JP5605272B2 - 高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法に関する。高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品とは、例えば、自動車、トラック、その他産業機械の部品であるシャフト、ハブユニット、等速ジョイント、コンロッドなど高強度かつ強度傾斜を有する鋼製部品の素材となるものである。
自動車、トラック、その他産業機械の部品であるシャフト、ハブユニット、等速ジョイント、コンロッドなどの鋼製部品は、棒鋼あるいは線材を熱間加工、なかでも主として熱間鍛造によって、「熱間加工品」を製造した後、これを素材として切削加工を施し、最終形状の部品に仕上げることが多い。
以下、本明細書においては、「熱間加工」を「熱間鍛造」で代表させて説明することがある。
近年、燃費効率の向上の観点から、産業界から軽量化を目的とした、部品の高強度化を強く求められている。一方、部品を高強度化すると、熱間鍛造後の切削加工性が低下するという問題点がある。
また、産業界からは、コストの低減についても強く求められている。
そこで、上記産業界からの要望に応える技術が、例えば、特許文献1および特許文献2に開示されている。
特許文献1に、「疲労強度に優れた熱間鍛造品およびその製造方法並びに機械構造部品」が開示されており、上記の熱間鍛造品は、熱間鍛造後の部分冷却によって導入された硬化部と非硬化部とを有し、前記硬化部のビッカース硬さと非硬化部のビッカース硬さが特定の条件を満足するものであって、高い疲労強度を有するとともに、良好な被削性を有することが示されている。
特許文献2に、強度の必要な部位の表層を亜熱間鍛造と熱処理によって細粒化し、高強度・高耐久比を実現した「表層細粒鋼部品とその製造方法」が開示されている。
特許文献3に、「高強度鋼製粗形品およびその製造方法」が開示されており、上記の高強度鋼製粗形品は、微細な析出物を有するもの、粗形品内でビッカース硬さに分布を有するものであって、高い強度と、必要に応じて良好な被削性を兼ね備えることが示されている。
特開2007−39704号公報 特開2008−56956号公報 特開2010−24503号公報
前述の特許文献1で開示された熱間鍛造品およびその製造方法の場合、その段落[0006]および実施例に示されているように、部分的に焼入れを行うことによってその部分をマルテンサイトやベイナイト組織にし、自己焼戻しを行うものである。しかし、上記の自己焼戻しを行うには、実施例に示されているように、冷却停止温度だけでなく、復熱最高温度も制御する必要がある。このため、量産で安定した特性を得ることが難しい。また、部分的にマルテンサイトやベイナイト組織を得るためには、部分的に低温まで冷却する必要がある。このため、冷却中のひずみによる変形が大きくなりやすく、量産での歩留まりが低下し、しかも、最終形状の部品に仕上げるための切削量が増加することによって、コストの上昇を招く。
特許文献2で開示された技術は、表層部を、マルテンサイト組織やベイナイト組織を主体の組織にするものである。しかしながら、表層部を、マルテンサイト組織やベイナイト組織を主体とするためには、表層部を低温まで冷却する必要があるため、冷却中のひずみによる変形が大きくなりやすく、量産での歩留まりが低下し、しかも、最終形状の部品に仕上げるための切削量が増加することによって、コストの上昇を招く。
特許文献3で開示された技術において、硬さの分布を有する高強度粗形品を得るためには、素材内で大きな温度差を有する状態から、すべての熱間鍛造を行う必要がある。素材内で大きな温度差があると、部位によって変形抵抗の差が大きいので粗形品の寸法精度が不十分になり、最終形状の部品に仕上げるための切削量が増加することとなって、コストの上昇を招く場合がある。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、高強度化、強度傾斜化、および製造コストの低減が可能で、良好な被削性も兼ね備えた高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法を提供することを目的とする。
自動車、トラック、その他産業機械の部品であるシャフト、ハブユニット、等速ジョイント、コンロッドなど鋼製部品において高強度が要求されるのは、部品の全ての部分ではなく、部品の「一部分」である。なお、部品の「一部分」とは、部品の体積の50%以下をいう。
なお、自動車、トラック、その他産業機械の部品の中で高強度が必要な部分としては、例えば、ハブユニットにおけるフランジの付け根部分が挙げられる。
上記の部品には、引張試験での0.2%耐力、引張強さ、疲労強度などの性能が一定値以上であることが要求される。現在量産化されている鋼製熱間鍛造部品の0.2%耐力は800MPa程度が最高である。
本発明においては、産業界からの軽量化を目的とした部品の高強度化の要請に応えるために、高強度が必要な部分の0.2%耐力を、上記の800MPaを大きく上回る1000MPa以上にすることを目標とする。
一方、被削性も0.2%耐力との相関が強く、0.2%耐力を低減するほど、被削性が良好になる。
したがって、本発明においては、高強度が必要とされない部分の0.2%耐力は、高強度が必要な部分の0.2%耐力に比べて150MPa以上低いことを目標とする。高強度が必要とされない部分の0.2%耐力は、高強度が必要な部分の0.2%耐力に比べて200MPa以上低いことが望ましい。また、量産性の観点からは、高強度が必要とされない部分の0.2%耐力は、高強度が必要な部分の0.2%耐力からの低下が、500MPa以下であることが好ましい。
以上のことから、本発明者は、上記の部品の0.2%耐力を、高強度が必要な部分では1000MPa以上とし、それ以外の部分では高強度が必要な部分よりも150MPa以上低減することを目標として、最適な化学組成、金属組織、および加工熱処理条件について調査・研究を重ねた。
パーライト組織は、マルテンサイト組織やベイナイト組織よりも高い温度域で変態するため、熱処理歪みが小さいこと、および焼戻しによる強度変化量が小さいことが知られている。しかし、一般的にパーライト組織からなる部品は、マルテンサイト組織やベイナイト組織を有する部品に比べて強度が低い場合が多い。
そこで、本発明者は、パーライト単相組織、または、パーライト組織を主体とする金属組織を得ることを基本とし、このような金属組織であっても、高強度が必要な部分については、マルテンサイト組織やベイナイト組織を主体とする金属組織の場合と同等以上の強度が得られ、かつ、高強度が不要な部分については、被削性を低下させないことを目標として、最適な化学組成、金属組織および加工熱処理条件について調査・研究を重ねた。
その結果、下記(a)〜(d)の知見を得た。
なお、「パーライト組織を主体とする金属組織」とは、パーライト単相組織、またはフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトのうちの1種以上とパーライトとの混合組織からなり、パーライト組織の面積分率が60%以上であることを意味する。
(a)被削性は、鋼材の0.2%耐力との相関が強いので、良好な被削性を確保するためには、鋼材の0.2%耐力の低減が必要である。そのため、部品の中で高強度化が必要な部分のみ0.2%耐力を高め、それ以外のところは0.2%耐力を低くすると、部品全体の被削性を高めることができる。
(b)オーステナイト域に加熱したときに、未固溶のVCを存在させると、オーステナイト粒が微細になるために、焼入れ性が低下して、マトリックスの硬さが低下するとともに、オーステナイトからパーライト、およびフェライトに変態する際に析出する微細なVCの量が減少して、軟質化する。したがって、熱間加工が施される素材内で適切、かつ大きな加熱温度差を付けることにより、熱間加工して得た同一熱間加工品内に高強度部と軟質部の双方を具備させることができる。
(c)熱間加工によって安定に成形するためには、一旦、1段目の加熱として素材を均一な温度に加熱した後に粗成形する方がよい。次いで、粗成形後に、2段目の加熱として高強度化したい部分だけを、例えば、高周波加熱によって急速加熱し、加熱終了後は、なるべく速やかに仕上げ成形のための熱間加工を行うことで、同一熱間加工品内における高強度部と軟質部の強度差を増大させることができる。
(d)高強度化を図るためには、パーライトラメラ間隔を小さくし、かつ微細なVCを得るために、オーステナイトからパーライトやフェライトへの変態が630〜550℃の範囲で生じるのがよい。なお、高強度化を図るためには、オーステナイトからパーライトやフェライトへの変態を、部品表面だけでなく内部でも生じさせる必要があるので、上記温度域への冷却途中に部品内部でのパーライトやフェライトへの変態をなるべく生じさせないために、その温度範囲まで急速に冷却する必要がある。しかしながら、急速に冷却すると表面と内部の温度差が生ずるため、この温度差があまり大きくならないように、上限の冷却速度を設定する必要がある。それであっても、表面に比べて内部は温度が高くなりやすい。したがって、素材の表面温度に応じて、素材全体をその温度に応じた熱処理炉に保持すればよい。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(3)に示す高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法にある。
(1)質量%で、C:0.4〜0.9%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.10%以下、S:0.005〜0.2%、Al:0.01〜0.05%、V:0.3〜0.9%およびN:0.003〜0.020%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有する鋼からなる素材に、下記の<1>〜<3>の工程の処理を順に施すことを特徴とする、高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法。
<1>素材全体を、750〜950℃に加熱した後、熱間加工によって粗成形品を得る工程、
<2>得られた粗成形品の体積の50%以下の部分を、平均加熱速度5℃/秒以上で1100〜1300℃にさらに加熱した後、仕上げ成形のための熱間加工を開始し、その熱間加工を加熱終了後15秒以内に終了させ、その後、上記の熱間加工で仕上げ成形した部分を、平均冷却速度1.5〜30℃/秒で、600〜480℃まで冷却して、仕上げ成形品を得る工程、および、
<3>得られた仕上げ成形品を、炉内温度が〔1090−冷却後の温度〕℃〜〔1190−冷却後の温度〕℃の熱処理炉で250〜3600秒保持する工程。
(2)鋼の化学組成が、質量%で、さらに、Ni:1.5%以下、Cr:1.5%以下およびMo:0.5%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする、上記(1)に記載の高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法。
(3)鋼の化学組成が、質量%で、さらに、Nb:0.08%以下およびTi:0.08%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法。
なお、残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
また、上記の<1>および<2>の工程における「温度」、「平均加熱速度」および「平均冷却速度」はそれぞれ、各工程での被処理材の表面での温度、平均加熱速度および平均冷却速度を指す。
既に述べたように、シャフト、ハブユニット、等速ジョイント、コンロッドなどの鋼製部品は、熱間加工、なかでも主として熱間鍛造によって、「熱間加工品」を製造した後、これを素材として切削加工を施し、最終形状の部品に仕上げることが多い。そして、前記の熱間鍛造は、通常2工程以上に分けて行われる。このため、本発明では、熱間加工による、前半の工程を「粗成形」、後半の工程を「仕上げ成形」と定義する。例えば、熱間加工が4工程の熱間鍛造である場合、前半の2〜3工程が「粗成形」で、後半の1〜2工程が「仕上げ成形」である。
本発明の製造方法によって製造された高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品は、高い強度を有するとともに製造コストの低減が可能で、また、良好な被削性も備えているので、自動車、トラック、その他産業機械の部品であるシャフト、ハブユニット、等速ジョイント、コンロッドなど、高強度かつ強度傾斜を有する鋼製部品の素材として好適に用いることができる。
実施例で施した加工熱処理試験の条件を模式的に説明する図である。図中の「A」は、<1>の工程における「加熱温度」を表す。また、「B」、「C]、「D」、「E」および「F」はそれぞれ、<2>の工程における、「平均加熱速度」、「加熱温度」、加熱終了から熱間加工終了までの「時間」、「平均冷却速度」および「冷却した温度」を表す。さらに、「G」および「H」はそれぞれ、<3>の工程における、熱処理炉の「炉内温度」および「保持時間」を表す。 実施例で施した加工熱処理試験による試験片形状の段階的変化および<2>の工程における加熱部を模式的に説明する図である。図2において、(a)は、<1>の工程の熱間加工に対応する熱間押出に用いた直径38.5mm、長さ88mmの試験片形状を表す。(b)は、上記の熱間押出によって得られた直径27.2mm、長さ140mmの粗成形試験片の形状を表す。(c)は、<2>の工程における上記粗成形試験片の加熱部分が加工トップ部分50mmであることを示す。(d)は、<2>の工程の仕上げ成形のための熱間加工に対応する熱間押出によって得られた、直径24.3mm、長さ62.5mmの下端部と直径27.2mm、長さ90mmの上端部からなる試験片形状を示す。なお(d)中に示した4つの試験片は引張試験片の採取位置を示す。
本発明において、鋼材の化学組成および製造条件を上述のように規定した理由について、以下に詳述する。なお、各成分元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)素材鋼の化学組成について:
C:0.4〜0.9%
Cは、部品の強度を高めるのに有効な元素であり、Cの含有量が0.4%未満では強度が不十分で、他の要件を満たしていても所望の0.2%耐力が得られない。一方、Cの含有量が0.9%を超えると、初析セメンタイトが生成しやすくなり、靱性が著しく低下する。したがって、Cの含有量を0.4〜0.9%とした。なお、C含有量の望ましい下限は0.5%であり、また、望ましい上限は0.7%である。
Si:0.1〜1.5%
Siは、部品の強度を高めるのに有効な元素であり、Siの含有量が0.1%未満では強度が不十分で、他の要件を満たしていても所望の0.2%耐力が得られない。一方、Siの含有量が1.5%を超えると、その効果が飽和し、むしろ靱性が低下する。したがって、Siの含有量を0.1〜1.5%とした。なお、Si含有量の望ましい下限は0.3%であり、また、望ましい上限は1.0%である。
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、部品の強度を高めるのに有効な元素であり、Mnの含有量が0.5%未満では強度が不十分で、他の要件を満たしていても所望の0.2%耐力が得られない。一方、Mnの含有量が2.0%を超えると、その効果が飽和し、むしろ靱性が低下する。したがって、Mnの含有量を0.5〜2.0%とした。なお、Mn含有量の望ましい下限は0.9%であり、また、望ましい上限は1.5%である。
P:0.10%以下
Pは、不純物として含有される元素である。また、粒界偏析して粒界を脆化させやすい元素である。このため、コンロッドのように、部品の製造中に破断分離させる工程が含まれる場合には、破断時の変形を抑制するために積極的に添加する必要がある。しかしながら、その含有量が多くなって特に0.10%を超えると、疲労強度の低下が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.10%以下とした。なお、破断分離を行わない部品においては、Pの含有量は低減する方が好ましく、0.03%以下とすることが好ましい。破断分離を行う部品においては、Pの含有量は0.05%以上とすることが好ましい。
S:0.005〜0.2%
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を向上させる作用を有する。しかしながら、その含有量が0.005%未満では、前記の効果が得難い。一方、粗大なMnSは疲労強度を低下させる傾向があり、Sの含有量が0.2%を超えると、粗大なMnSを形成しやすくなって疲労強度の低下が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.005〜0.2%とした。なお、Sを0.02%以上含有する場合には、被削性が一層向上するので、より被削性を重視する場合には、S含有量の下限は0.02%とすることが好ましい。また、より疲労強度を重視する場合には、S含有量の上限は0.05%とすることが好ましい。
Al:0.01〜0.05%
Alは、脱酸作用を有すると同時に、Nと結合してAlNを形成しやすく、結晶粒を微細化させるため、靱性向上に有効である。しかしながら、Alの含有量が0.01%未満ではこれらの効果は得難い。一方で、Alは硬質な酸化物系介在物を形成して疲労強度を低下させてしまう。特に、Alの含有量が0.05%を超えると、疲労強度の低下が著しくなる。したがって、Alの含有量を0.01〜0.05%とした。なお、Al含有量の望ましい下限は0.02%であり、また、望ましい上限は0.04%である。
V:0.3〜0.9%
Vは、C、Nと結合して炭化物、窒化物、あるいは炭窒化物として鋼中に析出し、特にオーステナイトからフェライト、およびパーライトに変態するときのオーステナイトとパーライト中のフェライト、および初析フェライトとの界面で析出すると、V炭化物が微細に析出して部品の強度を高めるのに有効であり、Vの含有量が0.3%未満では強度が不十分で、他の要件を満たしていても所望の0.2%耐力が得られない。一方、Vの含有量が0.9%を超えると、その効果が飽和し、むしろ靱性が低下する。したがって、Vの含有量を0.3〜0.9%とした。なお、V含有量の望ましい下限は0.4%であり、また、望ましい上限は0.7%である。
N:0.003〜0.020%
Nは、Al、V、Nb、Tiと結合して窒化物、あるいは炭窒化物を形成しやすく、結晶粒を微細化させるため、靱性向上に有効である。しかしながら、Nの含有量が0.003%未満ではこの効果は得難い。一方で、Nの含有量が0.020%を超えると、粗大な窒化物が形成されやすくなり、疲労強度の低下が著しくなる。したがって、Nの含有量を0.003〜0.020%とした。なお、N含有量の望ましい下限は0.006%であり、また、望ましい上限は0.015%である。
本発明の方法で製造される鋼製熱間加工品の素材鋼の化学組成の一つは、上記元素のほか、残部がFeと不純物からなる化学組成を有するものである。
本発明の方法で製造される鋼製熱間加工品の素材鋼の化学組成の他の一つは、上記の元素に加えてさらに、Ni、Cr、Mo、NbおよびTiのうちから選んだ1種以上の元素を含有するものである。
以下、これらの元素の作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
Ni、CrおよびMoは、いずれも強度を高める作用を有する。このため、より高い強度を具備させたい場合には、以下の範囲で含有してもよい。
Ni:1.5%以下
Niは、強度を高めるのに有効な元素であるので、高強度化のためにNiを含有してもよい。しかしながら、Niを1.5%を超えて含有させても、強度を高める効果が飽和して、コストが嵩むばかりである。したがって、含有させる場合のNiの含有量を1.5%以下とした。なお、含有させる場合のNiの含有量は1.0%以下とすることが望ましい。
一方、前記したNiの強度向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のNi含有量の下限を0.1%とすることが望ましく、0.3%とすれば一層望ましい。
Cr:1.5%以下
Crは、強度を高めるのに有効な元素であるので、高強度化のためにCrを含有してもよい。しかしながら、Crの含有量が1.5%を超えると、その効果が飽和し、むしろ靱性が低下する。したがって、含有させる場合のCrの含有量を1.5%以下とした。なお、含有させる場合のCrの含有量は0.8%以下とすることが望ましい。
一方、前記したCrの強度向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のCr含有量の下限を0.1%とすることが望ましく、0.2%とすれば一層望ましい。
Mo:0.5%以下
Moも、強度を高めるのに有効な元素であるので、高強度化のためにMoを含有してもよい。しかしながら、Moを0.5%を超えて含有させても、強度を高める効果が飽和して、コストが嵩むばかりである。したがって、含有させる場合のMoの含有量を0.5%以下とした。なお、含有させる場合のMoの含有量は0.3%以下とすることが望ましい。
一方、前記したMoの強度向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のMo含有量の下限を0.03%とすることが望ましく、0.08%とすれば一層望ましい。
上記のNi、CrおよびMoは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有することができる。なお、これらの元素の合計含有量は3.5%以下であってもよいが、1.5%以下とすることが好ましい。
次に、NbおよびTiは、いずれも結晶粒を微細化して靱性を高める作用を有する。このため、より優れた靱性を得たい場合には、以下の範囲で含有してもよい。
Nb:0.08%以下
Nbは、C、Nと結合して炭化物、窒化物、あるいは炭窒化物を形成しやすく、結晶粒を微細化して靱性を高める作用を有するので、この効果を得るためにNbを含有してもよい。しかしながら、Nbの含有量が0.08%を超えると、粗大な炭化物、窒化物、あるいは炭窒化物を形成しやすくなり、疲労強度の低下が著しくなる。したがって、含有させる場合のNbの含有量を0.08%以下とした。なお、含有させる場合のNbの含有量は0.05%以下とすることが望ましい。
一方、前記したNbの靱性向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のNb含有量の下限を0.005%とすることが望ましく、0.01%とすれば一層望ましい。
Ti:0.08%以下
Tiも、C、Nと結合して炭化物、窒化物、あるいは炭窒化物を形成しやすく、結晶粒を微細化して靱性を高める作用を有するので、この効果を得るためにTiを含有してもよい。しかしながら、Tiの含有量が0.08%を超えると、粗大な炭化物、窒化物、あるいは炭窒化物を形成しやすくなり、疲労強度の低下が著しくなる。したがって、含有させる場合のTiの含有量を0.08%以下とした。なお、含有させる場合のTiの含有量は0.05%以下とすることが望ましい。
一方、前記したTiの靱性向上効果を確実に得るためには、含有させる場合のTi含有量の下限を0.005%とすることが望ましく、0.01%とすれば一層望ましい。
上記のNbおよびTiは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種の複合で含有することができる。なお、これらの元素の合計含有量は0.16%以下であってもよいが、0.10%以下とすることが好ましい。
(B)製造条件について:
本発明においては、所望の、組織状態(つまり、パーライト単相組織状態、または、パーライト組織を主体とする金属組織状態)および0.2%耐力を得るために、(A)項で述べた化学組成を有する鋼からなる素材に、前記<1>〜<3>の工程の処理を順に施す必要がある。
以下、上記の工程に関して詳しく説明する。
<1>の工程について:
本発明においては、先ず、<1>の「素材全体を、750〜950℃に加熱した後、熱間加工によって粗成形品を得る工程」を経る必要がある。
加熱温度が750℃未満の場合、変形抵抗が大きいため、鍛造金型を始めとする熱間加工工具の損傷が激しくなる。一方、加熱温度が950℃を上回ると、軟質部となる<2>の工程での非加熱部(以下、単に「軟質部」という。)の強度が高くなり、高強度部となる<2>の工程での加熱部(以下、単に「高強度部」という。)との0.2%耐力の差を150MPa以上にすることができない。したがって、加熱温度は750〜950℃とする。
なお、この<1>の工程において、素材全体を上記温度に加熱する際の保持時間については特に規定するものではないが、10秒以上とすることが好ましい。上記加熱の際の保持時間は5分以下とすることが好ましく、1分以下とすればさらに好ましい。
<1>の工程において、素材全体を加熱した後、粗成形品を得るために施す熱間加工の手段は特に規定するものではなく、熱間鍛造を始めとして所定の形状が得られるものであればどのような加工手段を用いてもよい。
<2>の工程について:
本発明においては、<1>の工程の後に、<2>の「得られた粗成形品の体積の50%以下の部分を、平均加熱速度5℃/秒以上で1100〜1300℃にさらに加熱した後、仕上げ成形のための熱間加工を開始し、その熱間加工を加熱終了後15秒以内に終了させ、その後、上記の熱間加工で仕上げ成形した部分を、平均冷却速度1.5〜30℃/秒で、600〜480℃まで冷却して、仕上げ成形品を得る工程」を経る必要がある。
上記<1>の工程で得られた粗成形品の体積の50%を超える部分を加熱すると、高強度部の割合が大きくなり過ぎるので、被削性向上の効果が小さい。したがって、<2>の工程で加熱する部分は粗成形品の体積の50%以下の部分とする。なお、加熱する部分は粗成形品の体積の40%以下とすることが好ましく、30%以下であればさらに好ましい。上記加熱する部分は粗成形品の体積の20%以上とすることが好ましい。
また、上記の加熱において、平均加熱速度が5℃/秒未満の場合、軟質部の強度が高くなり、高強度部との0.2%耐力の差を150MPa以上にすることができない。したがって、粗成形品の体積の50%以下の部分を加熱する際の平均加熱速度は5℃/秒以上とする。
上記の平均加熱速度は、加熱手段として、例えば、高周波加熱を用いれば達成することができる。
なお、上記の平均加熱速度は10℃/秒以上とすることが好ましい。上記の平均加熱速度の上限については特に規定しないが、工業的な規模では、平均加熱速度の最大は、200℃/秒程度である。
上述の加熱において、加熱温度が1100℃未満の場合には、高強度部の内部での0.2%耐力が1000MPa未満になる部分が生じる。一方、加熱温度が1300℃を上回る場合には、脱炭や酸化スケールの生成が激しくなる。したがって、粗成形品の体積の50%以下の部分を平均加熱速度5℃/秒以上で加熱する温度は1100〜1300℃とする。上記の加熱温度は1150℃以上とすることが好ましく、また、1250℃以下とすることが好ましい。
なお、上記温度での加熱保持時間は特に規定するものではないが、5秒以上とすることが好ましい。また、加熱保持時間は30秒以下とすることが好ましい。
上記の加熱後、仕上げ成形のための熱間加工を施す。仕上げ成形するための熱間加工の手段は特に規定するものではなく、熱間鍛造を始めとして、所定の形状が得られるものであればどのような加工手段を用いてもよい。
しかしながら、熱間加工による仕上げ成形の終了が上記の加熱終了後15秒を超えると、軟質部の強度が高くなり、高強度部との0.2%耐力の差を150MPa以上にすることができない。したがって、仕上げ成形のための熱間加工は、加熱終了後、15秒以内に終了させる。なお、上記の仕上げ成形のための熱間加工は、加熱終了後、10秒以内に終了させることが好ましい。
上記仕上げ成形のための熱間加工を終了した後、その成形部分を冷却するに際して、平均冷却速度が1.5℃/秒未満の場合、熱伝導によって温度が均一化しやすいので、軟質部の強度が高くなり、高強度部との0.2%耐力の差を150MPa以上にすることができない。一方、平均冷却速度が30℃/秒を上回る場合、表面と内部の温度差が大きくなり、その結果、高強度部の内部での0.2%耐力が1000MPa未満になる部分が生じ、さらに軟質部と高強度部との0.2%耐力の差も150MPa未満になる。したがって、仕上げ成形のための熱間加工を終了した後の、該熱間加工で仕上げ成形した部分の平均冷却速度は、1.5〜30℃/秒とする。
上記の平均冷却速度は、2℃/秒以上とすることが好ましく、また、20℃/秒以下とすることが好ましい。
上記の冷却において、冷却停止温度が600℃を上回ると、パーライトラメラ間隔が粗大な組織が生成しやすくなり、高強度部の内部での0.2%耐力が1000MPa未満になる部分が生じる。一方、冷却停止温度が480℃を下回ると、ベイナイト組織が生成しやすくなり、高強度部での0.2%耐力が1000MPa未満になる部分が生じ、さらに軟質部と高強度部との0.2%耐力の差も150MPa未満になる。したがって、仕上げ成形のための熱間加工を終了後、該熱間加工で仕上げ成形した部分を、1.5〜30℃/秒の平均冷却速度で600〜480℃まで冷却して、仕上げ成形品を得ることとする。
上記の平均冷却速度で冷却する温度は580℃以下とすることが好ましい。
なお、上記冷却における冷却手段については、特に制限はないが、空気や窒素によるファン風冷や、スプレーノズルを用いた空気や窒素による風冷、気体と液体を混合したミスト冷却が好適である。
<3>の工程について:
本発明においては、<2>の工程の後に、<3>の「得られた仕上げ成形品を、炉内温度が〔1090−冷却後の温度〕℃〜〔1190−冷却後の温度〕℃の熱処理炉で250〜3600秒保持する工程」を経る必要がある。
オーステナイトからパーライトやフェライトへの変態を630〜550℃の範囲で生じさせれば、パーライトラメラ間隔が小さくなり、かつ微細なVCが得られるので、高強度化を図ることができる。なお、上記のオーステナイトからパーライトやフェライトへの変態は、被処理材の表面だけでなく内部でも生じさせる必要があるが、上記<2>の工程の冷却を行うと、表面と内部で温度差が生じ、表面の方が温度が低くなる。したがって、表面と内部における温度差を小さくするために、上記<2>の工程の冷却を行って仕上げ成形品を得た後は、熱処理炉でその仕上げ成形品を加熱・保持する。
この場合、熱処理炉の炉内温度が〔1190−冷却後の温度〕℃を超えると、オーステナイトからの変態が630℃を超える部分が生じるため、高強度部の内部での0.2%耐力が1000MPa未満になる部分が生じる。また、熱処理炉の炉内温度が〔1090−冷却後の温度〕℃未満では、オーステナイトからの変態が550℃を下回る部分が生じるため、高強度部での0.2%耐力が1000MPa未満になる部分が生じ、さらに軟質部と高強度部との0.2%耐力の差も150MPa未満になる。したがって、<2>の工程で得られた仕上げ成形品を加熱保持する熱処理炉の炉内温度は〔1090−冷却後の温度〕℃〜〔1190−冷却後の温度〕℃とする。
上記の炉内温度の熱処理炉における仕上げ成形品の保持時間が、250秒未満では、熱処理炉内でオーステナイトからの変態が終了せず、その後の冷却過程でも変態が生じるため、高強度部の内部での0.2%耐力が1000MPa未満になる部分が生じ、さらに軟質部と高強度部との0.2%耐力の差も150MPa未満になる。一方、上記の炉内温度の熱処理炉における保持時間が、3600秒を超えると、表面での脱炭が顕著になる。したがって、<2>の工程で得られた仕上げ成形品を、炉内温度が〔1090−冷却後の温度〕℃〜〔1190−冷却後の温度〕℃の熱処理炉で保持する時間は250〜3600秒とする。
上記の保持時間は300秒以上とすることが好ましく、また、1800秒以下とすることが好ましい。
なお、炉内温度が〔1090−冷却後の温度〕℃〜〔1190−冷却後の温度〕℃の熱処理炉で上述の仕上げ成形品を保持する時間は、その炉内温度が上記温度域にある1ゾーンから構成された熱処理炉での保持時間であってもよいし、炉内の各ゾーンの温度が、上記の温度域にあるいくつかのゾーンから構成された熱処理炉での合計の保持時間であってもよい。
熱処理炉としては、一般的なガス雰囲気の炉、液体を媒体とする塩浴炉、固体を媒体とする流動層炉のいずれを用いてもよいが、塩浴炉、流動層炉のいずれかを用いることが好ましい。
前記(A)項に記載の化学組成を有する鋼からなる素材に、前記<1>〜<3>の工程の処理を順に施すことによって、低コストで、しかも容易に、パーライト単相組織、またはパーライト組織を主体とする金属組織となり、高強度部の0.2%耐力が1000MPa以上で、それ以外の部分では高強度部よりも0.2%耐力で150MPa以上低い鋼製熱間加工品が得られる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Sを50kg真空溶解炉で溶解した後、鋳造してインゴットを得た。
表1中の鋼A、鋼B、鋼E、鋼Fおよび鋼H〜Sは、本発明で規定される化学組成を満足する鋼である。一方、鋼C、鋼Dおよび鋼Gは、本発明で規定される化学組成の範囲を外れる比較例の鋼である。
Figure 0005605272
各インゴットを一旦室温まで冷却した後、再度1250℃で30分加熱し、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造して、直径50mmの丸棒を得た。
次いで、上記の直径50mmの各丸棒を、850℃で1時間保持して室温まで放冷する処理を行った後、機械加工によって、以下の加工熱処理試験に用いる直径38.5mm、長さ88mmの試験片を作製した。
加工熱処理試験は、熱間鍛造を模擬するため、高周波加熱装置、前方押出金型、プレス、および冷却装置を用い、熱間押出により行った。
図1に、加工熱処理試験の条件を模式的に示す。また、図2に、加工熱処理試験中の試験片形状の変化を模式的に示した。
なお、図1中の「50%」は、<1>の工程で、粗成形品を得るための熱間加工に対応する工程が、直径38.5mmの試験片を直径27.2mmに加工する、すなわち断面減少率50%で加工する、熱間押出であることを示す。さらに、図1中の「20%」は、<2>の工程で、仕上げ成形のための熱間加工に対応する工程が、上記直径27.2mmに加工した試験片の加工トップ部分を直径24.3mmに加工する、すなわち断面減少率20%で加工する、熱間押出であることを示す。なお、上記の「熱間押出」はいずれも、水平面と垂直をなすように上から下に向けて実施した。
図2中の(a)は、<1>の工程の熱間加工に対応する熱間押出に用いた直径38.5mm、長さ88mmの試験片形状を表す。(b)は、上記の熱間押出によって得られた直径27.2mm、長さ140mmの粗成形試験片の形状を表す。また、(c)は、<2>の工程における上記粗成形試験片の加熱部分が加工トップ部分50mmであることを示す。さらに、(d)は、<2>の工程の仕上げ成形のための熱間加工に対応する熱間押出によって得られた、直径24.3mm、長さ62.5mmの下端部と直径27.2mm、長さ90mmの上端部からなる試験片形状を示す。
また、表2に、加工熱処理試験条件の詳細を示す。表2中の記号A〜Hは、図1に示す記号A〜Hに対応するものであり、それぞれの具体的内容は次のとおりである。
A:<1>の工程における試験片全体(つまり、直径38.5mm、長さ88mmの試験片全体)の加熱温度(℃)、
B:<2>の工程における「平均加熱速度」であって、上記<1>の工程で直径27.2mmに加工した試験片の加工トップ部分50mm(つまり、押出加工後の長さで下部50mmの部分)についての平均加熱速度(℃/秒)、
C:<2>の工程における「加熱温度」であって、上記直径27.2mmに加工した試験片の加工トップ部分50mm(つまり、押出加工後の長さで下部50mmの部分)についての加熱温度(℃)、
D:<2>の工程における加熱終了から熱間加工に対応する熱間押出(つまり、直径27.2mmの長さ50mm部分の直径24.3mmへの熱間押出)が終了するまでの時間(秒)、
E:<2>の工程における「平均冷却速度」であって、直径24.3mmに熱間押出した部分の平均冷却速度(℃/秒)、
F:<2>の工程において「冷却した温度」であって、直径24.3mmに熱間押出した部分の最終的な冷却温度(℃)、
G:<3>の工程において、<1>および<2>の工程で得られた成形材全体を保持した熱処理炉の炉内温度(℃)、
H:<3>の工程において、<1>および<2>の工程で得られた成形材全体の上記熱処理炉での保持時間(秒)。
なお、表2の「E」項に示す平均冷却速度が10℃/秒未満の場合の冷却は、圧縮空気による空冷で行った。また、上記平均冷却速度が10℃/秒以上の場合の冷却は、空気と水を混合させたミスト冷却で行った。
ここで、加工熱処理中の温度は放射温度計を用いて、試験片表面を測定した。
<1>および<2>の工程に対応する加熱は次のようにして実施した。すなわち、<1>の工程に対応する加熱は試験片全体について行い、また、<2>の工程に対応する加熱は試験片の前述した部分について行った。なお、いずれの場合も、加熱対象部分における加熱開始前と加熱終了後の長さ方向で中央部の位置での表面温度を測定し、加熱開始前および加熱終了後の温度ならびに加熱時間から平均加熱速度を求めた。
<2>の工程に対応する冷却は、試験片全体(つまり、<1>の工程に対応する熱間押出ままの部分と<2>の工程に対応する仕上げ成形のための熱間押出を行った部分の全て)について、試験片を円周方向に回転させながら行った。そして、<2>の工程の仕上げ成形に対応する熱間押出を行った部分の冷却開始前と冷却終了後の表面温度を測定し、冷却開始前および冷却終了後の温度ならびに冷却時間から、上記仕上げ成形に対応する熱間押出を行った部分の平均冷却速度を求めた。
Figure 0005605272
上記の加工熱処理を行った各試験片の上端部、および下端部について、横断面の表面から5mm位置および中心部のそれぞれから、全長50mm、平行部長さ18mm、平行部直径3.2mmの引張試験片を採取し、一般的な方法で常温での引張試験を行って、0.2%耐力を求めた。上記の「下端部」が高強度部に相当し、また「上端部」が軟質部に相当する。
本発明は、前述のとおり、高強度部の0.2%耐力が1000MPa以上で、軟質部の0.2%耐力が高強度部のそれに比べて150MPa以上低いことを目標とするものである。なお、各試験番号について、4とおりの〔下端部の0.2%耐力〕−〔上端部の0.2%耐力〕を計算して、それらの最小値を「Δ0.2%耐力」とし、「Δ0.2%耐力」が150MPa以上であれば、「軟質部の0.2%耐力が高強度部のそれに比べて150MPa以上低い」と評価した。
試験片の下端部から採取した引張試験片については、上記の引張試験後にねじ部を軸方向に垂直に切断し、断面が被検面になるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した。これをナイタールで腐食した後、次に示す条件で光学顕微鏡による金属組織の観察を行い、光学顕微鏡で撮影した写真を用いて、パーライト組織の面積分率を測定した。6視野の面積分率の平均値をその試験番号のパーライト組織の面積分率とした。
・倍率:400倍、
・視野数:6、
・各視野の大きさ:0.25mm×0.25mm。
金属組織は、マルテンサイト組織やベイナイト組織主体の組織となると、熱処理歪みが大きく、また焼戻しによる強度変化量も大きくなる。このため、パーライト単相組織またはパーライト組織を主体とする金属組織となることを目標とした。なお、既に述べたように、「パーライト組織を主体とする金属組織」とは、パーライト単相組織、またはフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトのうちの1種以上とパーライトとの混合組織からなり、パーライト組織の面積分率が60%以上であることを意味する。
表3および表4に、上記の各試験結果をまとめて示す。なお、これらの表には、上記の「Δ0.2%耐力」を併記した。
Figure 0005605272
Figure 0005605272
表3および表4から、本発明で規定する条件を全て満たす「本発明例」の試験番号の場合には、目標とする組織が得られ、しかも、高強度部の0.2%耐力が1000MPa以上で、高強度部と軟質部の0.2%耐力の差が150MPa以上という、目標とする強度特性が得られていることが明らかである。
これに対して、本発明で規定する化学組成を満足する鋼A、鋼B、鋼E、鋼Fおよび鋼H〜Sを素材鋼として用いても、製造条件が本発明の規定から外れる場合には、「比較例」の試験番号に示すように、たとえ目標とする組織が得られていても、高強度部の0.2%耐力が1000MPa以上で、高強度部と軟質部の0.2%耐力の差が150MPa以上という、目標とする強度特性が両立できていない。
また、本発明で規定する製造条件を満足しても、化学組成が本発明で規定する範囲を外れる鋼C、鋼Dおよび鋼Gを用いた場合には、「比較例」の試験番号に示すように、たとえ目標とする組織が得られていても、高強度部の0.2%耐力が1000MPa以上で、高強度部と軟質部の0.2%耐力の差が150MPa以上という、目標とする強度特性が両立できていない。
本発明の製造方法によって製造された高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品は、高い強度を有するとともに製造コストの低減が可能で、また、良好な被削性も備えている。このため、本発明によって製造された高強度かつ強度傾斜を有する鋼製部品を素材として用いれば、自動車、トラック、その他産業機械の部品であるシャフト、ハブユニット、等速ジョイント、コンロッドなどを低いコストで製造することができる。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.4〜0.9%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.10%以下、S:0.005〜0.2%、Al:0.01〜0.05%、V:0.3〜0.9%およびN:0.003〜0.020%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有する鋼からなる素材に、下記の<1>〜<3>の工程の処理を順に施すことを特徴とする、高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法。
    <1>素材全体を、750〜950℃に加熱した後、熱間加工によって粗成形品を得る工程、
    <2>得られた粗成形品の体積の50%以下の部分を、平均加熱速度5℃/秒以上で1100〜1300℃にさらに加熱した後、仕上げ成形のための熱間加工を開始し、その熱間加工を加熱終了後15秒以内に終了させ、その後、上記の熱間加工で仕上げ成形した部分を、平均冷却速度1.5〜30℃/秒で、600〜480℃まで冷却して、仕上げ成形品を得る工程、および、
    <3>得られた仕上げ成形品を、炉内温度が〔1090−冷却後の温度〕℃〜〔1190−冷却後の温度〕℃の熱処理炉で250〜3600秒保持する工程。
  2. 鋼の化学組成が、質量%で、さらに、Ni:1.5%以下、Cr:1.5%以下およびMo:0.5%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法。
  3. 鋼の化学組成が、質量%で、さらに、Nb:0.08%以下およびTi:0.08%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度かつ強度傾斜を有する鋼製熱間加工品の製造方法。
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