JP5614361B2 - ハイドロフォーム成形品の製造方法および製造装置 - Google Patents

ハイドロフォーム成形品の製造方法および製造装置 Download PDF

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Description

本発明は、重ね合わされた2枚の金属板にハイドロフォーム成形を行ってハイドロフォーム成形品を製造する方法および装置に関し、さらに詳しくは、重ね合わされた2枚の金属板の外周を全周にわたり溶接することにより2枚の金属板をシールしなくとも、膨出変形時のシール性を確保しながら、ハイドロフォーム成形を行ってハイドロフォーム成形品を高い生産効率で製造する方法および装置に関する。
周知のように、自動車や家電製品等に用いられる薄板の成形品には、金属板を素材とするプレス成形が多用される。しかし、金属板のプレス成形には、金型の角R部により成形される変形集中部で減肉や割れ等の成形不良が生じ易いとともにポンチ底部により成形される部分が変形し難く、成形可能な形状の自由度が低いことや、加工後のスプリングバックが不可避的に発生するので成形品の寸法精度を高めることが容易ではないことといった問題がある。
これに対し、ハイドロフォーム成形は、素材である管材または重ね合わされた2枚の金属板を上下一対の金型の内部に配置して型締めし、素材の内部に加圧された加工液を注入することによって素材を膨出変形させて素材を金型の内面に沿わせ、金型の内面形状に一致する外面形状を有する成形品を製造する。このため、ハイドロフォーム成形には、素材全体を膨出変形させるために部分的な減肉や割れ等を生じ難く、また膨出変形を利用するために殆どの部位が2軸引張状態で変形することから、プレス成形では成形不良を生じるような複雑な形状の成形も可能になることや、加工後のスプリングバックが少ないために成形品の寸法精度を高めることができることといった優れた特長がある。近年では、ハイドロフォーム成形は、金型数や工程数の削減により生産性の向上や製造コストの低減を図れることから、特に様々な自動車用部品の製造方法として提案されている。
ハイドロフォーム成形では、金型で挟持された重ね合わされた2枚の金属板の間に加工液を注入して加圧して成形するので、2枚の金属板の間から加工液が漏洩すると2枚の金属板の間に高圧を発生できないため、金属板を膨出変形させることができない。
例えば特許文献1には、2枚の金属板における膨出変形部を形成する部分の外周で2枚の金属板を溶接して2枚の金属板の間をシールしてから、2枚の金属板の間に加工液を注入することによって、加工液の漏洩を防止しながらハイドロフォーム成形品を製造する方法が開示されている。
しかし、2枚の金属板の溶接部にピンホール程度の微小な孔が存在するだけで、この孔から加工液が漏洩するために2枚の金属板の間に50MPa以上の高圧は発生することができない。このため、特許文献1により開示された方法を実施するには、溶接部の全長にわたって極めて高い信頼性で2枚の金属板を溶接する必要があり、量産品の製造法として適用することは容易ではない。また、特許文献1により開示された方法では、2枚の金属板同士が溶接された状態でこれら金属板を膨出変形させるため、2枚の金属板それぞれの膨出変形の程度が同程度でない場合には、膨出変形の程度が少ない金属板、すなわち線長の短い孔型を有する金型側に配置された金属板にしわが発生することから、製造可能な形状が相当制限される。
特許文献2には、金型に設けられた孔型の外周にその全周にわたりビードを形成し、このビードによって、溶接されずに重ね合わされた2枚の金属板の外周部を押圧することによって2枚の金属板をシールしながらハイドロフォーム成形する方法が開示されている。
特許文献2により開示された発明によれば、金型に設けられたビードによって加工液の漏洩をある程度は防止できるが、本発明者の検討結果によれば、2枚の金属板の間に負荷できる圧力は高々30〜50MPa程度であり、50MPa以上、特に100MPaを超えるような高圧を負荷することはできないため、やはり、成形可能な形状が相当制限される。
さらに、特許文献3や非特許文献1には、上下の金型の間をシールリングでシールするとともに、上金属板と上金型の板押さえ面との間、および、下金属板と下金型の板押さえ面との間にそれぞれシールリングを配設することによって2枚の金属板の間をシールして、2枚の金属板の間からの加工液の漏洩を、上金型−下金型間、上金型−上金属板間、さらには下金型−下金属板間で防止して、2枚の金属板の間の加工液を高圧にして2枚の金属板を膨出成形することによって、重ね合わされた2枚の金属板を溶接しなくとも、2枚の金属板の間に所望の圧力を与えてハイドロフォーム成形する方法が開示されている。
なお、非特許文献1により開示される通常のシールリングでは、高圧の加工液のシールを行うことは難しく、2枚の金属板の間に負荷できる圧力は40MPa程度であることから、特許文献3では、高圧をシールすることができる特殊なシールリングを用いることによって圧力を高めることとしている。
特開昭47―33864号公報 特開2003−25022号公報 特開2008−119723号公報
Hydroforming of Tube, Extrusions, and Sheets Vol3(2003),p217-226
特許文献3により開示された方法は、上金型と下金型との間をシールするとともに上下の金型と2枚の金属板との間もシールするため、以下に列記する課題を有する。
(a)歩留りが低下すること
金型の板押さえ面にシールリングを配置する必要があるため、製品形状より大きなフランジ部を金属板に設ける必要があり、歩留りが低下する。
また、特許文献3により開示された特殊シールリングは形状が複雑であってその断面形状も大きい。また、シールリングにより金属板はシールされるが、シールリングは弾性体であるため、シールリングの反対面の金属板の表面に成形圧が加わり、金属板に凹みが生じる。外周側のシールリングにより形成されたこの凹み部分が、内周側のシールリングによるシール部まで伸長すると、内周側のシールリングを押さえ切れずにシール漏れが生じる。このため、上金型へのシールリングと下金型へのシールリングとの間の距離を十分確保する必要があり、この点からも、製品形状より大きなフランジ部を金属板に設ける必要があり、歩留りがさらに低下する。
(b)高圧のシールのため、金型の加工精度、金型の高剛性、ブランクの板厚精度が要求されること
シールリングによりシールする場合、シールリング溝の近傍とブランクに隙間があると、高圧付与時に隙間からシールリングがはみ出してしまう。そのため、金型でブランクを挟持したとき、隙間がないようにしなければならず、金型の加工精度やブランクの板厚精度が低いと、不可避的に隙間が生じる。さらに、金型の剛性が低いと、成形圧力により金型が変形して隙間が生じる。そのため、高精度かつ高剛性の金型を製作し、公差の厳しいブランクを用いる必要を生じ、コストが嵩む。
(c)フランジしわによりシール漏れを生じること
金属板の流入によりフランジしわが生じる場合、しわ部がシールリングに達すると、シールリングを密着して押圧することができなくなり、シール漏れを生じる。
(d)フランジ部の板厚変化によりシール漏れを生じること
不均一なフランジ流入により、フランジ部に板厚が部分的に変化した場合、シールリングを密着して押圧することができなくなり、シール漏れを生じる。
(e)金属板の板厚が薄いとシール漏れを生じること
シールリングを用いる方法では、基本的に上下の金型間の隙間が2枚の金属板の板厚と同程度でなければ、シールリングを押圧することができないが、成形される金属板の板厚は、一定ではなく成形品の仕様に応じて変動するため、薄い金属板を用いる場合、シール漏れを生じる。
(f)曲面形状のフランジ面に対応したシールリングの製作が難しいこと
大型のシールリングとして一般的な旋盤切削加工やひも状シールリング素材の両端接着で作られたシールリングを、複雑な製品形状に応じたシールリング溝にはめ込むと、曲げ変形により断面形状が変化するため、適用できない。そのため、ブロックからの3次元切削加工や、専用の金型を製作して加硫成型で製作する必要がある。しかしながら、ゴム等のシールリング素材の切削加工は難しく、加硫成型は熱処理時の変形があるため、大型品の高精度な成形は困難である。
さらに、シールリングを取り付けるフランジ面が曲面の場合、シール溝も3次元形状となり、その形状に応じたシールリングの製作はきわめて困難であるだけでなく、高圧のシールに必要な精度が得られない。
(g)上金型へのシールリングの装着が難しいこと
上金型にシールリングを配置するためには、一般的には、脱落防止のためにシールリングを接着する必要があるが、シールリングは消耗品であり交換する必要があるので、接着すると交換が容易でない。そもそも、特許文献3に開示されたシールリングは、接着して使用するものではないため、ハイドロフォーム成形には適用できないおそれがある。
(h)成形性が低下すること
金属板は、シールリングの内側において加工液の液圧を受けるため、板押さえ部において金型との摩擦のために、フランジが流入し難くなり、成形性が低下する。
本発明は、これらの課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、重ね合わされた2枚の金属板の外周を全周にわたり溶接しなくとも膨出成形時のシール性を十分に確保しながら従来よりも優れた成形性でハイドロフォーム加工を行って、ハイドロフォーム成形品を高い生産効率で製造する方法および装置を提供することを目的とする。
ハイドロフォーム成形では、上下一対の金型間をシールして重ね合わされた2枚の鋼板の間に加工液を注入すれば、上金型に設けられた孔型の内部で一方の鋼板は膨出変形するとともに、下金型に設けられた孔型の内部で他方の鋼板は膨出変形する。この際、上下の金型それぞれの板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部に鋼板との接触面圧が集中する。
本発明者は、このハイドロフォーム成形の工程を詳細に検討した結果、上記接触面圧が、加工液の成形圧力よりも高い状態を、膨出変形の全ての時間において維持することができれば、2枚の鋼板は膨出変形の全ての時間において金型肩R部によりシールされ、加工液が鋼板と金型との間から漏洩しなくなり、重ね合わされた2枚の鋼板の間を例えば溶接等によりシール溶接しなくとも、簡単な構成により、膨出変形時のシール性を十分に確保しながら、従来よりも優れた成形性でハイドロフォーム加工を行って、ハイドロフォーム成形品を高い生産効率で製造することが可能になることを知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
本発明は、重ね合わされた2枚の金属板のうち一方の金属板をその板厚方向へ押さえる板押さえ面と、この板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部により一部を形成されるとともに、ハイドロフォーム成形によるハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状を有する孔型とを備える第1の金型と、2枚の金属板のうちの他方の金属板をその板厚方向へ押さえる板押さえ面と、この板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部により一部を形成されるとともに、ハイドロフォーム成形によるハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状を有する孔型とを備える第2の金型とを用いて、2枚の金属板を板押さえ面それぞれによって挟持する第1の工程と、2枚の金属板の間であってハイドロフォーム成形による膨出変形部を形成する部分に加工液を供給することによって、2枚の金属板をいずれも膨出変形させ、一方の金属板を第1の金型の孔型の内面に沿わせるとともに他方の金属板を第2の金型の孔型の内面に沿わせることにより、一方の金属板を素材とする第1のハイドロフォーム成形品および他方の金属板を素材とする第2のハイドロフォーム成形品を製造する第2の工程とを備えるハイドロフォーム成形品の製造方法において、重ね合わされた2枚の金属板の間はシールされないとともに、第1の金型および第2の金型はそれぞれの板押さえ面の外側でシールされ、かつ、第2工程では、第1の金型の金型肩R部と一方の金属板との接触面圧がこの金型肩R部の全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、2枚の金属板の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、第1の金型の金型肩R部を一方の金属板に接触させるとともに、第2の金型の金型肩R部と他方の金属板との接触面圧がこの金型肩R部の全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、2枚の金属板の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、第2の金型の金型肩R部を他方の金属板に接触させることを特徴とするハイドロフォーム成形品の製造方法である。
この本発明に係る製造方法では、金型肩R部の曲率半径が、その全周にわたって下記(1)式:1<ρ/t<7.5により規定される関係を満足することが望ましい。ただし、ρは金型肩R部の曲率半径(mm)であるとともに、tは金型肩R部と当接する金属板の板厚(mm)である。
これらの本発明に係る製造方法では、一対の金型は、いずれも、流入中に流入直角方向に有意の伸び縮みを生じない部位(より具体的には、伸びフランジ変形、縮みフランジ変形が殆ど生じない部位を示し、以後「金属板が流入し易い部位」という)の板押さえ面に配置された金属板流入抵抗手段を備えることが望ましい。
伸びフランジ変形、縮みフランジ変形が殆ど生じない部位とは、成形中にフランジの外周部が殆ど塑性変形しない部位を意味し、換言すれば、フランジの外周縁部の肉厚が殆ど減肉も増肉もしない部位のことであり、具体的には、フランジ外周縁部の板厚変化率(成形前の板厚に対する成形後の板厚の変化の比)の大きさが1%以下である部位である。
別の観点からは、本発明は、重ね合わされた2枚の金属板のうち一方の金属板をその板厚方向へ押さえる板押さえ面と、この板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部により一部を形成されるとともに、ハイドロフォーム成形によるハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状を有する孔型とを備える第1の金型と、2枚の金属板のうちの他方の金属板をその板厚方向へ押さえる板押さえ面と、この板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部により一部を形成されるとともに、ハイドロフォーム成形によるハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状を有する孔型とを備える第2の金型とを備え、板押さえ面それぞれによって挟持された2枚の金属板の間であってハイドロフォーム成形による膨出変形部を形成する部分に加工液を供給することによって、2枚の金属板をいずれも膨出変形させ、一方の金属板を第1の金型の孔型の内面に沿わせるとともに他方の金属板を第2の金型の孔型の内面に沿わせることにより、一方の金属板を素材とする第1のハイドロフォーム成形品および他方の金属板を素材とする第2のハイドロフォーム成形品を製造するハイドロフォーム成形品の製造装置であって、第1の金型および第2の金型はそれぞれの板押さえ面の外側でシールされること、および、第1の金型の金型肩R部は、一方の金属板との接触面圧がこの金型肩R部の全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、2枚の金属板の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、一方の金属板に接触するシール部であるとともに、第2の金型の金型肩R部は、他方の金属板との接触面圧がこの金型肩R部の全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、2枚の金属板の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、他方の金属板に接触するシール部であることを特徴とするハイドロフォーム成形品の製造装置である。
この本発明に係る製造装置では、第1の金型の金型肩R部の曲率半径、および第2の金型の金型肩R部の曲率半径は、いずれも、その全周にわたって上記(1)式により規定される関係を満足することが望ましい。
本発明によれば、重ね合わされた2枚の金属板の間はシールしなくても、加工液の漏洩を防止して高圧を付与して金属板を膨出成形することができる。
また、本発明によれば、第1の孔型および第2の孔型それぞれの内面形状が大きく異なる場合であっても、それぞれの内面形状と同一の外面形状を有する第1のハイドロフォーム成形品および第2のハイドロフォーム成形品を製造することができるので、優れた生産性とコスト低減を図ることができる。
さらに、従来の金属板のハイドロフォーム成形品よりも小さなブランクを用いることができるので、歩留りの向上や成形品の軽量化を図ることもできる。
図1は、本発明に係る製造装置の構成を、透視状態でかつ一部を簡略化して示す斜視図である。 図2(a)〜図2(f)は、第1工程および第2工程において、二枚の鋼板の間の膨出変形部を形成する部分に、加工液を注入した場合における、中央断面での二枚の鋼板の変形挙動を模式的に示す説明図である。 図3は、成形時の成形圧力、金型肩R部の面圧、および中央断面でのフランジ端の流入量を示すグラフである。 図4は、金型肩R部の曲率半径ρが3、6、12mmmである時の面圧挙動を示すグラフである。 図5は、金型肩R部の曲率半径ρの鋼板4、5の板厚tに対する比率と成形圧力低下時の余裕圧力との関係を示すグラフである。 図6は従来のシールリングを用いた鋼板と金型間のシールを示す説明図であり、図6(a)は板押さえ面間の隙間が、2枚の鋼板の板厚と等しい場合を示し、図6(b)は板押さえ面間の隙間が、2枚の鋼板の板厚と異なる場合を示す。 図7は本発明のシールリングを用いない鋼板と金型間のシールを示す説明図であり、図7(a)は板押さえ面間の隙間が、2枚の鋼板の板厚と等しい場合を示し、図7(b)は板押さえ面間の隙間が、2枚の鋼板の板厚と異なる場合を示す。 図8(a)は実施例1で用いる孔型の上面図であり、図8(b)はこの孔型の横断面図であり、図8(c)はこの孔型の縦断面図である。 図9(a)は実施例4で用いる孔型の上面図であり、図9(b)はこの孔型の横断面図であり、図9(c)はこの孔型の縦断面図である。 図10は、実施例2で用いる2枚の鋼板の形状を示す説明図であり、図10(a)は上板であり、図10(b)は下板である。 図11は、980MPa、板厚1.2mmの鋼板を実施例1により成形した2つの成形品の断面図であり、成形品の長手方向のスプリングバックを説明する長手方向断面形状説明図である。 図12(a)は、実施例5で用いるかしめ工具のダイスを示す説明図であり、図12(b)は金型に配置されたかしめ工具を示す断面図である。
本発明を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。以降の説明では、金属板が鋼板である場合を例にとるが、本発明は鋼板以外の金属板に対しても同様に適用される。
1.本発明に係るハイドロフォーム成形品の製造装置
図1は、本発明に係る製造装置1の構成を、透視状態でかつ一部を簡略化して示す斜視図である。
製造装置1は、一対の第1の金型2および第2の金型3を備える。金型2は上金型であり、金型3は下金型である。
金型2は、板押さえ面2aと孔型2bとを有する。板押さえ面2aは、膨出変形部を形成する部分4a、5aの周囲をシールされずに重ね合わされた2枚の鋼板4、5のうちの上に位置する一方の鋼板4をその板厚方向へ押さえる。孔型2bは、ハイドロフォーム成形による第1のハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状(内面)2cを有する。孔型2bは、その一部を、板押さえ面2aに連続して曲面状に形成された金型肩R部2dにより形成される。
一方、金型3は、板押さえ面3aと孔型3bとを有する。板押さえ面3aは、重ね合わされた2枚の鋼板4、5のうちの下に位置する他方の鋼板5をその板厚方向へ押さえる。孔型3bは、ハイドロフォーム成形による第2のハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状(内面)3cを有する。孔型3bは、その一部を、板押さえ面3aに連続して曲面状に形成された金型肩R部3dにより形成される。
孔型2bの内面2cの形状と、孔型3bの内面3cの形状とは、大幅に異なっていてもよい。このため、製造装置1によれば、大幅に異なる外面形状の第1のハイドロフォーム成形品および第2のハイドロフォーム成形品を同時に製造したり、あるいは、同一の外面形状を有する第1のハイドロフォーム成形品および第2のハイドロフォーム成形品を同時に製造することが可能である。
製造装置1は、金型3に形成された加工液注入口3eに接続された図示しない加工液供給装置から、2枚の鋼板4、5の間であってハイドロフォーム成形による膨出変形部を形成する部分4a、5aに加工液を供給することによって、2枚の鋼板4、5を膨出変形させて、鋼板4を金型2の内面2cに沿わせることにより第1のハイドロフォーム成形品を製造するとともに、鋼板5を金型3の内面3cに沿わせることにより第2のハイドロフォーム成形品を製造する。
金型2、3は、板押さえ面2a、3aの外側に配置されたシール手段7によりシールされる。金型2と金型3はインローとなっており、金型3の縦壁に設けられたシールリング溝7aにシールリング7cが配置される。
シール手段7は本構成に限定されるものではなく、平面同士をシールする通常のバックアップリングを伴ったシールリングを用いてもよい。鋼板4、5との摺動等の問題もなく、平面同士のシールであれば、高圧といえどもシールは容易である。
鋼板4、5の板厚に応じて、スペーサ8が配置され、上下の金型2、3の板押さえ面2a、3aの隙間が調整される。特に板厚の変更がない場合は、スペーサを省略し、板厚に応じた金型寸法とすればよい。
さらに、第1の金型2の金型肩R部2dは、鋼板4との接触面圧がこの金型肩R部2dの全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、鋼板4、5の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、鋼板4に接触するシール部である。また、第2の金型の金型肩R部3dは、鋼板5との接触面圧がこの金型肩R部3dの全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、鋼板4、5の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、鋼板5に接触するシール部である。
金型肩R部2d、3dの曲率半径ρ(mm)が、その全周にわたって、(1)式:0.1<ρ/t<7.5(ただし、t(mm)は、金型肩R部2d、3dと当接する鋼板4、5の板厚(mm)である)により規定される関係を満足することが望ましい。ρ/tが0.1以下であると、シャープエッジとなり、鋼板がせん断される場合があり、ρ/tが7.5以上であると、シールもれの危険があるからである、さらに、ショックマークの発生を防止するためρ/tは、1以上であること、また、十分な面圧を確保するため4以下であることがより望ましい。
金型肩R部2d、3dは、断面が単一Rでもよく、あるいは曲率半径が連続的に変化してもよい。本発明での金型肩R部2d、3dの曲率半径とは、金型肩R部2d、3dの断面で曲率の最も大きな曲率半径を意味する。シールに最も寄与するのは最大の曲率部であるからである。
これにより、金型2における金型肩R部2dと鋼板4との接触面圧が、金型肩R部2dの全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、加工液の圧力より高くなるとともに、金型3における金型肩R部3dと鋼板5との接触面圧が、金型肩R部3dの全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、加工液の圧力より高くなる。
なお、金型2の孔型2bと金型3の孔型3bとには、板プレス成形と同様に、それぞれ、エア抜き穴2f、3fを設けることが望ましい。板プレス成形ではパンチ底に、通常の鋼板のハイドロフォーム成形では最後に膨出する孔型底の角部に、それぞれエア抜き孔を設けるが、本発明に係る製造装置1では、フランジのオーバーランした部位が最後に押し戻される成形が最後となるため、直片部の金型肩R部2dの近傍にエア抜き孔2fを設けるとともに、金型肩R部3dの近傍にエア抜き孔3fを設けることが望ましい。なお、エア抜き孔3fは、エア抜き孔2fと同様に配置されているが、図1では図面を判読し易くするために省略してある。
本発明に係る製造装置1の上記以外の構成は、公知のハイドロフォーム成形品の製造装置と同様であればよく、これらについては当業者にとっては周知慣用であるので、これ以上の説明は省略する。
本発明に係る製造装置1は、以上のように構成される。次に、本発明に係る製造方法を説明する。
2.本発明に係るハイドロフォーム成形品の製造方法
本発明においても先行技術と同様に、
第1工程:重ね合わされた2枚の鋼板4、5を、金型2の板押さえ面2aと金型3の板押さえ面3aとによって挟持する。
第2工程:2枚の鋼板4、5の間であって膨出変形部を形成する部分4a、5aに加工液注入口3eから加工液を供給することによって、2枚の鋼板4、5を膨出変形させて、鋼板4を金型2の内面2cに沿わせるとともに鋼板5を金型3の内面3cに沿わせることにより、ハイドロフォーム成形品を製造する。
本発明では、重ね合わされた2枚の鋼板4、5は、特許文献1により開示された方法とは異なり、鋼板4、5の間はシールする必要がないため、膨出変形部を形成する部分4a、5aの周囲を溶接しない。
そして、本発明では、第2工程において、
(A)金型肩R部2dを、金型肩R部2dと鋼板4との接触面圧が、金型肩R部2dの全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、加工液の圧力より高くなるように、鋼板4に接触させること、および
(B)金型肩R部3dを、金型肩R部3dと鋼板5との接触面圧が、金型肩R部3dの全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、加工液の圧力より高くなるように、鋼板5に接触させること
によって、鋼板4、5の間をシールする。すなわち、金型肩R部2d、3dを、いずれも鋼板4、5のシール部として用いる。
第1工程および第2工程を経時的に説明する。
図2(a)〜図2(f)は、第1工程および第2工程において、鋼板4、5の間の膨出変形部を形成する部分4a、5aに、加工液を注入した場合における、中央断面での鋼板4、5の変形挙動を模式的に示す説明図である。図3は、その時の成形圧力、金型肩R部の面圧、および中央断面でのフランジ端の流入量を示すグラフである。横軸の加工液注入体積率は製品形状に対する加工液の注入体積の割合であり、100%が孔型形状に沿った形状である。フランジ端の流入量が時間とともに増加するとき、フランジが孔型方向に移動していることを意味し、減少するときはフランジがその逆方向に移動していることを意味する。なお、図3〜5のグラフは、鋼板4、5の板厚:1.6mm、強度レベル:270MPaの条件で得られた結果である。
[第1工程]
図2(a)は、2枚の鋼板4、5を重ね合わせて、金型2と金型3との間にセットした状態である。このとき、金型2の板押さえ面2aと金型3の板押さえ面3aとにより鋼板4、5を押圧挟持する必要はなく、板押さえ面2aと鋼板4との間、または板押さえ面3aと鋼板5との間には、隙間が許容される。
[第2工程]
図2(b)は,加工液を鋼板4、5の間に注入開始した状態を示しており、図3のグラフにおけるI点を示す。
鋼板4は金型2に張り付くとともに鋼板5は金型3に張り付き、鋼板4は孔型部2bで膨出変形するとともに鋼板5は孔型部3bで膨出変形する。成形圧は極めて小さいため、金型肩R部2dと鋼板4との接触面圧、および金型肩R部3dと鋼板5との接触面圧は、いずれも、成形圧より十分大きく、加工液漏れのおそれはない。
図2(c)は、さらに変形が進んだ状態で、図3のグラフにおけるII点を示す。
膨出変形した鋼板4が金型2の内面(底部)2c−1に当接するとともに、膨出変形した鋼板5が金型3の内面(底部)3c−1に当接する状態である。
図2(d)は、さらに変形が進んだ状態で、図3のグラフにおけるIII点を示す。
金型2の内面(縦壁)2c−2と鋼板4とが当接するとともに、金型3の内面(縦壁)3c−2と鋼板5が当接した状態である。このとき、金型肩R部2dから沿って内面(縦壁)2c−2に当接し、また金型肩R部3dから沿って内面(縦壁)3c−2に当接するのではなく、内面(縦壁)2c−2、3c−2の中ほどで当接する。成形液の圧力では、金型肩R部2d、3dの曲率に沿うほど大きな変形を生じさせることができないためである。
図2(e)は、さらに変形が進んだ状態で、図3のグラフにおけるIV点を示す。
金型2の内面(底部)2c−1の未充填部、および金型3の内面(底部)3c−1の未充填部を充填する形で膨出するが、このとき、金型肩R部2dの近傍では、孔型2bの内部に鋼板4がオーバーランしてオーバーラン部4bが発生するとともに、金型肩R部3dの近傍では、孔型3bの内部に鋼板5がオーバーランしてオーバーラン部5bが発生する。成形液の圧力では、金型肩R部2d、3dの曲率に沿うほど大きな変形を生じさせることができないためである。
図2(f)は、図3のグラフにおけるV点を示しており、金型2、3の内面(底部)2c−1、3c−1が充填された後、さらに加工液の圧力が増加すると、オーバーラン部4b、5bが液圧により押し戻され、所望の形状に成形される。
以上説明したように、図2(e)〜図2(f)にかけて、フランジ流入が逆流し、金型肩R部2d、3dの面圧の最大値が大きく減少する。
この金型肩R部2d、3dの最大面圧が減少したときに、加工液の圧力よりも下がると、加工液が孔型2b、3b側に漏洩し、それ以降圧力が上がらずに成形不良となる。
つまり、金型2、3の孔型2b、3bの形状が膨出形状に近い形状であれば、金型2、3間をシールするだけで成形でき、複雑形状に成型したい場合は、孔型2b、3bの全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、金型肩R部2d、3dの面圧が、加工液の圧力よりも高ければ成形可能である。
前述のように、成形途中で、フランジ部が孔型2b、3b内にオーバーランしてオーバーラン部4b、5bが生じ、その後オーバーラン部4b、5bが逆走することが、金型肩R部2d、3dの面圧低下の原因であるが、フランジ部のオーバーランは、鋼板4が金型肩R部2dの形状に沿って成形されないとともに鋼板5が金型肩R部2dの形状に沿って成形されないことに起因する。
これは、鋼板4は孔型2b内で膨出変形するとともに鋼板5は孔型3b内で膨出変形するが、金型肩R部2d、3dから外側では鋼板4、5の表裏に加工液の圧力が付与され、金型2、3に押し付けられることもないため、摩擦力が発生せず、抵抗なく流入するためである。したがって、縮みフランジや伸びフランジ等の、鋼板4、5のフランジ流入時に流入抵抗が発生する部位では、上記のような現象は発生せず、鋼板4は金型肩R部2dに沿って膨出変形するとともに鋼板5は金型肩R部3dに沿って膨出変形し、オーバーランすることもなく、面圧低下も生じない。
つまり、成形途中のシール漏れは、フランジの流入抵抗の小さく、鋼板4、5が流入し易い部位、すなわち流入中に流入直交方向に有意の伸び縮みを生じない部位で起こり得るのである。
ここで、面圧低下を防ぐには2つの方法がある。
第1の方法は、金型肩R部2d、3dの面圧を高く保持し、圧力低下が生じても、十分高い圧力となるようにしておく方法であり、第2の方法は、成形を通して金型肩R部2dに沿って鋼板4を膨出成形させるとともに金型肩R部3dに沿って鋼板5を膨出成形させることによってオーバーランを防ぐことにより、面圧低下を生じさせない方法である。
第1の方法を達成するための因子として、金型肩R部2d、3dの曲率半径に注目した。
図4は、金型肩R部2d、3dの曲率半径ρが3、6、12mmである時の面圧挙動を示すグラフである。
図4にグラフで示すように、金型肩R部2d、3dの曲率半径ρが3mmである場合、成形開始から局所的に面圧が集中し、高い面圧を確保でき、オーバーランにより面圧が低下しても、成形圧力よりも十分大きな圧力を保持し続けることができる。
これに対し、金型肩R部2d、3dの曲率半径ρが12mmである場合には、接触面積が大きくなるため面圧は当初から低く、オーバーランにより圧力が低下すると、成形圧と同程度の圧力となり、シール漏れの漏洩しやすくなる。
図5は、金型肩R部2d、3dの曲率半径ρの鋼板4、5の板厚tに対する比率と成形圧力低下時の余裕圧力Δp(図3に示す成形圧力と金型肩R部の最高面圧の差)との関係を示すグラフである。
図5にグラフで示すように、比(ρ/t)が7.5以下から急激に余裕圧力が増加し、シール漏れし難くなる。比(ρ/t)が4.0以下で20MPa程度の値となる。
次に、第2の方法について説明する。
フランジ流入抵抗を増す方法、すなわち鋼板4、5が流入しやすい部位10の板押さえ面に金属板流入抵抗手段9を設ける方法としては、
(a)流入抵抗を増やしたい部位10で、上下の金型2、3のクリアランスを減じ、鋼板4、5を局所的に押圧する方法
(b)ドロービードを配置し、流入抵抗を増やす方法
(c)板押さえ面2aでの金型2と鋼板4との摩擦係数、および板押さえ面3aでの金型3と鋼板5との摩擦係数を増やす方法
(d)フランジ外周部でしわを発生させ、流入抵抗とする方法
等がある。
ここでいう流入抵抗の増加は、プレス成形でのドロービードのように、鋼板4、5の塑性変形に寄与するほど大きなものである必要はなく、金型肩R部2d、3dに沿うべく、わずかに抵抗になるものであればよい。この場合、金型肩R部2dに鋼板4を沿い易くするとともに金型肩R部3dに鋼板5を沿い易くするため、金型肩R部2d、3dは大きいほうが望ましい。オーバーランしなければ、圧力低下は生じないからである。
3.本発明により成形性が向上する理由
本発明により、鋼板4、5の成形性が向上する理由を説明する。
鋼板4、5のハイドロフォーム成形は、膨出成形であるため、鋼板4、5全体が塑性変形し、金型肩R部2d、3d等に変形が集中しないため、成形性の優れた成形法である。ただし、孔型2b、3bの角部など膨出最後に空間を充填するように変形する部位で減肉が生じ易い。
そのため、このような部位では、フランジ流入がし易く、孔型2b内に鋼板4を供給し易いとともに孔型3b内に鋼板5を供給し易いようになっていることが望ましい
しかしながら、従来の全周溶接した2枚の鋼板を用いたハイドロフォーム成形では、溶接線の内側まで加工液の圧力を受けるため、金型と鋼板との間で摩擦が生じ、フランジが流入し難いこと、および、引用文献3に記載されたハイドロフォーム方法もシールリングの内側まで加工液の圧力を受けるため、金型と鋼板との間で摩擦が生じ、フランジが流入し難いという課題があった。
これに対し、本発明に係る製造方法では、金型肩R部2d、3dの外部であるフランジ部は、鋼板4、5の両面から液圧を受けるため、鋼板4を金型2に押し付ける力、および鋼板5を金型3に押し付ける力がいずれも生じず、金型2と鋼板4との間の摩擦抵抗、および金型3と鋼板5との間の摩擦抵抗がいずれも生じないため、極めて流入し易くなる。したがって、従来のハイドロフォーム成形では困難であった、孔型角部における成形性が良好となる。
4.本発明により、歩留りの向上および製品の軽量化が図られる理由
2枚の鋼板の全周を溶接した鋼板のハイドロフォーム成形では、溶接強度を確保するためにレーザ溶接やシーム溶接等の重ね溶接を行う必要があり、その分の溶接しろが必要となる。したがって、成形後のフランジ幅をある程度確保する必要がある。また、溶接を生かすため、成形品が最終成形形状とするが、外周形状はばらつくため、成形後の溶接ラインを孔型縁のぎりぎりに設定することはできず、ばらつきを考慮して、フランジ幅及び溶接ラインを設定する必要があるため、これに伴って、フランジ幅を広く設定する必要があるために製品重量の増加は避けられない。
特許文献3により開示された方法では、前述の通り、シールリングを考慮してフランジ幅が決まるため、製品として必要以上の大きさのフランジを設ける必要があり、成形後にトリムすることにより歩留りが低下する。
これに対し、本発明の製造方法によれば、基本的にフランジ部は成形に寄与しないため、成形後の外周位置を孔型2b、3b縁のぎりぎりに接近した位置に設定することが可能である。フランジの幅は必要に応じて選定することができる。したがって、ブランク形状を小さくでき、歩留りを向上でき、製品の性能に応じてフランジ形状を決めることができるため、製品の軽量化も可能になる。
5.本発明がシールリングを用いるよりもシール性が優れる理由
一見、特許文献3のように、鋼板4、5と金型2、3との間にシールリングを設けたほうが、鋼板4、5と金型2、3との間のシール性が向上するように考えられがちである。しかしながら、シールリングを用いることで、シール性が悪化する理由を図6、図7を参照しながら説明する。
図6は、特許文献3による、シールリング11を用いたシール方法の金型12、13の断面図を示す図であり、図7は、本発明のシール方法の金型16、17の断面図を示す図である。
図6(a)、図7(a)は、上下の金型12、13間の隙間C0が2枚の鋼板14、15の厚さと等しい場合を示し、上金型12−上鋼板14間、上鋼板14−下鋼板15、下鋼板15−下金型13間の隙間は、いずれもゼロである。成形中、この隙間零の状態を保つことができれば、いずれの方法でもシール漏れすることはない。しかしながら、鋼板14、15の板厚のばらつきや、フランジ流入による板厚の変化、金型12、13の弾性変形による金型12、13間の隙間の変化が生じたときは、シールリングは逆にシール性を悪化させる。鋼板の板厚が厚かった場合を例に理由を説明する。
図6(b)、図7(b)は、図6(a)、図7(a)において、板厚の厚い鋼板14、15を用いた場合を示す図である。
板押さえ面の最も傾いた斜面の金型間の隙間を2枚の鋼板の板厚の厚さであるC1とすると、その他の場所の金型間の隙間C2はC1よりも大きくなる。その場合、特許文献3の方法は図6(b)に示すように、シールリングを押さえてつぶすことができない。シールリングは所定のつぶし代を潰すことによってシール性を確保するものであるから、シール漏れを生じる。次いで、金型肩R部の面圧であるが、シールリングが無ければ、孔型内に付与された圧力による荷重を金型肩R部のみで受け持つために高い面圧を確保できるが、金型肩R部の近くにシールリングが存在すると、シールリングも荷重を受け持つため、金型肩R部の面圧が十分でなくなり、シール漏れを生じることになる。
つまり、金型肩R部の近くにシールリングを配置することに起因して、シール性が悪化することとなり、シールリングを配置することの影響を除去するために、金型肩R部から離れた位置にシールリングを配置すると、前述のとおり歩留まりの低下や成形性の低下が発生する。
これに対し、図7(a)及び図7(b)に示す本発明によれば、孔型内に付与された圧力による荷重を、シールリングを用いずに金型肩R部16a、17aのみで受け持つため、鋼板14、15の板厚のばらつきや、フランジ流入による板厚の変化、金型12、13の弾性変形による金型12、13間の隙間の変化に影響されずに、膨出変形時に高い面圧を維持することができる。当然、金型間の隙間C2は2枚の鋼板の板厚の厚さであるC1よりも大きくなるため、鋼板14と鋼板15の間に隙間が生じるが、膨出成形初期に金型肩R部に面圧集中が生じ、その後も高い面圧を保持するため、後述する実施例1に示すように、板厚の30%程度の大きさの隙間でシール漏れは生じない。
図1により示す製造装置1に、図8により示す形状の金型11を適用して成形試験を行った。図8(a)は孔型12の上面図、図8(b)は孔型12の横断面図、図8(c)は孔型12の縦断面図である。図8(a)中の実線は孔型12の形状を示し、二点鎖線は鋼板の形状を示す。
金型11の寸法は、L1=300mm、W1=100mm、H1=30mm、H2=10mm、θ1=θ2=45度、Ra1=Ra2=6mm、Rb1=Rb2=10mmである。鋼板の寸法は、Lb=410mm、WB=170mm、Lo=215mmである。
鋼板の材質を270〜980MPa級とし、鋼板の板厚を1.0〜2.3mmとして成形試験を行った。上下の金型間の隙間は{(鋼板の板厚)×2+α}とし、クリアランスα=0.05mm以下または0.1mmで試験を行った。
結果を表1にまとめて示す。表1における○印は、金型間隙間が{(鋼板の板厚)×2+0.1}mmで成形圧力150MPaまでシール漏れ無しを意味し、△印は、金型間隙間が{(鋼板の板厚)×2+0.1}mmで成形圧力90MPaまでシール漏れしたが、金型間隙間が{(鋼板の板厚)×2+0.05}mmで成形圧力150MPaまでシール漏れ無しを意味する。
Figure 0005614361
薄肉、高強度材(板厚1.0mm、強度レベル980MPa)では、クリアランス0.1mmでは、縮みフランジで生じたしわが金型肩R部に達し、シール漏れを生じたが、クリアランスを0.05mm以下とすることで、すべての条件でシール漏れを生じることなく成形できた。また、最大の減肉も30%以下となり、製品としても要求を満足できた。
さらに、590MPa級の板厚1.6mmの鋼板を用いて、金型肩R部(Ra1、Ra2)の曲率半径を3、6.9、12、15mmと変化させてクリアランス0.1mmで試験したところ、金型肩R部の曲率半径が9mm以下では、1000回の試験で一度もシール漏れすることなく成形できた。金型肩R部の曲率半径が12mm、15mmでは、1000回の試験で3回シール漏れが生じた。
さらに、590MPa級の板厚1.6mmの鋼板を用い、クリアランスを変化させてシール性を調査した。クリアランスが0.4mmでも100MPa以上でシール漏れを生じなかった。クリアランスが0.5mmではシール漏れが発生したが、成形圧力は90MPまで確保できた。
比較として、270MPa級の板厚1.2mmの鋼板を用いて全周溶接したものを成形したところ、下板で流入しわが生じてしまい、所望の形状(孔型形状)に成形することができなかった。
さらに、上記金型形状で上金型のR止まりから15mm位置と下金型のR止まりから30mm位置にシールリング溝を設けた金型を用いて、270MPa級の板厚1.6mmの鋼板を用い、シールリングの寸法に合わせて、ブランクの寸法Lb=440、WB=230として成形したところ、金型膨出角部で減肉率30%となり、製品として不適となった。さらに、ブランク形状が大きくなったため、製品歩留りが45%低下した。
実施例1と同じ条件で、図10に示す異形形状の鋼板13、14(780MPa級、板厚1.6mm)を用い、成形試験を行った。図10(a)は上板であり、図10(b)は下板である。
上下の板13、14で流入量が異なるため、上板13よりも下板14の幅を小さく設定した。上板13の幅Wuは153mmであり、下板14の幅Wlは136mmである。
鋼板13、14の成形を行ったところ、成形後の長辺部は一様に、金型肩R部のR止まりから10mmの位置で成形できた。
実施例1と同様に図1に示す製造装置1に、孔型12の長さを増加した図8に示す金型11を適用して成形試験を行った。この成形試験は、孔型12の長さを増加することにより中央部のフランジ部伸び縮み変形を殆ど無くし、極めてフランジ流入し易い条件とし、さらに金型肩R部の曲率を大きくして金型肩Rでの面圧集中が生じ難い条件で、行った。孔型12の形状はL1=900mm、金型肩R部の曲率半径は15mm、鋼板の形状はLb=1010とし、他の寸法は実施例1の金型と同一とした。
クリアランスを0.1mmとし、板厚1.6mmかつ590MP級の鋼板を用い、試験を行ったところ、シール漏れが発生した。
そこで、直片部のR止まりから20mm位置に、幅5mm、深さ1mmのドロービードを配置したところ、シール漏れすることなく100MPで所望の形状に成形できた
図1に示す製造装置1に、図9に示す形状の金型15を適用して成形試験を行った。図9(a)は孔型16の上面図、図9(b)は孔型16の横断面図、図9(c)は孔型16の縦断面図である。
金型15の寸法はL2=200mm、W2=70mm、θ3=15°、Rc=100mm、H4=30mm、H5=30mm、θ4=θ5=85度、Ra4=Ra5=6mm,Rb4=Rb5=10mmであり、板押さえ面間の隙間δ2は3.25mmで、注水孔等は図8と同じである。
鋼板の寸法は,540×170mmである。鋼板の板厚は1.6mm、1.55mmの2種類とした。
270〜980MPa級の鋼板を用いて試験を行ったが、いずれも100MPaの成形圧でシール漏れせず、成形できた。
比較として、上金型の金型肩R部から10mm,下金型の金型肩R部から35mm外周にシールリング溝を設けてシールリングを配置した。シールリングは複雑な3次元形状となるため、断面の小型化ができず、約10mm角の断面とした。加工も困難で、過大なコストを要した。上金型には嵌め込んだだけでは落下したため、接着剤で接着した。
板厚が1.6mmの鋼板では、980MPaを除き成形できたが、板厚が1.55mの鋼板では、いずれも90MPa以下でシール漏れを生じた。シール漏れした際、シールリングが破損し、取り換えを試みたが、全体を接着しているため取り換えに極めて困難を要した。
図11は、980MPa、板厚1.2mmの鋼板を実施例1により成形した成形品17、18の断面図であり、成形品18の長手方向のスプリングバックを説明する長手方向断面形状説明図である。
同図に示すように、金型11から取り出した時点で、スプリングバックにより張り出し量の小さい下板からなる成形品18が変形し、その後、上板からなる成形品17と合わせてスポット溶接で接合することが困難であった。
そこで、図8(a)の金型11における丸印で示す8箇所の位置11aにかしめ工具19を配置して、成形を完了して成形圧力を減圧した後に、パンチ及びダイスからなるかしめ工具19を用いて成形品17、18をかしめ接合した。
図12(a)はかしめ工具19のダイス21を示す説明図であり、図12(b)は金型11に配置されたかしめ工具19を示す断面図である。
図12(a)及び図12(b)に示すように、かしめ工具19は、パンチ20及びダイス21により構成され、パンチ20は上金型に埋設され、ダイス21は下金型に埋設される。ハイドロフォーム時のパンチ20及びダイス21にも成形圧力が負荷されるため、パンチ20及びダイスにはそれぞれシールリング22を配置し、金型の外部への漏水を防止している。
素材や成形品のハンドリング時のダイス21の凹部21aには、成形水が溜まったり、成形水が溜まらなかったり(成形水がない状態)する。液圧によって成形品17、18の素材である鋼板を成形する際、凹部21aに成形水で充満せず空気が入った状態であると、鋼板のダイス21に当接している面と反対面18aに液圧が負荷されると、凹部21aに鋼板が押し込まれ、鋼板に疵が生じる。また、凹部21aの内部に成形水が充填された状態でパンチ20を前進させると、成形水の圧力により鋼板が所定の形状に変形せず、かしめ結合できないことがある。
そこで、ダイス21には水抜き穴23を設けた。水抜き穴23は、ダイス21の底から圧入されたコマ24の外周溝24aから側面への穴21aに通じ、ダイス21の外周の隙間21bを介して金型表面に通じ、さらに、金型表面に彫られた細溝21cを通じて鋼板の外側に導かれるように、構成されている。
成形を完了して成形圧力を減圧した後に、パンチ20及びダイス21からなるかしめ工具19によりかしめられてから取り出された成形品17、18は、かしめ接合されており、成形品17、18のいずれにもスプリングバックがなく、孔型形状と同一の形状を有していた。
実施例5で示したように、スプリングバックにより、下板からなる成形品18は、長手方向の両端部18aが、上板からなる成形品17から離れる方向へ変形する。一方、下板からなる成形品18の長手方向の両端部18aと、上板からなる成形品17の長手方向の両端部17aとは、フランジ流入量がほぼ同じであり、かつ、その量も小さい。そこで、980MPa板厚1.2mmの二枚の鋼板を上板及び下板として用い、それぞれの鋼板を重ね合わせて短辺近傍を20mmピッチでスポット溶接により不連続に接合したものを、成形素材として用いて成形試験を行った。
その結果、この成形試験においても、二枚の鋼板を溶接していないものを成形素材とする場合と同様に、上板及び下板が流入し、スポット溶接が破断することなく成形できた。スポット溶接により2枚の板は接合され、接合されていないフランジ部に若干の隙間はあるものの、次工程で困難を伴わず任意の箇所にスポット溶接による接合を行うことができた。
1 本発明に係る製造装置
2 金型
2a 板押さえ面
2b 孔型
2c 内面
2c−1 内面(底部)
2c−2 内面(縦壁)
2d 金型肩R部
2e 加工液注入口
2f エアー抜き穴
3 金型
3a 板押さえ面
3b 孔型
3c 内面
3c−1 内面(底部)
3c−2 内面(縦壁)
3d 金型肩R部
3e 加工液注入口
3f エアー抜き穴
4,5 鋼板
4a、5a 膨出変形部を形成する部分
4b、5b オーバーラン部
7 シールリング
8 スペーサ
9 金属板流入抵抗手段
10 鋼板が流入し易い部位
11 金型
11a かしめ工具配置位置
12 孔型
13、14 鋼板
15 金型
16 孔型
17、18 成形品
18a 反対面
19 かしめ工具
20 パンチ
21 ダイス
21a 凹部(穴)
21b 隙間
21c 細溝
22 シールリング
23 水抜き穴
24 コマ
24a 外周溝

Claims (5)

  1. 重ね合わされた2枚の金属板のうち一方の金属板をその板厚方向へ押さえる板押さえ面と、該板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部により一部を形成されるとともに、ハイドロフォーム成形によるハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状を有する孔型とを備える第1の金型と、前記2枚の金属板のうちの他方の金属板をその板厚方向へ押さえる板押さえ面と、該板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部により一部を形成されるとともに、ハイドロフォーム成形によるハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状を有する孔型とを備える第2の金型とを用いて、前記2枚の金属板を前記板押さえ面それぞれによって挟持する第1の工程と、前記2枚の金属板の間であって前記ハイドロフォーム成形による膨出変形部を形成する部分に加工液を供給することによって、前記2枚の金属板をいずれも膨出変形させ、前記一方の金属板を前記第1の金型の孔型の内面に沿わせるとともに前記他方の金属板を前記第2の金型の孔型の内面に沿わせることにより、前記一方の金属板を素材とする第1のハイドロフォーム成形品および前記他方の金属板を素材とする第2のハイドロフォーム成形品を製造する第2の工程とを備えるハイドロフォーム成形品の製造方法において、
    前記重ね合わされた2枚の金属板の間はシールされないとともに、前記第1の金型および前記第2の金型はそれぞれの前記板押さえ面の外側でシールされ、かつ、前記第2工程では、
    前記第1の金型の前記金型肩R部と前記一方の金属板との接触面圧が当該金型肩R部の全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、前記2枚の金属板の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、前記第1の金型の前記金型肩R部を前記一方の金属板に接触させるとともに、
    前記第2の金型の前記金型肩R部と前記他方の金属板との接触面圧が当該金型肩R部の全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、前記2枚の金属板の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、前記第2の金型の前記金型肩R部を前記他方の金属板に接触させること
    を特徴とするハイドロフォーム成形品の製造方法。
  2. 前記金型肩R部の曲率半径は、その全周にわたって下記(1)式により規定される関係を満足する請求項1に記載されたハイドロフォーム成形品の製造方法。
    0.1<ρ/t<7.5・・・・・・・(1)
    ただし、ρは金型肩R部の曲率半径(mm)であるとともに、tは、前記金型肩R部と当接する金属板の板厚(mm)である。
  3. 前記一対の金型は、いずれも、前記金属板が流入し易い部位の板押さえ面に配置された金属板流入抵抗手段を備える請求項1または請求項2に記載されたハイドロフォーム成形品の製造方法。
  4. 重ね合わされた2枚の金属板のうち一方の金属板をその板厚方向へ押さえる板押さえ面と、該板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部により一部を形成されるとともに、ハイドロフォーム成形によるハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状を有する孔型とを備える第1の金型と、前記2枚の金属板のうちの他方の金属板をその板厚方向へ押さえる板押さえ面と、該板押さえ面に連続して曲面状に形成された金型肩R部により一部を形成されるとともに、ハイドロフォーム成形によるハイドロフォーム成形品の外郭形状と同一の内郭形状を有する孔型とを備える第2の金型とを備え、前記板押さえ面それぞれによって挟持された前記2枚の金属板の間であって前記ハイドロフォーム成形による膨出変形部を形成する部分に加工液を供給することによって、前記2枚の金属板をいずれも膨出変形させ、前記一方の金属板を前記第1の金型の孔型の内面に沿わせるとともに前記他方の金属板を前記第2の金型の孔型の内面に沿わせることにより、前記一方の金属板を素材とする第1のハイドロフォーム成形品および前記他方の金属板を素材とする第2のハイドロフォーム成形品を製造するハイドロフォーム成形品の製造装置であって、
    前記第1の金型および前記第2の金型はそれぞれの前記板押さえ面の外側でシールされること、および
    前記第1の金型の前記金型肩R部は、前記一方の金属板との接触面圧が当該金型肩R部の全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、前記2枚の金属板の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、前記一方の金属板に接触するシール部であるとともに、
    前記第2の金型の前記金型肩R部は、前記他方の金属板との接触面圧が当該金型肩R部の全周にわたって、かつ少なくとも膨出変形の全ての時間において、前記2枚の金属板の間に供給された加工液の圧力よりも高くなるように、前記他方の金属板に接触するシール部であること
    を特徴とするハイドロフォーム成形品の製造装置。
  5. 前記第1の金型の前記金型肩R部の曲率半径、および前記第2の金型の前記金型肩R部の曲率半径は、いずれも、その全周にわたって下記(1)式により規定される関係を満足する請求項4に記載されたハイドロフォーム成形品の製造装置。
    1<ρ/t<7.5・・・・・・・(1)
    ただし、ρは前記金型肩R部の曲率半径(mm)であるとともに、tは、前記金型肩R部に当接する金属板の板厚(mm)である。
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