本発明は、GD3を模倣するペプチド、より詳しくはメラノーマなどの腫瘍に発現する腫瘍関連抗原の一つとして知られているGD3を構造的に模倣していると考えられる新しいペプチドに関する。
GD3は、シアル酸含有スフィンゴ糖脂質に属しており、Gがシアル酸含有スフィンゴ糖脂質(ガングリオシド)の一つを、Dがジシアロ型を意味する。また、GD3は、GM2、GM3、GD2、GT3などの腫瘍関連抗原と同様に、ヒト・メラノーマなどの腫瘍細胞上に発現するものとして知られている。該GD3は、構造式上、NeuAcα2-8 NeuAcα2-3 Galβ1-4 Glc1-1 Cer として示される。
従来より、腫瘍の進展とGD3の発現が相関すること、GD3がメラノーマ細胞上に高発現すること、マウス抗GD3モノクローナル抗体の投与がメラノーマ患者の腫瘍の成長を抑制することなどが報告されている。これらのことから、GD3は、この種の腫瘍の免疫療法の主な標的となっている。
GD3に対するヒトの免疫応答は、病気の臨床経過において有益な効果を及ぼすことが期待でき、これまでにもワクチン分野で種々の臨床的試験が実施されてきている。しかしながら、上記期待に添う成功例は未だ報告されていない(Cheresh, D. A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 81, 5767-5771 (1984): Herlyn, M., et al., Cancer Res., 45, 5670-5676 (1985): Houghton, A. N., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 82, 1242-1246 (1985): Livingston, P. O., Immunological Rev., 145, 147-163 (1995): Livingston, P. O., et al., Cancer Immunol. Immunother., 45, 1-9 (1997) など参照)。
腫瘍に関連したガングリオシド類は、癌に対する免疫攻撃の好ましい標的として知られているが、これらは免疫原性に乏しいといわれている。
この欠点を改善するものとして、ガングリオシドに対する抗体免疫応答を発現または増大させるための癌ワクチン組成物が提案されている(特開平8-53366号公報)。このものは、ガングリオシドをN-グリコシル化したもの(N-グリコリルGM3)である。
同様に、ガングリオシドを9-0-アセチル化したもの(9-0-アセチルGD3)も報告されている(米国特許第5102663号)。
更に、同様の癌ワクチンとして、GD3複合体ワクチン(GD3-キーホールリンペットヘモシアニン複合体)が、顕著に改善された抗体応答を示すことも報告されている(特表平8-508978号公報)。この報告によれば、GD3のセラミド骨格中の二重結合をオゾン開製して化学修飾し、アルデヒド基を導入後、該アルデヒド基を還元的にアミノ化して、タンパク質のアミノリシル基に結合させることによって、マラリアT細胞エピトープの繰り返し、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)の外膜タンパク(OMP)、陽イオン化ウシ血清アルブミン(cBSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびポリリシンを表わす合成多重抗原性ペプチドとGD3との複合体が構築される。また、この報告は、免疫学的アジュバントとして、南米の木、キラジャサポナリアモリナ(Quillaja saponaria Molina)の皮から抽出した糖鎖であるQS-21(Aquila Pharmaceuticals, Worcester, MA, U.S.A.: Kensil, C. R. et al., J. Immunol., 146, 431 (1991))が最も効果的であるとしている。
このように、GD3をそのまま抗原とした従来のワクチンは、免疫応答が弱く、一過性である欠点がある。
また、原料であるGD3の入手にはかなりの困難性を伴う不利がある。即ち、一般に、生体から対象物質とするガングリオシドを多量に調製することは非常に困難である。化学合成法あるいは遺伝子工学的手法を利用したガングリオシドの合成もまた極めて困難である。
更に、GD3に種々の修飾などを行ってワクチンとする場合は、抗原性を高めるための化学処理、複合体の作成などの煩雑な操作が必要であり、これらの操作のための試薬材料などの入手、調製も煩雑であり、免疫アジュバンドの選択なども必要となる不利がある。
一方、近年、分子生物学的手法が複合糖質の分野にも応用され、糖鎖構造をペプチドに置き換える技術が開発されつつある。
本発明者らも、先にガングリオシドの一つであるGD1αに対する抗体と特異的に結合するペプチドを、糖鎖に対するモノクローナル抗体を用いたバイオパニングによりファージディスプレイランダムライブラリーから得ることに成功している。
このペプチド(15mer)は、複合糖脂質の糖鎖構造を模倣するもの(レプリカペプチド)であり、糖脂質GD1αに対するモノクローナル抗体と特異的に結合し、抗原であるGD1αに対する抗体の結合を阻害する活性を有している。
本発明者らは、このペプチドを化学合成法により製造して、これがGD1αに対するモノクローナル抗体と反応性を有することを先に確認している。また、このGD1αのレプリカペプチド(化学合成品)が、高転移性の癌細胞株に対して、該癌細胞の接着性を阻害することおよび癌細胞の転移を抑制することも確認している(特開平10-237099号公報参照)。
本発明者らは、更に、スフィンゴ糖脂質であるラクトテトラオシルセラミドまたはラクトネオテトラシルセラミドに対する抗体と特異的に反応し且つグリコシダーゼ活性を有するペプチドを、ランダムペプチドライブラリーから得ることにも成功している(特開平10−237098号公報:石川大、瀧孝雄、細胞工学, 16 (12) 1821-1828 (1997) 参照)。
最近になって、本発明者らの上記研究成果と同様に、GD2/GD3抗原に対する抗体を用いてファージディスプレイペプチドライブラリーから得られるペプチドであるTrp-Arg-Tyr配列を含む15-16merペプチドが、抗体と交差反応を示す旨の報告がなされている(Qiu, J., et al., Hybridoma, 18(1) 103-112 (1999))。
更に、15merおよび8merのペプチドをディスプレイする2つのファージディスプレイペプチドライブラリーから、抗GD3モノクローナル抗体MB3.6、MG22およびMG21に結合する4つのファージディスプレイペプチドが得られたことも報告されている(Willers, J., et al., Peptides, 20, 1021-1026 (1999))。これら4つのペプチドは、選択に使用された抗GD3抗体と結合性を示し、この結合性はGD3により抑制されると報告されている。しかしながら、いずれのペプチドについても所望される免疫原性は認められなかったことが示されている。
発明が解決しようとする課題
本発明の目的は、ガングリオシドGD3の糖鎖を構造的に模倣するペプチドであって、抗GD3抗体に高い親和性を有する新規なペプチドを提供することにある。
また本発明の他の目的は、抗GD3抗体の産生能を有する免疫原性ペプチド、即ち当該ペプチドで免疫して得られる抗体がGD3と交差反応性を示すことで特徴付けられ、従って、GD3に代わるワクチンとしての有用性を有する上記ペプチドを提供することにある。
更に本発明の他の目的は、上記ペプチドをコードするDNA配列、該配列を挿入した組換え体発現ベクター、該ベクターを組込んだ宿主細胞および該細胞により産生される組換え体発現産物を提供することにある。
更に本発明の他の目的は、上記ペプチドまたは組換え体発現ベクターを有効成分とする医薬組成物、特に抗腫瘍ワクチン(癌ワクチン)を提供することにある。
課題を解決するための手段
本発明者らは、さらに研究を重ねた結果、抗GD3抗体に高い親和性を有する新規なアミノ酸配列を見出した。また、このアミノ酸配列を含むペプチド(GD3模倣ペプチド)で免疫して得られる抗血清がGD3と交差反応性を示し、従って、このペプチドがGD3に代わるワクチンとして利用できることを見出した。本発明はこれらの知見を基礎として完成されたものである。
本発明は、配列番号:1から4のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチドまたは該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸残基が置換、欠失、付加もしくは挿入により改変されたアミノ酸配列を含むペプチドであって、抗GD3抗体に特異的結合性を有することを特徴とするGD3模倣ペプチドを提供する。
特に、本発明は、免疫原性を高めるキャリア蛋白との融合ペプチド形態である上記GD3模倣ペプチド;キャリア蛋白がキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である上記GD3模倣ペプチド;多抗原性ペプチド形態である上記GD3模倣ペプチド;抗GD3抗体の産生能を有する免疫原性ペプチドである上記GD3模倣ペプチド;および配列番号:1から4のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するペプチドである上記GD3模倣ペプチドを提供する。
また、本発明は、上記GD3模倣ペプチドを有効成分として含有する医薬組成物を提供する。
更に、本発明は、以下の各態様の発明を提供する。
(a) 本発明GD3模倣ペプチドをコードするDNA配列、特に配列番号:1から4のいずれかに示されるアミノ酸配列、好ましくは、配列番号:3または4に示されるアミノ酸配列をコードするDNA配列;
(b) 配列番号:5から8のいずれかに示される配列を有する上記DNA配列;
(c) これらDNA配列の少なくとも1種が挿入された組換え体発現ベクター;
(d) 上記組換え体発現ベクターを組込んだ宿主細胞;
(e) 上記組換え体発現ベクターを有効成分として含有する医薬組成物;
(f) 抗GD3抗体の誘起を刺激するかまたは該抗体の産生を増強するためのワクチンとしての本発明医薬組成物の使用;
(g) 抗腫瘍、抗癌または癌転移抑制のための医薬としての本発明医薬組成物の使用;
(h) GD3発現性の腫瘍または癌、特に、黒色腫、大腸癌、卵巣癌、肝癌、乳癌、脳腫瘍、腎癌、膵臓癌、子宮頸癌、食道癌、肺癌および胃癌からなる群から選ばれる疾患の処置である上記医薬組成物の使用;
(i) リポソーム製剤である本発明医薬組成物。
本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸などの略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)および当該分野における慣用記号に従うものとする。
本発明GD3模倣ペプチド
本発明のGD3模倣ペプチドは、配列番号:1から4のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むペプチドまたは該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸残基が置換、欠失、付加もしくは挿入により改変されたアミノ酸配列を含むペプチドからなり、GD3に対する抗体(抗GD3抗体)に特異的な結合性を有することにより特徴付けられる。
ここで抗GD3抗体は、当該分野における通常の用語として使用され、GD3を認識する(GD3と結合する)特異抗体として定義される。当該抗体は、関連する他のガングリオシドとは交差性を示さないのが好ましい。また、特にモノクローナル抗体であるのが好ましい。
配列番号:1から4に示されるアミノ酸配列は、GD3の糖鎖構造を模倣する特徴的なアミノ酸配列として特徴付けらる。これらのアミノ酸配列を有するペプチドが本発明GD3模倣ペプチドの好適な具体例である。
また上記特定のアミノ酸配列は、GD3の糖鎖構造を模倣するという構造的特徴が保持あるいは提示される限りにおいて、その一部のアミノ酸またはアミノ酸配列を置換、欠失、付加もしくは挿入により改変することができる。本発明GD3模倣ペプチドには、このような改変されたアミノ酸配列を有するペプチドも包含される。
アミノ酸配列の改変、即ち「置換、欠失、付加もしくは挿入」の程度およびそれらの位置は、改変されたアミノ酸配列を含むペプチドが、配列番号:1から4で示されるアミノ酸配列を含むペプチドと同様の性質を有する同効物であること、即ち、GD3の糖鎖構造を模倣するという構造的特徴を保持あるいは提示することを必須として特に制限はない。
当該改変の程度は、通常80%以上の相同性、好ましくは90%以上の相同性を保持するものとすることができる。
尚、本発明ペプチド中、少なくとも2つのシステイン残基を有するペプチド、例えば配列番号:2で示されるアミノ酸配列を有するペプチドは、自発的に環状化すると考えられる。このような環状ペプチドは、線状形態で存在する場合においても活性(抗GD3抗体との特異結合性)を有するので、該ペプチド内のひとつまたは両方のシステイン残基およびこれら2つのシスチン残基に挟まれたアミノ酸配列部分は、GD3の糖鎖構造を模倣する構造的特徴に著しい影響を与えることなく欠失させることができる。かかる現象は、例えばコイビーネンらの報告(Koivunen, et al., J. Biol. Chem., 268, 20205-20210 (1993))に支持される。このような欠失されたアミノ酸配列の具体例としては、例えば、配列番号:2に示されるアミノ酸配列のN端9アミノ酸残基からなる配列を例示できる。
本発明GD3模倣ペプチドは、上記特定のアミノ酸配列を含むペプチドであり、GD3の糖鎖構造を模倣する構造的特徴を保持あるいは提示しており、従って、抗GD3抗体に特異的な結合性を有することにより特徴付けられる。
本発明ペプチドは、その抗原性などを考慮すると、少なくとも5アミノ酸配列の長さ、好ましくは8から60アミノ酸配列の長さ、より好ましくは8から30アミノ酸配列の長さあるいは10から20アミノ酸配列の長さからなることができる。
本発明ペプチドの好ましい例としては、配列番号:3または4、特に好ましくは配列番号:4に示されるアミノ酸配列を含むかまたは該アミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸残基が置換、欠失、付加もしくは挿入により改変されたアミノ酸配列を含むものを例示することができる。
また、本発明ペプチドの他の好ましい例としては、GD3に特異的な抗体の産生能を有する免疫原性ペプチド、即ち、GD3に特異的な抗体を誘起できることにより特徴付けられるペプチドを例示することができる。
配列番号:1から4に示されるアミノ酸配列を有する本発明GD3模倣ペプチドは、それ自体、GD3に特異的な抗体の産生能を有しており、本発明免疫原性ペプチドの好適な具体例である。
本発明免疫原性ペプチドは、免疫原性を高めた形態とされた場合に所望の免疫原性を有するペプチドおよび当該形態であるペプチドを包含する。この免疫原性ペプチドは、ペプチドそれ自体であってもよく、また例えば、免疫原性を高める慣用のキャリア蛋白との融合ペプチド形態、多抗原性ペプチド形態などの免疫原性を高めた形態のペプチドであることができる。
尚、本発明ペプチドがGD3の糖鎖構造を模倣する構造的特徴を保持あるいは提示していること、従って抗GD3抗体に特異的な結合性を有することは、抗GD3抗体との反応性を試験することにより確認できる。また、本発明ペプチドが抗GD3抗体の産生能を有する免疫原性ペプチドであることは、産生される抗体とGD3との交差反応性を試験することにより確認できる。これらの試験はいずれも常法に従い行い得る。本発明ペプチドの抗GD3モノクローナル抗体への結合特異性の検出例および本発明免疫原性ペプチドで誘起された抗体とGD3との反応性試験例は、後記実施例に示されている。
本発明GD3模倣ペプチド(免疫原性ペプチド)は、以下の態様を包含する。
(a)配列番号:1から4に示される特定アミノ酸配列(それらの改変されたアミノ酸配列を含む、以下同じ)の少なくとも1種が複数個融合または連結された配列を含むペプチド;
(b)前記特定アミノ酸配列の少なくとも1種のペプチドを含む多抗原性ペプチド形態のペプチド;
(c)前記特定アミノ酸配列の少なくとも1種のペプチドと免疫原性を高めるかもしくは免疫応答を促進し得るキャリア蛋白乃至ペプチドとの融合ペプチド形態のペプチド。
これらの態様を含む本発明GD3模倣ペプチドの具体例につき以下に詳述する。
後述の実施例においてGD3R-1、GD3R-2、GD3R-3またはGD3R-4と呼称するペプチドは、それぞれ配列番号:1から4に示されるアミノ酸配列を有する本発明GD3模倣ペプチドの好適な具体例である。
また、これら各アミノ酸配列中の連続した9-14個のアミノ酸残基からなるペプチドもまた本発明GD3模倣ペプチドに包含される。これらの内では、各アミノ酸配列のN端9-14個のアミノ酸残基からなるペプチドおよびC端9-14個のアミノ酸残基からなるペプチドが好ましい。特に、各アミノ酸配列中、N端9個のアミノ酸残基からなるペプチドおよびC端9個のアミノ酸残基からなるペプチドが最も好ましい。
配列番号:1から4に示されるアミノ酸配列を有する本発明GD3模倣ペプチドは、例えば実施例に示されるように、ファージディスプレイライブラリーを利用して抗GD3抗体に特異的な結合性を有するペプチドを選択することにより収得される。この選択には、例えば大集団の分子ライブラリーを作成し、該分子ライブラリーをスクリーニングして所望ペプチドを同定する方法を採用することができる。
該スクリーニングにおけるファージディスプレイライブラリーの作成方法およびスクリーニング法については、例えばスコットおよびスミスらの方法が参照できる(Scott, J. M. and Smith, G. P., Science, 249, 386-390 (1990); Smith, G. P. and Scott, J. K., Methods in Enzymology, 217, 228-257 (1993))。
本発明GD3模倣ペプチドの同定のためのより好ましい方法としては、例えば特開平10-237098号公報、特開平10-237099号公報および石川大、瀧孝雄、細胞工学, 16 (12) 1821-1828 (1997)などに記載の糖脂質糖鎖模倣ペプチドを同定する方法を例示することができる。
所望ペプチドを提示するファージクローンのスクリーニング(選択)は、GD3を
認識する抗体、好ましくはGD3に対する特異性に優れるモノクローナル抗体を利用して、該抗体への結合性を試験することにより行い得る。
選択されたファージクローンのDNA配列を決定することにより、所望のGD3模倣ペプチドを同定することができる。DNA配列の決定は、当業界で公知の方法により容易に行い得る。例えばジデオキシ法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 74, 5463-5467 (1977)〕、マキサム−ギルバート法〔Method in Enzymology, 65, 499(1980)〕などにより行うことができる。かかる塩基配列の決定は、市販のシークエンスキットなどを用いても容易に行い得る。
本発明GD3模倣ペプチドの製造
本発明GD3模倣ペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。該方法には、通常の液相法および固相法によるペプチド合成法が包含される。
ペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明GD3模倣ペプチドの合成は、そのいずれによることもできる。
上記ペプチド合成には一般的な各種の縮合法が採用できる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシサクシンアミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミドなど)法、ウッドワード法などを例示できる。
これら各方法に利用できる溶媒も、この種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチルなどおよびこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸乃至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステルなどの低級アルキルエステル;例えばベンジルエステル、p-メトキシベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステルなどのアラルキルエステルなどとして保護することができる。
また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル(Z)基、ベンジルオキシカルボニル(Boc)基、第三級ブチル基などで保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。
更に、例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2-メトキシベンゼンスルホニル基、メタンスルホニル基、Boc基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基などの適当な保護基により保護することができる。
上記保護基を有するアミノ酸、ペプチドおよび最終的に得られる本発明GD3模倣ペプチドにおけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸などを用いる方法などに従って実施することができる。
得られる本発明GD3模倣ペプチドは、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法などのペプチド化学の分野で汎用される方法に従って、適宜精製することができる。
また、本発明GD3模倣ペプチドは、当該ペプチドをコードするDNA配列を利用した遺伝子工学的手法に従い製造することができる。
この手法は、常法に従うことができる。例えばDNAの合成、該DNAの発現を可能とする発現ベクターの製造、該ベクターの宿主細胞における発現などは、いずれも一般的な遺伝子工学的手法に準ずることができる(Molecular Cloning 2d. Ed., Cold Spring Harbor Lab. Press (1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)など参照)。
本発明GD3模倣ペプチドをコードするDNAは、本発明により提供されるGD3模倣ペプチドのアミノ酸配列情報に基づいて、常法に従い調製することができる(Science, 224, 1431 (1984); Biochem. Biophys. Res. Comm., 130, 692 (1985); Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 5990 (1983) など参照)。
より具体的には、DNAの合成は、ホスホルアミダイト法またはトリエステル法による化学合成によることができ、例えば、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置上で行うこともできる。二本鎖断片は、化学合成した一本鎖生成物に、化学合成した相補鎖を適当な条件下でアニーリングさせるか、または適当なプライマー配列と共にDNAポリメラーゼを用いて相補鎖を付加することによって得ることもできる。
上記で合成されるDNAは、これによってコードされるアミノ酸配列が改変されたものであることもできる。この改変されたアミノ酸配列をコードするDNAは、例えばオリゴヌクレオチドを用いた部位特異的変異導入法(Zoller, M., et al., Nucl. Acids Res., 10, 6487-6500 (1982))、カセット変異誘発法(Well, J., et al., Gene, 34, 315-323 (1985))などの公知方法によって得ることができる。
本発明ペプチドの遺伝子工学的製造(発現)は、この分野で周知慣用の技術に従うことができる(例えばScience, 224, 1431 (1984); Biochem. Biophys. Res. Comm., 130, 692 (1985); Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 80, 5990 (1983)など参照)。また、本発明ペプチドを融合ペプチド乃至融合蛋白として製造するに際しては、例えば大野らの方法「タンパク実験プロトコール1機能解析編、細胞工学別冊、実験プロトコールシリーズ、1997年、秀潤社」などを参考にすることができる。
得られる所望ペプチドは、その物理的性質、化学的性質などを利用した各種の分離操作(例えば「生化学データーブックII」、1175-1259 頁、第1版第1刷、1980年 6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25 (25), 8274-8277 (1986); Eur. J. Biochem., 163, 313-321 (1987)など参照)により分離、精製することができる。該方法としては、具体的には、例えば、通常の再構成処理、蛋白沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せなどを例示することができる。
本発明GD3模倣ペプチドは、より好ましくは、GD3に特異的な抗体の産生能を有する免疫原性ペプチドであり、これは、免疫原性を高めた形態、例えば、免疫原性を高めるキャリア蛋白との融合ペプチド形態、多抗原性ペプチド形態などであることができる。
免疫原性を高めるキャリア蛋白との融合ペプチド形態である本発明GD3模倣ペプチドは、免疫原性を高める慣用のキャリア蛋白をペプチドに結合させることにより収得できる。
キャリア蛋白としては、免疫原性を高めることができる限り特に制限はなく、担体効果(carrier effect)により免疫原性を与える各種の蛋白乃至ペプチドおよび生体の免疫応答を促進する各種の蛋白乃至ペプチドを包含する。該キャリア蛋白は、また抗腫瘍活性などの医薬作用を併せ持つ蛋白乃至ペプチドであることができる。
本発明GD3模倣ペプチドが概して医薬品分野で利用されることを考慮すると、上記キャリア蛋白としては、医薬として許容される蛋白乃至ペプチドから選択されるのが好ましい。その具体例としては、例えばKLH、IL-12、GM-CSFなどのサイトカインなどを例示できる。他の蛋白乃至ペプチドの例としては、例えばIFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-1、IL-2、TNF、TGF-β、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチンなどを例示することができる。
本発明におけるペプチドとキャリア蛋白との結合反応は、前記したペプチド合成法に従い実施することができ、かくして融合ペプチド形態の本発明ペプチドを得ることができる。
また、融合ペプチド形態の本発明ペプチドは、上記キャリア蛋白をコードするDNA乃至遺伝子を利用して、前記した遺伝子組換え技術に従い製造することもできる。
本発明GD3模倣ペプチドは、多抗原性ペプチド(multiple antigen peptide: MAP)形態であることもできる。このMAPは、基本分子に、例えば配列番号:1から4
に示される特定アミノ酸配列のペプチドの複数個が結合した形態として特徴付けられる。
MAP形態である本発明GD3模倣ペプチドの好適な一例としては、例えば基本分子(骨格)としてデンドリマー構造を有するものを挙げることができる。
デンドリマーとは、一般に樹枝状形状から星形の立体配置を有する球状乃至その他の構造の分子として知られている。該分子はまた複数個の機能基を有する枝(繰返し単位)を有することにより特徴付けられる(例えば、特表昭60-500295号公報;特開昭63-99233号公報;特開平3-263431号公報;米国特許第4507466号明細書;同第4568737号明細書;Polymer Journal, 17, p.117 (1985); Angewandte Chem. Int. Engl., 29, 138-175 (1990); Macromolecures, 25, p.3247 (1992)など参照)。
本発明に利用できるデンドリマーは、開始部分となる核構造、該開始核に結合した繰返し単位(枝)で構成される内部層(世代)および各枝に結合して存在する機能基よりなる外表面を有するものであれば、特に制限されない。該デンドリマーの大きさ、形態、反応性などは、開始核部分、世代数および各世代に用いられる繰返し単位を適宜選択することによって調節することができ、これらにも特に制限はない。適当な大きさなどを有するデンドリマーの製造は、後記する常法に従うことができ、また異なる大きさのデンドリマーは、利用される世代数を増やすことによって容易に得ることができる(例えば米国特許第4694064号明細書など参照)。
デンドリマー構造を有する本発明GD3模倣ペプチド(MAP)の一例としては、例えば窒素原子を開始核部分とし、該核部分に結合する-CH2CH2CONHCH2CH2-構造からなる繰返し単位(枝)を有するデンドリマーの各枝の最外側末端に特定アミノ酸配列のGD3模倣ペプチドの複数個を結合させたものを挙げることができる。他の一例としては、例えばLys、Arg、Glu、Aspなどのアミノ酸のいずれかを開始核部分とし、該核部分に直接結合する繰返し単位として同様の各アミノ酸を利用し、同様に各枝末端に同様に複数のGD3模倣ペプチドを結合させたものを挙げることができる。
上記窒素原子を開始核部分とするデンドリマーは、常法に従い製造できる。またその構造物(本発明GD3模倣ペプチドを結合させるべきデンドリマー原料)は、市販品としても入手できる(Polysciences, Inc., 400 Vally Road, Warrington, PA, 18976 U.S.A.)。他方のアミノ酸を開始核部分とするデンドリマーは、
例えば前記したペプチド合成法に従い製造することができる。また、例えばFmoc8-Lys4-Lys2-Lys-βAla-Alko樹脂(渡辺化学工業社製)などとして市販のデンドリマー原料を利用して製造することもできる。
より具体的には、上記デンドリマー原料は、次の如くして製造することができる。即ち、固相ペプチド合成用の樹脂に、スペーサーを介してまたは介さずに、2つのアミノ基を同一のまたは同一でない保護基で保護したα,ω-ジアミノ酸を縮合反応させ、ついで保護基を除去し、更に同様の保護α,ω-ジアミノ酸の縮合反応及び脱保護基反応を繰返す。
固相ペプチド合成用の樹脂としては、通常のペプチド合成に汎用されているものをいずれも使用することができる。その例としては、例えばポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリスチレンポリエチレングリコール樹脂などの末端にクロロメチル基、4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ基、4-((α-2',4'-ジメトキシフェニル)-9-フルオレニルメトキシカルボニルアミノメチル)フェノキシ基などを有するものを挙げることができる。スペーサーとしては、1個または複数個のアミノ酸を挙げることができる。また、α,ω-ジアミノ酸としては、リジン、オルニチン、1,4-ジアミノ酪酸、1,3-ジアミノプロピオン酸などを挙げることができる。
保護基としては、Boc基、Fmoc基、Z基などを挙げることができる。機能基としては、アミノ基、カルボキシル基および水酸基を挙げることがきる。保護基の除去反応は、前述したペプチド合成法に従うことができる。枝の数は、繰返し単位の縮合と保護基の除去とをn回繰り返すことにより2nとなる。この枝数は、具体的には2から16の範囲を好ましいものとして挙げることができる。
得られるデンドリマー原料の各枝末端の機能基に、特定アミノ酸配列のGD3模倣ペプチドを結合させることにより、所望MAP形態の本発明ペプチドを収得することができる。この結合反応は、前記したペプチド合成法に従うことができる。
MAP形態の本発明ペプチドは、常法に従い、適当なマトリックス、例えばセファクリールS-300(ファルマシア社製)などの樹脂を用いたクロマトグラフィー操作などにより精製することができる。
本発明MAPにおいて、各枝末端に結合させるGD3模倣ペプチドは、同一のものである必要はなく任意に組合せたものであることもできる。異なるGD3模倣ペプチドの組合せ例としては、例えば、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:4の各アミノ酸配列の組合せ、配列番号:1から4に示される15アミノ酸配列のペプチドと図2に示される9アミノ酸配列のペプチドとの組合せなどを例示することができる。このような複合型MAPは、投与対象における血中および組織中での安定性、結合された分子の免疫原性などの向上に役立ち、本発明GD3模倣ペプチドによるGD3抗体の産生をより高める場合がある。
本発明MAPは、また、それが有するGD3模倣ペプチドの一部としてもしくは開始核部分に結合させる形で、前記した免疫原性を高めるキャリア蛋白、例えばIL-12、GM-CSFなどの免疫応答を促進するポリペプチドなどを結合させた複合型MAP形態とすることもできる。
更に、本発明GD3模倣ペプチド以外の、腫瘍細胞上に発現する他のガングリオシド、例えばGM2、GM3、GD1、GD2、GD3、GT3などの模倣ペプチドの1またはそれ以上を、本発明GD3模倣ペプチドとともにMAPの構成成分として利用した複合型MAP形態とすることもできる。この複合型MAPの例としては、配列番号:1から4および図2に示すアミノ酸配列のGD3模倣ペプチドのいずれか1以上と、例えば特開平10-237099号公報に開示されているGD1αを模倣するレプリカペプチドの組合せなどを例示することができる。
MAP形態である本発明GD3模倣ペプチドは、免疫原性において優れており、GD3に対する抗体の産生を誘起するかあるいは抗体産生を増加させる作用を奏し得る。このように、MAP形態である本発明GD3模倣ペプチドは、癌に対するワクチンとしての作用を示す結果、制癌効果および癌転移抑制効果を奏し得る。
MAP形態の本発明ペプチドは、更に、その内部に任意の薬剤、例えば免疫応答を促進させる作用を有する薬剤などを包み込んだ形態に調製することもできる。これは、目的とする抗体の誘起を更に助長したり、抗体産生を更に増加させ得るなどの、より高い効果を挙げることができる利点がある。
本発明医薬組成物
本発明は、本発明GD3模倣ペプチドを有効成分として含有するヒトを含む動物のための医薬組成物をも提供する。
該医薬組成物は、その有効成分が癌関連抗原であるGD3抗原に対する抗体と結合する作用を利用して、例えば癌の診断剤などとして有用である。
より好ましい本発明医薬組成物は、GD3に特異的な抗体の産生能を有する免疫原性ペプチドである本発明GD3模倣ペプチドを有効成分として含有する医薬組成物である。
免疫原性ペプチドである本発明GD3模倣ペプチドは、GD3を構造的に模倣してGD3と類似の免疫原性を示す作用を有している。従って、該ペプチドは、その投与によって誘起または産生される抗体または補体に依存的な細胞障害活性化による、あるいは細胞障害性T細胞の活性化による、抗腫瘍作用を奏する医薬組成物として有用である。また、該ペプチドは、GD3を発現する腫瘍細胞におけるGD3を介した細胞間接着の抑制作用などを奏する医薬組成物としても有用である。
本発明は、例えばGD3を認識する抗体の誘起を刺激するかまたは該抗体の産生を増強するためのワクチンとしての本発明医薬組成物の使用;抗腫瘍、抗癌または癌転移抑制のための本発明医薬組成物の使用;およびGD3発現性の腫瘍または癌、特には、黒色腫、大腸癌、卵巣癌、肝癌、乳癌、脳腫瘍、腎癌、膵臓癌、子宮頸癌、食道癌、肺癌および胃癌からなる群から選ばれる疾患の処置への本発明医薬組成物の使用を包含する。
本発明医薬組成物は、薬学的有効量の本発明GD3模倣ペプチドと薬学的に許容される担体を含む組成物として調製することができる。
用いられる薬学的に許容される担体は、当該分野において周知であり、調製される組成物の形態に応じて適宜選択することができる。例えば、組成物が水溶液形態に調製される場合、上記担体としては、水または生理学的緩衝液などを制限なく利用することができる。また、上記担体としては、例えばグリコール、グリセロール、オリーブ油のような注入可能な有機エステルなども使用することができる。
本発明医薬組成物には、例えば有効成分およびその吸収性を安定化または増加させ得る任意成分を更に配合することができる。この任意成分としては、例えば、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸、グルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子タンパク質、アルブミンなどの安定化剤乃至賦形剤を例示することができる。
本発明医薬組成物には、製剤設計上汎用される任意の添加剤、例えば通常の各種の防腐剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、吸収促進剤などを適宜配合することができる。これら添加剤の具体例としては、次のものを例示することかできる。例えば防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベンなど)、チメロサールなどの真菌および細菌に有効な防腐剤を例示できる。等張化剤としては、例えばD-マンニトール、D-ソルビトール、D-キシリトール、グリセリン、ブドウ糖、マネトース、蔗糖、プロピレングリコールなどの多価アルコール類および塩化ナトリウムなどの電解質類を例示できる。安定化剤としては、例えばトコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、システインなどを例示できる。
本発明医薬組成物の一具体例としては、リポソーム製剤を挙げることができる。リポソーム製剤は、酸性リン脂質を膜構成成分とするかあるいは中性リン脂質と酸性リン脂質とを膜構成成分とするリポソームに、本発明GD3模倣ペプチドを保持させたものであることができる。
膜構成成分としての酸性リン脂質および中性リン脂質としては、特に制限はなく、この種のリポソーム製剤に慣用される各種脂質の一種を単独で、または二種以上を混合して使用することができる。
リポソーム膜は、酸性リン脂質を単独で用いるかまたは中性リン脂質と酸性リン脂質とを併用して、常法に従い形成される。中性リン脂質と併用される場合、酸性リン脂質の併用割合は、リポソーム膜構成成分中に0.1〜100モル%程度、好ましくは1〜90モル%、より好ましくは10〜50モル%程度とするのがよい。
上記リポソームの調製に当たっては、例えばコレステロールなどを添加することができる。これによりリン脂質の流動性を調製して、リポソームの調製をより簡便なものとすることができる。該コレステロールは、通常リン脂質に対して等量まで、好ましくは0.5倍重量から等重量の量で添加配合されるのが好ましい。
リポソーム製剤中の有効成分と酸性リン脂質との配合割合は、有効成分に対して酸性リン脂質が0.5〜100当量程度、好ましくは1〜60当量程度、より好ましくは1.5〜20当量程度とされるのがよい。
有効成分とする本発明GD3模倣ペプチドの全脂質に対する使用モル%は、数モル%から数十モル%程度、好ましくは5〜10モル%程度、通常5モル%前後であることができる。
尚、上記リポソーム製剤の製造、濃縮、粒径コントロールなどは、常法に従い実施できる。またリポソーム製剤には、所望により前記した各種の添加剤などを配合することもできる。
上記リポソーム製剤の製造において、有効成分とする本発明GD3模倣ペプチドは、これに脂肪酸(例えばベヘン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸など)、アルキル基、コレステリル基などを結合させて用いることもできる。これらを結合させて調製するリポソーム製剤の製造もまた常法に従うことができる(Long Circulating Liposomes: old drugs, New therapeutics., M. C. Woodle, G. Storm, Eds: Springer-Verlag Berlin (1998) など参照)。
本発明医薬組成物(製剤)中に含まれる有効成分の量は、薬学的有効量である限り特に制限されず広範囲から選択することができる。
通常、本発明GD3模倣ペプチドは、製剤中に約0.00001〜70重量%、好ましくは約0.0001〜5重量%含有される量範囲から選択されるのが望ましい。また、上記製剤の投与量も、特に限定されず、所望の治療効果、投与方法(投与経路)、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲から適宜選択することができる。一般に、該投与量は、患者1日当たり体重1kg当たり、有効成分が約0.01μg〜10mg、好ましくは約0.1μg〜1mgとなる範囲から選ばれるのがよい。該製剤は1日当たり1回投与に限らず、数回に分けて投与することができる。
本発明医薬組成物は、好ましくはワクチン組成物として使用できる。その使用に際しては、薬学的有効量のアジュバントと併用されるのが抗腫瘍効果を高めるためにより好ましい。
アジュバントとしては、この種ワクチンに慣用されるものをいずれも制限なく使用できる。その例としては、例えばフロイント完全アジュバント、ムラミルジペプチド、BCG、IL-12、N-アセチルムラミン-L-アラニル-D-イソグルタミン(MDP)、サイモシンα1、QS-21などを例示することができる。併用されるアジュバントの量は、その投与後、ヒトまたは動物に対する免疫反応の一部として表出するおそれのある皮膚の軟化、痛み、紅斑、発熱、頭痛、筋肉痛などの症状の程度に応じて適宜決定することができる。通常、患者1日当たり体重1kg当たり、約0.1〜1000μg、好ましくは約1μg〜数百μgの範囲から選ばれるのが適当である。
本発明医薬組成物は、例えば免疫応答促進ペプチド、癌化学療法剤(抗癌剤)などの他の公知の医薬品などと併用することができる。併用薬としての癌化学療法剤には、5-フルオロウラシル(5-FU)を代表例として、各種のアルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質製剤、抗腫瘍性植物成分製剤、抗腫瘍活性を有するサイトカインなどが含まれる。これら併用薬の投与量は、当該併用薬の薬学的有効量に依存して適宜決定することができる。例えばGM-CSFを併用薬として用いる場合、該GM-CSFは通常患者1日当たり体重1kg当たり、約0.1〜1000μg、好ましくは約1μg〜数百μgの範囲で投与される。
また、併用薬を利用するに際しては、前記したように、MAP形態である本発明GD3模倣ペプチドの内部にこれを包み込んだ形態で利用することもできる。
更に、併用薬の利用に当たっては、該併用薬を含有し得る適当な室のあるマイクロデバイスのような薬物送達系物質であって、本発明GD3模倣ペプチドを含むものを利用することもできる。
薬物送達系物質は、非毒性且つ生分解性であるのが好ましい、その例としては、例えばリポソーム、透過性もしくは半透過性の膜を含有するマイクロカプセル、他の室を有するマイクロデバイスなどの生物学的物質などを挙げることができる。
薬物送達系物質と本発明GD3模倣ペプチドとは、常法に従い結合させることができる(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Lab. Press (1988): Hermanson, Bioconjugate Techniques, Academic Press (1996) など参照)。
また、制癌剤、抗癌活性を有するサイトカインなどを含む本発明医薬組成物は、例えばナンバらの文献(Liposomal applications to cancer therapy, Y. Namba, N. Oku, J., Bioact. Compat. Polymers, 8, 158-177 (1993))などを参照して製造することができる。
本発明医薬組成物は、癌の診断剤として利用することもできる。この場合、有効成分である本発明GD3模倣ペプチドは、癌診断剤としての抗GD3抗体の検出のために、例えば標識化することができる。この標識化は、常法に従い、放射性化合物、蛍光物質、酵素、ビオチン、造影剤などを利用して行うことができる。
かかる診断剤の利用によれば、癌組織、癌細胞、血液などの体液などの各種サンプル中の抗GD3抗体が検出できる。この検出結果は、例えば、癌の診断、病態の把握などに有用である。
本発明GD3模倣ペプチドをコードするDNA
本発明は、本発明GD3模倣ペプチドをコードするDNA配列のDNA自体をも提供する。該DNAは、前記した本発明GD3模倣ペプチドの遺伝子工学的手法による製造に有用である。また、該DNAはこれを有効成分とするDNAワクチンの調製にも好適に利用することができる。
本発明GD3模倣ペプチドをコードするDNAの配列は、前記した通りである。好ましいDNA配列は、抗GD3抗体の産生能を有する免疫原性ペプチドである本発明GD3模倣ペプチドをコードするDNA配列である。更に好ましいそれは、前記した特に好ましい本発明GD3模倣ペプチドをコードするDNA配列である。
DNAワクチンは、抗GD3抗体の産生能を有する免疫原性ペプチドである本発明GD3模倣ペプチドをコードするDNA自体または該DNAを含みこれによってコードされる本発明GD3模倣ペプチドの発現を可能とする組換え発現ベクターを有効成分とする。
該ワクチンは、ヒトを含む哺乳類の癌細胞または癌組織を標的とするDNAワクチンとして有用であり、前記した本発明GD3模倣ペプチドを有効成分とする医薬組成物と同様の使用において有用である。
DNAワクチンは、医薬として許容される担体を利用して常法に従い医薬組成物形態に調製することができる。該担体としては、例えば、滅菌生理食塩水、滅菌緩衝化生理食塩水などの生理的に許容できる溶液を挙げることができる。
また、該医薬組成物は、前記した本発明GD3模倣ペプチドを有効成分とする医薬組成物の場合と同じくリポソーム製剤であることができ、アジュバントなどと併用することもできる。
更に、該医薬組成物には、任意の薬剤、添加物などを含ませることもできる。その例としては、例えばカルシウムイオンなどのDNAの細胞内取込みの助けとなる薬剤を例示することができる。また、前記リポソームおよび例えばフルオロカーボン乳剤、コクリエート(cochleate)、チューブル(tubule)、金粒子、生分解性マイクロスフェア、カチオン性ポリマーなどのトランスフェクションを容易にする薬剤乃至添加物をも使用することができる。
ワクチン宿主に導入される発現可能なDNAまたは転写されたRNAの量は、非常に広い範囲から選択される。それらの量は、例えば使用される転写および翻訳プロモーターの強さにも依存する。免疫応答の大きさは、タンパク質発現のレベルと発現された遺伝子産物の免疫原性によっても影響される。非経口投与に適したDNAワクチンの効果的投与範囲は、DNAとして一般的に約1ng〜5mg、好ましくは約100ng〜2.5mg、より好ましくは約1〜750μg、特に好ましくは約10〜300μgの範囲である。これは、通常、直接、筋肉組織に投与される。また、皮下注射、真皮導入、皮膚圧痕、腹腔内送達、静脈内送達、吸入送達などの他の投与方法によることも可能である。
本発明DNAワクチンは、一度のみの投与によるのではなく、初回投与後の状態をみながら、1から複数回の追加ワクチン投与を行うことにより投与されるのが好ましい。これによって、所望の効果をより高めることが可能となる。また、DNAワクチン投与後、前記した本発明GD3模倣ペプチドからなる医薬組成物で追加免疫することも可能である。更に、前記した各種併用薬の併用もワクチン投与による治療効果を高める可能性がある。
尚、本発明DNAワクチンにおいて、所望のDNAを発現可能とする組換え発現ベクターの製造に当たっては、この種のDNAワクチンに慣用されるかあるいは当該利用が可能とされる各種の発現ベクターを制限なく利用することができる。その製造は常法に従うことができる。
本発明抗体
本発明GD3模倣ペプチドは、これを抗原として新たな抗体、即ち、GD3に結合性を有し、それ故、GD3を発現する例えば悪性腫瘍細胞(メラノーマ細胞など)に結合して、該細胞の増殖を抑制したり、転移を抑制する活性を発揮する抗体(中和抗体)を製造することができる。本発明はかかる抗体をも提供する。
本発明抗体の製造は、本発明GD3模倣ペプチドが抗GD3抗体の産生能を有する免疫原性ペプチドであることの確認手段としても把握することができる。
本発明抗体には、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の両者が包含される。これらはいずれも、本発明GD3模倣ペプチドを免疫抗原として利用して、慣用される技術に従って製造することができる。
モノクローナル抗体の製造は、例えば上記免疫抗原で免疫した哺乳動物の形質細胞(免疫細胞)と哺乳動物の形質細胞腫細胞(ミエローマ細胞)との融合細胞(ハイブリドーマ、hybridoma)を作成し、これより所望のGD3を認識する抗体(モノクローナル抗体)を産生するクローンを選択し、該クローンを培養することにより実施できる。このモノクローナル抗体の製造操作などは、基本的には常法に従うことができる(例えばHanfland, P., Chem. Phys. Lipids, 15, 105 (1975): Hanfland, P., Chem. Phys. Lipids, 10, 201 (1976): Koscielak, J., Eur. J. Biochem., 37, 214 (1978) など参照)。
該方法において、免疫抗原で免疫される哺乳動物としては、特に制限はない。細胞融合に使用される形質細胞腫細胞との適合性を考慮すれば、一般には、マウス、ラットなどが有利に用いられる。免疫は一般的方法により、例えば上記免疫抗原を哺乳動物に静脈内、皮内、皮下、腹腔内注射などにより投与することにより実施できる。
より具体的には、例えばマウスの場合、免疫抗原を生理食塩水含有リン酸緩衝液(PBS)、生理食塩水などで適当濃度に希釈し、所望により通常のアジュバントと併用して、供試動物に2〜14日毎に数回、総投与量が約100〜500μg/マウス程度になるように投与するのが好ましい。アジュバントとしては、百日咳ワクチン、完全フロインドアジュバント、アラムなどを好ましく利用できる。また免疫細胞としては、上記最終投与の約3日後に摘出した脾細胞を使用するのが好ましい。
上記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物の形質細胞腫細胞としては、既に公知の種々のものを使用できる。融合反応も、公知の方法、例えばマイルスタイン(Milstein)らの方法(Method in Enzymology, 73, 3 (1981))などに準じて行うことができる。得られるハイブリドーマの分離とクローニングも、常法に従い実施できる。
目的抗体産生株の検索は、例えばELISA法(Engvall, E., Meth. Enzymol., 70, 419-439 (1980))、プラーク法、スポット法、凝集反応法、オクタロニー(ochterlony)法、ラジオイムノアッセイ(RIA)法などの一般に抗体の検出に用いられている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプラニング発行、第30-53 頁、昭和57年3月5日)に従い実施することができる。この検索には前記免疫抗原およびGD3が利用できる。
得られる所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することができ、また液体窒素中で長期間保存することができる。ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の採取は、該ハイブリドーマを常法に従って培養してその培養上清として得る方法、ハイブリドーマをこれと適合性のある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
上記方法に従い得られる抗体産生ハイブリドーマ培養上清、マウス腹水などは、これらをそのまま粗製抗体液として用いることができ、また常法に従って、硫酸アンミモニウム分画、塩析、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAカラムクロマトグラフィーなどのアフィニテイクロマトグラフィーなどにより精製して、精製抗体として利用することができる。
発明の効果
本発明によれば、癌組織または癌細胞表面上に発現するGD3を模倣する新規なアミノ酸配列のペプチドなどが提供される。該ペプチドは、例えば癌の診断剤、癌ワクチンなどとして医薬品分野に応用可能であり、かくして、癌治療効果の向上に寄与する癌治療方法、癌診断方法などが提供される。
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。本発明はこれらの実施例範囲に限定されるものではない。尚、用いた略号は、既に本明細書中に示したものであるか、または以下の通りである。
TBS:トリスリン酸生理食塩水緩衝液
TC:テトラサイクリン
KM:カナマイシン
PEG/NaCl:ポリエチレングリコール/塩化ナトリウム
TFA:トリフルオロ酢酸
GD3模倣ペプチドの同定
(1)ファージディスプレイライブラリーの調製
ニシ、サヤらの報告(Nishi T., Saya H., et al., FEBS Letter, 399, 237-240 (1996))に従って、ファージのコートタンパク質pIII遺伝子に15残基のランダムなアミノ酸配列ペプチドをコードするランダムDNAを挿入して、ファージ外殻表面にランダムな15残基のアミノ酸配列ペプチドを発現できるファージディスプレイライブラリーを構築した。
該ファージは、TC耐性遺伝子を有しているため、該ファージに感染された大腸菌はTC耐性株になる。増殖させたファージライブラリーは、0.02%NaN3を含むTBS溶液に溶解して保存した。
上記で構築されたファージディスプレイライブラリーの特徴は、スコットらにより報告されている(Scott, J. K. and Smith G. P., Science, 249, 386-390 (1990))。
(2)抗GD3モノクローナル抗体の固相化
抗GD3抗体として、抗GD3モノクローナル抗体(4F6)(以下、4F6抗体という)を使用した。4F6抗体は、GD3に対するマウスモノクローナル抗体(IgG)であり(Thomas C. P., et al., Glycoconj. J., 13 (3), 377-384 (1996))、ポートカリアン博士(Dr. Jacques Portoukalian; INSERM, France)より譲渡を受けた。
50μlの組換えプロティンAセファロース懸濁液(rProtein A Sepharose Fast Flow; ファルマシアバイオテク製造、コード番号; 17-1279-01、Lot番号; 237393)を0.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、TBSを400μl加えた。次いで1mlの4F6抗体を加え、よく撹拌しながら、4℃で一晩反応させた。反応後、3000回転/分で5分間遠心し、上清を除き、0.5mlのTBSを加え、よく攪拌した後、新しい1.5mlエッペンドルフ・チューブに移した。さらにTBSを0.5ml加え、3000回転/分で5分間遠心した。上清を除き、1mlのTBSを加え、再度3000回転/分で5分間遠心して上清を除いた。100μlのTBSを加えて懸濁し、4F6抗体の結合した組換えプロティンAセファロース(100μl)を調製した。このものは使用時まで4℃にて保存した。
50μlの組換えプロティンAセファロース懸濁液を1.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、TBSを900μl加えた。12mg/mlのマウスイムノグロブリン標準血清(コード番号: RS10-101-2; Bethyl社製造; コスモバイオ社)のTBS溶液100μlを加えた後、よく撹拌しながら、4℃で一晩反応させた(未反応のプロティンAの存在を極力なくすため、大過剰量のIgGと反応させた)。反応後、3000回転/分で5分間遠心し、上清を除いた。1mlのTBSを加え、よく攪拌した後、新しい1.5mlエッペンドルフ・チューブに移し、3000回転/分、5分間遠心し、上清を除いた。この操作を3回繰り返した後、100μlのTBSを加えて懸濁し、およそ250μgのマウスIgGの結合した組換えプロテインAセファロース(100μl)を得た。このものは使用時まで4℃にて保存した。
(3)大腸菌の調製
ファージの宿主大腸菌として、大腸菌K91KAN(カナマイシン耐性株:熊本大学・腫瘍医学講座、佐谷秀幸教授より分与)を使用した。
即ち、ディスポーザブルの白金耳を用いて上記大腸菌を掻き取り、100μg/mlのカナマイシン(和光純薬社製)を含むNYZプレートに一晩37℃で培養し、翌日、プレートを取り出し、使用時まで4℃にて保存した。
ファージを大腸菌に感染させる前日に、4℃で保存していた上記大腸菌のプレートから白金耳で菌を微量掻き取り、100μg/mlのカナマイシンを含むNZY培地5mlに殖歯し、37℃、200回転/分で一晩振とう培養した(前培養)。翌日、100μlの前培養液を、新鮮なNZY培地10mlに移し、37℃で4時間振とう培養した。菌体のF-繊毛を発現させるために振盪を止め、30分間放置し、ファージへの感染に用いた。
尚、上記NZY培地は、10g NZアミンA(和光純薬社製; コード番号: 541-00241)、5gビール酵母エキス(商品名: エビオス、アサヒビール社製)および5g NaClを精製水1Lに溶解し、5N NaOHを1ml加え、pH7.5に調整し、オートクレーブ滅菌した後、室温保存したものを使用した。
(4)ファージの増幅
前記(1)で得られたファージを宿主大腸菌に感染させた。即ち、各ファージ希釈溶液10μlと上記調製済み大腸菌 K91KAN10μlを15ml遠心チューブに加えて室温で15分間反応させた後、予め37℃に加温しておいたNZY培地(0.2μg/ml TCを含む)1mlを加え、37℃、2000回転/分で40分間振とう培養した。各々のチューブから、200μlをNZYプレート(20μg/ml TC、100μg/ml KMを含む)に蒔き、37℃、一晩培養し、翌日コロニーの数を測定した。
希釈溶液10μlに大腸菌K91KAN10μlを反応させたものをネガティブコントロールとした。これはTC感受性株のままであるため、TC含有NZYプレートでは増殖しなかった。
また、後述のバイオパニングで回収したファージの増幅は以下のようにして行なった。
即ち、タイター測定に用いる量(2μl)を除いたファージ溶液全量の入った1.5mlエッペンドルフ・チューブに、調製済み大腸菌 K91KAN100μlを添加し、室温で15分間反応させた。反応後、全量を、予め50ml遠心チューブにて37℃に保温しておいた0.2μg/mlのTCを含む20mlNZY培地中に加えた。200回転/分で37℃、40分間振盪培養した。20mg/ml TCを20μl加え、37℃にて一晩振盪培養を行った。翌日、3000回転/分で10分間遠心分離を行い、さらに、上清をオークリッジ遠心チューブに移し、12000回転/分で10分間、遠心分離し大腸菌を完全に除去した。上清を別のオークリッジ遠心チューブに移し、3mlのPEG/NaClを加え、よく攪拌した後、4℃にて4時間以上静置した。
次いで12000回転/分で10分間遠心分離を行い、増幅したファージを沈殿させた。上清を除き、沈殿したファージを1mlのTBSで懸濁した。1.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、15000回転/分で10分間遠心分離し、不溶性の物質を除去した。上清を別のエッペンドルフ・チューブに移し、150μlのPEG/NaClを加え、よく攪拌した後、4℃にて1時間以上静置した。
15000回転/分で10分間遠心分離を行ない、ファージを再度沈殿させた。上清を除き、0.02%NaN3を含むTBS200μlでファージを懸濁した。15000回転/分、10分間遠心分離を行い不溶性の物質を沈殿させた。沈殿を500μlエッペンドルフ・チューブに移し、4℃にて保存した。これを各々のラウンド(Round)における、増幅ファージとした。
尚、ファージのタイター測定は、以下のようにして実施した。
各ラウンドで回収したファージのタイター測定には102、103および104希釈したものを用い、増幅したファージのタイター測定には107、108および109希釈したものを用いた。希釈溶液としてTBS/ゼラチン(和光純薬社製)を用い、希釈の仕方は以下の通りである。
102倍希釈=ファージ溶液2μl+TBS/ゼラチン198μl
103倍希釈=102倍希釈ファージ溶液10μl+TBS/ゼラチン90μl
104倍希釈=102倍希釈ファージ溶液 2μl+TBS/ゼラチン198μl
106倍希釈=104倍希釈ファージ溶液 2μl+TBS/ゼラチン198μl
107倍希釈=106倍希釈ファージ溶液10μl+TBS/ゼラチン90μl
108倍希釈=106倍希釈ファージ溶液 2μl+TBS/ゼラチン198μl
109倍希釈=108倍希釈ファージ溶液10μl+TBS/ゼラチン90μl
ファージタイターの計算方法は以下の通りである。
タイター/ml=コロニー×1020(μl)/200(μl)×1000(μl)/10(μl)×希釈率
また、回収されたファージの総タイターは、上記の値に回収された溶液の総量(ml)を掛けることで算出した。
反応に用いたファージのタイターが6.2×1010であるため、回収率(%)は(回収されたファージの総タイター/6.2×1010)×100として算出した。
(5)抗GD3抗体に結合するファージクローンの選択(バイオパニング)
4F6抗体に特異的に結合するペプチドを発現しているファージクローンの選択(バイオパニング)を以下の通り実施した。即ち、4F6抗体のFab領域に結合するファージを効率よく得るために、予め標準マウスIgGおよび組換えプロティンAセファロースに結合するファージを排除した後、4F6抗体とファージライブラリーとを反応させた。
バイオパニングは以下の手順で行った。
第1ラウンド:
標準マウスIgG-組換えプロティンAセファロース10μlおよび組換えプロティンAセファロース50μlをPBS340μlに溶解し、ファージライブラリー10μl(6.2×1010タイター)を添加し、500μlエッペンドルフ・チューブにて、4℃一晩反応させた後、30000回転/分、3分間遠心分離し、予め、標準マウスIgGおよび組換えプロティンAセファロースに結合するファージを排除した。
上記で得た380μlの上清と前記(2)で得た4F6抗体−組換えプロティンAセファロース50μlを500μlエッペンドルフ・チューブに移して、4℃で5時間反応させた後、3000回転/分、3分間遠心分離した。
上清を除き、1mlのPBSを加え懸濁した後、1.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、3000回転/分、3分間遠心分離した。この操作を2回繰り返した後、上清を除き、500μlのPBSを加え懸濁した。この懸濁液を500μlのエッペンドルフ・チューブに移し、3000回転/分、3分間遠心分離した。上清を除き、50μlの抽出緩衝液を加え、室温に15分間放置した(3分おきに穏やかに攪拌した)後、3000回転/分、3分間遠心分離した。得られた上清をコンセントレーター(CentriconTM 30 Concentrator: アミコン社製)に移し、75μlの1Mトリス(pH9.1)を加えて中和した後、2mlのTBSを加えた。
更に5000回転/分、20分間遠心分離した後、2mlのTBSを加え、再度5000回転/分、20分間遠心分離した。
フィルター上に残っているファージ溶液を1.5mlのエッペンドル・チューブに移し、フィルターを50μlのTBSで洗浄し、先のファージ溶液のエッペンドルフ・チューブに加えた(総量は470μl)。
第2ラウンド:
上記第1ラウンドで得た増幅させたファージ100μlと標準マウスIgG-組換えプロティンAセファロース10μl(25μg)をPBSの350μlに溶解し、500μlエッペンドルフ・チューブに加えて、4℃一晩反応させた後、組換えプロティンAセファロース50μlを加えて、4℃一晩反応させた。3000回転/分、3分間遠心分離して上清500μlを得た。
上記で得た500μlの上清を1.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、それに抗GD3抗体溶液を1ml加え、4℃一晩反応させた後、3000回転/分、3分間遠心分離した。
さらに、組換えプロティンAセファロース50μlを加え4℃、3時間反応させた後、3000回転/分、3分間遠心分離した。この溶液の上清を除き、1mlのTBSを加えて懸濁した。この懸濁液を1.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、3000回転/分、3分間遠心分離した。この操作を2回繰り返した。次いで上清を除き、50μlの抽出緩衝液を加え、室温に15分間放置した(3分おきに穏やかに攪拌した)。3000回転/分、3分間遠心分離した後、上清をコンセントレーターに移し、75μlの1Mトリス(pH9.1)を加えて中和し、2mlのTBSを加えた。5000回転/分、20分間遠心分離し、2mlのTBSを加え、再度5000回転/分、20分間遠心分離した。フィルター上に残っているファージ溶液を1.5mlのエッペンドル・チューブに移した。フィルターを50μlのTBSで洗浄し、先のファージ溶液をエッペンドルフ・チューブに加えた(総量230μl)。
第3ラウンド:
上記第2ラウンドで増幅させたファージ100μlを用い、第1ラウンドの方法に準じた手順でファージを抗4F6抗体溶液と反応させて増幅したファジーを得た。このようにして得られ、セントリコンによる遠心分離で回収された溶出液の総量は110μlであった。
上記3回のパンニングの結果(各ラウンド後のファージ・クローンの回収率)を下記表1に示す。
尚、表1中、「fd wild type」は、実施例1で用いられたライブラリーのもとの野生株であり、ペプチドが挿入されていないファージである。このものは、ファージペプチドライブラリーのファージを構成する遺伝子からなるファージベクターのペプチド挿入部位を制限酵素で切断、除去し、残ったベクターを再度結合(ライゲーション)して作製されたベクターで、大腸菌JM109(タカラ社より購入)を形質転換(トランスフォーメーション)し、得られた形質転換体をNZY培地で一晩培養し、産生、増殖させたファージを回収して、本試験に利用した。
3回のパンニングで得られたファージクローンが発現しているペプチドの配列決定を以下のとおり行った。
即ち、3回目のバイオパニング後のタイター測定で得られたプレート上のコロニーをそれぞれ32コロニーずつ無作為に拾い上げ、新しいNZYプレートに植菌し直し、一晩37℃にて培養し、これをマスタープレートとして4℃で保存した。
マスタープレートのコロニーを各々20mlのNZY培地(20μg/ml TC含有)の入った50ml遠心チューブに懸濁し、37℃で一晩200回転/分で振盪培養した。
3000回転/分、10分間遠心分離を行った後、上清をオーク・リッジ遠心チューブに移し、12000回転/分で10分間遠心分離し、大腸菌を除菌した。更に上清をオーク・リッジ遠心チューブに移し、3mlのポリエチレングリコール(PEG6000、ナカライテスク社製)/NaClを加え、よく撹拌した後、4℃に4時間静置した。12000回転/分で10分間遠心分離し、ファージを沈殿させた。ついで上清を除去し、沈殿したファージを1mlのTBSに懸濁させた。1.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、15000回転/分で10分間遠心分離し、不溶性物質を除去後、上清を別のエッペンドルフ・チューブに移し、150μlのポリエチレングリコール/NaClを加え、よく撹拌した後、4℃に1時間静置した。
15000回転/分で10分間遠心分離し、ファージを再沈殿させた。上清を除去し、沈殿したファージを200μlのTBSで再度懸濁した。15000回転/分で10分間遠心分離し、不溶性物質を沈殿させた後、該沈澱物を0.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、ファージクローンを4℃で保存した。
上記で得たファージクローンからのDNAの抽出は、次の通り行った。即ち、1.5mlのエッペンドルフ・チューブに、ファージクローン100μlに対してTBS 100μlおよびTE飽和フェノール(ニッポジーン社製)200μlを加えて、10分間激しく撹拌後、15000回転/分で10分間遠心分離した。次いで、上清(水相)200μlに対してTE飽和フェノール200μlおよびクロロホルム200μlを加えて、前記と同様に10分間激しく撹拌後、15000回転/分で10分間遠心分離した。更に、上清(水相)150μlに対してTE250μl、3M酢酸ナトリウム40μl、20mg/mlグリコーゲン(ベーリンガー・マインハイム社製)1μlおよびエタノール1mlを加えて、1.5mlのエッペンドルフ・チューブにて-20℃で1時間放置した後、15000回転/分で10分間遠心分離した。上清を取り除き、1mlの80%エタノール(-20℃)を緩やかに加えて、15000回転/分で10分間遠心分離し残存する塩を除いた。上清を除去後、チューブ
内の水分を蒸発させ、沈殿しているDNAを10μlの滅菌蒸留水に溶解し、4℃にて保存した。
かくして得られた個々のファージDNAをペプチドのアミノ酸配列決定のために使用した。
(6)選別されたペプチドのアミノ酸配列決定
ファージDNAによりコードされるペプチドのアミノ酸配列の決定は、パーキンネルマー社のDNAシークエンスキット(DNA Sequence Kit, Perkin Elmer, Code; 402079, Lot; A6L015)を用いて、該キットに添付の仕様書に準じて、ダイターミネーター法により実施した。用いたプライマーのDNA配列は、配列番号:9に示されるとおりであり、これは自動DNA合成機で合成した。
DNAの伸長反応は、パーキンエルマー社のサーマルサイクラーモデル9600を用いて、96℃10秒、50℃5秒、60℃4分を1サイクルとして、25サイクル行い、DNAの配列は、ABI社製のDNAシーケンサー(ABI PRISMTM 377 DNAシーケンサー)を用いて決定した。
32クローンのうち、配列決定できた27クローンのDNA配列は、4種の配列に分類できた。これら4種類の配列のペプチドをGD3模倣ペプチドとし、それぞれ出現頻度の高い順に「GD3R-1」、「GD3R-2」、「GD3R-3」および「GD3R-4」と命名した。
かくして決定された4種のGD3模倣ペプチドのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3および配列番号:4として示されるとおりである。また、これら4種のアミノ酸配列をコードするDNA配列は、それぞれ配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7および配列番号:8として示されるとおりである。
GD3模倣ペプチドと坑GD3抗体との結合親和性(ELISA)
実施例1で得た各ファージクローン1011、1010および109タイター/100μl-0.1M NaHCO3溶液を、96穴マイクロタイタープレート(ヌンク社製)に添加し、室温にて1時間固定した。上清を除き、400mlのブロッキング溶液(1%BSA、0.1%スキムミルク、0.02%ツイーン20を含むTBS、pH7.5)を加え、37℃で4時間ブロッキングを行った。
上清を除き、1次抗体としての4F6抗体を100μlずつ添加した。室温にて2時間振盪しながら反応させた。反応後、上清を除き、各ウェルを400μlの洗浄液(0.05%ツィーン20を含むTBS)で6回洗浄し、予め調製しておいたブロッキング溶液で5000倍に希釈した2次抗体(抗マウスIgG-HRP、サンタクルズ・バイオテクノロジー社製、カタログ番号: SC-2031、ロット番号: C089)を100μlずつ添加し、室温にて振盪しながら1時間反応させた。反応後、各ウェルを400μlの洗浄液で4回洗浄し、検出試薬(TMB Microwell; KPL社製、カタログ番号:50-76-04, ロット番号: WF075)100μlを加え、室温5分間静置した。
1N塩酸を100μl添加して反応を停止させた後、各ウェルの450nmおよび620nmの吸光度を測定し、(OD450-OD620)の値を算出した。吸光度の測定にはラボシステムズ(Labosystems)社製のマルチスキャンを使用した。ファージを固定していないウェルをブランクとし、その値を差し引いた値を各ウェルの吸光度とした。
結果を図1に示す。
図1に示す結果より、4F6抗体との結合親和性は、GD3R-4が最も強いことが明らかとなった。
GD3模倣ペプチドの合成およびその坑GD3抗体との結合親和性
(1)GD3模倣ペプチドの合成
実施例1で同定した4種のGD3模倣ペプチドのそれぞれを以下の方法により合成した。
即ち、全自動ペプチド合成機(ACT357、アドバンストケムテック社製)を使用し、同社のプログラムに従い、Fmoc/NMP、HOBt法〔Fmoc:9-フルオレニルメトキシカルボニル、NMP:N-メチルピロリドン、HOBt:1-ヒドロキシペンゾトリアゾール〕による各ペプチドの固相合成を実施した。
C端フリー(OH)のペプチドは、配列番号:1〜4に示されるアミノ酸配列に従って、C端アミノ酸に相当するFmoc-アミノ酸-Alko樹脂0.25mmolに、C端より2番目以降の各アミノ酸に相当するFmoc-アミノ酸を順次、合成プログラムに従い伸長反応させた。
またC端アミドの各ペプチドは、Fmoc-NH-SAL樹脂0.25mmolにC端アミノ酸に相当するFmoc-アミノ酸を合成プログラムに従い縮合反応させ、その後、C端より2番目以降の各アミノ酸に相当するFmoc-アミノ酸を順次縮合反応させて鎖伸長を行った。
各反応終了後、プログラムに従って、N端Fmoc基の脱保護反応を行った。
得られた各ペプチド-樹脂をポリプロピレン製のミニカラム(アシスト社製)に回収し、メタノール洗浄後、真空で乾燥し、以下の操作に付してペプチドを樹脂から切り出し、側鎖の脱保護反応を行った。即ち、各樹脂にリエージェントK(Reagent K; 82.5%TFA, 5%フェノール, 5%H2O, 5%チオアニソール(Thioanisole)および2.5%エタンジチオール)2mlを加え、ミニカラム中で60分間反応させた。
次いで、反応液を冷ジエチルエーテル8ml中に滴下して反応を停止させ、同時にペプチドを沈殿させた。更に、ミニカラムをTFA2mlにて洗浄し、冷ジエチルエーテル5mlを追加し、遠心し、沈殿をジエチルエーテル10mlで4回洗浄後、約5mlの50%アセトニトリルでペプチドを可溶化し、凍結乾燥した。更に可溶化と凍結乾燥操作を2回繰り返して、所望の粗凍結乾燥品を得た。
これをオクタデシルカラム(直径20×250mm、YMC社製)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分画し、所望のペプチドを単離した。
尚、上記において用いた樹脂およびアミノ酸誘導体は、いずれも渡辺化学工業社製のものである。
かくして単離された各ペプチドは、アミノ酸配列分析およびマススペクトロメトリーによる分子量測定により同定した。
(2)多抗原性ペプチド(デンドリマーペプチド)の合成
上記で得たGD3模倣ペプチドの多抗原性ペプチド(MAP: multi antigen peptide)を、Fmoc-MAP-Alko樹脂(渡辺化学工業社製)を用いて合成した。
Fmoc-MAP-Alko樹脂(Fmoc8-Lys4-Lys2-Lys-βAla-Alko樹脂)とGD3模倣ペプチドとの反応は、上記(1)の固相合成法と同様にして実施した。
得られたMAPの構造は、アミノ酸残基の一文字表示により示せば、それぞれ以下の通りである。
配列番号:1のペプチドのMAP:
(LAPPRPRSELVFLSV)8-Lys4-Lys2-Lys-βAla
配列番号:2のペプチドのMAP:
(PHFDSLLYPCELLGC)8-Lys4-Lys2-Lys-βAla
配列番号:3のペプチドのMAP:
(GLAPPDYAERFFLLS)8-Lys4-Lys2-Lys-βAla
配列番号:4のペプチドのMAP:
(RHAYRSMAEWGFLYS)8-Lys4-Lys2-Lys-βAla
(3)抗GD3抗体との結合親和性
上記で得たMAP形態の本発明GD3模倣ペプチド(GD3R-1, GD3R-2, GD3R-3およびGD3−R4)の0.1M NaHCO3溶液を100ng/100μlの濃度で96穴マイクロタイタープレー
トの各ウエルに添加し、室温にて1時間固定し、その後、実施例2のELISA法と同様の操作を行って、4F6抗体(抗GD3抗体)との結合親和性を調べた。
尚、対照として、抗GD2抗体および抗OAcGD3抗体(Cerato, E., et al., Hybridoma, 16 (4), 307-316 (1997)、ポートカリアン博士(Dr. Jaques Portoukalian (Lyon-Sud, France))より譲渡を受けた)を使用して、同様の試験を繰り返した。
結果を下記表2に示す。
表2に示す結果より、GD3R-3とGD3R-4は、抗GD3抗体(4F6抗体)との結合が他よりも強いことが判明した。また、どのペプチドにおいても抗GD3抗体との結合が対照抗体(抗GD2抗体および抗OAcGD3抗体よりも強いことが判明した。
(4)融合ペプチドの合成
前記で得たGD3模倣ペプチドおよびそのMAPを用いて、KLHとの融合ペプチドを合成した。
即ち、0.25%グルタルアルデヒドのPBS(pH7.4)溶液に、各合成ペプチドまたはそのMAPとKLHとを重量比が1/10となるように加え、室温で一晩反応させ、各融合ペプチドを合成した。
GD3模倣ペプチドによる免疫
(1)免疫:
実施例3の(2)で得たMAP形態の4種類のGD3模倣ペプチドをそれぞれ200μg/mlの濃度でPBSに溶解した。これをフロイント完全(または不完全)アジュヴァントと合わせて(1:1、容量比)エマルジョンを作製した。
8匹のマウス(C57BL/6)のそれぞれに、上記エマルジョンの0.2ml/一匹(ペプチド量5μg/1匹1回)を皮下投与して免疫した。投与は2週間毎に行い(但し、2回目の投与以降ではフロイント不完全アジュヴァントを用いた)、各投与の1週間後にそれぞれのマウスの後尾より採血して、抗血清を調製した。
一回目投与後に得た抗血清を「1st」、二回目のそれを「2nd」、また3回目のそれを「3rd」とする。
(2)抗血清の力価測定(ELISA):
上記(1)で得た各抗血清(3×8匹=24サンプル)のGD3に対する力価を、以下の通りELISA法により測定した。
GD3としては、メラノーマより抽出、精製されたもの(J. Portoukalian et al., Int. Cancer, 49, 893-899 (1991))を使用した(ポートカリアン博士より譲渡を受けた)。該GD3は、シリカゲルSi60(米国メルク社製)カラムを用いて、日立L-6200装置によるHPLCで精製した。カラムに吸着したGD3は、イソプロパノール/ヘキサン/精製水の混液(55/35/12から55/30/15(容量比))によるグラジエントで溶出した。カラムの流速は毎分4mlとした。
得られた精製GD3をメタノールに溶解して10μg/mlの濃度のGD3溶液を調整した。96穴マイクロータイタープレートの各ウェルに、上記GD3溶液をウェル当たり10μl(GD3として100ng)ずつ添加し、メタノールを蒸発させた。次いで、各ウェルにブロッキング溶液(1%BSAを含むTBS)を50μlずつ加え、37℃で4時間ブロッキングした。
上清を除き、前記(1)で得た抗血清を上記ブロッキング溶液で100倍、400倍および1600倍に希釈した希釈液のそれぞれ50μlを、各ウェルに加え、4℃で一晩反応させた。各ウェルをTBSで6回洗浄した後、ブロッキング溶液で5000倍に希釈したHRP標識マウスIgG抗体を50μlずつ加え、室温にて2時間反応させた。TBSで4回洗浄した後、各ウェルの酵素活性(ペルオキシダーゼ)をTMB溶液50μlで検出し、1N塩酸50μlで反応を停止した後、(420nm-620nm)の値を算出した。
対照として、実施例1で得られた4種類のペプチド配列とは異なる15残基の配列を有するペプチドであって、抗GD3抗体と結合親和性を示さないペプチド(配列番号:10に示す配列のもの、コントロールペプチド)を、実施例3に示す方法と同様にして合成し、その後、前記(1)と同様にしてマウスに投与して免役し、得られた抗血清をコントロールとして、その力価を同様にして求めた(但し、供試マウス数は5匹とし、100倍希釈液のみを用いた)。尚、このコントロールペプチドも前記と同様にしてMAP形態で使用した。
各抗血清のGD3に対する反応性を求めた結果を下記表3〜表5に示す。
上記表3〜5に示されるとおり、本発明GD3模倣ペプチドを免疫原として得られる抗血清は、GD3と反応性を有することが明らかである。特に、GD3R-4を免疫原として得られた抗血清は、GD3に対する高い反応性を示すことが明らかである。これに対して、コントロールペプチドを用いて得られた抗血清では、そのGD3に対する反応性は弱く、このことからも、本発明GD3模倣ペプチドを用いて得られる抗血清はGD3と交叉反応するものであることが示唆された。
この結果は、本発明GD3模倣ペプチドがGD3の構造の一部、つまり4F6抗体が認識する構造を模倣することを示唆している。特にGD3R-4は、この傾向の強いことが示唆された。
GD3模倣ペプチドの反応性
(1)供試ペプチド
本試験で用いたペプチドの名称と配列(一文字表示による)を図2に示す。
図2に示す各アミノ酸配列のペプチドは、それぞれ実施例3の(1)と同様にして合成した。また実施例3の(3)と同様にして各ペプチドを多抗原性ペプチド(MAP)の形態に調製して、本試験に利用した。
(2)抗体結合親和性の検討1
図1に示す4F6抗体とGD3模倣ペプチドとの結合性を更に検討する目的で、上記(1)で調製した多抗原性ペプチド(MAP)を用いて、実施例2と同様にしてELISAを行った。
即ち、図3の横軸に示した各濃度(μg/ウエル)のMAPをそれぞれ、96ウエルプレートに固相化し、ブロッキング液(1%BSA、0.1%スキムミルク、0.02%ツイーン20を含むTBS)で一晩4℃でブロッキングした後、4F6抗体(ハイブリドーマ上清:原液で使用)を100μl/ウエルの量で添加し、室温にて2時間反応させた。反応後、上清を除き、洗浄液(1%FBS、0.05%ツイーン20を含むTBS)で6回各ウエルを洗浄した。その後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG(ブロッキング液で1000倍希釈)を添加し、室温で2時間反応させた。各ウエルを再度洗浄液で洗浄(4回)した後、各ウエルに残存するペルオキシダーゼ量を、基質のTMBを加えて検出・定量(吸光度A450-A620測定)して、各MAPと4F6抗体との結合性を調べた。各試験をそれぞれ3回繰り返し行って、その平均値±SDを求めた。
得られた結果を図3に示す。
図3に示すように、GD3模倣ペプチド(GD3R3およびGD3R4)は、4F6抗体と量依存的に結合した。尚、見かけ上、GD3模倣ペプチド量が0.8μg/ウェル以上では、4F6抗体との結合は下がっているが、これは、ELISAプレート上に固相化した抗体量が多すぎ、疎水的な性質が強く働いたために、抗体との結合性が低下したものと推測される。
(3)抗体結合親和性の検討2
上記(2)で求めた抗体結合親和性(図2参照)を更に別の方法で検討した。
即ち、96穴プレートに図4の横軸に示す各濃度(μg/ウエル)で各MAPを固相化し、4F6抗体(100μl/ウェル)と一晩4℃で反応させた。翌日、上清(80μl)を取りだし、GD3(100ng/ウェル)を固相化した別のプレートに加え、室温2時間反応させた。反応後、上記(2)の方法に従って、GD3に結合した(MAPに吸収されなかった)4F6抗体の量を検出、定量して、MAPによる4F6抗体の結合の阻害試験を試みた。
各試験を各々3回繰り返し行って得られた結果(平均値±SD)を図3と同様にして図4に示す。
図4に示す結果より、GD3模倣ペプチド(GD3R3およびGD3R4)は、GD3と同様に、固相化した量依存的に、GD3と抗体との結合を阻止することが明らかとなった。
(4)抗体−ペプチド結合部位の検討
この試験では、GD3R3またはGD3R4と4F6抗体との結合が、該抗体のGD3結合部位で起こるかどうかを調べた。
GD3(100ng/ウェル)を固相化したプレートに、4F6抗体(100μl/ウェル)と同時に、図5の横軸に示す各濃度(μg/ウエル)のMAPを加え、上記(3)と同様にして阻害実験を行った。
各試験をそれぞれ3回繰り返し行って得られた結果(平均値±SD)を、図4と同
様にして図5に示す。
図5に示す結果より、使用した濃度内では、GD3R3がGD3と同様に結合阻害を示したが、GD3R4は、阻害効果を示さないことが判った。
この結果から、2つのことが推測される。一つは4F6抗体と個々のMAPとの結合の強さは、GD3>GD3R3>GD3R4であること、もうひとっは、GD3R3は4F6抗体のGD3結合部位またはその近傍に結合することである。
上記により、GD3R3が最も4F6抗体のGD3結合ドメインまたはそれに近い位置に結合していることが示された。
(5)GD3模倣ペプチドにおける抗体結合ドメインの決定
GD3模倣ペプチドの4F6抗体との結合に必要なドメインを決定する目的で、GD3R3ペプチドおよびGD3R4ペプチドの各N端およびC端のそれぞれ9アミノ酸残基からなるペプチド(図2参照)をMAP形態で用いて、各MAPの4F6抗体との結合性を、実施例2に記載のELISA法に従って調べた。対照としてGD3およびGD2と4F6抗体との結合性を同様にして調べた。各試験はそれぞれ3回行い、結果を、図3-5と同様にして図6(平均値±SD)に示す。
図6に示す結果から明らかなとおり、R3C9が、15残基のアミノ酸配列からなるペプチド(GD3R3)とほぼ同等にGD3と4F6抗体との結合阻害を、固相化した量依存的に、引き起こしていることが判明した。
以上の結果から、GD3R3が、最も強く4F6抗体と結合しており、またそのC端から9残基(R3C9)が結合に重要であることが示唆された。
融合ペプチドによる免疫
(1)免疫:
実施例3の(4)で得たGD3R-4とKLHとの融合ペプチド(R4-KLH)またはMAP形態である該GD3R-4とKLHとの融合ペプチド(R4MAP-KLH)を用い、実施例5の(1)と同様にしてマウスを免疫した。
即ち、アジュバントと混合(1:1、容量比)したエマルジョンの100μl/匹(ペプチド量30μg/1匹1回)を、1群3匹のマウス(CD-1)のそれぞれに腹腔内(ip)投与して免疫した。投与は、R4-KLHの場合は、1週間毎に1ヶ月、次いで2週間毎に1ヶ月行い、R4MAP-KLHの場合は、1週間毎に2ケ月行った。いずれも最終免疫の4日後に採血して抗血清を調製した。
尚、R4-KLHでの免疫と同様にして、GD3(30μg)で免疫した抗血清も調製した。
(2)ELISA試験
GD3またはGD3R-4ペプチドを固相化したELISAプレートを用いて、実施例4の(2)に準じて試験した。
GD3固相化プレートは、GD3の0.5μg/50μlメタノール-PBS溶液(1:1)を各ウエルに加え、プレートを1時間放置した後、PBSで洗浄し、1%HSAのPBS溶液を200μl/ウエル加えて、37℃で2時間インキュベートしてブロッキングした。
GD3R-4ペプチド固相化プレートは、0.1M重炭酸塩緩衝液(pH9.5)に溶解したGD3R-4ペプチドの1μgを各ウエルに加え、37℃で一晩インキュベートした後、PBSで洗浄し、上記同様にしてブロッキングした。
上記(1)で調製した抗血清をPBSで希釈して100-10000倍の希釈血清を調製した。この希釈血清の50μlを各ウエルを加えて1時間反応させた。次いで、ビオチン化抗マウスイムノグロブリン抗体(Ig、IgM、IgG、IgG1、IgG2a、IgG2bまたはIgG3特異抗体)と1時間、更にストレプトアビジン-HRPと1時間、同様に反応させ、各ウエルの酵素活性を同様にして検出した(405nm)。
(3)細胞応答試験
(1)で免疫した各マウスの脾臓を無菌下に調製し、10%FCS加RPMI 1640培地中で細切した。ナイロンウールカラムにてT細胞富化リンパ球を調製して細胞をカウントした。105細胞/150μl上記培地を培養プレートの各ウエルに加え、PHAを終濃度1μg/mlとなるように添加した。
本発明ペプチドまたは各種ガングリオシドのPBS溶液を加えて96時間インキュベーションし、各ウエルの遠心上清100μlを得た。上清中のIL-2活性をIL-2依存性マウス細胞CTLL2を用いて測定した。即ち、培地で2-50倍希釈した上清の100μlを104CTLL2細胞/ウエルに加え、37℃で48時間インキュベーション後、0.5μCiの3H-チミジンを各ウエルに加えて6時間インキュベーションした。CTLL2細胞をペーパーフィルターに回収し、標識量(3H)をカウントした。
(4)結果
R4-KLHで免疫した抗血清とGD3との反応性を求めた結果を図7(縦軸:D0405nm、横軸:血清希釈倍率)に示す。
R4MAP-KLHで免疫した抗血清とGD3との反応性を求めた結果を図8(縦軸:D0405nm、横軸:血清希釈倍率)に、また該抗血清とGD3R-4ペプチドとの反応性を求めた結果を図9(縦軸:D0405nm、横軸:血清希釈倍率)に示す。
各図に示す結果より、R4-KLHおよびR4MAP-KLHのいずれで免疫した抗血清も、GD3R-4ペプチドおよびGD3の両者と反応する特異性を有しており、そのIgG抗体とIgM抗体の力価は略同等であることが明らかとなった。
また、種々のガングリオシド(GD3, GM3, GM1)またはペプチド(GD3R-1, GD3R−2, GD3R−3およびGD3R-4の存在下、GD3で免疫し、PHAで96時間刺激したマウス脾
臓細胞の培養上清中でインキュベーションしたIL-R依存性CTLL2細胞への3H-チミジンの取り込みを求めた結果を下記表6に示す。
表6に示す結果から次のことが判る。即ち、GD3免疫マウスのT細胞富化リンパ球は、ガングリオシド存在下では、IL-2活性が検出されず、活性化されているとは認められない。しかしながら、GD3R-4ペプチドまたはGD3R-3ペプチドの存在下ではIL-2の産生が認められた。
更に、種々のガングリオシドまたはペプチド存在下で、R4-KLHで免疫し、PHAで96時間刺激したマウス脾臓細胞の培養上清中でインキュベーションしたIL-2依存性CTLL2細胞への3Hチミジンの取り込みを求めた結果を、表6と同様にして表7に示す。
表7に示す結果から次のことが判る。即ち、R4-KLHで免疫されたマウスにおいても、GD3R-4ペプチドまたはGD3R-3ペプチドによるT細胞活性化が確認される。
これらの結果は、本発明ペプチドが、GD3免疫マウスにおいて特異的T細胞の活性化を引き起こすことを示唆する。
配列表
実施例2に示す方法により求められた本発明免疫原性ペプチドと抗GD3抗体との結合親和性を示すグラフである。
実施例5で使用した多抗原性ペプチドの配列を示す図である。
GD3模倣ペプチドに対する抗GD3モノクローナル抗体の結合親和性を示す図である。
GD3と4F6抗体との結合に対する固相化GD3模倣ペプチドによる結合阻害を示す図である。
GD3と4F6抗体との結合に対する外因性に添加したGD3模倣ペプチドによる結合阻害を示す図である。
GD3と4F6抗体との結合に対する外因性に添加したGD3模倣ペプチド(9残基)による結合阻害を示す図である。
ペプチドR4-KLHで免疫したマウス抗血清の希釈倍率とGD3のELISA結果との関係を示す図である。
R4MAP-KLHで免疫したマウス抗血清の希釈倍率とGD3のELISA結果との関係を示す図である。
R4MAP-KLHで免疫したマウス抗血清の希釈倍率とGD3R-4ペプチドのELISA結果との関係を示す図である。