JP5521147B2 - マイクロニードルとその冶具 - Google Patents

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Description

本発明は、生体内分解性樹脂で作製された剣山型マイクロニードルに関するものである。特に薬液を保持し易い溝を持ち、材質強度の高いPGA製のマイクロニードルと、その製造に使用する冶具に関するものである。
薬剤を経皮的に投与する方法として、各種の液剤・軟膏剤の塗布、貼付剤型の経皮投与製剤が開発されているが、上記角質層のバリヤー作用のため、あまり薬効成分の吸収が改善されていない状況にある。そこで、薬剤の皮膚透過性を上げるための方法の一つとして、特許文献1に示されるように、微小針を使用し、角質層を局所的に破壊して薬剤を真皮層に強制的に投与すると言うことが試みられてきた。
この目的で使用される微小針は、真皮層に微小針が到達すればよいことから、その針の長さは30μm以上であることが望ましく、その針を支持するために必要な基盤があればよいとされている。そして、この微小針は、神経の末端が存在する真皮層に到達しないので痛くない。それ故、小児などに恐怖感を与えることなく薬剤の投与ができると言う長所が存在する。
以上のことから、これまで微小針の製造方法に関して、色々な方法が開発され報告されてきた。例えば特許文献2では、紫外線硬化性アクリレート接着剤やエポキシ樹脂を使用して、液滴状樹脂を引上げて微小針を製作する方法が記載されている。
しかし、このような樹脂液滴由来の製造方法では、微小針の高さや幅等の規格が統一された形のマイクロニードル・アレイ(剣山型マイクロニードル)を大量に製造することは困難であると考えられていた。
また、特許文献3では、糊状基剤にガラス棒を押し当て徐々に引き離して針状または糸状の固形物を作製したと記載している。しかし、具体的にどのような物が作製されたのかについては、あまり明確な記載は見当たらない。
現在のところ、汎用性が高いと考えられる生体内分解性樹脂のマイクロニードルに関しては、工業的に量産可能な現実的製造方法は未だ報告されておらず、今なお種々の方法が模索、検討されている状況である。
特開2006−149818 特表2008−509771 WO2006/080508
本発明の課題は、生体内分解性樹脂のマイクロニードルを工業的に量産できる製造方法と、それに用いる冶具を提供することを目的とする。更に詳しくは材質強度の高い生体内分解性樹脂である、PGA樹脂を用いるマイクロニードルの製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討を行ってきた。即ち、ポリ乳酸(PLA)シートに剣山状の冶具を接触させ、樹脂を加熱溶解して引き離し、PLAシート状にPLA微小針を作製する方法をこれまでに見出している(これについてはPCT/JP2008/051317に記載)。本発明者らは、更に検討を進めた結果、PLAよりも材質強度が高い生体内分解性の樹脂であるポリグリコール酸(PGA)を使用して再現性よくPGA製の剣山型マイクロニードルを製造できることを見出した。更に、治具の形(柱状突起)を検討することにより、円錐状や角錐状のマイクロニードルだけでなく、凹部あるいは溝状の窪みを持ったマイクロニードルや中空状のマイクロニードルを効率よく製造できることを見出した。このような凹部や中空を持ったマイクロニードルは薬液を貯留、保持するために有用であり、薬効成分の皮膚透過に大きく寄与することができる。
本発明のマイクロニードルの形状は、その製造方法に起因して、底辺部分が治具の柱状突起の断面に由来する形状を持ち、先端部に行くに従って円柱形状から円錐形状を持つようになる。また、マイクロニードルの微小針の長さも、冶具の接触面積(柱状突起の断面の接触面積)に影響される。例えば冶具の接触面積が大きい場合、熔解されるPGAの量が多くなり、それに比例して長い微小針が形成されることを見出した。更にマイクロニードル同士の間隔(ピッチ)は、狭すぎれば、マイクロニードルが一本一本分離して形成されにくくなるため、自ずと一定以上の間隔が要求されることになる。本発明の製造方法においては、柱状突起の外径の大きさにもよるが、概ね柱状突起の外径の2倍前後の間隔が望ましく、そのピッチは少なくとも300μm以上であり、2mm以下である。特に800μm前後を中心として500μm〜1mmの範囲が好適であることを見出した。
以上の知見により、治具を適宜選択することにより、強度が高く皮膚に穿刺し易い、PGA製のマイクロニードルを容易に多種類製造できることを見出し、本発明を完成することが出来た。
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]ポリグリコール酸(PGA)製の基板上に、複数のPGA製の微小針が一定の間隔(ピッチ)を持って配設されているマイクロニードルであって、
前記微小針は、前記基板に接する微小針の底部から頂部にかけて断面形状が小さくなる構造を有し、かつ前記底部近傍での断面形状の減少率が前記頂部近傍に比べて大きく、前記底部から前記頂部方向にかけて連続した溝、くぼみ及び連続した中空部の少なくとも1つを有する構造からなるマイクロニードル。
[2]前記微小針の高さが150μm〜1mmであり、
前記微小針の前記底部の外形が100〜450μmであり、
前記微小針の間隔が100μm〜2mmである、上記[1]に記載のマイクロニードル。
[3]前記微小針の間隔が300μm〜2mmである、上記[1]又は[2]に記載のマイクロニードル。
[4]前記微小針の間隔が500μm〜1mmである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のマイクロニードル。
[5]以下の形状を有するポリグリコール酸(PGA)製のマイクロニードル。
(1)微小針の本数が複数であり、
(2)微小針の高さが150μm〜1mmであり、
(3)微小針の底部の外径が100〜450μmであり、
(4)微小針の先端部が尖った円柱状又は円錐状となり、その外径が数μm〜数十μmであり、
(5)微小針の断面の形状が底部では円形、多角形、十字型、エの字型、一部を欠く円形(C字型)または部分的な欠失がある多角形であり、先端部では円形である、
[6]前記微小針の間隔(ピッチ)が300μm〜2mmである、上記[5]記載のマイクロニードル。
[7]多角形が四角形である、上記[4]又は[5]に記載のマイクロニードル。
[8]部分的な欠失がある多角形が、コの字型、V字型である、上記[4]〜[6]のいずれかに記載のマイクロニードル。
[9]尖った円柱状又は円錐状になった先端部と底部の間の微小針の形状として、溝状の凹部を保持する微小針であることを特徴とする、上記[8]記載のマイクロニードル。
[10]平板上に以下の形状の柱状突起を有するシリコン製または金属製の冶具。
(1)柱状突起の長さが200μm〜1mmであり、
(2)柱状突起の間隔が300μm〜2mmであり、
(3)柱状突起の本数が複数であり、
(4)柱状突起の断面の外径が、100〜450μmであり、
(5)柱状突起の断面形状が、円形、多角形、十字型、エの字型、一部を欠く円形(C字型)または部分的な欠失がある多角形である、
[11]前記柱状突起の間隔が500μm〜1mmである、上記[10]に記載のマイクロニードル。
[12]部分的な欠失がある多角形がコの字型、V字型である、上記[10]又は[11]に記載の冶具。
[13]コの字型の一部に欠失がある、上記[11]又は[12]に記載の冶具。
[14]コの字の2本の横棒と一本の縦棒の長さの比率として、縦棒を1として、横棒が1〜1.5の範囲である、上記[12]又は[13]に記載の治具。
[15]コの字の2本の横棒の肉厚が40〜80μmであり、縦棒の肉厚が20〜50μmであることを特徴とする、上記[14]に記載の冶具。
[16]一つまたは複数の隙間が、コの字の2本の横棒と縦棒の間に存在する、あるいは縦棒の部分に一つ存在することを特徴とする、上記[15]に記載の冶具。
[17]柱状突起の断面形状が、十字型であることを特徴とする、上記[10]記載の冶具。
[18]十字の縦横の外径が400〜450μmであり、肉厚が40〜80μmであることを特徴とする、上記[17]記載の冶具。
[19]以下の工程(1)〜(6)を含むPGA製のマイクロニードルの製造方法。
(1)PGAの粘塑性状態になる温度以上に、冶具の温度を設定する、
(2)冶具をPGAプレートに接触させ、接触部位のPGAを粘塑性化する、
(3)冶具とPGAプレートを2〜6mm/秒の速度で、0.2〜2mm引き離し、粘塑性化したPGAを糸状に引き伸ばす、
(4)冶具とPGAプレートの引き離しを停止し、糸状のPGAを切断して、針状突起を形成させる、
[20]冶具の温度をPGAの融点付近に設定することを特徴とする、上記[19]記載の製造方法。
[21]冶具の温度を250℃付近(240〜260℃)に設定することを特徴とする、上記[19]又は[20]に記載の製造方法。
[22]上記[10]の冶具を用いて製造することを特徴とする、上記[19]〜[21]のいずれかに記載の製造方法。
本発明のPGA製の剣山型マイクロニードルは強度が強靭であるため、皮膚を穿刺する場合において、変形することが少なく、効果的に皮膚に挿入することができる。しかも、治具を選択することにより、容易に多種類の形状を持ったPGA製マイクロニードルを製造することができる。特に治具を選択することにより、中空のマイクロニードルあるいは側面に凹部あるいは溝を持ったマイクロニードルを作製することが可能であり、その中空部や凹部等に薬効成分を担持させることができる。このようなPGA製マイクロニードルを使用することにより、より効果的に薬効成分を皮下に注入することが可能になった。
四角柱の冶具を使用して得られた、本発明のマイクロニードルの写真 四角柱の冶具を使用して得られたマイクロニードルの拡大写真 コの字型およびV字型の冶具の寸法 コの字型冶具の写真(一例) V字型冶具の写真 コの字型の冶具を使用して作製されたマイクロニードルの拡大写真 V字型の冶具を使用して作製されたマイクロニードルの拡大写真 十字型(420×420μm)の冶具と作製されたマイクロニードルの拡大写真 コの字型の柱状突起の断面とその柱状突起を持つ冶具で作製されたマイクロニードルの拡大写真 コの字型の柱状突起の断面とその柱状突起を持つ冶具で作製されたマイクロニードルの拡大写真 コの字型の柱状突起の断面とその柱状突起を持つ冶具で作製されたマイクロニードルの拡大写真 図11のマイクロニードルの部分拡大写真 欠失のあるコの字型(300×300μm)の冶具の写真 欠失のあるコの字型(300×300μm)の柱状突起の断面とその柱状突起を持つ冶具で作製されたマイクロニードルの拡大写真 欠失のあるコの字型(300×300μm)の冶具の写真 欠失のあるコの字型(300×300μm)の柱状突起の断面とその柱状突起を持つ冶具で作製されたマイクロニードルの拡大写真 欠失のある四角形(300×300μm)の柱状突起の断面図 厚みが不均一な四角形(300×300μm)の柱状突起の断面図 エの字型の柱状突起の断面図 ラット皮膚に穿刺後の本発明のマイクロニードルの拡大写真 PLA製マイクロニードルの拡大写真 ラット皮膚に穿刺後のPLA製マイクロニードルの拡大写真 ラット皮膚に穿刺後のPLA製マイクロニードルの拡大写真
本発明のマイクロニードルの製造に使用される冶具は、半導体プロセス等にて作製されるシリコン(Si)製あるいは金属製の治具である。ここで使用される半導体プロセス等としては、微小針の作製で使用される公知の微細製作プロセスを適宜使用することができる。例えばX線リソグラフィー、フォトリソグラフィー等のリソグラフィー、例えばイオンエッチング、プラズマエッチィング等のエッチングを挙げることができる。好ましくは、イオンで深くエッチングできる誘導結合型プラズマ反応型イオンエッチィング(Inductively Coupled Plasma Reactive Ion Etching:ICP−RIEと略称する)を挙げることができる。これらの技術は一般的な成書に記載されており、例えば、谷口淳著、「はじめてのナノプリント技術」(工業調査会、2005年)、M.エルベンスポーク著、「シリコンマイクロ加工の基礎」(シュプリンガー・フェアラーク東京、2001年)、Jaeger,Introduction to Microelectronic Fabrication(Addison−Wesley Publishing Co.,Reading MA 1988)、Runyan,ら、Semiconductor Integrated Circuit Processing Technology(Addison−Wesley Publishing Co.,Reading MA 1990)、Proceedings of the IEEE Micro Electro Mechanical Systems Conference 1987−1998、Rai−Choudhury編、Handbook of Microlithography,Micromachining & Microfabrication(SSPIE Optical Engineering Press,Bellingham,WA 1997)を挙げることができる。
更に、別途、半導体ダイシング加工により、シリコン製平板表面をカッティングすることにより、所望の冶具を作成することが出来る。例えば、ダイシング装置(デイスコ社製)を用いて焼結ダイヤ製砥石による切削により、所望のピッチ間隔を持った四角柱状突起を持った冶具を作成することが出来る。
本発明のマイクロニードルの作製方法として、ます上記で得られた冶具を用いて、PGAシートに接触させPGAを軟化熔融させる。その後、冶具を引き離し、冶具に付着したPGAを引き出す操作を行なう。PGAが糸状に伸展した時点で冶具引き離し速度を低下または停止し、伸展した糸状のPGAを表面張力により切断する。これにより、微小針の長さが揃ったマイクロニードルを作製することができる(これらはPCT/JP2008/051317に記載している。)。
本発明で言う「ポリグリコール酸(PGA)」とは、繰り返し単位(OCHCO)を50質量%以上含む、好ましくは70質量%以上含む、より好ましくは90質量%以上含む、重量平均分子量が2万から100万の、好ましくは5万から80万の、より好ましくは7万から50万の、融点がある場合はそれが180℃から230℃の、好ましくは200℃から230℃の、より好ましくは210〜230℃の、270℃での溶融粘度1Pa・sから10000Pa・sの、より好ましくは10Pa・sから5000Pa・sの、ガラス転移点が約40℃の物性を持つ樹脂である。
これまでよく使用されてきたポリ乳酸(PLA)と比較して、本発明ではPGAを使用することにより、強度的にもより強靭なマイクロニードルを作製できる。例えば、本発明の図1又は図2のマイクロニードルを用いて、ラット皮膚の穿刺実験を行ったが、図20に示されるように、穿刺後のマイクロニードルの写真には折れたり曲がったりした微小針は見当たらず、全体としてあまり変化が見られなかった。一方、PLAを使用した場合には、図21のマイクロニードルがラット皮膚への穿刺後には、図22のように曲がったり、図23のように微小針の針先が押し潰されてしまったりするようなことが多く見出された。以上のように、PGA製のマイクロニードルは、予想外に優れた強度を持った汎用性の高いものであることが分かった。
本発明で言う「マイクロニードル」とは、ポリグリコール酸(PGA)製の基板上に、複数のPGA製の微小針が一定の間隔(ピッチ)を持って配設されているマイクロニードルであって、前記微小針は、前記基板に接する微小針の底部から頂部(先端部)にかけて断面形状が小さくなる構造を有し、かつ前記底部近傍での断面形状の減少率が前記頂部近傍に比べて大きく、前記底部から前記頂部方向にかけて連続した溝、くぼみ及び連続した中空部の少なくとも1つを有する構造からなるマイクロニードルのことを言う。例えば、前記微小針の高さが150μm〜1mmであり、前記微小針の前記底部の外形が100〜450μmであり、前記微小針の間隔が100μm〜2mmであるようなマイクロニードルのことを言う。より具体的には、次のような微小針が複数設置されている剣山状のPGA製の基板(プレート)のことを言う。
a)微小針の高さが150μm〜1mmであり、
b)微小針の底部の外径の最大径が100μm〜450μmであり、
c)微小針の先端部(針先サイズ)が尖った円柱状(先端が丸みを帯びた円錐状)となり、その外径が数〜数十μmであり、
d)微小針の断面の形状が底部では円形、多角形、十字形、一辺を欠く多角形、一部を欠く円形(C字型)であり、先端部では円形である。
なお、微小針の本数としては必要に応じて選択することができ、例えば9〜500本であることが望ましい。好ましい剣山状のプレートとしては、一定の間隔で微小針が縦3列〜30列、横3列〜30列で並んでいることが望ましい。従って、好ましい剣山型マイクロニードルの微小針密度は、9〜500本/cmである。
また、微小針の高さが低い場合には、薬液を塗布し難いので、200μm以上であることが望ましい。より好ましくは微小針の高さが300〜500μmの範囲であることが挙げられる。
本発明のマイクロニードルのサイズ(微小針が存在する部分)は微小針の大きさや本数によって異なるが、好ましいものとして縦横が0.5〜1.5cmの範囲のものを挙げることが出来る。なお、微小針の本数やマイクロニードルのサイズは、治具の柱状突起の本数とサイズ(柱状突起が存在する部分)に対応して決まるものである。それ故、必要に応じて治具を適宜選択することにより、微小針の本数とマイクロニードルのサイズ(微小針が存在する部分)を決定することが出来る。
本発明の微小針は、製造方法に起因し、針の底部は使用する冶具の柱状突起の外径の幅で決まり、針の高さは、おおむね粘塑性化されたPGA量で決まると考えられる。このPGA量は、冶具とPGAの接触に基づいてPGAが軟化・熔解し、粘塑性化して冶具に引き上げられる量に依存する。従って、例えば冶具として200μm×200μmの角柱を用いてPGAプレートに接触させ、PGAを粘塑性化して冶具を引き離し、図1〜図2に示すような角錐形の微小針(底部約150μm、高さ約350μm)を作製することができる。
冶具の温度やPGAプレートの温度、あるいは冶具の断面積、冶具の接触時間、PGAプレートへの嵌入距離等により、上記の粘塑性化されたPGAの量は異なってくる。従って、所望の微小針のサイズに合わせて、適宜、これらの条件を選択することが出来る。例えば、冶具とPGAプレートとの接触時間としては、冶具として200μm×200μmの角柱状突起を持つものを使用する場合、1秒であればPGAの溶ける量が少なく、7秒を超えるとPGAが溶けすぎる。10秒を過ぎた辺りから、PGAが焦げ付き始める。2〜7秒の範囲が適切なようであり、5秒付近が好適と考えられる。
PGAプレートに対する冶具の嵌入距離が大きければ、冶具とPGAが接触し、PGAの軟化融解量が大きくなるので、微小針のサイズが大きくできる。即ち、微小針の高さや太さを大きくすることができる。嵌入距離は0.1〜0.25mmの範囲が好適であり、例えば0.1mmの挿入距離で、図1と図2に示されるマイクロニードルが得られている。該微小針の高さは約350μmであり、微小針の底部の外径は約150μmと好適なものが得られている。
本発明で言う「微小針の底部の外径」とは、概ね冶具の柱状突起の断面とほぼ同じか少し小さいものである。微小針の底部は、PGAが冶具の接触で少し押し退けられ、その後粘塑性化されたPGAが引き出されるため、図6、図8または図12に示されるように、周辺が少し盛り上がり、中心部に向けて少し窪んでいる。微小針は、その窪み(凹部)の中から立ち上がっている。従って、微小針の底部は、冶具によって引き出されることから、ほぼ冶具の断面に対応する形状になっている。そこで、微小針の底部の外径は、概ね冶具の柱状突起の断面とほぼ同じか少し小さいものとなっている。例えば、0.2mmの角柱状突起(一辺0.2mm×0.2mm、高さ0.35mm、ピッチ0.8mm)の冶具を用いた場合、図2に示されるように、微小針の底部の外径は約150μmになっていた。
更に例えば、図4に示されるコの字型の冶具(300μm×300μm)を用いた場合には、図6の右図に示されるように、微小針の底部の外径は約300μmになっていた。
本発明で言う「微小針の先端部」とは、具によって引き出されて糸状に伸展され、切断される先端部の円柱状(やや円錐状)の部分のことを言う。この円柱部の外径が数〜数十μmになるようにPGAが伸展され、微小針が形成される。
本発明で言う「数〜数十μm」とは、2〜3μm以上で、20〜30μm以下の範囲を表わす。微小針の先端部のより好ましい外径としては2〜20μmであり、皮膚への穿刺性と材質の硬度を考慮し、その範囲を適宜選択することができる。
本発明で言う「微小針の断面」とは、微小針をPGAプレートと平行な面で切断した断面のことを言う。微小針の底部の断面は、治具の断面とほぼ同様の形状を示すが、上部に行くに従って、図6〜12に示されるように、PGAの引き伸ばしと表面張力により、微小針の先端部の外形は尖った円柱状あるいは円錐状になる。そのため、微小針の先端部の断面は、ほぼ円形の形状を呈することになる。
本発明で言う「(微小針の)底部近傍での断面形状の減少率が(微小針の)前記頂部近傍に比べて大き(い)」とは、具により粘塑性化したPGAが基板より引き出されるため、図6や図8に見られるように、底部の近傍では、微小針の径が急速に細くなっていることを表わす。そして、微小針の頂部(先端部)では、微小針の径はゆっくりと細くなっていることを表わすものである。
本発明で言う「冶具」とは、上記マイクロニードルの製造方法に使用されるシリコン製または金属製の冶具を言う。これらの冶具は、半導体の製造プロセスや微細作製プロセスにおいて使用されている上述の汎用手段を用いて作製されるものであり、金属としては例えばチタン、パラジウム、ニッケル、銅を挙げることができる。
本発明で言う「柱状突起」とは、断面の形状が円形、多角形、十字型、エの字型、一部を欠く円形(C字型)または部分的な欠失がある多角形の柱状の突起である。ここで多角形とは、例えば三角形、四角形、五角形等の多角形を言い、部分的な欠失がある多角形とは、例えばV字型、コの字型、あるいは図13〜17に示されるような断面形状のもの(欠失部分を持つもの)を言う。
柱状突起の長さは、200μm〜1mmの範囲のものであり、好ましくは250〜500μmを挙げることができる。より好ましくは、300〜400μmを挙げることができる。
本発明で言う「柱状突起の間隔」とは、柱状突起の中心間の距離のことを言う。柱状突起の間隔が狭い場合には、隣り合う柱状突起に形成される糸状のPGAが接合して幅広い一本の糸になってしまう。また、柱状突起の断面が大きく、多量のPGAを引上げ(あるいは引き下げ)て、糸状PGAを形成させる場合には、粘塑性化したPGAが重なり合うと、どちらか一方の柱状突起の方により多くの粘塑性化PGAが付着する事態が起こり、作製される微小針が不揃いになる。以上のことから、柱状突起の間隔は一定の間隔が必要になる。例えば、冶具の柱状突起の外径が200〜300μmである場合、図2や図6に示されるように、PGAプレートが粘塑性化する範囲は柱状突起の約2〜3倍の範囲に広がっている。従って、粘塑性化するPGAの範囲が重ならないようにするためには、柱状突起の間隔(ピッチ)は、柱状突起の最長外径の約1.5倍以上あることが望ましい。粘塑性化するPGAの範囲が重なれば、微小針の長さに不均一が生じることになる。
従って、図6、図8、図10あるいは図11に示されるように本発明の治具の柱状突起の断面の外径が、200〜450μmである場合には、柱状突起の間隔は300μm〜1mmの範囲であればよい。例えば、柱状突起が200μm×200μmの四角柱状である場合には、柱状突起の間隔は300〜600μmであれば充分である。より好ましい間隔としては、約800μmの前後を挙げることができる。
以上のように、治具のサイズ(柱状突起が存在する部分)と柱状突起の本数と柱状突起の間隔は相互に関連することになる。例えば、柱状突起の本数が縦横10本であり、間隔(ピッチ)が800μmの場合、治具のサイズは7.2mmとなる。
本発明の「柱状突起の本数」としては、作製される微小針の本数に対応して必要な本数を選択する。従って、本発明では特に限定されることはなく、複数本あれば充分である。例えば、所望のマイクロニードルの微小針の本数に対応して、例えば9〜500本の範囲で選択することができる。剣山型マイクロニードルの密度に合わせて、冶具における柱状突起の密度も同じものを選択することになる。例えば、本発明の場合、柱状突起の断面の外径が100〜450μmであるので、上述のように、柱状突起の間隔(ピッチ)は150〜1mm以上であることが好ましい。しかし、必要に応じて柱状突起の本数を選択できるため、柱状突起の密度としては、9〜500本/cmであることが望ましい。
本発明の「柱状突起の断面形状」としては、特に限定されることではなく、必要に応じて色々な形状のものを使用することができる。例えば、四角形、コの字型、十字型、円形、エの字型、一部を欠く円形(C字型)または部分的な欠失がある多角形等が使用可能である。また、柱状突起の断面の外径の大きさは作製するマイクロニードルのサイズに合わせて選択することができる。例えばシャープな針(針の底部が150〜200μmで、針の高さが300〜400μmのもの)を作製するためには、図1に示されるように200×200μmの四角柱の冶具を用いればよいことが分かった。また、薬剤を担持するための凹部または溝を持った針を形成するためには、柱状突起の断面が部分的な欠失がある多角形である冶具を使用することが望ましい。部分的な欠失がある多角形として、例えば柱状突起の断面がコの字型、V字型等のもの、更には十字型のものを挙げることができる。
コの字型の形状としては、図3、図4、図9〜図11に示されるように外径の縦と横が250〜350μmであり、コの字の肉厚が40〜60μmであるものを使用することができる。コの字の縦棒と横棒の比率として、好ましいものとしては、縦棒を1として横棒が1〜1.5の範囲にあるものを挙げることができる。なお、コの字は連続していてもよく、一つまたは複数の隙間が開いていてもよい。例えば、図15〜図16に示されるように隙間(間隔)がコの字の2本の横棒と縦棒の間に存在するか、あるいは図13〜図14に示されるように縦棒の部分に一つ存在してもよい。
十字型の形状としては、例えば図8に示されるように、外径の縦と横が300〜450μmであり、十字の肉厚が40〜60μmであるものを使用することができる。更には、十字の中心に間隙があり、4本の長方形が組み合わさった形で形成される十字であっても使用することができる。
また、同様に柱状突起の断面が部分的な欠失がある多角形であるものとして、図17で示される断面の治具を作製することができ、例えば図17の断面の冶具を用いた場合には中空の微小針が形成できる。同様に四角形の断面が不均一なものである冶具として、例えば図18の断面のものを用いた場合にも、中空の微小針が成型される。
コの字型が二つ組み合わさった、図19で示されるエの字型の断面の柱状突起の冶具を用いた場合には、2つの先端を持ち両面に凹部を持った微小針が得られることになる。
以上のように、冶具の柱状突起の断面を目的に応じて適宜選択することにより、中空のある微小針、凹部または溝のある微小針を作成することができる。このような微小針を持つマイクロニードルに薬効成分、薬液を塗布して、効率的に薬剤を担持させることができる。薬剤を担持させる方法としては、公知の塗布・浸漬方法を用いることが出来る。その結果、容易に所望の薬剤が担持されたマイクロニードルを容易に作成することができる。
以下に本発明について実施例により具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
(実施例1)マイクロニードルの製造法
平板上に、一辺が0.2mm×0.2mmで高さが0.35mmの四角柱がピッチ0.8mm毎に10本立っている、シリコン製冶具(1cm×1cm)を使用した。オートグラフ(島津製作所製)の水平表面にカプコンテープでPGAプレート(半径11mm、厚さ1mm)を貼付した。上記冶具を250℃のホットプレートに設置し、PGAプレートに冶具を接触させ、該PGAプレートを引上げて、PGAプレート表面にマイクロニードルを作製した。
得られたマイクロニードルを図1と図2に示す。底部が約150μmの四角柱推状であり、先端部が円錐状である高さが約350μmの微小針が100本のPGA製の剣山型マイクロニードルが得られた。マイクロニードルのサイズ(微小針の部分)は約7.2mm×7.2mmであった。
(実施例2)コの字型およびV字型冶具によるマイクロニードルの製造法
薬液の担持性を向上させるため、溝を持った針形状が作製できるかを検討した。そのため、図3の断面形状を持つ、図4、図5に示される冶具を作製した。冶具の柱状突起の高さは約350μmである。この冶具を使用し、実施例1と同じ作製装置、作製条件を用いて、マイクロニードルの作製を行なった。得られたマイクロニードルを図6の右図と図7に示す。
この結果から、コの字型の冶具を使用した場合には、所望の凹部を持った形状の微小針が作製できたが、V字型の冶具を使用した場合には、PGAプレートに対する接触面積が少ないので、軟化・熔解して表面張力によって引き上げられるPGA量に限界があり、図7に示されるように微小針の高さがあまり高くなかった。
また、コの字型の冶具の場合、6パターンの冶具の中では、縦横300μm、肉厚が60μmのコの字型冶具を用いた場合に、図6の右図に示されるように、好適な高さと凹部を持つ微小針(針に高さ約440μm、底辺の幅約300μm)が得られることが分かった。
(実施例3)コの字型冶具の種類と針形状への影響
実施例2の結果に基づき、形成される微小針の形状に関するコの字型の冶具の影響を検討した。まず、図9〜11の各左図に示される断面図形の冶具を作成した。実施例1と同様の装置、条件でマイクロニードルの作製を行った。そして、得られたマイクロニードルの針形状を観察した。その結果を、図9〜11の各右図に示す。
冶具として、コの字の2本の横棒の外径が350μmで、縦棒の外径が250μmで、縦棒の肉厚が40μmのものを使用した場合、図11の右図、図12で示されるような、良好な溝(凹部)を持つマイクロニードルが製造できた。実施例2で得られた針形状のものと対比し、実施例3で得られた針形状のものは、薬液の担持性がより向上する溝(凹部)になっていた。
(実施例4)冶具の作製
(1)ICP−RIE法による四角柱状治具の作製
感光性レジストをスピンコート法により、厚さ700μmのSi平板(4×4インチ)を被膜した。微小針の描画パターンをUV露光で描画した。デッピング法により現像し、微小針のパターン(200×200μmの四角形)を転写した。CFガスを用いた、誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチィング(ICP−RIE)方法により、四角柱(柱状突起の長さ約350μm)を10×10個(柱状突起のピッチ間隔は800μm)を有するSi平板を得た。角柱上に残存する感光性レジストをOガスを用いたRIE方法により除去した。
(2)高精度ダイシング法による四角柱状治具の作製
厚さ700μmのSi平板(4×4インチ)を固定し、ダイシングソー(デイスコ社製)を用いて柱状突起間の部分を研削除去し、四角柱状の柱状突起を切り出した。柱状突起のピッチ間隔が約720μmであり、柱状突起の長さが約350μmである、10×10個の四角柱状突起を持つSi平板を得た。
(3)コの字型治具の作製
図3の上図に示されるコの字型の微小針描画パターンを用いて、上記(1)と同様にして、コの字型の柱状突起(長さ約350μm)を3×3個有するSi平板を得た。得られたSi製冶具を図4に示す。
同様に、図9〜11の各左図を用いて、これに対応するSi製冶具を作製することができる。
(4)欠失のあるコの字型治具の作製
図14の左図と図16図の左図に示される欠失のあるコの字型の微小針描画パターンを用いて、上記(1)と同様にして、コの字型の柱状突起(長さ約350μm)を3×3個有するSi平板を得た。得られたSi製冶具を図13と図15に示す。
(5)V字型冶具の作製
図3の下図に示されるV字型の微小針描画パターンを用いて、上記(1)と同様にして、V字型の柱状突起(長さ約350μm)を3×3個有するSi平板を得た。得られたSi製冶具を図5に示す。
(4)十字型冶具の作製
図8の左図に示されるV字型の微小針描画パターンを用いて、上記(1)と同様にして、十字型の柱状突起(長さ約350μm)を3×3個有するSi平板を得た。
(実施例5)十字型冶具を用いたマイクロニードルの作製
実施例4(4)で作製された十字型治具を使用し、実施例1の装置と製造条件を使用して、マイクロニードルの作製を検討した。得られたマイクロニードルを図8の右図に示す。
得られた微小針の外観は、微小針の底部が治具由来の十字型を形成している。しかし、約100μm程度のところで、収斂して円錐状に近い形状を示している。
以上のように、実施例1と同様の製造条件では、冶具の引上げ速度等が速いと考えられることから、薬剤保持用に必要な凹部を形成させるためには、冶具の引上げ速度を低下させる必要があることが分かった。
(実施例6)分割型四角形の治具の作製
図17に示される柱状突起の断面の微小針描画パターンを用いて、上記(1)と同様にして、欠失のある四角形の柱状突起(長さ約350μm)を3×3個有するSi平板を得ることが出来る。
本発明の冶具と製造方法により、材質強度の高いPGA製のマイクロニードルを容易に大量製造することが出来るようになった。また、冶具の形状(柱状突起の断面形状)を工夫することによって、例えば図1以外にも、コの字型の冶具を使用することにより、図6の右図、図9〜11の各右図に示されるような、薬液の担持性が向上した溝(凹部)を持つ図6の右図や図12のようなマイクロニードルを作製できることが可能になった。

Claims (6)

  1. 下記(A)の治具を用いた下記(B)の製造方法によって得られ、それによって、ポリグリコール酸製プレートの材料自体が変形し下記(C)に規定する複数の微小針として該プレートから引き出され突起した構造を有する、ポリグリコール酸製のマイクロニードル。
    (A)平板上に、複数の柱状突起が設けられ、該柱状突起は、長さが200μm〜1mmであり、間隔が400μm〜2mmであり、断面形状がコの字型であり、該コの字の2本の横棒と1本の縦棒の長さの比率が、縦棒の長さを1としたときに、2本の横棒のそれぞれの長さが1〜1.5である、シリコン製または金属製の治具。
    (B)ポリグリコール酸が粘塑性状態になる温度以上に前記(A)の治具の温度を設定し、該治具をポリグリコール酸製プレートに接触させ、その接触部位のポリグリコール酸を粘塑性化し、該治具と該ポリグリコール酸製プレートを引き離し、粘塑性化したポリグリコール酸を糸状に引き伸ばし、該治具と該ポリグリコール酸製プレートの引き離しを停止し、糸状のポリグリコール酸を切断して、針状突起を形成し、微小針とする、ポリグリコール酸製マイクロニードルの製造方法。
    (C)微小針の本数が複数であり、微小針の高さが150μm〜1mmであり、微小針の底部の外径が100〜450μmであり、微小針の先端部が尖った円柱状又は円錐状となり、その外径が数μm〜数十μmであり、微小針の断面の形状が底部ではコの字型であり、先端部では円形であり、前記底部でのコの字型におけるコの字の1本の縦棒と2本の横棒との長さの比率が、縦棒の長さを1としたときに、2本の横棒のそれぞれの長さが1〜1.5である、該微小針。
  2. 上記底部でのコの字型におけるコの字の2本の横棒と1本の縦棒のそれぞれの長さが、250〜350μmであり、コの字の肉厚が40〜60μmである、請求項1記載のポリグリコール酸製のマイクロニードル。
  3. 上記底部でのコの字型におけるコの字の2本の横棒の肉厚が40〜80μmであり、縦棒の肉厚が20〜50μmである、請求項1に記載のポリグリコール酸製のマイクロニードル。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリグリコール酸製のマイクロニードルにおいて、該マイクロニードルを製造するために上記(A)の治具として用いられる、シリコン製または金属製の治具であって、
    平板上に、複数の柱状突起が設けられ、該柱状突起は、長さが200μm〜1mmであり、間隔が400μm〜2mmであり、断面形状がコの字型であり、該コの字型におけるコの字の1本の縦棒と2本の横棒との長さの比率が、縦棒の長さを1としたときに、2本の横棒のそれぞれの長さが1〜1.5である、
    前記治具。
  5. 上記コの字型におけるコの字の2本の横棒と1本の縦棒のそれぞれの長さが、250〜350μmであり、コの字の肉厚が40〜60μmである、請求項4に記載の治具。
  6. 上記コの字型におけるコの字の2本の横棒の肉厚が40〜80μmであり、縦棒の肉厚が20〜50μmである、請求項に記載の具。
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