以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
本発明の実施形態に係る自動吐水装置は、吐水領域への使用者の手の挿入を判定し、その判定の結果に基づいて自動で吐水を開始する装置であって、使用者の手の温度に応じた適切な温度の温水を吐出するものである。本発明の実施形態に係る自動吐水装置の外観構成について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る自動吐水装置AFaの外観構成を示す斜視図である。図1に示すように自動吐水装置AFaは、洗面器WBに取り付けられて、洗面器WBのボウル面に温水を吐水する装置である。
自動吐水装置AFaは、吐水部1a(吐水手段)と、温度測定部2a(温度測定手段)とを備えている。吐水部1aは、洗面器WBの奥側デッキ部分に取り付けられている。吐水部1aは、吐水口10(吐水手段)と、赤外線センサ11(手挿入判定手段)とを備えている。
吐水口10は、洗面器WBのボウル面と吐水口10との間に設定されている吐水領域(使用者の手Hが位置Hwに存在する部分を含む領域)に対して、常温の水又は昇温された水を吐水する部分である。赤外線センサ11は、吐水領域への使用者の手Hの挿入を検知するためのセンサであって、吐水領域へ使用者の手が挿入された場合に所定の信号を出力するものである。
温度測定部2aは、洗面器WBの奥側デッキ部分であって、吐水部1aが取り付けられている部分の右側方に取り付けられている。温度測定部2aは、サーモパイル20(温度測定手段)と、赤外線センサ21(手挿入判定手段)と、報知部22とを備えている。
サーモパイル20は、赤外吸収膜を温接点とし、複数の熱電対を冷接点を間に直列あるいは並列に接続したものでであって、使用者の手Hの温度を非接触で測定するものである。また、サーモパイル20は、内部に雰囲気温度(参照温度)を測定するサーミスタを内蔵している。そのため、雰囲気温度も測定することが出来るものである。赤外線センサ21は、温度測定部2aの上方に設定されている温度測定領域(使用者の手Hが位置Hpaに存在する部分を含む領域)への使用者の手Hの挿入を判定するためのセンサであって、温度測定領域へ使用者の手が挿入された場合に所定の信号を出力するものである。報知部22は、適温への調整が完了したか否かを示す部分であって、本実施形態の場合は、温度調整中であれば青色光を発光し、温度調整が完了すれば赤色光を発光する。
自動吐水装置AFaを使用する使用者は、まず手Hを位置Hpaに位置させることで、温度測定部2aのサーモパイル20上に形成された温度測定領域へ手Hを挿入する。初期状態では、温度測定部2aの報知部22は青色光を発光しており、温度調整中であることを示している。手Hが位置Hpaに位置され、温度測定領域へ手Hが挿入されると、サーモパイル20によって手Hの温度が取得される。
サーモパイル20によって手Hの温度が取得されると、その取得された温度に基づいて制御部(図1に明示せず、詳細は後述する。制御手段)が目標とする水の目標温度を設定し、その設定した目標温度まで水の温度を高めるように温調部(図1に明示せず、詳細は後述する。温度調整手段)を制御する。温調部による温度制御が完了すると、報知部22は赤色光を発光し、温度調整が完了したことを示す。
報知部22による温度調整完了の報知を受けて、使用者は手Hを位置Hpaから位置Hwへと移動させる。この移動にあたって、使用者は位置Hpaにおいては掌が温度測定部2aを向くように掌を下側に向けており、位置Hwにおいては掌が吐水口10に向くように掌を上側に向ける。使用者が手Hを位置Hwに移動させると、吐水領域に入るので、吐水部1aの赤外線センサ11が手Hを検知し、温度調整が完了した温水を吐水口10から吐出する。
本発明の実施形態に係る自動吐水装置は、吐水領域への使用者の手の挿入を判定し、その判定の結果に基づいて自動で吐水を開始する装置であって、使用者の手の温度に応じた適切な温度の温水を吐出するものであるから、図1に示したものに限られるものではない。変形例としての自動吐水装置を図2及び図3に示す。
図2に示す自動吐水装置AFbは、自動吐水装置AFaにおいて温度測定部2aを構成していたサーモパイル20、赤外線センサ21、及び報知部22を、吐水部1bの上部に設けたものである。従って、自動吐水装置AFbは、温度測定領域が吐水部1bの上方に形成され、吐水領域は吐水部1bの下方に形成されている。
自動吐水装置AFbを使用する使用者は、まず手Hを吐水部1b上方の位置Hpbに位置させることで、吐水部1bのサーモパイル20上に形成された温度測定領域へ手Hを挿入する。この状態で報知部22は青色光を発光しており、温度調整中であることを示している。手Hが位置Hpbに位置され、温度測定領域へ手Hが挿入されると、サーモパイル20によって手Hの温度が取得される。
サーモパイル20によって手Hの温度が取得されると、その取得された温度に基づいて制御部(図2に明示せず、詳細は後述する。制御手段)が目標とする水の目標温度を設定し、その設定した目標温度まで水の温度を高めるように温調部(図2に明示せず、詳細は後述する。温度調整手段)を制御する。温調部による温度制御が完了すると、報知部22は赤色光を発光し、温度調整が完了したことを示す。
報知部22による温度調整完了の報知を受けて、使用者は手Hを位置Hpbから位置Hwへと移動させる。この移動にあたって、使用者は位置Hpbにおいては掌がサーモパイル20を向くように掌を下側に向けており、位置Hwにおいては掌が吐水口10に向くように掌を上側に向ける。使用者は手Hを位置Hpbから位置Hwへ移動させるに当たっては、吐水部1b回りに手Hを回転させるように掌を返して移動させる。使用者が手Hを位置Hwに移動させると、吐水領域に入るので、吐水部1bの赤外線センサ11が手Hを検知し、温度調整が完了した温水を吐水口10から吐出する。
上述した自動吐水装置AFa及び自動吐水装置AFbは、サーモパイル20等の配置が異なっているけれども、いずれも吐水領域よりも上方に温度測定領域が形成され、温度測定領域で手Hの温度を取得して吐水の温度調整を行い、吐水領域に手Hを移動させて吐水を行ういわば2アクションの態様である。これらに対して図3に示す自動吐水装置AFcは、吐水領域と温度測定領域とが同じ側に配置されており、1アクションで吐水させることが可能な例である。
自動吐水装置AFcは、自動吐水装置AFbから赤外線センサ21を省略し、サーモパイル20を吐水口10側に移動させ、赤外線センサ11と同じ側面に配置したものである。自動吐水装置AFcを使用する使用者は、まず手Hを吐水部1c下方且つ前方から吐水部1cへ近づけていく。吐水部1cの下方且つ前方には温度測定領域が形成できるようにサーモパイル20が配置されている。吐水部1cの下方且つ前方の位置Hpcに手Hが位置され、温度測定領域へ手Hが挿入されると、サーモパイル20によって手Hの温度が取得される。
サーモパイル20によって手Hの温度が取得されると、その取得された温度に基づいて制御部(図3に明示せず、詳細は後述する。制御手段)が目標とする水の目標温度を設定し、その設定した目標温度まで水の温度を高めるように温調部(図3に明示せず、詳細は後述する。温度調整手段)を制御する。温調部による温度制御が完了すると、報知部22は赤色光を発光し、温度調整が完了したことを示す。
報知部22による温度調整完了の報知を受けて、使用者は手Hを位置Hpcから更に前進させ、位置Hwへと移動させる。この移動にあたって、使用者は位置Hpcにおいては掌がサーモパイル20を向くように掌を上側に向けており、位置Hwにおいても掌が吐水口10に向くように掌を上側に向ける。使用者は手Hを位置Hpcから位置Hwへ移動させるに当たっては、掌を上側に向けたまま前進させて移動させる。使用者が手Hを位置Hwに移動させると、吐水領域に入るので、吐水部1cの赤外線センサ11が手Hを検知し、温度調整が完了した温水を吐水口10から吐出する。
続いて、本発明の実施形態に係る自動吐水装置AFaの機能的な構成について図4を参照しながら説明する。図4は、自動吐水装置AFaの機能的な構成を示すブロック図である。
図4に示すように、自動吐水装置AFaは、吐水部1aと、温度測定部2aと、制御部3(制御手段)と、温調部4(水温調整手段)と、手動バルブHVとを備えている。吐水部1aは、吐水口10と、赤外線センサ11とを有している。温度測定部2aは、サーモパイル20と、赤外線センサ21と、報知部22とを有している。温調部4は、熱交換器40(水温調整手段)と、電磁弁41(水温調整手段)と、電磁弁42(水温調整手段)とを有している。
熱交換器40は、常温の水を受け入れて所定の高温まで昇温し、高温の温水を供給するように構成されている。熱交換器40には、手動バルブHV及び電磁弁42を通った水が供給される。尚、手動バルブHVは、止水栓として機能しており、通常の使用状態においては常に開放されている。熱交換器40は、制御部3から出力される信号に基づいて、電源のON/OFF等を行っている。
電磁弁42は、熱交換器40及び温調バルブとしての三方弁である電磁弁41に水を供給するための弁である。電磁弁42は、制御部3から出力される信号に基づいて弁を開いたり閉じたりするように構成され、その弁の開閉によって熱交換器40及び電磁弁41への水の供給が調整される。
電磁弁41は、温調バルブとして機能する三方弁である。電磁弁41には、電磁弁42から供給される水と、熱交換器40から供給される高温の温水とが供給される。電磁弁41は、制御部3から出力される信号に基づいて、電磁弁41側の弁と熱交換器40側の弁との開閉を調整し、水と高温の温水とを混合させて所定の温度の温水として吐水部1aに供給する。
続いて、本発明の実施形態に係る自動吐水装置AFaの制御的な構成について図5を参照しながら説明する。図5は、自動吐水装置AFaの制御的な構成を示すブロック図である。
図5に示すように、制御部3には、サーモパイル20と、赤外線センサ21と、赤外線センサ11とから出力される信号が入力され、それらの信号が伝達する情報を取得するように構成されている。制御部3には発電機GEも繋げられていて、発電機GEが発する電力が供給されている。制御部3からは、報知部22と、熱交換器40と、電磁弁41と、電磁弁42とに信号が出力され、それらの信号が伝達する情報が各部に出力されるように構成されている。
従って制御部3は、温度測定手段として機能するサーモパイル20や手挿入判定手段として機能する赤外線センサ11,21の測定結果に基づいて、吐水手段や水温調整手段として機能する温調部4(熱交換器40、電磁弁41,42)を制御し、吐水部1aの吐水口10から所定温度の温水を吐出するものである。
続いて、制御部3の温度演算の基本的な考え方について図6を参照しながら説明する。図6は、被験者の手の指の温度を測定し、その指の温度に対してどの温度の水だとどのように感じるかを、「冷たい」「やや冷たい」「やや適温」「適温」「やや熱い」「熱い」に区分して聞き取った結果を示すものである。
ヒトは、投入される温度の絶対温度を認知した結果ではなく、手の温度と投入される温度との相対温度差を体感温度と認知すると広く知られている。図6に示す実験結果もその理論を支持するものとなった。
手の指の温度が20℃の場合、吐水温度がお湯として低い温度設定の吐水温度20℃〜25℃の場合には「やや冷たい」と感じている。更に、水の温度が25℃〜28.5℃の場合には「やや適温」と感じ、水の温度が28.5℃〜32.5℃では「適温」と感じ、水の温度が32.5℃〜35℃では「やや適温」と感じている。更に、水の温度が35℃を超えると「熱い」と感じており、「やや適温」と「熱い」の間で「やや熱い」とは感じていない。また、手の温度が20℃と低い場合は、20〜40℃の吐水温度区間では、冷たいと感じることがないことを示唆している。
即ち、お湯を一定温度で吐水する現行自動水栓の湯温(38〜40℃近傍)と比較すると吐水温度が38℃以下の吐水温度でも使用者は適温と判断できることを示唆している。また、冷たい手(20℃)には、冷たい湯水(20〜25℃)においても冷たいと感じないことを示唆している。この様な温度判断のメカニズムは、生理学の知見より説明がつく。ヒトは、自分(手)の温度と投入される熱量との相対温度で温かさを認知している。そのため、自分(手)の温度より少しでも高い湯温を受ければ、湯の温度を温かい、もしくは冷たくない湯と判断する。本項で説明した実験結果においても、手の温度が20℃と低い場合は、20〜40℃の吐水温度区間において冷たいと認知しないことを示しており理論と一致する。
一方、水の温度が35℃を超えると「熱い」と感じている。これは、自分(手)の温度と投入される熱量との相対温度差が大きく実際の温度以上に熱いと湯温を認知した結果である。即ち、現行自動水栓の湯温(38-40℃近傍)では、冷たい手(20℃)に対して、快適性を求めることが難しいと考えられる。
手の指の温度が25℃の場合、水の温度が20℃〜25℃の場合には「冷たい」と感じており、水の温度が25℃〜30℃では「やや冷たい」と感じている。更に、水の温度が30℃〜31.5℃の場合には「やや適温」と感じ、水の温度が31.5℃〜34.5℃では「適温」と感じ、水の温度が34.5℃〜36℃では「やや適温」と感じている。更に、水の温度が36℃〜37℃の場合には「やや熱い」と感じ、水の温度が37℃を超えると「熱い」と感じている。
手の指の温度が30℃の場合、水の温度が20℃〜27℃の場合には「冷たい」と感じており、水の温度が27℃〜33.5℃では「やや冷たい」と感じている。更に、水の温度が33.5℃〜34.5℃の場合には「やや適温」と感じ、水の温度が34.5℃〜36℃では「適温」と感じ、水の温度が36℃〜36.5℃では「やや適温」と感じている。更に、水の温度が36.5℃〜37.5℃の場合には「やや熱い」と感じ、水の温度が37.5℃を超えると「熱い」と感じている。
手の指の温度が34℃の場合、水の温度が20℃〜28℃の場合には「冷たい」と感じており、水の温度が28℃〜34℃では「やや冷たい」と感じている。更に、水の温度が34℃〜35.5℃の場合には「やや適温」と感じ、水の温度が35.5℃〜36.5℃では「適温」と感じ、水の温度が36.5℃〜37℃では「やや適温」と感じている。更に、水の温度が37℃〜38℃の場合には「やや熱い」と感じ、水の温度が38℃を超えると「熱い」と感じている。
上述したような温度分布について、「冷たい」から「やや冷たい」を「冷たい」と括り、「やや適温」から「適温」を挟んで「やや適温」を「適温」と括り、「やや熱い」から「熱い」を「熱い」と括ると次のようになる。
手の指の温度が20℃の場合、「冷たい」と感じているのは、水の温度が20℃〜25℃の場合である。「適温」と感じているのは、水の温度が25℃〜35℃の場合である。「熱い」と感じているのは、水の温度が35℃を超えた場合である。
手の指の温度が25℃の場合、「冷たい」と感じているのは、水の温度が20℃〜30℃の場合である。「適温」と感じているのは、水の温度が30℃〜36℃の場合である。「熱い」と感じているのは、水の温度が36℃を超えた場合である。
手の指の温度が30℃の場合、「冷たい」と感じているのは、水の温度が20℃〜33.5℃の場合である。「適温」と感じているのは、水の温度が33.5℃〜36.5℃の場合である。「熱い」と感じているのは、水の温度が36.5℃を超えた場合である。
手の指の温度が34℃の場合、「冷たい」と感じているのは、水の温度が20℃〜34℃の場合である。「適温」と感じているのは、水の温度が34℃〜37℃の場合である。「熱い」と感じているのは、水の温度が37℃を超えた場合である。
制御部3は、このようなバックグラウンドに基づいて、手の温度と対応させた最適な水温を定めている。本実施形態では、手の指の温度が20℃の場合には、吐水温度を29.5℃に設定し、手の指の温度が25℃の場合には、吐水温度を32.5℃に設定し、手の指の温度が30℃の場合には、吐水温度を34.5℃に設定し、手の指の温度が34℃の場合には、吐水温度を35℃に設定している。
ここで、手の指の温度と掌の温度の関係について図7を参照しながら説明する。図7は、冬季の時間帯別における手の指先の温度と掌の温度とを比較した図である。図7の左側は、手の指先の温度であって、冬季の午前中に屋外から屋内に入った直後の温度と、冬季の午後に屋内に滞在した後の温度とを示しており、サンプル数は6である。図7の右側は、手の掌の温度であって、冬季の午前中に屋外から屋内に入った直後の温度と、冬季の午後に屋内に滞在した後の温度とを示しており、サンプル数は6である。
図7に示すように、平均値では、手の指先の温度は22℃〜34℃まで変動し、掌の温度は27℃〜31℃まで変動する。身体全体の体温が36℃〜37℃で略安定するのに比較すると、手の指先も掌も温度変動が極めて大きな部分であるといえる。また、手の指先は温度変動が激しいことに加えて、温度変動に敏感である。
続いて、制御部3による具体的な吐水温度制御の一例について、図8を参照しながら説明する。図8は、制御部3による吐水温度制御を説明するためのタイミングチャートである。図8に示すタイミングチャートは、(a)が温度測定領域における使用者の手の距離情報を示す赤外線センサ21の測定値を示し、(b)が温度測定領域における使用者の手の温度を示すサーモパイル20の測定値を示し、(c)が吐水領域における使用者の手の有無を示す赤外線センサ11の測定値を示し、(d)が制御部3が算出する吐水の温度を示し、(e)が制御部3が制御する吐水の流量を示している。図8に示すタイミングチャートは、図1を参照しながら説明した自動吐水装置AFa又は図2を参照しながら説明した自動吐水装置AFbを用いた場合のタイミングチャートである。
時刻t1において、使用者は温度測定領域に手を近づけ(図1における手Hの位置Hpa、図2における手Hの位置Hpbに手を近づけ)、赤外線センサ21は手が近づいたことを示す測定値V1を出力する(図8の(a))。サーモパイル20は、測定領域の平均値を出力するので、時刻t1においてはまだ使用者の手と空間の双方の温度を測定しており、その測定値の立ち上がりは緩やかになっている(図8の(b))。
赤外線センサ21の測定値V1の出力によって、使用者が自動吐水装置AFa(AFb)を使用している意図が把握できるので、吐水口10から熱交換器40までの間の残水を排出するために制御部3は電磁弁41を開いて流量Q1で吐水を行う(図8の(e))。時刻t1では、使用者の手の温度は把握できていないけれども、準備のために温度を上げながら吐水を行うように、制御部3は電磁弁41を制御する(図8の(d))。
時刻t1から時刻t2に至ると、使用者は温度測定領域に更に手を挿入し、サーモパイル20の測定領域が全て使用者の手を覆う位置(図1における手Hの位置Hpa、図2における手Hの位置Hpb)まで使用者の手が挿入される。時刻t2以降は、サーモパイル20の測定値V2は一定となって、この測定値V2が使用者の手の温度を示しているものと想定される(図8の(b))。
制御部3は、この測定値V2を使用者の手の温度とみなして、吐水温度を温度T2とするように電磁弁42を制御する。測定値V2を得るためには、サーモパイル20から出力される信号が示す測定値が一定となることを確認し、その確認の結果測定値V2を得ることも好ましい態様ではある。しかしながら本実施形態では、時刻t1から所定時間後(例えば、0.1sec後)の時刻t2において、サーモパイル20から出力される信号が示す測定値が、使用者の手の温度を示しているとみなしている。このようにすることで、サーモパイル20から出力される信号が示す測定値が一定となることを確認せずに、測定値V2を得ることができ、温度調整の所要時間が短くなる。
図8に示すタイミングチャートは、自動吐水装置AFa又は自動吐水装置AFbを用いた場合のタイミングチャートであるから、使用者は、手Hを温度測定領域に対応する位置Hpa,Hpbから吐水領域に対応する位置Hwまで移動する必要があり、所定の時間が必要とされる。そこで本実施形態では、吐水温度が温度T2まで上がりきっていない状態で水温調整が完了したことを報知する完了報知を行って、使用者が手Hを温度測定領域から吐水領域まで移動する時間を有効に利用して水温調整を行うものとしている。具体的には、時刻t1から時刻t3まで、報知部22に青色光を発光させて温度調整中であることを示し、時刻t3以降は、報知部22に赤色光を発光させて温度調整が完了したことを示すようにしている。
このような報知部22による誘導を受けて、使用者は時刻t3で温度調整が完了したものと認識し、手Hを温度測定領域に対応する位置Hpa,Hpbから吐水領域に対応する位置Hwまで移動する。その間に吐水温度が温度T2まで上昇し、時刻t4までには適温の状態となる。時刻t4には、使用者の手Hが吐水領域に対応する位置Hwまで移動するので、吐水領域における使用者の手Hの有無を示す赤外線センサ11の測定値が、吐水領域に手Hがあることを示す測定値を出力する。時刻t5に手洗いが終了し、手Hが吐水領域から離れると、赤外線センサ11の測定値は手Hが吐水領域にないことを示す測定値となって制御部3は電磁弁42を閉じて吐水を終了する。
また、報知部22は、使用者に吐水状態(温度)や操作方法を誘導・報知する役割を持つ一方で、使用者への体感温度をコントロールする働きも備えている。最近の研究で、暖色系の視覚情報を与えた場合と寒色系の視覚情報を与えた場合では、暖色系の視覚情報を印加された被験者群で実際の温度より体感温度が高くなり、寒色系の視覚情報を被験者群では、実際の温度に比べて体感温度が低くなることが知られている。そこで、使用者の手の温度に応じて、吐水する湯水の温度を変えることに合わせて、報知部22から表示する色を変えることも調節するよう設定する。
図8を参照しながら説明した制御部3による吐水温度制御を、各フェーズごとに区分すると、吐水態様の観点からは、時刻t1から時刻t4の直前までが残水除去期間であり、時刻t4から時刻t5までが使用者にとっての受水期間である。温度調整の観点からは、時刻t1の直後から時刻t4の直前までが温度調整期間である。報知態様の観点からは、時刻t1から時刻t3までが準備表示期間であり、時刻t3から時刻t5までが適温表示期間である。
図8を参照しながら説明した制御部3による吐水温度制御は、使用者の手Hの温度を確実に測定するものとして極めて有用な制御である。ところで、図7を参照しながら説明したように、人間の手は指先がより温度変化が大きく繊細な感度を持っていることから、手の指先の温度を確実に把握して吐水温度を決めることがより好ましいものである。そこで、制御部3による具体的な吐水温度制御の一例であって、指先の温度を確実に測定できる例について、図9を参照しながら説明する。
図9は、制御部3による吐水温度制御を説明するためのタイミングチャートである。図9に示すタイミングチャートは、(a)が温度測定領域における使用者の手の距離情報を示す赤外線センサ21の測定値を示し、(b)が温度測定領域における使用者の手の温度を示すサーモパイル20の測定値を示し、(c)が吐水領域における使用者の手の有無を示す赤外線センサ11の測定値を示し、(d)が制御部3が算出する吐水の温度を示し、(e)が制御部3が制御する吐水の流量を示している。図9に示すタイミングチャートは、図1を参照しながら説明した自動吐水装置AFa又は図2を参照しながら説明した自動吐水装置AFbを用いた場合のタイミングチャートである。
時刻t1において、使用者は温度測定領域に手を近づけ(図1における手Hの位置Hpa、図2における手Hの位置Hpbに手を近づけ)、赤外線センサ21は手が近づいたことを示す測定値V1を出力する(図9の(a))。サーモパイル20は、測定領域の平均値を出力するので、時刻t1においてはまだ使用者の手と空間の双方の温度を測定しており、その測定値の立ち上がりは緩やかになっている(図9の(b))。
赤外線センサ21の測定値V1の出力によって、使用者が自動吐水装置AFa(AFb)を使用している意図が把握できるので、吐水口10から熱交換器40までの間の残水を排出するために制御部3は電磁弁41を開いて流量Q1で吐水を行う(図9の(e))。
ところで、時刻t1から温度測定領域に使用者の手が入ってきて、やがて掌が温度測定領域に入り、掌の温度をサーモパイル20が測定することになる。従って、サーモパイル20の測定値がある程度高い温度で安定化した段階は、掌の温度をサーモパイル20が測定しているものと考えられる。手の指先の温度は、温度測定領域に使用者の手が入ってきてから掌の温度を測定するまでの間の温度であるから、サーモパイル20の測定値の初期値と掌の温度の測定値である測定値V2との間の測定値がその温度を示しているものと考えられる。そこで本実施形態では、時刻t1から所定時間(0.07sec程度)後の時刻t2におけるサーモパイル20の測定値V3を手の指先の温度としている。
制御部3は、この測定値V3を使用者の手の指先の温度とみなして、吐水温度を温度T2とするように電磁弁42を制御する。このようにすることで、サーモパイル20から出力される信号が示す測定値が一定となるまで待たずに、測定値V3を得ることができ、温度調整の所要時間が短くなる。尚、手の指先の温度を検知する観点からは、時刻t1から所定時間経過後におけるサーモパイル20の測定値を手の指先の温度とみなすことに限られず、例えば、サーモパイル20の初期値と最大測定値との中間値を指先の温度とみなしたり、サーモパイル20の最大測定値を検出した時刻から所定時間(0.03sec程度)戻った時刻におけるサーモパイル20の測定値を指先の温度とみなしてもよい。
本実施形態では、吐水温度が温度T2まで上がった段階(時刻t3)で、水温調整が完了したことを報知する完了報知を行っている。具体的には、時刻t1から時刻t3まで、報知部22に青色光を発光させて温度調整中であることを示し、時刻t3以降は、報知部22に赤色光を発光させて温度調整が完了したことを示すようにしている。
このような報知部22による誘導を受けて、使用者は時刻t3で温度調整が完了したものと認識し、手Hを温度測定領域に対応する位置Hpa,Hpbから吐水領域に対応する位置Hwまで移動する。時刻t4には、使用者の手Hが吐水領域に対応する位置Hwまで移動するので、吐水領域における使用者の手Hの有無を示す赤外線センサ11の測定値が、吐水領域に手Hがあることを示す測定値を出力する。時刻t6に手洗いが終了し、手Hが吐水領域から離れると、赤外線センサ11の測定値は手Hが吐水領域にないことを示す測定値となって制御部3は電磁弁42を閉じて吐水を終了する。
この態様では、時刻t4で吐水を開始した後、時刻t5から吐水温度を上昇させている。これは、冷たい手であっても、温水で手洗いをしている間に初期温度より少し高めの温度の温水を吐水することで快適感が持続させることが出来るからである。このような温度制御は、体感温度を導く神経系の発現機序によって説明することが出来る。例えば、最初に手の温度に合わせて調節された湯が、手に着水すると手に備わる温度センサ(感覚器)より手の温度と湯の温度情報よりパルス信号を中枢神経へ発する。それによって、ヒトは、送りこまれたパルスの量に応じて初期温度を温かい、快適と認知することとなる。この温度を認知する経路に加えて、この感覚器から発せられるパルス信号は、経過時間とともに低下(順化)していくことが生理学の知見として知られている。そのため、手を洗う期間で温かさ、快適さを持続させるには、時刻t4で吐水を開始した後、所定時間経過(5〜7sec程度)後の時刻t5から徐々に温度を上げることで、使用者に絶えず最適な温度と感じさせる湯水を提供することが可能となる。
図9を参照しながら説明した制御部3による吐水温度制御を、各フェーズごとに区分すると、吐水態様の観点からは、時刻t1から時刻t3までが残水除去期間であり、時刻t4から時刻t6までが使用者にとっての受水期間である。温度調整の観点からは、時刻t2から時刻t3までが温度調整期間である。報知態様の観点からは、時刻t1から時刻t3までが準備表示期間であり、時刻t3から時刻t6までが適温表示期間である。
続いて、図2を参照しながら説明した自動吐水装置AFbの吐水部1bの構成について、図10を参照しながら説明する。図10は、吐水部1bの構成を示す図であって、(a)は平面図を、(b)は側面図を、それぞれ示している。
吐水部1bの上面101には、サーモパイル20と、赤外線センサ21と、報知部22とが設けられている。サーモパイル20と赤外線センサ21とは、吐水部1bの先端近傍に設けられており、極力同じ方向を指向するように配置されている。サーモパイル20及び赤外線センサ21の後方には、報知部22が設けられている。報知部22は、ハーフミラー越しに「hot water」という温水を表す文字と、「34.5℃」という吐水温度を示す文字と、温度調整中なのか温度調整が完了したのかを示す青色光又は赤色光と、を表示可能なように構成されている。尚、報知部22は文字や光で情報を報知したが、情報の報知態様はこれに限られるものではなく、音声によって報知することも好ましい。
更に吐水部1bの上面101には、報知部22の後方に態様報知手段としてのピクトが表示されている。この態様報知手段としてのピクトは、指先を閉じて手を近づけるように誘導するためのものである。
吐水部1bの下面102には、吐水口10と、赤外線センサ11とが設けられている。赤外線センサ11は上述したように、吐水口10下方の吐水領域に手が入っているか否かを検知するためのセンサである。
続いて、図3を参照しながら説明した自動吐水装置AFcの吐水部1cの構成について、図11を参照しながら説明する。図10は、吐水部1bの構成を示す図であって、(a)は平面図を、(b)は側面図を、それぞれ示している。
吐水部1cの上面103には、報知部22が設けられている。報知部22は、「hot water」という温水を表す文字と、「34.5℃」という吐水温度を示す文字と、温度調整中なのか温度調整が完了したのかを示す青色光又は赤色光と、を表示可能なように構成されている。吐水部1cの下面104には、吐水口10が設けられている。
吐水部1cの前面105には、サーモパイル20と、赤外線センサ11とが設けられている。サーモパイル20と赤外線センサ11とは、前方の極力同じ方向を指向するように配置されている。
吐水部1cでは、吐水口10下方の吐水領域に直接近づいてくる手の温度を把握しようとしているため、赤外線センサ11を設けることで、赤外線センサ21の役割も果たすことができるように構成されている。
自動吐水装置AFcは、直接吐水領域に手が近づいてきてもその温度を把握するように構成されているため、サーモパイル20と赤外線センサ11とそれぞれのセンシング方向を工夫する必要がある。図12にその概要を示す。図12に示すように、サーモパイル20のセンシングエリアSa1は、赤外線センサ11のセンシングエリアSa2よりも狭くなるように構成されている。これは、手の挿入のみを判別する赤外線センサ11よりも、手の温度を検知するサーモパイル20の方がセンシングに時間が掛かるためと、手の温度の取得を吐水開始よりも前に行いたいためと、によるものである。
人間の手は体温調整手段としても機能しているので、温度の授受がしやすいように構成されており、結果として身体全体の温度に比較して手の温度は変動しやすい傾向にある(図6及び図7参照)。特に冬場は、身体全体の温度に対して手の温度が低くなるものであり、このように身体全体の温度に対して低い温度なることに起因する温度の感じ方が身体の他の部分とは大きく異なるものである。そこで本実施形態に係る自動吐水装置AFa,AFb,AFcでは、このような手の温度変化の特性に対応することで、手の温度がどのように変化しても適温の吐水を行うことができ、快適な手洗いを提供するものである。
このような思想に基づく本実施形態に係る自動吐水装置AFa,AFb,AFcでは、
、温度測定手段であるサーモパイル20の測定結果に基づいて、吐水手段としての電磁弁41、42及び水温調整手段としての電磁弁41、熱交換器40を制御する制御手段としての制御部3を備えている。制御部3は、サーモパイル20が測定した使用者の手Hの温度に基づいて目標とする水の目標温度を設定する。サーモパイル20は、使用者の手Hの温度を測定するので、使用者の手Hの温度がどのように変化してもその温度を確実に測定することができる。このように確実に測定した使用者の手Hの温度に基づいて水を昇温するための目標温度を設定するので、その目標温度は使用者の手Hの温度変化を反映した適切なものとすることができる。従って、このように使用者の手Hの温度変化に対応した適温の温水を吐水領域へ吐出することができるので、温度変化の大きな手Hを洗う際に、手Hの温度を的確に把握し適温の水を吐水することが可能となる。
また本実施形態では、目標温度まで高めた水を吐水領域へ吐出するので、使用者は吐水当初から自身の手Hの温度に応じて温度調整された温水に触れることができる。従って、温度調整されていない冷たい水に触れることで冷たい思いをすることなく、確実に使用者自身の手Hの温度に対応した温水によって手洗いを行うことができる。
また本実施形態では、熱交換器40から吐水口10に至る間に残存する温度の低い水を排出する残水処理を実行するので、吐水当初に冷たい残水に触れることがないように使用者を導くことができる。更に、残水処理と並行して使用者の手Hの温度の測定や水温の調整を実行するので、残水処理が終わった直後に目標温度まで高めた水を吐水領域へ吐出することが可能になり、使用者は吐水当初から自身の手Hの温度に応じて温度調整された温水に触れることができる。
また本実施形態では、水温調整の実行中であることを報知する調整報知と水温調整が完了したことを報知する完了報知とを水温調整と並行して実行するので、使用者に対して水温の調整がどの段階にあるかを確実に知らせることができる。従って、使用者は適温に調整されていない水が吐出されている段階で吐水領域に手Hを差し入れることがなく、適温まで調整された温水による快適な手洗いを行うことができる。
このように制御部3が調整報知及び完了報知を行うと、使用者は調整報知の間は吐水領域外に手を位置させて待機するので、水温が適温となったことを使用者が認識してから吐水領域に手を差し入れるまでにはタイムラグがある。そこでこの本実施形態では、水温調整の完了前に完了報知を実行することで、吐水領域外(温度測定領域)から吐水領域に使用者が手を動かす時間を水温調整に当てることができる。従って、使用者には何らの負担をかけずに、水温調整が完了するまでの時間を体感的に短く感じさせることができ、実際に使用者が吐水領域に手Hを差し入れた際には適温の水が吐水されているように構成できる。
また本実施形態では、図6を参照しながら説明したように、手の温度と対応させた最適な水温を定めている。具体的には、手の指の温度が20℃の場合には、吐水温度を29.5℃に設定し、手の指の温度が25℃の場合には、吐水温度を32.5℃に設定し、手の指の温度が30℃の場合には、吐水温度を34.5℃に設定し、手の指の温度が34℃の場合には、吐水温度を35℃に設定している。
このように、使用者の手Hの温度が第二温度(例えば、30℃)に対して低い第一温度(例えば、20℃)になっていると測定した場合に、水温の目標温度の差分を、第二温度(例えば、30℃)に対する第二目標温度(例えば、34.5℃)の差(4.5℃)よりも第一温度(例えば、20℃)に対する第一目標温度(例えば、29.5℃)の差(9.5℃)が大きくなるように設定している。
これは、図6に示すように、人間の手の温度が低くなった場合に、低い水温から昇温した際のやや適温であると感じる下限温度が低くなる傾向にあり、更に昇温した場合に熱いと感じる下限温度も低くなる傾向にあることに対応させたものである。より具体的には、人間の手の温度が低くなった場合に、低い水温から昇温した際のやや適温であると感じる下限温度が低くなる傾向は、温度の低下幅については手の温度の低下幅よりもやや適温であると感じる下限温度の低下幅が大きくなっている。一方、更に水を昇温した場合に、低い水温から昇温した際の熱いと感じる下限温度が低くなる傾向は、温度の低下幅については手の温度の低下幅よりも熱いと感じる下限温度の低下幅が小さくなっている。
従って図6に示すように、人間の手の温度が低くなれば、やや適温であると感じ始める温度が下がる一方で、熱いと感じる温度が相対的に上昇し、不快に感じない温度帯域が広がる傾向にある。そこで、この温度帯域の広がりを利用して、使用者の手の温度が低くなった場合には、吐水の目標温度を相対的に高くすることで、使用者に吐水の冷たさや熱さを極端に感じさせることなく、その後の昇温も行いやすいように制御している。
このように、人間の手の温度が低くなれば、やや適温であると感じ始める温度が下がる一方で、熱いと感じる温度が相対的に上昇し、不快に感じない温度帯域が広がる傾向にある。そこで、手の測定温度である第一温度(例えば、18℃)が所定温度(例えば、20℃)よりも低い場合に、その温度低下にそのまま従わせて第一目標温度を下げるのではなく、予め定められた最低目標温度(例えば、29.5℃)に設定することで、使用者に吐水の冷たさや熱さを極端に感じさせることなく、その後の昇温も行いやすいように制御することができる。
上述したように、人間の手の感覚は、より末端である指の感覚が掌の感覚よりも相対的に高いものである。そこで、図9を参照しながら説明したように指の温度を測定し、その指の温度に基づいて温度調整することが、使用者にとってより適温であると感じさせるために好ましいものである。しかしながら、掌に対して指は細く、サーモパイル20による温度の測定は容易ではない。そこで本実施形態では、人間の手の温度は、より末端である指の温度よりも掌の温度が相対的に高くなる傾向にあることを利用し、サーモパイル20の測定精度を上げることなく確実に指の温度を測定するように工夫している。具体的には、サーモパイルが測定した使用者の手の温度が少なくとも第三温度(図9に示す測定値V3に相当する)と第四温度(図9に示す測定値V2に相当する)との二つある場合に、相対的に低温である第三温度を使用者の指の温度であるものとみなして、その第三温度に対応する第三目標温度(図9に示す温度T2に相当する)を温度調整のための目標温度と設定している。
また本実施形態では、図9を参照しながら説明したように、所定時間の間継続して使用者の手の温度を測定し、この継続測定の間に第三温度(図9に示す測定値V3に相当する)と第四温度(図9に示す測定値V2に相当する)とを取得するので、指先から掌までの温度を連続して測定することが可能となり、相対的に低い温度である第三温度(図9に示す測定値V3に相当する)をより確実に測定することができる。
また本実施形態において、サーモパイル20が継続して使用者の手の温度を測定している間に、掌の温度とみなされる程度に高温の掌温度(例えば、図9の測定値V2に相当する温度)に達したことを測定した場合にその掌温度から所定温度(例えば、5℃)を減じた温度を使用者の手Hの温度として認識することも好ましい。
人間の手の温度が高くなったり低くなったりするのは、雰囲気温度が高くなったり低くなったりするのに連動することが多い。従って、人間の手の温度が低くなれば、雰囲気温度も低くなっている可能性があり、人間の手の温度と雰囲気温度とを区別して温度測定することが困難になる。特に、使用者の指の温度を測定し、その指の温度に基づいて目標温度を設定しようとすれば、使用者が隣り合う指を密接させなければ間に空気が存在し、測定した結果が指の温度なのか雰囲気温度なのかが不明になることが懸念される。
一方で掌は広い領域であるから、所定時間継続して測定すれば、指よりも高い温度が一定時間継続して測定されるものである。従って、掌の温度を測定することは指の温度を測定することに比較して確実性が高いものといえる。そこで、継続した温度測定の間において、掌の温度とみなされる程度に高温の掌温度を測定した場合、その測定した温度を掌の温度とみなし、その掌の温度から所定温度を減じた温度を指の温度であるとみなすことも好ましいのである。
また本実施形態に係る自動吐水装置AFa,AFb,AFcではサーモパイル20を一つ設けたけれども、サーモパイル20を少なくとも二以上備え、もしくは、サーモパイル20が備える温度測定素子(熱吸収膜)を複数備えた多素子型に変更することで、複数の温度を同時に計測することで取得温度の内、高い温度を使用者の手Hの温度として認識することも好ましいものである。
また,サーモパイル20が検知する領域は、円形状としているが(図12参照)、温度検知の対象物(指先,手の平)に合わせて、その円形の検知エリアを拡大・縮小をすることで温度検知レベルの最適化を行う。さらに、より最適化する方法として、手の平・指の形状が差し出される方向に長いことより、円形状の検知エリアを楕円形状にすることで、対象物を検知エリア内で正確に捉えて、温度検知レベルをより向上させる。上述した手法で使用者の手Hの温度として認識することも好ましいものである。
上述したように、使用者の指の温度を測定し、その指の温度に基づいて目標温度を設定しようとすれば、使用者が隣り合う指を密接させなければ間に空気が存在し、測定した結果が指の温度なのか雰囲気温度なのかが不明になることが懸念される。そこでこの好ましい態様を採用すれば、サーモパイル20を用いて計測したそれぞれの温度点結果のうち高い温度の測定結果を使用者の指の温度を示す温度結果であるものとみなし、使用者の手Hの温度として認識することができる。
従来の自動吐水装置は、吐水を開始すると冷たい残水が排出され、徐々に昇温された温水が吐出され、目標温度に昇温された温水の吐出に至るように構成されている。一方、人間の手は上述したように温度変化しやすく、そして、温度変化する手の温度に対応して体感温度の適温域も変動することから、使用者へ冷たさと熱さのオーバーシュートを体感させ、適温へ収め快適と思わせることがより難しくなってしまう。即ち、従来の自動吐水装置では、適温と感じる温度が一瞬で過ぎ去ってしまい、必ずしも快適な吐水が行われるものではない。そこで本実施形態では図9を参照しながら説明したように、設定した目標温度を吐水口10からの水の吐出時間が吐水の開始から所定時間を経過するまでは保持することで、使用者の現在の手の温度に対応した適温の吐水を継続的に行い、使用者にとってより快適な吐水を行うことができると共に、従来の自動吐水装置と比較した場合に違和感を与えずに十分な快適感を与えることができる。
そのような吐水温度の上昇調整をするにあたっては、設定した目標温度が第五目標温度よりも低い第六目標温度の場合に、吐水温度への上昇温度幅が大きくなるように上昇調整を実行することも好ましいものである。
吐水の初期においては、一定の目標温度の吐水を行うことで使用者が冷たいと感じることを回避しつつ(図9の時刻t4〜t5)、吐水開始から所定時間経過後に行う吐水温度を上昇させるための上昇調整の実行は(図9の時刻t5〜t6)、当初の目標温度が低い温度の第六目標温度であれば上昇温度幅が大きくなるように実行している。当初は低かった手の温度が上昇し、最終的に心地良く快適であると感じる温水の温度は個人差がさほど無いものなので、このように吐水温度の上昇調整をすることで、人間の手の温度上昇の感覚に合った温度制御とすることができる。
また本実施形態に係る自動吐水装置AFa,AFbは、サーモパイル20が、吐水領域に使用者の手Hがかからない温度測定領域において使用者の手Hの温度を測定可能なように設けられ、吐水手段としての吐水口10及びサーモパイル20は、使用者の手Hが温度測定領域を経由して吐水領域に向かうように配置されている。
このように、サーモパイル20は、吐水領域に使用者の手Hがかからない温度測定領域において使用者の手Hの温度を測定可能なように設けられているので、吐水の影響を受けない領域で確実に使用者の手の温度を測定することができ、冷たい吐水に手を差し出してしまうことを確実に防止できる。また、吐水口10及びサーモパイル20は、使用者の手Hが温度測定領域を経由して吐水領域に向かうように配置されているので、使用者の手Hが温度測定領域から吐水領域に向かう間も吐水の温度調整の時間に当てることができる。
また本実施形態では、温度測定領域への手の挿入を判定する手挿入判定手段としての赤外線センサ21を備え、制御手段3は赤外線センサ21の判定結果に基づいて、残水処理を行うものである。このように、温度測定領域への手の挿入と同時期に残水処理を行うことができるので、吐水当初に冷たい残水に触れることがないタイミングでの残水処理を確実に行うことができる。
手の挿入判定と残水処理を行うためのトリガーセンサとして、ここでは赤外線センサ21を一例に挙げたが、使用者の手の判定を行えるその他のセンサを使用しても良い。例えば、マイクロ波、焦電センサ、静電容量センサ、超音波センサ等を使用しても良い。
また本実施形態に係る自動吐水装置AFa,AFbは、温度測定領域が吐水領域よりも上方に形成されるように配置されている。自動吐水装置AFaにおいては、サーモパイル20が吐水部1aから引き離して配置されている。一方、自動吐水装置AFbの上面103にもサーモパイル20が配置されている。
このように、サーモパイル20を吐水部1bの上面103に配置したり、サーモパイル20を吐水部1aとは引き離して配置することで、温度測定領域を吐水領域よりも上方に形成することができ、使用者は吐水領域よりも上方の空間を経由して吐水領域に手を差し入れることを認識する。更に使用者は、温度測定領域では掌を下方に向けて翳し、吐水領域では掌を上方に向けて吐水を受けるので、無意識の内に手を反転させる動作を行うことになる。従って、吐水領域に直接手を挿入する従来の自動吐水装置とは異なる手の動きをさせることを認知させることができ、温度測定領域における手の温度測定を確実に行うことができる。
また自動吐水装置AFbでは、温度測定領域への手の挿入態様を誘導するための報知を行う態様報知手段としてのピクトを、吐水部1bの上面103に形成し、態様報知手段としてのピクトは、使用者が温度測定領域に手の指先を閉じて挿入するように誘導する報知を行う。
上述したように、温度測定領域に対して使用者は無意識の内に指先を広げて差し入れてしまい、指先の正確な温度測定を行うことが困難になることも想定される。そこで、使用者が温度測定領域に手の指先を挿入するように誘導する報知を行うことで、指先の温度を確実に測定することを可能としている。更に本実施形態では、使用者が温度測定領域に手の指先を閉じ隙間を無くして挿入するように誘導する報知を行うことで、指先の温度を確実に測定することを可能とするものである。
更に本実施形態に係る自動吐水装置AFcでは、吐水領域への使用者の手の挿入を確実に判定することに工夫している。具体的には、人間の手の温度が高くなったり低くなったりするのは、雰囲気温度が高くなったり低くなったりするのに連動することが多い。従って、人間の手の温度が低くなれば、雰囲気温度も低くなっている可能性があり、人間の手の温度と雰囲気温度とを区別して温度測定することが困難になる。この場合において、使用者の手の温度を測定するためのサーモパイル20のみで、使用者の手の温度測定と、使用者の手が吐水口10の下方に来たことを検知することとの双方を行おうとすれば、雰囲気温度と手の温度とが近接した場合には吐水開始の制御を行うことが極めて困難になる。そこで自動吐水装置AFcでは、吐水領域への使用者の手の挿入を判定する手挿入判定手段として機能するように赤外線センサ11を設けることで、吐水領域への使用者の手の挿入を確実に判定している。この赤外線センサ11を設けた上で、赤外線センサ11によって吐水領域へ使用者の手が挿入されたと判定された後に、吐水領域へ温水を吐出するものとしている。このように温度調整のタイミングと吐水開始のタイミングとを調整することで、温度調整がなされていない冷たい水が吐水されてしまい、使用者が冷たい思いをすることを確実に回避し、温度変化の大きな手を洗う際に、手の温度を的確に把握し適温の水を適切なタイミングで吐水することが可能となる。
また本実施形態に係る自動吐水装置AFcでは、サーモパイル20は、赤外線センサ11が吐水領域に使用者の手Hが挿入されたと判定した後に手Hの温度の測定を開始するように構成することも好ましい。このように構成すると、サーモパイル20をその開始タイミングまで待機状態としておくことができ、節電効果が計れると共に確実に温度測定を行うことができる。
また本実施形態に係る自動吐水装置AFcでは、赤外線センサ11とサーモパイル20とは、使用者の手Hの温度を測定した後に吐水領域への使用者の手Hの挿入を判定できるように配置されている(図11及び図12参照)。このように配置することで、赤外線センサ11が吐水領域への手Hの挿入があったと判定したタイミングでは、サーモパイル20による手の温度測定が行われていると判断することができる。
また本実施形態に係る自動吐水装置AFcでは、吐水領域を囲繞するように温度測定領域が形成されている。このように形成することで、吐水領域に如何なる方向から手が挿入されたとしても、赤外線センサ11が吐水領域への手Hの挿入があったと判定したタイミングでは、サーモパイル20による手の温度測定が行われていると判断することができる。
また本実施形態に係る自動吐水装置AFcでは、赤外線センサ11によって吐水領域へ使用者の手Hが挿入されたと判定された後であっても、所定時間の間は吐水領域への吐水を保留することも好ましい。このように構成することで、その所定時間の間も利用してサーモパイル20による手の温度の測定を確実に行うことができる。
また、その所定時間は、サーモパイル20による使用者の手Hの温度の測定が完了した場合には短縮することも好ましい。このように構成することで、使用者の手Hの温度測定が完了した直後や温度調整が終わったタイミングに合わせて吐水を開始させることができ、確実な温度調整と適切なタイミングでの吐水とを両立させることができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。