JP5477794B2 - エンドキニンc/d由来のペプチド - Google Patents

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Description

本発明は、EKC/D由来のペプチドからなる、疼痛治療薬、炎症治療薬及び掻痒治療薬に関する。
サブスタンスP(以下、「SP」という)は、11個のアミノ酸からなるペプチドであり、そのアミノ酸配列は
Arg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-Phe-Phe-Gly-Leu-Met-NH2(配列番号10)
(式中、C末端アミノ酸のカルボキシル基はアミド化されている。以下同様に表記する)
である。
SPはタキキニンペプチドに属する。ここで、タキキニンペプチド(又はタキキニンファミリー)とは、C末端にFXGLM-NH2(ここで、Xは疎水性アミノ酸である)を有するペプチドを意味する。SPは脊椎動物だけでなく、無脊椎動物においても見つけられており、炎症、疼痛、かゆみ、筋収縮などに関与し、生体において多様な機能を有している。従って、SPに対する新規のアンタゴニストを見出すことは、SPが関与する多くの症状(例えば、痛みや炎症やかゆみ等)を抑制するための医薬の開発に寄与すると考えられる。
これまで、SPに対するアンタゴニストは、非ペプチド由来とペプチド由来の2つの方向から開発されてきた。非ペプチド由来のアンタゴニストは大量に合成できるが、現在までに開発されているアンタゴニストは有機溶媒中でしか溶解せず、生体に投与する場合は副作用が問題となる。一方、ペプチド由来のアンタゴニストは水溶性であるという利点があり、生体に対する副作用は非ペプチド由来のものに比べて少ない。従って、ペプチド由来のアンタゴニストは、生体に投与するという観点からすれば、非ペプチド由来のアンタゴニストよりも利用価値が高い。
一方、エンドキニン(以下、「EK」という)類は、2003年に発見された新規のペプチドで、エンドキニンA(以下「EKA」という)、エンドキニンB(以下「EKB」という)、エンドキニンC(以下「EKC」という)、エンドキニンD(以下「EKD」という)の4種類が知られている(非特許文献1)。EK類のうちEKC及びEKDは、タキキニンペプチドのC末端の共通配列であるFXGLM-NH2(ここで、Xは疎水性アミノ酸である)のうち、MがLとなったFXGLL-NH2となっていることから、タキキニン関連ペプチドと言われる(非特許文献2)。
EKCとEKDは、14個のアミノ酸から成るペプチドであり、N末端の2個のアミノ酸以外は両者で共通のアミノ酸配列を有する。この両者のペプチドの共通アミノ酸配列から成るペプチド(以下では、「EKC/D」という、アミノ酸配列:配列番号1)をラットの髄腔内に単独投与したところ、疼痛関連行動である引っ掻き行動や熱痛覚過敏は誘発しないが、当該ペプチドを前投与するとSPやEKA/Bの投与により誘発される引っ掻き行動と熱痛覚過敏が抑制されることを本発明者等は見出した(非特許文献3)。このことはEKC/DがSPに対するアンタゴニストとして作用することを示している。
本発明者らはまた、特許文献1において、SP又はEKA/BのC-末端をそれぞれMからLに置換したペプチドを合成し、得られた合成ペプチドをラットの髄腔内に前投与したところ、SP投与により誘発される引っ掻き行動と熱痛覚過敏が抑制されること、すなわち、これら合成ペプチドがSPに対してアンタゴニストとして作用することを見出した。
また、SPの一部アミノ酸をD型アミノ酸に置換したサブスタンスP由来のアンタゴニストとして、
AntagonistD: DArg-Pro-Lys-Pro-DPhe-Gln-DTrp-Phe-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号11)
Spantide I: DArg-Pro-Lys-Pro-Gln-Gln-DTrp-Phe-DTrp-Leu-Leu-NH2 (配列番号12)
(式中、DArg、DTrp、DPheはそれぞれD-型アルギニン、D-型トリプトファン、D-型フェニルアラニンを示す。以下D-型アミノ酸は同様に表記する。)
が報告されている(非特許文献4 (AntagonistD)、非特許文献5 (Spantide I))。
特開2008-156312号公報
Pageら, 「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」, 2003年, 第100巻, p.6245-6250 Nigel M. Page, 「Peptides」, 2005年, 第26巻, p.1356-1368 直野 留美ら, 「BRAIN RESEARCH」, 2007年7月3日, 第1165巻, 第7号, p.71-80. Houben,H., Denet,C., 1993. Unexpected effects of peptide and nonpeptide substance P receptor antagonists on basal prolactin and growth hormone release in vitro. Peptides 14, 109-115. Folkers,K., Hakanson,R., Horig,J., Xu,J.C., Leander,S., 1984. Biological evaluation of substance P antagonists. Br. J. Pharmacol. 83, 449-456.
非特許文献3に記載の通り、EKC/DがSPに対するアンタゴニストとして作用することは知られていた。また、従来の知見からは、EKC/Dが消炎鎮痛効果を有するか否かは明確ではなかったが、本発明者らは、本明細書の参考例1及び2に示すように、EKC/Dが消炎鎮痛効果を奏することを新たに明らかにした。しかしながら、EKC/Dによる、SPに対するアンタゴニストとしての作用は、EKC/Dを投与後1時間程度で消失してしまうという問題があった。
また、従来知られていたSPに対する他のペプチド由来アンタゴニストも、十分に満足のできる程度の活性の持続性を有するものではなかった。
そこで本発明は、SPに対する高いアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性を長時間にわたり持続することができる、ペプチドを提供することを目的とする。
本発明者らは、EKC/DのSPに対するアンタゴニスト活性を持続させることを目的として、配列番号1で表されるEKC/Dにおいて一部のアミノ酸をD型アミノ酸に置換し、活性を確認した。すると、予想に反して、配列番号1の第8アミノ酸であるPheと第10アミノ酸であるGlyとを共にD型トリプトファン(DTrp)により置換したペプチドは、SPに対するアンタゴニスト活性が約1時間程度で消失してしまい、L型アミノ酸のみからなるEKC/Dと活性持続性において相違ないことが確認された。ところが、驚くべきことに、配列番号1で表されるEKC/Dの第8アミノ酸であるPheと第10アミノ酸であるGlyのうち一方のみをD型トリプトファン(DTrp)により置換したペプチド(配列番号3又は4)は、SPに対するアンタゴニスト活性が長時間持続されるとともに、活性自体が顕著に向上されることを見出し本願発明を完成させるに至った。
本発明者らはまた、SPに対するアンタゴニスト活性を有するペプチドの組織への浸透性を高めるために、当該ペプチドのN末端側のアミノ酸残基を欠失させた、アミノ酸数の異なる複数のペプチド断片を調製し、それぞれのアンタゴニスト活性を確認した。その結果、C末端を含む6残基以上の長さの部分配列からなるペプチド断片であれば、SPに対するアンタゴニスト活性が高く、活性の持続性も優れることを見出した。
さらに、上記ペプチドの疼痛抑制効果、炎症抑制効果は、SPを用いない評価系においても確認される。
本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(a)〜(e)のいずれかに示されるペプチド。
(a) Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号3)
[DTrpはD-型トリプトファンを示し、C末端のLeu-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたLeuを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b) 配列番号3のアミノ酸配列において、C末端のThr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2を少なくとも含む、連続した6〜11個のアミノ酸からなる部分配列からなるペプチド
(c) Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号4)
[DTrpはD-型トリプトファンを示し、C末端のLeu-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたLeuを示す]
で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(d) 配列番号4のアミノ酸配列における、C末端のThr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2を少なくとも含む、連続した6〜11個のアミノ酸からなる部分配列からなるペプチド
(e) 上記(a)〜(d)のいずれかのペプチドのアミノ酸配列において、DTrp及びC末端のLeu-NH2以外の位置で1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つサブスタンスPに対する拮抗活性、疼痛抑制活性、及び炎症抑制活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有するペプチド
(2) (1)記載のペプチドからなる、サブスタンスPに対するアンタゴニスト。
(3) (1)記載のペプチドを有効成分として含有する疼痛治療薬。
(4) (1)記載のペプチドを有効成分として含有する炎症治療薬。
(5) (1)記載のペプチドを有効成分として含有する掻痒治療薬。
本発明は更に以下の態様を包含する。
(6) (1)記載のペプチドを、サブスタンスPにin vitro または in vivoにおいて接触させる工程を含む、in vitro または in vivoにおいてサブスタンスPの機能を抑制する方法。
(7) In vitro または in vivoにおいてサブスタンスPの機能を抑制する用途のための、(1)記載のペプチド。
(8) サブスタンスPのアンタゴニストの製造における、(1)記載のペプチドの使用。
(9) 医薬としての用途のための、(1)記載のペプチド。
(10) (1)記載のペプチドと、医薬として許容される担体および/または賦形剤とを含有する、医薬組成物。
(11) 疼痛の治療を必要とする対象に、有効量の、(1)記載のペプチドを投与する工程を含む、疼痛治療薬。
(12) 疼痛を治療する用途のための、(1)記載のペプチド。
(13) 疼痛の治療のための医薬の製造における、(1)記載のペプチドの使用。
(14) 炎症の治療を必要とする対象に、有効量の、(1)記載のペプチドを投与する工程を含む、炎症治療薬。
(15) 炎症を治療する用途のための、(1)記載のペプチド。
(16) 炎症の治療のための医薬の製造における、(1)記載のペプチドの使用。
(17) 掻痒の治療を必要とする対象に、有効量の、(1)記載のペプチドを投与する工程を含む、掻痒治療薬。
(18) 掻痒を治療する用途のための、(1)記載のペプチド。
(19) 掻痒の治療のための医薬の製造における、(1)記載のペプチドの使用。
本発明において、ある症状の「治療」とは、当該症状を既に有している対象において当該症状を抑制することに加えて、当該症状を有していない対象において当該症状の発症を抑制すること(すなわち、予防すること)を包含する。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2009-133339号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本発明により提供されるEKC/D由来ペプチドは、SPに対するアンタゴニストとしての効果、疼痛抑制効果、炎症抑制効果が高く、なお且つ当該効果を生体内において長時間にわたり持続することができる。
また、本発明により提供されるEKC/D由来ペプチドのうちアミノ酸数が6〜11個のものは、上記の効果を維持しながらも生体組織に対してより優れた浸透性を有する。
図1は、EKC/Dの第8アミノ酸、第10アミノ酸の一方又は両方をD-型アミノ酸に置換したペプチドによる、サブスタンスP誘発引っ掻き行動抑制効果を示す。 図2は、EKC/Dの第10アミノ酸をD-型アミノ酸に置換したペプチドD-EKC/D(3)、及び該ペプチドのN末端の数個のアミノ酸を欠失させたペプチド(D-EKC/D(4)〜(6))による、サブスタンスP誘発引っ掻き行動抑制効果を示す。 図3は、EKC/Dの第10アミノ酸をD-型アミノ酸に置換したペプチドD-EKC/D(3)、及び該ペプチドのN末端の数個のアミノ酸を欠失させたペプチド(D-EKC/D(4)〜(8))による、サブスタンスP誘発引っ掻き行動抑制効果を示す。 図4は、L型アミノ酸のみからなるEKC/Dの消炎効果を示す。 図5は、L型アミノ酸のみからなるEKC/Dの熱痛覚過敏抑制効果を示す。 図6は、Spantide I によるサブスタンスP誘発引っ掻き行動抑制効果を示す。 図7は、D-EKC/D(1)〜(3)による熱痛覚過敏抑制効果を示す。 図8Aは、D-EKC/D(3)、D-EKC/D(5)、D-EKC/D(7)による疼痛抑制効果を示す。 図8Bは、D-EKC/D(3)、D-EKC/D(5)、D-EKC/D(7)による疼痛抑制効果を示す。 図9Aは、D-EKC/D(3)、D-EKC/D(5)、D-EKC/D(7)による消炎効果を示す。 図9Bは、D-EKC/D(3)、D-EKC/D(5)、D-EKC/D(7)による熱痛覚過敏抑制効果を示す。 図10Aは、D-EKC/D(3)の足底への皮下投与によっては炎症が生じないことを確認した試験の結果を示す。 図10Bは、D-EKC/D(3)による消炎効果を示す。 図10Cは、D-EKC/D(3)による消炎効果を示す。 図10Dは、D-EKC/D(3)による消炎効果を示す。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るペプチドは、
Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号3)、又は
Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号4)
[DTrpはD-型トリプトファンを示し、C末端のLeu-NH2は、カルボキシル基がアミド化されたLeuを示す。以下、同様に表記する]
で表されるアミノ酸配列からなる。本発明に係るペプチドをヒト等の動物に投与することにより、SPに起因する疼痛関連行動、熱痛覚過敏、炎症、かゆみ等を抑制することができる。斯様な抑制効果は、SPを用いない評価系においても確認される。これらのペプチドは生体内において分解がされにくく、SPに対する優れたアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性を長時間持続することができる。
本発明では、上記EKC/D由来ペプチドの、C末端から連続した6個以上のアミノ酸の部分配列からなるペプチド断片が、同様にSPに対する優れたアンタゴニスト活性、疼痛抑制活性、炎症抑制活性を有することを見出した。このような断片は、生体組織への浸透性に優れるため特に好ましい。具体的には、配列番号3のアミノ酸配列において、C末端のThr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2を少なくとも含む、連続した6〜11個のアミノ酸からなる部分配列からなるペプチド、又は、配列番号4のアミノ酸配列における、C末端のThr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2を少なくとも含む、連続した6〜11個のアミノ酸からなる部分配列からなるペプチドが好ましい。より具体的には、以下のアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号13)
Gln-Leu-Glu-His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号14)
Leu-Glu-His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号15)
Glu-His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号16)
His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号17)
Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号18)
Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号19)
Gln-Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号20)
Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号5)
Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号6)
His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号7)
Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号8)
また、本発明に係るペプチドは、上述したアミノ酸配列において、DTrp及びC末端のLeu-NH2以外の位置で1又は数個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、特に好ましくは1又は2個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つSPに対する拮抗活性、疼痛抑制活性、及び炎症抑制活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有するペプチドであってもよい。
ここで、SPに対する拮抗活性とは、SPに起因する疼痛関連行動や熱痛覚過敏を抑制する活性を意味する。あるペプチドの、SPに起因する疼痛関連行動の抑制活性は、実施例1〜3に記載された手順に準じて評価することができる。あるペプチドの、SPに起因する熱痛覚過敏を抑制する活性は、特許文献1に記載された手順に準じて評価することができる。
ペプチドの疼痛抑制活性及び炎症抑制活性の評価方法は実施例に記載の評価手順に準じて評価することができる。
本発明に係るペプチドは、公知のペプチド合成方法により化学的に合成することができる。あるいは、本発明に係るペプチドをコードするDNAを宿主において導入し、発現した本発明に係るペプチドを回収することで、本発明に係るペプチドを得ることができる。
一方、SPは、多くの症状(例えば、疼痛、炎症、かゆみ)に関与することが知られている(Pharmacological Reviews 54(2002)285-322)。従って、本発明に係るペプチドを有効成分として含有することで、ヒトにおける以下の疾患状態(生理学的な障害、症状又は疾患)のうち1以上を治療し又は抑制することができる:疼痛関連障害(例えば、片頭痛、神経障害疼痛、手術後疼痛、慢性疼痛症候群)、炎症性疾患(例えば、関節炎、乾癬)及び皮膚障害(例えば、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、帯状疱疹)。
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬の剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤、粉剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、スプレー剤、軟膏剤等の非経口剤が挙げられる。
また、本発明に係るペプチドと組み合わせることができる医薬用成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤及び香料が挙げられる。
賦形剤としては、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖及びマクロゴールが挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム及びトラガントが挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム及びラウロマクロゴールが挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油及びポリエチレングリコールが挙げられる。
流動性促進剤としては、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム及びケイ酸マグネシウムが挙げられる。
また、本発明に係る疼痛治療薬又は炎症治療薬の剤形が、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤又はエリキシル剤である場合には、矯味矯臭剤、着色剤等を含有してもよい。
さらに、本発明に係る疼痛治療薬又は炎症治療薬は、更なる成分を含んでいてもよい。本発明に係る疼痛治療薬又は炎症治療薬が含むことができる成分としては、例えば、プロピオン酸誘導体系非ステロイド性抗炎症薬として、プロピオン酸誘導体であるイブプロフェン、ケトプロフェン、フルルビロフェン、フルルビロフェンアキセチル、オキサプロジン、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、ナプロキセン、プラノプロフェン、ロキソプロフェン、アミノプロフェン、ザルトプロフェン又はこれらの塩、非ピリン系解熱鎮痛薬として、アセトアミノフェン、メシル酸ジメトチアジン又はこれらの塩、抗プラスミン薬として、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸又はこれらの塩、消炎酵素薬として、塩化リゾチーム、セミアルカリプロテイナーゼ、セラペプターゼ、プロメライン又はこれらの塩等が挙げられる。
一方、本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬における本発明に係るペプチドの含有量は、投与目的、投与経路、剤形等によって適宜変更し得るが、例えば、0.001〜1mg、好ましくは0.001〜0.01mgである。
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬の投与回数、投与量及び投与期間は、特に限定されるものではなく、例えば、病気の種類、患者の年齢、性別、体重又は症状の程度、あるいは投与方法などに応じて適宜決定することができる。投与回数は、例えば、外用投与で、1日1回〜3回、好ましくは1日1回である。本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬に含まれる本発明に係るペプチドの投与量は、インドメタシンでの投与量が外用で50mg、静注で1mgから換算して、例えば静注で1日当たり0.01mg〜1mg/kg体重、好ましくは0.01mg〜0.1mg/kg体重であり、外用ではその50倍である。また、投与期間は、例えば1〜7日間、好ましくは1〜2日間である。
本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬の投与経路は、剤形や使用目的に応じて、適宜決定することができるが、例えば、経口投与、非経口投与(髄腔内投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与、鼻内投与、舌下投与等)及び局所投与(経皮用パッチ、ローション剤、液剤、エアゾール剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、ハップ剤)が挙げられる。
本発明に係る疼痛治療薬又は炎症治療薬の薬理評価は、例えば、以下のように行うことができる。
疼痛治療薬の薬理評価は、例えばSPをラットに髄腔内投与し、SPに起因する疼痛関連行動(例えば、熱痛覚過敏や引っ掻き行動)を生じたラットを使用して行うことができる。はじめに本発明に係る疼痛治療薬を髄腔内投与し、次いでSPをラットに髄腔内投与したラットを、本発明に係る疼痛治療薬を投与せずSPのみを投与したラット(陰性対照)と比較して、引っ掻き行動や熱痛覚過敏が有意に低減した場合には、本発明に係る疼痛治療薬が有効であると判断することができる。
また、炎症治療薬としての薬理評価は、例えばラットの足底に炎症誘発剤(carrageenan等)を皮下注射すると炎症が誘発され、足の体積増加や痛覚過敏が引き起こされたラットを使用して行うことができる。次いで、本発明に係る炎症治療薬を髄腔内又は炎症部位に投与し、本発明に係る炎症治療薬を投与していないラット(陰性対照)と比較して、足の体積や痛覚過敏が有意に軽減した場合には、本発明に係る炎症治療薬が炎症に対して有効であると判断することができる。
以上に説明した本発明に係るペプチドによれば、有意にSPに起因する引っ掻き行動や熱痛覚過敏を抑制することができる。さらに、本発明に係る疼痛治療薬、炎症治療薬、又は掻痒治療薬では、有効成分として本発明に係るペプチドを含有し、その有効量を、年齢や性別を問わずヒト等の動物に投与することにより、生体内において疼痛、炎症を抑制することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例1〜4において、投与とは、ラットにおける髄腔内投与である。
[実施例1]
EKC/Dの一部アミノ酸のD-アミノ酸への置換による活性の向上
[背景]
エンドキニンC(以下、「EKC」という)とエンドキニンD(以下、「EKD」という)は、14個のアミノ酸から成るペプチドであり、N末端の2個のアミノ酸以外は両者で共通のアミノ酸配列を有する。本発明者らは、この両者のペプチドの共通アミノ酸配列(アミノ酸数12)から成るペプチド(以下では、「EKC/D」という、アミノ酸配列:配列番号1)をラットに投与すると、サブスタンスPにより誘発される引っ掻き行動及び熱痛覚過敏が抑制されることを見出している。更に、下記参考例1及び2に示すように、EKC/Dは消炎鎮痛効果を有する。
一般に、L型アミノ酸からなるペプチドにおいて一部アミノ酸をD型アミノ酸に置換すると、このペプチドの生体内における分解は遅れ、その効果時間は長くなることが知られている。しかし、EKC/Dを構成するアミノ酸のうち、どの位置のアミノ酸をD型アミノ酸に置換するとより効果的かは報告がない。そこで、本実施例では、サブスタンスP由来のアンタゴニストを参考として、EKC/Dの一部のアミノ酸をD型アミノ酸に置換したペプチドを合成し、活性の向上効果を確認した。サブスタンスPは11個のアミノ酸からなる配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチドである。
これまでに報告されている、サブスタンスPの一部アミノ酸をD型アミノ酸に置換したアンタゴニストとしては、背景技術の欄で挙げたAntagonistD(配列番号11)及びSpantide I(配列番号12)がある。これらのアンタゴニストに共通していることは、サブスタンスPの7番目のPheと9番目のGlyがそれぞれD-Trpに置換されていること、及び、C末端に位置するMetがLeuに置換されていることである。EKC/DのN末端のアミノ酸はLeuであるので、EKC/DはサブスタンスP受容体に対しアンタゴニスト効果を有する可能性が示唆される。
サブスタンスPを含むタキキニンペプチドの共通アミノ酸配列はPhe-X-Gly-Leu-Met-NH2
である。本実施例では
EKC/D:
Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号1)
において
8番目のPheと10番目のGlyをDTrpに置換した[D-Trp8,10]-EKC/D (以下、「D-EKC/D(1)」ともいう):
Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-DTrp-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号2)
8番目のPheをD-Trpに置換した[D-Trp8]-EKC/D (以下、「D-EKC/D(2)」ともいう):
Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH2(配列番号3)
10番目のGlyをD-Trpに置換した[D-Trp10]-EKC/D (以下、「D-EKC/D(3)」ともいう):
Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号4)
を合成して、サブスタンスP誘発の引っ掻き行動に対するそれぞれの合成ペプチドの効果を評価した。
[実験及び結果]
本実施例では、髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl) のEKC/DまたはD-EKC/D (1), (2)もしくは(3)を投与し、図1の横軸に示す所定時間の経過後に、10-3MサブスタンスP (10 nmol/10μl)(以下、「SP」という)を髄腔内に投与することにより誘発される引っ掻き回数(scratching behavior)を計測した。ここで、「10-3M (10 nmol/10μl) のEKC/DまたはD-EKC/D (1), (2)もしくは(3)を投与」とは、EKC/DまたはD-EKC/D (1), (2)もしくは(3)を10 nmol 含有する10μl の溶液 (即ち、10-3M溶液)を、10μl全量投与することを意味する。「10-3MサブスタンスP (10 nmol/10μl)・・・を・・・投与」とは、サブスタンスを10 nmol 含有する10μl の溶液 (即ち、10-3M溶液)を、10μl全量投与することを意味する。以下、同様に表記する。
一方、カテーテルを留置したラットの髄腔内にカテーテルを介して食塩水(10μl)を投与し、30分後に10-3M SP(10 nmol/10μl)を髄腔内に投与することにより誘発される引っ掻き回数を、対照群における引っ掻き回数とした。対照群を、図1中、saline+SPとして表す。
図1のグラフの縦軸は対照群(無処理)のラットにおいて、10-3M サブスタンスPの髄腔内投与により誘発される引っ掻き回数を100%とし、10-3MのEKC/DまたはD-EKC/D (1), (2)もしくは(3)の投与による引っ掻き回数の変化をその相対値で示している。一方、横軸は、EKC/DまたはD-EKC/D (1), (2)もしくは(3)の投与と10-3MサブスタンスP投与の時間間隔を示している。
L型アミノ酸だけからなる10-3M EKC/Dの髄腔内への投与30分後に10-3MサブスタンスPを投与すると、このサブスタンスPにより誘発される引っ掻き回数は約60%まで減少したが、1時間後でのサブスタンスP投与により誘発される引っ掻き回数は対照群(saline+SP)と同程度にまで回復した(EKC/D+SP)。この結果は、EKC/DはサブスタンスP誘発の引っ掻き行動を抑制するが、その効果は1時間以内に消滅することを示している。次に、10-3M [D-Trp8,10]-EKC/Dの投与30分後に10-3 MサブスタンスPを投与すると、このサブスタンスPにより誘発される引っ掻き回数は約40%まで減少したが、10-3Mの[D-Trp8,10]-EKC/D投与1時間後にサブスタンスPを投与した場合、[D-Trp8,10]-EKC/Dによる抑制効果は消滅した(D-EKC/D(1)+SP)。この結果は、8番目と10番目の両方のアミノ酸をDTrpに置換すると、[D-Trp8,10]-EKC/Dの効果は30分で僅かに増強されるが、このペプチドの効果時間はL型のアミノ酸からなるEKC/Dとほとんど差異がないことを示している。従って、8番目と10番目のアミノ酸をDTrpに置換する方法は有効であるとは思えない。しかし、興味のある結果が、[D-Trp8]-EKC/Dまたは[D-Trp10]-EKC/D投与に実験から得られた。これら2つのペプチド(10-3M)投与30分後に10-3MサブスタンスPの投与した場合、サブスタンスP投与による引っ掻き回数は対照群 (saline+SP) の場合に比べて約20%まで減少し、投与間隔を45分間とした場合でもほぼ同じ効果を示した。10-3M [D-Trp8]-EKC/D投与1時間後では10-3MサブスタンスPにより誘発される引っ掻き回数が多少の回復の傾向を示したが(D-EKC/D(2)+SP)、両ペプチドの抑制効果は24時間まで持続した(D-EKC/D(2)+SP, D-EKC/D(3)+SP)。
[考察]
本実施例は、EKC/Dを構成するアミノ酸の一つをD型アミノ酸に置換すると、EKC/Dの抑制効果は顕著に亢進することを示している。これまでの知見によると、サブスタンスP由来のアンタゴニストは2箇所のアミノ酸をD型アミノ酸に置換したものが主流である。しかしながら、サブスタンスP由来のアンタゴニストと同様にEKC/Dを構成するアミノ酸のうち2つをD型アミノ酸に置換した[D-Trp8,10]-EKC/Dの効果は、L型アミノ酸からなるEKC/Dとほぼ同じであったことから、2箇所のアミノ酸をD型アミノ酸に置換すると抑制効果は短時間で消滅すると思われる。一方、EKC/Dを構成するアミノ酸のうち1つをD型アミノ酸に置換した[D-Trp8]-EKC/Dまたは[D-Trp10]-EKC/Dは、L型アミノ酸からなるEKC/Dと比べて、サブスタンスP誘発引っ掻き行動の抑制効果が強く、かつ効果の持続時間が顕著に長いことが明らかとなった。
[比較例1]
実施例1と同様の手順により、髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl) のSpantide I(配列番号12)を投与し、図6の横軸に示す所定時間の経過後に、10-3MサブスタンスP (10 nmol/10μl)(以下、「SP」という)を髄腔内に投与し、SPの投与により誘発される引っ掻き回数を計測した。結果を図6に示す。
一方、カテーテルを留置したラットの髄腔内にカテーテルを介して食塩水(10μl)を投与し、30分後に10-3M SP(10 nmol/10μl)を髄腔内に投与することにより誘発される引っ掻き回数を、対照群における引っ掻き回数とした。対照群を、図6中、saline+SPとして表す。
図6に示されるとおり、Spantide I はサブスタンスP誘発の引っ掻き行動を抑制したが、その効果は30分間以内に消滅した。
[実施例2]
N末端側アミノ酸が欠失したペプチドの活性1
[背景]
実施例1の実験の結果で示したように、10-3M [D-Trp10]-EKC/D (10 nmol/10μl) は10-3M サブスタンスP (10 nmol/10μl) 髄腔内投与による引っ掻き行動の誘発を顕著に抑制した。一方、ペプチドを構成するアミノ酸の数が少なければ少ないほど組織への浸透度は高く、経済性も増し、このペプチドを創薬として利用するためにはより有効である。そこで、12個のアミノ酸からなるペプチドである [D-Trp10]-EKC/D の、N末端から所定個数のアミノ酸を欠失させたペプチドを合成し、それぞれのペプチドによる引っ掻き行動抑制効果を評価した。実施例1の実験では、10-3M [D-Trp10]-EKC/D投与から10-3MサブスタンスP投与までの間隔が4時間、8時間、14時間で顕著な抑制効果を示したので、各試験ペプチドとサブスタンスPの投与間隔は4時間、8時間、14時間とし、サブスタンスP誘発の引っ掻き行動に対する各試験ペプチドの抑制効果について検討した。
本実験で用いた試験ペプチドのアミノ酸配列は次の通りである。
[D-Trp10]-EKC/D (以下、「D-EKC/D(3)」ともいう):
Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号4)
D-EKC/D(4):
Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号5)
D-EKC/D(5):
Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号6)
D-EKC/D(6):
His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号7)
[実験及び結果]
各試験ペプチドの投与からサブスタンスPの投与までの時間を4時間、8時間、14時間とした点を除いて、実施例1と同様の手順で試験を行った。各試験ペプチド及びサブスタンスPの投与濃度は共に実施例1と同様に10-3M (10 nmol/10μl) とした。対照群の引っ掻き回数は、実施例1に記載したのと同様の手順で、食塩水 (10μl) 投与30分後にサブスタンスPを投与し計測した。
結果を図2に示す。図2のグラフの縦軸は10-3MサブスタンスP髄腔内投与により誘発される引っ掻き回数を、横軸は試験ペプチドとサブスタンスPの投与間隔を示している。対照群のラットにおいて、10-3MサブスタンスPで誘発される引っ掻き回数は約380回である(control)。[D-Trp10]-EKC/D投与4時間後にサブスタンスPを投与した場合、サブスタンスPによる引っ掻き行動はほとんど誘発されないが、投与間隔が8時間、14時間と長くなるにつれて、このペプチドの抑制効果は徐々に弱くなった(D-EKC/D(3))。 [D-Trp10]-EKC/DのN末端の3個のアミノ酸Ala-Tyr-Glnを除いた[D-Trp10]-EKC/D由来ペプチドD-EKC/D(4)の投与4時間後にサブスタンスPを投与した場合、12個のアミン酸からなるD-EKC/D(3)と同様に、サブスタンスPによる引っ掻き行動はほとんど誘発されず、投与間隔が8時間、14時間と長くなるにつれて、抑制効果は徐々に弱くなった(D-EKC/D(4))。[D-Trp10]-EKC/DのN末端の4個のアミノ酸Ala-Tyr-Gln-Leuを除いたペプチドD-EKC/D(5)の投与4時間後にサブスタンスPを投与した場合、サブスタンスPによる引っ掻き行動はほとんど誘発されないが、D-EKC/D(3)と同様に、投与間隔が長くなるにつれて、抑制効果は徐々に弱くなった(D-EKC/D(5))。N末端の5個のアミノ酸Ala-Tyr-Gln-Leu-Gluを除いたペプチドD-EKC/D(6)でも、4時間の投与間隔では有意な抑制効果が認められ、8時間、14時間と投与間隔が短くなるにつれて、このペプチドの抑制効果は弱くなった(D-EKC/D(6))。
[考察]
[D-Trp10]-EKC/DのN末端から所定個数の連続したアミノ酸を欠失させたペプチドを合成し、それらのペプチドのサブスタンスP誘発引っ掻き行動に対する効果を評価したところ、[D-Trp10]-EKC/CのN末端から3個のアミノ酸を除いたペプチドD-EKC/D(4)は12個のアミノ酸からなる[D-Trp10]-EKC/Dとほぼ同様の抑制効果を示すことから、N末端から1〜2個のアミノ酸を除いたペプチドでは12個のアミノ酸からなる[D-Trp10]-EKC/Dと同様の抑制効果を発揮すると予想される。
一方、[D-Trp10]-EKC/CのN末端から5個のアミノ酸Ala-Tyr-Gln-Leu-Gluを除いた、C末端からの7個のアミノ酸からなるペプチドD-EKC/D(6)でも、投与間隔が4時間では顕著な抑制効果を認めた。また、EKC/C のC末端のLeuが抑制効果を発揮するのに重要であることはすでに知られている(特開2008-156312号公報段落0009等)ので、投与間隔が長くなるにつれて抑制効果が減弱する現象は、このペプチドのN末端からアミノ酸が分解されていくことにより、その抑制効果が減少することを示唆していると考えられる。この仮説が正しいなら、更にアミノ酸の数を少なくすることで、抑制効果を有しない[D-Trp10]-EKC/D由来のペプチドにたどり着くことを意味している。
[実施例3]
N末端側アミノ酸が欠失したペプチドの活性2
[背景]
実施例2では、C末端から7個のアミノ酸からなるEKC/D由来のペプチドD-EKC/D(6)でも、サブスタンスP投与による引っ掻き行動を抑制することが確認された。このことは、更に少ない数のアミノ酸からなるペプチドでも抑制効果を有する可能性を示唆している。そこで、更に、C末端から6個または5個のアミノ酸からなるペプチドを合成し、その効果について検討した。
本実験では、実施例3で使用したペプチドに加えて、更に以下のアミノ酸配列からなるペプチドを試験ペプチドとして使用した。
D-EKC/D(7):
Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号8)
D-EKC/D(8):
Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2(配列番号9)
[結果]
各試験ペプチドの投与からサブスタンスPの投与までの時間を4時間とした点を除いて、実施例1と同様の手順で試験を行った。各試験ペプチド及びサブスタンスPの投与濃度は共に実施例1と同様に10-3M (10 nmol/10μl) とした。対照群の引っ掻き回数は、実施例1に記載したのと同様の手順で、食塩水(10μl)投与30分後にサブスタンスPを投与し測定した。
結果を図3に示す。図3のグラフの縦軸は10-3MサブスタンスP投与により誘発される引っ掻き回数、横軸にはアミノ酸数の異なる[D-Trp10]-EKC/D由来の試験ペプチドを示す。各試験ペプチドとサブスタンスPとの投与間隔は4時間である。生理食塩水投与後に10-3MサブスタンスPを投与すると、その引っ掻き回数は380回(control)であったのに対し、D-EKC/D(3)投与4時間後にサブスタンスPを投与すると引っ掻き行動はほとんど誘発されなかった(D-EKC/D(3))。図3のグラフはD-EKC/D(4)、D-EKC/D(5)、D-EKC/D(5)、D-EKC/D(6)、D-EKC/D(7)の順でアミノ酸の数が減少するにつれて、サブスタンスP誘発引っ掻き行動の抑制効果が弱くなることを示している。5個のアミノ酸からなるD-EKC/D(8)ではその抑制効果はほとんど見られなくなった(D-EKC/D(8))。
[考察]
5個のアミノ酸からなる[D-Trp10]-EKC/D由来のペプチドであるD-EKC/D(8)の投与4時間後にサブスタンスP投与しても引っ掻き回数は対照群(無処理)のそれとほとんど変わらないことから、ペプチドD-EKC/D(8)は、抑制効果を有しないこと示している。従って、6個のアミノ酸からなるD-EKC/D(7)が抑制効果を示す最少アミノ酸配列であるといえる。また、図3のグラフは、アミノ酸数が大きいほど引っ掻き回数の抑制効果が強いことを示している。
[参考例1]
L型アミノ酸のみからなるEKC/Dの消炎効果
炎症誘発剤であるカラギナンをラット足底に注射すると炎症により足の体積が増加する。図4のグラフの縦軸には足体積の増加率を%で、横軸には食塩水(100 μl: saline)またはEKC/D投与後の時間を分で表し、カラギナン誘発の炎症に対するEKC/D投与による抗炎症効果の経時的変化を示している。カラギナン投与前の足体積を100%とすると、カラギナン注射1時間後に足体積計で測定すると足体積は約50%増加した(saline)。この状態が約60分は持続する(saline)。次に、炎症により足体積が顕著に増加するカラギナン注射1時間後に、種々の濃度のL型アミノ酸のみからなるエンドキニンC/D(EKC/D)を注射し、その効果を足体積の変化で評価した。10-3M EKC/D (100 nmol/100 μl) を注射すると、足体積は投与10分後には約40%、投与30分後には約20%、50分後には40%となり、カラギナン注射による炎症に伴う足体積の増加は有意に抑制された(EKC/D 10-3 M)。10-4M EKC/D (10 nmol/100 μl) を注射すると、足体積は注射後30分で40%、60分ではほぼ正常値を示し、EKC/Dは弱い抗炎症効果を示した(EKC/D 10-4 M)。10-5M EKC/D (1 nmol/100 μl) および10-6M EKC/D (100 pmol/100 μl) の注射では明確な効果を認めることはできなかった(EKC/D 10-5 MとEKC/D 10-6 M)。これらの結果は、カラギナン誘発の炎症に伴う足体積の増加はEKC/Dを注射することで、抑制できることを示し、EKC/Dは消炎効果を有していることを示している。
[参考例2]
L型アミノ酸のみからなるEKC/Dの熱痛覚過敏抑制効果
カラギナンを足底に注射すると、炎症に伴う熱痛覚過敏を誘発する。この熱痛覚過敏の誘発を調べるためには、赤外線による侵害性熱刺激を足底に与え、足引っ込め反射が生じるまでの時間(潜時)が無処理のラットの潜時よりも短くなると熱痛覚過敏が生じているといえる。図5のグラフの縦軸は潜時を秒で、横軸はsaline 又はEKC/D注射後の時間を分で示している。無処理のラットの侵害性熱刺激に対する潜時は約21秒である(control)。カラギナン注射1時間後に生理食塩水(100μl)を注射した場合の潜時は約13秒で、明らかにカラギナン注射により熱痛覚過敏が誘発されることを示し、この状態が60分間は持続する(saline)。カラギナン注射1時間後に10-3M EKC/D (100 nmol/100μl)を注射すると侵害性熱刺激に対する潜時は無処理のラットの場合とほぼ同じ値を示し、EKC/Dの処理により炎症に伴う熱痛覚過敏が抑制されることを示している(EKC/D 10-3 M)。10-4M EKC/D (10 nmol/100μl) を注射した場合の効果は10-3M EKC/Dとほぼ同じ傾向を示した(EKC/D 10-4 M)。10-5M (1 nmol/100μl) 及び10-6M (100 pmol/100μl) EKC/Dを注射した場合の侵害性熱刺激に対する潜時は約17秒で、生理食塩水処理の場合よりの長い潜時を示した(EKC/D10-5 MとEKC/D 10-6 M)。10-7M EKC/D (10 pmol/100μl) を注射した場合の侵害性熱刺激に対する潜時は生理食塩水の場合とほぼ同じ値をとった(EKC/D 10-7 M)。これらの結果は、カラギナンにより誘発される炎症に伴う熱痛覚過敏はEKC/Dを炎症部に注射することで抑制することを示している。
図4と図5の結果を合わせると、EKC/Dは炎症に伴う足体積の増加および熱痛覚過敏の誘発を抑制することを示す。すなわち、EKC/Dは消炎鎮痛効果を有することを示している。
[実施例4]
EKC/Dの一部アミノ酸のD-アミノ酸への置換による熱痛覚過敏抑制効果
非特許文献3には、SP 髄腔内投与に伴う痛覚過敏に対するL型アミノ酸のみからなるEKC/D前投与の評価試験で、EKC/D投与5分後においてSP誘発の痛覚過敏が抑制されることが示されている。
本試験では、疼痛関連行動の一つである熱痛覚過敏を指標として、SPの髄腔内投与に伴う熱痛覚過敏の誘発に対するD-EKC/D(1)(2)(3)の髄腔内への前投与による効果を確認したものである。この効果は、赤外線による侵害性熱刺激を足底に与え、足引っ込め反射が生じるまでの時間(潜時)によって評価できる。
本試験は、実施例1の実験結果に基づき、SPに対する顕著な抑制効果を示したD-EKC/D(1)(2)(3)投与4時間後および8時間後にてそれぞれ実施した。
本実施例では、髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl) のD-EKC/D (1)、 (2)もしくは(3)を投与し、その4時間後および8時間後に10-6M (10 pmol/10μl) のSPを髄腔内投与し、SP髄腔内投与に伴う痛覚過敏の有無を足引っ込め反射が生じるまでの時間(潜時)にて評価し、その潜時とSP単独投与による潜時を比較することにより、D-EKC/D(1)(2)(3)の前投与の効果を評価した。
結果を図7に示す。生理食塩水の髄腔内投与後の侵害性熱刺激に対する潜時は約20秒である(Saline)。同様に10-6M (10 pmol/10μl) のSP投与後の潜時は約13秒である(SP)。そこで、D-EKC/D(1)(2)(3)の髄腔内投与4時間後にSPを投与すると、SP投与における潜時はD-EKC/D(1)(2)(3)前投与により有意な潜時の回復を認めた。しかしD-EKC/D(1)(2)(3)とSPの投与間隔が8時間ではD-EKC/D (2)(3)のみ前投与により有意な潜時の回復を認めた。このことから、D-EKC/D(1)とD-EKC/D (2)(3)の間には効果時間に違いがあることが確認された。
[実施例5]
N末端側アミノ酸が欠失したペプチドの疼痛抑制効果
本実験では、ホルマリン足底投与に伴う疼痛行動に対するD-EKC/D(3)(5)(7)およびSpantide Iの髄腔内への前投与による効果を確認した。
本実施例では、髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl) のD-EKC/D (3), (5)もしくは(7)、Spantide I、または食塩水(10μl)を投与し、4時間後に後肢の皮下に2%ホルマリンを50μl投与した。ホルマリンを投与してから60分間の疼痛行動(足を振る(flinching)行動)を計測し、疼痛の程度を評価した。ホルマリン投与後10分間の期間(phase I と称する)は、2分に1回、各回1分間かけて疼痛行動を計測した。ホルマリン投与後10〜60分間の期間(phase II と称する)は、疼痛行動を5分に1回、各回1分間かけて計測し、疼痛の程度を評価した。phase Iではホルマリン投与に伴う化学刺激による行動(phasic pain)が見られ、phase IIではそれに続く持続疼痛(tonic pain)が見られる。
図8Aは、ホルマリン投与後の時間(分)を横軸とし、計測された1分間当たりの疼痛行動の回数を縦軸として結果を示す。図8Bは、phase I及びphase II で計測された疼痛行動の平均回数を示す。
D-EKC/D (3) 及びD-EKC/D (5)では、phase I 及びphase II においてともに疼痛行動が有意に減少することが確認された。そして、D-EKC/D (3) 及びD-EKC/D (5)による疼痛行動抑制効果は、Spantide Iによる効果と比較して持続することが確認された。
[実施例6]
N末端側アミノ酸が欠失したペプチドの消炎効果
本実施例では、髄腔内にカテーテルを留置したラットにカテーテルを通じて10-3M (10 nmol/10μl) のD-EKC/D (3), (5)もしくは(7)、Spantide I、または食塩水(10μl)を投与し、4時間後に2%カラゲニン100μl (2 mg/100μl)をラット足底に皮下投与した。
カラゲニンを投与してから60分間、足体積を経時的に測定した。カラゲニン投与前の足体積(control) を基準として足体積の増加値を算出した。
一方、カラゲニンを投与してから10分間隔で、赤外線による侵害性熱刺激を足底に与え、足引っ込め反射が生じるまでの時間(潜時)を計測した。無処理のラットの侵害性熱刺激に対する潜時をcontrolとした。
足体積の増加値の経時的変化を図9Aに、足引っ込め反射が生じるまでの時間の経時的変化を図9Bにそれぞれ示す。D-EKC/D (3) 及びD-EKC/D (5)では足体積増加量の有意な減少、足引っ込め時間の有意な増加が確認された。そして、D-EKC/D (3) 及びD-EKC/D (5)によるこの効果は、Spantide Iによる効果と比較して持続することが確認された。
[実施例7]
N末端側アミノ酸が欠失したペプチドの消炎効果2
実験A
食塩水100μlまたはD-EKC/D (3) 10-3M (100 nmol/100μl)をラットの足底に皮下投与し、投与してから60分間、足体積を経時的に測定した。投与前の足体積(control)を基準として増加値を算出した。
結果を図10Aに示す。D-EKC/D (3)単独投与で足底の体積は一時的に増加するが、60分後ではControlレベル近くまで回復する。すなはち、ペプチドを投与しても炎症反応は生じないことが確認された。
実験B
食塩水100μl、D-EKC/D (3) 10-3M (100 nmol/100μl)、Spantide II (N6-[(3-ピリジニル)カルボニル]-D-Lys-L-Pro-3-(3-ピリジニル)-L-Ala-L-Pro-3,4-ジクロロ-D-Phe-L-Asn-D-Trp-L-Phe-D-Trp-L-Leu-L-Nle-NH2)(配列番号21)10-3M (100 nmol/100μl)をラットの足底に皮下投与し、4時間後に2%カラゲニン100μl (2 mg/100μl)をラット足底に皮下投与した。カラゲニンを投与してから60分間、10分毎に足体積を経時的に測定した。カラゲニン投与前の足体積(control) を基準として増加値を算出した。
結果を図10Bに示す。D-EKC/D (3)の投与によって、Spantide IIの投与によるよりも顕著に、カラゲニン誘発の炎症に伴う足体積の増加が抑制された。
実験C
食塩水、D-EKC/D (3)、またはSpantide IIの投与から8時間後にカラゲニンを投与したこと以外は実験Bと同様の操作を実施した。
結果を図10Cに示す。D-EKC/D (3)の投与によってカラゲニン誘発の炎症に伴う足体積の増加が抑制された。Spantide IIの投与による抑制効果は認められなかった。
実験D
Spantide IIの試験群を実施しなったことと、食塩水またはD-EKC/D (3)の投与から14時間後にカラゲニンを投与したこと以外は実験Bと同様の操作を実施した。
なお、Spantide IIは実験Cにて効果の消失が認められたので、本実験では用いていない。結果を図10Dに示す。D-EKC/D (3)の投与によってカラゲニン誘発の炎症に伴う足体積の増加が抑制された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
配列番号1:
アミド化
配列番号2:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号3:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号4:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号5:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号6:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号7:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号8:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号9:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号10:
アミド化
配列番号11:
合成ペプチド。
XaaはD-型アルギニンである。
XaaはD-型フェニルアラニンである。
XaaはD-型トリプトファンである。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号12:
合成ペプチド。
XaaはD-型アルギニンである。
XaaはD-型トリプトファンである。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号13:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号14:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号15:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号16:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号17:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号18:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号19:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号20:
合成ペプチド。
XaaはD-型トリプトファンである。
アミド化。
配列番号21:
合成ペプチド。
XaaはN6-[(3-ピリジニル)カルボニル]-D-Lysである。
Xaaは3-(3-ピリジニル)-L-Alaである。
Xaaは3,4-ジクロロ-D-Pheである。
XaaはD-型トリプトファンである。
XaaはD-型トリプトファンである。
XaaはNleである。
アミド化。

Claims (5)

  1. (a) Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-DTrp-Gln-Gly-Leu-Leu-NH 2 (配列番号3)
    [DTrpはD-型トリプトファンを示し、C末端のLeu-NH 2 は、カルボキシル基がアミド化されたLeuを示す]
    で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
    (c) Ala-Tyr-Gln-Leu-Glu-His-Thr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH 2 (配列番号4)
    [DTrpはD-型トリプトファンを示し、C末端のLeu-NH 2 は、カルボキシル基がアミド化されたLeuを示す]
    で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び
    (d1)配列番号4のアミノ酸配列における、C末端のThr-Phe-Gln-DTrp-Leu-Leu-NH2を少なくとも含む、連続した8〜11個のアミノ酸からなる部分配列からなるペプチド
    のいずれかに示されるペプチド。
  2. 請求項記載のペプチドからなる、サブスタンスPに対するアンタゴニスト。
  3. 請求項記載のペプチドを有効成分として含有する疼痛治療薬。
  4. 請求項記載のペプチドを有効成分として含有する炎症治療薬。
  5. 請求項記載のペプチドを有効成分として含有する掻痒治療薬。
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