JP5578456B2 - 絵具及びそれを用いた造形物 - Google Patents

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本発明は、高粘性を有する絵具、及びそれを用いた造形物と、その造形方法に関するものである。
画材として用いる絵具は、ビヒクルや展色材と称されるバインダーに顔料や染料を分散させたもので、バインダーの種類によって、油絵具、アクリル絵具、水彩絵具、岩絵具などのように分類され、塗布方法や仕上がり具合に違いが表れる。
前記のような従来の油絵具、アクリル絵具などは、衣服等に付いた場合、衣服の奥に絡み付いた汚れは、数回洗濯をくり返しても汚れは残ることがある。また、絵具を塗った後の乾燥する過程で種類によっては、嫌悪感を持つような有臭ガスを漂わせるという課題がある。さらに、通常は粘性が低いため、レリーフのような仕上がりを狙って、立体感を出そうとすると、何度も絵具の塗り重ねを行う必要がある。
また前記のレリーフの他、立体的な造形を得るには、絵具に適切な流動性を付与する、つまり、盛り上げるように塗布した絵具が流れて、いわゆるセルフレベリングを起こさないように、流動性を調整しないと、所要の形状が得られなくなる。
粘性もしくは流動性を調整した水性塗料の例として、特許文献1には、微結晶セルロースとカルボキシメチルセルロース・ナトリウムまたはキサンタンガムからなるセルロース複合体とセルロース誘導体からなる水溶性高分子を配合した水性塗料組成物が開示されている。しかし、ここに開示されている技術は、前記の課題に十分に対処できるものではなく、なお、改善の余地がある。
特許第4975326号公報
従って、本発明の課題は、取扱いが容易で、衣服などを汚した場合にも容易に除くことが可能で、かつ流動性を適切に調整することで、従来の絵具では不可能な、新規な表現や立体的な造形が得られる絵具を提供することにある。
本発明は、前記課題の解決のため、安全で取扱いの容易なバインダーと充填材を鋭意検討した結果、なされたものである。しかも結果的に得られた絵具は、表面に離形性を有する各種の対象物に塗布した後に乾燥硬化すると、容易に剥離できて、しかも一定の機械的強度を維持するという特性を発現するため、様々な立体的な造形に応用可能である。
即ち、本発明は、10〜20重量%の、メチルセルロースと増粘多糖類から選ばれる少なくとも1種を含むバインダーと、80〜90重量%の、粉末繊維素と、前記バインダー;100重量部に対して、1800〜2600重量部の水と、1〜20重量部の染料または顔料の少なくともいずれかと、100〜150重量部の安息香酸ナトリウムと、0.5〜6重量部のホウ酸とを添加してなる絵具であって、チキソトロピー性を発現し、せん断速度が10(1/s)以下の領域では、粘性係数が45(Pa・s)以上であり、せん断速度が10(1/s)以上の領域では、粘性係数が35(Pa・s)以下であることを特徴とする絵具である。
また、本発明は、前記粉末繊維素がセルロースを含み、前記増粘多糖類がキサンタンガムを含むことを特徴とする、前記の絵具である。
また、本発明は、前記の絵の具を、平面または立体的な形状を具備する対象物の表面に塗布して乾燥した後、前記対象物の表面から剥離することにより、前記絵具からなる造形物を得ることを特徴とする造形方法である。
また、本発明は、前記の造形方法により得られることを特徴とする造形物である。
絵具を用いて、レリーフ状の造形を得るには、前記のように絵具の流動性を適切に調整することが必要である。それには、塗布の工程においては、作業に支障のない程度に絵具が流動性を生じ、塗布を終えた後は、乾燥するまで、セルフレベリングを起こさない程度に高粘度を示すことが望ましい。
一般に流体には、せん断速度に関わらず、一定の粘性係数を示すニュートン流体がある一方で、せん断速度が低い領域では高い粘性係数を示し、せん断速度の上昇に伴い粘性係数が減少する疑塑性流体や、一定以上のせん断速度、即ち、降伏値に達しない状態では、流動し難いビンガム流体がある。つまり、絵具でレリーフ状の造形を得るには、静止状態では自重で流動しない、つまりビンガム流体に近い流動性を具備することが必要である。
一方で、本発明の絵具においては、前記のようにメチルセルロースや増粘多糖類を主成分とするので、適当な防腐剤を添加しないと、保管中に腐敗やカビが発生することがある。この対策として、本発明者は、一般的に防腐剤として用いられている、安息香酸酸ナトリウムやホウ酸を加えて、保存性の向上を検討した。ところがその途次で、これらの添加、特にホウ酸の添加により、意外にも粘性が急激に増加し、無添加の場合に比較すると、チキソトロピー特性が顕著になることが明らかとなり、本発明をなすに至ったものである。
本発明の絵具は、メチルセルロースや増粘多糖類を含み、さらに粉末繊維素を含む。これらにせん断力を負荷すると、分子鎖や繊維がせん断力の加わる方向に配向するので、チキソトロピー特性を示す。さらに、本発明に用いるホウ酸は、ルイス酸として働き、水素結合を形成するので、メチルセルロースや増粘多糖類の分子間の相互作用をより大きくし、粘性とチキソトロピー特性を増加させたものと解される。
本発明に係る絵具は、絵画、デザイン、造形、工芸、などに使用可能である。粉末繊維素を含むため、乾燥すると紙質になるため、優しい感じが醸しだされる。さらに、本発明に係る絵具塗材によれば、デザイン、造形、工芸などにおいて、多種多様な形を提供することができ、レリーフのような平面的な造形の他、内部に空洞を有する立体的な造形を得ることができる。
粉末繊維素には、種々の形態のものを用いることができるが、粉末繊維素は、天然の植物性繊維からなることが望ましいが、合成繊維からなってもよい。さらには、粉末状の食用の食物繊維でも使用可能である。また、粉末繊維素には古紙を原料とした再生繊維を用いてもよい。粉末繊維素は、乾燥状態でも湿潤状態でもよい。なお、前記の粉末繊維素の重量部は乾燥状態の重量部である。増粘多糖類の代替として他の糊剤を用いてもよいが、環境への負荷の観点から、天然由来のものが望ましい
また、絵具に色を付与する顔料としては、白色顔料として、亜鉛華、二酸化チタンなどが、赤色顔料として、酸化鉄赤などが、黄色顔料として、亜鉛黄などが、青色顔料として、ウルトラマリン青などが、黒色顔料として、カーボンブラックブラックなどが使用可能である。染料としては、赤色染料として、アリザリンなどが、青色染料として、インディゴなどが使用可能である。
また、本発明に係わる絵具塗材は、黒色顔料として、竹炭粉末や木炭粉末を含んでいてもよい。この場合、竹炭や木炭による消臭、抗菌効果などを発揮することができる。竹炭粉末または木炭粉末は、バインダーに対し、0.1ないし2重量%の範囲で添加することが望ましい。さらには、香料や芳香剤を加えることで、造形物にアロマテラピーの効果を付与することも可能である。
本発明の絵具の粘性係数の測定結果の一例を示す図。 本発明に係る造形物の制作工程の一例における、対象物表面に絵具を塗布した状態を示す写真。 本発明に係る造形物の制作工程の一例における、絵具が硬化し対象物を収縮させた状態を示す写真。 本発明に係る造形物の制作工程の一例における、対象物を除去する状態を示す写真。
次に本発明の実施の形態について説明する。本発明に係わる絵具は、前記のように、基本的には、80〜90重量%の、粉末繊維素と、10〜20重量%の、メチルセルロースと増粘多糖類から選ばれる少なくとも1種とを含むバインダーと、前記バインダー;100重量部に対して、1800〜2600重量部の水と、1〜20重量部の染料または顔料の少なくともいずれかと、100〜150重量部の安息香酸ナトリウムと、0.5〜6重量部のホウ酸とを添加してなる。
添加する水の量を前記のように限定するのは、1800重量部未満であると、絵具塗材の流動性が極めて低くなり、塗布が実質的に不可能となるからであり、2600重量部を超える添加量では、逆に絵具塗材の粘性が低すぎて、例えば厚く塗るのが困難になるなどの様々な支障が生じるからである。なお、季節に応じて水の量や、防腐剤の量を調節することが必要である。
次に、本発明の絵具の具体的な製造方法の一例を示す。まずメチルセルロースを20g秤量し、500ccの水に投入して撹拌し、さらに安息香酸ナトリウムを50g秤量して均一になるまで、撹拌した。次に、キサンタンガムを20g秤量し、顔料として酸化第二鉄を10g秤量し、400ccの水に投入して均一になるまで撹拌した。
次に、粉末繊維素として、200gのセルロースファイバーを秤量し、前記のメチルセルロース溶液とキサンタンガム溶液を混合した液に投入し、均一になるまで撹拌して、絵具を得た。さらに、ホウ酸を1.2g秤量して添加し、均一になるまで撹拌した。
このようにして得られた、絵具の流動性を評価するために、レオメータを用いて、せん断速度と粘性係数の関係を求めた。この際、比較のため、ホウ酸を添加していない絵具も同様に評価した。
図1は、前記の粘性係数の測定結果を示す図で、丸を用いてプロットしたものは、本発明の絵具、正方形を用いてプロットしたものは、ホウ酸を添加していない絵具の結果である。図1の結果から明らかなように、せん断速度が、10(1/s)近傍では、本発明の絵具では、約45(Pa・s)の粘性係数を示すのに対し、ホウ酸を添加していない絵具の粘性係数は、約33(Pa/s)であり、顕著な差が明らかである。また、チキソトロピー特性にも、大きな差が見られた。この特性は、前記のように、絵具で立体的な造形を得るのに極めて重要である。
次に、本発明の絵具を用いて立体的な造形を得る工程を、具体的な写真を用いて説明する。図2〜図4はその工程を示す写真である。
ここでは、絵具を塗布する対象物として、市販のゴム風船を選択した。ここでは、ゴム風船を用いたが、本発明の絵具が乾燥硬化した状態で、離形性を示すものであれば、対象物の材質が特に限定されないのは勿論であり、表面に離型剤を塗布したものでも使用可能である。
図2は、膨らませたゴム風船を適当な方法で宙吊りにし、表面に絵具を塗布した状態を示す図である。塗布には、油彩に用いる筆やナイフの他、ケーキの製作に一般的に用いられる絞り袋を用いることが可能である。
図3は、前記の表面に絵具を塗布した対象物を宙吊りの状態で保持し、絵具が乾燥硬化した後、対象物であるゴム風船の空気を抜いて、縮小させた状態を示し、図4は、縮小した対象物を除去する状態を示す。
このようにして、得られた立体的な造形物はこのままでもよいが、表面に透明なラッカーなどを塗布して、耐水性を付与したり、表面に薄いフィルムや紙を貼り付けたりすることも可能であり、様々な造形に応用できる。また、本発明の絵具は、基本的に水溶性なので、被服に付着しても、容易に洗濯で除去できる。
以上に説明したように、本発明によれば、絵画、デザイン、造形、工芸、その他において、幼児から高齢者まで幅広く、楽しむことができ、環境に対する負荷が小さい、新しいタイプの絵具が提供できる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。

Claims (3)

  1. 80〜90重量%の粉末繊維素と、
    10〜20重量%のメチルセルロースと増粘多糖類から選ばれる少なくとも1種とを含むバインダーと、
    前記バインダー100重量部に対して、1800〜2600重量部の水と、1〜25重量部の染料または顔料の少なくともいずれかと、100〜150重量部の安息香酸ナトリウムと、0.5〜6重量部のホウ酸とを添加してなる絵具であって、前記粉末繊維素はセルロースを含み、前記増粘多糖類はキサンタンガムを含み、前記絵具はチキソトロピー性を発現し、せん断速度が10(1/s)未満の領域では、粘性係数が45(Pa/s)以上であり、せん断速度が10(1/s)以上の領域では、粘性係数が35(Pa/s)以下であることを特徴とする絵具。
  2. 請求項1に記載の絵具を、平面または立体的な形状を具備する対象物の表面に塗布して乾燥した後、前記対象物の表面から剥離することにより、前記絵具からなる造形物を得ることを特徴とする造形方法。
  3. 請求項2に記載の造形方法により得られることを特徴とする造形物。
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