JP5589524B2 - 芝の生長の予測システムおよび予測方法 - Google Patents
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Description
また、近年、開閉屋根を備えたスタジアムが建設されている。このようなスタジアムでは屋根の開閉状態によってグランドへの日射量が異なるので、芝の生育について評価するのはさらに困難になる。
このような予測システムによれば、スタジアムの芝の生育についての評価を簡易に、且つ、短時間で行うことが可能である。
このような予測システムによれば、予測の精度を高めることができる。
このような予測システムによれば、予測の精度をより高めることができる。
前記芝の前記葉部の存在量と前記根部の存在量とに基づいて、前記光合成シミュレーションを行なうことにより光合成量を算出する光合成量算出ステップと、前記光合成量に応じた光合成産物が前記葉部と前記根部に分配されるときの前記葉部への分配量と前記根部への分配量をそれぞれ算出する分配量算出ステップと、前記光合成産物の前記葉部への分配量に基づいて前記葉部の生長量を算出し、且つ、前記光合成産物の前記根部への分配量に基づいて前記根部の生長量を算出する生長量算出ステップと、前記葉部の生長量に基づいて前記葉部の存在量を変更し、且つ、前記根部の生長量に基づいて前記根部の存在量を変更する存在量変更ステップと、を有し、或る時点の前記存在量変更ステップの演算結果を、前記或る時点以降の他の時点の前記光合成量算出ステップに用いる、ことが望ましい。
このような予測方法によれば、芝の生長の予測の精度を高めることができる。
このような予測方法によれば、芝の光合成の予測の精度を高めることができる。
以下の実施形態では、競技など多目的に利用されるスタジアムの一例としてサッカーのスタジアムについて説明する。
本実施形態のスタジアムは、天然の芝が一面に育成されたピッチと、ピッチの周りの観客席(スタンド)と、ピッチ及びスタンドの上部に設けられた屋根を有している。ここで、ピッチとは、サッカーを行うグラウンドのことであり、ゴールラインとタッチラインに囲まれた四角いエリアの中を指す。なお、本実施形態のスタジアムの屋根は後述するように開閉可能になっている。
このようなスタジアムでは、光を遮るスタンドや屋根があるため、ピッチにおいて日向になる部分と日陰になる部分が生じることがある。また、屋根の開閉の状態によっても、ピッチへの日射量が異なってくる。このため、芝の育成について評価を行うのが困難である。
最初に、群落光合成モデル及び生長モデルについて説明する。
図1は、芝草群落生長モデルの概要についての説明図である。
本実施形態の芝草群落生長モデルでは、気象条件の入力により、後述する群落光合成モデルで各層及び土壌の気象要素を計算することによって純光合成量を計算する。そして、純光合成量に応じた光合成産物を葉と根に分配して、葉と根の生長量を算出するとともに、枯死量および葉の刈取量を差し引いて葉と根の現存量(存在量に相当する)を出力する。また、この時の生長量から生長呼吸量を算出し、純光合成量の計算に使用する。葉現存量のデータは、翌日の群落光合成モデルでの計算に使用される。また、根の現存量から根呼吸量を求め、純光合成量の計算に使用する。また、枯死現存量(リター量)から分解呼吸量を求め、枯死現存量の減少を算定するのに使用する。このような繰り返し計算によって芝の生長(又は衰退)の長期予測を行う。
まず、図1に示す生長モデルの中の群落光合成モデルについて説明する。図2は、芝群落光合成モデルの概要についての説明図である。
芝群落光合成モデルは、図2の群落高 hの芝草群落を鉛直方向に厚さdzの複数の層に分ける多層モデルである。この光合成モデルでは、芝草群落の構造、個葉の特性、地面の特性が明らかである芝草群落について、その群落周辺で観測される気象要素(太陽高度,直達・散乱日射量,長波日射量,気温,湿度,風速,大気CO2濃度)を入力することで、群落内の光合成呼吸速度,CO2交換速度,潜熱(あるいはH2O)交換速度,顕熱(あるいは温度)交換速度,及び気象要素の鉛直分布を求めることができる。
a) 葉面および地面のレイノルズ応力・CO2・H2O・顕熱フラックスモデル
b) 個葉の光合成および気孔コンダクタンスモデル
c) 群落内の放射伝達モデル
d) 葉面および地面のエネルギー収支モデル
e) 個葉の降雨・凝結遮断および蒸散・蒸発モデル
f) 土壌呼吸モデル
芝群落光合成モデルで用いるサブモデルの詳細について説明する。
このモデルは、葉周辺における光以外の応力・フラックスについて算定するものである。
高度z+dzとzの間におけるレイノルズ応力,顕熱フラックス,H2Oガスフラックス,CO2ガスフラックスの差はそれぞれ以下の通りとなる。
(5)式を上記(1)〜(4)式に代入すると、(1)〜(4)式は、z方向についての微分方程式になる。
(3)式中のH2Oガスに関する交換係数(Ce)は、気孔コンダクタンス(gs)に左右される。また、温度の交換が葉の両側(Jarvis and Mcnaughton 1986)で行われる一方で、主に葉面の片側に気孔を持つ植物が多いことから、H2Oガス交換がもっぱら葉面の片側で行われていること(Leuning et al. 1995)を考慮して、交換係数Ceを次式のように葉面境界層コンダクタンス(gb)(mol m-2 s-1) と気孔コンダクタンス(gs)(mol m-2 s-1) から求めた。
(7)〜(9)式において、Cdsはレイノルズ応力,Chsは温度フラックスについてのバルク係数,Tsは地面温度 (K),qSAT(Ts)はTsでの飽和比湿 (g kg-1),βsoilは地面の蒸発効率である。レイノルズ応力と温度フラックスのバルク係数とが同値であるとして以下の数値に固定した。
<b-1.光合成モデルについて>
光合成モデルは、光と湿度で決まる気孔開度から二酸化炭素吸収量を算出し、個葉の光合成速度を算出するものである。
各層における個葉の光合成速度は、生化学に基づく光合成モデル (Farquhar et al., 1980)によって決定されている。
(20)式は気孔の通過における運搬への影響を計算するために、Jarman (1974)とCaemmerer and Farquhar (1981) が発表したものを一つにして使用した。AとCcの両方に合った値は,(11)式で示されている「需要の関数」と(20)式で示されている「供給の関数」の交点で決定される。
気孔コンダクタンス(gs)はPAR,気温,飽差,葉内水分,大気CO2などに影響を受ける(Jarvis 1976)。このうちPARと飽差に依存する気孔コンダクタンスモデルを使用した。ここでの飽差とは葉温における飽和水蒸気圧と大気水上気圧の差をいう。このモデルでは気孔コンダクタンスを次式として表す。
(25)式においてgbwは葉面境界層コンダクタンス (mol H2O m-2 s-1) ,Chは葉の両面からの顕熱の交換係数,uは水平風速 (m s-1),Pは大気圧 (Pa),Rは気体定数 (8.31 J mol-1 K-1),Tは気温 (K)である。
放射伝達モデルは、光の各成分(短波、長波、PAR)が葉を通過・反射・透過する確率をもとに、各層に到達する放射量を算定するものである。言い換えると、放射伝達モデルは、各層の放射環境を算出している。
本実施形態の群落光合成モデルでは群落内部の放射伝達において日射量(短波全域)と PARの直達成分,日射量とPARの散乱成分,及び長波放射量とに分けている。以下に示す PARの伝達式は日射量の直達・散乱成分の伝達式と同じである。しかしながら、PARは短波全域である日射量に比べ葉に吸収されやすいので、PARの散乱成分を見積もる場合には PARに対する葉の反射・透過率(地面については地面の反射率)と、日射量に対する葉の反射・透過率(地面については地面の反射率)と区別しなければならない。
図3は、短波放射量の伝達についての説明図である。なお、PARの伝達は、短波放射の場合と同様に算出することができる。
群落内部の日射量の直達成分(Sb↓)(W m-2)の伝達式は以下のように表せる。
(27)式の右辺の第二項は一層内に分布する物体(本モデルでは,葉のみと仮定する)が水平面に作る単位面積当たりの投影面積を意味する。
(27)式においてGlayer(H)は一層内の葉面積と太陽の入射角に対して垂直な面に投影される面積との比(以下,群落のG関数と書く)を表す。群落全体のG関数(Glayer(H))は各々の個葉におけるG関数(Gleaf(α,β,H,Φs),α:葉の傾斜角(rad),β:方位角(rad),H:太陽高度(rad),Φ:太陽の方角(rad))の集まりからなる。
さらに、葉の方位角が均一に分布すると仮定すれば太陽の方角(Φs)について考慮しなくてすみ、群落全体のG関数は以下の式で表せる。
(28)式においてg(α)は傾斜角の分布密度関数である。個葉のG関数は次式で表せる。
下向きと上向き日射の散乱成分の伝達は、葉による透過や反射による成分を考慮しなければならない。下向き散乱日射量(Sb↓,鉛直下向きを正)(W m-2)は次式で表せる。
地面の日射量は以下のように表す。
(33)式において、αSsoilは地面の日射に対する反射率(アルベド)である。地面のPARは(33)式にそれぞれのPARの成分と地面のPARに対する反射率(αPARsoil)を代入する。
図7は、長波放射量の伝達についての説明図である。長波放射の伝達式は以下のように表すことができる。
(34)、(35)式において、ε0は射出率 (1.0),σはステファン−ボルツマン定数 (5.67*10-8 kg s-3 K-4)である。
地面での上向き長波放射は以下のように表せる。
(36)式において、TSは地面温度である。
図8は、日向と日陰に分けた光合成の計算についての説明図である。左側の図は、PARと光合成速度との関係を示す図であり、右側の図は日向の葉と日陰の葉とによる光合成の概念図である。なお、左側の図において横軸はPARであり、縦軸は光合成蒸散速度である。
図のように、光合成蒸散速度との光(PAR)との関係は非線形である。これは、日向と日陰での光合成の様子が異なるからである。そこで、本実施形態では日向と日陰に分けて、個葉の光合成、気孔コンダクタンス、CO2濃度などを算出するようにしている。
(37)式において、hは群落高でSb↓(h,H)は群落上の直達日射量であり、Sb↓(h,H)=0のときはdfsl=0である。日陰の葉面積指数(dfsh)(m2 m-2) は以下のように表せる。
z+dzからzまでの層の日陰部分に与えられるPARの総量(SPARsh)(μmol m-2 s-1) は、以下のように表せる(Baldocchi and Hutchison, 1986)。
日向部分のPARの総量(SPARsl)(μmol m-2 s-1) は、SPARshに群落上のPARの直達成分(SPARb(h,H)↓)(μmol m-2 s-1) を考慮することで求まる(Baldocchi and Hutchison, 1986)。
(42)式において、S0は太陽定数,ATは大気透過率,Hは太陽高度 (rad) である。地球上の太陽光の総量は、散乱光と直達光の合計である。
エネルギー収支モデルは、葉面への放射量と、葉面からの顕熱・潜熱とのバランスで葉温を算定するものである。
図9は、エネルギー収支についての説明図である。
葉面でのエネルギー収支は、葉面による貯熱と光合成に使われるエネルギーを無視できるとして、以下の式で表せる。
として消費することを表している。
また、地面のエネルギー収支は以下で表せる。
(44)式において、Gは地中伝導熱 (W m-2) である。
図10は、蒸発時および凝結時の水蒸気ガスフラックスの説明図である。
葉温Tc (K) における葉の細胞間隙の水蒸気濃度(qSAT (Tc))(g kg-1) が葉面境界層上の水蒸気濃度(q) (g kg-1) より高い場合には、濡れた葉の表面と裏側から蒸発が起こり、乾いた葉の裏側から蒸散が行われる。細胞間隙の水蒸気濃度が葉面境界層上の水蒸気濃度より低い場合には、凝結(結露)が葉面の裏表全体で起こる。このとき、凝結した水は濡れていた部分では排水され、乾いていた部分では貯められる。群落内の2高低差間の水蒸気ガスフラックス(w’q’)の違いは以下のように表せる。
ここでEPは葉面積(片面)あたりの蒸発速度もしくは凝結速度 (mm LAI-1 s-1) である。
(55)、(56)式においてWLMAX,WUMAXは葉の裏面,表面のそれぞれの水貯蔵能力 (mm LAI-1) である。乾燥した葉の葉面積指数は以下のようになる。
土壌呼吸モデルは、地温で決まる根と微生物の呼吸速度を算定するものである。
土壌呼吸は根呼吸,分解呼吸および生長呼吸から以下のように表す。また、根呼吸および分解呼吸の速度は、アレニウスの式を用いて温度依存度を求めた。
図12及び図13は、本実施形態の芝群落光合成モデルによる光合成量の計算手順を示すフロー図である。なお、図12は、群落の各層の光合成量とCO2フラックスを除く要素の計算手順を示し、図13は、各層の光合成量とCO2フラックスの計算手順を示している。なお、本実施形態では群落高 hが3cmの芝草群落を鉛直方法に12層に分割した。
次に、ステップS108で算出された葉面温度及び地面温度と、ステップS104で設定した暫定値との差が所定範囲内(例えば1%未満)であるかを判断する(S109)。 ステップS108の算出結果(Tc, Ts)と、暫定値との差が1%以上の場合は(S109でNO)、暫定値の値をステップS108の算出結果に置き換えて(S110)、ステップS105〜ステップS108の処理を再度実行する。この繰り返しにより、葉面温度及び地面温度は放射環境に応じた値に収束していく。なお、ステップS105〜ステップS110のループは、層要素算出ステップに相当する。
そして、ステップS108の算出結果と、暫定値との差が1%未満になると(S109でYES)、そのときの各データを保存し、図13のフローに進む。
まず、ステップS103で算出された群落の各層の放射要素、ステップS106で算出された気孔コンダクタンス及び葉面境界層コンダクタンス(gs, gb)、ステップS107で算出された葉の顕熱・潜熱フラックス、及び、ステップS108で算出された葉面温度,地面温度(Tc, Ts)、及び、大気CO2濃度(c)などのデータを取得する(S201)
次に、図2の個葉の特性の4)の光合成モデルのパラメータ、及び、図2の土壌の特性の4)の土壌呼吸モデルのパラメータを定める(S202)。
これらの値に基づいて、「光合成および気孔コンダクタンスモデル」によって群落の各層の個葉の純光合成量(A)を計算する(S203)。
さらに、「レイノルズ応力・顕熱・H2O・CO2フラックスモデル」と「降雨・凝結遮断および蒸散・蒸発モデル」によって、群落の各層の乾いた葉と濡れた葉のCO2フラックスを計算する(S204)。
次に、図1に示す芝草群落生長モデルのうち群落光合成モデル以外の各要素の詳細について説明する。
群落光合成モデルから得られる純光合成量(NPP)(kg C m-2 day-1) を地上部(葉部)と地下部(根部)に分配する。まず、純光合成量を1日に生産されるバイオマス量(biomass)(kg m-2 day-1) に変換するために、バイオマス量に対するCの比率(b2C)で求める。
1日に生産されるバイオマス量:NPP / b2c
生長時の葉への分配:biomass×r_ag (maxlai< LAI< maxlai)
biomass×0 (LAI>maxlai)
biomass×1 (LAI<minlai)
生長時の根への分配:biomass×(1−r_ag) (maxlai< LAI< maxlai)
biomass×1 (LAI>maxlai)
biomass×0 (LAI<minlai)
衰退時の葉への分配:biomass×rn_ag(maxlai< LAI< maxlai)
biomass×0 (LAI>maxlai)
biomass×1 (LAI<minlai)
衰退時の根への分配:biomass×(1−rn_ag) (maxlai< LAI< maxlai)
biomass×1 (LAI>maxlai)
biomass×0 (LAI<minlai)
葉の枯死量(Δlitter_foliage)(kg m-2 day-1) は、衰退時に葉に分配されるバイオマス(枯死量)に、前日の葉の現存量 (kg m-2) と葉の枯死回転率(l_foliage)で算定した枯死回転分を加えて求める。枯死回転率とは1日に現存量が枯死する割合で、芝の持つバイオマスの全てが入れ替わる期間の逆数となる。葉の枯死回転率は季節によって変動するため、気温の閾値を設けて季節による区別をする。気温には過去4日の日平均気温を用いる。また、本実施形態のような競技場の芝の場合、試合の使用頻度によって枯死回転率を調整することで、試合による芝の傷みの影響を反映させる。
葉の枯死量(Δlitter_foliage):衰退時に葉に分配される枯死量+前日の葉現存量× l_foliage
根の枯死量(Δlitter_froot):衰退時に根に分配される枯死量+前日の根現存量× l_froot
1回あたりの刈取量:(LAI−mowlimit)×mowratio×LMA(LAI>mowlimit)
0(LAI<mowlimit)
葉の生長量(Δfoliage):葉に分配されたbiomass−Δlitter_foliage −1日あたりの刈取量
根の生長量(Δfroot):根に分配されたbiomass−Δlitter_froot
LAIの現存量(tlai)(m2 m-2) は、LAIの増加量(ΔLAI)(m2 m-2 day-1)を葉の生長量(Δfoliage)とLMA(leaf mass par area)(kg m-2)の季節変化データ(lmafile)で計算した後、これを前日のLAIの現存量データ(TLAI)(m2 m-2)に加えて計算する。根の現存量(root)(kg m-2)の値は、前日の根の現存量データ(MROOT)(kg m-2)に根の生長量(Δfroot)を加えて計算する。得られた現存量の値は、翌日の群落光合成モデルの計算に使用する。
LAIの増加量(ΔLAI):Δfoliage / lma
LAIの現存量(tlai):TLAI +ΔLAI
根の現存量(root): MROOT +Δfroot
葉のリター量(flitter):FLITTER +Δlitter_foliage−Rdec×(1−r_rdecomp)
根のリター量(rlitter):RLITTER +Δlitter_froot−Rdec×r_rdecomp
葉の生長呼吸速度(μmol CO2 m-2 s-1)および根の生長呼吸速度(μmol CO2 m-2 s-1)は、1日あたりの生長と衰退の状況(kg m-2 day-1)を過去何日間の累積で評価するか(cumday)(day) を決めて、生長量1kgあたりの25℃での生長呼吸速度(rg_foliage, rg_root)(μmol CO2 s-1 kg-1) と生長呼吸速度の活性化エネルギー(ΔHa(Gresleaf),ΔHa(Gresroot))から算定する。ここでの累積生長量は、Δfoliageの累積量から算出する。
葉の生長呼吸速度:cumdayの累積生長量 / cumday / 昨日の葉の現存量×rg_foliage
×葉の生長呼吸温度依存式(累積生長量>0)
0(累積生長量<0)
根の生長呼吸速度:cumdayの累積生長量 / cumday / 昨日の根の現存量×rg_froot
×根の生長呼吸温度依存式(累積生長量>0)
0(累積生長量<0)
生長呼吸速度の関係式と気象データから、葉の生長呼吸量(GRESFOLIAGE)(kg C m-2 day-1) と根の生長呼吸量(GRESROOT)(kg C m-2 day-1) を求める。得られた生長呼吸量は、純光合成量の計算に反映する。
図14は、本実施形態の芝草群落生長モデルの計算手順を示すフロー図である。
なお、生長モデルの入力データは、前述した群落光合成モデルと同じである。また、出力としては、群落光合成モデルの出力データ以外に、各日についての葉の現存量と生長量、根の現存量と生長量、及びリター量(枯死現存量)などが出力される。これらの出力データの一部は、次の日の計算(群落光合成モデル等)に用いられる。
そして、光合成純生産量の値をC換算量からバイオマス換算量に変換し(S306)、「光合成産物の分配について」で説明したように、地上部(葉部)と地下部(根部)へのバイオマス換算量の分配量を計算する(S307)。
そして、「現存量およびリター量の計算について」で説明したように、葉と根の現存量とリター量の計算を行う。
また、前日の葉のリター量(FLITTER)から当日の分解呼吸量を差し引き、ここに当日の葉の枯死量を加えて当日の葉のリター量(flitter)を求める(S312)。
また、前日の根のリター量(RLITTER)から当日の分解呼吸量を差し引き、ここに当日の根の枯死量を加えて当日の根のリター量(rlitter)を求める(S314)。
以上のフローを繰り返し行うことにより、芝の生長・衰退の長期予測が可能になる。
図15A〜図15D及び図16A〜図16Dは、本実施形態の芝草群落生長モデルの計算結果と実測値との比較を示す図である。各図の横軸は時間(日時)であり、図のように2年間分のデータが示されている。
なお、図15Aは、GPP(光合成総生産量)およびNPP(光合成純生産量)の変動を示す図であり、図15Bは、根呼吸・土壌呼吸・葉呼吸・生長呼吸の変動を示す図である。また、図15Cは、根の現存量の変動を示す図であり、図15Dは葉の現存量の変動を示す図である。
また、図16Aは、LAI(葉面積指数)の変動を示す図であり、図16Bは刈り込み(刈取)の積算値を示す図である。また、図16Cは根の生長量の積算値であり、図16Dは、根及び葉の枯死(未分解)量の変動を示す図である。
図15C、図15D及び図16A〜図16Dにおいて、実線は本実施形態の生長モデルの計算結果を示しており、プロットは実測値を示している。このように、芝草群落の生長に関して、本実施形態の生長モデルを用いることによって、年間を通じてほぼ実測に近い値を予測することが可能である。
前述した芝群落光合成・生長モデルは、地点毎に1次元モデルを実行し、光合成と呼吸による光合成産物量、葉や根などの乾物重量の時間的な変化を計算する仕様になっている。
本実施形態では、ピッチを複数の格子に分け、鉛直1次元というモデルの基本構造は変更せずに、格子点数分の計算を自動で行うようにした。これにより、ピッチ内の平面分布など、2次元モデルに準じた計算ができる。
本実施形態の予測システムは、入力部101と、記憶部102と、予測部103と、出力部104とを備えている。なお、本実施形態の予測システムは、パーソナルコンピュータ又はサーバ装置などのコンピュータを用いて構成されている。
記憶部102には、入力部101による入力データやパラメータ、及び予測部103の演算結果などが記憶される。
予測部103は、入力部101の入力データや、記憶部102に記憶されたパラメータ及びデータを用いて芝の生長に関する演算(予測)を行う。なお、予測部103は、前述した群落光合成モデル(光合成シミュレーション)や生長モデル(生長シミュレーション)を行う。また、本実施形態の予測部103は、スタジアムのピッチ内の複数の格子点について後述する日射量分布の演算や、遮光率分布の演算を行う。
本実施形態の予測部103は、まず、ピッチ内の各格子点における日射量の分布を求め、その日射量の時系列データと遮光率の分布データを前述した群落光合成・生長モデルに適用したシミュレーションを格子点毎に行う。こうして、ピッチ面内の芝の生長を二次元的に予測する。
光合成・生長モデルでは、気温,湿度,降水量とともに、芝層に入射する日射量の時系列が基本的な入力データのひとつである。本実施形態では、これらは30分毎に与えられる。ここでは、ピッチ内の各点における日射量(入射太陽放射エネルギーフラックス密度:単位W m-2)の30分毎の時系列データの作成方法を示す。
任意の日時のピッチ内の日射量の分布は、そのときの太陽高度,天候,および屋根の開閉の状況で決まる。
図19は、雲による日射の散乱、減衰の概念図である。
ピッチにそそぐ日射は、直達日射と散乱日射からなる。日向では日射量の多くの割合は直達日射であるが、日陰はすべて散乱成分である。そのため、スタジアム内の日照を計算するには、直達成分と散乱成分との両方を考える必要がある。直達成分は雲で遮られたり、吸収されたりして、途中で減衰しながら地上に達する。散乱日射は雲や大気中の塵などで散乱を受けて地上に達する成分で、同じ雲量でも雲の配置などによって複雑に変化する。日射量を理論的に散乱成分と直達成分に分けるには、きわめて複雑な放射伝達計算を行う必要がある。そのため、ここでは次の方法で日射量を散乱成分と直達成分に分けた。
図20は、全天日射量の直達光成分、散乱光成分への分離の考え方の説明図である。
直達成分は、太陽の天文学的位置から決まる大気上端での日射量に対して、清浄な大気の分子散乱・水蒸気の吸収による減衰、雲による遮りを次の形の経験式で与える。
散乱成分は、全天日射量(現地観測がある場合は現地観測値、それが利用できない場合は最寄り気象台)から直達日射量を差し引いたものを散乱成分とした。
照度計算では、日射を直達成分と散乱成分(天空日射)に分ける必要がある。全天日射に対する直達日射と散乱日射との割合は、雲量、雲の形状(薄い雲,塊状の雲,層状の雲など)、太陽に対する位置によって複雑に変化し、雲量に対して一意に決めることはできない。例えば、観測者から見て北の空に白く輝く雲があり、太陽を含む南側の空が晴れているときは、北側の雲からの反射光のため、観測者が受ける全天日射は快晴時よりも多くなり得る。雲量は少なくても、太陽が隠れる位置に雲があると日射は著しく低下する。
で与えられる。Q0は天文学的に決まる大気外での太陽光に垂直な面の受ける日射エネルギーフラックス(W m-2),cosZは、太陽の天頂角の余弦,agas,rは、それぞれ大気による太陽放射の吸収率,大気分子による反射率である。(64)式は、快晴時の地表面全天日射を表している。吸収と反射とを差し引いたものが地面に到達する。地上で観測される全天日射量は、直達日射成分D,散乱日射成分Sからなる。
ここで、
a1=0.925 (0<CcL<0.3), 0.8 (0.4<CcL<0.7), 1.0 (0.8<CcL<0.95), 1.0 (0.95<CcL<1)
a3=0.05 (0<CcL<0.3), 0.1 (0.4<CcL<0.7), 0.1 (0.8<CcL<0.95), 0.03 (0.95<CcL<1)
rdir=0.8,b=0.8 (但し、0.95<CcL<1では、ba1=0.95となるように与えてある。)
となる。理論的に計算される快晴時の全天日射に対する直達と散乱の割合はそれぞれ、
となる。これらの分離方法に従うと、モデルで計算される日射量は、
となり、直達成分と散乱成分とを合わせたものは、気象台の実測に等しくなる。
表5は、前述した群落光合成・生長モデルにおける表2、表3のパラメータのうち遮光率依存性のあるものをまとめたものである。なお、ある地点の遮光率は、その地点における年間の水平面積算日射量を、屋外平地の年間水平積算日射量で除した比率である。すなわち、光を遮光する物体によって、どれだけ光が減っているかを示すものである。
また、各図において左が南であり、上が西である。また、各図はピッチを示しており、縦軸・横軸の数字は長さ(m)である。
図26は、本実施形態の予測システムによる処理の流れを示すフロー図である。
まず、予測部103は、ピッチ内日射分布計算プログラムによって、例えば1月5日から12月25日までの期間について10日毎(1/5, 1/15, 1/25, etc)に、4つの天候区分(表4の雲量による区分)と図18の3つの屋根形状(開,閉,半開)の組み合わせ(12パターン)のすべてについて、30分毎のピッチ内の日射量分布の時系列を計算する(S401)。したがって、10日毎,30分毎のピッチ内日射量分布が12通り計算されることになる。
S=S(mm, dd, time, roof, weather, i,j)
ここに示したように、光合成シミュレーションに先立ってこうした日射量の時系列データセットを予め用意しておく(S402)。
図27A、27B及び図28A、28Bは、本実施形態のシミュレーション結果を示す図である。この例では、2007年の1月1日に全面一様(LAI: 2.5 m2 m-2, 根: 0.5 kg m-2)でスタートし、その後、月別でシミュレーションを行っている。図27A、27Bは、それぞれ1月と8月の日射量分布(月積算日射量)を示している。また、図28A、28Bは、それぞれ1月と8月の生長シミュレーション結果(単位面積当たりの葉と根の質量の分布)を示している。なお、図28Aおよび図28Bにおいて左側の図は、葉についてのシミュレーション結果であり、右側の図は根についてのシミュレーション結果である。
103 予測部、104 出力部
Claims (8)
- 天然の芝が育成されたグラウンドと、前記グラウンドへの光を遮る物体と、を備えたスタジアムにおける芝の生長の予測システムであって、
グラウンド面内に定められた複数の格子点における日射量の時系列データと前記物体による光の遮光率の分布データを記憶する記憶部と、
前記日射量の時系列データ及び前記遮光率の分布データを用いることによって、前記芝についての光合成シミュレーションおよび生長シミュレーションを格子点毎に行ない、前記芝の生長を面的に予測する予測部と、
を有することを特徴とする予測システム。 - 請求項1に記載の予測システムであって、
前記物体は、前記スタジアムの屋根を含む
ことを特徴とする予測システム。 - 請求項2に記載の予測システムであって、
前記屋根は開閉可能に設けられている、
ことを特徴とする予測システム。 - 請求項3に記載の予測システムであって、
前記日射量は、前記屋根の開閉状態と雲量とに基づいて算出される
ことを特徴とする予測システム。 - 請求項1乃至請求項4の何れかに記載の予測システムであって、
前記予測部は、前記遮光率に応じて、前記光合成シミュレーションおよび前記生長シミュレーションの所定パラメータを変更する
ことを特徴とする予測システム。 - 天然の芝が育成されたグラウンドと、前記グラウンドへの光を遮る物体と、を備えたスタジアムにおける芝の生長の予測方法であって、
グラウンド面内に定められた複数の格子点における日射量の時系列データと前記物体による光の遮光率の分布データを記憶する記憶ステップと、
前記日射量の時系列データ及び前記遮光率の分布データを用いることによって、前記芝についての光合成シミュレーションおよび生長シミュレーションを格子点毎に行ない、前記芝の生長を面的に予測する予測ステップと、
を有することを特徴とする予測方法。 - 請求項6に記載の予測方法であって、
前記芝は葉部と根部を有し、
前記生長シミュレーションは、
前記芝の前記葉部の存在量と前記根部の存在量とに基づいて、前記光合成シミュレーションを行なうことにより光合成量を算出する光合成量算出ステップと、
前記光合成量に応じた光合成産物が前記葉部と前記根部に分配されるときの前記葉部への分配量と前記根部への分配量をそれぞれ算出する分配量算出ステップと、
前記光合成産物の前記葉部への分配量に基づいて前記葉部の生長量を算出し、且つ、前記光合成産物の前記根部への分配量に基づいて前記根部の生長量を算出する生長量算出ステップと、
前記葉部の生長量に基づいて前記葉部の存在量を変更し、且つ、前記根部の生長量に基づいて前記根部の存在量を変更する存在量変更ステップと、
を有し、或る時点の前記存在量変更ステップの演算結果を、前記或る時点以降の他の時点の前記光合成量算出ステップに用いる、
ことを特徴とする予測方法。 - 請求項6又は請求項7に記載の予測方法であって、
前記芝は葉部と根部を有し、
前記光合成シミュレーションは、
気象データを取得する気象データ取得ステップと、
前記芝の形状、葉の特性、及び土壌の特性に関する各データを定める芝草環境設定ステップと、
前記葉部を鉛直方向に複数の層に分け、前記気象データ取得ステップ及び前記芝草環境設定ステップの各データに基づいて、各層の光の放射環境を算出する放射環境算出ステップと、
各層の葉温及び地面温度が前記放射環境に応じた温度になるときの葉の気孔コンダクタンス、葉面境界層コンダクタンス、顕熱フラックス、潜熱フラックスを層毎に算出する層要素算出ステップと、
を有し、各層についての前記放射環境算出ステップの算出結果、及び、前記層要素算出ステップの算出結果に基づいて前記光合成量が算出される、
ことを特徴とする予測方法。
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