以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、以下の説明では、固体還元炉として回転炉床炉を例にとって本発明の実施形態に係る塊成化物の加熱方法について説明するが、本発明に係る塊成化物の加熱方法は、流動床炉やシャフト炉等の他の固体還元炉に対しても利用可能である。
<還元鉄の製造工程について>
本発明の実施形態に係る塊成化物の加熱方法について説明するに先立ち、まず、図1を参照しながら、還元鉄の製造工程について、詳細に説明する。図1は、還元鉄の製造工程を説明するための説明図である。
まず、製鉄ダスト(酸化鉄粉)及び鉄鉱石などの酸化鉄原料と、石炭、コークス、微粒カーボン等の還元材とは、予めホッパー11等に格納されている。酸化鉄原料及び還元材は、予め設定された配合比となるように配合されて、粉砕機13に装入される。
ボールミル等の振動ミルに代表される粉砕機13は、装入された酸化鉄原料及び還元材を、混合しながら所定の粒径まで粉砕する。粉砕後の酸化鉄原料及び還元材の粒径は、還元鉄の製造に用いられる回転炉床炉、流動床炉、シャフト炉等の固体還元炉に適した値とすることができる。粉砕後の酸化鉄原料及び還元材からなる混合物は、混練機15に運搬される。
混練機15は、粉砕機13により所定の粒径に粉砕された混合物を混練する。また、混練機15は、混合物の混練に際して、還元鉄の製造に用いる固体還元炉に適した水分量となるまで混合物に加水を行う調湿処理を施してもよい。混練機15の一例として、例えば、ミックスマーラー等を挙げることができる。混練機15によって混練された混合物は、成型機17に搬送される。
パンペレタイザー(皿型造粒機)、ダブルロール圧縮機(ブリケット製造機)、押し出し成型機等の成型機17は、酸化鉄原料及び還元材を含む混合物を成型し、例えばペレットのような塊成化物とする。ここで、塊成化物とは、ペレット、ブリケット、押し出し成型して裁断した成型品、粒度調整された塊状物等の粒状物・塊状物をいう。成型機17は、後述する乾燥・加熱還元後、例えば熱間にて溶解炉23に装入する際、炉内上昇ガス流で飛散しない程度の粒径以上の大きさとなるように、上記混合物を塊成化する。生成された塊成化物は、乾燥機19へと装入される。
乾燥機19は、塊成化物を乾燥して、後述する加熱還元工程に適した水分含有率(換言すれば、還元鉄の製造に用いる固体還元炉ごとに適した水分含有率:例えば、1%以下)となるようにする。所定の水分含有率となった塊成化物は、後述する固体還元炉21へと搬送される。
例えば回転炉床炉(Rotary Hearth Furnace:RHF)、流動床炉、シャフト炉等のような固体還元炉21は、装入された塊成化物を、LNGバーナーやCOGバーナー等の加熱雰囲気で加熱および還元し、還元鉄とする。固体還元炉は、塊成化物を例えば1000〜1300℃程度まで加熱して塊成化物の還元処理を行い、還元鉄を製造する。
<回転炉床炉について>
続いて、図2および図3を参照しながら、還元鉄の製造方法で用いられる固体還元炉の一例である回転炉床炉について、詳細に説明する。図2は、一般的な回転炉床炉について説明するための説明図であり、図3は、ブリケットの還元について説明するための説明図である。
まず、図2を参照しながら、回転炉床炉21の内部構造について説明する。
回転炉床炉21は、例えば図2上段に示したように略円柱状の形状を有しており、例えば回転炉床炉21の上面等に設けられた装入口から塊成化物が装入される。装入された塊成化物は、炉内を周方向に沿って移動しながら加熱・還元されて還元鉄となり、炉内から取り出される。
回転炉床炉21を周方向に沿って展開した場合の模式図を、図2下段に示す。
回転炉床炉21の内部には、回転炉床炉21内を周方向に沿って移動可能な回転炉床25が設けられている。装入口27から装入されたブリケットBは、回転炉床25上に展開される。ブリケットBは、熱間レベラー29によって平坦にならされ、炉内を回転炉床25の移動に伴って移動していく。ブリケットBは、移動の過程で、炉壁又は炉上のバーナー31によって生じた高温燃焼ガスの輻射熱により加熱され、ブリケットB中の還元材により酸化鉄原料が還元される。還元された酸化鉄原料である還元鉄は、ディスチャージャー33により回転炉床炉21の内部から払い出されることとなる。
図3に示したように、回転炉床炉21内を移動するブリケットBは、高温燃焼ガスの輻射熱によりブリケットBの外側から内部に向かって温度が上昇していき、ブリケットの還元反応は、ブリケットの外周から中心部に向かって進行する。この際、ブリケットBの内部では、図3に示したような反応が進行している。これらの反応の結果、ブリケット中に含まれる酸化鉄成分(FeOやFe2O3等)は、ブリケット中に含まれる還元材(炭素C)により還元され、還元鉄(Fe)となる。
ここで、回転炉床炉21の内部は、図2下段に示したように、3つのゾーンに区分することができる。これらの区分は便宜的なものであって、実際の回転炉床炉21の内部に、図に示したような区分けがされているわけではない。
ブリケットの装入口27の近傍に位置する第1のゾーンおよび第1のゾーンに隣接するゾーンである第2のゾーンは、回転炉床炉21に装入されたブリケットBの昇温を主目的とするゾーンである。また、第2のゾーンに連続する第3のゾーンは、ブリケットBの還元を主目的とするゾーンである。ここで、第1のゾーンおよび第2のゾーンを総称して、加熱・還元の最初期と称することとし、第3のゾーンを還元期と称することとする。
バーナー31によって生じた高温燃焼ガスにより、加熱・還元の最初期における塊成化物の温度は、1200℃程度まで昇温し、還元期以降は、1200〜1300℃程度を保持することとなる。
(第1の実施形態)
<塊成化物の加熱方法について>
以上説明したような、一般的な回転炉床炉等の固体還元炉を用いた還元鉄の製造技術を基盤技術として、以下で説明する本発明の第1の実施形態に係る塊成化物の加熱方法では、固体還元炉内で塊成化物を加熱・還元する際に、バーナーによる加熱に加えて、マイクロ波による加熱を利用する。
[マイクロ波について]
以下では、まず、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法に用いられるマイクロ波について、簡単に説明する。
マイクロ波は、一般的には、波長1mm〜1m、周波数300MHz〜300GHzの電磁波をいう。しかしながら、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法で着目しているように、マイクロ波を加熱手段として用いる(いわゆるマイクロ波加熱を行う)場合には、マイクロ波とは、いわゆるISM(Industry−Science−Medical)バンドに属する周波数帯域の電磁波を指す。
マイクロ波が誘電損失により物質に吸収されると、マイクロ波のエネルギーは熱に変換されて、結果的にマイクロ波を吸収した物質が加熱されることとなる。この際、マイクロ波がどのくらいまで物質の内部に浸透するかは、以下の式11で算出することが可能である。
ここで、上記式11において、
δ :マイクロ波の浸透深さ [cm]
λ :マイクロ波の波長 [cm]
ε’ :物質の比誘電率(実部)
tan δ:物質の誘電正接
である。
本発明者らの実験の結果によると、実際のマイクロ波加熱においては、上記式11で求めた浸透深さδの3倍程度の深さまで、マイクロ波の作用によって物質が加熱される。従って、塊成化物は、その外径に相当する大きさ、又は、中心部の厚みのいずれか小さい方のサイズが、式11で記載されるマイクロ波の浸透深さδの6倍以内であれば、塊成化物の内部までマイクロ波の加熱効果を作用させることが可能で、マイクロ波を利用することで、バーナーや炉壁からの輻射熱の伝熱に頼ることなく、塊成化物の外部及び内部を同時に加熱することが可能となる。
また、先に説明したように、塊成化物は、回転炉床炉等の固体還元炉内において層状に積層されることが多く、積層された塊成化物と塊成化物との間には間隙が存在する。一方で、電磁波には、電磁波の回り込み作用があるため、バーナーや炉壁の輻射を直接受けることができない塊成化物の層の下面部についても、マイクロ波を用いることで加熱することが可能となる。
このように、マイクロ波を用いた加熱方法は、遠隔作用で物質にエネルギーを供給することが可能であるため、面積の大きな固体還元炉であっても、比較的簡単な装置構成で、炉内に装入された原料である塊成化物に対して効率良くエネルギーを供給することが可能である。
また、物質に吸収される単位体積あたりのマイクロ波のエネルギーPabsは、以下の式12のように表される。以下の式12を参照するとわかるように、加熱される物質(被加熱物質)に吸収される単位体積あたりのマイクロ波のエネルギーPabsは、被加熱物質の導電率、誘電率及び透磁率に依存していることがわかる。従って、下記式12で表されるPabsは、被加熱物質のマイクロ波の吸収効率に関係する量であるともいえる。
ここで、上記式12において、
σ :被加熱物質の導電率 [S/m]
f :マイクロ波の周波数 [Hz]
ε0:真空中の誘電率 [F/m]
ε”:被加熱物質の比誘電率の虚数部
μ0:真空中の透磁率 [H/m]
μ”:被加熱物質の比透磁率の虚数部
E :マイクロ波により形成される電界強度 [V/m]
H :マイクロ波により形成される磁界強度 [A/m]
π :円周率
である。
以下に、塊成化物の原料となる酸化鉄及び炭素材(還元材)と、一般的に使用される耐火炉材とについて、比誘電率の虚数部ε”の値をまとめて示す。
比誘電率の虚数部ε”
・代表的な耐火炉材であるアルミナ:0.004〜0.01
・粉状の炭素粉:10〜50
・酸化鉄:1〜10
上記より明らかなように、塊成化物の原料となる酸化鉄及び炭素材は、一般的に使用される耐火炉材に対して比誘電率の虚数部ε”の値が大きく、酸化物及び炭素材(還元材)にマイクロ波のエネルギーをより多く吸収させることが可能である。また、酸化鉄及び炭素粉の値に比べ、代表的な耐火炉材であるアルミナの値は、1000分の1程度の小さな値となっており、耐火炉材は、マイクロ波のエネルギーを多く吸収しないことがわかる。従って、固体還元炉中でマイクロ波を照射した場合、耐火炉材で被覆されている炉壁等へのエネルギー供給は少なく、炉内温度の上昇を抑制したまま原料である塊成化物の温度のみを、効率よく上昇させることが可能である。
[塊成化物の加熱方法について]
続いて、図4〜図6を参照しながら、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法について、詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法に利用される回転炉床炉を模式的に示した説明図である。また、図5及び図6は、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法を説明するための説明図である。
本実施形態に係る塊成化物の加熱方法では、図4に示したように、マイクロ波発振装置101を利用して、バーナーによる加熱が行われている回転炉床炉等の固体還元炉の炉内に存在する塊成化物に対して、所定のマイクロ波出力を有するマイクロ波を照射する。この際、マイクロ波発振装置101で発振されたマイクロ波は、任意の形状を有する導波管103によって、固体還元炉21まで導かれる。
導波管103と固体還元炉21との接続部分には、セラミック板105が設けられている。このセラミック板105は、マイクロ波発振装置101及び導波管103を熱や粉塵から保護する役割を有している。また、かかるセラミック板105として、マイクロ波の吸収の少ない物質からなるセラミック板を利用することが好ましい。このようなセラミック板として、例えば、MgOセラミック板を挙げることができる。
また、炉内へと導波されたマイクロ波を効率よく塊成化物へ照射させるために、炉内には、仕切り板107が設けられている。
上記式12から明らかなように、マイクロ波による物質の加熱において物質に吸収されるマイクロ波のエネルギーは、マイクロ波により形成される物質周辺の電界強度あるいは磁界強度の2乗に比例する。従って、マイクロ波加熱においては、なるべく狭い空間にマイクロ波を閉じ込めて、物質周辺の電界強度や磁界強度を大きくすることが望ましい。そこで、回転炉床炉等の固体還元炉21においてマイクロ波加熱を実施する場合、マイクロ波による電界及び磁界強度を高くするために、図4に示したように、回転炉床炉の内部にマイクロ波を反射する仕切り板107を設け、回転炉床炉のある決まった範囲(ゾーン)に限定してマイクロ波を照射することが好ましい。
このような仕切り板107を設けることで、炉内の塊成化物は、仕切り板107で挟まれた特定のゾーンにおいて、マイクロ波による加熱を受けることとなる。換言すれば、炉内の塊成化物は、マイクロ波を重畳した炉の範囲(ゾーン)を通過する、ある決まった時間で、マイクロ波による加熱を受けることとなる。
回転炉床炉に設置するマイクロ波を反射する仕切り板107としては、特に限定されるものではないが、例えば、内部に水冷構造を持つ金属板の表面を耐火物で覆った構造のものを利用することが可能である。
以上説明したように、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法では、マイクロ波による加熱を、原料である塊成化物の加熱ムラ(ひいては、還元ムラ)を解消するための補助加熱源として利用しているといえる。
なお、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法では、原料として用いられる塊成化物中の酸化鉄原料と還元材との配合比は特に限定されるわけではなく、還元鉄の製造プロセスにおいて一般的に行われる配合比を適用して製造された塊成化物を利用可能である。
本実施形態に係る塊成化物の加熱方法では、所定の炉内雰囲気温度となっている固体還元炉21に装入された塊成化物(例えば、ブリケット)を、まず、固体還元炉21に設けられたバーナー31及び炉壁からの輻射熱により加熱する。その後、塊成化物が所定の温度となった位置で、固体還元炉21に設けられたマイクロ波発振装置101により、以下の式101を満たすマイクロ波出力を有するマイクロ波を、以下の式101を満たす照射時間で塊成化物に対して照射する。このようなマイクロ波を照射することにより、炉内に存在する塊成化物を、炉内雰囲気温度Tf(℃)に対してTf±X(℃)の範囲となるまで加熱する。
P×A×t2=(Tf−X−Tb)×Cb×Wb ・・・(式101)
ここで、上記式101において、
P :マイクロ波出力 [W]
A :塊成化物のマイクロ波エネルギーの吸収効率
Tf:固体還元炉の炉内雰囲気温度 [℃]
X :塊成化物温度の許容幅 [℃]
Tb:マイクロ波照射前の塊成化物の温度 [℃]
Cb:塊成化物の比熱 [J/g・K]
Wb:マイクロ波照射範囲内にある塊成化物の総質量 [g]
t2:マイクロ波照射範囲を塊成化物が通過する時間(=マイクロ波の照射時間) [s]
である。
上記式101において、炉内雰囲気温度Tf及びマイクロ波照射前の塊成化物の温度Tbは、熱電対や放射温度計等の各種の温度測定手段により実測してもよいし、操業における設定値を利用してもよいし、過去の操業データ等から各種の方法を利用して推測した値を利用してもよい。また、塊成化物の比熱Cbは、操業に使用する塊成化物に対して事前の測定を行うことで決定してもよく、各種の文献等に記載されている値を使用してもよい。
また、マイクロ波照射範囲内にある塊成化物の総質量Wbは、操業における設定値や実測値から算出した値であってもよく、過去の操業データ等から各種の方法を利用して推測した値であってもよい。また、マイクロ波照射範囲を塊成化物が通過する時間t2については、回転炉床炉等の固体還元炉21の装置サイズや仕切り板107の設置位置等の設置条件と、回転炉床の炉床進行速度と、に基づいて算出することが可能である。
続いて、塊成化物温度の許容幅Xについて説明する。
図3に示した塊成化物の還元反応は、一般的に塊成化物が800℃程度になると開始され、塊成化物の温度が1100℃〜1200℃以上になると還元反応が促進され、短時間での還元が進行する。従って、マイクロ波の照射終了時に塊成化物が上記温度範囲に到達していると、還元反応が促進された温度条件に塊成化物が保持される時間が長くなり、高い金属化率を得ることが容易となる。ここで、固体還元炉21の一例である回転炉床炉は1200℃〜1300℃にて使用されることが多い。従って、塊成化物の温度の下限値は、炉内雰囲気温度−100℃程度であることが好ましい。
また、前述のとおり、塊成化物の温度を上げすぎると、塊成化物の鉄酸化物中の未還元FeOが鉄酸化物中の脈石成分や炭素質物質中の灰分と反応して低融点化合物を形成し、かかる低融点化合物が溶融して操業を困難にするという問題がある。一般的に、塊成化物を1400℃以上に加熱すると、低融点化合物の溶融が顕著になる。従って、塊成化物の温度の上限値は、炉内雰囲気温度+100℃程度であることが好ましい。
以上説明したように、塊成化物温度の許容幅Xは、−100℃〜100℃程度とすることが好ましい。
また、塊成化物のマイクロ波エネルギーの吸収効率Aは、マイクロ波を吸収しない金属チャンバー内部に塊成化物を設置してマイクロ波単独照射での加熱実験を行うことで、実験的に算出することが可能である。
具体的には、加熱効率Aは、マイクロ波によって塊成化物に供給された熱量Qm(J)と、塊成化物の温度上昇から求めた塊成化物が吸収した熱量Qb(J)との比によって求めることが可能である。
すなわち、マイクロ波照射中にチャンバー内に入射したマイクロ波出力Pinとチャンバーから反射して戻ってきたマイクロ波出力Prefとの差分を求めることで、チャンバー内部に正味に入射したマイクロ波出力ΔP(=Pin−Pref)を算出可能である。また、算出したマイクロ波出力ΔPとマイクロ波の照射時間t(s)とを用いて、塊成化物に供給されたマイクロ波の熱量Qm=ΔP×t(J)を算出できる。他方、マイクロ波照射前後の塊成化物の温度上昇ΔT(℃)と塊成化物の比熱Cb(J/gK)と、加熱された塊成化物の総質量Wb(g)とを利用することで、塊成化物が受け取った熱量(エネルギー)Qb=ΔT×Cb×Wb(J)を算出可能である。算出したこれらの値を利用することで、加熱効率A=Qb/Qmを算出することができる。
また、一般的に、加熱効率Aは塊成化物の温度に依存する係数であるため、上記実験においては、塊成化物の温度が回転炉床炉等の固体還元炉におけるマイクロ波の照射温度とおおむね等しい温度範囲にある時に求めることが望ましい。
上記式101で表されるマイクロ波出力を有するマイクロ波を照射する位置は、炉内で原料である塊成化物がある程度加熱されて塊成化物の温度と炉内雰囲気温度との差が少なくなり、塊成化物の昇温速度が低下してきた部位とすることが好ましい。このような部位で、上述のようなマイクロ波出力を有するマイクロ波を照射することで、塊成化物を炉内雰囲気温度近傍まで急速に補助加熱することが可能となる。また、原料である塊成化物が炉内雰囲気温度まで上昇すれば、その後温度は保持されることとなるため、結果的に、還元進行に必要な温度帯での保持時間を長くすることができ、塊成化物の還元率を向上させることができる。
このように、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法では、加熱ムラの低減を図るだけでなく、結果的に、還元進行に必要な温度帯での保持時間を長期化することが可能となる。そのため、加熱ムラの低減による還元率の向上、及び、保持時間の長期化による還元率の向上という2つの側面から、還元率の向上を図ることが可能となる。
ここで、マイクロ波の照射を開始する位置は、塊成化物の温度が炉内雰囲気温度の80%以上となった位置とすることが好ましい。原料である塊成化物の昇温は、近似的に1次遅れ応答である。従って、塊成化物の温度上昇は、最終到達温度の80%に到達する時間をt80とし、最終到達温度に到達する時間をtfとすると、tf/t80=2.9倍の時間が必要である。従って、塊成化物の昇温速度が低下する温度80%到達時以降にマイクロ波を用いて塊成化物を昇温することで、マイクロ波により昇温される温度分が少なく、マイクロ波発振装置が小型で済み、かつ、マイクロ波を用いた急速昇温による加熱時間短縮に起因する還元温度保持効果が大きくなる。
なお、加熱に利用するマイクロ波の周波数は、ISMバンドで認められている周波数であれば特に限定されず、例えば、2.45GHz帯(2.40GHz〜2.50GHz)や915MHz帯(902MHz〜928MHz)に属する周波数等を適宜選択することが可能である。ここで、式11に示したマイクロ波の浸透深さを考慮すると、より低い周波数帯(例えば、f=915MHz帯)のマイクロ波を用いることにより、より大きなサイズの塊成化物であっても、その内部までマイクロ波を更に浸透させることが可能となり、加熱ムラの低減を更に図ることが可能となる。
図5は、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法における塊成化物の温度上昇の様子を模式的に示したグラフ図である。図5の横軸は、還元炉内での位置(炉床位置)であり、縦軸は、塊成化物の温度である。
図5に示したように、回転炉床炉等の固体還元炉21に装入されたブリケット等の塊成化物は、炉内に設けられたバーナーや炉壁からの輻射熱により、その温度が上昇していく。本実施形態に係る塊成化物の加熱方法では、例えば、塊成化物の温度が炉内雰囲気温度Tfの80%となった位置、すなわち、図5における位置A、から、式101で表されるマイクロ波出力を有するマイクロ波の照射を開始する。これにより、塊成化物の温度は、輻射熱による加熱時に比べて急速に上昇することとなり、例えば図5における位置Bにおいて、炉内雰囲気温度Tfに到達することが可能となる。
ここで、バーナーや炉壁からの輻射熱のみを利用して塊成化物が炉内雰囲気温度Tfに到達する位置が、図5における位置Cであったとする。かかる場合、本実施形態に係る加熱方法のように輻射熱による加熱とマイクロ波による加熱とを併用することで、図5における区間BCの分だけ、還元進行に必要な温度帯での保持時間を長くすることができることとなる。
続いて、図6を参照しながら、電磁波シミュレーションを用いたマイクロ波の吸収効率に関する考察結果について、簡単に説明する。図6は、電磁波シミュレーションを用いて塊成化物の構造に応じてマイクロ波の吸収効率がどのように変化するかを算出した結果を示したグラフ図である。
図6に結果は、塊成化物の単位粒子が、以下に示す(A)〜(D)の4種類のような構造を有しているものとして、かかる単位粒子計8個がマイクロ波のエネルギーをどの程度吸収するかを電磁波シミュレーションにより算出した。
(A)単位粒子が、酸化鉄原料の主成分の一つであるFe2O3の単体で構成される
(B)単位粒子が、炭素の単体で構成される
(C)単位粒子が、内側にFe2O3が位置し、外側に炭素が位置する2層構造となっている
(D)単位粒子が、外側にFe2O3が位置し、内側に炭素が位置する2層構造となっている
図6の最左端に位置する結果は、上記(A)の構造を有する単位粒子8個が吸収するマイクロ波のエネルギーであり、図6の左から2番目の結果は、上記(B)の構造を有する単位粒子8個が吸収するエネルギーである。また、図6の左から3番目の結果は、上記(A)の構造を有する単位粒子と、上記(B)の構造を有する単位粒子とが各4個ずつ存在する場合に、これら粒子に吸収されるマイクロ波のエネルギーである。
これら3種類の条件では、図6から明らかなように、単位粒子の集合に吸収されるマイクロ波のエネルギーは、1×10−5W程度となった。
他方、図6の右から2番目及び最右端に位置する結果は、単位粒子がFe2O3と炭素の2層構造となっている場合の結果である。上記(C)の構造を有する単位粒子が8個存在する場合には、図6の右から2番目の結果から明らかなように、4×10−5W程度のエネルギーが吸収される。また、上記(D)の構造を有する単位粒子が8個存在する場合には、図6の最右端に位置する結果から明らかなように、6×10−5W程度のエネルギーが吸収される。
かかるシミュレーション結果より、単位粒子が、外側にFe2O3が位置し内側に炭素が位置するような2層構造を有することで、単位粒子あたりのマイクロ波の吸収効率が改善されることがわかる。従って、還元材である炭素材の周囲を酸化鉄原料が覆うような塊成化物を用いることで、塊成化物によるマイクロ波の吸収を更に改善させることが可能であることがわかる。このような塊成化物を実現するためには、酸化鉄原料の粒子サイズを、還元材である炭素材の粒子サイズよりも小さくすることが好ましい。
以上、図4〜図6を参照しながら、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法について、詳細に説明した。
以下、実施例及び比較例を示しながら、本実施形態に係る塊成化物の加熱方法について、具体的に説明する。
<実施例1>
[ブリケットの製造]
以下に示す組成の製鉄ダスト79質量%と、還元材である石炭20質量%とに加え、更にバインダーとしてベントナイト1質量%を混合し、適量の水分を添加した混合物を製造した。その後、この混合物を混練した後にブリケットマシンに装入し、平均径50mm×厚み20mmの生ブリケットを製造した。製造した生ブリケットは、乾燥機を用いて水分を除去し、水分含有率が0.5質量%の乾燥ブリケットとした。
上記生ブリケットの大きさは、還元鉄を製造する際に用いられる塊成化物の一般的な大きさである、外径10mm〜60mmφ×厚み10mm〜30mm程度の大きさの範囲内のものとした。
また、上記生ブリケットにおいて、事前に調べた誘電率のε’及びε”の値、並びに、加熱に用いたマイクロ波の波長λ=12.24cm(周波数2.45GHz)を式11に代入して求めたマイクロ波の浸透深さδは4.2mmであり、生ブリケットの厚みは浸透深さδの4.8倍である。
ここで、ブリケットの製造に用いた製鉄ダストの平均粒子サイズは10μmであり、粉砕処理した石炭の平均粒子サイズは100μmである。かかる平均粒子サイズは、レーザ回折法による測定結果である。
[マイクロ波による原料ブリケット加熱効率Aの測定]
マイクロ波単独加熱による原料ブリケットの加熱実験を行い、上記乾燥ブリケットのマイクロ波による加熱効率Aを求めた。
内容積600mm×600mm×600mmのステンレス製のチャンバーの中央部に、上記乾燥済みのブリケット(以下、原料ブリケットともいう。)10個(約500g)をセラミック坩堝にいれて設置した。この際、坩堝の周囲は、断熱ウールで断熱した。原料ブリケットには、中央部に予め熱電対を埋め込み、内部の温度を計測できるようにした。
ここで、セラミック坩堝は、マイクロ波を吸収しないMgO製の坩堝を使用した。また、断熱ウールもSiO2製であり、マイクロ波を吸収しない。従って、チャンバー内部は、原料とした乾燥ブリケット以外にマイクロ波を吸収する物質を設置していない状況となっている。
原料ブリケットを設置後、チャンバー内部を窒素ガスで置換し、不活性雰囲気とした。マイクロ波加熱中も窒素ガスを供給して、チャンバー内部を常に不活性雰囲気に維持した。チャンバー内部に、周波数2.45GHzのマイクロ波を、出力Pin=2000Wで2分間照射した。マイクロ波発振装置の出口には、反射波を吸収するサーキュレータを設け、サーキュレータとチャンバーの間に、チャンバーへの入射マイクロ波出力、反射マイクロ波出力がそれぞれ計測できる出力計を取り付けた。チャンバー内のマイクロ波が均一となるように、チャンバー内にはスターラーを設け、内部のマイクロ波を攪拌しながら、原料ブリケットの加熱を行った。
マイクロ波による原料ブリケットの加熱効率は、マイクロ波加熱前後の原料ブリケット10個の平均温度上昇ΔT(℃)、チャンバーへのマイクロ波の入射出力Pin(W)、チャンバーからの反射出力Pref(W)、予め調べておいた原料ブリケットの比熱Cb(J/gK)、及び、加熱した乾燥ブリケット10個の合計質量Wb(g)から、下記式151により算出した。
(Pin−Pref)×A×2×60=Cb×ΔT×Wb ・・・(式151)
上記のマイクロ波加熱計測を5回繰り返した。加熱条件として、乾燥ブリケット10個の平均温度が1100℃から1300℃までに昇温される間の昇温データに基づいて、加熱効率Aを求めた。その結果、算出した加熱効率Aの平均は、A=0.63となった。
この加熱効率Aの値は、本実施例に用いた原料ブリケットの固有値であり、原料ブリケットの構成成分や粒径などの変化により変化するものである。
<実施例2>
[ブリケットの加熱・還元]
図7に示した前室のある雰囲気置換可能な電気加熱炉にて、実施例1に示した乾燥ブリケットの還元実験を行った。電気加熱炉(内容積1m×1m×1m)を1300℃に昇温し、内部雰囲気を窒素で置換した。電気加熱炉は、温度制御運転により1300℃温度に維持されるように、ヒータ電力が自動で制御されるようにした。
図7に示した加熱炉の前室に、セラミックサンプル皿に乗せた実施例1の乾燥ブリケット4個をセットし、前室の扉を閉めて前室内の雰囲気を窒素ガスで置換した。乾燥ブリケットには中心部に熱電対を埋め込んでおき、ブリケット内部の温度を計測できるようにしておいた。前室内の窒素置換が終了した時点で加熱炉本体の扉を開けて、加熱炉内にサンプル皿に乗せた乾燥ブリケット4個を移動し、加熱炉本体の扉を閉めた。
[マイクロ波の照射条件]
熱電対で計測している乾燥ブリケット中心部の温度がT1(℃)になった時点で、マイクロ波を所定時間(t2=120秒)照射した。マイクロ波の出力は、以下の表2に示したP(W)とした。
前述の通り、実際の回転炉床炉において、マイクロ波による加熱を行う場合、マイクロ波は、回転炉のある決まった範囲(ゾーン)に照射されることとなる。その際、炉内の原料ブリケットは、マイクロ波の照射ゾーンでマイクロ波による加熱を受ける。つまり、マイクロ波を重畳した炉の範囲(ゾーン)を通過する一定時間でマイクロ波からの加熱を受けることになる。このような状況を模擬するため、マイクロ波の照射時間を、先に示したように2分間の一定時間とした。
マイクロ波の照射有無、照射開始時間にかかわらず、加熱炉本体の内部にブリケットを挿入してから丁度t1=10分後に、再び加熱炉の扉を開けて乾燥ブリケットを窒素ガスで置換した前室に移動させ、400℃以下に急速冷却した後に、前室の扉を開けて乾燥ブリケットを取り出し、乾燥ブリケットの還元状態(金属化率)を評価した。
加熱後のブリケット中に含有する金属鉄分、全鉄分の質量%を化学形態分析により同定し、(還元鉄中の金属鉄分/還元鉄中の全鉄分)×100で表される値(単位:%)から金属化率を評価した。
[実施例の条件1〜7]
マイクロ波の照射時間を2分間として、マイクロ波照射開始のブリケット温度T1(℃)を下記表2に示した条件で変更して、加熱後の乾燥ブリケットの還元率を評価した。(条件1〜7)
[実施例の条件8〜10]
2分間のマイクロ波照射により乾燥ブリケットの温度が加熱炉と同じ1300℃になるようにマイクロ波の出力を変更した条件で、ブリケットの加熱を行った。
ここで、実施例8〜10のマイクロ波の照射条件は、下記式152に基づいて決定した。
P×A×t2=(Tf−T1)×Cb×Wb ・・・(式152)
ここで、上記表2において、
乾燥ブリケットの加熱炉内の滞在時間:t1=10分
T1(℃):マイクロ波照射開始時のブリケットの内部温度(4個の平均温度)
T2(℃):マイクロ波照射終了時のブリケットの内部温度(4個の平均温度)
T3(℃);挿入して10分後に加熱炉から前室に取り出した時の乾燥ブリケットの内部温度(4個の平均温度)
η(%):加熱試験後に調べた乾燥ブリケットの金属化率(4個の平均値)
である。
表2から明らかなように、マイクロ波を照射することで、比較例(マイクロ波照射なし)に対してブリケットの金属化率η(%)が向上した。マイクロ波の照射が無い場合、ブリケットの温度は1250℃程度まで上昇するが、t1=10分間での金属化率は60%台後半にとどまっている。酸化鉄(Fe2O3)の固体炭素(C)又はCOガスによる還元反応は、1000℃程度になると開始するが、本比較例のように保持温度が低い、もしくは、当該温度以上で保持される時間が短い(比較例の場合は10分間の加熱時間)場合には、還元反応の進行が不十分になることがわかる。
また、表2に示した結果から明らかなように、マイクロ波の照射を加えることで、同一加熱時間(t1=10分)であっても、ブリケットの保持温度が高くなるため、還元の進行が促進される。その結果、表2に示したように、金属化率ηが向上する。
マイクロ波の照射時間(t2=2分)を固定した場合、実施例1〜4のようにマイクロ波を照射する時点の乾燥ブリケットの温度が低いと、2分間のマイクロ波照射によってもブリケットの温度が加熱炉雰囲気温度(1300℃)まで到達しない。その結果、10分間の加熱後のブリケットの金属化率は、90%に届かない結果となった。また、実施例5〜10のように、2分間のマイクロ波の照射後にブリケット温度が加熱炉雰囲気温度(1300℃)程度以上に加熱される条件では、10分間の加熱終了後のブリケットの金属化率ηが90%以上に改善した。
また、実施例8〜10では、マイクロ波の照射をブリケット温度が低い時点から開始した。2分間のマイクロ波照射で、乾燥ブリケット温度が加熱炉温度1300℃程度になるように照射マイクロ波の出力を増加させることで、金属化率ηは90%以上に改善した。ただし、これらの実施例の場合、高い金属化率を得るには、より多くのマイクロ波出力を必要とするため、マイクロ波を駆動する電力代が増加することとなる。
実施例5のように、原料ブリケットの温度が炉温度1300℃の80%である1040℃以上に到達している条件でマイクロ波を照射すれば、少ないマイクロ波出力でも原料ブリケットの温度を炉温度以上にすることができ、金属化率ηが90%以上の高い結果を得ることができる。
また、実施例4〜実施例10では、マイクロ波照射終了時の原料ブリケットの温度が1200℃以上(炉温度−100℃以内)であり、かかる条件では金属化率がほぼ90%以上に到達している。
ここで、実施例7では、マイクロ波照射終了時の原料ブリケットの温度が1440℃以上と高温になっている。実施例7の原料ブリケットの金属化率は90%以上と良好であるが、原料ブリケットは、半分程度溶融して形状が崩れていた。実際の固体還元炉(例えば、回転炉床炉)にて実施例7の条件を適用すると、原料ブリケットの溶融による炉床への付着物が多数発生し、操業を困難にすることが予想される結果となった。
以上の結果から、加熱炉中の原料ブリケットの温度Tb(℃)、加熱炉温度Tf(℃)、原料ブリケットの比熱Cb(J/gK)、原料の総質量Wb(g)、原料ブリケットへのマイクロ波の照射時間t2(分)、マイクロ波による原料の加熱効率Aとして、マイクロ波の出力P(W)を上記式101に従って決定し、かかる出力を有するマイクロ波を照射することで、短時間の加熱で原料の金属化率ηを向上することができることが明らかとなった。
<実施例3>
[ブリケットの加熱・還元−その2]
実施例1で用いた内容積600mm×600mm×600mmのステンレス製のチャンバーの中央部に、実施例1で製造した乾燥済みの原料ブリケット4個(約200g)をセラミック坩堝に入れて設置した。この際、坩堝の周囲は、断熱ウールで断熱した。原料ブリケットには、中央部に予め熱電対を埋め込み、内部の温度を計測できるようにした。
ここで、セラミック坩堝は、マイクロ波を吸収しないMgO製の坩堝を使用した。また、断熱ウールもSiO2製であり、マイクロ波を吸収しない。従って、チャンバー内部は、原料ブリケット以外にマイクロ波を吸収する物質を設置していない状況となっている。
原料ブリケットを設置後、チャンバー内部を窒素ガスで置換し、不活性雰囲気とした。チャンバー内部に周波数2.45GHzのマイクロ波を、出力Pin=1000Wで照射した。マイクロ波発振器出口には、反射波を吸収するサーキュレータを設け、サーキュレータとチャンバーの間に、チャンバーへの入射マイクロ波出力、反射マイクロ波出力がそれぞれ計測できる出力計を取り付けた。チャンバー内のマイクロ波が均一となるように、チャンバー内にはスターラーを設け、内部のマイクロ波を攪拌しながら、原料ブリケットの加熱を行った。
4個の原料ブリケットの平均温度が(1)1000℃、(2)1100℃、(3)1200℃、(4)1300℃、(5)1400℃になった時点で、マイクロ波の照射を停止した。マイクロ波停止後直ちにチャンバーの扉を開け、坩堝から原料ブリケットを取り出し、予め用意しておいた液体窒素からの冷却窒素ガスを導入した容器に入れて原料ブリケットを急速冷却することで、マイクロ波加熱による還元状態を固定した。
冷却後の原料ブリケットのうち2個を樹脂に埋め込み、中央部にて切断し、断面観察により内部の還元状態の分布を目視観察した。残り2個の原料ブリケットについては、化学形態分析により、加熱後のブリケット中に含有する金属鉄分、全鉄分の質量%を同定し、(還元鉄中の金属鉄分/還元鉄中の全鉄分)×100で表される値(単位:%)から金属化率を評価した。
比較例として、1300℃に加熱した電気炉(内部は、窒素により不活性雰囲気に置換した。)に上記と同様の方法で原料ブリケット4個を挿入した。マイクロ波の照射は行わず、原料ブリケットの内部温度が1000℃、1100℃になった時点で同様に原料を取り出し、同じく予め用意しておいた液体窒素からの冷却窒素ガスを導入した容器に入れて原料を急速冷却することで、電気炉熱による還元状態を固定した。
冷却後の原料ブリケットのうち2個を樹脂に埋め込み、中央部にて切断し、断面観察により内部の還元状態の分布を目視観察した。残り2個の原料ブリケットについては、化学形態分析により、加熱後のブリケット中に含有する金属鉄分、全鉄分の質量%を同定し、(還元鉄中の金属鉄分/還元鉄中の全鉄分)×100で表される値(単位:%)から金属化率を評価した。
得られた評価結果を、以下の表3に示す。なお、以下の表3において、金属化率η(%)は、2個のブリケットの還元率の平均値である。
マイクロ波による原料ブリケットの加熱では、条件(1)、(2)、(3)のように加熱温度が低い条件においては、金属化率ηが低い値にとどまっていた。ただし、条件(1)〜(3)のように金属化率ηが低い条件であっても、断面観察の結果、原料断面内での還元ムラの発生は無く内部まで一様に金属化(還元)が進行しており、マイクロ波加熱においては、原料ブリケットの内部まで均等に金属化(還元)が進行することが確認された。これは、マイクロ波が式(11)に従う浸透深さδを持つことで原料ブリケットが内部から加熱されるため、原料ブリケットの内部と外側とで還元反応の進行に差が無くなるためである。
また、原料を外部から加熱する電気炉を用いた比較例(すなわち、マイクロ波を照射しなかった比較例)では、原料ブリケットの外周部で還元が進行しているものの、内部での還元進行があまり進んでおらず、還元ムラが観察された。
<実施例4>
[バーナー炉とマイクロ波の併用加熱によるブリケットの還元]
図8に示した内容積1m×1m×1mの実験炉(バーナー炉)を1300℃に昇温した後、炉内に実施例1で製造した原料ブリケットを挿入した。バーナーは、加熱炉の床から700mmの上方に左右2基ずつ、合計4基設けた。バーナーの燃料には、LNGガスを用いた。
LNGガスの燃焼のため、2基のバーナーの間から、1200℃に加熱した乾燥空気を未図示の乾燥空気供給手段により導入し、乾燥空気は、炉の上方に設けた煙突(図示せず。)から排気する仕組みとした。また、加熱炉の天井には、マイクロ波を照射するための導波管を設置した。導波管の出口には、断熱と防塵のために、マイクロ波を吸収しないセラミック板を取り付けた。
200mm×200mmの正方形のセラミック容器の上に、上層及び下層に各々4×4=16個、合計32個の原料ブリケットを配置した。また、図9に示したように、上下に4×4列で配置した原料ブリケットのうち、中央部付近に配置した原料ブリケット2個ずつ(上層、下層各2個の合計4個)には予め熱電対を差し込み、内部温度が計測できるようにした。
加熱炉の扉を開けて、加熱炉中央部にセラミック容器ごと原料ブリケットを挿入した後に、加熱炉の扉を閉めた。原料ブリケットを加熱炉に挿入後5分が経過した時点で、加熱炉上方に設置したマイクロ波発振装置(周波数2.45GHz)から、出力5000Wのマイクロ波を2.5分間照射した。チャンバーからの反射波出力は472Wであり、正味出力4528Wのマイクロ波が、加熱炉内の原料ブリケット32個に照射された。かかるマイクロ波の照射条件は、上記式101を満足するものである。
加熱炉に原料ブリケットを挿入してから、12分後(マイクロ波の照射停止後からは、12−5−2.5=4.5分後)に加熱炉の扉を開けて、原料ブリケットを取り出し、予め用意しておいた液体窒素からの冷却窒素ガスを導入した容器に原料ブリケットを移して原料ブリケットを急速冷却することで、加熱による還元状態を固定した。
原料ブリケットは、上層部においたもの、及び、下層部においたものを区別して回収して、化学形態分析により含有する金属鉄分及び全鉄分の質量%を同定し、(還元鉄中の金属鉄分/還元鉄中の全鉄分)×100で表される値(単位:%)から金属化率を評価した。
また、比較例として、マイクロ波の照射を行わず、同じく加熱炉に12分間保持した条件での原料ブリケットの還元率を評価した。加熱炉内での原料ブリケットの配列や、原料ブリケットを取り出してからの冷却方法は、マイクロ波を用いた場合と同様とした。
得られた結果を、以下の表4に示す。なお、表4において、ブリケットの温度は、炉から取り出す直前の温度である。
比較例に示したように、マイクロ波照射の無いバーナー加熱のみの場合、上層部のブリケット温度は、12分後(炉から取り出す直前)に炉内雰囲気温度と同じ1300℃に到達していることがわかる。また、上層に配置したブリケット16個の平均金属化率は、上記表4に示したように、92%と高い還元率になった。他方、下層に配置した16個の原料ブリケット温度は、炉内雰囲気温度よりも低い1264℃にとどまり、16個の原料ブリケットの平均金属化率も、84%と低い還元率にとどまった。
また、5000Wのマイクロ波の照射を2.5分加えた場合、上記表4に示したように、上層の原料ブリケット及び下層の原料ブリケットとも、炉内雰囲気温度よりも高い約1320℃程度の加熱状態となった。さらに、還元率については、上層及び下層に配置した原料ブリケットの双方とも、16個の平均金属化率が96%と、高い還元率に到達した。
すなわち、バーナーによる加熱炉中の原料ブリケット上方からマイクロ波を照射することで、バーナーによる輻射の影になる下層ブリケットについても加熱の度合いが向上し、その結果、下層にあるブリケットの金属化率が向上したといえる。このように、マイクロ波照射によって、バーナー輻射の陰になる下層の原料塊の還元についても、進行させることができた。
このように、バーナー及び炉壁からの輻射熱による加熱に加え、マイクロ波による加熱をあわせて用いることによって、バーナーの輻射熱が直接作用しない下層側の塊成化物に対しても、効率よく加熱を行うことが可能となり、加熱ムラ(ひいては還元ムラ)の少ない還元鉄を製造することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。