JP5603605B2 - 鉄を含有しない微量元素配合輸液製剤 - Google Patents
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しかし、この輸液入り容器は、糖含有溶液、アミノ酸含有溶液、ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液および銅含有溶液をそれぞれ別の室に収納するものであるため、4つ以上の室を有しており、輸液入り容器の構成が複雑になるという難点がある。
鉄が不足すると、貧血(鉄欠乏症貧血)、運動機能や認知機能の低下、動悸、息切れ、めまい、集中力の低下、神経過敏、口内炎、肩や首筋のこり、食欲不審、慢性胃炎、爪の変型、便秘、下痢、冷え性などが生じ易くなり、また感染症にかかり易くなり、妊婦は未熟児を出産する場合があり、幼児は言語や運動能力の発達が遅れることがある。
その一方で、生体内で鉄が過剰になると、細胞に対して毒性を示してしまうため、生体内には鉄代謝の精巧な制御機構が働いている。例えば、大部分の鉄はヘモグロビンの構成成分として骨髄での赤血球造血に利用されるが、産生された赤血球は、約120日の寿命を迎えると網内系にて破壊され、ヘモグロビンから回収された鉄は再利用される。生体には鉄を積極的に排泄する機構は存在せず、消化管上皮細胞の脱落などによって鉄が僅かに喪失されるに過ぎない。鉄の喪失量は、成人で通常約1mg/日と少なく、これと同じ量が消化管から吸収されるしくみになっている。
特に、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症性疾患や悪性腫瘍などの慢性疾患が原因で起こる二次性貧血(ACD:Anemia of Chromic Disease)では、網内系からの鉄の放出が抑制されて鉄の利用が阻害されて貧血となっているため、貧血状態を示しているにも拘わらず体内での貯蔵鉄量が増加していることがあり、経静脈高カロリー輸液療法を長期にわたって行っている二次性貧血の患者にそのような兆候が度々みられる。
体内での貯蔵鉄量が増加している二次性貧血の患者に鉄を非経口的に補給すると、鉄過剰を招くことになる。体内での鉄の過剰蓄積は、肝硬変、糖尿病、青銅肌などの発症の原因となり、悪化すると心不全に至るケースもあり、また鉄過剰症は、酸素分子や過酸化水素分子と反応して活性酸素種発生の原因となることが知られている。
しかしながら、鉄過剰症のリスクに対しては解決策が示されておらず、鉄の補給を回避しつつ他の微量元素を補給でき、しかも安定性にも優れた微量元素配合輸液製剤が存在しないことが臨床上の課題となっている。
本発明の目的は、高圧蒸気滅菌を施しても、更に長期間保存しても、亜鉛とマンガンおよび銅の少なくとも一方と、ヨウ素との間の反応に伴う凝集や沈殿などが生じず、亜鉛と、マンガンおよび銅の少なくとも一方と、ヨウ素とが安定した状態で含有されている、亜鉛と、マンガンおよび銅の少なくとも一方と、ヨウ素を含有し、鉄を含有しない容器入りの高カロリー輸液製剤を提供することである。
本発明の目的は、溶液を収容する室の数が少なくて構造が簡単な、鉄を含有せず、亜鉛、マンガン、銅からなる微量金属元素とヨウ素を含有する、容器入りの高カロリー輸液製剤を提供することである。
さらに、本発明者らは、いずれの溶液(室)にも鉄を含有させず、しかもヨウ素と、亜鉛、マンガンおよび銅を別々の容器(室)中に含有させるようにした前記した容器入りの輸液製剤は、高温で加圧蒸気滅菌しても、また室温などで長期間保存しても、内容物の変質、分解、沈殿などが生じず安定であること、しかも輸液療法を行なうたびごとに微量元素製剤を別途準備して輸液製剤に混合するという手間がかからず、この容器入り輸液製剤を患者に投与するだけで、患者に高カロリーの栄養輸液と微量元素を同時に補給できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
(1) 連通可能に仕切られた複数の室を有する輸液用容器のそれぞれの室に、複数の溶液を互いに分離して収容した輸液製剤であって、
(a)第1室に糖溶液を収容し、第2室にアミノ酸溶液を収容し;
(b)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方または両方が、亜鉛を含有し;
(c)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛を含有している溶液が、マンガンおよび銅のいずれか一方または両方を更に含有し;
(d)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有していない方の溶液がヨウ素を含有するか、または第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しており;且つ、
(e)複数の室に互いに分離して収容した複数の溶液のいずれもが、鉄を含有していない;
ことを特徴とする輸液製剤である。
(2)《1》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有しているか;
《2》第1室中の糖溶液がヨウ素を含有し、第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有しているか;
《3》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しているか;
《4》第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しているか;或いは、
《5》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液も亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している;
ことを特徴とする前記(1)の輸液製剤;
(3) 第1室中の糖溶液が亜鉛、マンガンおよび銅を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有している前記(1)または(2)の輸液製剤;
(4) 第1室中の糖溶液が亜鉛、マンガンおよび銅を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している前記(1)または(2)の輸液製剤;および、
(5) 第1室中の糖溶液、第2室中のアミノ酸溶液および第3室中の溶液のうちのいずれか1つまたは2つ以上がビタミンを含有している前記(1)〜(4)のいずれかの輸液製剤;
である。
(6) 貯蔵鉄量の増加を回避する必要のある、経口および経腸による栄養補給が不能で高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない患者用である前記(1)〜(5)のいずれかの輸液製剤;
(7) 血清フェリチン濃度が250ng/mL以上の患者に投与するためのものである前記(1)〜(6)のいずれかの輸液製剤;および、
(8) 総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に投与するためのものである前記(6)または(7)の輸液製剤;
である。
本発明の輸液製剤は、従来のものよりも薬液を収容する室の数が少なくてすみ構成が簡単である。
本発明の輸液製剤では、ヨウ素と、亜鉛、マンガンおよび銅などの微量金属元素とが互いに分離された別々の溶液(室)に含有されているため、輸液製剤の製造時、高圧蒸気滅菌処理時、保存時、流通時などに、亜鉛、マンガンおよび/または銅とヨウ素との反応(特に銅とヨウ素との反応)による水不溶性物質の生成、凝集、沈殿、変質などが生じず、亜鉛、マンガン、銅およびヨウ素を、各成分を含有しているそれぞれの溶液(薬液)中に安定に存在させることができ、加熱安定性、長期保存安定性などに極めて優れている。
本発明の輸液製剤は、糖溶液およびアミノ酸溶液と共に、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素などの微量元素を含有しているので、輸液製剤を患者に投与する際に、微量元素製剤を別途準備したり調達したりする必要がなく、本発明の輸液製剤を患者に投与するだけで、高カロリーの栄養輸液の投与と同時に微量元素を患者に補給することができる。
本発明は、連通可能に仕切られた複数の室を有する前記した輸液用容器において、当該複数の室の第1室に糖溶液を収容し、第2室にアミノ酸溶液を収容し[上記の要件(a)];第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方または両方が、亜鉛を含有し[上記の要件(b)];第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛を含有している溶液が、マンガンおよび銅のいずれか一方または両方を更に含有し[上記の要件(c)];第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有していない方の溶液がヨウ素を含有しているか、または第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有し[上記の要件(d)];且つ(e)輸液用容器の複数の室に互いに分離して収容した複数の溶液のいずれもが鉄を含有していないこと[上記の要件(d)]を要件とする輸液製剤である。
《1》 第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有している態様;
《2》 第1室中の糖溶液がヨウ素を含有し、第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有している態様;
《3》 第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している態様;
《4》 第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している態様;
《5》 第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液も亜鉛とマンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している態様;
などを挙げることができる。
本発明では、上記した《1》〜《5》のいずれの態様においても、第1室、第2室および第3室中の溶液のいずれもが鉄を含有していない。
(i)2室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液にヨウ素を含有させる態様;
(ii)2室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液にヨウ素を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させる態様;
(iii)3室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液にヨウ素を含有させ、第3室にビタミン類含有溶液などを収容する態様;
(iv)3室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液にヨウ素を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第3室にビタミン類含有溶液などを収容する態様;
(v)3室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室にアミノ酸溶液を収容し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液(ビタミン類含有溶液など)にヨウ素を含有させる態様;
(vi)3室型の輸液用容器を用いて、第1室に糖溶液を収容し、第2室中のアミノ酸溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液(ビタミン類含有溶液など)にヨウ素を含有させる態様;
(vii)3室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液にも亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液(ビタミン類含有溶液など)にヨウ素を含有させてなる態様;
などを挙げることができる。
本発明の輸液製剤では、例えば上記《1》〜《5》の態様、より具体的には上記(i)〜(vii)の態様にみるように、ヨウ素と、亜鉛、マンガンおよび銅などの微量金属元素とを、互いに分離された別々の溶液(室)に含有(存在)させているため、輸液製剤の製造時、高圧蒸気滅菌処理時、保存時、流通時などに、亜鉛、マンガンおよび/または銅とヨウ素との反応(特に銅とヨウ素との反応)がなく、それによって水不溶性物質の生成、凝集、沈殿、変質などが生じず、亜鉛、マンガン、銅およびヨウ素を、それらを含有させたそれぞれの溶液(薬液)中に安定に存在させることができ、輸液製剤全体としての加熱安定性、長期保存安定性などに優れている。
また、糖溶液を収容した室およびアミノ酸溶液を収容した室とは別の室にヨウ素を含有する液を収容し、更に微量金属元素(亜鉛とマンガンおよび/または銅)を含有する液を更に別の室に収容する従来の輸液製剤では輸液用容器は最低でも4つの室を有している必要があるが、本発明の輸液製剤では、第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方にヨウ素を含有させ、もう一方の溶液に微量金属元素(亜鉛とマンガンおよび/または銅)を含有させるか、第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方にヨウ素または微量金属元素(亜鉛とマンガンおよび/または銅)を含有させ、第3室中に微量金属元素(亜鉛とマンガンおよび/または銅)またはヨウ素を含有させているため、輸液用容器における室の数を上記した従来のものよりも1個または2個減らすことができ、従来のものよりも薬液(溶液)を収容する室の数が少なくてすみ、輸液製剤(輸液入り容器)の構成が簡単になる。
本発明では、上記した(i)〜(vii)の態様のうちでも、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液または第3室中の溶液(ビタミン類含有液など)にヨウ素を含有させる上記した(i)、(iii)または(v)の態様が、安定な製剤の製造の容易性の点から好ましく採用される。
具体的には、例えば、複数の室が弱シール部により連通可能に区画され、輸液用容器の一室を外部より押圧することにより弱シール部のシール解除が生じて当該一つの室が隣接する他の室と連通、さらに当該他の室に隣接する室とも連通する輸液用容器が好適な例として挙げられる。また、輸液用容器を複数の室に区画する隔壁に破断可能な流路閉塞体が設けられている構造のものなども挙げられる。さらに、弱シール部により連通可能に区画された複数の室を有する輸液用容器の本体(輸液バッグなど)の一部に別の薬液容器(例えば筒状容器など)を用事連通可能に取り付けた輸液用容器などを用いることもできる。
また、容器本体は、前記したプラスチックおよび/またはエラストマーの1種よりなる単層構造であってもよいし、前記したポリマーからなる複数のポリマー層を有する積層構造であってもよいし、或いはそれらに更にポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンなどのガスバリア性の層を積層したものであってもよい。
図1において、Aは輸液用容器、1は輸液用容器の各室に溶液(薬液)を収容して得られる輸液製剤(輸液入り容器)を懸垂するための懸垂孔、2aおよび2bは弱シール性の隔壁を示す。
図1の輸液入り容器は、隔壁2aおよび2bによって3室(3a,3b,3c)に区画されているが、4室以上に区画されていてもよい。
弱シール性の隔壁で区画された輸液用容器の各室に溶液(薬液)を収容して得られる輸液製剤(輸液入りの容器)では、溶液(薬液)を充填してある容器のいずれかの室に対して外部から押圧などの応力をかけることによって、隔壁を形成している弱シール部でシールが解除して各室間の連通がなされて、輸液用容器の各室に収容されている複数の溶液(薬液)を容器内で簡単に且つ衛生的に混合することができる。
容器内で混合した混合液(輸液)は、図1の下端の取出口4から取り出されて、例えば患者への注入のための輸液セットなどへと導かれる。
また、本発明の輸液製剤(輸液入り容器)における前記した弱シール部2は、輸液バッグなどにおいて弱シール部(イージーピール部)の形成に従来から採用されているいずれの方式によって形成してもよく、例えば強シールが必要とされるバッグ周縁よりも弱めに弱シール部形成領域をヒートシールする方法、シート内面の弱シール部形成領域をバッグ周縁に比べて剥離し易い(イージーピール性)材料から形成する方法などを採用することができる。
図1では、1つの輸液バッグを、弱シール性の隔壁2aで上下に区画し、上方の室を弱シール性の隔壁2bで更に3bと3cの室に区画してあるが、第1室、第2室および第3室の位置関係、すなわち糖液を収容した室、アミノ酸溶液を収容した室、ビタミンなどのその他の溶液を収容した第3室の位置関係(上下や左右の位置関係など)は特に制限されず、各々の状況に応じて適宜決めることができる。
さらに、本発明の輸液製剤(容器入り輸液)の形状および構造が図1に示す3室に区画されたものに限定されないことは上記したとおりである。
本発明の輸液製剤では、輸液製剤における複数の室に収容されている溶液(薬液)の全てを混合した混合液(輸液)中に、亜鉛(元素状亜鉛として)が約2〜300μmol/L、好ましくは約5〜150μmol/Lの量で含まれるように配合することが好ましい。
マンガンの供給源としては、例えば塩化マンガン、硫酸マンガンなどが挙げられる。
本発明の輸液製剤では、輸液製剤における複数の室に収容されている溶液(薬液)の全てを混合した混合液(輸液)中に、マンガン(元素状マンガンとして)、約0〜10μmol/L、好ましくは約0.1〜5μmol/Lの量で含まれるように配合することが好ましい。
銅の供給源としては、例えば硫酸銅などが挙げられる。
本発明の輸液製剤では、輸液製剤における複数の室に収容されている溶液(薬液)の全てを混合した混合液(輸液)中に、銅(元素状銅として)が約0〜40μmol/L、好ましくは約0.5〜20μmol/Lの量で含まれるように配合することが好ましい。
ヨウ素の供給源としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどが挙げられる。
本発明の輸液製剤では、輸液製剤における複数の室に収容されている溶液(薬液)の全てを混合した混合液(輸液)中に、ヨウ素(元素状ヨウ素として)約0.1〜10μmol/L、好ましくは約0.1〜5μmol/Lの量で含まれるように配合することが好ましい。
本発明の輸液製剤は、微量金属元素として、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素以外の他の微量っ元素(例えば、セレン、モリブデン、クロム、フッ素、コバルトなど)を含有させてもよいが、他の微量金属元素を含有させる場合にも、亜鉛、マンガンおよび銅と同様に、ヨウ素を含有しない溶液中に含有させることが好ましい。
糖溶液のpH調節剤は、医薬品添加物として使用できるものであれば制限を受けない。当該pH調節剤としては、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸およびそれらの化合物やアジピン酸、塩酸、グルコン酸、コハク酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、マレイン酸、リンゴ酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
アミノ酸溶液におけるアミノ酸の含有量は、投与経路などの使用目的に応じて適宜決定できるが、本発明の輸液製剤における複数の室に分離して収容されている全ての溶液を混合した後の混合液(輸液)中のアミノ酸濃度が1〜10w/v%となる量であることが好ましく、1〜6w/v%となる量であることがより好ましい。
アミノ酸溶液のpH調節剤は、医薬品添加物として使用できるものであれば制限を受けない。当該pH調節剤としては、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸およびそれらの化合物やアジピン酸、塩酸、グルコン酸、コハク酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、マレイン酸、リンゴ酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
また、アミノ酸溶液には、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩を安定化剤として添加してもよい。
なお、カルシウム塩とリン酸塩の電解質を配合するにあたっては、液のpHが高いと両塩による沈殿を生じることがあるために、両塩をpHの低い糖液に配合するか、それぞれ分離して配合することが好ましく、例えば、カルシウム塩を糖液に配合した場合はリン酸塩をアミノ酸液に配合し、リン酸塩を糖液に配合した場合はカルシウム塩をアミノ酸液に配合することが好ましい。さらに、マグネシウム塩もリン酸塩との沈殿形成することがあるので、カルシウム塩と同様にマグネシウム塩とリン酸塩を分離して配合することが好ましい。カルシウム塩とマグネシウム塩を配合する場合は、カルシウム塩とマグネシウム塩を同じ液に配合し、リン酸塩を別の液に配合することが好ましい。
より具体的には、ビタミンAとしては、例えば、パルミチン酸エステル、酢酸エステルなどのエステル形態を挙げることができる。ビタミンDとしては、例えば、ビタミンD1、ビタミンD2、ビタミンD3(コレカルシフェロール)およびそれらの活性型(ヒドロキシ誘導体)を挙げることができる。ビタミンE(トコフェロール)としては、例えば、酢酸エステル、コハク酸エステルなどのエステル形態を挙げることができる。ビタミンK(フィトナジオン)としては、例えば、フィトナジオン、メナテトレノン、メナジオンなどの誘導体を挙げることができる。ビタミンB1としては、例えば、塩酸チアミン、プロスルチアミンまたはオクトチアミンなどを挙げることができる。ビタミンB2としては、例えば、リン酸エステル、そのナトリウム塩、フラビンモノヌクレオチドまたはフラビンアデニンジヌクレオチドなどを挙げることができる。ビタミンCとしては、例えば、アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムなどを挙げることができる。パントテン酸類としては、遊離体に加え、カルシウム塩や還元体であるパンテノールの形態などを挙げることができる。ビタミンB6としては、例えば、塩酸ピリドキシンなどの塩の形態などを挙げることができる。ニコチン酸類としては、例えば、ニコチン酸またはニコチン酸アミドなどを挙げることができる。ビタミンB12としては、例えば、シアノコバラミンなどを挙げることができる。
一般的には、水溶性のビタミンは糖溶液および/またはアミノ酸溶液に配合し、第3室中に脂溶性ビタミンの含有液を収容することが好ましい。
ビタミンの配合に当たっては、禁忌の関係にあるビタミン同士を別の液中に分離して配合することが望ましい。
前記した酸素非透過性の膜材としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルムなどを中間層として有する3層ラミネートフィルム(例えば、外層がポリエステルフィルム、延伸ナイロンフィルム、延伸ポリプロピレンフィルムなどからなり、内層が未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルムなど)、アルミニウム層を含むラミネートフィルム(例えば、ポリエステルフィルム−アルミニウム層−未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルムなど)、無機質蒸着フィルムを含むラミネートフィルム(例えば、ポリエステルフィルム−ケイ素蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、延伸ナイロンフィルム−ケイ素蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム−アルミニウム蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、アルミナ蒸着ポリエステルフィルム−ポリ塩化ビニリデンフィルム−未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルムなど)などを挙げることができる。
前記した脱酸素剤を本発明の輸液製剤と外包装との間の空間に収容する代りに、本発明の輸液製剤で用いている容器を、前記した脱酸素剤を配合した耐熱性軟質合成樹脂から形成してもよいし、外包材の酸素非透過層(ポリビニルアルコールフィルム、アルミニウム層、無機蒸着フィルム)より内層側の層に脱酸素剤を配合してもよい。
また、別法として、本発明の輸液製剤を真空包装してもよいし、または輸液製剤と外包材との空間に不活性ガス(例えばチッ素ガス、アルゴンガス、炭酸ガスなど)を充填して包装してよい。
さらに、本発明の輸液製剤は、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症性疾患や、悪性腫瘍などの慢性疾患が原因で体内での貯蔵鉄量が増加していて血清フェリチン濃度が250ng/mL以上になっており、その一方で総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に経静脈高カロリー輸液療法を施す際の輸液製剤として好ましく用いられる。
ここで、本明細書における「血清フェリチン濃度」は化学発光免疫測定法またはラテックス凝集法で測定される血清フェリチン濃度をいう。
また、本明細書における「総鉄結合能(TIBC)」は比色法または競合性蛋白結合分析法(CPBA)で測定される総鉄結合能(TIBC)をいう。
さらに、本明細書における「血清鉄濃度」は、比色法で測定される血清鉄濃度をいう。
《実施例1》
(1) 700mL中、下記の表1に示す成分組成を有する、亜鉛、マンガンおよび銅を含有する糖溶液(ブドウ糖含有溶液)を調製した。なお、当該糖溶液は、希塩酸とコハク酸を適量添加してpH4.5に調整した。
(2) 300mL中、下記の表2に示す成分組成を有する、ヨウ素を含有するアミノ酸溶液を調製した。なお、当該アミノ酸溶液は、クエン酸とコハク酸を適量添加してpH6.5に調整した。
(3) 3mL中、下記の表3に示す成分組成を有する脂溶性ビタミン含有液を調製した。なお、当該脂溶性ビタミン含有液は、クエン酸と水酸化ナトリウムを適量添加してpH6.0に調整した。
(4) 図1に示す、弱シール性の隔壁(2a,2b)によって3つの室に仕切られたポリプロピレン製の輸液用容器Aを準備し、その一室である第1室(3a)に上記(1)で調製した亜鉛、マンガンおよび銅を含有する糖溶液を700mL充填し、別の一室である第2室(3b)に上記(2)で調製したヨウ素を含有するアミノ酸溶液を300mL充填し、さらに別の一室である第3室(3)に上記(3)で調製した脂溶性ビタミン含有液を3mL充填して、図1に示す輸液製剤(輸液入りバッグ)Aを製造した。
(5) 上記(4)で得られた輸液製剤(輸液入りバッグ)Aを、常法に従い高圧蒸気滅菌した。
(6) 上記(5)で得られた輸液製剤(輸液入りバッグ)Aを、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装した。
(1) 700mL中、下記の表1に示す成分組成を有する、亜鉛、マンガンおよび銅を含有する糖溶液(ブドウ糖含有溶液)を調製した。なお、当該糖溶液は、希塩酸とコハク酸を適量添加してpH4.5に調整した。
(2) 300mL中、下記の表2に示す成分組成を有するアミノ酸溶液を調製した。なお、当該アミノ酸溶液は、クエン酸とコハク酸を適量添加してpH6.5となるように調整した。
(3) 3mL中、下記の表3に示す成分組成を有する、ヨウ素を含有する脂溶性ビタミン含有液を調製した。なお、当該脂溶性ビタミン含有液は、クエン酸と水酸化ナトリウムを適量添加してpH6.0に調整した。
(4) 図1に示す、弱シール性の隔壁(2a,2b)によって3つの室に仕切られたポリプロピレン製の輸液用容器Aを準備し、その一室である第1室(3a)に上記(1)で調製した亜鉛、マンガンおよび銅を含有する糖溶液を700mL充填し、別の一室である第2室(3b)に上記(2)で調製したアミノ酸溶液を300mL充填し、さらに別の一室である第3室(3)に上記(3)で調製したヨウ素を含有する脂溶性ビタミン含有液を3mL充填して、図1に示す輸液製剤(輸液入りバッグ)Bを製造した。
(5) 上記(4)で得られた輸液製剤(輸液入りバッグ)Bを、常法に従い高圧蒸気滅菌した。
(6) 上記(5)で得られた輸液製剤(輸液入りバッグ)Bを、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装した。
上記の実施例1および2で得られた輸液製剤について、製造直後および60℃/75%RHで2週間保存したときの、第1室に収容されている糖溶液に含まれる亜鉛、マンガンおよび銅の含有量(実施例1および2)、第2室に収容されているアミノ酸溶液の含まれるヨウ素(実施例1)または第3室に収容されている脂溶性ビタミン含有液に含まれるヨウ素(実施例2)の含有量を測定し、60℃/75%RHで2週間保存したときの各微量元素の残存率を算出したところ、下記の表4に示すとおりであった。
液中の亜鉛、マンガンおよび銅は誘導結合プラズマ発光強度測定法、ヨウ素は液体クロマトグラフィーによって測定した。
なお、下記の表4の残存率は、製造直後の含有量を残存率100%として求めたものである。
1 輸液用容器Aの各室に溶液(薬液)を収容してなる輸液製剤(輸液入り容器)を懸垂するための懸垂孔
2a 弱シール性の隔壁
2b 弱シール性の隔壁
3a 区画された室
3b 区画された室
3c 区画された室
4 輸液製剤(混合液)の取出口
Claims (8)
- 連通可能に仕切られた複数の室を有する輸液用容器のそれぞれの室に、複数の溶液を互いに分離して収容した輸液製剤であって、
(a)第1室に糖溶液を収容し、第2室にアミノ酸溶液を収容し;
(b)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方または両方が、亜鉛を含有し;
(c)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛を含有している溶液が、マンガンおよび銅のいずれか一方または両方を更に含有し;
(d)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有していない方の溶液がヨウ素を含有するか、または第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しており;且つ、
(e)複数の室に互いに分離して収容した複数の溶液のいずれもが、鉄を含有していない;
ことを特徴とする輸液製剤。 - 《1》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有しているか;
《2》第1室中の糖溶液がヨウ素を含有し、第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有しているか;
《3》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しているか;
《4》第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しているか;或いは、
《5》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液も亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している;
ことを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤。 - 第1室中の糖溶液が亜鉛、マンガンおよび銅を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有している請求項1または2に記載の輸液製剤。
- 第1室中の糖溶液が亜鉛、マンガンおよび銅を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している請求項1または2に記載の輸液製剤。
- 第1室中の糖溶液、第2室中のアミノ酸溶液および第3室中の溶液のうちのいずれか1つまたは2つ以上がビタミンを含有している請求項1〜4のいずれか1項に記載の輸液製剤。
- 貯蔵鉄量の増加を回避する必要のある、経口および経腸による栄養補給が不能で高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない患者用である請求項1〜5のいずれかに記載の輸液製剤。
- 血清フェリチン濃度が250ng/mL以上の患者に投与するためのものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の輸液製剤。
- 総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に投与するためのものである請求項6または7に記載の輸液製剤。
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