以下、一実施の形態におけるPDPについて説明する。
PDPの基本構造は、一般的な交流面放電型PDPである。図1に示すように、PDP1は前面ガラス基板3などよりなる前面板2と、背面ガラス基板11などよりなる背面板10とが対向して配置されている。前面板2と背面板10とは、外周部がガラスフリットなどからなる封着材によって気密封着されている。封着されたPDP1内部の放電空間16には、NeおよびXeなどの放電ガスが53kPa(400Torr)〜80kPa(600Torr)の圧力で封入されている。
前面ガラス基板3上には、走査電極4および維持電極5よりなる一対の帯状の表示電極6とブラックストライプ7が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板3上には表示電極6とブラックストライプ7とを覆うようにコンデンサとしての働きをする誘電体層8が形成される。さらに誘電体層8の表面にMgOなどからなる保護層9が形成されている。
走査電極4および維持電極5は、それぞれインジウム錫酸化物(ITO)、二酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性金属酸化物からなる透明電極上にAgを含むバス電極が積層されている。
背面ガラス基板11上には、表示電極6と直交する方向に、銀(Ag)を主成分とする導電性材料からなる複数のデータ電極12が、互いに平行に配置されている。データ電極12は、下地誘電体層13に被覆されている。さらに、データ電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。下地誘電体層13上および隔壁14の側面には、データ電極12毎に、紫外線によって赤色に発光する蛍光体層15、緑色に発光する蛍光体層15および青色に発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。表示電極6とデータ電極12とが交差する位置に放電セルが形成されている。表示電極6方向に並んだ赤色、緑色、青色の蛍光体層15を有する放電セルがカラー表示のための画素になる。
なお、本実施の形態において、放電空間16に封入する放電ガスは、10体積%以上30%体積以下のXeを含む。
次に、PDP1の製造方法について説明する。
まず、前面板2の製造方法について説明する。フォトリソグラフィ法によって、前面ガラス基板3上に、走査電極4および維持電極5とブラックストライプ7とが形成される。走査電極4および維持電極5は、導電性を確保するためのAgを含むバス電極4b、5bを有する。また、走査電極4および維持電極5は、透明電極4a、5aを有する。バス電極4bは、透明電極4aに積層される。バス電極5bは、透明電極5aに積層される。
透明電極4a、5aの材料には、透明度と電気伝導度を確保するためITOなどが用いられる。まず、スパッタ法などによって、ITO薄膜が前面ガラス基板3に形成される。次にリソグラフィ法によって所定のパターンの透明電極4a、5aが形成される。
バス電極4b、5bの材料には、AgとAgを結着させるためのガラスフリットと感光性樹脂と溶剤などを含む白色ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法などによって、白色ペーストが、前面ガラス基板3に塗布される。次に、乾燥炉によって、白色ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、白色ペーストが露光される。
次に、白色ペーストが現像され、バス電極パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、バス電極パターンが所定の温度で焼成される。つまり、バス電極パターン中の感光性樹脂が除去される。また、バス電極パターン中のガラスフリットが溶融する。溶融したガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、バス電極4b、5bが形成される。
ブラックストライプ7は、黒色顔料を含む材料により、形成される。次に、誘電体層8が形成される。誘電体層8の材料には、誘電体ガラスフリットと樹脂と溶剤などを含む誘電体ペーストが用いられる。まずダイコート法などによって、誘電体ペーストが所定の厚みで走査電極4、維持電極5およびブラックストライプ7を覆うように前面ガラス基板3上に塗布される。次に、乾燥炉によって、誘電体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、誘電体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、誘電体ペースト中の樹脂が除去される。また、誘電体ガラスフリットが溶融する。溶融したガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、誘電体層8が形成される。ここで、誘電体ペーストをダイコートする方法以外にも、スクリーン印刷法、スピンコート法などを用いることができる。また、誘電体ペーストを用いずに、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などによって、誘電体層8となる膜を形成することもできる。誘電体層8の詳細は、後述される。
次に、誘電体層8上に保護層9が形成される。保護層9の詳細は、後述される。
以上の工程により前面ガラス基板3上に走査電極4、維持電極5、ブラックストライプ7、誘電体層8、保護層9が形成され、前面板2が完成する。
次に、背面板10の製造方法について説明する。フォトリソグラフィ法によって、背面ガラス基板11上に、データ電極12が形成される。データ電極12の材料には、導電性を確保するためのAgとAgを結着させるためのガラスフリットと感光性樹脂と溶剤などを含むデータ電極ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法などによって、データ電極ペーストが所定の厚みで背面ガラス基板11上に塗布される。次に、乾燥炉によって、データ電極ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、データ電極ペーストが露光される。次に、データ電極ペーストが現像され、データ電極パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、データ電極パターンが所定の温度で焼成される。つまり、データ電極パターン中の感光性樹脂が除去される。また、データ電極パターン中のガラスフリットが溶融する。溶融したガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、データ電極12が形成される。ここで、データ電極ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。
次に、下地誘電体層13が形成される。下地誘電体層13の材料には、誘電体ガラスフリットと樹脂と溶剤などを含む下地誘電体ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法などによって、下地誘電体ペーストが所定の厚みでデータ電極12が形成された背面ガラス基板11上にデータ電極12を覆うように塗布される。次に、乾燥炉によって、下地誘電体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、下地誘電体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、下地誘電体ペースト中の樹脂が除去される。また、誘電体ガラスフリットが溶融する。溶融したガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、下地誘電体層13が形成される。ここで、下地誘電体ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、ダイコート法、スピンコート法などを用いることができる。また、下地誘電体ペーストを用いずに、CVD法などによって、下地誘電体層13となる膜を形成することもできる。
次に、フォトリソグラフィ法によって、隔壁14が形成される。隔壁14の材料には、フィラーと、フィラーを結着させるためのガラスフリットと、感光性樹脂と、溶剤などを含む隔壁ペーストが用いられる。まず、ダイコート法などによって、隔壁ペーストが所定の厚みで下地誘電体層13上に塗布される。次に、乾燥炉によって、隔壁ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、隔壁ペーストが露光される。次に、隔壁ペーストが現像され、隔壁パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、隔壁パターンが所定の温度で焼成される。つまり、隔壁パターン中の感光性樹脂が除去される。また、隔壁パターン中のガラスフリットが溶融する。溶融したガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、隔壁14が形成される。ここで、フォトリソグラフィ法以外にも、サンドブラスト法などを用いることができる。
次に、蛍光体層15が形成される。蛍光体層15の材料には、蛍光体粒子17とバインダと溶剤などとを含む蛍光体ペースト19が用いられる。また、本実施の形態では、蛍光体ペースト19に、白金族元素の粒子が含まれる。まず、ディスペンス法などによって、蛍光体ペースト19が所定の厚みで隣接する隔壁14間の下地誘電体層13上および隔壁14の側面に塗布される。次に、乾燥炉によって、蛍光体ペースト19中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、蛍光体ペースト19が所定の温度で焼成される。つまり、蛍光体ペースト19中の樹脂が除去される。以上の工程によって、蛍光体層15が形成される。ここで、ディスペンス法以外にも、スクリーン印刷法、インクジェット法などを用いることができる。蛍光体層15の詳細は、後述される。
以上の工程により、背面ガラス基板11上に所定の構成部材を有する背面板10が完成する。
次に、前面板2と、背面板10とが組み立てられる。まず、ディスペンス法によって、背面板10の周囲に封着材(図示せず)が形成される。封着材(図示せず)の材料には、ガラスフリットとバインダと溶剤などを含む封着ペーストが用いられる。次に乾燥炉によって、封着ペースト中の溶剤が除去される。次に、表示電極6とデータ電極12とが直交するように、前面板2と背面板10とが対向配置される。次に、前面板2と背面板10の周囲がガラスフリットで封着される。最後に、放電空間16にNe、Xeなどを含む放電ガスが封入されることによりPDP1が完成する。
本実施の形態の構成について、詳細に説明する。図2に示すように、前面ガラス基板3上には、走査電極4および維持電極5よりなる一対の帯状の表示電極6とブラックストライプ7が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板3上には表示電極6とブラックストライプ7とを覆うように誘電体層8が形成される。さらに誘電体層8の表面に保護層9が形成されている。保護層9は、誘電体層8に積層した下地層である下地層91と下地層91上に付着させた凝集粒子92とを含む。
また、後で説明される図10に示すように、背面ガラス基板11上には、表示電極6と直交する方向に、複数のデータ電極12が、互いに平行に配置されている。データ電極12は、下地誘電体層13に被覆されている。さらに、データ電極12間の下地誘電体層13上には隔壁14が形成されている。下地誘電体層13上および隔壁14の側面には、蛍光体層15が形成されている。蛍光体層15の上に、白金族元素の粒子である白金族粒子18が付着している。
誘電体層8について詳細に説明する。誘電体層8は、第1誘電体層81と第2誘電体層82とで構成させている。第1誘電体層81上に第2誘電体層82が積層されている。
第1誘電体層81の誘電体材料は、以下の成分を含む。三酸化二ビスマス(Bi2O3)は20重量%〜40重量%である。酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)および酸化バリウム(BaO)からなる群の中から選ばれる少なくとも1種は0.5重量%〜12重量%である。三酸化モリブデン(MoO3)、三酸化タングステン(WO3)、二酸化セリウム(CeO2)および二酸化マンガン(MnO2)からなる群の中から選ばれる少なくとも1種は0.1重量%〜7重量%である。
なお、MoO3、WO3、CeO2およびMnO2からなる群に代えて、酸化銅(CuO)、三酸化二クロム(Cr2O3)、三酸化二コバルト(Co2O3)、七酸化二バナジウム(V2O7)および三酸化二アンチモン(Sb2O3)からなる群の中から選ばれる少なくとも1種が0.1重量%〜7重量%含まれてもよい。
また、上述の成分以外の成分として、ZnOが0重量%〜40重量%、三酸化二硼素(B2O3)が0重量%〜35重量%、二酸化硅素(SiO2)が0重量%〜15重量%、三酸化二アルミニウム(Al2O3)が0重量%〜10重量%など、鉛成分を含まない成分が含まれてもよい。
誘電体材料は、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒径が0.5μm〜2.5μmとなるように粉砕されて誘電体材料粉末が作製される。次にこの誘電体材料粉末55重量%〜70重量%と、バインダ成分30重量%〜45重量%とが三本ロールでよく混練してダイコート用、または印刷用の第1誘電体層用ペーストが完成する。
バインダ成分はエチルセルロース、またはアクリル樹脂1重量%〜20重量%を含むターピネオール、またはブチルカルビトールアセテートである。また、ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルが添加されてもよい。また、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどが添加されてもよい。分散剤が添加されると、印刷性が向上される。
第1誘電体層用ペーストは、表示電極6を覆い前面ガラス基板3にダイコート法あるいはスクリーン印刷法で印刷される。印刷された第1誘電体層用ペーストは、乾燥後、誘電体材料の軟化点より少し高い温度である575℃〜590℃で焼成され、第1誘電体層81が形成される。
次に、第2誘電体層82について説明する。第2誘電体層82の誘電体材料は、以下の成分を含む。Bi2O3は、11重量%〜20重量%である。CaO、SrO、BaOから選ばれる少なくとも1種は1.6重量%〜21重量%である。MoO3、WO3、CeO2から選ばれる少なくとも1種は0.1重量%〜7重量%である。
なお、MoO3、WO3、CeO2に代えて、CuO、Cr2O3、Co2O3、V2O7、Sb2O3、MnO2から選ばれる少なくとも1種が0.1重量%〜7重量%含まれてもよい。
また、上記の成分以外の成分として、ZnOが0重量%〜40重量%、B2O3が0重量%〜35重量%、SiO2が0重量%〜15重量%、Al2O3が0重量%〜10重量%など、鉛成分を含まない成分が含まれていてもよい。
誘電体材料は、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒径が0.5μm〜2.5μmとなるように粉砕されて誘電体材料粉末が作製される。次にこの誘電体材料粉末55重量%〜70重量%と、バインダ成分30重量%〜45重量%とが三本ロールでよく混練してダイコート用、または印刷用の第2誘電体層用ペーストが完成する。
バインダ成分はエチルセルロース、またはアクリル樹脂1重量%〜20重量%を含むターピネオール、またはブチルカルビトールアセテートである。また、ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルが添加されてもよい。また、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどが添加されてもよい。分散剤が添加されると、印刷性が向上される。
第2誘電体層用ペーストは、第1誘電体層81上にスクリーン印刷法あるいはダイコート法で印刷される。印刷された第2誘電体層用ペーストは、乾燥後、誘電体材料の軟化点より少し高い温度である550℃〜590℃で焼成され、第2誘電体層82が形成される。
なお、誘電体層8の膜厚は、可視光透過率を確保するために、第1誘電体層81と第2誘電体層82とを合わせ41μm以下とすることが好ましい。
第1誘電体層81は、バス電極4b、5bのAgとの反応を抑制するためにBi2O3の含有量を第2誘電体層82のBi2O3の含有量よりも多くして20重量%〜40重量%としている。すると、第1誘電体層81の可視光透過率が第2誘電体層82の可視光透過率よりも低くなるので、第1誘電体層81の膜厚は第2誘電体層82の膜厚よりも薄くされている。
第2誘電体層82は、Bi2O3の含有量が11重量%より少ないと着色は生じにくくなるが、第2誘電体層82中に気泡が発生しやすくなる。そのためBi2O3の含有量が11重量%より少ないことは好ましくない。一方、Bi2O3の含有率が40重量%を超えると着色が生じやすくなるため、可視光透過率が低下する。そのためBi2O3の含有量が40重量%を超えることは好ましくない。
また、誘電体層8の膜厚が小さいほど輝度の向上と放電電圧を低減するという効果は顕著になる。そのため、絶縁耐圧が低下しない範囲内であればできるだけ膜厚を小さく設定することが望ましい。
以上の観点から、本実施の形態では、誘電体層8の膜厚を41μm以下に設定し、第1誘電体層81を5μm〜15μm、第2誘電体層82を20μm〜36μmとしている。
以上のようにして製造されたPDP1は、表示電極6にAg材料を用いても、前面ガラス基板3の着色現象(黄変)、および、誘電体層8中の気泡の発生などが抑制され、絶縁耐圧性能に優れた誘電体層8を実現することが確認されている。
次に、本実施の形態におけるPDP1において、これらの誘電体材料によって第1誘電体層81において黄変や気泡の発生が抑制される理由について考察する。すなわち、Bi2O3を含む誘電体ガラスにMoO3、またはWO3を添加することによって、Ag2MoO4、Ag2Mo2O7、Ag2Mo4O13、Ag2WO4、Ag2W2O7、Ag2W4O13といった化合物が580℃以下の低温で生成しやすいことが知られている。本実施の形態では、誘電体層8の焼成温度が550℃〜590℃であることから、焼成中に誘電体層8中に拡散した銀イオン(Ag+)は誘電体層8中のMoO3、WO3、CeO2、MnO2と反応し、安定な化合物を生成して安定化する。すなわち、Ag+が還元されることなく安定化されるため、凝集してコロイドを生成することがない。したがって、Ag+が安定化することによって、Agのコロイド化に伴う酸素の発生も少なくなるため、誘電体層8中への気泡の発生も少なくなる。
一方、これらの効果を有効にするためには、Bi2O3を含む誘電体ガラス中にMoO3、WO3、CeO2、MnO2の含有量を0.1重量%以上にすることが好ましいが、0.1重量%以上7重量%以下がさらに好ましい。特に、0.1重量%未満では黄変を抑制する効果が少なく、7重量%を超えるとガラスに着色が起こり好ましくない。
すなわち、本実施の形態におけるPDP1の誘電体層8は、Ag材料よりなるバス電極4b、5bと接する第1誘電体層81では黄変現象と気泡発生を抑制し、第1誘電体層81上に設けた第2誘電体層82によって高い光透過率を実現している。その結果、誘電体層8全体として、気泡や黄変の発生が極めて少なく透過率の高いPDPを実現することが可能となる。
保護層9は、下地層である下地層91と凝集粒子92とを含む。下地層91は、少なくとも第1の金属酸化物と第2の金属酸化物とを含む。第1の金属酸化物および第2の金属酸化物は、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群の中から選ばれる2種である。さらに、下地層91は、X線回折分析において少なくとも一つのピークを有する。このピークは、第1金属酸化物のX線回折分析における第1のピークと、第2金属酸化物のX線回折分析における第2のピークと、の間にある。第1のピークと第2のピークは、下地層91のピークが示す面方位と同じ面方位を示す。
本実施の形態におけるPDP1の保護層9を構成する下地層91面におけるX線回折結果を図3に示す。また、図4には、MgO単体、CaO単体、SrO単体、およびBaO単体のX線回折分析の結果も示す。
図3において、横軸はブラッグの回折角(2θ)であり、縦軸はX線回折波の強度である。回折角の単位は1周を360度とする度で示され、強度は任意単位(arbitrary unit)で示されている。特定方位面である結晶方位面は括弧付けで示されている。
図3に示すように、(111)の面方位において、CaO単体は回折角32.2度にピークを有する。MgO単体は回折角36.9度にピークを有する。SrO単体は回折角30.0度にピークを有する。BaO単体のピークは回折角27.9度にピークを有している。
本実施の形態におけるPDP1では、保護層9の下地層91は、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群の中から選ばれる少なくとも2つ以上の金属酸化物を含んでいる。
下地層91を構成する単体成分が2成分の場合についてのX線回折結果を図7に示す。A点は、単体成分としてMgOとCaOの単体を用いて形成した下地層91のX線回折結果である。B点は、単体成分としてMgOとSrOの単体を用いて形成した下地層91のX線回折結果である。C点は、単体成分としてMgOとBaOの単体を用いて形成した下地層91のX線回折結果である。
図3に示すように、A点は、(111)の面方位において、回折角36.1度にピークを有する。第1の金属酸化物となるMgO単体は、回折角36.9度にピークを有する。第2の金属酸化物となるCaO単体は、回折角32.2度にピークを有する。すなわち、A点のピークは、MgO単体のピークとCaO単体のピークとの間に存在している。同様に、B点のピークは、回折角35.7度であり、第1の金属酸化物となるMgO単体のピークと第2の金属酸化物となるSrO単体のピークとの間に存在している。C点のピークも、回折角35.4度であり、第1の金属酸化物となるMgO単体のピークと第2の金属酸化物となるBaO単体のピークとの間に存在している。
また、下地層91を構成する単体成分が3成分以上の場合のX線回折結果を図8に示す。D点は、単体成分としてMgO、CaOおよびSrOを用いて形成した下地層91のX線回折結果である。E点は、単体成分としてMgO、CaOおよびBaOを用いて形成した下地層91のX線回折結果である。F点は、単体成分としてCaO、SrOおよびBaOを用いて形成した下地層91のX線回折結果である。
図4に示すように、D点は、(111)の面方位において、回折角33.4度にピークを有する。第1の金属酸化物となるMgO単体は、回折角36.9度にピークを有する。第2の金属酸化物となるSrO単体は、回折角30.0度にピークを有する。すなわち、A点のピークは、MgO単体のピークとCaO単体のピークとの間に存在している。同様に、E点のピークは、回折角32.8度であり、第1の金属酸化物となるMgO単体のピークと第2の金属酸化物となるBaO単体のピークとの間に存在している。F点のピークも、回折角30.2度であり、第1の金属酸化物となるMgO単体のピークと第2の金属酸化物となるBaO単体のピークとの間に存在している。
したがって、本実施の形態におけるPDP1の下地層91は、少なくとも第1の金属酸化物と第2の金属酸化物とを含む。さらに、下地層91は、X線回折分析において少なくとも一つのピークを有する。このピークは、第1金属酸化物のX線回折分析における第1のピークと、第2金属酸化物のX線回折分析における第2のピークと、の間にある。第1のピークと第2のピークは、下地層91のピークが示す面方位と同じ面方位を示す。第1の金属酸化物および第2の金属酸化物は、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群の中から選ばれる2種である。
なお、上記の説明では、結晶の面方位面として(111)を対象として説明したが、他の面方位を対象とした場合も金属酸化物のピークの位置が上記と同様とある。
CaO、SrOおよびBaOの真空準位からの深さは、MgOと比較して浅い領域に存在する。そのため、PDP1を駆動する場合において、CaO、SrO、BaOのエネルギー準位に存在する電子がXeイオンの基底状態に遷移する際に、オージェ効果により放出される電子数が、MgOのエネルギー準位から遷移する場合と比較して多くなると考えられる。
また、上述のように、本実施の形態における下地層91のピークは、第1金属酸化物のピークと第2金属酸化物のピークとの間にある。すなわち、下地層91のエネルギー準位は、単体の金属酸化物の間に存在し、オージェ効果により放出される電子数がMgOのエネルギー準位から遷移する場合と比較して多くなると考えられる。
その結果、下地層91では、MgO単体と比較して、良好な二次電子放出特性を発揮することができ、結果として、放電維持電圧を低減することができる。そのため、特に輝度を高めるために放電ガスとしてのXe分圧を高めた場合に、放電電圧を低減し、低電圧でなおかつ高輝度のPDP1を実現することが可能となる。
表1には、本実施の形態におけるPDP1において、450TorrのXeおよびNeの混合ガス(Xe、15%)を封入した場合の放電維持電圧の結果で、下地層91の構成を変えた場合の、PDP1の結果を示す。
なお、表1の放電維持電圧は比較例の値を「100」とした場合の相対値で表している。サンプルAの下地層91は、MgOとCaOによって構成されている。サンプルBの下地層91は、MgOとSrOによって構成されている。サンプルCの下地層91は、MgOとBaOによって構成されている。サンプルDの下地層91は、MgO、CaOおよびSrOによって構成されている。サンプルEの下地層91はMgO、CaOおよびBaOによって構成されている。また、比較例は、下地層91がMgO単体によって構成されている。
放電ガスのXeの分圧を10%から15%に高めた場合には輝度が約30%上昇するが、下地層91がMgO単体の場合の比較例では、放電維持電圧が約10%上昇する。
一方、本実施の形態におけるPDPでは、サンプルA、サンプルB、サンプルC、サンプルD、サンプルEいずれも、放電維持電圧を比較例に比較して約10%〜20%低減することができる。そのため、通常動作範囲内の放電開始電圧とすることができ、高輝度で低電圧駆動のPDPを実現することができる。
さらに、図5には、サンプルAおよびサンプル(比較例)にナトリウム(Na)およびカリウム(K)を含んだ場合のPDP1の放電維持電圧を示している。
<実施例1>
サンプルAの酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)との金属酸化物から形成される下地層91において、さらにナトリウム(Na)およびカリウム(K)を含有し、ダイナミックレート250nm・m/minで蒸着した。
<実施例2>
実施例1にナトリウム(Na)およびカリウム(K)を含有し、ダイナミックレート1000nm・m/minで蒸着した。
<実施例3>
実施例1に、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)を含有せずにダイナミックレート250nm・m/minで蒸着した。
<実施例4>
実施例1に、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)を含有せずにダイナミックレート1000nm・m/minで蒸着した。
<比較例1>
サンプル(比較例)に酸化マグネシウム(MgO)の金属酸化物から形成される下地層91をダイナミックレート250nm・m/minで蒸着した。
<比較例2>
比較例1と同様の下地層91をダイナミックレート1000nm・m/minで蒸着した。
各放電維持電圧は、42インチサイズのPDPにおいて、全面白点灯させたときの放電維持電圧を測定したときの測定値を示している。図5に示すように、比較例1、2に対して、実施例1〜4は放電維持電圧が10%以上低減している。
さらに、実施例1と実施例2が示すように、ナトリウム(Na)とカリウム(K)とが含まれることによって、下地層91の蒸着速度が変わっても放電維持電圧の変動を抑制していることがわかった。これは、ナトリウム(Na)とカリウム(K)がドーパントとして作用し、結晶の禁制帯中に電子準位が形成される。その結果、蒸着速度の変動による膜質の変化に依存せず、上述した電子準位からの電子放出が放電維持電圧を決定する主要因になっているためと推測される。
なお、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)の各化合物で下地層91を形成する場合、下地層91の表面が活性であるため、不純物と反応しやすい。そのため、電子放出性能が低下してしまう。しかし、本実施の形態において、2種類以上の金属酸化物から構成されることにより、不純物との反応性が低減し、不純物の混入や酸素欠損の少ない結晶構造で下地層91が形成される。
そのため、PDPの駆動時に電子が過剰放出されるのが抑制され、低電圧駆動と二次電子放出性能の両立効果に加えて、適度な電荷保持特性の効果が発揮される。この電荷保持特性は、特に初期化期間に貯めた壁電荷を保持しておき、書き込み期間において書き込み不良を防止して確実な書き込み放電を行う上で有効である。
次に、本実施の形態における下地層91上に設けた凝集粒子92について詳細に説明する。
凝集粒子92は、MgOの結晶粒子92aに、結晶粒子92aより粒径の小さい結晶粒子92bが複数個凝集したものである。形状は走査型電子顕微鏡(SEM)によって確認することができる。本実施の形態においては、複数個の凝集粒子92が、下地層91の全面に亘って分散配置されている。
結晶粒子92aは平均粒径が0.9μm〜2μmの範囲の粒子である。結晶粒子92bは平均粒径が0.3μm〜0.9μmの範囲の粒子である。なお、本実施の形態において、平均粒径とは、体積累積平均径(D50)のことである。また、平均粒径の測定には、レーザ回折式粒度分布測定装置MT−3300(日機装株式会社製)が用いられた。
凝集粒子92とは、図6に示すように、所定の一次粒径の結晶粒子92a、92bが複数個凝集した状態のものである。凝集粒子92は、固体として強い結合力によって結合しているのではない。凝集粒子92は、静電気やファンデルワールス力などによって複数の一次粒子が集合したものである。また、凝集粒子92は、超音波などの外力により、その一部または全部が一次粒子の状態に分解する程度の力で結合している。凝集粒子92の粒径としては、約1μm程度のもので、結晶粒子92a、92bとしては、14面体や12面体などの7面以上の面を持つ多面体形状を有する。また、結晶粒子92a、92bは、炭酸マグネシウムや水酸化マグネシウムなどのMgO前駆体の溶液を焼成することにより生成する液相法により作製された。液相法による焼成温度や焼成雰囲気を調整することにより、粒径の制御ができる。焼成温度は700℃程度から1500℃程度の範囲で選択できる。焼成温度が1000℃以上では、一次粒径を0.3〜2μm程度に制御可能である。結晶粒子92a、92bは液相法による生成過程において、複数個の一次粒子同士が凝集した凝集粒子92の状態で得られる。
MgOの凝集粒子92は、本発明者の実験により、主として書き込み放電における放電遅れを抑制する効果と、放電遅れの温度依存性を改善する効果が確認されている。そこで本実施の形態では、凝集粒子92が下地層91に比べて高度な初期電子放出特性に優れる性質を利用して、放電パルス立ち上がり時に必要な初期電子供給部として配設している。
放電遅れは、放電開始時において、トリガーとなる初期電子が下地層91表面から放電空間16中に放出される量が不足することが主原因と考えられる。そこで、放電空間16に対する初期電子の安定供給に寄与するため、MgOの凝集粒子92を下地層91の表面に分散配置する。これによって、放電パルスの立ち上がり時に放電空間16中に電子が豊富に存在し、放電遅れの解消が図られる。したがって、このような初期電子放出特性により、PDP1が高精細の場合などにおいても放電応答性の良い高速駆動ができるようになっている。なお下地層91の表面に金属酸化物の凝集粒子92を配設する構成では、主として書き込み放電における放電遅れを抑制する効果に加え、放電遅れの温度依存性を改善する効果も得られる。
以上のように、本実施の形態におけるPDP1では、低電圧駆動と電荷保持の両立効果を奏する下地層91と、放電遅れの防止効果を奏するMgOの凝集粒子92とにより構成することによって、PDP1全体として、高精細なPDPでも高速駆動を低電圧で駆動でき、かつ、点灯不良を抑制した高品位な画像表示性能を実現できる。
図7は、本実施の形態におけるPDP1のうち、MgOとCaOとで構成した下地層91を用いた場合の放電遅れと保護層9中のカルシウム(Ca)濃度との関係を示す図である。下地層91としてMgOとCaOとで構成し、下地層91は、X線回折分析において、MgOのピークが発生する回折角とCaOのピークが発生する回折角との間にピークが存在するようにしている。
なお、図7には、保護層9として下地層91のみの場合と、下地層91上に凝集粒子92を配置した場合とについて示し、放電遅れは、下地層91中にCaが含有されていない場合を基準として示している。
図7より明らかなように、下地層91のみの場合と、下地層91上に凝集粒子92を配置した場合とにおいて、下地層91のみの場合はCa濃度の増加とともに放電遅れが大きくなるのに対し、下地層91上に凝集粒子92を配置することによって放電遅れを大幅に小さくすることができ、Ca濃度が増加しても放電遅れはほとんど増大しないことがわかる。
次に、本実施の形態における保護層9を有するPDP1の効果を確認するために行った実験結果について説明する。
まず、構成の異なる保護層9を有するPDP1を試作した。試作品1は、MgOによる保護層9のみを形成したPDP1である。試作品2は、Al,Siなどの不純物をドープしたMgOによる保護層9を形成したPDP1である。試作品3は、MgOによる保護層9上にMgOからなる結晶粒子92aの一次粒子のみを散布し、付着させたPDP1である。
一方、試作品4は本実施の形態におけるPDP1である。試作品4は、MgOによる下地層91上に、同等の粒径を有するMgOの結晶粒子92a同士を凝集させた凝集粒子92を全面に亘って分布するように付着させたPDP1である。保護層9として、前述のサンプルAを用いている。すなわち、保護層9は、MgOとCaOとで構成した下地層91と、下地層91上に結晶粒子92aを凝集させた凝集粒子92を全面に亘ってほぼ均一に分布するように付着させている。なお、下地層91は、下地層91面のX線回折分析において、下地層91を構成する第1の金属酸化物のピークと第2の金属酸化物のピークの間にピークを有する。すなわち、第1の金属酸化物はMgOであり、第2の金属酸化物はCaOである。そして、MgOのピークの回折角は36.9度であり、CaOのピークの回折角は32.2度であり、下地層91のピークの回折角は36.1度に存在するようにしている。
これらの4種類の保護層の構成を有するPDP1について、電子放出性能と電荷保持性能が測定された。
なお、電子放出性能は、大きいほど電子放出量が多いことを示す数値である。電子放出性能は、放電の表面状態及びガス種とその状態によって定まる初期電子放出量として表現される。初期電子放出量は、表面にイオンあるいは電子ビームを照射して表面から放出される電子電流量を測定する方法で測定できる。しかし、非破壊で実施することが困難である。そこで、特開2007−48733号公報に記載されている方法が用いられた。つまり、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値が測定された。統計遅れ時間の逆数を積分することにより、初期電子の放出量と線形対応する数値になる。放電時の遅れ時間とは、書込み放電パルスの立ち上がりから書込み放電が遅れて発生するまでの時間である。放電遅れは、書込み放電が発生する際のトリガーとなる初期電子が保護層表面から放電空間中に放出されにくいことが主要な要因として考えられている。
また、電荷保持性能は、その指標として、PDP1として作製した場合に電荷放出現象を抑えるために必要とする走査電極に印加する電圧(以下Vscn点灯電圧と称する)の電圧値が用いられた。すなわち、Vscn点灯電圧の低い方が、電荷保持能力が高いことを示す。Vscn点灯電圧が低いと、PDPが低電圧で駆動できる。よって、電源や各電気部品として、耐圧および容量の小さい部品を使用することが可能となる。現状の製品において、走査電圧を順次パネルに印加するためのMOSFETなどの半導体スイッチング素子には、耐圧150V程度の素子が使用されている。Vscn点灯電圧としては、温度による変動を考慮し、120V以下に抑えることが望ましい。
これらのPDP1について、その電子放出性能と電荷保持性能を調べ、その結果を図8に示す。なお、電子放出性能は、大きいほど電子放出量が多いことを示す数値で、表面状態及びガス種とその状態によって定まる初期電子放出量によって表現する。初期電子放出量については表面にイオン、あるいは電子ビームを照射して表面から放出される電子電流量を測定する方法で測定できるが、PDP1の前面板2表面の評価を非破壊で実施することは困難を伴う。そこで、特開2007−48733号公報に記載されている方法を用いた。すなわち、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値を測定し、その逆数を積分すると初期電子の放出量と線形に対応する数値になる。
そこで、この数値を用いて評価している。放電時の遅れ時間とは、パルスの立ち上がりから放電が遅れて行われる放電遅れの時間を意味し、放電遅れは、放電が開始される際にトリガーとなる初期電子が保護層9表面から放電空間中に放出されにくいことが主要な要因として考えられている。
電荷保持性能は、その指標として、PDP1として作製した場合に電荷放出現象を抑えるために必要とする走査電極に印加する電圧(以下、Vscn点灯電圧と呼称する)の電圧値を用いた。すなわち、Vscn点灯電圧の低い方が電荷保持能力の高いことを示す。このことは、PDP1を設計する上で、電源や各電気部品として、耐圧及び容量の小さい部品を使用することが可能となる。現状の製品において、走査電圧を順次パネルに印加するためのMOSFETなどの半導体スイッチング素子には、耐圧150V程度の素子が使用されており、Vscn点灯電圧としては、温度による変動を考慮して120V以下に抑えるのが望ましい。
図8から明らかなように、試作品4は、電荷保持性能の評価において、Vscn点灯電圧を120V以下にすることができ、なおかつ電子放出性能がMgOのみの保護層の場合の試作品1に比べて格段に良好な特性を得ることができた。
一般的にはPDPの保護層の電子放出能力と電荷保持能力は相反する。例えば、保護層の成膜条件の変更、あるいは、保護層中にAlやSi、Baなどの不純物をドーピングして成膜することにより、電子放出性能を向上することは可能である。しかし、副作用としてVscn点灯電圧も上昇してしまう。
本実施の形態の保護層9を有するPDPにおいては、電子放出能力としては、8以上の特性で、電荷保持能力としてはVscn点灯電圧が120V以下のものを得ることができる。すなわち、高精細化により走査線数が増加し、かつセルサイズが小さくなる傾向にあるPDPに対応できるような電子放出能力と電荷保持能力の両方を備えた保護層9を得ることができる。
次に、本実施の形態によるPDP1の保護層9に用いた結晶粒子の粒径について詳細に説明する。なお、以下の説明において、粒径とは平均粒径を意味し、平均粒径とは、体積累積平均径(D50)のことを意味している。
図9は、保護層9において、MgOの凝集粒子92の平均粒径を変化させて電子放出性能を調べた実験結果を示すものである。図9において、凝集粒子92の平均粒径は、凝集粒子92をSEM観察することにより測長された。
図9に示すように、平均粒径が0.3μm程度に小さくなると、電子放出性能が低くなり、ほぼ0.9μm以上であれば、高い電子放出性能が得られる。
放電セル内での電子放出数を増加させるためには、保護層9上の単位面積当たりの結晶粒子数は多い方が望ましい。本発明者らの実験によれば、保護層9と密接に接触する隔壁14の頂部に相当する部分に結晶粒子92a、92bが存在すると、隔壁14の頂部を破損させる場合がある。この場合、破損した隔壁14の材料が蛍光体の上に乗るなどによって、該当するセルが正常に点灯または消灯しなくなる現象が発生することがわかった。隔壁破損の現象は、結晶粒子92a、92bが隔壁頂部に対応する部分に存在しなければ発生しにくいことから、付着させる結晶粒子数が多くなれば、隔壁14の破損発生確率が高くなる。このような観点からは、結晶粒子径が2.5μm程度に大きくなると、隔壁破損の確率が急激に高くなり、2.5μmより小さい結晶粒子径であれば、隔壁破損の確率は比較的小さく抑えることができる。
以上のように本実施の形態の保護層9を有するPDP1においては、電子放出能力としては、8以上の特性で、電荷保持能力としてはVscn点灯電圧が120V以下のものを得ることができる。
なお、本実施の形態では、結晶粒子としてMgO粒子を用いて説明したが、この他の単結晶粒子でも、MgO同様に高い電子放出性能を持つSr、Ca、Ba、Alなどの金属酸化物による結晶粒子を用いても同様の効果を得ることができるため、粒子種としてはMgOに限定されるものではない。
次に、本実施の形態のPDP1において、保護層9を形成する製造工程について、図10を用いて説明する。
図10に示すように、誘電体層8を形成する誘電体層形成工程A1を行った後、下地層蒸着工程A2では、Alを含むMgOの焼結体を原材料とした真空蒸着法によって、不純物としてAlを含むMgOからなる下地層91が誘電体層8上に形成される。
その後、未焼成の下地層91上に、複数個の凝集粒子92が離散的に散布され、付着する。つまり下地層91の全面に亘って、凝集粒子92が分散配置される。
この工程においては、まず、所定の粒径分布を持つ多面体形状の結晶粒子92a、92bを溶媒に混合した凝集粒子ペーストが作製される。その後、凝集粒子ペースト塗布工程A3において、凝集粒子ペーストが下地層91上に塗布されることにより、平均膜厚8μm〜20μmの凝集粒子ペースト膜が形成される。なお、凝集粒子ペーストを下地層91上に塗布する方法として、スクリーン印刷法、スプレー法、スピンコート法、ダイコート法、スリットコート法なども用いることができる。
ここで、凝集粒子ペーストの作製に使用する溶媒としては、MgOの下地層91や凝集粒子92との親和性が高く、かつ次工程の乾燥工程A4での蒸発除去を容易にするため常温での蒸気圧が数十Pa程度のものが適している。例えばメチルメトキシブタノール、テルピネオール、プロピレングリコール、ベンジルアルコールなどの有機溶剤単体もしくはそれらの混合溶媒が用いられる。これらの溶媒を含んだペーストの粘度は数mPa・s〜数十mPa・sである。
凝集粒子ペーストが塗布された基板は、直ちに乾燥工程A4に移される。乾燥工程A4では、凝集粒子ペースト膜が減圧乾燥される。具体的には、凝集粒子ペースト膜は真空チャンバ内で、数十秒以内で急速に乾燥される。よって、加熱乾燥では顕著である膜内の対流が発生しない。したがって、凝集粒子92がより均一に下地層91上に付着する。なお、この乾燥工程A4における乾燥方法としては、混合結晶粒子ペーストを作製する際に用いる溶媒などに応じて、加熱乾燥方法を用いてもよい。
次に、保護層焼成工程A5では、下地層蒸着工程A2において形成された未焼成の下地層91と、乾燥工程A4を経た凝集粒子ペースト膜とが、数百℃の温度で同時に焼成される。焼成によって、凝集粒子ペースト膜に残っている溶剤や樹脂成分が除去される。その結果、下地層91上に複数個の多面体形状の結晶粒子92a、92bからなる凝集粒子92が付着した保護層9が形成される。
この方法によれば、下地層91に凝集粒子92を全面に亘って分散配置することが可能である。
なお、このような方法以外にも、溶媒などを用いずに、粒子群を直接にガスなどと共に吹き付ける方法や、単純に重力を用いて散布する方法などを用いてもよい。
なお、以上の説明では、保護層9として、MgOを例に挙げたが、下地層91に要求される性能はあくまでイオン衝撃から誘電体層8を守るための高い耐スパッタ性能を有することであり、高い電荷保持能力、すなわちあまり電子放出性能が高くなくてもよい。従来のPDPでは、一定以上の電子放出性能と耐スパッタ性能という二つを両立させるため、MgOを主成分とした保護層を形成する場合が非常に多かったのであるが、電子放出性能が金属酸化物単結晶粒子によって支配的に制御される構成を取るため、MgOである必要は全くなく、Al2O3等の耐衝撃性に優れる他の材料を用いても全く構わない。
また、本実施の形態では、単結晶粒子としてMgO粒子を用いて説明したが、この他の単結晶粒子でも、MgO同様に高い電子放出性能を持つSr、Ca、Ba、Alなどの金属の酸化物による結晶粒子を用いても同様の効果を得ることができる。よって、粒子種としてはMgOに限定されるものではない。