JP5500078B2 - フロートガラス製造設備用皮膜付き金属部材およびフロートガラス製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、フロートガラス製造設備用皮膜付き金属部材およびフロートガラス製造方法に関する。
ガスタービンエンジン等の部品として用いられる金属部材は、酸化、腐食、磨耗等を防止するために、Ni、Co、Cr、AlおよびYを主成分とする材料で表面をコーティングすることが知られている(特許文献1〜3)。そして、このような組成の被覆は耐酸化性が高いことが知られている。
一方、フロートガラス製造設備においてフロートバスの雰囲気中に露出する部分を有するように用いられる金属部材(例えばシール用部材やレンガ受け部材)は、通常、ステンレスからなるが、フロートバスの雰囲気中は無酸素状態であるので、金属部材のフロートバスの雰囲気中に露出する部分は原則として酸化することはない。また、フロートバス内で用いられる上でステンレスは耐食性等に優れている。そのため、酸化防止や耐食性向上のためのコーティングは不要であった。
日本国特開昭58−37146号公報 日本国特開昭62−67145号公報 日本国特開2002−3747号公報
ところで、フロートバスで成形した板ガラスの表面に、Feを主成分とする欠陥が生じる場合があった。本発明者がこの原因について検討したところ、フロートバスの雰囲気中に露出する金属部材の表面からFeがフロートバスの雰囲気中に拡散し、Feが他の元素と結合してFeを主成分とする異物が発生し、それが板ガラスの表面に落下して生じるものであることが判明した。
本発明の課題は、フロートバスの雰囲気中に露出する部分を有するように用いられる金属部材であって、フロートバス内へのFeの拡散が抑制され、板ガラスの表面に欠陥を生じさせない金属部材を提供することである。また、このような金属部材を有するフロートガラス製造設備を提供することである。さらに、このようなフロートガラス製造設備を用いて板ガラスを製造するフロートガラス製造方法を提供することである。
本発明は以下の(1)〜(3)である。
(1)フロートバス雰囲気中に露出する部分を有するフロートガラス製造設備用皮膜付き金属部材であって、前記皮膜は平均厚さが50〜500μmであって、Niおよび/またはCoと、Crと、Al23とを主成分とし、前記皮膜におけるAl23含有率が5〜40体積%であり、前記Al23は前記皮膜内部において前記金属部材の表面方向に薄膜状に存在し、前記金属部材はFeを40〜98質量%含有し、前記露出する部分に前記皮膜を有するフロートガラス製造設備用皮膜付き金属部材。
(2)上記(1)に記載の皮膜付き金属部材を備えるフロートガラス製造設備。
(3)上記(2)に記載のフロートガラス製造設備を用いて板ガラスを製造するフロートガラス製造方法。
本発明によれば、フロートバス雰囲気中に露出する部分を有するように用いられる金属部材からのフロートバス雰囲気中へのFeの拡散が抑制され、板ガラスの表面欠陥を抑制することができる。
図1(a)および1(b)は本発明の皮膜付き金属部材の例の説明図である。 図2は本発明の皮膜付き金属部材の断面写真(倍率:180倍)である。 図3は本発明の皮膜付き金属部材の概略断面図である。 図4は実施例における本発明の皮膜付き金属部材の断面写真(倍率:180倍)および元素分布図である。
本発明の皮膜付き金属部材について説明する。
本発明の皮膜付き金属部材は、フロートバス雰囲気中に露出する部分を有するフロートガラス製造設備用皮膜付き金属部材であって、前記皮膜は平均厚さが50〜500μmであって、Niおよび/またはCoと、Crと、Al23とを主成分とし、前記皮膜におけるAl23含有率が5〜40体積%であり、前記Al23は前記皮膜内部において前記金属部材の表面方向に薄膜状に存在し、前記金属部材はFeを40〜98質量%含有し、前記露出する部分に前記皮膜を有するフロートガラス製造設備用皮膜付き金属部材である。
本発明の皮膜付き金属部材は、ガラス製造設備の一つであるフロートバス雰囲気中に露出する部分を有するように用いられる部材である。例えば図1(フロートバス1の概略縦断面図(ガラスリボン流れ方向に対して略垂直な断面を示す図)1(a)、概略横断面図(ガラスリボン流れ方向に対して略並行な断面を示す図)1(b))に示すように、操業中のフロートバス雰囲気中を観察するための観察用窓部分のシール用部材2、フロートバス1内の上部に設置されるレンガ受け部材3、アシストロール(ガラス押え用ロール)カバー4等が挙げられる。ただし本発明の皮膜付き金属部材はこれに限るものではない。なお、図1中6は観察用窓、7はアシストロール、8はガラスリボン、9は溶融スズを示す。
本発明の皮膜付き金属部材における皮膜について説明する。
本発明の皮膜付き金属部材において皮膜は、Al23が皮膜内部において前記金属部材の表面方向に薄膜状に存在するものであれば、その形成方法は特に限定されないものの、Niおよび/またはCoと、Crと、Alとを主成分とする粉体原料を、大気プラズマ溶射法によって金属部材の表面に溶射して形成することが好ましい。
大気プラズマ溶射法は、前記粉体原料を高温プラズマジェットによって溶融または半溶融し、加速して、金属部材の表面に吹き付ける方法であり、このような方法による操作を繰り返し行って、所望の厚さの皮膜を形成することができる。大気プラズマ溶射法によれば、比較的容易に緻密な皮膜を形成することができる。大気中で行うので、溶融または半溶融となった原料を吹き付けると、吹き付けられた原料の表面は即時に酸化される。特にAlは他の成分よりも酸化されやすいので、吹き付けられた原料の表面にはAl23が薄膜状(以下、「Al23薄膜」ともいう。)に即時に形成される。よって、次に吹き付けた原料は、このAl23薄膜の表面上に吹き付けられることとなる。
このように原料を吹き付ける操作を繰り返し行うと、内部にAl23薄膜を有する皮膜を形成することができる。Al23薄膜は上記のようにして形成されるので、皮膜中においてAl23薄膜は、原料が吹き付けられる金属部材の表面方向(すなわち当該表面と平行な方向)に広がるように不連続に形成されることとなる。
本発明の皮膜付き金属部材の断面を電子顕微鏡で観察すると、Al23薄膜の存在を確認することができる。
これに対して従来のガスタービンエンジン等に形成される溶射皮膜は、酸化、腐食等の防止や、セラミックスのトップコート層の下地材としての使用を目的とするため、また層間剥離等を避けるため、Al23薄膜が皮膜内部に存在しないように、減圧下でのプラズマ溶射法や高速フレーム溶射法により溶射、形成される。
皮膜内部におけるAl23薄膜の存在形態について、図を用いて説明する。
図2は本発明の皮膜付き金属部材の断面の電子顕微鏡写真(倍率:180倍)であり、図3はそれを簡略化した図である。
図2においてAl23薄膜は断面で見ると不連続に線状に表れている。この薄膜は、皮膜内部に多数存在し、各々は概ね金属部材の表面方向(当該表面に略平行な方向)に広がるように存在していることがわかる。また、この薄膜は皮膜の厚さ方向に幾重にも積層するように存在していることがわかる。
このような状態を簡略化して示したものが図3である。図3において10は本発明の皮膜付き金属部材であり、12は皮膜であり、14はAl23薄膜であり、16は金属部材を表している。
Al23薄膜の厚さは概ね0.5〜20μmであり、好ましくは1.0〜10μm程度である。
図3に示すように、Al23薄膜が金属部材から皮膜中へのFeの拡散(図3中の矢印)をブロックしており、その結果、本発明の皮膜付き金属部材からフロートバス雰囲気中へのFeの放出を抑えているものと考えられる。
なお、本発明において「皮膜中にAl23薄膜が存在する」とは、EPMA、EDS(すなわちEDX)等で断面の元素分布を測定した場合に、AlとOとが薄膜を形成しているように皮膜中に分布していることが確認できることを意味する。
したがって、本発明は、従来の上記コーティングを行ったガスタービン用翼等とは、全く異なる目的、構成、効果を有するものである。
前記皮膜を構成する各成分について説明する。
前記皮膜はNiおよび/またはCoと、Crと、Al23とを主成分とする。すなわち、前記皮膜はNi、CrおよびAl23が必須成分かつ主成分であるか、Co、CrおよびAl23が必須成分かつ主成分であるか、Ni、Co、CrおよびAl23が必須成分かつ主成分であるかのいずれかである。
ここで主成分とは80体積%以上含有することをいい、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。
前記皮膜を構成する成分であって、上記の主成分以外の成分は特に限定されない。主成分以外の成分としては、例えば、溶射原料中に不純物として含まれている成分等が挙げられる。
前記皮膜は、Ni、Co、Cr、Alおよびそれらの酸化物からなることが好ましく、Ni、Cr、Alおよびそれらの酸化物からなることがより好ましく(つまり、Coを含まないことがより好ましい)、Ni、CrおよびAl23からなることがさらに好ましい。
なお、前記皮膜中においてAlは概ね酸化物として存在すると考えられる。一方、Ni、CoおよびCrは、概ね酸化物にはなっていないと考えられる。
前記皮膜中においてAl23含有率は5〜40体積%であり、10〜35体積%であることが好ましく、15〜30体積%であることがさらに好ましい。このような範囲であると、Al23からなる薄膜が充分量形成され、金属部材からのFeの拡散を抑制することができるからである。
前記皮膜中においてNiおよび/またはCoの含有率は35〜75体積%であることが好ましく、40〜70体積%であることがより好ましく、45〜65体積%であることがさらに好ましい。
ここでNi、Coの含有率は、皮膜中に存在するNi原子、Co原子の含有率(体積%)を意味する。よって、Ni、Coの含有率は、単体として存在するNi、CoのNi原子、Co原子のみならず、酸化物等として存在するNi、CoのNi原子、Co原子を合わせた含有率である。以下のCr、Y、Moについても同様である。
前記皮膜は、実質的にCoを含まないことがより好ましい。
前記皮膜中においてCrの含有率は5〜40体積%であることが好ましく、10〜35体積%であることがより好ましく、15〜30体積%であることがさらに好ましい。
前記皮膜はYを含むことが好ましい。前記皮膜中におけるYの含有率は0.1〜3.0体積%であることが好ましく、0.2〜2.0体積%であることがより好ましく、0.5〜1.5体積%であることがさらに好ましい。前記皮膜がYを含むと、Al23薄膜がより剥離し難くなるからである。
前記皮膜は、さらにMoを含むものであってもよい。この場合、Mo含有率は5体積%以下であることが好ましく、2体積%以下であることがより好ましい。
前記皮膜中におけるAl23の含有率は、断面EDX分析と画像処理の併用、または断面EPMA分析と画像処理の併用により測定する。
すなわち、前記皮膜中におけるAl23の含有率(体積%)は、断面EDX分析または断面EPMA分析によりAl23にあたる部位(扁平粒子部)を確認し、断面画像分析により前記扁平粒子部とその他の部位とに二値化して前記扁平粒子部の面積比率を求め、該面積比率からAl23の含有率(体積%)を求める。また、前記皮膜中におけるAl23の含有率(質量%)は、断面EDX分析または断面EPMA分析により測定する。
前記皮膜中におけるNi、CoおよびCrの含有率(質量%)は、グロー放電発光分光法(GDS)、またはEDX、EPMA等で測定する。
前記皮膜中におけるY、Moの含有率(質量%)は、グロー放電発光分光法で測定する。
次に、皮膜の厚さについて説明する。
前記皮膜の平均厚さは50〜500μmであることが好ましく、100〜400μmであることがより好ましく、200〜300μmであることがさらに好ましい。このような厚さであると金属部材から皮膜が剥離し難く、かつFeの拡散をより抑制することができるからである。
なお、皮膜の平均厚さは、金属部材の皮膜を有する部分の中央部等の代表箇所の任意の3点について、電子顕微鏡を用いて断面観察して測定した厚さの平均値か、もしくはマイクロメーターを用いて測定した厚さの平均値である。
後述するように、本発明の皮膜付き金属部材が設置されるフロートバス雰囲気温度は700〜1300℃程度である。本発明の皮膜付き金属部材における皮膜は、このような高温に曝されても金属部材自体から剥離せず、Feの拡散を防ぐことができる。
次に、金属部材について説明する。
本発明の皮膜付き金属部材における金属部材は、Feを40〜98質量%含有する。50〜85質量%含有することが好ましい。ステンレスであることが好ましい。
本発明の皮膜付き金属部材は、フロートバス内に露出する部分に前記皮膜を有する。なお、露出しない部分にも前記皮膜を有していてもよい。
次に、本発明の皮膜付き金属部材の製造方法について説明する。
本発明の皮膜付き金属部材を形成する方法は、前記皮膜中に容易にAl23薄膜を存在させることを考慮すると、大気プラズマ溶射法によって形成することが好ましい。例えばスルーザーメデコ社製、9MB型溶射装置を用いて、大気中で標準的な条件で形成することができる。
ここで、大気プラズマ溶射法において、用いる粉体原料の平均粒径は10〜100μmであることが好ましく、15〜80μmであることがより好ましい。粉体原料の粒径が小さいと、本発明の効果が顕著になる傾向がある。なお、粉体原料の平均粒径は、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定して求めた値である。
次に、本発明のフロートガラス製造設備について説明する。
本発明のフロートガラス製造設備は、本発明の皮膜付き金属部材を備える。
本発明のフロートガラス製造設備は、本発明の皮膜付き金属部材を備えていれば、その他の部分については特に限定されず、従来公知のものであってよい。フロートバス雰囲気はH2とN2とからなる混合ガス(例えばH2は0.5〜10体積%)で満たされている。
ここでフロートバスに流入する溶融ガラスの温度は1300℃程度であり、下流側で板ガラスの表面温度は600℃程度である。フロートバス雰囲気温度は700〜1300℃程度であるので、本発明の皮膜付き金属部材が曝される温度もこの程度である。
次に、本発明のフロートガラス製造方法について説明する。
本発明のガラス製造方法は、本発明のフロートガラス製造設備を用いてフロートガラスを製造する方法であれば、ガラスの組成や種類、処理条件等、特に限定されない。
例えば、ディスプレイ基板用板ガラス、建築材料用板ガラス、太陽電池パネル用板ガラス、自動車用板ガラスを製造することができる。
また、例えばフロートバスの入口付近の溶融ガラス温度を1100〜1300℃程度とし、出口付近の板ガラス温度を600〜800℃程度とすることができる。これらの温度はガラスの種類によって異なる。
本発明のフロートガラス製造設備を用いた本発明のガラス製造方法によれば、Feを主成分とする欠陥が板ガラスの表面に生じ難い。特にディスプレイ基板用板ガラスは高品質が求められるので、本発明のフロートガラス製造設備を用い、本発明のガラス製造方法によって、好ましく製造することができる。
以下に、本発明の実施例について説明する。
<試験1>
5種類の溶射原料を用意し、各々を25×25mm、厚さ6mmのステンレス板の一方の表面に溶射してサンプルを作成した。そして、各サンプルを高温に曝し、所定時間経過後、各サンプルの断面観察を行った。
(各サンプルの作成)
各ステンレス板に溶射した溶射原料は次の通りである。なお、下記に示された溶射原料名における各元素の直前の数字は、その元素の質量%を意味する。サンプル1,2および5におけるNiについては不可避不純物を除く残部の全てであることを意味する。また、サンプル3および4におけるCoについては不可避不純物を除く残部の全てであることを意味する。
サンプル1:Ni−22Cr−10Al−1Y
サンプル2:Ni−25Cr−6Al−0.4Y
サンプル3:Co−23Cr−13Al−0.7Y
サンプル4:Co−32Ni−21Cr−8Al−0.5Y
サンプル5:Ni−50Cr
サンプル1〜4では、ステンレス板としてSUS310Sを用いた。サンプル5ではSUS316Lを用いた。
溶射は、スルーザーメデコ社製、9MB型溶射装置を用いた大気プラズマ溶射法によって行った。
溶射後に電子顕微鏡(S−3000H、日立製作所社製)を用いて断面観察を行い、各サンプルの皮膜を有する部分の中央部の任意の3点について厚さを測定したところ、平均厚さは300μmであった。
(処理条件)
各サンプルをアルミナ管状炉内に置き、ここに0.5L/minで大気を流し、アルミナ管状炉の内部温度を1100℃に100時間保持した。
(結果)
上記処理後の各サンプルの断面を、電子顕微鏡(S−3000H、日立製作所社製)を用いて観察した。また、EPMA(INCA Enargy、オックスフォードインストゥルメンツ社製)によって、断面における各主要元素分布を測定した。さらに、EPMAによって、断面における各主要元素濃度測定を行った。具体的には断面における皮膜の表層付近、皮膜における皮膜とステンレス板との境界付近、ステンレス板における皮膜とステンレス板との境界付近の3箇所について、各主要元素濃度測定を行った。
サンプル1〜5における断面の各元素濃度測定結果(質量%)を表1〜表5に示す。また、代表例としてサンプル1の場合の断面の電子顕微鏡観察結果(倍率:180倍)、および元素分布測定結果を図4に示す。
Figure 0005500078
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Figure 0005500078
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表1〜表4に示すように、本発明の皮膜付き金属部材に該当するサンプル1〜4では、皮膜中、特に皮膜の表層付近のFe濃度が0.61質量%以下であり低くなっている。
また、電子顕微鏡写真から皮膜中に薄膜状のものが存在していることを確認した。また、図4に示すような電子顕微鏡写真、Al分布図およびO分布図から、AlとOとの存在位置が共に電子顕微鏡写真における薄膜状のものの存在位置と重なっており、皮膜の内部にAl23からなる薄膜が形成されていることを確認した。また、Fe分布図から、Feは皮膜中にはほとんど存在していない(つまり、Feはステンレス板中から皮膜へ拡散していない)ことを確認した。図4はサンプル1の場合であるが、サンプル2〜4の電子顕微鏡写真および各元素分布図についても同様であった。
したがって、サンプル1〜4の皮膜を有する金属部材をフロートバスに用いた場合、フロートバスの雰囲気中へのFeの拡散が抑制され、板ガラスの表面に欠陥を生じさせることはないと考えられる。
尚、サンプル1〜4のAl23の含有率(体積%)は、それぞれ、30.3体積%、19.8体積%、37.2体積%、25.4体積%であった。
これに対して、表5に示すように、本発明の皮膜付き金属部材に該当しないサンプル5では皮膜中のFe濃度が高くなった。皮膜の表層付近でのFe濃度も4.53質量%と高い値を示した。
また、電子顕微鏡写真から、皮膜中に薄膜が形成されていないことを確認した。また、Fe分布図から皮膜の表層部にまでFeが拡散していることを確認した。
したがって、サンプル5の皮膜を有する金属部材をフロートバスに用いた場合、フロートバスの雰囲気中へFeが拡散されて、板ガラスの表面に欠陥が生じやすいものと考えられる。
<試験2>
フロートガラス製造設備のシール用部材(SUS310S製)のフロートバス雰囲気に面する表面全体にNi−22Cr−10Al−1Y(平均粒径:約50μm)を溶射した。溶射はスルーザーメデコ社製、9MB型溶射装置を用いた大気プラズマ溶射法によって行った。溶射後に金属部材の皮膜を有する部分の中央部の任意の3点について、マイクロメーターを用いて厚さを測定したところ、平均厚さは300μmであった。
このシール用部材をフロートバスの上流付近に取り付けた。
このフロートバスは内側を耐火物で内張りした溶融スズ浴および天井から構成され、密閉構造となっており、内部はH2とN2とからなる混合ガス(H2は約5体積%)で満たされている。
ここでフロートバスに流入する溶融ガラスの温度は1300℃程度であり、下流側での板ガラスの温度は800℃程度であった。
シール用部材を取り付けた付近のフロートバス雰囲気温度は、1050℃程度であった。
このようなガラス製造設備で、液晶ディスプレイ基板用板ガラスを製造した。ガラス組成は、SiO2−Al23−B23系の無アルカリガラスであった。
このようなガラス製造設備でガラスを製造し、1ヶ月経過後にシール用部材を取り出し、皮膜断面観察を行った。具体的には、上記の試験1と同様に、断面を電子顕微鏡を用いて観察し、EDXによって断面における各元素分布を測定した。また、EDXによって断面における各元素濃度測定を行った。
その結果、上記の試験1におけるサンプル1の場合と同様の結果を得た。
なお、1ヶ月経過後であっても皮膜の剥離は生じていなかった。
また、製造した板ガラスの表面にはFeを主成分とする欠陥は生じなかった。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2008年12月16日出願の日本特許出願2008−319541に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
1 フロートバス
2 シール用部材
3 レンガ受け部材
4 アシストロールカバー
6 観察用窓
7 アシストロール
8 ガラスリボン
9 溶融スズ
10 本発明の皮膜付き金属部材
12 皮膜
14 Al23薄膜
16 金属部材

Claims (3)

  1. フロートバス雰囲気中に露出する部分を有するフロートガラス製造設備用皮膜付き金属部材であって、
    前記皮膜は平均厚さが50〜500μmであって、Niおよび/またはCoと、Crと、Al23とを主成分とし、
    前記皮膜におけるAl23含有率が5〜40体積%であり、
    前記Al23は前記皮膜内部において前記金属部材の表面方向に薄膜状に存在し、
    前記金属部材はFeを40〜98質量%含有し、前記露出する部分に前記皮膜を有するフロートガラス製造設備用皮膜付き金属部材。
  2. 請求項1に記載の皮膜付き金属部材を備えるフロートガラス製造設備。
  3. 請求項2に記載のフロートガラス製造設備を用いて板ガラスを製造するフロートガラス製造方法。
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