本明細書では、中心軸J1方向における上側を単に「上側」と呼び、下側を単に「下側」と呼ぶ。なお、本発明の説明において、各部材の位置関係や方向を上下左右で説明するときは、あくまで図面における位置関係や方向を示し、実際の機器に組み込まれたときの位置関係や方向を示すものではない。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の例示的な第1の実施形態に係るスピンドルモータ(以下、単に「モータ」という)を備えるディスク駆動装置1の縦断面図である。ディスク駆動装置1は、いわゆるハードディスク駆動装置である。ディスク駆動装置1は、例えば、情報を記録する3枚の円板状のディスク11と、モータ12と、アクセス部13と、ハウジング14と、を備える。モータ12は、ディスク11を保持しつつ回転する。アクセス部13は、ディスク11に対して、情報の読み出しおよび/または書き込みを行う。
ハウジング14は、無蓋箱状の第1ハウジング部材141と、板状の第2ハウジング部材142と、を備える。第1ハウジング部材141の内側には、モータ12およびアクセス部13が収容される。ディスク駆動装置1では、第1ハウジング部材141に第2ハウジング部材142が組み合わされて、ハウジング14が形成される。ディスク駆動装置1の内部空間は、塵や埃が極度に少ない清浄な空間となっている。
3枚のディスク11は、クランパ151とスペーサ152により、中心軸J1方向に等間隔にモータ12のロータハブに固定される。アクセス部13は、6つのヘッド131と、6つのヘッド131を支持する6つのアーム132と、ヘッド移動機構133と、を有する。ヘッド131はディスク11に近接して、情報の読み出しおよび/または書き込みを磁気的に行う。ヘッド移動機構133は、アーム132を移動することにより、ヘッド131をディスク11に対して相対的に移動させる。これらの構成により、ヘッド131は、回転するディスク11に近接した状態にて、ディスク11の所要の位置にアクセスし、情報の読み出しおよび/または書き込みを行う。
図2は、モータ12の縦断面図である。モータ12は、アウタロータ型のモータである。モータ12は、固定組立体である静止部2と、回転組立体である回転部3と、流体動圧軸受機構4(以下、「軸受機構4」という)と、を備える。回転部3は、軸受機構4を介してモータ12の中心軸J1を中心に、静止部2に対して回転可能に支持される。
静止部2は、略板状のベース部21と、ステータ22と、を有する。ベース部21は、図1の第1ハウジング部材141と一つながりの部材として形成される。ベース部21の底面には、図示省略の回路基板が取り付けられる。ステータ22は、ベース部21の円筒状のホルダ211の周囲に固定される。ステータ22は、ステータコア221と、ステータコア221上に形成された複数のコイル222と、を備える。ステータコア221は、積層鋼板にて形成される。ホルダ211の内側には孔部が形成され、孔部には軸受機構4の下部が固定される。
回転部3は、環状のロータハブ31と、円筒状のヨーク32と、ロータマグネット33と、を有する。ヨーク32は、ロータハブ31の径方向外側の端部から下方に伸びる。ロータマグネット33は、ヨーク32の内側に固定される。ロータマグネット33は、ステータ22と中心軸J1を中心とする径方向(以下、単に「径方向」という)に対向し、ステータ22との間にてトルクが発生する。
図3は軸受機構4を示す図である。軸受機構4は、シャフト41と、有底略円筒状のブッシュ42と、スリーブ43と、シールキャップ44と、潤滑油45と、を備える。シャフト41を中心軸J1に垂直な面で切断した断面は円形であり、シャフト41の直径は2〜5mm程度である。ブッシュ42は、磁性材料をプレス加工することにより成型される。これにより、ブッシュ42は安価に製造される。ブッシュ42の内側には、潤滑油45が保持される。ブッシュ42の下部は、図2のホルダ211の内側に固定される。
軸受機構4では、スリーブ43として、焼結スリーブが利用される。スリーブ43は、ブッシュ42の円筒部の内側面に固定され、スリーブ43の内側には、シャフト41が挿入される。シャフト41の下部には、環状のスラストプレート412が設けられる。スラストプレート412の下面には、図示省略のスパイラル状のスラスト動圧溝部が形成される。シールキャップ44は、ブッシュ42の内側においてスリーブ43の上方に配置される。シールキャップ44の内側面は、シャフト41の外側面411に対して傾斜する。
モータ12では、スリーブ43の内側面431とシャフト41の外側面411との間のラジアル間隙51、および、スリーブ43の下面432とスラストプレート412の上面との間の第1スラスト間隙52に、潤滑油45が連続して充填される。さらに、ブッシュ42の内側面の下部とスラストプレート412の外周面との間の間隙、および、ブッシュ42の内底面とスラストプレート412の下面との間の第2スラスト間隙53にも、潤滑油45が連続して充填される。シールキャップ44の内側面とシャフト41の外側面411との間には、上方に向かって幅が漸次増大するテーパ状の間隙54が設けられ、間隙54にてテーパシールが形成される。これにより、軸受機構4内からの潤滑油45の流出が防止される。
図4は、スリーブ43の底面図である。図5は、スリーブ43の縦断面図であり、内側面431の形状も示している。図4に示すように、スリーブ43の下面432には、スパイラル状の10本のスラスト動圧溝部61が形成される。図4では、スラスト動圧溝部61をクロスハッチングにて示している。以下の他の図においても、動圧溝を同様の手法にて示している。図4および図5に示すように、スリーブ43の外側面433には、溝状の5本の連通部62が、中心軸J1を中心とする周方向(以下、単に「周方向」という)に等間隔に設けられる。連通部62は、スリーブ43の下端から上端まで中心軸J1に平行に伸びる。スラスト動圧溝部61の動圧溝本数は10本に限定されない。
図5に示すスリーブ43の内側面431の上部および下部には、上部溝群63および下部溝群64が設けられる。上部溝群63は、10本の第1動圧溝部631と、第1動圧溝部631の下側に位置する10本の第2動圧溝部632と、を備える。第1動圧溝部631は周方向に等間隔、すなわち、等ピッチにて設けられ、中心軸J1に平行な方向に対して傾斜する。
第2動圧溝部632は、第1動圧溝部631を上下に反転したものとほぼ同形状であり、周方向に等間隔に設けられるとともに、第1動圧溝部631とは反対方向に向かって傾斜する。ただし、第2動圧溝部632は、第1動圧溝部631よりも短い。モータ12の駆動時には、第1動圧溝部631と第2動圧溝部632との間の部位(以下、「第1中央部633」という)にて、潤滑油45の動圧が高められる。
下部溝群64は、10本の第3動圧溝部641と、第3動圧溝部641の下側に位置する10本の第4動圧溝部642と、を備える。第3動圧溝部641は周方向に等間隔に設けられ、中心軸J1に平行な方向に対して傾斜する。第4動圧溝部642は、第3動圧溝部641を上下に反転したものと同形状であり、周方向に等間隔に設けられるとともに、第3動圧溝部641とは反対方向に向かって傾斜する。モータ12の駆動時には、第3動圧溝部641と第4動圧溝部642との間の部位(以下、「第2中央部643」という)にて、潤滑油45の動圧が高められる。以下の説明では、第1動圧溝部631、第2動圧溝部632、第3動圧溝部641および第4動圧溝部642をまとめて「ラジアル動圧溝部」という。
モータ12の回転時には、図3に示す軸受機構4において、潤滑油45がラジアル間隙51の下部から第1スラスト間隙52へと流れ、連通部62を通じてラジアル間隙51の上部へと戻される。このとき、第1スラスト間隙52および第2スラスト間隙53では、図4に示すスリーブ43のスラスト動圧溝部61、および、図3のスラストプレート412の下面に設けられたスラスト動圧溝部により、スラスト動圧が発生する。これにより、スラストプレート412が中心軸J1方向に支持される。また、ラジアル間隙51では、図5の上部溝群63および下部溝群64のラジアル動圧溝部によりラジアル動圧が発生し、シャフト41がスリーブ43に対して中心軸J1に垂直な方向に支持される。
図2に示すモータ12では、軸受機構4がシャフト41に固定された回転部3を潤滑油45を介して非接触にて支持することにより、回転部3および図1のディスク11を高精度かつ、低騒音にて回転することができる。本実施形態では、モータ12の回転数は120回転毎秒(7200rpm)である。
図6は、軸受機構4の製造の流れを示す図である。軸受機構4が製造される際には、まず、ステンレス鋼等の金属材料をプレスすることにより、シャフト41およびスラストプレート412が一体に成型される。図7に示すように、シャフト41およびスラストプレート412は、一対の治具711,711により上下方向から挟持され、シャフト41およびスラストプレート412の中心軸J2方向における位置が固定される。治具711,711は、中心軸J2を中心として回転可能である。シャフト41の外側面411には、アルミナ系の砥石712が近接して配置される。中心軸J2を中心としてシャフト41およびスラストプレート412を回転させて、砥石712をシャフト41の外側面411に軽く当接させる。これにより、外側面411が高精度に研削され、シャフト41の外側面411が仕上げられる。その結果、周方向において外側面411に凹凸がほとんど存在しないシャフト41が形成される(ステップS11)。なお、後述するように、シャフト41の外側面411には、非常に僅かな起伏が発生する場合がある。
次に、スリーブ43の製造について説明する。スリーブ43が製造される際には、まず、粉体材料が加圧されて略円筒状のスリーブ部材が成型される。図4の連通部62は、スリーブ部材の成形時に形成される。連通部62は、後述のサイジング工程および溝形成工程にて形成されてもよい。スリーブ部材は、加熱装置へと搬送され、高温に加熱されて焼結される。焼結されたスリーブ部材は、図8に示すサイジング装置72へと搬送される。
サイジング装置72は、円筒状の上パンチ721と、円筒状の下パンチ722と、ダイ723と、コアロッド724と、を備える。スリーブ部材43aがダイ723に挿入される前の状態において、スリーブ部材43aの内径はコアロッド724の外径よりも僅かに小さく、スリーブ部材43aの外径はダイ723の内径よりも僅かに大きい。サイジング装置72によりサイジングが行われる際には、ダイ723に形成された孔部に、下パンチ722が下方から挿入される。スリーブ部材43aは、ダイ723の内側にて下パンチ722上に配置される。スリーブ部材43aの上端には上パンチ721が当接するとともに、内側にはコアロッド724が圧入される。スリーブ部材43aは、上パンチ721、下パンチ722、ダイ723およびコアロッド724により形成された空間内にて変形され、形が整えられる。
次に、スリーブ部材43aは、図9に示す溝形成装置73に搬送される。溝形成装置73は、円筒状の上パンチ731と、円筒状の下パンチ732と、ダイ733と、コアロッド734と、を備える。下パンチ732の上面には、スラスト動圧溝部61を形成するための凸部741が設けられる。コアロッド734の外側面には、上下方向の2箇所に上部溝群63および下部溝群64を形成するための凸部742,743が設けられる。図9では、凸部741〜743を誇張して示している。
スリーブ部材43aがダイ733に挿入される前の状態において、スリーブ部材43aの内径はコアロッド734の外径よりも僅かに小さく、スリーブ部材43aの外径はダイ733の内径よりも僅かに大きい。溝形成装置73により動圧溝が形成される際には、スリーブ部材43aが上パンチ731と下パンチ732との間に挟まれた状態にて、ダイ733とコアロッド734との間に押し込まれる。スリーブ部材43aは、上パンチ731、下パンチ732、ダイ733およびコアロッド734により押圧される。
スリーブ部材43aの下面432には、下パンチ732の凸部741が転写されてスラスト動圧溝部61が形成される。内側面431の上部および下部には、コアロッド734の凸部742,743が転写され、周方向に規則的に上部溝群63および下部溝群64が形成される。以上により、スリーブ43が製造される(ステップS12)。
シャフト41およびスリーブ43が製造されると、図10に示すように、シャフト41およびスラストプレート412が、予め形成されたブッシュ42に挿入される(ステップS13)。さらに、スリーブ43が中心軸J1に沿ってシャフト41に挿入されるとともに、ブッシュ42の円筒部の内側面に固定される(ステップS14)。スリーブ43の上部では、シールキャップ44が中心軸J1に沿ってブッシュ42に挿入されるとともに、ブッシュ42の円筒部の内側面に固定される(ステップS15)。ブッシュ42の内側には、図3に示すシャフト41とシールキャップ44との間の間隙54から、潤滑油45が充填され(ステップS16)、軸受機構4の組み立てが完了する。
図11は、シャフト41の外側面411の周方向における表面形状である半径の変動を、フーリエ変換により解析した結果の一部を示す図である。なお、半径は、例えば、直径の周方向における複数の測定値から最小二乗法により求めることができる中心軸に基づいて求められる。中心軸は、他の方法にて定められてもよい。横軸には、モータ12の1回転における周期の数である次数を示している。以下、この次数を「周期成分の次数」ともいう。縦軸には、各次数の振幅を示している。図11では、図5の第1動圧溝部631、第2動圧溝部632、第3動圧溝部641および第4動圧溝部642に対向する位置にて測定が行われ、これらの位置における周期成分の各次数の振幅に、符号951〜954を付している。
図11に示すように、15次の振幅は0.03μm以上0.04μm以下であり、他の次数の振幅に比べて大きい。シャフト41の外側面411には、主として周期成分の15次の僅かな起伏が発生していることが判る。このように、シャフト41の製造では、外側面411の研削後に、周期成分の次数のうち5次以上の高次、特に、5次から20次までの起伏が残存する場合がある。以下の説明では、周方向において振幅が最大となる周期成分の次数である15次を「起伏の次数」と表現する。
図12は、図5に示すスリーブ43の上部溝群63の中央部633、および、下部溝群64の中央部643の周方向における表面形状を、フーリエ変換した結果を示す図である。実線にて示す曲線911が上部溝群63に対応し、二点鎖線にて示す曲線912が下部溝群64に対応する。図13は、比較例に係るスリーブ46を示す図である。スリーブ46では、連通部62の数が3である。他の形状は、図4に示すスリーブ43と同様である。図14は、比較例のスリーブ46の上部溝群63、および、下部溝群64における表面形状を解析した結果を示す図である。図12と同様に、実線にて示す曲線921が上部溝群63の中央部633に対応し、二点鎖線にて示す曲線922が下部溝群64の中央部643に対応する。
スリーブ43および比較例のスリーブ46では、図5に示す内側面431の上部および下部において、周方向に10本のラジアル動圧溝部が設けられるため、図12および図14に示すように、10次の振幅が大きい。また、比較例のスリーブ46では、3の連通部62の影響により、3次の振幅も大きい。
一方、スリーブ43では、図4に示すように、5本の連通部62が設けられるが、図12に示すグラフ911,912では、5次の振幅は他の次数の振幅とほぼ同程度となっている。したがって、5本の連通部62が設けられる場合、連通部62の存在により内側面431が変形しないものと考えられる。このように、少なくとも5の連通部62が設けられる場合には、連通部62による内側面431の形状への影響はない。また、4以下の連通部62が設けられる場合には、図14と同様に、連通部62が内側面431に影響するものと推定される。
図15は、シャフト41の外側面411とスリーブ43の内側面431の上部との間に生じる動圧の偏りの発生を、シミュレートした結果を示す図である。符号811を付す環状の曲線は、シャフト41の外側面411に対応する。以下、この曲線を「第1環状曲線811」という。第1環状曲線811では、シャフト41の起伏の次数に対応して凹凸の繰り返し数が15に設定される。
符号812を付す環状の曲線は、図5に示す上部溝群63の中央部633における周方向の表面形状に対応する。以下、この曲線を「第2環状曲線812」という。第2環状曲線812では、スリーブ43の10本のラジアル動圧溝部が周方向に規則的に設けられることから、凹凸の繰り返し数が10に設定される。既述のように、スリーブ43の外側面433に設けられた連通部62が5以上の場合、連通部62は内側面431の形状にほとんど影響しない。このため、図15では、連通部62を考慮することなく、第2環状曲線812を設定している。実際には、第2環状曲線812に対して、第1環状曲線811が相対的に回転する。
第1環状曲線811の凹凸の繰り返し数と、第2環状曲線812の凹凸の繰り返し数との間には、公約数2および5が存在する。第1環状曲線811および第2環状曲線812を、径方向に伸びる5つの破線814にて等分割した場合を考える。この場合、隣接する2つの破線814の間における、第1環状曲線811の部位および第2環状曲線812の部位が、周方向に5回繰り返されることが判る。このように、第1環状曲線811および第2環状曲線812では、これらをまとめて等分割した場合に、分割された部位が、繰り返しの最小単位となっている。以下の説明では、上記部位をシャフト41の外側面411およびスリーブ43の内側面431の「繰り返し単位」という。
符号813を付す曲線は、スリーブ43とシャフト41との間の周方向における各位置での動圧の大きさを示している。以下、曲線813を「動圧分布813」という。動圧分布813は、第1環状曲線811の回転に伴って変化する。動圧分布813の周方向における各位置では、第1環状曲線811が、第2環状曲線812よりも径方向外側に位置するほど、動圧が大きく、第2環状曲線812よりも径方向内側に位置するほど、動圧が小さい。
第1環状曲線811および第2環状曲線812では、繰り返し単位が周方向に5回繰り返されるため、動圧分布813は5回の回転対称、すなわち、一定の形状を周方向に5回繰り返したものとなる。したがって、動圧分布813の各位置と中心とを結ぶベクトルを合成した合成ベクトルの大きさは0となり、動圧分布813では、動圧の合計が特定の方向に偏らない。軸受機構4では、シャフト41の外側面411とスリーブ43の内側面431の下部との間においても、図15と同様に、動圧の合計は特定の方向に偏らない。
図16は、図11とは異なるシャフト41の表面形状を解析した結果を示す図である。図16では、シャフト41の外側面411のうち、図5の第1動圧溝部631、第2動圧溝部632、第3動圧溝部641および第4動圧溝部642に対向する位置における各次数の振幅に、符号961〜964を付している。図16に示すように、16次の振幅は、0.03μm以上0.05μm以下であり、他の次数の振幅に比べて大きく、シャフト41には、主として16次の僅かな起伏が発生していることが判る。
図17は、起伏の次数が16であるシャフト41と、スリーブ43とを組み合わせた場合に、シャフト41とスリーブ43との間に生じる動圧の偏りの発生をシミュレートした結果を示す図である。第1環状曲線821は、シャフト41の外側面411に対応し、第1環状曲線821の凹凸の繰り返し数が16に設定される。スリーブの内側面431に対応する第2環状曲線822では、図15と同様に凹凸の繰り返し数が10に設定される。第1環状曲線821および第2環状曲線822の凹凸の繰り返し数は、公約数2を有する。2つの破線824,824にて示すように、第1環状曲線821および第2環状曲線822を2等分すると、分割された部位が、第1環状曲線821および第2環状曲線822の繰り返し単位となる。動圧分布823は2回の回転対称となり、動圧の合計は特定の方向に偏らない。
図18は、起伏の次数が13であるシャフトと、スリーブ43とを組み合わせた場合における、動圧の偏りをシミュレートした結果を示す図である。図18では、シャフト41の外側面411に対応する第1環状曲線831の凹凸の繰り返し数が13に設定される。第2環状曲線832は、図15の第2環状曲線812と同様である。第1環状曲線831の凹凸の繰り返し数と第2環状曲線832の凹凸の繰り返し数との間には、1よりも大きい公約数が存在せず、第1環状曲線831および第2環状曲線832は、繰り返し単位が周方向に複数回繰り返されたものとはならない。このため、動圧分布833は、回転対称とはならず、符号834にて示すように、動圧の合計に偏りが発生する。
以上に説明したように、軸受機構4では、シャフト41の起伏の次数とスリーブ43のラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数との間に、1よりも大きい公約数が存在する場合、シャフト41およびスリーブ43では、繰り返し単位が最大公約数個周方向に繰り返されることとなる。これにより、動圧分布が回転対称となり、動圧の偏りが防止される。
図19は、ディスク駆動装置1および比較例に係るモータが搭載されたディスク駆動装置の振動の測定結果を示す図である。太い実線にて示すグラフ881および細い実線にて示すグラフ882はそれぞれ、ディスク駆動装置1の振動および比較例のディスク駆動装置の振動を示している。ディスク駆動装置1の軸受機構4では、起伏の次数が15であるシャフト41が使用される。比較例のディスク駆動装置の軸受機構では、図13に示すスリーブ46が利用され、他の構造は、ディスク駆動装置1と同様である。
図20は、他機種のディスク駆動装置における振動の測定結果を示す図である。太い実線にて示す曲線891は、軸受機構4と同じ軸受機構を有するディスク駆動装置に対応する。以下の説明では、当該ディスク駆動装置をディスク駆動装置1と区別することなく「ディスク駆動装置1」という。細い実線にて示すグラフ892のディスク駆動装置は、図19の比較例に係るディスク駆動装置の軸受機構と同じ軸受機構を有する。以下、グラフ892のディスク駆動装置も「比較例に係るディスク駆動装置」という。
図19および図20のグラフ882,892に示すように、比較例に係るディスク駆動装置では、1800Hzの自励振動、すなわち、起伏の次数である15次を整数倍した周波数の自励振動が発生することが判る。一方、ディスク駆動装置1では、グラフ881,891に示すように、比較例に係るディスク駆動装置に比べて1800Hzの自励振動が低減していることが判る。ディスク駆動装置1では、動圧の偏りが防止されることにより、シャフトの起伏に起因する自励振動が低減される。
以上、第1の実施形態について説明したが、モータ12では、起伏の次数と、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数とが、1よりも大きい公約数を有する、すなわち、これらの数が互いに素でない関係であることにより、シャフト41の起伏に起因した高次の周波数の自励振動が低減される。その結果、自励振動がディスク駆動装置1の動作に影響を与えることが防止される。また、モータ12では、外側面411に起伏が残存するシャフト41が使用されても、自励振動が低減されることから、モータ12の信頼性を向上することができる。
シャフト41では、振幅が0.02μm以上の起伏が自励振動に影響し、0.08μm以下の起伏がシャフトの加工により容易に除去されないため、自励振動を低減する上記手法は、0.02μm以上0.08μm以下の範囲の起伏が残存するシャフトに対して適用さることが好ましい。以下の実施形態においても同様である。
図5に示すスリーブ43の上部溝群63では、第1動圧溝部631が1本の溝により形成されるが、図21に示すように、周方向に近接する2つの溝により第1動圧溝部631が形成されてもよい。同様に、周方向に近接する2つの溝により第2動圧溝部632が形成されてもよい。上部溝群63には、10個の第1動圧溝部631および10個の第2動圧溝部632が、周方向に規則的に設けられる。
下部溝群64においても、近接する2つの溝により第3動圧溝部641、および、第4動圧溝部642が形成されてよく、10個の第3動圧溝部641および10個の第4動圧溝部642が、周方向に規則的に設けられる。図21のスリーブ43が利用される場合であっても、シャフト41の起伏の次数と、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数とが、1よりも大きい公約数を有することにより、シャフト41の起伏に起因した高次の周波数の自励振動が低減される。スリーブ43では、周方向において互いに近接する3以上の溝によりラジアル動圧溝部が構成されてよい。以下の実施形態においても同様である。
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るモータでは、スリーブとして、3の連通部62、および、内側面431の上下方向における4箇所にて周方向に12のラジアル動圧溝部を有するものが利用される。以下の説明では、このスリーブに符号47を付して説明する。また、起伏の次数が15であるシャフト41が使用される。他の構造はモータ12と同様である。以下、モータ12と同様の構成には、同符号を付して説明する。
第2の実施形態に係るスリーブ47の内側面431では、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数が12であることから、ラジアル動圧溝部の数と、連通部62の数との間に公約数3が存在し、内側面431は、3回の回転対称となる。
さらに、シャフト41の起伏の次数が15であることから、シャフト41の起伏の次数と、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数と、連通部62の数との間においても、公約数3が存在する。このため、シャフト41の外側面411およびスリーブ47の内側面431は、繰り返し単位が周方向に3回繰り返されたものとなる。その結果、動圧が周方向において特定の方向に偏ることが防止される。このように、第2の実施形態に係るモータにおいても、シャフト41の起伏に起因した高次の自励振動が低減される。
ここで、スリーブ部として、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数が10である図13に示すものを比較例として使用した場合について説明する。図22は、スリーブ46および起伏の次数が15であるシャフト41を有する比較例のモータにおける、動圧の偏りをシミュレートした結果を示す図である。シャフト41に対応する第1環状曲線841は、図15の第1環状曲線811と同様である。スリーブ43の内側面431に対応する第2環状曲線842では、凹凸の繰り返し数が10に設定される。また、連通部62の数が4以下であるため、連通部62がスリーブ46の内側面431に与える影響を考慮して、第2環状曲線842は、周方向における3箇所にて半径が小さくなるように設定される。
第2環状曲線842は、ラジアル動圧溝部の数と、連通部62の数との間に1よりも大きい公約数が存在しないことから、回転対称とはならない。これにより、動圧分布843は回転対称とならず、動圧分布843の周方向における各位置と中心とを結ぶベクトルを合成したものは、符号844に示すように、特定の方向に大きく偏る。
これに対し、第2の実施形態に係るスリーブ47では、ラジアル動圧溝部の数が12であり、約数として2,3,4,6,12が存在する。モータでは、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数と、連通部62の数と、起伏の次数との間に、上記多数の約数のうち少なくとも1つが公約数として存在する場合に動圧の偏りが防止される。このように、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数を12とすることにより、シャフト41の起伏に起因した自励振動の発生の可能性を低減できる。
第2の実施形態では、スリーブ47の連通部62の数が4以下の他の数であってもよい。起伏の次数と、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数と、連通部62の数との間に1よりも大きい公約数が存在することにより、連通部62による影響を受けることなく、自励振動を防止することができる。
また、連通部62の数は5以上であってもよい。この場合、連通部62が内側面431の形状に影響を与えないことから、第1の実施形態と同様に、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数と、シャフト41の起伏の次数との間に、1よりも大きい公約数が存在することにより、自励振動の発生が低減される。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、軸受機構4では、連通部62がブッシュ42の円筒部の内側面に設けられてもよい。この場合、スリーブ43の外側面433には、内側面431に影響を及ぼす部位が設けられないため、シャフト41の起伏の次数とスリーブ43のラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数との間に1よりも大きい公約数が存在することにより、シャフト41の起伏に起因した自励振動が低減される。モータ12では、潤滑油45を内側に保持するとともにベース部21のホルダ211に固定されるスリーブが利用されてもよい。スリーブは金属材料をプレスすることにより成型されてもよい。
上記実施形態では、スリーブ43の外側面433に溝状の連通部62が設けられるが、図23の底面図に示すように、外側面433近傍の部位(以下、当該部位と外側面433とをまとめて「外周部433a」という)に、下端から上端まで中心軸J1に平行に伸びる孔状の連通部62aが設けられてもよい。図23では、スラスト動圧溝部の図示を省略している。以下の図24においても同様である。連通部62aの数が5であるため、第1の実施形態と同様に、連通部62aによる内側面431への影響が低減される。図23のスリーブ43においても、シャフト41の起伏の次数と、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数との間に1よりも大きい公約数が存在することにより、自励振動を低減することができる。6以上の連通部62aを有するスリーブにおいても同様である。
また、連通部62aの数が4以下の場合には、シャフト41の起伏の次数と、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数と、連通部62aの数との間に1よりも大きい公約数が存在することにより、連通部62による影響を受けることなく、自励振動を低減することができる。なお、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数に関する上記条件は、上部溝群63または下部溝群64のいずれか一方のみに適用されてもよい。
軸受機構4では、図24に示すように、外周部433aを平面視したときの形状が五角形のスリーブ48が利用されてもよい。外周部433aの5つの面とブッシュ42との間に連通部が構成される。スリーブ48においても、起伏の次数と、ラジアル動圧溝部による凹凸の繰り返し数と、連通部の数との間に1よりも大きい公約数が存在することにより、自励振動の低減が可能である。外周部を平面視したときの形状が6以上の多角形となるスリーブの場合も同様である。
軸受機構4では、14次以上16次以下の起伏に起因した自励振動を低減することによりディスク駆動装置1の動作への影響を効果的に低減することができるが、5以上20次以下の他の次数に対応する自励振動が低減されてもよい。
上記実施形態では、軸受機構4の製造において、サイジング工程にて動圧溝が形成されてもよい。ベース部21は第1ハウジング部材141の一部ではなく、例えば、ハウジングに取り付けられるブラケットであってもよい。ディスク駆動装置1は、ハードディスク駆動装置に限定されず、光ディスク駆動装置、光磁気ディスク駆動装置等、ディスクに対する情報の読み出しおよび/または書き込みを行う他の装置であってもよい。