本願発明者は、レーザパルスを照射して実施するレーザアニールに関し、温度シミュレーションを行った。以下に示す第1〜第5のシミュレーションにおけるレーザ発振器はすべてNd:YLFレーザ発振器であり、出射されるレーザパルスはすべてパルス幅150nsのNd:YLFレーザの第2高調波(波長527nm)である。
図1(A)及び(B)を参照し、第1のシミュレーションについて説明する。
図1(A)に示すように、第1のシミュレーションにおいては、2台のレーザ発振器、レーザ1及びレーザ2から各々1ショットのレーザパルスを出射し、シリコン基板の同一領域に照射する。両レーザパルスの出射間隔(シリコン基板に入射する両レーザパルスの入射遅延時間)は500nsとした。また、両レーザパルスは、それぞれパルスエネルギ密度1.8J/cm2でシリコン基板に照射されるものとした。
図1(B)は、シリコン基板の温度の時間変化を示すグラフである。グラフの横軸は、1ショットめのレーザパルス入射時を基準時として、基準時からの経過時間を単位「μs」で表し、縦軸は、基板温度を単位「K」で表す。曲線aは、レーザ照射面(基板最表面)の温度の時間変化を示す。曲線b、c、d、e、fはそれぞれ、レーザ照射面からの深さが、1μm、2μm、3μm、4μm、5μmの位置のシリコン基板温度の時間変化を示す。
曲線aから、基板最表面はシリコンの融点(1685K)を超え、溶融することがわかる。一方、曲線cを参照すると、最表面からの深さが2μmの位置のシリコン基板の温度は約1200Kまでしか到達しないため、この位置に添加されている不純物は十分には活性化されない。なお、基板温度が約1000℃(1273K)に達した場合には、不純物が十分に活性化されると考えられる。
本願発明者は、投入エネルギを増加させて第2のシミュレーションを行った。第2のシミュレーションにおいては、シリコン基板への投入エネルギ(各レーザパルスの基板照射面におけるパルスエネルギ密度)を、第1のシミュレーションの場合の約1.2倍である2.2J/cm2とした。その他の条件は、第1のシミュレーションと等しい。
図2は、第2のシミュレーションの結果を示すグラフである。グラフの両軸及び曲線a〜fの表すところは図1(B)のグラフにおけるそれらと等しい。曲線cから、2μm深さの温度は、不純物の十分な活性化が可能な約1000℃(1273K)に到達していることがわかる。しかし曲線aから、レーザ照射面(基板最表面)の温度も上昇し、シリコン基板の溶融深さが大幅に深くなることもわかる。
図3(A)及び(B)を参照し、第3のシミュレーションについて説明する。
図3(A)に示すように、第3のシミュレーションにおいては、1台のNd:YLFレーザ発振器に対し、たとえば1000nsの時間差を設けて2つの信号をQスイッチに入力して、2ショットのレーザパルスを出射させ、シリコン基板の同一領域に入射させた。両レーザパルスの出射間隔は1000nsである。両レーザパルスは、それぞれ1.1J/cm2のパルスエネルギ密度でシリコン基板に照射される。
図3(B)に、第3のシミュレーションの結果を示す。グラフの両軸及び曲線a〜fの表すところは図1(B)のグラフにおけるそれらと等しい。グラフから、2ショットめのレーザパルスの基板入射時には、基板温度の低下が生じ、十分なアニール効果が得られないことがわかる。これは、1台のレーザ発振器に、短時間のうちに2つのトリガ信号を入力して、2ショットのレーザパルスを出射させた場合、1ショット当たりのパルスエネルギが、トリガ信号を1つだけ入力して発生するレーザパルスの約半分となるためである。また、2つのレーザパルスの照射間隔が1000nsと長いためでもある。
1台のレーザ発振器のみを用い、たとえば1000ns以下の時間差を設け、複数ショットのレーザパルスを出射し、レーザアニールを行った場合、レーザ発振器の出力等の関係から、安定的に高品質のレーザアニールを実現することは困難である。
図4(A)及び(B)を参照し、第4のシミュレーションについて説明する。
図4(A)に示すように、第4のシミュレーションにおいては、2台のレーザ発振器、レーザ1及びレーザ2のそれぞれに2つのトリガ信号を、1000nsの時間差を設けて入力し、各レーザ発振器から2ショットのレーザパルスを1000nsの間隔で出射させ、合計4ショットをシリコン基板の同一領域に入射させる。ここで、レーザ1から1ショットめのレーザパルスが発振された500ns後に、レーザ2から1ショットめのレーザパルスを発振させることとした。シリコン基板には、各々500nsの間隔で、順にレーザ1の第1ショット、レーザ2の第1ショット、レーザ1の第2ショット、レーザ2の第2ショットが入射する。4ショットのレーザパルスは、それぞれ1.1J/cm2のパルスエネルギ密度でシリコン基板に照射される。
図4(B)に、第4のシミュレーションの結果を示す。グラフの両軸及び曲線a〜fの表すところは図1(B)のグラフにおけるそれらと等しい。第4のシミュレーションにおいては、第3のシミュレーションとは異なり、レーザ照射面(基板最表面)の温度が下がる前に次のレーザパルスが順次入射するため、基板表面温度がシリコンの融点付近に長時間保たれ、基板の深い位置の温度も上昇して、たとえば曲線cを参照すると、2μm深さの温度は1320Kに達することがわかる。なお、このシミュレーションにおけるシリコン基板の最大溶融深さは0.3μm程度であった。第4のシミュレーションによるレーザアニールによれば、溶融深さを浅く保ち、深い位置、たとえば2μmを超える深さに添加された不純物を十分に活性化することができる。第2のシミュレーションと比べ、照射面における各レーザパルスのパルスエネルギ密度は1/2となるが、レーザアニールの効果を高めることが可能である。第4のシミュレーションによるレーザアニール方法によれば、実効的に2μs程度のパルス幅のパルスレーザビームを照射した場合に相当する加熱時間が得られ、深い位置の基板温度を高くすることができるため、深い位置に添加された不純物を十分に活性化することが可能である。
図5(A)及び(B)を参照し、第5のシミュレーションについて説明する。
図5(A)に示すように、第5のシミュレーションにおいては、3台以上、たとえば3台のレーザ発振器、レーザ1、レーザ2、及びレーザ3のそれぞれに2つのトリガ信号を入力し、各レーザ発振器から2ショットのレーザパルスを短時間のうちに出射させ、合計6ショットをシリコン基板の同一領域に入射させる。レーザ1の第1ショットのレーザパルス発振時を基準とし、500ns後にレーザ2の第1ショット、1000ns後にレーザ3の第1ショット、1600ns後にレーザ1の第2ショット、2400ns後にレーザ2の第2ショット、3400ns後にレーザ3の第2ショットを発振した。シリコン基板には、ショット間の入射遅延時間が直前のショット間の入射遅延時間以上となる条件、たとえばこの場合は順に500ns、500ns、600ns、800ns、1000nsの間隔でレーザパルスが入射する。なお、6ショットのレーザパルスは、それぞれ1.1J/cm2のパルスエネルギ密度でシリコン基板に入射するものとした。
図5(B)に、第5のシミュレーションの結果を示す。グラフの両軸及び曲線a〜fの表すところは図1(B)のグラフにおけるそれらと等しい。曲線aから、第5のシミュレーションにおいても、第4のシミュレーションと同様に、基板表面温度がシリコンの融点付近に長時間保たれることがわかる。また曲線dから、3μm深さの温度が1273Kに達し、深さ3μmの位置まで十分な不純物活性化が行われることがわかる。第5のシミュレーションによるレーザアニール方法によれば、実効的に4μs程度のパルス幅のパルスレーザビームを照射した場合に相当する加熱時間が得られ、深い位置の基板温度を高くすることができるため、深い位置に添加された不純物を十分に活性化することが可能である。
また、第5のシミュレーションによるレーザアニール方法によれば、3台以上のレーザ発振器を用い、各レーザ発振器から短時間に2ショット以上のレーザパルスを出射して、6ショット以上のレーザパルスを順次シリコン基板に投入することにより、殊に、ショット間の入射遅延時間が直前のショット間の入射遅延時間以上となる条件で、レーザパルスの投入を行うことにより、表面近傍の溶融深さを4ショット投入時(第4のシミュレーション)と等しくし、さらに深い位置の不純物活性化を実現することが可能となる。ただしこの場合、3台以上のレーザ発振器を使用することによるコストアップや、レーザアニール装置の光学系が複雑になる等の問題が生じうるであろう。
なお、1つのレーザ発振器のQスイッチに入力する信号を3つ以上にし、1つのレーザ発振器から短い時間間隔で3ショット以上のレーザパルスを発振させてもよい。
図6は、変形例によるレーザパルスの出射タイミングを示すタイミングチャートである。たとえば2台のレーザ発振器、レーザ1及びレーザ2のそれぞれに3つのトリガ信号を、1000nsの時間差を設けて入力し、各レーザ発振器から3ショットのレーザパルスを1000nsの間隔で出射させ、合計6ショットをシリコン基板の同一領域に入射させる。ここで、レーザ2の第1ショットは、レーザ1の第1ショットの500ns後に発振させる。シリコン基板には、各々500nsの間隔で、順にレーザ1の第1ショット、レーザ2の第1ショット、レーザ1の第2ショット、レーザ2の第2ショット、レーザ1の第3ショット、レーザ2の第3ショットが入射する。
レーザパルス1ショットあたりのパルスエネルギは、短時間に1つのレーザ発振器に入力されるトリガ信号の数に反比例する。このため変形例によるレーザアニール方法によれば、高出力のレーザ発振器を使用する必要があるが、1つのレーザ発振器から短い時間間隔で3ショット以上のレーザパルスを出射することにより、少ないレーザ発振器で多数のレーザパルスをシリコン基板に入射させることが可能となり、レーザアニール装置の光学系を複雑化させることなく、溶融深さを浅く保って、深い位置に添加された不純物を活性化させることができる。
図7は、実施例によるレーザアニール装置の概略図である。プロセスチャンバ10内にXYステージ11が収容され、XYステージ11に、アニール対象物であるシリコン基板1が保持されている。シリコン基板1の上方に、レーザビームを透過させる窓13が取り付けられている。プロセスチャンバ10内は、窒素雰囲気にすることができる。
第1のパルスレーザ光源21から出射されたパルスレーザビームが、可変減衰器23を通過し、折り返しミラー26で反射されて偏光ビームスプリッタ27に入射する。第2のパルスレーザ光源22から出射されたパルスレーザビームが、可変減衰器24及び1/2波長板25を通過して、偏光ビームスプリッタ27に入射する。第1及び第2のパルスレーザ光源21及び22は、波長527nmの第2高調波を出射するNd:YLFレーザである。Nd:YLFレーザの他に、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ等の固体レーザの第2高調波を出射するパルスレーザ光源を用いてもよい。その他、種々のパルスレーザ光源を用いることができる。
第1のパルスレーザ光源21から出射されたパルスレーザビームは、偏光ビームスプリッタ27に対してS偏光となるように調整されている。第2のパルスレーザ光源22から出射されたパルスレーザビームは、偏光ビームスプリッタ27に対してP偏光になるように調整されている。
偏光ビームスプリッタ27は、入射する2つのパルスレーザビームを、共通の経路に沿って伝搬させる。共通の経路を伝搬するパルスレーザビームは、高速シャッタ28、ビームエキスパンダ29、ホモジナイザ30、折り返しミラー31、マスク32、集光レンズ33、及びプロセスチャンバ10に設けられた窓13を経由して、シリコン基板1に入射する。
ビームエキスパンダ29は、パルスレーザビームのビーム径を拡大する。ホモジナイザ30は、マスク32の配置された位置におけるビーム断面が、一方向に長い直線状になり、かつ長尺方向に関する強度が均一になるように、パルスレーザビームを整形する。マスク32は、その位置におけるビーム断面の不要部分を遮蔽する。集光レンズ33は、マスク32の位置におけるビーム断面を、シリコン基板1の表面に結像させる。結像倍率は、たとえば1倍である。レーザビームはたとえば矩形状の入射領域を形成して、シリコン基板1に入射する。
制御装置40が、第1、第2のパルスレーザ光源21、22、高速シャッタ28、及びXYステージ11を制御する。第1、第2のパルスレーザ光源21、22の発振のタイミングを制御することにより、第1のパルスレーザ光源21、第2のパルスレーザ光源22の一方から出射されたパルスレーザビームの1つのレーザパルスがシリコン基板1に入射してから、他方から出射されたパルスレーザビームの1つのレーザパルスがシリコン基板1に入射するまでの遅延時間を所望の値に設定することができる。また、第1のパルスレーザ光源21から出射されたパルスレーザビームの1つのレーザパルスがシリコン基板1に入射してから、他の1つのレーザパルスがシリコン基板1に入射するまでの遅延時間を所望の値に設定することが可能である。更に、第2のパルスレーザ光源22についても同様の制御を行うことができる。
制御装置40でXYステージ11を制御し、シリコン基板1の表面における矩形状ビーム断面の短軸方向にシリコン基板1を移動させることにより、ビーム断面の長軸方向の長さを幅とする帯状の領域をアニールすることができる。シリコン基板1を、ビーム断面の長軸方向にずらして帯状の領域をアニールする処理を繰り返すことにより、シリコン基板1の全面をアニールすることができる。
図8は、第1、第2のパルスレーザ光源21、22を示す概略図である。第1、第2のパルスレーザ光源21、22はそれぞれ、光共振器の両端ミラーを構成するエンドミラー50、60、アウトプットカプラ54、64、光共振器内に閉じ込められる光の経路上に配置されたレーザ媒体51、61、Qスイッチ52、62、シャッタ53、63を含む、Qスイッチレーザ発振器である。また、アウトプットカプラ54、64を出射したビームの光路上に配置される非線形光学結晶55、65を含む。更に、励起光源56、66、LDドライバ58、68、及びRFドライバ59、69を含んで構成される。
ここでは非線形光学結晶55、65は、エンドミラー50、60とアウトプットカプラ54、64の外部に設置されているが、エンドミラー50、60とアウトプットカプラ54、64との間に設置しても構わない(イントラキャビティ構造)。この際、各光学素子の配置や特性は、必要に応じて変更することが望ましい。
エンドミラー50、60は、たとえば全反射ミラーであり、アウトプットカプラ54、64は、レーザ出力側に配置される出力ミラーである。アウトプットカプラ54、64の反射率は、100%未満の最適な値に設計する必要がある。
レーザ媒体51、61は、たとえばNd:YLFロッド、Nd:YAGロッド、Nd:YVO4ロッドであるが、ディスク型のレーザ媒体を用いてもよい。
励起光源56、66は、たとえばレーザダイオード(laser diode; LD)を含んで構成される。レーザダイオードから出射したレーザビームは、励起効率を向上させるために、たとえば集光レンズにより集光されてレーザ媒体51、61に照射される。レーザダイオードに代えてフラッシュランプを用いることもできる。
LDドライバ58、68は、レーザダイオード(LD)の発光を制御する電気信号を生成し、励起光源56、66に送信する。
レーザ媒体51、61は、励起光源56、66からの励起光によって励起されて、光共振器内を往復する光を誘導放出によって増幅する。
Qスイッチ52、62は、たとえば音響光学素子を含んで構成され、光共振器のQ値を変化させる。音響光学素子には、RFドライバ59、69で生成された高周波電気信号RFが印加される。電気信号RFが印加された音響光学素子内部には超音波が発生し、これが回折格子として作用して、入射光の一部を偏向して出射する。電気信号RFの印加によって光共振器のQ値が変化し、レーザ媒体51、61中にエネルギが蓄積される。電気信号RFの印加を解除すると、Qスイッチ52、62は開いて、アウトプットカプラ54、64側からレーザビーム(Nd:YLFレーザの基本波波長1054nm)が出射する。Nd:YLFレーザの基本波は、非線形光学結晶55、65によって波長を変換され、Nd:YLFレーザの第2高調波(波長527nm)が筐体57、67から出射される。
筐体57、67からのレーザビームの出射の制御は、シャッタ53、63の開閉によって行うことができる。シャッタ53、63の開閉は、制御装置40からの制御信号によって行われる。
制御装置40は、シャッタ53、63に制御信号を送信するほか、LDドライバ58、68及びRFドライバ59、69に制御信号を送り、励起光源(レーザダイオード)56、66の発光、及び、Qスイッチ(音響光学素子)52、62におけるレーザ光の偏向を制御する。制御装置40から、第1、第2のパルスレーザ光源21、22に入力され、各パルスレーザ光源21、22からレーザパルスを発生させるトリガ信号は、たとえば制御装置40からRFドライバ59、69に送信され、電気信号RFの印加を解除して、Qスイッチ52、62を開く制御信号である。
制御装置40から第1、第2のパルスレーザ光源21、22に送信される個々のトリガ信号(Qスイッチ52、62に入力する制御信号)に対応して、各々のパルスレーザ光源21、22から各レーザパルスが出射する。
図9(A)〜(C)を参照して、実施例によるレーザアニール装置を用いたレーザアニール方法(実施例によるレーザアニール方法)を説明する。
実施例によるレーザアニール方法においては、まず表層部に不純物が添加された半導体基板を準備する。半導体基板の表層部はシリコンで形成されている。半導体基板はたとえば裏面表層部に不純物が添加されたシリコンウエハ(シリコン基板1)である。
シリコン基板1の厚さは、たとえば100μmである。シリコン基板1の表側の表層部には、IGBTのエミッタ領域及びゲート領域が画定されている。また裏側の表層部には、p型不純物、たとえばホウ素(B)の注入によるコレクタ領域、及び、n型不純物、たとえばリン(P)の注入によるフィールドストップ領域が画定されている。フィールドストップ領域は、リン(P)をたとえば700keVのエネルギ、1E+13ions/cm2のドーズ量でイオン注入することで形成される。コレクタ領域は、その後、ホウ素(B)をたとえば40keVのエネルギ、1E+15ions/cm2のドーズ量でイオン注入することで形成することができる。
図9(A)は、シリコン基板1裏面側の不純物デプスプロファイルを示すグラフである。グラフの横軸は、シリコン基板1の裏面最表面からの深さを、リニアな目盛りにより単位「μm」で表す。グラフの縦軸は、添加された不純物の濃度を、対数目盛りにより単位「atoms/cc」で表す。
ホウ素(B)の濃度がピークとなる位置は、裏面最表面から0.3μmの深さであることがわかる。また、リン(P)の濃度がピークとなる位置は、裏面最表面から0.9μmの深さであることもわかる。更に、リン(P)の注入深さのテールは、裏面最表面から2μmに及ぶ。
図9(B)に、第1及び第2のパルスレーザ光源21、22から出射されるレーザパルスの出射タイミングを示す。両パルスレーザ光源21、22は、前述のように、励起媒体にNd:YLFを用いたLD励起固体パルスグリーンレーザである。また、両パルスレーザ光源21、22から出射されるレーザパルスは、たとえば長軸方向2.5mm、短軸方向0.25mmの矩形状入射領域を形成して、シリコン基板1の不純物が添加された領域に入射する。
制御装置40からの制御信号により、図示するように、第1、第2のパルスレーザ光源21、22のそれぞれから、1000nsの時間間隔で2つのレーザパルスを発振させ、両光源21、22からのレーザパルスを交互に、4つのレーザパルスを500ns間隔で、連続的にシリコン基板1の実質的に同一の領域に入射させた。4つの連続パルスは、1msの周期で繰り返し出射した。1周期ごとに4つのレーザパルスを含むパルスレーザビームがシリコン基板1に照射される。各レーザパルスの、シリコン基板1表面におけるパルスエネルギ密度は1.1J/cm2となるように、可変減衰器23、24でレーザビームの光量を調整した。なお、第1、第2のパルスレーザ光源21、22から出射されるレーザパルスのパルス幅は約140nsであった。
図9(C)を参照する。制御装置40でXYステージ11を制御し、矩形状ビームの短軸方向にシリコン基板1を移動させながら、ビーム幅の66.6%をオーバーラップさせて照射を繰り返し、シリコン基板1の端部まで照射したところで、長軸方向に50%オーバーラップさせるように、1.25mmだけシリコン基板1を移動させる。そして更に短軸方向にシリコン基板1を移動させながら、66.6%のオーバーラップ率でレーザ照射を行う。このステージ動作を繰り返してシリコン基板1の裏側表面全体にパルスレーザビームを照射する。
シリコン基板1の裏側表面へのパルスレーザビームの照射により、基板1全面について、コレクタ領域に注入された不純物(B)、及び、フィールドストップ領域に注入された不純物(P)の活性化アニールが行われる。
アニール後のシリコン基板1を用いて広がり抵抗測定を行い、キャリア濃度を測定することで不純物活性化の状態を知ることができる。実施例によるレーザアニール方法によれば、ホウ素、リンともにほぼ100%の活性化を実現することができる。また、アニール後のシリコン基板1のSIMSプロファイルから、シリコン基板1の溶融深さを測定することができる。実施例によるレーザアニール方法によれば、レーザ照射面(裏側表面)からの溶融深さを0.2μm程度の浅さにして、活性化アニールを行うことができるため、ボロンの拡散を防止し、高品質のレーザアニールを行うことが可能である。
第1の比較例によるレーザアニールについて説明する。第1の比較例は、図2を参照して説明した第2のシミュレーションと同様の照射条件でレーザビームを照射して行うレーザアニールである。すなわち2台のレーザ発振器から各々1ショットのレーザパルスを500ns間隔で出射し、実施例と等しい基板であるシリコン基板1に連続的に照射する。各レーザパルスのパルス幅は約150ns、基板1照射面におけるパルスエネルギ密度は、2.2J/cm2とした。レーザアニールにおいては、2つの連続パルスを、1msの周期で繰り返し発振させた。オーバーラップ率等、シリコン基板1の移動は実施例と等しい条件とした。
第1の比較例においても、ホウ素、リンともにほぼ100%の活性化を実現することができる。しかしながら、シリコン基板1の溶融深さが0.7μm程度となり、ボロンが大きく拡散することがわかった。
第2の比較例によるレーザアニールについて説明する。第2の比較例は、基板1照射面におけるレーザパルスのパルスエネルギ密度が1.5J/cm2である点で第1の比較例と異なる。その他の条件はすべて第1の比較例と等しい。
第2の比較例によるレーザアニールによれば、実施例と同様に、溶融深さを0.2μm程度にすることができる。しかしボロンの活性化率は約80%となる。またリンは1μmより深い位置の活性化が不十分で、活性化率は約40%となる。
これらより、実施例によるレーザアニール方法は、溶融深さを浅く保ちつつ、深い位置に添加された不純物を十分に活性化させることのできるレーザアニール方法、高品質のレーザアニールを実現することができるレーザアニール方法であることがわかる。実施例によるレーザアニール装置を用いると、低コストの装置構成で、高品質のレーザアニールを実施することが可能である。
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。
たとえば、レーザパルスの出射態様は、図9(B)に示す実施例、及びこれとほぼ等しい図4(A)に示す例に限らず、図5(A)、(B)及び図6を参照して説明した態様でもよい。
また、実施例では、制御装置40は、1つの周期において、1つのパルスレーザ光源から1000nsの間隔でレーザパルスが出射されるように各レーザ光源21、22にトリガ信号を送信したが、1つの周期について、各パルスレーザ光源21、22が1μs〜2.5μsの間隔でレーザパルスを出射する(各パルスレーザ光源21、22からのレーザパルスが、シリコン基板1に1μs〜2.5μsの時間差で入射する)ように、第1、第2のパルスレーザ光源21、22からのレーザパルスの出射を制御してもよい。
なお、実施例においては、レーザ光源21、22をQスイッチ固体レーザとしたが、Qスイッチ固体レーザに限らず、広く1μs〜2.5μsの時間差を設けて複数のレーザパルスを出射可能なレーザ光源を用いることができる。
更に、実施例では、制御装置40は、1つの周期において、500nsの間隔でシリコン基板1に複数のレーザパルスが入射するように、第1、第2のパルスレーザ光源21、22からのレーザパルス出射を制御したが、1つの周期について、300ns〜1000nsの間隔、より好ましくは500ns〜700nsの間隔で、シリコン基板1に複数のレーザパルスが入射するように、複数のレーザ光源からのレーザパルスの出射を制御することができる。
また、実施例においては、パルス幅140nsのNd:YLFレーザの第2高調波(波長527nm)を用いてレーザアニールを行ったが、たとえばパルス幅100ns〜200ns、波長400nm〜650nmのレーザパルスを用いても同様の効果を奏することができるであろう。
XYステージ11の制御については、たとえば以下のように行う。
まず、1周期分のレーザパルス(図9(B)においては4ショット)を、シリコン基板1の同一位置に入射させる実施例の場合、第1のパルスレーザ光源21の1ショットめ、第2のパルスレーザ光源22の1ショットめ、第1のパルスレーザ光源21の2ショットめ、第2のパルスレーザ光源22の2ショットめの4ショットが、シリコン基板1に照射された後にXYステージ11を移動させる。この場合、4ショットのレーザパルスの照射完了を示す、またはこれと対応する信号が制御装置40に送られる構成とすることができる。制御装置40は、受信した信号に基づいてXYステージ11を移動させ、次の周期の照射準備を行う。制御装置40は、たとえばシリコン基板1上におけるレーザパルスの照射位置(XYステージ11の位置)と1周期分(4ショット)のレーザパルスの照射タイミングとが関連づけられたマップを記憶している。
また、1ショットごとにXYステージ11を移動させることも可能である。たとえば第1のパルスレーザ光源21の1ショットめがシリコン基板1に照射された後にXYステージ11を移動させ、移動完了後、第2のパルスレーザ光源22の1ショットめをシリコン基板1に入射させる。この場合、制御装置40は、たとえばシリコン基板1上におけるレーザパルスの照射位置(XYステージ11の位置)と1ショットごとのレーザパルスの照射タイミングとが関連づけられたマップを記憶し、1ショットのレーザパルスの照射完了を示す、またはこれと対応する信号に基づいてXYステージ11を移動させ、次のショットの照射準備を行う。
このように、1周期(4ショット)内でオフラインまたはオンラインの別はあっても、制御装置40は、シリコン基板1上におけるレーザパルスの照射位置(XYステージ11の位置)とレーザパルスの照射タイミングとの関係を記憶する記憶装置、たとえばメモリを備える。
記憶装置に、たとえばシリコン基板1上におけるレーザパルスの照射位置(XYステージ11の位置)が、レーザパルスの照射タイミングと関連づけられず記憶されている場合もある。この場合、たとえば、XYステージ11は、レーザパルスの照射タイミングとは無関係に、予め定められた動作を行い、第1、第2のパルスレーザ光源21、22は、ステージ動作とは関係なく、予め定められたタイミングでレーザパルスを出射する。
図10(A)〜(C)を参照し、レーザパルスの照射完了を示す、または照射完了と対応する信号について説明する。
図10(A)に示す構成においては、レーザパルスの照射位置近傍にCCDカメラ70が配置される。CCDカメラ70は、入射光の光強度を検出する光強度検出器である。検出された光強度は、制御装置40に送信される。制御装置40は、たとえば受信した光強度信号の時間変化に基づいて、シリコン基板1にレーザパルスが照射されたか否かの判定を行い、照射されたと判定された場合にXYステージ11を動作させる。
図10(B)に示す構成においては、直接的にレーザパルスの照射完了を示す信号ではなく、それと対応する信号が検出される。本図に示す例では、高速シャッタ28とビームエキスパンダ29との間のレーザビームの光路上に、レーザビームの一部、たとえば数%を分岐する分岐光学系71が配置される。分岐光学系71によって、計測用レーザビームと、XYステージ11に進行する加工用レーザビームとが分岐生成される。計測用レーザビームは、CCDカメラ70に入射する。CCDカメラ70で検出される光強度信号は、制御装置40に送信され、制御装置40は、その時間変化に基いて、分岐光学系71の設置位置をレーザパルスが通過したか否かを判定する。そしてたとえばレーザパルスの通過完了を照射完了と同視して、XYステージ11を移動させる。
図10(A)または図10(B)に示す構成においては、第1のパルスレーザ光源21から出射したレーザパルス、第2のパルスレーザ光源22から出射したレーザパルスの双方が検出される。したがってたとえば、予めシリコン基板1へのレーザパルスの照射間隔を500nsと決定し、レーザ光源21、22に入力するトリガ信号のタイミングを定めておかなくても、第1のパルスレーザ光源21から出射したレーザパルスの照射が完了した後(照射完了を検出した後)に、第2のパルスレーザ光源22にトリガ信号を送信し、第2のパルスレーザ光源22から出射したレーザパルスの照射が完了した後(照射完了を検出した後)に、第1のパルスレーザ光源21にトリガ信号を送信する制御を行うことが可能である。
図10(C)に示す例においては、分岐光学系71が、第1のパルスレーザ光源21と可変減衰器23との間の光路上に配置されている。分岐光学系71によって分岐生成された計測用レーザビームは、CCDカメラ70に入射する。CCDカメラ70で検出された光強度信号は、制御装置40に送信され、制御装置40は、その時間変化に基いて、分岐光学系71の設置位置をレーザパルスが通過したか否かを判定する。そしてたとえばレーザパルスの通過完了を照射完了と同視して、第2のパルスレーザ光源22にトリガ信号を送信し、第2のパルスレーザ光源22からレーザパルスを出射させる。図10(C)に示す構成によれば、第1のパルスレーザ光源21から出射したレーザパルスの照射完了に基いて、第2のパルスレーザ光源22からのレーザパルスの出射を制御することができる。
なお、分岐光学系71を、たとえば第2のパルスレーザ光源22と可変減衰器24との間の光路上に配置した場合には、第2のパルスレーザ光源22から出射したレーザパルスの照射完了に基いて、第1のパルスレーザ光源21からのレーザパルスの出射を制御することが可能である。
図11(A)及び(B)を参照して、制御装置40からパルスレーザ光源21、22に送信されるトリガ信号について説明する。実施例においては、図11(A)に示すように、第1のパルスレーザ光源21へのトリガ信号と、第2のパルスレーザ光源22へのトリガ信号とは、制御装置40から各光源21、22へ独立して送信される。
図11(B)に示すように、たとえば信号の入力タイミングを500nsだけ遅らせるホルダ72を用い、一つの信号で、両光源21、22からレーザパルスを出射させる構成とすることもできる。本図に示す構成によれば、第1のパルスレーザ光源21へのトリガ信号と等しいトリガ信号が、500ns後に第2のパルスレーザ光源22に入力され、第1のパルスレーザ光源21からレーザパルスが出射された500ns後に、第2のパルスレーザ光源22からレーザパルスが出射される。
図12は、実施例によるレーザアニール装置の構成を応用したレーザドリル装置を示す概略図である。たとえば図7に示す構成は、レーザアニールだけでなく、本図に示すレーザドリル等他のレーザ加工装置に応用可能である。
図12に示すレーザドリル装置は、図7のレーザアニール装置とは、高速シャッタ28より下流に位置する伝搬光学系の構成において異なる。本図のレーザドリル装置においては、偏光ビームスプリッタ27を出射したレーザビームは、高速シャッタ28を経由して、透光領域と遮光領域とを備えるマスク73に入射する。マスク73の透光領域を透過したレーザビームは、走査光学系であるガルバノスキャナ74で出射方向を変化され、fθレンズ75で集光されて、XYステージ11上に保持された加工対象物であるプリント基板80に入射する。マスク73の透光領域の位置におけるレーザビームの像が、fθレンズ75によりプリント基板80上に結像される。プリント基板80は、たとえば第1銅層、ガラス繊維の含まれたエポキシ樹脂層、第2銅層がこの順に積層された基板である。第2銅層の表面からプリント基板80に入射するレーザビームによって、第2銅層及びエポキシ樹脂層を貫通する貫通孔が形成される。
たとえば500nsの間隔で出射される第1のパルスレーザ光源21の1ショットめ、第2のパルスレーザ光源22の1ショットめ、第1のパルスレーザ光源21の2ショットめ、第2のパルスレーザ光源22の2ショットめの4ショットで、貫通孔が1つ形成される。
複数のレーザ光源から、短い時間間隔で複数のレーザパルスを出射させることで、穴開け加工を高速に行うことができる。
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。