%以上45%以下の範囲にする必要がある。
ここで、軽水炉の炉心の一種であるパッフェ炉心の概要について説明する。パッフェ炉心は、装荷される新燃料集合体(燃焼度がゼロ)として、下端部から上端部に向かって下部ブランケット領域、下部燃料領域、内部ブランケット領域、上部燃料領域及び上部ブランケット領域をこの順で配置した燃料集合体を用いている。このため、パッフェ炉心も、核燃料物質領域の下端から核燃料物質領域の上端に向かって下部ブランケット領域、下部燃料領域、内部ブランケット領域、上部燃料領域及び上部ブランケット領域が形成される。下部燃料領域及び上部燃料領域は、核分裂性物質を含むTRU酸化物燃料(またはTRU酸化物とウラン酸化物の混合酸化物燃料)を有する。下部ブランケット領域、内部ブランケット領域及び上部ブランケット領域は、核分裂性物質の含有量が少なくU−238等の親物質の含有量が多いウラン酸化物燃料を有する。
軽水炉の炉心に装荷された燃料集合体に含まれる各燃料棒は、内部にプレナムを形成している。このプレナムは、燃料棒内に充填された核燃料物質に含まれている核分裂性物質の核分裂によって発生した揮発性核分裂生成物(FPガス)を蓄積し、燃料棒の内圧上昇を抑制する。
前述した(1)の構成について説明する。
BWRの炉心に装荷された燃料集合体を冷却する冷却水(冷却材)は、5℃〜10℃程度のサブクール水として下方より炉心に流入し、燃料集合体を冷却しながら飽和水、及び蒸気及び水を含む二相流になる。この冷却水は、炉心出口で60%〜90%程度のボイド体積率を有する二相流になっている。したがって、中性子の減速に大きく寄与する水素原子の炉心軸方向の分布は、炉心の下端から炉心の上端に向うにしたがって減少する。このようなBWRは、何らかの原因で炉心の出力の上昇及び炉心流量の低下が生じ、燃料棒の温度が上昇して燃料健全性が損なわれる恐れがある場合においても、炉心出口のボイド率が上昇して炉心上方への中性子漏洩量が増加して負の反応度が炉心に投入され、自動的に原子炉出力が低下して燃料棒の健全性が維持される特徴を有している。
発明者らは、上記した特徴を有するBWRにおいて、更なる安全余裕の向上策を検討した。この検討においては、前述した第2設計基準外事故を考慮した。この検討の概要について説明する。
発明者らは、安全余裕の向上策の検討に際し、検討対象となる軽水炉の炉心を、高さが20cm〜250cmの範囲にあって核燃料再処理で得られたTRUを含む核燃料物質領域を有しているBWRの炉心とした。TRUを含んで高さが20cm〜250cmの範囲にある核燃料物質領域を形成しているBWRでは、BWRの運転中においても、核燃料物質領域の上方及び下方に漏洩する中性子の量が多くなる。
核燃料物質領域の高さが20cm未満になると、稠密に燃料棒が配置された炉心であっても、核燃料物質の装荷量が少なくなり、定格出力運転を継続するにあたって燃料集合体を頻繁に交換する必要が生じる。このため、原子力プラントの稼動率が低下し、経済性が損なわれる。核燃料物質領域の高さが250cmより大きくなった場合には、核燃料物質領域から漏洩する中性子が少なくなり、核燃料物質領域の上方に中性子吸収部材を配置しても、炉心全体が100%の状態になった場合には核燃料物質領域に正の反応度が投入される。したがって、核燃料物質領域の高さを、20cm〜250cmの範囲にする。
仮に何らかの原因で炉心全体が100%ボイドの状態になったとき、BWR固有の安全機能である自己制御機能が阻害される。この自己制御機能は、何らかの原因で炉心流量が急激に低下したとき、核燃料物質領域内のボイド率が急激に上昇して核燃料物質領域の上方に形成される反射体領域における二相流のボイド率も増大し、核燃料物質領域からの中性子漏洩率が増加して核燃料物質領域の中性子実効増倍率の減少することにより、原子炉出力を自動的に低下させる機能である。
核燃料物質領域から上方に向かって漏洩した中性子の一部は、燃料棒のプレナムを画定する構造部材(現在の燃料棒では、ジルコニウム合金製の被覆管の一部)で反射されて核燃料物質領域に戻される。仮に炉心全体が100%ボイドになると、プレナムを画定する構造部材に対する、隣接している燃料棒のそれぞれのプレナム間に存在する二相流の割合が低下し、核燃料物質領域から上方に漏洩する中性子の量も増大する。このため、プレナムを画定する構造部材に反射して核燃料物質領域に戻される中性子の量が増大する。しかし、核燃料物質領域内のボイド率が定格出力運転時の値から上記の100%ボイド状態なったときの無限中性子増倍率の増加量に比べて、核燃料物質領域からの中性子漏洩量の増加量が小さいため、炉心、具体的には核燃料物質領域に正の反応度が投入される。
発明者らは、種々検討した結果、核燃料物質領域の上方に中性子吸収材(例えば、B4C及びHf等)を配置することにより、核燃料物質領域から上方へ漏洩した中性子がその中性子吸収部材によって吸収されるので、仮に炉心全体が100%ボイドになった状態でも炉心に正の反応度が入らないことを新たに確認した。上記のような中性子吸収材の配置により、正の反応度の投入が阻止できるので、BWRの固有の安全性に対する余裕が向上し、結果として、BWRの安全余裕が向上する。したがって、(1)の構成を軽水炉の炉心に適用することによって、TRUの増殖比を保ちつつ多重事故時においても安全余裕を向上できるという新たな知見が発明者らによって見出された。
以上に述べた検討結果を詳細に説明する。
発明者らが軽水増殖炉の炉心を対象に行った検討結果を以下に説明する。検討対象とした軽水増殖炉は、例えば、電気出力が1350MWで、炉心に装荷されている720体の燃料集合体及び燃料集合体当たり271本の燃料棒を有する増殖比1.01のBWR炉心である。各燃料集合体は、核燃料再処理で得られた、TRUを含む核燃料物質を有しており、且つ燃焼度ゼロの時点で含まれる全てのTRU中に占めるPu−239の割合を40%〜60%の範囲内の値にしている。
発明者らは、上記の(1)の構成に関する知見に基づいて、燃料集合体において、中性子吸収部材(例えば、B4C及びHf等を含む)を、燃料集合体の軸方向においてプレナムの位置で各燃料棒相互間に配置した(例えば、図18、図21及び図22等を参照)。各燃料棒において、プレナムは燃料有効長(核燃料物質領域)の上端よりも上方に位置している。このため、中性子吸収材は、核燃料物質領域より上方で、各燃料棒の上端部を保持する、燃料集合体の上部燃料支持部材(例えば、上部タイプレート)の下端よりも下方で、プレナム相互間に配置される。B4Cを用いる場合には、例えば、B4Cを密封容器内に充填して構成された中性子吸収部材をプレナム相互間に配置する。Hfを用いる場合には、金属であるHfを、例えば、板状又は棒状にし、中性子吸収部材としてプレナム相互間に配置する。
BWRの運転時では、燃料集合体内で、プレナムの位置で燃料棒相互間に気液二相流が流れる。BWRの運転停止時においても、炉心内に冷却水が存在する。核燃料物質領域よりも上方で燃料棒間に存在する二相流または冷却水が中性子の反射体として機能する。このため、中性子吸収材は、核燃料物質領域の上方で反射体内に配置されているとも言える。核燃料物質領域よりも上方で二相流または冷却水が存在する領域を反射体領域という。
発明者らは、中性子吸収部材の、プレナムの位置における燃料棒相互間への配置について検討した。図1は、核燃料物質領域の上端と、プレナム相互間に配置した中性子吸収部材の下端との間の距離(核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離)による、仮に炉心全体が100%ボイドになった状態における炉心への投入反応度及びボイド係数のそれぞれの変化を示している。特性Aが核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離と、ボイド係数の関係を示し、特性Bがその距離と投入反応度の関係を示している。核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離は、炉心軸方向における距離である。特性A,Bは、図18に示すように各燃料棒に隣接して長さ500mmの中性子吸収部材を配置した燃料集合体を装荷した軽水増殖炉の炉心を対象に得られた特性である。
中性子吸収部材の下端が核燃料物質領域の上端に近づきすぎると、BWRの運転時には、中性子吸収部材の影響により中性子を核燃料物質領域に反射させる効果が小さくなる。この結果、核燃料物質領域の実効中性子増倍率が低下し、この低下を補償するために核燃料物質領域の高さを高くする必要があり、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときに炉心への投入反応度が大きくなる。核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離が230mmより短くなると、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったとき、炉心に正の反応度が投入される。このため、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときに、炉心における正の反応度の投入を避けるために、核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離は230mm以上にしなければならない。
また、特性Bによれば、核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離が短くなると、核燃料物質領域と中性子吸収部材の間での二相流領域(反射体領域)の体積が小さくなって、炉心ボイド率の変化による実効中性子増倍率の変化が小さくなってボイド係数が悪化する。核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離が長くなりすぎると、反射体領域の核燃料物質領域への影響が小さくなる。このため、反射体領域に漏洩した中性子が再び核燃料物質領域に戻る確率が高くなって、ボイド係数が悪化する。核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離が500mmを超えると、ボイド係数が−1×10−4%Δk/k/%void以下となり、炉心過渡特性上不具合(例えば、MCPRの制約条件を満足することができなくなる事象)が生じる可能性がある。以上のことから、好ましくは、炉心軸方向における核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離を、230mm〜500mmの範囲にすれば良い。
なお、BWRの定格運転時にも、反射体領域に配置した中性子吸収部材は核燃料物質領域から上方へ漏洩する中性子を吸収する。中性子吸収部材を核燃料物質領域の上端に近づきすぎると、中性子吸収部材の中性子吸収機能により、原子炉の定格運転時において、反射体領域から核燃料物質領域に戻される中性子の量が少なくなる。このため、核燃料物質領域の上端部での原子炉出力が減少する。核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離を230mm以上にすることによって、このような問題が発生しなくなる。
次に、発明者らは、中性子吸収部材の、燃料集合体の軸方向における長さについて検討した。中性子吸収部材の長さと、投入反応度、及び核燃料物質領域の上端と中性子吸収部材の上端の間における圧力損失の関係を図2に示す。特性Cは中性子吸収部材の長さによる投入反応度の変化を示している。この投入反応度は、特性Dは中性子吸収部材の長さによる核燃料物質領域の上端と中性子吸収部材の上端の間における圧力損失の変化を示している。特性C,Dは核燃料物質領域の上端と中性子吸収部材の上端の間の距離が300mmであるときの特性である。
中性子吸収部材の長さが20mm未満になると、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったとき、炉心に正の反応度が投入される(図2の特性C参照)。このため、中性子吸収部材の長さは20mm以上にする。中性子吸収部材の長さが700mmを超えた場合には、二相流の流動により発生する、核燃料物質領域と中性子吸収部材の間における圧力損失の増加分が、全炉心の圧力損失の20%以上になる。このような核燃料物質領域と中性子吸収部材の間における圧力損失の増大が炉心特性に与える影響を無視できなくなる。このため、中性子吸収部材の長さを700mm以下にする。
したがって、好ましくは、中性子吸収部材の長さを20mm〜700mmの範囲に設定する。
中性子吸収部材を核燃料物質領域の下方に配置してもよい。中性子吸収部材を核燃料物質領域の下方に配置した場合には、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったとき、核燃料物質領域から下方へ漏洩する中性子をその中性子吸収部材によって吸収することができる。このため、核燃料物質領域の下方に中性子吸収部材を配置することによって、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったとき、核燃料物質領域の下方に漏洩して核燃料物質領域に戻される中性子の量が非常に少なくなる。これによっても、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときに、正の反応度が炉心に投入されない。
核燃料物質領域の下方に中性子吸収部材を配置するには、燃料集合体に含まれる各燃料棒の下端部に中性子吸収部材を配置すれば良い。具体的には、燃料棒の被覆管内でその下端部に中性子吸収材(例えば、B4C及びHf等)を充填する(例えば、図17及び図27等を参照)。TRUを含む複数の燃料ペレットが、その中性子吸収材充填領域の上方で被覆管内に充填される。燃料棒下端部の、中性子吸収材充填領域が存在する部分での外径は、中性子吸収材充填領域より上方での燃料棒の外径と同じである。中性子吸収材充填領域の長さは、10mm〜150mmの範囲内にある。核燃料物質領域の下方に漏洩した中性子の、核燃料物質領域に戻る量を最も少なくするためには、中性子吸収材充填領域の上端を核燃料物質領域の下端に接触させることが好ましい。しかしながら、中性子吸収材充填領域の上端と核燃料物質領域の下端を最大5mm離しても、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときでも、炉心に正の反応度が投入されることを回避できる。核燃料物質領域の下方に配置した中性子吸収材充填領域の上端は核燃料物質領域の下端から下方に離すことによって、中性子吸収材充填領域で中性子が吸収されることによる核燃料物質領域の下端部における出力への悪影響を低減できる。中性子吸収材充填領域は、下方から炉心に挿入される制御棒とは別に設けられる。
BWRでは、制御棒が、炉心の下方から、炉心に装荷された燃料集合体間に挿入される。このため、核燃料物質領域から下方では、制御棒以外に、中性子吸収材が配置される。核燃料物質領域の下方に中性子吸収部材を配置することは、核燃料物質領域の下方に漏洩した中性子が核燃料物質領域に戻されることを著しく抑制できる。
次に、R.TAKEDA et al., Proc. of International Conference on Advanced Nuclear Fuel Cycles and Systems. GLOBAL ’07 Boise, USA, September, 2007, P.1725に記載されているTRU消滅炉の炉心を対象とした発明者らの検討結果について説明する。検討の対象としたTRU消滅炉の炉心は、例えば、電気出力が1350MWで、燃料集合体1体当たり397本の燃料棒を有する720体の燃料集合体が装荷されているBWRの炉心である。
TRUを減少させる目的でTRUのリサイクルを繰り返す場合、すなわち、核燃料再処理で得られた、TRUを含む核燃料物質を有して、燃焼度ゼロの時点で含まれる全TRU中に占めるPu−239の割合が5%以上40%未満の範囲内にある燃料集合体の炉心への装荷を、運転サイクルごとに繰り返す場合は、増殖比1の炉心に比べて、高速中性子束による反応率割合が大きいので、核燃料物質領域の上方に配置する中性子吸収部材は、増殖比1近傍の炉心よりも太くしなければならない場合がある。この場合は、当然、燃料棒のプレナム部分の外径は、燃料棒の、プレナムよりも下方の部分での外径よりも細くなる。しかしながら、TRU消滅炉の炉心でも、好ましくは、核燃料物質領域と中性子吸収部材との間の距離を230mm〜500mmの範囲にし、中性子吸収部材の長さを20mm〜700mmの範囲にするとよい。
TRU消滅炉の炉心においても、軽水増殖炉と同様に、核燃料物質領域の下方に中性子吸収部材(B4CまたはHf)を配置しても良い。TRU消滅炉においても、制御棒は下方より炉心に挿入される。軽水増殖炉と同様に、核燃料物質領域の下方で燃料棒の下端部に中性子吸収部材配置する場合において、中性子吸収部材による必要かつ十分な効果を得るためには、内部に中性子吸収材充填領域が形成された、燃料棒下端部の外径を、中性子吸収材充填領域よりも上方における燃料棒の外径よりも太くすることが望ましい場合がある。しかしながら、燃料集合体の圧力損失を考慮し、中性子吸収材充填領域が形成された、燃料棒下端部では、燃料棒相互間に形成される間隙の幅が1.3mm以下にならないようにする。
軽水増殖炉と同様に、中性子吸収材充填領域の長さを、10mm〜150mmの範囲内にする。中性子吸収材充填領域の上端と核燃料物質領域の下端は最大で5mm離すことも可能である。
発明者らは、仮に何らかの原因で炉心全体が100%ボイドの状態になったときにおける軽水炉の炉心の様々な特性を検討した。まず、核燃料物質領域の軸方向における、軸方向の出力分布及び軸方向のボイド率分布を、図3を用いて説明する。図3において、特性Eは、原子炉の定格出力運転時での炉心軸方向の平均出力分布を示している。特性Fは、設計基準外事故として最も厳しい複合事象の1つである、定格出力運転時に仮に何らかの原因で炉心全体が100%ボイドの状態になったときにおける炉心軸方向の平均出力分布を示している。特性Gは、特性Eの出力分布に対応した炉心軸方向での平均ボイド率分布を示している。図3に示された各特性はTRU消滅炉を対象にして得たものであるが、軽水増殖炉においても図3に示す各特性と同様な傾向を示すそれぞれの特性を得ることができた。
図3に基づけば、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときに、炉心軸方向の出力分布が核燃料物質領域の下端側にシフトし、核燃料物質領域の下方に存在する下部反射体領域が、その事故時に発生した余剰中性子のダンプタンクの役割を果たしていることが分る。下部反射体領域は、核燃料物質領域の下方に存在し、核燃料物質領域の下端よりも下方で燃料棒相互間に形成された間隙、及び下部タイプレート内の、下部タイプレートの燃料保持部よりも下方の冷却水が存在する領域である。
全制御棒が核燃料物質領域から全引き抜きされた状態、すなわち、核燃料物質領域の下方でこの領域の下端付近に制御棒の中性子吸収材充填領域の上端が配置された状態で下部ブランケット領域を有しない核燃料物質領域において、仮に何らかの原因で炉心全体が100%ボイドの状態になったときの炉心軸方向の熱中性子束分布が、図4において特性Hで表される。図4の特性Jは、燃料棒内で、核分裂物質領域より下方の部分に中性子吸収材を配置し、中性子吸収材を充填した部分での燃料棒の外径が中性子吸収材を充填した部分より上方での燃料棒の外径と同じである場合での炉心軸方向の熱中性子束分布を示している。図4の特性Kは、燃料棒内で、核分裂物質領域より下方の部分に中性子吸収材を配置し、中性子吸収材を充填した部分での燃料棒の外径が中性子吸収材を充填した部分より上方での燃料棒の外径よりも大きい場合での炉心軸方向の熱中性子束分布を示している。特性J及びKは、いずれも、特性Hが得られた制御棒の引抜き状態及び核燃料物質領域で、仮に何らかの原因で炉心全体が100%ボイドの状態になったときの炉心軸方向の熱中性子束分布を表している。特性J及びKの熱中性子束分布が特性Hのそれよりも著しく低下しているので、核燃料物質領域の下方に中性子吸収材を配置することにより、仮に何らかの原因で炉心全体が100%ボイドの状態になったときにも、核燃料物質領域よりも下方に存在する下部反射体領域が中性子のダンプタンクの役割を果たしている。このため、余剰反応度の発生を未然に防ぐことができる。
燃料集合体格子の横断面積に対する、核燃料物質領域の下方での中性子吸収材充填領域の横断面積の割合と、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときに炉心に投入される反応度との関係を、図5に示す。その割合が35%以上になると、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときでも炉心に正の反応度が投入されなくなる。このため、核燃料再処理で得られた、TRUを含む核燃料物質を有し、且つ燃焼度ゼロの時点で含まれる全TRU中に占めるPu−239の割合が5%以上40%未満の範囲内にある燃料集合体が装荷された軽水炉の炉心において、安全余裕を向上させることができる。
炉心内に存在して超ウラン核種を含む核燃料物質を有する核燃料物質領域であって高さが20cm〜250cmの範囲にある核燃料物質領域の上方に、中性子吸収部材を配置したことによって、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。TRUの多重リサイクルも継続することができる。好ましくは、炉心軸方向における核燃料物質領域と中性子吸収部材の間の距離を230mm〜500mmの範囲にし、中性子吸収部材の長さを20mm〜700mmの範囲にすることが望ましい。
核燃料物質領域の上方に中性子吸収部材を配置し、さらに、核燃料物質領域の下方に、中性子吸収材充填領域を配置することによって、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったとき、炉心に投入される反応度をさらに負にすることができる。
軽水増殖炉及びTRU消滅炉も、チャンネルボックス内の単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレット(燃料棒内に充填)の横断面積の割合が55%を超えると燃料棒相互間の感激が1mm未満になるので、燃料集合体の組み立てが極めて困難になる。このため、単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレットの横断面積の割合は、55%以下にする必要がある。その面積割合が30%未満になると、燃料棒が細くなりすぎて横断面での核燃料物質の量が少なくなるので、燃料棒の長さを長くする必要があり、ボイド係数が正になる。したがって、その面積割合は30%以上にしなければならない。
さらに、発明者らは、核燃料物質領域の上方に、燃料集合体格子当たりどの程度の中性子吸収部材を配置すればよいか検討した。中性子吸収部材は、核燃料物質領域と上部燃料支持部材(例えば、上部タイプレート)の間で、燃料棒内に形成されたプレナム部に隣接して配置される。仮に何らかの原因で炉心全体が100%ボイドの状態になったときに、炉心に正の反応度が投入されないようにするためには、核燃料物質領域の上方に配置された全中性子吸収部材の横断面積の合計を、燃料集合体格子の横断面積の10%以上にする必要がある。燃料集合体格子は、炉心内に配置されたある1つの燃料集合体を、隣り合う燃料集合体間に形成される間隙(BWRでは水ギャップ)の1/2の幅で取り囲んだ環状領域、及びその1つの燃料集合体の横断面を含む領域である。燃料集合体格子の横断面積は、その環状領域の横断面積と燃料集合体の横断面積を合計した値となる。
軽水炉の運転中において、隣り合う燃料棒のそれぞれのプレナム部とプレナム部間に配置された中性子吸収部材の間を所定流量の二相流を流す必要があるため、全中性子吸収部材の横断面積の合計を、燃料集合体格子の横断面積の50%以下にしなければならない。
以上の検討結果に基づいて、全中性子吸収部材の横断面積の合計を、燃料集合体格子の横断面積の10〜50%の範囲内に設定することが好ましい。
核燃料物質領域の下方でも、制御棒の横断面積を除いて、燃料集合体内に形成された全中性子吸収材充填領域の横断面積の合計を、燃料集合体格子の横断面積の10〜50%の範囲内に設定することが好ましい。
(1)の構成に(2)の構成を加えることも可能である。すなわち、炉心内に存在して超ウラン核種を含む核燃料物質を有する核燃料物質領域であって高さが20cm〜250cmの範囲にある核燃料物質領域の上方に、中性子吸収部材を配置し、核燃料物質領域の上方に形成された長さが400mm〜2500mmの範囲内に存在するプレナムの外径を、3mm以上で核燃料物質領域での燃料棒の外径よりも小さくする。これにより、仮に炉心が100%ボイドの状態になっても核燃料物質領域に正の反応度が投入されることを避けることができ、燃料棒の健全性が増大する。プレナムの外径を、3mm以上で核燃料物質領域での燃料棒の外径よりも小さくなるので、隣接する燃料棒のプレナム相互間に配置される中性子吸収部材の量(例えば、中性子吸収部材の厚み)を増加することができる。これにより、仮に炉心が100%ボイドの状態になったとき、核燃料物質領域に投入される反応度をさらに負にすることができる。
クラスター制御棒が、炉心に装荷された燃料集合体内に設けられた複数のガイドチューブ内に炉心の上方から挿入される加圧水型原子炉(PWR)、及び制御棒が上方より炉心に挿入される高速増殖炉(FBR)においても、炉心内にTRUを含む核燃料物質領域を形成し、核燃料物質領域の上方及び下方に中性子吸収部材を配置してもよい。
前述した(2)の構成について説明する。
軽水炉の炉心、例えば、BWRの炉心に装荷された燃料集合体に含まれた燃料棒は、内部に、TRUを含む複数の燃料ペレットを収納している。この燃料ペレットからの揮発性核分裂生成物の放出率が酸化ウランペレットの場合より高くなった場合においても、燃料棒の健全性を確保しつつ、BWRの安全ポテンシャルを十分保ちながらTRUのリサイクルを続けるためには、燃料棒内に形成されたプレナムの容積を増加させ、かつボイド係数を所定の範囲に保つ必要がある。また、実用化される商用炉では、燃料経済性の観点から揮発性核分裂生成物の発生量が増大する燃料集合体の高燃焼度化が求められるので、燃料棒内のプレナムの容積を増加しなければならない。
燃料棒の上部に設けたプレナムの容積を大きくした場合には、BWR固有の安全機能である自己制御機能が阻害される。プレナムの容積が大きくなると、何らかの原因で第1設計基準外事故が生じた場合において、その自己制御機能が阻害される。
何らかの原因で第1設計基準外事故、すなわち、炉心に冷却材を供給する冷却材供給ポンプ(再循環系ポンプまたはインターナルポンプ)が全数停止し、その際、全制御棒が作動しない事故が同時に起こる複合事象が発生した場合でも、BWRの炉心の安全余裕を向上させる必要がある。
発明者らは、(1)の構成を用いないでも、第1設計基準外事故が発生したときに、軽水炉の炉心の安全余裕を向上できる安全余裕の向上策を検討した。この検討の対象に用いた軽水炉の炉心は、高さが20cm〜250cmの範囲にあって核燃料再処理で得られたTRUを含む核燃料物質領域を有しているBWRの炉心である。第1設計基準外事故が発生した場合には、非常用炉心冷却系の高圧炉心注水系が作動できるようになっている。
発明者らの検討の結果、燃料棒内のプレナムの容積を増加した場合でも、燃料棒のプレナム部の外径を、燃料棒の、プレナム部の下方の核燃料物質充填領域での外径よりも小さくすることによって、第1設計基準外事故が発生した場合に炉心に投入される反応度が小さくなるという新たな知見を見出した。この新たな知見に基づいて、発明者らは、核燃料物質領域の上方に形成された長さが400mm〜2500mmの範囲内に存在するプレナムの外径を、3mm以上で核燃料物質領域での燃料棒の外径よりも小さくすればよいとの結論に達した。
このように(2)の構成を適用することによって、第1設計基準外の複合事象が発生した場合でも、プレナムを画定する構造部材に反射されて核燃料物質充填領域に戻される、漏洩中性子の量が減少し、プレナムの容積の増大によって燃料棒の健全性が増大する。したがって、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
以上に述べた検討結果を詳細に説明する。発明者らは、核燃料再処理で得られたTRUを含む核燃料物質領域を有する軽水炉の炉心を対象に検討を行った。この炉心の核分裂性Puの増倍比が1.01である。
図6は、その検討によって得られた結果を示しており、プレナム長さに対する投入反応度の変化を示している。この投入反応度は、炉心全体がボイド状態になったときの投入反応度である。
水素の散乱断面積は、500keV以下のエネルギー領域では比較的大きいが、1Mevに近づくに従って急激に減少するため、1MeV以上の高速中性子が核燃料物質領域から反射体領域にディープ・ペネトレーションで貫いて往く。一方、燃料集合体を通過する二相流を構成する水素原子の質量は中性子とほぼ同じであるため、中性子が、水素原子との一度の衝突によって、エネルギーを大きく失う。このため、核燃料物質領域の上方に存在する上部反射体が水及びこの蒸気を含む二相流だけで構成される場合、核燃料物質領域からひとたび上部反射体に漏洩した高速中性子が、再び、核燃料物質領域に戻る確率は小さい。しかし、燃料棒内のプレナムを画定している構成部材(例えば、ジルカロイ製のチューブ)が上部反射体領域に存在する場合には、ジルカロイ製のチューブのジルコニウム原子の質量は中性子質量に比べて大きく、中性子が、ジルコニウム原子との一度の衝突によって失うエネルギーは極めて小さい。このため、中性子がジルコニウム原子と何度か衝突を繰り返す間に、核燃料物質領域に再び戻る中性子も出てくる。
図6において、特性Lは、燃料棒内に形成されるプレナムの部分の外径が、燃料棒の、プレナム部より下方の核燃料物質充填領域の部分の外径と同じ場合における、プレナム長さに対する投入反応度の変化を示している。特性Mは、燃料棒内に形成されるプレナムの部分の外径が、燃料棒の、プレナム部より下方の核燃料物質充填領域の部分の外径よりも小さい場合における、プレナム長さに対する投入反応度の変化を示している。具体的には、プレナム部の横断面積が、燃料棒の核燃料物質充填領域の部分の横断面積の半分である。
何らかの原因で炉心に冷却材を供給する冷却材供給ポンプの全数が停止し、さらに全制御棒が作動しない複合事象(第1設計基準外事故)が発生することにより、出力が上昇して燃料棒内の燃料ペレットの温度が上昇し、揮発性核分裂生成物の燃料ペレットからの放出率が増加する。さらに、燃料棒の被覆管の内圧が上昇し、被覆管と燃料ペレットの間の間隙が広くなって燃料ペレットから被覆管への熱伝達率が低下し、燃料ペレットの温度がさらに上昇する。上記の複合事象の発生は、そのような正のフィードバック状態を引き起こす。しかしながら、プレナム長さを長くしてプレナム容量を増加させることにより、そのような正のフィードバック状態の発生を防ぐことができ、燃料棒の健全性を向上できる。
図6の特性Mで示すように、燃料棒内に形成されるプレナムの部分の外径が、燃料棒の、プレナム部より下方の核燃料物質充填領域の部分の外径よりも小さい場合には、炉心全体が100%ボイドの状態になったときに、核燃料物質領域に投入される反応度が1ドル以下になる。このため、燃料棒内の、プレナムの部分の外径が、燃料棒の、核燃料物質充填領域の部分の外径よりも小さい場合には、第1設計基準外事故の複合事象が発生しても、高圧炉心注水系の作動により、炉心に注水される冷却水の流量で燃料棒が冷却可能な出力まで、出力が自動的に低下してBWRの安全性が保たれる。したがって、プレナムの部分の外径が、核燃料物質充填領域の部分の外径よりも小さくなることによって、BWRの炉心の安全余裕を向上させることができる。
燃料棒において、プレナムの部分の外径が核燃料物質充填領域の部分の外径と同じである場合にはプレナムの長さを200mm程度、プレナム部より下方の核燃料物質充填領域の部分の外径よりも小さくする場合にはプレナムの長さを200〜300mm程度にすることによって、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときでも、正の反応度の投入を避けることができる。
前述した(3)の構成について説明する。
核燃料再処理で得られたTRUを多重リサイクルすることが提案されている(特開2008−215818号公報及びR.TAKEDA et al., Proc. of International Conference on Advanced Nuclear Fuel Cycles and Systems. GLOBAL ’07 Boise, USA, September, 2007, P.1725参照)。TRUの多重リサイクルを実現するためには、様々な軽水炉(BWR及びPWR)から発生した使用済核燃料から回収した核燃料物質を使用する必要がある。
軽水炉でもBWRとPWRでは、炉心内に存在する核燃料物質に含まれた核分裂性物質が燃焼するときの中性子エネルギースペクトルが異なる。また、発生した使用済燃料集合体が、炉心から取り出されて間もない使用済燃料集合体、及び燃料貯蔵プール内で長期間に亘ってわたり貯蔵された使用済燃料集合体と様々なものがある。燃料貯蔵プール内に貯蔵された使用済燃料集合体に含まれた使用済核燃料も、使用済燃料集合体の貯蔵期間の違いにより、同位元素の核崩壊も異なっており、含まれるTRUの組成が異なっている。
このような様々な使用済核燃料から、核燃料再処理によって回収されたTRUを含む核燃料物質を用いて製造された新たな複数の燃料集合体を、一つの軽水炉の炉心に装荷しなければならない。回収された、TRUを含む核燃料物質でのTRUの組成が異なることに起因し、製造されて炉心に装荷された燃料集合体ごとの出力のばらつきが大きくなり、炉心の熱的余裕が小さくなる恐れがある。このため、軽水炉の炉心の熱的余裕を増大させることが望まれている。
発明者らは、熱的余裕が増大する軽水炉の炉心を実現するために、種々の検討を行った。この検討の結果、発明者らは、核燃料物質領域に形成された下部燃料領域の全核燃料物質に占める核分裂性Puの割合を、核燃料物質領域に形成された上部燃料領域の全核燃料物質に占める核分裂性Puの割合よりも大きくすることによって、軽水炉の経済性を損なうことなく軽水炉の炉心の熱的余裕を増大できることを見出した。(3)の構成によって、燃料棒線出力密度、燃料棒中心温度及びMCPR等の熱的余裕を増大させることができる。さらに、TRUの多重リサイクルも実現できる。
(3)の構成は、核燃料物質領域の下端から核燃料物質領域の上端に向かって下部ブランケット領域、下部燃料領域、内部ブランケット領域、上部燃料領域及び上部ブランケット領域が順に形成されたパッフェ炉心によって実現できる。
このような熱的余裕の増大には、炉心内の核燃料物質領域の高さを高くする、すなわち、燃料棒の軸方向の全長を長くすることが望ましい。BWRは、炉心内で、核燃料物質領域の下端から核燃料物質領域の上端に向うに従って,中性子減速材である冷却水の密度が低下する。このため、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富化度を下げて上部燃料領域の高さを高くし、上部燃料領域よりも冷却水の密度が高い下部燃料領域における全核燃料物質中の核分裂性Puの富化度を上げて中性子の利用率を良くする。炉心の増殖比及びボイド係数は悪化しない。
下部燃料領域における全核燃料物質中の核分裂性Puの富化度の増大は、下部燃料領域の高さを低減することになる。しかしながら、上部燃料領域の高さの増加幅が下部燃料領域の高さの減少幅よりも大きいので、結果として、核燃料物質領域の高さが増加する。
核燃料物質領域に形成された下部燃料領域の全核燃料物質に占める核分裂性Puの割合を、核燃料物質領域に形成された上部燃料領域の全核燃料物質に占める核分裂性Puの割合よりも大きくした、熱的余裕が増大した軽水炉の炉心は、もし、何らかの原因で第1設計外事故が発生したとしても、非常用炉心冷却系の高圧炉心注水系から供給が可能な冷却材の容量によって炉心内の燃料集合体を冷却できる出力まで自動的に出力を低下させることができる。さらに、そのような軽水炉の炉心は、仮に何らかの原因で仮に炉心全体が100%ボイドの状態になった場合でも、正の反応度が投入されることがない。
(3)の構成を有する軽水炉の炉心は、熱的余裕が増大するので、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
発明者らは、(3)の構成を実現する具体的な構成として、以下に述べる(I)の構成と(II)の構成を考え出した。(I)の構成は、核燃料物質領域の下部燃料領域の高さと上部燃料領域の高さの和を350mm以上600mm以下の範囲内にし、及び上部燃料領域の高さを下部燃料領域の高さの1.1〜2.1倍の範囲内にする。(II)の構成は、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富化度、及び上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富化度の平均が14〜22%の範囲内にし、及び下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富化度を上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富化度の1.05〜1.6倍の範囲内にする。(I)及び(II)のいずれの構成によっても、軽水炉の経済性を損なうことなく熱的余裕をさらに増大させることができる。
以上に述べた検討結果を詳細に説明する。
上記の検討は、軽水増殖炉の炉心、例えば、電気出力が1350MWで、炉心に装荷されている720体の燃料集合体及び燃料集合体当たり271本の燃料棒を有する増殖比1.01のBWR炉心を対象にして行った。
軽水増殖炉では、臨界性の制約条件である実効中性子増倍率1の下で、増殖比、熱的余裕及び安全上の重要な指標の一つである負のボイド係数をバランスよく満足させることが重要である。
上記の検討対象のBWRの炉心について行った発明者らの検討の結果、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を下げ、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を高くすることにより、上記したように、増殖比及びボイド係数を悪化させることなく炉心の熱的余裕を増大させることができることが分かった。
一般的には、核分裂性Pu富加度を上昇させた場合には、核分裂性物質が存在する燃料領域の中性子スペクトルが高エネルギー側にシフトし、TRUが核分裂したときに発生する中性子数が増加するとともに親物質のU−238等の高速核分裂が増加する。このため、燃料領域からブランケット領域に漏洩する中性子数が増加して増殖比の増加に寄与する。しかし、炉心を臨界に保つのに必要な燃料領域の高さが減少するので、燃料棒の全長が短くなり、熱的余裕が減少する。一方、炉心の負のボイド係数の絶対値が大きくなり、安全余裕は増大する。
しかしながら、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を下げ、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を高くした場合には、前述したように、核燃料物質領域の高さを高くすることができる。このため、炉心の熱的余裕が増大する。
発明者らは、下部燃料領域の全核燃料物質に占める核分裂性Puの割合を、核燃料物質領域に形成された上部燃料領域の全核燃料物質に占める核分裂性Puの割合よりも大きくする炉心について検討した。図7は、この検討結果の1つを示している。
軽水増殖炉の平衡炉心に装荷する新燃料集合体において、下部燃料領域の核分裂性Puの富加度に対する上部燃料領域の核分裂性Puの富加度の比(以下、単に、核分裂性Puの富加度の比という)を変えたときにおける、上部燃料領域、下部燃料領域及び核燃料物質領域のそれぞれの高さの変化について調べた。図7は、核分裂性Puの富加度の比と各領域の高さの関係を示している。特性Pは、核分裂性Puの富加度の比による上部燃料領域の高さの変化を示している。特性Qは、核分裂性Puの富加度の比による下部燃料領域の高さの変化を示している。特性Rは、核分裂性Puの富加度の比による核燃料物質領域の高さの変化を示している。
炉心の臨界性、及び炉心軸方向における出力分布の平坦化等を考慮すると、上部燃料領域の全TRU中の核分裂性Puの富加度が17%、下部燃料領域の全TRU中の核分裂性Puの富加度が19%のとき、上部燃料領域の高さが下部燃料領域の高さの約1.1倍になる。上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度が14%、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度が22%のとき、上部燃料領域の高さが下部燃料領域の高さの約2.1倍になる。図11に示された各特性は、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度と下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度の平均が18%の場合の評価結果である。これらの富加度の平均を16%から20%の間で変化させても、核分裂性Puの富加度の比に対する上部燃料領域の高さ及び下部燃料領域の高さが、その富化どの平均が18%の場合と同様に変化した。
軽水増殖炉の平衡炉心に装荷する新燃料集合体において、核分裂性Puの富加度の比を変えたときにおける、ボイド係数、及び仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときにおいて炉心に投入される反応度の変化について検討した。この検討の結果得られた図8は、核分裂性Puの富加度の比とボイド係数、及び炉心全体が100%ボイドの状態になったときにおける投入反応度の関係を示している。特性Sは、核分裂性Puの富加度の比によるボイド係数の変化を示している。特性Tは、核分裂性Puの富加度の比によるその投入反応度の変化を示している。
BWRでは、炉心軸方向において、中性子の減速機能を担う水素原子の密度分布を有するので、水素原子密度の高い下部燃料領域における核分裂性Puの富加度は、水素原子密度の低い上部燃料領域におけるその富加度よりも高くすることが望ましい。核分裂性Puの富加度を22%よりも高くし過ぎると、共鳴エネルギー領域での各種のTRUの自己遮蔽効果により、核分裂性Puの富加度の増大効果が薄れてしまう。このため、炉心を臨界に保つのに必要な核分裂性Puの量がいたずらに増大し、BWRの経済性が損なわれる。また、核分裂性Pu富加度を14%よりも低くし過ぎると、中性子エネルギースペクトルが低エネルギー側に移行して増殖比が低下するとともに、ボイド係数の悪化が10%を越え、BWRの経済性及び安全性を損なう恐れがある。
しかしながら、図8の特性Tで表されるように、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度が下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度の1.05(19/16)倍よりも小さくなると、炉心全体が100%ボイドの状態になったと仮定したときの投入反応度が1ドル(約0.34%ΔK)を超えて即発臨界領域に入る。即発臨界領域に入ることは避けなければならない。このため、万が一、第1設計基準外事故が発生して高圧炉心注水系が作動する場合に対応して、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度の1.05倍以下にしなければならない。上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度が、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度の1.6(22/14)倍を超えた場合には、負のボイド係数の絶対値が小さくなり、異常な過渡変化や事故の種類によっては安全基準を満たすのが困難な場合が生じる可能性がある。このため、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度の1.6倍以下にする。
図8に示す特性Tに基づけば、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度の1.25(20/16)倍以上にすることによって、仮に何らかの原因で炉心全体が100%ボイドの状態になったとしても、炉心に正の反応度が入ることを避けることができる。
このため、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度の1.05〜1.6の範囲内にすることによって、炉心の熱的余裕を増大させることができる。結果として、炉心の経済性を損なうことなく、炉心の安全余裕を向上することができる。好ましくは、上部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度を、下部燃料領域の全核燃料物質中の核分裂性Puの富加度の1.25〜1.6の範囲内にすることが望ましい。以上は平衡炉心についての検討結果を示したが、初装荷炉心、及び平衡炉心に至る移行炉心についても、同様のことが言える。
前述した(4)の構成について説明する。
軽水炉から大量に発生する使用済燃料集合体に含まれる使用済核燃料は、核燃料再処理を行ってTRUをリサイクルする方法、及び使用済燃料集合体を直接地層処分する方法のいずれかで対応することが考えられている。しかしながら、使用済燃料集合体の地層処分地がなかなか決まらないので、使用済燃料集合体の中間貯蔵の道も考えられている。一方、軽水炉の運転によって新たに生成されるTRUが超寿命放射性廃棄物になることへの危惧が、軽水炉増設の妨げになることが懸念されている。そこで、軽水炉の普及のための当面の対策として、発明者らは、現在運転中のBWRを用いてTRUを核分裂させ、使用済燃料集合体数を大幅に削減することを検討した。
現在運転中の軽水炉でTRUをリサイクルした例としては、いわゆるPuサーマル利用といわれるTRUのうちPuだけを、しかも一度だけリサイクルすることがヨーロッパ等で実施されている。しかしながら、TRUのリサイクルを繰り返して継続する場合には、安全上の制約条件を守れなくなるので、安全上の制約条件を守りつつ、TRUの多重リサイクルを繰り返し、使用済燃料集合体の体数を大幅に減らすことが必要である。
発明者らは、使用済燃料集合体の体数を減らすことができる対策を検討した。この結果、発明者らは、超ウラン核種を含み、超ウラン核種のリサイクルの回数が異なっている複数の燃料集合体が装荷され、これらの燃料集合体のうち、リサイクルの回数が最も少ない超ウラン核種を含む複数の燃料集合体を炉心の中央部に配置し、この中央部と炉心最外層領域の間において、リサイクル回数の多い超ウラン核種を含む燃料集合体ほど、炉心最外層領域側に配置する((4)の構成)ことによって、使用済燃料集合体の体数を低減できることを見出した。
(4)の炉心構成は、例えば、以下のようにして実現できる。すなわち、リサイクル回数の異なるTRUが別々の燃料集合体に含まれ、これらの燃料集合体が一つの軽水炉の炉心に装荷される。燃焼度がゼロのときに同じリサイクル回数のTRUが富化されて炉心滞在期間が異なる各燃料集合体は、炉心内で、互いに隣接して装荷される。リサイクルの回数が最も少ない超ウラン核種を含む複数の燃料集合体を炉心の中央部に配置し、この中央部と炉心最外層領域の間において、リサイクル回数の多い超ウラン核種を含む燃料集合体ほど、炉心最外層領域側に配置する。
リサイクル回数の異なるTRUは、混ぜ合わせることなく、別々に異なる燃料集合体に装荷する必要がある。低濃縮ウラン及びTRUを核燃料として用いる軽水炉で発生した使用済核燃料を再処理して得られるTRUをウランに富加して多重リサイクルする際に、同じリサイクル数のTRUを含む燃料集合体ごとに、同じリサイクル数のTRUを含み炉心滞在年数の異なるすべての燃料集合体の無限実効増倍率の平均値がほぼ同じ値になるように新燃料集合体のTRU装荷量を定めるとよい。
リサイクル数の多いTRUほど、TRU中のPu−239の割合が小さくなる。したがって、(4)の構成は、TRUを多重リサイクルした場合において、TRU中のPu−239の割合が最も高い核燃料物質を含む複数の燃料集合体を炉心の中央部に配置し、この中央部と炉心最外層領域の間において、TRU中のPu−239の割合が小さい核燃料物質を含む燃料集合体ほど、炉心最外層領域側に配置することと同じである。
(4)の構成の採用によって、核燃料再処理によって得られたTRUを含む核燃料物質を利用するリサイクル型軽水炉の安全性向上、熱的余裕の増大、及び使用済燃料集合体の体数の削減を目指すことができる。
以上に述べた検討を詳細に説明する。この検討は、現在運転中のABWRの炉心を対象に行なった。対象にしたABWRの炉心は、例えば、電気出力が1350MWで、炉心に装荷されている872体の燃料集合体及び燃料集合体当たり74本の燃料棒を有する平均濃縮度4.8%の低濃縮ウランを使った炉心である。
低濃縮ウランを核燃料物質として用いた燃料集合体が、例えば、ABWRの炉心に装荷される。このABWRで発生した使用済燃料集合体内の使用済核燃料を再処理して回収されたPuだけを劣化ウラン、天然ウランまたは減損ウラン等に富加して得られた核燃料物質を用いて製造された新燃料集合体を装荷した、例えば、BWRの炉心を、一般にPuサーマル炉心と称している。Puサーマル炉のうち、低濃縮ウランを含む燃料集合体が全く装荷されていなく、装荷された全ての燃料集合体が核燃料再処理で回収されたPuを含む核燃料物質を有する燃料集合体である炉心を、Full MOX炉心と称する。
Puだけではなく核燃料再処理で回収された全TRUを含む核燃料物質を有する燃料集合体を装荷する軽水炉の炉心において、リサイクル回数が一回のTRUを含む燃料集合体のみが装荷された炉心をTRU第一世代リサイクル炉心と呼ぶ。このTRU第一世代リサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体に含まれた使用済核燃料を再処理して得られたリサイクル回数2回のTRUを含む燃料集合体が装荷された炉心を、TRU第二世代リサイクル炉心と呼ぶ。このTRU第二世代リサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体に含まれた使用済核燃料を再処理して得られたリサイクル回数3回のTRUを含む燃料集合体が装荷された炉心を、TRU第三世代リサイクル炉心と呼ぶ。このように、リサイクル数が多くなったTRUを含む燃料集合体が装荷されるほど、炉心の世代数も増加する。
このように、TRUのリサイクル数を重ねていくと、TRU中の偶数核の核種の割合が増加して、負のボイド係数の絶対値が小さくなる。このため、炉心の安全余裕がなくなって、TRUの多重リサイクルが継続できなくなる。W.S.Yang et al., A Metal Fuel Core Concept for 1000MWt Advanced Burner Reactor GLOBAL' 07 Boise, USA, September, 2007, P.52によると、FBRにおいて、上記のリサイクル方式よりもTRUのリサイクル世代を長くできる方式が検討されている。Advanced Burner Reactor(ABR)は、TRU第一世代リサイクルにおいて、軽水炉の使用済燃料を再処理して得られたTRUを含む劣化ウランを核燃料物質として使用する。TRU第二世代リサイクルにおいて、TRU第一世代リサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体に含まれる使用済核燃料を再処理して得られたTRUを、全量、燃料集合体に充填してリサイクルするとともに、TRU第一世代リサイクル炉心での燃焼により減少したTRUの不足分を、軽水炉の使用済核燃料を再処理して得られたTRUによって補うことが試行されている。
このように、軽水炉とABRを並行に運転し続ける限りにおいては、軽水炉で発生した使用済核燃料からのTRUを、軽水炉の炉心及び燃料サイクル施設に収容し続けることになる。このため、当面において、TRUの原子炉外での貯蔵を避けることができる。このABRの考え方をABWRで試行したところ、Full MOXの多重リサイクル炉心よりもTRUの多重リサイクルを長く継続することができた。しかしながら、TRUの多重リサイクルはTRU第四世代リサイクル炉心までが限界であるが、TRUのリサイクルを行わない場合に比べて、発生する使用済燃料集合体の体数が、十分の一程度に削減される。(4)の構成を適用することにより、TRU第八世代リサイクル炉心までTRUの多重リサイクルを継続した場合には、発生する使用済燃料集合体の体数が、TRUのリサイクルを行わない場合に発生するその体数の1%未満まで低減することができる。
通常のFull MOXのTRU多重リサイクル炉心を対象にした発明者らの検討の結果、TRUをリサイクルし続けたときにボイド係数が正側に移行する原因として、(I)TRU中の偶数核の割合が増加する、及び(II)炉心内のボイド率が上昇するにつれて、半径方向の出力分布が炉心中心部で高く、周辺部で低くなる方向に移行する、ことの2つあることが分った。
図9において、特性Vが、BWRの定格出力運転時における炉心半径方向出力分布を示しており、特性Xが、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときにおける炉心半径方向の出力分布を示している。TRUリサイクル炉のリサイクル世代が進むにつれて、冷却材のボイド率が増加したときの燃料集合体の無限中性子増倍率の上昇割合が増加する。この現象を利用して、超ウラン核種を含み、超ウラン核種のリサイクルの回数が異なっている複数の燃料集合体が装荷され、これらの燃料集合体のうち、リサイクルの回数が最も少ない超ウラン核種を含む複数の燃料集合体を炉心の中央部に配置し、この中央部と炉心最外層領域の間において、リサイクル回数の多い超ウラン核種を含む燃料集合体ほど、炉心最外層領域側に配置することにより、炉心中心部への半径方向の出力分布のシフトを緩和することが可能になった。これにより、安全基準を満たしつつTRUの多重リサイクルが可能になり、且つ発生する使用済燃料集合体の体数を低減することができる。
炉心中心部への出力分布シフトの緩和について、具体的に説明する。仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときに核燃料物質領域に大きな正の反応度が投入される主要な原因の一つは、BWRの定格出力におけるボイド分布の状態から、炉心全体が100%ボイド率の状態に移行した時に半径方向の出力分布が中性子インポータンスの高い炉心中央部にシフトすることあることを、発明者らが見出した。TRUの多重リサイクルを行うとき、TRUのリサイクル回数が増えるにしたがって全TRU中のPu−239の割合が順次減少し、ボイド率が増加したときにTRUを含む燃料集合体の無限中性子増倍率の増加量が大きくなる。そこで、炉心の中央部にリサイクル回数が少ないTRUを含む燃料集合体を装荷し、炉心の周辺部にリサイクル回数が多いTRUを含む燃料集合体を装荷することによって、定格出力運転時ののボイド分布の状態から、炉心全体が100%ボイド率の状態への移行時に生じる半径方向の出力分布の炉心中央部へのシフトを緩和することができる。このため、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったときでも、正の反応度が投入されない炉心が実現できる。なお、炉心の半径方向における出力分布の平坦化は、リサイクル回数が異なるTRUを含む燃料集合体の間で、装荷する体数の割合を調整することによって行われる。
(4)の構成を適用した軽水炉の炉心の例で、運転サイクル開始時における状態を図10に示す。この軽水炉の炉心には、リサイクル回数が一回のTRUを含む複数の燃料集合体Aからリサイクル回数が八回のTRUを含む複数の燃料集合体までの、リサイクル数が一回から八回までの各回数のTRUを別々に含んでいる燃料集合体A〜Hが装荷されている。図10において、アルファベットのA,B,C,D,E,F,G及びHは、TRUのリサイクル回数を示している。図10において、アルファベットの後に付された数字1,2,3,4,5は、該当する燃料集合体の、炉心内に滞在する期間(運転サイクル数)を示している。例えば、燃料集合体B3は、リサイクル回数が二回のTRUを含み、炉心に装荷されてから3つ目の運転サイクルでの運転を経験しつつある燃料集合体である。数字の「5」は、5つ目の運転サイクルを経験しつつある燃料集合体である。
燃料集合体A〜C、及び燃料集合体Dの一部は、炉心に装荷されてから4つ目の運転サイクルの運転が終了した後、使用済燃料集合体として、原子炉から外部に取り出される。燃料集合体Dの残り、及び燃料集合体F〜Hは、炉心に装荷されてから5つ目の運転サイクルでの運転が終了するまで、炉心内に滞在する。
平衡炉心においては、炉心から使用済燃料集合体として取り出された燃料集合体A4に含まれる使用済核燃料を再処理して回収されたTRUの全量が、新たに製造された複数の燃料集合体B1に分散して充填される。炉心から使用済燃料集合体として取り出された燃料集合体B4に含まれる使用済核燃料を再処理して回収されたTRUの全量が、新たに製造された複数の燃料集合体C1に分散して充填される。同様に、炉心から取り出された燃料集合体C4に含まれる使用済核燃料から回収されたTRUの全量が複数の新燃料集合体D1に分散して充填され、炉心から取り出された燃料集合体E5に含まれる使用済核燃料から回収されたTRUの全量が複数の新燃料集合体F1に分散して充填される。燃料集合体G5に含まれる使用済核燃料から回収されたTRU全量が、複数の新燃料集合体H1に分散して充填され、最終的に燃料集合体H5のみが使用済燃料集合体として残される。
燃料集合体A〜Hの各燃料集合体の体数は、炉心の半径方向の出力分布を平坦に保てるように、それぞれの燃料集合体の無限実効増倍率がほぼ同じになるように決められる。図10に示す炉心では、燃焼度ゼロの時点での燃料集合体A〜Hの各体数は、それぞれ100体、40体、24体、16体、12体、8体、4体、4体である。同じリサイクル数のTRUを含む複数の燃料集合体は、炉心滞在期間が異なる燃料集合体を隣接するように配置される。
リサイクル回数の多いTRUを含む燃料集合体ほど、炉心最外層領域側に配置することによって、リサイクル回数が同じであるTRUを含む燃料集合体のみが装荷された炉心に比べて、炉心のボイド率が上昇したときに、炉心中心部での無限中性子実効増倍率の上昇が、炉心周辺部での無限中性子実効増倍率の上昇より相対的に小さくなる。このため、半径方向の出力分布の炉心中央部へのシフトが小さくなる。結果として、リサイクル回数が八回までの各TRUを別々に含む核燃料集合体が装荷された炉心であるにもかかわらず、ボイド係数を−4×10−4%Δk/%voidに保って軽水炉を運転することが可能になる。この炉心は、TRUをリサイクルしなかった場合に比べて、使用済燃料集合体の体数を0.5%以下に減少させることが出来ることが分かる。
リサイクル回数が1回のTRUを含む燃料集合体からリサイクル回収が八回のTRUを含む燃料集合体までの各燃料集合体を一つの炉心に共存させた場合を例に説明したが、以下のような炉心構成にしてもよい。例えば、燃料集合体としてリサイクル回数が1回のTRUを含む燃料集合体のみを装荷した炉心、リサイクル回数が1回のTRUを含む燃料集合体及びリサイクル回数が2回のTRUを含む燃料集合体を装荷した炉心、及びリサイクル回数が1回のTRUを含む燃料集合体、リサイクル回数が2回のTRUを含む燃料集合体、及びリサイクル回数が3回のTRUを含む燃料集合体を装荷した炉心等が考えられる。
また、軽水炉から取り出された各使用済燃料集合体から回収された全TRUをリサイクルする場合について論じてきたが、回収されたTRUのうち、Puのみをリサイクルする場合、TRU中のいくつかの核種を特定してPuと一緒にリサイクルする場合も、全TRUをリサイクルする場合の概念を、そのまま適用することができる。
(1)、(2)及び(3)の各構成のうちの幾つかの構成を組み合せることによって、安全余裕をさらに向上させることができる。例えば、(1)に(2)を組み合せた場合には(1)単独よりも安全余裕がさらに高くなり、(1)及び(2)の組み合せに(3)をさらに組み合せた場合には(1)及び(2)の組み合せよりも安全余裕がさらに向上する。これらは、(2)を含む他の2つの構成の組み合せ、及び(3)を含む他の2つの構成の組み合せに対しても言えることである。
以上に述べた概念を適用した本発明の実施例を、図面を用いて以下に詳細に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の軽水炉の炉心を、図11〜図20及び表1を用いて以下に詳細に説明する。本実施例の軽水炉の炉心20は、前述した(1)、(2)及び(3)の構成を備えている。
軽水炉の炉心20は、電気出力1350MW用の炉心であるが、出力規模はこれに限定されるものではない。炉心20に装荷された燃料集合体の体数を変更する等によって、本実施例が適用できる他の出力規模の炉心を実現することができる。
本実施例の炉心20が適用される電気出力1350MW用の軽水炉である沸騰水型原子炉(BWR)の概要を、図11に基づいて説明する。BWR1は、原子炉圧力容器27内に、炉心20、気水分離器21及び蒸気乾燥器22を配置している。炉心20は、原子炉圧力容器27内で炉心シュラウド25によって取り囲まれている。炉心20の下端に配置された炉心支持板17が、炉心シュラウド25内に配置されて炉心シュラウド25に設置される。炉心20の上端に配置された上部格子板18が、炉心シュラウド25内に配置されて炉心シュラウド25に設置される。複数の制御棒42が炉心20に挿入可能な位置に配置されている。これらの制御棒42は下方より炉心に挿入される。気水分離器21は炉心20の上方に配置され、蒸気乾燥器22は気水分離器21の上方に配置される。複数のインターナルポンプ26が原子炉圧力容器27の底部に設置され、インターナルポンプ26のインペラが原子炉圧力容器27と炉心シュラウド25との間に形成されるダウンカマ29内に配置される。主蒸気配管23及び給水配管24が原子炉圧力容器27に接続される。BWR1には何らかの原因で炉心に供給される冷却材が喪失した場合の非常用炉心冷却系として低圧炉心注水系31と高圧炉心注水系32を備えている。
炉心20には、図12に示すように、720体の燃料集合体41が装荷されている。3体の燃料集合体41に1本の割合でY字型の制御棒42が設けられ、223本の制御棒42が配置されている。それぞれの制御棒42は原子炉圧力容器27の底部に設けられた別々の制御棒駆動装置に連結されている。制御棒駆動装置は、モータ駆動であり、軸方向における制御棒42の移動を微調整することができる。制御棒駆動装置が、制御棒42の炉心からの引き抜き、及び制御棒42の炉心への挿入の各操作を実行する。223本の制御棒42の約1/5が、運転中のBWR1の炉心に挿入したり引き抜いたりすることにより原子炉の出力を調整する制御棒であり、残り約4/5が、運転中のBWR1の炉心から引き抜かれた状態で、原子炉を停止するときに炉心内に挿入される制御棒42である。
燃料集合体41は核燃料物質が装荷されている核燃料物質領域16を有し、この核燃料物質領域16内で、上から上部ブランケット領域5、上部燃料領域6、内部ブランケット領域7、下部燃料領域8及び下部ブランケット領域9の5つの領域を順次形成している。また、燃料集合体41は、上部ブランケット領域5の上方に、炉心20内に装荷された状態で上部反射体領域10を形成する領域を有し、さらに下部ブランケット領域9の下方に、炉心20内に装荷された状態で下部反射体領域11を形成する他の領域を有する(図16参照)。
炉心20は、核燃料物質を含んでいる核燃料物質領域12、上部反射体領域10A及び下部反射体領域11Aを有する。上部反射体領域10Aは、核燃料物質領域12の上方に形成されており、炉心20に装荷された全燃料集合体41の上部反射体領域10によって形成される。下部反射体領域11Aは、核燃料物質領域12の下方に形成されており、炉心20に装荷された全燃料集合体41の下部反射体領域11によって形成される。
炉心20の核燃料物質領域12は、全燃料集合体41の核燃料物質領域16によって構成される。この核燃料物質領域12が、上部ブランケット領域5によって形成される上部ブランケット領域5A、上部燃料領域6によって形成される上部燃料領域6A、内部ブランケット領域7によって形成される内部ブランケット領域7A、下部燃料領域8によって形成される下部燃料領域8A及び下部ブランケット領域9によって形成される下部ブランケット領域9Aの5領域を有している。上部ブランケット領域5A、上部燃料領域6A、内部ブランケット領域7A、下部燃料領域8A及び下部ブランケット領域9Aが、核燃料物質領域12の上端から核燃料物質領域12の下端に向ってこの順に配置される。炉心20はパッフェ炉心である。領域10A、5A、6A、7A、8A、9A及び11Aは、炉心20の高さ方向において、燃料集合体41のそれぞれの領域10、5、6、7、8、9及び11と同じ位置にある。
燃料集合体41の核燃料物質が装荷されている領域の横断面は、図13に示すように、六角形の筒であるチャンネルボックス13内に、外径10.1mmの271本の燃料棒44を正三角形格子に配置している。燃料集合体41の横断面の形状は六角形をしており、燃料集合体41に含まれた複数の燃料棒44の相互間の間隙が1.3mmである。最外層の燃料棒列の一辺には9本の燃料棒44が配置される。横断面がY字型の制御棒42は、中心に位置するタイロッドから外側に向かって伸びる3枚の翼を有する。各翼は、中性子吸収材であるB4Cが充填された複数の中性子吸収部材3を備えており、タイロッドの周囲に120度の間隔を持って配置される。制御棒42は、軽水より減速能が小さい物質である炭素で構成されたフォロアー部を、炉心に最初に挿入される挿入端部に設けている。
各燃料集合体41の構成を、図17を用いて説明する。燃料集合体41は、上部タイプレート(上部燃料支持部材)14、下部タイプレート(下部燃料支持部材)15、複数の中性子吸収部材(例えば、中性子吸収棒)3、複数の燃料棒44、及びチャンネルボックス13を有する。各燃料棒44の下端部が下部タイプレート15で支持され、各燃料棒44の上端部が上部タイプレート14で支持される。各燃料棒44は、密封されたジルコニウム合金製の被覆管を有し、燃料棒44の被覆管内に、軸方向において、上端から下方に向かって、プレナム2、核燃料物質領域16及び中性子材充填領域6をこの順に配置している。中性子吸収材であるB4Cが充填された中性子材充填領域6の上方に位置する核燃料物質領域(燃料有効長)16には、核燃料物質を含む複数の燃料ペレットが充填されている。中性子材充填領域6にはハフニウム棒を配置してもよい。チャンネルボックス13内の単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレットの横断面積の割合が53%である。
中性子材充填領域6及び核燃料物質領域16のそれぞれの位置での燃料棒44の外径(被覆管の外径)は、共に10.1mmで同じである。プレナム2の位置での燃料棒44の外径(被覆管の外径)は、5.8mmであって、核燃料物質領域16の位置での燃料棒44の外径よりも小さくなっている。プレナム2の長さは、1100mmである。プレナム2は、燃料棒44内において、中性子材充填領域6及び核燃料物質領域16と連通している。
各燃料棒44は、核燃料物質領域16において、軸方向の数箇所で燃料スペーサ(図示せず)によって保持される。これらの燃料スペーサは、燃料棒44相互間の間隔を所定幅に保持する。各燃料棒44のプレナム2の部分も、燃料スペーサ33によって、三箇所ほど、支持される。
各中性子吸収部材3が、ジルコニウム合金製の支持棒(支持部材)45によって上部タイプレート14に保持される。中性子吸収部材3は、6mmの外径を有する密封されたチューブ内にB4Cペレットを充填している。このチューブが支持棒45に取り付けられている。中性子吸収部材3はチューブ内にハフニウム棒を充填して構成してもよい。各中性子吸収部材3が隣り合う燃料棒44のプレナム2の相互間に配置され、中性子吸収部材3が1本の燃料棒44に1本の割合で設けられる(図18参照)。各中性子吸収部材3は、核燃料物質領域12の上端、すなわち、核燃料物質領域16の上端と上部タイプレート14の下端との間に配置される。中性子吸収部材3の長さは500mmであり、核燃料物質領域16の上端と中性子吸収部材3の下端との間の距離は300mmである。本実施例では、燃料集合体格子の横断面積に対する全ての中性子吸収部材3の合計横断面積の割合が、16.8%である。燃料集合体格子の横断面積に対する全ての中性子吸収材充填領域3の合計横断面積の割合が、49.3%である。この49.3%には、制御棒42の横断面積が含まれていない。
BWR1が運転されているとき、インターナルポンプ26の回転によってダウンカマ29内の冷却水が加圧されて炉心20に供給される。炉心20内に供給された冷却水は、各燃料集合体41内に導かれ、核分裂性物質の核分裂によって発生する熱で加熱されて一部が蒸気になる。このため、冷却水及び蒸気を含む気液二相流が、燃料集合体41内の上部反射体領域10内を上昇する。この気液二相流が炉心20から気水分離器21に導かれて蒸気が分離される。分離された蒸気は、蒸気乾燥器22によって湿分がさらに除去される。湿分が除去された蒸気は、主蒸気配管23を通ってタービン(図示せず)に供給され、タービンを回転させる。タービンに連結された発電機(図示せず)が回転され、電力が発生する。タービンから排出された蒸気は、復水器(図示せず)で凝縮されて凝縮水となる。この凝縮水は、給水として、給水配管24を通って原子炉圧力容器27内に導かれる。気水分離器22で分離された冷却水は、ダウンカマ29内で上記の給水と混合され、再び、インターナルポンプ26で加圧される。
平衡状態にある炉心の燃料集合体41の配置を、図14及び図15を用いて説明する。炉内滞在期間が最も長い、運転サイクルが第5サイクル目の燃料集合体41Eが、中性子インポータンスの低い炉心20に配置される。中性子無限増倍率が最も高い、炉内滞在期間が最も短い第1サイクル目の燃料集合体41Aが、炉心20の炉心最外層領域46の内側に位置する炉心外側領域48に装荷されており、炉心の半径方向における出力分布の平坦化を図っている。炉内滞在期間が第2、第3、及び第4サイクル目の各燃料集合体41B、41C、及び41Dが、炉心外側領域48の内側に存在する炉心内側領域50に、それぞれ配置されている。このような配置によって、炉心内側領域50における出力分布の平坦化を図っている。
燃料集合体41A、41B、41C、41D、及び41Eは、それぞれ、図13及び後述の図19及び図20に示す燃料集合体41である。これらの燃料集合体の下部タイプレート15は、炉心支持板17に設けられる複数の燃料支持金具(図示せず)に支持される。燃料集合体41に冷却水を導く冷却材通路が燃料支持金具内に形成されており、燃料支持金具に設置されたオリフィス(図示せず)がその冷却材通路の入口部に配置される。炉心20は、半径方向において炉心最外層領域46、炉心外側領域48及び炉心内側領域50の3領域が形成される(図15参照)。燃料集合体41の出力が最も小さい炉心最外層領域46に位置するそのオリフィスの口径が最も小さく、炉心外側領域48位置するオリフィス及び炉心内側領域50に位置するオリフィスの順に口径が大きくなるように設定する。炉心内側領域50に位置するオリフィスの口径が最も大きい。
燃料集合体41の核燃料物質領域16におけるそれぞれの領域の高さは、図16に示すように、以下の通りである。上部ブランケット領域5(上部ブランケット領域5A)の高さは70mmであり、上部燃料領域6(上部燃料領域6A)の高さは283mmであり、内部ブランケット領域7(内部ブランケット領域7A)の高さは520mmであり、下部燃料領域8(下部燃料領域8A)の高さは194mmであり、下部ブランケット領域9(下部ブランケット領域9A)の高さは280mmである。さらに、核燃料物質領域16の上端から上方に向かって1100mmの長さを有する上部反射体領域10(上部反射体領域10A)が形成される。この上部反射体領域10は、各燃料棒41のプレナム2の相互間に存在する冷却水(BWR1の運転中では気液二相流)を含んでいる。核燃料物質領域16の下端から下方に向かって70mmの長さを有する下部反射体領域11(下部反射体領域11A)が形成される。この下部反射体領域11は、各燃料棒41の中性子材充填領域6の相互間に存在する冷却水を含んでいる。上部反射体領域10の長さ及び下部反射体領域11の各長さの数値は、燃料集合体内に配置された燃料棒の軸方向の長さの中での長さを示している。後述の各実施例における。上部反射体領域10の長さ及び下部反射体領域11の各長さも同様である。
中性子吸収部材3及び支持棒45が、上部反射体領域10(上部反射体領域10A)内に配置されている。
燃料集合体41が燃焼度ゼロのとき、その燃料集合体41の全ての燃料棒44(図19に示された燃料棒44A〜44E)は、3つのブランケット領域である上部ブランケット領域5、内部ブランケット領域7及び下部ブランケット領域9に劣化ウランを充填し、上部燃料領域6にはTRUの重量を100としたときに劣化ウランを重量213の割合で混合した核分裂性Pu富化度15.7wt%の混合酸化物燃料を充填し、下部燃料領域8にはTRUの重量を100としたときに劣化ウランを重量143の割合で混合した核分裂性Pu富化度20.2wt%の混合酸化物燃料を充填している。上部ブランケット領域5、内部ブランケット領域7及び下部ブランケット領域9は、TRUを含んでいない。上部燃料領域6及び下部燃料領域8の平均核分裂性Pu富化度は17.5wt%である。TRUは、使用済燃料集合体として原子炉圧力容器27から取り出された燃料集合体41に含まれている核燃料物質(使用済核燃料)から、核燃料再処理によって回収された物質である。各ブランケット領域にはその混合酸化物燃料が充填されていない。なお、各ブランケット領域には劣化ウランのかわりに、天然ウランや、使用済み燃料集合体から回収される減損ウランを用いてもよい。
燃料集合体41は、燃料棒44としてそれぞれ複数の燃料棒44A〜44Eを有しており、これらの燃料棒を図19及び図20のように配置している。図19は燃料集合体41の上部燃料領域6での横断面を示し、図20は燃料集合体41の下部燃料領域8での横断面を示している。燃料棒44A〜44Eのそれぞれの上部燃料領域6に充填された混合酸化物燃料は、燃焼度ゼロの状態において、以下に示す核分裂性Pu富化度を有している(図19参照)。燃料棒44Aでは核分裂性Pu富化度が8.4wt%、燃料棒44Bでは核分裂性Pu富化度が11.2wt%、燃料棒44Cでは核分裂性Pu富化度が14.5wt%、燃料棒44Dでは核分裂性Pu富化度が15.9wt%及び燃料棒44Eでは核分裂性Pu富化度が17.2wt%となっている。
燃料棒44A〜44Eのそれぞれの下部燃料領域8に充填された混合酸化物燃料は、燃焼度ゼロの状態において、以下に示す核分裂性Pu富化度を有している(図20参照)。燃料棒44Aでは核分裂性Pu富化度が13.1wt%、燃料棒44Bでは核分裂性Pu富化度が15.9wt%、燃料棒44Cでは核分裂性Pu富化度が19.2wt%、燃料棒44Dでは核分裂性Pu富化度は20.7wt%及び燃料棒44Eでは核分裂性Pu富化度が21.4wt%となっている。
燃料棒44A〜44Eの各ブランケット領域にはTRUが存在しないが、それぞれの燃料棒44A〜44Eの上部燃料領域6及び下部燃料領域8の各混合酸化物燃料は表1に示す組成のTRUを含んでいる。燃料集合体41は、燃焼度ゼロの状態で、全TRU中のPu−239の割合が44wt%である。表1は、燃料集合体41が炉心20から取り出された後、燃料貯蔵プール及び燃料再処理施設に2年、燃料製造施設に1年、合計3年間の間、原子炉外に滞在し、使用済燃料集合体内の核燃料物質の再処理で得られた、炉心に装荷される燃料集合体に含まれる核燃料物質に存在するTRUの組成を示している。
BWR1の運転中、各燃料棒44内で核分裂性物質の核分裂によって発生した揮発性核分裂生成物が、プレナム2内に貯蔵される。このプレナム2は、1100mmの長さを有しているので、核分裂性物質の核分裂によって発生する揮発性核分裂生成物の十分な量を貯蔵することができる。このため、燃料棒44の健全性を確保できる。
本実施例によれば、核燃料物質領域12の上端よりも上方へ300mmの位置に、長さ500mmの複数の中性子吸収部材3を配置し、核燃料物質領域12の下端よりも下方に複数の中性子吸収材充填領域4を配置しているので、ABWRでは起因事象として起こりえない事象である、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったと想定しても、核燃料物質領域12から上方及び下方に漏洩する中性子を、中性子吸収部材3及び中性子吸収材充填領域4で吸収することができる。このため、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったとしても、核燃料物質領域12に正の反応度が投入されることを回避することができる。その状態になったときには、核燃料物質領域12に負の反応度が投入される。
さらに、炉心20は、核分裂性Pu富化度15.7wt%、高さ283mmの上部燃料領域6、及び核分裂性Pu富化度20.2wt%、高さ194mmの下部燃料領域8を有する。上部燃料領域6及び下部燃料領域8の平均核分裂性Pu富化度が17.5wt%である。下部燃料領域8の高さと上部燃料領域6の高さの和は477mm、上部燃料領域6の高さは下部燃料領域8の高さの1.46倍、下部燃料領域8の核分裂性Pu富化度は上部燃料領域6の核分裂性Pu富化度の1.29倍となる。このため、炉心20は、増殖比1以上であり、熱的余裕をさらに増大させることができる。この結果、本実施例の炉心20は、最大線出力密度を上下燃料領域の核分裂性Pu富化度が同一だった場合と比較して2%低減でき、ボイド係数が負である。このような炉心20を有するBWR1はTRU多重リサイクルを継続できる。
本実施例は、(1)、(2)及び(3)の構成を有しているので、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になった場合にも核燃料物質領域12に正の反応度が投入されなく、燃料棒の健全性が増大し、熱的余裕が増大する。したがって、本実施例は、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
本実施例の炉心20では、現行のABWRとほぼ同じ大きさの原子炉圧力容器27を用いてABWRと同じ電気出力1350MWを発生させたとき、上部ブランケット領域5A及び下部ブランケット領域9Aを除く上部燃料領域6A、下部燃料領域8A及び内部ブランケット領域7Aを含む核燃料物質領域12の取り出し燃焼度が53GWd/tになり、上部ブランケット領域5A及び下部ブランケット領域9Aを含んだ核燃料物質領域12の取り出し燃焼度が45GWd/tになる。その炉心20では、ボイド係数が−3×10−4Δk/k/%void、及びMCPRが1.3になる。このため、炉心20において、TRUの各同位元素の割合を上記したように実質的に一定に保った状態で1.01の増殖比が実現できる。
本実施例では、上部反射体領域10に中性子吸収部材3を配置するため、図17のII−II断面における燃料棒44のプレナム2相互間に形成される気液二相流の流路面積が狭くなり、上部反射体領域10における圧力損失が増大する。上部反射体領域10の圧力損失は炉心20の圧力損失に比べて小さいため、特に問題はない。上部ブランケット領域5及び上部反射体領域10において、チャンネルボックス13の側壁に貫通した複数の開口部を形成することによって、上部反射体領域10の圧力損失を低減することができる。
図17及び図18に示す中性子吸収部材3の替りに、図21に示す中性子吸収部材3A、及び図22に示す中性子吸収部材3Bを用いてもよい。図21に示す燃料集合体41Fは、図17に示す燃料集合体41において中性子吸収部材3を中性子吸収部材3Aに替えた構成を有する。燃料集合体41Fの他の構成は燃料集合体41と同じである。中性子吸収部材3Aは、環状体であって、それぞれの燃料棒44のプレナム2を取り囲んで配置されている。中性子吸収部材3Aは、燃料棒44の外面を取り囲んで配置された外径8.8mmの環状の密封容器38を燃料棒44の外面に取り付け、燃料棒44の外面と密封容器の間に形成される環状領域内にB4Cを充填して構成される。密封容器の上端及び下端が密封されている。中性子吸収部材3Aを適用する場合には、指示棒45は不要になる。
図22に示す燃料集合体41Gは、図17に示す燃料集合体41において中性子吸収部材3を中性子吸収部材3Bに替えた構成を有する。燃料集合体41Gの他の構成は燃料集合体41と同じである。中性子吸収部材3Bは、Hf板であって、各燃料棒44配列の間に配置される。厚みが1.5mmである各Hf板の両端が、横断面が六角形をした枠部材5に取り付けられる。枠部材5は、チャンネルボックス13の内面に沿って配置され、複数の支持棒45によって上部タイプレート14に取り付けられる。のプレナム2を取り囲んで配置されている。中性子吸収部材3Aは、環状で外径8.8mmの密封容器内にB4Cを充填している。この密封容器が支持棒45に取り付けられるので、燃料集合体41と同様に、中性子吸収部材3Aが上部タイプレート14に保持される。
中性子吸収部材3A,3Bを用いても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
本発明の他の実施例である実施例2の軽水炉の炉心を、図23〜図27及び表2を用いて以下に詳細に説明する。本実施例の軽水炉の炉心20Aは、前述した(1)及び(2)の構成を備えている。
軽水炉の炉心20Aは、実施例1の炉心20において燃料集合体41を燃料集合体41Hに替えた構成を有する。炉心20Aの他の構成は炉心20と同じである。炉心20Aが炉心20と異なる部分について説明する。炉心20Aは、炉心20と同じく、パッフェ炉心である。炉心20Aが適用される軽水炉であるBWRは、BWR1において炉心20を炉心20Aに置き換えた構成を有する。このBWRは、炉心20以外はBWR1と同じ構成を有し、炉心20Aを備えたTRU消滅炉である。
炉心20Aに装荷された燃料集合体41H(図23及び図25参照)は、チャンネルボックス13内に、外径7.2mmの397本の燃料棒44Fを正三角形格子に配置している。燃料棒44Fの相互間の間隙が2.2mmであり、最外層の燃料棒列の一辺には11本の燃料棒44Fが配置される。チャンネルボックス13内の単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレットの横断面積の割合が36%である。炉心20Aは、平衡炉心の状態において図24に示すように、経験した運転サイクル数が異なる燃料集合体41A〜41Dを配置している。運転サイクル数が第4サイクル目の燃料集合体41Dは、炉心最外層領域46(図15参照)に配置される。炉心外側領域48には運転サイクル数が第1サイクル目の燃料集合体41Aが配置され、炉心内側領域50には運転サイクル数が第2〜第4サイクル目の各燃料集合体41B、41C、41Dがそれぞれ分散配置されている。炉心内側領域50と炉心外側領域48の間に、複数の燃料集合体41Bが環状に配置された中間領域が存在する。このような炉心の半径方向における出力分布がより平坦化される。図24に示された燃料集合体41A〜41Eは、それぞれ、燃料集合体41Hである。
燃料集合体41Hの核燃料物質が存在する核燃料物質領域16A(図26参照)は、燃料集合体41から下部ブランケット9を取り除いた構成となっている。核燃料物質領域16Aでは、図26に示すように、上部ブランケット領域5の高さが20mm、上部燃料領域6の高さが218mm、内部ブランケット領域7の高さが560mm、及び下部燃料領域8の高さが224mmである。また、上部ブランケット領域5の上方に形成された上部反射体領域10の高さが1100mm、下部燃料領域8の下方に形成された下部反射体領域11の高さは70mmである。
炉心20Aの核燃料物質領域12は下部ブランケット領域9Aを有していない。この核燃料物質領域12は、上部ブランケット領域5、上部燃料領域6、内部ブランケット領域7及び下部燃料領域8のそれぞれの高さと同じ高さを有する上部ブランケット領域5A、上部燃料領域6A、内部ブランケット領域7A及び下部燃料領域8Aを含んでいる。
各燃料集合体41Hの構造を、図25を用いて説明する。燃料集合体41Hは、燃料集合体41の燃料棒44を燃料棒44Fに替えた以外は、燃料集合体44と同じ構成を有する。燃料棒44Fは、前述した核燃料物質領域16Aを有し、核燃料物質領域16Aの上方にプレナム2、及び核燃料物質領域16Aの下方に中性子吸収材充填領域4Aを有している。プレナム2の外径が3.7mmであり、プレナム2の長さが1100mmである。燃料棒44Fの核燃料物質領域16Aには、上部ブランケット領域5、上部燃料領域6、内部ブランケット領域7及び下部燃料領域8が存在する。燃料棒44Fの、中性子吸収材充填領域4Aの部分での外径は、8.1mmであって、燃料棒44Fの、核燃料物質領域16Aの部分の外径よりも大きくなっている(図25及び図27参照)。外径6.2mmの中性子吸収部材3が、プレナム2間に配置される。燃料集合体格子の横断面積に対する全ての中性子吸収材充填領域3の合計横断面積の割合が、44.0%である。この44.0%には、制御棒42の横断面積が含まれていない。
燃料集合体41Hが燃焼度ゼロのとき、その燃料集合体41Hの全ての燃料棒44F(図19に示された燃料棒44A〜44E)は、上部ブランケット領域5及び内部ブランケット領域7に劣化ウランを充填し、上部燃料領域6及び下部燃料領域8には燃焼度ゼロの状態で表2に示された組成のTRUを含むTRU酸化物燃料を充填している。このTRU酸化物燃料の核分裂性Pu富化度は13.0wt%であり、TRU中のPu−239の割合は8.5wt%である。燃料集合体41Hに用いられるTRUは、使用済燃料集合体に含まれた使用済核燃料を再処理することによって得られる。各ブランケット領域は、その混合酸化物燃料を充填していなく、TRUを含んでいない。なお、各ブランケット領域には劣化ウランのかわりに、天然ウランや、使用済み燃料集合体から回収される減損ウランを用いてもよい。
BWRの運転中、各燃料棒44F内で核分裂性物質の核分裂によって発生した揮発性核分裂生成物の十分な量を、1100mmの長さを有するプレナム2に貯蔵することができる。このため、燃料棒44の健全性が増大する。
本実施例によれば、核燃料物質領域12の上端よりも上方へ300mmの位置に、500mmの長さを有する複数の中性子吸収部材3を配置し、核燃料物質領域12の下端よりも下方に複数の中性子吸収材充填領域4Aを配置しているので、ABWRでは起因事象として起こりえない事象である、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったと想定しても、核燃料物質領域12に正の反応度が投入されることを回避することができる。その状
態になったときには、核燃料物質領域12に負の反応度が投入される。
さらに、本実施例は実施例1で生じる効果を得ることができる。本実施例は、(1)及び(2)の構成を有しているので、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になった場合にも核燃料物質領域12に正の反応度が投入されなく、燃料棒の健全性が増大する。したがって、本実施例は、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
本実施例の炉心20Aでは、現行のABWRとほぼ同じ大きさの原子炉圧力容器27を用いてABWRと同じ電気出力1350MWを発生させたとき、取り出し燃焼度が65GWd/t、ボイド係数が−3×10−4Δk/k/%void、MCPRは1.3になる。炉心20Aでは、TRU同位元素の割合保持を実現しつつ、燃料集合体41Hが使用済燃料集合体として炉心20Aから取り出されてから3年後の、使用済燃料集合体内の使用済核燃料の再処理で得られるTRUの重量を、炉心に新たに装荷される燃料集合体41HのTRU重量から8.3%減少させることができる。また、燃料集合体41Hが炉心20Aに装荷されてから取り出されるまでの期間において、燃料集合体41H内の核燃料物質の全核分裂重量に占めるTRUの核分裂重量の割合であるTRU核分裂効率は55%である。なお、TRU同位元素の割合保持とは、nTRUリサイクル世代と(n+1)nTRUリサイクル世代でTRU同位元素の割合が同じであることを意味する。
本実施例においても、中性子吸収部材3の替りに、中性子吸収部材3A及び3Bのいずれかを用いてもよい。
本発明の他の実施例である実施例3の軽水炉の炉心を、図28を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心は、実施例1の炉心20と同様に、前述した(1)、(2)及び(3)の構成を備えている。
本実施例の炉心は、実施例1の炉心20において燃料集合体41を燃料集合体41Iに替えた構成を有する。本実施例の炉心の他の構成は炉心20と同じである。燃料集合体41Iは燃料集合体41において燃料棒44を燃料棒44Gに替えた構成を有する。燃料集合体41Iの他の構成は燃料集合体41と同じである。
燃料集合体41Iに含まれる燃料棒44Gは燃料棒44のプレナム2をプレナム2Aに替えた構成を有する。燃料棒44Gは、プレナム2A、燃料棒44と同様な核燃料物質領域16及び中性子吸収材充填領域4を有している。プレナム2Aが核燃料物質領域16の上方に配置され、中性子吸収材充填領域4が核燃料物質領域16の下方に配置される。燃料棒44Gの核燃料物質領域16及び中性子吸収材充填領域4のそれぞれの部分の外径が10.1mmである。チャンネルボックス13内の単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレットの横断面積の割合が53%である。
プレナム2Aは第1領域35A及び第2領域35Bを有する。プレナム2Aの、第1領域35Aの部分での外径が4.8mm、プレナム2Aの、第2領域35Bの部分での外径が4.4mmである。第1領域35Aの部分での外径が第2領域35Bの部分での外径よりも大きくなっている。第1領域35Aが太径部で第2領域35Bが細径部である。第2領域35Bが第1領域35Aの上方に位置している。第1領域35Aの長さは300mmであり、第1領域35Aの上端は核燃料物質領域16の上端から上方に300mm離れた位置(中性子吸収部材3の下端)に位置している。第2領域35Bの下端は第1領域35Aの上端と同じ位置にある。
中性子吸収部材3が、隣り合う燃料棒44Gの、細径部である第2領域35Bの相互間に配置される。中性子吸収部材3の外径は、実施例1で用いられる中性子吸収部材3の外径(6mm)よりも大きくて7.4mmである。燃料集合体格子の横断面積に対する全ての中性子吸収部材3の合計横断面積の割合が、26.7%である。
本実施例の軽水炉の炉心は、全ての制約条件を満たして増殖比1.01を維持することができる。さらに、本実施例は、ABWRでは起因事象として起こりえない、仮に炉心全体が100%ボイド状態になったと想定した場合でも、炉心に正の反応度が投入されない。特に、本実施例では中性子吸収部材3の外径が実施例1における中性子吸収部材3の外径よりも大きいので、仮に炉心全体が100%ボイド状態になったとした場合において、本実施例で炉心に投入される反応度は、実施例1でそのときに投入される反応度よりも負になる。
さらに、本実施例は実施例1で生じる効果を得ることができる。本実施例は、(2)及び(3)の構成を有するので、燃料棒の健全性が増大し、熱的余裕が増大する。
したがって、本実施例は、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
本発明の他の実施例である実施例4の軽水炉の炉心を、図29及び図30を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心は、実施例1の炉心20と同様に、前述した(1)及び(3)の構成を備えている。
本実施例の炉心は、実施例1の炉心20において燃料集合体41を燃料集合体41Jに替えた構成を有する。本実施例の炉心の他の構成は炉心20と同じである。燃料集合体41Jは燃料集合体41において燃料棒44を燃料棒44Hに替えた構成を有する。燃料集合体41Jの他の構成は燃料集合体41と同じである。
燃料集合体41Jに含まれる燃料棒44Hは燃料棒44のプレナム2をプレナム2Bに替えた構成を有する。燃料棒44Hは、プレナム2B、燃料棒44と同様な核燃料物質領域16及び中性子吸収材充填領域4を有している。プレナム2Bが核燃料物質領域16の上方に配置され、中性子吸収材充填領域4が核燃料物質領域16の下方に配置される。燃料棒44Hの核燃料物質領域16及び中性子吸収材充填領域4のそれぞれの部分の外径が10.1mmである。チャンネルボックス13内の単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレットの横断面積の割合が53%である。プレナム2Bは第1領域35C及び第2領域35Dを有する。プレナム2Bの、第1領域35Cの部分での外径が5.8mm、プレナム2Bの、第2領域35Dの部分での外径が7.4mmである。第2領域35Dの部分での外径が第1領域35Cの部分での外径よりも大きくなっている。第1領域35Cが細径部で第2領域35Dが太径部である。第2領域35Dが第1領域35Cの上方に位置している。第1領域35Cの長さは800mmであり、第2領域35Dの長さは300mmである。第2領域35Dの下端は、核燃料物質領域16の上端から上方に800mm離れた位置(中性子吸収部材3の上端)にあり、第1領域35Cの上端と同じ位置にある。
外径6mmの中性子吸収部材3が、隣り合う燃料棒44Hの、細径部である第1領域35Cの相互間に配置される。
本実施例の軽水炉の炉心は、全ての制約条件を満たして増殖比1.01を維持することができる。本実施例では、中性子吸収部材3の上端よりも上方に存在するプレナム2Bの第2領域35Dが、太径部になっているので、プレナム2Bの容積が実施例1におけるプレナム2のそれよりも大きくなっている。このため、燃料棒44H内の圧力がさらに低減され、本実施例で用いられる燃料棒44Hの健全性が実施例1で用いる燃料棒44よりも増大する。
さらに、本実施例は実施例1で生じる効果を得ることができる。本実施例は、(1)及び(3)の構成を有するので、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったとしても、炉心に正の反応度を投入することを避けることができ、且つ熱的余裕が増大する。したがって、本実施例は、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
本発明の他の実施例である実施例5の軽水炉の炉心を、図31及び表2を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心は、前述した(1)及び(3)の構成を備えている。本実施例の軽水炉の炉心が適用される軽水炉は、TRU消滅炉である。
本実施例の軽水炉の炉心は、実施例2の炉心20Aにおいて燃料集合体41Hを燃料集合体41Kに替えた構成を有する。本実施例の炉心の他の構成は炉心20Aと同じである。燃料集合体41Kは燃料集合体41Hにおいて燃料棒44Fを燃料棒44Iに替えた構成を有する。燃料集合体41Kの他の構成は燃料集合体41Hと同じである。チャンネルボックス13内の単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレットの横断面積の割合が36%である。
燃料集合体41Kに含まれる燃料棒44Iは燃料棒44Fのプレナム2をプレナム2Bに替えた構成を有する。燃料棒44Jは、プレナム2B、燃料棒44と同様な核燃料物質領域16及び中性子吸収材充填領域4Aを有している。実施例4における第1領域35C及び第2領域35Dを有するプレナム2Bが核燃料物質領域16の上方に配置され、中性子吸収材充填領域4Aが核燃料物質領域16の下方に配置される。プレナム2Bの、第1領域35Cの部分での外径が3.7mm、プレナム2Bの、第2領域35Dの部分での外径が5.6mmである。第2領域35Dの部分での外径が第1領域35Cの部分での外径よりも大きくなっている。第2領域35Dが第1領域35Cの上方に配置される。第2領域35Dの下端は、核燃料物質領域16の上端から上方に800mm離れた位置(中性子吸収部材3の上端)にあり、第1領域35Cの上端と同じ位置にある。
外径8.1mmの中性子吸収部材3が、隣り合う燃料棒44Iの、細径部である第1領域35Cの相互間に配置される。
本実施例の軽水炉の炉心は、全ての制約条件を満たして増殖比1.01を維持することができる。本実施例では、中性子吸収部材3の上端よりも上方に存在するプレナム2Bが、第2領域35Dを有しているので、プレナム2Bの容積が実施例2で用いられる燃料棒44Fのプレナム2の容積よりも大きくなる。このため、燃料棒44I内の圧力を低減させることができ、本実施例で用いられる燃料棒44Iの健全性が実施例2で用いられる燃料棒44Fよりも増大する。
さらに、本実施例は実施例2で生じる効果を得ることができる。本実施例は、(1)及び(3)の構成を有するので、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったとしても、炉心に正の反応度を投入することを避けることができ、且つ熱的余裕が増大する。したがって、本実施例は、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
本発明の他の実施例である実施例6の軽水炉の炉心を、図32〜図34及び表2を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心20Bは、前述した(1)及び(2)の構成を備えている。本実施例の軽水炉の炉心が適用される軽水炉は、TRU消滅炉である。
本実施例炉心20Bは、実施例2の炉心20Aにおいて燃料集合体41Hを燃料集合体41Lに替えた構成を有する。本実施例の炉心20Bの他の構成は炉心20Aと同じである。燃料集合体41Lは燃料集合体41Hにおいて燃料棒44Fを燃料棒44Jに替えた構成を有する。燃料集合体41Lの他の構成は燃料集合体41Hと同じである。燃料集合体41Lの縦断面の形状は、燃料集合体41Hの、図25に示された縦断面の形状と同じである。
本実施例の炉心20Bは、電気出力が450MWの一領域炉心であり、TRU消滅炉に適用される炉心である。炉心20Bに装荷された燃料集合体41Lは、チャンネルボックス13内に、外径8.7mmの331本の燃料棒44Jを正三角形格子に配置している。燃料棒44Jの相互間の間隙が1.6mmであり、最外層の燃料棒列の一辺には10本の燃料棒44Jが配置される。チャンネルボックス13内の単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレットの横断面積の割合が46%である。炉心20Bは、平衡炉心の状態において図33に示すように、経験した運転サイクル数が異なる燃料集合体41A〜41Dを配置している。運転サイクル数が第4サイクル目の燃料集合体41Dは、炉心最外層領域46に配置される。炉心外側領域48には運転サイクル数が第1サイクル目の燃料集合体41Aが配置され、炉心内側領域50には運転サイクル数が第2〜第4サイクル目の各燃料集合体41B、41C、41Dがそれぞれ分散して配置されている。炉心内側領域50と炉心外側領域48の間に、複数の燃料集合体41Bが環状に配置された中間領域が存在する。このような炉心20Bの半径方向における出力分布がより平坦化される。図33に示した燃料集合体41A〜41Dは、それぞれ、燃料集合体41Lである。
燃料集合体41Lの核燃料物質が存在する核燃料物質領域16B(図34参照)は、上部ブランケット領域5、燃料領域34及び下部ブランケット領域9を有する。上部ブランケット領域5の上端より上方に上部反射体領域10が存在し、下部ブランケット領域9の下端より下方に下部反射体領域11が存在する。上部ブランケット領域5の高さが20mm、燃料領域34の高さが201mm、及び下部ブランケット領域9の高さが20mmである。また、上部反射体領域10の高さが1100mm、及び下部反射体領域11の高さが70mmである。
炉心20Bの核燃料物質領域12は、図示されていないが、上部ブランケット領域5、燃料領域34及び下部ブランケット領域9のそれぞれの高さと同じ高さを有する上部ブランケット領域5A、燃料領域34A及び下部ブランケット領域9Aを含んでいる。上部ブランケット領域5A、燃料領域34A及び下部ブランケット領域9Aは、炉心20Bの軸方向にこの順に配置される。
燃料棒44Jの、プレナム2の部分での外径が4.2mmであり、中性子吸収部材3の外径が6.7mmである。燃料棒44Jの、中性子吸収材充填領域4Aの部分での外径が9.0mmである。燃料集合体格子の横断面積に対する全ての中性子吸収部材3の合計横断面積の割合が、26.0%である。燃料集合体格子の横断面積に対する全ての中性子吸収材充填領域4Aの合計横断面積の割合が、46.7%である。
燃料集合体41Lが燃焼度ゼロのとき、その燃料集合体41Lの全ての燃料棒44J(図19に示された燃料棒44A〜44E)は、上部ブランケット領域5及び下部ブランケット領域9に劣化ウランを充填し、燃料領域34には燃焼度ゼロの状態で表3に示す組成のTRUを含むTRU酸化物燃料を充填している。このTRU酸化物燃料の核分裂性Pu富化度は7.4wt%であり、TRU中のPu−239の割合は4.0wt%である。燃料集合体41Lに含まれたTRUは、使用済燃料集合体に含まれた使用済核燃料を再処理することによって得られる。各ブランケット領域は、その混合酸化物燃料を充填していなく、TRUを含んでいない。なお、各ブランケット領域には劣化ウランのかわりに、天然ウランや、使用済み燃料集合体から回収される減損ウランを用いてもよい。
本実施例の炉心20Bを適用した軽水炉の運転中、各燃料棒44J内で核分裂性物質の核分裂によって発生した揮発性核分裂生成物の十分な量を、1100mmの長さを有するプレナム2に貯蔵することができる。このため、燃料棒44の健全性を確保できる。
本実施例によれば、核燃料物質領域12の上端よりも上方へ300mmの位置に、500mmの長さを有する複数の中性子吸収部材3を配置し、核燃料物質領域12の下端よりも下方に複数の中性子吸収材充填領域4Aを配置しているので、ABWRでは起因事象として起こりえない事象である、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になったと想定しても、核燃料物質領域12に正の反応度が投入されることを回避することができる。その状態になったときには、核燃料物質領域12に負の反応度が投入される。
さらに、本実施例は実施例2で生じる効果を得ることができる。本実施例は、(1)及び(2)の構成を有しているので、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
本実施例の炉心20Bでは、現行のABWRとほぼ同じ大きさの原子炉圧力容器を用いて、電気出力450MWを発生させたとき、取り出し燃焼度が75GWd/t、ボイド係数が−3×10−5Δk/k/%void、MCPRが1.3になる。炉心20Bでは、TRU同位元素の割合保持を実現しつつ、燃料集合体41Lが使用済燃料集合体として炉心20Bから取り出されてから3年後の、使用済燃料集合体内の使用済核燃料の再処理で得られるTRUの重量を、炉心に新たに装荷される燃料集合体41LのTRU重量から7.4%減少させることができる。また、燃料集合体41Lが炉心20Bに装荷されてから取り出されるまでの期間において、燃料集合体41L内の核燃料物質の全核分裂重量に占めるTRUの核分裂重量の割合であるTRU核分裂効率は80%である。
本発明の他の実施例である実施例7の軽水炉の炉心を、図10、図35、図36及び表4を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心20Cは、(4)の構成を有する。本実施例の軽水炉の炉心20Cは、電気出力が1350MWで、872体の燃料集合体41Mが装荷された、ABWRの炉心である。横断面が十字型の複数の制御棒47が、原子炉出力を制御するために、炉心20Cに出し入れされる。
1体の燃料集合体41Mは74本の燃料棒を有しており、燃料集合体41Mの横断面は正方形をしている。燃料集合体41Mは、図36に示すように、横断面が正方形状の筒であるチャンネルボックス13A内に、外径11.2mmの74本の燃料棒44Mを配置している。これらの燃料棒44Kは正方格子状に配置されている。2本の水ロッド39が、燃料集合体41Mの横断面の中央部に配置している。
炉心20Cの核燃料物質が装荷されている核燃料物質領域の高さが3.71mである。炉心20Cに装荷された複数の燃料集合体41Jは、図10に示すように、燃料集合体A,B,C,D,E,F,G,Hを含んでいる。これらの燃料集合体は、リサイクル回数の異なるTRUを核燃料物質として燃料棒44Kに充填している。
具体的には、燃焼度ゼロの燃料集合体Aの各燃料棒44Kは、平衡炉心から取り出された使用済燃料集合体の使用済核燃料を再処理して得られたTRU(リサイクル回数が1回のTRU)を充填している。燃焼度ゼロの燃料集合体Bの各燃料棒44Kは、平衡炉心から取り出された使用済燃料集合体である燃料集合体Aの使用済核燃料を再処理して得られたTRU(リサイクル回数が2回のTRU)を充填している。燃焼度ゼロの燃料集合体Cの各燃料棒44Kは、平衡炉心から取り出された使用済燃料集合体である燃料集合体Bの使用済核燃料を再処理して得られたTRU(リサイクル回数が3回のTRU)を充填している。同様に、燃焼度ゼロの燃料集合体Dの各燃料棒44Kは燃料集合体Cの使用済核燃料から得られたTRU(リサイクル回数が4回のTRU)を充填し、燃焼度ゼロの燃料集合体Eの各燃料棒44Kは燃料集合体Dの使用済核燃料から得られたTRU(リサイクル回数が5回のTRU)を充填している。燃焼度ゼロの燃料集合体Fの各燃料棒44Kは燃料集合体Eの使用済核燃料から得られたTRU(リサイクル回数が6回のTRU)を充填し、燃焼度ゼロの燃料集合体Gの各燃料棒44Kは燃料集合体Fの使用済核燃料から得られたTRU(リサイクル回数が7回のTRU)を充填し、燃焼度ゼロの燃料集合体Hの各燃料棒44Kは燃料集合体Gの使用済核燃料から得られたTRU(リサイクル回数が7回のTRU)を充填している。燃料集合体Aの各燃料棒44Kに充填されるTRU(リサイクル回数が1回のTRU)は、燃焼度ゼロのときにTRUを含まない、低濃縮ウランを燃料棒に充填した燃料集合体の使用済核燃料から回収される。リサイクル回数の異なるTRUは、混合されることなく、別々に、異なる燃料集合体(例えば、燃料集合体A,B,C等)の燃料棒に充填される。
炉心20Cでは、TRUのリサイクルの回数が異なっている燃料集合体A〜Hのうち、リサイクルの回数が最も少ないTRUを含む複数の燃料集合体Aを中央部に配置し、この中央部と炉心最外層領域の間において、リサイクル回数の多いTRUを含む燃料集合体ほど、炉心最外層領域側に配置される。具体的には、燃料集合体B,C,D,E,F,G及びHの各燃料集合体が、アルファベットの順に、燃料集合体Aを配置した中央部と炉心最外層領域に向って配置される。
炉心20Cでは、燃料集合体A1が100体、燃料集合体B1が40体、燃料集合体C1が24体、燃料集合体D1が16体、燃料集合体E1が12体、燃料集合体F1が8体、燃料集合体G1が4体、及び燃料集合体H1が4体である。これらの体数は、各燃料集合体A1、B1,C1,D1,E1,F1,G1,H1が燃焼度ゼロであるときの体数である。
炉心20Cに装荷された燃料集合体A〜Hは、それぞれ、炉内滞在期間(運転サイクル数)が異なる燃料集合体を含んでいる。リサイクル回数の異なるTRUを含んでいる燃料集合体を識別するアルファベット(例えば、燃料集合体の次に記載されたA〜H)の後に付された数字1,2,3,4,5は、該当する燃料集合体(例えば、燃料集合体A、燃料集合体B等)の、炉内滞在期間(運転サイクル数)を示している。その数字が大きいほど、炉内滞在期間が長いことを意味している。「1」が付された燃料集合体は炉内滞在期間が第1サイクル目の燃料集合体であり、「5」が付された燃料集合体は炉内滞在期間が第5サイクル目の燃料集合体である。
例えば、燃料集合体A1は、リサイクル回数が一回のTRUを含み、炉心20Cに装荷されてから1つ目の運転サイクルでの運転を経験しつつある燃料集合体である。燃料集合体E5は、リサイクル回数が五回のTRUを含み、炉心20Cに装荷されてから5つ目の運転サイクルでの運転を経験しつつある燃料集合体である。燃料集合体A〜C、及び燃料集合体Dの一部は、炉心20Cに装荷されてから4つ目の運転サイクルの運転が終了した後、使用済燃料集合体として、原子炉から外部に取り出される。燃料集合体Dの残り、及び燃料集合体F〜Hは、炉心20Cに装荷されてから5つ目の運転サイクルでの運転が終了した後、使用済燃料集合体として、原子炉から外部に取り出される。
同じリサイクル回数のTRUを含む複数の燃料集合体では、炉内滞在期間が異なる燃料集合体同士を隣接させて配置する。例えば、ある燃料集合体A1では、図10の左右に燃料集合体A4を隣接させ、図10の上下に燃料集合体A3を隣接させて配置している。
表4には、燃料集合体A〜H及び使用済燃料集合体として取り出された燃料集合体のそれぞれのTRUの重量及びTRUの組成が示されている。表4に示されたA〜Hが燃料集合体A〜Hに相当する。使用済燃料集合体として取り出された燃料集合体は、燃料集合体H5である。
本実施例の炉心20Cによれば、炉心20Cのボイド率が上昇したときに、炉心20Cの中心部における無限中性子実効増倍率の上昇が、炉心最外層領域における無限中性子実効増倍率の上昇より相対的に小さくなる。このため、出力分布の炉心中央部へのシフトが小さくなる(図9参照)。したがって、炉心20Cに、リサイクル回数が8回のTRUを含む燃料集合体H1〜H5が装荷されているのにもかかわらず、使用済燃料集合体として炉心20Cから取り出された燃料集合体H5の取り出し燃焼度が45GWd/tになり、炉心20Cのボイド係数が−4×10−4%Δk/%voidになる。炉心20Cは、TRUをリサイクルしなかった場合に比べて、使用済燃料集合体の発生体数を0.5%以下に減少させることができる。
本実施例の炉心20Cに装荷された燃料集合体では、核燃料物質として、TRUと劣化ウランの混合酸化物燃料を用いたが、劣化ウランのかわりに、天然ウラン、及び使用済燃料集合体から回収される減損ウランを用いてもよい。また、TRUの替りに、TRUから抽出したPuや、TRU中のいくつかのマイナーアクチノイド核種とPuを用いてもよい。
本発明の他の実施例である実施例8の軽水炉の炉心を、図37及び図38を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心は、実施例1の炉心20と同様に、前述した(1)、(2)及び(3)の構成を備えている。
本実施例の炉心は、実施例1の炉心20において燃料集合体41を燃料集合体41Nに替えた構成を有する。本実施例の炉心の他の構成は炉心20と同じである。燃料集合体41Nは燃料集合体41において燃料棒44を燃料棒44Lに替えた構成を有する。燃料集合体41Nの他の構成は燃料集合体41と同じである。
燃料集合体41Nに含まれる燃料棒44Lは、燃料集合体41に含まれる燃料棒44と同様に、プレナム2、核燃料物質領域16及び中性子吸収材充填領域4を有する。燃料棒44Lの、プレナム2、核燃料物質領域16及び中性子吸収材充填領域4のそれぞれの部分の外径は、燃料棒44の、それらの部分の外径と同じである。
燃料集合体41Nの核燃料物質が存在する核燃料物質領域16は、図37に示すように、上部ブランケット領域5、上部燃料領域6、内部ブランケット領域7、下部燃料領域8及び下部ブランケット領域9を有する。上部ブランケット領域5の上端より上方に上部反射体領域10が存在し、下部ブランケット領域9の下端より下方に下部反射体領域11が存在する。上部ブランケット領域5の高さが70mm、上部燃料領域6の高さが242mm、内部ブランケット領域7の高さが520mm、下部燃料領域8の高さが220mm、下部ブランケット領域9の高さが280mmである。下部燃料領域8の高さと上部燃料領域6の高さの和は462mm、上部燃料領域6の高さは下部燃料領域8の高さの1.10倍である。上部反射体領域10の高さが1100mmで、下部反射体領域11の高さが70mmである。本実施例では、燃料棒44Lの上部燃料領域6に充填された燃料ペレットは、他の実施例と異なり、全て中空ペレットになっている。燃料棒44L内で、上部燃料領域6以外の上部ブランケット領域5、内部ブランケット領域7、下部燃料領域8及び下部ブランケット領域9のそれぞれに充填された全ての燃料ペレットは、他の実施例で用いられる中実ペレットである。
燃料集合体41Nが燃焼度ゼロのとき、その燃料集合体41Nの全ての燃料棒44Lは、3つのブランケット領域に劣化ウランを充填し、上部燃料領域6及び下部燃料領域8に混合酸化物燃料を充填している。燃料集合体41Nの上部燃料領域6及び下部燃料領域8では、TRUの重量を100としたときに劣化ウランを重量173の割合で混合した核分裂性Puの富化度が、それぞれ18.0wt%である。TRUは、使用済燃料集合体である燃料集合体41Nに含まれている使用済核燃料から再処理によって回収される。各ブランケット領域は、その混合酸化物燃料を充填していなく、TRUを含んでいない。なお、各ブランケット領域には劣化ウランのかわりに、天然ウラン、及び使用済燃料集合体から回収される減損ウランを用いてもよい。
燃料集合体41N内に配置される燃料棒44Lとして、燃料棒44N〜44Rが用いられる。燃料棒44N〜44Rが、図32に示すように、チャンネルボックス13内に配置される。燃焼度ゼロの燃料集合体41Nにおいて、上部燃料領域6及び下部燃料領域8のそれぞれにおける核分裂性Pu富化度が、燃料棒44Nで10.7wt%、燃料棒44Oで13.5wt%、燃料棒44Pで16.8wt%、燃料棒44Qで18.2wt%及び燃料棒44Rで19.5wt%である。
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、(1)、(2)及び(3)の構成を有しているので、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になった場合にも核燃料物質領域12に正の反応度が投入されなく、燃料棒の健全性が増大し、熱的余裕が増大する。したがって、本実施例は、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
本実施例の炉心は、全ての制約条件を満たし増殖比1.01を維持できる。さらに、本実施例では、燃料集合体41Nにおける燃料棒44N〜44Rのそれぞれの上部燃料領域6及び下部燃料領域8で、核分裂性Pu富化度を等しくしている。このため、本実施例では、上部燃料領域6と下部燃料領域8で核分裂性Pu富化度が異なっている実施例1で用いられる燃料集合体41と比較して、核分裂性Pu富化度の種類を9種類から5種類に減らすことができ、それだけ、製造すべき燃料ペレットの種類を低減できる。
本発明の他の実施例である実施例9の軽水炉の炉心を、図39を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心は、前述した(2)の構成を備えている。
本実施例の炉心は、実施例1の炉心20において燃料集合体41を燃料集合体41Qに替えた構成を有する。本実施例の炉心の他の構成は炉心20と同じである。燃料集合体41Qは燃料集合体41において中性子吸収部材3及び中性子吸収材領域4を取り除いた構成を有する。燃料集合体41Qの他の構成は燃料集合体41と同じである。燃料集合体41Qは複数の燃料棒44Lを有する。燃料棒44Sは、実施例1で用いられる燃料棒44から中性子吸収材領域4を取り除いた構成を有する。
本実施例は、燃料棒44Sの、プレナム2の部分での外径が5.8mmでありプレナム2の長さが1100mmである。燃料棒44Sの、核燃料物質領域16の部分での外径が10.1mmである。チャンネルボックス13内の単位燃料棒格子の横断面積に占める燃料ペレットの横断面積の割合が53%である。
このため、プレナム2の容積が増大するので、燃料棒の健全性を増大することができる。さらに、燃料棒44S内に形成されるプレナム2の部分の外径が、燃料棒44Sの、プレナム部より下方の核燃料物質充填領域16の部分の外径よりも小さくなっているので、炉心全体が100%ボイドの状態になったときに、核燃料物質領域12に投入される反応度が1ドル以下になる。このため、第1設計基準外事故の複合事象が発生しても、高圧炉心注水系の作動により、炉心に注水される冷却水の流量で燃料棒が冷却可能な出力まで、出力が自動的に低下してBWRの安全性が保たれる。したがって、本実施例は、軽水炉の経済性を損なうことなく安全余裕をさらに増大させることができる。
本実施例の炉心は、全ての制約条件を満たし増殖比1.01を維持できる。
本発明の他の実施例である実施例11の軽水炉の炉心を、図40及び表5を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心は、実施例2の炉心20Aと同様に、前述した(1)、(2)及び(3)の構成を備えている。
本実施例の炉心は、実施例2において燃料集合体41Hを燃料集合体41R(図41参照)に替えた構成を有する。本実施例の炉心の他の構成は炉心20Aと同じである。
本実施例の炉心に装荷された燃料集合体41Rにおける核燃料物質領域16Aは、燃料集合体41Hと同様に、上部ブランケット領域5、上部燃料領域6、内部ブランケット領域7及び下部燃料領域8を有する。上部ブランケット領域5の高さが50mm、上部燃料領域6の高さが183mm、内部ブランケット領域7の高さが560mm、下部燃料領域8の高さが173mmである。上部ブランケット領域5の上方に高さ1100mmの上部反射体領域10が存在し、下部燃料領域8の下方に高さ70mmの下部反射体領域11が存在する。上部燃料領域6の高さは、下部燃料領域8の高さの1.06倍である。
燃料集合体41Rは、チャンネルボックス13内に、外径7.6mmの397本の燃料棒を正三角形格子に配置している。燃料棒の相互間の間隙が1.8mmであり、最外層の燃料棒列の一辺には11本の燃料棒が配置される。燃料集合体41Rが燃焼度ゼロのとき、その燃料集合体41Rの全ての燃料棒は、上部ブランケット領域5及び内部ブランケット領域7に劣化ウランを充填し、上部燃料領域6及び下部燃料領域8には燃焼度ゼロの状態で表5に示す組成のTRUを含むTRU酸化物燃料を充填している。このTRU酸化物燃料の核分裂性Pu富化度は18.0wt%であり、TRU中のPu−239の割合は13.4wt%である。
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。本実施例の炉心は、実施例2の炉心20Aに装荷された燃料集合体41HのTRU組成とは異なるTRU組成においても、TRUを効率良く消滅させることができる。
本発明の他の実施例である実施例11の軽水炉の炉心を、図41及び表6を用いて説明する。本実施例の軽水炉の炉心は、実施例2の炉心20Aと同様に、前述した(1)及び(2)の構成を備えている。
本実施例の炉心は、実施例2において燃料集合体41Hを燃料集合体41S(図41参照)に替えた構成を有する。本実施例の炉心の他の構成は炉心20Aと同じである。
本実施例の炉心に装荷された燃料集合体41Sにおける核燃料物質領域16Aは、燃料集合体41Hと同様に、上部ブランケット領域5、上部燃料領域6、内部ブランケット領域7及び下部燃料領域8を有する。上部ブランケット領域5の高さが20mm、上部燃料領域6の高さが217mm、内部ブランケット領域7の高さが560mm、下部燃料領域8の高さが224mmである。また、上部反射体領域10の高さが1100mm、下部反射体領域11の高さが70mmである。
燃料集合体41Sの横断面は図23と同じである。燃料集合体41Sが燃焼度ゼロのとき、その燃料集合体41Sの全ての燃料棒は、上部ブランケット領域5及び内部ブランケット領域7に酸化トリウムを充填する。本実施例の炉心20Aに装荷する燃料集合体41Sの上部燃料領域6及び下部燃料領域8が、燃料集合体41Sが燃焼度ゼロのとき、現行のABWR炉心から取り出された取り出し燃焼度45GWd/tの使用済燃料集合体(低濃縮ウランを含む)を再処理して得られた表6の組成を有するTRU(以下、現行炉排出TRUという)、及びトリウムの混合酸化物燃料を含んでいる。燃焼度ゼロの燃料集合体41Sを装荷した炉心は、TRU第1世代リサイクル炉心(以下、RG1炉心という)である。その現行のABWR炉心には、低濃縮ウランを含む燃料集合体が装荷される。RG1炉心から使用済燃料集合体として取り出された燃料集合体41Sを再処理して得られたTRUに、表6に示す組成を有する現行炉排出TRUを、炉心が臨界になる量だけ追加する。この追加によって得られたTRU、及びトリウムの混合酸化物燃料を、上部燃料領域6及び下部燃料領域8に含む燃焼度ゼロの燃料集合体41Sを装荷した炉心が、TRU第2世代リサイクル炉心(以下、RG2炉心)である。以後、TRUのリサイクルを繰り返す毎に、各世代のTRUリサイクル炉心から発生する使用済燃料集合体である燃料集合体41Sを再処理して得られるTRUに、現行炉排出TRUを、炉心が臨界になる量だけ追加し、この追加により得られたTRU及びトリウムの混合酸化物燃料を上部燃料領域6及び下部燃料領域8に含む燃焼度ゼロの燃料集合体41Sを炉心20Aに装荷し、この炉心20Aから取り出された使用済燃料集合体である燃料集合体41Sを再処理して得られるTRUの組成がほぼ一定になるまで繰り返される。
図42には、各リサイクル世代のリサイクル炉心に装荷された燃焼度ゼロの新燃料集合体に追加した現行炉排出TRUの重量が特性54に、これらのリサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体に含まれるTRUの重量が特性53にそれぞれ示されている。図43には、各リサイクル世代のリサイクル炉心に装荷された燃焼度ゼロの燃料集合体内のTRUに含まれるPu−239の重量割合割合が特性55に、これらのリサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体中のTRUに含まれるPu−239の重量割合が特性56にそれぞれ示される。各ブランケット領域は、その混合酸化物燃料が充填されていなく、TRUを含んでいない。
RG1炉心からRG10炉心までの各リサイクル世代の炉心は、現行炉排出TRUを含み取り出し燃焼度が65GWd/tの燃料集合体が装荷されている。これらのリサイクル世代の炉心では、現行炉排出TRUが核分裂される。本実施例では、これらのリサイクル世代の炉心において、図44に示す特性57のようにボイド係数が負で、特性58のようにBWRでは起因事象として起こりえない、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になった場合で、さらに全ての制御棒が作動しないと仮定した場合であっても、正の反応度が投入されることはない。
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。本実施例により、実施例2とは異なるTRU組成の核燃料物質においても、TRUを効率良く消滅させることができる。
W.S.Yang et al., A Metal Fuel Core Concept for 1000MWt Advanced Burner Reactor. GLOBAL ’07 Boise, USA, September, 2007, P.52には、軽水炉の使用済核燃料を再処理して回収されたTRUを核分裂させて減量するナトリウム冷却型のABRの概念が記載されている。さらに、この文献は、現在運転中の軽水炉とABRを共存させて運転することにより、軽水炉から発生するTRUを、軽水炉、ABR及び燃料サイクル施設内に閉じ込めることができ、TRUを原子炉外に貯蔵する必要がなくなり、長寿命放射性廃棄物の量を大幅に削減できることができることについても記載している。
しかし、ABRは、劣化ウランにTRUを富化した核燃料物質を使用し、冷却材としてNaを使用するので、炉心内の中性子エネルギーが高くなる。このため、富加したTRUが核分裂して削減されると同時に、U−238から新たに作られるTRUも多い。現在運転中の軽水炉からのTRUの全量をABRに収容するためには、軽水炉一基あたりABR一基の割合で建設する必要がある。ABRは軽水炉に比べて発電コストが高くなると予想されるので、軽水炉のみの運転の場合に比べて、経済性が損なわれる恐れがある。
そこで、劣化ウランにTRUを富加する替りに、TRUが新たに発生しないトリウムにTRUを富加した核燃料物質を含む燃料集合体を、炉心内の中性子エネルギーの低い、特開P2008−215818号公報に記載されたTRU消滅炉に装荷して運転することにより、TRUの新たな発生を防ぎ、TRUの核分裂効率を促進することができる。このため、軽水炉三基分のTRUを本実施のTRU消滅炉一基で核分裂させることが可能になって、発電コストの高いNa冷却のABRが不要となり、大幅に経済性が向上する。
本発明の他の実施例である実施例12の軽水炉の炉心を、図45から図46、表7及び表8を用いて以下に詳細に説明する。本実施例の炉心は、実施例7と同様な炉心20Cであり、現在運転中の電気出力が1350MWで、炉心に装荷されている872体の燃料集合体及び燃料集合体当り74本の燃料棒を有するABWRの炉心である。この炉心は、TRU消滅炉の炉心である。本実施例の構成は、実施例7と異なる部分について説明し、実施例7と同じ構成の説明は省略する。
本実施例の炉心20Cの横断面は図35と同じであり、この炉心20Cに装荷する燃料集合体41Mの横断面は図36と同じである。この炉心20Cには、核燃料物質領域の高さが3.71mの燃料集合体41Mが装荷されている。また、PWRの炉心には、低濃縮ウランを含む燃料集合体が装荷されている。PWRの炉心から取り出された取り出し燃焼度50GWd/tの使用済燃料集合体を再処理して得られた表7の組成を有するTRU(以下、現行炉排出TRU)、及び劣化ウランの混合酸化物燃料を有する燃焼度ゼロの燃料集合体を装荷した炉心が、TRU第1世代リサイクル炉心(以下、RG1炉心という)である。このRG1炉心から取り出された使用済燃料集合体を再処理して得られるTRUに、表7に示す組成を有する現行炉排出TRUを、炉心が臨界になる量だけ追加する。この追加によって得られたTRU及び劣化ウランの混合酸化物燃料を有する燃焼度ゼロの燃料集合体を装荷した炉心が、TRU第2世代リサイクル炉心(以下、RG2炉心)である。以後、TRUのリサイクルを繰り返す毎に、各世代のリサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体を再処理して得られるTRUに、現行炉排出TRUを炉心が臨界になる量だけ追加し、得られたTRU及び劣化ウランの混合酸化物燃料を有する燃焼度ゼロの燃料集合体を、炉心に装荷する。
表8に、RG1炉心からRG8炉心までの各リサイクル世代のリサイクル炉心における燃焼度ゼロの燃料集合体に含まれるTRU組成、及びRG8炉心から取り出した使用済燃料集合体に含まれるTRUの組成を示す。図45には、RG1炉心からRG8炉心までの各リサイクル世代のリサイクル炉心に装荷される燃焼度ゼロの燃料集合体に追加した現行炉排出TRUの重量が特性60に、これらのリサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体に含まれたTRUの重量が特性59にそれぞれ示される。図46には、RG1炉心からRG8炉心までの各リサイクル世代のリサイクル炉心に装荷される燃焼度ゼロの燃料集合体中のTRUに含まれるPu−239の重量割合が特性61に、これらのリサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体中のTRUに含まれるPu−239の重量割合が特性62にそれぞれ示される。
RG1炉心からRG8炉心までの各リサイクル世代の炉心は、現行炉排出TRUを含み取り出し燃焼度が45GWd/tの燃料集合体が装荷されている。これらのリサイクル世代の炉心では、現行炉排出TRUが核分裂される。本実施例では、これらのリサイクル世代の炉心において、図47に示す特性63のようにボイド係数が負で、特性64のようにBWRでは起因事象として起こりえない、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になった場合で、さらに全ての制御棒が作動しないと仮定した場合であっても、RG7炉心までは正の反応度が投入されることはない。RG8炉心においては、1ドル以下の正の投入反応度であるが、安全上十分な負のボイド係数を有している。
本実施例では、RG1炉心からRG7炉心までの使用済燃料集合体はすべて再処理され、排出したTRUは現行炉排出TRUと共に次のリサイクル世代の炉心に引き継がれる。従って、RG1炉心からRG8炉心で、使用済燃料集合体として残されるのは、RG8炉心から毎年取り出される208体のみである。一方、RG1炉心からRG8炉心までに使用されるTRU約14トンを供給するには、ABWRで現在使用されている低濃縮ウランの燃料集合体に換算してその使用済燃料集合体約8000体を再処理する必要がある。本実施例のABWRと現在運転中の低濃縮ウランを使用しているABWRを併用することにより、残される使用済燃料集合体数は、低濃縮ウラン燃料を使用したABWRのだけを運転するの場合の約2.6%に大幅に減少させることが出来る。
本発明の他の実施例である実施例13の軽水炉の炉心を、図48から図50、及び表6を用いて以下に詳細に説明する。本実施例の炉心は、実施例12と同様な炉心20Cであり、現在運転中の電気出力が1350MWで、炉心に装荷されている872体の燃料集合体及び燃料集合体当り74本の燃料棒を有するABWRの炉心である。この炉心は、TRU消滅炉の炉心である。本実施例の構成は、実施例12と異なる部分について説明し、実施例12と同じ構成の説明は省略する。
本実施例の炉心20Cには、核燃料物質領域の高さが3.71mの燃料集合体41Mが装荷されている。また、PWRの炉心には、低濃縮ウランを含む燃料集合体が装荷されている。炉心20Eの核燃料物質が装荷されている。また、ABWRの炉心には、低濃縮ウランを含む燃料集合体が装荷されている。ABWRの炉心から取り出された取り出し燃焼度45GWd/tの使用済燃料集合体を再処理して得られた表6の組成を有するTRU(以下、現行炉排出TRU)、及びトリウムの混合酸化物燃料を有する燃焼度ゼロの燃料集合体を装荷した炉心が、TRU第1世代リサイクル炉心(以下、RG1炉心という)である。このRG1炉心から取り出された使用済燃料集合体を再処理して得られるTRUに、表6に示す組成を有する現行炉排出TRUを、炉心が臨界になる量だけ追加する。この追加によって得られたTRU及びトリウムの混合酸化物燃料を有する燃焼度ゼロの燃料集合体を装荷した炉心が、TRU第2世代リサイクル炉心(以下、RG2炉心)である。以後、TRUのリサイクルを繰り返す毎に、各世代のリサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体を再処理して得られるTRUに、現行炉排出TRUを炉心が臨界になる量だけ追加し、得られたTRU及びトリウムの混合酸化物燃料を有する燃焼度ゼロの燃料集合体を、炉心に装荷する。
図48には、各リサイクル世代のリサイクル炉心に装荷される燃焼度ゼロの燃料集合体に追加した現行炉排出TRUの重量が特性66に、これらのリサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体中のTRUの重量が特性65にそれぞれ示されている。図49には、各リサイクル世代のリサイクル炉心に装荷される燃焼度ゼロの燃料集合体中のTRUに含まれるPu−239の重量割合が特性67に、これらのリサイクル炉心から取り出された使用済燃料集合体中のTRUに含まれるPu−239の重量割合が特性68にそれぞれ示されている。
RG1炉心からRG4炉心までの各リサイクル世代の炉心は、現行炉排出TRUを含み取り出し燃焼度が45GWd/tの燃料集合体が装荷されている。これらのリサイクル世代の炉心では、現行炉排出TRUが核分裂される。本実施例では、これらのリサイクル世代の炉心において、図50に示す特性69のようにRG3まではボイド係数が負で、図50に示す特性70のように、ABWRでは起因事象として起こりえない、仮に炉心全体が100%ボイドの状態になった場合で、さらに全ての制御棒が作動しないと仮定した場合であっても、RG3までは正の反応度が投入されることはない。
本実施例では、RG4以降のTRU多重リサイクルは安全上の課題が解決する必要があるが、ABRや他の実施例に比べてRG1の現行炉排出TRUの使用量が大きい。トリウムを含む燃料集合体の再処理技術が確立されるまでRG2炉心以降は当面実施しないとして、RG1炉心と現在の低濃縮ウランを使用しているABWRを併用する場合を評価する。RG1炉心から毎年取り出される使用済燃料集合体は208体である。一方、RG1炉心で使用されるTRU約5.7トンを供給するには、ABWRで現在使用されている低濃縮ウラン燃料集合体の使用済燃料集合体約3200体を再処理する必要がある。RG1炉心のABWRと現在運転中の低濃縮ウランを使用しているABWRを併用することにより、残される使用済み燃料体数は低濃縮ウラン燃料を使用したABWRだけを運転する場合の約6.5%に大幅に減少させることが出来る。本実施例は、現在運転中のABWRにおいて燃料集合体を変更するだけで使用済燃料集合体数の大幅削減を実現できる方法の一つである。また現在TRU処分の選択肢の一つとして考えられている使用済燃料集合体をそのまま地層処分する場合には、TRUとウランの混合酸化物燃料ペレットよりTRUとトリウムの混合酸化物燃料ペレットの方が化学的にはるかに安定であると考えられているので、トリウムを含む燃料集合体の再処理技術が確立されるまでの有効な方法となる。