JP4928746B2 - 二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法 - Google Patents

二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法 Download PDF

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Description

本発明は、二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、森林等における土壌呼吸と植物の地上部の呼吸との二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法に関する。
森林は、木材供給、水源涵養、気候緩和、景観提供など人間の社会生活に対して多面的な役割を担っているが、近年、地球温暖化をはじめとする気象変動予測や温暖化対策に関連して森林の有する二酸化炭素の吸収(固定とも呼ばれる)能力が重要視されている。
特に、「気候変動枠組条約京都議定書」(1997年採択)により陸上植物による二酸化炭素吸収量が二酸化炭素排出量の削減量として取り扱われることが国際的に認められ、京都議定書の発効(2005年2月16日)を受け、森林を吸収源として利用するための方法論について政策的な議論が具体的に進行し始めた。
しかしながら、現実的には、森林自体の二酸化炭素吸収能力の大小や継続性に関して不確定な要素が大きいことも指摘されている。
このように、二酸化炭素の吸収による自然林や植栽等の地球温暖化防止機能が重視されるようになり、アメニティや景観の観点だけからでなく環境保全の観点から植栽計画が論じられるようになると共にその機能評価を定量的に行う方法が検討されている。
従来の植栽の有する環境保全機能の評価方法としては、例えば植栽計画支援方法及びプログラムがある(特許文献1)。
この植栽計画支援方法は、図4に示すように、植物の種類別に植物齢と三次元形状との関数を導出してコンピュータに記憶し(S101)、植物毎に植栽地上の位置と種類と三次元形状とをコンピュータに入力し(S102)、植物毎の位置と種類と三次元形状とが記録された植栽計画図を作成する(S103)。そして、植物の種類別の三次元形状に応じた材積推定式と、光合成補正係数を考慮した材積に応じた含有炭素量推定式とを用いて植物の大気中二酸化炭素の固定量を算出する(S104)。また、植物の二酸化炭素固定量と大気汚染物質吸収量との関係式を用いて植栽による大気汚染物質の吸収量等を算出する(S105〜S109)ものである。
特開2004−305069号広報
特許文献1の植栽計画支援方法では、植栽の有する環境保全機能の評価の一つとして植物の光合成に着目した二酸化炭素の固定量は算出しているが、植栽に関わる生態系呼吸に着目した二酸化炭素の放出量は算出してはいない。
しかしながら、森林の二酸化炭素吸収メカニズムの解明及び環境保全機能の適確な評価のためには、光合成による二酸化炭素吸収量の評価だけでなく森林内の二酸化炭素放出量の評価が重要である。即ち、森林は光合成による二酸化炭素の吸収と同時に生態系呼吸により二酸化炭素を放出しているため、二酸化炭素の収支である純生態系交換量での評価が必要である。
また、純生態系交換量は二酸化炭素収支における森林の役割を定量的に評価する指標となり得るが、評価結果の妥当性の検証には純生態系交換量の構成要素を明らかにし、個々の収支の整合性を確認することが必要である。
更に、純生態系交換量は主に光合成と生態系呼吸(植物の呼吸と土壌微生物の呼吸の合計)で構成されるが、温暖化等の環境変動が起こった場合の光合成と生態系呼吸の環境変化に対する反応はそれぞれ異なると考えられる。したがって、純生態系交換量の変化を予測したり、環境が変動すると共に純生態系交換量が変化する状況下における森林の温暖化抑制効果を予測したりする場合には、構成要素のそれぞれが与える影響を個々に予測評価することが必要である。
また、前記の通り純生態系交換量の構成要素毎の評価が重要であるところ、特に二酸化炭素排出源である生態系呼吸は森林生態系における純生態系交換量を解析する上で最も重要な構成要素の一つである。更に、地球温暖化影響予測時のパラメータとしても生態系呼吸の重要性が認識されている。そして、生態系呼吸は大きく土壌呼吸と地上部の呼吸(主に植物の地上部の呼吸)とに分けられるため、温暖化時の森林による二酸化炭素の吸収と放出を適確に評価するためには土壌呼吸と植物の地上部の呼吸のそれぞれについて評価することが必要である。
そこで、本発明は、森林内の生態系呼吸の構成要素であり二酸化炭素排出源である土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の二酸化炭素放出量を分離して評価することが可能な方法を提供することを目的とする。また、土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比を推定可能な方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明の二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法は、生態系呼吸により放出される二酸化炭素の量cE、土壌呼吸により放出される二酸化炭素の量csoil及び植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の量cavの間の関係をcE=csoil+cavとし、並びに、生態系呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13CE、土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13Csoil及び植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13Cavの間の関係式をδ13CE×cE=δ13Csoil×csoil+δ13Cav×cavとし、δ13CE、δ13Csoil及びδ13Cavの値から土壌呼吸により放出される二酸化炭素の量csoilと植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の量cavの比率を算出するようにしている。
したがって、この二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法によると、二酸化炭素の炭素安定同位体比の値から、森林内の生態系呼吸の構成要素であり二酸化炭素排出源である土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の二酸化炭素放出量の構成比率を算出することができる。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法において、土壌空気の二酸化炭素の炭素安定同位体比と土壌空気の二酸化炭素濃度の少なくとも2つ以上の組み合わせのデータ及び単純2成分混合モデルを用いて土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13Csoilを推定するようにしている。この場合には、土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比を推定するための試料の採取について、試料採取地点を選択する上での制限を受けず、試料採取を容易に行うことが可能となる。
以上説明したように、本発明の二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法によれば、土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の二酸化炭素放出量の構成比率を算出することができる。それにより、生態系呼吸の構成要素である土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の二酸化炭素放出量の分離評価が可能となり、例えば温暖化時の森林による二酸化炭素の吸収と放出を適確に評価することが可能となる。
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
図1に、本発明の二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法の実施形態の一例を示す。
この二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法は、生態系呼吸により放出される二酸化炭素の量cE、土壌呼吸により放出される二酸化炭素の量csoil及び植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の量cav、並びに、生態系呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13CE、土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13Csoil及び植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13Cavの間の関係式をδ13CE×cE=δ13Csoil×csoil+δ13Cav×cavとし、δ13CE、δ13Csoil及びδ13Cavの値から土壌呼吸により放出される二酸化炭素の量と植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の量の比率を算出するようにしている。
安定同位体は同一元素でありながら中性子数の違いにより質量の異なる同位体であり、放射性同位体と異なり崩壊等による変化が起こらないため自然中に安定して存在する。
安定同位体の量は多量同位体に対する微量同位体の割合として安定同位体比で表されるが、主に質量数の違いに起因する移動や輸送しやすさの違いにより、化学、物理、生物反応過程において安定同位体比に変化が生じる。そのため、特定の質量を持つ同位体を単純なトレーサーとして利用するだけでなく、安定同位体比の変動を反応速度等の指標として利用することもできる。そして、反応の前後における安定同位体比の変化反応を同位体分別と呼び、物質収支における各収支項の安定同位体比はこの同位体分別の程度により決定される。
微量同位体の割合は多量同位体に比較して極僅かであるため、安定同位体比は非常に小さな値を示すことになる。そのため、一般的に、未知試料の安定同位体比は国際的に定められた標準物質の安定同位体比に対する千分率としてδ値(‰)で示される。
炭素のδ値については、PDB(Pee Dee Belemnite)と呼ばれる米国サウスカロライナ州のPee Dee層から産出したイカの仲間であるbelemnite(矢石類)の化石に含まれる炭酸カルシウムが国際標準試料とされている。しかしながら、既に同試料の供給ができないことから同試料を用いて値付けされた試料が標準試料として用いられる。
炭素の安定同位体には質量数12と13(以下、それぞれ12C、13Cと表記する)が存在する。
本発明においては、検定機関(国際原子力機関(以下、IAEAと表記する))により値付けされた試料を標準試料として用い、炭素のδ値を下記の(式1)の定義により示す。
δ13C=([13C/12C]sample/[13C/12C]std−1)×1000 (式1)
ここで、δ13C:炭素安定同位体比
[13C/12C]sample:未知試料の炭素安定同位体比
[13C/12C]std :標準試料の炭素安定同位体比
本発明の推定方法の適用にあたっては、まず、調査対象の森林内の大気試料を採取する(S1)。
大気試料は、大気中の二酸化炭素の濃度が異なる少なくとも2つ以上の試料を採取する。具体的には例えば、森林内の異なる地点で採取するようにしても良いし、同一地点の異なる高さで採取するようにしても良いし、若しくは異なる時間に採取するようにしても良い。ただし、二酸化炭素放出量の構成比率が大きく変動しないようにすることを考慮して、例えば24時間以内に採取することが望ましい。
大気試料を採取する高さは、例えば、調査対象の森林の林冠構成木及び中低木の樹冠層の分布高さ等を考慮して地表面から数m〜林冠上20m程度の範囲で設定することが望ましい。
大気試料の採取方法は、森林内大気を採取して後の分析まで外部大気あるいは二酸化炭素ガスが流入することがないと共に大気試料あるいは二酸化炭素ガスが漏れない状態で、即ち密封した状態で保存可能な方法であればどのような方法であっても構わない。例えば、ポンプ等を用いてガラス製容器に大気を吸引採取し、外部大気が流入しないように密封する方法を用いることができる。
次に、森林内の土壌中の空気試料を採取する(S2)。
土壌空気試料も、土壌空気中の二酸化炭素の濃度が異なる少なくとも2つ以上の試料を採取する。具体的には例えば、森林内の異なる地点で採取するようにしても良いし、同一地点の異なる深さで採取するようにしても良いし、若しくは異なる時間に採取するようにしても良い。ただし、S1の大気試料の採取と同じ時間帯に採取することが望ましい。
土壌空気試料を採取する深さは、例えば、調査対象の森林の構成木の根の張り具合や不透水層の存在等を考慮して地表面から数m程度の範囲で設定することが望ましい。
土壌空気試料の採取方法は、土壌空気を採取して後の分析まで外部大気あるいは二酸化炭素ガスが流入することがないと共に土壌空気試料あるいは二酸化炭素ガスが漏れない状態で、即ち密封した状態で保存可能な方法であればどのような方法であっても構わない。例えば、土壌空気サンプリング用のプローブを土壌中に埋設し、そのプローブと真空引きしたガラス製容器をチューブで接続して負圧によりボトル内に土壌空気を流入させて採取し、外部大気が流入しないように密封する方法を用いることができる。
続いて、S1で採取した大気試料及びS2で採取した土壌空気試料のそれぞれについて二酸化炭素の炭素安定同位体比を測定する(S3)。
二酸化炭素の炭素安定同位体比の測定は、例えば、質量分析法や赤外分光法を用いて行うことができる。質量分析法は精度の高い方法であり、自然中に存在する二酸化炭素の安定同位体比の微少な変動を測定するのに適している方法である。一方、赤外分光法は簡便な反面、精度が低く、自然中に存在する二酸化炭素の炭素安定同位体比の測定には向かない。
なお、質量分析法による具体的な測定方法として、例えば以下の手順からなる測定方法を用いることができる。
1)二酸化炭素ガスを質量分析計に導入する。
2)真空中における質量数45と46の二酸化炭素分子の挙動の違いを利用し、両質量数の分子を分離する。
3)分離した分子それぞれをファラデーカップに衝突させ、電気的な信号の比率として安定同位体比を表す。
なお、上記1)において二酸化炭素分子をできるだけ不純物無く質量分析計に導入した方が精度が上がるため、質量分析計への導入前に精製処理を行う場合もある。精製処理としては、例えば、ガスクロマトグラフィーと同様の分離カラムによる分離や、手作業による分離等を用いることができる。
また、上記2)において二酸化炭素分子を分離する際には、例えば、電価を帯びた分子を加速して磁界をかけたときの飛行軌道が異なるという挙動の違いを利用する方法を用いることができる。
なお、一つの大気試料及び土壌空気試料のそれぞれについてS3の測定及び後述するS4の測定のそれぞれを行う必要があるので、S3の測定で大気試料・土壌空気試料の全てを使わずにS4の測定用の試料を残しておくようにする。また、S1・S2で試料を採取する際に例えば2つの容器を連結して試料を採取することにより同一条件の試料を2つ採取するようにしても良い。ただし、炭素安定同位体比を測定する装置が、炭素安定同位体比の測定と同時に二酸化炭素濃度を測定することができる場合にはこの限りではない。
また、二酸化炭素の炭素安定同位体比の測定の前に、S1・S2で採取した大気試料・土壌空気試料のうちS3の測定に用いる分について二酸化炭素の分離精製を行っても良い。
試料の二酸化炭素の分離精製は、試料から二酸化炭素を分離精製できる方法であればいずれの方法であっても良い。例えば、以下の手順からなる真空精製ラインを用いた方法を用いることができる。
1)真空ライン内に採取した試料を導入する。
2)液体窒素(−195.8℃=77.4K以下)を用いて主要成分をトラップ内に凍結固定し、不要成分(主に窒素)を精製ライン外に排気する。
3)同トラップをドライアイス/エタノール(−78℃)に浸漬し、水分以外の成分を気化させる。
4)気化した成分を別のトラップに拡散させ、その中に含まれる二酸化炭素を液体窒素により凍結固定する。
5)気体として残留する不要成分を精製ライン外に排気する。
6)トラップを加熱し、凍結固定された二酸化炭素を気化させるとともに、液体窒素に浸漬したパイレックスガラス製(パイレックスは登録商標)の直管バイアル中に拡散させ凍結固定する。
7)直管バイアル開口部を溶融し二酸化炭素を密封する。
また、S1で採取した大気試料及びS2で採取した土壌空気試料のそれぞれについて二酸化炭素濃度を測定する(S4)。
S4では、S3の測定で残しておいた大気試料・土壌空気試料を用いて二酸化炭素濃度の測定を行う。なお、S3で二酸化炭素の分離精製を行った場合には、分離精製をしていない大気試料を用いて二酸化炭素濃度の測定を行う。
二酸化炭素濃度の測定は、例えば、非分散形赤外線分析計やガスクロマトグラフィーにより行うことができる。
非分散型赤外線分析計は、二酸化炭素の赤外線吸収特性を利用する方法であり、試料気体(大気)を密閉容器の中に入れた上で赤外線を照射し、その赤外線の減衰量から二酸化炭素の量を測定する方法である。なお、非分散型赤外線分析計を用いた場合には、測定した試料が汚染されないために分析試料をそのまま炭素安定同位体比の測定に使用することが可能である。
ガスクロマトグラフィーは、分析試料をヘリウム等のガスに混ぜて分離カラムを通すことで分子による分離カラム中の移動速度の違いを利用して二酸化炭素を分離し、それを検出器で測定する方法である。
以上のS3及びS4により、S1で採取した大気試料及びS2で採取した土壌空気試料のそれぞれについて、二酸化炭素の炭素安定同位体比と二酸化炭素濃度の組み合わせのデータが得られる。なお、S1及びS2で述べた通り、大気若しくは土壌空気中の二酸化炭素濃度が異なる少なくとも2つ以上の大気試料及び土壌空気試料を採取するようにしているので、大気試料及び土壌空気試料のそれぞれについて少なくとも2つ以上の組み合わせのデータが得られる。
続いて、生態系呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比の推定を行う(S5)。なお、以下においては適宜、炭素安定同位体比をδ13Cと表記する。
生態系呼吸の量は、1ヶ月程度の短期間に限ると系内に含まれる素過程の構成(植物の呼吸、有機物の分解等)に関係なく、温度の関数として単一の式で表現できることが経験的に知られている。そこで、生態系呼吸により放出される二酸化炭素のδ13Cは、このような単純化された関係を前提として、植物の呼吸と有機物の呼吸を分離せずに上空大気と生態系呼吸の二酸化炭素を起源とする単純2成分混合モデルにより推定することができる。
植物が光合成で二酸化炭素を取り込む際には軽い炭素である12Cが優先的に取り込まれ、植物内のδ13Cが低下する。そのため、光合成により生産される炭水化物(有機物)は大気よりも低いδ13Cを持つことになる。また、呼吸は光合成により生産された炭水化物を基質として利用するので、生態系呼吸により放出される二酸化炭素のδ13Cは上空大気よりも低い値を持つことになる。単純2成分混合モデルは両者のこの差を利用して、混合率から生態系呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cを推定する方法である。
二酸化炭素の供給源が上空大気と森林内の排出源である生態系呼吸の2つであると仮定すると(式2)及び(式3)の関係が成り立ち、(式2)をcsについての式に変形して(式3)に代入することにより(式4)が導かれる。
ca=cb+cs (式2)
δ13Ca×ca=δ13Cb×cb+δ13Cs×cs (式3)
δ13Ca=cb(δ13Cb−δ13Cs)×(1/ca)+δ13Cs (式4)
ここで、ca:大気中の二酸化炭素濃度
cb:バックグラウンド大気中の二酸化炭素濃度
cs:森林内の排出源からの供給による二酸化炭素濃度の増加量
δ13Ca:大気中の二酸化炭素の炭素安定同位体比
δ13Cb:バックグラウンド大気中の二酸化炭素の炭素安定同位体比
δ13Cs:森林内の排出源からの供給による二酸化炭素の炭素安定同位体比
上記の関係式は一般的にKeeling Plotと呼ばれ、大気試料から得られるδ13Ca及びcaの関係から、δ13Caをy軸、1/Caをx軸とする座標軸における(式4)のy軸切片として森林内の排出源からの供給による二酸化炭素の炭素安定同位体比(δ13Cs)を求めることができる(Keeling,C.D.:The concentration and isotopic abundances of atmospheric carbon dioxide in rural areas,Geochem.Cosmochim.Acta.,13,322−334,1958.、及び、Keeling,C.D.:The concentration and isotopic abundance of carbon dioxide in rural and marine areas,Geochem.Cosmochim.Acta.,24,277−298,1961.)。
上記の考え方に基づき、S3及びS4により得られた大気試料の二酸化炭素の炭素安定同位体比(δ13Ca)及び二酸化炭素濃度(ca)の組み合わせのデータを用い、(式4)のy軸切片として森林内の生態系呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比(δ13Cs)を推定する。
(式4)のy軸切片としてのδ13Csは、例えば最小二乗法を用いて求めることができる。具体的には例えば、cb(δ13Cb−δ13Cs)を定数K並びに1/Caをxとすると(式4)は(式5)のようになる。
δ13Ca=K×x+δ13Cs (式5)
ここで、K=cb(δ13Cb−δ13Cs)
x=1/ca
したがって、(式5)にδ13Caとcaの少なくとも2つ以上の組み合わせのデータを代入して最小二乗法を用いることによりδ13Csを求めることができる。
続いて、土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比の推定を行う(S6)。
本発明では、前記の単純2成分混合モデルの考え方を用いて土壌空気中の二酸化炭素の炭素安定同位体比と二酸化炭素濃度の関係から土壌呼吸起源の二酸化炭素の炭素安定同位体比の推定を行う。
土壌呼吸起源の二酸化炭素の炭素安定同位体比の推定に単純2成分混合モデルを用いることにより、試料採取地点を選択する上での制限を受けず、試料採取を容易に行うことが可能となる。
土壌呼吸起源の二酸化炭素の炭素安定同位体比の推定においては、変数を(式6)のようにして前記のKeeling Plotの関係式を適用する。
δ13Cas=cbs(δ13Cbs−δ13Css)×(1/cas)+δ13Css (式6)
ここで、cas:土壌空気中の二酸化炭素濃度
cbs:バックグラウンド土壌空気中の二酸化炭素濃度
css:森林土壌内の排出源からの供給による二酸化炭素濃度の増加量
δ13Cas:土壌空気中の二酸化炭素の炭素安定同位体比
δ13Cbs:バックグラウンド土壌空気中の二酸化炭素の炭素安定同位体比
δ13Css:森林土壌内の排出源からの供給による二酸化炭素の炭素安定同位体比
S3及びS4により得られた土壌空気試料の二酸化炭素の炭素安定同位体比(δ13Cas)及び二酸化炭素濃度(cas)の少なくとも2つ以上の組み合わせのデータを用い、(式6)のy軸切片として森林内の土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比(δ13Css)を推定する。
(式6)のy軸切片としてのδ13Cssは、前記の生態系呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比の推定と同様に例えば最小二乗法を用いて求めることができる。
続いて、森林内植物の葉に含まれる炭素の炭素安定同位体比を測定する(S7)。
生態系呼吸のうち植物の呼吸(植物の地上部の呼吸及び根の呼吸)により放出される二酸化炭素の基質は、直前(数日前程度)の光合成により固定された二酸化炭素から生成された炭素化合物であると考えられる(Ekblad,A. and Hogberg,P.:Natural abundance of 13C in CO2 respired from forest soils reveals speed of link between photosynthesis and root respiration,Oecologia,127,305−308,2001.、及び、Bowling,D.R.,他:13C content of ecosystem respiration is linked to precipitation and vapor pressure deficit,Oecologia,131,113−124.参照)。
したがって、数日スケールで水ストレス等が生じず光合成産物の炭素安定同位体比が大きく変化しない条件下においては、光合成と呼吸により移動する二酸化炭素の炭素安定同位体比は等しくなる。その結果、植物葉の炭素安定同位体比と植物の地上部の呼吸により大気中に放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比はほぼ等しくなると考えられる。
上記の考え方に基づいて、植物の地上部の呼吸により大気中に放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比として森林内植物の葉に含まれる炭素の炭素安定同位体比を測定する。
植物葉に含まれる炭素の炭素安定同位体比の測定は、例えば、元素分析計を用いて植物試料を完全燃焼させて二酸化炭素を発生・分離し、その二酸化炭素に対して前記の質量分析法を用いることにより行うことができる。
ここで、植物葉に含まれる炭素の炭素安定同位体比は、同一の植物の葉であっても葉の高さにより異なる場合がある。そこで、複数の高さの葉について炭素安定同位体比の測定を行い、例えば高さ別の炭素安定同位体比を平均するなどして用いることが望ましい。
なお、調査対象の森林が複数種類の植物から構成されている場合でも、植物葉に含まれる炭素の炭素安定同位体比の測定はいずれの植物を用いても構わない。好ましくはそれら構成植物のうち構成比が大きい植物を用いることである。また、複数種類の植物葉の炭素安定同位体比を測定し、それらを単純平均したものを用いても良いし、森林内の構成比で重み付け平均したものを用いても良い。
続いて、土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の比率の算出を行う(S8)。
生態系呼吸、土壌呼吸及び植物の地上部の呼吸のそれぞれにより放出される二酸化炭素の量と炭素安定同位体比の間には(式7)の関係が成り立つ。
δ13CE×cE=δ13Csoil×csoil+δ13Cav×cav (式7)
ここで、cE :生態系呼吸の二酸化炭素の量
csoil:土壌呼吸の二酸化炭素の量
cav :植物の地上部の呼吸の二酸化炭素の量
δ13CE :生態系呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比
δ13Csoil:土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比
δ13Cav :植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比
ここで、生態系呼吸の二酸化炭素の量は、森林内の排出源からの供給による二酸化炭素の増加量にほぼ等しいと考えることができる。つまり、(式8)の関係が成り立つ。
cE=csoil+cav (式8)
推定された各呼吸成分の炭素安定同位体比の値と(式7)及び(式8)の関係を用いることにより、生態系呼吸の量における土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の比率を算出することができる。
具体的には、土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の全体量である生態系呼吸cEを例えば1とすると、(式8)は(式9)のように変形することができる。
csoil=1−cav (式9)
そして、(式9)を(式7)に代入することにより(式10)が得られる(なお、前記の通り前提としてcE=1である)。
δ13CE=δ13Csoil×(1−cav)+δ13Cav×cav (式10)
よって、(式10)のδ13CEとしてS5で推定したδ13Csを用い、δ13CsoilとしてS6で推定したδ13Cssを用い、更にδ13CavとしてS7で測定した植物葉に含まれる炭素の炭素安定同位体比を用いることによりcavの値を求めることができる。
更に、上記で求めたcavの値と(式9)からcsoilの値を求めることができる。そしてこれらの値は、全体量であるcEを1としたときの土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の比率である。
以上により、生態系呼吸起源の二酸化炭素、土壌呼吸起源の二酸化炭素及び植物体中の炭素のそれぞれの炭素安定同位体比を用いることにより、生態系呼吸の構成要素である土壌呼吸と植物の地上部の呼吸による二酸化炭素の排出比率が求められる。
これらの炭素安定同位体比を用いた解析手法は生態系呼吸起源の二酸化炭素の再吸収や森林内の二酸化炭素貯留の解析にも適用可能であり、温暖化時の森林による二酸化炭素の吸収と放出を適確に評価することが可能となる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、植物の地上部の呼吸により大気中に放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比として植物葉の炭素安定同位体比を用いるようにしているが、これに限られず、樹皮や樹皮下の形成層を用いることや、植物から放出される二酸化炭素を直接捕集して用いることもできる。
図2及び図3を用い、本発明を実際の森林における二酸化炭素放出量の構成比率の算定に適用した例について説明する。
(調査対象)
本実施例では、長野県北佐久郡の浅間山の東麓、長倉山国有林内に位置する落葉広葉樹林を調査対象とした。
調査対象の森林の優占樹種はダケカンバ(Betula ermanii)で、ミズナラ(Quercus mongolica)やヤマハンノキ(Alnus hirsuta)が主要構成樹種である。林冠構成樹種の平均的な樹高は16m〜18mであり、中低木としてオオツリバナ(Euonymus planipes)、アオハダ(Ilex macropoda)、ノリウツギ(Hydrangea paniculata)等が分布する。また、林内にはアカマツ(Pinus densiflora)、ウラジロモミ(Abies homolepis)、カラマツ(Larix leptolepis)などが点在する。
(大気試料の採取:S1)
本実施例では、調査対象の森林にある観測タワーの複数高さから内径10mm(長さ40m)のポリエチレンチューブを用いて、ダイアフラムポンプにより大気試料を吸引・採取した。
試料採取高さは、林冠構成木及び及びおよび中低木の樹冠層の分布高さ(それぞれ18m〜10m、8m〜2m)と森林内大気の高さ方向の変動(高さプロファイル)の観測高度を考慮して、28m、15m、8m、2mとした。
森林内大気中二酸化炭素のδ13Cの変動を調査するための大気試料は、12mlのガラス製ボトルに採取し、採取試料の二酸化炭素のδ13Cを分析した。
また、微少な同位体比の変動が結果に影響すると考えられる生態系呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cを推定するため、上記の12mlボトルに加えて100mlのガラス製ボトルに大気試料を採取し、同試料から分離精製した純二酸化炭素ガスのδ13Cを測定した。なお、12mlのボトルは100mlのガラス製ボトル出口に並列に接続し同時に試料を採取した。
12ml、100ml両試料とも、外部大気の流入による試料の汚染防止と、ボトルからの大気試料のリークチェックを兼ねて、ボトルへの充填圧は、2×105〜2.2×105Paの範囲とした。分析時にボトル内の圧力を確認し、充填時から圧力変動が認められた場合には、分析対象から除外した。
(土壌空気試料の採取:S2)
土壌空気の採取には、ステンレス製の土壌空気サンプリングプローブ(株式会社サンケイ理化製)を用いた。土壌表面下0.1mから0.1m毎に1mまでの深さにプローブを埋設し、深さ毎の空気を採取した。
土壌中の場合、大気中と比べて周囲からの空気の移動が緩やかに生じるため一箇所から一度に多量の試料を採取すると上下方向の空気を引き込んでしまい目的とする深さの空気を採取できない可能性がある。そのため、ポンプによる吸引は行わず、真空引きしたガラス製ボトルとプローブをチューブで接続し、負圧によりボトル内に流入する空気を分析用試料とした。
(二酸化炭素の炭素安定同位体比の測定:S3)
S1で採取した大気試料については、二酸化炭素の分離精製を行った上で二酸化炭素の炭素安定同位体比の推定を行った。
大気試料の二酸化炭素の分離精製は、前記の真空精製ラインを用いた方法を用いた。
12mlの大気試料は、Continuous−Flow型の安定同位体比質量分析計(ANCA−GSL/20−20、SerCon社)に直接導入して、二酸化炭素のδ13Cを測定した。
全ての試料分析に対して、IAEA−NBS19(+1.95‰PDB)で値付けした標準二酸化炭素ガス(−29.01‰〜−33.68‰PDB)を同時分析し、同標準二酸化炭素ガスに対する値として同位体比を決定した。なお、NBSはNational Bureau of Standardsを指し、純度の正確さが保証された標準物質であることを示す(19は試料番号)。また、‰PDBはPDBの数値を比較のための標準としたことを示す。
一方、100mlの大気試料から分離精製した二酸化炭素は、Dual Inlet型の安定同位体比質量分析計(Isoprime Micro Dual Inlet、 VG instrument社製)を用いて分析した。
全ての試料分析に関して、OZTECH製二酸化炭素標準ガス(δ13C:+3.6‰PDB及び及びおよび+40‰PDB)で値付けした純二酸化炭素ガス(δ13C:−29.01‰PDB〜−33.68‰PDB)をWorking Standardとして同時分析し、Working Standardに対する値として同位体比を決定した。
(二酸化炭素濃度の測定:S4)
S1で採取した大気試料及びS2で採取した土壌空気試料のそれぞれについて二酸化炭素濃度を測定した。
二酸化炭素濃度の測定は、ガラスボトル中の大気試料をContinuous−Flow型の安定同位体比質量分析計で分析することにより行った。
(生態系呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比の推定:S5)
生態系呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cを推定する場合、日中は光合成の同位体分別による大気中二酸化炭素のδ13Cの経時的な変動により単純2成分混合モデルの適用が困難になる。そのため、解析には夜間の大気中二酸化炭素のδ13Cを抽出して用いることが多い。
本実施例においても、夜間の大気中二酸化炭素のδ13Cと二酸化炭素濃度からKeeling Plotを用いて生態系呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cの推定を行った。
夜間の大気の二酸化炭素のδ13Cと二酸化炭素濃度の組み合わせのデータに単純2成分混合モデルに基づくKeeling Plotを適用して生態系呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cの推定を行い、図2に示す結果が得られた。
図2の縦軸は大気の二酸化炭素のδ13C(‰PDB)を表し、横軸は大気の二酸化炭素濃度の逆数(1/ppm)を表す。また、図中の点1は、夜間の大気の二酸化炭素のδ13Cと二酸化炭素濃度の逆数の組み合わせのデータをプロットしたものである。
生態系呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cは、図2に示す二酸化炭素濃度の逆数と二酸化炭素のδ13Cの組み合わせのデータから最小二乗法により推定される回帰直線2のy軸切片として求めた。
回帰直線の推定結果から、生態系呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cは−27.7‰PDBとなった。
(土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同体比の推定:S6)
土壌空気の二酸化炭素のδ13Cと二酸化炭素濃度の組み合わせのデータに単純2成分混合モデルに基づくKeeling Plotを適用して土壌呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cの推定を行い、図3に示す結果が得られた。
図3の縦軸は土壌空気の二酸化炭素のδ13C(‰PDB)を表し、横軸は土壌空気の二酸化炭素濃度の逆数(1/ppm)を表す。また、図中の点3は、土壌空気の二酸化炭素のδ13Cと二酸化炭素濃度の逆数の組み合わせのデータをプロットしたものである。
この結果から、土壌空気の二酸化炭素のδ13Cと二酸化炭素濃度の間には強い直線相関があることが確認された。
土壌呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cは、図3に示す二酸化炭素濃度の逆数と二酸化炭素のδ13Cの組み合わせのデータから最小二乗法により推定される回帰直線4のy軸切片として求めた。
回帰直線の推定結果から、土壌呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cは−21.9‰PDBとなった。
ここで、土壌空気中の二酸化炭素が土壌表面から大気に拡散した後のδ13Cの評価では、土壌空気中二酸化炭素の土壌面における拡散時の同位体分別の影響を考慮する必要がある。
同位体分別の影響は、同位体分別係数を用いて考慮することができる。同位体分別係数とは、土壌空気中の二酸化炭素が土壌面から拡散する際に炭素安定同位体比が変化する値のことである。
本実施例では、土壌表面における拡散時の同位体分別係数として、既存の文献値である−4.4(Cerling,T.E.・他:On the isotopic composition of carbon in soil carbon dioxide,Geochimica et Cosmochimica Acta 55,3403−3405,1991.)を用いて、土壌呼吸により大気に放出される二酸化炭素のδ13C値を算出した。
具体的には、先に求めた土壌呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cである−21.9‰PDBに−4.4を加えることにより、土壌呼吸により地表面から放出される二酸化炭素のδ13Cは−26.3‰PDBとなった。
(植物葉の炭素の炭素安定同位体比の測定:S7)
本実施例では、植物葉に含まれる炭素のδ13Cとして、分析対象の森林の主要構成木であるダケカンバの葉に含まれる炭素のδ13C(以下、葉のδ13Cと表記する)を用いることとした。
ここで、ある一定期間における高さ方向の葉のδ13Cは、樹種に関係なく高さ方向にほぼ等しい直線的な変化を示すことが確認されている。
そこで、1)森林内の4m〜16mの範囲に葉が均一に分布する、2)ある1日の葉のδ13Cは高さによって直線的に変化する、3)葉のδ13Cの平均値が植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素のδ13Cと等しいと仮定して葉のδ13Cを推定した。
具体的には、4m〜16mの範囲の高さに存在する葉を約1m〜4m間隔で採取し、それぞれについてδ13Cを測定した。次に、測定したδ13Cと葉が存在する高さの関係について最小二乗法により回帰直線を推定した。そして、推定された回帰直線を用いて4m〜16mの範囲における葉のδ13Cの平均値を算出した。
上記の考え方に基づいて測定及び算出した結果、葉のδ13Cとして−29.6‰PDBが得られた。
(土壌呼吸と植物の地上部の呼吸の比率の算出:S8)
上記の通り、実施例S5の結果、生態系呼吸起源の二酸化炭素のδ13Cとして−27.7‰PDBが得られた。また、実施例S6の結果、土壌呼吸により放出される二酸化炭素のδ13Cとして−26.3‰PDBが得られた。
両者の間に1.4‰PDBの差異が認められた。生態系呼吸は土壌呼吸に植物の地上部の呼吸を加えた値に相当することから、この差分は植物の地上部の呼吸の影響に相当すると考えられた。
また、実施例S7の結果、植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素のδ13Cとして−29.6‰PDBが得られた。
以上のδ13Cを(式10)に代入することにより、cav=0.42を得た。更に、このcavの値と(式9)からcsoil=0.58となった。
この結果から、生態系呼吸量を100とした場合の植物の地上部の呼吸により放出された二酸化炭素量と土壌呼吸により放出された二酸化炭素量の比率は42:58となった。
また、土壌呼吸について、植物の根の呼吸により放出される二酸化炭素量と土壌有機物の分解により放出される二酸化炭素量の比率を用いることにより、植物の地上部の呼吸、植物の地下部の呼吸及び土壌有機物の分解のそれぞれにより放出される二酸化炭素の割合を算出することができる。
土壌呼吸について、植物の根の呼吸により放出される二酸化炭素量と土壌有機物の分解により放出される二酸化炭素量の比率の導出はどのような方法を用いても良いが、例えば以下のような方法を用いることができる。
まず、土壌呼吸による二酸化炭素放出量Faは、土壌有機炭素の分解による成分Fs及び植物の根からの放出による成分Frの和として(式11)により表されると仮定した。
Fa=Fs+Fr (式11)
ここで、Fa:土壌呼吸による二酸化炭素量
Fs:土壌有機物の分解により放出される二酸化炭素量
Fr:植物の根の呼吸により放出される二酸化炭素量
土壌呼吸による二酸化炭素放出量Faの計測は、多地点での観測を行うためスポンジ法(桐田博允:野外における土壌呼吸の測定−密閉吸収法の検討4.スポンジを利用した密度吸収法の開発−,日本生態学会誌,21:119−127,1971.)を用いて行った。
また、根の切断あるいは除去により植物の根の呼吸の影響を受けない調査地点を設定して土壌有機物の分解により放出される二酸化炭素放出量Fsを算出した。
得られたFa及びFsを(式11)に代入することにより、植物の根の呼吸により放出される二酸化炭素放出量Frを算出した。
その結果、土壌有機物の分解により放出される二酸化炭素量と植物の根の呼吸により放出される二酸化炭素量の比率として、36:64が得られた。
上記の比率を用いることにより、植物の地上部の呼吸、植物の地下部の呼吸及び土壌有機物の分解のそれぞれにより放出される二酸化炭素の割合は、42:37:21となった。この結果から、植物の呼吸により放出される二酸化炭素が79%に達することが明らかになった。
以上により、生態系呼吸を構成する植物の地上部の呼吸と土壌呼吸の二酸化炭素放出量の構成比を明らかにすることができた。更に、土壌呼吸について土壌有機物の分解と植物の根の呼吸の二酸化炭素放出量の構成比を用いることにより、植物の地上部の呼吸、植物の地下部の呼吸及び土壌有機物の分解のそれぞれによる二酸化炭素放出量の構成比を明らかにすることができた。これにより、純生態系交換量の構成要素毎の評価が可能となり、森林生態系における純生態系交換量を解析する上で有用な情報の提供が可能であることが確認できた。更に、温暖化時の森林による二酸化炭素の吸収と放出を適確に評価する上で有用な情報の提供が可能であることが確認できた。
本発明の二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。 生態系呼吸起源の二酸化炭素の炭素安定同位体比を推定するKeeling Plotの結果を示す図である。 土壌呼吸起源の二酸化炭素の炭素安定同位体比を推定するKeeling Plotの結果を示す図である。 従来の植栽の有する環境保全機能の評価方法を示すフローチャートである。

Claims (2)

  1. 生態系呼吸により放出される二酸化炭素の量cE、土壌呼吸により放出される二酸化炭素の量csoil及び植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の量cavの間の関係をcE=csoil+cavとし、並びに、前記生態系呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13CE、前記土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13Csoil及び前記植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13Cavの間の関係式をδ13CE×cE=δ13Csoil×csoil+δ13Cav×cavとし、前記δ13CE、前記δ13Csoil及び前記δ13Cavの値から前記土壌呼吸により放出される二酸化炭素の量csoilと前記植物の地上部の呼吸により放出される二酸化炭素の量cavの比率を算出することを特徴とする二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法。
  2. 土壌空気の二酸化炭素の炭素安定同位体比と前記土壌空気の二酸化炭素濃度の少なくとも2つ以上の組み合わせのデータ及び単純2成分混合モデルを用いて前記土壌呼吸により放出される二酸化炭素の炭素安定同位体比δ13Csoilを推定することを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素放出量の構成比率の推定方法。
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