JP5557243B2 - 睡眠の改善剤 - Google Patents

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Description

本発明は、睡眠の改善剤に関し、詳しくは、N−アセチル−D−マンノサミンの睡眠障害の改善用途に関する。
睡眠障害に対してはこれまでは覚醒促進剤や睡眠導入剤が用いられてきたが、そのほとんどが神経伝達物質経路を標的としたものであり、持続性に差はある一方、多くは即効性である。覚醒促進剤、睡眠導入剤いずれも、依存性、常習性、一過性の健忘などの副作用が多いため、麻薬指定を受けるものが多い。
睡眠はもっとも基本的な生理機能であり、生存に必須である。睡眠の生理的意義については未だ議論の対象であるが、心身疲労の回復、記憶の定着および再構成等の高次脳機能に関与すると考えられている。
睡眠は筋電位、脳波解析から、脳機能が低下しているノンレム睡眠と、脳機能は活発であるが骨格筋が弛緩している状況であるレム睡眠に分けることができる。いわゆる深い睡眠、徐波睡眠はノンレム睡眠に属する。レム睡眠期とノンレム睡眠期の割合、睡眠の長さは生物種によって異なるが、マウスなどの動物でもレム睡眠と徐波睡眠を認める。
記憶の定着および再構成等の高次脳が正常に機能するためには、特にレム睡眠期が重要であると考えられている。
睡眠障害は、過眠と不眠の大きく2種類に分類され、前者の例としてはナルコレプシー、後者の例としては不眠症がある。睡眠障害は様々な要因で起こり、たとえばジェットラグやシフト勤務などの時間のシフトが強制的に起こされた場合や、過度な仕事などによるストレスによって誘発される。一方、睡眠障害は、何らかの疾患に伴うものも多く、心機能異常、肥満などは不十分な睡眠につながりやすい。また、睡眠障害は、多くの薬剤の副作用としても起こる。たとえば解熱剤、アレルギー治療薬、Hブロッカーなどの胃腸薬などは眠気を誘発する。さらに、脳機能異常、たとえば統合失調症、双極性障害、アルツハイマー、パーキンソン氏病などに伴い、睡眠障害が認められる。
一般的に、加齢に伴い睡眠の質および量は変化し、寝付きの悪さ、早期の起床、昼夜の不明瞭さ、レム睡眠の減少、徐波睡眠の減少などが観察され、多くの老年期の人々が睡眠に関する何らかの不満を持つ。さらに、処方されている多くの薬剤(睡眠以外の症状に対するもの)は副作用として睡眠に影響を与え、ほとんどの老人は何らかの薬剤を処方されていることもあり、睡眠に関する不満の原因究明とその対処には困難さが伴う。現在用いられている睡眠障害の治療薬について、以下に説明する。
覚醒促進剤
ナルコレプシー、交代勤務による日中の眠気の抑制には、古くからアンフェタミンまたは類似の構造を持つ化学合成覚醒剤が用いられてきた。アンフェタミンは、間接型アドレナリン作動薬であり、ノルアドレナリンやドパミンの遊離の促進、再取込み阻害作用とモノアミンオキシダーゼ(MAO)阻害作用による強い中枢興奮作用を持つ。長期服用、過度の服用による副作用のため、本邦では使用が認められていない。モダニフィルは、作用点は明らかではないが、常習性および副作用が低いことから、米国では用いられている。また、食物に含まれているカフェインは覚醒作用を示し、適量摂取する場合において安全であると考えられるが、軽度の依存性を呈す。
睡眠導入剤
睡眠導入剤としては、ブロチゾラム(レンドルミン)、トリアゾラム(ハルシオン)、フルニトラゼパム(ロヒプノール)、サイレース、アモバン等がよく処方されているが、これらは主に抑制性の神経伝達物質であるGABAの受容体に作用するものであり、長期に連用する際に、運動障害、記憶障害、薬物依存症、持ち越し効果などの副作用が問題となる。
GABA−A受容体に対するより効果の高い薬剤、ゾルピデム(アンビエン)、ザレプロン(ソナタ)、ゾピクロン(イモベイン)、エスゾピクロン(ルネスタ)は、いずれもレム睡眠を減少させ、寝付きをよくし、多くは徐波睡眠から覚醒への移行を抑制する効果がある。これらの睡眠導入剤は、鎮静剤としての効果もあり、反覚醒状態での行動異常も副作用として報告されている。
これらの睡眠導入剤および覚醒促進剤は共に、神経伝達物質経路に直接作用するため、その効果発揮は一般的に即時的であり、効果を期待する直前(数時間以内)に服用する必要がある。また、作用する神経伝達経物質経路は睡眠のみに関連するわけではないため、大量に摂取した場合には重篤な障害を生じる。また、持続的な服用により神経伝達経路の反応性が低下するため、薬剤依存症の要因となる。さらに、薬剤服用停止後のリバウンドも大きく、それ故常習となりやすく薬剤依存症のリスクを高めることになる。
軽度の、特に概日リズムのずれから生じる睡眠障害の場合はメラトニンが処方されるが、光療法との間で臨床効果に差がないため、専門医からは積極的には処方されない。
N−アセチル−D−グルコサミンの異性体であるN−アセチル−D−マンノサミンは、例えば、医薬品や医薬品原料となるシアル酸(N−アセチルノイラミン酸)の酵素合成原料として知られている。また、N−アセチル−D−マンノサミンは、その誘導体から、シアル酸誘導体を酵素合成することが可能であり、産業上、重要な物質である。N−アセチル−D−マンノサミンの製造方法として、N−アセチルグルコサミンをアルカリ条件下で異性化する際に、ホウ酸またはホウ酸塩を添加することにより、N−アセチルマンノサミンへのモル変換収率を増大させる方法が知られている(特許文献1)。また、シアル酸を基質としてN−アセチルノイラミン酸リアーゼを反応させることにより、N−アセチル−D−マンノサミンを製造する方法も知られている(特許文献2)。N−マンノサミンのアシル化体を細胞に接触することにより、細胞表面へのレクチン結合を調節する方法または神経細胞の増殖を調節する方法が提案されている(特許文献3)。
N−アセチル−D−マンノサミンは、シアル酸の合成原料または医薬品の中間体として利用されているが、最終産物として医薬品または食品への利用はほとんどなされていない。さらに、N−アセチル−D−マンノサミンが睡眠障害の改善に有効であることは知られていない。
特開平10−182685号公報 特開2001−78794号公報 米国特許第6274568号公報
本発明は、上記事情に鑑み成されたもので、その解決しようとする課題は、睡眠障害を改善するための、有効かつ安全性の高い剤および医薬などを提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、意外にもN−アセチル−D−マンノサミンを用いた動物実験において、睡眠リズムの中でもレム睡眠期間を有意に延長し、覚醒と睡眠のリズムの変調を正常にする作用を有することを見出し、さらに検証を進め、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕 N−アセチル−D−マンノサミンを含有してなる、レム睡眠障害の予防または改善剤。
〔2〕 医薬である、前記〔1〕に記載の予防または改善剤。
〔3〕 保健機能食品または食品添加物である、前記〔1〕に記載の予防または改善剤。
〔4〕 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量および医薬として許容されうる担体を含有してなる、レム睡眠障害の予防、改善または治療するための医薬組成物。
〔5〕 レム睡眠障害の予防、改善または治療用医薬を製造するためのN−アセチル−D−マンノサミンの使用。
〔6〕 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量をそれを必要とする対象に投与する工程を含む、レム睡眠障害の予防、改善または治療方法。
〔7〕 N−アセチル−D−マンノサミンの有効量をそれを必要とする対象に摂取させる工程を含む、レム睡眠障害の予防または改善方法。
〔8〕 前記〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載の予防または改善剤、および当該予防または改善剤がレム睡眠障害に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該予防または改善剤に関する説明を記載した記載物を含む商業用パッケージ。
〔9〕 前記〔4〕に記載の医薬組成物、および当該医薬組成物がレム睡眠障害の予防、改善または治療に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該医薬組成物に関する説明を記載した記載物を含む商業用パッケージ。
本発明のレム睡眠障害の予防または改善剤により、加齢等に伴い減少したレム睡眠時間を延長させ、睡眠の質と量を改善し、それと並行して昼夜の行動のメリハリ(振幅)を回復することができる。かかる効果は、含有成分であるN−アセチル−D−マンノサミンを投与開始後2日目には観察されるが、従来の睡眠導入剤のように投与開始後すぐに睡眠導入効果を発揮するものではない。また、睡眠の質等の改善効果は投与終了後も一定期間(1〜2日)持続するがその後は消失する。自由飲水による投与でも効果を発揮することから処方方法は限定されない。また服用後の睡眠、覚醒のリズムはシフトしないことから、服用時間についても限定されない。このように、本発明のレム睡眠障害の予防または改善剤は、これまでの睡眠導入剤、覚醒促進剤とは全く異なる効果を発揮することから、これまでの神経伝達物質経路を標的とする薬剤とは異なる作用機序で効果を発揮することは明白である。N−アセチル−D−マンノサミンを有効成分として含有する本発明の医薬組成物および本発明の食品は、本来生体内に存在する単糖であるN−アセチル−D−マンノサミンを含むものであることから安全であり、日常的に摂取することにより、レム睡眠障害の予防または改善が期待できる。
若齢、中高齢および老齢マウスを用いた、睡眠および覚醒ステージの年齢による影響を示すグラフである。図1Aのグラフの縦軸は、1日(24時間)に占める覚醒時間の割合を示す。図1Bのグラフの縦軸は、1日に占めるレム睡眠時間の割合を示す。図1Cのグラフの縦軸は、1日に占める徐波睡眠時間の割合を示す。 明期(12:00−20:00)における若齢マウスおよびN−アセチル−D−マンノサミン(ManNAc)を投与した中高齢マウスの活動量、体温、脳波および筋電図の結果を示す。 暗期(0:00−8:00)における若齢マウスおよびN−アセチル−D−マンノサミン(ManNAc)を投与した中高齢マウスの活動量、体温、脳波および筋電図の結果を示す。 若齢マウスおよび中高齢マウスにN−アセチル−D−マンノサミンを投与したときの覚醒、レム睡眠および徐波睡眠に対する影響を示すグラフである。図4Aのグラフの縦軸は、1日(24時間)に占める覚醒時間の割合を示す。図4Bのグラフの縦軸は、1日に占めるレム睡眠時間の割合を示す。図4Cのグラフの縦軸は、1日に占める徐波睡眠時間の割合を示す。 加齢に伴う睡眠障害の回復実験において、心拍数、体温および運動量の測定結果を示す。図中、M administrationは、N−アセチル−D−マンノサミンを投与した期間を示す。
本発明のレム睡眠障害の予防または改善剤(以下、単に「剤」と省略する場合がある)は、N−アセチル−D−マンノサミンを含有することを特徴とする。
本発明において、N−アセチル−D−マンノサミン(以下、ManNAcと省略する場合がある)とは、下記式(I):
で示されるD−マンノサミンのN−アセチル体である。
本発明において、N−アセチル−D−マンノサミンとは、上記式(I)で示される単体に限定されるものではなく、その塩、その溶媒和物またはその誘導体を含む概念である。
N−アセチル−D−マンノサミンの塩としては、薬理学的に許容し得る塩、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などがあげられる。
無機酸との塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩があげられる。
有機酸との塩の例としては、安息香酸、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
塩基性アミノ酸との塩の例としては、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩があげられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩があげられる。
N−アセチル−D−マンノサミンの溶媒和物としては、好ましくは水和物(例、一水和物、二水和物など)、エタノレートなどがあげられる。
N−アセチル−D−マンノサミンの誘導体としては、下記式(II)に示すものを含む。
〔式中、R、R、R、RおよびRは各々独立して水素(H)、R、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)NRを示し、Rは置換していてもよいC−Cの鎖状炭化水素または環状炭化水素を示し、Rは水素(H)、置換していてもよいC−Cの鎖状炭化水素または環状炭化水素を示す。〕
置換基としてはF、Cl、Brを用いることができる。
N−アセチル−D−マンノサミンは、市販品を用いてもよく、公知の方法により製造したものを用いてもよい。N−アセチル−D−マンノサミンの製造方法として、N−アセチルグルコサミンをアルカリ条件下で異性化する方法(特開平10−182685号公報)、シアル酸を基質としてN−アセチルノイラミン酸リアーゼを反応させることにより製造する方法(特開2001−78794号公報)があげられるが、これに限定されるものではない。
本発明において、「レム睡眠」とは、脳機能は活発であるが骨格筋が弛緩している睡眠状態をいう。生体がレム睡眠期にあるか否かは、筋電図(EMG)または脳波(EEG)の解析により把握することができる。また、レム睡眠期は、眼球の素早い動きや心拍数の増加を観察することによっても確認することができる。他方、「ノンレム睡眠」とは、脳機能が抑制されている睡眠状態をいう。ノンレム睡眠を眠りの浅いステージ1から深いステージ4までに分類することもでき、ステージ2からレム睡眠に移行するといわれている。
睡眠障害とは、睡眠の量の低下および睡眠の質の低下などを包含し、前者は寝入るまでの時間の増加や中途覚醒による不十分な睡眠時間など、後者は睡眠時刻のずれ、深い睡眠(ノンレム睡眠)の減少、レム睡眠の減少、中途覚醒による睡眠の分断、活動時間帯での居眠りなどの症状として現れる。睡眠障害は、年齢に関わらず発生するが、特に睡眠の質は加齢に伴って低下する。診断は複数の質問項目から成るテスト、確定診断のためには、脳波測定または脳波測定を含む複数の項目を計測する睡眠ポリグラフィーを利用することができる。診断は国際的に認められている基準に従い分類することができる(The International Classification of Sleep Disorder, ICSD)。
本発明において「レム睡眠障害」とは、加齢その他の理由によるレム睡眠時間の減少に伴う生体の不調をいう。レム睡眠障害は、例えば、不眠症、覚醒障害、概日リズムの変調、食欲減退や体重減少などの代謝性障害や消化器障害、全身のだるさ・疲れやすさなどの疲弊感、血圧上昇や心不全などの循環器障害、認知機能や学習機能などの中枢性機能障害の直接的または間接的な要因ともなり得る。本発明においては、かかる症状または状態を予防、改善または治療対象とすることができる。
本発明の剤は、具体的には、前記レム睡眠障害の予防または改善を目的として投与または摂取することができる。
かかる目的のため、本発明の剤は、N−アセチル−D−マンノサミン単独で、あるいは賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン、シクロデキストリン等)、場合によっては、香料、色素、調味料、安定剤、保存剤等も含有し、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップおよびトローチ等に製剤化して、医薬または保健機能食品もしくは食品添加物として用いることができる。また、本発明の剤は、研究用試薬として用いることもできる。
本発明の剤に含まれるN−アセチル−D−マンノサミンの量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、通常0.0001〜100重量%であり、好ましくは0.001〜99.9重量%である。
また、本発明は、有効量のN−アセチル−D−マンノサミンおよび医薬として許容されうる担体を含有する、レム睡眠障害を予防、改善または治療するための医薬組成物を提供する。
医薬として許容されうる担体としては、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エステル等)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
医薬組成物中のN−アセチル−D−マンノサミンの含有量は、医薬としての効果を奏する限り特に限定されるものではないが、通常0.0001〜99.5重量%であり、好ましくは0.001〜99.0重量%である。
本発明の医薬組成物が予防、改善または治療対象とする障害は、睡眠障害、とりわけ、レム睡眠の減衰を伴う睡眠障害(これ以降レム睡眠障害と記す)であり、レム睡眠障害は、好ましくは、老齢性の加齢等に伴う自然発症性の睡眠障害であり、アルツハイマー病、レム睡眠行動障害、ナルコレプシー、睡眠・覚醒移行障害などが含まれる。
本発明の剤または医薬組成物は、哺乳動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、サル、ヒト)に対して、経口的あるいは非経口的に安全に投与することができる。
本発明の「食品」は、食品全般を意味するが、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品をも含むものであり、さらにサプリメント、飼料等も本発明の食品に包含される。
食品用途の場合、N−アセチル−D−マンノサミンを、例えば、パン、菓子等の一般食品(いわゆる健康食品を含む)に含有させて用いることもできる。また、N−アセチル−D−マンノサミンを、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン等)、場合によっては、香料、色素等と共に、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップおよびトローチ等に製剤化して、特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、サプリメントとして用いることができる。また、本発明の食品は、飼料用途にも適用することができ、家禽や家畜等には、通常の飼料に添加して摂取または投与することができる。
食品または飼料として摂取する場合、食品または飼料の1日当たりの摂取回数および1回当たりの摂取量の目安を概算し、1日摂取量を規定した上で1日摂取量の食品または飼料に含まれるN−アセチル−D−マンノサミンの量を決定する。N−アセチル−D−マンノサミンの含有量は、後述する用量に基づいて決定することができる。
本発明の剤は、当該剤がレム睡眠障害の予防または改善に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該予防または改善剤に関する説明を記載した記載物をも含む商業用パッケージとして提供することもできる。
本発明の医薬組成物は、当該医薬組成物が睡眠障害、特にレム睡眠障害の予防、改善または治療に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該医薬組成物に関する説明を記載した記載物をも含む商業用パッケージとして提供することもできる。
本発明の食品は、含有するN−アセチル−D−マンノサミンの生物学的作用を有効に発揮させるためには、特定保健用食品または栄養機能食品として用いられることが好ましく、その際、「睡眠および目覚めの質を改善する」、「一日の活動のメリハリをつける」などという表示を付すことが推奨される。
本発明の剤、食品または医薬組成物の摂取または投与量は、摂取または投与対象の年齢、体重、健康状態によって異なり、一概に決定することはできない。例えば、健康の維持および増進やレム睡眠障害の予防または改善を目的とする場合は、通常、食品の形態にして、一方、レム睡眠障害の治療や健康回復を目的とする場合には、通常、医薬品または食品の形態にして、N−アセチル−D−マンノサミンとして、成人1日当たり0.1〜10g、好ましくは0.2g〜7gを1日1回から数回に分けて摂取または服用することが好ましい。
本発明の医薬(剤または医薬組成物)の投与方法としては、上記レム睡眠障害に対する予防的および治療的な効果が得られる経路であれば特に限定されない。例えば、非経口的投与(静脈内投与、筋肉内投与、組織内直接投与、鼻腔内投与、皮内投与、髄液内投与など)または経口投与により投与することができ、特に、該医薬をヒトに適用するには、静脈内、筋肉内または経口投与によって投与することができる。また、剤型としても特に制限されることなく、各種投与剤型、例えば、経口剤(顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤など)、注射剤、点滴剤、外用剤(経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤など)として投与することが可能である。
また本発明は、レム睡眠障害の予防、改善または治療用医薬を製造するためのN−アセチル−D−マンノサミンの使用を提供する。具体的には、N−アセチル−D−マンノサミンを使用したレム睡眠障害の予防、改善または治療用医薬の製造方法を提供する。
本発明の医薬の製造方法は、製剤分野において自体公知の方法を限定なく用いることができる。
N−アセチル−D−マンノサミンは、ヒトの細胞内に中間体として微量含まれており、毒性(例、急性毒性、慢性毒性、遺伝毒性、生殖毒性、心毒性、薬物相互作用、癌原性)を有さず、ヒトに対する安全性は高いと考えられる。
本発明の剤、医薬組成物または食品は、実施例で示されるように、特に下記のような効果を有する。
(1)レム睡眠および覚醒の時間を有意に延長し、逆にノンレム睡眠(徐波睡眠)の時間を減少させ、若齢時の睡眠および覚醒リズムを維持する。
(2)加齢に伴う睡眠の質の低下を抑制し、覚醒時の活動を賦活し、睡眠の質を改善する。
以下、実施例を示してさらに具体的に本発明を説明する。以下は代表的な実施例を示すものでこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
実施例1:老化に伴う睡眠障害のManNAcによる回復
マウスは暗期の活動時間で覚醒し、逆に、明期には活動を停止して睡眠する。老化マウスでは覚醒と睡眠のリズムが乱れて明期の睡眠が浅くなり、暗期の覚醒時の活動が低下してくることが知られている。老化に伴う覚醒および睡眠の乱れは視床下部の活動と関係し、体温上昇や心拍数上昇を伴うことも知られている。これらの症状は中高年から老年期のヒトの睡眠に不満を訴える患者の症状に類似することより、睡眠に対する影響を調べるための適切なモデルとなる。
中高齢マウス〔43週から66週齢まで飼育、3匹、明暗条件下(12時間明期-12時間暗期)で飼育〕を用いて、ManNAc溶液(5mg/ml水道水)の自由飲水の前後1週間の経時的な呼吸数、体温、活動量をテレメーターで調べた。また、ManNAcの非摂取期間と自由摂取期間の両方について覚醒時および睡眠時の脳波を調べた。脳波、筋電図を測定するためには、マウス脳波記録用送信機(F20EET, Data Sciences)を麻酔下(ペントバルビタール、30mg/kg、i.v.)において埋め込み、脳波、筋電図、体温、および活動量はART(Data Sciences社)により連続記録した。得られた脳波はNeuroScore(Data Sciences社)を用いて解析することによりレム睡眠、徐波睡眠に分類した。投与マウス、投与前、若齢マウスの各睡眠期の長さを累積し、比較した。
投与前の解析から、若齢マウス(17〜21週齢)に対し、老齢マウス(43〜55週齢)において覚醒時間の減少、レム睡眠の減少、徐波睡眠の増加が確認された(図1)。
投与後4日の、明期(非活動期:マウスは夜行性)と暗期(活動期)の中高齢マウスの脳波、筋電図、体温、活動量を図示し、コントロールとして若齢マウスの脳波、筋電図、体温、活動量を同様に図示する(図2および3)。ManNAc投与した中高齢マウスにおいて、投与後2〜3日目から顕著な覚醒時間の増加、レム睡眠の増加と徐波睡眠の減少を認めた(図4、表1)。
さらにManNAc投与により、明期、暗期の活動量の差が明確になった(図5)。なお、ManNAc投与による心拍数は、行動の変化に伴う変化、すなわち明期と暗期の差が明確になり、一方、体温は非行動時の体温の低下を認めた。これらの結果はManNAcが睡眠の質と量を改善し、その結果として昼夜の行動のメリハリ(明確さ)を誘導することに顕著な効果を持つことを示しており、ManNAcが睡眠の改善剤として有効な成分であることを示す。
本発明により、ManNAcを有効成分として含有する医薬、食品などが提供される。本発明の医薬または食品の服用または摂取によりレム睡眠障害を予防、改善または治療することができ、睡眠の質の向上が期待される。

Claims (9)

  1. N−アセチル−D−マンノサミンを含有してなる、レム睡眠障害または/および中途覚醒による睡眠障害の予防または改善剤、但し、食品は除く
  2. 医薬である、請求項1に記載の予防または改善剤。
  3. 経口剤である、請求項1または2に記載の予防または改善剤。
  4. N−アセチル−D−マンノサミンの有効量および医薬として許容されうる担体を含有してなる、レム睡眠障害または/および中途覚醒による睡眠障害を予防、改善または治療するための医薬組成物。
  5. 経口投与用である、請求項4に記載の医薬組成物。
  6. レム睡眠障害または/および中途覚醒による睡眠障害の予防、改善または治療用医薬を製造するためのN−アセチル−D−マンノサミンの使用。
  7. 医薬が経口投与用である、請求項6に記載の使用。
  8. 請求項1〜3いずれか1項に記載の予防または改善剤、および当該予防または改善剤がレム睡眠障害または/および中途覚醒による睡眠障害に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該予防または改善剤に関する説明を記載した記載物を含む商業用パッケージ。
  9. 請求項4または5に記載の医薬組成物、および当該医薬組成物がレム睡眠障害または/および中途覚醒による睡眠障害の予防、改善または治療に使用することができることまたは使用すべきであることを記載した当該医薬組成物に関する説明を記載した記載物を含む商業用パッケージ。
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