JP5625238B2 - 溶鉄の精錬方法 - Google Patents

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本発明は、溶鉄の精錬方法に関し、詳しくは、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素(カーボン)を含有する使用済み耐火物を熱源として利用した、溶鉄に酸素源を供給して行う溶鉄の精錬方法に関するものである。
今日の鉄鋼業においては、多くの種類の耐火物が使用され、種々の設備に耐火物を施工し、溶銑及び溶鋼の精錬処理、並びに、溶銑及び溶鋼の輸送を行っている。耐火物の施工された設備では、その設備の使用回数の増加に伴って、施工された耐火物の損傷が進行する。これにより、安定操業が確保できなくなると、耐火物は解体され、新規の耐火物に更新される。解体後の耐火物は、造滓剤として製鋼用副原料にリサイクルされるものもあるが、その多くは、路盤材、埋め立て材として処理される他、廃棄されるのが現状である。
近年、地球環境保護の観点から、鉄鋼業においても循環型社会の形成が望まれ、使用済み耐火物のリサイクル技術の確立が急務となっている。また、近年のアジア経済の急激な発展による耐火物原料高騰化の可能性から、安価原料の確保及び資源の有効利用が必要になっている。この課題に対し、使用済み耐火物を耐火物原料としてリサイクルする技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、複数種類の使用済み耐火物を、それぞれ粉砕して分級し、これらの粒度範囲及び配合割合を規定することによって、Al23系不定形耐火物及びAl23−SiO2系不定形耐火物を主な対象とした耐火物原料にリサイクルする技術が開示されている。また、特許文献2には、高炉出銑樋の耐火物廃材を回収し、出銑樋に新たな耐火物を施工する際に、回収した耐火物廃材を全施工耐火物質量の50質量%以下の割合で配合してリサイクルする技術が開示されている。
特開2007−210874号公報 特開昭64−52010号公報
特許文献1及び特許文献2に開示されるように、使用済み耐火物のリサイクルは鋭意推進されている。しかしながら、Al23−C系耐火物及びAl23−SiC−C系耐火物に代表されるような、所謂、炭素含有耐火物に対しては、使用済み耐火物が湿潤性を有している場合もあって原料配合が難しいこと、また、炭素は水との濡れ性が悪いことに起因して炭素含有耐火物では混錬が難しいこと、などを理由に、上記技術ではリサイクルが困難である。
ところで、鉄鋼業の製鋼工程においては、転炉などの処理容器を用いて溶銑を精錬し、溶銑中の珪素、燐、硫黄などの不純物成分を除去したり、溶銑中の炭素を脱炭・除去して溶銑から溶鋼を溶製したりしている。特に、溶銑中の炭素を脱炭・除去して溶銑から溶鋼を溶製する、転炉における脱炭精錬においては、溶銑温度が低い場合や鉄スクラップの配合量が過大の場合には、熱量不足を補うために、炭材或いはフェロシリコンなどの昇熱材を投入し、溶湯の温度を上昇させることが行われている。但し、このような昇熱材は高価であり、製造コストの上昇を招くという問題がある。このため、安価な昇熱材が望まれていた。尚、炭材とは、コークス、石炭、木炭などの炭素を含有する物質である。
上記のAl23−C系耐火物及びAl23−SiC−C系耐火物などの炭素含有耐火物は、炭素や炭化珪素を含有していることから、下記の(1)式及び(2)式に示すように、酸素ガスや酸化鉄などの酸化剤と反応することにより、熱を発生することが期待できる。つまり、昇熱材として機能することが期待できる。
C(s)+1/2O2(g)=CO(g) …(1)
SiC(s)+3/2O2(g)=SiO2(s)+CO(g) …(2)
しかしながら、この熱を発生するという性質を利用した使用済み耐火物のリサイクル技術は、未だ提案されていないのが現状である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶鉄に酸素ガスや酸化鉄などの酸素源を供給して溶鉄を精錬する際に、従来の炭材やフェロシリコンなどの高価な昇熱材に替わる安価な熱源を使用し、それにより、製造コストを大幅に削減することのできる、溶鉄の精錬方法を提供することである。
上記課題を解決するための第1の発明に係る溶鉄の精錬方法は、製鉄所内で発生した、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み耐火物を、溶鉄に酸素源を供給して行う精錬で熱源として利用することを特徴とするものである。
第2の発明に係る溶鉄の精錬方法は、処理容器に収容された溶鉄に酸素源を供給して該溶鉄を精錬するにあたり、製鉄所内で発生した、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み耐火物を、前記処理容器内に供給し、前記使用済み耐火物を熱源として利用することを特徴とするものである。
第3の発明に係る溶鉄の精錬方法は、第1または第2の発明において、前記使用済み耐火物の非酸化物系珪素化合物含有量と炭素含有量との合計の含有量が6質量%以上であることを特徴とするものである。
第4の発明に係る溶鉄の精錬方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記使用済み耐火物は、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素以外の成分として、主にAl23系化合物を含有していることを特徴とするものである。
第5の発明に係る溶鉄の精錬方法は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記使用済み耐火物が不定形耐火物であることを特徴とするものである。
第6の発明に係る溶鉄の精錬方法は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、前記溶鉄の精錬は転炉内で行われることを特徴とするものである。
第7の発明に係る溶鉄の精錬方法は、第1ないし第6の発明の何れかにおいて、前記溶鉄の精錬は、溶鉄中に含有する燐を除去する精錬であることを特徴とするものである。
第8の発明に係る溶鉄の精錬方法は、第1ないし第7の発明の何れかにおいて、前記溶鉄の精錬は、溶鉄上に添加した金属酸化物の還元精錬を行う精錬であることを特徴とするものである。
尚、ここで溶鉄とは溶銑または溶鋼を表す。
本発明によれば、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み耐火物を、酸素源を供給して行う溶鉄の精錬で熱源として利用するので、従来使用していた炭材やフェロシリコンなどの高価な昇熱材の使用量が大幅に削減され、それにより製造コストを大幅に低減することができる。また、使用済み耐火物の廃棄量が削減されて、資源の有効活用化が促進される。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、従来の炭材やフェロシリコンなどの高価な昇熱材に替わる安価な熱源を検討する過程で、炭素(以下、「C」とも記す)や炭化珪素(以下、「SiC」とも記す)などの酸化されやすい成分を含有する使用済みの耐火物が前記昇熱材の代替になるのではないかとの考えに至った。現在の製鉄所において、高炉出銑樋や溶銑輸送容器に使用される代表的な耐火物のひとつとして、Al23−SiC−C系耐火物がある。特に、高炉出銑樋に使用される耐火物は、メタルライン材(以下、「ML材」と記す)及びスラグライン材(以下、「SL材」と記す)ともに、SiCまたはCを含有している場合が多い。
前述した(1)式及び(2)式に示す、SiC及びCと酸素ガスとの反応を調査した結果、(1)式の反応熱(ΔH)は−110340J/モル、(2)式の反応熱(ΔH)は−980910J/モルであり、両者ともに発熱であることから、製鋼工程における昇熱材としての適用が十分に考えられる。下記の(3)式は、前述した(1)式に反応熱(ΔH)を加えて表示したものであり、下記の(4)式は、前述した(2)式に反応熱(ΔH)を加えて表示したものである。
C(s)+1/2O2(g)=CO(g) ΔH=-110340J/モル…(3)
SiC(s)+3/2O2(g)=SiO2(s)+CO(g) ΔH=-980910J/モル…(4)
しかしながら、使用済みのAl23−SiC−C系耐火物は、使用前のAl23−SiC−C系耐火物の組成と比較すると、スラグによる浸潤、Cの酸化、及びSiCの酸化によるSiO2の生成などのために、SiC及びCが減少しており、使用済みAl23−SiC−C系耐火物を添加した際の顕熱(添加された使用済み耐火物が雰囲気温度まで上昇するときに必要な熱量)を考慮した発熱量は未知である。発熱量よりも顕熱の方が大きい場合には、昇熱材としての機能はない。
そこで、本発明者らは、出銑樋に使用された使用済みAl23−SiC−C系耐火物の昇熱材としての適用性を検討するにあたり、使用済みAl23−SiC−C系耐火物を添加した際の溶鋼の昇温量を算出するための実験室規模の実験を行った。
実験装置の概略図を図1に示す。MgO質坩堝1に装入された20kgの電解鉄を高周波コイル3により高周波加熱して溶解し、20kgの溶鉄2を得て、この溶鉄2を1700℃に温度調整した後、高周波コイル3への高周波加熱電源の供給を停止して溶鉄2を自然冷却させ、溶鉄2に浸漬させた熱電対4の温度が1680℃になった時点で、使用済みの出銑樋から回収したML材及びSL材と、酸化剤である酸化鉄とを、溶鉄2に上置き添加した。ML材及びSL材と酸化鉄とは予め十分に混合した。ML材及びSL材の添加量は、それぞれ溶鉄トンあたり5kgとし、酸化鉄の添加量は、溶鉄トンあたり20kgとした。添加後、熱電対4によって溶鉄2の温度変化を測定した。実験では、ML材+酸化剤及びSL材+酸化剤をそれぞれ別々に添加して温度測定した。また、バックデータとして、何も添加しない場合の溶鉄2の温度変化、及び、酸化鉄のみを添加した場合の溶鉄2の温度変化も測定した。
溶鉄2の温度変化の測定結果を図2に示す。また、溶鉄2の温度降下量の経時変化を図3に示す。図2の測定結果は起点が必ずしも同一ではないが、図3に示す温度降下量は、起点を同一(1680℃)としたときの温度降下量に相当する。
図2及び図3に示すように、添加後1分間経過した以降は、温度降下の変化はほぼ同一となり、何も添加していない場合の温度降下(炉体放散熱)に匹敵することが分かった。また、図3に示すように、酸化剤の添加、ML材+酸化剤の添加、及びSL材+酸化剤の添加の場合には、添加直後に大きな温度降下が測定された。
添加後1分間経過した以降の温度勾配が一定であることから、図3の各条件において、炉体放散熱量は一定(単位時間当たりの温度降下量が一定)であると考えた。また、ML材及びSL材に含有されるSiCの酸化反応速度が十分に速いと仮定すると、添加直後の温度降下量の差が、ML材及びSL材中のSiC及びCの酸化反応、並びに、酸化剤の分解反応に伴う温度の差とみなすことができる。そこで、各試験での添加直後の温度降下量を求めるにあたり、何も添加していない条件での温度勾配を炉体放散熱量の基本となる回帰直線と定め、この回帰直線を各測定データに照らし合わせ、回帰直線の切片(経過時間=0のときの回帰直線と縦軸との交点)を、各試験での添加直後の温度降下量として求めた。
その結果、酸化剤のみを添加したときの温度降下量は38℃であった。この温度降下量は酸化鉄の分解熱に匹敵する。また、ML材+酸化剤の添加の場合、温度降下量は31℃であり、酸化剤のみを添加したときよりも7℃上昇した。また、SL材+酸化剤の添加の場合には、温度降下量は21℃であり、更に上昇した。即ち、ML材を添加することにより、7℃(=38−31)の昇熱効果が得られ、SL材を添加することにより、17℃(=38−21)の昇熱効果が得られることが分かった。
図3から求めた切片の値から、各条件における熱バランスを計算した。その結果を図4及び図5に示す。図4は、ML材+酸化剤の場合を示し、図5は、SL材+酸化剤の場合を示している。ここで、ML材+酸化剤の添加、及び、SL材+酸化剤の添加の場合、SiCの酸化反応は下記の(5)式で示される。そこで、図4及び図5においては、酸化鉄の分解反応熱を下記の(6)式で示される値とし、また、SiCの反応量から、SiCとの化学量論組成に基づいて反応した酸化鉄量を算出し、その分の熱量を差し引くことによって反応熱量に換算して示している。尚、(5)式は発熱反応であり、(6)式は吸熱反応である。
SiC(s)+3FeO(s)=SiO2(s)+CO(g)+3Fe ΔH=-174600J/モル…(5)
FeO=Fe+1/2O2(g) ΔH=+268800J/モル…(6)
図4及び図5に示すように、ML材、SL材ともに不明分は非常に低位で、ほぼバランスは一致していた。不明分はサンプルのばらつき誤差または浴表面からの放射抜熱量と考えられる。
ここで、熱バランスの結果より、使用済みの出銑樋から回収したML材及びSL材を、1トンの溶鉄に1kg添加した場合の正味の昇熱量ΔT(℃/(kg/t))を見積もった。その結果、ML材の昇熱量ΔTは1.06℃/(kg/t)、SL材の昇熱量ΔTは12.54℃/(kg/t)と算出された。
以上の実験結果から、使用済みの炭素含有耐火物及び炭化珪素含有耐火物を、溶銑或いは溶鋼の温度昇熱材、即ち熱源として利用できることが明らかとなった。尚、上記実験においては、非酸化物系珪素化合物として炭化珪素を含有する耐火物を使用したが、本発明において、非酸化物系珪素化合物は炭化珪素に限定されるものではなく、窒化珪素(Si34)を含有するものでも適用可能である。酸化珪素(SiO2)は既に酸化物であるために発熱反応を起こさず、適用範囲外である。
本発明は、上記実験結果に基づいてなされたものであり、溶鉄に酸素源を供給して行う精錬工程において、製鉄所内で発生した、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み耐火物を熱源として利用することを特徴とする。
また、使用済み耐火物中に含有される非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計量を変化させて、温度上昇能を測定したところ、図6に示す結果が得られた。即ち、非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量が6質量%以上の領域において、溶湯の温度上昇が認められた。この結果から、使用済み耐火物中に含有される非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量は6質量%以上であることが望ましい。尚、上限値は規定する必要がなく、炭素または炭化珪素の単体からなる耐火物であっても構わない。
更に、本発明で使用する使用済み耐火物は、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素以外の成分として、主としてAl23系化合物を含有するものが好ましい。通常、溶鉄の精錬においては、造滓剤として石灰(CaO)を添加するが、このとき、使用済み耐火物中に含有されるAl23とCaOとが反応し、低融点であるAl23・CaO化合物を形成するので、スラグの流動性が向上する。その結果、スラグ/メタル間の反応速度の向上、排滓性向上などの効果が期待できる。
非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み耐火物の形状は、塊状、粒状、粉状の何れの形状でも構わない。粉状の場合は反応界面積が向上するため、昇熱能が増加するが、一方、添加時の飛散ロスも増加する可能性がある。これらから、形状に関しては使用用途により任意に選定することが重要である。つまり、飛散ロスが少ない場合には粉状とし、飛散ロスが多い場合には塊状または粒状とすればよい。
また、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する耐火物は、定形耐火物であっても、また不定形耐火物であっても、何れの耐火物でも適用することができるが、使用済み耐火物屑の発生頻度や従来の利用用途などを考慮すると、高炉出銑樋などに使用される不定形耐火物を利用するほうが、熱源の供給量を確保できるという点から望ましい。不定形耐火物の方が、定形耐火物に比較して屑としての発生頻度が高いという理由によるところもある。
非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み耐火物を利用する工程は、溶鉄に酸素ガスや酸化鉄などの酸素源を供給して行う精錬工程であり、例えば、溶銑の脱珪精錬、溶銑の脱燐精錬、溶銑の脱炭精錬に本発明を適用することができる。これらの精錬のなかで、転炉を用いた溶銑の脱燐精錬または脱炭精錬に適用することが特に好ましい。転炉ではフリーボードが大きく、底吹きガスにより溶湯の攪拌力を高めることができるので、添加した使用済み耐火物の酸化反応が促進され、昇熱材として有効に機能する。前記使用済み耐火物を、酸素源を供給して行う精錬工程で使用する理由は、酸素源を供給する精錬でない限り、前記耐火物は酸化されず、昇熱材として機能しないからである。
特に、溶銑の脱燐精錬に本発明を適用することで、その効果を発現する。例えば、出銑樋に使用された使用済みのAl23−SiC−C系耐火物などのAl23含有耐火物を、前記使用済み耐火物として用いて、転炉における溶銑の脱燐精錬に本発明を適用した場合には、生成されるスラグに脈石として混入するAl23により、スラグの滓化が促進され、スラグ/メタル反応が促進されて、脱燐特性が向上できるという利点を発現する。
更に、転炉における溶銑の脱炭精錬においても、本発明の適用によって熱余裕分が向上するため、鉄スクラップの配合量を高めることができ、溶銑配合率の低減が可能となり、その結果、CO2の排出量低減の効果も期待できる。また、転炉における溶銑の脱炭精錬において、溶銑の脱炭精錬と同時に金属酸化物の還元精錬を同時に行う場合にも、本発明を適用することができる。例えば、Mn源としてMn鉱石を転炉内に添加する溶銑の脱炭精錬にも、本発明を適用することができる。
また更に、転炉などを用いた、酸素源を供給して行う溶鉄の精錬のうち、溶鉄上に添加した金属酸化物を炭材によって還元する金属酸化物の溶融還元を行う工程においても、本発明を適用することができる。例えば、溶銑上にクロム鉱石及び炭材を装入し、上吹きランスから酸素ガスを供給して炭材を燃焼させ、この熱によってクロム鉱石を溶融するとともに、溶融したクロム鉱石を炭材で還元して、クロム濃度の高い溶鉄を溶製するクロム鉱石の溶融還元精錬にも、本発明を適用することができる。この金属酸化物の還元精錬においては、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み耐火物と金属酸化物との反応により、金属酸化物の還元が向上するのみならず、炭材などに代表される還元剤の原単位を削減することが可能である。尚、上記の金属酸化物は、鉄鉱石、クロム鉱石、マンガン鉱石などが挙げられる。
以上説明したように、本発明によれば、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み耐火物を、酸素源を供給して行う溶鉄の精錬で熱源として利用するので、従来使用していた炭材やフェロシリコンなどの高価な昇熱材の使用量が大幅に削減され、それにより製造コストを大幅に低減することができる。また、使用済み耐火物の廃棄量が削減され、資源の有効活用化が促進される。
図7に示す上底吹き転炉設備で、溶銑の脱炭精錬試験を行った結果を説明する。
図7は、本発明を実施する際に用いた上底吹き型の転炉設備の1例を示す概略断面図であり、図7に示すように、上底吹き転炉設備5には、その内部に溶銑6を収容する転炉本体8と、転炉本体8の内部に挿入され、上下方向の移動が可能である、転炉本体8の内部へ酸素ガスを供給するための上吹きランス11と、転炉本体8の炉口を覆い、転炉本体8から発生するガスを集塵機(図示せず)へ導入するためのフード12と、が備えられ、転炉本体8には、その底部に、窒素ガスまたはArガスなどの攪拌用ガス或いは精錬用酸素ガスを吹き込むための複数の底吹き羽口10が設けられ、また、その側壁上部には、精錬後の溶銑や溶鋼を出湯するための出湯口9が設けられている。また、上底吹き転炉設備5には、造滓剤や昇熱材を投入するためのホッパー、シュートなどがフード12を貫通して設置されているが、図7では省略している。図中、符号7はスラグである。
転炉本体に溶銑及び鉄スクラップを合計350トン装入し、上吹きランスから酸素ガスを溶銑浴面上に吹きつけると同時に、底吹き羽口から攪拌用ガスを導入して溶銑を攪拌し、溶銑の脱炭精錬を行った。脱炭精錬前の溶銑の化学成分は、C:3.8〜4.2質量%、Si:0.01質量%、Mn:0.03質量%、P:0.02〜0.06質量%、S:0.003質量%であり、1200〜1250℃の低温溶銑を使用した。尚、脱炭精錬時には石灰などの造滓剤の添加も行った。
脱炭精錬試験は、本発明を適用した脱炭精錬試験(本発明例)と、適用しない脱炭精錬試験(比較例)とを実施し、両者を比較した。本発明例及び比較例の操業条件を表1に示す。
Figure 0005625238
本発明例1は、昇熱材として、使用済み耐火物であるAl23−SiC−C系の煉瓦屑を溶銑トンあたり10kg(以下、「kg/t」と記す)添加した。この使用済み耐火物中に含有される非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量は6質量%であった。脱炭精錬前に装入する鉄スクラップの配合比率は0質量%(即ち、全て溶銑)とした。本発明例2は、昇熱材として、使用済み耐火物であるAl23−SiC−C系の煉瓦屑を5kg/t添加した。この使用済み耐火物中に含有される非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量は20質量%であった。脱炭吹練前に装入する鉄スクラップ配合比率は3質量%(溶銑配合比率:97質量%)とした。本発明例3は、昇熱材として、使用済み耐火物であるAl23−SiC−C系の不定形耐火物を5kg/t添加した。この使用済み耐火物中に含有される非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量は70質量%であった。脱炭吹練前に装入する鉄スクラップ配合比率は5質量%(溶銑配合比率:95質量%)とした。
これに対し、比較例1では、昇熱材を添加せずに脱炭精錬を行った。脱炭吹練前に装入する鉄スクラップ配合比率は本発明例1と同様に0質量%(即ち、全て溶銑)とした。比較例2では、昇熱材として、炭素含有量が80質量%である炭材を1.8kg/t添加した。脱炭吹練前に装入する鉄スクラップ配合比率は、本発明例2と同様に3質量%(溶銑配合比率:97質量%)とした。
何れの試験操業においても、昇熱材の添加は精錬の前半(精錬進行度50%以前)の段階で添加した。各試験操業において、精錬後期にサブランスを投入して溶湯温度、溶湯の炭素濃度を測定し、吹錬末期に鉄鉱石の投入を行った。その際、各試験操業において、鉄鉱石投入量及び鉄スクラップ配合量から下記の(7)式により計算される熱余裕度を評価した。また、溶製した溶鋼を転炉本体から出湯後に炉内を点検し、鉄スクラップの溶け残りの有無を確認した。
熱余裕度(℃)={鉄鉱石投入量(kg/t)×[鉄鉱石分解熱量(kcal/kg)+鉄鉱石顕熱量(kcal/kg)]+鉄スクラップ装入量(kg/t)×[鉄スクラップ溶解熱量(kcal/kg)+鉄スクラップ顕熱量(kcal/kg)]}÷溶鉄の比熱(kcal/℃/t) …(7)
ここで、kg/tは溶鉄1トンあたりの鉄鉱石または鉄スクラップの量を表し、kcal/kgは鉄鉱石または鉄スクラップ1kgあたりの熱量(kcal)を表す。試験結果を、表2に示す。
Figure 0005625238
鉄スクラップを装入した本発明例2、本発明例3及び比較例2においては、鉄スクラップの溶け残りは確認されなかった。炭化珪素及び炭素を含有する使用済み耐火物を昇熱材として使用した本発明例1〜3は、昇熱材未使用の比較例1と比較して、何れも脱炭精錬末期に添加された鉄鉱石量が増加しており、熱余裕度も向上した。また、昇熱材として、炭材を使用した比較例2と本発明例2とを比較すると、熱余裕度は同等であった。
本発明例1と本発明例2とを比較すると、昇熱材として添加した使用済み耐火物に含有される非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量が多い本発明例2の方が、熱余裕度が増大した。更に、使用済み耐火物としてAl23−SiC−C系不定形耐火物を使用した本発明例3においても同様に熱余裕度の増加が見られた。
前述した図7に示す上底吹き転炉設備の転炉本体に、溶銑及び鉄スクラップを合計200トン装入するとともに、溶銑上にクロム鉱石及び還元剤である炭材(コークス)を装入し、浴面上に降下させた上吹きランスから酸素ガスを溶銑浴面上に吹きつけると同時に、底吹き羽口から酸素ガスを導入して溶銑を攪拌し、溶銑上に添加したクロム鉱石の溶融還元吹錬を行い、ステンレス粗溶湯の溶製を行った。
この場合に、クロム鉱石の還元剤として、炭材の他に使用済みのAl23−SiC−C系不定形耐火物を2.6kg/t添加する操業(本発明例4)を実施した。また、クロム鉱石の還元剤として炭材のみを使用する操業(比較例3)も実施し、両者において、クロム鉱石の還元効率を比較した。操業結果を表3に示す。
Figure 0005625238
クロム鉱石の還元剤として、炭材の他に使用済みのAl23−SiC−C系不定形耐火物を使用した本発明例4は、比較例3に対してクロム鉱石の還元効率が増加し、スラグ中のT.Cr濃度も低下した。本発明例4においては、スラグ層中において使用済みのAl23−SiC−C系不定形耐火物が発熱反応を起こすため、クロム鉱石の還元反応が促進されたことによる。これにより、本発明が金属酸化物の還元精錬においても有効であることが確認された。
前述した図7に示す上底吹き転炉設備の転炉本体に、溶銑及び鉄スクラップを合計300トン装入するとともに、溶銑上に造滓剤として石灰をスラグ塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)が3.0となるように添加し、浴面上に降下させた上吹きランスから酸素ガスを溶銑浴面上に吹きつけると同時に、底吹き羽口から不活性ガスを導入して溶銑を攪拌し、脱燐精錬を行った。脱燐精錬前の溶銑の組成及び温度を表4に示す。
Figure 0005625238
この場合に、使用済みのAl23−SiC−C系不定形耐火物を3.0kg/t添加する操業(本発明例5)を実施した。また、使用済み耐火物を使用しない操業(比較例4)、及び使用済みのAl23−SiO2系不定形耐火物を3.0kg/t添加する操業(比較例5)も実施した。これらの操業において、同一酸素原単位、同一石灰原単位のもとで、脱燐挙動及び脱燐精錬後の溶銑温度を比較した。操業結果を表5に示す。
Figure 0005625238
使用済み耐火物として、Al23−SiC−C系不定形耐火物を3.0kg/t添加した本発明例5は、比較例4に比べて脱燐量が増加するとともに処理後溶銑温度が上昇した。また、Al23−SiO2系不定形耐火物を3.0kg/t添加した比較例5と比較すると、脱燐量はほぼ同等であるものの、SiCの発熱効果を有する本発明例5の方で脱燐精錬後の溶銑温度が高くなった。これにより、本発明を適用することで、次工程の精錬においても熱余裕度の向上を図ることができることが確認された。
使用済みAl23−SiC−C系耐火物の昇温量を求めるための実験装置の概略図である。 実験装置における溶鉄の温度変化を示す図である。 実験装置における溶鉄の温度降下量の経時変化を示す図である。 ML材+酸化剤を添加した場合の熱バランスの計算結果を示す図である。 SL材+酸化剤を添加した場合の熱バランスの計算結果を示す図である。 使用済み耐火物中の非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量と温度上昇能との関係を示す図である。 本発明を実施する際に用いた上底吹き型転炉設備の1例を示す概略断面図である。
符号の説明
1 MgO質坩堝
2 溶鉄
3 高周波コイル
4 熱電対
5 上底吹き転炉設備
6 溶銑
7 スラグ
8 転炉本体
9 出湯口
10 底吹き羽口
11 上吹きランス
12 フード

Claims (8)

  1. 製鉄所内で発生した、使用済みAl23−SiC−C系耐火物または使用済みAl23−C系耐火物を、溶鉄に酸素ガスを供給するともに石灰(CaO)を造滓剤として添加して行う精錬において、熱源、及び、前記石灰と反応してAl23・CaO化合物を形成しスラグの滓化を促進するための造滓剤として利用することを特徴とする、溶鉄の精錬方法。
  2. 処理容器に収容された溶鉄に酸素ガスを供給するともに石灰(CaO)を造滓剤として添加して該溶鉄を精錬するにあたり、製鉄所内で発生した、使用済みAl23−SiC−C系耐火物または使用済みAl23−C系耐火物を、前記処理容器内に供給し、前記使用済みAl23−SiC−C系耐火物または使用済みAl23−C系耐火物を、熱源、及び、前記石灰と反応してAl23・CaO化合物を形成しスラグの滓化を促進するための造滓剤として利用することを特徴とする、溶鉄の精錬方法。
  3. 前記使用済みAl23−SiC−C系耐火物または前記使用済みAl23−C系耐火物の非酸化物系珪素化合物含有量と炭素含有量との合計の含有量が6質量%以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶鉄の精錬方法。
  4. 前記使用済みAl23−SiC−C系耐火物または前記使用済みAl23−C系耐火物を、精錬処理の精錬進行度50%以前の段階で添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の溶鉄の精錬方法。
  5. 前記使用済みAl23−SiC−C系耐火物または前記使用済みAl23−C系耐火物が不定形耐火物であることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の溶鉄の精錬方法。
  6. 前記溶鉄の精錬は転炉内で行われることを特徴とする、請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の溶鉄の精錬方法。
  7. 前記溶鉄の精錬は、溶鉄中に含有する燐を除去する精錬であることを特徴とする、請求項1ないし請求項6の何れか1つに記載の溶鉄の精錬方法。
  8. 前記溶鉄の精錬は、溶鉄上に添加した金属酸化物の還元精錬を行う精錬であることを特徴とする、請求項1ないし請求項6の何れか1つに記載の溶鉄の精錬方法。
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