JP5456531B2 - 電気音響変換器およびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、高周波放電を利用して電気音響変換することにより振動板をなくすことのできる電気音響変換器であって、製造が容易であるとともに、火花放電の防止と放熱とを容易に行うことのできる電気音響変換器およびその製造方法に関するものである。
一般的なマイクロホンやスピーカなどの電気音響変換器では、振動板が用いられている。マイクロホンの場合、音波を受けて振動する振動板の振動を、電磁的な変化、静電容量の変化、あるいは光学的な変化などとしてとらえて電気信号に変換する。スピーカの場合、一般的には、音声信号を電磁変換して振動板の振動に変換し、音波として出力するようになっている。これら電気音響変換器における振動板は、空気振動と電気信号相互間での変換のために用いられる。換言すれば、音響系−機械振動系−電気回路系の三つの系を1枚の振動板が繋いだ構成になっている。このように、従来の一般的な電気音響変換器、特にマイクロホンやスピーカは、いずれの方式にせよ振動板を備えているため、振動板が存在することに起因する周波数応答の限界が存在する。したがって、振動板の質量を極限まで小さくしたとしても、質量が存在する以上慣性力が働き、周波数において集音限界が存在することになる。
振動板を持たない電気音響変換器の例として、放電を利用して粒子速度を検出し、電気音響変換する方法が特許文献1に記載されている。特許文献1記載の発明は、針状放電電極と、この放電電極を、間隔をおいて取り囲む対向電極を備え、対向電極は、球状をなしていて音波を透過するように穿孔された導電材料からなり、放電電極は、上記球状対向電極の内部に向かって伸びて球の中心近傍に到達している。放電電極には、音波に変換されるべき低周波信号によって変調された高周波電圧発生回路から高周波電圧信号が印加され、放電電極と対向電極との間で上記高周波電圧信号に対応したコロナ放電が行われることにより、上記低周波信号すなわち音波が放射されるようになっている。
また、図2は、振動板を持たない電気音響変換器の別の例として、非特許文献1によって知られている、振動板の代わりに放電を利用した放電型スピーカの例を示す。図2に示す放電型スピーカは、主にベース1と、インシュレーター2と、取付パネル3と、ホーン6と、針状電極5から構成されている。
この放電型スピーカにおいては、針状電極5と、板状電極である上記ホーン6との間で放電部を形成している。この放電部は、高周波放電を生起させる上記高周波発振回路の一部を構成し、針状電極5とホーン6との間に不平等電界が形成され、ここに高周波電圧が加えられることで、高周波放電(プラズマ)が生起されるようになっている。前述のようにこの放電は火炎放電ともいわれるもので、図2における符号8は、針状電極5とホーン6との間の放電部において放電によって生じる火炎を示している。針状電極5側が高電界になるため、火炎放電は針状電極5付近において発生し、ホーン6側に伸びる。
針状電極5は、先端部分が尖った針状の形状を有する部材であるとともに、その基端部が絶縁筒4で覆われている。針状電極5は、図示せぬ駆動回路に接続されている。駆動回路は、約27〜28MHzで発振する高周波発振回路と、この発振信号が音声信号によって変調される変調回路、および電源電圧を高圧の直流電圧に昇圧する電源回路を有してなる。針状電極5は、例えば白金、インジュームなど放電電極として適した素材からなる。この針状電極5は、ベース1に取り付けられている。
ホーン6は加工性の良い真鍮やアルミニウムなどの金属により形成された導電性の部材であり、板状電極を構成している。ホーン6の内周面は、緩やかな弧を描く漏斗状となっている。ホーン6の外周面には、後述する取付パネル3に接する平面部と、平面部分から伸展した細口になっている中空の円筒部62が形成されている。円筒部62の外径は、後述するインシュレーター2の内径及び取付パネル3の孔の径とほぼ同じになっている。このホーン6を経て、インシュレーター2内外に音波が移動する。また、円筒部62の内周面には、内径が拡張されることにより段差部61が形成されている。
上記円筒部62の拡張された内径部分には、絶縁体である円筒状の石英ガラス7が嵌めこまれている。石英ガラス7の外径は、上記円筒部62の拡張された内径部分とほぼ同一である。また、石英ガラス7の肉厚は、段差部61の段差と同じで、ホーン6の内周面と石英ガラス7の内周面が円滑に連続している。
上記針状電極5とホーン6との間で高周波放電を生成させるためには高電圧を印加する必要があるため、図示せぬ高周波発振回路は、高電圧に耐えることができる真空管を発振用の能動素子として使用している。針状電極5とホーン6との間で形成される放電路の放電電流が上記真空管に帰還することにより、自励発振による高周波発振回路が構成される。具体的には、高周波発振回路に音声信号を入力し、音声信号で変調された高周波信号を生成する。そして、この高周波信号を用いた放電を行うことで、音声信号に対応した音波が発生する。
針状電極5とホーン6で形成される放電部は、ベース1、インシュレーター2及び取付パネル3により周囲を覆われている。
ベース1は誘電体から形成され、図示せぬアース配線を通じて接地されている。ベース1の中央部分には孔11が形成されている。針状電極5はこの孔11に挿入され、ベース1、インシュレーター2及び取付パネル3によりにより囲まれる空間へと伸展した状態でベース1に取り付けられている。
インシュレーター2は、放電部の周囲を取り囲む部材であって、絶縁性を有する素材から形成された筒状の部材である。インシュレーター2の一端にはベース1が取り付けられていて、他端には取付パネル3が取り付けられている。
取付パネル3は絶縁性を有する板状の素材であり、中央部に孔が形成されている。ホーン6は取付パネル3を介してインシュレーター2に取り付けられていて、ホーン6の円筒部62は取付パネル3の孔に挿入されている。この取付パネル3は、一般的なスピーカにおけるバッフル板に相当する部材である。
特開昭55−140400号公報 誠文堂新光社発行「無線と実験」2001年12月号「スピーカー技術の100年」
ところで、図2に示すスピーカが機能するためには放電がホーン6方向に伸びる必要がある。しかし、ホーン6は全体が金属製であるため、火炎放電が円筒部62の半径方向に向かう火花放電を起こし、半径方向にある内周面が火花放電により破壊されてしまうことがある。この火花放電を防止するために、上述した従来の放電型スピーカでは、絶縁体である石英ガラス7により円筒部62の内周面が覆われている。
しかし、石英ガラス7の加工は精度の面から難しく、寸法等に設計上の制限を受ける。また、石英ガラス7を薄型化することは困難であるため、火炎放電の際に放電部から発生する熱を、石英ガラス7からホーン6を経て外部に放熱する際に不利となる。
本発明は、以上説明した従来の高周波放電を利用した電気音響変換器の問題点を解消すること、すなわち、絶縁体としてセラミックコーティング層を用いることで、作成が容易であり、形状を任意に設計できるとともに、被覆が薄いため放熱性に優れた電気音響変換器およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、針状電極と、針状電極の周囲を囲む板状電極と、針状電極と板状電極との間に形成される放電部と、放電部を含みこの放電部で高周波放電を生起させる高周波発振回路と、を備え、放電部に導入される音波に応じて変調された音声信号を取り出し、または放電部において音声信号で変調された高周波信号に応じた放電を行わせることにより音声に変換する電気音響変換器であって、板状電極は広口となった部分及び細口となった円筒部を有する漏斗状の形状をしていて、円筒部は針状電極の先端部外周を所定の間隔をおいて取り囲んでおり、円筒部の内周面は段差のない円滑な曲面であって上記内周面にセラミックコーティング層を備えていることを最も主要な特徴とする。
また、本発明は、針状電極と、針状電極の周囲を囲む漏斗状の板状電極と、針状電極と板状電極との間に形成される放電部と、放電部を含みこの放電部で高周波放電を生起させる高周波発振回路と、を備え、放電部に導入される音波に応じて変調された音声信号を取り出し、または放電部において音声信号で変調された高周波信号に応じた放電を行わせることにより音声に変換する電気音響変換器の製造方法であって、板状電極は口細となっている円筒部を有し、上記円筒部の内周面は段差のない円滑な曲面であり、板状電極の円筒部の内周面にセラミックコーティング液を噴霧した後、焼結してセラミックコーティング層を形成する被覆工程と、セラミックコーティング層の形成が終了した板状電極と、針状電極と、高周波発振回路とを用いて電気音響変換器を組み立てる組立工程と、を含むことを主要な特徴とする。
本発明によれば、針状電極の周囲を取り囲む板状電極の内周面に設けられる絶縁体としてセラミックコーティング層を用いることで、作成が容易であり、形状を任意に設計できるとともに、被覆が薄いため放熱性に優れた電気音響変換器およびその製造方法を提供することができる。
本発明に係る電気音響変換器の実施例を示す縦断面図である。 従来の高周波放電による電気音響変換器の例を示す縦断面図である。
以下、本発明に係る電気音響変換器の実施例として、放電型スピーカの例を示す図1を参照しながら説明する。図2に示す従来例の構成と同じ構成部分には、共通の符号を付した。
図1に示す放電型スピーカは、針状電極5と、板状電極であるホーン6との間で放電部を形成している。この放電部は、高周波放電を生起させる高周波発振回路の一部を構成し、針状電極5とホーン6との間に不平等電界が形成され、ここに高周波電圧が加えられることで、高周波放電(プラズマ)が生起されるようになっている。前述のようにこの放電は火炎放電ともいわれるもので、図1における符号8は、針状電極5とホーン6との間の放電部において放電によって生じる火炎を示している。針状電極5側が高電界になるため、火炎放電は針状電極5付近において発生し、ホーン6側に伸びる。
針状電極5は、先端部分が尖った針状の形状を有する部材であるとともに、その基端部が絶縁筒4で覆われている。針状電極5は、図示せぬ駆動回路に接続されている。駆動回路は、約27〜28MHzで発振する高周波発振回路と、この発振信号が音声信号によって変調される変調回路、および電源電圧を高圧の直流電圧に昇圧する電源回路を有してなる。針状電極5は、例えば白金、インジュームなど放電電極として適した素材からなる。この針状電極5は、ベース1に取り付けられている。
ホーン6は加工性の良い真鍮やアルミニウムなどの金属により形成された導電性の部材であり、板状電極を構成している。ホーン6の内周面は、緩やかな弧を描く漏斗状となっている。ホーン6の外周面には、後述する取付パネル3に接する平面部と、平面部分から伸展した細口になっている中空の円筒部62が形成されている。円筒部62の外径は、後述するインシュレーター2の内径及び取付パネル3の孔の径とほぼ同じになっている。このホーン6を経て、インシュレーター2内外に音波が移動する。また、円筒部62の内周面には、セラミックコーティング層9が形成されている。このセラミックコーティング層9は、従来の電気音響変換器に用いられていた石英ガラス7よりもかなり薄い、絶縁性を有する層である。
上記針状電極5とホーン6との間で高周波放電を生成させるためには高電圧を印加する必要があるため、図示せぬ高周波発振回路は、高電圧に耐えることができる真空管を発振用の能動素子として使用している。針状電極5とホーン6との間で形成される放電路の放電電流が上記真空管に帰還することにより、自励発振による高周波発振回路が構成される。具体的には、高周波発振回路に音声信号を入力し、音声信号で変調された高周波信号を生成する。そして、この高周波信号を用いた放電を行うことで、音声信号に対応した音波が発生する。
針状電極5とホーン6で形成される放電部は、ベース1、インシュレーター2及び取付パネル3により周囲を覆われている。
ベース1は誘電体から形成され、図示せぬアース配線を通じて接地されている。ベース1の中央部分には孔11が形成されている。針状電極5はこの孔11に挿入され、インシュレーター2により囲まれる空間へと伸展した状態でベース1に取り付けられている。
インシュレーター2は、放電部の周囲を取り囲む部材であって、絶縁性を有する素材から形成された筒状の部材である。インシュレーター2の一端にはベース1が取り付けられていて、他端には取付パネル3が取り付けられている。
取付パネル3は絶縁性を有する板状の素材であり、中央部に孔が形成されている。ホーン6は取付パネル3を介してインシュレーター2に取り付けられていて、ホーン6の円筒部62は取付パネル3の孔に挿入されている。この取付パネル3は、一般的なスピーカにおけるバッフル板に相当する部材である。
上述したように、本実施例に係る電気音響変換器としての放電スピーカでは、ホーン6には図2に示した従来の電気音響変換器としての放電スピーカとは異なり、ホーン6の円筒部62には段差部61が形成されておらず、円筒部62の内周面は全体にわたり円滑な曲面となっている。この円筒部62の内周面には、セラミックコーティング層9が形成されている。このセラミックコーティング層9は、従来の電気音響変換器としてのスピーカにおいて用いられていた石英ガラス7よりもかなり薄く、絶縁性を有する層である。
このセラミックコーティング層9は、円筒部62の内周面へのセラミックコーティングスプレーによる噴霧、あるいはセラミックコーティング液の筆での塗布等の後、200℃程度の温度で焼結することで形成することができる。
本実施例に係る電気音響変換器としての放電スピーカの製造では、まずホーン6の円筒部62の内周面にセラミックコーティング液の塗布が行われる。この塗布は、スプレー噴霧によっても、筆による塗布でも良い。そして、セラミックコーティング液が塗布された後、焼結が行われてセラミックコーティング層が形成される。
次に、セラミックコーティング層9の形成が終了したホーン6が、他の部材であるベース1、インシュレーター2、パネル3、絶縁筒4および針状電極5とともに組み合わされることによって本実施例に係る電気音響変換器としての放電スピーカが作成される。
このようにして作成された放電スピーカは、セラミックコーティング層9により、石英ガラスと同様に、火花放電の発生を防止することができる。更に、セラミックコーティング層9は極めて薄い層であることから、放電部において発生した熱がセラミックコーティング層9を経てホーン6に伝わり、ホーン6から外部に放出され易いため、放熱性に優れている。また、セラミックコーティング層はセラミックコーティング液の塗布と焼結により容易に形成されることから、作成が容易であり、また、形状を任意に設計できる。
図示の実施例では、高周波放電を利用した放電スピーカとして説明した。しかし、これに限らず、音波の粒子速度によって放電部の粒子速度が変化し、高周波放電部の等価インピーダンスが変化することにより、高周波発振回路による発振信号が変調される現象を利用し、マイクロホンとして動作させることができる。よって、本発明に係る電気音響変換器は、マイクロホンとしてもスピーカとしても利用することができる。本発明に係る電気音響変換器をスピーカとして利用する場合の原理について説明する。
針状電極とホーンにより形成される放電部の粒子速度が音波の粒子速度によって変化し、高周波放電部の等価インピーダンスが変化する。音波によって放電部の等価インピーダンスが変化することにより、上記発振回路による発振信号が音波によって変調される。この変調信号は、周波数変調すなわちFM変調成分と振幅変調すなわちAM変調成分を含むが、FM変調成分の方がより多く含まれる。したがって、上記FM変調された信号を取り出してこれをFM復調回路に入力すれば、上記音波導入部から導入される音波に対応したオーディオ信号に変換することができる。
1 ベース
11 孔
2 インシュレーター
3 取付パネル
4 絶縁筒
5 針状電極
6 ホーン
61 段差部
62 円筒部
7 石英ガラス
8 火炎
9 セラミックコーティング層

Claims (2)

  1. 針状電極と、上記針状電極の周囲を囲む板状電極と、上記針状電極と板状電極との間に形成される放電部と、上記放電部を含みこの放電部で高周波放電を生起させる高周波発振回路と、を備え、上記放電部に導入される音波に応じて変調された音声信号を取り出し、または上記放電部において音声信号で変調された高周波信号に応じた放電を行わせることにより音声に変換する電気音響変換器であって、
    上記板状電極は広口となった部分及び細口となった円筒部を有する漏斗状の形状をしていて、上記円筒部は上記針状電極の先端部外周を所定の間隔をおいて取り囲んでおり、
    上記円筒部の内周面は段差のない円滑な曲面であって上記内周面にセラミックコーティング層を備えている電気音響変換器。
  2. 針状電極と、上記針状電極の周囲を囲む漏斗状の板状電極と、上記針状電極と板状電極との間に形成される放電部と、上記放電部を含みこの放電部で高周波放電を生起させる高周波発振回路と、を備え、上記放電部に導入される音波に応じて変調された音声信号を取り出し、または上記放電部において音声信号で変調された高周波信号に応じた放電を行わせることにより音声に変換する電気音響変換器の製造方法であって、
    上記板状電極は細口となっている円筒部を有し、
    上記円筒部の内周面は段差のない円滑な曲面であり、
    上記板状電極の円筒部分の内周面にセラミックコーティング液を塗布した後、焼結してセラミックコーティング層を形成する被覆工程と、
    セラミックコーティング層の形成が終了した上記板状電極と、上記針状電極と、上記高周波発振回路とを用いて電気音響変換器を組み立てる組立工程と、
    を含む電気音響変換器の製造方法。
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