(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる燃料電池システムの全体構成を示すブロック図である。燃料電池システムは、例えば、移動体である車両に搭載されており、この車両は燃料電池システムから供給される電力によって駆動する。
燃料電池システムは、固体高分子電解質膜を挟んで燃料極と酸化剤極とを対設した燃料電池構造体をセパレータで挟持して、これを複数積層して構成される燃料電池スタック(燃料電池)1を備える。この燃料電池スタック1は、燃料極に燃料ガスが供給されるとともに、酸化剤極に酸化剤ガスが供給されることにより、これらの反応ガスを電気化学的に反応させて電力を発生する。本実施形態では、燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスとして空気を用いるケースについて説明する。
燃料電池システムには、燃料電池スタック1に水素を供給するための水素系と、燃料電池スタック1に空気を供給するための空気系と、燃料電池スタック1を冷却するための冷却系とが備えられている。
水素系において、燃料ガスである水素は、例えば、高圧水素ボンベといった燃料タンク10に貯蔵されており、この燃料タンク10から水素供給流路L1を介して燃料電池スタック1に供給される。具体的には、燃料タンク10の下流には燃料タンク元バルブ(図示せず)が設けられており、この燃料タンク元バルブが開状態となると、燃料タンク10からの高圧水素ガスは、その下流に設けられた減圧バルブ(図示せず)によって機械的に所定の圧力まで減圧される。減圧された水素ガスは、減圧バルブよりも下流に設けられた水素調圧バルブ11によって所望の圧力に調圧され、燃料電池スタック1に供給される。
個々の燃料極から排出されるガス(未使用の水素を含むガス)は、燃料電池スタック1から水素循環流路L2に排出される。この水素循環流路L2は、他方の端部が水素調圧バルブ11よりも下流側の水素供給流路L1に接続されている。この水素循環流路L2には、例えば、水素循環ポンプ12といった循環手段が設けられている。この水素循環ポンプ12を駆動することにより、水素循環流路L2を介して、燃料電池スタック1から排出される排出ガスを、水素供給流路L1を流れる燃料タンク10からの反応ガスに合流させて燃料電池スタック1の燃料極に循環させる。
ところで、酸化剤ガスとして空気を用いるケースでは、空気中の不純物が酸化剤極から燃料極に透過するため、燃料極および水素循環流路L2を含む循環系内の不純物が増加し、水素分圧が減少する傾向となる。ここで、不純物は、燃料ガスである水素以外の非燃料ガス成分であり、代表的には窒素を挙げることができる。不純物量が多くなりすぎると、燃料電池スタック1からの出力が低下したりするため、循環系内の不純物量を管理する必要がある。そこで、水素循環流路L2には、循環ガスを外部に排出するパージ流路L3が設けられている。パージ流路L3には、パージバルブ13が設けられており、このパージバルブ13の開き量およびその時間を調整することにより、パージ流路L3を介して外部に排出される不純物量を調整することができる。これにより、燃料極および水素循環流路L2内に存在する不純物量が、発電性能を維持できるように管理される。
空気系において、酸化剤ガスである空気は、例えば、大気がコンプレッサ20によって取り込まれるとともに加圧され、加圧された空気は、空気供給流路L4を介して燃料電池スタック1に供給される。酸化剤極から排出されるガス(酸素が消費された空気)は、空気排出流路L5を介して外部に排出される。この空気排出流路L5には、燃料電池スタック1へ供給される空気の圧力を調整する空気調圧バルブ21が設けられている。
冷却系は、燃料電池スタック1を冷却する冷却液(冷却水)が循環する閉ループ状のスタック冷却流路(燃料電池冷却流路)L6を有しており、このスタック冷却流路L6には、冷却水を循環させる冷却水循環ポンプ30が設けられている。この冷却水循環ポンプ30を動作させることにより、スタック冷却流路L6内の冷却水が循環する。スタック冷却流路L6には、ラジエータ31が設けられており、このラジエータ31には、ラジエータ31を送風するファン32が設けられている。燃料電池スタック1の冷却によって温度が上昇した冷却水は、スタック冷却流路L6を経由して、ラジエータ31に流れ、ラジエータ31によって冷却される。冷却された冷却水は、燃料電池スタック1に供給される。スタック冷却流路L6は、燃料電池スタック1内においてその流路が細かく分岐しており、これにより、燃料電池スタック1は、その内部が全体に亘って冷却されるようになっている。
スタック冷却流路L6には、燃料電池スタック1から排出された冷却水を、ラジエータ31を迂回させて燃料電池スタック1に循環させるバイパス流路L7が設けられている。スタック冷却流路L6からバイパス流路L7へと分岐する分岐部位には、バイパス流路L7とスタック冷却流路L6のラジエータ31側とに対する流量配分を調整する三方弁33が設けられている。スタック冷却流路L6における冷却水の温度は、冷却水循環ポンプ30の回転数、ファン32の回転数、三方弁33の開度を制御することにより、調整することができる。
燃料電池スタック1には、燃料電池スタック1から出力(本実施形態では、電流)を取り出す出力取出装置(出力取出手段)2が接続されている。この出力取出装置2は、燃料電池スタック1の電圧を制御パラメータとして、これを直接的に操作することにより、燃料電池スタック1から取り出す電流を調整することができる。燃料電池スタック1からの出力は、車両を駆動する駆動モータ3へ直接的に供給されたり、この出力取出装置2を介して、バッテリ4へ供給されたりする。このバッテリ4は、第1に、燃料電池スタック1で発電を行うために動作させる種々の補機(例えば、水素循環ポンプ12やコンプレッサ20)に対して、それを駆動するために必要な電力を供給する。第2に、システムに要求される電力(要求電力)に対し、燃料電池スタック1における発電電力が不足する場合、不足分の電力を駆動モータ2に供給する。第3に、燃料電池スタック1の発電電力が要求電力に対して余剰となった場合、余剰分の電力を蓄電し、また、駆動モータ2の回生電力を蓄電する。
制御部40は、システム全体を統合的に制御する機能を担っており、制御プログラムに従って動作することにより、システムの運転状態を制御する。制御部40としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。この制御部40は、システムの状態に基づいて、各種の演算を行い、この演算結果を制御信号として各種のアクチュエータ(図示せず)に出力し、水素調圧バルブ11、水素循環ポンプ12、パージバルブ13、コンプレッサ20、空気調圧バルブ21、冷却水循環ポンプ30、三方弁33、出力取出装置2といった種々の要素を制御する。
制御部40には、システムの状態を検出するために、各種センサ等からのセンサ信号が入力されている。水素圧力センサは、燃料電池スタック1の燃料極における水素の圧力を検出する。空気圧力センサは、燃料電池スタック1の空気極における空気の圧力を検出する。電流センサ(電流検出手段)6は、燃料電池スタック1から実際に取り出される電流(以下「実取出電流」という)を検出する。電圧センサ7は、燃料電池スタック1の電圧(以下「実電圧」という)を検出する。温度センサ8は、燃料電池スタック1の温度(以下「スタック温度」という)を検出する。
図2は、本実施形態にかかる制御部40の構成を示すブロック図である。本実施形態との関係において、制御部40は、第1のコントローラ40aと、第2のコントローラ40bとで構成されている。
第1のコントローラ40aは、これを機能的に捉えた場合、目標出力演算部(出力演算手段)41、ガス用電流演算部(ガス用電流演算手段)42およびガス供給量制御部(ガス供給量制御手段)43を有している。目標出力演算部41は、外部システム(本実施形態では、駆動モータ3およびバッテリ4を含む車両システム)からの要求電力を燃料電池スタック1からの出力電力で賄うために必要な目標出力を演算する。本実施形態では、この目標出力は、燃料電池スタック1からの取出電流の目標値である目標電流TFIとして演算される。演算された目標電流TFIは、ガス用電流演算部42および第2のコントローラ40bに出力される。ガス用電流演算部42は、目標電流TFIに基づいて、ガス用目標電流TGIを演算する。このガス用目標電流TGIは、燃料電池スタック1へ供給する水素および空気といった反応ガスの供給量を制御するために用いるガス制御用の目標パラメータ(電流)である。ガス供給量制御部43は、ガス用電流演算部42において演算されたガス用目標電流TGIに基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。
図3は、本実施形態にかかるガス供給量制御部43の構成を示すブロック構成図である。本実施形態との関係において、ガス供給量制御部43は、燃料電池スタック1の電圧(以下「スタック電圧」という)Vfが下限電圧に到達している場合、電流センサ6における電流に対応した反応ガスの供給量となるように、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。ここで、下限電圧は、燃料電池スタック1の劣化抑制の観点から設定されるスタック電圧Vfの下限値であり、実験やシミュレーションを通じて予め設定されている。なお、下限電圧は、出力取出装置2の制御遅れや電圧制御誤差などを考慮して、燃料電池スタック1から固有に定まる下限値に対してマージンを持たせるように設定してもよい。具体的には、ガス供給量制御部43は、これを機能的に捉えた場合、目標ガス量演算部(目標ガス量演算手段)43a、必要ガス量演算部(必要ガス量演算手段)43b、補正演算部(補正演算手段)43c、および供給ガス制御部(供給制御手段)43dを有している。
目標ガス量演算部43aは、ガス用目標電流TGIを燃料電池スタック1から取り出す際に、この燃料電池スタック1に対して供給すべき反応ガスの量を目標ガス量TFGとして演算する。必要ガス量演算部43bは、電流センサ6において検出される実取出電流Ifが燃料電池スタック1から取り出される際に、この燃料電池スタック1に供給する必要のある反応ガスの量を必要ガス量NFGとして演算する。補正演算部43cは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、目標ガス量TFGが必要ガス量NFGと対応するように、目標ガス量TFGを補正して、この補正結果を補正ガス量ATFGとして出力する。なお、補正演算部43cは、補正を行う条件を具備しない場合には、目標ガス量TFGを供給制御部43dに出力する。供給制御部43dは、目標ガス量TFGに基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。ここで、供給制御部43dは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、補正演算部43cから出力される補正ガス量ATFGに基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。水素の供給量は、水素調圧バルブ13の開度および水素循環ポンプ12の回転数を制御することにより調整可能であり、空気の供給量は、コンプレッサ20の回転数および空気調圧バルブ21の開度を制御することにより調整可能である。
再び図2を参照するに、第2のコントローラ40bは、出力制御部44を有している。出力制御部44は、第1のコントローラ40aの目標出力演算部41において演算された目標電流TFIに基づいて、出力取出装置2を介して燃料電池スタック1からの出力電力を制御する。本実施形態との関係において、出力制御部44は、スタック電圧Vfが下限電圧よりも低下しないように、燃料電池スタック1の出力を制限している。具体的には、出力制御部44は、目標電流TGIに基づいて、下限電圧以上の範囲で目標電圧を演算することにより、この目標電圧に基づいて、出力取出装置2を介して燃料電池スタック1の電圧を制御している。
図4は、本実施形態にかかる燃料電池システムの制御方法の一つである第1のコントローラ40aの処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定の周期(例えば、10msec)で呼び出され、第1のコントローラ40aによって実行される。具体的には、ステップ10(S10)において、目標出力演算処理が行われ、ステップ20(S20)において、ガス供給量制御処理が行われる。
図5は、ステップ10における目標出力演算処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ11(S11)において、目標出力演算部41は、外部システムからの要求電力を取得する。外部システムに相当する車両システムでは、ドライバーのアクセル操作量および車速をパラメータとして、実験やシミュレーションを通じて予め得られた車両特性を反映したマップまたは計算式による演算を通じて、要求電力が演算されている。そのため、目標出力演算部41は、車両システム側から演算結果である要求電力を取得する。また、燃料電池システムを運転するための補機類(例えば、コンプレッサ20など)の消費電力も燃料電池スタック1で発電する場合には、外部システムからの要求電力と補機消費電力との加算値を要求電力として取り扱ってもよい。
ステップ12(S12)において、目標出力演算部41は、目標電流TFIを算出する。図6は、要求電力、目標電流およびスタック温度の関係を示す説明図である。燃料電池スタック1の特性として、目標電流は、要求電力の増加に応じて単調増加する傾向を有している。また、スタック温度が低い程、要求電力に対する目標電流の増加変化の速度が大きくなるという傾向を有している。このような関係は、燃料電池スタック1の特性等に応じるものであるため、実験やシミュレーションを通じて、各パラメータの関係を取得し、この関係を規定したマップまたは計算式を目標出力演算部41が保持している。そして、目標出力演算部41は、マップまたは計算式による演算により、要求電力およびスタック温度に基づいて、目標電流TFIを算出する。
ただし、燃料電池スタック1の発電特性は、スタック温度以外にも、劣化具合、ガスの供給流量および圧力などによって変化するので、燃料電池スタック1の発電特性に感度のあるパラメータで、目標電流と要求電力との関係を補正してもよい。また、燃料電池スタック1の発電電力を検知するセンサを設けておき、要求電力に対して実際の発電電力が少ないときには目標電流TFIを増やし、また、要求電力に対して実際の発電電力が多いときには目標電流TFIを減らすといった手法を適用してもよい。
ステップ13において、ガス用電流演算部42は、目標電流TFIに基づいて、ガス用目標電流TGIを演算する。目標電流TFIに基づいて、燃料電池スタック1に反応ガスを供給する場合、アクチュエータの応答性やガス流路の管路抵抗または容積の影響により、過渡的に負荷状態が変化した場合等には、発電量に応じた目標のガス量に対して実際に供給されるガス量に遅れが生じてしまう可能性がある。すなわち、出力制御部44によって取り出される電流に応じたガス量と、実際に供給されるガス量との間に乖離が生じてしまう可能性がある。そのため、出力制御部44によって取り出される電流との対応を図るべく、ガス用目標電流TGIを設定する。目標電流TFIとガス用目標電流TGIとの関係は、燃料電池システムの構成に依存するため、ガスの応答性の遅れを抑制するといった観点から、実験やシミュレーションを通じて、両パラメータの関係を取得し、この関係を規定したマップまたは計算式をガス用電流演算部42が保持している。そして、ガス用電流演算部42は、マップまたは計算式による演算により、目標電流TFIに基づいて、ガス用目標電流TGIを算出する。
図7は、ステップ20におけるガス供給量制御処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ21(S21)において、目標ガス量演算部43aは、目標電流TGIに基づいて、目標ガス量TFGを演算する。演算するガス量としては、ガス流量とガス圧力とが挙げられる。また、ガス流量は、燃料電池スタック1の燃料極へ供給される水素流量と、燃料電池スタック1の酸化剤極へ供給される空気流量とを含み、ガス圧力は、燃料電池スタック1の燃料極へ供給される水素圧力と、燃料電池スタック1の酸化剤極へ供給される空気圧力とを含む。
ガス流量は、通常、燃料電池スタック1の発電反応でガスが消費された場合であっても、燃料電池スタック1の末端までガスを十分に供給できるようにすること等を考慮し、反応に必要なガス流量より多い流量を供給する必要がある。ただし、ガス流量が多すぎる場合には、燃料電池スタック1から持ち出される水分量が増加し、燃料電池スタック1内の高分子膜が乾く、所謂、ドライアウトが生じたり、水素循環ポンプ12およびコンプレッサ20の消費電力増加により燃費が悪化したりする。そこで、ガス流量は、ある電流を取り出すときに燃料電池スタック1の反応に必要なガス流量Qに対し、所定の割合を掛けた分だけの流量を供給する(数式1参照)。ここで、所定の割合は、例えば、1より大きな値であり、ドライアウトとならない範囲で流量を増加させるための値として、実験やシミュレーションを通じてその最適値が設定されている。
(数式1)
Q[NL/min]=(22.4[NL/mol] × 60[sec] × I )/ (F × N × ρ)
ここで、Iは、燃料電池スタック1から取り出す電流[A]であり、ガス用目標電流TGIが対応する。Nは、反応ガス(空気(酸素)または水素)の分子1個を発電反応で消費するときの分子数[個]である。また、Fは、ファラデー定数[C/mol]であり、ρは、供給される反応ガスの濃度である。
一方、ガス圧力は、つぎのような観点から決定される。燃料電池スタック1は、供給するガス圧力が高い程、発電特性が向上する傾向にある。ただし、コンプレッサ20といったガス供給装置を駆動して燃料電池スタック1へ供給するガスの圧力を得る場合、燃料電池スタック1からの取出電流が小さいシーンでは、高いガス圧力を得ようとする程、ガス供給装置の消費電力が大きくなり、燃料電池システムとしての出力や効率が悪化する。そのため、燃料電池スタック1からの取出電流が小さい程、ガス圧力を小さく設定し、逆に、燃料電池スタック1からの取出電流が大きい程、ガス圧力を高く設定する。ガス圧力と取出電流との関係は、燃料電池システムの効率や燃料電池スタック1の発電特性を考慮した上で、実験やシミュレーションを通じて設定することができる。この関係を規定したマップまたは計算式による演算により、取出電流に基づいて、ガス圧力を決定することができる。
ステップ22(S22)において、必要ガス量演算部43bは、実取出電流Ifに基づいて、必要ガス量NFGを演算する。演算するガス量としては、ガス流量とガス圧力とが挙げられる。ガス流量とガス圧力との演算については、実取出電流Ifに対応してこれを求めること以外、上述の目標ガス量TGFにおける演算と同じであり、その詳細な説明は省略する。
ステップ23(S23)において、補正演算部43cは、補正処理を行う。図8は、補正処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ26(S26)において、補正演算部43cは、後述する第2のコントローラ40bの出力制御部44において演算される目標電圧を取得する。本実施形態では、スタック電圧Vfとして、出力制御部44において演算される目標電圧を利用する。このケースでは、出力制御部44が燃料電池スタック1の電圧を検出する電圧検出手段として機能する。ただし、補正演算部43cは、出力制御部44における目標電圧に代えて、電圧センサ7から実電圧を読み込み、これをスタック電圧Vfとして利用してもよい。このケースでは、電圧センサ7が燃料電池スタック1の電圧を検出する電圧検出手段として機能する。
ステップ27(S27)において、補正演算部43cは、補正を実行するか否かを判断する。具体的には、補正演算部43cは、取得した目標電圧が下限電圧に到達した場合には、補正を実行する。ステップ27において肯定判定された場合、すなわち、補正を実行する場合には、ステップ28(S28)に進む。一方、ステップ27において否定判定された場合、すなわち、補正を実行しない場合には、本ルーチンを抜ける。
なお、本実施形態において、目標電圧が一旦下限電圧に到達した場合には、それが下限電圧よりも大きくなったとしても、次のような条件を満たすまで、補正の実行を継続することとする。この条件としては、目標電流TFI(すなわち、ガス用目標電流TGI)が増加したこと、または、後述する補正量が補正判定値以下となることである。この補正判定値は、補正終了にともなう反応ガスの供給量の増加を考慮して、燃料電池スタック1の乾燥状態が許容範囲(ドライアウトしない範囲)に収まるような条件に設定されたり、補正終了にともなう反応ガスの供給量の増加を考慮して、コンプレッサ20等のガス供給装置における音または振動が許容範囲(乗員に違和感を与えない範囲)に収まるような条件に設定されたりする。これらの補正判定値は、実験やシミュレーションを通じて、その最適値が予め決定されている。また、この補正判定値は、ゼロ(0)に設定してもよい。このケースでは、補正の終了タイミングと、その後の通常処理との間で、ガス供給装置の駆動量が変化することはなく補正を終了することができる。
ステップ28(S28)において、補正演算部43cは、ガス量の補正を行う。補正演算部43cは、目標ガス量TFGが必要ガス量NFGと値的に対応するように、補正演算部43cに入力される目標ガス量TFGを補正して、補正目標ガス量ATFGを演算する。補正方法としては、必要ガス量NFGと目標ガス量TFGとの差に基づいて、目標ガス量TFGをフィードバック補正して、この補正結果を補正目標電流ATGIとして扱うといった如くである。この補正にともなう補正量は、上述の如く、補正の継続条件を判定するために用いることができる。ここで、補正の対象となるガス量は、少なくとも空気の供給流量を含むこととするが、水素の供給流量や、空気の供給圧力、水素の供給圧力をさらに含んでもよい。
再び図7を参照するに、ステップ24(S24)において、供給制御部43dは、ステップ23において算出された補正目標ガス量ATFGに基づいて、最終的な目標ガス量を算出する。具体的には、供給制御部43dは、補正目標ガス量ATFGと、必要ガス量NFGとを比較して、値が大きい方のガス量を、最終的な目標ガス量として決定する。なお、ステップ23において補正が実行されない場合には、補正目標ガス量ATFGがないので、目標ガス量TFGを用いて最終的な目標ガス量が算出される。
ステップ25(S25)において、供給制御部43dは、最終的な目標ガス量に基づいて、燃料電池スタック1へ供給するガス量を制御する。
図9は、本実施形態にかかる燃料電池システムの制御方法の一つである第2のコントローラ40bの処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定の周期(例えば、100μsec)で呼び出され、第2のコントローラ40bによって実行される。具体的には、ステップ30(S30)において、出力制御部44は、出力制御処理を行う。
図10は、ステップ30における出力制御処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ31(S31)において、第1のコントローラ40aにおいて演算される目標電流TFIが取得される。ステップ32(S32)において、基準電圧が演算される。この基準電圧は、燃料電池スタック1から取り出す電流が目標電流TFIとなるように、出力取出装置2を介して操作する燃料電池スタック1の電圧の基準値である。
ステップ33(S33)において、電流センサ6より実取出電流IFが読み込まれる。ステップ34(S34)において、基準電圧補正値が演算される。具体的には、出力制御部44は、燃料電池スタック1から所望の電流(すなわち、目標電流TFI)を取出せるように、実取出電流IFとの差に応じた、基準電圧に対する補正量を基準電圧補正値として演算する。補正演算の一例としては、目標電流TFIと実取出電流IFとの差に基づいて、フィードバック補正により補正値を演算するといった如くである。
ステップ35(S35)において、目標電圧が演算される。具体的には、ステップ32において演算した基準電圧を、ステップ34において演算した基準電圧補正値で補正することにより、目標電圧が演算される。
ステップ36(S36)において、目標電圧が下限電圧よりも小さいか否かが判断される。このステップ36において肯定判定された場合、すなわち、目標電圧が下限電圧よりも小さい場合には、ステップ37(S37)に進む。一方、ステップ36において否定判定された場合、すなわち、目標電圧が下限電圧以上の場合には、ステップ38(S38)に進む。
ステップ37において、ステップ35において演算された目標電圧の値が、下限電圧によって更新される。ステップ38において、目標電圧に基づいて、出力取出装置2を介して燃料電池スタック1の電圧が制御される。
図11から図13は、本実施形態の制御を実行した際のタイミングチャートを示す。同図において、LN11は目標電流TFIの推移、LN12は実取出電流Ifの推移、LN13は下限電圧にて取り出せる電流の値を示す。LN21はガス用目標電流TGIの推移、LN22は補正目標電流ATGIの推移、LN23は最終的な目標ガス量TFGの推移である。また、LN24は実取出電流Ifの推移、LN25は下限電圧にて取り出せる電流の値を示す。LN31は目標電流TFIを取り出すために必要な電圧の推移、LN32は実電圧Vf、LN33は下限電圧の値を示す。LN41は必要ガス量NFGに対応する空気流量の推移、LN42は実際の空気流量の推移を示す。
図11は、外部システムからの要求電力が増加し、その後に減少したケースでのタイミングチャートである。タイミングAにおいて目標電流TFI(要求電力)が増加を開始すると、その後、タイミングBにおいて実電圧が下限電圧に到達する。これにより、燃料電池スタック1から目標電流TFIが取り出せなくなる。この場合、燃料電池スタック1からの実取出電流Ifと、ガス用目標電流TGIとが一致するように、ガス用目標電流TGIが補正されるので、燃料電池スタック1から取り出している電流に応じたガス量を供給することができる。そのため、ガス量が過大になるといった事態を抑制することができるので、ドライアウトの発生を抑制することができる。
また、タイミングCにおいて目標電流TFIが減少すると、補正目標電流ATGIと実取出電流Ifとのうち、大きい方の電流値に基づいて目標ガス量TFGが算出され、ガス量が制御される。そのため、要求電力が急激に減少した場合でも、補正量を減らす速度が間に合わず、補正目標電流ATGIが実取出電流Ifを下回り、空気流量が不足するといった事態を抑制することができる。そして、補正量が「0」となるタイミングDにおいて、補正が終了する。
図12は、要求電力の変動が早く、目標電流TFIが増加しきる前に要求電力が減少するケースでのタイミングチャートである。タイミングEにおいて要求電力が増加を開始すると、その後、タイミングFにおいて実電圧が下限電圧に到達する。補正が開始されると、目標電流TFIが上がりきる前(タイミングG)に、要求電力が減少しはじめる。これに応じて、目標電流TFIも下がり始め、実電圧が下限電圧以上になっても(タイミングH)、補正量は残っているため補正を終了しない。目標電圧が下がりきり、その後、ガス用目標電流TGIが下がりきると、補正が終了する(タイミングJ)。このように、補正量が「0」になったときに補正を終えることにより、補正を止めたときにガス量が増加することは無くなり、要求電力の減少中において、例えば、コンプレッサ20の回転数が増加するといった、音や振動に対する違和感を抑制することができる。
図13は、要求電力が下がっている途中で再度要求電力が上がるケースでのタイミングチャートである。実電圧が下限電圧となってガス量の補正を行っている状態から、タイミングKにおいて要求電力が下がり始めることにより、実電圧が下限電圧以上になる(タイミングL)。要求電力が下がっていく途中で、これが再度増加した場合に(タイミングM)、補正を終了する。その後、要求電力が大きくなり、実電圧が下限電圧に到達すると(タイミングN)、ガス量の補正を再び開始する。これにより、要求電力が上がったときには、補正前のガス用目標電流TGIに基づいた空気供給を行うことができる。これにより、ガス供給装置による、ガス量の不足を抑制することができる。
ここで、図14および15を参照し、本実施形態の制御を適用しない場合のタイミングチャートを示す。同図において、LN14は目標電流(TFIに相当)の推移、LN15はガス用目標電流(TGIに相当)推移、LN16は下限電圧にて取り出せる電流の値を示す。LN34は目標電流を取り出すために必要な電圧の推移、LN35は実電圧、LN34は下限電圧の値を示す。LN43は必要ガス量(NFGに相当)に対応する空気流量の推移、LN44は実際の空気流量の推移を示す。
まず、図14を参照して、燃料電池スタックの電圧が下限電圧となったときに、燃料電池スタックから取り出す電流を制限するものの、供給空気流量を補正しないケースを説明する。外部からの要求電力が増加を開始すると(タイミングi)、ガス供給の遅れの影響を小さくするために目標電流よりもガス用目標電流が早く立ち上がる。その後、燃料電池スタックの電圧が下限電圧に到達すると(タイミングii)、燃料電池スタックから目標電流が取り出せなくなる。しかしながら、目標電流を取り出せていないにも係わらず、過剰なガス量(例えば、空気流量)を供給し続けることとなるため、燃料電池スタックのドライアウトが発生する可能性が高い。
つぎに、図15を参照し、燃料電池スタック1の個々のセルにおける発電特性のばらつきを考慮して、燃料電池スタックの電圧が下限電圧とならないように、過大に電流制限をかけるケースを説明する。ばらつきを考慮して、燃料電池スタックの電圧が下限電圧以下にならないよう、十分なマージンを持たせて電流制限をしているため、燃料電池スタックから所望の電流を取り出すことはできるので、供給するガス量が過剰となり、ドライアウトすることはない。しかしながら、目標電流が増加しても(タイミングV)、燃料電池スタックの発電特性が高い場合には、燃料電池スタックの電圧は下限電圧に対する余裕が生じる。つまり、下限電圧まで燃料電池スタックの電圧を下げられればより高い出力を燃料電池スタックから取り出せることができるのに、電流制限により、燃料電池の性能を十分に使いきることができないことが分かる。
このように本実施形態において、出力制御部44は、スタック電圧Vfが、燃料電池スタック1に設定された下限電圧よりも低下しないように、燃料電池スタック1の出力を制限し、また、ガス供給量制御部43は、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、電流センサ6において検出される実取出電流Ifに対応した反応ガスの供給量となるように、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。かかる構成によれば、燃料電池スタック1の発電特性が低下し、目標とする出力(要求電力)が得られない場合でも、燃料電池スタック1の電圧が下限電圧を下回らない範囲において出力を最大限に取り出すことができ、また、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量が過大になるといった事態を抑制することができる。さらに、本実施形態によれば、出力取出装置2が電圧をパラメータとして、燃料電池スタック1の電圧を直接的に制御することができるので、燃料電池スタック1の電圧が下限電圧を下回るといった事態を有効に抑制することができる。また、燃料電池スタック1の発電性能が低下する低温時でも、下限電圧において取り出せることができる最大出力を燃料電池スタック1から安定的に取り出せる。そのため、燃料電池システムを有する車両の動力性能向上や、暖機時間の短縮が可能となる。
また、本実施形態によれば、ガス供給量制御部43は、目標ガス量演算部43aと、必要ガス量演算部43bと、補正演算部43cと、供給制御部43dとを有している。ここで、供給制御部43dは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、補正演算手段から出力される補正ガス量ATFG、すなわち、必要ガス量NFGと値的に対応するように補正された目標ガス量TFGに基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。かかる構成によれば、燃料電池発電特性が低下して目標とする出力が得られないときにでも、実取出電流Ifに応じた反応ガスを供給することができる。これにより、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量が過大になるといった事態を抑制することができる。
また、本実施形態において、供給制御部43dは、補正ガス量ATFGと必要ガス量NFGとを比較して、値が大きい方のガス量に基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。かかる構成によれば、補正演算の補正速度が遅いシーンでも、スタック電圧Vfが下限値となり補正が行われている状態から目標電流TFIが急速に低下する場合に、燃料電池スタック1へ供給されるガス量の不足を抑制することができる。
また、本実施形態において、補正演算部43cは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達したことを条件として補正を開始して、スタック電圧Vfが下限電圧よりも大きく、かつ、補正量が補正判定値以下となるまで補正を継続して行う。かかる構成によれば、補正を終了した際に、燃料電池スタック1へ供給されるガス量が大きく増加してしまうといった事態を抑制することができる。
この場合、補正判定値は、補正終了にともなう反応ガスの供給量の増加を考慮して、燃料電池スタック1の乾燥状態が許容範囲に収まるような条件に設定される。かかる構成によれば、補正を終了し、これにより、燃料電池スタック1へ供給されるガス量が増えたとしても、ドライアウトが発生するといった事態を抑制することができる。あるいは、補正判定値は、補正終了にともなう反応ガスの供給量の増加を考慮して、音または振動が許容範囲に収まるような条件に設定される。かかる構成によれば、補正を終了し、これにより、燃料電池スタック1へ供給されるガス量が増えたとしても、乗員に違和感を与える音や振動が発生するといった事態を抑制することができる。さらに、補正判定値は、ゼロであってもよい。かかる構成によれば、補正を終了したときに、燃料電池スタック1へ供給されるガス量が増えるといった事態を抑制することができる。これにより、違和感のない補正を行うことができる。
また、本実施形態によれば、補正演算部43cは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達したことを条件として補正を開始して、スタック電圧Vfが下限電圧よりも大きく、かつ、目標出力が増加するまで補正を継続して行ってもよい。かかる構成によれば、目標電流TFIが下がっている途中に反応ガスの供給量に補正を行っている場合に、この目標電流TFIが増大したとしても、すぐに補正が中止されることとなる。これにより、補正前の目標値(目標ガス量TFG)に基づいてガス量の供給が行われるので、燃料電池スタック1へ供給されるガス量が不足するといった事態を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、反応ガスの供給量は、反応ガスの流量と、反応ガスの圧力とを含み、反応ガスの流量にのみ補正結果が反映される。かかる構成によれば、燃料電池スタック1の電圧を下限電圧まで下げても燃料電池スタック1から要求電力を取り出せない場合に、少なくとも燃料電池スタック1へ供給される反応ガスの流量が補正される。したがって、燃料電池スタック1の発電特性が低下して目標とする出力が得られないようなシーンでも、少なくとも実取出電流に見合った反応ガスの流量を送ることができる。これにより、燃料電池スタック1から持ち出される水分量の増大を抑制することができ、ドライアウトの発生を抑制することができる。さらに、本実施形態によれば、反応ガスの流量は、燃料電池スタック1の燃料極に供給される水素の流量と、燃料電池スタック1の酸化剤極に供給される空気の流量とを含み、少なくとも空気の流量にのみ補正結果が反映される。かかる構成によれば、実取出電流に見合った空気流量を送ることができるので、燃料電池スタック1から持ち出される水分量の増大を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、出力制御部44は、目標出力(目標電流TFI)に基づいて、下限電圧以上の範囲で目標電圧を演算することにより、この目標電圧に基づいて、出力取出装置2を介して燃料電池の電圧を制御する。この場合、スタック電圧Vfを検出する電圧検出手段は、出力制御部44において演算される目標電圧を読み込むことができる。かかる構成によれば、目標電圧を読み込む構成としているので、出力取出装置2自体を下限電圧で制限することができ、安定した出力制御を行うことができる。
(第2の実施形態)
図16は、第2の実施形態にかかるガス供給量制御部43の構成を示すブロック図である。第2の実施形態にかかる燃料電池システムが第1の実施形態と相違する点は、ガス供給量制御部43の構成である。なお、第1の実施形態と共通する構成および制御手順については説明は省略し、以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明を行う。
本実施形態との関係において、ガス供給量制御部43は、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、電流センサ6における電流に対応した反応ガスの供給量となるように、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。具体的には、ガス供給量制御部43は、これを機能的に捉えた場合、補正演算部43eと、供給制御部43fとを有している。
補正演算部43eは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、ガス用目標電流TGIが実取出電流Ifと対応するように、ガス用目標電流TGIを補正して、この補正結果を補正目標電流ATGIとして出力する。なお、補正演算部43eは、補正を行う条件を具備しない場合には、ガス用目標電流TGIを供給制御部43fに出力する。供給制御部43fは、ガス用目標電流TGIに基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。この場合、供給制御部43fは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、補正演算部43eから出力される補正目標電流ATGIに基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。
図17は、第2の実施形態にかかるステップ20におけるガス供給量制御処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ41(S41)において、補正演算部43eは、ガス用目標電流TGIを取得する。ステップ42(S42)において、補正演算部43eは、実取出電流Ifを読み込む。
ステップ43(S43)において、補正処理が行われる。図18は、補正処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ47(S47)において、補正演算部43eは、電圧センサ7から実電圧Vをスタック電圧Vfとして読み込む。
ステップ48(S48)において、補正演算部43eは、補正を実行するか否かを判断する。補正を実行するか否かの判断は、第1の実施形態と同様の処理によって実現することができる。ステップ48において肯定判定された場合、すなわち、補正を実行する場合には、ステップ49(S49)に進む。一方、ステップ48において否定判定された場合、すなわち、補正を実行しない場合には、本ルーチンを抜ける。
ステップ49(S49)において、補正演算部43eは、ガス量を決定付けるガス用目標電流TGIの補正を行う。補正演算部43eは、ガス用目標電流TGIが実取出電流Ifと値的に対応するように、ガス用目標電流TGIを補正して、補正目標電流ATGIを演算する。補正方法としては、ガス用目標電流TGIと実取出電流Ifとの差に基づいて、ガス用目標電流TGIをフィードバック補正して、この補正結果を補正目標電流ATGIとして扱うといった如くである。ここで、ガス用目標電流TGIによって補正の対象となるガス量は、少なくとも空気の供給流量を含むこととするが、水素の供給流量や、空気の供給圧力、水素の供給圧力をさらに含んでもよい。
再び図17を参照するに、ステップ44(S44)において、供給制御部43fは、補正目標電流ATGIと、実取出電流Ifとを比較して、値が大きい方の電流を、最終的なガス用目標電流として決定する。なお、ステップ23において補正が実行されない場合には、補正目標電流ATGIがないので、そのままガス用目標電流TGIを用いる。
ステップ45(S45)において、供給制御部43fは、最終的なガス用目標電流基づいて、目標ガス量を演算する。演算するガス量としては、ガス流量とガス圧力とが挙げられる。また、ガス流量は、燃料電池スタック1の燃料極へ供給される水素流量と、燃料電池スタック1の酸化剤極へ供給される空気流量とを含み、ガス圧力は、燃料電池スタック1の燃料極へ供給される水素圧力と、燃料電池スタック1の酸化剤極へ供給される空気圧力とを含む。目標ガス量の演算方法は、第1の実施形態と同様であり、その説明は省略する。
ステップ46(S46)において、供給制御部43fは、目標ガス量に基づいて、燃料電池スタック1へ供給するガス量を制御する。
このように本実施形態によれば、ガス供給量制御部43は、供給制御部43fと、補正演算部43eとを有する。ここで、供給制御部43fは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、補正演算部43eから出力される補正目標電流、すなわち、実取出電流Ifと値的に対応するように補正されたガス用目標電流TGIに基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。かかる構成によれば、燃料電池発電特性が低下して目標とする出力が得られないときにでも、実取出電流Ifに応じた反応ガスを供給することができる。これにより、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量が過大になるといった事態を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、供給制御部43fは、補正目標電流ATGIと実取出電流Ifとを比較して、値が大きい方の電流に基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。かかる構成によれば、かかる構成によれば、補正演算の補正速度が遅いシーンでも、スタック電圧Vfが下限値となり補正が行われている状態から目標電流TFIが急速に低下する場合に、燃料電池スタック1へ供給されるガス量の不足を抑制することができる。
(第3の実施形態)
図19は、第3の実施形態にかかるガス供給量制御部43の構成を示すブロック図である。第3の実施形態にかかる燃料電池システムが第1の実施形態と相違する点は、ガス供給量制御部43の構成である。なお、第1の実施形態と共通する構成および制御手順については説明は省略し、以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明を行う。
本実施形態との関係において、ガス供給量制御部43は、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、電流センサ6における電流に対応した反応ガスの供給量となるように、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量を制御する。具体的には、ガス供給量制御部43は、これを機能的に捉えた場合、必要ガス量演算部43gと、補正演算部43hと、目標ガス量演算部43iと、供給制御部43jとを有している。
必要ガス量演算部43gは、実取出電流Ifを参照し、この実取出電流Ifが燃料電池スタック1から取り出される際に、燃料電池スタック1に供給する必要のある反応ガスの量を必要ガス量NFGとして演算する。補正演算部43hは、スタック電圧Vfが予め設定された下限電圧に到達(低下)している場合、後述する目標ガス量演算部43iからの目標ガス量TFGが必要ガス量NFGと対応するように、ガス用目標電流TGIを補正して、この補正結果を補正目標電流ATGIとして目標ガス量演算部43iに出力する。なお、補正演算部43hは、補正を行う条件を具備しない場合には、ガス用目標電流TGIを目標ガス量演算部43iに出力する。目標ガス量演算部43iは、ガス用目標電流TGIに基づいて、このガス用目標電流TGIを燃料電池スタック1から取り出す際に、この燃料電池スタック1に対して供給すべき反応ガスの量を目標ガス量TFGとして演算する。ただし、目標ガス量演算部43iは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、補正演算部43hから出力される補正目標電流ATGIに基づいて、目標ガス量TFGを演算する。供給制御部43jは、目標ガス量TFGに基づいて、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量、すなわち、水素の供給量および酸素の供給量を制御する。
図20は、本実施形態にかかるステップ20におけるガス供給量制御処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ51(S51)において、必要ガス量演算部43gは、実取出電流Ifに基づいて、必要ガス量NFGを演算する。演算するガス量としては、ガス流量とガス圧力とが挙げられる。ガス流量とガス圧力との演算については、第1の実施形態のそれと同様であり、その詳細な説明は省略する。
ステップ52(S52)において、補正演算部43hは、補正処理を行う。図21は、補正処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ56(S56)において、補正演算部43hは、電圧センサ7から実電圧Vをスタック電圧Vfとして読み込む。
ステップ57(S57)において、補正演算部43hは、補正を実行するか否かを判断する。補正を実行するか否かの判断は、第1の実施形態と同様の処理によって実現することができる。ステップ57において肯定判定された場合、すなわち、補正を実行する場合には、ステップ58(S58)に進む。一方、ステップ57において否定判定された場合、すなわち、補正を実行しない場合には、本ルーチンを抜ける。
ステップ58(S58)において、補正演算部43hは、ガス量を決定付けるガス用目標電流TGIの補正を行う。補正演算部43hは、従前の処理において演算された目標ガス量TFGが必要ガス量NFGと値的に対応するように、ガス用目標電流TGIを補正して、補正目標電流ATGIを演算する。補正方法としては、目標ガス量TFGと必要ガス量NFGとの差に基づいて、ガス用目標電流TGIをフィードバック補正して、この補正結果を補正目標電流ATGIとして扱うといった如くである。ここで、ガス用目標電流TGIによって補正の対象となるガス量は、少なくとも空気の供給流量を含むこととするが、水素の供給流量や、空気の供給圧力、水素の供給圧力をさらに含んでもよい。
再び図20を参照するに、ステップ53(S53)において、目標ガス量演算部43iは、補正目標電流ATGIと、実取出電流Ifとを比較して、値が大きい方の電流を、最終的なガス用目標電流として決定する。なお、ステップ52において補正が実行されない場合には、補正目標電流ATGIがないので、そのままガス用目標電流TGIを用いる。
ステップ54(S54)において、供給制御部43jは、最終的なガス用目標電流づいて、目標ガス量TFGを演算する。演算するガス量としては、ガス流量とガス圧力とが挙げられる。また、ガス流量は、燃料電池スタック1の燃料極へ供給される水素流量と、燃料電池スタック1の酸化剤極へ供給される空気流量とを含み、ガス圧力は、燃料電池スタック1の燃料極へ供給される水素圧力と、燃料電池スタック1の酸化剤極へ供給される空気圧力とを含む。目標ガス量の演算方法は、第1の実施形態と同様であり、その説明は省略する。
ステップ55(S55)において、供給制御部43jは、目標ガス量TFGに基づいて、燃料電池スタック1へ供給するガス量を制御する。
このように本実施形態によれば、ガス供給量制御部43は、目標ガス量演算部43iと、必要ガス量演算部43gと、補正演算部43hと、供給制御部43jとを有する。この場合、目標ガス量演算部43iは、スタック電圧Vfが下限電圧に到達している場合、補正演算部43hから出力される補正目標電流ATGI、すなわち、目標ガス量TFGが必要ガス量NFGと値的に対応するように補正されたガス用目標電流TGIに基づいて、目標ガス量を演算する。かかる構成によれば、燃料電池発電特性が低下して目標とする出力が得られないときにでも、実取出電流Ifに応じた反応ガスを供給することができる。これにより、燃料電池スタック1への反応ガスの供給量が過大になるといった事態を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、目標ガス量演算部43iは、補正目標電流ATGIと実取出電流Ifとを比較して、値が大きい方の電流に基づいて、目標ガス量TFGを演算する。かかる構成によれば、補正演算の補正速度が遅いシーンでも、スタック電圧Vfが下限値となり補正が行われている状態から目標電流TFIが急速に低下する場合に、燃料電池スタック1へ供給されるガス量の不足を抑制することができる。
(第4の実施形態)
図22は、第4の実施形態にかかる燃料電池システムの全体構成を示すブロック構成図である。第4の実施形態にかかる燃料電池システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、出力取出装置2の構成およびその配置位置が変更されている点である。なお、第1の実施形態と共通する構成および制御手順については説明は省略し、以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明を行う。
具体的には、本実施形態において、出力取出装置2は、燃料電池スタック1の電流を制御パラメータとして操作することにより、燃料電池スタック1から取り出す電流を調整する。出力取出装置2によって取り出された電流は、出力取出装置2を介して、図示しない駆動モータやバッテリへと供給される。
図23は、本実施形態におけるステップ30における出力制御処理の手順を示すフローチャートである。まず、ステップ61(S61)において、第1のコントローラ40aにおいて演算される目標電流TFIが取得される。ステップ62(S62)において、電圧センサ7より実電圧が読み込まれる。
ステップ63(S63)において、実電圧が下限電圧よりも小さいか否かが判断される。このステップ63において肯定判定された場合、すなわち、実電圧が下限電圧よりも小さい場合には、ステップ64(S64)に進む。一方、ステップ63において否定判定された場合、すなわち、実電圧が下限電圧以上の場合には、ステップ65(S65)に進む。
ステップ64において、目標電流補正量が演算される。具体的には、出力制御部44は、実電圧が下限電圧と対応するように、目標電流に対する補正量を目標電流補正量として演算する。補正演算の一例としては、実電圧と下限電圧との差に基づいて、フィードバック補正により補正値を演算するといった如くである。
ステップ65(S65)において、目標電圧が演算される。具体的には、ステップ61において読み込まれた目標電流TFIを、ステップ64において演算した基準電圧補正値で補正することにより、最終的な目標電流が演算される。
ステップ66(S66)において、ステップ65において演算された最終的な目標電流に基づいて、出力取出装置2を介して燃料電池スタック1の電圧が制御される。
このように本実施形態において、スタック電圧Vfを検出する電圧検出手段は、燃料電池スタック1における実際の電圧を検出する電圧センサ7である。また、出力制御部44は、実電圧が下限電圧を下回らないように、出力取出装置2を介して燃料電池スタック1の電流を制御する。かかる構成によれば、燃料電池スタック1の実電圧が下限電圧を下回らないように安定した出力制御を行うことができる。
以上、本発明の実施形態にかかる燃料電池システムおよびその制御方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その発明の範囲内において種々の変形が可能である。目標出力として、電流をパラメータとしているが、電流以外にも、電力や電圧であってもよい。この場合、ガス用目標電流TGIは、そのパラメータ(電力または電圧)にしたがって、出力取出装置2が燃料電池スタック1の出力を制御したときに、燃料電池スタック1から取り出される電流となればよい。