以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。本発明の双眼鏡は、手振れ等による観察時の振れを軽減するために、光軸(OL、OR)に対し垂直な平面内で移動可能な1対の振れ補正用レンズ群(可動レンズ群)L4L、L4Rを含む左右眼用の一対の対物光学系を有する。この他、一対の対物光学系は一対の前玉レンズL2L、L2Rと一対の固定レンズL3L、L3Rを有する。尚、対物光学系を全て振れ補正レンズ群より構成しても良い。更に、双眼鏡は左右眼用のポロ2型プリズムを含む一対の正立光学系L5L、L5Rと、左右眼用の一対の接眼光学系L6L、L6Rとを有する。一対の振れ補正用レンズ群L4L、L4Rを一体的に保持する補正レンズ保持部材32を有する。
補正レンズ保持手段32を光軸に垂直な平面内で、一対の振れ補正用レンズ群L4L、L4Rの光軸OL、ORを結ぶ方向に平行な方向を第1の方向とする。このとき第1の方向へ移動せしめる第1駆動手段(45Y、46、47)と、第1の方向に直交する第2の方向へ移動せしめる第2駆動手段(45P、46、47)とを有する。ここで第1の方向は左右方向(水平方向)である。第1、第2駆動手段は第1の方向に離間した位置に1対ずつ配置されている。具体的には、後述する図1に示すように、第1、第2駆動手段は、一対の振れ補正用レンズ群L4L、L4Rの間の領域から外れた位置(本実施形態では、振れ補正用レンズ群L4L、L4Rの左右端位置、上位置)にそれぞれ設けられる。
この他、本発明の双眼鏡は、一対の対物光学系まわりの構成を内包する外殻手段(20、21)を有する。そして外殻手段は、第2駆動手段(45P、46、47)に近接する部分に外向きに突出した突出部21L、21Rを有する。
[実施例1]
図1乃至図16は本発明を振れ補正機能を有する双眼鏡に適用した実施例の説明図である。図3、図4、図5は双眼鏡の全体構成の説明図である。図3は双眼鏡の外観斜視図であり、それぞれ一点鎖線で示すOLは左(左眼用)の対物光学系の光軸、ORは右(右眼用)の対物光学系の光軸、ELは左の接眼光学系の光軸、ERは右の接眼光学系の光軸である。左と右は双眼鏡を観察する両眼の左右とに対応させている。各部材において左眼用には符番の最後にL、右眼用には符番の最後にRを付している。また、図3は例として左右の対物光学系の光軸OL、ORの間隔と左右の接眼光学系の光軸EL、ERの間隔が同一の状態を表している。図4は図3の状態の双眼鏡で、対物光学系の左の光軸OLと接眼光学系の左の光軸ELを共に含む平面で切った双眼鏡の要部断面図である。図5は図3の双眼鏡の構成の説明を容易にするために適宜、分解して表示した分解斜視図である。
まず、図3、図4、図5を参照しながら本実施例の双眼鏡の概略構成を説明する。尚、同一部材には同一の符号が付けられている。また、双眼鏡を成す光学系は左右一対で構成されているので、図3、図4、図5では右(右眼用)の光学系が示されていない部分が一部あるが、ここでは一括して説明する。まず、光学系の構成について説明する。L1L、L1Rは左右眼用の一対の保護ガラスである。L2L、L2Rは左右眼用の一対の前玉レンズ、L3L、L3Rは左右眼用の一対の固定レンズ、L4L、L4Rは左右眼用の一対の対物光学系の一部もしくは全部よりなる左右眼用の一対の振れ補正用レンズ群であるところの左右眼用の一対の可動レンズである。前玉レンズL2L、固定レンズL3L、可動レンズL4Lの組み合わせと前玉レンズL2R、固定レンズL3R、可動レンズL4Rの組み合わせで、左右眼用の一対の対物光学系の一要素を構成している。L5L、L5Rは左右眼用の一対の正立光学系であるところの一対のいわゆるポロ2型プリズム(ポロプリズム)である。
ここで、図6を参照してポロ2型プリズムL5L、L5Rを補足説明をする。図6は一対のポロ2型プリズム(正立光学系)L5L、L5Rの斜視図である。ポロ2型プリズムL5Lは周知のように、90度の角度を成すふたつの反射面を持つ大プリズムL5Laと反射面角度が入射面に対して45度のふたつの小プリズムL5Lb、L5Lcを所定の関係で貼り合わせて構成されている。ポロ2型プリズムL5Lは左の対物光学系により結像される被写体の像を正立させると共に左の対物光学系の光軸OLを左の接眼光学系の光軸ELへ偏芯させる働きをしている。同様の働きは周知のダハプリズム、平行四辺形のプリズム、ミラー等を組み合わせて実現してもよい。ポロ2型プリズムL5Lは図4において対物光学系の左の光軸OLと接眼光学系の左の光軸ELを共に含む平面で図3の双眼鏡を切った断面図で示している。図4では左のポロ2型プリズムL5Lは図6に示すふたつの小プリズムL5Lb、L5Lcの一部のみが示されている。右のポロ2型プリズムL5Rも右の光学系に対して、左のポロプリズムL5Lと同様の作用を成すが、図6に示すように大プリズムL5Raとふたつの小プリズムL5Rb、L5Rcとの組み合わせは面対称の構成よりなっている。
再び図3、図4、図5に戻って各部材を説明する。L6L、L6Rは一対の接眼光学系であるところの左右一対の接眼レンズ群である。右の接眼レンズ群L6Rの光軸は当然、右の接眼光学系の光軸ERと同一である。以上により一対の観察光学系を構成している。続いて、メカ構成について説明する。1L、1Rは、それぞれ前玉レンズL2L、L2Rを保持する前玉鏡筒、2は一対の固定レンズL3L、L3Rと一対の可動レンズ(振れ補正用レンズ群)L4L、L4Rとを含む振れ補正ユニットである。振れ補正ユニット2の詳細については後述する。前玉鏡筒1L、1Rは振れ補正ユニット2の左右の先端部に、周知のいわゆるバヨネット結合で、それぞれ光軸方向の位置が決められる。3は位置決めピンであり、左右それぞれ2本で、前玉鏡筒1L、1Rのそれぞれの光軸が振れ補正ユニット2内の一対の固定レンズL3L、L3Rのそれぞれの光軸と一致するように位置が決められる。
図5の分解斜視図においては、前玉鏡筒1Lは振れ補正ユニット2に結合している状態であり、一方前玉鏡筒1Rは分解した状態を示している。左右それぞれ2本の位置決めピン3の内、1本は前玉鏡筒1L、1Rと振れ補正ユニット2に設けられた基準の穴部に貫通して挿入され、他方は前玉鏡筒1L、1Rに設けられた穴部と振れ補正ユニット2に設けられた溝部に挿入される。4は振れ補正ユニット2を駆動制御するための電気基板であり、振れ補正ユニット2に一体的に固定されている。5Lは左眼用の接眼レンズ群L6Lを保持する接眼鏡筒であり、右眼用の接眼レンズ群L6Rを保持する接眼鏡筒も図示しないが同様である。6L、6Rは一対のポロ2型プリズムL5L、L5Rを保持するプリズムホルダである。7Lは接眼鏡筒5Lを保持する左の接眼ホルダであり、7Rは図示しない右の接眼レンズ群L6Rを保持する接眼鏡筒を保持する右の接眼ホルダである。プリズムホルダ6L、6Rと接眼ホルダ7L、7Rはそれぞれ、一対のポロ2型プリズムL5L、L5Rと左右一対の接眼レンズ群L6L、L6Rが所定の位置関係になるようにビス等により一体化される。8L、8Rは左右の接眼鏡筒5L、5Rそれぞれに一体的に固定された目当てゴムである。一対の接眼鏡筒5L、5Rの外周壁にはオスヘリコイドネジが、接眼ホルダ7L、7Rの内周壁にはメスヘリコイドネジがそれぞれ結合するように形成されている。いずれかの接眼鏡筒5L、5Rを回転させて光軸方向に進退せしめることで左右の視度調節が可能となっている。以上の構成により一対の接眼ユニット9L、9Rを構成している。
10は一対の接眼ユニット9L、9Rを対物光学系の光軸OL、ORを軸として回転可能に支持する。そして、一対の対物光学系(L2L、L3L、L4L)(L2R、L3R、L4R)の全部を光軸方向に進退させて観察する被写体距離に応じてピント合わせを行う構成の支持部となるベース部材である。ベース部材10には高い剛性と精度が必要なので比較的厚い金属の板金などが好適である。ベース部材10には対物光学系の光軸OL、ORに垂直な部材10aに、それぞれの光軸に同軸の開口部10L、10Rが設けられ、プリズムホルダ6L、6Rにそれぞれに設けられた円筒部6La、6Raが回転可能に嵌合せしめられる。11L、11Rはプリズムホルダ6L、6Rの円筒部6La、6Raでの回転の動きを連動させるための連動板である。連動板11L、11Rには所定の位置に組み込まれることで光軸方向に付勢力を発生させる複数の腕部11Lb、11Rbがそれぞれ設けられ、ベース部材10の部材10aを挟んでプリズムホルダ6L、6Rと連動板11L、11Rとはそれぞれビスにて締結される。また、連動板11L、11Rには、それぞれギア部11La、11Raが設けられている。12L、12Rはアイドラギアであり、その回転軸はギア部11La、11Raと噛み合うようにベース部材10の部材10aに加締め等で固定される。ギア部11La、アイドラギア12L、12R、ギア部11Raとを所定の関係で噛み合わせることで、接眼ユニット9L、9Rの回転の動きを連動させることができる。
図5の分解斜視図においては、接眼ユニット9Lおよび、連動板11L、アイドラギア12Lはベース部材10の部材10aに組み込まれた状態を示している。また接眼ユニット9Rおよび、連動板11R、アイドラギア12Rは分解した状態を示している。接眼ユニット9L、9Rの接眼光学系L6L、L6Rの光軸EL、ERはポロ2型プリズムL5L、L5Rにより左右の対物光学系の光軸OL、ORに対して所定の量だけ偏芯している。このため、内向きもしくは外向きに回転させることで接眼光学系L6L、L6Rの光軸EL、ERの幅が変化する。これにより、双眼鏡を使用する観察者に固有である左右の瞳の間隔と接眼光学系L6L、L6Rの光軸EL、ERの間隔を一致させる、いわゆる眼幅調整が可能となる。10bは左右の対物光学系の光軸OL、ORに共に平行なベース部材10の平坦部であり、左右一対の対物光学系の全部を光軸方向に進退させて、観察する被写体距離に応じてピント合わせを行う構成の支持部である。
13は対物光学系が固定されるフォーカス支持部材であり、ベース部材10の平坦部10bに対してガイド機構により光軸方向に進退自在に支持および案内されている。14は送りねじである。15は送りねじ14とその後端部にて結合される操作ダイアルである。16は送りねじ14と結合された操作ダイアル15を定位置で回転可能なように支持する軸受けであり、ベース部材10の部材10aにビスにて固定される。17は送りねじ14と噛み合うラックである。18はラック17を送りねじ14に押し付けて噛み合いを維持するためのラックバネであり、ラック17とラックバネ18はビス等で一体化され、ラックバネ18はフォーカス支持部材13にビスにて固定される。
以上の構成により、操作ダイアル15を回転させることでフォーカス支持部材13を光軸方向に進退させることが出来る。左右眼用の一対の対物光学系を成す、前玉鏡筒1L、1Rがその先端部に組み込まれた振れ補正ユニット2は、4本の対物固定ビス19によりフォーカス支持部材13に一体的に固定される。すなわち、フォーカス支持部材13の光軸方向の進退に伴って、左右一対の対物光学系が全体として移動することで、観察する被写体距離に応じてピント合わせを行うことが可能となる。
20は下カバー、21は上カバーである。下カバー20と上カバー21は4本のカバー固定ビス22(1本は図示せず)により一体化される。本構成が一対の対物光学系まわりの構成を内包する外殻手段であり、上述の内部の構成を内包して保護する。下カバー20には振れ補正ユニット2を駆動制御するための電気基板4に電力を供給するための電池を収納する電池室20aを有する。また、ベース部材10は、3箇所の部位10cがそれぞれ緩衝ゴム23(1箇所は図示せず)を介して下カバー20の所定位置にビスにて固定される。上カバー21は一対の保護ガラスL1L、L1Rを保持している。24は保護ゴムであり、下カバー20と上カバー21の先端部の保護ガラスL1L、L1Rの外側を覆うことで、落下等による内部への衝撃を緩和する。25は振れ補正機能の動作の作動と不作動を切り替える操作スイッチ、26はその動作状態を表示するLEDである。尚、電力を供給されることで動作する電気基板4、操作スイッチ25、LED26等への電気的接続手段については、上述の説明では図示を省略している。
上カバー21には左右対称に突出部21L、21Rが形成されている。突出部21L、21Rは後述する振れ補正ユニット2に含まれる第1の方向に離間した位置に配置された第2の駆動手段(45P、46、47)に合わせて近接する部分を外向きに突出させている。突出部21L、21Rの間の部分は高さが低くなっており、突出部21L、21Rは双眼鏡を把持して操作するときの指掛かりの役割を果たす。本実施例の双眼鏡の外観形状は左右対称形状となっており、左右どちらの手でも同様の操作感が得られる。以上が双眼鏡の全体構成の説明である。
次に、振れ補正ユニット2の構成について図を参照しながら説明する。まず、説明する上での方向を定義する。左右の対物光学系の光軸OL、ORに垂直な平面内であって左右の光軸を結ぶ方向を横方向(第1の方向)とする。また、横方向に直交する向きを縦方向(第2の方向)とし、接眼光学系側L6L、L6Rを後ろ側、その反対を前側とする。また、図4の双眼鏡の断面図で操作ダイアル15のある側を上とし、図示している姿勢(左右の対物光学系の光軸OL、ORを含む平面が地面に対して平行の状態)を双眼鏡の使用上の正姿勢と称する。図1と図2は振れ補正ユニット2の分解斜視図であり、図1は後ろ側から、図2は前側から見た概略図である。同一部材には同一の符号が付けられている。以下、図1と図2を主に参照しながら説明する。
31はベース鏡筒であり、一対の固定レンズL3L、L3Rを保持している。32は補正レンズ保持部材であるところの可動鏡筒であり、一対の可動レンズL4L、L4Rを一体的に保持している。32Jは可動鏡筒32の連結部分であり、連結部分32Jの曲げおよび捩れ変形を生じる可撓性については後述する。33L、33Rは一対の可動レンズL4L、L4Rのそれぞれの周囲に配置された、左右それぞれ3個の支持ボールである。材質はステンレスのSUS440Cやセラミック等で、硬くて形状精度や表面仕上げの良好なボールベアリング用などは適している。SUS440Cは強磁性体であり磁石に強く引き付けられるが、セラミックは非磁性体で磁石に吸着されないので周囲の磁気により作動上の性能や組み立て性に悪影響を及ぼす場合には好適である。31aL、31aRはベース鏡筒31に設けられた左右それぞれ3個の支持ボール33L、33Rのそれぞれが底面の平面部に当接しながら転動可能な領域を制限する規制部である支持ボール収納部である。32aL、32aRは可動鏡筒32に設けられた、左右それぞれ3個の支持ボール33L、33Rが当接する支持ボール当接面である。34は縦方向ガイドである。
それぞれ2個の35b、35cは縦方向ガイドボールである。可動鏡筒32の32bはそれぞれの縦方向ガイドボール35bの為のガイド溝、32cはそれぞれの縦方向ガイドボール35cの為のガイド溝である。縦方向ガイド34の34bはそれぞれの縦方向ガイドボール35bの為のガイド溝、34cはそれぞれの縦方向ガイドボール35cの為のガイド溝である。それぞれのガイド溝の形状については別の図を参照しながら後述する。以上、可動鏡筒32と縦方向ガイド34とは、縦方向ガイドボール35b、35cをそれぞれのガイド溝32b、34bおよびガイド溝32c、34cで挟み込むことで縦方向のみに相対移動可能となっている。36は横方向ガイドであり、2個の37dと37eは横方向ガイドボールである。縦方向ガイド34の34dはそれぞれの横方向ガイドボール37dの為のガイド溝、34eは横方向ガイドボール37eの為のガイド溝である。横方向ガイド36の36dは、それぞれの横方向ガイドボール37dの為のガイド溝、36eは横方向ガイドボール37eの為のガイド溝である。それぞれのガイド溝の形状については、縦方向と同様に別の図を参照しながら後述する。
以上、縦方向ガイド34と横方向ガイド36とは、横方向ガイドボール37d、37eをそれぞれのガイド溝34d、36dおよびガイド溝34e、36eで挟み込むことで横方向のみに相対移動可能となっている。38は可動鏡筒32の位置決めの基準となる後部ベースである。後部ベース38は上部に設けた後ろ側に向いている面38aと前側に向いている面38bで、ベース鏡筒31に設けられた対応する面を光軸方向に挟み込み、2本の固定ビス39でベース鏡筒31に所定の位置で一体化される。36f、36gは横方向ガイド36の後ろ面に設けられた位置決めピンである。
後部ベース38には位置決めピン36f、36gに対応してそれぞれ、位置決め穴38f、位置決め長穴38gが若干の隙間を有する嵌合設定で設けられ、横方向ガイド36は後部ベース38に対して光軸方向へは移動自在に位置決めされる。40は左右一対に配置された光軸方向付勢バネである。光軸方向付勢バネ40は圧縮コイルバネであり、それぞれ横方向ガイド36に設けられた円形の凹部36hと後部ベース38に設けられた円形の凹部38hにそれぞれの両端の外径が規制されて収納される。光軸方向付勢バネ40は固定の後部ベース38に対して横方向ガイド36を、位置決めピン36f、36gと位置決め穴38f、位置決め長穴38gとをガイドにして光軸方向の前側に付勢している。41は回転方向付勢バネである。回転方向付勢バネ41は圧縮コイルバネであり、横方向ガイド36に設けられた円筒の突起を有する座面36iと後部ベース38に設けられた円筒の突起を有する座面38iとの間でそれぞれの円筒の突起に両端の内径が規制されて組み込まれる。回転方向付勢バネ41は固定の後部ベース38に対して横方向ガイド36を下方向に付勢している。
ここで、横方向ガイド36と後部ベース38との組み込み時の関係について、図7(a)と図7(b)を参照して更に説明する。図7(a)と図7(b)はそれぞれ、横方向ガイド36と後部ベース38の組込み状態での斜視図であり、図7(a)は前側から、図7(b)は後ろ側から見た図である。回転方向付勢バネ41以外は不図示であり、光軸方向付勢バネ40は内部に組み込まれている。同一部材、同一部分には同一の符号が付けられている。
図7(a)に示すように、横方向ガイド36と後部ベース38との所定の組み込み状態では回転方向付勢バネ41の取り付け座面である座面36iと座面38iはほぼ上下方向で対向しており、回転方向付勢バネ41は横方向ガイド36を下方向に付勢している。また、図7(b)に示すように、横方向ガイド36を光軸方向にガイドしている位置決めピン36f、36gは回転方向付勢バネ41の付勢力により矢印A−A方向に位置決め穴38f、位置決め長穴38gに押し付けられて回転方向の姿勢が規制されている。
再び、図1と図2に戻って説明を続ける。42mは振れ補正ユニット2に搭載されている後述する電気的素子と図5にて説明した電気基板4とを電気的に接続するためのフレキシブル基板の一部である。42cは電気基板4上に実装されたコネクタ(不図示)への差込み部である。43はフレキシブル基板42m部を固定するためのフレキ押え板である。44は左右一対の可動鏡筒付勢バネである。可動鏡筒付勢バネ44は引っ張りコイルバネであり、両端のフックはそれぞれ可動鏡筒32の引っ掛け部32dとベース鏡筒31の引っ掛け部31dとにそれぞれ引っ掛けられ、ベース鏡筒31に対して可動鏡筒32を前方向に引っ張っている。可動鏡筒付勢バネ44の具体的な作用については後述する。
続けて、左右一対の可動レンズL4L、L4Rを一体的に保持している可動鏡筒(補正レンズ保持部材)32を光軸と垂直な平面内で任意の方向に移動可能にする為の駆動手段と位置検出手段について説明する。45Pは上下方向(第2の方向)の駆動力を発生させるための一対の駆動コイル(第2の駆動手段)、45Yは左右方向(第1の方向)の駆動力を発生させるための一対の駆動コイル(第1の駆動手段)である。それぞれの駆動コイル45P、45Yは可動鏡筒32に接着等で一体化されている。42L、42Rはフレキシブル基板の一部であり、説明の都合で切れた状態で図示しているがフレキシブル基板42mとは一体である。フレキシブル基板42Lには左側の駆動コイル45P、45Yが、フレキシブル基板42Rには右側の駆動コイル45P、45Yが接続されており、フレキシブル基板42mの差込み部42cを介して電気基板4から電力が供給される。
46は駆動磁石であり、47は駆動磁石46の発生する磁束を閉じて磁気回路を形成するための駆動ヨークである。駆動磁石46は双眼鏡の断面図である図4に示すように、駆動コイル45Pの駆動力の発生方向である上下方向に光軸方向の磁極の向きであるNSが上下で逆になるように2極に着磁されている。駆動ヨーク47は駆動磁石46の背面ヨークであるヨーク部47aと駆動コイル45Pにて駆動力を得る為の空気層を形成する対向ヨークであるヨーク部47bより成る。駆動コイル45Yに対しては、図1および図2で示すように駆動磁石46および駆動ヨーク47は横向きにベース鏡筒31に配置され、それぞれの駆動ヨーク47はそれぞれ固定ビス48にてベース鏡筒31の所定の位置に固定される。駆動コイル45Pに対しては駆動磁石46、駆動ヨーク47は90度回転した状態に固定されている。
以上の組み合わせにより駆動手段を構成している。左右方向が第1の方向、上下方向が第2の方向であり、それぞれの方向に駆動力を発生させる駆動手段の組み合わせが、それぞれ、第1駆動手段(45Y、46、47)および第2駆動手段(45P、46、47)である。第1、第2駆動手段は左右対称に第1の方向(横方向)に離間した位置に1対ずつ配置されている。
次に位置検出手段について説明する。49Pは上下方向の位置情報を供給するセンサ磁石セット、49Yは左右方向の位置情報を供給するセンサ磁石セットである。それぞれの裏面にはセンサバックヨーク50P、50Yが配置されており、可動鏡筒32を前側と後側から磁気的吸着力で挟み込むことで、可動鏡筒32に固定されている。上下方向の位置情報を供給するセンサ磁石セット49Pは2個の磁石よりなり、それぞれは横方向に幅の広い直方体の同じ形状の磁石であり、光軸方向に着磁された磁束の方向が逆になるように配置されている。
図2においては、表面の磁極は上の磁石がN極、下の磁石がS極になっている。また、それぞれのセンサ磁石セット49Pの裏面はセンサバックヨーク50Pにより磁路が閉じられている。センサ磁石セット49Yも同じ構成のものが90度の角度で配置されており左右方向の位置情報を供給する。51Pは可動鏡筒32の上下方向の位置を検出するホール素子、51Yは左右方向の位置を検出するホール素子である。42Hはフレキシブル基板の一部であり、説明の都合で切れた状態で図示しているがフレキシブル基板42mとは一体である。ホール素子51P、51Yはフレキシブル基板42mの一部42Hに実装されている。52はホール素子位置決め板金であり、フレキシブル基板42mの一部42Hを押さえ、開口部52P、52Yでホール素子51P、51Yを位置決めした状態で4本の固定ビス53によりベース鏡筒31に固定される。以上により、上下および左右方向の位置検出手段を構成している。
本実施例では、上下方向および左右方向の第1、第2の駆動手段(45Y、46、47)(45P、46、47)がそれぞれ左右対称位置(第1方向に対称位置)に1対ずつ配置されている。可動鏡筒32の上下および左右方向の位置検出手段はそれぞれに一組を有しており、位置検出手段の出力に従って上下方向および左右方向の駆動手段への発生力が制御される。上下方向の駆動力を発生させるための一対の駆動コイル45Pおよび左右方向の駆動力を発生させるための一対の駆動コイル45Yの2個の駆動コイル(45P、45Y)がフレキシブル基板でそれぞれ直列に接続されている。2個の駆動コイル(45P又は45Y)に同一の電流が流れることで二組の駆動手段に同一の駆動力が発生する。可動鏡筒32は一対の可動レンズL4L、L4Rを一体的に保持しており、左右に長い形状をしている。上下方向(第2の方向)の駆動手段(45P、45Y)を左右対称に水平方向(第1の方向)に離間して配置する。これにより、可動鏡筒32に一体的に固定されている他の部材も含めた可動物体の重心を間において両側に駆動力を作用させることでスムーズな駆動が実現できる。
また、上下方向の駆動では、左右方向の駆動に対して、駆動手段の発生力に自重分の余裕が必要である。一組の駆動手段で構成すると必然的に大きなものとなってしまう。二組で構成して左右対称位置に配置することで、他の構成要素も含めて効率的なスペース配分とすることができる。図2において、54は一対の自重支持バネである。自重支持バネ54は引張りコイルバネであり、それぞれの両端は、縦方向ガイド34のフック34fと可動鏡筒32のフック32fに引っ掛けられている。縦方向ガイド34は横方向ガイド36に対して横方向のみに相対移動可能であり、横方向ガイド36は後部ベース38に対して光軸方向の前後方向にのみ相対移動可能である。
つまり、自重支持バネ54によって、縦方向ガイド34に対して可動鏡筒32を上方向に引き上げることが出来る。可動鏡筒32には一対の可動レンズL4L、L4R、駆動コイル45P、45Y、センサ磁石セット49P、49Y、センサバックヨーク50P、50Yなどが一体化されている。これらの可動する部分の重さに対して自重支持バネ54を双眼鏡の使用上の正姿勢において、上下方向の可動中心位置近傍に釣り合うように設定することで、通常使用状態において、駆動コイル45Pに供給する電力を大幅に削減することが容易となる。ただし、真上や真下を観察することもあり、その場合には、自重は作用しないが自重支持バネ54を自重分だけ引っ張らなければならないので、発生力の自重分の余裕は必要である。
以上が可動鏡筒32を光軸と垂直な平面内で任意の方向に移動可能とする構成であるが、振れ補正機能の非作動時には可動鏡筒32は所定の位置に機械的に保持される。60は機械的なロック機構であるメカロックユニットである。メカロックユニット60の構成の詳細と作用については後述する。以下に続けて、図1、図2に示した支持ボール、縦および横方向ガイドボールとそれぞれのボールと関連する部品との関係について説明する。
図8は支持ボール33L、33Rに対する付勢力との関係の説明図である。一対の光軸方向付勢バネ40は後部ベース38と横方向ガイド36の間で圧縮されて、光軸方向の付勢力を発生させている。その付勢力は横方向ガイド36から横方向ガイドボール37d、37eを介して縦方向ガイド34に作用し、更に、縦方向ガイドボール35b、35cに伝えられる。つまり、可動鏡筒32は直接的には縦方向ガイドボール35b、35cにより光軸方向に付勢されている。具体的には、その合力は一対の光軸方向付勢バネ40の中心を結ぶ線Aと2個の縦方向ガイドボール35bを結ぶ線BLおよび2個の縦方向ガイドボール35cを結ぶ線BRとの交点であるCLおよびCRの位置に作用している。
更に、可動鏡筒32は一対の可動鏡筒付勢バネ44により光軸の前方向に引っ張られている。その合力は、交点CL、CRとそれぞれの可動鏡筒付勢バネ44の中心を結ぶ線上のDLおよびDRの位置に作用する。DLおよびDRの位置は、左右それぞれ3個の支持ボール33L、33Rがそれぞれ作る三角形の領域の内部であり、三角形の重心位置付近に設定するとそれぞれの支持ボールに作用する力をより均等にすることが出来る。ただし、可動鏡筒付勢バネ44は左右別の付勢力の作用位置をより適正化する為に付加したものであり、支持ボール33L、33R、縦方向ガイドボール35b、35cおよび光軸方向付勢バネ40の配置の適正化により廃止することも可能である。振れ補正ユニット2の構成について上述したように、可動鏡筒32は一対の可動レンズL4L、L4Rを一体的に保持する為に連結部分32Jで繋がった形状となっている。
可動レンズL4Lに対して周囲に設けた3箇所の支持ボール当接面32aLの光軸方向の高さを必要な機械的精度で揃えることは比較的に容易である。3箇所の支持ボール当接面32aLの高さを全て同じにする必要はなく、相対する固定レンズL3Lとのレンズ間隔と相対倒れが光学性能的に許容出来る範囲内に収まればよい。逆に、3箇所の支持ボール当接面32aLの高さを全て同じにすることは極めて困難である。可動レンズL4Rに対する支持ボール当接面32aRについても同様である。また、ベース鏡筒31についても、固定レンズL3Lに対して周囲に設けた3箇所の支持ボール収納部31aLの底面のボール当接面の光軸方向の高さ、およびに、固定レンズL3Rに対する支持ボール収納部31aRについても同様である。
よって、6個の支持ボールと支持ボールの受け面である支持ボール当接面32aL、32aR、31aL、31aRは、それぞれの部材を所定の位置に組み込んでも、付勢力を作用させなければ全ての当接面が支持ボールと当接する状態になることは極めて稀である。仮に、可動鏡筒32が全体として非常に剛性が高く、どこも変形しなければ、付勢力が作用しても6個の支持ボールの内、3個の支持ボールのみが当接することになる。
このような状態では、可動鏡筒32の移動する位置により、当接する3個の支持ボールが変化する可能性もあり、光軸方向のガタつきの原因になりかねない。しかし、可動鏡筒32は少なくとも曲げおよび捩れ変形を生じる可撓性を有する連結部分32Jを介して左右一対の可動レンズL4L、L4Rを保持している。連結部分32Jが光軸方向付勢バネ40および可動鏡筒付勢バネ44による付勢力で変形することで、左右それぞれ3個の支持ボール33L、33Rとベース鏡筒31および可動鏡筒32との当接状態が維持可能となる。その結果、固定レンズL3Lと可動レンズL4Lおよび固定レンズL3Rと可動レンズL4Rは、それぞれ3個の支持ボール33L、33Rにてレンズの間隔と相対倒れが、それぞれ所定の状態に保たれる。
図9(a)と図9(b)は可動鏡筒32の連結部分32Jの可撓性を説明する図である。図9(a)は可動鏡筒32の連結部分32Jの曲げ変形を説明する斜視図、図9(b)は可動鏡筒32の連結部分32Jの捩れ変形を説明する斜視図である。図9(a)において、A9は連結部分32Jが曲げ変形をすることにより生じる、矢印B9および矢印C9方向の一対の可動レンズL4L、L4Rの倒れの仮想中心軸である。逆方向の変形も同様である。図9(b)において、D9は連結部分32Jが捩れ変形をすることにより生じる、矢印E9および矢印F9方向の一対の可動レンズL4L、L4Rの相対捩れの仮想中心軸である。同じく逆方向の変形も同様である。実際には、曲げ変形と捩れ変形が複合して生じることで、左右それぞれ3個の支持ボール33L、33Rとベース鏡筒31および可動鏡筒32との当接状態の維持が可能となる。
図10(a)、(b)は支持ボール33L、33Rとベース鏡筒31および可動鏡筒32との関係を示す説明図である。図10(a)、図10(b)において、支持ボール33L(33R)とベース鏡筒31に設けられた支持ボール収納部31aL(31aR)と可動鏡筒32に設けられた支持ボール当接面32aL(32aR)は付勢力により互いに当接した状態を表している。括弧内の添え字Rを付した右側の構成も以下同様である。図10(a)は支持ボール33Lが支持ボール収納部31aLの転動可能な領域を制限する規制部のほぼ中央に位置し、可動鏡筒32も移動可能な範囲の中央にある状態を示している。図10(b)は図10(a)の位置から可動鏡筒32が矢印A10で示す右方向に移動した状態である。このとき、支持ボール33Lは上下の面に当接しているので摩擦力により矢印B10の方向に滑らずに転がることになる。二点鎖線で示す円は図10(a)で示す支持ボール33Lの位置である。つまり、可動鏡筒32の駆動に伴う抵抗は、滑り摩擦ではなく転がり摩擦である。転がり摩擦の大きさはボールの直径や、ボールおよび受け面の表面粗さや硬度により変化するが、滑り摩擦に対しては少なくとも10分の1以下程度であり、微小量の駆動に対して有利である。
次に、光軸に対して垂直な面内での可動鏡筒32の回転の防止について説明する。既に説明したように、可動鏡筒32と縦方向ガイド34とは縦方向ガイドボール35b、35cをそれぞれのガイド溝32b、34bおよびガイド溝32c、34cで挟み込むことで縦方向のみに相対移動可能となっている。また、縦方向ガイド34と横方向ガイド36とは横方向ガイドボール37d、37eをそれぞれのガイド溝34d、36dおよびガイド溝34e、36eで挟み込むことで横方向のみに相対移動可能となっている。更に、ベース鏡筒31に一体化される後部ベース38に設けられた位置決め穴38f、位置決め長穴38gと横方向ガイド36に設けられた位置決めピン36f、36gと回転方向付勢バネ41により、横方向ガイド36の回転方向の姿勢が規制されている。以上の構成により、光軸に対して垂直な面内で、可動鏡筒32は回転すること無しに、縦および横の任意の方向に移動が可能となっている。
図11(a)、(b)、(c)はガイドボール35bとガイド溝32b、34bの形状と関係を示す説明図である。図11(a)は縦方向の相対移動を案内している、縦方向ガイドボール35bとガイド溝32bおよびガイド溝34bの断面図である。紙面に対して垂直方向が相対移動を案内している方向である。括弧内は横方向の相対移動を案内している、横方向ガイドボール37dとガイド溝34dおよびガイド溝36dである。構成は同一なので縦方向について説明する。ガイド溝32bおよびガイド溝34bの断面は図示するように、共に角度θの斜面を持ち、案内方向に同一の形状を有している。縦方向ガイドボール35bは、光軸方向付勢バネ40(図1)の付勢力によりガイド溝32bおよびガイド溝34bの角度θの斜面に挟み込まれることで、案内方向とは直角方向のガイド溝32bおよびガイド溝34bの動きを規制している。
図11(b)、図11(c)は縦方向ガイドボール35bとガイド溝32bおよびガイド溝34bの案内方向の構成を説明する概念図である。ガイド溝32bおよびガイド溝34bで示している直線は、図11(a)にて説明した、ガイド溝の角度θの斜面と縦方向ガイドボール35bとが接している部分を表している。ガイド溝32bおよびガイド溝34bは案内方向の両端に縦方向ガイドボール35bの転動可能な領域を制限する規制端部32bw、34bwをそれぞれ有している。図11(b)は縦方向ガイドボール35bがガイド溝32bおよびガイド溝34bの転動可能な領域を制限する規制端部32bw、34bwのほぼ中央に位置し、可動鏡筒32も移動可能な範囲の中央にある状態を示している。図11(c)は図11(b)の位置から可動鏡筒32が矢印A11で示す方向に移動した状態である。このとき、縦方向ガイドボール35bは上下の角度θの斜面に当接しているので摩擦力により矢印Bの方向に滑らずに転がることになる。二点鎖線で示す円は図11(b)で示す縦方向ガイドボール35bの位置である。
以上の縦方向ガイドボール35bとガイド溝32bおよびガイド溝34bの組み合わせでの案内構成は縦方向に距離を隔てて2組配置してあるので、可動鏡筒32と縦方向ガイド34とは、ガタなく縦方向のみの相対移動が可能となっている。横方向ガイドボール37dとガイド溝34dおよびガイド溝36dも同様の案内構成で横方向に距離を隔てて2組配置してあり、縦方向ガイド34と横方向ガイド36とは、ガタなく横方向のみの相対移動が可能となっている。
図12はガイドボール35cとガイド溝32cの形状と関係を示す説明図である。縦方向の相対移動を支持している、縦方向ガイドボール35cとガイド溝32cおよびガイド溝34cの断面図である。紙面に対して垂直方向が相対移動している方向である。括弧内は横方向の相対移動を支持している、横方向ガイドボール37eとガイド溝34eおよびガイド溝36eである。ガイドボール35cを受けている面の形状は同一なので縦方向について説明する。ガイド溝32cの断面は図示するように、大きな角度φの斜面を持ち、ガイド溝34cの底面は平面であり、移動方向に同一の形状を有している。縦方向ガイドボール35cは光軸方向付勢バネ40の付勢力によりガイド溝32cの大きな角度φの斜面とガイド溝34cの平面に挟み込まれることで、縦方向ガイド34を可動鏡筒32上に支持している。縦方向ガイドボール35cとガイド溝32cおよびガイド溝34cの移動方向の様子は、図11(b)、図11(c)に示す、縦方向ガイドボール35bとガイド溝32bおよびガイド溝34bの案内方向とほぼ同様なので説明図は省略する。
可動鏡筒32と縦方向ガイド34との縦方向の相対移動は、縦方向ガイドボール35bとガイド溝32bおよびガイド溝34bの2組の組み合わせでガタなく案内されている。したがって、縦方向ガイドボール35cに対してガイド溝34cの底面を平面にすることで過剰な規制を避けている。また、ガイド溝32cの大きな角度φの斜面は縦方向ガイドボール35cの側壁への不要な接触を避ける為に設けている。縦方向ガイドボール35cとガイド溝32cおよびガイド溝34cによる支持構成は縦方向ガイドボール35bとガイド溝32bおよび34bの組み合わせでの案内構成と同様に、縦方向に距離を隔てて2組配置してある。
上述したガイドボール35cとガイド溝32cによる可動鏡筒32の回転を防止する構成はすべてガイドボールの転がりにより案内されており、微小量の駆動に対して有利である。
以上の説明において、それぞれのガイドボールとガイドボールの転がり範囲を規制する部分との位置関係は、ガイドボールと移動する部材が共に移動可能な範囲の中央にある状態を初期状態として説明した。このとき、ガイドボールの転がりを規制する部分は移動する部材が移動可能な全域を移動してもボールが規制する部分に当たらない大きさを有するように設定している。
しかし、実際の組み込み状態では、初期状態でいずれかのガイドボールの初期位置がずれている場合が考えられる。この場合には、移動する部材を移動可能な全域で、一旦動かせば、その過程でボールが規制する部分に当たって転がれなくなると滑りが生じ、移動する部材を初期の位置に戻せば、図10(a)や図11(b)の状態にすることが可能である。ガイドボールとガイドボールが当接している面に適度な粘度を有する潤滑油を塗布しておくのが良い。これによれば転がれなくなった状態での滑りが容易になると同時に、光軸方向への衝撃等により当接面への付勢力が一瞬失われても油の粘着力によりガイドボールの位置ずれを防止する効果がある。
次に、機械的なロック機構60の構成と作用について、図13と図14(a)、(b)を用いて説明する。図13はメカロックユニット(ロック機構)60と可動鏡筒32の分解斜視図である。図14(a)、(b)は振れ補正ユニット2の左右の対称面での断面図であり、図14(a)はロック状態、図14(b)はロック解除状態の説明図である。
61は光軸方向へ移動可能に支持されたロックスライダーである。62は光軸方向へ移動可能に配置されたプランジャである。63はラッチソレノイドであり、周知のステータヨークと永久磁石およびコイルにより構成されている。プランジャ62とラッチソレノイド63の組み合わせによりロック機構を駆動する。64はロックレバー、65はロックレバー64の揺動の中心を成す回転ピン、66はカウンターウエイト、67はカウンターウエイト66をロックスライダー61と一体化するための固定ビス、68はロック解除バネであり左右対称位置に2個配置されている。ロック解除バネ68は圧縮コイルバネであり、ロックスライダー61を矢印A13方向に常に付勢している。69はメカロックベース、ラッチソレノイド63はメカロックベース69に2本のビスにて固定されている。更に、メカロックベース69は2本のビス71でベース鏡筒31に位置決めの上で固定されている。ロックスライダー61の前後端部は円筒部61aと円筒部61bより成り、円筒部61aはメカロックベース69の穴部69aに、円筒部61bはベース鏡筒31の穴部31lにそれぞれ嵌合しており、光軸方向に移動可能となっている。プランジャ62はラッチソレノイド63の内部に設けられた円筒状の収納部で光軸方向に移動可能となっており、ラッチソレノイド63のステータヨークと永久磁石が構成する磁気回路の一部を成し、材質は透磁率の高い鉄などである。
図14(a)では上述の磁気回路が閉じている状態であり、図14(b)ではプランジャ62はロック解除バネ68の力で引き出されて、ラッチソレノイド63の内部で先端部62aに磁気回路の空隙が生じて引き込み力が小さい状態で保持されている。回転ピン65はロックレバー64の穴部64aを貫通し、その両端部がベース鏡筒31の所定の位置に固定されており、ロックレバー64を揺動可能に支持している。プランジャ62の端部には溝部62bを有し、ロックレバー64の端部の円筒部64bと若干の隙間を持って係合している。ロックレバー64の他端部64cはその先端R部がロックスライダー61の円筒部61bの上部に設けた溝部61cに嵌り込んでおりロック解除バネ68の付勢力により端面に当接している。更に、ロックスライダー61の円筒部61bの内部には穴部61lが設けられ、可動鏡筒32には左右の対称面位置に円筒凸部32lが設けられている。
図14(a)はプランジャ62とラッチソレノイド63で磁気回路が閉じた自己保持の状態であり、ロックスライダー61の穴部61lは可動鏡筒32の円筒凸部32lと係合してロック状態である。プランジャ62とラッチソレノイド63の自己保持力は大きいのでロック解除バネ68の力ではプランジャ62をラッチソレノイド63から引き出すことは出来ずロック状態はコイルへの通電なしで維持される。図14(a)の状態で、ラッチソレノイド63のコイルに、プランジャ62を自己保持状態にしている永久磁石が発生する磁気回路内の磁束をキャンセルする方向の通電をすると、プランジャ62は自己保持力を失い光軸方向に移動可能な状態になる。このとき、ロックスライダー61はロック解除バネ68の力で光軸の前方向へ移動し、ロックスライダー61の穴部61lと可動鏡筒32の円筒凸部32lの係合状態は解除されロック解除状態となる。同時に、ロックスライダー61はロックレバー64を介してプランジャ62をロックスライダー61の動きとは逆方向の光軸の後ろ方向へ移動させ、プランジャ62はベース鏡筒31の所定の壁に当接した図14(b)のロック解除状態へ移行する。この状態でラッチソレノイド63のコイルへの通電を停止しても、ロック解除バネ68がロックレバー64を介してプランジャ62に及ぼす力がラッチソレノイド63の収納部へプランジャ62が引き込まれる力に勝っているのでロック解除状態が維持される。
図14(b)の状態で、ラッチソレノイド63のコイルに、磁気回路内に永久磁石が発生する磁束と同方向の磁束を発生する通電をし、プランジャ62に働く引き込み力がロック解除バネ68の力に勝ると図14(a)のロック状態へ移行する。ラッチソレノイド63のコイルへの通電が停止されてもロック状態は維持される。尚、ロック状態への移行時には、ラッチソレノイド63のコイルへの通電に先立って、ロックスライダー61の穴部61lと可動鏡筒32の円筒凸部32lとが係合可能なように可動鏡筒32は所定の位置へ移動後にその位置が維持される。ここで、外部から衝撃力が加えられた場合のロック機構の挙動について説明する。まず、図14(b)のロック解除状態の無通電時に光軸の後ろから前方向(図の右から左の方向)に衝撃による加速度が加えられた場合について説明する。
既に説明したようにプランジャ62の材質は磁気回路の一部を成すが故に透磁率の高い鉄などであり密度が高く大きさに対する質量は大きく、加速度に比例して大きな力を受ける。ロック解除バネ68がロックスライダー61に及ぼす力は、無通電状態でプランジャ62がラッチソレノイド63の収納部へ引き込まれる力に勝る程度に設定してあるので、仮にプランジャ62が自己保持の位置に移動してしまうとロック状態に移行してしまう。
しかし、ロックスライダー61にはカウンターウエイト66が固定ビス67で一体化されており、受けた加速度に対してプランジャ62と同一方向に力が作用する。プランジャ62とロックスライダー61はロックレバー64によって連結されている。従って、それぞれがロックレバー64の揺動中心に対して及ぼすモーメントおよびロックレバー64そのものに働くモーメントの総和が零ならば、ロックレバー64は回転せずロック解除状態は維持される。ロックスライダー61は色々な機能を果たすために複雑な形状をしているので合成樹脂の成型品は好適である。
合成樹脂は鉄に比べると密度がそれほど高くないので、プランジャ62の質量とのバランスを限られたスペースで取るにはカウンターウエイト66は例えば真鋳のような比較的密度の高い金属が好適である。逆に光軸の前から後ろ方向(図の左から右の方向)に衝撃による加速度が加えられた場合では、プランジャ62は力の作用する方向で既にベース鏡筒31に当接しているのでロックレバー64と共に状態を維持する。ロックスライダー61は本実施例ではロック解除バネ68によりロックレバー64に当接する構成である。したがって、一旦、光軸の後ろ方向(ロックする方向)に加速度による力で移動するが、加速度がなくなればロック解除バネ68の力により元の位置に復帰してロック解除状態は維持される。
次に図14(a)のロック状態の無通電時に光軸の後ろから前方向(図の右から左の方向)に衝撃による加速度が加えられた場合について説明する。図14(b)の場合と同様にロックレバー64に作用するモーメントの総和が零でロック状態が維持される。逆方向の光軸の前から後ろ方向(図の左から右の方向)の衝撃による加速度の場合では、プランジャ62の自己保持力よりも大きな力が作用する加速度の大きさではプランジャ62とロックレバー64はロック解除方向に一旦、移動する。しかし、このときロックレバー64はロックスライダー61とは当接していないのでロック解除バネ68の力は作用しておらず、加速度がなくなればプランジャ62は自己保持の位置へ引き込まれロック状態は維持される。
本実施例では組み立て性を良くする目的で、ロックレバー64はロックスライダー61とは一方向のみ当接する構成としているが、プランジャ62とロックレバー64の溝部62bと円筒部64bとの係合部と同様の構成で係合させてもよい。その構成では、上述した光軸に沿った加速度の片方の方向でロックスライダー61もしくはプランジャ62に生じる単独の動きは、ロックレバー64を介して係合している他方の部材に働く力でバランスが取られることで妨げられる。
加えられる加速度については光軸方向について説明したが、プランジャ62とロックスライダー61は共に光軸方向にのみ移動可能に支持されているので、任意の方向の加速度に対しては光軸方向のベクトル成分が上述の作用を及ぼすことになる。また、加速度が加わる瞬間は図14(a)のロック状態および図14(b)のロック解除状態のコイルに通電していない場合について説明した。しかし、コイルに通電もしくは逆方向に通電することでロック状態とロック解除状態の双方向へ移行する瞬間に外部から加速度が加わる場合にも、加速度がロックレバー64に及ぼすモーメントは釣合っているので、安定した移行動作が可能となる。更に、地球の重力も加速度そのものなので、加速度の方向、すなわち、装置の姿勢によらず安定したロックおよびロック解除動作が可能である。
図15は振れ補正ユニット2に電気基板4がビスにて一体的に固定されている状態での斜視図である。図16は振れ補正ユニット2と電気基板4の分解斜視図である。電気基板4は振れ補正ユニット2を駆動制御する。電気基板4に実装されている4a、4bは角速度を検出するセンサであり、例えば振動ジャイロである。振動ジャイロ4aは縦方向(第2の方向)の像振れの原因となるピッチング方向の角速度を検出し、振動ジャイロ4bは横方向(第1の方向)の像振れの原因となるヨーイング方向の角速度を検出する。4cはマイクロコンピュータであり、振動ジャイロ4a、4bのピッチング方向およびヨーイング方向の角速度の情報に基づいて、可動鏡筒32を縦および横方向に移動させて双眼鏡の像振れを適切に補正する。
本実施例では、可動鏡筒32の回転を機械的な構成で完全に防止し、縦および横方向にのみ移動可能としている。したがって、可動鏡筒32の位置検出手段はそれぞれに一組を任意の位置に配置することで振れ補正機能を実現できる。
本発明の双眼鏡が適用可能な他の実施形態としては次のような構成でも良い。例えば、上下方向の駆動力を発生させるための左右一対の駆動コイル45Pの中央部にホール素子をそれぞれ配置する。そして、それぞれの駆動磁石46の2極の着磁境界を検出することで、センサ磁石セット49Pとホール素子51Pと同等の位置検出手段を構成する。左右方向に離間して配置した上下方向の駆動手段と、駆動手段に一体的に構成したそれぞれの位置検出手段を用いて、それぞれを同期して駆動制御する。これにより、可動鏡筒32の回転を防止しながら、縦および横方向に移動させることができる。
本構成では可動鏡筒32の回転を完全に防止する機械的な構成を省略することが出来る。横方向の駆動手段および位置検出手段については任意に構成できる。また、ロック機構はロック状態では可動鏡筒32が回転しない構成にすることが必要である。例えば、係合する円筒凸部と穴部を二組としロックスライダー61光軸方向に移動可能に支持すると同時に光軸まわりの回転を規制することで実現できる。
以上のように本実施例によれば、第1、第2駆動手段を第1の方向に離間した位置に1対ずつ二組を配置することで、双眼鏡としてのスペース効率が良く、安定した駆動が可能な振れ補正機能を有する双眼鏡が得られる。以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。