JP5567093B2 - 安定した超弾性を示すCu−Al−Mn系合金材とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、超弾性特性に優れたCu−Al−Mn系合金材及びその製造方法に関する。
銅合金等の形状記憶合金・超弾性合金は、熱弾性型マルテンサイト変態の逆変態に付随して顕著な形状記憶効果及び超弾性特性を示し生活環境温度近辺で優れた機能を持つことから、種々の分野で実用化されている。形状記憶合金・超弾性合金の代表的な材料として、TiNi合金とCu系の合金がある。銅系の形状記憶合金・超弾性合金(以下銅系合金)は、繰り返し特性、耐食性等の点でTiNi合金よりも特性が劣っているが、一方でコストが安いためのその適用範囲を広げようとする動きがある。しかし、銅系合金は、コスト的に有利であるが、冷間加工性が悪く、超弾性特性も低いことから、種々の研究がなされているにも関わらず必ずしも実用化が十分には進捗しない状況となっている。
これまで、銅系合金について、種々の検討がなされてきた。例えば、β単相の<101>、<100>等の特定の結晶方位を圧延又は伸線などの冷間加工方向に揃えた再結晶集合組織になっている、例えば、冷間加工性に優れたβ単相構造のCu−Al−Mn系形状記憶合金などが、下記の特許文献などに報告されている。
特開平7−62472号公報 特開2000−169920号公報 特開2001−20026号公報 特開2005−298952号公報
特許文献1の方法で製造したCu−Al−Mn系合金は、その特性、特に超弾性特性が十分ではなく、90%以上の形状回復を示す最大与ひずみは2〜3%程度である。その理由として、結晶配向がランダムであることなどに起因して、変形時に結晶粒間に強い拘束力が生じるために転位などの不可逆欠陥が導入されることが考えられる。
また、特許文献2の銅系合金は、形状記憶特性及び超弾性特性を有し、実質的にβ単相からなる銅系合金であり、結晶組織は前記β単相の結晶方位がβ単相の<101>、<100>等の特定の結晶方位が圧延又は伸線などの冷間加工方向に揃った再結晶集合組織になっている。上記銅系合金では、電子背面散乱パターン法(Electron Back−Scatter Difraction Patterning、以下「EBSP」と省略する場合がある)(あるいは、電子後方散乱回折(Electron BackScatter Diffraction、以下EBSDと略記する)ともいう)によって測定された前記加工方向における前記β単相の特定結晶方位の存在頻度が2.0以上になるような最終焼鈍後の合計加工率で前記冷間加工を行うものである。このような材料であっても、Cu−Al−Mn系合金においては、変態歪量の方位依存性が大きいため、安定的に良好な超弾性特性を精度良く均質に得るためには、なお不十分であった。
特許文献3に記載されている銅系合金では、発現される形状記憶特性及び超弾性特性が安定性に欠け、これらの特性が安定しない点で、なお改良の余地があるレベルである。また、形状記憶特性及び超弾性特性を安定させるためには集合組織制御が不可欠であると考えられるが、特許文献3に記載の方法では、Cu−Al−Mn系合金での組織の集積度は低く形状記憶特性及び超弾性特性はまだ十分には安定しない。
また、特許文献4に記載されている合金ではNi含有が必須であり、10質量%までのNi含有量を許容するものである。Niを含有することによって結晶方位の集積は容易となるが、焼き入れ性が低下する。ここで、焼き入れ性(あるいは焼入れ感受性)とは、焼入れ時の冷却速度と焼入れ直前の組織の焼入れ過程での安定性の関係を言い、具体的には焼入れ後の冷却速度が遅いと、α相が析出して超弾性特性に劣ることを焼入れ性が敏感であるという。Ni含有銅合金においては、より高温でα相が析出し始めるため、線径が太くなる等で冷却時間が多少長くなっただけでも焼き入れ性に劣り、良好な超弾性特性が得られないことが分かった。
このように、従来得られていた形状記憶銅合金においては、理論的には単結晶のものが望ましいと考えられていたが、多結晶材における結晶方位の集積の超弾性特性への影響についての検討は不十分であり、超弾性特性の安定性、再現性に乏しいものであった。
本発明は、材料の結晶集合組織を制御して安定的に良好な超弾性特性を奏するCu−Al−Mn系合金材及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記従来の問題点を解決するために鋭意検討を行った結果、Cu−Al−Mn系合金材の結晶方位を制御して特定の結晶方位に集積した集合組織とすることで、より安定的に良好な超弾性特性を奏するCu−Al−Mn系合金材が得られることを見い出した。また、このような集合組織の制御は、所定の中間焼鈍と冷間加工を経て、さらには、熱処理を行うことによって達成できることを見い出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
上記課題は以下の手段により解決された。
(1)3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMn、及び0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなり、超弾性特性を有し、実質的にβ単相からなる再結晶組織を有するCu−Al−Mn系合金材であって、電子背面散乱パターン測定法により加工方向で測定した結晶粒の70%以上が結晶方位<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の範囲内にあることを特徴とするCu−Al−Mn系合金材。
(2)3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含有し、さらにCo、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタルからなる群より選ばれた1種又は2種以上を合計で0.001〜10質量%、並びに0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなり、超弾性特性を有し、実質的にβ単相からなる再結晶組織を有するCu−Al−Mn系合金材であって、電子背面散乱パターン測定法により加工方向で測定した結晶粒の70%以上が結晶方位<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の範囲内にあることを特徴とするCu−Al−Mn系合金材。
)前記(1)又は(2)項に記載のCu−Al−Mn系合金材において、さらに結晶粒の50%以上が加工方向で測定した結晶方位<101>方位からのずれ角度が0°〜20°の範囲内にあることを特徴とするCu−Al−Mn系合金材。
)3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMn、及び0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなるCu−Al−Mn系合金材を下記[工程1]から[工程5]により製造する製造方法。
[工程1]では上記組成を与える合金素材を溶解・鋳造し、[工程2]の熱間加工した後に、[工程3]の400〜600℃で1分〜120分の中間焼鈍と[工程4]の加工率30%以上の冷間加工とを少なくとも各1回以上この順に行い、その後、下記熱処理[工程5]を行う。
[工程5]の前記熱処理は、室温からβ単相になる温度域まで0.2℃/分〜20℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に保持してなる熱処理と、その後の急冷の各工程である。
)3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含有し、さらにCo、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタルからなる群より選ばれた1種又は2種以上を合計で0.001〜10質量%、並びに0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなるCu−Mn−Al系合金材を下記[工程1]から[工程5]により製造する製造方法。
[工程1]では上記組成を与える合金素材を溶解・鋳造し、[工程2]の熱間加工した後に、[工程3]の400〜600℃で1分〜120分の中間焼鈍と[工程4]の加工率30%以上の冷間加工とを少なくとも各1回以上この順に行い、その後、下記熱処理[工程5]を行う。
[工程5]の前記熱処理は、室温からβ単相になる温度域まで0.2℃/分〜20℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に保持してなる熱処理と、その後の急冷の各工程である。
)前記()又は()項に記載のCu−Al−Mn系合金材からなる線材。
)前記()又は()項に記載のCu−Al−Mn系合金材からなる板材。
)3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMn、及び0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなるCu−Al−Mn系合金材を下記[工程1]から[工程5]により製造する製造方法で製造したCu−Al−Mn系合金材。
[工程1]では上記組成を与える合金素材を溶解・鋳造し、[工程2]の熱間加工した後に、[工程3]の400〜600℃で1分〜120分の中間焼鈍と[工程4]の加工率30%以上の冷間加工とを少なくとも各1回以上この順に行い、その後、下記熱処理[工程5]を行う。
[工程5]の前記熱処理は、室温からβ単相になる温度域まで0.2℃/分〜20℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に保持してなる熱処理と、その後の急冷の各工程である。
)3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含有し、さらにCo、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタルからなる群より選ばれた1種又は2種以上を合計で0.001〜10質量%、並びに0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなるCu−Mn−Al系合金材を下記[工程1]から[工程5]により製造する製造方法で製造したCu−Al−Mn系合金材。
[工程1]では上記組成を与える合金素材を溶解・鋳造し、[工程2]の熱間加工した後に、[工程3]の400〜600℃で1分〜120分の中間焼鈍と[工程4]の加工率30%以上の冷間加工とを少なくとも各1回以上この順に行い、その後、下記熱処理[工程5]を行う。
[工程5]の前記熱処理は、室温からβ単相になる温度域まで0.2℃/分〜20℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に保持してなる熱処理と、その後の急冷の各工程である。
本発明のCu−Al−Mn系合金材は、超弾性特性として6%ひずみ負荷後の残留ひずみが1.0%以下、破断伸びが6%以上であることが好ましい。
ここで、超弾性特性に優れるとは、所定の負荷歪または負荷応力を与えた後、荷重を除荷した後に残留する歪みを残留歪みと言うがこれが小さいことを言い、この残留歪が小さいほど望ましいが、本発明においては、6%変形後の残留ひずみが1.0%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下であることをいう。また、実質的にβ単相からなる再結晶組織を有するとは、再結晶組織中でβ相の占める割合が90%以上、好ましくは95%以上であることをいう。
本発明のCu−Al−Mn系超弾性合金材は、超弾性特性が要求される種々の用途に用いることができ、例えば、携帯電話のアンテナやメガネフレームの他に、医療製品として歯列矯正ワイヤー、ガイドワイヤー、ステント、巻き爪矯正具や外反母趾補装具への適用が期待される。さらに本発明のCu−Al−Mn系超弾性合金材は、その優れた超弾性特性のために、制震材として好適なものである。
図1(a)は、本発明で規定する結晶方位<001>方位からのずれ角度が0°〜50°(斜線を付した領域及び交差線を付した領域)及び好ましくは20°〜50°(交差線を付した領域のみ)の範囲を模式的に示す逆極点図を用いた結晶方位分布図であり、図1(b)は、本発明で規定する<101>方位からのずれ角度が0°〜20°(好ましくは0°〜10°)の範囲を模式的に示す逆極点図を用いた結晶方位分布図である。図1(c)は、<001>方位からのずれ角度が0°〜50°(好ましくは20°〜50°)であり、かつ、<101>方位からのずれ角度が0°〜20°(好ましくは0°〜10°)であって、これらの両方を満たす領域を模式的に示す逆極点図を用いた結晶方位分布図である。 図2は、中間焼鈍温度450℃(a)、550℃(b)、600℃(c)における、加工方向(RD)の結晶配向をEBSDで測定した逆極点図(上段、中段)を、各々のEBSDのRDのカラーマップ(下段、図中では白黒で示した。)と併せて示す。図2(d)は、Cu−Al−Mn合金材の変態歪量の結晶方位依存性を逆極点図中に該歪量の等高線で示した説明図である。 図3は、各冷間伸線前に中間焼鈍温度450℃での中間焼鈍と、加工率47.4%→46.1%→50.4%の3回の冷間伸線との組合せを3回行って調製した線径0.75mmの線材における、加工方向(RD)の結晶方位をEBSDで測定した結果の逆極点図を示す。 図4は、加工プロセスチャートの代表例を示し、図4(a)は熱処理の加熱処理[工程5−1]を徐昇温1.0℃/分で行う本発明の製造方法の加工プロセスの一例を示すチャートであり、図4(b)は熱処理の加熱処理[工程5−1]を急昇温90℃/分で行う比較例の製造方法の加工プロセスの一例を示すチャートである。 図5(a)は、図4(a)のプロセスによって得られた超弾性特性としての残留歪を示す応力−歪曲線(S−S曲線)である。 図5(b)は、図4(b)のプロセスによって得られた超弾性特性としての残留歪を示す応力−歪曲線(S−S曲線)である。
本発明のCu−Al−Mn系合金材は、所定の中間焼鈍と冷間加工を行い、焼き入れ前の最終溶体化処理での加熱を徐昇温で行うことによって集合組織が集積し所定の結晶配向を有することで、安定的に良好な超弾性を奏する。
本発明のCu−Al−Mn系合金材の形状には特に制限はなく、板、線(本発明における線は棒も含むものとする。)、管などの形状とすることができる。
<集合組織制御>
本発明のCu−Al−Mn系超弾性合金材は、最終仕上げ材の結晶方位を電子背面散乱パターン測定法により加工方向で測定した場合に、全結晶粒の内の70%以上の結晶粒が結晶方位<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の範囲内、好ましくは20°〜50°の範囲内に存在する集合組織を有する。さらに好ましくは全結晶粒の内の80%以上の結晶粒、特に好ましくは全結晶粒の内の90%以上の結晶粒が、結晶方位<001>方位からのずれ角度が20°〜50°の範囲内に存在する集合組織を有する。なぜならば、結晶粒の集積により特性がより向上するからである。本発明によれば、前記特定の集積状態に組織を制御することによって、安定的に良好な超弾性特性を得ることができる。この場合、変態歪量が4〜9%で、安定した形状記憶特性及び超弾性特性を奏する。このような集合組織の結晶方位の分布の様子を模式的に図1(a)の逆極点図に示した。図1(a)に示したように、<001>方位からのずれ角度が0°〜50°である範囲は、図中で斜線を付した領域及び交差線を付した領域であり、<001>方位からのずれ角度が20°〜50°である範囲は、図中で交差線を付した領域のみである。
さらに、全結晶粒の内の50%以上の結晶粒が結晶方位<101>方位からのずれ角度が0°〜20°の範囲内に存在することが好ましい。全結晶粒の内の70%以上の結晶粒が結晶方位<101>方位からのずれ角度が0°〜20°の範囲内に存在することが、より好ましい。さらに好ましくは全結晶粒の内の30%以上の結晶粒が結晶方位<101>方位からのずれ角度が0°〜10°の範囲内に存在し、より好ましくは全結晶粒の内の50%以上の結晶粒が結晶方位<101>方位からのずれ角度が0°〜10°の範囲内に存在し、特に好ましくは全結晶粒の内の70%以上の結晶粒が、結晶方位<101>方位からのずれ角度が0°〜10°の範囲内に存在する集合組織を有する。この場合、変態歪量が5〜8%で、より安定で良好な形状記憶特性及び超弾性特性を奏する。このような集合組織の結晶方位の分布の様子を模式的に図1(b)の逆極点図に示した。
なお、図1(c)の逆極点図(結晶方位分布図)に、<001>方位からのずれ角度が0°〜50°(実際には20°〜50°)であり、かつ、<101>方位からのずれ角度が0°〜20°であって、これらの両方を満たす領域(図中、斜線を付した領域及び交差線を付した領域)と、<001>方位からのずれ角度が0°〜50°(実際には20°〜50°)であり、かつ、<101>方位からのずれ角度が0°〜10°であって、これらの両方を満たす領域(図中、交差線を付した領域のみ)とを、模式的に示した。
本発明のCu−Al−Mn系合金材は、以上の再結晶集合組織を有する材料である。
さらに、本発明のCu−Al−Mn系合金材は、実質的にβ単相である。ここで、実質的にβ単相であるとは、β相以外の例えばα相などの存在割合が10%以下で、望ましくは5%以下あることをいう。
例えば、Cu−8.1質量%Al−11.1質量%Mn合金は、900℃ではβ(BCC)単相であるが、700℃以下ではα(FCC)相+β相の2相である。この2相域を生じる温度域での中間焼鈍と加工率30%以上の冷間加工を繰り返すと、再結晶集合組織は所定の温度範囲内で焼鈍することにより、結晶方位の集積が顕著になることが分かった。この様子を図2に示した。図2(a)〜2(c)には、900℃での熱処理とその後の焼入れ後における加工方向(RD)の結晶配向をEBSDで測定した結果を示す。図からわかるように、中間焼鈍温度450℃の図2(a)の方が、中間焼鈍温度550℃の図2(b)や中間焼鈍温度600℃の図2(c)よりも、所望の集積度がより高くなっている。本発明においては、結晶方位<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の範囲内、好ましくは20°〜50°の範囲内に存在する結晶粒が多ければ多い程好ましい。また、このように中間焼鈍温度が低い程、<111>方位の存在頻度がより低くなる。本発明においては、<111>方位の存在頻度が低ければ低い程好ましい。
本発明においては、これらの<001>方位や<101>方位への集積の度合いを、SEM−EBSDで測定する。その具体的な測定方法を以下に説明する。
後述の超弾性特性評価のための引張試験後に標点距離間の部分を切断して、導電性樹脂に埋め込み、振動式バフ仕上げ(研磨)する。EBSD法により、約400μm×550μmの測定領域で、スキャンステップが5μmの条件で測定を行う。この測定を引張試験片のゲージ長のほぼ全長(25mm)に渡って測定する。OIMソフトウェア(TSL社製)を用い、全測定結果から得られた結晶配向を逆極点図上にプロットさせる。上記の通り、<001>方位からのずれ角度が0°〜50°(好ましくは20°〜50°)の結晶粒の原子面の面積と、<101>方位からのずれ角度が0°〜20°(好ましくは0°〜10°)の結晶粒の原子面の面積とを、それぞれ求めて、該面積を全測定面積で割ることで、<001>方位からのずれ角度が0°〜50°(好ましくは20°〜50°)の領域の割合と、<101>方位からのずれ角度が0°〜20°(好ましくは0°〜10°)の領域の割合とを得る。
本件技術分野においては、結晶方位が揃わないでランダムに多数の結晶粒が存在しても、これがバンブー組織であれば、各方位の変態歪量の平均の歪が超弾性として得られることがある。この場合には、結果として、本発明で規定する所定の集合組織における<101>の変態歪と大体同じ程度になる場合もあり得る。例えば、ランダムに数個の結晶粒しか存在しない状況であっても、平均として10%近い超弾性歪を奏する場合もあり、これが3%程度の場合もある。
そこで、この超弾性特性の発現にムラが生じないことが、本発明において所定の集合組織とすることの意義である。つまり、本発明によれば、所定の集合組織を形成させることで、超弾性特性やそれに応じた降伏応力が安定して得られる。これは従来の手段からは予想外のことである。
(結晶方位の存在頻度の測定方法)
本発明のCu−Al−Mn系合金材は実質的にβ単相からなり、β単相の結晶方位が加工方向に揃った再結晶組織を有するが、電子背面散乱パターン法により測定したこの結晶組織の結晶方位の存在頻度(結晶方位の揃え具合を表す値)をf(g)で表すと、次式により求めることができる。
f(g)・V=dV/dg
(ただし、Vは全結晶粒の体積であり、gは結晶方位であり、dV/dgは結晶方位gにおける微小方位空間dgに含まれる結晶粒の体積である。)
以上のように、加工方向における<101>方向の結晶方位の存在頻度を求めることができる。ここで、例えば、加工方向における<101>結晶方位の存在頻度は、加工方向に全くない場合を「0」とし、結晶方位が完全にランダムになっている場合を「1」とし、完全に加工方向に揃っている場合を「∞」として、表わすことができる。<001>結晶方位についても同様に求めることができる。以上のように、本発明例と比較例の各試料について、<101>方位の存在頻度と<001>方位の存在頻度を求めた。
(結晶方位の集積について)
加工方向における<101>、<001>結晶方位などの存在頻度と超弾性特性との関係は、以下のように考えられる。
加工方向における<101>結晶方位の存在頻度の値が大きいほど、特定の方向に結晶方位が揃っていることになるので、超弾性特性を向上させるには好ましい。逆に、加工方向における<101>方向の結晶配向の存在頻度が小さすぎると、本発明のCu−Al−Mn系合金材は超弾性特性が低下し、<001>方向の結晶方位の存在頻度は、少なくなるほど超弾性特性の向上には好ましい。もちろん形状記憶特性についても同様の傾向を示す。
なお、各方位について、<101>と<011>は<110>と等価であり、<001>と<010>は<100>と等価である。
<Cu−Al−Mn系超弾性合金材の製造方法>
本発明のCu−Al−Mn系の超弾性銅基合金材において、上記のような安定的に良好な超弾性特性を奏する超弾性合金材を得るための製造条件としては、下記のような製造工程を挙げることができる。また、好ましい製造プロセスの一例を図4(a)に示した。
製造工程全体の中で特に、中間焼鈍温度を400〜600℃の範囲とし、冷間圧延率もしくは冷間伸線の加工率を30%以上の範囲とすることにより、安定的に良好な超弾性特性を奏するCu−Al−Mn系合金材が得られる。これに加えて、熱処理における昇温速度を所定の遅い範囲に制御することが好ましい。ここで、熱処理としては、まず、室温から昇温した後に、急冷してなる溶体化処理を行うものである。ここで、前記熱処理における昇温速度を遅くする(本書では、これを徐昇温ともいう)ことが好ましい。徐昇温時の昇温速度は、好ましくは20℃/分以下であり、さらに好ましくは5℃/分以下であり、さらに好ましくは0.2℃/分〜3.3℃/分であり、特に好ましくは1℃/分〜3.3℃/分である。また、熱処理に関しては、前記加熱処理後に溶体化処理する為の冷却は、急速冷却(いわゆる、焼きいれ)するものとする。この急冷は、例えば、前記熱処理に付した本発明のCu−Al−Mn系合金材を冷却水中に投入する水冷によって行うことができる。
好ましくは、次のような製造工程が挙げられる。
溶解・鋳造[工程1]、熱間圧延又は熱間鍛造の熱間加工[工程2]の後、400〜600℃1分〜120分の中間焼鈍[工程3]と、その後に、加工率30%以上の冷間圧延又は冷間伸線[工程4]とを行う。ここで、中間焼鈍[工程3]と冷間圧延又は冷間伸線[工程4]とはこの順で1回ずつ行ってもよく、この順で2回以上繰り返して行ってもよい。その後、熱処理[工程5]を行う。
前記熱処理[工程5]は、室温から加熱温度までを20℃/分以下、好ましくは5℃/分以下、さらに好ましくは0.2〜3.3℃/分、特に好ましくは1℃/分〜3.3℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に5分〜120分保持してなり、該加熱温度をβ単相温度域である700℃〜950℃(好ましくは800〜900℃)とする熱処理[工程5−1]と、その後の急冷[工程5−2]、例えば水冷の各工程を有してなる。
前記熱処理[工程5]の後には、80〜250℃で5〜60分の時効熱処理[工程6]を施すことが好ましい。時効温度が低すぎるとβ相は不安定であり、室温に放置しているとマルテンサイト変態温度が変化することがある。逆に時効温度が250℃超であるとα相の析出が起こり、形状記憶特性や超弾性が著しく低下する傾向がある。
中間焼鈍[工程3]と冷間圧延又は冷間伸線[工程4]を繰り返し行うことで、結晶方位をより好ましく集積させることができる。中間焼鈍[工程3]と冷間圧延又は冷間伸線[工程4]の繰り返し数は、好ましくは2回以上、さらに好ましくは3回以上である。この繰り返し数に特に上限はないが、通常10回以下であり、好ましくは7回以下である。前記中間焼鈍[工程3]と前記加工[工程4]の繰り返し回数が多いほど<101>方位に向かう集積度合いが高まり特性が向上するためである。
各工程の好ましい条件は次の通りである。
中間焼鈍[工程3]は、400〜600℃で1分〜120分とする。この中間焼鈍温度はこの範囲内でより低い温度とすることが好ましいが、好ましくは450〜550℃、特に好ましくは450〜500℃、とする。焼鈍時間は1分〜120分が好ましく、試料サイズの影響を考慮してもφ20mmの丸棒ならば120分で十分である。
冷間圧延又は冷間伸線[工程4]は加工率30%以上とすることが好ましい。好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上〜75%以下、特に好ましくは45%以上〜60%以下の加工率である。ここで、加工率は次の式で定義される値である。
加工率(%) = (A−A)/A × 100
は冷間圧延もしくは冷間伸線前の断面積(mm)であり、Aは冷間圧延もしくは冷間伸線後の断面積(mm)である。
前記熱処理[工程5]においては、熱処理[工程5−1]で加熱する際には、β単相温度域である700℃〜950℃までの昇温速度は20℃/分以下であり、好ましくは5℃/分以下、さらに好ましくは0.2〜3.3℃/分、特に好ましくは1℃/分〜3.3℃/分である。前記熱処理[工程5−1]での昇温速度を前記規定の遅い速度(徐昇温)とすることで、結晶方位の変化を防止することができる。
急冷[工程5−2]時の冷却速度は、通常30℃/秒以上、好ましくは100℃/秒以上、さらに好ましくは1000℃/秒以上とする。
最後の任意の時効熱処理[工程6]は、300℃未満、好ましくは80〜250℃で5〜60分行うことが好ましい。
<Cu−Al−Mn系超弾性合金材の組成>
本発明のCu−Al−Mn系合金材は、高温でβ相単相に、低温でβ+αの2相組織になる銅合金からなり、少なくともAl及びMnを含有している。本発明のCu−Al−Mn系合金材は、3〜10質量%のAl、及び5〜20質量%のMnを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有する。Al元素の含有量が3質量%未満では、β単相を形成できず、また10質量%を超えると極めて脆くなる。Al元素の含有量はMn元素の含有量に応じて変化するが、好ましいAl元素の含有量は7〜9質量%である。Mn元素を含有することにより、β相の存在範囲が低Al側へ広がり、冷間加工性が著しく向上するので、成形加工が容易になる。Mn元素の添加量が5質量%未満では満足な加工性が得られず、かつβ単相の領域を形成することができない。またMn元素の添加量が20質量%を超えると、十分な形状回復特性が得られない。好ましいMnの含有量は8〜13質量%である。上記組成のCu−Al−Mn合金材は熱間加工性及び冷間加工性に富み、冷間で20%〜90%又はそれ以上の加工率が可能になり、板、線(棒)の他に、従来困難であった極細線、箔、パイプ等にも容易に成形加工することができる。
上記必須の添加成分元素以外に、本発明のCu−Al−Mn系合金材はさらに、Co、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタルからなる群より選ばれた1種又は2種以上を含有することができる。これらの元素は冷間加工性を維持したまま結晶粒を微細化してCu−Al−Mn系合金材の強度を向上させる効果を発揮する。これらの添加元素の含有量は合計で0.001〜10質量%であるのが好ましく、特に0.001〜5質量%が好ましい。これら元素の含有量が10質量%を超えるとマルテンサイト変態温度が低下し、β単相組織が不安定になる。これらの任意添加成分元素としては、結晶粒の微細化や銅合金の高強度化などの為に銅基合金に通常含有させて用いられる前記の各種元素を用いることができる。
Co、Fe、Snは基地組織の強化に有効な元素である。CoはCoAlの形成により結晶粒を粗大化するが、過剰になると合金の靭性を低下させる。Coの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。Feの好ましい含有量は0.001〜3質量%である。Snの好ましい含有量は0.001〜1質量%である。
Tiは阻害元素であるN及びOと結合し酸窒化物を形成する。またBとの複合添加によってボライドを形成し、結晶粒を微細化し、強度を向上させる。Tiの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。
V、Nb、Mo、Zrは硬さを高める効果を有し、耐摩耗性を向上させる。またこれらの元素はほとんど基地に固溶しないので、β相(bcc結晶)として析出し、結晶粒の微細化に有効である。V、Nb、Mo、Zrの好ましい含有量はそれぞれ0.001〜1質量%である。
Crは耐摩耗性及び耐食性を維持するのに有効な元素である。Crの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。Siは耐食性を向上させる効果を有する。Siの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。Wは基地にほとんど固溶しないので、析出強化の効果がある。Wの好ましい含有量は0.001〜1質量%である。
Mgは阻害元素であるN及びOを除去するとともに、阻害元素であるSを硫化物として固定し、熱間加工性や靭性の向上に効果がある。多量の添加は粒界偏析を招き、脆化の原因となる。Mgの好ましい含有量は0.001〜0.5質量%である。
Pは脱酸剤として作用し、靭性向上の効果を有する。Pの好ましい含有量は0.01〜0.5質量%である。Be、Sb、Cd、Asは基地組織を強化する効果を有する。Be、Sb、Cd、Asの好ましい含有量はそれぞれ0.001〜1質量%である。
Znは形状記憶処理温度を上昇させる効果を有する。Znの好ましい含有量は0.001〜5質量%である。B、Cは結晶組織を微細化する効果がある。特にTi、Zrとの複合添加が好ましい。B、Cの好ましい含有量は0.001〜0.5質量%である。
Agは冷間加工性向上させる効果がある。Agの好ましい含有量は0.001〜2質量%である。ミッシュメタルは結晶粒を微細化する効果を有する。ミッシュメタルの好ましい含有量は0.001〜5質量%である。
なお、本発明の超弾性Cu−Al−Mn系合金材は、Ni含有量を1質量%以下とし、好ましくは0.15質量%以下であり、Niを全く含有しないことが特に好ましい。Niを多量に含有すると、集合組織制御は容易であるが、先に説明した焼入れ性が低下するためである。
<物性>
本発明の超弾性Cu−Al−Mn系合金材は、以下の物性を有する。
超弾性特性として、6%変形後の残留歪は、通常1.0%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
伸び(破断伸び)は、通常6%以上、好ましくは8%以上、さらに好ましくは10%以上である。
さらに、前記超弾性特性としての残留歪および伸びは、同一材料から何点か供試材を切り出して測定してもその性能にムラがない。ここで、ムラがあるとは、前記残留歪および伸びがそれぞれ、同一材料から例えば20の供試材を切り出して測定した場合に、1つ以上の供試材が、残留歪は1.0%を超える値となるか、伸びが6%未満の値であることをいう。
本発明のCu−Al−Mn系合金材の形状には特に制限はなく、例えば板、線(棒)など種々の形状とすることができる。これらのサイズにも特に制限はないが、例えば、板であれば厚さ0.1mm〜15mmのサイズ、線であれば直径0.1mm〜50mmあるいは用途によっては直径8mm〜16mmのサイズと、それぞれすることができる。
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
実施例1
板材のサンプル(供試材)は以下の条件で作製した。
表1−1、表1−2に示す組成を与える銅合金として、純銅、純Mn、純Alを高周波誘導溶解した。溶製した銅合金を冷却し、外径80mm×長さ300mmの鋳塊(インゴット)を得た。得られた鋳塊を800℃で熱間圧延した後、本発明の実施例では図4(a)、比較例では図4(b)にそれぞれ示した加工プロセスに従って、表2−1〜表2−4に示す種々の条件で中間焼鈍と冷間圧延を1回ずつあるいは複数回繰り返し行うことで表2−1〜表2−4に示す厚さの薄板材を作製した。図4(a)及び図4(b)は、それぞれ代表例のプロセスを示すチャートであって、中間焼鈍の温度と時間、冷間加工の加工率、冷間加工前後の線径や板厚、さらに中間焼鈍と冷間加工の繰り返し数は、表2−1〜表2−4に示したように変更して実施した。表2−1〜表2−4では、各回の冷間圧延における加工率を「冷間加工率(%)」の欄に左から右に一回目の加工率→二回目の加工率→三回目→…の加工率として順に示す。また、この中間焼鈍と冷間圧延の繰り返し数を「冷間加工のサイクル数(回)」として示す。得られた各薄板材から圧延方向に平行に長さ150mm×幅20mmの小片を切り出し、該小片に本発明の実施例では図4(a)、比較例では図4(b)にそれぞれ示した加工プロセスに従って、熱処理を施し、水冷により急冷してβ(BCC)単相の試料を得た。各試料に必要に応じて200℃で15分間の時効熱処理を施した。
組織観察には光学顕微鏡、結晶方位解析にはEBSDをそれぞれ用いた。超弾性特性の評価は、引張試験による応力印加−除荷を行って、応力−歪曲線(S−Sカーブ)を求め、残留歪および伸びを求めて評価した。引張試験は、1つの供試材から20本(N=20)の試験片を切り出して試験した。以下の試験結果は、残留ひずみは20本の中での最大値、伸びは20本の中での最小値である。これは、特性の発現にムラがなく精確かつ均質に安定して良好な特性が得られているかを評価するためである。
以下に各試験及び評価の方法について詳述する。
a.再結晶集合組織配向
後述の超弾性特性評価のための引張試験後に標点距離間の部分を切断して、導電性樹脂に埋め込み、振動式バフ仕上げ(研磨)した。EBSD法により、約400μm×550μmの測定領域で、スキャンステップが5μmの条件で測定を行った。この測定を引張試験片のケージ長のほぼ全長(25mm)に渡って測定した。OIMソフトウェア(TSL社製)を用い、全測定結果から得られた結晶配向を逆極点図上にプロットさせた。上記の通り、<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の範囲内と20°〜50°の範囲内の結晶粒の原子面の面積と、<101>方位からのずれ角度が0°〜20°の範囲内と0°〜10°の範囲内の結晶粒の原子面の面積とを、それぞれ求めて、該面積を全測定面積で割ることで、<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の範囲内と20°〜50°の範囲内の領域の割合と、<101>方位からのずれ角度が0°〜20°の範囲内と0°〜10°の範囲内の領域の割合とを得た。以下の表中には、これを単に「再結晶集合組織配向」として示す。
<001>方位からのずれ角度については、この<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の領域の割合(a)が、70%以上であった場合を良好であるとして「○」と示し、70%未満であった場合を不合格であったとして「×」と示した。
<001>方位からのずれ角度については、この<001>方位からのずれ角度が20°〜50°の領域の割合(b)が、90%以上であった場合を優れるとして「◎」と示し、80%以上90%未満であった場合を良好であるとして「○」と示し、70%以上80%未満であった場合を可として「△」と示し、70%未満であった場合を不合格であったとして「×」と示した。
また、<101>方位からのずれ角度については、この<101>方位からのずれ角度が0°〜20°の領域の割合(c)が、70%以上であった場合を良好であるとして「○」と示し、50%以上70%未満であった場合を可として「△」と示し、50%未満であった場合を不合格であったとして「×」と示した。
さらに<101>方位からのずれ角度0°〜10°の領域の割合(d)が70%以上であった場合を優れるとして「◎」と示し、50%以上70%未満であった場合を良好として「○」で示し、30%以上50%未満であった場合を可として「△」で示し、30%未満であった場合を不合格として「×」で示した。
なお、下記本発明例12の線材について、加工方向(RD)の結晶方位をEBSDで測定した結果を図3に示す。このものは、図3の逆極点図から分かるように、本発明で規定する特に好ましい集合組織を有している。
これとは別に、本発明例と比較例の各試料について、<101>方位の存在頻度と、<001>方位の存在頻度とを、前記と同様にしてEBSD法で測定した。
b.超弾性特性[6%変形後の残留歪(%)]
引張り試験を行って、応力−歪曲線(S−Sカーブ)を求め、残留歪をもとめて評価した。
各供試材から長さ150mmの20の試験片を切り出して試験に供した。6%変形後の残留歪を応力−歪曲線(S−Sカーブ)から求めて、値を以下の表に示した。
試験条件は、標点距離25mmで、歪量を1%から1%ずつ8%まで暫時増加させながら、異なる水準の所定歪を繰り返し負荷する歪の負荷と、除荷とを交互に繰り返えす引張試験を、試験速度2%/分で行ったが、ここでの歪負荷のサイクルは、0MPa(荷重零での歪み)→1%→0MPa→2%→0MPa→3%→0MPa→4%→0MPa→5%→0MPa→6%→0MPa→7%→0MPa→8%→0MPaとした。
残留歪が0.2%以下であった場合を超弾性特性が優れるとして「◎」、残留歪が0.2%を超えかつ0.5%以下であった場合を超弾性特性が良好であるとして「○」、残留歪が0.5%を超えかつ1.0%以下であった場合を超弾性特性が合格であったとして「△」、残留歪が1.0%を超えて大きかった場合を超弾性特性が不合格であったとして「×」と、それぞれ判断して示す。
代表的な残留歪について、図5に応力−歪曲線(S−Sカーブ)を示した。図5(a)は本発明例であって中間焼鈍温度450℃で加工プロセスを3回繰り返した線材(本発明例12)を、図5(b)は比較例であって中間焼鈍温度450℃で加工プロセスを2回繰り返した線材(表には示していない比較例)を、それぞれ示す。
c.伸び(El)(%)
破断伸びをJISH7103に規定の方法に従って測定した。
伸びが10%以上を優れるとして「◎」、8%以上で10%未満を良好として「○」、6%以上で8%未満を可として「△」、6%未満を劣るとして「×」と示した。
d.焼入れ感受性
焼入れ感受性は、熱処理後にサンプルを冷却速度300℃/秒で冷却した場合におけるα相の析出量をSEM像の画像解析による体積分率で評価した。
α相の体積分率が10%末満を焼入れ感受性が優れるとして「○」と示し、10%以上を焼入れ感受性が劣るとして「×」と示した。
実施例2
線材(棒材)のサンプル(供試材)は以下の条件で作製した。
表1−1、表1−2に示す組成を与える銅合金として、純銅、純Mn、純Alを高周波誘導溶解した。溶製した銅合金を冷却し、直径80mmで長さ300mmのインゴットを得た。このインゴットを熱間鍛造して直径20mmの丸棒材を得た。
この丸棒材を必要によりさらに(1)熱間鍛造して、あるいは(2)冷間伸線して、表2−1〜表2−4に示す直径の線材を次のようにして得た。
前記板材の場合と同様に、本発明の実施例では図4(a)、比較例では図4(b)にそれぞれ示した加工プロセスに従って、表2−1〜表2−4に示す種々の条件で中間焼鈍と冷間伸線を1回ずつあるいは複数回繰り返し行うことで表2−1〜表2−4に示す直径の線材を作製した。各サイズへの伸線前に、表2−1〜表2−4記載の中間焼鈍温度で中間焼鈍熱処理を行った。
以下に、代表的な加工プロセスの2つの例を、線径と加工率と合わせて示す。
(伸線条件1)
丸棒直径φ18mm×L500mm(鍛造上り)
→丸棒直径φ14mm×Lmm(伸線上り) (加工率40%)
→丸棒直径φ10mm×Lmm(伸線上り) (加工率49%)
→丸棒直径φ7mm×Lmm(伸線上り) (加工率51%)
→丸棒直径φ5mm×Lmm(伸線上り) (加工率49%)
→丸棒直径φ4mm×Lmm(伸線上り) (加工率36%)
→丸棒直径φ3mm×Lmm(伸線上り) (加工率44%)
→丸棒直径φ2mm×Lmm(伸線上り) (加工率56%)
前記板材の場合と同様に、本発明の実施例では図4(a)、比較例では図4(b)にそれぞれ示した加工プロセスに従って、表2−1〜表2−4に示す種々の条件で中間焼鈍と冷間伸線を1回ずつあるいは複数回繰り返し行うことで表2−1〜表2−4に示す直径の線材を作製した。各サイズへの伸線前に、表2−1〜表2−4記載の中間焼鈍温度で中間焼鈍熱処理を行った。
(伸線条件2)
熱間鍛造、伸線加工で、直径2.0mmの粗線を得た。この粗線に対して、前記板材の場合と同様に、本発明の実施例では図4(a)、比較例では図4(b)にそれぞれ示した加工プロセスに従って、表2−1〜表2−4に示す種々の条件で中間焼鈍と冷間伸線を1回ずつあるいは複数回繰り返し行うことで表2−1〜表2−4に示す直径の線材を作製した。各サイズへの伸線前に、表2−1〜表2−4記載の中間焼鈍温度で中間焼鈍熱処理を行った。
中間焼鈍温度:表2−1〜表2−4に記載の通り
中間焼鈍→冷間伸線の加工サイクル数:表2−1〜表2−4に記載の通り
ここで、中間焼鈍条件と冷間伸線の加工率は、例えば、以下の通りとした。
1回目の中間焼鈍:前記中間焼鈍温度で30分
→1回目の冷間伸線:加工率47.4%(線径2.0mm→1.45mm)
→2回目の中間焼鈍:前記1回目と同じ中間焼鈍温度で30分
→2回目の冷間伸線:加工率46.1%(線径1.45mm→1.07mm)
→3回目の中間焼鈍:前記1回目及び2回目と同じ中間焼鈍温度で30分
→3回目の冷間伸線:加工率50.4%(線径1.07mm→0.75mm)
2回目、3回目の熱処理と加工は、行ったものと行わなかったものとがある。
また、上記2つの伸線条件から、加工率や線径を表2−1〜表2−4に記載の通りに適宜変更して、同様の加工工程を経て所望の線径の線材に加工した。
別に、熱処理での昇温[工程5−1]を30℃/分や90°C/分などの急昇温で行う以外は同様にして、表2−1〜表2−4に記載の比較例の板材と線材を得た。これらは、本発明で規定する所定の集合組織を有さないことをEBSDで確認した。
他の比較例として、表1−1、表1−2に記載の本発明で規定する範囲外の高含有量でNiを含有する銅合金材を用いて、同様にして表2−1〜表2−4に記載の線材を得た。これらは、焼き入れ後の超弾性特性が悪いことを確認した。
得られたCu−Al−Mn系合金線材について、前記板材と同様にして各種の特性を試験、評価した。
結果を表3−1〜表3−4に示す。
以上に示した結果から明らかなとおり、本発明例1〜66は、本発明で規定する集合組織配向を満たすことにより超弾性特性や伸びに優れる。
本発明例においては、(1)〈001〉方位からのずれ角度0°〜50°、(2)<001>方位からのずれ角度20°〜50°、(3)<101>方位からのずれ角度0°〜20°、(4)<101>方位からのずれ角度0°〜10°において、(1)→(2)→(3)→(4)の順に集積度が高まるほど効果が高く、良好な超弾性特性を示している。良好な組織を得るためには各々の条件においても適値が存在し、各々以下の結果が認められた。
熱処理中でβ相温度への昇温速度が緩やかなほど、<001>方位からのずれ角度20°〜50°において集積度が高くなっており、20℃/分に対し、5℃/分が効果的であり、0.2〜3.3℃/分において最も優れた効果が表れている。
中間焼鈍温度は低温側に適値が存在しており、450℃〜500℃において<101>方位からのずれ角度0°〜20°において集積度が高くなっており、最も良好な結果を示している。
冷間加工のサイクル数においては、サイクル数が多いほど<101>方位からのずれ角度0°〜10°において集積度が高くなっており、特に中間焼鈍温度450℃〜500℃においてその傾向が確認された。
合金組成においては、本発明例54〜56に対し本発明例51〜53が超弾性特性に優れており、Al含有量7〜9質量%において特に優れており、Mn含有量8〜13質量%において特に優れた結果となっている。
一方、比較例1は中間焼鈍温度が低すぎるために途中で断線してしまい、必要な加工率だけ冷間伸線できなかった。比較例2は、中間焼鈍温度が低すぎるため集合組織の配向を満たしていないため、超弾性特性や伸びが劣る。比較例3、4は合金成分に高すぎる含有量でNiを含有しているために、本発明で規定する集合組織配向を満たしているが焼き入れ感受性に劣っているため、α相の析出が確認され、超弾性特性も悪い。比較例5〜7、12〜20は熱処理時の昇温速度が速すぎるために、比較例8〜11は焼鈍間の冷間加工率が低すぎるために、比較例21〜23は中間焼鈍温度が高すぎるために、それぞれ本発明で規定する集合組織配向を満たすことができず、超弾性特性や伸びが劣る。

Claims (9)

  1. 3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMn、及び0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなり、超弾性特性を有し、実質的にβ単相からなる再結晶組織を有するCu−Al−Mn系合金材であって、電子背面散乱パターン測定法により加工方向で測定した結晶粒の70%以上が結晶方位<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の範囲内にあることを特徴とするCu−Al−Mn系合金材。
  2. 3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含有し、さらにCo、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタルからなる群より選ばれた1種又は2種以上を合計で0.001〜10質量%、並びに0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなり、超弾性特性を有し、実質的にβ単相からなる再結晶組織を有するCu−Al−Mn系合金材であって、電子背面散乱パターン測定法により加工方向で測定した結晶粒の70%以上が結晶方位<001>方位からのずれ角度が0°〜50°の範囲内にあることを特徴とするCu−Al−Mn系合金材。
  3. 請求項1又は2に記載のCu−Al−Mn系合金材において、さらに結晶粒の50%以上が加工方向で測定した結晶方位<101>方位からのずれ角度が0°〜20°の範囲内にあることを特徴とするCu−Al−Mn系合金材。
  4. 3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMn、及び0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなるCu−Al−Mn系合金材を下記[工程1]から[工程5]により製造する製造方法。
    [工程1]では上記組成を与える合金素材を溶解・鋳造し、[工程2]の熱間加工した後に、[工程3]の400〜600℃で1分〜120分の中間焼鈍と[工程4]の加工率30%以上の冷間加工とを少なくとも各1回以上この順に行い、その後、下記熱処理[工程5]を行う。
    [工程5]の前記熱処理は、室温からβ単相になる温度域まで0.2℃/分〜20℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に保持してなる熱処理と、その後の急冷の各工程である。
  5. 3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含有し、さらにCo、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタルからなる群より選ばれた1種又は2種以上を合計で0.001〜10質量%、並びに0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなるCu−Mn−Al系合金材を下記[工程1]から[工程5]により製造する製造方法。
    [工程1]では上記組成を与える合金素材を溶解・鋳造し、[工程2]の熱間加工した後に、[工程3]の400〜600℃で1分〜120分の中間焼鈍と[工程4]の加工率30%以上の冷間加工とを少なくとも各1回以上この順に行い、その後、下記熱処理[工程5]を行う。
    [工程5]の前記熱処理は、室温からβ単相になる温度域まで0.2℃/分〜20℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に保持してなる熱処理と、その後の急冷の各工程である。
  6. 請求項又はに記載のCu−Al−Mn系合金材からなる線材。
  7. 請求項又はに記載のCu−Al−Mn系合金材からなる板材。
  8. 3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMn、及び0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなるCu−Al−Mn系合金材を下記[工程1]から[工程5]により製造する製造方法で製造したCu−Al−Mn系合金材。
    [工程1]では上記組成を与える合金素材を溶解・鋳造し、[工程2]の熱間加工した後に、[工程3]の400〜600℃で1分〜120分の中間焼鈍と[工程4]の加工率30%以上の冷間加工とを少なくとも各1回以上この順に行い、その後、下記熱処理[工程5]を行う。
    [工程5]の前記熱処理は、室温からβ単相になる温度域まで0.2℃/分〜20℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に保持してなる熱処理と、その後の急冷の各工程である。
  9. 3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含有し、さらにCo、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタルからなる群より選ばれた1種又は2種以上を合計で0.001〜10質量%、並びに0〜1質量%のNiを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有してなるCu−Mn−Al系合金材を下記[工程1]から[工程5]により製造する製造方法で製造したCu−Al−Mn系合金材。
    [工程1]では上記組成を与える合金素材を溶解・鋳造し、[工程2]の熱間加工した後に、[工程3]の400〜600℃で1分〜120分の中間焼鈍と[工程4]の加工率30%以上の冷間加工とを少なくとも各1回以上この順に行い、その後、下記熱処理[工程5]を行う。
    [工程5]の前記熱処理は、室温からβ単相になる温度域まで0.2℃/分〜20℃/分の昇温速度で加熱して、該加熱温度に保持してなる熱処理と、その後の急冷の各工程である。
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