以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態の燃料電池システム1の概略構成図である。本実施形態の燃料電池システム1では、比較的小型で発電効率に優れる固体高分子型燃料電池を用いており、車両に搭載されている。
セルスタック2には、電気化学反応に供される反応ガス(燃料ガスと酸化剤ガス)と、セルスタック2を冷却する冷却媒体が供給される。セルスタック2のカソードには、コンプレッサ3から供給管4を介して空気が供給される。コンプレッサに代えて、ブロア等の空気供給手段を用いることができる。セルスタック2のカソードから排出された空気は、排出管5を介して大気中に放出される。排出管5には、背圧(カソードガス流路の圧力)を調整するため調圧バルブ6が配置されている。
セルスタック2のアノードには、高圧水素を貯蔵した水素タンク11から燃料ガス供給管12を介して水素(燃料ガス)が供給される。水素タンク11の代わりに、アルコール、炭化水素などを原料とする改質反応によって水素を生成してもよい。燃料ガス供給管12には、燃料ガスの上限圧を制御する調圧バルブ(レギュレータ)13と、燃料ガス供給管4を開閉することによって燃料ガスの供給とその供給の遮断とを行うバルブ(このバルブを以下「供給バルブ」という。)14とが配置されている。
また、セルスタック2には、アノードからの燃料ガスと共に不純物(生成水や窒素等)をセルスタック2の外部へ排出するための排出管16がアノードガス排気マニホールド44の一端(前端)に接続され、この排出管16に所定の容積を有するバッファ17(第二容積部)が設けられている。電気化学反応(発電)により生成される水蒸気がこのバッファ17に排出され、バッファ17内で凝縮する水はバッファ17内の下部に溜められる。この溜められた水を排出するための配管18がバッファ17の下部に設けられ、この配管18に常閉の排水バルブ19が設けられている。
セルスタック2には、さらにラジエータ21から配管23を介して冷却水が供給される。冷却水に代えて、エチレングリコール等の不凍液、空気等の冷却媒体を用いることができる。冷却水の循環経路は周知の構成でよいため、図示しない。
図2はセルスタック2の概略構成図である。セルスタック2は、単位燃料電池セル(単セル)31を複数枚積層したものから構成されている。単セル31は、その積層構造の中央に膜電極接合体(Memrerane Electrode Assembly;以下「MEA」という。)を有している。MEA32は、電解質膜の両面に電極触媒層、ガス拡散層が順次積層された構造である。電解質膜を境に一方の面側がカソードとして、他方の面側がアノードとして用いられる。MEA32の両面には導電性部材であるカーボンや金属で作られたカソード側セパレータ33とアノード側セパレータ34とが配置されている。カソード側セパレータ33がMEA32と対向する面には空気(酸化剤ガス)の流路35が形成され、反対面には冷却水流路37を有している。アノード側セパレータ34がMEA32と対向する面には水素(燃料ガス)の流路36が形成され、反対面には冷却水流路37を有している。
このように形成された単セル31を複数枚重ねたうえで、各単セル31に空気、水素、冷却水を分配するマニホールドを両端に備えている。すなわち、図1に示したように、空気供給用の供給マニホールド41及び排気マニホールド42、燃料ガス供給用の供給マニホールド43及び排気マニホールド44、冷却水供給用の供給マニホールド45及び排気マニホールド46を備えている。これらのマニホールド41〜46によりセルスタック2の外部から供給される空気、燃料ガス、冷却水を各単セル31へと分配している。また、セルスタック2内部の水循環を効率よく行わせるために空気の流路35と水素の流路36とを対向流としている。
以下ではカソードに供給される空気を「カソードガス」、アノードに供給される水素を「アノードガス」ともいう。また、上記空気の流路45を「カソードガス流路」、水素の流路46を「アノードガス流路」ともいう。
図3は図2のセルスタック2よりMEA32と、このMEA32に対向するアノード側セパレータ34と取り出し、MEA32の平面図と、MEA32に対向するアノード側セパレータ34の平面図とを上下に並べて示したものである。つまり、図3(a)がMEA32の平面図、図3(b)がアノード側セパレータ34の平面図である。
図3(a)に示したように、反応ガスの加湿手段として、MEA32の中央部にアノード反応面(アクティブエリア)41を設けると共に、アノード反応面41の左右方向外側に触媒層を持たない電解質層のみからなる部位を加湿エリア42として設け、一方のガス流路出口の水を電解質層を介して他方のガス流路入口に移動させることで反応ガスを加湿するようにしている。しかしながら、低負荷運転では、カソードガスの出口側の相対湿度が極めて低下するため、このようにアノード反応面41の外側に加湿エリア42を設けたとしてもアノードガスの下流側を加湿できない。
そこで本実施形態では、供給バルブ14を開きセルスタック2内部のアノードガス流路36を昇圧する過程と、供給バルブ14を閉じセルスタック2内部のアノードガス流路36を減圧する過程とを繰り返すことにより、アノードに供給する燃料ガスをセルスタック2及びバッファ17の外部に排出しないアノードデッドエンド運転を行う。
このアノードデッドエンド運転について、次に説明する。図1において、調圧バルブ13で上限圧を決めた状態から供給バルブ14を開きセルスタック2内部のアノードに燃料ガスを供給すると共に、コンプレッサ3を起動しセルスタック2内部のカソードに空気を圧送(供給)してMEA32で発電を開始する。MEA32が発電を開始すると、発電に伴いカソードに水が生成される。その生成水はカソードからアノードに向けて移動しアノードにも到達する。アノード反応面41を通過してきた水(汽水・液水)はいずれアノード中のガス拡散層(gas diffusion layer)も透過し、アノードガス流路36上に出てくる。このまま発電を続けていると、アノードガス流路36の圧力は調圧バルブ13により決められている上限圧に張り付いたままとなり、供給バルブ14から供給される燃料ガスは発電で消費される質量流量のみとなる。
その質量流量だけ流してセルスタック2を運転する場合、アノードガス流路36上にある水をバッファ17まで排水するだけの動圧が得られず、いずれはアノードガス流路36上の水が燃料ガスの拡散を阻害して燃料ガスの供給不足からの電圧低下を引き起こし、やがてMEA32が発電不能となってしまうことが発明者の実験から判明している。
この問題を回避するために発電中に供給バルブ14を一時的に閉じると、タンク11からセルスタック2への燃料ガスの供給は行なわれずに、供給バルブ14から排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路に残留する燃料ガスを用いて発電が継続される。
この場合に、最大の容積を有するのは、排出管16に設けられているバッファ17であり、このバッファ17からセルスタック2内部のアノードガス流路36に向けて燃料ガスが主に流れる。そして、アノードガス流路36の容積やバッファ17中に残留する燃料ガスを発電で消費するためにセルスタック2内部のアノードガス流路36及びバッファ17内の圧力が低下してくる。
圧力が低下したら再び供給バルブ14を開く。すると、タンク11からの燃料ガスがセルスタック2内部のアノード流路36に向けて流れ、セルスタック2内部のアノードガス流路36が昇圧する。そのとき発生する動圧でセルスタック2内部のアノードガス流路36上の水がアノードガス流路36の下流側およびバッファ17まで移動し、これによって発電がある程度継続できるようになる。つまり、セルスタック2内部のアノードガス流路36を昇圧する過程と減圧する過程とを一定周期で繰り返す。このように、セルスタック2内部のアノードガス流路36を昇圧する過程と減圧する過程とを繰り返すことにより、アノードに燃料ガスを供給する運転が、従ってアノードに供給する燃料ガスをセルスタック2及び第二バッファ17の外部に排出しない運転がアノードデッドエンド運転といわれるものである。
アノードデッドエンド運転では、燃料ガスの流れる方向が切換えられるので、セルスタック2内部のアノードガス流路36の昇圧時に供給バルブ14からアノードに向けて流れる方向を順方向とし、順方向に流れるガス流れを「順流」で定義する。また、セルスタック2内部のアノードガス流路36の減圧時に第二バッファ17からセルスタック2内部のアノードガス流路36に向けて流れる方向を逆方向とし、逆方向に流れるガス流れを「逆流」で定義する。
コントローラ51は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、詳しくは、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行するCPU(図示せず)と、CPUで各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納されたROM(図示せず)と、同じくCPUで各種演算処理をするのに必要な各種データが一時的に読み書きされるRAM(図示せず)と、各種信号を入出力する入出力ポート(図示せず)等を備えている。コントローラ51では、コンプレッサ3を駆動し、調圧バルブ6、調圧バルブ13、供給バルブ14を制御してセルスタック2内部のMEA32で発電を行わせると共に、セルスタック2内部のアノードに供給する燃料ガスをセルスタック2及びバッファ17の外部に排出しないアノードデッドエンド運転を行う。アノードデッドエンド運転そのものは公知である(特開2007−149630号公報参照)。
さて、ここで問題となってくるのが、供給バルブ14を閉じセルスタック2内部のアノードガス流路36を減圧するときのアノードガス流路36上の水の挙動である。従来装置(特開2007−149630号公報)のようにセルスタック2外部の排出管16にのみセルスタック2内部のアノードガス流路36の容積と同等の容積を有するバッファ17を設置し、供給バルブ14及び排水バルブ19を閉じた状態で発電するとき、図4に示したようにバッファ17内に貯留されている燃料ガスがセルスタック2内部のアノードガス流路36に向けて逆流する。図4はアノードデッドエンド運転における減圧時にアノードガス流れがどうなるかをイメージとして示したもので、アノードデッドエンド運転における減圧時にセルスタック2内部のアノードガス流路36を燃料ガスが逆流する様子を示している。
アノードデッドエンド運転のため図5のようにアノードガス流路圧力を昇圧から減圧へと変化させたとき、アノードガス流路36上の液状の水(この液状の水を以下「液水」という。)の挙動がどうなるかを示した実験結果が図6である。図5において昇圧を開始するt1のタイミングでは、図6においてAの位置にあったアノードガス流路36上の液滴(液水)が、図5において昇圧の終了するt2のタイミングになると、動圧によって図6においてBの位置まで移動する。しかしながら、図5において減圧の終了するt3のタイミングでは減圧中の燃料ガスの逆流によって、図6においてCの位置まで液滴が戻っている。このように、アノードデッドエンド運転における昇圧時にはアノード流路36の下流側に移動していた液水が、次のアノードデッドエンド運転における減圧時の燃料ガスの逆流により再びアノードガス流路36に戻ってくる様子が発明者の実験から明らかになったのである。
そこで本実施形態では、図1に示したように、供給バルブ14と、燃料ガス供給用の供給マニホールド43との間の燃料ガス供給管12にバッファ15(燃料ガス供給手段、第一容積部)を設置する。燃料ガス供給管12に設置されるこのバッファ15も、排出管16に設置されるバッファ17と同様に所定の容積を有するものである。アノードデッド運転における昇圧時には、タンク11からの燃料ガスがこのバッファ15内の所定の容積に貯留される。次のアノードデッド運転における減圧時、つまり供給バルブ14を全閉として発電を継続するときに、燃料ガスが消費されてセルスタック内部のアノードガス流路36の圧力が低下すると、このバッファ15内に貯留されている燃料ガスが、圧力の低いほう、つまりセルスタック2内部のアノードガス流路36に向けて流れる。
本実施形態では、セルスタック2の外部に2つのバッファ15、17を設置するので、両者を区別するため、以下では燃料ガス供給管12に設置されるバッファ15を「第一バッファ」、排出管16に設置されるバッファ17を「第二バッファ」といって区別する。
このように本実施形態では、第一バッファ15を供給バルブ14下流の燃料ガス供給管12に備えるので、アノードデッドエンド運転における減圧時に、第一バッファ15よりセルスタック2内部のアノードガス流路36に対して順方向に燃料ガスを供給できる。このため、同じ負荷であれば、第一バッファ15を設置していない場合よりも、順方向の燃料質量流量(単位時間当たりの燃料量)が増えた分、第二バッファ17よりアノードガス流路36に向かう逆方向の燃料質量流量を減らすことができる。これより、第二バッファ17内の燃料ガスの逆流により生じる上流に向かう動圧を低減でき、その分、第二バッファ17からセルスタック2内部のアノードガス流路36に戻ってこようとする液水量を低減できる。その結果、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17への排水性が向上する。
図7は、アノードデッドエンド運転における減圧時に、第一バッファ15の容積V1と第二バッファ17の容積V2の比率を変えた場合のアノードガス流路36へのガス流れの様子を示す。図7に示したように、第一バッファ容積V1を第二バッファ容積V2で割った比率であるV1/V2を大きくしていくほど、アノードデッドエンド運転における減圧時のアノードガス流路36におけるガス流れが順流に近づいていくことがわかる。
図8は、アノードデッドエンド運転により一定電流で発電している状態で、第一バッファ容積V1と第二バッファ容積V2とを等しくした(つまりV1=V2よりV1/V2=1.0)としたときに順流の燃料質量流量と逆流の燃料質量流量の各様子を示す。図8に示したように、本発明によれば、アノードデッドエンド運転における減圧時に順流の燃料質量流量が増えるために、逆流の燃料質量流量が従来装置の半分に減っている。
図7、図8の特性から、V1/V2の比率を上げるほどアノードデッドエンド運転における減圧時に逆流の燃料質量流量は少なくなり、V1/V2の比率が1以上になると(第一バッファ容積V1≧第二バッファ容積V2)、逆流の燃料質量流量がアノードガス流路36の中間部より下流側までの到達となるため、第二バッファ17内の液水や排出管16上の液水がセルスタック2内部へと逆流しても、セルスタック2内部のアノードガス流路36の下流域で止まるため、その直後のアノードデッドエンド運転における昇圧時に第二バッファ17まで移動しなければならない距離が短くなり、その直後のアノードデッドエンド運転における昇圧時に、セルスタック2内部のアノードガス流路3上の液水をセルスタック2外部に排水できるようになる。
供給バルブ14から排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路のうち最大の容積をもつものは、第一バッファ15と第二バッファ17であるが、厳密に考えると、供給バルブ14から排水バルブ19までの燃料ガス流路の全ての容積が、アノードデッドエンド運転における減圧時のアノードガス流路36中の液水の挙動に影響する。そこで、セルスタック2内部において、図3(b)に示したように左右方向に複数設けられる各アノードガス流路36を、MEA32のアノード反応面41がアノードガス流路36に接している部分のアノードガス流路36Aと、MEA32のアノード反応面41がアノードガス流路36と接しない部分のうち上流側のアノードガス流路36Bと、MEA32のアノード反応面41がアノードガス流路36と接しない部分のうち下流側のアノードガス流路36Cとの3つに分ける。
そして、供給バルブ14から上流側のアノードガス流路36Bまでを流れるアノードガスの流路の全てを「アノード外部上流」で定義する。このため、「アノード外部上流」には燃料ガス供給用の供給マニホールド43、この供給マニホールド43入口より供給バルブ14までの燃料ガス供給管12及び第一バッファ15が含まれる。
また、下流側のアノードガス流路36Cから排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路の全てを「アノード外部下流」で定義する。このため、「アノード外部下流」には排気マニホールド44、この排気マニホールド44出口より排水バルブ19までの排出管16、第二バッファ17及び第二バッファ17から排水バルブ19までの配管18が含まれる。
このように「アノード外部上流」、「アノード外部下流」を定義したとき、第一バッファ容積V1に代えて「アノード外部上流」の容積を、第二バッファ容積V2に代えて「アノード外部下流」の容積を用いることができる。すなわち、アノードデッドエンド運転における減圧時にアノード外部上流の容積をアノード外部下流の容積よりも大きくすることで、排出管16上の液水や第二バッファ17内の液水がセルスタック2内部のアノードガス流路36へと戻る(逆流する)ことを抑制することができる。
なお、後述するように、アノード反応面41がアノードガス流路36に接している部分のアノードガス流路36Aの全ての容積を「アノード容積」で定義する。
上記の第二バッファ17には容積可変機構を有している。すなわち、図1においてアノードデッドエンド運転により排水バルブ19を開けずに発電を続けると、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排気マニホールド44を経て排出管16へと排水され第二バッファ17内に貯留される液水が増えていき、第二バッファ17内の気相部分の容積が縮小していく。アノードデッドエンド運転における減圧時に第二バッファ17内の気相部分の容積が縮小するほど、上述した第一バッファ容積V1/第二バッファ容積V2の比率が大きくなり、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17への排水性を向上させることができる。
このように本実施形態の第二バッファ17は、内部に貯留される液水の量に応じて第二バッファ17内の気相部分の容積が可変となる容積可変機構を有している。
また、本実施形態によれば、第二バッファ17(アノード外部下流)に溜まった液水を排出する排水バルブ19を備えるので、排水バルブ19を開閉することにより、第二バッファ17内に貯留される液水量(アノード外部下流の容積の液水量)を任意に調整することができ、第二バッファ17内に貯留される液水量によって第二バッファ17内の気相部分の容積(アノード外部下流の気相容積)を調整できる。これによって、アノード外部下流の形状を変えずにセルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17への排水性を向上することができる。
図9、図10、図11は第2、第3、第4の実施形態の容積を任意に調整し得る容積可変機構を有する第二バッファ17’の概略構成図である。なお、図1との関係では、図9、図10、図11に示される容積可変機構を有する第二バッファ17’が図1の第二バッファ17と置き換わることとなる。
第1実施形態の第二バッファ17は容積可変機構を有するといっても、第二バッファ17の内部に貯留される液水の量は運転時間に応じて増えるだけであるので、任意に(例えばアノードデッドエンド運転における減圧時にだけ)第二バッファ17の内部に貯留される液水の量を増やすようなことはできない。
そこで第2、第3、第4の実施形態は、内部の容積(特に気相部分の容積)を任意に調整し得る容積可変機構を有する第二バッファ17’を備えさせ、アノードデッドエンド運転における昇圧時に第二バッファ17’の容積を相対的に拡大しておき、アノードデッドエンド運転における減圧時になると、第二バッファ17’の容積を相対的に縮小させることによって、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16への排水性を向上させるようにしたものである。
第2実施形態では、図9に示したように、シリンダ62と、シリンダ62を上下方向に摺動可能なピストン63と、ピストン63を駆動するアクチュエータ64とからなるピストンタイプの容積可変機構61を有する第二バッファ17’を備えている。ピストンタイプの容積可変機構61を有する第二バッファ17’によれば、アクチュエータ64を駆動してピストン63の位置を下方に移動することで、シリンダ62の内壁とピストン63の外壁とで区画される空間65の容積が拡大する。一方、アクチュエータ64を駆動してピストン63の位置を上方に移動することにより、シリンダ62の内壁とピストン63の外壁とで区画される空間65の容積が縮小する。
この場合、排出管16は空間65に開口し、配管18も空間65に開口しておく。
従って、第2実施形態では、アノードデッド運転における昇圧時にアクチュエータ64によりピストン63の位置を下方に移動して、シリンダ62の内壁とピストン63の外壁とで区画される空間65の容積を相対的に拡大しておき、アノードデッドエンド運転における減圧時になると、アクチュエータ64によりピストン63の位置を上方に移動して、シリンダ62の内壁とピストン63の外壁とで区画される空間65の容積を相対的に縮小することで、第一バッファ容積V1/第二バッファ容積V2の比率が大きくなり、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性を向上させることができる。
第3実施形態では、図10に示したように、断面が楕円状の有底蓋付き筒状タンク72と、筒状タンク72の内壁を摺動しつつ筒状タンク72を左右の2つの室75、76に仕切る仕切り板73と、仕切り板73を回転駆動するアクチュエータ74とからなる仕切り板タイプの容積可変機構71を有する第二バッファ17’を備えている。この仕切り板タイプの容積可変機構71を有する第二バッファ17’によれば、アクチュエータ74を駆動して仕切り板73を回動させることにより、筒状タンク72の内壁と仕切り板73とで区画される左右の室75、76の容積を任意に調整することができる。
この場合、仕切り板73が図示のように時計方向に回転するとき、左室75の容積が例えば縮小し、右室76の容積が拡大するものとすると、排出管16を左室75に開口し、配管18も左室75に開口しておく。
従って、第3実施形態では、アノードデッド運転における昇圧時にアクチュエータ74を駆動して仕切り板73を反時計方向に回動させて、左室75の容積を拡大しておき、アノードデッドエンド運転における減圧時になると、アクチュエータ74を駆動して仕切り板73を時計方向に回動させて、左室75の容積を縮小することで、第一バッファ容積V1/第二バッファ容積V2の比率が大きくなり、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性を向上させることができる。
第4実施形態では、図11に示したように、排出管16を2つに分岐して各分岐管16a、16bにそれぞれ同じ容積を有するタンク82、83を接続し、各タンク82、83の上流側に常開の開閉バルブ84、85を設けたものから、容積可変機構81を有する第二バッファ17’を構成している。この容積可変機構81を有する第二バッファ17’によれば、2つの開閉バルブ84、85を開閉することで容積を任意に調整することができる。この場合、配管18はタンク82、83の何れか、例えばタンク83に開口しておく。
従って、第4実施形態では、アノードデッド運転における昇圧時に2つの開閉バルブ84、85を開いて、2つのタンク82、83の合計の容積が第二バッファ容積V2となるように、つまり第二バッファ容積V2を拡大しておき、アノードデッドエンド運転における減圧時になると、開閉バルブ84、85のうち少なくとも一方、例えば開閉バルブ84を閉じて、第二バッファ容積V2を縮小することで、第一バッファ容積V1/第二バッファ容積V2の比率が大きくなり、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性を向上させることができる。ここで、タンクの個数は2つの場合に限定されるものでない。
第2〜第4の実施形態において、アノードデッド運転における昇圧時にあるのか、アノードデッドエンド運転における減圧時にあるのかは、供給バルブ14に与えている信号から知り得る。すなわち、第2〜第4の実施形態のコントローラ51では、アノードデッド運転を開始した後に、供給バルブ14に対して開信号を与えているときにアノードデッド運転における昇圧時にあると、また閉信号を与えているときにアノードデッド運転における減圧時にあると判定し、その判定結果に応じ、第2実施形態の図9、第3実施形態の図10ではアクチュエータ64、74を駆動し、第4実施形態の図11では開閉バルブ84、85を開閉することとなる。
なお、アノードデッド運転における昇圧時にあるのか、アノードデッドエンド運転における減圧時にあるのかの判定方法はこれに限られるものでない。例えば、供給バルブ14より排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路(例えば燃料ガス供給管12)に圧力センサを設けておき、この圧力センサにより検出されるアノードガスの流路圧力に基づいて、アノードデッド運転における昇圧時にあるのか、アノードデッドエンド運転における減圧時にあるのかの判定を行わせることができる。
このように、第2〜第4の実施形態によれば、内部の容積(特に気相部分の容積)を任意に調整し得る容積可変機構61、71、81を有する第二バッファ17’を備えさせ、アノードデッドエンド運転における昇圧時に第二バッファ17’の容積(アノード外部下流の容積)を相対的に拡大しておき、アノードデッドエンド運転における減圧時になると、第二バッファ17’の容積(アノード外部下流の容積)を相対的に縮小するので、アノード外部下流の容積を縮小するタイミングを確実にアノードデッドエンド運転における減圧時に合わせることができる。この結果、内部に貯留される水の量に応じて第二バッファ17内の気相部分の容積が可変となる容積可変機構17を有している第二バッファ17を備える場合よりも、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性を向上させることができる。
図12は第5実施形態の燃料電池システム1の概略構成図である。第1実施形態の図1と同一部分には同一番号を付している。ただし、第5実施形態の第二バッファとしては、第1実施形態の第二バッファ17ではなく、第2〜第4の実施形態の第二バッファ17’を備えるものとしている。
従って、第5実施形態でも、アノードデッドエンド運転における昇圧時に第二バッファ17’の容積(アノード外部下流の容積)を相対的に拡大しておき、アノードデッドエンド運転における減圧時になると、第二バッファ17’の容積(アノード外部下流の容積)を相対的に縮小することで、第2〜第4の実施形態と同様に、アノード外部下流の容積を縮小するタイミングを確実にアノードデッドエンド運転における減圧時に合わせることとして、排水性を向上させている。
さて、第1〜第4の実施形態では、アノードデッドエンド運転における減圧時にアノード外部下流の容積に対してアノード外部上流の容積を大きくすることによってセルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性を向上させたものであったが、第5実施形態は、アノードデッドエンド運転における昇圧時に、アノード外部上流の容積に対してアノード外部下流の容積を大きくすることによって、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性を向上させるものである。
この原理を説明する。調圧バルブ13で上限圧を設定した状態で、減圧状態から供給バルブ14を開き、燃料ガスを順方向に流してセルスタック2内部のアノードガス流路36を上限圧まで昇圧させる場合において、供給バルブ14から排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路の容積が、相対的に大きい場合と相対的に小さい場合との2つの場合を考え、両者で供給バルブ14から順方向に流す燃料質量流量が等しいとする。このとき、供給バルブ14から排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路の容積が相対的に大きい場合のほうが、供給バルブ14から排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路の容積が相対的に小さい場合より、セルスタック2内部のアノードガス流路36の圧力が上限圧に到達するまで時間が長くなる。このため、供給バルブ14から排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路の容積が相対的に大きい場合のほうが、セルスタック2内部のアノードガス流路36上の液水に対して長い時間、下流に向かう動圧をかけることができる。その結果として、供給バルブ14から排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路の容積が相対的に大きい場合のほうが、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性が向上することとなる。
そこで第5実施形態では、アノード外部下流の圧力を低下し得る減圧手段を設け、この減圧手段を用いて、アノードデッドエンド運転における昇圧時(供給バルブを開きセルスタック内部のアノードガス流路を昇圧するとき)にアノード外部下流の圧力をセルスタック2内部のアノードガス流路36の圧力(アノードの圧力)より小さくする。具体的には、減圧手段を、容積可変機構を有する第二バッファ17’内の気相部分(アノード外部下流)を大気に連通する配管91と、この配管91を開閉することによって減圧する状態と減圧しない状態とを切換える減圧バルブ92とから構成し、アノードデッドエンド運転における昇圧時に減圧バルブ92を開いて減圧する状態とする。また、排出管16に圧力センサ93を設けている。
コントローラ51では、圧力センサ93により検出される排出管16の圧力に基づいて、アノードデッドエンド運転における昇圧時であるのかアノードデッドエンド運転における減圧時であるのかを判定し、アノードデッドエンド運転における減圧時であると判定されたときには減圧バルブ92を全閉状態としておき、アノードデッドエンド運転における昇圧時であると判定されると、減圧バルブ92を開き第二バッファ17’内の気相部分を大気と連通する。これによって、仮想的にアノード外部下流の容積が限りなく大きくなる。つまり、減圧バルブ92を開く場合のほうが、減圧バルブ92を閉じている場合よりも供給バルブ14から排水バルブ19までを流れるアノードガスの流路の容積が拡大される。
このように、第5実施形態によれば、アノード外部下流の圧力を低下し得る減圧手段(91、92)を設け、この減圧手段(91、92)を用いて、アノードデッドエンド運転における昇圧時(供給バルブを開きセルスタック内部のアノードガス流路を昇圧するとき)に、減圧バルブ92を開いて第二バッファ17’内の気相部分(アノード外部下流)を大気と連通することにより、第二バッファ17’内の気相部分(アノード外部下流)の圧力をセルスタック2内部のアノードガス流路36の圧力(アノードの圧力)より小さくするので、アノードデッドエンド運転における昇圧時にタンク11から燃料ガスを順方向に減圧バルブ92を閉じている場合よりも長い時間流すことができる。これによって、セルスタック2内部のアノードガス流路36上の液水に対して長い時間、下流に向かう動圧をかけることができ、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性を向上させることができる。
また、第5実施形態では、仮にアノードデッドエンド運転における減圧時に下限圧を設定していたとすると、上限圧から下限圧に低下する時間(減圧速度)は、負荷電流が一定であれば減圧バルブ92を閉じている場合に対して減圧バルブ92を開けた場合のほうが短く(大きく)なるので、第二バッファ17’からセルスタック2内部のアノードガス流路36に向けて燃料ガスが逆流する時間を短くでき、その分、液水のセルスタック2内部への戻り量(逆流量)も小さくなり、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性が向上する。
ただし、上記減圧バルブ92としては、アノードデッドエンド運転における減圧時に、セルスタック2内部のアノードガス流路36圧力の減圧速度より大きな減圧速度を確保できるバルブ径とすることが必要である。
次に、第5実施形態において、第二バッファ17’がピストンタイプの容積可変機構61を有する場合について、図13を参照して説明する。図13は図12の第二バッファ17’がピストンタイプの容積可変機構61を有する第二バッファ17’である場合の概略構成図である。図13において第2実施形態の図9と同一部分には同一番号を付している。
図13において、ピストンタイプの容積可変機構61を有する第二バッファ17’では、アノードデッドエンド運転における減圧時に減圧バルブ92を閉じたまま、ピストンタイプの容積可変機構61を用いて、シリンダ62の内壁とピストン63の外壁とで区画される空間65の容積を縮小しようとすると、空間65内のガスを断熱圧縮することとなり、空間65内の圧力が上昇してしまう。従って、アノードデッドエンド運転における減圧時にセルスタック2内部へと戻る水の量を低減するため、空間65の容積を縮小したくとも、容積縮小のために空間65に対して断熱圧縮を行なってしまったのでは、第二バッファ17’からセルスタック2内部のアノードガス流路36へと逆流する燃料質量流量が増加してしまい、却って逆効果となる恐れがある。
そこで、第5実施形態において第二バッファ17’がピストンタイプの容積可変機構61を有する場合に、アノードデッドエンド運転における減圧時にシリンダ62の内壁とピストン63の外壁とで区画される空間65の容積を縮小しようとするときに、減圧バルブ92を開くようにする。これによって、アノードデッドエンド運転における減圧時に空間65の容積を縮小しようとするときに、減圧バルブ92を介して空間65内のガスが大気へと開放されるため、空間65内のガスが圧縮されずに、空間65の容積を縮小することができる。
次に、第5実施形態において、第二バッファ17’が仕切り板タイプの容積可変機構71を有する場合について、図14を参照して説明する。図14は図12の第二バッファ17’が仕切り板タイプの容積可変機構71を有する第二バッファ17’である場合の概略構成図である。図14において第3実施形態の図10と同一部分には同一番号を付している。
図14において、仕切り板タイプの容積可変機構71を有する第二バッファ17’では、仕切り板73が回動するとき左室75の容積と右室76の容積とが等しくなるので、アノードデッドエンド運転における減圧時に左室75の容積を縮小しようとするときに、左室75内のガスを断熱圧縮することはないが、アノードデッドエンド運転における減圧時に減圧バルブ92を閉じた状態で左室75の容積を縮小すると、排出管16に接続されていない右室76内のガスはどこにも出て行く場所が無いため、右室76内のガスの圧力は下がらない。
これについて更に詳述する。例えば、第二バッファ17’の平面図を図15に示すと、仕切り板73がアノードデッドエンド運転における昇圧時の位置(実線参照)にあり、このアノードデッドエンド運転における昇圧時の位置にある仕切り板73のすぐ右側に、排出管16の開口端16aと、配管91の開口端91aとがあるものとする。この場合に、アノードデッドエンド運転における減圧時に左室75の容積を縮小するため、仕切り板73を図で時計回り方向に回動して減圧時の位置(破線参照)に移し、左室75の容積を縮小したとする。この状態では右室76は排出管16の開口端16aに接続されていないので、右室76内のガスはどこにも出て行く場所が無いため、右室76内のガスの圧力が下がらない。
次のアノードデッドエンド運転における昇圧時に、図15において仕切り板73をアノードデッドエンド運転における減圧時と逆の反時計方向に回動させて、アノードデッドエンド運転における昇圧時の位置(実線参照)に戻し左室75の容積を拡大したとする。このとき、圧力が低下していない右室76と、直前のアノードデッドエンド運転における減圧時において減圧されている排出管16とが開口端16aを介して連通する。この結果、圧力が低下していない状態で右室76内に残留するガスが排出管16の開口端16aからセルスタック2内部のアノードガス流路36に向けて逆流することとなる。
そこで、第5実施形態において第二バッファ17’が仕切り板タイプの容積可変機構71を有する場合に、この場合にも、アノードデッドエンド運転における減圧時に左室75の容積を縮小しようとするときに、減圧バルブ92を開くようにする。これによって、アノードデッドエンド運転における減圧時に左室75の容積を縮小しようとするときに、右室76内のガスが開口端91aより減圧バルブ92を介して大気へと開放されるため、右室76内のガスの圧力が減圧バルブ92を閉じている場合より低下する。このため、その直後のアノードデッドエンド運転における昇圧時に左室75の容積を拡大しようとするときに、右室76と排出管16とが開口端16aを介して連通しても、右室76の圧力が低下している分だけ、右室76内のガスがセルスタック2内部のアノードガス流路36に向けて逆流することを防止でき、セルスタック2内部のアノードガス流路36から排出管16や第二バッファ17’への排水性が向上する。
図16は第6実施形態の燃料電池システム1の概略構成図である。第5実施形態の図12と同一部分には同一番号を付している。
従来装置(特開2007−242265号公報)及び発明者の実験結果によると、燃料電池システム1の運転停止中に供給バルブ14から排水バルブまでを流れるアノードガスの流路(第1実施形態の第一バッファ15や第2〜第5の実施形態の容積可変機構を有する第二バッファ17’を含む)が不活性ガスや空気で満たされている場合、次回の発電開始時に供給バルブ14を開いてタンク11から燃料ガスをセルスタック2に供給すると、トコロテン式に不活性ガスや空気が排出管16や第二バッファ17’に押し出され、アノード反応面41が高濃度の燃料ガスで満たされることがわかった。従って、発電開始前には第二バッファ17’の容積は大きければ大きいほうが望ましいこととなる。
そこで第6実施形態では、第5実施形態に対して、さらに第二バッファ17’内の液水の水位を検出する水位センサ101を追加し、コントローラ51でこの水位センサ101により検出される第二バッファ17’内の液水の水位に基づいて排水バルブ19の開閉を制御する。具体的には、第二バッファ17’内の気相部分の容積が、第一バッファ15の容積と、セルスタック2内部のアノードガス流路36(燃料ガス供給用の供給マニホールド43及び排気マニホールド44を含む)の容積との和(アノード外部下流の気体容積がアノード外部上流の容積とアノード容積の和)となるまで、あるいは和以上となるまで、もしくは水位センサ101により検出される下限の水位となるまで、排水バルブ19を開いて第二バッファ17’内の液水を系外に排出し、第二バッファ17’内の気相部分の容積を確保する。
このように、第6実施形態では、水位センサ101により検出される液水の水位に基づいて燃料電池システム1の運転停止時に排水バルブ19を開き、アノード外部下流の気体容積がアノード外部上流の容積とアノード容積の和に等しくなるまでまたは水位センサ101により検出される下限の水位となるまで液水を排出するので、運転開始時の起動性を良くすることができる。
ここで、上記「アノード容積」とは、アノード反応面41がアノードガス流路36に接している部分のアノードガス流路36Aの全ての容積のことである。
第6実施形態では、水位センサを設けた場合で説明したが、第二バッファ17’内の液水の量を検出する水量センサを設けてもかまわない。