JP5561708B2 - 鳥インフルエンザウイルスのna亜型判定用プライマーセット - Google Patents

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Description

本発明は、鳥インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(NA)亜型(N1〜N9)判定用プライマーセット、および当該プライマーセットを用いた鳥インフルエンザウイルスのNA亜型の判定方法に関する。
1997年、香港でH5N1亜型の鳥インフルエンザウイルスに18名が感染し、6名が死亡した。また2005年以後、H5N1ウイルスはアジア、欧州、アフリカ諸国へと広がり、新型インフルエンザウイルスに変異する候補として全世界で大きな脅威となっている(非特許文献1、2)。感受性の高いハクチョウやアヒルは野生の水鳥感染の指標となる一方、H5N1ウイルスに対して耐性のある渡りカモは遠く離れた場所までウイルスを運ぶ可能性がある(非特許文献3、4)。従って、野生の水鳥におけるH5N1ウイルス感染流行の現況把握のために活発な調査が行われている(非特許文献1、5)。
国内でも、2004年、2007年にはH5N1ウイルスによって養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが発生した。また、2007年にはクマタカから、2008年にはハクチョウからH5N1ウイルスが分離され、野鳥がH5N1ウイルスを保有することが明らかとなり、2008年から環境省は都道府県と連携して野鳥調査を開始している。
鳥インフルエンザウイルスは野生の水鳥を自然宿主とするウイルスで、ウイルス粒子表面にヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれる2種類のスパイクタンパク質がある。鳥インフルエンザウイルスはこのHAとNAの抗原性状の違いによって、16種類のHA亜型(H1〜H16)と9種類のNA亜型(N1〜N9)に分類されている。鳥インフルエンザウイルスが検出された場合には、その性状を把握する上で、HA亜型とNA亜型を決定することが求められる。
これまで上記の9種類のNA亜型は、抗血清パネルを用いた血清学的検査(ノイラミニダーゼ抑制検査、NI検査)で判定するのが標準法となっている(非特許文献6、7)。しかしながら、NI検査には9種類の抗血清パネルが必要であり、その操作も煩雑で熟練を要する。また、検査に2日間も要し、迅速性に欠ける。このため、NA亜型を判定することはリファレンスラボラトリー以外ではほとんど行われておらず、このことが野鳥サーベイランスの障害となっている。従って、高精度でかつ迅速に、また一般の検査室でも利用可能なNA亜型を判定する方法が求められている。
一方、血清学的検査に代わって、PCR法による検査も開発されている。PCR法は、リファレンスラボラトリーでしか行えないNI検査とは異なって、一般的な検査室でも容易に利用可能である点で鳥インフルエンザウイルスの世界的サーベイランスをサポートすることが期待される。しかしながら、鳥インフルエンザウイルスのNA遺伝子は多様性に富んだ塩基配列となっており、このためにPCR法によりNA亜型を判定することは困難であると考えられてきた。これまでに報告されるPCR法によるNA亜型の判定は、限られた亜型のみを対象としたものが主流であったが(特許文献1、2など)、最近になって、全てのNA亜型を対象としてPCR法にて判定するためのプライマーセットの開発も報告されている。例えば、Alvarez et al.は、97%(32/33)の感度を有する全9種のNA亜型検出のためのユニバーサルプライマーセットを開発したが、PCR産物のシークエンシングがNAサブタイピングに必須であった(非特許文献8)。Qui et al.は、101の参照株または単離株を用いることによって、97.3%の感度と91.1%の特異性を有するNAサブタイピングのための9種のプライマーセットを開発した(非特許文献9)。また、Fereidouni et al.は、43の参照株と119の診断試料由来の全162のNA遺伝子を分析するためのNAサブタイピングPCRを開発した(非特許文献10)。しかしながら、これらはいずれも精度について必ずしも満足できるものではなく、PCR法による検査で陰性となっても鳥インフルエンザウイルスへの感染が否定されるわけではない。
WO2006/049061 特表2008-502362号
Alexander, D. J. 2007. Summary of avian influenza activity in Europe, Asia, Africa, and Australasia, 2002-2006. Avian Dis 51:161-6. Webster, R. G., M. Peiris, H. Chen, and Y. Guan. 2006. H5N1 outbreaks and enzootic influenza. Emerg Infect Dis 12:3-8. Brown, J. D., D. E. Stallknecht, J. R. Beck, D. L. Suarez, and D. E. Swayne. 2006. Susceptibility of North American ducks and gulls to H5N1 highly pathogenic avian influenza viruses. Emerg Infect Dis 12:1663-70. Brown, J. D., D. E. Stallknecht, and D. E. Swayne. 2008. Experimental infection of swans and geese with highly pathogenic avian influenza virus (H5N1) of Asian lineage. Emerg Infect Dis 14:136-42. Wallensten, A., V. J. Munster, N. Latorre-Margalef, M. Brytting, J. Elmberg, R. A. Fouchier, T. Fransson, P. D. Haemig, M. Karlsson, A. Lundkvist, A. D. Osterhaus, M. Stervander, J. Waldenstrom, and O. Bjorn. 2007. Surveillance of influenza A virus in migratory waterfowl in northern Europe. Emerg Infect Dis 13:404-11. Lamp, R. A., and R. M. Krug. 2001. Otrhomyxoviridae: the viruses and their replication, p. 1487-1532. In D. M. Knipe and R. M. Howley (ed.), Fields Virology, vol. 4th ed. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA. Swayne, D. E., and D. A. Halvorso. 2003. Influenza, p. 135-160. In Y. M. Saif, J. H. Barnes, J. R. Glisson, A. M. Fadly, L. R. McGougald, and D. E. Swayne (ed.), Diseases of Poultry, 11th ed. Iowa State Press, Ames, Iowa. Alvarez, A. C., M. E. Brunck, V. Boyd, R. Lai, E. Virtue, W. Chen, C. Bletchly, H. G. Heine, and R. Barnard. 2008. A broad spectrum, one-step reverse-transcription PCR amplification of the neuraminidase gene from multiple subtypes of influenza A virus. Virol J 5:77. Qiu, B. F., W. J. Liu, D. X. Peng, S. L. Hu, Y. H. Tang, and X. F. Liu. 2009. A reverse transcription-PCR for subtyping of the neuraminidase of avian influenza viruses. J Virol Methods 155:193-8. Fereidouni, S. R., E. Starick, C. Grund, A. Globig, T. C. Mettenleiter, M. Beer, and T. Harder. 2008. Rapid molecular subtyping by reverse transcription polymerase chain reaction of the neuraminidase gene of avian influenza A viruses. Vet Microbiol.
従って、本発明の課題は、高精度でかつ迅速に、一般の検査室でも利用可能な鳥インフルエンザウイルスのNA亜型の判定手段を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために、鳥インフルエンザウイルスの各NA亜型に特異的で、同一NA亜型内でよく保存されている部位にプライマーを複数設計し、その中から、NA亜型が既知の鳥インフルエンザ株を用いて亜型毎に検出率と特異性を比較して好適なプライマーセットを選抜し、さらに検出率と特異性を向上させるための改良を行った結果、全てのNA亜型を正しく判定することのできるプライマーセットを確立することに成功し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)以下の(A)〜(I)の鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定用プライマーセット。
(A) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN1亜型判定用プライマーセットN1
(B) 配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN2亜型判定用プライマーセットN2
(C) 配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN3亜型判定用プライマーセットN3
(D) 配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN4亜型判定用プライマーセットN4
(E) 配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN5亜型判定用プライマーセットN5
(F) 配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN6亜型判定用プライマーセットN6
(G) 配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN7亜型判定用プライマーセットN7
(H) 配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN8亜型判定用プライマーセットN8
(I) 配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号18に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN9亜型判定用プライマーセットN9
(2) 試料から得られた核酸を鋳型とし、(1)に記載のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析して、試料中の鳥インフルエンザウイルスのNA亜型を判定する方法。
(3) (1)に記載のプライマーセットを含む、鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定用キット。
本発明のプライマーセットによれば、鳥インフルエンザウイルスのNA亜型の検出および判定を高精度・迅速・簡便に行うことができる。本発明のプライマーセットに用いるPCRによる鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定(サブタイピング)は、従来の血清学的NI試験が2日間を要したのに比べて、4時間で行うことができ、非常に迅速である。また、高価な装置や熟練は要せず、しかも一般の検査室でも行うことができる。また、本発明のプライマーセットを用いれば、NAストーク領域に欠失を持つ家禽(ニワトリ、シチメンチョウ)に馴化したウイルスと、欠失がない野生カモ由来等との識別が可能となる。さらに、HA亜型判定と組み合わせることにより、鳥インフルエンザウイルスの全てのHA亜型およびNA亜型の同時判定も可能となる。
本発明のプライマーセットN1〜N9による鳥インフルエンザウイルス株(亜型N1〜N9)のNA遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す(各ウイルス株においてレーン1〜9は、それぞれプライマーセットN1〜N9によるPCR増幅産物の泳動である)。 本発明のプライマーセットN1〜N3の交差性試験の結果を表すグラフである。 本発明のプライマーセットを用いて得られたPCR増幅産物の電気泳動写真を示す(図中、44, 171, 265, 85, 115, 280, 26, 283株は家禽に馴化したウイルスを示す)。
本発明のプライマーセットは、鳥インフルエンザウイルスのNA亜型(N1〜N9)遺伝子をそれぞれ特異的かつ高感度に増幅することのできるオリゴヌクレオチドのペアから構成される9組のプライマーセットであって、鳥インフルエンザウイルスのNA亜型の判定を行うことができる。
本発明の鳥インフルエンザウイルスのNA亜型の判定用プライマーセットを構成するオリゴヌクレオチドは、NA遺伝子において多様性の認められる膜アンカーとストーク領域に、フォワードプライマーとリバースプライマーとして設計された20〜25塩基の連続したオリゴヌクレオチオドである。
上記プライマーを設計するにあたり、まず、鳥インフルエンザウイルスNA遺伝子の塩基配列情報を入手する。塩基配列情報は、データベース(Influenza Sequence Database (http://www.flu.lanl.gov)または論文より入手してもよく、また、直接的に塩基配列を解析して入手してもよい。上記のNA遺伝子において多様性の認められる膜アンカーとストーク領域の塩基配列は、入手した複数の塩基配列を整列(アラインメント)し、比較することにより特定することができる。塩基配列のアラインメントには、インターネットで公開されているアラインメントソフト(例えば、CLUSTALW、URL: http://www.ddbj.nig.ac.jp/)を利用することができる。
次に、特定した塩基配列に基づき、プライマーを設計する。プライマーの設計は、オリゴヌクレオチドの長さ、GC含量、Tm値、オリゴヌクレオチド間の相補性、オリゴヌクレオチド内の二次構造などを考慮して行うが、例えば、「PCR法最前線−基礎技術から応用まで」(蛋白質・核酸・酵素 臨時増刊号 1996年 共立出版株式会社)や、「バイオ実験イラストレイテッド3 本当にふえるPCR:細胞工学別紙 目で見る実験ノートシリーズ」(中山広樹著 株式会社秀潤社)、「PCRテクノロジー−DNA増幅の原理と応用−」(Henry A Erlich編、加藤邦之進 監修、宝酒造株式会社)等を参考にすればよい。
具体的に採用した設計基準は以下のとおりである。
(i) 鳥インフルエンザウイルスの9種のNA亜型遺伝子の増幅産物を電気泳動した場合に増幅産物が明確に検出されること。
(ii) PCR増幅産物が130〜290bpであること。
(iii) プライマーの3’側の塩基配列とテンプレートDNA配列との相同性が高いこと。
(iv)プライマー長は20〜30bp の範囲とし、Tm値は50〜55℃間で設定すること。
(v) プライマーはダイマーや立体構造を形成しないこと。
上記基準に基づき、本発明のインフルエンザウイルスのNA亜型の判定用プライマーセットとして次の9組のプライマーセットN1〜N9を確立した。
(プライマーセットN1)
フォワード:5'-TCARTCTGYATGRYAAYTGG-3' (配列番号1)
リバース:5'-GGRCARAGAGAKGAATTGCC-3' (配列番号2)
(プライマーセットN2)
フォワード:5'-TYTCTMTAACYATTGCRWCARTATG-3' (配列番号3)
リバース:5'-GARTTGTCYTTRGARAAVGG-3' (配列番号4)
(プライマーセットN3)
フォワード:5'-GCCCTTCTYATYGGRRTKGGRAA-3' (配列番号5)
リバース:5'-ACTATDRCRTCYTTGTTYTC-3' (配列番号6)
(プライマーセットN4)
フォワード:5'-AGTGYKAGYATTRTAYTRAC-3' (配列番号7)
リバース:5'-ARGTCTYTYCCACTRGARTA-3' (配列番号8)
(プライマーセットN5)
フォワード:5'-GARTAATATCAGYRACVAAAG-3' (配列番号9)
リバース:5'-GATACATYRCAGAGAGGTTC-3' (配列番号10)
(プライマーセットN6)
フォワード:5'-AGGAATGACACTATCSGTAGTAAG-3'(配列番号11)
リバース:5'-GAYAGRATRTGCCATGAGTTYAC-3' (配列番号12)
(プライマーセットN7)
フォワード:5'-TCWGGAGTGGCMATAGCACT-3' (配列番号13)
リバース:5'-CACKACCCAYCCTTCAACWTTG-3' (配列番号14)
(プライマーセットN8)
フォワード:5'-CATRTVGTBAGYATYAYARTAAC-3' (配列番号15)
リバース:5'-ACAYTRGYATTGTRCCATTG-3' (配列番号16)
(プライマーセットN9)
フォワード:5'-GTAATAGGCACRATYGCAGT-3' (配列番号17)
リバース:5'-CCTTTRGTYARRTTATTGAA-3' (配列番号18)
上記プライマーセットN1〜N9は、それぞれ鳥インフルエンザウイルスのNA亜型のN1〜N9を判定できる。配列番号1〜18に示される塩基配列において、Bは CまたはGまたはT;DはAまたはGまたはT;KはGまたはT;MはAまたはC;R はAまたはG;VはAまたはCまたはG;W はAまたはT;YはCまたはT;SはCまたはGを表す。従って、上記プライマーセットN1〜N9を構成する各フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、その塩基配列のB, D, K, M, R, V, W, Y, Sの位置にそれぞれ指定された2種または3種の塩基を同時に含んでいる縮重プライマーである。縮重プライマー中の各プライマーの割合はいかなる割合でもよいが、全種類のプライマーが等量で存在することが好ましい。
上記プライマーセットN1〜N9の各オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置(例えば、Applied Biosystems社製Model 394など)を利用して合成することが可能である。
本発明のプライマーセットを用いて試料中の鳥インフルエンザウイルスのNA亜型を判定する方法は、試料からRNAを抽出し、逆転写反応により合成したcDNAを鋳型とし、上記プライマーセットN1〜N9を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、NA遺伝子を増幅させる工程と、該PCRにより得られた増幅断片長を解析する工程を含む。
上記プライマーセットN1〜N9は、判定すべきNA亜型の種類や数、判定の目的によって、全てを用いる必要はなく、セットN1〜N9の1種または複数種を適宜組み合わせて用いてもよい。
試料としては、インフルエンザウイルスに感染していると疑われるヒトまたはヒト以外の動物から得られた生体由来の試料(血液試料、組織試料、生検、スメア等)を用いる。当該生体由来の試料として、具体的には、喀痰、鼻汁、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、気管支肺胞洗浄液、うがい液、唾液、血液、血清、血漿、髄液、尿、糞便、組織などが挙げられる。また、感染実験などに用いられた細胞やその培養液、あるいは生体由来の検体や培養細胞などから分離したウイルスを含む検体なども試料となる。これらの試料は分離、抽出、濃縮、精製などの前処理を行ってもよい。
試料からRNAを抽出する方法は当該技術分野で公知の方法、例えば、グアニジンイソチオシアネート、フェノールおよびクロロホルムを用いたRNA抽出法を用いることができる。あるいは市販のRNA抽出試薬を用いてもよい。
RNAを鋳型としてcDNAを合成する方法も当該技術分野においてよく知られている。プライマーとしては市販のランダムプライマーを用い、dNTPsの存在下で、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。逆転写酵素としては、例えば、SuperScriptII(Invitrogen社製)、Thermoscript RT、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、等を用いることができる。
次に、合成したcDNAを鋳型として、本発明のプライマーセットの1種または複数種を用いて、PCR増幅を行う。PCR増幅は上記のプライマーセットを用いる以外は特に制限はなく、常法に従って行えばよい。具体的には、鋳型DNAの変性、プライマーへの鋳型へのアニーリング、および耐熱性酵素(TaqポリメラーゼやThermus themophilis由来のTth DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ)を用いたプライマーの伸長反応を含むサイクルを繰り返すことにより、各NA亜型特異的領域の塩基配列を含む断片を増幅させる。PCR反応液の組成、PCR反応条件(温度サイクル、サイクルの回数等)は、上記のプライマーセットを用いたPCRにおいて高感度でPCR増幅産物が得られるような条件を予備実験等により当業者であれば適切に選択および設定することができる。プライマーのTmに基づいて適当なPCR反応条件を選択する方法は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、最初に94℃で2分間の変性反応、次に94℃で1分間、45℃で1分間、72℃で3分間を1サイクルとして30サイクル、最後に72℃で5分間の伸長反応により実施することができる。このようなPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。PCR装置は、例えば、GeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems社製)、GeneAmp PCR System 9600(Applied Biosystems社製)などが使用できる。また、PCR増幅産物の検出を容易にするために、標識物質をつけたオリゴヌクレオチドを用いてPCRを行うことができる。標識物質としては、当該技術分野においてよく知られる蛍光物質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等を用いることができる。
PCR増幅産物の検出は、アガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動などの慣用の電気泳動、DNAハイブリダイゼーションやリアルタイムPCR等の方法を用いて確認する。例えば、アガロースゲル電気泳動では、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出し、その大きさに基づいて鳥インフルエンザウイルスのNA亜型を判定する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いて当該PCRを行い、増幅産物を検出することもできる。また、DNAハイブリダイゼーションでは、マイクロアレイなどの固定化担体に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応等により増幅産物を確認する。検出用の固定化担体は、検出すべき鳥インフルエンザウイルスNA遺伝子の配列とハイブリダイズしうる配列を有するDNA断片が固定化されている支持体である。支持体としては、例えば、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、ガラス、シリコンチップなどを用いることができる。
上記プライマーセットはキット化することもできる。本発明のキットは、上記の9組のプライマーセットN1〜N9を含むものであればよく、判定すべきNA亜型の種類や数、判定の目的によって、これらのプライマーセットの中から適当なセットを適宜選択して用いればよい。本発明のキットには、必要に応じて、RNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、反応の陽性コントロールとなるPCR増幅領域を含むDNA溶液、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)本発明のプライマーセットによる鳥インフルエンザウイルスのNA亜型の判定
(1) プライマーセットの確立
全部で263のNA遺伝子の完全なヌクレオチド配列(Lamp, R. A., and R. M. Krug. 2001. Otrhomyxoviridae: the viruses and their replication, p. 1487-1532. In D. M. Knipe and R. M. Howley (ed.), Fields Virology, vol. 4th ed. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA.)をInfluenza Sequence Database (http://www.flu.lanl.gov)(Macken, C., H. Lu, J. Goodman, and L. Boykin. 2001. The value of a database in surveillance and vaccine selection. Elsevier Science, Amsterdam.)よりダウンロードした。それらのヌクレオチド配列の比較によれば、膜アンカーとストーク領域がかなりの多様性を有していた。従って、この多様性は異なる株を区別するのに利用できると考えた。そこで、各NA亜型に対し、膜アンカー (ヌクレオチド53〜115)に相補的であるフォワードプライマー、および、ヘッド領域(ヌクレオチド209〜365)の5’末端へのストークをコードする領域に相補的なリバースプライマーを、候補プライマーとして複数設計した。
これまでに単離された(1946 年から2006年3月までに単離) NA亜型が既知の鳥インフルエンザウイルス118株について、上記で設計した複数の候補プライマーを用いてNA亜型を判定し、各NA亜型特異的なプライマーを一次選抜した。さらに、一次選抜をしたプライマーを用いても検出されなかった41のNA遺伝子の配列データを用いてさらにプライマーを改良した。41のNA遺伝子配列データはGenBank (AB472013〜AB472040, AB472051〜AB472063)に登録されたものである。
上記鳥インフルエンザウイルス118株はダック由来82株、ニワトリ由来16株、シチメンチョウ由来7株、および他の鳥由来13株であった。またこの118株のうち76株は日本株、42株は外国株(韓国、タイ、イタリア、オランダ、米国、およびチリ)であり、92のユーラシアのNA遺伝子系統と26のアメリカのNA遺伝子系統とから構成されていた。
ウイルス株からのRNA抽出、cDNA合成、PCR増幅の手法および条件は、文献(Tsukamoto, K., H. Ashizawa, K. Nakanishi, N. Kaji, K. Suzuki, M. Okamatsu, S. Yamaguchi, and M. Mase. 2008. Subtyping of H1 to H15 Hemagglutinin Genes of Avian Influenza Virus by RT-PCR Assay and Molecular Determination of the Pathogenic Potential. J Clin Microbiol 46:3048-3055.)に従った。
各ウイルス株を鶏孵化卵で1〜4日間培養し、漿尿液を使用時まで-80℃にて凍結した。ウイルスRNAは、融解した漿尿液250μlからトリアゾール液(Invitrogen, Carlsbad, CA)750μlによって製造業者の指示に従い抽出した。抽出したウイルスRNAを水20μl中に再懸濁し、ランダムプライマー(6-mer)4μlと混合した後、95℃にて2分間加熱し、氷上で急冷した。RNA-プライマー混合物を50μl反応容量で用い、当該混合物を30℃にて10分間、続いて42℃にて1時間、70℃にて15分間インキュベートし、PrimeScript reverse transcriptase (Takara, Shiga, Japan)にてcDNA 合成を行った。cDNAの合成はヌクレオプロテイン(NP)遺伝子のPCR増幅によって確認した。
PCR増幅はGeneAmp PCR System 9700 (ABI, Foster City, CA)およびEx Taq ポリメラーゼ (Takara, Shiga, Japan)を用いて行った。PCR反応液組成および条件は下記のとおりである。反応後、PCR増幅産物2μlを2.0%アガロースゲル電気泳動にて解析した。
(PCR反応液組成:1反応つき10μl)
cDNA 1μl
各プライマー 0.5μl (各20pmol)
ExTaq(Takara)を混合した20mM Tris-HCl(pH8.0)緩衝液(50mM KCl, 2mM MgCl2, 0.2mM dNTPs含有) 5μl
蒸留水3.0μl
(PCR条件)
最初に94℃で1分の熱変性、次いで94℃で30秒の熱変性、50℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計35サイクルを行い、最後に72℃で7分の伸長。
PCR解析結果から、下記表1に示す配列(各欄の上の配列はフォワードプライマー、下の配列はリバースプライマー)を有するプライマー対をNA亜型ごとに最終的に決定し、それらのプライマー対から構成されるプライマーセットN1〜N9とした。
Figure 0005561708
(2) プライマーセットによる鳥インフルエンザウイルスのNA亜型の判定
(1)で確立したプライマーセットN1〜N9による鳥インフルエンザウイルスのNA亜型の検出率を、前記の鳥インフルエンザウイルス118株を用いて調べた。ウイルスRNAの抽出およびcDNA合成、PCR反応液組成および条件は前記のとおりである。その結果、118株全てのNA遺伝子がPCR増幅された(N1は12遺伝子、N2は32遺伝子、N3は20遺伝子、N4は6遺伝子、N5は12遺伝子、N6は17遺伝子、N7は3遺伝子、N8は5遺伝子、N9は11遺伝子)。
NA亜型特異性は、同プライマーセットおよびABI-3100 sequencer (PE ABI, Foster City, CA)を用いた全118のPCR増幅産物の配列解析にて確認した。まず、PCR増幅産物20μlをQIAquick PCR purification kit (Qiagen, Inc., Valencia, CA)にて精製し、その精製DNA断片(溶出液30μl)を同プライマーセットのフォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いる配列解析に供した(反応条件:94℃で1分の熱変性、96℃で10秒の熱変性、50℃で5秒のアニーリング、60℃で4分の伸長を1サイクルとして計25サイクル)。ヌクレオチドシークエンス反応混合物(一反応につき20μl)は精製産物13μl、プライマー1μl(20 pmol)、BigDye Terminator v3.1 (Cycle Sequencing Kit; ABI, Foster City, CA)4μl、5×緩衝液2μlを含有する。PCR増幅産物はSephadex G-50 カラムにて精製し、配列決定した(ABI-3100; PE ABI, Foster City, CA)。配列情報はNCBI データベースを用いてBLAST サーチ解析に供した。
前述の検出されなかった1つのN2遺伝子は、全長ゲノム解析ではアメリカ系統に属することが判明した。また、9種の鳥インフルエンザウイルス株(N1〜N9 各亜型あたり1株)を鶏孵化卵で培養し得られた漿尿液の10倍希釈液を用いて、PCR感度を感染価(50% 胚感染用量(EID50))に対して比較した。その結果、本PCR反応の検出限界は102.5〜104.5 EID50であった。
(実施例2)本発明のプライマーセットを用いたPCRによる鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定の有効性検証
本発明のプライマーセットを用いたPCRによる鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定(サブタイピング)の有効性を、167株の鳥インフルエンザウイルス(2006/2007年および2007/2008年に日本に越冬回避したカモから単離された163株の低病原性(LP)鳥インフルエンザウイルス、および、2007年に日本でニワトリから単離された4株のH5N1高病原性(HP)鳥インフルエンザウイルス)で評価した。結果の一例として、プライマーセットN1〜N9による9種の鳥インフルエンザウイルスのNA亜型 (各NA亜型につき1株)のPCR増幅産物のアガロース電気泳動図を示す。
評価した全167株の鳥インフルエンザウイルスは、そのNA遺伝子のPCR増幅産物断片長から、そのNA亜型をうまくサブタイピングできた(N1は18遺伝子、N2は40遺伝子、N3は24遺伝子、N4は9遺伝子、N5は10遺伝子、N6は15遺伝子、N7は7遺伝子、N8は23遺伝子、N9は21遺伝子)。また、それぞれのPCR増幅産物のヌクレオチド配列解析によってNA亜型特異性を確認した。
実施例1と実施例2の結果をまとめると、本発明のプライマーセットを用いたPCRによる鳥インフルエンザウイルスのN1〜N9遺伝子の検出率は100% (285株/285株)と高感度であり、かつPCR増幅産物の配列を解析によって高特異性(100%, 285株/285株)であることが確認できた。評価した計285株は、参照株59株と最近の野生カモ由来の226株から構成されており、これらの野生カモ由来株は、日本において3年間に5つの県で単離され、そして種々の亜型と分子的に多様なウイルスから構成されているので、代表的なユーラシア系統であると考えられる。
(実施例3)本発明のプライマーセットの交差反応性
本発明のプライマーセット(N1〜N3)の交差反応性を鳥インフルエンザウイルス株45株(1亜型あたり5株×9亜型)で試験した。その結果、いずれのプライマーセットも異なる亜型のNA遺伝子は増幅しなかった(図2参照)。かすかな、スメアな、またはサイズの異なるPCR産物がときには検出されたものの、それらはアガロースゲル電気泳動上でサイズまたは強度によって亜型特異的産物と区別された。
また、本発明のプライマーセットを利用すれば、家禽(ニワトリやシチメンチョウなど)へ馴化したウイルスと、野生のカモ由来ウイルスをある程度識別することもできる。Chicken/Korea/ES/2004 (H5N1)およびTurkey/Italy/4580/99 (H7N1)などは、NA遺伝子のストーク部分に遺伝子の欠失があるために、PCR増幅産物が野生カモ由来株よりも小さい(図3)。この欠失は陸生鳥類に馴化したウイルスの指標の一つで、家禽馴化ウイルスなどに多く認められる。
本発明は鳥インフルエンザウイルスの臨床診断薬やキットの製造分野に利用できる。

Claims (3)

  1. 以下の(A)〜(I)のプライマーセットのすべてを含む鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定用プライマーセット
    (A) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基
    配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN1亜型
    判定用プライマーセットN1
    (B) 配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基
    配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN2亜型
    判定用プライマーセットN2
    (C) 配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基
    配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN3亜型
    判定用プライマーセットN3
    (D) 配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基
    配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN4亜型
    判定用プライマーセットN4
    (E) 配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号10に示す塩
    基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN5亜
    型判定用プライマーセットN5
    (F) 配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号12に示す
    塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN6
    亜型判定用プライマーセットN6
    (G) 配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号14に示す
    塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN7
    亜型判定用プライマーセットN7
    (H) 配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号16に示す
    塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN8
    亜型判定用プライマーセットN8
    (I) 配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号18に示す
    塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成される鳥インフルエンザウイルスのN9
    亜型判定用プライマーセットN9
  2. 試料から得られた核酸を鋳型とし、請求項1に記載の鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定用プライマーセットのすべてを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析して、試料中の鳥インフルエンザウイルスのNA亜型を判定する方法。
  3. 請求項1に記載の鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定用プライマーセットのすべてを含む鳥インフルエンザウイルスのNA亜型判定用キット。
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