以下、本発明に係る自動製パン器の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書に登場する具体的な時間や温度等はあくまでも例示であり、それらは本発明の内容を限定するものではない。
(自動製パン器の構成)
図1は、自動製パン器の外観構成を示す概略斜視図である。図1に示すように、略直方体形状に設けられる自動製パン器1の本体10(その外殻は例えば金属や合成樹脂等によって形成される)の上面の一部には、操作部20が設けられている。操作部20は、操作キー群と、時間、操作キー群によって設定された内容、エラー等を表示する表示部と、によって構成されている。操作キー群には、例えば、スタートキー、取り消しキー、タイマーキー、予約キー、パンの製造コース(米粒を出発原料に用いてパンを製造するコース、米粉を出発原料に用いてパンを製造するコース、小麦粉を出発原料に用いてパンを製造するコース等)を選択する選択キー等が含まれる。表示部は、例えば、液晶表示パネル等によって構成される。
本体10の内部には、本発明における第1のパン容器であるパン容器80と、本発明における第2のパン容器であるパン容器120(図12、13参照)を受け入れる収容部が設けられる。本実施形態では、パン容器80とパン容器120が選択的に取り付けられる焼成室30が収容部となる。焼成室30は、例えば板金からなる底壁30a及び四周の側壁30b(後述の図4も参照)で構成された平面形状略矩形の箱形状の部屋であり、その上面は開口している。焼成室30の上面開口は本体10上部に設けられる蓋40によって閉ざされる。蓋40は図示しない蝶番軸で本体10の背面側に取り付けられており、その蝶番軸を支点として回動する。図1は蓋40が開かれた状態を示している。
蓋40には、焼成室30内を覗けるように、例えば耐熱ガラスからなる覗き窓41が設けられている。蓋40にはパン原料収納容器110が着脱自在に取り付けられる。パン原料収納容器110は、パンの製造工程の途中で一部のパン原料を自動投入することを可能にする。図1は蓋40にパン原料収納容器110が取り付けられた状態を示しており、更に詳細には、パン原料収納容器110の容器蓋が開いた状態を示している。
蓋40は、閉じられた状態において、上面の略全体が本体10の前面側から背面側に向けて高くなる傾斜構造を有している。このために、蓋40が閉じられた状態において、本体10前面寄りに配置される覗き窓10から焼成室30に収容されるパン容器80内の様子が観察し易くなっている。また、蓋40が閉じられた状態において、本体10の背面寄りに取り付けられるパン原料収納容器110は、蓋40の厚みが厚い部分に配置されることになるため、その高さを高くして大きな容積を稼げるようになっている。
図2は、自動製パン器1を上側から見た場合を想定しており、図の下側が自動製パン器1の正面側、図の上側が背面側である。図2に示すように、自動製パン器1には、焼成室30の右横に練り工程で用いられる低速・高トルクタイプの混練モータ50が固定配置され、焼成室30の後ろ側に粉砕工程で用いられる高速回転タイプの粉砕モータ60が固定配置されている。混練モータ50及び粉砕モータ60はいずれも竪軸である。
混練モータ50の上面から突出する出力軸51には第1のプーリ52が固定される。第1のプーリ52は、第1のベルト53によって、その径が第1のプーリ52よりも大きく形成されるとともに第1の回転軸54の上部側に固定される第2のプーリ55に連結されている。第1の回転軸54の下には、その回転中心が第1の回転軸54の回転中心と整列するように第2の回転軸57が配置される(図3参照)。第1の回転軸54及び第2の回転軸57は、本体10の内部に回転可能に支持される。第1の回転軸54と第2の回転軸57の間には、動力伝達と動力遮断を行うクラッチ56が設けられる(図3参照)。クラッチ56の構成は後述する。
第2の回転軸57の下部側には第3のプーリ58が固定される(図3参照)。第3のプーリ58は、第2のベルト59によって、焼成室30の下部側に設けられるとともに原動軸11に固定される第1の原動軸用プーリ12(第3のプーリ58とほぼ同一の径を有する)に連結される(図3参照)。混練モータ50自身が低速・高トルクタイプであり、その上、第1のプーリ52の回転が第2のプーリ55によって減速される(例えば1/5の速度に減速される)ため、クラッチ56が動力伝達を行う状態で混練モータ50を駆動すると、原動軸11は低速(例えば180rpm程度)・高トルクで回転する。
なお、第1のプーリ52、第1のベルト53、第1の回転軸54、第2のプーリ55、クラッチ56、第2の回転軸57、第3のプーリ58、第2のベルト59、及び第1の原動軸用プーリ12で構成される動力伝達部のことを、以後第1の動力伝達部PT1と表現することがある。
粉砕モータ60の下面から突出する出力軸61には、第4のプーリ62が固定される。第4のプーリ62は、第3のベルト63によって、原動軸11に固定される第2の原動軸用プーリ13(第1の原動軸用プーリ12より下側で固定される;図3参照)に連結される。第2の原動軸用プーリ13は第4のプーリ62とほぼ同一の径を有する。粉砕モータ60には高速回転可能なものが選定される。そして、第4のプーリ62の回転は第2の原動軸用プーリ13においてほぼ同一速度で維持されるために、粉砕モータ60の高速回転により、原動軸11は高速回転(例えば7000〜8000rpm)を行う。
なお、第4のプーリ62、第3のベルト63、及び第2の原動軸用プーリ13で構成される動力伝達部のことを、以後第2の動力伝達部PT2と表現することがある。第2の動力伝達部PT2は、クラッチを有さない構成であり、粉砕モータ60の出力軸61と原動軸11とを常時動力伝達可能に連結する。
図3は図2の矢印X方向に沿って見た場合を想定している。クラッチ56は、第1のクラッチ部材561と第2のクラッチ部材562を有する。第1のクラッチ部材561に設けられる爪561aと、第2のクラッチ部材562に設けられる爪562aが噛み合う場合(図3(b)の状態)に、クラッチ56は動力伝達を行う。爪561a、562aが噛み合わない場合(図3(a)の状態)、クラッチ56は動力遮断を行う。すなわち、クラッチ56は噛み合いクラッチとなっている。
本実施形態では、クラッチ部材561、562のそれぞれに、周方向(第1のクラッチ部材561にあっては下から見上げた場合、第2のクラッチ部材562にあっては上から見下ろした場合を想定)にほぼ等間隔に並ぶ6つずつの爪561a、562aが設けられている。爪561a、562aの数と形状は、好ましい数、好ましい形状を適宜選択すればよい。
第1のクラッチ部材561は、抜け止め対策を施された上で、第1の回転軸54に、その軸方向(図3において上下方向)に摺動可能、且つ、相対回転不能に取り付けられている。第1の回転軸54の第1のクラッチ部材561の上部側には、バネ71が遊嵌されている。バネ71は、第1の回転軸54に設けられるストッパ部54aと第1のクラッチ部材561とに挟まれるように配置されており、第1のクラッチ部材561を下側に向けて付勢している。一方、第2のクラッチ部材562は、第2の回転軸57の上端に固定されている。
クラッチ56における、動力伝達状態と動力遮断状態との切り替えは、下位置と上位置とに移動可能なアーム部72を用いて行われる。アーム部72は、その一部が第1のクラッチ部材561の下側に配置され、第1のクラッチ部材561の外周側と当接可能となっている。
アーム部72の駆動は、クラッチ用ソレノイド73を用いて行われる。クラッチ用ソレノイド73は、永久磁石73aを備え、いわゆる自己保持型のソレノイドとなっている。クラッチ用ソレノイド73のプランジャー73bは、アーム部72のプランジャー固定用の取付部72aに固定される。このために、電圧の印加によりハウジング73cからの突出量が変動するプランジャー73bの動きに合わせてアーム部72が動く。
アーム部72が下位置(図3(b)の状態)から上位置(図3(a)の状態)に移動すると、第1のクラッチ部材561は、アーム部72に押されてバネ71の付勢力に抗し上方向に移動する。アーム部72が上位置にある場合には、第1のクラッチ部材561と第2のクラッチ部材562とは噛み合わない。すなわち、アーム部72が上位置にある場合には、クラッチ56は動力遮断を行う。
一方、アーム部72が上位置から下位置に移動すると、第1のクラッチ部材561はバネ71の付勢力によって押される形で下方向に移動する。アーム部72が下位置にある場合、第1のクラッチ部材561と第2のクラッチ部材562とは噛み合う。すなわち、アーム部72が下位置にある場合には、クラッチ56は動力伝達を行う。
粉砕モータ60を駆動する際に、クラッチ56が動力伝達を行う状態(図3(b)の状態)であると、原動軸11を高速回転させる回転動力が混練モータ50の出力軸51に伝達される(図2参照)。この場合、粉砕モータ60が例えば8000rpmで回転されるとすると、第1のプーリ52と第2のプーリ55との半径比(例えば1:5)によって、混練モータ50の出力軸51を40000rpmで回転させる力が必要になる。その結果、粉砕モータ60に非常に大きな負荷が加わるために、粉砕モータ60が破損する可能性がある。このため、粉砕モータ60を駆動する際には、原動軸11を高速回転させる回転動力が混練モータ50の出力軸51に伝達されないようにする必要がある。そこで、自動製パン器1は、上述のように、動力伝達と動力遮断を行うクラッチ56を第1の動力伝達部PT1に含む構成となっている。
なお、上述のように自動製パン器1においては、第2の動力伝達部PT2にはクラッチが設けられない構成としているが、これは次の理由による。すなわち、混練モータ50を駆動しても原動軸11は低速回転(例えば180rpm等)されるのみである。このため、原動軸11を回転させる回転動力が粉砕モータ60の出力軸に伝達されるようになっていても、混練モータ50に大きな負荷が加わることはない。そして、このように第2の動力伝達部PT2にクラッチが設けられない構成を敢えて採用することで、自動製パン器1の製造コストが抑制される。ただし、第2の動力伝達部PT2にクラッチが設けられる構成を採用しても、勿論構わない。
図4は、自動製パン器1を正面側から見た場合の構成を想定しており、焼成室30及びパン容器80の構成は概ね断面図で示されている。なお、パン原料が投入されるとともにパン焼き型として使用されるパン容器80は、焼成室30に対して出し入れ自在となっている。
図4に示すように、焼成室30の内部には、シーズヒータ31が焼成室30に収容されたパン容器80を包囲するように配置されている。シーズヒータ31に通電することにより、パン容器80内のパン原料(生地となっているものも含む)の加熱が可能になる。
焼成室30の底壁30aの略中心にあたる箇所には、パン容器80またはパン容器120を支持するパン容器支持部14(例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなる)が固定されている。パン容器支持部14は、焼成室30の底壁30aから窪むように形成され、その窪みの形状は上から見た場合に略円形となっている。パン容器支持部14の中心には、上述の原動軸11が底壁30aに対して略垂直となるように支持されている。原動軸11の上端には、本体側接続部11aが固定されている。
パン容器80は例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品(その他、板金等で構成しても構わない)であり、バケツのような形状をしており、開口部側縁に設けられる鍔部80aに手提げ用のハンドル80b(図13参照)が取り付けられている。パン容器80の水平断面は四隅を丸めた矩形である。また、パン容器80の底部には、詳細は後述するブレードユニット90の一部を収容する平面形状略円形の凹部81が形成されている。
パン容器80の底部中心には、垂直方向に延びるブレード回転軸82が、シール対策を施された状態で回転可能に支持されている。ブレード回転軸82の下端(パン容器80の底部から外部側に突き出ている)には、容器側接続部82aが固定されている。
パン容器80の底部外面側には、ブレード回転軸82を取り囲むように筒状の台座83が設けられている。パン容器80は、台座83がパン容器支持部14に受け入れられた状態で、焼成室30内に収容されるようになっている。台座83は、パン容器80とは別に形成してもよいし、パン容器80と一体的に形成してもよい。
パン容器80の台座83がパン容器支持部14に受け入れられた状態で、パン容器80が焼成室30内に収容されると、ブレード回転軸82の下端に設けられる容器側接続部82aと、原動軸11の上端に固定される本体側接続部11aが連結する。これにより、ブレード回転軸82は原動軸11から回転動力を伝えられるようになる。すなわち、本体側接続部11aと容器側接続部82aとはカップリングを構成する。
パン容器120も、パン容器80とほぼ同様の構造となっている。すなわちパン容器120は例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品(その他、板金等で構成しても構わない)であり、バケツのような形状をしており、開口部側縁に設けられる鍔部120aに手提げ用のハンドル120b(図13参照)が取り付けられている。パン容器120の水平断面は四隅を丸めた矩形である。但しパン容器120の底部には、パン容器80の凹部81に相当する凹部は設けられていない。
パン容器120の底部中心には、垂直方向に延びるブレード回転軸122が、シール対策を施された状態で回転可能に支持されている。ブレード回転軸122の下端(パン容器120の底部から外部側に突き出ている)には、容器側接続部122aが固定されている。
パン容器120の底部外面側には、ブレード回転軸122を取り囲むように筒状の台座123が設けられている。パン容器120は、台座123がパン容器支持部14に受け入れられた状態で、焼成室30内に収容されるようになっている。台座123は、パン容器120とは別に形成してもよいし、パン容器120と一体的に形成してもよい。
パン容器120の台座123がパン容器支持部14に受け入れられた状態で、パン容器120が焼成室30内に収容されると、ブレード回転軸122の下端に設けられる容器側接続部122aと、原動軸11の上端に固定される本体側接続部11aが連結する。これにより、ブレード回転軸122は原動軸11から回転動力を伝えられるようになる。すなわち、本体側接続部11aと容器側接続部122aとはカップリングを構成する。
パン容器120の中で、容器側接続部122a及び台座123の、パン容器80の容器側接続部82a及び台座83と同一の寸法形状であるが、それより上の容器本体にあたる部分はパン容器80よりも一回り小さく製作されている。このため、後述するように、パン容器120をパン容器80の中に納めることができる。
パン容器80に説明を戻す。ブレード回転軸82のパン容器80内部に突出する部分には、ブレードユニット90が着脱可能に取り付けられる。ブレードユニット90の構成について、図5から図9を参照しながら説明する。
ブレードユニット90は、ユニット用シャフト91と、ユニット用シャフト91に相対回転不能に取り付けられる粉砕ブレード92と、ユニット用シャフト91に相対回転可能且つ粉砕ブレード92を上から覆うように取り付けられる平面視略円形のドーム状カバー93と、ドーム状カバー93に相対回転可能に取り付けられる混練ブレード101と、ドーム状カバー93に取り付けられ、粉砕ブレード92を下から覆うガード106と、を備える。図8はガード106が取り外された状態を示す。
ブレードユニット90がブレード回転軸82に取り付けられた状態において、粉砕ブレード92は、パン容器80の凹部81底面より少し上の箇所に位置する。粉砕ブレード92及びドーム状カバー93のほぼ全体は凹部81に収容される(図4参照)。
ユニット用シャフト91は、例えばステンレス鋼板等の金属によって形成される略円柱状の部材であり、一方端(下端)に開口が設けられ、その内部は中空となっている。すなわち、ユニット用シャフト91は、下端からブレード回転軸82を挿入できるように、挿入孔91cが形成された構成となっている(例えば図7(b)参照)。
ユニット用シャフト91の側壁の下部側(開口側)には、ユニット用シャフト91の回転中心を挟んで対称的に配置される一対の切り欠き部91aが形成されている(図6参照。図6では一対の切り欠き部91aの一方のみが示されている)。切り欠き部91aの形状の側面形状は縦長の矩形であり、上端は丸められている。切り欠き部91aは、ブレード回転軸82を水平に貫くピン821(図7(b)参照)に係合させるために設けられている。ブレード回転軸82のピン821と、切り欠き部91aとが係合することによって、ユニット用シャフト91はブレード回転軸82に相対回転不能に取り付けられた状態になる。
図7(b)に示すように、ブレード回転軸82(破線で示す)の上端面(略円形状)の中央部に設けられる凸部82bと係合するように、ユニット用シャフト91の内部側の上面中央部には凹部91bが形成されている。これにより、ユニット用シャフト91とブレード回転軸82との中心を合わせた状態で、ブレードユニット90はブレード回転軸82に容易に取り付けることができる。また、ブレード回転軸82を回転させた場合に、不要なガタツキが発生することが抑制される。本実施形態では、ブレード回転軸82側に凸部82b、ユニット用シャフト91側に凹部91bを設ける構成としたが、これとは逆に、ブレード回転軸82側に凹部、ユニット用シャフト91側に凸部が設けられる構成としても構わない。
穀物粒粉砕用の粉砕ブレード92は、例えばステンレス鋼板を加工することによって形成される。粉砕ブレード92は、図6に示すように、第1の切削部921と、第2の切削部922と、第1の切削部921と第2の切削部922とを連結する連結部923と、を備える。連結部923の中央部には、平面形状小判型の開口923aが形成されている。開口923aにユニット用シャフト91の下部側が嵌め込まれる形で、粉砕ブレード92はユニット用シャフト91に取り付けられる。
ユニット用シャフト91の下部側には、側面の一部(切り欠き部91aが設けられる位置近傍)を削って平坦面が形成されている。これにより、ユニット用シャフト91を下から見上げた場合に、ユニット用シャフト91の下部側は、連結部923に設けられる開口923aとほぼ同形状(小判型)の断面となっている。このような形状を採用しているために、ユニット用シャフト91に取り付けられた粉砕ブレード92は、ユニット用シャフト91に対し相対回転不能となる。ユニット用シャフト91の下部の断面積は開口923aより僅かに小さく、これによりユニット用シャフト91と粉砕ブレード92の嵌合が可能となる。粉砕ブレード92の下部側には抜け止め用のストッパ部材94がユニット用シャフト91に嵌め込まれるために、粉砕ブレード92がユニット用シャフト91から脱落することはない。
粉砕ブレード92を囲んで覆い隠すように配置されるドーム状カバー93は、例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなり、その内面側には、ベアリング95(本実施形態では転がり軸受けを使用している)を収容する凹状の収容部931(図7(b)参照)が形成されている。換言すると、収容部931を形成するために、ドーム状カバー93は、それを外面から見た場合に、中央部に略円柱状の凸部93aが形成された構成となっている。凸部93aには開口が形成されておらず、収容部931に収容されるベアリング95は、側面及び上面が収容部931の壁面に囲い込まれた状態となっている。
ベアリング95は上下に抜け止めリング96a、96bが配置された状態で、その内輪95aがユニット用シャフト91に相対回転不能に取り付けられている(内輪95aの内側の貫通孔にユニット用シャフト91が圧入されている)。また、ベアリング95は、その外輪95bの外壁が収容部931の側壁に固定されるように、収容部931に圧入されている。このベアリング95(内輪95aが外輪95bに対して相対回転する)の介在によって、ドーム状カバー93はユニット用シャフト91に相対回転可能に取り付けられている。
ドーム状カバー93の収容部931には、外部からベアリング95内に異物(例えば穀物粒の粉砕時に用いられる液体や粉砕により得られたペースト状物等)が入り込まないように、例えばシリコン系或いはフッ素系の材料によって形成されるシール材97及び、このシール材97を保持する金属製のシールカバー98が、ベアリング95の下部側から圧入されている。シールカバー98は、ドーム状カバー93への固定が確実となるように、リベット99によってドーム状カバー93に固着されている。リベット99による固定は必須ではないが、確実な固定を得るために、それを行っておくのが好ましい。
ドーム状カバー93の外面には、凸部93aに隣接する箇所に垂直方向に延びるように配置される支軸100(図6参照)により、平面形状「く」の字形の混練ブレード101(例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなる)が取り付けられている。混練ブレード101は、支軸100に相対回転不能に取り付けられており、ドーム状カバー93に相対回転可能に取り付けられる支軸100と動きを共にする。換言すると、混練ブレード101は、ドーム状カバー93に対して相対回転可能に取り付けられた構成となっている。
混練ブレード101の先端(支軸100を中心として混練ブレード101を回転したときに最も大きな円を描く部分を想定)側近傍の一方面には緩衝材107が取り付けられている。緩衝材107は、混練ブレード101の先端から僅かに突出するように設けられている(例えば図8(b)参照)。なお、本実施形態では3mm程度突出する(d≒3mm)ように設けられている。
緩衝材107の固定は、混練ブレード101の側面と固定用板108とで緩衝材107を挟持しておき、混練ブレード101の他側からリベット109を挿入しカシメを施すことによって行われる。本実施形態ではリベット109の数を2個としているが、その数が限定されないのは言うまでもない。
緩衝材107は、開き姿勢(詳細は後述)となった混練ブレード101がパン容器80(の内壁)と直接接触しないようにするためのものである。混練ブレード101とパン容器80とが直接接触すると、それらの間の干渉が原因となって破損が発生する可能性があり、このような破損を防止すべく緩衝材107は設けられている。
本実施形態の自動製パン器1においては、パン容器80及び混練ブレード101の表面にフッ素コーティングが施されている。このため、本実施形態の緩衝材107は、このフッ素コーティングが混練ブレード101とパン容器80との接触で剥がれないように設けられたものといえる。そして、この点から、緩衝材107を構成する材料としては、フッ素コーティングを剥がさないようにコーティング材よりも柔らかい材料が好ましく、例えば、シリコーンゴムやTPE(Thermoplastic Elastomers;熱可塑性エラストマ)等が用いられる。また、緩衝材107は防音対策としても機能するが、この点は後述する。なお、緩衝材107も混練ブレード101の一部と見なして説明が行われる場合がある。
本実施形態では、ドーム状カバー93の外面に、混練ブレード101に並ぶように補完混練ブレード102(例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなる)が固定配置されている。補完混練ブレード102は必須ではないが、パン生地を練り上げる練り工程における混練効率を高めるため、設けておくのが好ましい。
ここで、混練ブレード101の動作について説明する。混練ブレード101は、支軸100と共に支軸100の軸線周りに回転し、図5、図7、図8(a)及び図9(a)に示す折り畳み姿勢と、図8(b)及び図9(b)に示す開き姿勢との2姿勢をとる。折り畳み姿勢の混練ブレード101はドーム状カバー93の内面に設けられたストッパ部93bによって回転を止められ、それ以上ドーム状カバー93に対して反時計方向(上から見た場合を想定)の回動を行うことができない。折り畳み姿勢では、混練ブレード101の先端がドーム状カバー93から少し突き出す。
折り畳み姿勢(図9(a)の状態)から混練ブレード101がドーム状カバー93に対して時計方向(上から見た場合を想定)に回動して図9(b)に示す開き姿勢になると、混練ブレード101の先端はドーム状カバー93から大きく突き出す。開き姿勢における混練ブレード101の開き角度も、ストッパ部93bによって制限される。詳細は後述する第2係合体103b(支軸100に固定される)がストッパ部93bに当って回転できなくなった時点で、混練ブレード101は最大開き角度となる。
混練ブレード101が折り畳み姿勢となっている場合には、例えば図5や図7に示すように補完混練ブレード102は混練ブレード101に整列し、あたかも「く」の字形状の混練ブレード101のサイズが大型化したようになる。
ユニット用シャフト91には、粉砕ブレード92とシールカバー98との間に、カバー用クラッチ103を構成する第1係合体103a(図6参照)が取り付けられる。例えば亜鉛ダイキャスト成型品からなる第1係合体103aには平面形状小判型の開口103aaが形成されており、開口103aaにユニット用シャフト91の下部の小判型断面部が嵌め込まれることにより、第1係合体103aはユニット用シャフト91に対し相対回転不能とされる。第1係合体103aは、粉砕ブレード92よりも先にユニット用シャフト91の下側から取り付けられ、ストッパ部材94によって、粉砕ブレード92と共にユニット用シャフト91からの脱落が防止されている。なお、本実施形態では、第1係合体103aとシールカバー98の間に、第1係合体103aの劣化防止等を考慮してワッシャ104を配置する構成としているが、ワッシャ104は必須ではない。
混練ブレード101が取り付けられる支軸100の下部側には、第1係合体103aと協働してカバー用クラッチ103を構成する第2係合体103bが取り付けられている。例えば亜鉛ダイキャスト成型品からなる第2係合体103bには平面形状小判型の開口103baが形成されており、この開口103baに支軸100の下部側の小判型断面部が嵌め込まれることにより、第2係合体103bは支軸100に対し相対回転不能とされる。なお、本実施形態では、第2係合体103bの上側に、第2係合体103bの劣化防止等を考慮してワッシャ105を配置する構成としているが、ワッシャ105は必須ではない。
第1係合体103aと第2係合体103bとで構成されるカバー用クラッチ103は、ブレード回転軸82の回転動力をドーム状カバー93に伝達するか否かを切り替えるクラッチとして機能する。カバー用クラッチ103は、混練モータ50が原動軸11を回転させるときのブレード回転軸82の回転方向(この回転方向を「正方向回転」とする。図8では反時計方向回転、図9では時計方向回転となる。)において、ブレード回転軸82の回転動力をドーム状カバー93に伝達する。逆に、粉砕モータ60が原動軸11を回転させるときのブレード回転軸82の回転方向(この回転方向を「逆方向回転」とする。図8では時計方向回転、図9では反時計方向回転となる。)においては、カバー用クラッチ103は、ブレード回転軸82の回転動力をドーム状カバー93に伝達しない。以下、カバー用クラッチ103の構造と動作について更に詳細に説明する。
第2係合体103bには、側面の2箇所に係合部が形成されている。その一は第1係合体103aに対する係合部である第1係合部103bbであり、その二はストッパ部93bに対する係合部である第2係合部103bcである。
混練ブレード101が折り畳み姿勢となったとき(例えば図8(a)、図9(a)の状態)、第2係合体103bの第1係合部103bbは第1係合体103aの係合部103ab(本実施形態では2個あるが1個でもよい)の回転軌道に干渉する角度となり、第2係合部103bcはストッパ部93bに係合する(図8(a)参照)。ストッパ部93bは、混練ブレード101が折り畳み姿勢にあるときの角度を決める角度決め手段として機能する。
この状態でブレード回転軸82が正方向に回転すると、第1係合体103aの係合部103abと第2係合体103bの第1係合部103bbが係合する。第2係合体103bには、第1係合部103bbを通じてブレード回転軸82より与えられるトルクにより支軸100まわりのモーメントが生じる。このモーメントはストッパ部93bにより受け止められ、これによりブレード回転軸82の回転動力がドーム状カバー93に伝達される。
第1係合体103aから第2係合体103bに伝達される力は、混練ブレード101を取り付けている支軸100のみならず、第2係合体103bとストッパ部93bの係合を通じて支軸100を保持しているドーム状カバー93によっても受け止められるものであるから、混練ブレード101が折り畳み姿勢に転じて混練態勢に入ったとき、ブレード回転軸82の回転動力は確実に混練ブレード101に伝達される。
他方、混練ブレード101が開き姿勢にある場合(例えば図8(b)、図9(b)の状態)、第2係合体103bの第1係合部103bbは第1係合体103aの係合部103abの回転軌道から退避する角度となる(図8(b)参照)。このために、ブレード回転軸82が回転しても、第1係合体103aと第2係合体103bは係合しない。従って、ブレード回転軸82の回転動力はドーム状カバー93に伝達されない。この時、第2係合体103bの第2係合部103bcはストッパ部93bから離脱している。
図5及び図6に示すように、ドーム状カバー93には、カバー内空間とカバー外空間を連通する窓93dが形成される。窓93dは粉砕ブレード92に並ぶ高さか、それよりも上の位置に配置される。本実施形態では計4個の窓93dが90°間隔で並んでいるが、それ以外の数と配置間隔を選択することもできる。
ドーム状カバー93の内面には、各窓93dに対応して計4個のリブ93eが形成されている(図8参照)。各リブ93eはドーム状カバー93の中心近傍から外周の環状壁まで半径方向に斜めに延び、4個合わさって一種の巴形状を構成する。また、各リブ93eは、それに向かって押し寄せるパン原料に対面する側が凸となるように湾曲している。
ドーム状カバー93の下面にはガード106が着脱可能に取り付けられる。ガード106はドーム状カバー93の下面を覆い、粉砕ブレード92にユーザの指が接近するのを阻止する。ガード106は耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックによって形成され、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の成型品とすることができる。ガード106は設けなくても構わないが、ユーザの安全を確保する目的等から、設けるのが好ましい。
図6に示すように、ガード106の中心には、ユニット用シャフト91に固定されるストッパ部材94を通すリング状のハブ106aがある。ガード106の周縁には、ハブ106aの外側に同心円状に設けられたリング状のリム106bがある。ハブ106aとリム106bとは複数のスポーク106cで連結される。複数のスポーク106cは所定の間隔を置いて配置され、スポーク106c同士の間は、粉砕ブレード92によって粉砕される穀物粒を通す開口部106dとなる。開口部106dは、指が通り抜けられない程度の大きさとなっている。
ガード106のスポーク106cは、ドーム状カバー93に取り付けられた時、粉砕ブレード92と近接状態となる。そして、あたかも、ガード106が回転式電気かみそりの外刃で、粉砕ブレード92が内刃のような形になる。
リム106bの周縁には、90°間隔で計4個(この構成に限定されないのは言うまでもない)の柱106eが一体成形されている。柱106eのガード106中心側を向いた側面には、一端が行き止まりになった水平な溝106eaが形成される。溝106eaと、ドーム状カバー93の外周に形成される突起93f(これも45°間隔で計4個配置されている)とを係合させることによって、ガード106はドーム状カバー93に取り付けられる。なお、詳細な説明は省略するが、溝106eaと突起93fとは、バヨネット結合を構成するように設けられている。複数の柱106eの各々は、ブレード回転軸82が正方向回転する場合に回転方向前面となる側面106ebが斜め上向きとなるように傾斜している。
以上のように、本実施形態の自動製パン器1では、粉砕ブレード92及び混練ブレード101を1つのユニット(ブレードユニット90)に組み込む構成としているので、その取り扱いが便利である。ユーザは、ブレードユニット90をブレード回転軸82から簡単に引き抜くことが可能であり、製パン作業終了後にブレードの洗浄を手軽に行うことができる。また、ブレードユニット90が備える粉砕ブレード92は、ユニット用シャフト91に着脱可能に取り付けられるものであり、その量産が行いやすく、ブレード交換等のメンテナンス性にも優れる。
パン容器80には水等の液体が入れられるので、ベアリング95に液体が入り込まないように、ベアリング95は密閉構造とされるのが好ましい。この点、自動製パン器1では、ベアリング95がドーム状カバー93に設けられる凹状の収容部931に収容されているために、ドーム状カバーの内面側にのみシール手段(シール材97及びシールカバー98)を設ければ、ベアリング95を密閉する構造が得られるから、ベアリング95の上下にシール手段を設ける必要がなく、ベアリング95のシール構造の小型化が図れる。このため、自動製パン器1では、焼き上がったパンの形状に対する悪影響(例えば、パンの底面が大きく凹む等)を抑制することが可能になる。
パン容器120にあっては、ブレード回転軸122の中でパン容器120の内部に突出する部分に、図示しない混練ブレードが相対回転不能且つ抜き差し可能に取り付けられる。この混練ブレードは従来型の自動製パン器で用いられている単純形状のものである。
図10に自動製パン器1のブロック構成を示す。自動製パン器1の制御は制御装置130によって行われる。制御装置130は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/O(input/output)回路部等からなるマイクロコンピュータ(マイコン)によって構成される。制御装置130は、焼成室30の熱の影響を受け難い位置に配置するのが好ましい。制御装置130は時間計測機能を備え、パンの製造工程における時間的な制御が可能となっている。
制御装置130には、上述の操作部20と、焼成室30の温度を検知する温度センサ15と、混練モータ駆動回路131と、粉砕モータ駆動回路132と、ヒータ駆動回路133と、第1のソレノイド駆動回路134と、第2のソレノイド駆動回路135と、が電気的に接続されている。
混練モータ駆動回路131は、制御装置130からの指令の下で混練モータ50の駆動を制御する。粉砕モータ駆動回路132は、制御装置130からの指令の下で粉砕モータ60の駆動を制御する。ヒータ駆動回路133は、制御装置130からの指令の下でシーズヒータ31の動作を制御する。第1のソレノイド駆動回路134は、制御装置130からの指令の下で、パンの製造工程の途中で一部のパン原料を自動投入する際に駆動する自動投入用ソレノイド16の駆動を制御する。第2のソレノイド駆動回路135は、制御装置130からの指令の下でクラッチ56(図3参照)の状態を切り替えるクラッチ用ソレノイド73(図3参照)の駆動を制御する。
制御装置130は、操作部20からの入力信号に基づいてROM等に格納されたパンの製造コース(製パンコース)に係るプログラムを読み出し、混練モータ駆動回路131を介して混練モータ50による混練ブレード101及び補完混練ブレード102の回転の制御、粉砕モータ駆動回路132を介して粉砕モータ60による粉砕ブレード92の回転の制御、ヒータ駆動回路133を介してシーズヒータ31による加熱動作の制御、第1のソレノイド駆動回路134を介して自動投入用ソレノイド16によるロック機構118の動作制御、第2のソレノイド駆動回路135を介してクラッチ用ソレノイド73によるクラッチ56の切替制御を行いながら、自動製パン器1にパンの製造工程を実行させる。
(自動製パン器の動作)
次に、以上のように構成される自動製パン器1で遂行されるパンの製造工程について説明する。ここでは、自動製パン器1によって米粒を出発原料に用いてパンを製造する場合を例に、自動製パン器1の動作を説明する。
米粒が出発原料に用いられる場合には、焼成室30にパン容器30がセットされる。そして図11のタイムチャートに従って米粒用製パンコースが実行される。米粒用製パンコースにおいては、浸漬工程と、粉砕工程と、休止工程と、練り(捏ね)工程と、発酵工程と、焼成工程が、この順番で順次に実行される。
米粒用製パンコースを開始するにあたって、ユーザは、パン容器80のブレード回転軸82にユニット用シャフト91を被せることによって、ブレードユニット90をブレード回転軸82に取り付ける。上述のように、ブレードユニット90がガード106を備える構成であるために、この作業時にユーザの指が粉砕ブレード92に触れることがなく、ユーザは安全に作業を行える。このブレードユニット90の取り付け作業後に、ユーザは、米粒、水、調味料(例えば食塩、砂糖、ショートニング等)をそれぞれ所定量ずつ計量してパン容器80に入れる。
ユーザは、パンの製造途中で自動投入される一部のパン原料を計量してパン原料収納容器110に入れる。パン原料収納容器110に収納されるパン原料としては、例えば、グルテン、ドライイースト等が挙げられる。グルテンの代わりに、小麦粉、増粘剤(グアガム等)及び上新粉のうちの少なくとも1つをパン原料収納容器110に収納するようにしてもよい。また、グルテン、小麦粉、増粘剤、上新粉等は用いずに、例えばドライイーストのみがパン原料収納容器110に収納されるようにしてもよい。更に、場合によっては、食塩、砂糖、ショートニングといった調味料についてもパンの製造工程の途中で自動投入すべく、グルテン、ドライイーストと共に、これらの原料をパン原料収納容器110に収納するようにしてもよい。この場合には、パン容器80に予め投入しておくパン原料は米粒及び水(単なる水の代わりに、例えばだし汁のような味成分を有する液体、果汁やアルコールを含有する液体等でもよい)となる。
この後、ユーザは、パン容器80を焼成室30に入れ、更に、パン原料収納容器110を蓋40にセットする。そしてユーザは蓋40を閉じ、操作部20によって米粒用製パンコースを選択し、スタートキーを押す。これにより、制御装置130は、米粒を出発原料に用いてパンを製造する米粒用製パンコースの制御動作を開始する。
米粒用製パンコースがスタートされると、制御装置130の指令によって浸漬工程が開始される。浸漬工程では、パン容器80に予め投入されたパン原料が静置状態とされ、この静置状態が予め定められた所定時間(本実施形態では30分)維持される。この浸漬工程は、米粒に水を含ませることによって、その後に行われる粉砕工程において、米粒を芯まで粉砕しやすくすることを狙う工程である。
なお、米粒の吸水速度は水の温度によって変動し、水温が高いと吸水速度が高まり、水温が低いと吸水速度が低下する。このために、浸漬工程の時間は、例えば自動製パン器1が使用される環境温度等によって変動させるようにしてもよい。これにより、米粒の吸水度合いのばらつきを抑制することが可能になる。また、浸漬時間を短時間とするために、シーズヒータ31に通電して、焼成室30の温度が高められるようにしてもよい。
また、浸漬工程の初期段階で粉砕ブレード92が回転されるようにしてもよく、更に、その後も、断続的に粉砕ブレード92が回転されるようにしてもよい。このようにすると、米粒の表面に傷をつけることができ、米粒の吸液効率が高められる。
上記所定時間が経過すると、制御装置130の指令によって、浸漬工程が終了され、米粒を粉砕する粉砕工程が開始される。この粉砕工程では、米粒と水とが含まれる混合物の中で粉砕ブレード92が高速回転(例えば7000〜8000rpm)される。この粉砕工程では、制御装置130は、粉砕モータ60を制御してブレード回転軸82を逆方向に回転(図8では時計方向回転、図9では反時計方向回転)させる。ブレード回転軸82の逆方向回転により、粉砕ブレード92の切削刃が回転方向前方となるために、粉砕ブレード92を用いた粉砕機能が得られる。
なお、粉砕モータ60を用いて粉砕ブレード92を回転させる場合、制御装置130は、クラッチ用ソレノイド73を駆動させて、クラッチ56が動力遮断を行うようにする(図3(a)の状態とする)。上述したように、このように制御しないとモータ破損の可能性があるからである。
粉砕ブレード92を回転させるために、ブレード回転軸82が逆方向回転された場合、ドーム状カバー93もブレード回転軸82の回転に追随して回転を開始するが、次のような動作によってドーム状カバー93の回転はすぐに阻止(停止)される。なお、粉砕ブレード92は、粉砕工程の初期段階では低速で回転され、その後、高速回転されるようにするのが好ましい。
粉砕ブレード92を回転させるためのブレード回転軸82の回転に伴うドーム状カバー93の回転方向は、図9において反時計方向であり、混練ブレード101は、それまで折り畳み姿勢(図9(a)に示す姿勢)であった場合には、米粒と水が含まれる混合物から受ける抵抗で開き姿勢(図9(b)に示す姿勢)に転じていく。
混練ブレード101が開き姿勢になると、第2係合体103bの第1係合部103bbが第1係合体103aの係合部103abの回転軌道から退避する。これにより、カバー用クラッチ103は、ブレード回転軸82とドーム状カバー93との連結を切り離す。また、開き姿勢になった混練ブレード101は、図9(b)に示すように、その一部(正確には、先端側に設けられる緩衝材107)がパン容器80の内側壁(詳細には粉砕効率を向上するためにパン容器80の内壁に設けられた畝状の凸部80b)に当接するために、ドーム状カバー93の回転は阻止(停止)される。
なお、粉砕工程においては、粉砕ブレード92の回転中に振動が発生するが、緩衝材107がパン容器80と接触する構成を採用しているために、振動によって生じる衝突音が緩和される。
粉砕工程における米粒の粉砕は、先に行われた浸漬工程によって米粒に水が浸み込んだ状態で実行されるために、米粒を芯まで容易に粉砕することができる。粉砕工程における粉砕ブレード92の回転は本実施形態では間欠回転とされる。この間欠回転は、例えば30秒回転して5分間停止するというサイクルで行われ、このサイクルが10回繰り返される。なお、最後のサイクルでは、5分間の停止は行わない。粉砕ブレード92の回転は連続回転としてもよいが、例えばパン容器80内の原料温度が高くなり過ぎることを防止する等の目的のために、間欠回転とするのが好ましい。
粉砕工程においては、米粒の粉砕が回転停止したドーム状カバー93内で行われるから、米粒がパン容器80の外に飛び散る可能性が低い。また、回転停止状態にあるガード106の開口部106dからドーム状カバー93内に入る米粒は、静止したスポーク106cと回転する粉砕ブレード92との間でせん断されるので、効率良く粉砕が行える。また、ドーム状カバー93に設けられるリブ93eによって、米粒と水とが含まれる混合物の流動(粉砕ブレード92の回転と同方向の流動である)が抑制されるので、効率良く粉砕できる。
粉砕された米粒と水とを含む混合物は、ドーム状カバー93のリブ93eによって窓93dの方向に誘導されて、窓93dからドーム状カバー93の外に排出される。ドーム状カバー93のリブ93eは、それに向かって押し寄せる混合物に対向する側が凸となるように湾曲しているので、混合物はリブ93eの表面に滞留しにくく、スムーズに窓93dの方へ流れていく。ドーム状カバー93内部から混合物が排出されるのと入れ替わりに、凹部81の上の空間に存在していた混合物が凹部81に入り、凹部81からガード106の開口部106dを通ってドーム状カバー93内に入る。このような循環をさせつつ粉砕ブレード92による粉砕を行うので、効率良く粉砕できる。
なお、自動製パン器1においては所定の時間(本実施形態では50分)で粉砕工程が終了するようにしている。しかしながら、米粒の硬さのばらつきや環境条件によって粉砕粉の粒度にばらつきが生じることがある。このため、粉砕工程の終了が、例えば粉砕モータ60の負荷の大きさ(例えば、モータの制御電流等で判断できる)を指標に判断される構成としても構わない。
粉砕工程が終了すると、制御装置130の指令によって休止工程が実行される。休止工程は、粉砕工程によって上昇したパン容器80内の内容物の温度を下げる冷却期間として設けられている。温度を下げるのは、次に行われる練り工程が、イーストが活発に働く温度(例えば30℃前後)で実行されるようにするためである。本実施形態では、休止工程は所定時間(30分)に固定されているが、パン容器80の温度等が所定の温度となるまで休止工程が継続する構成であってもよい。
休止工程が終了すると、制御装置130の指令によって練り工程が開始される。練り工程の開始にあたって、制御装置130はクラッチ用ソレノイド73を駆動して、クラッチ56が動力伝達を行うようにする(図3(b)の状態)。そして制御装置130は混練モータ50を制御してブレード回転軸82を正方向に回転(図8では反時計方向回転、図9では時計方向回転)させる。
ブレード回転軸82を正方向に回転させると、粉砕ブレード92も正方向に回転する。この場合、粉砕ブレード92は、切削刃が回転方向後方となって回転し、粉砕機能を発揮しない。粉砕ブレード92の回転により、粉砕ブレード92の周囲のパン原料が正方向に流動する。それにつられてドーム状カバー93が正方向(図9では時計方向)に動くと、混練ブレード101は流動していないパン原料から抵抗を受けて、開き姿勢(図9(b)参照)から折り畳み姿勢(図9(a)参照)へと角度を変えて行く。これにより、第2係合体103bの係合部103bbが第1係合体103aの係合部103abの回転軌道に干渉する角度となる。そして、カバー用クラッチ103がブレード回転軸82とドーム状カバー93とを連結し、ドーム状カバー93はブレード回転軸82によって本格的に駆動される態勢に入る。ドーム状カバー93と折り畳み姿勢になった混練ブレード101とは、ブレード回転軸82とともに正方向回転する。
なお、以上に説明したカバー用クラッチ103の連結を確実に行うために、練り工程初期におけるブレード回転軸82の回転は、間欠回転或いは低速回転とするのが好ましい。
上述のように混練ブレード101が折り畳み姿勢になると、混練ブレード101の延長上に補完混練ブレード102が並ぶために、混練ブレード101があたかも大型化したかのようになって、パン原料は力強く押される。このため、生地の練り上げをしっかり行える。
混練ブレード101(この用語は、折り畳み姿勢においては、補完混練ブレード102を含む表現として用いる。以下同様。)の回転は、練り工程の初期においては非常にゆっくりとされ、段階的に速度が速められるように制御装置130によって制御される。混練ブレード101の回転が非常にゆっくりである練り工程の初期段階において、制御装置130は自動投入用ソレノイド16を駆動させて、パン原料収納容器110の容器蓋のロックを解除する。これにより、図1に示すようにパン原料収納容器110の容器蓋が開き、
グルテン、ドライイーストといったパン原料がパン容器80内に自動投入される。
本実施形態では、パン原料収納容器110に収納されるパン原料を、混練ブレード101が回転している状態で投入することにしているが、これに限定されず、混練ブレード101が停止している状態で投入してもよい。ただし、本実施形態のように、混練ブレード101が回転している状態でパン原料を投入するようにした方が、パン原料を均一に分散することができるので好ましい。
パン原料収納容器110に収納されたパン原料がパン容器80に投入された後は、混練ブレード101の回転によって、パン原料は所定の弾力を有する一つにつながった生地(dough)に練り上げられていく。混練ブレード101が生地を振り回してパン容器80の内壁にたたきつけることにより、混練に「捏ね」の要素が加わることになる。混練ブレード101の回転と共にドーム状カバー93も回転する。ドーム状カバー93が回転すると、ドーム状カバー93に形成されるリブ93eも回転するために、ドーム状カバー93内のパン原料は速やかに窓93dから排出され、混練ブレード101が混練しているパン原料の塊(生地)に同化する。
練り工程においては、ドーム状カバー93と共にガード106も正方向に回転する。ガード106のスポーク106cは、正方向回転時、ガード106の中心側が先行しガード106の外周側が後続する形状とされている。このために、ガード106は、正方向に回転することにより、ドーム状カバー93内外のパン原料(パン生地)をスポーク106cで外側に押しやる。これにより、パンを焼き上げた後に廃棄分となる原料の割合を減らすことができる。
また、ガード106の柱106eは、ガード106が正方向に回転するときに回転方向前面となる側面106ebが、上向きに傾斜する構成となっている。このために、混練時、ドーム状カバー93の周囲のパン原料(パン生地)が柱106eの側面106ebで上方に跳ね上げられる。跳ね上げられたパン原料は、上方のパン原料の塊(生地)に同化するために、パンを焼き上げた後に廃棄分となる原料の割合を減らすことができる。
自動製パン器1においては、練り工程の時間は、所望の弾力を有するパン生地が得られる時間として実験的に求められた所定の時間(本実施形態では10分)を採用する構成としている。ただし、練り工程の時間を一定とすると、環境温度等によってパン生地の出来上がり具合が変動する場合がある。そこで、例えば、混練モータ50の負荷の大きさ(モータの制御電流等で判断できる)を指標に、練り工程の終了時点が判断される構成としても構わない。
具材(例えばレーズン、ナッツ、チーズ等)入りのパンを焼く場合には、練り工程の途中で投入するようにすればよい。
練り工程が終了すると、制御装置130の指令によって発酵工程が開始される。この発酵工程では、制御装置130はシーズヒータ31を制御して、焼成室30の温度を、発酵が進む温度(例えば38℃)に維持する。そして、発酵が進む環境下で所定の時間(本実施形態では60分)放置される。
場合によっては、発酵工程の途中で、混練ブレード101を回転してガス抜きや生地を丸める処理を行うようにしても構わない。
発酵工程が終了すると、制御装置130の指令によって焼成工程が開始される。制御装置130はシーズヒータ31を制御して、焼成室30の温度を、パン焼きを行うのに適した温度(例えば125℃)まで上昇させる。そして、制御装置130は、焼成環境下で所定の時間(本実施形態では50分)パンを焼くように制御する。焼成工程の終了については、例えば操作部20の液晶表示パネルにおける表示や報知音等によってユーザに知らされる。ユーザは、製パン完了を検知すると、蓋40を開けてパン容器80を取り出して、パンの製造を完了させる。
パン容器80内のパンはパン容器80の開口を斜め下に向けることで取り出すことができる。パンの取り出しと同時に、ブレード回転軸82に取り付けられたブレードユニット90もパン容器80から取り出される。ガード106の存在により、パンの取り出し作業時にユーザは粉砕ブレード92に触れることがなく、ユーザは安全に作業を行える。パンの底には、ブレードユニット90の混練ブレード101及び補完混練ブレード102(パン容器80の凹部81から上側に突き出ている)の焼き跡が残る。しかしながら、ドーム状カバー93とガード106が凹部81の中に収容される構成であるために、それらがパンの底に残す跡は控えめなものとなる。
米粒のような穀物粒を出発原料とするのでなく、市販の小麦粉や米粉のような穀物粉を出発原料としてパンを製造する場合は、焼成室30にパン容器120がセットされる。ブレード回転軸122に図示しない混練ブレードが取り付けられ、穀物粉と水、及びその他のパン原料がパン容器120に入れられ、パンの製造工程として、練り(捏ね)工程、発酵工程、及び焼成工程が順次実行される。
(自動製パン器の収納)
製パン作業を終え、自動製パン器1を収納場所に収納するときは、パン容器120をパン容器80の中に納めてしまう。この時、パン容器80とパン容器120の間に2種類の緩衝材を介在させる。
第1の緩衝材は、パン容器80の内底面に置かれ、パン容器120の外底面、すなわち台座123を受ける緩衝材124である。緩衝材124は発泡スチロールからなる円筒形のブロックであって、パン容器80の凹部81の中に挿入される。緩衝材124はパン容器80とパン容器120を高さ方向において所定間隔に保ち、両者間に接触が生じないようにする。
緩衝材124の中心にはブレード回転軸82を通す貫通孔124aが形成されている。緩衝材124の天面にはパン容器120の台座123を受ける凹凸係合部124bが形成されている。凹凸係合部124bは、本実施形態では、台座123の中にはまり込む平面形状円形の隆起部の形をしているが、それ以外の形状も可能である。例えば台座123がその中にはまり込む凹部とすることができる。
第2の緩衝材は、パン容器80の内周面に沿って置かれる緩衝材125である。緩衝材125は段ボール紙を所定形状に打ち抜いて折り曲げたものであって、パン容器80の水平断面と相似形状のベース部125aの四辺より垂直壁部125bが立ち上がる形状となっている。4個の垂直壁部125bはパン容器120の外周面を四方から包む。各垂直壁部125bの上端は外側に向けて折り曲げられ、フック部125cを構成している。フック部125cの先端はパン容器80の鍔部80aの上に載置され、これにより緩衝材125はパン容器80に対し所定の高さを保つ。ベース部125aにはパン容器120の台座123を通す貫通孔125dが形成されている。
上記のように、パン容器80の中にパン容器120を納めてしまうことにより、2種類のパン容器を共に焼成室30に収容することができる。これにより、自動製パン器1の本体部の体積以上の保管スペースは必要でなくなり、自動製パン器1をコンパクトに保管できる。また、緩衝材124と緩衝材125を置くことにより、パン容器80とパン容器120が直接接触して傷がつくことを防ぐことができる。緩衝材124にはパン容器120の台座123を受ける凹凸係合部124bが形成されているので、台座123の位置が安定し、台座123が水平方向に振れてパン容器80の側に衝突したりすることがない。
緩衝材の材料は特に限定されるものではないが、例えば緩衝材124の材料として発泡スチロールを用い、緩衝材125の材料として段ボール紙を用いることとすれば、極めて安価に製作することができる。
(その他)
本実施形態は本発明の一例であり、本発明が適用されるパン生地製造機の構成は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態ではパン原料収納容器110が蓋40に取り付けられていたが、パン原料収納容器110が本体10に取り付けられる構成であってもよい。
また、小麦粉や米粉を出発原料に用いてパンを製造する場合には、パン原料収納容器110はレーズンやナッツ等の具材入りパンを製造する場合の具材を入れるために用いることも可能である。
また、本実施形態では出発原料として用いられる穀物粒の代表例として米粒を例示したが、小麦、大麦、粟、稗、蕎麦、とうもろこし、大豆などといった、米粒以外の穀物粒を出発原料とすることもできる。
また、上述した米粒用製パンコースの製造フローは例示であり、それ以外の製造フローも可能である。一例を挙げるならば、粉砕工程後の休止工程は省いてもよい。
また本実施形態では、粉砕ブレード92及び混練ブレード101がブレードユニット90に含まれ、ブレードユニット90がブレード回転軸82に着脱される構成とした。しかし、この構成に限らず、粉砕ブレード92及び混練ブレード101は、別々にブレード回転軸82に取り付けられる構成であっても構わない。場合によっては、粉砕ブレードと混練ブレードとを別々とせず、粉砕機能と混練機能とを発揮する1つのブレードのみを備える構成等としても構わない。
また、本実施形態では、粉砕ブレード92によって穀物粒が粉砕される場合と、混練ブレード101によってパン生地が練り上げられる場合とで、別々のモータが使用される構成とした。しかし、本発明のパン生地製造機は、この構成に限定される趣旨ではない。すなわち、例えば1つのモータのみが備えられる構成とし、粉砕ブレード92によって穀物粒を粉砕するときも、混練ブレード101によってパン生地を練り上げるときも、同じモータを動力源とする構成であっても構わない。
また、本実施形態として、粉砕工程から始まり、練り工程、発酵工程、焼成工程までを一貫して行う自動製パン器を提示したが、粉砕工程から発酵工程までを、あるいは粉砕工程と練り工程のみを遂行する装置として構成することも可能である。この場合、焼成工程、あるいは発酵工程と焼成工程は外部の機器、例えばオーブン、に委ねることになる。また、家庭用でなく業務用の機器として装置を発展させることもできる。