JP5544616B2 - 密封式mas試料管 - Google Patents

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Description

本発明は、核磁気共鳴(NMR)測定において、マジックアングルスピニング(MAS)プローブ装置に試料を設定するために用いられる、内部を試料収納部とする筒状体を本体とし、この試料収納部内に試料を密封保持する栓体とからなる密封式MAS試料管に関する。
非特許文献1で公知のように、NMR測定において、固体試料を測定する場合は、固体試料特有の異方性項を打ち消して、NMR信号の線幅を小さくして測定精度を向上させる目的で、MAS測定が行われる。MAS測定では、試料は専用のMAS試料管を用いて、MASプローブ装置に設定される。MASプローブ装置において、MAS試料管は、特許文献1で公知のようなMASスピナーにより、静磁場の方向に対して特定の角度(概ね54.7度)傾いた軸上で高速回転させられる。回転数は、本体の外径により最大値が制限され、一般には1〜90kHzの範囲の値をとり、特に以下の実施例で扱っている本体の外径が4mmのMAS試料管の場合は1〜20kHzである。一般に回転速度は大きければ大きいほど、MASの効果が大きくなり望ましいが、回転速度を大きくできる外径の小さなMAS試料管では、試料空間の容積が小さくなり、それに応じて信号強度が減少するので、目的に応じて使い分けることが要求される。外径が4mm程度のMAS試料管は最高回転数と試料空間の容積とのバランスが良く汎用性が高いので、広く普及して用いられている。
MAS試料管はもともと固体試料専用に開発されてきており、その場合、試料空間は固体粉末を封止できれば十分であり、気密性は特には重要視されてこなかった。
ところが、高分子等の高粘度液体に代表される液体試料や生体膜上の蛋白質等に代表される湿潤試料、液中に触媒等の粒子や繊維が分散した懸濁液試料やゲル状試料や泥状試料、昇華性固体試料や特定雰囲気下における固体試料や空気中の成分に対して反応し易いなどの特定の固体試料などについて、気密を保ったままMAS測定を行いたいという要望が出てきた。
非特許文献1に示されるように、ある種のNMR測定においては、NMR信号の温度依存性の測定が行われる。
また、非特許文献1に示されるように、NMR信号の線幅を小さくして信号の品位を高める目的で、測定中に、デカップリングパルスの照射が行われる。このとき、大きな出力のデカップリングパルスを照射すると、それにより試料およびその周辺領域の温度が上昇する。
このように、NMR測定においては、しばしば、測定中に試料温度が室温と比べて大きく変化することがある。
一般に温度変化は、試料が液体や気体の場合は、圧力が一定であれば、大きな体積変化をもたらし、温度が高くなると体積は増大する。また、体積が一定であれば、温度が高くなると圧力は増大する。
このような実情に鑑み、本発明は、温度変化による試料の体積変化や試料空間の圧力変化に対応して、気密性を保ちながら、より広い温度範囲で利用できる、MAS試料管を提供することを目的とする。
発明1の密封式MAS試料管は、試料収納部の少なくとも一方の栓体は、前記本体の筒状内面との接触により前記試料収納部を密閉する密封栓と、前記密封栓の本体からの抜け出しを阻止する固定栓とからなり、前記固定栓による抜け出し阻止位置まで本体の軸線に沿って移動し得るように、前記密封栓と前記固定栓との間に移動しろを有して設置されていると共に、前記密封栓と固定具との間に両者の相対的な遠近を許す弾性体が介在されており、前記弾性体は網目状の薄膜からなる円筒であることを特徴とする。
発明2は、発明1の密封式MAS試料管において、前記密封栓の移動しろは、NMR測定時の試料の熱膨張による密封栓の移動量と等しいか、それより大きくしてあることを特徴とする。
発明3は、核磁気共鳴(NMR)測定において、マジックアングルスピニング(MAS)プローブ装置に試料を設定するために用いられる、内部を試料収納部とする筒状体を本体とし、この試料収納部内に試料を密封保持する栓体とからなる密封式MAS試料管であって、前記試料収納部の少なくとも一方の栓体は、前記本体の筒状内面との接触により前記試料収納部を密閉する密封栓と、前記密封栓の本体からの抜け出しを阻止する固定具とからなり、前記密封栓が、前記固定具による抜け出し阻止位置まで本体の軸線に沿って移動し得るように、前記密封栓と前記固定具との間に移動しろを有して設置されていると共に、前記密封栓が前記固定栓に近づくほど、当該密封栓を本体の径方向に膨張させるクサビが前記固定栓の内側に設けてあることを特徴とする。
発明4は、発明1から3のいずれかの密封式MAS試料管において、前記密封栓の移動しろは、NMR測定時の試料の熱膨張による密封栓の移動量と等しいか、それより大きくしてあることを特徴とする。
発明は、発明1からのいずれかの密封式MAS試料管において、前記固定栓は、本体の軸線に直交する方向での嵌合により本体に固定してあることを特徴とする。
発明は、発明1からのいずれかの密封式MAS試料管において、前記本体内面は、左右対称な異形断面形状を有することを特徴とする。
発明は、発明1からのいずれかの密封式MAS試料管において、前記密封栓は、自然状態の最大外形を本体の内径よりも小さくしてあり、前記密封栓の内部に硬質中子を押込むことで膨張して、前記本体内径より大きな最大外形となる弾性体により形成された中空体であることを特徴とする。
本発明は、栓体が、本体に対する機械的な固定と試料空間の密封とを兼務する構造から離れ、密封機能と固定機能とを別個に達成するように合理的に構成したことにより、前記課題を解決したものである。
当該構想に基づき構成された上記各発明のいずれによっても、試料を収納した空間には、密封状態を維持したままで容積が変更できる機能を有することと成り、これゆえに、試料の体積変化に対応できるので、実験中に本体の温度が上昇し、試料が熱膨張しても、栓が外れる恐れがなくなり、使用温度範囲が広がった。
また、密封機能を担う栓が本体の軸線に沿って移動し得ることにより、各種形態の試料、すなわち、液状試料、高粘度試料、泥状試料、粉末固体試料を、試料空間内に余分な空気が残存しない状態で、密封することが可能になった。このため、各種形態の試料について、試料の充填率が向上しMAS測定において、NMR信号の強度を増大させることができるようになった。
さらに、発明とすることで、密封栓の本体内への挿入操作と密封操作とを別異に行うことができるので、各種形態の試料を、本体内に余分な空気が残存しない状態で、密封することがより容易になった。
これらの効果は、より具体的には以下のような作用によるものである。
使用時において、温度の上昇により試料体積が増大した場合は、密封栓は、その密封状態を維持しながら回転軸(本体の筒状中心軸)に沿って本体の端部側に移動することができる。これにより、試料空間の容積は増大し、試料空間の圧力変化が緩和される。このため、測定中に本体の温度が上昇した場合でも、密封状態を維持することができた。
上記密封栓と固定栓による手段を、試料収納部の両方に配する構造とした場合は、組立に際して、当該密封栓の一方を用いてピストンを構成することにより、高粘度の試料であっても少しずつ確実に本体内に取り込むことができる。
本体内に試料を所定の分量取り込んだ状態で、開放端より他方の密封栓を挿入することにより、本体内に余分な空気を取り込むことなく、試料のみを本体内に取り込むことができる。これは、試料に空気を噛み込ませずに試料管内に収納する作業を容易にする効果がある。
さらに、両端を密封栓で挟んだ状態で試料を本体内で本体の軸線に沿って移動させることができるので、測定に最適の位置に試料を容易に配置することができる。
発明1において、さらに、弾性体により、密封栓が試料側に押されるので、試料が一旦膨張した後に縮小した場合などは、スムーズに密封栓を押し戻し、最適な位置に試料が存在し続けるように作用する。
発明のように、前記弾性体を前記密封栓に一体化することで、部品点数を減少して組立操作や分解作業を軽減するとともに、弾性体が不測に本体内を移動して重心の変異を生じさせ、測定の安定性を阻害するような問題を未然に防止することができた。
発明のように、クサビを用いることで、密封栓は、試料の膨張により押されて移動すればするほど、密封力を増加するので、試料内部の圧力上昇に対応して強い密封性を発揮することとなる。
これにより、試料を封入するときは、弱い密封性により容易に組立が行えるにもかかわらず、その密封力を超えた高い圧力の下での密封を実現することができた。
発明により、固定栓は、本体の破損若しくは固定栓の破損がない限りはずれることがなくなったので、現在考えられる最高の高圧での測定をも可能となった。
発明のように、本体内面を異形断面形状とすることで、測定中に試料を攪拌することができ、測定中に試料の回転が本体の回転と乖離して正しい測定を阻害するおそれがなくなった。
発明により、密封栓が組立時には最低の抵抗で本体内に挿入し、移動させることができて、その操作を容易にするとともに、使用時には、高い密封圧力を維持することが可能になった。
実施例1を示す分解斜視図。 実施例1を示す縦断正面図。 実施例1の試料封入時の各状態を示す縦断正面図。 実施例2の密封栓とその使用状態を示す縦断正面図。 実施例3の密封栓を示す正面図。 実施例4の密封栓とその使用状態を示す縦断正面図。 実施例5の密封栓を示す縦断正面図。 実施例6を示す縦断正面図。 実施例7を示す縦断正面図。 実施例8を示す一部切欠き正面図。 実施例9を示す端面図。
(10)(10’)(10a)(10b)密封栓
(11)(11’)(11a)(11b)外周
(12)(12’)(12a)(12b)膨出部
(13)(13’)(13a)穿孔
(14b)横孔
(20)(20’)弾性介在子
(20a)(20b)裾
(20c)(20c’)蓄気空間
(21)(21’)外周部
(22)(22’)穴
(20e)弾性介在子
(21e)(23e)支持盤
(22e)バネ
(40)(40’)硬質中子
(41)(41’)頭端部
(42)(42’)膨出部
(43)(43’)穿孔
(50)(50a)(50b)(50c)第一固定具
(51)(51a)(51b)(51c)タービン翼
(52)(52b)(52c)挿入部
(52a)雄ネジ
(53)(53c)頭端部
(54)(54c)穿孔
(55c)挿入部芯体
(53b)隙間
(55b)バネ
(56b)ピン
(57b)リング止め具
(58b)切り欠き
(59b)横孔
(60)(60c)第二固定具
(61)(61c)フランジ
(62)(62c)挿入部
(63)(63c)頭端部
(64)(64c)穿孔
(65c)挿入部芯体
(70)(70a)(70b)(70c)(70d)(70e)本体
(72)(72c)(72d)(72e)本体内面
(75a)雌ネジ
(75b)横孔
(80)硬質挿入子
(81)突出部
(82)外周部
(83)穿孔
(P)尾部近傍部
(210)(210’)ピストン冶具
(211)頭部
(212)胴部
(213)把柄部
(220)ゲージ冶具
(230)押し棒冶具
(310)シリンジ
(L1)(L2)密封栓と固定具との間の長さ
(D)内径
(S)試料空間
(SS)試料
(α)回転軸
本発明のMAS試料管は、以下の実施例に示すような各種の形態により実施することができる。
まず始めに、MAS試料管の各部に使用する材料に要求される一般的な性質について記述する。
磁化率が大きいものは、試料近傍の磁場分布を乱して、NMR信号の線形を悪化させるので望ましくない。電気伝導率の大きなものは、電磁波の分布や伝達を乱すので望ましくない。誘電正接の大きなものは、測定用高周波信号の減衰をもたらすので望ましくない。
また、バックグラウンド信号等の原因となってNMR測定に悪影響をもたらす可能性がある不純物や添加物が含有されていないものを選別することが望ましい。
以上の条件をすべて満たすものとしては、一般的に使用されている合成樹脂或いはセラミックスが知られており、その他の材料であっても、上記条件を満たすものであればMAS試料管として、必要に応じ使用可能である。
密封栓の材料として、封入される試料との接触によっても化学変化を生じず、また、MASの回転による遠心力を受けても、密封状態を保つ保形性と、本体への挿入に際して弾性変形できる変形性を持ち合わせている材料が使用できる。
密封栓の材料の機械的性質としては、筒状の本体内に、弾性圧縮を伴って挿入されたとき、前記本体の内面に周囲が圧接され、当該箇所での液体や気体の移動を阻止する密封性を発現する体積弾性を有するものであれば良い。具体的には、圧縮弾性率が0.1〜2GPa、より好ましくは0.3〜0.8GPaの範囲にあることが望ましい。
密封栓は、筒状の本体内に、弾性圧縮を伴って挿入された状態で、本体内を軸方向に滑って移動できることが期待されるので、その材料の特性として、表面の摩擦係数が小さいことが望ましい。
テフロン(登録商標)に代表されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やダイフロン(登録商標)に代表されるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等の弗素化樹脂は、適度の弾性や保形性の機械的物性と、化学的にも電気的に安定な性質を併せ持つため、密封栓の材料として適している。
また、弗素化樹脂は、その表面が水や油を弾いて濡れにくいので、これらの液体に対するシール性が良く、密封栓の材料として適している。
これらの中でも、PTFE(圧縮弾性率=約0.4GPa)は、PCTFE(圧縮弾性率=1〜2GPa)に比べて弾性率が適度に小さく、表面の摩擦係数も小さいので、密封栓の材料として適している。
測定の都合で、密封栓に弗素が含まれてはならない場合には、やや硬いのが難点ではあるが、摩擦係数の小さい樹脂である、ポリアセタール(POM)を使用すると良い。
また、固定具や硬質中子や硬質挿入子などの硬質部材に使用する材料としては、試料の封入による圧力やMASの回転による遠心力を受けても、変形しない保形性を持つ材料が使用できる。
固定具や硬質中子や硬質挿入子などの硬質部材の材料の機械的性質として、圧縮弾性率および引張弾性率は、5GPaよりも大きいことが望ましい。また、圧縮強度および引張強度は、0.1GPa(5%変形時)よりも大きいことが望ましい。
これらの性質を満たす、機械的特性に優れた硬質樹脂材料としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK(登録商標)等)に代表される各種エンジニアリングプラスチックが挙げられる。加工性や機械的強度や耐熱温度等がPEEKと同等かそれ以上に優れた材料は他にも多数存在し、例として、ポリアミドイミド(TIポリマー(登録商標)等)、熱可塑性ポリイミド樹脂(AURUM(登録商標)等)、全芳香族ポリイミド樹脂(ベスペル(登録商標)等)などが挙げられる。
以下で、硬質樹脂あるいはPEEKと記述してある場合は特に断りのない限り、これらのPEEKと同等以上の特性をもつエンジニアリングプラスチックを利用することができる。
また、構成部品は以下のように形成するのが好ましい。
MAS試料管は本体の円筒中心軸を軸として超高速回転するので、重心がずれることによる芯ぶれを防ぐため、各部品は、中心軸に対して回転対称的に形成しなければならない。
部品の加工精度に対しては、中心軸に対しての真円性や同芯性といった回転対象性に関する項目では、特に厳密な公差管理を行うことが望ましい。
なお、部品の形状は特に断らない限り回転対称性を持つことが期待される。
以下では、本発明の実施例について図1、図2を参照しながら説明する。
両端が解放された直線円筒状でセラミクス製の本体(70)の試料空間(S)の上側には、頭端を下にしたPTFE製の密封栓(10)と弾性樹脂製の弾性介在子(20)と硬質樹脂製の第一固定具(50)が挿入され、下側には、頭端を上にした密封栓(10’)と弾性介在子(20’)と硬質樹脂製の第二固定具(60)が挿入される構造となっている。上下から挿入される密封栓(10)と(10’)、および、弾性介在子(20)と(20’)とは構造上同じものである。
第一固定具(50)は、挿入部(52)の尾部(上側)の外周にタービン翼(51)が形成されており、上端面には穿孔(54)が穿たれている。第二固定具(60)は、挿入部(62)の下端の外周にフランジ(61)が形成されており、下端面には穿孔(64)が穿たれている。第一固定具と第二固定具に穿たれた穿孔(54)(64)は、MAS試料管に試料を封入したり、MAS試料管をNMR装置に取り付けたりするとき等の、作業時の位置決めや掴み代のために設けられている。
また、前記穿孔(54)(64)は、固定具(50)(60)と前記密封栓(10)(10‘)間の空気抜きの役割も果たし、前記固定具(50)(60)を本体に挿入する際の抵抗をできるだけ少なくするようにしてある。
第一固定具の挿入部(52)と第二固定具の挿入部(62)は、その外径が本体内面(72)よりも僅かに大きく成形されており、本体(70)に圧入されることにより嵌め合いが可能となっている。(いわゆる硬嵌め状態)。第一固定具(50)と第二固定具(60)の挿入部の頭端部(53)(63)は本体(70)への圧入が容易なように、テーパー状に成型されている。第一固定具(50)と第二固定具(60)は、PEEK等の硬質樹脂からなるので、挿入部において機械的には密着し、その位置は強く固定されるが、この部分では気密は保たれない。
ここでは、説明の都合上、タービン翼(51)の形成された側の固定具を第一固定具と呼称し、上側に配置してあるが、上下の区別は本質的ではない。すなわち、上下を逆にして用いても機能上は全く問題ない。また、第一固定具(50)と第二固定具(60)は、本体(70)の両端部に固定され、前記密封栓(10)(10‘)及び弾性介在子(20)(20’)の抜け出しを阻止すると言う点については、同じ機能を有する。
一度本体(70)に圧入された第一固定具(50)および第二固定具(60)は、本体(70)に強く固定され、通常の方法で外すのは難しい硬嵌め状態にしてある。これらの固定具(50)(60)を本体(70)から外すときは、まず、全体を液体窒素に漬ける等して大幅に冷却する。そうすると、セラミクスと樹脂との熱膨張係数の違いから両者の嵌め合いがゆるくなるので、その間に両者を冶具で掴んで引き離すことができる。
回転軸αと平行の方向を軸方向、回転軸αと垂直な方向を径方向と呼称する。
本発明における試料を試料空間に気密に保持する機能に関しては、試料空間(S)を中心として上下の軸方向について対称的である。第一固定具(50)側と第二固定具(60)側とで、試料の保持に関しては、同様なものであるから、当該部分については、第一固定具(50)について以下に説明し、第二固定具の説明を代替するものとして、その説明を省略する。
また、部品の向きについては、組立てた状態で、軸方向について試料空間に近い方を頭方向と呼称し、その反対側を尾方向と呼称する。
前記密封栓(10)には、前記本体(70)の内面(72)の内径(D)よりも僅かに大きい直径を有する膨出部(12)を上下中間部に形成してあり、尾端面中央には、尾端面を解放したメクラ孔状の穿孔(13)が形成してある。
前記膨出部(12)の上下の外周部(11)は、本体内径(D)よりも僅かに小さい直径を有するように形成し、前記本体(70)への挿入時に滑らかに挿入できるようにしてある。
前記穿孔(13)は、後述するピストン冶具(210)により前記密封栓(10)を保持するために設けられているが、当該穿孔(13)の深さと大きさは、密封栓(10)の本体内面(72)への密着圧力を調整する効果と密封栓(10)の素材によるバックグラウンド信号等の測定への影響を軽減する効果を併せ持つので、単にピストン冶具(210)への保持のみならず、これら機能の発現を考慮した大きさと深さにしてある。 このように、前記密封栓(10)は、前記本体(70)に挿入したとき、その膨出部(11)が本体内面(72)と密着し、気密を維持しながら、軸方向に円滑に動くことができるようなゆるい嵌め合い状態となるようにしてある。
前記弾性介在子(20)は発泡PTFEからなる弾性体であり、軸方向の弾性を担う。すなわち、弾性介在子(20)は軸方向にバネ様の作用をもたらす。これにより、固定具と密封栓との間の長さ(L1)(L2)は試料体積に応じて変化できるようになっている。弾性介在子(20)は、外周部(21)が本体内面(72)に接するように形成されており、中心に穴(22)の空いた、円筒状の形状をしている。
弾性介在子(20)の材料には、硬質ゴムや発泡PTFE等の、概ねPTFEよりも柔らかく、天然ゴムよりも硬い材料が利用できる。
弾性介在子(20)は、MASの最中は高速回転に伴う遠心力により、大きな圧力で本体内面(72)に押し付けられ、この応力により圧縮される。受ける応力は回転軸からの距離に比例するので中心部と円周部とでは大きく異なる。径方向の応力は軸方向の変形にも影響をおよぼす。弾性介在子(20)が、中空の円筒状をなしているのは、このような応力により変形するのをできるかぎり排除するためである。
この遠心力の作用は、材料の密度に比例するので、密度が小さいほどその影響は小さくなる。ゴム系の材料は弾性については条件を満たすが、発泡樹脂と比べて密度が大きいため、高速回転下では変形が大きく好ましく無い。発泡PTFEや発泡スチロール等の発泡樹脂は密度が小さいため、高速回転下でも大きく変形することなく安定して用いることができる。中でも、発泡PTFEは、各種溶媒等に対する化学的安定性や誘電正接等の電気的特性が優れているので、弾性介在子(20)の材料として適している。
前記密封栓(10)内に挿入される硬質中子(40)は、PEEK製であり、前記密封栓(10)と本体内面(72)との間の密封力を増大させるために、必要に応じて用いられる。硬質中子(40)には、密封栓(10)の穿孔(13)の内径よりも僅かに大きい直径を有する膨出部(42)が上下中間部に形成してあり、尾端面中央には、尾端面を解放したメクラ孔状の穿孔(43)が形成してあり、雄ネジ状の冶具をねじ込むことにより、把持することができる。硬質中子(40)の頭端部(41)は、部分円錐状に形成されており、密封栓(10)に滑らかに挿入できるようになっている。硬質中子(40)が挿入されると、密封栓(10)の筒状部分は、本体内面(72)との間でより強く弾性圧縮されるので、密封力が増大する。
硬質中子(40)を用いない場合においては、高速回転下では、密封栓(10)の円筒部分は、遠心力により本体内面(72)にさらに強く押し付けられるので、回転数に依存して密封力が増大する。硬質中子(40)を用いた場合は、静止状態や低速回転下においても強い密封力が得られる。
このように、硬質中子(40)は、さらに強い密封力を得たい場合に使用すると良い。
なお、硬質中子(40)を用いる場合は、密封栓(10)の膨出部(12)の外径は、本体内面(72)の直径(D)と同じか僅かに小さく形成し、前記硬質中子(40)の挿入により、直径(D)より大きくなるように設定することもできる。このようにすることにより、前記密封栓(10)を本体内に挿入する時には最低の抵抗で本体内に挿入し、移動させることができて、その操作を容易にするとともに、使用時には、高い密封圧力を維持することが可能となる。
また、密封栓と試料との間に空気が存在する可能性がある場合でも、硬質中子(40)を、組立途中の適当な時点で挿入することができることから、密封栓と本体内面との隙間から余分の空気を抜いた後に硬質中子(40)を密封栓に挿入することで、空気の封入を容易に防止することができる。
なお、試料中に空気などの気体が混在する可能性のある場合は、上下いずれかの密封栓の一方の硬質中子をはずしておき、脱気操作を行うことで、試料中に含まれる気体も除去することが可能である。
このようにして構成されたMAS試料管に、試料を封入する方法について、図3を参照しながら説明する。試料は、図3(a)〜(i)に示す各状態を順に経て、試料空間(S)に封入される。
図3(a)には、このとき用いるピストン冶具(210)が示されている。ピストン冶具の頭部(211)には雄ネジが形成されており、この部分は密封栓(10’)の尾部の穿孔(13’)にセルフタッピング作用によりネジ込むことができるようになっている。ピストン冶具の胴部(212)の外径は本体(70)の内径よりも僅かに小さく形成されている。ピストン冶具(210)は、本体(70)にその胴部(212)を差し入れた状態で、把柄部(213)を持って操作される。
先ず本体(70)に密封栓(10’)を圧入し、次にピストン冶具(210)を密封栓(10’)の尾部にねじ込み、図3(b)に示す状態とする。この状態で、密封栓(10’)は、ピストン冶具(210)を介して外部からの操作で、本体(70)の内部を、本体内面(72)との間で気密を保ちつつ滑ることにより上下に自在に移動できる。すなわち、密封栓(10’)とピストン冶具(210)とは一体となってピストンを構成する。
図3(b)の状態より少しピストンを引き下げ、図3(c)に示すように本体上部に試料(SS)を盛り付ける。試料は、ある程度粘性のある場合は図3(c)に示すようにピペットまたはシリンジ(310)を用いて盛り付けると良い。
このように、試料は、その表面張力または粘度によって本体上部に盛り付けることができ、そのような場合は、ピストンを少し引き下げると、試料は本体の中に吸い込まれるので、さらに追加の試料を、本体上部の空いた空間に盛り上げることができるようになる。このように、試料を本体上部に盛り上げては、ピストンを引き下げることを繰り返し、所定の分量の試料を本体内部に取り込むことで、試料内への空気の噛込を極力なくすようにするのが望ましい。特に高粘度の試料については、このような盛り上げ方式で分量を調整することが必要である。
試料の粘度が大きかったり泥状だったりして、シリンジ等では取り扱いが困難な場合は、小型の薬匙を用いて盛り付けると良い。
また、試料が固体の場合は、微粒子状に粉砕したものを小型の薬匙を用いて盛り付け、適宜押し棒冶具(230)等で押し固めて行くと良い。
試料が固体の場合は、試料は、微粒子状に粉砕した上でシリンダーとピストンからなる冶具を用いて圧縮することにより、予め本体の内径と接する外径をもった円柱状のペレットに加工してから用いるとさらによい。
取り込んだ試料の量は、図3(d)に示すように、ゲージ冶具(220)を当てて、ピストンの突き出し量を測ることにより、確認することができる。ゲージ冶具(220)の替わりに、ピストン冶具の胴部(212)に目盛りを設定して、ピストンの突き出し量を測れるようにしてもよい。
次に、もう1つの密封栓(10)を上部から圧入して行く。このとき、密封栓(10)の膨出部(12)が本体(70)の内径に接するまでの間、余分な試料は排出され、これに伴い、試料や密封栓の表面に僅かに残った気泡等の余分な空気も排出される。このようにして、図3(e)に示すように、試料のみが本体内に残る。
ピストン冶具(210)を下部から外し、図3(f)の状態とし、次に、押し棒冶具(230)で上部から押して、図3(g)に示すように、試料空間が本体の中心部に設定されるようにする。押し棒冶具(230)はピストン冶具の頭部から雄ネジを取り除いた形状をしている。
硬質中子を用いる場合は、図3(h)に示すように、硬質中子(40)(40’)をピストン冶具(210)(210’)を用いて上下から挿入する。
次に、図3(i)に示すように、本体の上下から、弾性介在子(20)(20’)を挿入し、第一・第二固定具(50)(60)を圧入する。
以上の操作により、試料はMAS試料管内部の所定の位置に封入することができる。
実施例1のMAS試料管について、その実用性を検証するため、流動性が大きく漏れ易い液状試料であるメタノールを用いて実験を行った。外径4mm内径2.6mmで試料空間の標準長さを7mmに設定された実施例1のMAS試料管にメタノールを上記の手順で封入した。ここで試料空間の標準長さとは、室温(概ね25℃)における試料空間の長さのことである。
封入された試料の重さは29.7mgであった。試料空間の容積は0.037mlなので、室温におけるメタノールの比重を0.793g/mlとすると、1%以内の誤差で充填率100%に相当する。
このようにして試料を封入したMAS試料管を、室内に長時間放置した場合の重量の変化は、二週間で0.1mg以下であった。
また、このMAS試料管を用いて、20kHzで1時間MASを行ったところ、実験の前後で重量の減少量は0.1mg以下であった。さらに引き続き、18kHzで48時間MASを行ったところ、実験の前後で重量に変化は0.1mg以下であった。
このMAS試料管を温度55℃で1時間放置したところ、実験の前後で重量の変化は0.1mg以下であった。
なお、用いたデジタル秤の最小目盛りは0.1mgであるので、一連の実験において、0.1mgは測定誤差の範囲を意味する。
このように、本発明のMAS試料管は、試料空間の気密を保ったまま、固体試料用の従来型のMAS試料管と同等の回転速度で高速MASに用いることができることが示された。
本実施例では、実施例1にあるような弾性介在子(20)は用いず、替わりに、図4に示すような、尾部を延長した密封栓(10a)を用いる。この密封栓(10a)は、実施例1における密封栓(10)と弾性介在子(20)とを、一体で成形したものに相当する。
本実施例における密封栓(10a)は、PTFEからなり、実施例1における密封栓(10)の尾端に薄い円筒状の裾(20a)を追加した形状をしている。その他は実施例1の密封栓(10)と同じである。
本実施例においては、軸方向の弾性はPTFEにより担われるが、これは、実施例1における弾性介在子に適した材料と比較して、硬めである。その代り密封栓の裾(20a)は、極薄く形成され、それにより軸方向の弾性をある程度確保するようにしている。
本実施例は、やわらかい材料からなる弾性介在子を用いないので、高速回転下においても、回転が安定するという利点がある。一方で、PTFEが安定に弾性変形できる量には限りがあるので、密封栓頭端の軸方向の変位量は大きくは取れない、すなわち対応可能な試料空間の容積変化が小さいという欠点がある。
使用に際して、高速回転下では、裾(20a)は遠心力により、本体内面(72)に強く押さえつけられるので、裾(20a)の形状は円筒に束縛される。このため、裾(20a)は、この形状では、軸方向に力を受けたとき、圧縮変形以外に安定な変形は許されないことに注意されたい。
本実施例は、実施例2における、対応可能な試料空間の容積変化が小さいという欠点を改良したものである。以下、図5を参照しながら説明する。
用いる密封栓(10b)は、実施例2における密封栓(10a)の裾(20a)の形状を工夫し、弾性率を下げ、軸方向の弾性体としての変形量を大きく取れるようにしたものである。密封栓(10b)の裾(20b)には、図に示すように、円筒の外周から中心へ向けて、多数の横孔(14b)が規則的に空けられている。このように多数の穿孔を穿つ加工は、一般にパンチング加工と呼ばれる。パンチング加工で残った部分は、本体内面(72)に接したまま、網目状の薄膜を形成し、たわむことにより、軸方向に大きく変形できる。
すなわち、本実施例においては、網目状の薄膜を弾性体として用いることにより、材料の圧縮変形ではなくたわみ変形を利用することで、軸方向の変位に対するバネ定数を小さくし、大きな変移量が得られるようになった。
使用に際して、高速回転下では、裾(20b)は遠心力により、本体内面(72)に強く押さえつけられるので、裾(20b)の変形は本体内面(72)に沿った円筒面内に制限される。このため、裾(20b)は、円筒面内で安定した網目構造を保ち、弾性を保ったまま大きく変形することができる。
弾性を担う部分が硬い(弾性率が大きい)と、高速回転下では自重に対する遠心力による変形が小さくなり、回転安定性が大きくなるが、その代り、変形の範囲は小さくなる。本実施例では、実施例1における弾性介在子のように、相対的にやわらかい材料を用いること無く、相対的に硬い材料の径方向の小さな変形で、軸方向の大きな変移を担う工夫がなされている。以下、本実施例について、図6を参照しながら説明する。
PEEK製の硬質挿入子(80)は、本体の内径(72)に接する外径の円筒状の胴部(82)をもち、その頭端には部分円錐状の突出部(81)が設けられている。また、中心部には穿孔(83)が空けられている。
穿孔(83)は、当該部品の軽量化をもたらすばかりでなく、MAS試料管の組立に際しては、部品相互の位置決めや当該部品を保持するときの掴み代として用いられる。
密封栓(10c)については、実施例1と同じものが用いられる。
図6(A)に示すように、使用時においては、硬質挿入子(80)は、その突出部(81)が、密封栓(10)の尾部の穿孔(13c)に部分的に差し込まれる。このとき、硬質挿入子(80)の突出部(81)は、密封栓(10c)の尾端において、密封栓の尾部の穿孔(13c)の内径の円周部と接する。
硬質挿入子(80)は密封栓(10)に対してクサビ様に作用し、その差し込まれる長さは試料体積に応じて変化する。
温度上昇等により試料体積が増大した場合は、図6(B)に示すように、密封栓(10c)は軸に沿って外側に移動し、硬質挿入子(80)の突出部(81)が密封栓の穿孔(13c)に突入する長さが大きくなる。このとき、密封栓(10c)の尾部近傍部(P)は、硬質挿入子(80)の突出部(81)により、内側から押し広げられ、本体(70)の内面(72)との間で径方向に弾性圧縮される。この圧縮応力により、密封栓(10c)は本体内面(72)に強く密着する。
密封栓(10c)の軸に沿っての移動量と、密封栓(10c)の尾部近傍部分(P)の径方向への圧縮量との比は、硬質挿入子(80)の突出部(81)の部分円錐面の円錐角に依存している。すなわち、当該円錐角が小さく(傾斜が緩やかに)なると、前述の軸に沿っての移動量と径方向の圧縮量との比は大きくなり、軸方向のバネ定数は小さくなる。それに対応して、密封栓(10c)が弾性的に移動できる変移量は大きくなる。このように、本実施例は、硬質挿入子(80)の突出部(81)の部分円錐面の円錐角を調整することにより、密封栓(10c)を軸方向に押し戻すバネ定数を任意に設定できるという利点がある。
このように、密封栓は試料体積の増大に対応して移動できるので、試料空間の容積が大きくなり、試料空間の圧力は緩和される。
本実施例では、軸方向の大きな変位を径方向の小さな変形で支えることとなり、弾性体として高速回転下においても機械的に安定な比較的硬い材料を用いても、軸方向の変位量を大きく取れるようになっている。
試料空間の体積が増大し、密封栓(10c)が上栓(50)側へ押されると、密封栓(10)は硬質挿入子(80)により押し広げられ、本体内面(72)と大きな圧力で強く密着し、密封能力が増大する。すなわち、試料の体積が増大すると、密封能力も増大する。また、密封能力の増大と同時に、密封栓(10c)と本体内面(72)との間の摺動抵抗も大きくなる。この摺動抵抗により、密封栓はさらに外れ難くなる。
このように、本該実施例では、試料空間の圧力が増大したときに内側から軸方向に受ける力を、径方向へと分散して受け止めることができるので、より高い圧力まで使用することができる。
実施例4における硬質挿入子(80)を用いる代わりに、当該硬質挿入子の突出部と同様の形状の突出部を、第一・第二固定具の頭端面に形成しても良い。突出部の円錐の角度を小さくし、突出量を大きくすると、軸方向の見かけの弾性定数が小さくなり、移動量を多くとることができるようになる。但し、第一・第二固定具の挿入部(52)(62)は、加工上の寸法公差が厳しく、これらと一体で加工する場合は費用の増大を招くので、必要に応じて使い分けることが望ましい。
本実施例は、実施例1から実施例4における弾性介在子の基本的な作用について分かりやすく例示すべく、単純な形態で実施した例である。以下では、本実施例について、図7を参照しながら説明する。
本実施例における弾性介在子(20e)は、硬質樹脂からなり、図に示すように、コイル状のバネ(22e)と内側支持盤(21e)と外側支持盤(23e)とからなっている。内側支持盤(21e)と外側支持盤(23e)とは、その外径が本体内面(72)の直径(D)よりも僅かに小さく形成されていて、本体内面(72)に接しつつ軸方向に滑らかに動くことができるようになっている。
バネ(22e)は内側支持盤(21e)と外側支持盤(23e)との間に形成されていて、軸方向の長さ(L1)が、軸方向に受ける力に応じて弾性的に変化するようになっている。
このような、弾性介在子(20e)が固定具(50)と密封栓(10)との間に設定されている。
このように設定することで、試料の軸方向における位置は、試料の体積によらず、常にその中心が本体内の中心に設定されるようになる。すなわち、試料体積が増大した後に減少したような場合でも、密封栓は上下から同じ力で押し戻され、試料は確実に本体の中心部に設定される。
なお、高速回転時における安定性を向上するために、図示はしないが、コイル状のバネは、コイルの外周が本体内面(72)に接するような形状とすることが望ましい。
実施例1から実施例4の各実施例では、本実施例において例示したバネの作用が、高速回転時においてもより安定して作用するようになっている。
本実施例は、密封栓と固定具との間のバネの作用を、空気バネによって実現した例である。以下では、本実施例について、図8を参照しながら説明する。
一般に、固定具(50)は硬質樹脂で形成されるので、その挿入部(52)と本体内面(72)との間では気密性は確保されない。挿入部の表面に僅かな傷があっても、それが漏れの原因となるからである。ところが、組立に際して、固定具の挿入部(52)に接着剤を塗布する等して、その部分を気密に本体内面(72)に接着することが可能である。このような使用法は部品の再使用に関して問題を生じるので、一般的には避けるべきであるが、特殊な測定では有効な方法である。また、固定具の挿入部(52)の加工精度を特に厳密に管理し、一回限りの使用に制限すること等によっても、挿入部(52)と本体内面(72)との間における気密性を確保することができる。
このように、本実施例における固定具(50c)は、図面に明示的には現れない特殊な方法によって、本体に気密を保ちつつ固定される。
本実施例における固定具(50c)(60c)は、尾端面に形成された穿孔(54c)(64c)が、挿入部芯体(55c)(65c)を本体内部に対して貫通していない以外は、実施例1における固定具(50)(60)と同様である。但し、固定具の挿入部(52c)には、組立時に接着剤が塗布されており、それにより、固定具の挿入部部(52c)と本体内面(72)とは、気密をたもちつつ接着している。
蓄気空間(20c)(20c’)には空気が密封されており、空気バネとして作用する。
本実施例の構成では、測定中に不測の事態によって、固定具の部分の気密が破れても、バネ定数が変化するだけで、試料の密封そのものには影響せず、試料により周囲を汚染する等の心配は少ない。
また、固定具(50c)(60c)は試料と接しないので、固定具の接着に用いる接着剤により、試料が汚染される心配もない。
本実施例では、固定具をさらに強固に本体に固定する方法について示す。本実施例は、実施例1から実施例6にいずれの実施例に対しても、付加的に適用することができる。以下では、本実施例について、図9を参照しながら説明する。
本実施例における固定具(50a)は、その挿入部(52a)に雄ネジが形成されている以外は実施例1に示す固定具(50)と同様である。また、本体(70a)は、その内面の端部近傍には雌ネジ(75a)が形成されている以外は実施例1に示す本体(70)と同様である。
このように、固定具(50a)と本体(70a)とはネジにより勘合するようになっている。このため、試料が膨張して本体内の圧力が大きくなり、密封栓により固定具が外側に強く押されても、固定具が外れることがなくなった。
本発明のMAS試料管においては、試料の設定に関して、固定具は密封栓が外側に移動して外れるのを阻止する機能を有していれば足りるので、固定具と本体とを固定する方法は、圧入による嵌め合いに限らず、設計の自由度が大きい。
本実施例では、固定具をさらに強固に本体に固定する方法について、嵌め合いやネジによる勘合によらず、ピンにより固定する方法を示す。本実施例は、実施例1から実施例6にいずれの実施例に対しても、付加的に適用することができる。以下では、本実施例について、図10を参照しながら説明する。
本実施例における本体(70b)は、筒の外側から内側にかけて横孔(75b)が形成されている。それ以外は実施例1に示す本体(70)と同様である。
固定具(50b)の挿入部には、横孔(59b)が形成されており、そこにはピン(56b)とバネ(55b)が仕込まれている。ピン(56b)にはバネ(55b)により、絶えず横方向に押し出す附勢力が与えられているが、組立時においては、リング止め具(57b)により飛び出しが防止されている。
前記リング止め具(57b)は、固定具(50b)の挿入部に嵌め込みにより固定してある。
固定具(50b)を本体(70b)に挿入すると、リング止め具(57b)が移動し、ピン(56b)はリング止め具の隙間(53b)を通して突出し、本体の横孔(75b)と勘合する。
このようにして、前記ピンの先端を、本体に形成した横孔に挿入することで密封栓の抜け止めを行うようにしてある。
固定具を本体から抜き出すときは、横孔(75b)を通して、左右から同時にピンを押し込むことで、ピンと横孔との勘合を外すことができる。
本実施例では、本体(70c)の内面(72c)の横断面は、図11(A)に示すように、概略八角形状の異型断面形状とし、それにより、試料が随時撹拌されるようになっている。この作用は、本体内面の断面形状を真円以外の回転対称性をもつ形状とすることによりもたらされるので、図11(B)〜(C)に示すように、概略六角形状や概略四角形状としても良い。
本実施例の構成は、試料が低粘度の液体の場合等に、試料が本体の回転に確実に追従するようにしたいときに利用すると良い。
特開2003−177172
実験化学講座8「NMR・ESR」第5版、日本化学会編、(丸善、2006)

Claims (7)

  1. 核磁気共鳴(NMR)測定において、マジックアングルスピニング(MAS)プローブ装置に試料を設定するために用いられる、内部を試料収納部とする筒状体を本体とし、この試料収納部内に試料を密封保持する栓体とからなる密封式MAS試料管であって、
    前記試料収納部の少なくとも一方の栓体は、前記本体の筒状内面との接触により前記試料収納部を密閉する密封栓と、前記密封栓の本体からの抜け出しを阻止する固定具とからなり、
    前記密封栓が、前記固定具による抜け出し阻止位置まで本体の軸線に沿って移動し得るように、前記密封栓と前記固定具との間に移動しろを有して設置されていると共に、
    前記密封栓と固定具との間に両者の相対的な遠近を許す弾性体が介在されており、
    前記弾性体は網目状の薄膜からなる円筒であることを特徴とする密封式MAS試料管。
  2. 請求項に記載の密封式MAS試料管において、前記弾性体は前記密封栓に一体化されていることを特徴とする密封式MAS試料管。
  3. 核磁気共鳴(NMR)測定において、マジックアングルスピニング(MAS)プローブ装置に試料を設定するために用いられる、内部を試料収納部とする筒状体を本体とし、この試料収納部内に試料を密封保持する栓体とからなる密封式MAS試料管であって、
    前記試料収納部の少なくとも一方の栓体は、前記本体の筒状内面との接触により前記試料収納部を密閉する密封栓と、前記密封栓の本体からの抜け出しを阻止する固定具とからなり、
    前記密封栓が、前記固定具による抜け出し阻止位置まで本体の軸線に沿って移動し得るように、前記密封栓と前記固定具との間に移動しろを有して設置されていると共に、
    前記密封栓が前記固定具に近づくほど、当該密封栓を本体の径方向に膨張させるクサビが前記固定具の内側に設けてあることを特徴とする密封式MAS試料管。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載の密封式MAS試料管において、前記密封栓の移動しろは、NMR測定時の試料の熱膨張による密封栓の移動量と等しいか、それより大きくしてあることを特徴とする密封式MAS試料管。
  5. 請求項1からのいずれかに記載の密封式MAS試料管において、前記固定具は、本体の軸線に直交する方向での嵌合により本体に固定してあることを特徴とする密封式MAS試料管。
  6. 請求項1からのいずれかに記載の密封式MAS試料管において、前記本体内面は、回転対称な異形断面形状を有することを特徴とする密封式MAS試料管。
  7. 請求項1からのいずれかに記載の密封式MAS試料管において、前記密封栓は、自然状態の最大外形を本体の内径よりも小さくしてあり、前記密封栓の内部に硬質中子を押込むことで膨張して、前記本体内径より大きな最大外形となるように、弾性体により形成された中空体であることを特徴とする密封式MAS試料管。
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