以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態に係る射出成形歯車は、径方向外側に形成された歯部を有するリムと、前記リムの径方向内側に同心円状に配置されたボスと、前記リムの内周部及び前記ボスの外周部に接続し、且つ前記ボスの径方向外側に同心円状に配置されたウェブと、を有する射出成形歯車であって、前記ウェブの厚さに対する前記リムの高さの比率が3以上であり、及び前記リムの高さは10mm以上100mm以下であり、並びに非繊維強化樹脂として、メルトフローレート(MFR)が1.5g/10分〜8.0g/10分であるポリアセタールホモポリマーを射出成形してなる。
[射出成形歯車の構成]
図1は、本実施の形態に係る射出成形歯車を示す概略図である。このうち、図1Aは、本実施の形態に係る射出成形歯車の垂直方向の断面を示した概略図である。図1Bは、本実施の形態に係る射出成形歯車の水平方向の断面を示した概略図(射出成形歯車の正面図)である。なお、図1A及び図1Bは、いずれも前記射出成形歯車の構成の一例を示した図であって、本実施の形態に係る射出成形歯車の具体的構成はこれらの図に制限されない。
前記射出成形歯車は、非繊維強化樹脂としてのポリアセタールホモポリマーを射出成形することにより得られる。ここで、本発明に係る射出成形歯車は、繊維強化した材料ではなく非繊維強化の材料を使用する。その理由は、本発明におけるポリアセタールホモポリマーの特徴である自己潤滑性の損失(表面平滑性の低下が原因)を防止できるためである。特に、ポリアセタールホモポリマーをギア等に用いる場合、非繊維強化樹脂を使用することは、精度及び摺動性の低下を効果的に抑制できるため、好適である。
図1Bを見ると、射出成形歯車は、径方向外側に形成された歯部(歯を含む部分)Gを有するリムFと、リムFの径方向内側に同心円状に配置されたボスCと、前記リムの内周部及び前記ボスの外周部に接続し、且つボスCの径方向外側に同心円状に配置されたウェブDとを備えている。ここで、リブEは、ウェブDの同心円上に、不連続に配置されている。なお、射出成形歯車の中心(ボスCの内側)には軸穴Hが形成されており、反対に、射出成形歯車の最外周(リムFの外側)には歯部Gが形成されている。
図1Aに示したように、本実施の形態に係る射出成形歯車において、ウェブ厚さeに対するリムの高さfの比率(f/e)が3以上である。本実施の形態に係る射出成形歯車、即ち、非繊維強化樹脂であるポリアセタールホモポリマーを射出成形することにより得られる、f/eが3以上である射出成形歯車の場合、同じ形状を有するガラス繊維を含んだポリアミド樹脂などからなる射出成形歯車と比較して、アニール前後での作動耐久性及び静音性に有意に優れる。また、上記f/eは、好ましくは4以上であり、より好ましくは5〜10である。
リムの高さfは、ウェブ厚さeが2〜10mmの時にf/eが5〜10になるという観点から、10mm以上100mm以下であり、好ましくは15mm以上50mm以下、より好ましくは20mm以上40mm以下である。
[非繊維強化樹脂材料及びその調製方法]
本実施の形態における「非繊維強化樹脂材料」とは、ポリアセタールホモポリマーからなる材料であってもよいし、後述するように、ポリアセタールホモポリマーとその他の成分とを含むポリアセタール樹脂組成物であってもよい。
<ポリアセタールホモポリマー>
(モノマー原料)
主原料としてのモノマー(主モノマー)であるホルムアルデヒドとしては、安定した分子量の樹脂を継続的に得るという観点から、精製され、不純物濃度が低く、且つ安定したホルムアルデヒドガスを用いることが好ましい。ホルムアルデヒドの精製方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、特公平5−32374号公報及び特表2001−521916号公報に開示された方法を利用することができる。
上記ホルムアルデヒドガスとしては、水、メタノールや蟻酸など、重合反応中に重合が停止したり連鎖移動作用を有するような不純物を極力含まないものを用いることが好ましい。かかる不純物を極力含まないホルムアルデヒドガスを用いた場合、予期せぬ連鎖移動反応を効果的に防止でき、目的とする分子量を有する物質が一層得られやすくなる。中でも、水についていえば、目的とする分子量を有する物質を一層得られやすくする観点から、100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。
(重合方法)
本実施の形態における非繊維強化樹脂としてのポリアセタールホモポリマーとは、オキシメチレン基を主鎖に有し、ポリマー連鎖の両末端がエステル基又はエーテル基により封鎖されたポリマーを表す。本実施の形態におけるポリアセタールの重合は、公知のスラリー重合法を用いて実施することができる。例えば、特公昭47−6420号公報及び特公昭47−10059号公報に開示された重合法を利用することができる。そして、かかる重合法を用いることにより、不安定な末端部を有する粗ポリアセタールホモポリマーが得られる。前記粗ポリアセタールホモポリマーに対して、後述の末端安定化処理を実施することが好ましい。
(ポリアセタールホモポリマー)
本実施の形態におけるポリアセタールホモポリマーは、そのメルトフローレート(MFR)が1.5〜8.0g/10分である。MFRが1.5g/10分以上の場合、成形品の生産を一層安定させることができ、これにより作動耐久性を維持することが顕著に容易となり得る。一方、MFRが8.0g/10分以下の場合、安定した成形品が得られると共に、作動耐久性を一層容易に維持することができる。なお、本明細書におけるMFRの測定方法は、後記の実施例に記載された方法を採用する。
また、ポリアセタールホモポリマーのMFRは、高温時の大きな負荷によるクリープ変形を抑制する観点から、好ましくは1.5〜3.0g/10分である。
<ポリアセタール樹脂組成物及びその調製方法>
(連鎖移動剤)
前記連鎖移動剤としては、一般に、アルコール類や酸無水物が用いられる。また、ブロックポリマーや分岐ポリマーを得るために、ポリオール、ポリエーテルポリオールやポリエーテルポリオール・アルキレンオキサイドを用いてもよい。また、連鎖移動剤についても、上述したように、予期せぬ連鎖移動反応を効果的に防止する観点から、不純物を極力含まないものを用いることが好ましい。中でも、水についていえば、2,000ppm以下であることが好ましく、1,000ppm以下であることがより好ましい。
これらの不純物が非常に少ない連鎖移動剤を得る方法としては、以下に制限されないが、例えば、汎用的であって水分含有量が規定値を超える連鎖移動剤を入手し、これを乾燥窒素でバブリングし、活性炭やゼオライト等の吸着剤により不純物を除去し、精製する方法が挙げられる。なお、連鎖移動剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(重合触媒)
重合反応に使用する重合触媒、即ちオニウム塩系重合触媒は、下記式(1)で表される。
[R1R2R3R4M+]X− ・・・・・(1)
上記式中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立してアルキル基であり、Mは孤立電子対を有する元素であり、Xは求核性基である。
上記式(1)で表されるオニウム塩系重合触媒の中でも、重合触媒として高い重合効率を達成できるため、触媒量を軽減させることが可能になるという観点から、第4級アンモニウム塩系化合物又は第4級ホスホニウム塩系化合物が好ましく、テトラメチルアンモニウムブロミド、ジメチルジステアリルアンモニウムアセテート、テトラエチルホスホニウムヨージド及びトリブチルエチルホスホニウムヨージドがより好ましい。
(反応器)
重合に用いられる反応器は、以下に制限されないが、例えば、バッチ式の攪拌機付き反応槽、連続式のコニーダー、二軸スクリュー式連続押し出し混練機、及び二軸パドル型連続混合機が挙げられる。これらの反応器の胴の外周は、反応混合物を加熱及び冷却できる構造を有することが好ましい。
(末端安定化処理)
上記した粗ポリアセタール樹脂の末端安定化処理のうち、エーテル基で封鎖する方法としては、以下に制限されないが、例えば、特公昭63−452公報に記載の方法が挙げられる。また、アセチル基で封鎖する方法としては、以下に制限されないが、例えば、大量の酸無水物を用いてスラリー状態で行うという米国特許第3,459,709号明細書に記載の方法、及び酸無水物のガスを用いて気相で行うという米国特許第3,172,736号明細書に記載の方法が挙げられる。上記のエーテル基で封鎖する方法において用いられるエーテル化剤としては、以下に制限されないが、例えば、オルトエステルが挙げられる。一例として、脂肪族又は芳香族酸と、脂肪族、脂環式族又は芳香族アルコールとのオルトエステルが挙げられる。かかるオルトエステルの具体例として、メチルオルトホルメート、エチルオルトホルメート、メチルオルトアセテート、エチルオルトアセテート、メチルオルトベンゾエート、エチルオルトベンゾエート、及びエチルオルトカーボネート等のオルトカーボネートが挙げられる。
エーテル化反応は、以下に制限されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、酢酸及び臭化水素酸などの中強度有機酸、並びにジメチルスルフェート及びジエチルスルフェート等の中強度鉱酸などのルイス酸触媒を、エーテル化剤1重量部に対して0.001〜0.02重量部導入して行うことができる。エーテル化反応に用いられる溶媒としては、以下に制限されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン及びベンゼン等の低沸点の脂肪族、脂環式族及び芳香族の炭化水素、並びに塩化メチレン、クロロホルム及び四塩化炭素などのハロゲン化低級脂肪族化合物などの有機溶媒が挙げられる。
一方、ポリマーの末端をエステル基で封鎖する場合、エステル化に用いられる有機酸無水物として、以下に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される有機酸無水物が挙げられる。
R5COOCOR6 ・・・・・(2)
上記式中、R5及びR6は、各々独立してアルキル基を示す。R5及びR6は、同じであっても異なっていてもよい。
上記式(2)で表される有機酸無水物の中でも、無水プロピオン酸、無水安息香酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸及び無水フタル酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。有機酸無水物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、気相にてエステル基で封鎖を行う方法としては、以下に制限されないが、オニウム塩系重合触媒を除去した後に末端封鎖を行うという特開平11−92542号公報に記載の方法が好ましい。なぜなら、ポリマー樹脂におけるオニウム塩系重合触媒が極力残留しないように除去することにより、末端封鎖する際に、オニウム塩系重合触媒によるポリマーの分解反応の促進を効果的に抑制でき、安定化反応におけるポリマー収率を顕著に向上できると共に、ポリマーの着色を効果的に防止することもできるためである。
ポリマーの末端をエーテル基及び/又はエステル基で封鎖することにより、末端の水酸基の濃度が5×10−7mol/g以下に低減されることが好ましい。より好ましくは、末端の水酸基の濃度が0.5×10−7mol/g以下である。
(結晶核生成無機粒子)
前記ポリアセタール樹脂組成物は、結晶核生成無機粒子を含んでもよい。
前記結晶核生成無機粒子は、以下に制限されないが、例えば、タルク、シリカ、石英粉末、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、葉ロウ石、クレー、珪藻土及びウォラストナイト等の珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン及びアルミナ等の金属酸化物、硫酸カルシウム及び硫酸バリウム等の金属硫酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及びドロマイト等の炭酸塩、並びに炭化珪素、窒化硅素、窒化ホウ素及び各種金属粉末など、ポリアセタールホモポリマーにおいて通常知られている結晶核生成無機物の細分化された固体が挙げられる。これらの結晶核生成無機粒子の中でも、ポリアセタールホモポリマーの結晶化核剤として
結晶化速度を向上させ、結果的に機械特性(機械的強度など)を向上させる観点、及びポリアセタールホモポリマーの熱安定性の損失を防止する観点から、タルク又は窒化ホウ素の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
前記結晶核生成無機粒子は、ポリアセタール樹脂組成物に対して、10〜90ppmを含む。結晶核生成無機粒子を定量するには、例えば、ポリアセタールホモポリマーを含有する樹脂組成物を塩酸などで加水分解し定量する方法や、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により金属成分を定量する方法が挙げられる。ここで、本明細書における濃度(ppm)の測定としては、上記した塩酸で加水分解し定量する方法を採用する。
前記結晶核生成無機粒子の平均粒径は、ポリアセタールホモポリマーと混合した際に良好な結晶核を形成し、強度及び耐久性向上に寄与するという観点から、0.1〜10.0μmであり、好ましくは0.5〜5.0μmである。平均粒径は、公知の方法により測定を行うことができ、例えば、得られた樹脂製機構部品を切り出して顕微鏡法(偏光顕微鏡やSEM−EDX)により測定する方法が挙げられる。ここで、本明細書における平均粒径の測定としては、後記の実施例に記載の方法を採用する。
(表面処理剤)
上記の結晶核生成無機粒子を添加する場合、本実施の形態におけるポリアセタールホモポリマーとの親和性及び分散性を一層向上させるために、公知の表面処理剤を用いてもよい。かかる表面処理剤としては、以下に制限されないが、例えば、アミノシラン及びエポキシシラン等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸)、脂環族カルボン酸、樹脂酸、並びに金属石鹸が挙げられる。前記表面処理剤の添加量としては、物性や熱安定性の低下を抑制する観点から、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは実質的に添加されていないことである。
(仕上げ工程)
上記の末端安定化処理を行ったポリマー粉末は、乾燥後、一般的には、ハンドリングを向上させる目的で、押出機を用いてペレタイズする。ポリアセタールホモポリマーと結晶核生成無機粒子とを、ヘンシェルミキサー、タンブラーやV字型ブレンダー等で混合した後、1軸又は多軸の混錬押出機などを用いて溶融混錬することにより、本実施の形態におけるポリアセタール樹脂組成物(即ち、非繊維強化樹脂材料)が得られる。中でも、減圧装置を備えた2軸押出機が好ましい。また、予め混合することなく、定量フィーダー等を使用し、結晶核生成無機粒子を一括に又は分割して、押出機に連続的にフィードすることにより、前記ポリアセタール樹脂組成物を製造することもできる。また、予め、ポリアセタールホモポリマーとその他の成分(以下、「添加剤」という)とからなる高濃度のマスターバッチを作製しておき、押出溶融混練時又は成形時に、このマスターバッチをポリアセタールホモポリマーに添加することによって、ポリアセタール樹脂組成物を得ることもできる。
(その他の添加剤)
その他の添加剤として、本発明の目的を損なわない範囲において、通常のポリアセタールホモポリマーに添加可能な公知の添加剤を、必要に応じて配合してもよい。前記添加剤として、以下に制限されないが、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、耐候(光)安定剤、離型剤・潤滑剤、導電材・帯電防止剤、熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマー、及び顔料が挙げられる。添加方法としては、上記の結晶核生成無機粒子の場合と同様、ポリアセタールホモポリマーとその他の添加剤とを、ヘンシェルミキサー、タンブラーやV字型ブレンダー等で混合した後、1軸又は多軸混錬押出機などを用いて溶融混錬することにより、ポリアセタール樹脂組成物が得られる。中でも、減圧装置を備えた2軸押出機が好ましい。また、予め混合することなく、定量フィーダー等を使用し、各成分を1種単独又は数種まとめて、押出機に連続的にフィードすることによりポリアセタール樹脂組成物を得てもよい。また、高濃度のマスターバッチを作製しておき、押出溶融混練時又は成形時に、このマスターバッチをポリアセタールホモポリマーで希釈することによっても、ポリアセタール樹脂組成物が得られる。
以下では、上記した熱安定剤及び酸化防止剤について詳細に説明する。
本実施の形態におけるポリアセタールホモポリマーを含有するポリアセタール樹脂組成物には、熱安定剤及び酸化防止剤が含まれることが好ましい。前記熱安定剤としてはホルムアルデヒド反応性窒素を含むものが好ましい。また、前記酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系のものが好ましい。
上記のホルムアルデヒド反応性窒素を含む熱安定剤としては、以下に制限されないが、例えば、ナイロン4−6、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン6−12及びナイロン12等のポリアミド樹脂、並びにこれらのポリマー(例えば、ナイロン6/6−6/6−10、及びナイロン6/6−12等)が挙げられる。また、その他に、アクリルアミド及びその誘導体、又はアクリルアミド及びその誘導体と、他のビニルモノマーとのコポリマーが挙げられる。かかるコポリマーとして、以下に制限されないが、例えば、アクリルアミド及びその誘導体と他のビニルモノマーとを金属アルコラートの存在下で重合して得られたポリ−β−アラニンコポリマーが挙げられる。さらに、その他に、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの付加物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、及びイミド化合物なども挙げられる。
前記アミド化合物の具体例としては、以下に制限されないが、イソフタル酸ジアミド等の多価カルボン酸アミド、及びアントラニルアミドが挙げられる。前記アミノ置換トリアジン化合物の具体例としては、以下に制限されないが、2,4−ジアミノ−sym−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−sym−トリアジン、N−ブチルメラミン、N−フェニルメラミン、N,N−ジフェニルメラミン、N,N−ジアリルメラミン、ベンゾグアナミン(2,4−ジアミノ−6−フェニル−sym−トリアジン)、アセトグアナミン(2,4−ジアミノ−6−メチル−sym−トリアジン)、及び2,4−ジアミノ−6−ブチル−sym−トリアジンが挙げられる。前記アミノ置換トリアジン類化合物とホルムアルデヒドとの付加物の具体例としては、以下に制限されないが、N−メチロールメラミン、N,N’−ジメチロールメラミン、及びN,N’,N”−トリメチロールメラミンが挙げられる。前記アミノ置換トリアジン類化合物とホルムアルデヒドとの縮合物の具体例としては、以下に制限されないが、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。前記尿素誘導体の例としては、以下に制限されないが、N−置換尿素、尿素縮合体、エチレン尿素、ヒダントイン化合物、及びウレイド化合物が挙げられる。前記N−置換尿素の具体例としては、以下に制限されないが、アルキル基などの置換基が置換したメチル尿素、アルキレンビス尿素、及びアリール置換尿素が挙げられる。前記尿素縮合体の具体例としては、以下に制限されないが、尿素とホルムアルデヒドとの縮合体が挙げられる。前記ヒダントイン化合物の具体例としては、以下に制限されないが、ヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、及び5,5−ジフェニルヒダントインが挙げられる。前記ウレイド化合物の具体例としては、以下に制限されないが、アラントインが挙げられる。前記ヒドラジン誘導体の例としては、以下に制限されないが、ヒドラジド化合物が挙げられる。前記ヒドラジド化合物の具体例としては、以下に制限されないが、ジカルボン酸ジヒドラジドが挙げられ、さらに具体的には、以下に制限されないが、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、及び2,6−ナフタレンジカルボジヒドラジドが挙げられる。前記イミド化合物の具体例としては、以下に制限されないが、スクシンイミド、グルタルイミド、及びフタルイミドが挙げられる。
これらのホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物(ポリマーを含む)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方、上記の酸化防止剤としては、以下に制限されないが、ヒンダートフェノール系酸化防止剤が好ましい。具体例としては、以下に制限されないが、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、1,4−ブタンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、及びペンタエリスリトールテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。中でも好ましくは、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]及びペンタエリスリトールテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。
これらの酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施の形態に係る射出成形歯車の用途である、各種機構部品は、静音性をさらに高めるために、グリースを塗布しても従来の機構部品と同等の作動耐久性を維持することが望ましい。そのため、ポリアセタールホモポリマー100重量部に対し、ホルムアルデヒド反応性窒素を含む熱安定剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを、それぞれ0.05〜0.5重量部含むことが好ましい。
以下では、上記した酸捕捉剤、耐候(光)安定剤、離型剤・潤滑剤、導電材、帯電防止剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、及び顔料について詳細に説明する。
前記酸捕捉剤としては、以下に制限されないが、例えば、上記のアミノ置換トリアジン化合物やアミノ置換トリアジン類化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、より具体的には、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。他の酸捕捉剤としては、以下に制限されないが、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、カルボン酸塩、並びにアルコキシドが挙げられる。具体的には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウム等の水酸化物、並びに上記で列挙された金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩及びカルボン酸塩、さらには層状複水酸化物が挙げられる。
上記カルボン酸塩のカルボン酸としては、10〜36個の炭素原子を有する飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸が好ましく、これらのカルボン酸は水酸基で置換されていてもよい。前記飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸塩の具体例としては、以下に制限されないが、ジミリスチン酸カルシウム、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、(ミリスチン酸−パルミチン酸)カルシウム、(ミリスチン酸−ステアリン酸)カルシウム、及び(パルミチン酸−ステアリン酸)カルシウムが挙げられる。中でも、好ましくはジパルミチン酸カルシウム及びジステアリン酸カルシウムである。
上記層状複水酸化物としては、以下に制限されないが、例えば、下記式で表されるハイドロタルサイト類が挙げられる。
〔(M2+)1−X(M3+)X(OH)2〕X+〔(An−)x/n・mH2O〕X−
上記式中、M2+は2価金属、M3+は3価金属、An−はn価(nは1以上の整数)のアニオンを表し、Xは0<X≦0.33の範囲にあり、mは正の数である。
上記式において、M2+の例としてはMg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+等が挙げられ、M3+の例としては、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+等が挙げられ、An−の例としては、OH−、F−、Cl−、Br−、NO3 −、CO3 2−、SO4 2−、Fe(CN)6 3−、CH3COO−、シュウ酸イオン、サリチル酸イオン等が挙げられる。中でも、好ましくはCO3 2−及びOH−が挙げられる。具体例としては、Mg0.75Al0.25(OH)2(CO3)0.125・0.5H2Oで示される天然ハイドロタルサイト、及びMg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O、Mg4.3Al2(OH)12.6CO3等で示される合成ハイドロタルサイトが挙げられる。
これらの酸捕捉剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の耐候(光)安定剤は、ベンゾトリアゾール系及び蓚酸アニリド系の紫外線吸収剤、並びにヒンダードアミン系光安定剤よりなる群から選択される1種以上が好ましい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、以下に制限されないが、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス−(α、α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、及び2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。蓚酸アリニド系紫外線吸収剤としては、以下に制限されないが、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2−エトキシ−5−t−ブチル−2’−エチルオキザリックアシッドビスアニリド、及び2−エトキシ−3’−ドデシルオキザリックアシッドビスアニリドが挙げられる。中でも、好ましくは2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス−(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、及び2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾールである。これらのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のヒンダードアミン系光安定剤としては、以下に制限されないが、例えば、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6,テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6,テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6,テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの縮合物、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルと1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、メチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−セバケート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’,−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物が挙げられる。中でも、好ましくはビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−セバケート、ビス−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、及び1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’,−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物である。これらヒンダードアミン系光安定剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の離型剤・潤滑剤としては、以下に制限されないが、例えば、アルコール、脂肪酸及びそれらの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、平均重合度が10〜500であるオレフィン化合物、シリコーンが好ましく使用される。
上記の導電剤としては、以下に制限されないが、例えば、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ナノ繊維、ナノ粒子、金属粉末及び繊維が挙げられる。上記の帯電防止剤としては、以下に制限されないが、例えば、脂肪族ポリエーテル(但し、末端が脂肪酸エステルとなった化合物を除く)、末端が脂肪酸エステルとなった脂肪族ポリエーテル、脂肪酸と多価アルコールとから得られる遊離水酸基を有する多価アルコールの脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステルのホウ酸エステル、アミン化合物のエチレンオキサイド付加体、塩基性炭酸塩及びそのアニオン交換体を基体としてこれにポリアルキレンポリオール類、並びにアルカリ金属塩溶解ポリアルキレンポリオール類を包接させた帯電防止剤が挙げられる。
上記の熱可塑性樹脂としては、以下に制限されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーネート樹脂、及び未硬化のエポキシ樹脂が挙げられる。また、これらの変性物も含まれ得る。上記の熱可塑性エラストマーとしては、以下に制限されないが、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、及びポリアミド系エラストマーが挙げられる。
上記の顔料としては、以下に制限されないが、例えば、無機系及び有機系の顔料、メタリック系顔料、並びに蛍光顔料が挙げられる。前記無機系顔料とは、樹脂の着色用として一般的に使用されているものをいい、以下に制限されないが、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、りん酸塩、酢酸塩やカーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラックが挙げられる。前記有機系顔料とは、縮合ウゾ系、イノン系、フロタシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ベリレン系、ジオキサジン系、及びフタロシアニン系などの顔料である。
[射出成形歯車の製造方法]
本実施の形態に係る射出成形歯車の製造方法については、以下に制限されないが、例えば、通常の射出成形に加え、射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、金型内複合成形(金属インサート成形、金属アウトサート成形)等の成形方法のいずれかによって成形することができる。中でも、生産性、耐久性及び品位に優れる観点から、好ましくは、射出成形及び/若しくは射出圧縮成形、又はこれらと金型内複合成形を組み合わせた成形方法である。
上記射出成形の条件としては、以下に制限されないが、好ましくは、成形温度が180〜220℃、金型温度が30〜100℃、射出圧力が10〜150MPa、射出時間が0.1〜10秒、及び保圧時間が1〜60秒である。
[射出成形歯車の用途]
本実施の形態に係る射出成形歯車は、従来の歯車と比較して、顕著に優れた作動耐久性及び静音性を保持できる観点から、電動車用歯車として、電動車全般に適用することができる。ここで、前記電動車として、以下に制限されないが、例えば、シニア四輪、バイク及び電動二輪車が挙げられる。中でも、動力伝達ギアとして、高い耐久性が要求される観点から、好ましくは電動アシスト自転車である。
本実施の形態に係る射出成形歯車は、従来のポリアセタールホモポリマーを用いた射出成形歯車と同等の品質を有し、熱安定性に同等程度に優れる。加えて、本実施の形態に係る射出成形歯車は、ポリアミド樹脂を用いた従来品と比較してさらに、作動耐久性及び長期静音性に有意に優れているため、様々な用途の成形品に使用することができる。
かかる射出成形歯車としては、以下に制限されないが、例えば、ギア、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、及びガイドが挙げられる。加えて、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー及び側板も挙げられる。
前記射出成形歯車は、グリースを塗布して使用されることが好ましい。これにより、作動耐久性及び静音性が大きく向上し得る。
前記射出成形歯車の具体的な用途としては、以下に制限されないが、例えば、オフィスオートメーション機器用機構部品、カメラ又はビデオ機器用機構部品、音楽、映像又は情報機器用機構部品、通信機器用機構部品、電気機器用機構部品、電子機器用機構部品、自動車用の機構部品(ドア周辺部品、シート周辺部品、空調器周辺部品)、自転車の機構部品(駆動モーター伝達等)、スイッチ部品、文具機構部品、住居設備の機構部品、自動販売機機構部品、スポーツ・レジャー・レクリエーション関係機器の機構部品、及び工業用機器の機構部品が挙げられる。
特に、前記射出成形歯車として、以下に制限されないが、例えば、はすば歯車、平歯車、内歯車、ラック歯車、やまば歯車、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車、まがりばかさ歯車、冠歯車、フェースギア、ねじ歯車、ウォームギア、ウォームホイールギア、ハイポイドギア、及びノビコフ歯車が挙げられる。また、上記のはすば歯車や平歯車などは、シングル歯車及び2段歯車、並びに駆動モータから多段に組み合わせ、回転ムラをなくして減速するような構造を有する組合せ歯車であってもよい。
以下、本実施の形態に係る射出成形歯車を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
[評価サンプルの調製]
<ポリアセタールホモポリマー粉末の調製>
図2は、ポリアセタ−ルホモポリマーの重合器一式を示す概略図である。図2に示すように、撹拌機を付帯した、ジャケット付き5L容タンクの重合器を用いて、ポリアセタールホモポリマーを製造した。
図2は、本発明におけるポリアセタールホモポリマーの重合器を例示しており、撹拌翼付帯撹拌用モータ(a)、ジャケット付反応器(b)、スラリー循環ポンプ(c)、ホルムアルデヒドガスの供給(1)、連鎖移動剤および重合溶媒の供給(2)、重合触媒の供給(3)、及びスラリー採取(4)を備える。
ジャケット付反応器(b)にn−ヘキサン(エーテル化反応用溶媒)を2L満たし、循環ラインを設けた。かかるラインの長さは6φ×2.5mとし、スラリー循環ポンプ(c)により20L/hrで循環した。この中に、脱水したホルムアルデヒドガス200g/hrを直接供給した(1)。ジメチルジステアリルアンモニウムアセテート(重合触媒)を反応器(b)直前の循環ラインに供給し(3)、無水酢酸(連鎖移動剤)を次工程に抜いていくスラリー相当分を補う目的で、上記n−ヘキサンに添加した。そして、これらの重合触媒及び連鎖移動剤を連続的にフィードしながら(2)、58℃で重合を行うことにより、粗ポリマーを含むスラリーを得た。添加した重合触媒及び連鎖移動剤は、最終目的物である樹脂組成物のMFRに応じて調整した。得られたスラリーを、ヘキサンと無水酢酸との1対1混合液中で140℃2時間反応させ、分子末端をアセチル化することにより、末端安定化処理を行った。前記反応後のポリマーを濾取し、2mmHg以下に減圧し、80℃に設定した減圧乾燥機で3時間かけて乾燥を行い、ポリアセタールホモポリマー粉末を得た。
<ペレット状サンプルの調製>
ポリアセタールホモポリマー粉末と添加剤とを、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合した。その後、200℃に設定したベント付きスクリュー型二軸押出機(BT−30、プラスチック工業(株)社製;L/D=44)を用いて、スクリュー回転数を100rpmとし、24アンペアで溶融混練して、ポリアセタール樹脂組成物のペレット状サンプルを得た。原料の投入からペレット状サンプルの回収までの間、できるだけ酸素の混入を避けながら(脱気しながら)操作を行った。
<ポリアミド樹脂>
ガラス繊維を含有する、市販のポリアミド66(東レ製)を用いた。
<射出成形歯車の製造>
上記で得られたポリアセタール樹脂組成物のペレット状サンプルを、はす歯歯車金型(上述の図1A及び図1B)を備えた射出成形機を用いて、シリンダー温度200℃及び金型温度80℃に設定し、射出成形を行い、JIS3〜5級の試験用歯車を得た。
また、ポリアセタール樹脂組成物の比較対照として用いたポリアミド樹脂は、シリンダー温度280℃及び金型温度80℃に設定し、JIS3〜5級の試験用歯車を得た。
<ポリアセタール樹脂組成物の評価>
1.ポリアセタール樹脂組成物のMFR測定
上記で得られたポリアセタール樹脂組成物のペレット状サンプルを80℃で3時間乾燥した後、荷重2.16kg及びシリンダー温度190℃の条件下で、MFR(ASTM D−1238−57Tに準拠)を測定した。一般に、MFRの値が大きいと、流動性が高く、且つ成形性に優れるという指標となる。
2.ダンベル試験片の製造
上記ポリアセタール樹脂組成物のペレット状サンプルを、射出成形機(SH−75、住友重機工業(株)製)を用いて、シリンダー温度200℃及び金型温度90℃に設定し、射出圧力70MPa、射出時間60秒及び冷却15秒の射出条件下で、ISO527に準拠し、金型を利用して成形を行った。かかる成形により、評価用ダンベル試験片を得た。
3.結晶核生成無機粒子の平均粒径測定
まず、上記で得られたダンベル試験片を凍結粉砕し、0.1N塩酸水溶液と混合し、ガラス製耐圧瓶に仕込んだ状態の物を準備した。次に、この物を、滅菌器を用いて、加圧状態下、130℃及び6〜10時間で分解させた。その後、当該分解液を濾過し、その濾過残渣物を、さらに蟻酸及びクロロホルムで洗浄及び濾過し、結晶核生成無機粒子以外の添加剤を除去した。
残った結晶核生成無機粒子を減圧乾燥した後、デジタルマイクロスコープ(VHX−200/100F;500〜5000倍、(株)KEYENCE社製)を用いて、粒子像を観察及び写真撮影し、任意に選んだ100個の結晶核生成無機粒子の最大粒子径(最大長径)を測定し、その数平均を平均粒径とした。
4.結晶核生成無機粒子の含有量測定
まず、上記ダンベル試験片を凍結粉砕後に秤量し、0.1N塩酸水溶液と混合した後、ガラス製耐圧瓶に仕込んだ状態の物を10バッチ分準備した。次に、これらを、滅菌器を用いて、加圧状態下、130℃及び6〜10時間で分解させた。その後、10バッチ分の当該分解液を濾過し、その濾過残渣物を、さらに蟻酸及びクロロホルムで洗浄及び濾過し、結晶核生成無機粒子以外の添加剤を除去した。
残った結晶核生成無機粒子を減圧乾燥した後、秤量することにより、はじめのポリアセタール樹脂組成物中の結晶核生成無機粒子の含有量を算出し、ppmで表した。
<射出成形歯車の評価>
1.試験装置
作動耐久性及び静音性の評価には、軸間を調整できる、図3に示すような動力吸収式の歯車強度試験機を用いた。試験条件に応じて、適当な駆動モータ及び動力吸収装置(パウダークラッチ/ブレーキ)を選択した。
図3は、本発明に係る射出成形歯車の評価に用いた歯車強度試験機を例示しており、駆動モータ(a1)、軸受支持台(a2)、回転計(a3)、動力吸収装置(b1)、軸受支持台(b2)、トルク計(b3)、マイクロホン(c1)、騒音計(c2)、防音箱(d1)、金属歯車(A)、及び試験歯車(B)を備える。
図3に示すように、歯車強度試験機には、駆動モータ(a1)に、軸を介して金属歯車(A)(モジュール:0.8、ピッチ円直径:100mm、歯幅:30mm、ねじれ角:20度)のはす歯金属歯車が設置され、任意の回転数で運転できるようになっている。この金属歯車(A)及び試験歯車(B)は、バックラッシ量0.1mmをとり、噛み合わさっている。試験歯車(B)は、軸を介して動力吸収装置(b1)に接続し、任意の負荷トルクを付与できる構造となっている。
2.試験歯車
図3中の試験歯車(B)は、はす歯歯車であり、モジュール0.8、ピッチ円直径100mm、及びねじれ角15度であり、直径1.5mmのゲートをボス部に3点配置し(図1B参照)、その間隔は円周方向で120度ごとに均一である。また、図1Aに示すように、上部リブ高さg1及び下部リブ高さg2は同じ寸法である。
3.歯車強度試験機を用いた試験方法
一定の作動トルクを負荷し、連続100時間の試験を行った。試験歯車(B)で発生する応力を同等にして性能を評価するため、試験歯車(B)の歯幅(リムの高さ)と作動トルクの積を240(歯幅15mmの時は、作動トルク16N・mとする)として実施した。回転数は100rpmに固定した。試験は、室温23℃、湿度50%の恒温室で行った。
(1)作動耐久性
作動耐久性としては、試験前後における歯車の外観について、以下の基準で評価した。
◎:試験前後で、歯車に肉眼で変形が確認されず、特に問題がなかった。
○:試験前後で、歯車に肉眼で変形が確認されたが、作動性には問題がなかった。
△:作動性に一部問題があった。
×:歯の破損や軸穴の変形などによって作動不良となった。
(2)静音性の評価
静音性については、図3に示すように、金属歯車(A)の軸より50mm離れた箇所にマイクロホン(c1)を設置し、“運転1”の開始30分後の1分間(前期静音性)と“運転3”の開始30分後の1分間(後期静音性)とにおいて、騒音計(c2)(JIS C1502に準拠)を用いて騒音レベルを測定し、以下の基準で評価した。
◎:最大の騒音レベルが70dBより低い。
○:最大の騒音レベルが70dB以上75dB未満である。
△:最大の騒音レベルが75dB以上85dB未満である。
×:最大の騒音レベルが85dB以上である。
(3)アニール後の作動耐久性と静音性の評価
上記の作動耐久性及び静音性について、射出成形歯車のアニール前後で評価した。アニール後の評価は、射出成形歯車をギアオーブンに140℃で2時間放置し、それから23℃及び湿度50%の恒温室で24時間放置した後に行った。
以下、実施例及び比較例について、下記表1を示しつつ説明するが、特記のない限り、上記した調製及び評価の方法に従い、実験を行った。
[実施例1〜4、比較例4〜5]
非繊維強化樹脂材料中に用いたポリマー、評価条件及び評価結果を表1に示す。
表1より、ポリアセタールホモポリマーのMFRが本発明の範囲内(1.5〜8.0g/10分)である実施例1〜4は、作動耐久性(ギア耐久)及び静音性にバランス良く優れることを確認した。特に、MFRが1.5〜3.0g/10分である実施例1〜3では、一層作動耐久性に優れることも確認した。
一方、ポリアセタールホモポリマーのMFRが本発明の範囲外である比較例4〜5は、同じ歯車形状を有する実施例1〜3の場合と比較して、作動耐久性が有意に劣ることを確認した。
[比較例1〜3]
比較例1〜3では、ポリアミド樹脂(比較例1〜2)及びポリアセタールホモポリマー(比較例3)100質量%に対して、表1に記載された量(質量%)のガラス繊維を充填し、ガラス繊維強化ポリマーを製造した。かかる点以外は、上記した評価サンプルの調製を行い、評価を行った。
表1より、ガラス繊維強化されたポリアミド樹脂又はポリアセタール樹脂を含む評価サンプルを用いた比較例1〜3では、同じ歯車形状を有する実施例1〜4の場合と比較して、作動耐久性及び静音性が有意に劣ることを確認した。
[実施例5〜6]
表1に示したように、実施例5〜6は、評価サンプルとして、結晶核生成無機粒子を含有するポリアセタール樹脂組成物(非繊維強化樹脂材料)を用いた点で、実施例1〜4における評価サンプルと相違する。
実施例5〜6は、同じ歯車形状を有し、且つMFR値が同じである実施例2の場合と比較して、作動耐久性及び静音性のバランスに一層優れることを確認した。中でも、結晶核生成無機粒子として窒化ホウ素を用いた実施例5は、作動耐久性及び静音性のバランスに顕著に優れることを確認した。
[実施例1〜4、7〜9、比較例6]
表1より、射出成形歯車におけるウェブ厚さに対するリムの高さの比率(f/e)が、本発明の範囲内(3以上)である実施例1〜4、7〜9は、作動耐久性及び静音性のバランスにより優れることを確認した。
一方、f/eが本発明の範囲外である比較例6は、アニール後の作動耐久性が有意に劣るため、作動耐久性及び静音性のバランスを欠くことを確認した。