JP5555842B2 - 鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法、並びに鉄族元素及び希土類元素の回収装置 - Google Patents
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Description
(i)ネオジム磁石
現在実用化されている単位面積辺りの磁力密度が最大の磁石であり、組成はNd2Fe14Bである。磁石表面の腐食抑制のため、Ni,Cu,Niの三層構造から成る被覆材がコーティングされていることが多い。
(i i)サマリウム−コバルト磁石
耐熱性及び耐久性に優れており、組成はSmCo5及びSm2Co17である。
(i i i)サマリウム鉄窒素磁石
ネオジム磁石を超える性能をもつ磁石として開発されてきたが、熱に弱いため、ボンド磁石として使われている。
(iv)プラセオジム磁石
機械的強度が高いことに優れており、組成はPrCo5である。
この湿式法と呼ばれる方法において、鉱酸(酸溶液)を利用する分離・回収工程では、大量の酸や有機溶媒を使用するので、比較的多くの二次廃棄物が生じる。このため、環境負荷が高くなるという問題がある。
この回収方法に限らず、一般的に溶融状態を利用する方法は、非常に高温(800℃程度)で行われるため、炉材料の腐食や膨大な熱エネルギーの消費が免れず、近年の省エネルギー指向のプロセスに適さない。また、目的の化学反応を進行させるために、大掛りで複雑な設備が必要となる場合が多い。
イオン液体を利用した鉄族元素(コバルト:Co)の回収例として、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボーレイト(BMIm-BF4)中で、Coを電解回収した報告例が存在する(非特許文献1)。
イオン液体中での希土類元素の回収に対しては、1-オクチル-1-メチルピロリジニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド(OMP-TFSA)中で、希土類元素(ランタン:La)を回収した報告例が存在する(非特許文献2)。
また、鉄族元素と希土類元素の選択的な回収を、低温かつ大気中で実施するための方法が確立されておらず、簡便な装置で、かつ安全に行うことができる鉄族元素および希土類元素の回収技術の確立が強く望まれている。
[上記オニウムカチオンの式中、R1およびR3は、置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R2およびR4は置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。上記オニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R1とR2とは互いに異なる基である。複数のR3はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R3とR4とは互いに異なる基である。nは0〜5の整数を表す。また、R5、R6、及びR7は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアルキル基である。]
本発明の請求項2に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、請求項1において、前記工程Aを経たイオン液体を電気泳動して、該イオン液体に含まれる希土類元素を濃縮する工程Cを、前記工程Bの前に備えることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、請求項1又は2において、前記工程Aにおいて、前記資源に含有される鉄族元素を前記イオン液体に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出により回収することを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の鉄族元素及び希土類元素の回収装置は、第一の槽内において、鉄族元素及び希土類元素を含む資源を溶解させたイオン液体から鉄族元素を電解析出により回収する第一の電極、及び該第一の電極による処理を経たイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第二の電極を有する第一処理部と、第一の槽内において、前記第二の電極による処理を経たイオン液体に残存する希土類元素を電気泳動により濃縮する第二処理部と、第二の槽内において、前記第二処理部で濃縮された希土類元素を含むイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第三の電極を有する第三処理部と、を少なくとも備える装置である。
したがって、本発明にかかる方法は、低環境負荷で資源を再利用することを可能にするものである。
<鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法>
本発明の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法は、鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む回収方法である。
この回収方法に用いることができる鉄族元素及び希土類元素の回収装置の一例として図1に記載の回収装置10が挙げられる。
まず、イオン液体α1中に鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体β1を得る。
その後、イオン液体β1に溶解している前記鉄族元素を電解析出により回収して得るとともに、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体γ1を得る工程Aを行う。
つづいて、イオン液体γ1から前記希土類元素を電解析出により回収して得るとともに、該希土類元素の回収処理を経たイオン液体δ1を得る工程Bを行う。
前記イオン液体(イオン液体α1)は、式PR1R1R1R2で表される四級ホスホニウムのカチオン、又は式NR3R3R3R4で表される四級アンモニウムのカチオンと、
テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R5O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R6O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成される。
R1における炭素数2〜6の分岐状アルキル基としては、例えば、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
R1における炭素数2〜6の脂環状アルキル基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が挙げられる。
R1における炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
また、R1が炭素数2〜4のアルキル基で、R2が炭素数1〜2のアルコキシ基であるオニウム塩(イオン液体)は、室温においても粘性が低く、良伝導体となるため、より好ましい。
R4の具体的な説明は、前述のR2の具体的な説明と同じである。
また、R3とR4との好ましい組み合わせの具体的な説明は、前述のR1とR2との好ましい組み合わせの具体的な説明と同じである。
R5、R6、及びR7の説明および具体例は、前述のR2と同じである。
本発明におけるイオン液体のアニオンとしては、ビストリフルオロメチルスルホニルアミド(TFSA)、ビスフルオロスルホニルアミド(FSA)、及びジシアナミドが好ましい。これらのアニオンがテトラアルキルホスホニウム塩(イオン液体)を構成した場合に、その塩浴の粘性が、室温付近でも低く、疎水性であるため好ましい。また、これらのアニオン中でも、FSAがより好ましい。FSAをアニオンとするイオン液体は、カチオンがホスホニウムの場合に限らず、多くのカチオン種との間でイオン液体を形成でき、粘性が低く、導電性が高いためより好ましい。
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロメチルスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビストリフルオロエチルスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・ビスフルオロスルホニルアミド、
トリエチル−n−ペンチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリプロピル−n−ペンチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリエチル−n−ヘキシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸、トリプロピル−n−ヘキシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
つまり、工程Aにおいて、資源15に含有される鉄族元素をイオン液体α1に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出によって、陰極14で回収することができる。この場合、陽極溶解と電解析出とを並行して行うので、回収に要する時間を短縮できる。
また、資源15に含有される鉄族元素および希土類元素のうち、鉄族元素を優先的に溶解させることも可能である。この場合、資源15に含有される希土類元素の濃度を高めることができる。希土類元素の濃度が高まった資源15を、そのまま回収してもよい。
第一の槽11にはイオン液体34(イオン液体γ1又はイオン液体δ1)が入れられており、電源(直流安定化電源)に接続された陽極27及び陰極28を有する電気泳動用電極26がイオン液体34に浸漬されている。陽極27の先端部がイオン液体34の液面付近に浸漬され、陽極27の腐食を防止するための非導電性の保護管29が陽極27の周りに設けられている。該液面下における保護管29はイオン液体34の深部まで延びた泳動管30となる。泳動管30は中空であり、内部はアルミナ等の非導電性のセラミックス製粒子が充填されている(図示略)。イオン液体34が泳動管30の内部へ浸透により流入する。
ここで、電解析出によってイオン液体ε1から希土類元素を回収することは、前記工程Bに該当する。一方、電解析出によってイオン液体ζ1から希土類元素を回収することは、前記工程Eに該当する。
図2において、陽極溶解では、初めに鉄族元素の溶解電位に設定し、鉄族元素の選択的溶解を進める。ここで、不溶性不純物は適宜除去していき、電解析出Iで鉄族元素を先行分離して陰極に回収する(工程A)。鉄族元素の回収後、陽極溶解において、希土類元素が溶解する電位に再設定する。ここで、希土類元素よりも電気化学的に貴な不純物元素はすべて溶解する。また、希土類元素の陽極溶解において、陰極側の設定電位を鉄族元素の還元電位に近い値で制御することにより、陰極側では、残存する鉄族元素の選択的回収が可能となる。
廃希土類磁石中に、イオン液体中への溶出が速く、希土類元素よりも電気化学的に貴な元素の不純物が含まれる場合は、該不純物は陰極に析出し、回収容器に溜まる。
陽極溶解の際に陰極で回収された不純物を除去した後、新しい陰極をイオン液体中に浸漬させる。鉄族元素が析出する電位に設定して、電解析出Iを実施する。陽極溶解の際にイオン化された鉄族金属イオンが、陰極において電解還元されることにより、鉄族元素が陰極に金属析出物として得られる。
電気泳動は二電極方式で行い、希土類イオンを濃縮させる泳動管には、アルミナ等のセラミックス製粒子を充填させる。これは泳動管中の対流効果を抑制した上で、希土類イオンと他イオンとの移動度差を利用して、希土類イオンを特に陽極近傍に濃縮させる効果がある。
電気泳動に使用する装置は、特許第4242313号に記載された、連続的な泳動が可能で、かつ濃縮物の回収が容易な装置を使用するとさらに効率が良い。
次に、得られた希土類元素の濃縮物を使用して、電解析出IIを実施する。ここで使用する陽極及び陰極は、図3で示した電極構造に類似のものが適用できる。希土類元素が析出する電位に設定し、定電位電解を行うことで、希土類金属を陰極に析出して回収することができる。電解析出IIでは、電気伝導度が高く、耐還元性に優れたイオン液体を使用することが望ましい。
トリエチル−n−ペンチルホスホニウムカチオン(P2225+)の臭化物(日本化学工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のP2225TFSA(別名:P2225TFSI)と表記されるイオン液体、又はP2225FSA(別名:P2225FSI)と表記されるイオン液体を得た。
トリメチル−n−ヘキシルホスホニウムカチオン(N1116+)の臭化物(東京化成工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のN1116TFSA(別名:N1116TFSI)と表記されるイオン液体、又はN1116FSA(別名:N1116FSI)と表記されるイオン液体を得た。
トリエチル−n−ペンチルアンモニウムカチオン(N2225+)の臭化物(日本化学工業株式会社製)と、ビストリフルオロメチルスルホニルアミドアニオン(TFSA−)のリチウム塩(関東化学株式会社製)又はビスフルオロスルホニルアミドアニオン(FSA−)のカリウム塩(三菱マテリアル電子化成株式会社製)とを蒸留水中で温度70〜75℃で攪拌して反応させた。
前記反応で生成したイオン液体相をジクロロエタンで抽出し、エバポレーションにより溶媒を除去した。その後、100℃で72時間以上の真空乾燥を行い、水分量50ppm以下のN2225TFSA(別名:N2225TFSI)と表記されるイオン液体、又はN2225FSA(別名:N2225FSI)と表記されるイオン液体を得た。
図3に記載の陽極溶解装置において、陽極にネオジム(Nd)系希土類磁石、陰極にプラチナ(Pt)電極、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。Nd系希土類磁石の陽極溶解試験は、定電位:3.5Vで行った。陽極溶解浴として、P2225TFSA、P2225FSA、N1116TFSA、N1116FSA、N2225TFSA、又はN2225FSAを使用した。
P2225FSAを使用した陽極溶解の浴中のNd(III)イオンの濃度変化を、紫外可視分光スペクトルで測定した結果を図5に示す。図5の分光スペクトルおいて、波長580nm付近にNd(III)イオンに特有のピークが観測されており、このNd(III)イオンのピークが陽極溶解時間とともに増加していくことを確認した。陽極溶解の塩浴として、P2225TFSA、N1116TFSA、N1116FSA、N2225TFSA、又はN2225FSAを使用した場合の、陽極溶解中の塩浴におけるNd(III)イオンの濃度変化を、紫外可視分光スペクトルで同様に測定した(スペクトルの図示は略す)。
鉄粉末(Fe;和光純薬工業株式会社製)、コバルト炭酸塩(CoCO3;和光純薬工業株式会社製)、ニッケル炭酸塩(NiCO3;和光純薬工業株式会社製)に対して、化学量論の等量よりも僅かに多いビス(トリフルオロ)メチルスルホニルアミン(HTFSA, 関東化学株式会社製)を添加した。反応は75℃で攪拌しながら行い、すべての炭酸塩が反応したことを確認した。鉄粉末の場合は、未反応物が残留したので、この残留物をろ過して除去した。このようにして得られた溶液のエバポレーションを行って溶媒を除去し、最終的に各金属に対するTFSA塩(FeTFSA2,CoTFSA2,NiTFSA2)を得た。これらの塩の真空乾燥を100℃で72時間行って、水分を除去した。
ネオジム酸化物(Nd2O3;和光純薬工業株式会社製)又はサマリウム酸化物(Sm2O3;和光純薬工業株式会社製)に過剰量のビス(トリフルオロメチル)スルホニルアミン(HTFSA;関東化学株式会社製)を加え、蒸留水中で温度75℃に保持して、反応させた。その後、未反応の酸化物をろ過し、ろ液をエバポレーションにより濃縮した。濃縮物を真空乾燥して希土類金属塩(NdTFSA3,SmTFSA3)を調製した。
P2225FSAに溶解した、鉄族元素であるFeと希土類元素であるNdの還元挙動を、リニアスィープボルタンメトリ(LSV)で測定した結果を図6に示す。
図6において、Fe(II)は−1.2V付近で析出ピークが観察されており、Nd(III)は−2.8V付近で析出ピークが観察されている。このように、Fe(II)の析出電位とNd(III)の析出電位の間に1.6V程度の差があることを利用して、鉄族元素および希土類元素を溶解したイオン液体中から、電解によって、各元素を選択的に析出して回収することが可能となる。
次に、FeおよびNdを溶解したP2225FSA浴において、作用極にCu基板を用いて、−1.5Vで定電位電解を行った結果、電流効率:94.8%であることを確認した。Cu基板上に析出した電解生成物をICP−MSで分析して、析出物がFeであることを確認した。このように、鉄族元素および希土類元素を含むイオン液体中から、鉄族元素を先行分離して、選択的に回収できた。
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、鉄族元素の一種であるNiTFSA2を0.1mol/lの濃度で溶解させた。このイオン液体中でのNi(II)の還元挙動に関して、水晶振動子マイクロバランス法(QCM)を利用した電気化学測定(EQCM)の結果を図7に示す。
このQCM法による振動数変化を質量変化に換算することで、電極表面上の微小な質量変化を観測できる。図7において、Ni(II)の還元反応のピークは−1.1V付近から観測され、それに対応する電極表面上の重量増加が観測されている。
この結果は、鉄族元素および希土類元素を溶解したイオン液体から、鉄族元素を分離して回収できることを示唆している。すなわち、希土類磁石を溶解したイオン液体において、希土類磁石の被覆材成分であるNiおよび希土類磁石の主成分であるFeを、電解を行って希土類元素よりも先に析出させて回収することができる。
まず、P2225FSA、P2225TFSA、N2225FSA、及びN2225TFSAの各イオン液体中に、希土類塩(NdTFSA3)を希土類イオン濃度が0.1mol%となるように溶解させた。次いで、減圧下、100℃で一昼夜乾燥させた試料を電気泳動浴として使用した。
電気泳動による濃縮試験には、図4に示した電気泳動装置を使用した。浴塩温度100℃、電流密度0.22mA/mm2の条件で電気泳動電流を通電した。全電気量は積算電気量計により測定した。一定時間ごとに、泳動管中のイオン液体をフラクションとして回収した。各フラクションごとのネオジム濃度をICP−MSによって定量分析した。第四級ホスホニウムカチオン(P2225+)及び第四級アンモニウムカチオン(N2225+)の濃度を、イオンクロマトグラフによって定量分析した。
各フラクションに含まれるネオジムの濃度比を、図8及び図9に示す。回収したフラクションのうち、前半に回収したフラクションにおいて、ネオジムが濃縮されていることが明らかである。これは、陽極側に生じる内部移動度の差によってネオジムが濃縮されたためであると考えられる。
図8及び図9において、TFSA型イオン液体よりもFSA型イオン液体の方が、ネオジムをより多く濃縮していることがわかる。フラクション1においては、FSA型イオン液体の方が、ネオジムを1.5倍多く濃縮している。この理由として、FSA型イオン液体がより低粘性であること、及び、FSA型イオン液体中では、希土類イオンの錯形成状態が安定化して、希土類イオンとイオン液体を構成するカチオンとの移動度差を大きくする作用があること、が考えられる。この結果、泳動管中の上部(アノード近傍)にネオジムが留まり易くなったと考えられる。したがって、FSA型イオン液体を使用すると、TFSA型イオン液体を使用した場合よりも、電気泳動による希土類元素の濃縮の効率を高められる。
試験例2で行ったLSV測定の結果(図6)に基づき、表2に併記した各種のイオン液体系溶媒に、0.1Mの濃度で溶解した希土類元素(Nd又はSm)を、電解析出で回収する試験を行った。
作用極にCu基板、対極に希土類金属(Nd又はSm)、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。温度100℃、−3.2V〜−3.5Vで定電位電解を実施した。
電解試験後の陰極析出物を酸性溶液に溶解させ、ICP−MS分析装置を用いて、陰極析出物が各種希土類元素であることを同定した。その結果を表2に併記する。
この結果からFSA型イオン液体を用いると、TFSA型イオン液を用いた場合に比べて、電解析出時の電流効率が高められることが明らかである。この理由として、FSA型イオン液体は、粘度が低く、電析媒体の液間抵抗を減少させられることが考えられる。
なお、表2の「P222(1O1)TFSA」は、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムカチオンの略称である。
試験例2で行ったLSV測定の結果(図6)に基づき、表2に併記した各種のイオン液体系溶媒に、0.1Mの濃度で溶解した鉄族元素(Fe、Co、又はNi)を、電解析出で回収する試験を行った。
作用極にCu基板、対極に鉄族金属(Fe、Co、又はNi)、参照極にイオン液体系参照電極を使用した。温度100℃、−1.2V〜−1.5Vで定電位電解を実施した。
電解試験後の陰極析出物を酸性溶液に溶解させ、ICP−MS分析装置を用いて、陰極析出物が各種希土類元素であることを同定した。その結果を表3に併記する。
この結果からFSA型イオン液体を用いると、TFSA型イオン液を用いた場合に比べて、電解析出時の電流効率が高められることが明らかである。この理由として、FSA型イオン液体は、粘度が低く、電析媒体の液間抵抗を減少させられることが考えられる。
試験例5及び6の結果から、希土類元素及び鉄族元素を電解回収するための媒体として、FSAをアニオンとするイオン液体は、非常に有効であり、効率的な電解回収技術を可能とする。
陽極溶解と電解析出Iは別々に進行させる必要はなく、同時進行させることが可能である。P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、0.1mol%のFeTFSA2を溶解させた溶液を、電解浴として使用した。陽極にNd系希土類磁石を銀線で接合した電極を使用し、希土類磁石部のみがイオン液体中に浸漬する構造とした。陰極には円筒状の銅基板に銅線を接続した電極を使用した。陽極と陰極の面積比は1:6の電極構造とした。
陽極溶解を兼ねた電解は、浴塩温度100℃において、定電位で陽極側に+1.25V、陰極側に−1.25Vを印加する条件で行った。陽極において、希土類磁石中の鉄族元素を希土類元素よりも優先的に、イオン液体中に溶出させながら、陰極において、電解析出物を生じさせた。この電解析出物を酸溶液に溶解して、ICP/MS分析を行った。その結果、電解析出物がFe及びNiの鉄族元素であることを確認した。
電解析出時の陰極電流密度を22.8A・m−2にした場合、陰極表面は、平滑な光沢面となった(図10(a))。これは、陰極表面において核が生成して、方向性をもたない細かな結晶が成長したことを示唆する。この理由は、イオン液体中の反応種の物質輸送が拡散律速となり、陰極表面の原子の格子エネルギー差の影響が少なくなるためであると推測される。
一方、電解析出時の陰極電流密度を高くし過ぎた場合(69.4A・m−2)、陰極表面に電解析出物が不均一に析出して、陰極表面の平滑性が低下した(図10(b))。これは、陰極表面上で均一な核生成が進行しなかったことを示唆する。
このように、電解析出物が生成する陰極表面の平滑性を高めるためには、陰極電流密度の制御が重要となる。
よって、陽極溶解と電解析出Iを同時に実施することで、溶出・析出工程の短縮化による電気エネルギー消費の低減が可能となり、さらに、陽極において、希土類含有率の高い金属種を得ることができる。
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に、各0.5mol%の濃度でNdTFSA3及びFeTFSA2を溶解させた。これらのTFSA塩を予め溶解させておく理由は、陽極溶解及び電解析出では、イオン液体中に溶解している同じ金属イオン種(ここではNd(III),Fe(II))の有り無しにより、印加電圧(過電圧)が異なるためである。すなわち、前記TFSA塩を予め溶解しておくことにより、過電圧を低くした上で、できる限り低い印加電圧によって、陽極溶解或いは電解析出を行うことができるためである。イオン液体のアニオンとして、TFSAを用いているので、鉄族元素および希土類元素を比較的高濃度で、電解浴に予め溶解しておくことができる。
まず、陽極溶解では、陽極にNd系希土類磁石を使用し、陰極に銅基板を使用した。参照極として、EMITFSA(エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド)中に0.1MのAgCF3SO3を溶解させて、銀線を浸漬させた構造の電極を使用した。Nd系希土類磁石中の希土類元素及び鉄族元素をイオン液体中に溶解させるため、浴塩温度を100℃として、3.12Vの電圧を印加して、180分間の陽極溶解を実施した。その結果、陽極の重量が減少した。また、使用した浴塩中の各イオン濃度をICP/MSにより分析した結果、Fe及びNdが、初期濃度より増加していた。
その結果、陰極に6.3mgの電解析出物が得られた。この電解析出物のEDX分析の結果を図11に示す。Pt由来のピークは、SEM観察のために行った蒸着処理によるものである。このEDX分析の結果では、Fe由来のピークが観察され、Nd由来のピークは観察されない。これは、電解析出Iにおいて、鉄族元素を選択的に回収できたことを意味する。また、電解析出物の回収量から計算した陰極電流効率は、95.8%であった。つづいて、2回目の定電位電解では、陰極を新しい銅基板に取り換えて、1回目と同じ浴塩温度で、−1.35Vにて295分間の定電位電解を行った。
その結果、陰極に5.2mgの鉄族元素が析出した。この際の陰極電流効率は95.1%であった。同様の電解析出を合計4回実施し、電解析出物の全回収量と仕込み濃度から計算した結果、電解回収率は94.1%であり、イオン液体中の鉄族元素は概ね回収できた。
電気泳動を合計3回行った後、回収したNd濃度をICP/MS分析した結果、当該イオン液体中のNd濃度が高められていた。
その結果、陰極に7.8mgの電解析出物が得られた。この電解析出物は、EDX分析(図12)を行った結果、Ndであった。図12におけるPt由来のピークは、SEM観察のために行った蒸着処理によるものである。また、電解析出物の回収量から計算した陰極電流効率は、94.6%であった。
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体中に各0.5mol%の濃度でNdTFSA3とFeTFSA2を溶解させた。この希土類元素及び鉄族元素を含むイオン液体を電解浴として使用した。
まず、陽極溶解では、陽極としてNd系希土類磁石を使用し、陰極として銅基板を使用した。参照極は、EMITFSA中に0.1MのAgCF3SO3を溶解させて、銀線を浸漬させた構造の電極を使用した。Nd系希土類磁石中の希土類元素及び鉄族元素をイオン液体中に溶解させるため、浴塩温度を100℃として、−3.25Vの電圧を印加して、650分間の陽極溶解を実施した。その結果、陽極の重量が減少した。また、使用した浴塩中の各イオン濃度の増加をICP/MS分析により確認した。ここで、陽極溶解の電位印加時間を、前述の試験例8の場合よりも長くし、総通電量を多くすることによって、イオン液体中の希土類イオン濃度を十分に高められた。
その結果、陰極には8.7mgの電解析出物が得られた。この電解析出物が、試験例8ではFeであったように、全てFeであると仮定した場合の陰極電流効率は、94.9%であった。つづいて、2回目の定電位電解では、陰極を新しい銅基板に取り換えて、1回目と同じ浴塩温度で、−1.3Vにて475分間の定電位電解を行った。
その結果、陰極に8.2mgの鉄族元素(Fe)が析出した。この際の陰極電流効率は93.2%であった。同様の電解析出を合計3回実施し、電解析出物の全回収量と仕込み濃度から計算した結果、電解回収率は96.5%であり、イオン液体中の鉄族元素は概ね回収できた。
その結果、9.2mgの電解析出物が得られた。この電解析出物が、試験例8ではNdであったように、全てNdであると想定した場合の陰極電流効率は、96.4%であった。電解析出物を酸溶液に溶解して、ICP/MSによって分析したところ、電解析出物はNdであった。
P2225TFSA及びP2225FSAを0.67:0.33のモル比で混合したイオン液体(以下では、「P2225(0.67TFSA,0.33FSA)」と表記することがある。)、P2225TFSA、およびP2225FSAの3種類のイオン液体中に、Nd(III)の濃度が0.5mol%となるように、NdTFSA3又はNdFSA3を溶解させた。
ここで、希土類FSA塩の作製方法は、次の通りである。グローブボックス中でKFSAを秤量後、ニトロメタンを加えて溶解させ、HClO4(和光純薬工業株式会社製)と混合して、次の反応(KFSA+HClO4→HFSA+KClO4)によりHFSAを合成した。その後、30分攪拌して反応を完結させた。ここで、沈殿した白色物(KClO4)をろ過して除去した。次に、ろ過後の溶液に希土類酸化物を加え、希土類FSA塩を合成した。合成した希土類FSA塩は50℃で48時間以上真空引きして、溶媒を除去した。
また、前記3種類のイオン液体を電解浴として使用し、これらの浴塩中に、陽極としてNdロッドを浸漬し、陰極として銅基板を浸漬させた。浴塩温度を100℃として、−2.92Vにて265分間の定電位電解を行った。その際の陰極電流効率を表4に示す。
TFSAとFSAを混合したアニオンを含むイオン液体では、陰極電流効率が高かった。陰極で得られた電解析出物は、酸溶液に溶解してICP/MSで分析したところ、Ndであった。
すなわち、拡散は、電場が発生していない媒体中において、電極表面と溶液沖合の間に生じる濃度分布(濃度差)から生じるイオン種の物質移動速度のことである。一方、移動度は、電場を生じた媒体中において、カチオンはカソード方向へ、アニオンはアノード方向に動く際の、イオン種の物質移動速度に相当する。故に、拡散係数と移動度とは、その意味が異なる。
一例として、リチウムのようなイオン半径の小さいイオン種は、拡散係数が高い。一方、その移動度は、リチウム周りに存在するアニオンから受ける相互作用(ポテンシャル障壁)により変わるため、一概に高いとは言えない。実際のところ、リチウムの移動度は、ナトリウムやカリウムよりも低くなる。このように、拡散係数が高い場合に、必ずしも移動度が高いとは言えない。
電気泳動工程では、拡散や対流効果を無視できる環境を泳動管の中に作り出しているので、希土類イオンと溶媒を構成するカチオンとの間に、一定の移動度差を生じさせられる。これに基づいて、希土類イオン(希土類元素)が濃縮されることを、その原理としている。一方、電解析出工程では、ある特定の電場を発生させた場合、電極表面と溶液沖合との間に、拡散層と呼ばれる、ある幅をもった濃度分布が生じる。ここでは、金属が析出する電析過程は、泳動や対流という物質移動が支配的ではなく、拡散が律速段階(反応過程を決める段階のこと)になる。よって、電解析出過程の効率は、拡散係数の大小が1つの判断基準となる。
Claims (4)
- 鉄族元素及び希土類元素を含有する資源を溶解させたイオン液体から、該鉄族元素を電解析出により回収する工程Aと、該鉄族元素の回収処理を経たイオン液体から該希土類元素を電解析出により回収する工程Bと、を含む鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法であり、
前記イオン液体は、式PR1R1R1R2で表される四級ホスホニウムのカチオン、又は式NR3R3R3R4で表される四級アンモニウムのカチオンと、
テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミド(N[SO2(CF2)nCF3]2)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO2F)2)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3)、メタンスルホネート(SO3CH3)、トリフルオロ酢酸(CF3COO)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN)2)、ハロゲン、ジアルキルリン酸((R5O)2POO)、ジアルキルジチオリン酸((R6O)2PSS)、及び脂肪族カルボン酸(R7COO)からなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとから構成されることを特徴とする、鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
[上記オニウムカチオンの式中、R1およびR3は、置換基を有していてもよい炭素数2〜6の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R2およびR4は置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、若しくは脂環状のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基である。上記オニウムカチオンの有する炭素数の総数は20以下である。
複数のR1はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R1とR2とは互いに異なる基である。複数のR3はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、R3とR4とは互いに異なる基である。nは0〜5の整数を表す。また、R5、R6、及びR7は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜14の直鎖状、分岐状、又は脂環状のアルキル基である。] - 前記工程Aを経たイオン液体を電気泳動して、該イオン液体に含まれる希土類元素を濃縮する工程Cを、前記工程Bの前に備えることを特徴とする請求項1に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
- 前記工程Aにおいて、前記資源に含有される鉄族元素を前記イオン液体に溶解させつつ、該鉄族元素を電解析出により回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄族元素及び希土類元素のイオン液体を利用した回収方法。
- 第一の槽内において、鉄族元素及び希土類元素を含む資源を溶解させたイオン液体から鉄族元素を電解析出により回収する第一の電極、及び該第一の電極による処理を経たイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第二の電極を有する第一処理部と、
第一の槽内において、前記第二の電極による処理を経たイオン液体に残存する希土類元素を電気泳動により濃縮する第二処理部と、
第二の槽内において、前記第二処理部で濃縮された希土類元素を含むイオン液体から希土類元素を電解析出により回収する第三の電極を有する第三処理部と、
を少なくとも備える鉄族元素及び希土類元素の回収装置。
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