プラスチック射出成形で一般に用いられているタッチ成形を図11を参照して概説すると、この方法は、押出機Eに通じるダイDの出口D’から溶融樹脂を下方に押出し、押出された溶融樹脂flをその下方の一対の冷却ロールCR1,CR2のニップ挟圧部にて挟圧し、冷却ロールCR1,CR2の回転X2,X3によって冷却ロールCR1,CR2の表面形状を転写してフィルム表面を加工し、溶融樹脂flを冷却固化しながらフィルムFLを成形して巻取ロールMRの回転X4で巻取るものである。
ところで、このようにダイDの出口D’から押出された溶融樹脂flは、その下方の一対の冷却ロールCR1,CR2のニップ挟圧部に至るまでの空間(エアギャップ)において自由表面でその形が形成される伸長流動変形を受けることが一般に知られている。そして、この伸長流動変形の際には、溶融樹脂がネックインと呼ばれる、幅が狭くなる挙動を示すことが往々にしてある。このネックインによってフィルムの端部は中央部に比して相対的に厚くなってしまうことが知られている。
上記するタッチ成形における溶融樹脂のネックインについてより詳細に説明するに、このネックインは、ダイの出口から押出された溶融樹脂が一対の冷却ロールに到達し、ここで挟圧されて冷却固化されるまでの間で発生する。厳密には、このネックインの発生は以下のような、溶融樹脂の流動形態の相違に起因するものである。
すなわち、溶融樹脂の流動形態は、幅固定された部分であるフィルムの中央部(製品となる部分)が平面伸長流動となり、その長手方向のみならずその幅方向にも力が作用する。
一方、フィルムの両端部の流動形態は自由に縮む一軸伸長流動となるが、これに加えて、フィルム中央部の平面伸長流動のうちの幅方向への流動による力を受けてネックインが生じる。このネックインの発生によって、フィルムの幅方向で厚みの分布が生じてしまい、その両端部が自由に縮むことによって該両端部では厚くなる部分が発生してしまう。
さらに、フィルムの両端部は、その一軸伸長流動と中央部の平面伸長流動の境界において、双方からの圧力を受けて薄くなってしまうこともある。
このように、ネックインが生じることによってフィルムの端部は中央部に比して相対的
に厚くなってしまうことから、従来の製造装置では、均一な厚みのフィルムを製造するには、ダイもしくは金型の出口幅を製造されるフィルムよりもかなり大きな寸法に設定しておかなければならなかった。このネックイン量の増大にともなって成形されたフィルムの両端部の厚みも大きくなり、トリム除去される樹脂量が増加することで樹脂の利用効率の低下が一層助長されることになってしまう。
タッチ成形によってフィルムを製造する場合、ダイもしくは金型の出口と一対の冷却ロールのニップ挟圧部との空間には上記するようにエアギャップが形成されるが、このタッチ成形においては、一対の冷却ロールの外径やダイの外形および出口形状などの幾何学的な制約が存在するためにエアギャップの短縮に限界がある。
タッチ成形によるフィルム製造の目的は、一対の冷却ロールで溶融樹脂を挟圧することにより、ロールの表面形状を転写させてフィルム表面を加工することにある。この一対の冷却ロールとしては、ロール表面を鏡面もしくは凸凹加工した金属ロールやゴムロールなどが使用されており、必要なフィルム表面加工の形状に応じて様々な組み合わせ形態が存在する。この一対の冷却ロールには、溶融樹脂に対する冷却能力は勿論のこと、ニップ挟圧に耐えうる強度が必要であり、このことからも冷却ロールの外形を極端に小さくすることはできない。
そこで、ダイの出口形状に改良を加えてその幾何学的な制約を少なくし、もってエアギャップを短縮するといったアプローチが考えられる。しかしながら、このダイに関しては、樹脂を押出す際の圧力に耐えながらその出口の隙間精度を確保するための強度が必要となることから、ダイの外形や出口形状に制約があることに変わりはなく、ダイに改良を加えてエアギャップを効果的に短縮することもまた難しいのが現状である。
ところで、エアギャップが長い場合にドローレゾナンスと呼ばれる膜揺現象が発生し、この現象によってネックイン量が周期的に変化し、被覆樹脂の厚みも同様に周期的に変動することで膜厚が不均一になるという問題もある。特にフィルム製造速度を上げた場合にこの膜揺現象が顕著になることが一般に知られている。なお、この膜揺現象は、ドロー比(ダイ出口隙間/被覆樹脂厚み)が大きい場合に発生し易いこともまた知られている。
ここで、従来の公開技術に目を転じるに、タッチ成形においてその溶融膜のネックインを抑制する手段として、エアギャップの両端部を冷却する技術が特許文献1に開示されている。これは、エアギャップにある溶融樹脂の両端部を冷却し、硬化させることによってネックインを抑制しようとするものである。
しかしながら、特許文献1で開示される技術では、樹脂両端部を冷却して硬化させるために、当該両端部と中央部の間でロール表面状態をフィルム表面へ転写する際の転写加工性が異なってしまい、結果として両端部は製品とならずに使用樹脂のロス量が大きくなってしまう。
さらに具体的な手法として、溶融樹脂の両端部を冷却させるためのシート端部冷却用補助ロールを使用したり、両端部をエアなどで冷却する技術が開示されている。ここで、エアギャップ中の溶融樹脂の両端部を冷却するためのシート端部冷却用補助ロール径を小さくすることによって幾何学的な制約は少なくなり、ダイの出口と冷却用補助ロールの間のエアギャップを小さくすることができる。しかしながら、ロール径が小さくなるとその冷却能力が低下することから、製膜速度を高めることとダイの出口から冷却用補助ロールまでのエアギャップを短縮することがトレードオフの関係になってくる。さらに、エア等を使用して冷却した場合には、端部の冷却と硬化までの時間が長くなってしまい、結果としてネックインの抑制効果が十分に得られなくなる。そして、エアによる冷却効果を高めるためにエア量を増加させると、今度は膜揺れを助長させ得るという問題が生じる。
一方、特許文献2には、ダイの出口から一対の冷却ロールのニップ挟圧部に対して2本の糸輪を設置した製膜装置が開示されている。これは、回転する糸輪に沿ってエアギャップ中の溶融膜の両端部を流すことによって、ネックインを抑制するものである。しかしながら、この技術においては、糸輪に接して誘導される溶融膜の端部が非常に不安定であることから、糸輪との密着力が常に溶融膜を幅縮する力よりも大きくなる必要があり、そのために溶融樹脂の種類が限定されたり、押出条件の調整範囲が狭くなってしまうといった問題を有する。
また、特許文献3には、一対の冷却ロールのニップ挟圧部に溶融樹脂を直接供給する代わりに、片側の冷却ロール上に供給することによってダイの出口からニップ挟圧部までの距離を変更することができ、もってネックインを抑制することのできる装置が開示されている。しかしながら、この装置を適用した場合は溶融樹脂が冷却ロールの接線方向へ引き取られるために、ダイの出口にいわゆるメヤニ(樹脂付着物)が付着し易くなってしまい、これがフィルム表面にスジ状の欠陥を生じさせて品質上の問題となってしまう。
さらに、ここで開示される装置では、ピンニング電極を使用してダイの出口からの溶融樹脂を冷却ロールへ密着させるようにしている。ピンニング装置は静電荷を印加する際にワイヤー状の電極を使用するものであるが、ダイの出口近傍に電極を設置した場合に、ダイ側への放電が発生してしまうことから、高いエアギャップ短縮効果を期待することはできない。すなわち、ダイの出口から冷却ロールに接地するまでの溶融樹脂の経路を変え得る技術ではなるものの、他の装置に対する放電防止のためのスペースが必要となることから、結果としてエアギャップの短縮が困難となるのである。また、密着力を確保するために溶融樹脂と電極の間の距離を狭くしたり、電圧を高くするといった方策があるが、これらを実施した場合にはフィルムに放電跡が残る可能性があり、運転条件の設定も難しいという問題がある。さらには、フィルムの成形に当たって帯電可能な樹脂を使用せざるを得ないことから、使用樹脂材料が大幅に制限されてしまうといった問題もある。仮にエアギャップの短縮効果を優先しようとすると、ダイの出口から押し出された溶融樹脂は片側の冷却ロール上に接地することから、ニップ挟圧部の樹脂温度が低下してしまい、ロール表面状態である鏡面あるいは所定の凸凹加工形状のフィルム表面への転写量が低下するといった問題もある。
さらに、特許文献4には、小径の冷却ロールをダイの出口近傍に配置したフィルム製造装置が開示されている。ネックインを抑制して膜揺れを防止するべく、エアギャップを短縮するには、一対の冷却ロールの外径とダイの外形をともに小さくすればよい。しかしながら、既述したように、タッチ成形によるフィルム製造の目的は、一対の冷却ロールで溶融樹脂を挟圧することによってロールの表面形状を転写してフィルム表面を加工することであり、一対の冷却ロールには、溶融樹脂に対する冷却能力とニップ挟圧に耐えうる強度の双方が必要であることから冷却ロールの外形を極端に小さくすることはできないのである。
一般にロール表面の粗度が大きい場合や、幾何学模様のアスペクト比(高さ寸法/底辺(面)寸法)が大きい場合において、これらの形状を精緻かつ高い転写率でフィルム表面へ転写加工するためには、溶融樹脂の温度が高く、ニップ挟圧部の圧力も高いことが望ましい。逆に、鏡面形状の転写といった粗度の低いものの場合には、樹脂温度は比較的低く、ニップ挟圧力も比較的低い条件下であったとしてもフィルム表面への転写加工はある程度可能となるが、精緻なロール表面のフィルム表面への転写を実現するには、樹脂温度が高く、ニップ挟圧力が高い条件下で転写がおこなわれるのが望ましいことは同様である。
したがって、特許文献4で開示するごとく小径の冷却ロールを配置した場合には、エアギャップをある程度短縮することは可能であるが、フィルムの表面加工に必要なニップ挟圧部の荷重が大きい場合にはその適用が困難である。また、小径の冷却ロールの頂点近傍にダイの出口を配置した場合であっても、溶融樹脂はロール回転の接線方向へ引き取られるために、実際のエアギャップは長くなり、さらにメヤニの付着が問題となる。
以上のことから、ダイの出口から溶融樹脂が押し出されて一対の冷却ロールのニップ挟圧部に至り、ここでフィルム表面を所定の形状に加工するタッチ成形において、高いネックイン抑制効果を奏するとともに、膜揺れを効果的に抑制することができ、さらには、ネックインの抑制とトレードオフの関係にあるメヤニも効果的に抑制することのできる技術の開発が当該分野において切望されている。
さらに、ネックインを抑制して冷却ロールの表面形状をフィルム表面形状へ精緻に転写加工するために、一対の冷却ロールのニップ挟圧部における溶融樹脂の温度を広範囲に精度良くコントロールすることのできる技術の開発が切望されている。
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、溶融樹脂を一対の冷却ロールのニップ挟圧部で表面加工し、冷却固化することによってフィルムを製造する製造装置と製造方法に関し、ネックイン抑制効果と膜揺れ抑制効果に優れ、さらに、ネックインの抑制とトレードオフの関係にあるメヤニの抑制効果にも優れたフィルム製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明によるフィルム製造装置は、ダイの下端面に開設された出口から下方に押出された溶融樹脂を該出口の下方に位置して回転する一対の冷却ロール間で挟圧して引取り、溶融樹脂を冷却および固化してフィルムを製造するフィルム製造装置であって、前記フィルム製造装置は、前記出口と前記冷却ロールの間にプレロールを備え、該出口から押出された溶融樹脂が該プレロールに接地し、次いで一対の冷却ロール間に送られるようになっており、さらに、前記出口とその下方の該プレロールの間の空間に流体を提供する流体チャンバーを備えており、前記流体チャンバーは前記空間および前記プレロールに対向する対向面を有しており、前記流体チャンバーから提供された流体は、前記対向面に沿う流体流路をダイ側に流れながら、前記空間内に存在する溶融樹脂がプレロールの回転方向に変位して引取られようとするのを押し戻す方向に流体圧を付与させるようになっているものである。
本発明の製造装置は、ダイの出口とその下方に位置して溶融樹脂を挟圧する一対の冷却ロールの間にプレロールを配し、ダイの出口とこのプレロールの間の空間(エアギャップ)に圧力エア等の流体を提供する流体チャンバーを備えたものであり、出口から押出されて回転自在なプレロールに接地した溶融樹脂がこのプレロールの回転方向に引っ張られてたとえば斜め方向に変形しようとするのを、空間に提供された流体の圧力によって押し戻すことにより、空間内の特にダイの出口近傍における溶融樹脂の姿勢を可及的にダイ出口から鉛直下方に延びる姿勢とすることができ、これによってメヤニを効果的に抑止しながら、溶融樹脂の空間内における長さも可及的に短くすることによってネックインを抑制することができ、もってフィルム製造過程で発生し得る樹脂のロス量を低減することのできる装置である。すなわち、ダイの出口と冷却ロールの間にプレロールを配したことでエアギャップを短縮し、もってネックインと膜揺れの双方を抑制できることに加えて、このプレロールとダイの出口の間の空間に流体チャンバーからの流体を提供することで、搬送される溶融樹脂の姿勢を非接触状態で所望に曲げることでエアギャップをより一層短縮することができ、気流の乱れやドローレゾナンスに起因する膜揺れを抑制することができ、さらにメヤニの付着を抑制することのできる装置となっている。
流体チャンバーは上記する空間とプレロールに対向する対向面を有し、流体チャンバーから提供された流体がこの対向面に沿う流体流路をダイ側に流れるようになっており、空間内に押出された溶融樹脂はこの流体の流れを介して対向面の線形に沿うようにして空間からプレロールへ提供され、プレロール表面で冷却されてたとえば半溶融状態となる。ネックインが抑制され、半溶融状態となった樹脂は下方に搬送され、回転する一対の冷却ロールのニップ挟圧間で挟圧され、表面加工(鏡面加工、エンボス加工など)が施され、冷却固化されて巻き取られることになるが、プレロールに接地した溶融樹脂はこのプレロールの回転方向への引張りを受ける際に、対向面の形状に沿う流体流路を流れる流体から流体圧を受けることによって空間内の溶融樹脂は対向面に沿う延設姿勢を形成することができる。
ここで、前記流体チャンバーには、前記流体を加熱してその温度を調整し、加熱温調された流体を生成するための第1の加熱部が設けられているのが好ましい。
あるいは、前記プレロールにおいて、該プレロールを加熱温調するための第2の加熱部が設けられているのが好ましい。
タッチ成形では、ニップ挟圧部での挟圧の際の溶融樹脂の温度が重要となるが、冷却ロール表面の加工形状を精緻にフィルム表面へ転写加工するには、プレロールと一対の冷却ロールの間の空間でネックインが過剰に発生しない範囲で溶融樹脂の温度を高くするのが望ましい。
そこで、流体チャンバーにヒータ等の第1の加熱部を設けておき、流体チャンバーから空間へ提供される流体を加熱温調しておき、温調されて常温の流体もしくは温調されて所望に冷やされた流体を空間を通過する溶融樹脂に提供することによって、プレロール表面に接地した溶融樹脂の冷却量を所望に調整することができる。あるいは、プレロールにヒータ等の第2の加熱部を設けておき、加熱温調されたプレロールの表面でここに接地された溶融樹脂を温めることで、同様に溶融樹脂の冷却量を所望に調整することができる。このように、プレロールの温度や流体チャンバーから提供される流体の温度を所望に調整しておくことにより、ニップ挟圧部での溶融樹脂の温度がフィルム表面加工に必要な温度となるように制御することが可能となる。
さらに、前記プレロールと前記一対の冷却ロールの間であって、プレロールに接地して下方へ溶融樹脂が送られる搬送路に第3の加熱部が設けられているのが好ましい。
ダイとプレロールの間に流体チャンバーを適用することによって、ダイの出口からプレロールまでの空間のネックインを抑制することができ、膜揺れを防止することができる。この際、流体チャンバーの圧力によってプレロール表面における溶融樹脂の密着力は高くなり、チャンバー流体による冷却効果もあって溶融樹脂は冷却され易い状態となっている。なお、溶融樹脂を冷却すればするほど、そのネックイン抑制効果は大きくなり、膜揺れ防止効果も高くなり、さらにはフィルムの製造速度の向上にも繋がる。しかしながら、溶融樹脂の温度が下がり過ぎてしまうと、冷却ロールの表面形状のフィルム表面への転写加工量が低下する危険性がある。このことに鑑み、ニップ挟圧部での溶融樹脂の温度を保証するべく、プレロールから一対の冷却ロールのニップ挟圧部までの空間に第3の加熱部を設けるものである。この第3の加熱部の実施の形態としては、ヒータ(IRヒータを含む)やオーブン炉など挙げることができる。
なお、溶融樹脂が冷却されることでネックインが抑制され、ドローレゾナンスによる膜揺れが防止されて生産ラインの速度を向上させることができ、溶融樹脂を加熱することで高温化によるフィルム表面の加工性を保証できることから、溶融樹脂の冷却と加熱は相反関係にある。そのため、樹脂の素材や目標とする生産速度、さらにはフィルムに要求される表面加工形状(鏡面、粗度、幾何学模様のアスペクト比等)などを勘案して溶融樹脂の温調制御が実行されるのがよい。
また、上記する流体チャンバーに言及するに、その対向面は、プレロールのロール面と相補的形状を呈する第1の領域と、該第1の領域からダイの前記出口側へ曲がって流体チャンバーの上端に至る第2の領域と、からなり、前記流体流路は、前記第1の領域と前記ロール面上の溶融樹脂の間の第1の流路と、前記第2の領域と前記出口下方の空間内にある溶融樹脂の間の第2の流路とからなり、第2の流路へ連続した第1の流路の流路断面幅が、流体の流れの上流側である流体チャンバーの内部流路に比して狭くなっているのが好ましい。
本発明者等によれば、第2の流路へ連続した第1の流路の流路断面幅が狭くなっていることで(第2の流路の流路断面が流体チャンバーの内部流路のそれに比して絞られていることで)、第2の領域に対応する第2の流路を流れる流体の絞り効果が得られ、第2の流路が流体チャンバーの上端に至る流路断面幅(対向面からプレロールまでの隙間幅であって、より厳密には、対向面からプレロールと密着する溶融樹脂までの隙間幅であって流体が流れる隙間幅のこと)が変化する過程において、この変化に対する自己安定性を溶融樹脂に持たせることができる。たとえば、流体チャンバーから提供される流体の圧力が一定である条件下で、溶融樹脂が外乱(外気の乱れ等)によって第2の流路の流路断面幅を広げる方向へ動いた場合に、流体流路の流路抵抗の減少によって流体チャンバーからの流量は増加し、第1の流路の流路断面幅は一定(流路抵抗は一定)であるために流速増加分だけ圧力損失が増加し、第2の流路での静圧が減少して溶融樹脂の第2の流路は狭くなる方向へ戻る。一方、溶融樹脂が第2の流路の流路断面幅を狭くする方向へ動いた場合、流体流路の流路抵抗の増加によって流体チャンバーからの流量は減少し、第1の流路の流路断面幅は一定(流路抵抗は一定)であるために流速増加分だけ圧力損失が減少し、第2の流路での静圧が増加して溶融樹脂の第2の流路は広くなる方向へ戻る。このように、第2の流路にて流路断面幅が変化する過程において、溶融樹脂はこの変化に対する自己安定性を有することになるのである。
第2の流路へ連続した第1の流路の流路断面幅が狭くなっていることで、結果的に第2の流路に沿うダイの出口側の端面からプレロールへ接地するまでの空間内における溶融樹脂の延設姿勢が安定する(拘束される)。さらに、流体流路に流れる流量を絞ることも可能となり、これによって膜揺れを抑止することができる。
ここで、一つの実施の形態としては、前記第1の流路の流路抵抗が前記第2の流路の流路抵抗の0.3倍以上となっている。
第2の流路の流路断面幅の自己安定性に関しては、外乱によって変動する流路抵抗の第2の流路の入口(第1の流路との境界)と出口(第2の流路と流体チャンバーの上端面との境界)の静圧差に対する、一定の流路抵抗を持つ第1の流路の入口と出口の静圧差の比が大きいほど自己安定性は高くなる。つまり、定常時の第1の流路の流路抵抗/第2の流路の流路抵抗の値が大きいほど、第2の流路の自己安定性が高くなる。すなわち、この比を大きくして、少なくとも曲率半径の変化の影響分より静圧の変化の影響分が大きくなるように調整しなければならない。また、自己安定性は、第2の流路の流路断面幅の変化に対して、圧力変化が生じる際の圧力変化量の大きさと流量変化量の大きさで評価することができる。第2の流路に対して第1の流路の流路抵抗を大きくすると、第2の流路の入口での必要静圧が同じ場合はチャンバー元圧は増加し、第2の流路の流路断面幅が変わった場合は必要静圧の圧力変化量は大きく、流量の変化量は小さくなる。このように、第1の流路の流路抵抗を大きくすることによって自己復元力は増していく。
第1の流路の流路抵抗は高い方がよいが、流量と圧力損失の関係式では流路抵抗は流路長さに比例し、流路断面幅の3乗に反比例する。第1の流路の流路長さを長くすれば流路抵抗は増えるものの、流体チャンバー内の圧力で溶融樹脂をプレロールに押付ける位置がダイの出口から遠くなってしまう。すなわち、溶融樹脂はプレロール表面に接地して密着し、冷却固化する観点からすれば不利となり、ネックイン量は増加してしまう。一方、流路断面幅を小さくすると、流路抵抗が3乗で増加することから効果的といえる。従来のフィルム製造装置では、冷却ロール表面の樹脂の両端部の厚みが厚く、この流路断面幅を狭くすることができなかったが、上記する本発明のフィルム製造装置ではネックインが小さく、プレロール表面および冷却ロール表面の樹脂の両端部の厚み増加分が少なくなることからこの流路断面幅を狭くすることができる。この流路断面幅(a1)の寸法に関し、実用上1mm以下が適用され、0.5mm以下がより好ましいとの知見が得られている。また、第1の流路の流路抵抗/第2の流路の流路抵抗の値が大きいほど好ましいが、実用上は0.3倍以上を確保するのが望ましいとの知見が得られている。
また、本発明によるフィルム製造装置の好ましい実施の形態において、流体チャンバーの前記上端面は平坦面を成し、前記対向面の前記第2の領域の曲率半径は前記上端面との交点に向かって増加しており、前記出口から押出された溶融樹脂は前記流体圧を受けながら、下方の前記空間に延びた後に前記第2の流路を介して前記第2の領域に沿うようにして前記ロール面に達し、前記第1の流路を介して前記第1の領域に沿うようにして該ロール面に密着するものである。
第2の流路内にはその入口から出口まで圧力損失が存在することから、第2の流路の流路断面幅を一定とするには、その曲率半径を出口側、すなわち、流体チャンバーの上端側に向かって増加させる必要がある。一方、圧力損失は流路長さに比例することから、対向面の第2の領域の曲率半径を上端面との交点に向かって増加させる形状とすることで、第2の流路の曲率半径と単位流路断面幅当たりの引張張力、第2の流路の入口、出口の静圧と第2の流路の長さに関する以下の関係式を満たすことができる。
ここで、r:第2の流路の曲率半径(m)、a
2:第2の流路の流路断面幅(m)、r+a
2:溶融樹脂の曲率半径(m)、T:単位流路断面幅当たりの引取張力(N/m)、p
2in:第2の流路の入口の静圧(Pa)、p
2out:第2の流路の出口の静圧(Pa)、L
2:第2の流路の長さ、x:第2の流路における入口からの距離(0≦x≦L
2)
また、本発明によるフィルム製造装置の他の実施の形態において、前記第2の領域は、第1の領域からダイの前記出口側へ曲がる湾曲部と、該湾曲部に連続して前記上端面に対して直交する直線部を有しているものである。
上式において、第2の流路の出口の静圧を大気圧とすれば、p2outはゼロとなり、rは無限大、すなわち直線となることから、逆に、第2の領域を湾曲部と該湾曲部に連続して上端面に対して直交する直線部から構成することによって、第2の流路の出口の静圧を大気圧程度に調整することができる。
また、本発明によるフィルム製造装置の他の実施の形態において、前記第2の領域は、第1の領域からダイの前記出口側へ曲がる湾曲部と、該湾曲部に連続して第2の流路の流路断面を大きくする方向であって前記出口から遠ざかる方向に傾斜して前記上端面に交差する直線部を有しているものである。
第2の流路での出口付近で動圧が無視できない場合、すなわち出口で負圧によって溶融樹脂の空間内の延設姿勢に影響が大きい場合は、第2の流路の出口での動圧を減少させるべく、出口での流路を拡大することによって動圧(流速)を減少させることができる。
また、本発明によるフィルム製造装置の好ましい実施の形態において、前記出口が臨むダイの前記下端面と流体チャンバーの前記上端面はともに平坦面を成し、流体チャンバーの前記上端面とダイの前記下端面の間には、前記対向面に沿う流体流路が延びてさらに第3の流路を形成しており、第3の流路を流れた流体は、該第3の流路よりも流路断面の大きな下流方向に放出されるようになっているものである。
たとえば第3の流路の流路断面幅を出口側に向かって大きくして流路断面を大きくすることにより、動圧(流速)を減少させることができる。
また、本発明によるフィルム製造装置の他の実施の形態は、前記第3の流路における流体圧が大気圧より大きくなるように該第3の流路の流路断面積が調整されているものである。
第2の流路から連続する第3の流路の流路断面幅を調整して第3の流路における流体圧を大気圧より大きくすることで、ダイの出口近傍における溶融樹脂への負圧の影響を無くすことができる。この場合、負圧の発生が第3の流路の出口位置へ移動するために、空間内で延設する溶融樹脂は負圧の影響を受けなくなるのである。
また、本発明によるフィルム製造装置の好ましい実施の形態は、流体チャンバーから少なくとも2種類の流体圧の流体が提供されるようになっており、流体チャンバーの幅方向端部領域から提供される流体の流体圧が、その内側領域から提供される流体の流体圧に比して相対的に高圧に調整されているものである。
流体チャンバーから流体流路に提供された流体は、実際には、第1の流路、第2の流路、および第3の流路のいずれにおいても流路の途中で、溶融樹脂の幅方向(これはフィルムの幅方向となる)の両端部から外側へ漏れる。また、溶融樹脂のこの両端部では小さいながらもネックインが生じた場合に溶融樹脂膜は厚くなり、その分は引取張力が増加することになる。そこで、流体チャンバーの幅方向端部領域、すなわち、溶融樹脂の両端部が通過する部分の圧力をその内側領域に対して高圧に設定可能とする。たとえば、流体チャンバーの幅方向端部領域とその内側領域を画成し、流体チャンバーの幅方向端部領域から高圧の流体を提供することができる。この両端部の高圧エアにより、第1の流路以降の各流路における端部から漏れるエア分を補充することができる。さらにプレロール上での溶融樹脂の端部を高圧で密着させる作用も奏するため、固化するまでに発生するネックインを効果的に抑制することができる。
また、本発明によるフィルム製造装置の好ましい実施の形態において、前記流体チャンバーはその内部流路と該内部流路周囲の筒部とから構成され、前記内部流路が前記対向面に臨む開口に連通し、かつ、前記筒部の端面の一部が前記対向面の前記第2の領域となっており、前記筒部の幅方向端部領域には、該筒部の前記端面の一部に臨む開口とこれに連通する別途の流路が形成されており、流体チャンバーの前記内部流路から流体が提供されてこれが前記流体流路を流れ、かつ、前記別途の流路から前記流体流路にさらに流体が提供されるものである。
流体チャンバーから供給されて流体流路を流れる流体とは独立した流体を提供するための流路断面が絞られた別途の流路を筒部の幅方向端部領域に設け、この別途の流路から提供される流体により、第2の流路以降の各流路における端部から漏れるエア分を補充し、溶融樹脂の曲率半径や引取張力にバランスするに必要な静圧を確保することができる。
また、本発明によるフィルム製造装置の好ましい実施の形態は、前記別途の流路から提供された流体の温度が、前記流体流路を流れる流体の温度に比して高温となっているものである。
別途の流路から提供される流体の温度を相対的に高温とすることで、溶融樹脂の温度を高温に保つことができ、幅方向全体の引取張力を下げることが可能となる。
さらに、本発明によるフィルム製造装置の好ましい実施の形態において、前記流体チャンバーはその内部流路と該内部流路周囲の筒部とから構成され、前記筒部の幅方向の2つの側面にローラーが取り付けられ、該ローラーが前記プレロールに回転自在に接触して少なくとも前記第1の流路の流路断面幅を保証するものである。
流体チャンバーの2つの側面(側板)にローラーを配設し、プレロールのロール面と相互に回転自在に接触させることで、特に第1の流路における流路断面幅を精度良く確保することができ、さらには、ローラーの位置を調整することで第1の流路の流路断面幅を容易に変更することができる。
また、本発明はフィルム製造方法にも及ぶものであり、本発明によるフィルム製造方法は、ダイの下端面に開設された出口から下方に押出された溶融樹脂を該出口の下方に位置して回転する一対の冷却ロール間で挟圧して引取り、溶融樹脂を冷却および固化してフィルムを製造するフィルム製造方法であって、前記出口と前記冷却ロールの間にプレロールがあり、該出口から押出された溶融樹脂を該プレロールに接地させ、次いで一対の冷却ロール間に溶融樹脂を送る過程において、流体チャンバーから、前記出口とその下方の前記プレロールの間の空間に流体を提供し、該流体チャンバーの有する前記空間および前記プレロールに対向する対向面に沿う流体流路を介してダイ側に前記流体を流し、前記空間内に存在する溶融樹脂がプレロールの回転方向に変位して引取られようとするのを押し戻す方向に流体圧を付与させながら、プレロールを介して冷却ロールによって溶融樹脂の引取りをおこなうものである。
この製造方法では、前記流体を加熱してその温度を調整し、加熱温調された流体を前記流体チャンバーから前記空間に提供する、もしくは、前記プレロールを加熱してその表面の温度を調整しておき、加熱温調されたプレロール表面に溶融樹脂を接地させるのが好ましい。
さらに、前記プレロールと前記一対の冷却ロールの間であって、プレロールに接地して下方へ送られる溶融樹脂を加熱し、加熱後の溶融樹脂を該一対の冷却ロールに送るのが好ましい。
また、前記対向面は、プレロールのロール面と相補的形状を呈する第1の領域と、該第1の領域からダイの前記出口側へ曲がって流体チャンバーの上端に至る第2の領域と、からなり、前記流体流路は、前記第1の領域と前記ロール面上の溶融樹脂の間の第1の流路と、前記第2の領域と前記出口下方の空間内にある溶融樹脂の間の第2の流路とからなり、第2の流路へ連続した第1の流路の流路断面幅が流体の流れの上流側である流体チャンバーの内部流路に比して狭くなっているのが好ましい。
また、流体チャンバーの前記上端面は平坦面を成し、前記対向面の前記第2の領域の曲率半径は前記上端面との交点に向かって増加しており、前記出口から押出された溶融樹脂に前記流体圧を付与しながら、該溶融樹脂を、下方の前記空間に延ばした後に前記第2の流路を介して前記第2の領域に沿うようにして前記ロール面に到達せしめ、前記第1の流路を介して前記第1の領域に沿うようにして該ロール面に密着させるのが好ましい。
また、本発明による製造方法の別の形態として、前記第2の領域が前記上端面に対して直交しており、前記出口から押出された溶融樹脂に前記流体圧を付与しながら、該溶融樹脂を、前記空間内を鉛直下方に延ばした後に前記第2の流路を介して前記第2の領域に沿うようにして前記ロール面に到達せしめ、前記第1の流路を介して前記第1の領域に沿うようにして該ロール面に密着させるものであってもよい。なお、この形態では、前記第2の領域は、第1の領域からダイの前記出口側へ曲がる湾曲部と、該湾曲部に連続して前記上端面に対して直交する直線部を有しているものであってもよい。
また、本発明による製造方法の別の形態として、前記第2の領域は、第1の領域からダイの前記出口側へ曲がる湾曲部と、該湾曲部に連続して第2の流路の流路断面を大きくする方向であって前記出口から遠ざかる方向に傾斜して前記上端面に交差する直線部を有しているものであってもよい。
また、本発明による製造方法の好ましい実施の形態として、前記出口が臨むダイの前記下端面と流体チャンバーの前記上端面はともに平坦面を成し、流体チャンバーの前記上端面とダイの前記下端面の間には、前記対向面に沿う流体流路が延びてさらに第3の流路を形成しており、第2の流路に次いで第3の流路に流体を流し、該第3の流路よりも流路断面の大きな下流方向に流体を放出するものであってもよい。なお、この形態では、前記第3の流路における流体圧が大気圧より大きくなるように該第3の流路の流路断面積を調整するものであってもよい。
また、本発明による製造方法の別の形態として、前記第1の流路の流路抵抗を前記第2の流路の流路抵抗の0.3倍以上に調整するものであってもよい。
また、本発明による製造方法の別の形態として、流体チャンバーから少なくとも2種類の流体圧の流体が提供されるようになっており、流体チャンバーの幅方向端部領域から提供される流体の流体圧を、その内側領域から提供される流体の流体圧に比して相対的に高圧となるように調整するものであってもよい。
また、本発明による製造方法の別の形態として、前記流体チャンバーはその内部流路と該内部流路周囲の筒部とから構成され、前記内部流路が対向面に臨む開口に連通し、かつ、前記筒部の端面の一部が前記対向面の前記第2の領域となっており、前記筒部の幅方向端部領域には、該筒部の前記端面の一部に臨む開口とこれに連通する別途の流路が形成されており、流体チャンバーの前記内部流路から流体を提供して前記流体流路に流し、かつ、前記別途の流路から前記流体流路にさらに流体を提供するものであってもよい。ここで、前記別途の流路から提供する流体の温度を、前記流体流路を流れる流体の温度に比して高温にしておくのが好ましい。
さらに、本発明による製造方法の好ましい実施の形態として、前記流体チャンバーはその内部流路と該内部流路周囲の筒部とから構成され、前記筒部の幅方向の2つの側面にローラーが取り付けられ、該ローラーが前記プレロールに回転自在に接触して少なくとも前記第1の流路の流路断面幅を保証するのが好ましい。
以上の説明から理解できるように、本発明のフィルム製造装置と製造方法によれば、ダイの出口下方と一対の冷却ロールの間にプレロールを配し、このプレロールとダイの出口の間の空間とプレロールに対向する流体チャンバーの対向面に沿う流体流路に沿って流体チャンバーから提供された流体を流し、空間内に存在する溶融樹脂がプレロールの回転方向に変位して引取られようとするのをこの流体流路を流れる流体の流体圧によって押し戻すことにより、出口から鉛直下方に押出された空間内の溶融樹脂を可及的に鉛直下方に延設させることができ、しかも空間内に存在する溶融樹脂の長さを可及的に短くすることができる。したがって、高いネックイン抑制効果を奏するとともに、膜揺れを効果的に抑制することができ、さらには、このネックインの抑制とトレードオフの関係にあるメヤニも効果的に抑制することができる。
以下、図面を参照して本発明のフィルムの製造装置と製造方法を説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明のフィルム製造装置の一実施の形態を示した模式図であり、図2は図1のII部を拡大してダイの出口とプレロールの間の空間と流体チャンバーの一実施の形態を示した図であって、図2aは、ダイの出口とプレロールの間の空間の溶融樹脂の変形を押し戻す方向に流体流路を流れる流体の流体圧が作用している状態を説明した図であり、図2bは図2aのb−b矢視図である。
図示する製造装置10は、溶融樹脂を押出す押出機2と、この押出機2に連通して所定幅の出口1aを具備するダイ1と、ダイ1の下方に位置して所定の回転数で回転自在(X2方向、X3方向)であって送られてきた溶融樹脂を挟圧し、表面加工して冷却固化する一対の冷却ロール3B,3Cと、ダイ1と一対の冷却ロール3B,3Cの間に位置して出口1aから押出された(Z方向)溶融樹脂flが接地するプレロール3Aと、ダイ1とプレロール3Aの間の空間に流体を提供する流体チャンバー5を具備する流体提供部7と、一対の冷却ロール3B,3Cで溶融樹脂flが挟圧され、冷却固化されてできるフィルムFLを巻き取る(X4方向)巻取ロール4とから大略構成されている。ここで、プレロール3Aは適宜の金属素材のロールであり、冷却ロール3B,3Cは、フィルムの素材によってそれぞれの素材の組み合わせが異なるものである。たとえば、フィルムが光学用の表面が平滑フィルムの場合は、一方が金属弾性ロールでクロムめっき鏡面であって、他方が金属ロールでクロムめっき鏡面のものを適用でき、光学用プリズムシートの場合は、一方が金属弾性ロールでクロムめっき鏡面であって、他方が金属ロールでニッケルめっきでプリズム彫刻されたものを適用でき、光学用拡散シートの場合は、一方が砂入りシリコンゴムロールであって、他方が金属ロールでクロムめっきエンボス放電加工されたものを適用でき、建材用プレエンボスフィルムの場合は、一方がシリコンゴムロールであって、他方が金属ロールやエンボス、幾何学模様などのいずれか一種を適用できる。
流体提供部7は、圧力エアを形成するコンプレッサ6と圧力エアを提供する流体チャンバー5から構成されている。
流体チャンバー5は、図2bで示すように矩形枠状の筒部(天板5a、側板5b、底板5c)と中央の流路5dから構成されており、図2aで示すように、そのプレロール3A側の対向面はプレロール3Aと相補的形状を呈している。
筒部の天板5aにおけるプレロール3Aおよび空間Kに対向する対向面は、図2で示すように、プレロール3Aと相補的形状を呈した略直線状(曲面と直線の双方を含み、いずれであってもよい)の第1の領域5a1と、この第1の領域5a1からダイ1の出口1a側へ曲がって流体チャンバー5の上端面5a3と直交する第2の領域5a2から構成されている。
相互に直交する第2の領域5a2と上端面5a3の交点は、ダイ1の平坦な下端面1bに臨む出口1aに対して所定幅だけセットバックした位置に配設されている。
出口1aから下方へ押し出された溶融樹脂flは、空間K内を延びてプレロール3Aに接地し、さらに下方へ送られて回転する一対の冷却ロール3B,3Cで挟圧され、表面化加工され、冷却固化されてフィルムFLが成膜されて巻き取られることになる。
コンプレッサ6で生成された流体fdは、内部流路5dからプレロール3A表面の溶融樹脂flに提供され、ここで、流体圧pを溶融樹脂flに付与しながら、溶融樹脂flと流体チャンバー5の間の隙間S(流体流路)を上方に流れていく。上方に流れる流体fdは、対向面に沿う流体流路を流れる過程で出口1aから下方の空間K内に延びる溶融樹脂flへ流体圧pを付与することにより、図3で示すように、出口1aから鉛直下方に押出された溶融樹脂の特にこの出口1a近傍の空間K内の溶融樹脂を鉛直下方に延設させ、流体流路を介して第2の領域5a2に沿うようにしてロール面に達し、流体流路を介して第1の領域5a1に沿うようにしてロール面に密着する。
(実施の形態2)
図3には、本発明のフィルム製造装置の他の実施の形態を示している。図示するフィルム製造装置10Aは、流体チャンバー5の内部にヒータ等の第1の加熱部8Aが内蔵されたものである。第1の加熱部8Aによってコンプレッサ6で生成された流体fdを所望に加熱温調し、加熱温調された流体を空間K内の溶融樹脂flに提供することができる。なお、第1の加熱部8Aは、流体チャンバー5内に内蔵されることのほかに、コンプレッサ6内に内蔵される形態や、コンプレッサ6と流体チャンバー5を繋ぐ流路内に内蔵される形態などであってもよい。
加熱温調された流体によって溶融樹脂が過度に冷却されるのを抑制し、溶融樹脂flがプレロール3Aの表面に接地した際の冷却量を所望に調整することによって、冷却ロール3B,3Cのニップ挟圧部における溶融樹脂flの温度がフィルム表面加工に必要な温度となるように制御することができる。
(実施の形態3)
図4には、本発明のフィルム製造装置の他の実施の形態を示している。図示するフィルム製造装置10Bは、プレロール3A内にヒータ等の第2の加熱部8Bが内蔵されたものである。プレロール3Aに内蔵された第2の加熱部8Bによって、実施の形態2と同様に、冷却ロール3B,3Cのニップ挟圧部における溶融樹脂flの温度がフィルム表面加工に必要な温度となるように制御することができる。
(実施の形態4)
図5には、本発明のフィルム製造装置の他の実施の形態を示している。図示するフィルム製造装置10Cは、プレロール3Aと一対の冷却ロール3B,3Cの間であって、プレロール3Aに接地して下方へ溶融樹脂flが送られる搬送路に、ヒータ(IRヒータを含む)やオーブン炉などの第3の加熱部9を設けたものである。
溶融樹脂を冷却すればするほど、そのネックイン抑制効果は大きくなり、膜揺れ防止効果も高くなり、さらにはフィルムの製造速度の向上にも繋がるが、溶融樹脂の温度が下がり過ぎてしまうと、冷却ロールの表面形状のフィルム表面への転写加工量が低下する危険性がある。そこで、冷却ロール3B,3Cのニップ挟圧部での溶融樹脂の温度を保証するべく、プレロール3Aから一対の冷却ロール3B,3Cのニップ挟圧部までの空間に第3の加熱部9を設けることで、フィルム表面への転写加工量の低下を抑制することができる。なお、図5で示すフィルム製造装置10Cに対して、図3で示す第1の加熱部8Aや図4で示す第2の加熱部8Bをさらに適用した別途のフィルム製造装置としてもよい。
(流体チャンバーによる効果について)
ここで、図6aを参照して、図示する対向面を具備する流体チャンバー5とプレロール3Aとで形成される流体流路により、ダイ1の出口1aからプレロール3A表面に至る溶融樹脂の延設姿勢(搬送経路)が安定することを以下で説明する。なお、図7は、第2の流路において溶融樹脂に局所的な凸部が形成されることを説明した図である。
同図において、流体流路は、対向面の第1の領域5a1に対応する隙間S領域が第1の流路であり、次いで第2の領域5a2に対応する隙間S領域が第2の流路であり、次いで流体チャンバー5の上端面5a3とダイ1の下端面1bの間の隙間が第3の流路となっている。また、同図において、r:第2の領域に対応する第2の流路の入口の対向面の曲率半径、A:第1の流路の流路入口位置、B:第1の流路の流路出口位置(もしくは第2の流路の流路入口位置)、C:第2の流路の流路出口位置(もしくは第3の流路の流路入口位置)、D:第3の流路の流路出口位置、pC:チャンバー元圧、p0:大気圧、p2in:第2の流路の流路入口圧、p2out:第2の流路の流路出口圧(第3の流路を考慮しないときp2out=p0)、Q:流量、T:引取張力、第1の流路に関し、L1:長さ、a1:流路断面幅(隙間)、v1:流速、Re1:レイノルズ数、第2の流路に関し、L2:長さ、a2:流路断面幅(隙間)、v2:流速、Re2:レイノルズ数、第3の流路に関し、L3:長さ、a3:流路断面幅(間隙)、v3:流速、Re3:レイノルズ数である。
第2の流路において、溶融樹脂flの単位幅当りの引取張力T(N/m)、曲率半径r(m)、第2の流路の流路断面幅a2(m)、静圧p(Pa)としたとき、下式が成立する。
ただし、流体が方向を変える際の遠心力と動圧は無視できるものとする。
つまり、第2の流路において、局所的に溶融樹脂flの流路断面幅a2が変動しても、引取張力T、静圧pが変化しない限り、式1が成立する元の曲率半径r+a2に戻るのである。
また、第2の流路に対向する溶融樹脂flは曲面を有していることから、剛性があって局所的な凹凸は生じ難い。しかし、図7で示すように、第2の流路において何らかの外乱で局所的かつ瞬間的に凸部fl’が生じた場合は、この凸部fl’の裾野部分の曲率半径は負にならなければならない。このとき、第2の流路の圧力によって曲率半径が負の部分は存在し得ず、曲率半径は大きく緩やかになる。この結果、第2の流路の流路断面幅a2は大きくなるが、後述する自己復元性によって第2の流路の流路断面幅が狭くなる方向へ溶融樹脂flは動き、元の流路断面幅a2、曲率半径r+a2に戻るのである。この第2の流路に沿う溶融樹脂flの曲率半径は広範囲に設定することができ、曲率半径が小さいほど、ダイ1の出口1aからプレロール3Aに接地するまでの距離を少なくすることができ、ネックインを効果的に抑制することが可能となる。
また、第2の流路へ連続した第1の流路の流路断面幅が狭くなっていることで、第2の領域5a2に対応する第2の流路を流れる流体fdの絞り効果が得られ、第2の流路が流体チャンバー5の上端面5a3に至る流路断面幅が変化する過程において、この変化に対する自己安定性を溶融樹脂に持たせることができる。たとえば、流体チャンバー5から提供される流体の圧力が一定である条件下で、溶融樹脂が外乱(外気の乱れ等)によって第2の流路の流路断面幅を広げる方向へ動いた場合に、流体流路の流路抵抗の減少によって流体チャンバー5からの流量は増加し、第1の流路の流路断面幅は一定(流路抵抗は一定)であるために流速増加分だけ圧力損失が増加し、第2の流路での静圧が減少して溶融樹脂の第2の流路は狭くなる方向へ戻る。一方、溶融樹脂が第2の流路の流路断面幅を狭くする方向へ動いた場合、流体流路の流路抵抗の増加によって流体チャンバーからの流量は減少し、第1の流路の流路断面幅は一定(流路抵抗は一定)であるために流速増加分だけ圧力損失が減少し、第2の流路での静圧が増加して溶融樹脂の第2の流路は広くなる方向へ戻る。このように、第2の流路にて流路断面幅が変化する過程において、溶融樹脂はこの変化に対する自己安定性を有することになるのである。
仮に、第1の流路に流路抵抗が無く、溶融樹脂が第2の流路の流路断面幅を広げる方向へ動いた場合は、チャンバー内の元圧が第2の流路における圧力となり、流路断面幅が広がる方向へ溶融樹脂は動いてしまい、流体流路の自己安定性は無くなる。このため、流体流路の安定性に対して流路断面幅が絞られた第1の流路は必要条件となるのである。
第2の流路の流路断面幅が広くなると溶融樹脂の曲率半径は大きくなり、少ない静圧で引取張力とバランスすることになる。実際には流路断面幅が広くなった際に、第2の流路の静圧の減少分が溶融樹脂の曲率半径の増加による必要静圧の減少分より大きくなるように、第1の流路と第2の流路双方の形状を決定すればよい。
また、第1の流路を設けることで、引取速度や押出温度等の成形条件の変更によって溶融樹脂の引取張力Tが多少変化した場合でも、チャンバー運転条件を変更することなく第2の流路の流路入口の必要圧力p2in=T/(r+a2)にバランスする。チャンバー元圧と第1の流路の流路抵抗を適正に選択することによってこのバランス範囲を大きくとることができる。
このように、第1の流路を設けることで、結果的に第2の流路に沿ったダイ1の出口1aからプレロール3Aに接地するまでの溶融樹脂の空間内における延設姿勢(搬送経路)が安定する(拘束される)。また、第1の流路により、流路に流れる流量を絞ることが可能となって膜揺れ防止効果も高くなる。
第2の流路の流路断面幅の自己安定性に関しては、外乱によって変動する流路抵抗の第2の流路の入口B(第1の流路との境界)と出口C(第2の流路と流体チャンバー5の上端面5a3の境界)の静圧差に対する、一定の流路抵抗を持つ第1の流路の入口Aと出口Bの静圧差の比が大きいほど自己安定性は高くなる。つまり、定常時の第1の流路の流路抵抗/第2の流路の流路抵抗の値が大きいほど、第2の流路の自己安定性が高くなる。すなわち、この比を大きくして、少なくとも曲率半径の変化の影響分より静圧の変化の影響分が大きくなるように調整しなければならない。
また、自己安定性は、第2の流路の流路断面幅の変化に対して、圧力変化が生じる際の圧力変化量の大きさと流量変化量の大きさで評価することができる。第2の流路に対して第1の流路の流路抵抗を大きくすると、第2の流路の入口Bでの必要静圧が同じ場合は、チャンバー元圧pCは増加し、第2の流路の流路断面幅a2が変わった場合は、必要静圧の圧力変化量は大きく、流量の変化量は小さくなる。このように、第1の流路の流路抵抗を大きくすることによって自己復元力は増していく。
また、第1の流路の流路抵抗は高い方がよいが、流量Qと圧力損失の関係式では流路抵抗は流路長さに比例し、流路断面幅の3乗に反比例する。第1の流路の流路長さL1を長くすれば、流路抵抗は増えるものの、流体チャンバー5内の圧力で溶融樹脂をプレロール3Aに押付ける位置がダイの出口1aから遠くなってしまう。すなわち、溶融樹脂はプレロール3Aの表面に接地して密着し、冷却固化する観点では不利になり、ネックイン量は増加してしまう。一方、流路断面幅a1を小さくすると、流路抵抗が3乗で増加することから効果的といえる。従来のフィルム製造装置では、冷却ロール表面の樹脂の両端部の厚みが厚く、この流路断面幅を狭くすることができなかったが、図示するフィルム製造装置10ではネックインが小さく、プレロール3A表面や冷却ロール3B表面の樹脂の両端部の厚み増加分が少なくなることからこの流路断面幅a1を狭くすることができる。この流路断面幅a1の寸法に関しては、実用上1mm以下が適用され、0.5mm以下がより好ましいことが確認されている。さらに、第1の流路の流路抵抗/第2の流路の流路抵抗の値が大きいほど好ましいが、実用上は0.3倍以上を確保するのが望ましい。
また、第2の流路内にはその入口Bから出口Cまで圧力損失が存在することから、第2の流路の流路断面幅a
2を一定とするには、その曲率半径rを出口側、すなわち、流体チャンバー5の上端面5a3との交点に向かって増加させる必要がある。一方、圧力損失は流路長さに比例することから、対向面の第2の領域の曲率半径rを上端面5a3との交点に向かって増加させる形状とすることで、第2の流路の曲率半径rと単位流路断面幅当たりの引張張力T、第2の流路の入口B、出口Cの静圧と第2の流路の長さL
2に関する以下の関係式(式2)を満たすことができる。
ここで、r:第2の流路の曲率半径(m)、a
2:第2の流路の流路断面幅(m)、r+a
2:溶融樹脂の曲率半径(m)、T:単位流路断面幅当たりの引取張力(N/m)、p
2in:第2の流路の入口の静圧(Pa)、p
2out:第2の流路の出口の静圧(Pa)、L
2:第2の流路の長さ、x:第2の流路における入口からの距離(0≦x≦L
2)
式2において、第2の流路の出口Cの静圧を大気圧とすれば、p2outはゼロとなり、rは無限大、すなわち直線となることから、逆に第2の領域を、図6bで示す流体チャンバー5Aのように、その対向面を湾曲部5a2’と該湾曲部5a2’に連続して上端面5a3に対して直交する直線部5a2”から構成することによって、第2の流路の出口Cの静圧を大気圧程度に調整することができる。
また、第2の流路での出口C付近で動圧が無視できない場合、すなわち出口Cで負圧によって溶融樹脂の空間K内の延設姿勢に影響が大きい場合は、第2の流路の出口Cでの動圧を減少させるべく、出口Cでの流路を拡大することによって動圧(流速)を減少させることができる。すなわち、図6cで示す流体チャンバー5Bの対向面における第2の領域を、第1の領域からダイ1の出口1a側へ曲がる湾曲部5a2’と、該湾曲部5a2’に連続して第2の流路の流路断面を大きくする方向であって出口1aから遠ざかる方向に傾斜して上端面5a3に交差する直線部5a2’’’とから構成するものである。
また、図2,6で示すように、ダイ1の平坦な下端面1bと流体チャンバー5の平坦な上端面5a3の間には第3の流路が形成され、流体流路を流れた流体は、第3の流路を流れた後に該第3の流路の流路断面幅よりも大きな流路断面幅を有して大気に通じる下流側へ放出される(図2の放出流体fd1)。このように、第3の流路の流路断面幅a3を出口D側に向かって大きくして流路断面を大きくすることにより、動圧(流速)を減少させることができる。
ここで、第3の流路における流体圧が大気圧より大きくなるように該第3の流路の流路断面積が調整されている。第2の流路から連続する第3の流路の流路断面幅a3を調整することでその流路断面積が調整され、ダイ1の出口1a近傍における溶融樹脂への負圧の影響を無くすことができる。この場合、負圧の発生が第3の流路の出口D側へ移動するために、空間K内で延設する溶融樹脂は負圧の影響を受けなくなる。
なお、流体圧pや冷却ロール3B,3Cの回転速度、溶融樹脂の押出し速度等の調整は、不図示の制御用コンピュータによって調整することができる。また、必要に応じて空間K内における溶融樹脂の延設姿勢(鉛直方向など)を視認できるCCDカメラやビデオカメラを図示する装置が備えていてもよく、たとえば所定の回転数で冷却ロールを回転させ、所定の押出し速度で溶融樹脂が押出された際の空間内における溶融樹脂の延設姿勢をビデオカメラ等でモニタリングし、たとえばこのモニタ画像を視認しながら、空間内における溶融樹脂の延設姿勢が所望の姿勢となるように圧力エアの流体圧を調整することもできる。
また、エアチャンバー5から提供される圧力流体fdによる流体圧pによって溶融樹脂flをプレロール3Aに速やかに押し付けて密着させ、半溶融状態とすることにより、押出された溶融樹脂flの幅と同程度の幅を有するフィルムFLの製造を保証することができる。
ここで、フィルム成形用の樹脂材料は特に限定されるものではないが、たとえば、加熱によって流動性を呈する熱可塑性樹脂樹である、ポリオレフィンやポリエステル、ポリアミドやそれらの変性体、混合体などを適用できる。
また、図8,9,10は、流体チャンバーの他の実施の形態を説明した図である。
図8で示す流体チャンバー5Cは、その内部の流路が3区画に画成され、流体チャンバー5Cの幅方向端部領域の流路5e、5eと、それらの内側の内部領域5dから構成され、内部領域5dから流体流路に提供される流体の流体圧に比して幅方向端部領域の流路5eから提供される流体の流体圧が相対的に高圧に調整されているものである。
流体チャンバーから流体流路に提供された流体は、実際には、第1の流路、第2の流路、および第3の流路のいずれにおいても流路の途中で、溶融樹脂の幅方向(これはフィルムの幅方向となる)の両端部から外側へ漏れる。また、溶融樹脂のこの両端部では小さいながらもネックインが生じた場合に、溶融樹脂膜は厚くなり、その分は引取張力が増加することになる。そこで、流体チャンバーの幅方向端部領域、すなわち、溶融樹脂の両端部が通過する部分の圧力を、その内側領域に対して高圧に設定可能とする。そこで、図示するように、幅方向端部領域の流路5eから提供される両端部の高圧流体により、第1の流路以降の各流路における端部から漏れるエア分を補充することができる。さらにプレロール3A表面での溶融樹脂の端部を高圧で密着させる作用も奏するため、固化するまでに発生するネックインを効果的に抑制することができる。
また、図9で示す流体チャンバー5Dは、筒部の幅方向端部領域において内部流路5dとは別途の流路5fが開設されたものであり、この別途の流路5fは、対向面の第2の領域5a2の途中位置で該対向面に臨む開口を有している。
流体チャンバーから供給されて流体流路を流れる流体とは独立した流体を提供するための流路断面が絞られた別途の流路5fを筒部の幅方向端部領域に設け、この別途の流路5fから提供される流体により、第2の流路以降の各流路における端部から漏れるエア分を補充し、溶融樹脂の曲率半径や引取張力にバランスするに必要な静圧を確保することができる。
ここで、別途の流路5fから提供される流体の温度を相対的に高温とすることで、溶融樹脂の温度を高温に保つことができ、幅方向全体の引取張力を下げることが可能となる。
さらに、図10で示す流体チャンバー5Eは、筒部の幅方向の2つの側板5bにローラー5gが取り付けられ、該ローラー5gがプレロール3Aに回転自在に接触して少なくとも第1の流路の流路断面幅を保証するものである。
ローラー5gにより、特に第1の流路における流路断面幅を精度良く確保することができ、さらには、ローラー5gの位置を調整することで第1の流路の流路断面幅を容易に変更することができる。
[実数値を適用した計算結果]
溶融樹脂の引取張力は、樹脂及びその成形条件によって概ね決まっており、この値は、市販のキャピラリーレオメーター等で測定することができる。ここで、引取張力が分かれば装置の仕様は計算にて決定可能であることから、本発明者等は以下で示す各種の計算をおこなった。
(計算における仮定)
圧力変化にともなう温度変化や密度変化は小さいため、等温の非圧縮性粘性流体とする。また、第2の流路、第1の流路での流体の速度はフィルム成形速度に比べて大きいため、固定平行平板間の流れとする。例えば、フィルム成形速度が20mpm(0.33[m/s]の場合、これは流体チャンバー内の内部流路の風速に比べて小さいことから固定平板間流れで近似することができる。さらに、第2の流路での樹脂の引取張力は静圧によって支えられるとする。つまり、流量が少ないため、第2の流路での流体が向きを変える際の動圧や遠心力、さらには流体流路の急縮小や急拡大にともなう圧力損失は無視できるものとする。
(実計算結果)
溶融樹脂の単位幅当りの引取張力:T=5(N/m)、
第1の流路に接する第2の流路に対応する第2の領域における曲率半径:r=5×10
-3(m)、
第1の流路の流路断面幅:a
1=0.3×10
-3(m)、
第2の流路の流路断面幅:a
2=0.3×10
-3(m)、としたき、第2の流路の流路入口での必要静圧は、
第2の流路の入口Bから出口Cに曲率半径を増やし、出口Cで無限大(直線)とすれば、第2の流路の流路断面幅を一定とすることができる。第2の流路入口Bにおいてp2in=943(Pa)、出口Cにおいてp0=0(大気圧)として、第2の流路の圧力損失はΔp2=p2in -p0=943(Pa)となる。流体粘度:μ=18×10-3(Pa・s)とし、必要流量Qについて、層流域では次の式が成立つ。なお、今回は層流域が対象となっているが、乱流域でも計算式が異なるだけで同様の考え方で計算できる。
このときの第2の流路、第1の流路の流体の速度vは、v=v1= v2 (∵a1=a2)
ここで、流体の動粘度γ=μ/ρ(m
2/s)、密度ρ=1.2(kg/m
3)、流路の平均深さm=断面積(m
2)/濡れ縁(m)となる。よって、
流体の流れは層流域となり、層流を対象とした圧力損失と流量の関係式で問題ないことが確認できた。
流量Q=0.0118(m
3/s)なので、第1の流路における圧力損失Δp
1は、
第1の流路及び第2の流路内の流速vによる動圧p
vは、
このように、溶融樹脂の引取張力を測定しておけば、第1の流路、第2の流路および流体チャンバー内の圧力を決定することができる。
次にこの例で流路の自己安定性について計算してみる。最初に第2の流路の流路断面幅が50%広くなったa2=0.45×10-3(m)の場合の流量Qを求める。
ここでチャンバー元圧p
c、第1の流路の圧力損失Δp1、第2の流路の圧力損失Δp2、第2の流路の速度(流体出口速度)の関係は次のようになる。
(b)、(c)、(d)式を(a)式に代入してQについて整理すると、
上式をQについて解くと、Q=0.01648(m3/s)となる。このとき、(d)式よりV2=24.3(m/s)となる。さらにQは一定なのでV1=(a2/a1)V2=36.4(m/s)となる。
よって、第1の流路のレイノルズ数Re
1、第2の流路のレイノルズ数Re
2は、
また式(b)、(c)では、Δp1=2185(Pa)、Δp2=388(Pa)となり、第1の流路の圧力損失が上昇して第2の流路入口の静圧p2inは、p2in=p2in−p0=Δp2=388(Pa)となる。
さらに、第2の流路が拡大したときの曲率半径r+a2、引取張力Tとバランスする必要静圧力分p2inを確認すると、p2in=T/(r+a2)=5/((5+0.45)×10-3)=917(Pa)となり、第2の流路の圧力低下分よりも高く、拡大した流路断面幅が狭くなる方向へ戻る自己復元力を持つことが分かる。仮にこの値が第2の流路での静圧よりも低くなると、流路断面幅は広がる方向へ大きくなリ、自己復元力は無くなる。
つまり、上記する(d)式の第2の流路の流路断面幅が広くなった場合、溶融樹脂の曲率半径は大きくなって少ない静圧で引取張力とバランスすることになるが、実際には流路断面幅が広くなった際に第2の流路の静圧の減少分が溶融樹脂の曲率半径の増加による必要静圧の減少分より大きいために、溶融樹脂は第2の流路の流路断面幅が狭くなる方向へ戻ることが確認できた。このようにして、自己復元力が保持できるように、第1の流路および第2の流路の形状を決定すればよい。
次に、第2の流路の流路断面幅が50%狭くなったa2=0.15×10-3(m)の場合を同様に計算すると、流量Q及び流路の流速vは、Q=0.0036(m3/s)、v1=8.0(m/s)、v2=15.9(m/s)となり、レイノルズ数Reは、Re1=320 <2000、Re2=318 <2000となる。
圧力損失については、Δp1=479(Pa)、Δp2=2297(Pa)である。つまり、p2in=2297(Pa)となり、第1の流路の圧力損失が減少し、第2の流路入口での静圧が増加する。さらに、第2の流路が狭くなったときの曲率半径r+a2、引取張力Tとバランスする必要静圧力分p2inは、p2in=T/(r+a2)=5/((5+0.15)×10-3)=970(Pa)である。この値は実際のp2in=2297(Pa)よりも低いことが分かる。以上より、狭くなった第2の流路の流路断面幅が広がる方向へ自己復元力を持つことが確認できた。
また、第2の流路の長さL2のみを長くした場合を前記同様に計算すると、L2=50×10-3(m)のとき、チャンバー元圧pc=4500(Pa)(定常時のp2in=943(Pa)、Q=0.0118(m3/s)は同じ)となり、第2の流路の流路断面幅が50%広がったとき、曲り流路の入口圧p2in=345(Pa)、Q=0.0145(m3/s)となり、第2の流路の流路断面幅が50%狭くなったとき、第2の流路の入口圧p2in=2994(Pa)、Q=0.0047(m3/s)となり、L2=25×10-3(m)に比して圧力変化量が大きく、流量変化量は小さいことが分かる。
第1の流路で大気開放した場合、速度は0に近づき、第1の流路出口の速度(動圧)は静圧に変化する。このとき生じる静圧分は負圧になる。
となり、大気開放出口から流速の減少にともなって最大で-412(Pa)の負圧が生じる。
この負圧分がダイ出口の溶融樹脂の経路に悪影響を及ぼす場合、長さL
3、流体断面幅a
3からなる第3の流路を追加することで、大気開放位置を溶融樹脂から離すことができる。第3の流路で動圧分を静圧分へ完全に変換する場合、L
3=10×10
-3[m]とすると、流体流路幅a
3は以下のようになる。
このようにa3、L3による効果は計算可能だが、a3を本寸法とした場合、溶融樹脂出口に412Paの静圧が陽圧分として増加する。実際には、流路断面幅a3をこの計算値より大きくしておき、ある程度の流路抵抗が見込める寸法にしておけば、負圧発生をダイ出口から離れた位置に移動させることが可能となる。さらには、ダイ出口近傍の溶融樹脂が安定するように調整することが望ましい。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。