JP5553304B2 - 固体表面の改質方法及び表面改質された基材 - Google Patents

固体表面の改質方法及び表面改質された基材 Download PDF

Info

Publication number
JP5553304B2
JP5553304B2 JP2010043506A JP2010043506A JP5553304B2 JP 5553304 B2 JP5553304 B2 JP 5553304B2 JP 2010043506 A JP2010043506 A JP 2010043506A JP 2010043506 A JP2010043506 A JP 2010043506A JP 5553304 B2 JP5553304 B2 JP 5553304B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
contact angle
solid surface
group
water
substrate
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2010043506A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2010222703A (ja
Inventor
篤 穂積
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Original Assignee
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST filed Critical National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Priority to JP2010043506A priority Critical patent/JP5553304B2/ja
Publication of JP2010222703A publication Critical patent/JP2010222703A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5553304B2 publication Critical patent/JP5553304B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Description

本発明は、固体表面の改質方法及び表面改質された基材に関するものであり、更に詳しくは、固体表面に、環状、又は状構造からなる有機分子を共有結合を介して被覆し、分子膜を形成することにより、液体と固体表面の相互作用を著しく抑制して、前進接触角(θ)と後退接触角(θ)の差(θ−θ接触角ヒステリシス)を小さくすることにより、液滴の滑落・滑水性、耐水性、固体表面からの液滴の除去性を向上させて耐食性あるいは防食性にする固体表面の改質方法及び表面改質された基材に関するものである。
本発明は、金属、金属酸化膜、金属酸化物、合金、半導体、ポリマー、セラミックス、ガラス基材表面に関して、従来法では困難であった「接触角ヒステリシスのない」撥水、超撥水性、ないし撥油性を示す表面に改質することにより、液滴の滑落・滑水性、耐水性、固体表面からの液滴の除去性を向上させて耐食性あるいは防食性にすることを可能とする固体表面の表面処理に関する新技術・新製品を提供するものである。
固体表面への有機分子の吸着現象は、分子配向、密度、表面化学反応のkinetics、反応特異性の解明といった表面科学における基礎的な研究分野であるだけでなく、防腐性や密着性の向上、疎水化/親水化といった実用的な表面処理分野においても重要な研究テーマとして認識されている。
最近、有機分子の化学吸着によって形成される自己組織化単分子膜(SAM:Self−assembled Monolayer)に関する研究が大きく進展し、基礎だけでなく、産業応用面でも注目されるようになった。自己組織化単分子膜は、膜を構成する有機分子を目的に応じて選択することにより、膜構造、固体表面の機能性、反応性などを、任意にデザインすることが可能である。
例えば、NH基やCHO基のような官能基で終端された自己組織化単分子膜を被覆することで、反応性に富んだ表面が形成できるのに対し、CH基やCF基のような不活性な官能基で終端された自己組織化単分子膜を利用すれば、表面エネルギーを低くし、疎水化することもできる。
自己組織化単分子膜を形成する有機分子と基板との組み合わせの代表的な例として,金属単結晶やGaAsなどの表面とチオールなどの有機硫黄化合物、Si(自然酸化膜[SiO])表面やガラス表面と有機シラン化合物(R’SiX4−n,n=1,2,3,一般的にX=Cl,OR基)の例がよく知られている。特に、有機シラン化合物の自己組織化単分子膜においては、1980年に、イスラエルのSagiv教授らのグループによる報告(非特許文献1)以来、この分野の研究が世界中で精力的な研究が行われている。
有機シランは、SiOのような酸化物表面と強固なシロキサン(Si−O−Si)結合を形成するため、機械的強度や化学的安定性に優れた自己組織化単分子膜を形成する。Siやガラス表面への自己組織化単分子膜形成と比較すると、ポリマー、金属、金属酸化膜、金属酸化物、合金表面への自己組織化単分子膜形成に関する研究は少なく、細胞などの生体分子の付着抑制や、低表面エネルギー化/疎水化による防腐特性や耐摩耗性向上を目的にしたものが多い。
ポリマー表面は、一般に、化学的に不活性な上、プラズマなどにより改質して活性化したポリマー表面が、非常に不安定であることと、活性化により生成する極性基の種類が、不均一で、ランダムに配向していることから、高密度/高配向な自己組織化単分子膜を形成することを困難にさせている。また、ポリマー基板の低耐熱性により、高温処理が困難であるという問題もある。
一方、金属(金属酸化膜を含む)、金属酸化物、合金表面では、有機シラン化合物以外に、ホスホン酸(例えば、非特許文献2)、長鎖アルキル脂肪酸(例えば、非特許文献3)が、自己組織化単分子膜を形成することが報告されている。
前述したように、自己組織化単分子膜形成に使用する分子の末端官能基の種類により、様々な固体の表面特性、特に“濡れ性”を制御することが可能である。固体表面の濡れ性は、一般的に、接触角で測定し、その大きさで評価される。大きいほど濡れ性が悪いこと(疎水的/撥水的)を意味し、反対に、接触角が小さいほど濡れ性が良いこと(親水的)を意味する。
例えば、ガラス表面に撥水性を示すフッ素系シランカップリング剤を用いて自己組織化単分子膜を形成すると、表面は、非常に疎水的になり、得られる水滴接触角は、117°となる。この水滴接触角は、水平面で水滴が静止した状態で測定した値、すなわち「静的接触角」、である。この表面は、高い撥水性を示すにも関わらず、水は、固体表面に付着し、飛散性、滑水性、水滴除去性に劣る。この現象は、表面の動的濡れ性に大きく関与している。
前進接触角(θ)と後退接触角(θ)、すなわち「動的接触角」、を測定すると、両者の値には、差、いわゆるヒステリシス(θ−θ)、が生じる。この値が小さく、あるいはゼロになれば、水滴は、大きな変化を伴うことなく、わずかに基板を傾けただけで、表面を容易に滑落していく。このヒステリシスが生じる原因は、形成した自己組織化単分子膜の被覆率の低さ、低規則性構造により、水滴と表面の極性官能基が相互作用する、いわゆる“ピン留め効果”によるものと考えられている(非特許文献4)。
これまでの自己組織化単分子膜形成に関する研究では、自己組織化単分子膜形成前後の基板表面の濡れ性の変化は、静的接触角を用いて評価することが主流であった。しなしながら、最近、各種の工学分野で“動的濡れ性”の重要性が認識されはじめている。材料表面での水の動的な挙動は、“液滴の除去性能”の指針として特に重要である。
これまでに、前述のヒステリシスを小さくし、水滴の滑落性を向上させる表面処理技術が、わずかではあるが幾つか提案されている。McCarthyらは、トリス(トリメチルシロキシ)シリルエチレンジメチルシランを、シリコン基板に共有結合(シロキサン結合、Si−O−Si)で固定化したところ、シリコン表面は、疎水化し、前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、それぞれ104°/103°となった(非特許文献5)。
また、ジメチルジクロロシランをシリコン基板に固定化したところ、シリコン表面は、同様に疎水化し、前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、それぞれ104°/103°となった(非特許文献6)。
このように、極めて小さいヒステリシスを得たという報告は、いずれもシリコン基板に限定されており、その他の固体表面、特に、金属やポリマーなどの実用基材表面では、ヒステリシスに関する開発例は、皆無であり、ヒステリシスが極めて小さい表面は、実現されていない。
例えば、Hintzeらは、Al合金(2024−T3)表面に、分子鎖長の異なる(デシル基[R’=CH[CH,オクタデシル基[R’=CH[CH17]]有機シラン(X=OCHCH,n=1)の自己組織化単分子膜を形成したが、ヒステリシスは、大きいものであった。
すなわち、いずれの分子を用いても、高い疎水性の表面(静的接触角113−117°)は得られるものの、動的水滴接触角の測定では、前進(θ)/後退接触角(θ)の差(ヒステリシス)が、50−70°と大きいため、液残りによる腐食が観察されている(非特許文献7)。
以上のように、従来、自己組織化単分子膜の形成については、種々の報告例があるものの、動的濡れ性に対する認識のなさから、静的接触角しか問題とされておらず、また、実際に、ヒステリシスをなくすことや、極めて小さいヒステリシスの表面とすることは、未だ、手探りの状態であって、その実現化は、非常に困難であるものと認識されていた。
J.Sagiv;J.Am.Chem.Soc.,102,92(1980) J.A.DeRose,E.Hoque,B.Bhushan and H.J.Mathieu;Surf.Sci.,602,1360(2008) C.O.Timmons and A.W.Zisman,J.Phys.Chem.,69,984(1965) Gao,L.McCarthy,T.J.Langmuir,23,3762(2007) Fadeev,A.;McCarthy,T.J.Langmuir,15,7328(1999) Fadeev,A.;McCarthy,T.J.Langmuir,16,7268(2000) P.E.Hintze and L.M.Calle;Electrochimica Acta,51,1761(2006)
このような状況の中で、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、接触角ヒステリシスのないポリマー表面や金属表面の形成を可能とする実用基材の表面処理技術を開発することを目標として鋭意研究を進めた結果、基材表面を、酸素プラズマ、紫外線、オゾンなどにより洗浄して親水化した後、好適には、ポリマー基材では、表面に酸化シリコン皮膜を予め被覆した後、あるいは金属基材では、光洗浄あるいは熱水処理した後、これらの基材表面に、環状、又は状構造を有する有機分子を気相から付着させて、膜厚が3nm以下の分子膜を形成することで、接触角ヒステリシスの極めて小さい表面を、シリコン基板だけでなく、実用金属であるアルミニウム、酸化チタン、ポリマー基材の表面で、接触角ヒステリシスの極めて小さい表面を実現できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
本発明は、固体表面に、有機分子を気相から付着させることにより、該有機分子の分子膜を化学結合で固定化して分子膜を形成することにより、液体と固体表面の相互作用を著しく抑制して、前進接触角と後退接触角の差である接触角ヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性、ないし撥油性を示す固体表面に改質することを可能とする固体表面の改質方法及び表面改質された基材を提供することを目的とするものである。
本発明は、“動的濡れ性”を制御することにより、液滴と固体表面の相互作用を抑制し、例えば、自動車・建材用ガラスの雨滴除去性の向上による視界確保、汚れ付着制御、μ−TASやバイオチップなどの水流制御、水溶性のインクジェットノズルなどのマイクロ水滴の制御などにおいて特に有効な固体表面の改質方法及び表面改質された基材を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決する本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)固体表面を改質する方法であって、
平滑な固体表面を予め親水化した後、該固体表面に、メチル基、フルオロアルキル基の内から選択される1種類以上の不活性な官能基と、水酸基、水素基、クロロ基の内から選択される1〜4個の反応性官能基で終端された、Si−O結合を持つ環状又はSi−C又はSi−O結合を持つ枝状環状又は枝状構造を有する有機シランからなる有機分子を気相雰囲気から固体表面の水酸基、又は酸素含有極性基との間で化学結合を介して固定化することで該有機分子の膜を形成することにより、液体と固体表面の相互作用を抑制して、水、油に対する前進接触角と後退接触角の差である接触角ヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性、ないし撥油性を示す表面に改質することを特徴とする固体表面の改質方法。
(2)前進接触角、後退接触角が、それぞれ30〜170°の範囲である、前記(1)に記載の固体表面の改質方法。
(3)有機分子を固定化する際の処理温度が、50〜180℃、処理時間が少なくとも24時間である、前記(1)又は(2)に記載の固体表面の改質方法。
(4)ポリマー基材であって、該基材の表面が、膜厚0.5nm〜1ミクロンの酸化シリコン薄膜(含ナノ細孔酸化シリコン薄膜)で被覆されている、前記(1)から(3)のいずれかに記載の固体表面の改質方法。
(5)固体表面が、金属、金属酸化膜、金属酸化物、合金、半導体、ポリマー、セラミックス(含メソ細孔セラミックス)、及びガラス基材の内から選択される固体表面である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の固体表面の改質方法。
(6)金属、金属酸化膜、金属酸化物、合金、半導体、ポリマー、セラミックス(含メソ細孔セラミックス)、及びガラス基材の内から選択される平滑な固体表面に有機分子の膜を有する表面改質された基材であって、
該固体表面に、メチル基、フルオロアルキル基の内から選択される1種類以上の不活性な官能基と、水酸基、水素基、クロロ基の内から選択される1〜4個の反応性官能基で終端された、Si−O結合を持つ環状又はSi−C又はSi−O結合を持つ枝状環状又は枝状構造を有する有機シランからなる有機分子が固体表面の水酸基、又は酸素含有極性基との間で化学結合を介して固定化されて有機分子の膜が形成されており、該有機分子の膜厚が、0超〜3nmであり、水、油に対する前進接触角と後退接触角の差である接触角ヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性、ないし撥油性を示すことを特徴とする表面改質された基材。
(7)有機分子が、固体表面の水酸基、又は酸素含有極性基との間で化学結合を介して固定化されている、前記(6)に記載の表面改質された基材。
(8)金属基材であって、熱水処理により該基材の表面に、高さ5〜50nmの針状構造が形成されている、前記(6)に記載の表面改質された基材。
(9)水、油に対する前進接触角、後退接触角が、それぞれ30°〜170°の範囲であり、水、油に対する前進接触角と後退接触角の差である接触角ヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性、ないし撥油性を示す、前記(6)から(8)のいずれかに記載の表面改質された基材。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ポリマーや金属などの様々な基材の表面を、予め、プラズマ、紫外線、オゾンなどで不純物除去並びに親水化をした後、ポリマー基材では、表面に酸化シリコン皮膜を予め被覆した後、あるいは金属、例えば、アルミニウムでは、光洗浄あるいは熱水処理した後、これらの基材表面に、環状、又は状構造を有する有機分子を気相から付着させ、膜厚が0超〜3nmの分子膜を形成させることで、液滴との相互作用を著しく抑制することが可能な、極めて小さい接触角ヒステリシスを有する表面を形成させること、に最大の特徴を有するものである。
本発明では、前進接触角、後退接触角が、それぞれ30°〜170°の範囲であること、また、有機分子を固定化する際の処理温度が、50〜180℃、処理時間が少なくとも24時間であること、また、有機分子が、水酸基、水素基、ビニル基、クロロ基、カルボキシル基、アルデヒド基、イソシアナート基の内から選択される1〜個の反応性官能基で末端が終端されていること、また、有機分子が、メチル基、フルオロアルキル基の内から選択される1種類以上の不活性な官能基で終端されていること、また、ポリマー基材であって、該基材の表面が、膜厚0.5nm〜1ミクロンの酸化シリコン薄膜(含ナノ細孔酸化シリコン薄膜)で被覆されていること、を実施態様としている。
本発明は、表面改質された基材であって、金属、金属酸化膜、金属酸化物、合金、半導体、ポリマー、セラミックス、及びガラス基材の内から選択される固体表面に、環状、又は状構造を有する有機分子が化学結合を介して固定化されており、該有機分子の膜厚が、0超〜3nmであり、後退接触角と前進接触角の差である接触角ヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性、ないし撥油性を示すことを特徴とするものである。
本発明では、有機分子が、固体表面の水酸基、又は酸素含有極性基との間で化学結合を介して固定化されていること、また、金属基材であって、該基材の表面に、高さ5〜50nmの針状構造が形成されていること、また、前進接触角、後退接触角が、それぞれ30°〜170°の範囲であり、前進接触角と後退接触角の差であるヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性を示すこと、を好適な実施態様としている。
本発明で使用し得る基材としては、金属、金属酸化膜、金属酸化物、合金、半導体、ポリマー、セラミックス、ガラスなどの適宜の材料を任意に使用することができる。これらの基材の形状は、板状、粉末状、チューブ状など、任意な形状の基材を使用することができる。
本発明では、基材表面を、予め、酸素プラズマ、真空紫外光、オゾンなどによる処理を施すことにより、該基材表面に付着した有機物を除去することにより、基材表面を親水化する。この場合、好ましくは、波長172nm以下の真空紫外光が使用される。ポリマー基材では、表面に酸化シリコン皮膜を予め被覆することが好ましい。
金属基材、例えば、アルミニウム基材では、熱水で、5分以上処理することが好ましい。基材の具体例としては、シリコン、ガラス、アルミニウム(酸化アルミニウムを含む)、酸化チタン、酸化シリコン(含ナノ細孔酸化シリコン)を被覆したポリマーが好適な基材として例示される。
続いて、基材表面の水酸基、又は酸素含有極性官能基と、環状、又は枝状構造の有機分子の反応性官能基とを反応させる。反応方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは、高価な反応装置、長い処理時間、高い処理温度を必要せず、少量の原料で処理が可能な、気相法による反応が用いられる。
金属基材へ有機分子を気相から付着させる処理をする場合、例えば、処理温度は、50〜180℃程度、処理時間は、24〜72時間あるいはそれ以上、であることが望ましい。付着させる分子膜の膜厚は、用いる有機分子の長さに依存し、0超から3nm程度までの範囲で、任意に制御することが可能である。環状、又は状構造を有する有機分子の末端が不活性な官能基のメチル基やフルオロアルキル基で終端されている場合、疎水性の表面が形成される。
上述した方法により、基材表面に、3nm以下の環状、又は状構造の有機分子の分子膜を形成することにより、液滴との相互作用を抑制する効果が得られる。この現象は、平滑な基材表面に、環状、又は状構造の有機分子の分子膜を形成することによりはじめて出現する。また、特に、熱水処理した後のアルミニウム基板では、低接触角ヒステリシス表面が形成されるだけでなく、撥水性も著しく向上する。
この現象は、基材表面に形成された凸凹構造と、環状、又は状構造の有機分子の分子膜を形成することによりはじめて出現する。分子膜を形成する際に用いる原料は、液体で、蒸気圧が高いものであることが望ましい。固体の場合は、融点が低く、液化した際に十分な蒸気圧が得られるものであることが望ましい。本発明の固体表面の改質方法を用いることにより、従来法では困難であった実用金属やポリマー、セラミックス基材表面の動的濡れ性を向上させることが可能である。
本発明において、液体と固体表面の相互作用を抑制するとは、上記の処理基材の表面が、液滴との相互作用を抑制することを意味し、また、該相互作用を抑制できる理由は、例えば、枝状の有機分子では、枝状の有機分子膜が、あたかも“傘”のような役割を果たし、基材表面の未反応の極性官能基との相互作用を抑制すること、また、環状の有機分子では、環状の有機分子があたかも層状に分子が堆積し、下地の極性官能基との相互作用を抑制すること、という化学的効果によるものと推定される。また、熱水処理したアルミニウムなどの金属基板では、これらの化学的効果に加え、表面構造の凸凹化による空気層の形成という物理的効果が相乗的に働いたものと推定される。
ガラス表面に、撥水性を示すフッ素系シランカップリング剤を用いて自己組織化単分子膜を形成すると、表面は、非常に疎水的になり、得られる水滴接触角は、117°となる。この表面は、高い撥水性を示すにも関わらず、水は、固体表面に付着し、飛散性、滑水性、水滴除去性に劣るため、これらのことが、これまでの技術では、未解決の大きな課題であった。
これに対して、本発明では、平滑な基材表面に、環状、又は状構造の有機分子を気相法により固定化して、有機分子を3nm以下の膜厚で形成することにより、固体/液体界面の相互作用が抑制されて、当該処理基材の表面の接触角ヒステリシスが極めて小さくなり、固体表面からの液滴の除去性を向上させることができるという作用効果が得られ、それにより、上述の未解決の問題を解決することが可能となる。
これらの現象は、前述のように、例えば、基材表面に固定化した枝状構造の有機分子が、あたかも傘の役割を果たし、下地の極性官能基との相互作用を抑制するという化学的な効果により出現するものと推定され、また、環状構造の有機分子では、分子が層状に堆積していくので、表面が環状構造の分子で十分に被覆され、下地の極性官能基との相互作用を抑制するという化学的な効果により出現するものと推定される。
本発明で使用される有機分子については、前述のように、液体では、蒸気圧が高いものであることが望ましく、固体では、融点が低く、液化した際に十分な蒸気圧が得られるものであることが望ましい。また、フッ化炭素やメチル基といった表面エネルギーの低い官能基が一つ入っていることが望ましい。フッ化炭素やメチル基は、表面エネルギーが低いため、得られる基板表面を効果的に疎水化することが可能である。
また、基材表面と強固な化学結合を得るために、反応性官能基が1つ以上入っていることが望ましい。反応性官能基がないと、基材表面と吸着した有機分子の界面で十分な密着性が得られない。なお、膜厚は、基材表面の形状や光学特性に変化を起こすことがないために、3nm以下であることが望ましい。
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)平滑な基材表面に3nm以下の環状、又は状構造の有機分子の分子膜を形成することにより、固体/液体界面の相互作用が抑制され、当該処理基材の表面の接触角ヒステリシスが極めて小さくなるという作用効果が得られる。
(2)本発明により、ポリマー、金属、セラミックス基材表面における、液体と固体表面の相互作用が著しく抑制され、前進接触角(θ)と後退接触角(θ)の差である接触角ヒステリシスが極めて小さくなり、そのため、液滴の滑落性や当該試料表面からの液滴の除去性を大幅に向上させることが可能となる。
(3)有機分子として、例えば、パーフルオロアルキル基終端の分子を用いることで、撥水性の他に撥油性も兼ね備える固体表面にすることが可能になる。
第1図は、実施例1、2に係わる、環状のオルガノシリコン水素化物である、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの分子構造を示す。 第2図は、実施例3、4に係わる、枝状の有機シランである、ビス(トリデカフルオロ1,1,2,2−テトラヒドロオクチルシロキシ)メチルクロロシラン(a)、ビス(トリデカフルオロ1,1,2,2−テトラヒドロオクチルシロキシ)メチルシラン(b)、の分子構造を示す。 第3図は、参考実施例6、7に係わる、熱水処理10分後のアルミニウム表面の原子力間顕微鏡像を示す。 第4図は、参考実施例7に係わる、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルイソシアナート分子膜/熱水処理済みアルミニウムから構成される基板上の水滴の状態を示す。 第5図は、実施例8と、比較例4に係わる、試料の耐水性に関わる結果を示す。 第6図は、実施例9、10に係わる、枝状有機シラン、[ビス(ノナフルオロヘキシルジメチルシロキシ)メチル]シリルエチルジメチルクロロシラン(a)、ビス(ノナフルオロヘキシルジメチルシロキシ)メチルシラン(b)の分子構造を示す。 第7図は、実施例11、12に係わる、枝状有機シラン、ジ−t−ブチルメチルシラン(a)、ジ−t−ブチルメチルクロロシラン(b)の分子構造を示す。 第8図は、実施例13、に係わる、枝状有機シラン、トリ−t−ペントキシシラノールの分子構造を示す。 第9図は、実施例14、15に係わる、枝状有機シラン、トリ−t−ブトキシシラノール(a)、トリ−t−ブチルシラン(b)の分子構造を示す。 第10図は、実施例4、6、7と比較例5に係わる、試料の耐塩水噴霧試験に関わる結果を示す。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の好適な実施例を示す実施例1〜5、8〜16、参考実施例、すなわち参考例として示す実施例6、実施例7を示すものであり、本発明は、該実施例によって何ら限定されるものではない。
シリコン、アルミニウム、酸化チタン、銅、鉄、安定化ジルコニア、スライドガラス、石英基材を、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、環状のオルガノシリコン水素化物である、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン([C16Si],Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を基材表面に化学結合で固定化させる処理を行うことで化学吸着させた。処理温度は、80℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、103°/99°(シリコン)、103°/101°(アルミニウム)、104°/103°(酸化チタン)、104°/102°(銅)102°/100°(鉄)、104°/102°、103°/101°(安定化ジルコニア)、103°/102°(スライドガラス)、102°/99°(石英)となった。
シリコン、アルミニウム、酸化チタン、マグネシウム合金、銅、鉄、安定化ジルコニア、スライドガラス、石英基材を、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、前述の環状のオルガノシリコン水素化物の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンを、気相から基材表面に化学結合で固定化させる処理を行うことで化学吸着させた。処理温度は、180℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、166°/164°(シリコン)、168°/164°(アルミニウム)、163°/161°(酸化チタン)、162°/158°(マグネシウム合金)、165°/162°(銅)164°/162°(鉄)、164°/161°(安定化ジルコニア)、166°/164°(スライドガラス)、165°/163°(石英)となった。
シリコン基材を、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シランである、ビス(トリデカフルオロ1,1,2,2−テトラヒドロオクチルシロキシ)メチルクロロシラン(C2123ClF26Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を基材表面に化学結合で固定化させる処理を行うことで化学吸着させた。処理温度は、70℃、150℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、70℃で、109°/105°、150 ℃で110°/107°となった。また、n−ヘキサデカン(油)の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は70℃で61°/59°、150℃で62°/60°となった。
シリコン、アルミニウム基材を、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シランである、ビス(トリデカフルオロ1,1,2,2−テトラヒドロオクチルシロキシ)メチルシラン(C212426Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を基材表面に化学結合で固定化させる処理を行うことで化学吸着させた。処理温度は、150℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、110°/107°(シリコン)、109°/107°(アルミニウム)となった。また、n−ヘキサデカン(油)の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は64°/63°(シリコン)、52°/50°(アルミニウム)となった。
アクリル基材(旭化成製、デラグラス(登録商標)A)を、大気圧下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して親水化した基材表面に、環状のオルガノシリコン水素化物である、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン([C16Si],Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた。処理温度は、80℃、処理時間は、1時間とした。この試料表面に、再度、同じ光源を利用して、1000Paで、30分間、真空紫外光を照射した。
更に、この試料表面に、枝状の有機シランである、ビス(トリデカフルオロ1,1,2,2−テトラヒドロオクチルシロキシ)メチルクロロシラン(C2123ClF26 Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を基材表面に化学結合で固定化させる処理を行うことで化学吸着させた。処理温度は、70℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、108°/105°となった。
本実施例は、参考実施例、すなわち参考例として示すものである。
アルミニウム基材を熱水中で10分間処理した後、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄し、直鎖状有機シランである、(ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン(FAS:CF[CFCHCHSi[OCH、Gelest製)の蒸気を利用して、気相からFASを基材表面に化学結合で固定化させる処理を行うことで化学吸着させた。処理温度は、150℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、170°/167°となった。
本実施例は、参考実施例、すなわち参考例として示すものである。
アルミニウム基材を、熱水中で、10分間処理した後、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄し、直鎖状の有機分子である、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルイソシアナート(PFI:CF[CFCHCHN=C=O,Aldrich製)の蒸気を利用して、気相からPFIを基材表面に化学結合で固定化させる処理を行うことで化学吸着させた。処理温度は、150℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、167°/165°となった。
実施例4で作製したアルミニウム基材を、室温下で、Milli−Q水中に浸漬した。
シリコン基材を、1000Pa下で30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シラン、[ビス(ノナフルオロヘキシルジメチルシロキシ)メチル]シリルエチルジメチルクロロシラン(C2133ClF18Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた(処理温度は70℃、150℃、処理時間は72時間)。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は70℃で108°/106°、150℃で109°/107°となった。また、n−ヘキサデカン(油)の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は70℃で51°/49°、150℃で52°/50°となった。
シリコン基材を、1000Pa下で30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シラン、ビス(ノナフルオロヘキシルジメチルシロキシ)メチルシラン(C172418Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた(処理温度は150℃、処理時間は72時間)。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は109°/107°となった。また、ヘキサデカン(油)の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は51°/48°となった。
シリコン基材を、1000Pa下で30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シラン、ジ−t−ブチルメチルシラン(C22Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた(処理温度は70℃、処理時間は72時間)。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は111°/109°となった。
シリコン基材を、1000Pa下で30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シラン、ジ−t−ブチルメチルクロロシラン(C21ClSi,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた(処理温度は70℃、処理時間は72時間)。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は108°/106°となった。
シリコン基材を、1000Pa下で30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シラン、トリ−t−ペントキシシラノール(C1534Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた(処理温度は70℃、処理時間は72時間)。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は104°/102°となった。また、n−ヘキサデカン(油)の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は41°/39°となった。
シリコン基材を、1000Pa下で30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シラン、トリ−t−ブトキシシラノール(C1228Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた(処理温度は80℃、処理時間は72時間)。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は97°/95°となった。
シリコン基材を、1000Pa下で30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、枝状の有機シラン、トリ−t−ブチルシラン(C1228Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた(処理温度は80℃、処理時間は72時間)。処理後の表面の水滴の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は100°/99°となった。
実施例4、及び参考実施例6、7で作製したアルミニウム基材を用いて、塩水噴霧試験(JIS2371;塩水(5wt%)35℃で1000時間)を実施した。
比較例1
シリコン、アルミニウム、酸化チタン基材を、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、直鎖状有機シランである、(ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン(FAS:CF[CFCHCHSi[OCH、Gelest製)の蒸気を利用して、気相からFASを化学吸着させた。処理温度は、150℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、120°/110°(シリコン)、125°/110°(アルミニウム)、121°/110°(酸化チタン)となった。
比較例2
シリコン、アルミニウム、酸化チタン基材を、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して洗浄した後、直鎖状有機分子である、パーフルオロイソシアナート(PFI:CF[CFCHCHN=C=O,Aldrich製)の蒸気を利用して、気相からPFIを化学吸着させた。処理温度は、150℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、118°/108°(シリコン)、125°/103°(アルミニウム)、120°/102°(酸化チタン)となった。
比較例3
アクリル基材(旭化成製、デラグラス)を、1000Pa下で、30分間、波長172nmの真空紫外光に暴露して親水化した基材表面に、枝状の有機シランである、ビス(トリデカフルオロ1,1,2,2−テトラヒドロオクチルシロキシ)メチルクロロシラン(C2123ClF26 Si,Gelest製)の蒸気を利用して、気相から当該分子を化学吸着させた。処理温度は、70℃、処理時間は、72時間とした。処理後の表面の前進接触角(θ)と後退接触角(θ)は、87°/15°となった。
比較例4
比較例1で作製したアルミニウム基材を、室温下で、Milli−Q水中に浸漬した。
比較例5
未処理のアルミニウム基材を用いて、塩水噴霧試験(JIS2371;塩水(5wt%)35℃で1000時間)を実施した。
以上の16の実施例、及び5つの比較例で作製した試料表面を相対的に評価すると、実施例1、3、4、9−15と、比較例1、2との比較では、平滑な基板表面では、環状あるいは枝状の有機分子を利用して分子膜を形成した基板のみが、水滴接触角のヒステリシスの小さい疎水性表面を実現していることが分かった。
実施例2では、平滑な基板表面であるにも関わらず、反応温度の違いで、ヒステリシスの小さい超撥水性表面を形成することが分かった。これは、高温下では、環状のオルガノシリコン水素化物である、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンが気相中で均一核生成反応し、粒子が優先的に基板表面に析出し、表面に凸凹の構造が導入されるためである。
実施例5と、比較例3で作製した試料を相対的に評価すると、ポリマー基材では、分子膜を、直接、基材に被覆した試料では、十分な疎水性は実現できなかったのに対し、表面に、予め酸化シリコン皮膜を被覆した場合のみ、水滴接触角のヒステリシスの小さい疎水性表面を実現することが分かった。実施例6、7と、比較例3を比較すると、金属(アルミニウム)表面に凸凹がある場合、分子構造に関係なく、ヒステリシスの小さい超撥水性表面を形成することが分かった。
更に、実施例8と、比較例3の結果を相対的に評価すると、同じフッ素系分子膜であるにも関わらず、枝状構造の有機シラン分子は、動的接触角の変化が極めて小さいことが分かった。この結果は、表面の枝状の有機シラン分子が傘の役割を果たし、水との相互作用を効率的に抑制していることを証明するものである。
更に、実施例4、及び参考実施例6、7と比較例5の結果を相対的に評価すると、未処理のアルミニウム基板は約96時間で腐食し、表面が真っ白に変化した。一方、枝状構造のフッ素系有機シラン分子で処理したアルミニウム表面及び超撥水性化したアルミニウム表面は、1ヶ月間の塩水噴霧試験にも関わらず、金属光沢を保っていた。これらの表面は、動的接触角の差が極めて小さいため、塩水が表面に残存しにくい。そのため、優れた耐食性を示したとものと考えられる。
以上詳述したように、本発明は、固体表面の改質方法及び表面改質された基材に係るものであり、本発明により、平滑な基材表面に3nm以下の環状、又は状構造の有機分子の分子膜を形成することにより、固体/液体界面の相互作用が抑制され、当該処理基材表面の接触角ヒステリシスが極めて小さくなるという作用効果が得られる。
この現象は、例えば、基材表面に固定化した枝状有機分子が、下地の極性官能基との相互作用を抑制するという化学的な効果により出現するものであり、また、環状有機分子が、下地の極性官能基との相互作用を抑制するという化学的な効果により出現するものである。
本発明は、従来技術では困難であった、ポリマー、金属、セラミックス基材表面における、液体と固体表面の相互作用を著しく抑制することを可能とし、前進接触角(θ)と後退接触角(θ)の差(ヒステリシス)が小さくなり、液滴の滑落性や当該試料表面からの液滴の除去性を大幅に向上させることを可能とする、固体表面の新しい表面改質技術を提供するものとして有用である。

Claims (9)

  1. 固体表面を改質する方法であって、
    平滑な固体表面を予め親水化した後、該固体表面に、メチル基、フルオロアルキル基の内から選択される1種類以上の不活性な官能基と、水酸基、水素基、クロロ基の内から選択される1〜4個の反応性官能基で終端された、Si−O結合を持つ環状又はSi−C又はSi−O結合を持つ枝状環状又は枝状構造を有する有機シランからなる有機分子を気相雰囲気から固体表面の水酸基、又は酸素含有極性基との間で化学結合を介して固定化することで該有機分子の膜を形成することにより、液体と固体表面の相互作用を抑制して、水、油に対する前進接触角と後退接触角の差である接触角ヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性、ないし撥油性を示す表面に改質することを特徴とする固体表面の改質方法。
  2. 前進接触角、後退接触角が、それぞれ30〜170°の範囲である、請求項1に記載の固体表面の改質方法。
  3. 有機分子を固定化する際の処理温度が、50〜180℃、処理時間が少なくとも24時間である、請求項1又は2に記載の固体表面の改質方法。
  4. ポリマー基材であって、該基材の表面が、膜厚0.5nm〜1ミクロンの酸化シリコン薄膜(含ナノ細孔酸化シリコン薄膜)で被覆されている、請求項1から3のいずれかに記載の固体表面の改質方法。
  5. 固体表面が、金属、金属酸化膜、金属酸化物、合金、半導体、ポリマー、セラミックス(含メソ細孔セラミックス)、及びガラス基材の内から選択される固体表面である、請求項1から4のいずれかに記載の固体表面の改質方法。
  6. 金属、金属酸化膜、金属酸化物、合金、半導体、ポリマー、セラミックス(含メソ細孔セラミックス)、及びガラス基材の内から選択される平滑な固体表面に有機分子の膜を有する表面改質された基材であって、
    該固体表面に、メチル基、フルオロアルキル基の内から選択される1種類以上の不活性な官能基と、水酸基、水素基、クロロ基の内から選択される1〜4個の反応性官能基で終端された、Si−O結合を持つ環状又はSi−C又はSi−O結合を持つ枝状環状又は枝状構造を有する有機シランからなる有機分子が固体表面の水酸基、又は酸素含有極性基との間で化学結合を介して固定化されて有機分子の膜が形成されており、該有機分子の膜厚が、0超〜3nmであり、水、油に対する前進接触角と後退接触角の差である接触角ヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性、ないし撥油性を示すことを特徴とする表面改質された基材。
  7. 有機分子が、固体表面の水酸基、又は酸素含有極性基との間で化学結合を介して固定化されている、請求項6に記載の表面改質された基材。
  8. 金属基材であって、熱水処理により該基材の表面に、高さ5〜50nmの針状構造が形成されている、請求項6に記載の表面改質された基材。
  9. 水、油に対する前進接触角、後退接触角が、それぞれ30°〜170°の範囲であり、水、油に対する前進接触角と後退接触角の差である接触角ヒステリシスが、5°以下の撥水性、超撥水性、ないし撥油性を示す、請求項6から8のいずれかに記載の表面改質された基材。
JP2010043506A 2009-02-27 2010-02-26 固体表面の改質方法及び表面改質された基材 Expired - Fee Related JP5553304B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2010043506A JP5553304B2 (ja) 2009-02-27 2010-02-26 固体表面の改質方法及び表面改質された基材

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009047415 2009-02-27
JP2009047415 2009-02-27
JP2010043506A JP5553304B2 (ja) 2009-02-27 2010-02-26 固体表面の改質方法及び表面改質された基材

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2010222703A JP2010222703A (ja) 2010-10-07
JP5553304B2 true JP5553304B2 (ja) 2014-07-16

Family

ID=43040198

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2010043506A Expired - Fee Related JP5553304B2 (ja) 2009-02-27 2010-02-26 固体表面の改質方法及び表面改質された基材

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5553304B2 (ja)

Families Citing this family (10)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5768233B2 (ja) * 2010-12-17 2015-08-26 国立研究開発法人産業技術総合研究所 固体表面の濡れ性制御方法及びその固体表面
JP2012174746A (ja) * 2011-02-18 2012-09-10 Nagoya City 半導体デバイスおよびその製造方法
KR101977708B1 (ko) * 2012-09-04 2019-08-29 삼성디스플레이 주식회사 표시 장치 및 그 제조 방법
JP6142562B2 (ja) * 2013-02-13 2017-06-07 国立大学法人名古屋大学 超撥水性材料の製造方法および超撥水性材料
JP6346456B2 (ja) 2013-02-22 2018-06-20 国立研究開発法人産業技術総合研究所 撥水/撥油皮膜及びその製造方法
CN107109124B (zh) 2014-10-31 2021-07-09 住友化学株式会社 透明被膜
KR102500899B1 (ko) 2014-10-31 2023-02-16 스미또모 가가꾸 가부시키가이샤 발수 발유 코팅 조성물
JP6715531B2 (ja) 2014-10-31 2020-07-01 住友化学株式会社 透明皮膜
CN107109128B (zh) 2014-11-12 2021-05-25 住友化学株式会社 疏水疏油涂敷组合物及透明被膜
CN112981400B (zh) * 2021-02-07 2023-04-07 周口师范学院 一种超疏水泡沫铁表面的制备方法及其在含油废水处理中的应用

Family Cites Families (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002214402A (ja) * 2001-01-19 2002-07-31 Toppan Printing Co Ltd 反射防止積層体
JP4464041B2 (ja) * 2002-12-13 2010-05-19 キヤノン株式会社 柱状構造体、柱状構造体を有する電極、及びこれらの作製方法
JP2006291266A (ja) * 2005-04-08 2006-10-26 Daikin Ind Ltd フッ素化合物の気相表面処理法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2010222703A (ja) 2010-10-07

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5553304B2 (ja) 固体表面の改質方法及び表面改質された基材
JP5950399B2 (ja) 有機−無機透明ハイブリッド皮膜とその製造方法
JP4928940B2 (ja) 酸化層により接着される多層コーティングの制御された気相堆積
Rezaei et al. One-step chemical vapor deposition and modification of silica nanoparticles at the lowest possible temperature and superhydrophobic surface fabrication
TWI472641B (zh) 基材之高疏水性表面的處理方法
KR100762573B1 (ko) 산화물층에 의해 부착된 다층 코팅의 제어되는 기상 증착
Ramezani et al. Preparation of silane-functionalized silica films via two-step dip coating sol–gel and evaluation of their superhydrophobic properties
Dey et al. Cleaning and anti-reflective (AR) hydrophobic coating of glass surface: a review from materials science perspective
Song et al. Self-assembly of amino-functionalized monolayers on silicon surfaces and preparation of superhydrophobic surfaces based on alkanoic acid dual layers and surface roughening
JP2809889B2 (ja) 撥水撥油性被膜及びその製造方法
WO2014136275A1 (ja) 有機-無機透明ハイブリッド皮膜とその製造方法
KR920014909A (ko) 발수발유성피막 및 그 제조방법
JP2011526835A (ja) パーフルオロ化合物を必要としない、またはフッ素を含まない、超疎水性エアロゲル
Kim et al. Micro-nano hierarchical superhydrophobic electrospray-synthesized silica layers
JP5396063B2 (ja) 機能性金属複合基板およびその製造方法
JPH04367721A (ja) フッ素系化学吸着単分子累積膜及びその製造方法
KR102415046B1 (ko) 고체 표면의 개질 방법
JP3870253B2 (ja) 無機−有機ハイブリッド薄膜及びその製造方法
JPH04255343A (ja) 撥水撥油コーティング膜及びその製造方法
US11332588B2 (en) Process for modification of a solid surface
JP5768233B2 (ja) 固体表面の濡れ性制御方法及びその固体表面
KR20200125944A (ko) 고체 표면의 개질 방법
JP3444524B2 (ja) 撥水撥油性被膜を有する物品及びガラス物品
Kobrin et al. Molecular vapor deposition (MVD) for improved SAM coatings
Kobrin et al. Durable Anti-Stiction Coatings by Molecular Vapor Deposition (MVD)

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20120818

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20130711

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20130716

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20130917

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20131210

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20140207

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20140507

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20140520

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5553304

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees