しかしながら、アルミニウム箔の表面に、蒸着法により、炭素等からなる導電被膜を形成する場合、蒸着した導電被膜に圧縮応力が発生し、この圧縮応力がアルミニウム箔に作用する。これにより、アルミニウム箔(正極集電箔)にシワが発生してしまうことがあった。さらに、このシワの影響で、正極集電箔の表面に、正極活物質層を適切に(均一に)塗工することができないことがあった。
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、正極金属箔の表面に導電被膜を有し、且つ、シワ(皺)のない電池用正極集電箔、及びその製造方法、並びに、この電池用正極集電箔を用いた電池を提供することを目的とする。
本発明の一態様は、湿式エッチングにより、正極金属箔の表面をエッチングする湿式エッチング工程と、上記湿式エッチングを行った上記正極金属箔の表面上に、蒸着法により、導電性を有する導電被膜を形成する蒸着工程と、を備える電池用正極集電箔の製造方法であって、上記湿式エッチング工程において、上記正極金属箔の表面全体にわたって、上記正極金属箔の厚み方向に窪んだ凹部であって上記正極金属箔の厚み方向にかかる深さ寸法が1μm以上の凹部を形成し、上記蒸着工程において、上記凹部を除いた上記正極金属箔の表面上に、上記導電被膜を形成する電池用正極集電箔の製造方法である。
本発明の製造方法では、湿式エッチング(ウェットエッチング)により、正極金属箔の表面(両面または片面)をエッチングする。これにより、正極金属箔の表面に形成されている金属酸化物(正極金属箔がアルミニウム箔である場合は酸化アルミニウムの被膜)の被膜を除去することができる。さらに、湿式エッチングを行うことで、正極金属箔の表面全体にわたって、正極金属箔の厚み方向に窪んだ凹部を形成することができる。換言すれば、正極金属箔の表面全体を凹凸状にすることができる。
さらに、本発明の製造方法では、湿式エッチングを行った正極金属箔の表面(両面または片面)に、蒸着法により、導電性を有する導電被膜を形成する。金属酸化物の被膜が除去された正極金属箔の表面に、導電性を有する導電被膜(例えば、炭素被膜)を形成することで、正極金属箔と正極活物質層(後に、電池用正極集電箔の表面に塗工する)との間の導電性を良好にすることができる。これにより、電池の内部抵抗を小さくすることができる。
しかも、先の湿式エッチング工程において、正極金属箔の表面全体にわたって正極金属箔の厚み方向に窪んだ凹部を形成している(正極金属箔の表面全体を凹凸状にしている)。蒸着法により、凹部を有する正極金属箔の表面に導電被膜を形成する場合、導電被膜材料由来の粒子(イオンや原子など)は凹部内に進入し難いので、凹部には導電被膜が形成され難い。このため、凹部を除いた正極金属箔の表面に、導電被膜を形成することができる。すなわち、凹部の位置で分断された(隙間をあけた)形態の導電被膜を形成することができる。これにより、導電被膜の圧縮応力が分散(緩和)されるので、シワ(皺)のない電池用正極集電箔を製造することができる。従って、その後、電池用正極集電箔の表面全体にわたって、適切に(均一に)、正極活物質層を形成することができる。
なお、湿式エッチングとしては、電解エッチング、化学エッチングを挙げることができる。また、湿式エッチングを行うことで形成される凹部の深さ寸法(正極金属箔の厚み方向にかかる寸法)は、1μm以上となる。
また、蒸着法としては、アークイオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマCVD法などを挙げることができる。
さらに、上記の電池用正極集電箔の製造方法であって、前記正極金属箔の厚みは、50μm以下である電池用正極集電箔の製造方法とすると良い。
厚みが50μm以下の正極金属箔を用いることで、これを用いた正極板、電極体の小型化を図ることができ、ひいては、電池の小型化を図ることができる。
ところで、正極金属箔の厚みを50μm以下に薄くすると、蒸着した導電被膜の圧縮応力により、正極金属箔にシワが発生し易くなる。しかしながら、本発明の製造方法では、前述のように、湿式エッチングにより、正極金属箔の表面全体にわたって凹部を形成した後に、蒸着法により、正極金属箔の表面に導電被膜を形成するので、導電被膜の圧縮応力を分散(緩和)することができる。従って、厚みが50μm以下の正極金属箔を用いても、シワのない電池用正極集電箔を製造することができる。
さらに、上記いずれかの電池用正極集電箔の製造方法であって、前記蒸着工程は、アークイオンプレーティング法により、50nm以上の厚みの前記導電被膜を形成する電池用正極集電箔の製造方法とすると良い。
本発明の製造方法では、アークイオンプレーティング法(AIP法)により、50nm以上の厚みの導電被膜を、湿式エッチングを行った正極金属箔の表面に形成する。AIP法により形成した導電被膜は、他の手法(例えば、スパッタリング法など)により形成したものに比べて、高い導電性を示す。また、導電被膜の厚みを50nm以上とすることで、導電性をより一層高めることができる。従って、本発明の製造方法により製造した電池用正極集電箔を用いることで、電池の内部抵抗(特に、反応抵抗)を小さくすることができる。
さらに、上記いずれかの電池用正極集電箔の製造方法であって、前記導電被膜は、炭素からなる導電被膜である電池用正極集電箔の製造方法とするのが好ましい。
この製造方法では、湿式エッチングを行った正極金属箔の表面に、炭素からなる導電被膜(以下、炭素被膜ともいう)を形成する。これにより、正極金属箔と正極活物質層との間の導電性を良好にできると共に、正極金属箔表面の腐食を防止することができる。
ところで、蒸着した炭素被膜中には高い圧縮応力が発生するので、特に、正極金属箔にシワが発生し易くなる。しかしながら、本発明の製造方法では、前述のように、湿式エッチングにより、正極金属箔の表面全体にわたって凹部を形成した後に、蒸着法により、正極金属箔の表面に導電被膜を形成するので、導電被膜の圧縮応力を分散(緩和)することができる。従って、導電被膜として炭素被膜を形成しても、電池用正極集電箔のシワの発生を防止することができる。
さらに、上記いずれかの電池用正極集電箔の製造方法であって、前記正極金属箔は、アルミニウムからなる正極金属箔である電池用正極集電箔の製造方法とするのが好ましい。
この製造方法では、アルミニウムからなる正極金属箔(以下、アルミニウム箔ともいう)を用いる。アルミニウム箔は、その表面に、酸化アルミニウムの被膜が形成されているが、前述のように、湿式エッチング工程を行うことで、酸化アルミニウムの被膜を除去することができる。さらには、アルミニウム箔の表面全体にわたって凹部を形成することができる(アルミニウム箔の表面を凹凸にすることができる)。
さらに、エッチングを行ったアルミニウム箔の表面に、蒸着法により導電被膜を形成することで、アルミニウム箔と正極活物質層との間の導電性を良好にすることができる。しかも、湿式エッチングにより、アルミニウム箔の表面全体にわたって凹部を形成した後に、蒸着法により、正極金属箔の表面に導電被膜を形成するので、導電被膜の圧縮応力を分散(緩和)することができる。これにより、シワのない電池用正極集電箔を製造することができる。
なお、この製造方法により製造した電池用正極集電箔は、リチウムイオン二次電池の正極集電箔として好適である。
本発明の他の態様は、正極金属箔と、上記正極金属箔の表面上に形成された導電性を有する導電被膜と、を備え、上記導電被膜は、上記正極金属箔をなす金属と直接接触してなり、上記正極金属箔は、その表面全体にわたって、上記正極金属箔の厚み方向に窪んだ凹部を有する電池用正極集電箔であって、上記正極金属箔の厚み方向にかかる上記凹部の寸法は、1μm以上であり、上記導電被膜は、上記凹部を除く上記正極金属箔の表面上に形成されてなる電池用正極集電箔である。
本発明の電池用正極集電箔は、正極金属箔と、この正極金属箔の表面(両面または片面)に形成された導電性を有する導電被膜とを備える電池用正極集電箔である。このうち、正極金属箔は、その表面(両面または片面)全体にわたって、正極金属箔の厚み方向に窪んだ凹部を有している。換言すれば、正極金属箔の表面全体が凹凸状になっている。このような電池用正極集電箔は、例えば、前述のいずれかの製造方法により製造することができる。従って、本発明の電池用正極集電箔は、シワのない電池用正極集電箔になる。このため、本発明の電池用正極集電箔は、その表面(両面または片面)全体にわたって、正極活物質層を適切に(均一に)形成することができる。
しかも、導電被膜は、正極金属箔をなす金属(正極金属箔がアルミニウム箔である場合は金属アルミニウム)と直接接触している。すなわち、正極金属箔の表面に形成されていた金属酸化物(正極金属箔がアルミニウム箔である場合は酸化アルミニウムの被膜)の被膜が除去された状態で、正極金属箔の表面(両面または片面)に導電被膜(例えば、炭素被膜)が形成されている。これにより、正極金属箔と正極活物質層との間の導電性を良好にすることができ、ひいては、電池の内部抵抗を小さくすることができる。
さらに、本発明の電池用正極集電箔は、導電被膜が、凹部を除く正極金属箔の表面上に形成されている。すなわち、導電被膜を、凹部の位置で分断された(隙間をあけた)形態としている。これにより、導電被膜の圧縮応力が分散(緩和)されるので、シワ(皺)のない電池用正極集電箔となる。
さらに、本発明の電池用正極集電箔では、正極金属箔の厚み方向にかかる凹部の寸法(以下、深さ寸法ともいう)が、1μm以上である。凹部の深さ寸法を1μm以上としておくことで、蒸着法により正極金属箔の表面に導電被膜を形成したとき、凹部内に導電被膜が形成されるのを防止できる。これにより、導電被膜の圧縮応力が分散(緩和)されるので、電池用正極集電箔にシワが発生することがない。従って、本発明の電池用正極集電箔は、シワのない電池用正極集電箔になる。
なお、深さ寸法が1μm以上の凹部は、湿式エッチング(電解エッチングなど)により形成することができる。
さらに、上記いずれかの電池用正極集電箔であって、前記正極金属箔の厚みは、50μm以下である電池用正極集電箔とすると良い。
厚みが50μm以下の正極金属箔を用いることで、これを用いた正極板、電極体の小型化を図ることができ、ひいては、電池の小型化を図ることができる。
ところで、正極金属箔の厚みを50μm以下に薄くすると、蒸着法により正極金属箔の表面に導電被膜を形成する場合、導電被膜の圧縮応力により正極金属箔にシワが発生し易くなる。しかしながら、前述のように、本発明の電池用正極集電箔では、導電被膜の圧縮応力が分散(緩和)されているので、シワのない電池用正極集電箔となる。
さらに、上記いずれかの電池用正極集電箔であって、前記導電被膜の厚みは、50nm以上である電池用正極集電箔とすると良い。
導電被膜の厚みを50nm以上とすることで、導電被膜の導電性を高めることができる。従って、本発明の電池用正極集電箔を用いることで、電池の内部抵抗(特に、反応抵抗)を小さくすることができる。なお、導電被膜は、アークイオンプレーティング(AIP法)により、正極金属箔の表面に形成したものが好ましい。AIP法により形成した導電被膜は、他の手法(例えば、スパッタリング法など)により形成したものに比べて、高い導電性を示すからである。
さらに、上記いずれかの電池用正極集電箔であって、前記導電被膜は、炭素からなる導電被膜である電池用正極集電箔とするのが好ましい。
この電池用正極集電箔は、炭素からなる導電被膜(以下、炭素被膜ともいう)を有しているので、正極金属箔と正極活物質層との間の導電性を良好にできると共に、正極金属箔表面の腐食を防止することができる。
ところで、蒸着した炭素被膜中には高い圧縮応力が発生するので、特に、正極金属箔にシワが発生し易くなる。しかしながら、前述のように、本発明の電池用正極集電箔では、導電被膜の圧縮応力が分散(緩和)されているので、シワのない電池用正極集電箔となる。
さらに、上記いずれかの電池用正極集電箔であって、前記正極金属箔は、アルミニウムからなる正極金属箔である電池用正極集電箔とするのが好ましい。
この電池用正極集電箔は、リチウムイオン二次電池の正極集電箔として好適である。
本発明の他の態様は、前記いずれかの電池用正極集電箔の製造方法により製造された電池用正極集電箔と、正極活物質を含み、上記電池用正極集電箔の表面上に積層された正極活物質層と、を有する正極板を備える電池である。
本発明の電池は、前述のいずれかの製造方法により製造された電池用正極集電箔と、この電池用正極集電箔の表面(両面または片面)に積層された正極活物質層とを有する正極板を備えている。前述のいずれかの製造方法により製造された電池用正極集電箔はシワがないので、電池用正極集電箔の表面全体にわたって、適切に(均一に)、正極活物質層を形成することができる。このため、本発明の電池にかかる正極板は、電池用正極集電箔の表面全体にわたって均一な厚みで積層された正極活物質層を有する正極板になる。しかも、前述の製造方法により製造された電池用正極集電箔を用いることで、正極金属箔と正極活物質層との間の導電性が良好になる。従って、本発明の電池は、内部抵抗(特に、反応抵抗)の小さな電池となる。
本発明の他の態様は、前記いずれかの電池用正極集電箔と、正極活物質を含み、上記電池用正極集電箔の表面上に積層された正極活物質層と、を有する正極板を備える電池である。
本発明の電池は、前述のいずれかの電池用正極集電箔と、この電池用正極集電箔の表面に積層された正極活物質層とを有する正極板を備えている。前述の電池用正極集電箔はシワがないので、電池用正極集電箔の表面全体にわたって、均一な厚みで、正極活物質層を塗工することができる。このため、本発明の電池にかかる正極板は、電池用正極集電箔の表面全体にわたって均一な厚みで積層された正極活物質層を有する正極板になる。しかも、前述の電池用正極集電箔は、正極金属箔と正極活物質層との間の導電性を良好にすることができる。従って、本発明の電池は、内部抵抗(特に、反応抵抗)の小さな電池となる。
(実施例1)
次に、本発明の実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
まず、本実施例1にかかる電池1について説明する。図1に電池1の斜視図を、図2に電池1の部分破断断面図を示す。
本実施例1にかかる電池1は、電極体20及び電解液60を備えるリチウムイオン二次電池である。この電池1は、電極体20及び電解液60を、矩形箱状の電池ケース10内に収容している。この電池ケース10は、アルミニウム製の電池ケース本体11及び封口蓋12を有する。このうち、電池ケース本体11は、有底矩形箱状であり、内側全面に樹脂からなる絶縁フィルム(図示しない)を貼付している。
また、封口蓋12は矩形板状であり、電池ケース本体11の開口部11Aを閉塞して、この電池ケース本体11に溶接されている。この封口蓋12には、後述する電極体20と接続している正極端子部材71及び負極端子部材72のうち、それぞれ先端に位置する正極端子部71A及び負極端子部72Aが貫通して、上面12aから突出している。これら正極端子部71A及び負極端子部72Aと封口蓋12との間には、それぞれ樹脂製の絶縁部材75が介在して、互いを絶縁している。さらに、この封口蓋12には矩形板状の安全弁77も封着されている。
電解液60は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比でEC:DMC:EMC=1:1:1に調整した混合有機溶媒に、溶質としてLiPF6を1mol/L添加し、リチウムイオンを1mol/Lの濃度とした有機電解液である。
電極体20は、帯状の正極板30及び負極板40が、ポリエチレンからなる帯状のセパレータ50を介して扁平形状に捲回されてなる(図1参照)。なお、この電極体20のうち、正極板30は、正極端子部材71と接合され、負極板40は、負極端子部材72と接合されている。
負極板40は、図3に示すように、長手方向DAに帯状に延びる形態をなし、銅からなる負極集電箔42と、この負極集電箔42の第1表面42a上に積層された第1負極活物質層41Aと、負極集電箔42の第2表面42b上に積層された第2負極活物質層41Bとを有している。なお、負極活物質層41A,41Bには、それぞれ、図示しないグラファイト及び結着剤が含まれる。
次いで、正極板30について説明する。この正極板30は、図4に示すように、長手方向DAに帯状に延びる正極集電箔32と、この正極集電箔32の表面(第1表面32a及び第2表面32b)に積層された、第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31Bとを有している。
第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31Bは、いずれも、LiNiO2からなる正極活物質(図示しない)と、アセチレンブラック(AB、図示しない)と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、図示しない)と、カルボキシルメチルセルロース(CMC、図示しない)とを含む。
なお、第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31Bでは、いずれも、正極活物質とABとPTFEとCMCとの混合割合を、正極活物質:AB:PTFE:CMC=87:10:1:2(重量比)としている。
また、正極集電箔32は、金属アルミニウムからなり、長手方向DAに帯状に延びるアルミニウム箔33と、このアルミニウム箔33の第1表面33a上に形成された第1炭素被膜34Aと、アルミニウム箔33の第2表面33b上に形成された第2炭素被膜34Bとを有している(図5参照)。すなわち、アルミニウム箔33の両面に炭素被膜が形成されている。
第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34Bは、いずれも、カーボンをアークイオンプレーティング法(AIP法)により、アルミニウム箔33の第1表面33a及び第2表面33b上に蒸着させたもので、その厚み(図5において厚さ方向DTの膜厚)は、50〜100nmである。
ところで、アルミニウム箔の表面に、AIP法などの蒸着法により炭素被膜を形成する場合、蒸着した炭素被膜に大きな圧縮応力が発生する。このため、この圧縮応力がアルミニウム箔に作用することで、アルミニウム箔(正極集電箔)にシワが発生してしまうことがあった。
これに対し、本実施例1のアルミニウム箔33は、図6及び図7に示すように、第1表面33a及び第2表面33bの全体にわたって、アルミニウム箔33の厚み方向(図6及び図7において上下方向)に窪んだ凹部33dを多数有している。換言すれば、第1表面33a及び第2表面33bの全体が凹凸状になっている。
このため、AIP法により炭素被膜を形成すると、図12に示すように、炭素被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)は、凹部33dを除くアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に形成される。すなわち、凹部33dの位置で分断された(隙間をあけた)形態の導電被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)を形成することができる。AIP法では、導電被膜を形成する粒子(導電被膜材料由来のイオンなど)が凹部33d内に進入し難いからである。これにより、導電被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)の圧縮応力Sが分散(緩和)されるので、本実施例1の正極集電箔32は、シワ(皺)のない正極集電箔となっている。
なお、図6は、正極集電箔32を厚さ方向(図6において上下方向)に切断した切断面を、2500倍に拡大したSEM写真図である。図6の右下に示す目盛りは、10目盛りで20μm(1目盛りが2μm)である。また、図7は、正極集電箔32の断面を7500倍に拡大したSEM写真図であり、図6のB部拡大図に相当する。図7の右下に示す目盛りは、10目盛りで5μm(1目盛りが0.5μm)である。
本実施例1では、アルミニウム箔33の厚みが約18μm、凹部33dの深さ寸法(アルミニウム箔33の厚み方向にかかる寸法、図6及び図7において上下方向の寸法)が3〜7μmとなっている。
なお、凹部33dは、後述する湿式エッチング(具体的には、電解エッチング)により、アルミニウム箔の表面をエッチングすることで形成される。
さらに、本実施例1の正極集電箔32では、第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34Bが、アルミニウム箔33をなす金属アルミニウムと直接接触している(図7参照)。すなわち、アルミニウム箔33の表面に形成されていた金属酸化物(酸化アルミニウム)の被膜が除去された状態で、アルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に、炭素被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)が形成されている。これにより、アルミニウム箔33と正極活物質層(第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31B)との間の導電性を良好にすることができ、ひいては、電池1の内部抵抗を小さくすることができる。
なお、アルミニウム箔33の表面に形成されていた金属酸化物(酸化アルミニウム)の被膜は、後述する湿式エッチング(具体的には、電解エッチング)により、アルミニウム箔の表面をエッチングすることで除去される。
次に、本実施例1にかかる電池1の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
まず、正極板30の製造方法について説明する。図8は、正極板の製造方法の流れを示すフローチャートである。まず、アルミニウム箔を用意し、ステップS1において、湿式エッチング(具体的には、電解エッチング)により、このアルミニウム箔の表面(両面)をエッチングする。これにより、アルミニウム箔の表面(第1表面33a及び第2表面33b、すなわち両面)に形成されていた金属酸化物(酸化アルミニウム)の被膜を除去することができる。さらには、図11に示すように、アルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)全体にわたって、アルミニウム箔33の厚み方向(図11において上下方向)に窪んだ凹部33dを多数形成することができる。換言すれば、アルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)全体を凹凸状にすることができる。
なお、本実施例1のステップS1では、アルミニウム箔をアノードとして電解エッチングを行っている。また、電解液として、鉱酸(硫酸、硝酸、塩酸など)を用いている。
また、本実施例1では、ステップS1が、湿式エッチング工程に相当する。
次に、ステップS2に進み、電解エッチングを行ったアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b、すなわち両面)に、蒸着法(具体的には、アークイオンプレーティング法)により、導電性を有する導電被膜(具体的には、炭素被膜)を形成した。詳細には、蒸着材としてカーボンを用い、アークイオンプレーティング法(AIP法)により、アルミニウム箔33の第1表面33aに50〜100nmの厚みの第1炭素被膜34Aを形成し、さらに、アルミニウム箔33の第2表面33bに50〜100nmの厚みの第2炭素被膜34Bを形成した。これにより、正極集電箔32(図6参照)を得ることができる。
なお、AIP法により形成した炭素被膜は、他の手法(例えば、スパッタリング法など)により形成したものに比べて、高い導電性を示す。従って、本実施例1の正極集電箔32を用いることで、電池の内部抵抗(特に、反応抵抗)を小さくすることができる。
さらに、本実施例1では、酸化アルミニウムの被膜が除去されたアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b、すなわち両面)に、炭素被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)を形成している。これにより、アルミニウム箔33と第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31B(後に、正極集電箔32の表面に塗工する)との間の導電性を良好にすることができ、ひいては、電池の内部抵抗を小さくすることができる。
しかも、先の湿式エッチング工程(ステップS1)において、アルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)全体にわたって凹部33dを多数形成している。換言すれば、アルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)全体を凹凸状にしている。
このため、蒸着法(具体的には、アークイオンプレーティング法)により炭素被膜を形成すると、図12に示すように、炭素被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)は、凹部33dを除くアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に形成される。すなわち、凹部33dの位置で分断された(隙間をあけた)形態の導電被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)を形成することができる。蒸着法では、導電被膜を形成する粒子(導電被膜材料由来のイオンや原子など)が凹部33d内に進入し難いからである。
これにより、導電被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)の圧縮応力Sが分散(緩和)されるので、シワ(皺)のない正極集電箔32を製造することができる。従って、その後、正極集電箔32の表面全体にわたって、適切に(均一に)、正極活物質層(第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31B)を形成することができる。
なお、本実施例1では、ステップS2が、蒸着工程に相当する。
次に、ステップS3に進み、正極活物質ペーストを、正極集電箔32の表面(第1表面32a,第2表面32b)に塗布した。なお、活物質ペーストは、LiNiO2からなる正極活物質(図示しない)、アセチレンブラック(AB、図示しない)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、図示しない)、及びカルボキシルメチルセルロース(CMC、図示しない)を、有機溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)に分散させて混練してなる流動体である。また、この活物質ペーストに含まれる正極活物質31X、AB、PTFE、及びCMCの重量比を、正極活物質:AB:PTFE:CMC=87:10:1:2としている。
なお、本実施例1では、正極集電箔32の表面(第1表面32a,第2表面32b)全体にわたって、均一な厚みで、正極活物質ペーストを適切に塗布することができた。これは、先のステップS1,S2の処理(湿式エッチング工程及び蒸着工程)で、シワ(皺)のない正極集電箔32を製造することができたためである。
次いで、ステップS4に進み、正極集電箔32の表面(第1表面32a,第2表面32b)に塗布した正極活物質ペーストをプレス機で圧縮し、正極集電箔32と共に所定形状に成形した。次いで、ステップS5に進み、正極活物質ペーストを乾燥させて、正極活物質層(第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31B)を有する正極板30(図4参照)を得た。
その後、作製した正極板30を、別途用意した負極板40と共にセパレータ50を介して捲回して電極体20とする。さらに、この電極体20に正極端子部材71および負極端子部材72を溶接し、電池ケース本体11に挿入し、電解液60を注入後、封口蓋12で電池ケース本体11を溶接で封口する。かくして、電池1が完成する(図1参照)。
次に、正極集電箔32の導電性を評価するために、正極集電箔32の接触抵抗を測定した。具体的には、図9に示すように、正極集電箔32を幅2.0cmのリボン状に切断し、これに導線LFを接合してなる試料Aを2つ用意し、互いが2.0cm×2.0cmからなる接触面で接触するように、2つの試料A同士を重ね合わせる。次いで、図10に示すように、試料Aの接触面を挟圧可能な2つの平面を有する挟圧装置500により、重ね合わせ方向DPに試料A同士を押圧する。なお、挟圧装置500は、10MPa/cm2の挟圧力Pで接触面を挟圧する。そして、挟圧装置500で挟圧したまま、試料Aのそれぞれの導線LF,LFに1.0Aの電流を流す。そのときの電圧値から、試料A同士の間に生じる抵抗値(接触抵抗値)を算出した。
また、比較例1として、ドライエッチングにより表面の酸化アルミニウムの被膜を除去したアルミニウム箔333(図13参照)を用意した。このアルミニウム箔333を幅2.0cmのリボン状に切断し、これに導線LFを接合した試料Bについて、上述の試料Aと同様にして、接触抵抗を測定した。
さらに、比較例2として、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)に、スパッタリング法により、膜厚約50nmの炭素被膜(第1炭素被膜334A及び第2炭素被膜334B)を形成した正極集電箔332(図14)を作製した。この正極集電箔332を幅2.0cmのリボン状に切断し、これに導線LFを接合した試料Cについても、上述の試料Aと同様にして、接触抵抗を測定した。これらの結果を表1に示す。
表1に示すように、試料A(実施例1)、試料B(比較例1)、及び試料C(比較例2)の接触抵抗値の大小関係は、A<B<Cとなった。具体的には、試料A(実施例1)の接触抵抗値は3.5Ω・cm2、試料B(比較例1)の接触抵抗値は18.5Ω・cm2 、試料C(比較例2)の接触抵抗値は21.9Ω・cm2 であった。
このように、本実施例1の正極集電箔32は、ドライエッチングにより表面の酸化アルミニウムの被膜を除去したアルミニウム箔333よりも、接触抵抗が小さくなった。さらに、本実施例1の正極集電箔32は、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)に、スパッタリング法により、膜厚約50nmの炭素被膜(第1炭素被膜334A及び第2炭素被膜334B)を形成した正極集電箔332よりも、接触抵抗が小さくなった。
その理由は、本実施例1では、酸化アルミニウムの被膜を除去したアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に、アークイオンプレーティング法(AIP法)により炭素被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)を形成しているからであると考えられる。
具体的には、AIP法により形成した炭素被膜は、他の手法(例えば、スパッタリング法など)により形成したものに比べて、高い導電性を示すため、実施例1(試料A)の接触抵抗は、比較例2(試料C)の接触抵抗よりも小さくなったと考えられる。
しかも、比較例2では、図14に示すように、炭素被膜(第1炭素被膜334A及び第2炭素被膜334B)の圧縮応力Sにより、アルミニウム箔333(正極集電箔332)に、小さなシワCが発生した。ドライエッチングでは、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)に凹部を形成することができなかったからである(図13参照)。換言すれば、ドライエッチングでは、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)を凹凸状にできなかったからである。
このため、図14に示すように、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)に隙間無く炭素被膜(第1炭素被膜334A及び第2炭素被膜334B)が形成され、実施例1に比べて、炭素被膜の圧縮応力Sが大きくなったと考えられる。このために、比較例2では、シワCが発生したと考えられる。これに対し、実施例1の正極集電箔32には、前述のようにシワが生じていない。このシワCも、比較例2(試料C)の接触抵抗が大きくなった要因であると考えられる。
また、比較例1(試料B)では、ドライエッチングによりアルミニウム箔の表面の酸化アルミニウムの被膜を除去しているが、アルミニウム箔の表面に炭素被膜を形成していないので、再び、アルミニウム箔の表面が酸化して、酸化アルミニウムの被膜が形成されたと考えられる。これに対し、本実施例1では、酸化アルミニウムの被膜を除去したアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に炭素被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)を形成しているので、アルミニウム箔33の酸化を防止することができる。このため、実施例1(試料A)の接触抵抗は、比較例1(試料B)の接触抵抗よりも小さくなったと考えられる。
以上の結果より、本実施例1の正極集電箔32は、接触抵抗が小さく、導電性に優れているといえる。このため、正極集電箔32の第1表面32a及び第2表面32b上に積層された第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31Bに含まれる正極活物質が、アルミニウム箔33と低抵抗で、電子のやりとりをすることができる。即ち、本実施例1によれば、正極板30を低抵抗とすることができ、内部抵抗が小さい電池1を実現できる。
(内部抵抗の評価)
次に、本実施例1の電池1の内部抵抗を評価するために、インピーダンスの測定を行った。具体的には、電池電圧を3.8Vとした電池1について、25℃の恒温環境下で、0.01Vの電位振幅を与えつつ、測定周波数を0.01Hz〜100kHzの範囲で変動させて、同期した電流値からインピーダンスの測定を行った。得られたインピーダンス測定結果より、直流抵抗(Ω)と反応抵抗(Ω)を算出した。この結果を表1に示す。なお、本実施例1では、ソーラトロン製の1255WB型電気化学測定システム(周波数アナライザ+ポテンショガルバノスタット)を用いて、インピーダンスの測定を行っている。
また、比較例1として、正極集電箔としてアルミニウム箔333(図13参照)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして製造した電池を用意した。さらに、比較例2として、正極集電箔として正極集電箔332(図14)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして製造した電池を用意した。比較例1,2の電池についても、実施例1の電池1と同様にして、インピーダンス測定を行って、直流抵抗(Ω)と反応抵抗(Ω)を算出した。これらの結果を表1に示す。
なお、比較例3として、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)に、AIP法により膜厚約50nmの炭素被膜を形成した正極集電箔を作製した。この正極集電箔を用いて正極板を作製しようとしたが、正極集電箔のシワが大きすぎて、正極活物質層を形成することが困難であった。このため、比較例3の電池を製造することができなかった。
まず、比較例1,2の電池、及び実施例1の電池1について、直流抵抗を比較する。表1に示すように、比較例1の電池では2.76×10-2Ωとなった。これに対し、実施例1の電池1では2.67×10-2Ωとなり、比較例1の電池に比べて3%小さくなった。一方、比較例2の電池では2.78×10-2Ωとなり、比較例1の電池に比べて0.9%大きくなった。
さらに、比較例1,2の電池、及び実施例1の電池1について、反応抵抗を比較する。表1に示すように、比較例1の電池では7.64×10-3Ωとなった。これに対し、実施例1の電池1では6.61×10-3Ωとなり、比較例1の電池に比べて13.4%も小さくなった。一方、比較例2の電池では8.37×10-3Ωとなり、比較例1の電池に比べて9.6%も大きくなった。
以上のように、実施例1の電池1は、比較例1の電池に比べて、内部抵抗(特に、反応抵抗)が小さくなった。その理由は、比較例1の電池で用いた正極集電箔では、ドライエッチングによりアルミニウム箔の表面の酸化アルミニウムの被膜を除去しているが、アルミニウム箔の表面に炭素被膜を形成していないので、再び、アルミニウム箔の表面が酸化して、酸化アルミニウムの被膜が形成されたためと考えられる。この酸化アルミニウムの被膜の影響で、アルミニウム箔と正極活物質層との間の導電性が低下したため、比較例1の内部抵抗(特に、反応抵抗)が大きくなったと考えられる。
これに対し、実施例1の電池1で用いた正極集電箔32では、酸化アルミニウムの被膜を除去したアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に炭素被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)を形成しているので、アルミニウム箔33の酸化を防止することができたと考えられる。しかも、酸化アルミニウムの被膜が除去されたアルミニウム箔33の表面に、導電性を有する炭素被膜を形成することで、アルミニウム箔33と第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31Bとの間の導電性を良好にすることができる。これにより、電池の内部抵抗を小さくすることができたと考えられる。
しかも、実施例1の電池1では、酸化アルミニウムの被膜を除去したアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に、アークイオンプレーティング法(AIP法)により炭素被膜(第1炭素被膜34A及び第2炭素被膜34B)を形成した正極集電箔32を用いている。AIP法により形成した炭素被膜は、他の手法(例えば、スパッタリング法など)により形成したものに比べて、高い導電性を示す。このため、実施例1の電池1では、内部抵抗を小さくすることができたと考えられる。
ところで、比較例2の電池では、酸化アルミニウムの被膜を除去したアルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)に炭素被膜(第1炭素被膜334A及び第2炭素被膜334B)を形成した正極集電箔332を用いているにも拘わらず、比較例1の電池に比べて、内部抵抗(特に、反応抵抗)が小さくなった。
その理由は、実施例1と異なり、ドライエッチングにより酸化アルミニウムの被膜を除去しているために、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)に凹部を形成することができなかった(図13参照)ためと考えられる。換言すれば、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)を凹凸状にすることができなかったためと考えられる。
このため、図14に示すように、アルミニウム箔333の表面(第1表面333a及び第2表面333b)に隙間無く炭素被膜(第1炭素被膜334A及び第2炭素被膜334B)が形成され、実施例1に比べて、炭素被膜の圧縮応力Sが大きくなったと考えられる。このために、アルミニウム箔333(正極集電箔332)にシワCが発生し、このシワCの影響で、正極集電箔332の表面全体にわたって、均一な厚みで、正極活物質層を適切に形成することができなかったためと考えられる。
また、比較例2の電池では、スパッタリング法により炭素被膜(第1炭素被膜334A及び第2炭素被膜334B)を形成した正極集電箔332を用いている。スパッタリング法により炭素被膜は、AIP法により形成した炭素被膜に比べて導電性が低い。従って、スパッタリング法により炭素被膜を形成していることも、比較例2の内部抵抗を小さくできなかった要因の1つと考えられる。
(実施例2)
次に、実施例2の電池100について説明する。本実施例2の電池100は、図1及び図2に括弧書きで示すように、実施例1の電池1と比較して、電極体(詳細には、正極板)が異なり、その他の部位については同一である。具体的には、図4に括弧書きで示すように、本実施例2の電池100では、実施例1の正極板30に代えて、正極板130を用いている。この正極板130では、実施例1の正極板30と異なり、正極集電箔132を用いている。
本実施例2の正極集電箔132は、実施例1の正極集電箔32と異なる製法で作製している。具体的には、図8に示すように、ステップS1において、実施例1と同様にして、湿式エッチング(具体的には、電解エッチング)により、このアルミニウム箔の表面(両面)をエッチングする。その後、ステップS2に進み、電解エッチングを行ったアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に、実施例1とは異なる蒸着法により、炭素被膜を形成した。具体的には、実施例1では、蒸着法として、アークイオンプレーティング法を用いたが、本実施例2では、スパッタリング法を用いた。
詳細には、本実施例2では、公知のスパッタリング法により、アルミニウム箔33の第1表面33aに約50nmの厚みの第1炭素被膜134Aを形成し、さらに、アルミニウム箔33の第2表面33bに約50nmの厚みの第2炭素被膜134Bを形成した。
ところで、本実施例2でも、実施例1と同様に、先の湿式エッチング工程(ステップS1)において、アルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)全体にわたって凹部33dを多数形成している。換言すれば、アルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)全体を凹凸状にしている。
このため、スパッタリング法により炭素被膜を形成すると、図12に示すように、炭素被膜(第1炭素被膜134A及び第2炭素被膜134B)は、凹部33dを除くアルミニウム箔33の表面(第1表面33a及び第2表面33b)に形成される。すなわち、凹部33dの位置で分断された(隙間をあけた)形態の導電被膜(第1炭素被膜134A及び第2炭素被膜134B)を形成することができる。スパッタリング法では、導電被膜を形成する粒子(スパッタ粒子)が凹部33d内に進入し難いからである。
これにより、導電被膜(第1炭素被膜134A及び第2炭素被膜134B)の圧縮応力Sが分散(緩和)されるので、シワ(皺)のない正極集電箔132を製造することができた。
その後、実施例1と同様にして、ステップS3〜S5の処理(図8参照)を行って正極板130を作製した。上述のように、正極集電箔132にはシワがないので、正極集電箔132の表面全体にわたって、均一な厚みで、正極活物質層(第1正極活物質層31A及び第2正極活物質層31B)を適切に形成することができた。その後、この正極板130を用いて、実施例1と同様の手順で、電池100を作製した。
本実施例2の電池100についても、実施例1と同様にして、インピーダンスの測定を行い、直流抵抗及び反応抵抗を算出したところ、いずれの抵抗値も、比較例1,2より小さな値を示した。実施例2では、正極集電箔として、蒸着した炭素被膜(第1炭素被膜134A及び第2炭素被膜134B)を有し、且つ、シワ(皺)のない正極集電箔132を用いているためであるといえる。この結果より、本実施例2の電池100は、内部抵抗の小さな電池といえる。
但し、実施例2にかかる電池100の直流抵抗及び反応抵抗の値は、いずれも、実施例1より大きな値になった。この理由は、アルミニウム箔33の表面に炭素被膜を形成するのに、実施例1では、AIP法を用いたが、実施例2では、スパッタリング法を用いたためであると考えられる。スパッタリング法により炭素被膜は、AIP法により形成した炭素被膜に比べて導電性が低くなるので、実施例2の電池100は、実施例1の電池1よりも内部抵抗が大きくなったと考えられる。
以上において、本発明を実施例1,2に即して説明したが、本発明は上記実施例等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施例1,2では、電池の電池ケースを矩形形状の収容容器としたが、例えば、円筒形状や、ラミネート形状の収容容器としても良い。
また、実施例1,2では、正極集電箔の導電被膜を炭素被膜としたが、金属からなる被膜としても良い。すなわち、アルミニウム箔33の表面に、蒸着法により、金属からなる被膜を形成するようにしても良い。
また、図15に示すように、一対の加熱加圧ローラ410を用いて、正極集電箔432のシワを伸ばして、シワのない正極集電箔に矯正することができる。一対の加熱加圧ローラ410は、図示しないヒータにより加熱(例えば、300℃)されており、両者の間に、正極集電箔を挟んで押圧(例えば、30×105Nの圧力で押圧)する。なお、正極集電箔432としては、例えば、比較例3として作製した正極集電箔を挙げることができる。一対の加熱加圧ローラ410を用いて、シワのない正極集電箔に矯正することで、矯正後の正極集電箔の表面に、適切に、正極活物質層を形成することが可能となる。