上記コードスイッチによると、電極線は、絶縁体の内面に沿って、互いに接触しないように螺旋状に配置されている。このため、絶縁体には、電極線を保持固定するための剛性が必要になる。一方、絶縁体が潰れて、内部の電極線同士が接触しなければ、異物の検知を行うことはできない。つまり、コードスイッチに比較的大きな荷重が加わらないと、異物を検知することができない。このため、異物に対して大きな荷重が加わってしまうおそれがある。
また、上記コードスイッチにおいては、絶縁体の剛性により荷重応答性が決定される。しかし、絶縁体の剛性の選択範囲は、広いとはいえない。よって、荷重応答レンジを広く設定することは難しい。上述したように、コードスイッチの作動には、電極線同士の接触が起こる程度の荷重が必要となる。このため、特に、小さな荷重領域への適用は難しい。また、コードスイッチは、荷重の有無をオン/オフで検出するに過ぎない。つまり、荷重の変化を連続的に検出することはできない。また、コードスイッチは、チューブ状を呈している。このため、薄い平面や、広い面積への適用は難しい。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、荷重応答レンジを容易に調整することができ、荷重応答レンジが広く、小さな荷重についても検出可能な荷重センサを提供することを課題とする。
(1)本発明の荷重センサは、樹脂製の母材に導電性フィラーが充填されてなり、該導電性フィラー同士の接触により三次元的な導電パスが形成され、曲げ変形した時に該導電パスを切断する方向に予めクラックが形成されており、曲げ変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するセンサ本体と、該センサ本体に接続され、電気抵抗を出力可能な複数の電極と、該センサ本体の荷重入力面に積層され、該荷重入力面の弾性変形を拘束する基材と、該センサ本体を挟んで該基材と反対側に積層され、該センサ本体よりも積層方向の圧縮弾性率が小さい弾性体と、を備え、荷重の入力による圧縮力を曲げ変形に変換して、該センサ本体の曲げ変形に基づく該電気抵抗の変化から、該荷重を検出することを特徴とする。
本発明の荷重センサを構成するセンサ本体は、樹脂製の母材に導電性フィラーが充填されてなる。センサ本体には、導電性フィラー同士の接触により、三次元的な導電パスが形成されている。このため、センサ本体は、荷重が印加されていない状態(以下、適宜「無荷重状態」と称す)で、高い導電性を有する。例えば、センサ本体が曲げ変形すると、導電性フィラー同士の接触が断絶されて、導電パスが崩壊する。これにより、電気抵抗が増加する。
また、センサ本体には、予めクラックが形成されている。クラックは、曲げ変形した時に導電パスを切断する方向に、形成されている。図1に、センサ本体におけるクラックの一部近傍を拡大した模式図を示す。ただし、図1は、本発明の荷重センサを説明するための模式図である。図1は、例えば、クラックの形状、クラックの延在方向、導電性フィラーの形状、導電パスの形状、導電パスの延在方向等、本発明を何等限定するものではない。図1中、(a)は曲げ変形前の無荷重状態を、(b)は曲げ変形後の状態を、各々示す。
図1(a)に示すように、センサ本体800は、母材801と導電性フィラー802とクラック803とを有している。センサ本体800には、導電性フィラー802同士の接触により、導電パスPが形成されている。クラック803は、図中、左右方向(伸張方向)と交差する方向に形成されている。センサ本体800に荷重が加わると、センサ本体800が曲げ変形を開始する。センサ本体800が曲げ変形により左右方向に伸張されると、図1(b)に示すように、クラック803が開口する。これにより、導電性フィラー802同士の接触が断絶されて、導電パスPが切断される。その結果、電気抵抗が増加する。加わっていた荷重が除去されると、センサ本体800は元の状態(図1(a)の状態)に復元する。これにより、クラック803も元の状態に戻る。
このように、センサ本体では、曲げ変形により歪みが入力されると、母材の弾性変形を待たずに、クラックの開口により、導電パスが切断される(ただし、本発明の荷重センサは、母材の弾性変形により導電パスが切断される場合を除外するものではない。)。したがって、応答遅れが生じにくい。また、主にクラックの開口により導電パスが切断されるため、母材の弾性変形のみに依存して導電パスが切断される場合と比較して、小さな歪みについても精度良く検出することができる。
センサ本体の荷重入力面には、基材が配置される。荷重入力面、つまりセンサ本体の弾性変形は、基材により規制される。具体的には、荷重入力面に荷重が加わると、センサ本体には曲げ変形が誘起される。特に、センサ本体の厚さが小さい場合には、センサ本体の圧縮変形を、ほとんど無視することができる。よって、センサ本体の厚さが小さい場合、センサ本体の弾性変形は、曲げ変形が支配的になる。
また、センサ本体を挟んで基材と反対側には、弾性体が配置される。弾性体には、基材、センサ本体等を介して、荷重が伝達される。ここで、弾性体の積層方向の圧縮弾性率は、センサ本体の積層方向の圧縮弾性率よりも小さい。このため、当該荷重により、弾性体は、弾性的に圧縮される。すなわち、センサ本体の圧縮ばね定数が、弾性体の圧縮ばね定数よりも充分に大きければ、荷重が入力された際に、弾性体の圧縮変形が支配的となる。このように、センサ本体に、基材および弾性体を積層させることにより、入力された荷重が、センサ本体の曲げ変形に変換される。そして、センサ本体の曲げ変形に基づく電気抵抗の変化が、電極から出力される。すなわち、本発明の荷重センサによると、荷重の変化を連続的に検出することができる。ここで、「電気抵抗を出力可能」とは、電気抵抗を直接あるいは間接的に出力可能なことをいう。すなわち、直接、電極から電気抵抗を出力する場合は勿論、電圧や電流など電気抵抗に関連する他の電気量を出力する場合を含む。
ここで、弾性体の積層方向の圧縮ばね定数は、積層体を構成する材料の圧縮弾性率だけでなく、弾性体の形状(面積、厚さ)によっても変化する。したがって、弾性体の材質や形状を適宜選択することにより、検出したい荷重範囲に応じて圧縮ばね定数を選択して、センサ応答を最適化することができる。このように、本発明の荷重センサによると、荷重応答レンジを容易に調整することができる。また、弾性体の圧縮ばね定数を小さくすることより、荷重が比較的小さい場合であっても、当該荷重を正確に検出することができる。また、エラストマー等の高分子材料の弾性率は、ガラス転移温度を境に変化する。すなわち、ガラス転移温度以下では、弾性率が大きくなりガラス状態になる。反対にガラス転移温度を超えると、弾性率が小さくなりゴム状態となる。このため、弾性体を高分子材料で構成すると、荷重センサの使用温度と、弾性体のガラス転移温度と、の関係により、センサ応答が変化する。例えば、使用温度がガラス転移温度以下の場合、弾性体はガラス状態である。このため、センサ応答性(=弾性体の変形量/荷重)が小さくなる。一方、使用温度がガラス転移温度を超える場合、弾性体はゴム状態である。このため、センサ応答性が大きくなる。このように、センサ応答性は温度に依存する。したがって、使用する温度に応じて、弾性体の構成材料を選択することにより、言い換えると弾性体のガラス転移温度を調整することにより、最適なセンサ応答性を実現することができる。
また、センサ本体の母材は、樹脂からなる。このため、本発明の荷重センサは、加工性に優れ、形状設計の自由度が高い。よって、曲面等、形状が複雑な部材に対しても、本発明の荷重センサを配置することができる。また、本発明の荷重センサを長尺状、あるいは面状に配置すれば、広範囲における荷重を容易に検出することができる。
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記センサ本体と前記弾性体との積層方向における前記圧縮弾性率の比(センサ本体/弾性体)は、100以上である構成とする方がよい。
荷重の入力による圧縮力を、センサ本体の曲げ変形に変換するためには、センサ本体ができるだけ圧縮変形しないことが望ましい。本構成によると、積層方向におけるセンサ本体の圧縮弾性率が、弾性体の圧縮弾性率に対して、100倍以上大きい。したがって、センサ本体において、圧縮変形よりも曲げ変形が支配的になる。これにより、入力された荷重は、センサ本体の曲げ変形に変換される。その結果、より正確に荷重を検出することができる。なお、後述するように、弾性体が複数の層から構成されている場合には、各々の層の積層方向の圧縮弾性率に対して、センサ本体の積層方向の圧縮弾性率が、100倍以上大きければよい。本明細書においては、圧縮弾性率として、JIS K 6254(2003)に準じて測定した値を採用する。
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記弾性体は、積層方向の前記圧縮弾性率が異なる複数の層が積層されてなる構成とする方がよい。
例えば、積層方向の圧縮弾性率が異なる二層を積層させて、弾性体を構成した場合には、各々の圧縮弾性率に応じて、センサ本体が二段階に曲げ変形する。すなわち、圧縮弾性率が小さい層を、センサ本体側に配置すると、荷重入力時の初期段階では、まず、圧縮弾性率が小さい層が潰れる。これにより、比較的小さな荷重を検出することができる。その後、さらに荷重が入力されると、圧縮弾性率が小さい層は潰れきってしまい、代わって圧縮弾性率が大きい層が潰れ始める。これにより、小さな荷重から大きな荷重まで、検出することができる。つまり、弾性体を一層で構成した場合と比較して、荷重応答レンジを広くすることができる。
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記センサ本体と前記弾性体との間には、弾性を有し、かつ絶縁性のカバーフィルムが、該センサ本体を被覆するように配置されている構成とする方がよい。
本構成によると、センサ本体が、カバーフィルムにより被覆される。これにより、センサ本体の絶縁性が確保されると共に、劣化が抑制される。また、カバーフィルムは、弾性変形可能である。よって、センサ本体と共に曲げ変形することができる。このため、センサ本体の動きを阻害しにくい。また、除荷された後は、カバーフィルムの弾性復元力に助けられて、センサ本体が元の形状に復元しやすくなる。また、開いたクラックも元の状態に戻りやすくなる。
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記弾性体は、弾性接着剤または粘着剤により前記センサ本体または前記カバーフィルムと貼着されている構成とする方がよい。
弾性接着剤、粘着剤は、部材同士を貼着させるだけでなく、弾性を有する。このため、弾性接着剤または粘着剤により、弾性体をセンサ本体等に貼着させれば、荷重入力時におけるセンサ本体の曲げ変形を妨げにくい。
(6)好ましくは、上記(4)の構成において、前記カバーフィルムは、接着性を有し、前記センサ本体と前記弾性体とは、該カバーフィルムにより接着されている構成とする方がよい。
本構成によると、カバーフィルムが、センサ本体と弾性体とを貼着させる役割をも果たす。したがって、上記(4)の構成で述べたカバーフィルムによる利点に加えて、弾性接着剤等を別途準備しなくても、センサ本体と弾性体とを貼着することができる。
以下、本発明の荷重センサの実施形態について説明する。
<荷重センサの構成>
まず、本実施形態の荷重センサの構成について説明する。図2に、本実施形態の荷重センサの分解斜視図を示す。図3に、同荷重センサの上面図を示す。図4に、図3のIV−IV断面図を示す。図5に、センサ本体とカバーフィルムとの境界付近の拡大図を示す。
説明の便宜上、図2では、カバーフィルム13を透過して示す。また、図3では、弾性体14を省略して示す。図2〜図4に示すように、荷重センサ1は、基材10と、センサ本体11a、11bと、配線12a〜12cと、カバーフィルム13と、弾性体14と、を備えている。
基材10は、ポリエチレンナフタレート(PEN)製である。基材10は、上方から見てU字状を呈しており、右方に開口している。基材10は、左端から右方向に延びる二本の帯部10a、10bを有している。帯部10aは、帯部10bの後方に配置されている。基材10の厚さは約125μmである。
センサ本体11a、11bは、各々、左右方向に延びる帯状を呈している。センサ本体11a、11bの厚さは、いずれも約30μmである。センサ本体11aは、基材10の帯部10aの上面に固定されている。同様に、センサ本体11bは、基材10の帯部10bの上面に固定されている。基材10に固定されているセンサ本体11a、11bの下面は、荷重入力面である。
センサ本体11a、11bは、エポキシ樹脂(母材)にカーボンビーズ(導電性フィラー)が充填されてなる。カーボンビーズの充填率は、センサ本体11a、11bの体積を100vol%とした場合の約45vol%である。センサ本体11a、11bの上下方向(積層方向)における圧縮弾性率は、5.8GPaである。
図5に模式的に示すように、センサ本体11a、11bには、予め複数のクラックC1が形成されている。クラックC1は、センサ本体11a、11bの厚さ方向(上下方向)に延びるように配置されている。クラックC1は、センサ本体11a、11bの左右方向に連なる長さ2mmの単位区間U1内に、約二個ずつ形成されている。
配線12aの一端には、電極部120aが配置されている。電極部120aは、本発明における電極に含まれる。電極部120aは、センサ本体11aの右端に接続されている。電極部120aは、センサ本体11aと基材10(帯部10a)との間に、介装されている。同様に、配線12bの一端には、電極部120bが配置されている。電極部120bは、本発明における電極に含まれる。電極部120bは、センサ本体11bの右端に接続されている。電極部120bは、センサ本体11bと基材10(帯部10b)との間に、介装されている。配線12a、12bの他端は、図示しないコネクタに接続されている。配線12cは、センサ本体11aの左端とセンサ本体11bの左端とを接続している。配線12cの前端は、センサ本体11bと基材10との間に、介挿されている。配線12cの後端は、センサ本体11aと基材10との間に、介挿されている。
カバーフィルム13は、アクリルゴム製である。カバーフィルム13は、基材10と略同じ形状を呈している。すなわち、カバーフィルム13は、上方から見てU字状を呈しており、右方に開口している。カバーフィルム13は、センサ本体11a、11bおよび配線12a〜12cを、上方から被覆している。
弾性体14は、発泡ウレタン製である。弾性体14の上下方向における圧縮弾性率は0.12MPa(25%圧縮応力は0.03MPa)である。弾性体14は、基材10と略同じ形状である。すなわち、弾性体14は、上方から見てU字状を呈しており、右方に開口している。弾性体14の厚さは約5mmである。弾性体14は、カバーフィルム13を介して、センサ本体11a、11bの上方に配置されている。つまり、弾性体14は、センサ本体11a、11bの荷重入力側とは反対側に配置されている。弾性体14とカバーフィルム13とは、弾性接着剤により接着されている。
<荷重センサの製造方法>
次に、本実施形態の荷重センサ1の製造方法について説明する。本実施形態の荷重センサ1の製造方法は、塗料準備工程と、印刷工程と、曲げ硬化工程と、除荷工程と、カバーフィルム印刷工程と、弾性体接着工程と、を有している。
塗料準備工程においては、センサ塗料、配線塗料、およびカバーフィルム塗料を、各々準備する。すなわち、センサ塗料を、エポキシ樹脂の硬化前樹脂(日本ペルノックス(株)製「ペルノックス(登録商標)ME−562」;液状)100質量部と、硬化剤(同社製「ペルキュア(登録商標)HV−562」;液状)150質量部と、カーボンビーズ(日本カーボン(株)製「ニカビーズ(登録商標)ICB0520」、平均粒子径約5μm)300質量部と、を羽根攪拌により混合して調製する。配線塗料としては、藤倉化成(株)製「ドータイト(登録商標)FA−312」を使用する。カバーフィルム塗料を、次のようにして調製する。まず、アクリルゴムポリマー(日本ゼオン(株)製「ニポール(登録商標)AR51」)100質量部と、加硫助剤のステアリン酸(花王(株)製「ルナック(登録商標)S30」)1質量部と、加硫促進剤のジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学(株)製「ノクセラー(登録商標)PZ」)2.5質量部、およびジメチルジチオカルバミン酸第二鉄(同社製「ノクセラーTTFE」)0.5質量部と、をロール練り機にて混合し、エラストマー組成物を調製する。次に、調製したエラストマー組成物を、印刷用溶剤のエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート312質量部に溶解させる。
印刷工程においては、カバーフィルム塗料以外の塗料を、スクリーン印刷機を用いて、基材10の上面に印刷する。まず、基材10の上面に、配線塗料を印刷する。続いて、配線塗料印刷後の基材10を、約140℃の乾燥炉内に約30分間静置して、塗膜を硬化させる。このようにして、配線12a〜12cを形成する。次に、基材10の上面に、センサ塗料を印刷する。
曲げ硬化工程においては、センサ塗料の塗膜が内側になるように基材10を湾曲させて、その状態で加熱して、塗膜を硬化させる。図6に、曲げ硬化工程の前半の模式図を示す。図7に、同工程の後半の模式図を示す。
まず、図6、図7に示すように、センサ塗料の塗膜110が形成された基材10を、C字形状の金型2の内周面20に貼り付ける。この時、金型2の内周面20に、基材10の下面100を当接させる。次に、金型2を乾燥炉内に入れ、約140℃で1時間保持して、塗膜110を一次硬化させる。続いて、約170℃で2時間保持して、塗膜110を二次硬化させる。
除荷工程においては、基材10を、硬化した塗膜110と共に金型2から剥離して、基材10および硬化した塗膜110を、湾曲した状態から、元の平面状態(前出図6参照)に戻す。本工程により、硬化した塗膜110(センサ本体11a、11b)に、歪みが入力されると共に、クラックが形成される。このようにして、センサ本体11a、11bを形成する。
カバーフィルム印刷工程においては、スクリーン印刷機を用いて、塗料準備工程にて調製したカバーフィルム塗料を印刷する。まず、基材10、センサ本体11a、11b、および配線12a〜12cの上面を覆うように、カバーフィルム塗料を印刷する。次に、塗料印刷後の基材10を約150℃の乾燥炉内に約30分間静置して、塗膜を硬化させる。このようにして、カバーフィルム13を形成する。
弾性体接着工程においては、これまでに得られた基材10およびセンサ本体11a、11b等からなるセンサ素子と、弾性体14と、を弾性接着剤により接着する。すなわち、カバーフィルム13の上面に弾性接着剤を塗布し、上方から弾性体14を積層させて接着する。以上の工程により、荷重センサ1を作製する。
<荷重センサの動き>
次に、本実施形態の荷重センサ1の動きについて説明する。図8に、荷重入力時における、荷重センサの前方から見た断面図(前出図3のIV−IV断面に相当)を示す。図9に、荷重入力時における、センサ本体とカバーフィルムとの境界付近の拡大図を示す(前出図5に対応)。ここでは、荷重センサ1の手前側、すなわちセンサ本体11bに荷重が入力された態様を説明する。
図8の白抜き矢印で示すように、荷重センサ1の下方から荷重が加わると、帯部10b(基材10)と共にセンサ本体11bは押圧される。この時、基材10により、センサ本体11bの荷重入力面(下面)の弾性変形は規制される。また、センサ本体11bの厚さは小さい。このため、センサ本体11bは、ほとんど圧縮変形せずに曲げ変形する。すなわち、センサ本体11bは、上方に膨出する。センサ本体11bが上方に膨出すると、同様にカバーフィルム13も上方に膨出する。弾性体14の下面は、カバーフィルム13に押し上げられて、上方に圧縮変形する。
荷重入力前において、センサ本体11a、11bには、カーボンビーズ同士の接触により、多数の導電パスが形成されている。したがって、電極部120a、120bを介して出力されるセンサ本体11a、11bの電気抵抗は、比較的小さい。これに対して、図8に示す荷重入力時においては、荷重入力の初期の段階でセンサ本体11bが曲がることにより、図9に示すように、センサ本体11b内のクラックC1が開口する。このため、導電パスが切断される。加えて、導電性フィラー同士の接触状態が変化することにより、導電パスが切断される。これにより、出力される電気抵抗は、荷重入力前に対して、大きくなる。したがって、出力された電気抵抗値から、荷重の入力を検出することができる。
<作用効果>
次に、本実施形態の荷重センサ1の作用効果について説明する。本実施形態の荷重センサ1によると、基材10により、センサ本体11a、11bの自由な弾性変形が、規制される。このため、荷重入力面に荷重が加わると、センサ本体11a、11bには曲げ変形が誘起される。また、センサ本体11a、11bの圧縮弾性率は、弾性体14の圧縮弾性率に対して、約5000倍大きい。基材10、センサ本体11a、11b等を介して伝達された荷重により、弾性体14は、弾性的に圧縮される。これにより、入力された荷重は、センサ本体11a、11bの曲げ変形に変換される。したがって、荷重センサ1によると、センサ本体11a、11bの曲げ変形に基づく電気抵抗の変化を測定することにより、荷重を正確に検出することができる。
ここで、弾性体14の圧縮弾性率は小さい。つまり、弾性体14の圧縮ばね定数は小さい。よって、荷重センサ1によると、比較的小さな荷重についても、正確に検出することができる。また、弾性体14を構成する材料の圧縮弾性率や、弾性体14の形状(面積、厚さ)を変更することにより、弾性体14の圧縮ばね定数を変化させることができる。つまり、荷重に対する弾性体14の圧縮変形量(撓み量)を調整することができる。したがって、荷重センサ1によると、検出したい荷重範囲に応じて、圧縮ばね定数を選択して、センサ応答を容易に最適化することができる。また、使用する温度と、弾性体14のガラス転移温度と、を考慮して、弾性体14の構成材料を選択することにより、最適なセンサ応答を実現することができる。
また、センサ本体11a、11bが曲げ変形することにより、クラックC1が開口する。これにより、導電パスが切断されて、センサ本体11a、11bの電気抵抗が、速やかに増加する。したがって、応答遅れが小さい。また、主にクラックC1の開口により導電パスが切断されるため、母材の弾性変形のみに依存して導電パスが切断される場合と比較して、小さな歪みについても精度良く検出することができる。
荷重センサ1の感度は、センサ本体11a、11bに形成されたクラックの本数により変化する。この点、クラックC1は、左右方向に連なる長さ2mmの単位区間U1内に、約二個ずつ形成されている。このため、荷重センサ1の感度が高い。また、曲げ変形の初期段階において、クラックC1の開口による電気抵抗の増加が大きくなる。
また、カーボンビーズは球状を呈している。このため、母材樹脂中にカーボンビーズを、最密充填に近い状態で配合することができる。これにより、三次元的な導電パスが形成されやすくなり、センサ本体11a、11bの無荷重状態における導電性を、大きくすることができる。また、センサ本体11a、11bの曲げ変形に対して、カーボンビーズの接触状態が変化しやすい。このため、電気抵抗の変化が大きい。また、カーボンビーズは、官能基が少ない。このため、母材樹脂との界面で破壊が生じやすく、センサ本体11a、11bにクラックC1を形成しやすい。
また、センサ本体11a、11bは、カバーフィルム13により被覆されている。これにより、センサ本体11a、11bの絶縁性が確保されると共に、劣化が抑制される。また、カバーフィルム13は、弾性変形可能である。よって、センサ本体11a、11bと共に曲げ変形することができる。このため、センサ本体11a、11bの動きを阻害しにくい。また、除荷された後は、カバーフィルム13の弾性復元力に助けられて、センサ本体11a、11bが元の形状に復元しやすくなる。また、開いたクラックC1も元の状態に戻りやすくなる。
また、弾性体14とカバーフィルム13とは、弾性接着剤により接着されている。つまり、接着剤も弾性変形が可能である。したがって、接着により、荷重入力時におけるセンサ本体11a、11bの曲げ変形が妨げられるおそれは小さい。
また、センサ本体11a、11bの母材は、樹脂からなる。このため、荷重センサ1は、加工性に優れ、形状設計の自由度が高い。よって、曲面等、形状が複雑な部材に対しても、荷重センサ1を配置することができる。また、センサ本体11a、11b、配線12a〜12c、およびカバーフィルム13が、全て印刷法で形成されている。このため、製造工程を単純化することができる。また、製造時間を短縮することができる。また、センサ部品の集積化が容易になるため、量産化しやすい。
<その他>
以上、本発明の荷重センサの実施形態について説明した。しかしながら、本発明の荷重センサの実施形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
例えば、基材は、センサ本体の荷重入力面の弾性変形を拘束できるものであればよい。例えば、上記実施形態のPENの他、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン等の樹脂フィルムを用いることができる。また、基材の厚さを調整することにより、荷重センサの感度を調整することができる。例えば、基材の厚さを大きくすると、曲げ変形時におけるセンサ本体の歪み量が大きくなる。これにより、荷重センサの感度を向上させることができる。
弾性体は、センサ本体と比較して、積層方向の圧縮弾性率が小さければよい。上記実施形態の発泡ウレタンの他、発泡エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、発泡シリコーンゴム等の発泡エラストマー、ウレタンゲル、アクリルゲル、シリコーンゲル等のゲル材料を使用してもよい。また、弾性体を、積層方向の圧縮弾性率が異なる複数の層を積層させて構成してもよい。弾性体の材質や形状については、検出したい荷重範囲に応じて、適宜選択すればよい。センサ本体の曲げ変形を誘起しやすいという観点から、例えば、弾性体の厚さを、1mm以上50mm以下とすることが望ましい。
また、自動車のウエザーストリップ等、既存の部品が弾性体として使用できる場合には、当該部品に基材、センサ本体等を備えるセンサ素子を貼着して、荷重センサを完成させてもよい。
カバーフィルムの材質は、弾性を有し、かつ絶縁性の材料であれば特に限定されない。例えば、アクリルゴム等の合成ゴムや天然ゴムを用いることができる。また、カバーフィルムが接着性を有していれば、別途接着剤等を使用することなく、センサ本体と弾性体とを貼着させることができる。なお、カバーフィルムを配置しなくてもよい。
センサ本体の形状、大きさ等については、荷重センサの用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、センサ本体の厚さは、荷重センサの小型化、薄型化等の観点から、10μm以上500μm以下とすることが望ましい。250μm以下がより好適である。センサ本体の厚さを小さくすると、基材および弾性体による曲げ変形誘起の効果が発揮されやすい。
センサ本体の母材には、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。また、センサ本体を構成する樹脂、導電性フィラーについても、上記実施形態に限定されない。樹脂としては、熱硬化樹脂または熱可塑性樹脂を用いればよい。樹脂は、後述する導電性フィラーとの相溶性等を考慮して、選択されることが望ましい。熱硬化樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアセテート(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
導電性フィラーは、導電性を有する粒子であれば、特に限定されない。例えば、炭素材料、金属等の微粒子が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いることができる。
導電性フィラーの粒子径が小さいと、母材に対する補強効果が大きくなる。このため、クラックを形成しにくい。また、センサ本体の破断歪み(センサ本体にクラックが発生する際の歪み)が大きくなるため、電気抵抗の増加が、クラックの開口よりも、センサ本体の弾性変形に依存しやすくなる。また、センサ本体を製造する際に、樹脂と導電性フィラーとを含むセンサ材料を塗料化しにくい。このような観点から、導電性フィラーの平均粒子径を、0.05μm以上とすることが望ましい。こうすることで、導電性フィラーの界面に沿って、クラックを形成しやすくなる。また、導電性フィラーの界面でクラックが開口しやすくなり、センサ本体の破断歪みを小さくすることができる。導電性フィラーの平均粒子径を、0.5μm以上、さらには1μm以上とするとより好適である。一方、導電性フィラーの平均粒子径が100μmを超えると、無荷重状態における導電パスの数が少なくなると共に、曲げ変形に対して導電性フィラーの接触状態が変化しにくくなり、電気抵抗の変化が緩慢となる。また、センサ本体の厚さを薄くしにくくなる。導電性フィラーの平均粒子径を、30μm以下、さらには10μm以下とするとより好適である。なお、平均粒子径としては、導電性フィラーの累積粒度曲線において積算重量が50%となる粒子径(D50)を採用する。
導電性フィラーのアスペクト比(短辺に対する長辺の比)は、1以上2以下の範囲が望ましい。アスペクト比が2より大きくなると、導電性フィラー同士の接触により、一次元的な導電パスが形成され易くなる。このため、変形時に所望の電気抵抗の変化が得にくくなる。例えば、母材中の導電性フィラーの充填状態を、より最密充填状態に近づけるという観点から、導電性フィラーとして、球状(真球あるいは極めて真球に近い形状)の粒子を採用するとよい。
センサ本体にクラックを形成するために、上記実施形態では、荷重センサを製造する過程において、センサ塗料の塗膜を、曲げ変形とは反対の方向に湾曲させながら硬化させた。この場合、湾曲させる程度は、形成されるクラックの密度や大きさ、入力される歪み量等を考慮して、適宜調整すればよい。また、除荷工程の後に、さらに曲げ工程を追加してもよい。すなわち、曲げ工程において、硬化後に平面状態に戻したセンサ本体に対して、さらに曲げ−戻しを繰り返し行う。あるいは、当該センサ本体を、曲げ硬化工程の曲げ方向とは反対方向に湾曲させる。こうすることにより、クラックを増加させて、樹脂中に分散させることができる。
また、センサ本体にクラックを形成する方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、予め基材の表面に凹凸を形成しておき、当該凹凸表面に、センサ塗料を印刷して硬化させてもよい。こうすると、塗膜の硬化時に凹凸の角部分に応力が集中することにより、クラックが形成されやすくなる。硬化後、さらにセンサ本体を曲げ加工することが望ましい。こうすることにより、クラックを増加させて、樹脂中に分散させることができる。また、形成する凹凸の分布等を工夫することにより、クラックの分布等を調整することができる。また、上記実施形態では、クラックを形成すると共に、センサ本体に歪みを入力した。しかし、予歪みは必ずしも入力されていなくてもよい。
上記実施形態では、センサ本体、配線、およびカバーフィルムを印刷法により形成した。しかし、これらの形成方法は、印刷法に限定されない。例えば、塗料を用いた方法として、ディップ法、スプレー法、バーコート法等を採用してもよい。
上記実施形態では、電極を配線と一体化させた。しかし、電極と配線とを別体で配置してもよい。また、電極の数や配置形態は、上記実施形態に限定されない。電極を、センサ本体を区画するように配置してもよい。こうすることにより、測定領域において、荷重が入力された位置を特定することができる。
本発明の荷重センサは、直線状に配置しても、湾曲させて配置してもよい。本発明の荷重センサは、荷重の入力の有無を検出するスイッチとして使用してもよく、荷重の入力位置や荷重の大きさを測定するセンサとして使用してもよい。例えば、自動車の電動スライドドア等の自動開閉システムにおける異物検知センサや、室内の床、自動ドア手前の床等に設置される人感センサ等に好適である。
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
<弾性体の圧縮弾性率による荷重センサの応答性の違い>
[実験方法]
圧縮弾性率が異なる四種類の弾性体を用いて荷重センサを製造し、荷重に対する応答性を評価した。製造した荷重センサの構成は、上記実施形態と同じである。図10に、実験装置の模式断面図を示す。図10に示すように、荷重センサ1は、薄板状を呈している。荷重センサ1は、基材10と、センサ本体11と、カバーフィルム13と、弾性体14と、を備えている。弾性体14の圧縮弾性率は、0.12MPa(25%圧縮応力0.03MPa;実施例1)、0.56MPa(25%圧縮応力0.14MPa;実施例2)、1.6MPa(25%圧縮応力0.39MPa;実施例3)、2.9MPa(25%圧縮応力0.72MPa;実施例4)、の四種類とした。配線(図略)は、センサ本体11の左右両端に接続した。まず、荷重センサ1を、基材10が上側になるように、ステンレス鋼製のステージ40上に載置した。荷重センサ1の上方には、直径60mmの球面を有するステンレス鋼製の押圧ジグ41が配置されている。次に、押圧ジグ41を下方に移動させて、荷重センサ1を押圧した。そして、押圧ジグ41による圧縮荷重を変化させて、荷重センサ1から出力される電気抵抗の変化を測定した。
[実験結果]
図11に、実施例1の荷重センサにおける、荷重と電気抵抗との関係を示す。図12に、実施例1〜4の荷重センサにおける、荷重に対する電気抵抗の変化をまとめて示す。図11の左側縦軸の抵抗増加率は、次式(1)により算出される(以下、図12、図14、図16の抵抗増加率についても同じ)。
抵抗増加率=ΔR/R0=(R−R0)/R0・・・(1)
[R0:初期(無荷重状態)の電気抵抗値、R:荷重入力後の電気抵抗値]
また、図11の右側縦軸の荷重は、引張り方向をプラスに定義しているため、圧縮方向の荷重はマイナスで示されている。つまり、右側縦軸の絶対値が大きいほど、圧縮方向の荷重が大きくなる(以下、図12〜図16の荷重についても同じ)。
図11に示すように、実施例1の荷重センサによると、圧縮荷重が大きくなるに従って、電気抵抗が増加した。また、図12に示すように、弾性体の圧縮弾性率により、電気抵抗の変化挙動も異なるものとなった。すなわち、低荷重領域では、弾性体の圧縮弾性率が小さいほど電気抵抗の変化が大きくなった。また、弾性体の圧縮弾性率が大きいほど、大きな荷重を検出することができた。このように、本発明の荷重センサによると、検出したい荷重範囲に応じて、弾性体の弾性圧縮率を変更することにより、センサ応答を最適化することができる。
<弾性体のガラス転移温度による荷重センサの応答性の違い>
ガラス転移温度(Tg)が異なる二種類の荷重センサを製造し、種々の温度下で荷重に対する応答性を評価した。製造した荷重センサの構成、および実験方法については、先の実験と同じである(前出図10参照)。弾性体のTgは、約−20℃(実施例5)、約−52℃(実施例6)の二種類とした。図13に、実施例5の荷重センサにおける、圧縮量と荷重との関係を示す。図14に、実施例5の荷重センサにおける、荷重に対する電気抵抗の変化を示す。図15に、実施例6の荷重センサにおける、圧縮量と荷重との関係を示す。図16に、実施例6の荷重センサにおける、荷重に対する電気抵抗の変化を示す。
まず、弾性体のTgが約−20℃の実施例5の荷重センサについて説明する。図13、図14に示すように、温度により、荷重に対する圧縮量および電気抵抗の変化挙動が異なることがわかる。特に、Tg付近(−20℃)では、荷重に対する圧縮量(変形量)が小さくなった。その結果、荷重に対する電気抵抗の変化も小さくなった。これにより、実施例5の荷重センサによると、−20℃では、20N以下の小さな荷重を検出することは難しいことがわかる。
次に、弾性体のTgが約−52℃の実施例6の荷重センサについて説明する。図15、図16に示すように、実施例6の荷重センサにおいても、温度により、荷重に対する圧縮量および電気抵抗の変化挙動が異なることがわかる。すなわち、Tg(−52℃)に近づくほど、荷重に対する圧縮量(変形量)が小さくなった。その結果、荷重に対する電気抵抗の変化も小さくなった。
このように、本発明の荷重センサにおいては、使用温度と弾性体のTgとの関係により、センサ応答が変化する。したがって、使用する温度に応じて、弾性体のガラス転移温度を調整することにより、最適なセンサ応答性を実現すればよい。