以下で説明する実施形態は、インクジェット記録装置を例にしているが、本発明は、インクジェット記録装置に限られるものではない。ドットを記録するための記録手段と記録媒体との相対移動中に、記録手段によって記録媒体に画像を記録する方式の装置であれば、インクジェット記録装置以外の装置でも適用可能である。
また、記録手段と記録媒体との「相対移動(或は相対走査)」とは、記録媒体に対して記録手段が相対的に移動(走査)する動作、或は、記録手段に対して記録媒体が相対的に移動(搬送)する動作を指す。なお、記録手段とは、1つ以上の記録素子群(ノズル列)或は1つ以上の記録ヘッドを指す。
以下で説明する画像処理装置では、記録媒体の同一領域(所定領域)に対する記録手段の複数回の相対移動或は複数の記録素子群の相対移動によって上記同一領域に画像を記録するためのデータ処理を行う。ここで、「同一領域(所定領域)」とは、ミクロ的には「1つの画素領域」を指し、マクロ的には「1回の相対移動で記録可能な領域」を指す。「画素領域(単に「画素」と呼ぶ場合もある)」とは、多値画像データによって階調表現可能な最小単位の領域を指す。一方、「1回の相対移動で記録可能な領域」とは、1回の相対移動中に記録手段が通過する記録媒体上の領域、或はこの領域よりも小なる領域(例えば、1ラスター領域)を指す。例えば、図7に示されるようなマルチパスモードを実行する場合、マクロ的には図中の1つの記録領域を同一領域と定義することも可能である。
<記録装置の概要説明>
図1(A)は、本発明の画像処理として機能するフォトダイレクトプリンタ装置(以下、PDプリンタ)1000の概観斜視図である。PDプリンタ1000は、ホストコンピュータ(PC)からデータを受信して印刷する機能、メモリカード等の記憶媒体に記憶されている画像を直接読取って印刷する機能、またデジタルカメラやPDA等からの画像を受信して印刷する機能を有している。
図において、1004は記録済みの用紙を積載可能な排出トレイであり、1003は、本体内部に収納されている記録ヘッドカートリッジ或いはインクタンク等の交換を行う際に、ユーザが開閉することが可能なアクセスカバーである。上ケース1002に設けられた操作パネル1010には、印刷に関する条件(例えば、記録媒体の種類、画像品位等)を各種設定するためのメニュー項目が表示され、ユーザは出力する画像の種類や用途に応じてこれら項目を設定することが出来る。いずれの供給源から入力される画像データであっても、ユーザは操作パネル1010を使用して、印刷の際に用いる記録媒体の種類や、例えば、「はやい」、「標準」、「きれい」のような記録品位を設定することが出来る。そして、この設定によってプリンタエンジン3004が実行する記録モードが設定される。但し、このような記録モードの設定は、ユーザが操作パネルを介して必ずしも行うものでなくてもよい。例えば、ユーザはPC3010上のプリンタドライバから設定する形態であってもよいし、制御部3000が、デジタルカメラ3012やPCカード3011の画像を検索することによって自動に設定する形態であってもよい。
1007は記録媒体を装置本体内へと自動的に給送する自動給送部、1009はメモリカードを装着可能なアダプタが挿入されるカードスロット、1012はデジタルカメラを接続するためのUSB端子である。PD装置1000の後面には、PCを接続するためのUSBコネクタが設けられている。
<制御部電気仕様概要>
図2は本発明の実施の形態に係るPDプリンタ1000の制御に係る主要部の構成を示すブロック図である。図において、3000は制御部(制御基板)を示し、3001は画像処理ASIC(専用カスタムLSI)を示している。3002はDSP(デジタル信号処理プロセッサ)で、内部にCPUを有し、後述する各種制御処理及び、各種画像処理等を担当している。3003はメモリで、DSP3002のCPUの制御プログラムを記憶するプログラムメモリ3003a、及び実行時のプログラムを記憶するRAMエリア、画像データなどを記憶するワークメモリとして機能するメモリエリアを有している。3004はプリンタエンジンで、ここでは、複数色のカラーインクを用いてカラー画像を印刷するインクジェットプリンタのプリンタエンジンが搭載されている。3005はデジタルカメラ(DSC)3012を接続するためのポートとしてのUSBコネクタである。3006はビューワ1011を接続するためのコネクタである。3008はUSBハブ(USB HUB)で、PDプリンタ1000がPC3010からの画像データに基づいて印刷を行う際には、PC3010からのデータをそのままスルーし、USB3021を介してプリンタエンジン3004に出力する。これにより、接続されているPC3010は、プリンタエンジン3004と直接、データや信号のやり取りを行って印刷を実行することができる(一般的なPCプリンタとして機能する)。3009は電源コネクタで、電源3019により、商用ACから変換された直流電圧を入力している。PC3010は一般的なパーソナルコンピュータ、3011は前述したメモリカード(PCカード)、3012はデジタルカメラ(DSC)である。なお、この制御部3000とプリンタエンジン3004との間の信号のやり取りは、前述したUSB3021又はIEEE1284バス3022を介して行われる。
<記録部の概要>
図1(B)は、本発明の実施の形態に係るシリアル型のインクジェット記録装置のプリンタエンジン部の記録部の概要を示す斜視図である。記録媒体Pは、自動給送部1007によって搬送経路上に配置された搬送ローラ5001とこれに従動するピンチローラ5002とのニップ部に給送される。その後、記録媒体Pは、搬送ローラ5001の回転によって、プラテン5003上に案内、支持されながら図中矢印A方向(副走査方向)に搬送される。ピンチローラ5002は、不図示のバネ等の押圧手段により、搬送ローラ5001に対して弾性的に付勢されている。これら搬送ローラ5001及びピンチローラ5002が記録媒体搬送方向の上流側にある第1搬送手段の構成要素をなす。
プラテン5003は、インクジェット形態の記録ヘッド5004の吐出口が形成された面(吐出面)と対向する記録位置に設けられ、記録媒体Pの裏面を支持することで、記録媒体Pの表面と吐出面との距離を一定の距離に維持する。プラテン5003上に搬送されて記録が行われた記録媒体Pは、回転する排出ローラ5005とこれに従動する回転体である拍車5006との間に挟まれてA方向に搬送され、プラテン5003から排紙トレイ1004に排出される。排出ローラ5005及び拍車5006が記録媒体搬送方向の下流側にある第2搬送手段の構成要素をなす。
記録ヘッド5004は、その吐出口面をプラテン5003ないし記録媒体Pに対向させた姿勢で、キャリッジ5008に着脱可能に搭載されている。キャリッジ5008は、キャリッジモータE0001の駆動力により2本のガイドレール5009及び5010に沿って往復移動され、その移動の過程で記録ヘッド5004は記録信号に応じたインク吐出動作を実行する。キャリッジ5008が移動する方向は、記録媒体が搬送される方向(矢印A方向)と交差する方向であり、主走査方向と呼ばれる。これに対し、記録媒体搬送方向は副走査方向と呼ばれている。キャリッジ5008及び記録ヘッド5004の主走査(記録を伴う移動)と、記録媒体の搬送(副走査)とを交互に繰り返すことにより、記録媒体Pに対する記録が行われる。
図15は、記録ヘッド5004を吐出口形成面から観察した場合の概略図である。図中、51および52は第1および第2シアンノズル列(記録素子群)であり、52および57は第1および第2マゼンタノズル列である。53および56は第1および第2イエローノズル列であり、54および55は第1および第2ブラックノズル列である。各ノズル列の副走査方向における幅はdであり、1回の走査によってdの幅の記録が可能となっている。本実施形態の記録ヘッド5004は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)の各色について、略等量のインクを吐出し略同じ大きさのドットを記録する2本ずつのノズル列を備え、その両方のノズル列を用いて記録媒体に記録を行う。これによって、個々のノズルのばらつきに起因する濃度むらやすじを、約1/2に低減することが出来る。
更に、本実施形態の記録装置はマルチパス記録を実行するので、記録ヘッド5004が1回の記録走査で記録可能な領域に対して、複数回の記録走査によって段階的に画像が形成される。この時、各記録走査の間に記録ヘッド5004の幅dよりも小さな量の搬送動作を行うことにより、個々のノズルのばらつきに起因する濃度むらやすじを更に低減することが出来る。図7は、2パス記録の様子を模式的に示した図であり、4つの同一領域に相当する第1記録領域から第4記録領域に対して記録する場合の記録ヘッド5004と記録領域との相対的な位置関係を示している。マルチパス記録を行うか否か、或はマルチパス数(同一領域に対し記録走査を行う回数)は、操作パネル1010からユーザが入力した情報やホスト装置から受信される画像情報によって定められる。
<ドット重複率の制御と濃度むら及び粒状感や濃度不足の関係>
背景技術の項で述べたように、異なる走査や異なる記録素子群で記録されるドット同士がずれて重なると、画像の濃度変動が生じ、これが濃度むらとして知覚される。そこで本発明では、同じ位置(同じ画素や同じサブ画素)に重複して記録すべきドットを予め幾つか用意し、記録位置ずれが生じた際に、隣り合うドットが互いに重なり合い白紙領域を増加させる一方、重複したドットが互いに離れ白紙領域を減少させるようにする。これにより、記録位置ずれによる白紙領域の増と減、即ち濃度の増と減が相殺し合い、画像全体としての濃度変化を抑制することが期待できる。但し、図10(B)や(C)でも説明したように、重複したドットを予め用意することは、粒状感を悪化させることにも繋がる。また、あまり多くのドットを重複させてしまうと、例えばドットが小さくなりがちな普通紙では、記録媒体に対するドットの被覆率が不十分になり、濃度不足が招致されることもある。つまり、予め用意する重複ドット数の調整において、上述した濃度むらと粒状感や濃度不足とはトレードオフの関係にあると言える。
しかしながら、既に説明したように、上記濃度変化についても粒状感や濃度不足についても、ある程度の許容範囲は存在し、この許容範囲は記録媒体やユーザが指定する記録品位などによって、変動する。よって、本発明では、ドットの重複率を制御可能な構成を用意しながらも、記録媒体の種類などによって決まる記録モードに応じて、このドット重複率を積極的に調整し、全記録モードで濃度むらと粒状感や濃度不足のバランスを保つようにする。
ここで「ドット重複率」について説明する。「ドット重複率」とは、図4や図15に示す様に、K(Kは1以上の整数)個の画素で構成される単位領域に記録されるべき総ドット数の内、異なる走査或は異なる記録素子群によって同じ画素に重複して記録されるべきドット(重複ドット)数の割合である。なお、同じ画素とは、図4の場合には同じ画素位置を指し、図15の場合にはサブ画素位置を指す。
以下、図4を用いて4画素(主走査方向)×3画素(副走査方向)で構成される単位領域に対応した第1プレーンと第2プレーンのドット重複率について説明する。なお「第1プレ−ン」とは第1走査或は第1ノズル群に対応した2値データの集合を表し、「第2プレ−ン」とは第2走査或は第2ノズル群に対応した2値データの集合を表す。また、「1」はドットの記録を示すデータを表し「0」はドットの非記録を示すデータを表す。
図4(A)〜(E)では、第1プレーンの「1」の個数が“4”で、第2プレ−ンの「1」の個数も“4”であるため、4画素×3画素で構成される単位領域に記録されるべき総ドット数は“8”となる。一方、同じ画素位置に対応する、第1プレーンと第2プレーンの「1」の個数が、同じ画素に重ねて記録されるべきドット(重なりドット)の数となる。この定義によれば、重なりドット数は、図4(A)の場合に“0”、図4(B)の場合には“2”、図4(C)の場合には“4”、図4(D)の場合には“6”、図4(E)の場合には“8”となる。従って、図4(H)に示すように、図4(A)〜(E)のドット重複率は、夫々、0%、25%、50%、75%、100%となる。さらに、図4(F)は、第1プレーンの記録ドット数“4”で、第2プレ−ンの記録ドット数が“3”で、総ドット数が“7”で、重なりドット数が“6”で、ドット重複率が86%の場合を示している。また、図4(G)は、第1プレーンの記録ドット数“4”で、第2プレ−ンの記録ドット数が“2”で、総ドット数が“6”で、重なりドット数が“2”で、ドット重複率が33%の場合を示している。
このように本明細書における「ドット重複率」は、異なる走査或は異なる記録素子群に対応したドットデータを仮想的に重ねた場合のドットデータの重複率である。
表1は、本発明の実施形態で用意する複数の記録モードとそのマルチパス数およびドット重複率を説明するための一覧表である。ここでは、簡単のため、記録媒体の種類としてインクジェット専用紙と普通紙の2つ、記録品位として「はやい」、「標準」、「きれい」の3つが用意されているものとする。実際の記録装置では、更に多種類の記録媒体と更に多くの記録モードが用意されるのが一般である。このような記録媒体や記録品位の指定は、既に説明したように、ユーザが操作パネル1010を用いて設定してもよいし、PC 3010 内のプリンタドライバによって行ってもよいし、また制御部3000が自動で判断する形態であってもよい。
表1において、インクジェット専用紙については、「標準」と「きれい」の2種類の記録モードが用意されている。「標準」モードでは、2パスのマルチパス記録が実行され、「きれい」モードでは16パスのマルチパス記録が実行される。
図12(A)〜(C)は、一般的なマルチパス記録を行った際に、ある1回の記録走査でプレーン間の位置ずれが起きた場合に、マルチパス数あるいは記録媒体の種類に応じて、濃度変化(明度変化)がどの程度発生するかを比較するための図である。ここで言う一般的なマルチパス記録とは、図5で示したような互いに補完関係にあるマスクパターンを用いて行うマルチパス記録のことを指し、各記録走査で記録されるドットはプレーン間のずれが発生しない限り互いに重複して記録されにくい。従って、1つのプレーンの記録位置ずれが発生すると、隣接するドット同士の重複箇所が発生し、記録位置ずれが発生しなかった場合に比べて被覆率すなわち濃度が低下する。
図12(A)〜(C)において、横軸は記録媒体上における副走査方向の記録位置を示し、縦軸は横軸で示す領域に一様な画像が記録された場合の明度変化量(ΔL*)を示す。この場合、明度とは濃度と同様に光学的に測定できる物理量であり、濃度とは相反する関係にある。従って、図において、他の領域に比べて明度が高い領域(例えば図12(A)のd1で示した領域)は、他の領域に比べて濃度が低いことを示している。
図12(A)は、インクジェット専用紙に対し2パス記録を行った際に記録位置ずれが発生した場合の明度変化を示している。2パスのマルチパス記録の場合、各記録走査の度に記録ヘッド5004の記録幅の1/2に対応する距離の搬送動作が行われるので、記録幅の1/2に対応する幅を有する単位領域は2回の異なる記録走査でドットが記録される。よって、1回の搬送動作で突発的な搬送誤差が発生すると、この1回の搬送動作を挟んで2回の記録走査が行われる1つの単位領域で記録位置ずれの影響が現れる。すなわち、1回の記録走査で記録されるドットが、もう1回の記録走査で記録されるドットと重複する箇所が増え、被覆率が下がり濃度が低下(明度が上昇)する。図12(A)では、このような記録位置ずれの影響が及ぶ領域の幅をd1として示し、この幅は単位領域すなわち記録幅の1/2に等しい。
これに対し図12(B)は、インクジェット専用紙に対し16パス記録を行った場合に記録位置ずれが発生した際の明度変化を示している。16パスのマルチパス記録の場合、各記録走査の度に記録ヘッド5004の記録幅の1/16に対応する距離の搬送動作が行われるので、記録幅の1/16に対応する幅を有する単位領域は16回の異なる記録走査でドットが記録される。そして、1回の搬送動作で突発的な搬送誤差が発生すると、この1回の搬送動作を含んで16回の記録走査が行われる15個の単位領域で記録位置ずれの影響が現れる。
この際、個々の単位領域では、搬送誤差が発生する前のm回の記録走査で記録されるドット群が、搬送誤差が発生した後の(16−m)回の記録走査で記録されるドット群とずれることにより、被覆率が下がり濃度が低下(明度が上昇)する。最も被覆率が低下するのは、約半数ずつのドット群が互いにずれるm=8の単位領域であるので、この単位領域での濃度低下(明度上昇)が最も大きくなる。そして、この単位領域(m=8)を中心に、この単位領域から離れるほど、濃度低下(明度上昇)は徐々に緩和されていく。このように、16パスのマルチパス記録では、m=1〜15までの15の単位領域が連続する領域で、記録位置ずれの影響が段階的に現れる。
図12(B)では、このような記録位置ずれの影響が及ぶ領域の幅をd2として示し、m=8の単位領域での明度上昇すなわち明度上昇の最大値をΔL*で示している。記録位置ずれの影響が及ぶ領域の幅d2は、単位領域(d3)すなわち記録幅の1/16の15倍となり、2パスのマルチパス記録の場合の幅d1に比べて大きい(15/16>1/2)。一方、明度上昇の最大値ΔL*値は、図12(A)で示した2パスマルチパス記録の場合の明度上昇の最大値と同値であるが、この値ΔL*を示す領域の幅は小さい(1/16<1/2)。
すなわち、同じインクジェット専用紙であっても、16パスのマルチパス記録は2パスのマルチパス記録に比べて、搬送方向に対する濃度変化が緩やかで且つ広い領域に渡っているので、記録位置ずれによる濃度むらは目立ち難い傾向にある。一方、記録品位が「きれい」に設定された場合に実行される、この16パスのマルチパス記録では、すでに説明した粒状感が重要視される。従って、本例のインクジェット専用紙に対する2つの記録モードを「第1の記録モード」と「第2の記録モード」とすると、「標準」が設定された第1の記録モードでは粒状感低減よりも濃度むら低減を優先し、上述したドット重複率を比較的高く設定する。これに対し、「きれい」が設定された第2の記録モードでは、濃度むら低減よりも粒状感抑制を優先し、ドット重複率を比較的低く設定する。
再度、表1を参照する。本例の普通紙では、「はやい」、「標準」および「きれい」の3種類の記録モードが用意されている。「はやい」モードと「標準」モードでは、1パス記録が実行され、「きれい」モードでは2パスのマルチパス記録が実行される。ここで、「はやい」と「標準」の1パスモードではキャリッジ5008の走査速度とこれに伴う記録ヘッドの吐出周波数等を異ならせている。「標準」モードでは、キャリッジの走査速度や記録ヘッドの吐出周波数を、上述したインクジェット専用紙の各記録モードと同等の標準値に設定している。一方、「はやい」モードでは、キャリッジの走査速度を標準よりも大きく設定し、これに伴って記録ヘッドの吐出周波数を標準よりも高く設定、あるいは標準の吐出周波数で記録データを間引いて記録するよう設定している。これら1パスモードでは、単位領域に記録すべきドットを複数の記録走査に分割して記録することは無いので、ドット重複率の制御を行うことは出来ず、ドット重複率は常に0%となる。
一方、普通紙の「きれい」モードではインクジェット専用紙の「標準」モードと同じ2パスのマルチパス記録が設定されている。但し、同じ2パスのマルチパス記録で同等の記録位置ずれが発生した場合であっても、一般に、普通紙とインクジェット専用紙では、濃度低下の程度すなわち濃度むらの目立ち方が異なる。
図12(C)は、普通紙に対し2パス記録を行った際に記録位置ずれが発生した場合の明度変化を、インクジェット専用紙の場合で説明した同図(A)と比較して説明するための図である。普通紙であっても2パス記録であるので、記録位置ずれの影響が及ぶ領域の幅d1は、同図(A)と同様に記録幅の1/2に相当する。但し、普通紙の場合は、インクジェット専用紙に比べて、インクが記録媒体の表面に留まりにくいので、形成されたドットそのものの濃度が低く、記録位置ずれによる被覆率や濃度への影響も少ない。よって、図12(A)で示したインクジェット専用紙の場合に比べて、明度上昇の程度は低くなっている(ΔL´*<ΔL*)。
さらに、普通紙では、形成されたドットそのものが小さかったり濃度が低かったりするため、ドット重複率を必要以上に高く設定してしまうと、ドット被覆率の低下が高濃度領域での濃度不足を招く恐れがある。
よって、インクジェット専用紙に対する「標準」モードを第1の記録モード、普通紙に対する「きれい」モードを第2の記録モードとすると、第2の記録モードは濃度むら低減よりも濃度不足の抑制を優先し、ドット重複率を第1の記録モードよりも低く設定する。
なお、表1を用いた説明では、インクジェット専用紙の「きれい」モードと普通紙の「きれい」モードのいずれについても、インクジェット専用紙の「標準」モードに比べてドット重複率を低く設定する内容で説明した。この場合、インクジェット専用紙の「きれい」モードと普通紙の「きれい」モードのドット重複率は等しい値であってもよいが、異なる値に設定されていても構わない。記録位置ずれによる濃度むら、粒状感、高濃度領域の濃度不足のそれぞれの程度に応じて、適切なドット重複率がそれぞれの記録モードで適正に設定されれば、本発明の効果を発揮することは出来る。
以下、上述したような記録モードごとにドット重複率を制御するための具体的な画像処理方法について、複数の実施形態を例に説明する。
(第1の実施形態)
図3は、図7で示したように2回の記録走査によって記録媒体の同一領域の画像を完成させるマルチパス記録を行う場合の画像処理を説明するためのブロック図である。多値画像データ入力部(61)、色変換/画像データ分割部(62)、階調補正処理部(63−1、63−2)及び量子化処理部(65−1、65−2)は制御部3000に備えられている。一方、2値データ分割処理部(67−1、67−2)はプリンタエンジン3004に備えられている。
外部機器から、多値画像データ入力部61によってRGBの多値の画像データ(256値)が入力されると、この入力画像データ(原画像)は、画素毎に、色変換/画像データ分割部62に入力される。そして、各インク色(CMYK)に対応した第1記録走査用と第2記録走査用の2組の多値画像データ(多値濃度データ)が生成される。具体的には、色変換/画像データ分割部62には、RGB値と、第1走査用のCMYK値及び第2走査用のCMYK値と、が一対一で対応付けられた3次元のルックアップテーブル(LUT)が記録モードごとに予め設けられている。そして、このLUTを用いることにより、RGBデータから、第1走査用の多値濃度データと第2走査用の多値濃度データが一括して生成される。この際、テーブル格子点値から外れる入力値に対しては、その周囲のテーブル格子点の出力値から補間によって出力値を算出してもよい。このような色変換/画像データ分割部62は、RGBデータをCMYKデータに色変換する変換処理と、多値の画像データを複数のプレーンに分割する分割処理の2つの処理を担っている。
このように色変換/画像データ分割部62は、画素に対応する入力画像データに基づいて、第1走査用の多値データ(CMYK)と第2走査用の多値データ(CMYK)を生成するデータ生成部の役割を担う。本実施形態では、この色変換/画像データ分割部で実行するデータ変換に特徴を持たせることによって、記録モードごとにドット重複率の制御を実現する。詳しい制御方法については後述する。
生成された第1走査用多値データと第2走査用多値データは、夫々、色毎に、階調補正処理部63−1及び63−2にて階調補正処理が施される。ここでは、多値データの信号値と記録媒体上で表現される濃度値との関係が線形となるように、多値データの信号値変換が行われる。その結果、第1走査用の多値データ64−1(C1,M1,Y1,K1)と第2走査用の多値データ64−2(C2,M2,Y2,K2)が得られる。以下の処理は、CMYKについて同様に行われるので、以後の説明はKのみについて行う。
量子化処理部65−1では、第1走査用の多値データ64−1(K1)に対し量子化処理としての2値化処理が行われ、第1走査用の2値データK1´66−1が生成される。また、量子化処理部65−2では、第2走査用の多値データ64−2(K2)に対し2値化処理が行われ、第2走査用の2値データK2´66−2が生成される。本実施形態において、2つの量子化処理部65−1及び65−2で採用される量子化方法は、一般的な誤差拡散方式である。この際、両方の走査でドットが記録される画素と一方の走査でのみドットが記録される画素を適度に混在させるため、これら2つの誤差拡散処理では異なる拡散マトリクスを採用することが好ましい。例えば、量子化処理部65−1では図9(A)で示した拡散マトリクスを用い、量子化処理部65−2では同図(B)で示した拡散マトリクスを用いる。以上のような2つの量子化処理の結果、K1´とK2´の両方が1である画素にはドットが重複して記録され、K1´とK2´の両方が0である画素にはドットが記録されないことになる。また、K1´とK2´のどちらか一方が1である画素には、ドットが1つだけ記録されることになる。
量子化処理部65−1及び65−2によって2値の画像データK1´及びK2´が得られると、これらデータは夫々IEEE1284バス3022を介して図2で示したプリンタエンジン3004に送られる。以後の処理はプリンタエンジン3004で実行される。
プリンタエンジン3004において、2値の画像データK1´(66−1)及びK2´(66−2)は、夫々図16に示す2つのノズル列51と55に対応した2値データに分割される。即ち、第1走査用の2値画像データK1´(66−1)は、第1走査2値データ分割処理部67−1によって、第1ノズル列の第1走査用の2値データ68−1と、第2ノズル列の第1走査用の2値データ68−2に分割される。また、第2走査用の2値画像データK2´(66−2)は、第2走査2値データ分割処理部67−2によって、第1ノズル列の第2走査用の2値データ68−3と、第2ノズル列の第2走査用の2値データ68−4に分割される。
本実施形態において、第1走査2値データ分割処理部67−1及び第2走査2値データ分割処理部67−2では、予めメモリ(ROM E1004)に記憶されているマスクを利用して分割処理を実行する。マスクとは、個々の画素に対して2値画像データの記録の許容(1)または非許容(0)が予め定められたデータの集合体であり、2値画像データと画素毎に論理積演算することで、上記2値画像データを分割するものである。
2値の画像データをN分割する場合、N個のマスクが用いられるのが一般であり、2値の画像データを2分割する本実施形態では、一例として図5に示すような2つのマスク1801、1802を使用する。図において、黒で示す部分が画像データの記録を許容するデータ(1:画像データをマスクしないデータ)であり、白で示す部分が画像データの記録を許容しないデータ(0:画像データをマスクするデータ)である。ここでは、マスク1801は第1ノズル列用の2値データを生成するために利用され、マスク1802は第2ノズル列用の2値データを生成するために利用される。つまり、第1走査2値データ分割処理部67−1では、2値データK1´(66−1)とマスク1801との論理積演算を画素毎に行うことで第1ノズル列用の2値データ68−1を生成する。同様に、2値データK1´(66−1)とマスク1802との論理積演算を画素毎に行うことで第2ノズル列用の2値データ68−1を生成する。一方、第2走査2値データ分割処理部67−2では、2値データK2´(66−2)とマスク1801との論理積演算を画素毎に行うことで第1ノズル列用の2値データ68−3を生成する。同様に、2値データK2´(66−2)とマスク1802との論理積演算を画素毎に行うことで第2ノズル列用の2値データ68−4を生成する。
2つのマスク1801と1802は互いに補完の関係を有しているため、これらマスクで分割された2値データ同士は互いに重なることがない。従って、異なるノズル列によって記録されるドット同士が紙面上で重なる確率が低く抑えられるため、上述した走査間に対して行われるドット重複率制御に比べて、粒状感の悪化を招きにくい。なお、本例では第1走査2値データ分割処理部67−1と第2走査2値データ分割処理部67−2とで、同じマスクのセット(1801及び1802)を用いているが、異なるマスクのセットを使用してもよい。
その後、各2値画像データ(68−1〜4)は、対応するノズル列の対応する走査ごとに用意されたバッファ69−1〜4に格納される。個々のバッファに2値の画像データが必要量格納されると、対応する走査とノズル列により格納されているデータに従って記録動作が実行される。
以下、本実施形態の特徴的なドット重複率を制御するための処理方法を説明する。表2は、本実施形態の色変換/画像データ分割処理部62による第1走査用及び第2走査用の多値データへの分配率と、夫々の多値データに対し第1の実施形態の様な一般的な誤差拡散処理を施した場合の、第1走査と第2走査でのドット重複率を示している。記録率(%)とは、単位面積当たりに記録される1色のインクのドット数に相当し、単位面積当たりにドットが記録されていない状態を0%、単位面積当たりに最大数のドットが記録されている状態を100%としている。従って、例えば、記録率60%とは、最大ドット数の60%に相当する数のドットが単位面積に記録されている状態を指す。表2では、この様な記録率を0〜100%の10段階で示している。なお、後述するように、この記録率(0〜100%)は、異なる走査に対応した同色の多値の濃度データの合計値(0〜255)と相関性があり、記録率の値が大きくなるほど上記合計値も大きくなる。また、分配率(%)とは、複数回の走査に対応した同色の多値の濃度データの合計値(記録率)に対する各走査の濃度データの値の割合を指しており、分配率の合計は100%となっている。このように分配率は、入力画像データ(RGB)の変換後の複数の同色の濃度データ値(例えば、K1:K2)の比(分配比)に相当する。例えば、複数回の走査に対応した複数の濃度データの合計値が128(記録率50%)で、第1走査用の濃度データ値が64(記録率25%)で、第2走査用の濃度データ値も64(記録率25%)である場合を考える。この場合、第1走査及び第2走査の分配率は夫々50%となり、第1走査用の第1の濃度データ値と第2走査用の第2の濃度データ値との比は1:1となる。表2では、この様な分配率を6段階で示している。そして、分配率と記録率の夫々の条件に対応し、一般的な誤差拡散法によって2値化処理した結果のドット重複率が表2の各欄に示されている。
図6は、表2をグラフに示したものである。図において、横軸は記録率、縦軸はドット重複率を示している。表2に示した6段階の分配率の夫々について、記録率に対するドット重複率が傾きの異なる直線で示されている。
例えば、第1記録走査の分配率が100%、第2記録走査の分配率が0%である場合、全多値データは第1記録走査のみによって記録される。よって、ドットが重なり合うことはなく、記録率が上昇してもドット重複率は0%のままである。第2記録走査の分配率を徐々に上げていくと、記録率に対するドット重複率の傾きは徐々に上がる。そして、分配率が第1記録走査と第2記録走査で50%ずつである場合、記録率に対するドット重複率の傾きは最も大きくなり、記録率が100%のときにドット重複率は50%となる。
従って、表2や図6に示すような分配率に対するドット重複率を予め取得しておけば、記録モードに応じて分配率を調整することにより、記録モード夫々に適したドット重複率を実現することが可能となる。
本実施形態では更に細かいドット重複率の制御を行うことも出来る。一般に、記録モードとは別に、記録率の全領域(0%−100%)のうち、中間調近傍即ちドットが隣接して記録されるか否かの領域では、ドットの重複状態の変化が紙面上のドットの被覆率に影響しやすい。よって、この様な中間濃度領域で特に濃度むらが問題となりやすく、他の濃度領域(低濃度領域、高濃度領域)よりもドット重複率を高く設定しておくことが望まれる。一方、濃度むらが問題となりにくい低濃度領域では、濃度むら軽減よりも粒状感低減を優先してドット重複率を低く設定するのが望ましい。また、高濃度領域では濃度むら軽減よりも濃度アップを優先してドット重複率を低く設定するのが望ましい。よって本実施形態では、記録モードだけでなく記録率に応じてもドット重複率を調整する。
図6における太線破線311及び312は、表2に示されるように記録率(即ち異なる走査に対応した複数の多値の濃度データの合計値)に応じてドット重複率を調整する様子を示している。本実施形態において、たとえば普通紙の「きれい」モードの場合には312で示した曲線でドット重複率を制御し、インクジェット専用紙の「標準」モードである場合には311で示した曲線でドット重複率を制御する。普通紙の「きれい」モードの場合、312の様なドット重複率を実現するためには、記録率0−20%では分配率を(100%:0%)とし、記録率が20−60%では分配率を(80%:20%)になるまで徐々に変化させる。また、記録率60−100%の高濃度領域では分配率を(90%:10%)になるまで徐々に変化させる。一方、インクジェット専用紙の「標準」モードの場合、311の様なドット重複率を実現するためには、記録率0−20%では分配率を(100%:0%)とし、記録率が20−60%では分配率を(50%:50%)になるまで徐々に変化させる。また、記録率60−100%の高濃度領域では分配率を(90%:10%)になるまで徐々に変化させる。なお、上記分配率の調整は、擬似輪郭の発生を抑えるために、なるべく記録率の変化に対してなだらかに変化させることが好ましい。
本実施形態において、普通紙の「きれい」モードであってもインクジェット専用紙の「標準」モードであっても、記録率が60%程度でドット重複率を最大にするという点は同じである。しかし、どのインク記録率においても、普通紙の「きれい」モードにおけるドット重複率がインクジェット専用紙の「標準」モードのドット重複率を超えることはない。即ち、同じ2パスのマルチパス記録を実行する2つのモードであっても、濃度が低くなりがちな普通紙の「きれい」モードのドット重複率は、全てのインク記録率領域においてインクジェット専用紙の「標準」モードのドット重複率以下に設定されている。
以上では、2パスのマルチパスを例に説明したが、この様な分配率の調整によってドット重複率を制御する方法は、3パス以上のMパスのマルチパス記録にも応用することが出来る。この場合、図3の色変換/画像データ分割部62では、M回の記録走査夫々に対応するM個の多値濃度データに分割し、分割された多値画像データ夫々に対し、量子化処理を実行すればよい。そして、図6に示したような記録率とドット重複率の関係を、Mパスについて予め求め、原画像に適したドット重複率が実現される分配率に従って、色変換/画像データ分割部におけるM個の多値濃度データへの分割が行われればよい。このようにすれば、表1に示したインクジェット専用紙の「きれい」モードについても、上述した1つのモードと同様に、所望のドット重複率を16パスのマルチパス記録で実現することが可能となる。
このように本実施形態では、ドット重複率を記録モードに応じて最適に設定するために、記録モードに対応した分配率に従って、多値の画像データをM個のプレーンに分割している。
ところで本実施形態では、色変換/画像データ分割部62にて入力画像データ(RGB)から複数の走査に対応した複数の濃度データ(複数のCMYKセット)を一括生成するので、表2や図6で示した「記録率」に対応するパラメータを実際に扱うことはない。しかし、生成後の複数の同色濃度データの合計値と記録率とは相関性があり、合計値が大きくなれば、結果的に、2値化後の記録率も大きくなる。つまり、異なる走査に対応した複数の濃度データの合計値は「記録率」に相当する。従って、実際の処理では、3次元LUTにおいて、複数の同色濃度データの合計値(記録率)と分配率の関係が図6で示したグラフを満足するように、入力画像データ(RGB)と複数の濃度データ(複数のCMYKセット)とを対応付けておけばよい。そして、この様なLUTを用いて、色変換/画像データ分割部62においてデータ生成を行う。こうすることで、複数の同色の濃度データ値の比(分配率)が、上記の記録率及び合計値と相関のある入力画像データに応じて一義的に決まることになるため、「記録率」パラメータを用いずとも、表2に示すような記録率と分配率との関係が満足される。よって、図6に示されるような記録率に相応のドット重複率を実現することができる。
但し、本発明及び本実施形態は、必ずしも図3に示したように、色変換/画像データ分割部62にて多値の輝度データ(RGB)を複数回の走査に対応した複数の多値の濃度データ(CMYK)に3次元LUTを用いて一括変換する必要はない。RGBをCMYKに色変換する処理と、CMYKを複数回の走査に対応した複数の多値の濃度データに分割する処理とを独立に設けても構わない。この場合、色変換後の多値データに応じて定められる分配率に従って、即ち図6に示される分配率に従って、複数の多値の濃度データを生成すればよい。
なお、表2では、色変換/画像データ分配処理部62において、第1の記録走査と第2の記録走査の分配率の和が100%になるように夫々の分配率が定められているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。画像処理の都合や絶対濃度の向上を目的として、第1記録走査の分配率の和と第2記録走査の分配率の和が100%以上になっても良いし、100%未満に抑えるようにしても構わない。
以上のように本実施形態によれば、複数回の走査に対応した多値の同色濃度データ値の比(分配率)を記録モードに応じて変化させることで、記録モードに相応のドット重複率を実現することができる。これにより、濃度むらよりも濃度不足や粒状感が懸念される記録モードのドット重複率を濃度不足や粒状感よりも濃度むらが懸念される記録モードのドット重複率よりも低くすることにより、記録モードに適した良好な画像を出力することが可能となる。
以下、図3で説明した画像処理について、図8を用いてより具体的に説明する。図8は、図3に示した画像処理の具体例をイメージ化したものである。ここでは、4画素×4画素の計16画素に対応した入力画像データ141を処理する場合について説明する。符号A〜Pは、各画素に対応する入力画像データ141のRGB値の組合せを示している。符号A1〜P1は、各画素に対応した第1走査用の多値画像データ142のCMYK値の組合せを示している。符号A2〜P2は、各画素に対応した第2走査用の多値画像データ143のCMYK値の組合せを示している。
図において、第1走査用の多値画像データ142が図3の第1走査用の多値データ64−1に相当し、第2走査用の多値画像データ143が第1走査用の多値データ64−2に相当する。また、第1走査用の量子化データ144が第1走査用の2値データ66−1に相当し、第2走査用の量子化データ145が第2走査用の2値データ66−2に相当する。更に、第1ノズル列に対応した第1走査用の量子化データ146が2値データ68−1に相当し、第2ノズル列に対応した第1走査用の量子化データ147が2値データ68−2に相当する。また、第1ノズル列に対応した第2走査用の量子化データ148が2値データ68−3に相当し、第2ノズル列に対応した第2走査用の量子化データ149が2値データ68−4に相当する。
入力画像データ141(RGBデータ)は、図3の色変換/画像データ分割部62に入力される。色変換/画像データ分割部62では、記録モードに対応する3次元のLUTによって、入力画像データ141(RGBデータ)から、画素毎に、第1走査用の多値画像データ142(CMYK)と第2走査用の多値画像データ143(CMYK)が生成される。ここで、色変換/画像データ分割部62では、記録モードに適したドット重複率を実現するため、記録モードごとに用意されたLUTが選択され変換に用いられる。これにより、再度表1を参照するに、普通紙の「きれい」モードでは、2つの多値画像データの偏りが比較的大きくなるように多値画像データ(142及び143)が生成される。一方、インクジェット専用紙の「標準」モードでは、2つの多値画像データの偏りが比較的小さくなるように多値画像データ(142及び143)が生成される。なお、これ以降の処理(階調補正処理、量子化処理、マスク処理)は、CMYKの各色について独立に並行して行われるので、以下では、説明の便宜上、1色(K)のみについて示し、その他の色については省略する。
上述のようにして得られた第1走査用の多値画像データ(142)は図3の量子化処理部65−1に入力され、誤差拡散処理が施されて、第1走査用の量子化データ(144)に変換される。一方、第2走査用の多値画像データ(143)は第2の量子化処理部65−2に入力され、誤差拡散処理が施されて、第2走査用の量子化データ(145)に変換される。この時、第1走査用の多値画像データ142に誤差拡散処理を行う場合は、図9(A)で示す誤差拡散マトリックスAを用い、第2走査用の多値画像データ143に誤差拡散処理を行う場合は、図9(B)で示す誤差拡散マトリックスBを用いる。図において、第1走査用及び第2走査用の量子化データ(144、145)のうち、「1」のデータはドットの記録(インクの吐出)を示すデータであり、「0」のデータはドットの非記録(インクの非吐出)を示すデータである。
続いて、第1走査2値データ分割処理部67−1では、第1走査用の量子化データ144をマスクにより分割することで、第1ノズル列に対応した第1走査用の量子化データ146と第2ノズル列に対応した第1走査用の量子化データ147を生成する。詳しくは、第1走査用の量子化データ144を図5のマスク1801によって間引くことにより、第1ノズル列に対応した第1走査用の量子化データ146を得る。また、第1走査用の量子化データ144をマスク1802によって間引くことにより、第2ノズル列に対応した第1走査用の量子化データ147を得る。第2走査2値データ分割処理部67−2についても同様である。
本実施形態では、互いに補間関係のある2つのマスクを用いて2つのノズル列に対応した同一走査用の2値データを生成しているため、ノズル列間ではドットの重なり合いは起こらない。勿論、走査間のみならずノズル列間にもドットの重なり合いを発生させることも出来るが、色変換/画像データ分割部で複数のノズル列×複数の走査を対象に多値データを生成すると、量子化処理の対象となるデータ数が増大し、データ処理の負荷が高まってしまう。また、ノズル間での記録位置ずれは走査間での記録位置ずれよりも小さく、ノズル列間にドット重複率制御を適用せずとも、濃度変動の問題が顕在化されにくい。この様な理由から、本実施形態では、マルチパス数分だけ多値データを生成し、ノズル列間では、補完関係にあるマスクでドットを分配している。
以上説明したように本実施形態によれば、記録モードに相応のドット重複率とするべく、記録モードに応じた分配比に従って、異なる走査に対応した複数の濃度データを生成し、その後夫々の多値データに対して2値化処理を実行する。これにより、例えば記録位置ずれによる濃度むらよりも粒状感や濃度不足が重視される記録モードのドット重複率を、記録位置ずれによる濃度むらのほうが粒状感や濃度不足よりも重視される記録モードのドット重複率よりも低く設定することが出来る。つまり、粒状感や濃度不足よりも濃度むらの方が重視される記録モードと、濃度むらよりも粒状感や濃度不足が懸念される記録モードとで、ドット重複率を異ならせることにより、どのような記録モードであっても良好な画像を出力することが可能となる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、ドット重複率を制御するために、色変換/画像データ分割部における分配率を調整する方法を説明した。本実施形態では、色変換/画像データ分割部によって生成された複数の多値濃度データを量子化する際の量子化処理に特徴を持たせることによって、ドット重複率を制御する。この際、色変換/画像データ分割部と量子化処理部の協働によってドット重複率を制御する方法を採用してもよい。
図16は、図7で示したように2回の記録走査によって記録媒体の同一領域の画像を完成させるマルチパス記録を行う場合の画像処理を説明するためのブロック図である。ここでは、デジタルカメラ3012などの画像入力機器から入力された画像データに対し、図の21〜25までの処理を図2で説明した制御部3000で行い、27以降の処理をプリンタエンジン3004によって行うものとする。このように、図16に示される多値画像データ入力部21、色変換/画像データ分割部22、階調補正処理部(23−1、23−2)及び量子化処理部25は、制御部3000に備えられている。一方、2値データ分割処理部(27−1、27−2)はプリンタエンジン3004に備えられている。
外部機器から、多値画像データ入力部21によって、RGBの多値の画像データ(256値)が入力される。この入力画像データは、色変換/画像データ分割部22に入力され、第1走査用の多値データと第2走査用の多値データが一括して生成され、階調補正処理部23−1及び23−2にて階調補正が施される。これにより、1走査用の多値データ24−1と第2走査用の多値データ24−2が得られる。この時、分配率は均等であってもよいし、上記実施形態と同様に画像特性に対応した分配率に従って、異なる走査に対応した複数の多値の濃度データ(CMYK)を生成してもよい。
その後、階調補正処理部23−1及び23−2によって、第1の実施形態と同様の階調補正処理が行われる。その結果、第1走査用の多値データ24−1(C1,M1,Y1,K1)と第2走査用の多値データ24−2(C2,M2,Y2,K2)が得られる。以下の処理は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)について独立に並行して行われるので、これ以後の説明はブラック(K)のみについて行う。
量子化処理部25では、第1走査用の多値データ24−1(K1)と第2走査用の多値データ24−2(K2)の夫々に対し2値化処理(量子化処理)を行う。即ち、各多値データは0または1のどちらかに変換(量子化)されて、第1走査用の2値データK1´(26−1)及び第2走査用のK2´(26−2)となる。この際、K1´とK2´の両方が1である画素にはドットが重複して記録され、K1´とK2´の両方が0である画素にはドットが記録されない。また、K1´とK2´のどちらか一方が1である画素には、ドットが1つだけ記録される。
本実施形態では、量子化のために使用する閾値テーブルが図17(A)〜(G)のように予め複数用意されており、量子化処理部25ではメモリ3003に設定されたパラメータに従ってこれら複数の中から1つの閾値テーブルを設定する。そして、この様に設定された閾値テーブルを用いて個々の画素で使用する閾値を定め、これに用いた量子化処理を実行する。
量子化処理部25において実行される処理工程を、図11のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートにおいて、K1及びK2は注目画素における入力多値データであり0〜255の値を有している。また、K1err及びK2errは、既に量子化処理が終了した周辺の画素から発生した累積誤差値で、K1ttl及びK2ttlは入力多値データと累積誤差値を合計した値である。更にK1´及びK2´は、第1記録走査用と第2記録走査用の2値の量子化データである。
本処理においては、2値の量子化データであるK1´やK2´の値を決定する際に用いる閾値(量子化パラメータ)が、K1ttlやK2ttlの値に応じて異なるようになっている。そのためにK1ttlやK2ttlの値に応じて閾値が一義的に決まるようなテーブルが予め用意されている。ここで、K1´を決定する際にK1ttlと比較するための閾値をK1table[K2ttl]とし、K2´を決定する際にK2ttlと比較するための閾値をK2table[K1ttl]とする。K1table[K2ttl]はK2ttlの値によって定まる値であり、K2table[K1ttl]はK1ttlの値によって定まる値である。
本処理が開始されると、まず、S21によりK1ttl及びK2ttlを算出する。次いでS22において、パラメータに従って設定された閾値テーブルを参照することにより、S21で求めたK1ttl及びK2ttlから、2つの閾値K1table[K2ttl]及びK2table[K1ttl]を取得する。閾値K1table[K2ttl]は、表3の閾値テーブルの「参照値」としてK2ttlを用いることによって一義的に定められる。一方、閾値K2table[K1ttl]は、表3の閾値テーブルの「参照値」としてK1ttlを用いることによって一義的に定められる。
続くS23〜S25においてK1´の値を決定し、S26〜S28においてK2´を決定する。具体的には、S23において、S21で算出したK1ttlがS22で取得した閾値K1table[K2ttl]以上であるか否かを判定する。K1ttlが閾値以上であると判定された場合にはK1´=1とし、この出力値(K1´=1)に応じて累積誤差値K1err(=K1ttl−255)を算出して更新する(S25)。一方、K1ttlが閾値未満であると判定された場合にはK1´=0とし、この出力値(K1´=0)に応じて累積誤差値K1err(=K1ttl)を算出して更新する(S24)。
次いで、S26において、S21で算出したK2ttlがS22で取得した閾値K2table[K1ttl]以上であるか否かを判定する。そして、K2ttlが閾値以上であると判定された場合にはK2´=1とし、この出力値(K1´=1)に応じて累積誤差値K2err(=K2ttl−255)を算出して更新する(S28)。一方、K2ttlが閾値未満であると判定された場合にはK2´=0とし、この出力値(K2´=0)に応じて累積誤差値K2err(=K2ttl)を算出して更新する(S27)。
その後、S29において、上記のように更新された累積誤差値K1err及びK2errを、図9に示される誤差拡散マトリクスに従って、未だ量子化処理が終了していない周辺画素に拡散する。本実施形態では、累積誤差値K1errを周辺画素に拡散するために図9(A)に示される誤差拡散マトリクスを用い、累積誤差値K2errを周辺画素に拡散するために図9(B)に示される誤差拡散マトリクスを用いる。
このように本実施形態では、第1走査に対応した多値データ(K1ttl)に量子化処理を行うのに用いる閾値(量子化パラメータ)を、第2走査に対応した多値データ(K2ttl)に基づいて決定している。同様に、第2走査に対応した多値データ(K2ttl)に量子化処理を行うのに用いる閾値(量子化パラメータ)を、第1走査に対応した多値データ(K1ttl)に基づいて決定している。つまり、2回の走査のうちの一方の走査に対応した多値データと他方の走査に対応した多値データの両方に基づいて、一方の走査に対応した多値データの量子化処理も、他方の走査に対応した多値データの量子化処理も実行する。これにより、例えば、一方の走査でドットが記録される画素には、他方の走査ではドットが極力記録されないように制御することが出来るため、ドットの重なりに起因する粒状感の悪化や濃度不足を抑制することができる。
図17(A)は、上記図11のフローチャートに従って、下記表3の閾値テーブルの図18(A)の欄に記述される閾値を用いて量子化処理(2値化処理)を行った結果を入力値(K1ttl及びK2ttl)と対応付けて説明するための図である。K1ttl及びK2ttlは共に0〜255の値を取り得、閾値テーブルの図17(A)の欄に示されるように閾値128を境に記録(1)及び非記録(0)が決定される。図中のポイント221は全くドットを記録しない領域(K1´=0且つK2´=0)と、2つのドットが重なる領域(K1´=1且つK2´=1)の境界点となる。
図17(B)は、上記図11のフローチャートに従って下記表3の閾値テーブルの図17(B)の欄に記述される閾値を用いて量子化処理(2値化処理)を行った結果を、入力値(K1ttl及びK2ttl)と対応付けて説明するための図である。ポイント231は、全くドットを記録しない領域(K1´=0且つK2´=0)と1ドットのみを生ずる領域(K1´=1且つK2´=0、或はK1´=0且つK2´=1)との境界である。ポイント232は、2つのドットを重複して記録する領域(K1´=1且つK2´=1)と1ドットのみを生ずる領域(K1´=1且つK2´=0、或はK1´=0且つK2´=1)との境界である。ポイント231と232がある程度の距離を置いて離れていることにより、図17(A)の場合に比べ、どちらか一方のドットが記録される領域が増え、両方のドットが記録される領域が減少している。つまり、図17(B)の場合は、同図(A)の場合よりもドット重複率が低減され、粒状性を低く抑えるのに有利である。図17(A)の様にドット重複率が急峻に変化するポイントが存在すると、階調の僅かな変化によって濃度むらが発生する場合が有り得るが、図17(B)の場合には階調の変化に応じてドット重複率も滑らかに変化していくので、その様な濃度むらも起こり難い。
本実施形態の量子化処理においては、K1ttl及びK2ttlの値やK1とK2の関係に対して様々な条件を設けることにより、K1´及びK2´の値ひいてはドット重複率を様々に調整することが出来る。以下に幾つかの例を図17(C)〜図17(G)を用いて説明する。なお、図17(C)〜(G)は、上述した図17(A)及び図17(B)と同様、下記表3に示される閾値テーブルに記述される閾値を用いて量子化した結果(K1´及びK2´)と入力値(K1ttl及びK2ttl)との対応関係を示した図である。
図17(C)は、ドット重複率を図17(A)と同図(B)の間の値にするようにした場合を示す図である。ポイント241は図17(A)のポイント221と同図(B)のポイント231の中間点に定められている。また、ポイント242は図17(A)のポイント221と同図(B)のポイント232の中間点に定められている。
図17(D)は、同図(B)の場合よりもドット重複率を更に低減するようにした図である。ポイント251は図17(A)のポイント221と同図(B)のポイント231を3:2に外分する点に定められている。また、ポイント252は図17(A)のポイント221と同図17(B)のポイント232を3:2に外分する点に定められている。
図17(E)は、同図17(A)の場合よりもドット重複率を増加させる場合を示している。図17(E)によれば、全くドットを記録しない領域(K1´=0且つK2´=0)から2つのドットを重複して記録する領域(K1´=1且つK2´=1)への遷移が生じ易くなり、ドット重複率を増加させる事が出来る。図17(F)は、ドット重複率を図17(A)と同図(E)の間の値にするようにした場合を示す図である。図17(G)は同図(E)の場合よりも更にドット重複率を増加させるようにした場合を示している。
次に、下記表3に示される閾値テーブルを用いた量子化処理の方法について具体的に説明する。表3は、図17(A)〜(G)に示した処理結果を実現するための閾値テーブルであり、図11で説明したフローチャートのS22で参照される。
ここでは、入力値(K1ttl、K2ttl)が(100、120)で、且つ、閾値テーブルの図18(B)の欄に記述される閾値を用いる場合について説明する。まず、図11のS22では、表3に示される閾値テーブルと、K2ttl(参照値)に基づいて、閾値K1table[K2ttl]を求める。参照値(K2ttl)が「120」であれば、閾値K1table[K2ttl]は「120」となる。同様に、閾値テーブルとK1ttl(参照値)に基づいて、閾値K2table[K1ttl]を求める。参照値(K1ttl)が「100」であれば、閾値K2table[K1ttl]は「101」となる。次いで、図11のS23において、K1ttlと閾値K1table[K2ttl]を比較判定し、この場合、K1ttl(=100)<閾値K1table[K2ttl](=120)であるため、K1´=0(S24)となる。同様に、図11のS26において、K2ttlと閾値K2table[K1ttl]を比較判定し、この場合、K2ttl(=120)≧閾値K2table[K1ttl](=101)であるため、K2´=1(S28)となる。この結果、図17(B)に示されるように、(K1ttl、K2ttl)=(100、120)の場合には、(K1´、K2´)=(0、1)となる。
以上のような量子化処理によれば、2回の走査に対応した多値データの両方に基づいて、2回の走査夫々に対応した多値データを量子化することで、2回の走査間でのドット重複率を制御している。これにより、一方の走査で記録されるドットと他方の走査で記録されるドットの重複率を好適な範囲内に抑え、濃度むらの抑制と低い粒状性を両立させることができる。なお、表3では参照値を4おきに示しているが、実際のテーブルにはこの間の値についても(例えば、1〜3)閾値が用意されている。但し、参照値については表3に示したように飛び飛びの値が用意され、その他の値の変換については値の近い参照値から補間処理して求めてもよい。
ここで、図17(A)〜(G)の閾値テーブルを、ドット重複率が低い順に並べると、(D)、(B)、(C)、(A)、(F)、(E)、(G)になる。よって本実施形態では、普通紙の「きれい」モードの場合に(D)の閾値テーブルを用い、インクジェット専用紙の「標準」モードの場合に(E)の閾値テーブルを用いればよい。このようにすれば、普通紙の「きれい」モードのドット重複率をインクジェット専用紙の「標準」モードよりも低く抑えることが出来る。
再び、図16に戻る。量子化処理部25によって、以上説明したような所望のドット重複率を実現するための2値の画像データK1´及びK2´が得られると、これらデータは夫々、IEEE1284バス3022を介して図2で示したプリンタエンジン3004に送られる。以後の処理はプリンタエンジン3004で実行される。
プリンタエンジン3004において、2値の画像データK1´(26−1)及びK2´(26−2)は、夫々、2つのノズル列54と55に記録される2値データに分割される。即ち、第1走査用の2値画像データK1´(26−1)は、第1走査2値データ分割処理部27−1によって、第1ノズル列の第1走査用の2値データ28−1と、第2ノズル列の第1走査用の2値データ28−2に分割される。また、第2走査用の2値画像データK2´(26−2)は、第2走査2値データ分割処理部27−2によって、第1ノズル列の第2走査用の2値データ28−3と、第2ノズル列の第2走査用の2値データ28−4に分割される。これら分割方法については第1の実施形態と同様である。その後、各2値画像データ(28−1〜4)は、対応するノズル列の対応する走査ごとに用意されたバッファに格納される。そして、個々のバッファに2値の画像データが必要量格納されると、対応するノズル列と走査によって格納されているデータに従った記録動作が実行される。
なお、本実施形態においても第1の実施形態と同様、走査間のみならずノズル列間にもドット重複率制御を適用することは可能である。但し、ノズル列間にもドット重複率制御を適用すると、量子化対象のデータ数が多くなるため、データ処理の負荷が大きくなってしまう。従って、本実施形態では、走査間にだけドット重複率制御を適用し、ノズル列間にはドット重複率制御を適用しないようにしている。
以上では2パス記録を例としたが、実際の記録装置ではマルチパス数の異なる複数の記録モードが用意されているのが一般であり、本実施形態でも所望のドット重複率を様々なマルチパスで実現出来る。つまり、本実施形態は上記ドット重複率を制御する方法を、3パス以上のM(Mは2以上の整数)パス記録に応用することが出来る。すなわち、再度表1を参照するに、インクジェット専用紙の「きれい」モードについても、専用の閾値テーブルを用意することにより、所望のドット重複率を実現することが出来る。
Mパス記録の場合、図16の色変換/画像データ分割部22で生成される多値の濃度データの数はM個になる。即ち、入力画像データ(RGB)とMパスに対応した多値の濃度データとが対応付けられた3次元LUTを参照することで、入力画像データから多値の濃度データが一括生成される。それに伴い、量子化処理部25は、M個の多値データ即ち第1多値データ〜第M多値データの夫々に対し、第1多値データ〜第M多値データを参照値として用意された閾値テーブルを参照することにより閾値を得る。そして、得られた閾値を用いて量子化処理を行い、M個の2値データを出力することになる。
以上説明したように本実施形態によれば、マルチパス数に対応した複数の濃度データを生成し、その後夫々の濃度データに対して夫々の記録モードに相応するドット重複率とするべく、適切な閾値を設定して2値化処理を実行する。これにより、例えば記録位置ずれによる濃度むらよりも濃度不足が懸念される普通紙のドット重複率を、記録位置ずれによる濃度むらのほうが粒状感や濃度不足よりも目立ち易いコート紙のドット重複率よりも低く設定することが出来る。つまり、粒状感や濃度不足よりも濃度むらの方が目立ちやすい記録モードと、濃度むらよりも粒状感や濃度不足が懸念される記録モードとで、ドット重複率を異ならせることにより、どのような記録モードであっても良好な画像を出力することが可能となる。
(第2実施形態の変形例)
所望のドット重複率を実現するための量子化の方法は上記に限られるものではない。必ずしも、閾値と比較することによって、記録(1)と非記録(0)が決定される構成でなくてもよい。例えば、2プレーンの場合には、K1´やK2´が K1ttl及びK2ttlの両方を参照値とすることによって一義的に記録(1)または非記録(0)が決定されるような2次元テーブルを用意することも出来る。また、3プレーンの場合には、K1´、K2´及びK3´の夫々が、K1ttl、K2ttl及びK3ttlの3つを参照値とすることによって一義的に決定されるような3次元テーブルを用意することも出来る。
テーブルの詳細は省略するが、この様な多次元のテーブルを利用する場合には、よりシンプルな制御で、且つ、ドット重複率をより自由度の高い状態で制御出来るというメリットがある。一方、表3に示したような1次元の閾値テーブルを利用する場合には、より少ないメモリ容量でテーブルを作成することが出来るというメリットがある。
更には、全くテーブルを用いずに分岐と演算のみで2値化(量子化)処理を行うことも可能である。この場合、演算に用いられる何らかの係数が、所望のドット重複率を実現する値に設定されていれば、本実施例の効果を得ることが可能となる。この様な場合、上述したテーブルを用意する場合に比べて、更にメモリ容量(消費ROMサイズやRAMサイズ)を小さくする事が出来る。
(第3の実施形態)
近年では、主な画像処理は記録解像度よりも低い(粗い)解像度で行い、256階調の多値の画像データをより低い階調のL(Lは3以上)値の多値データに変換した状態で、記録装置のプリンタエンジンに送信する形態が有用されている。この場合、プリンタエンジンでは、受信した低い階調のL値の多値データを、記録解像度に対応した2値データに変換するためのドットパターン(インデックスパターン)をメモリに備えている。
以下では、L値化として3値化の例を説明するが、Lの値は3以上の様々な値を取り得ることはいうまでもない。また、以下の説明では、上記実施形態と同様、2パスのマルチパス記録を例にドット重複率の制御方法を説明するが、無論本実施形態においても、2パス以外のマルチパス数を有する複数の記録モードに対応することが出来る。
図18は、本実施形態における、2回の記録走査によって同一領域(例えば、画素領域)の画像を完成させるマルチパス記録を行う場合の画像処理を説明するためのブロック図である。多値画像データ入力部41〜階調補正処理部43までの処理は、図3や図16で示した多値画像データ入力部〜階調補正処理部と殆ど等しい処理である。
量子化処理部45には、第1走査用の多値データ(K1)44−1と第2走査用の多値データ(K2)44−2が入力される。量子化処理部45において、第1走査用の多値データ(K1)と第2走査用の多値データ(K2)の夫々は0〜2の3値に量子化され、第1走査用の量子化データ(K1´)及び第2走査用の量子化データ(K2´)が生成される。具体的には、第2の実施形態の量子化処理部25で行う量子化処理と同様、まずK1及びK2に周辺の誤差を累積したK1ttl及びK2ttlを得る。その後、第1走査用の多値データ(K1)を量子化する際に用いる閾値を、K2ttlに基づいて決定し、第2走査用の多値データ(K2)を量子化する際に用いる閾値を、K1ttlに基づいて決定する。また、Mパス記録であれば、第i走査用の多値データ(Ki)を量子化する際に用いる閾値を、K1ttl〜K(i−1)ttl及びK(i+1)〜KMttlに基づいて決定する。
本実施形態の場合、3値に量子化するため、2つの閾値即ち第1の閾値とこれよりも大きな第2の閾値を用いる。そして、注目画素における入力多値データと累積誤差値を合計した値(合計値:K1ttlやK2ttl)と第1及び第2の閾値との大小関係によって、出力値は決定される。即ち、合計値が第2閾値以上の場合には出力値は「2」となり、合計値が第1閾値以上で且つ第2閾値未満の場合には出力値は「1」となり、合計値が第1閾値未満の場合には出力値は「0」となる。
このように、K2ttlに基づいて決定された閾値に基づいて、第1走査用の多値データ(K1)を量子化して第1走査用の量子化データ(K1´)を得る。同様に、K1ttlに基づいて決定された閾値を用いて、第2走査用の多値データ(K2)を量子化することで第2走査用の量子化データ(K2´)を得る。Mパス記録の場合であれば、K1ttl〜K(i−1)ttl及びK(i+1)〜KMttlに基づいて決定された閾値を用いて、第i走査用の多値データ(Ki)を量子化することで第i走査用の量子化データ(Ki´)を得る。第1の閾値と第2の閾値の決定方法としては、2値化の例と同様、第1の閾値テーブルと第2の閾値テーブルを同一の参照値を用いて夫々決定すればよい。
図13は、量子化処理部45における量子化(3値化)処理の結果(K1及びK2)と入力値(K1ttl及びK2ttl)との対応関係を、図17と同様に示した図である。図において、K1´の値とK2´の値は、1回目の記録走査及び2回目の記録走査の夫々で注目画素に記録されるドットの数を示している。ここでは、K2ttlを量子化するために用いる第1の閾値を太点線で示し、第2の閾値を太破線で示している。
例えば、K1´とK2´の両方が2である注目画素には、1回目の記録走査と2回目の記録走査で2個ずつドットが記録される。また、K1´が1で且つK2´が2である注目画素には、1回目の記録走査で1個ドットが記録され且つ2回目の記録走査で2個ドットが記録される。また、K1´とK2´の両方が0である注目画素にはドットが記録されない。図13では、2パス記録の場合の量子化を説明する図であるからK1ttlとK2ttlを座標軸とする2次元で示されているが、Mパス記録の場合はK1ttl〜KMttlを座標軸とするM次元で示されることになる。
再び図18を参照する。量子化処理部45において量子化された3値の画像データ(量子化データ)K1´及びK2´はプリンタエンジン3004に送信され、インデックス展開処理部46においてインデックス処理が行われる。インデックス展開処理は、L(Lは3以上の整数)値の量子化データを2値化するものであるので、量子化処理の一部としてとらえることができる。このインデックス展開処理については下記で詳しく説明する。
次いで、このインデックス展開処理部46によって、3値の画像データK1´は第1走査用の2値画像データ47−1に変換され、3値の画像データK2´は第1走査用の2値画像データ47−2に変換される。その後、第1走査用の2値画像データ47−1は、第1走査2値デ−タ分割部48−1によって、第1ノズル列の第1走査用2値データ49−1と第2ノズル列の第1走査用2値デ−タ49−2に分割される。同様に、第2走査用の2値画像データ47−2は、第1走査2値デ−タ分割部48−2によって、第1ノズル列の第1走査用2値データ49−3と第2ノズル列の第2走査用2値デ−タ49−4に分割される。Mパス記録であれば、第i走査用の2値画像データは、第i走査2値デ−タ分割部48−iによって、第1ノズル列の第i走査用2値データと第2ノズル列の第i走査用2値デ−タに分割される。この分割処理は、第1の実施形態と同様、マスクを利用して実行される。そして、これら4種類の2値データ(49−1〜4)は、夫々、対応するバッファ(50−1〜4)に格納される。その後、個々のバッファに2値データが所定量格納されると、対応するバッファに格納されているデータに従って記録動作が実行される。
図14は、インデックス展開処理及びインデックスパターン(ドットパターン)の例を説明するための図である。本実施形態のインデックス展開処理部46では、1画素に対応する3値の画像データ(K1´、K2´)が、2サブ画素×2サブ画素に対応する2値の画像データ(ドットパターン)に変換される。具体的には、0〜2のいずれかの値を有する3値の画像データK1´は、第1走査用のドットパターンに変換される。同様に、0〜2のいずれかの値を有する3値の画像データK2´は、第2走査用のドットパターンに変換される。そして、これら第1走査用のドットパターンと第2走査用のドットパターンを重ね合わせたパターン(図中の最も右側に示される「記録媒体上でのドットパターン」)が画素に記録されることになる。なお、第1及び第2走査用のドットパターンに関して、斜線部分はサブ画素へのドットの記録を示すデータ(「1」のデータ)を意味しており、白部分はサブ画素へのドットの非記録を示すデータ(「0」のデータ)を意味している。また、記録媒体上でのドットパターンに関し、黒部分はサブ画素に2ドット記録されることを意味し、斜線部分はサブ画素に1ドット記録されることを意味し、白部分はサブ画素にドットが記録されないことを意味している。
ここで、画素に対応する3値以上の画像データをm×nのサブ画素に対応する2値のドットパターンに変換するような画像処理を採用した場合の、ドット重複率について説明する。この様な場合の「ドット重複率」とは、複数のサブ画素で構成される1画素領域に記録されるべき総ドット数のうち、異なる走査(或は異なる記録素子群)で画素領域内の同じサブ画素位置に重複して記録されるドット数の割合を指す。具体的に説明すると、図14を参照するに、K1´とK2´の両方が0の場合、第1記録走査でも第2記録走査でもドットは記録されずドット重複率は0である。K1´とK2´のどちらか一方が0でもう一方が1の場合、一方の走査でだけドットが記録されるので、ドット重複率は0%のままである。K1´とK2´の両方が1の場合、2サブ画素×2サブ画素の左上のサブ画素に2つのドットが重複して記録されるため、ドット重複率は100%(=2÷2×100)となる。また、どちらか一方が1で他方が2の場合、2サブ画素×2サブ画素のうち左下のサブ画素に2つのドットが重複して記録され、左上のサブ画素に1ドットだけ記録されるため、ドット重複率は67%(=2÷3×100)となる。更に、K1´とK2´の両方が2の場合、サブ画素でドットが重ならないのでドット重複率は0%となる。つまり、図14に示したような各レベルに一対一で対応するインデックスパターン(ドットパターン)を予め用意しておけば、図13に示した量子化処理でK1´とK2´の組み合わせが決まることにより、画素領域のドットの重複率も一義的に定まる。
次に、本実施形態におけるドット重複率と濃度領域との関係について図14を用いて説明する。図14の例では、1画素に最大4ドットまで記録可能となっている。従って、記録率100%とは、1画素内に4ドットが記録された状態をいう。図14の例では、K1´=0でK2´=0の場合は記録率0%、K1´=1(or0)でK2´=1(or0)の場合は記録率25%、K1´=1でK2´=1の場合は記録率50%となっている。また、K1´=1(or2)でK2´=2(or1)の場合は記録率75%、K1´=2でK2´=2の場合は記録率100%となっている。そして、記録率0及び25%の低濃度領域ではドット重複率が0%となっており、記録率50%の中間濃度領域ではドット重複率が100%となっており、記録率75%及び100%の高濃度領域では夫々ドット重複率が67%及び0%となっている。このように本実施形態でも、濃度むらが最も懸念される中間濃度領域におけるドット重複率をその他の濃度領域(低濃度領域や高濃度領域)よりも高くしている。以上のようなドット重複率の算出方法や制御方法は、Mパス記録においてK1´〜KM´のインデックスパターンが用意される場合でも同様である。この様なインデックスパターンを画像特性ごとに用意することが出来る。これにより、インデックス展開処理を用いても、画像特性に応じてドット重複率を調整することが可能となる。
以上説明したように本実施形態によれば、マルチパス数(M)に対応したMプレーンの濃度データを生成し、その後夫々のMプレーンの濃度データを多値に量子化する。そして、これらM個の多値の量子化データを、夫々の画像特性に相応するドット重複率となるようなインデックスパターンを用いて、2値化処理を実行する。これにより、濃度不足が懸念される普通紙の「きれい」モードのドット重複率を、インクジェット専用紙の「標準」モードよりも低くすることができる。つまり、粒状感や濃度不足よりも濃度むらの方が目立ちやすい記録モードと、濃度むらよりも粒状感や濃度不足が懸念される記録モードとでドット重複率を異ならせることにより、記録モードによらず高品位な画像を出力することが可能となる。
(その他の実施形態)
上記実施形態では、入力画像データに基づいて複数回の相対走査に対応した複数の多値画像データを生成した。しかし、入力画像データを複数の記録素子群に対応した複数の多値画像データに分割し、走査間にはマスク分割処理を適用してもよい。
また、第1〜3の実施形態における記録ヘッドでは、同色インクを吐出するノズル列が2列ずつ設けられているが、同色インクを吐出するノズル列の数は1、4、8等のN(Nは1以上の整数)であればよい。N個のノズル列でMパス記録を行う場合、まず、入力画像データ(RGB)から、M回の相対移動に対応したM組の多値濃度データを生成する。次いで、これらM組の多値濃度データを夫々量子化してM回の相対移動に対応したM組の量子化データを生成する。その後、Nが1の場合にはマスクによるデータ分割は行われず、上記M回の相対移動に対応した量子化データに従って、M回の相対移動中に、1つのノズル列により同一領域の画像を記録する。一方、Nが2以上の場合には、上記M回の相対移動に対応したM組の量子化データを、夫々、互いに補完の関係を有するN個のマスクによってN分割することで、N個のノズル列に対応したM回の相対移動用の量子化データを生成する。そして、これら量子化データに従って、N個のノズル列によるM回の相対移動中に、同一領域の画像を記録する。この様なN個とM回の組み合わせが画像特性ごとに異なっている場合であっても、上述した実施形態を採用或は組み合わせることによって、個々の記録モードに適したドット重複率を実現することが出来る。
なお、以上では、Mパス記録の場合に、入力画像データ(RGB)から、M回の相対移動に対応したM組の多値の濃度データ(Mセット分のCMYK)が生成される場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。3パス以上のMパス記録モードでは、M組の濃度データを生成することは必須ではなく、Mよりも少ないP(Nは2以上の整数)組の濃度データを生成する形態であってもよい。この場合、まず、Mよりも少ないP組の画像データを生成し、その後、P組の濃度データを量子化してP組の量子化データを得る。その後、P組の量子化データのうちの少なくとも1組の量子化データを分割してMパス分のM組の量子化データを得るのである。この時、P個の濃度データを生成する際の分配率やP個の濃度データを量子化する際の閾値テーブルを、画像特性に適したドット重複率が得られるように用意することによって、本発明の効果を得ることが出来る。
更に、上述したマルチパス記録方式は、記録素子を記録媒体の幅に相当する分だけ備え、同色同吐出量のインクを吐出するN個の記録ヘッドを、記録媒体の搬送方向に配列した構成のフルライン型の記録装置にも応用することが出来る。この場合、画像データを上記同種のインクを吐出するN個の記録ヘッドで記録すべき画像データに分割し、分割した画像データを、N個の記録ヘッドのそれぞれによって記録媒体の搬送中(相対移動中)に記録すればよい。結果、個々の記録素子の吐出特性にばらつきが含まれていたとしても、その影響をN個の記録素子間で軽減することが出来る。また、N個の記録ヘッド間に配置ばらつきや吐出速度ばらつきが存在したとしても、それぞれの記録ヘッドによって記録されるドット群すなわちプレーン間のずれに伴う濃度むらや粒状感は、上述した実施形態と同様の作用で制御することが出来る。
要するに、本発明では、入力画像データから、少なくとも1回の相対移動に対応した第1の濃度データと、他の少なくとも1回の相対移動に対応した第2の濃度データとを生成すればよい。なお、ここで説明したMパスデータ生成処理を、N記録素子群データ生成処理に応用できることは、既に説明したように明らかである。即ち、同色インクを吐出するN個の記録素子群を用いる場合にも、Nよりも少ないP組の濃度データを生成してもよいし、N組の濃度データを生成してもよい。
以上の実施形態では、画像処理機能を有する制御部3000を備えた記録装置を例に、本発明の特徴的な画像処理を実行する画像処理装置を説明してきたが、本発明はこの様な構成に限定されるものではない。本発明の特徴的な画像処理が、プリンタドライバがインストールされたホスト装置(例えば、図2のPC3010)で実行される構成であっても構わない。この場合、ホスト装置が、本発明の画像処理装置に該当する。
本発明は、上述した画像処理の機能を実現するためのコンピュータ可読プログラムを構成するプログラムコード、またはそれを記憶した記憶媒体によっても実現される。この場合、ホスト装置や画像形成装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が上記プログラムコードを読出し実行することによって上述した画像処理が実現されることになる。このように、上述した画像処理をコンピュータに実行させるための、コンピュータにより読み取り可能なプログラム、或は、そのプログラムを記憶した記憶媒体も本発明に含まれる。