JP5569313B2 - 水域底質からのマンガン(ii)溶出防止方法 - Google Patents
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底質に堆積した死滅藻類が微生物によって分解される際に、水域の溶存酸素(DO:Disolved Oxygen)が消費される。この結果、水域は貧酸素化状態となり、進行すれば水域生物の死滅を招く。
底質付近の貧酸素化が進行し、底質内部が還元状態となると、鉄(II)、マンガン(II)等の金属や、リン、窒素等の栄養塩の溶出が促進される。水域に溶出したリン、窒素は、藻類の栄養源となり、藻類の大増殖を促進し、更に貧酸素化が進行するという悪循環に陥る。
水域の貧酸素化が進行し、底質内部が還元状態となると、硫化水素、アンモニア、メタン等による異臭が発生し易くなる。
富栄養化が進んだ湖沼では、冬期に表層の水温が0℃付近まで低下するが、この際に底質付近での水温が4℃前後と高いと、最も密度が大きくなり、上部と下部で密度差が生じて、いわゆる温度成層を形成する(冬期成層)。そして、底質付近では、堆積した死滅藻類が分解する際に溶存酸素を消費し、貧酸素化水塊が形成される。このような嫌気状態が底質付近に形成されると、底質中に含まれる不溶性のマンガン(IV)が下記の(1)式のように、微生物反応によって還元され、溶解性のマンガン(II)が水中に溶出する。ここで、CH2Oは、微生物分解可能な有機物を示しており、有機物が還元剤として作用するため、有機物汚濁が進んだ水域の底質ほどこのような還元反応が進行し易いことになる。
2MnO2+CH2O+4H+→2Mn2++CO2+3H2O ……(1)
(i) マンガン(II)による水生生物への影響について
水産用水基準(非特許文献1)によると、淡水域、海域共にマンガンとして0.2mg/L以下を推奨指針としている。本数値は、ミジンコ等の水生生物を水溶性のマンガン化合物(塩化マンガン、硫酸マンガン等)溶液中に一定時間暴露させ、水生生物の半数致死濃度(LC 50)を求め、更に、安全率を乗じて求められた値である。従って、水産用水基準のマンガン濃度は溶解性マンガン(II)の濃度と見做すことができ、本数値が水生生物の生息にとっては望ましい水準であると考えられる。また、海域において、砂中間隙水のマンガン(II)が5mg/Lに達するとアサリを始めとする貝類への影響があったとの報告も見られる。
水道水質基準(非特許文献2)では、「マンガンおよびその化合物」として、0.05mg/L以下と規定されている。本数値は、健康被害の観点からよりも、水道水の「黒水化防止」の観点から設定されている。マンガン(IV)の酸化物である酸化マンガン(MnO2)は、非溶存態で黒色を呈している。水道水質基準の「マンガンおよびその化合物」は、非溶存態の酸化マンガン(MnO2)等の化合物と溶存態のマンガン(II)の総和であると考えられる。
(イ)酸素を用いたマンガンの溶出防止方法(特許文献1、特許文献2)
特許文献1では、「水中型気液溶解装置」を用い、貧酸素状態を解消し、底泥の表面酸化によって、鉄、マンガン、リン等の溶出を防止する方法が提案されている。また、特許文献2では、酸素を含む「超微細気泡層(マイクロバブル)」によって、水中の貧酸素状態を解消し、栄養塩や金属塩類の溶出を防止する方法が提案されている。これらの方法は、強制的、効率的に水中の好気状態を作り出し、(1)式のような還元反応が底質中で生ずるのを防ぎ、かつ、マンガン(II)が溶出したとしても酸素で酸化し、非溶存態のマンガン(IV)化合物を作ろうとするものである。
特許文献3は、浄水場での負荷を低減するため、空気ではなく事前に酸化力のあるオゾンガスを湖沼や河川等の「水道原水」に供給し、下記の(2)式に従って、底質から水中に溶出したマンガン(II)を酸化して除去しようとするものである。
Mn2++O3+H2O→MnO2↓+O2+2H+ ……(2)
空気や酸素を効率的に水中に供給して貧酸素化を解消し、水域底質からのマンガン(II)の溶出を防止しようとする「酸素を用いたマンガンの溶出防止方法」は、小規模な湖沼では兎も角も、大規模な河川・湖沼や海域等の水域では、自然環境の制御が極めて難しく(波や風雨の影響大)、恒久的な酸素供給設備の設置等が現実的には困難である。また、曝気に要するランニングコストの問題があるほか、水域を有酸素状態にはするものの、底質内部の還元状態を回復できるかは明らかではない。従って、上記の(1)式のマンガン(IV)の還元反応の進行を止められるかどうかは明確ではなく、また、水域底質から溶出したマンガン(II)にしても、中性付近のpHでは、空気や酸素でマンガン(IV)まで酸化するのはかなり難しい。
従って、本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(6)である。
(3)アルカリ系資材に加えて、水域の底質に炭酸塩供給資材を導入することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
(5)水域底質へのアルカリ系資材及び炭酸塩供給資材の導入が、炭酸化処置を施した製鋼スラグを用いて行われることを特徴とする(3)又は(4)に記載の水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
上記(1)〜(5)のいずれかに記載のマンガン(II)溶出防止方法において、前記マンガン(II)溶出防止方法を施した水域の底質にアンカーを投入し、アンカー付近の水をポンプによって吸引して間隙水を採取し、
前記間隙水のpHを測定することを特徴とする水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
(7)定期的に、前記間隙水のpHを測定してpHモニタリングを行い、このpHモニタリングの結果に基づいて水域の底質に、アルカリ系資材及び/又は炭酸塩資材を導入し、前記底質中の間隙水のpHを8以上に維持することを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
ここで、本発明法と従来法との比較を表1に示す。
水域の底質からのマンガン(II)の溶出は、上記の(1)式のように、底質に含まれるマンガン(IV)化合物が微生物(マンガン還元細菌)によって還元され、溶解性のマンガン(II)が発生し、水中に溶出する現象である。従って、上記の(1)式より明らかなように、マンガン(II)の溶出を防ぐには、(1)式の反応原理に基づいた下記の如き対策が必要であると考えられる。
CH2Oで示される有機物の量がMnO2量と比較して小さい場合には、有機物が律速となって、マンガン(II)の発生量は低下する。また、底質中の間隙水のpHがアルカリ側になると、マンガン還元細菌の好適pHが中性域であることから、マンガン還元細菌がアルカリ阻害を受け、マンガン(IV)の還元反応が進行し難くなる。従って、マンガン(IV)の還元反応を抑制するためには、底質中の有機物を削減すること及び/又は底質中の間隙水のpHを上昇させることが有効と考えられる。
(A)に述べた対策のみによって、マンガン還元細菌によるマンガン(IV)の還元反応を完全には抑制することは、困難と思われる。即ち、底質の過剰なアルカリ化は、環境上の視点から避けることが望ましいためである。
表2に、マンガン(II)の主要な化合物とその溶解度をまとめて示すが、表2から明らかなように、マンガン(II)が溶出したとしても炭酸マンガンを形成させることができれば、水への溶解を低下させることが可能となる。
即ち、先ずは、汚濁の進んだ水域の底質に、可溶性のCaO、Ca(OH)2、MgO、及びMg(OH)2から選ばれた1種又は2種以上を含むアルカリ系資材を導入し、前記底質中の間隙水のpHを8以上に上昇せしめる。アルカリ系資材は、湖沼や海域等の水域の底質に混合して用いても、あるいは、そのまま水域の底質上に敷き詰めても構わない。
CaO+H2O→Ca(OH)2→Ca2++2OH- ……(3)
MgO+H2O→Mg(OH)2→Mg2++2OH- ……(4)
中性付近のpHでは、炭酸は炭酸イオン(CO3 2-)の形でよりも、重炭酸イオン(HCO3 -)の形で存在する割合が高い。上記の(3)、(4)式のように、アルカリ系資材によってOHイオンが供給されると、重炭酸イオン(HCO3 -)は炭酸イオン(CO3 2-)に変化する。
HCO3 -+OH-→CO3 2-+H2O ……(5)
Mn2++CO3 2-→MnCO3↓ ……(6)
ところが、淡水ではなく、海水のように、水中にCa2+やMg2+が大量に共存している場合には、以下のような反応も進行することも予想される。
Ca2++CO3 2-→CaCO3↓ ……(7)
Mg2++CO3 2-→MgCO3↓ ……(8)
大気中の二酸化炭素の濃度を350ppmとすると、二酸化炭素の分圧(PCO2)は、PCO2(大気、標高0)=1atm×(350×10-6)=10-3.5atmである。また、水中に溶解するCO2の濃度[CO2(aq)]は、気相中の二酸化炭素の分圧に比例する。
[CO2(aq)]=[H2CO3 *]=KH×PCO2 ……(9)
ここで、KH:ヘンリー定数=10-1.47mole/L/atm(25℃、純水系)
Ct=[H2CO3 *]+[HCO3 -]+[CO3 2-] ……(10)
[H+][HCO3 -]/[H2CO3 *]=K1=10-6.35 ……(11)
[H+][CO3 2-]/[HCO3 -]=K2=10-10.33 ……(12)
これを書き直すと、
[HCO3 -]=K1×[H2CO3 *]/[H+] ……(13)
[CO3 2-]=K2×[HCO3 -]/[H+]
=K1×K2×[H2CO3 *]/[H+]2 ……(14)
log[HCO3 -]=logK1+log[H2CO3 *]−log[H+]
=pH−11.32 ……………………(15)
log[CO3 2-]=logK1+logK2+log[H2CO3 *]−2log[H+]
=2pH−21.65 ……………………(16)
(a)MnCO3:log[Mn2+]=−11.09−log[CO3 2-]
=−11.09−(2pH−21.65)
=−2pH+10.56 …………(17)
(b)MgCO3:log[Mg2+]=−4.9−log[CO3 2-]
=−4.9−(2pH−21.65)
=−2pH+16.75 …………(18)
(c)CaCO3:log[Ca2+]=−8.35−log[CO3 2-]
=−8.35−(2pH−21.65)
=−2pH+13.3 ……………(19)
[Mn2+]≒10-5M≒0.05mg/L
[Mg2+]≒10-0M≒24g/L
[Ca2+]≒10-3M≒40mg/L
しかし、大気と水の炭酸塩の平衡状態が崩れた場合にはこの限りではなくなる。例えば、藻類の異常発生により、水中の[H2CO3 *]濃度が急速に失われた場合、大気から水へのCO2の溶解速度はかなり遅いため、(14)式から明らかなように、炭酸イオン[CO3 2-]濃度も減少する。即ち、MnCO3を形成するために必要な水中のCO3 2-濃度が不足することになる。このような場合、以下の対策を講ずればよい。
製鋼スラグは、先に述べたように、f-CaO(可溶性石灰)も1〜2質量%前後含んでいる。このため、水中のpHを一時的に上昇させ易い特性がある。このため、「炭酸化処置」を施し、f-CaOをCaCO3とした「炭酸化製鋼スラグ」とし、溶出水のpH上昇の程度をある程度低下させると共に、CaCO3からCO3 2-の供給する材料として用いることも可能である。製鋼スラグの炭酸化処理は、製鋼スラグを二酸化炭素又は炭酸含有水と接触させることにより実施することができる。例えば、特許文献4では、大気雰囲気下、加圧雰囲気下、又は、水蒸気雰囲気下で、製鋼スラグに自由水が存在し始める水分値未満で、かつ、該水分値よりも10質量%少ない値以上になるように水分量又は炭酸水量を調整した後に、炭酸ガスを含有する相対湿度が75〜100%のガスを流して、製鋼スラグを炭酸化する方法が述べられている。
海域水域の底質に、アルカリ系資材として製鋼スラグを混合し、pHを上昇させた場合におけるマンガン(II)の溶出抑制効果を検討した。
この実施例1でアルカリ系資材として用いた製鋼スラグは、可溶性のCaOを0.2質量%、Ca(OH)2を1.0質量%、可溶性のMgOを0.05質量%、それぞれ含有していた。
表4に実験条件を示す。
海域水域の底質に、アルカリ系資材及び炭酸塩供給資材として炭酸化製鋼スラグを敷き詰め、マンガン(II)の溶出を抑制する方策を検討した。この実施例2で用いた炭酸化製鋼スラグは、可溶性のCa(OH)2を0.4質量%、CaCO3を1.0質量%、それぞれ含有していた。
表6に実験条件を示す。
このように、貧酸素水域において水中にマンガン(II)が溶出したとしても、弱アルカリと炭酸塩供給の環境条件が維持されれば、マンガン(II)は炭酸マンガンとなって不溶化すると考えられる。
ダム貯水池の底質にアルカリ系資材及び炭酸塩供給資材として、炭酸化製鋼スラグを敷き詰め、マンガン(II)の溶出を抑制する方策を検討した。この実施例3で用いた炭酸化製鋼スラグは、可溶性のCa(OH)2を0.4質量%、CaCO3を1.0質量%、それぞれ含有していた。
表7に実験条件を示す。
このように、貧酸素の淡水域において水中にマンガン(II)が溶出したとしても、弱アルカリの環境を維持すれば、マンガン(II)は炭酸マンガンとなって不溶化すると考えられる。
Claims (7)
- 湖沼、河川、又は海域の水域の底質に、可溶性のCaO、Ca(OH)2、MgO、及びMg(OH)2から選ばれた1種又は2種以上を含むアルカリ系資材を導入し、前記底質中の間隙水のpHを8以上に上昇させて前記底質中に含まれるマンガン(IV)化合物の還元反応によって発生したマンガン(II)をMnCO3として不溶化し、水域底質からの溶解性マンガン(II)の溶出を抑制することを特徴とする水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
- 前記底質に導入するアルカリ系資材が、製鉄所から発生する製鋼スラグであることを特徴とする請求項1に記載の水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
- アルカリ系資材に加えて、水域の底質に炭酸塩供給資材を導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
- 前記炭酸塩供給資材が、CaCO3及び/又はMgCO3を含む炭酸塩供給資材であることを特徴とする請求項3に記載の水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
- 水域底質へのアルカリ系資材及び炭酸塩供給資材の導入が、炭酸化処置を施した製鋼スラグを用いて行われることを特徴とする請求項3又は4に記載の水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のマンガン(II)溶出防止方法において、前記マンガン(II)溶出防止方法を施した水域の底質を採取し、当該採取した底質を遠心分離して間隙水を得るか、又は、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のマンガン(II)溶出防止方法において、前記マンガン(II)溶出防止方法を施した水域の底質にアンカーを投入し、アンカー付近の水をポンプによって吸引して間隙水を採取し、
前記間隙水のpHを測定することを特徴とする水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。 - 定期的に、前記間隙水のpHを測定してpHモニタリングを行い、このpHモニタリングの結果に基づいて水域の底質に、アルカリ系資材及び/又は炭酸塩資材を導入し、前記底質中の間隙水のpHを8以上に維持することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水域底質からのマンガン(II)溶出防止方法。
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