JP5436119B2 - 倒立振子型移動体 - Google Patents
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Description
しかし、移動体の基体に荷物などを載せた場合には、上述の特徴により基体が傾斜してしまうので、載せた荷物が滑り落ちてしまうなどの問題がある。また、基体が傾斜すると乗員の姿勢も傾斜することになり、乗り心地が悪くなるという問題がある。
また、基体のバランサを設け、基体の傾斜に応じて当該バランサを移動させることにより基体の傾斜を緩和するものがあるが、基体の重量が増加してしまうという問題がある。
請求項2に記載した発明によれば、重心点が移動した場合においても、相対駆動部を駆動して複数の車輪それぞれが有する移動動作部の中心位置を移動させることにより、移動動作部の中心位置を結ぶ直線の真上に重心点を位置させることにより、基体を傾斜させずとも基体の水平性を保持することができる。その結果、基体に乗せた荷物が滑り落ちたり、乗り心地が悪くなることを防ぐことができる。
請求項3に記載した発明によれば、荷重センサは、基体に作用する荷重の変化を検出し、制御部は、荷重の変化が検出されると、相対駆動部を駆動することができるので、基体に荷物等を載せたことにより基体が傾斜する場合を検出し、基体の水平性を維持することができる。更に、倒立振子型移動体を走行させている際に、乗員の重心移動などにより基体を傾斜させる場合には、相対駆動部を駆動させないことにより倒立振子型移動体の操作フィーリングを損なうことを防ぐことができる。
請求項4に記載した発明によれば、車輪を相対移動させる際に、床面上と車輪との間に発生する摩擦力を低減させることができるので、車輪の移動に伴い基体の向きが変わることを防ぐことができる。その結果、車輪の相対移動により倒立振子型移動体の操作フィーリングが損なわれることなく、基体の水平性を保持することができる。
図1は電動車両を前側から見た斜視図であり、図2は後側から見た斜視図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の電動車両1は、基体2と、基体2の前後に取り付けた全方向駆動車輪である前輪(第2の車輪)3及び後輪(第1の車輪)4と、後輪4の上方に配置され乗員(利用者)Dが電動車両1の前向きに着座可能な着座部7とを備えている。
前輪3及び後輪4は、床面に接地しながら該床面上を全方向(前後方向(第1の方向)及び左右方向(第2の方向)を含む2次元的な全方向)に移動可能な移動動作部5Rと、を駆動するアクチュエータ装置19を有している。
ステップフロア9は、路面Tとの間に間隔を空けた状態で路面Tと平行に延在する平板状の部材であり、その上面に乗員Dの足部や荷物等を載置可能に構成されている。そして、ステップフロア9の前端部には、前輪3の前輪フェンダー11Fが連結される一方、後端部には後輪4の後輪フェンダー11Rが連結されている。
連結部10は、上方に向かって延在する円柱状の部材であり、下端が後輪フェンダー11Rの上部に連結される一方、上端に着座部7が連結されている。
図3に示すように、後輪フェンダー11Rの内側には、長尺状のレール41が設けられ、後輪4に接合された車輪支持部材42が、レール41に貫通されると共に、電動車両1の左右方向(Y方向)にスライド自在に支持されている。車輪支持部材42の内部には、固定部材421より車輪時部材42の内面に固定されたアクチュエータ422と、アクチュエータ422が駆動することにより回転するローラ423とが備えられている。ローラ423は、レール41に圧接されており、アクチュエータ422が駆動することにより、レール41に沿って車輪支持部材42がY方向に移動するようになっている。すなわち、電動車両1は、アクチュエータ422を駆動により後輪4の位置をY方向に移動させるスライダー機能を有している。
車輪体5Rは、その軸心C2(車輪体5R全体の直径方向に直交する軸心C2)が電動車両1の左右方向に一致した状態で、カバー部材21の内側に配置され、車輪体5Rの外周面の下端部にて路面Tに接地している。なお、カバー部材21は、側面視で円形状に形成されるとともに、下方に向けて開口するドーム状の部材であり、後輪4における下端部を除くほぼ全体を覆うように配置されている。
アクチュエータ装置19は、車輪体5Rとカバー部材21の右側壁21Rとの間に介装される回転部材27R及びフリーローラ29Rと、車輪体5Rとカバー部材21の左側壁21Lとの間に介装される回転部材27L及びフリーローラ29Lと、回転部材27R及びフリーローラ29Rの上方に配置されたアクチュエータとしての電動モータ31Rと、回転部材27L及びフリーローラ29Lの上方に配置されたアクチュエータとしての電動モータ31Lとを備えている。
回転部材27Rは、左右方向の軸心を有する支軸33Rを介して右側壁21Rに回転可能に支持されている。同様に、回転部材27Lは、左右方向の軸心を有する支軸33Lを介して左側壁21Lに回転可能に支持されている。この場合、回転部材27Rの回転軸心(支軸33Rの軸心)と、回転部材27Lの回転軸心(支軸33Lの軸心)とは同軸心である。
なお、上述した動力伝達機構は、例えば、スプロケットとリンクチェーンとにより構成されるもの、あるいは、複数のギヤにより構成されるものであってもよい。また、例えば、電動モータ31R,31Lを、それぞれの出力軸が各回転部材27R,27Lと同軸心になるように各回転部材27R,27Lに対向させて配置し、電動モータ31R,31Lのそれぞれの出力軸を回転部材27R,27Lに各々、減速機(遊星歯車装置等)を介して連結するようにしてもよい。
回転部材27Rのテーパ外周面39Rの周囲には、回転部材27Rと同心の円周上に等間隔で並ぶようにして、複数のフリーローラ29Rが配列されている。そして、これらのフリーローラ29Rは、それぞれ、ブラケット38Rを介してテーパ外周面39Rに取付けられ、ブラケット38Rに回転可能に支承されている。
同様に、回転部材27Lのテーパ外周面39Lの周囲には、回転部材27Lと同心の円周上に等間隔で並ぶようにして、複数(フリーローラ29Rと同数)のフリーローラ29Lが配列されている。そして、これらのフリーローラ29Lは、それぞれ、ブラケット38Lを介してテーパ外周面39Lに取付けられ、ブラケット38Lに回転可能に支承されている。
この場合、図6に示すように、各フリーローラ29R,29Lは、その軸心C3が車輪体5Rの軸心C2に対して傾斜するとともに、車輪体5Rの直径方向(車輪体5Rをその軸心C2の方向で見たときに、軸心C2と各フリーローラ29R,29Lとを結ぶ径方向)に対して傾斜する姿勢で配置されている。そして、このような姿勢で、各フリーローラ29R,29Lのそれぞれの外周面が車輪体5Rの内周面に斜め方向に圧接されている。
より一般的に言えば、右側のフリーローラ29Rは、回転部材27Rが軸心C2の周りに回転駆動されたときに、車輪体5Rとの接触面で、軸心C2周りの方向の摩擦力成分(車輪体5Rの内周の接線方向の摩擦力成分)と、車輪体5Rの横断面中心C1の周り方向の摩擦力成分(円形の横断面の接線方向の摩擦力成分)とを車輪体5Rに作用させ得るような姿勢で、車輪体5Rの内周面に圧接されている。左側のフリーローラ29Lについても同様である。
また、例えば回転部材27R,27Lを互いに逆方向に同じ大きさの速度で回転駆動させた場合には、各車輪体5Rは、その横断面中心C1の周りに回転することとなる。これにより、各車輪体5Rがその軸心C2の方向(すなわち左右方向)に移動し、ひいては、電動車両1の全体が左右方向に移動することとなる。なお、この場合は、車輪体5Rは、その軸心C2の周りには回転しない。
この時、これらの回転動作の複合動作(合成動作)によって、前後方向及び左右方向に対して傾斜した方向に車輪体5Rが移動し、ひいては、電動車両1の全体が車輪体5Rと同方向に移動することとなる。この場合の車輪体5Rの移動方向は、回転部材27R,27Lの回転方向を含めた回転速度(回転方向に応じて極性が定義された回転速度ベクトル)の差に依存して変化するものとなる。
以上のように各車輪体5Rの移動動作が行なわれるので、電動モータ31R,31Lのそれぞれの回転速度(回転方向を含む)を制御し、ひいては回転部材27R,27Lの回転速度を制御することによって、電動車両1の移動速度及び移動方向を制御できることとなる。
具体的には、重心点Gが、車輪体5F及び車輪体5Rの中心点(軸心C2上の中心点)を結ぶ直線のほぼ真上に位置する状態(より正確には当該重心点が車輪体5F及び車輪体5Rの接地面を結ぶ直線のほぼ真上に位置する状態)を目標状態とし、該基体2の実際の姿勢を目標姿勢(本実施形態においては、基体2及び着座部7が水平を保つ姿勢)に収束させるように、スライダー機構、すなわち、アクチュエータ422が制御される。
図7(a)は、実施形態における電動車両1の重心点Gと、車輪体5F及び車輪体5Rの関係を示す簡略図である。図7(b)は、重心点Gが基体2に対して左方向に移動した場合の車輪体5F及び車輪外5Rの関係を示す簡略図である。
この場合、制御ユニット50及び傾斜センサ52は、例えば、連結部10の内部に収容された状態で取り付けられている。また、荷重センサ54は、シート部12の座面部13に内蔵されている。また、ロータリーエンコーダ56R,56Lは、それぞれ、電動モータ31R,31Lと一体に設けられている。なお、ロータリーエンコーダ56R,56Lは、それぞれ、回転部材27R,27Lに装着してもよい。
この場合、計測する傾斜角度θb(以降、基体傾斜角度θbということがある)は、より詳しくは、それぞれ、Y軸周り方向(ピッチ方向)の成分θb_xと、X軸周り方向(ロール方向)の成分θb_yとから成る。同様に、計測する傾斜角速度θbdot(以降、基体傾斜角速度θbdotということがある)も、Y軸周り方向(ピッチ方向)の成分θbdot_x(=dθb_x/dt)と、X軸周り方向(ロール方向)の成分θbdot_y(=dθb_y/dt)とから成る。
この場合において、並進速度等の並進運動に係わる変数については、そのX軸方向の成分に添え字“_x”を付加し、Y軸方向の成分に添え字“_y”を付加する。
一方、角度、回転速度(角速度)、角加速度など、回転運動に係わる変数については、並進運動に係わる変数と添え字を揃えるために、便宜上、Y軸周り方向の成分に添え字“_x”を付加し、X軸周り方向の成分に添え字“_y”を付加する。
前記荷重センサ54は、乗員が着座部7に着座した場合に該乗員の重量による荷重を受けるように着座部7に内蔵され、その荷重に応じた検出信号を制御ユニット50に出力する。そして、制御ユニット50が、この荷重センサ54の出力により示される荷重の計測値に基づいて、車両1に乗員が搭乗しているか否かを判断する。
ロータリーエンコーダ56Rは、電動モータ31Rの出力軸が所定角度回転する毎にパルス信号を発生し、このパルス信号を制御ユニット50に出力する。そして、制御ユニット50が、そのパルス信号を基に、電動モータ53Rの出力軸の回転角度を計測し、さらにその回転角度の計測値の時間的変化率(微分値)を電動モータ53Rの回転角速度として計測する。電動モータ31L側のロータリーエンコーダ56Lについても同様である。
なお、電動モータ31Rの出力軸の回転角速度と、回転部材27Rの回転角速度との間の関係は、該出力軸と回転部材27Rとの間の一定値の減速比に応じた比例関係になるので、本実施形態の説明では、便宜上、電動モータ31Rの回転角速度は、回転部材27Rの回転角速度を意味するものとする。同様に、電動モータ31Lの回転角速度は、回転部材27Lの回転角速度を意味するものとする。
制御ユニット50は、所定の制御処理周期で図8のフローチャートに示す処理(メインルーチン処理)を実行する。
まず、ステップS1において、制御ユニット50は、傾斜センサ52の出力を取得する。
次いで、ステップS2に進んで、制御ユニット50は、取得した傾斜センサ52の出力を基に、基体傾斜角度θbの計測値θb_xy_sと、基体傾斜角速度θbdotの計測値θbdot_xy_sとを算出する。
なお、以降の説明では、上記計測値θb_xy_sなど、変数(状態量)の実際の値の観測値(計測値又は推定値)を参照符号により表記する場合に、該変数の参照符号に、添え字“_s”を付加する。
また、本実施形態に示す電動車両1は、2輪車の形態を有することから、以下の説明においてY軸方向の回転成分について説明を無視してもよい。すなわち、θb_x_s、及びθbdot_x_sを常に0とみなしてもよい。
そして、制御ユニット50は、ステップS4の判断結果が肯定的である場合には、基体傾斜角度θbの目標値θb_xy_objを設定する処理と、車両1の動作制御用の定数パラメータ(各種ゲインの基本値など)の値を設定する処理とを、それぞれステップS5、6で実行する。
ここで、「搭乗モード」は、車両1に乗員が搭乗している場合での車両1の動作モードを意味する。この搭乗モード用の目標値θb_xy_objは、車両1と着座部7に着座した乗員との全体の重心点(以降、車両・乗員全体重心点という)が車輪体5F及び車輪対5Rの中心位置を結ぶ直線のほぼ真上に位置する状態となる基体2の姿勢において、傾斜センサ52の出力に基づき計測される基体傾斜角度θbの計測値θb_xy_sに一致又はほぼ一致するようにあらかじめ設定されている。
一方、ステップS4の判断結果が否定的である場合には、制御ユニット50は、基体傾斜角度θb_xyの目標値θb_xy_objを設定する処理と、車両1の動作制御用の定数パラメータの値を設定する処理とを、ステップS7、8で実行する。
ステップS7においては、制御ユニット50は、傾斜角度θbの目標値θb_xy_objとして、あらかじめ定められた自立モード用の目標値を設定する。
また、ステップS8においては、制御ユニット50は、車両1の動作制御用の定数パラメータの値として、あらかじめ定められた自立モード用の値を設定する。この自立モード用の定数パラメータの値は、搭乗モード用の定数パラメータの値と異なる。
以上のステップS4〜8の処理によって、搭乗モード及び自立モードの動作モード毎に個別に、基体傾斜角度θb_xyの目標値θb_xy_objと定数パラメータの値とが設定される。
なお、ステップS5,6の処理、又はステップS7,8の処理は、制御処理周期毎に実行することは必須ではなく、ステップS4の判断結果が変化した場合にだけ実行するようにしてもよい。
以上の如くステップS5,6の処理、又はステップS7,8の処理を実行した後、制御ユニット50は、次にステップS9において、車両制御演算処理を実行することによって、電動モータ31R,31Lのそれぞれの速度指令を決定する。この車両制御演算処理の詳細は後述する。
以上が、制御ユニット50が実行する全体的な制御処理である。
なお、以降の説明においては、前記搭乗モードにおける車両・乗員全体重心点と、前記自立モードにおける車両単体重心点とを総称的に、車両系重心点という。該車両系重心点は、車両1の動作モードが搭乗モードである場合には、車両・乗員全体重心点を意味し、自立モードである場合には、車両単体重心点を意味する。
また、以降の説明では、制御ユニット50が各制御処理周期で決定する値(更新する値)に関し、現在の(最新の)制御処理周期で決定する値を今回値、その1つ前の制御処理周期で決定した値を前回値ということがある。そして、今回値、前回値を特にことわらない値は、今回値を意味する。
また、X軸方向の速度及び加速度に関しては、前方向きを正の向きとし、Y軸方向の速度及び加速度に関しては、左向きを正の向きとする。
なお、図9において、括弧を付していない参照符号は、Y軸方向から見た倒立振子モデルに対応する参照符号であり、括弧付きの参照符号は、X軸方向から見た倒立振子モデルに対応する参照符号である。
この倒立振子モデルでは、質点60_xの運動が、Y軸方向から見た車両系重心点の運動に相当する。また、鉛直方向に対するロッド64_xの傾斜角度θbe_xがY軸周り方向での基体傾斜角度計測値θb_x_sと基体傾斜角度目標値θb_x_objとの偏差θbe_x_s(=θb_x_s−θb_x_obj)に一致するものとされる。また、ロッド64_xの傾斜角度θbe_xの変化速度(=dθbe_x/dt)がY軸周り方向の基体傾斜角速度計測値θbdot_x_sに一致するものとされる。また、仮想車輪62_xの移動速度Vw_x(X軸方向の並進移動速度)は、車両1の車輪体5のX軸方向の移動速度に一致するものとされる。
この倒立振子モデルでは、質点60_yの運動が、X軸方向から見た車両系重心点の運動に相当する。また、鉛直方向に対するロッド64_yの傾斜角度θbe_yがX軸周り方向での基体傾斜角度計測値θb_y_sと基体傾斜角度目標値θb_y_objとの偏差θbe_y_s(=θb_y_s−θb_y_obj)に一致するものとされる。また、ロッド64_yの傾斜角度θbe_yの変化速度(=dθbe_y/dt)がX軸周り方向の基体傾斜角速度計測値θbdot_y_sに一致するものとされる。また、仮想車輪62_yの移動速度Vw_y(Y軸方向の並進移動速度)は、車両1の車輪体5のY軸方向の移動速度に一致するものとされる。
また、仮想車輪62_x,62_yのそれぞれの回転角速度ωw_x,ωw_yと、電動モータ31R,31Lのそれぞれの回転角速度ω_R,ω_L(より正確には、回転部材27R,27Lのそれぞれの回転角速度ω_R,ω_L)との間には、次式01a,01bの関係が成立するものとされる。
ωw_x=(ω_R+ω_L)/2 ……式01a
ωw_y=C・(ω_R−ω_L)/2 ……式01b
ここで、図9に示す倒立振子モデルの動力学は、次式03x,03yにより表現される。なお、式03xは、Y軸方向から見た倒立振子モデルの動力学を表現する式、式03yは、X軸方向から見た倒立振子モデルの動力学を表現する式である。
d2θbe_x/dt2=α_x・θbe_x+β_x・ωwdot_x ……式03x
d2θbe_y/dt2=α_y・θbe_y+β_y・ωwdot_y ……式03y
これらの式03x,03yから判るように、倒立振子の質点60_x,60_yの運動(ひいては車両系重心点の運動)は、それぞれ、仮想車輪62_xの回転角加速度ωwdot_x、仮想車輪62_yの回転角加速度ωwdot_yに依存して規定される。
なお、本実施形態では、操作量(制御入力)としての上記仮想車輪回転角加速度指令ωwdot_x_cmd,ωwdot_y_cmdは、それぞれ、後述する式07x,07yに示す如く、3個の操作量成分を加え合わせることによって決定される。
図示するように、制御ユニット50は、基体傾斜角度計測値θb_xy_sと基体傾斜角度目標値θb_xy_objとの偏差である基体傾斜角度偏差計測値θbe_xy_sを算出する偏差演算部70と、前記車両系重心点の移動速度である重心速度Vb_xyの観測値としての重心速度推定値Vb_xy_sを算出する重心速度算出部72と、乗員等による車両1の操縦操作(車両1に推進力を付加する操作)によって要求されていると推定される上記重心速度Vb_xyの要求値としての要求重心速度Vb_xy_aimを生成する要求重心速度生成部74と、これらの重心速度推定値Vb_xy_s及び要求重心速度Vb_xy_aimから、電動モータ31R,31Lの回転角速度の許容範囲に応じた制限を加味して、重心速度Vb_xyの目標値としての制御用目標重心速度Vb_xy_mdfdを決定する重心速度制限部76と、後述する式07x,07yのゲイン係数の値を調整するためのゲイン調整パラメータKr_xyを決定するゲイン調整部78と、スライダーを制御するためのスライダー指令値を決定するスライダー制御部75と、制御用目標重心速度Vb_xy_mdfdを補正する加算演算部77とを備える。
また、制御ユニット50は、スライダー制御部75が算出したスライダー指令値をアクチュエータ422のスライダー駆動指令S_cmdに変換するスライダー指令演算部85を備える。
なお、図10中の参照符号84を付したものは、姿勢制御演算部80が制御処理周期毎に算出する仮想車輪回転角速度指令ωw_xy_cmdを入力する遅延要素を示している。該遅延要素84は、各制御処理周期において、仮想車輪回転角速度指令ωw_xy_cmdの前回値ωw_xy_cmd_pを出力する。
偏差演算部751は、重心速度算出部72が算出した重心速度推定値Vb_xy_sと、リミッタ755が出力する値との偏差を算出し、スライダー動作切替部752に出力する。スライダー動作切替部752は、外部から入力される切替信号に応じて、スライダー動作を行うモードと、スライダー動作を行わないモードとを切り替える。また、スライダー動作切替部752は、スライダー動作を行うモードの場合、偏差演算部751から入力された偏差を一時遅れフィルタ753に出力し、スライダー動作を行いモードの場合、0(ゼロ)を一次遅れフィルタ753に出力する。すなわち、スライダー動作を行わないモードにおいて、スライダー制御部75は、スライダー機構のアクチュエータ422を駆動する制御を行わない。
処理部756は、入力された値に第4ゲイン係数K4を乗じた値であるスライダー指令値をローパスフィルタ757及びスライダー指令演算部85に出力する。ローパスフィルタ757は、入力された値(スライダー指令値)をフィルタリング処理して処理部758に出力する。処理部758は、ローパスフィル757から入力された値に第5ゲイン係数K5を乗じた値である制御用目標重心速度補正値Vb_y_cancel_cmdを算出し、加算演算部77に出力する。なお、本実施形態において、スライダー機構による車輪体5F、5Rの移動方向がY方向のみであるので、制御用目標重心速度補正値Vb_y_cancel_cmdがY方向成分のみとなっている。
すなわち、制御ユニット50は、まず、偏差演算部70の処理と重心速度算出部72の処理とを実行する。
偏差演算部70には、前記ステップS2で算出された基体傾斜角度計測値θb_xy_s(θb_x_s及びθb_y_s)と、前記ステップS5又はステップS7で設定された目標値θb_xy_obj(θb_x_obj及びθb_y_obj)とが入力される。そして、偏差演算部70は、θb_x_sからθb_x_objを減算することによって、Y軸周り方向の基体傾斜角度偏差計測値θbe_x_s(=θb_x_s−θb_x_obj)を算出すると共に、θb_y_sからθb_y_objを減算することによって、X軸周り方向の基体傾斜角度偏差計測値θbe_y_s(=θb_y_s−θb_y_obj)を算出する。
なお、偏差演算部70の処理は、ステップS9の車両制御演算処理の前に行うようにしてもよい。例えば、前記ステップS5又は7の処理の中で、偏差演算部70の処理を実行してもよい。
具体的には、重心速度算出部72は、次式05x,05yにより、Vb_x_s及びVb_y_sをそれぞれ算出する。
Vb_x_s=Rw_x・ωw_x_cmd_p+h_x・θbdot_x_s ……式05x
Vb_y_s=Rw_y・ωw_y_cmd_p+h_y・θbdot_y_s ……式05y
なお、前記ロータリーエンコーダ56R,56Lの出力を基に計測される電動モータ31R,31Lのそれぞれの回転角速度の計測値(今回値)の組を、仮想車輪62_x,62_yのそれぞれの回転角速度の組に変換し、それらの回転角速度を、式05x、05yのωw_x_cmd_p、ωw_y_cmd_pの代わりに用いてもよい。ただし、回転角速度の計測値に含まれるノイズの影響を排除する上では、目標値であるωw_x_cmd_p、ωw_y_cmd_pを使用することが有利である。
そして、要求重心速度生成部74は、車両1の動作モードが搭乗モードである場合に、入力された重心速度推定値Vb_xy_s(Vb_x_s及びVb_y_s)を基に、要求重心速度Vb_xy_aim(Vb_x_aim,Vb_y_aim)を決定する。なお、本実施形態では、車両1の動作モードが自立モードである場合には、要求重心速度生成部74は、要求重心速度V_x_aim及びV_y_aimをいずれも“0”とする。
このゲイン調整部78の処理を図11及び図12を参照して以下に説明する。
図11に示すように、ゲイン調整部78は、入力された重心速度推定値Vb_x_s,Vb_y_sをリミット処理部86に入力する。このリミット処理部86では、重心速度推定値Vb_x_s,Vb_y_sに、電動モータ31R,31Lのそれぞれの回転角速度の許容範囲に応じた制限を適宜、加えることによって、出力値Vw_x_lim1,Vw_y_lim1を生成する。出力値Vw_x_lim1は、前記仮想車輪62_xのX軸方向の移動速度Vw_xの制限後の値、出力値Vw_y_lim1は、前記仮想車輪62_yのY軸方向の移動速度Vw_yの制限後の値としての意味を持つ。
リミット処理部86は、まず、重心速度推定値Vb_x_s,Vb_y_sをそれぞれ処理部86a_x,86a_yに入力する。処理部86a_xは、Vb_x_sを仮想車輪62_xの半径Rw_xで除算することによって、仮想車輪62_xのX軸方向の移動速度をVb_x_sに一致させたと仮定した場合の該仮想車輪62_xの回転角速度ωw_x_sを算出する。同様に、処理部86a_yは、仮想車輪62_yのY軸方向の移動速度をVb_y_sに一致させたと仮定した場合の該仮想車輪62_yの回転角速度ωw_y_s(=Vb_y_s/Rw_y)を算出する。
この変換は、本実施形態では、前記式01a,01bのωw_x,ωw_y,ω_R,ω_Lをそれぞれ、ωw_x_s,ωw_y_s,ω_R_s,ω_L_sに置き換えて得られる連立方程式を、ω_R_s,ω_L_sを未知数として解くことにより行われる。
次いで、リミット処理部86は、XY−RL変換部86bの出力値ω_R_s,ω_L_sをそれぞれ、リミッタ86c_R,86c_Lに入力する。このとき、リミッタ86c_Rは、ω_R_sが、あらかじめ設定された所定値の上限値(>0)と下限値(<0)とを有する右モータ用許容範囲内に収まっている場合には、ω_R_sをそのまま出力値ω_R_lim1として出力する。また、リミッタ86c_Rは、ω_R_sが、右モータ用許容範囲から逸脱している場合には、該右モータ用許容範囲の上限値と下限値とのうちのω_R_sに近い方の境界値を出力値ω_R_lim1として出力する。これにより、リミッタ86c_Rの出力値ω_R_lim1は、右モータ用許容範囲内の値に制限される。
上記右モータ用許容範囲は右側の電動モータ31Rの回転角速度(絶対値)が高くなり過ぎないようにし、ひいては、電動モータ31Rが出力可能なトルクの最大値が低下するのを防止するために設定された許容範囲である。このことは、左モータ用許容範囲についても同様である。
この変換は、前記XY−RL変換部86bの変換処理の逆変換の処理である。この処理は、前記式01a,01bのωw_x,ωw_y,ω_R,ω_Lをそれぞれ、ωw_x_lim1,ωw_y_lim1,ω_R_lim1,ω_L_lim1に置き換えて得られる連立方程式を、ωw_x_lim1,ωw_y_lim1を未知数として解くことにより行われる。
次いで、リミット処理部86は、RL−XY変換部86dの出力値ωw_x_lim1,ωw_y_lim1をそれぞれ処理部86e_x,86e_yに入力する。処理部86e_xは、ωw_x_lim1に仮想車輪62_xの半径Rw_xを乗じることによって、ωw_x_lim1を仮想車輪62_xの移動速度Vw_x_lim1に変換する。同様に、処理部86e_yは、ωw_y_lim1を仮想車輪62_yの移動速度Vw_y_lim1(=ωw_y_lim1・Rw_y)に変換する。
従って、リミット処理部86は、その出力値Vw_x_lim1,Vw_y_lim1の組に対応する電動モータ31R,31Lのそれぞれの回転角速度が許容範囲を逸脱しないことを必須の必要条件として、その必要条件下で可能な限り、出力値Vw_x_lim1,Vw_y_lim1をそれぞれVb_x_s,Vb_y_sに一致させるように、出力値Vw_x_lim1,Vw_y_lim1の組を生成する。
この場合、リミット処理部86での出力値Vw_x_lim1,Vw_y_lim1の強制的な制限が行われなかった場合には、Vw_x_lim1=Vb_x_s、Vw_y_lim1=Vb_y_sとなるので、演算部88_x,88_yのそれぞれの出力値Vover_x,Vover_yはいずれも“0”となる。
次いで、ゲイン調整部78は、演算部88_xの出力値Vover_xを処理部90_x,92_xに順番に通すことによって、ゲイン調整パラメータKr_xを決定する。また、ゲイン調整部78は、演算部88_yの出力値Vover_yを処理部90_y,92_yに順番に通すことによって、ゲイン調整パラメータKr_yを決定する。なお、ゲイン調整パラメータKr_x,Kr_yは、いずれも“0”から“1”までの範囲内の値である。
この場合、本実施形態では、処理部92_xは、入力値|Vover_x|があらかじめ設定された所定値以下である場合には、該入力値|Vover_x|に所定値の比例係数を乗じてなる値をKr_xとして出力する。また、処理部92_xは、入力値|Vover_x|が所定値よりも大きい場合には、“1”をKr_xとして出力する。なお、上記比例係数は、|Vover_x|が所定値に一致するときに、|Vover_x|と比例係数との積が“1”になるように設定されている。
また、処理部90_y,92_yの処理は、それぞれ上記した処理部90_x,92_xの処理と同様である。
この重心速度制限部76には、重心速度算出部72で算出された重心速度推定値Vb_xy_s(Vb_x_s及びVb_y_s)と、要求重心速度生成部74で決定された要求重心速度Vb_xy_aim(Vb_x_aim及びVb_y_aim)とが入力される。そして、重心速度制限部76は、これらの入力値を使用して、図13のブロック図で示す処理を実行することによって、制御用目標重心速度V_xy_mdfd(V_x_mdfd及びV_y_mdfd)を決定する。
具体的には、重心速度制限部76は、まず、定常偏差算出部94_x,94_yの処理を実行する。
この場合、定常偏差算出部94_xには、X軸方向の重心速度推定値Vb_x_sが入力されると共に、X軸方向の制御用目標重心速度Vb_x_mdfdの前回値Vb_x_mdfd_pが遅延要素96_xを介して入力される。そして、定常偏差算出部94_xは、まず、入力されるVb_x_sが比例・微分補償要素(PD補償要素)94a_xに入力する。この比例・微分補償要素94_xは、その伝達関数が1+Kd・Sにより表される補償要素であり、入力されるVb_x_sと、その微分値(時間的変化率)に所定値の係数Kdを乗じてなる値とを加算し、その加算結果の値を出力する。
また、定常偏差算出部94_yには、Y軸方向の重心速度推定値Vb_y_sが入力されると共に、Y軸方向の制御用目標重心速度Vb_y_mdfdの前回値Vb_y_mdfd_pが遅延要素96_yを介して入力される。
ここで、定常偏差算出部94_xの出力値Vb_x_prdは、Y軸方向から見た車両系重心点の現在の運動状態(換言すればY軸方向から見た倒立振子モデルの質点60_xの運動状態)から推測される、将来のX軸方向の重心速度推定値の収束予測値の制御用目標重心速度Vb_x_mdfdに対する定常偏差としての意味を持つものである。同様に、定常偏差算出部94_y出力値Vb_y_prdは、X軸方向から見た車両系重心点の現在の運動状態(換言すればX軸方向から見た倒立振子モデルの質点60_yの運動状態)から推測される、将来のY軸方向の重心速度推定値の収束予測値の制御用目標重心速度Vb_y_mdfdに対する定常偏差としての意味を持つものである。以降、定常偏差算出部94_x,94_yのそれぞれの出力値Vb_x_prd,Vb_y_prdを重心速度定常偏差予測値という。
従って、演算部98_xの出力値Vb_x_tは、X軸方向の重心速度定常偏差予測値Vb_x_prdに、X軸方向の要求重心速度Vb_x_aimを付加した速度となる。同様に、演算部98_yの出力値Vb_y_tは、Y軸方向の重心速度定常偏差予測値Vb_y_prdに、Y軸方向の要求重心速度Vb_y_aimを付加した速度となる。
なお、車両1の動作モードが自立モードである場合等、X軸方向の要求重心速度Vb_x_aimが“0”である場合には、X軸方向の重心速度定常偏差予測値Vb_x_prdがそのまま、演算部98_xの出力値Vb_x_tとなる。同様に、Y軸方向の要求重心速度Vb_y_aimが“0”である場合には、Y軸方向の重心速度定常偏差予測値Vb_y_prdがそのまま、演算部98_yの出力値Vb_y_tとなる。
この場合、図12に括弧付きに参照符号で示す如く、リミット処理部100の各処理部の入力値及び出力値だけがリミット処理部86と相違する。具体的には、リミット処理部100では、前記仮想車輪62_x,62_yのそれぞれの移動速度Vw_x,Vw_yを、Vb_x_t,Vb_y_tにそれぞれ一致させたと仮定した場合の各仮想車輪62_x,62_yの回転角速度ωw_x_t,ωw_y_tがそれぞれ処理部86a_x,86a_yにより算出される。そして、この回転角速度ωw_x_t,ωw_y_tの組が、XY−RL変換部86bにより、電動モータ31R,31Lの回転角速度ω_R_t,ω_L_tの組に変換される。
さらに、これらの回転角速度ω_R_t,ω_L_tが、リミッタ86c_R,86c_Lによって、それぞれ、右モータ用許容範囲内の値と左モータ用許容範囲内の値とに制限される。そして、この制限処理後の値ω_R_lim2,ω_L_lim2が、RL−XY変換部86dによって、仮想車輪62_x,62_yの回転角速度ωw_x_lim2,ωw_y_lim2に変換される。
以上のリミット処理部100の処理によって、リミット処理部100は、リミット処理部86と同様に、その出力値Vw_x_lim2,Vw_y_lim2の組に対応する電動モータ31R,31Lのそれぞれの回転角速度が許容範囲を逸脱しないことを必須の必要条件として、その必要条件下で可能な限り、出力値Vw_x_lim2,Vw_y_lim2をそれぞれVb_x_t,Vb_y_tに一致させるように、出力値Vw_x_lim2,Vw_y_lim2の組を生成する。
なお、リミット処理部100における右モータ用及び左モータ用の各許容範囲は、リミット処理部86における各許容範囲と同一である必要はなく、互いに異なる許容範囲に設定されていてもよい。
なお、この場合、X軸方向の要求重心速度Vb_x_aimが“0”であれば、X軸方向の制御用目標重心速度Vb_x_mdfd0も“0”となり、Y軸方向の要求重心速度Vb_y_aimが“0”であれば、Y軸方向の制御用目標重心速度Vb_y_mdfd0も“0”となる。
この場合において、例えばX軸方向の速度に関し、要求重心速度Vb_x_aimが“0”でない場合には、制御用目標重心速度Vb_x_mdfd0は、要求重心速度Vb_x_aimよりも“0”に近づくか、もしくは、要求重心速度Vb_x_aimと逆向きの速度となる。また、要求重心速度Vb_x_aimが“0”である場合には、制御用目標重心速度Vb_x_mdfd0は、定常偏差算出部94_xが出力するX軸方向の重心速度定常偏差予測値Vb_x_prdと逆向きの速度となる。これらのことは、Y軸方向の速度に関しても同様である。
以上が、重心速度制限部76の処理である。
この姿勢制御演算部80の処理を、以下に図14を参照して説明する。なお、図14において、括弧を付していない参照符号は、X軸方向に輪転する仮想車輪62_xの回転角速度の目標値である前記仮想車輪回転角速度指令ωw_x_comを決定する処理に係わる参照符号であり、括弧付きの参照符合は、Y軸方向に輪転する仮想車輪62_yの回転角速度の目標値である前記仮想車輪回転角速度指令ωw_y_comを決定する処理に係わる参照符号である。
ここで、補正した目標重心速度Vb_xy_mdmfは、加算演算部77が、重心速度制限部76で算出された制御用目標重心速度と、スライダー制御部75で算出された制御用目標重心速度補正値Vb_y_cancel_cmdとを加算することにより算出した値である。
ωwdot_x_cmd=K1_x・θbe_x_s+K2_x・θbdot_x_s
+K3_x・(Vb_x_s−Vb_x_mdfd) ……式07x
ωwdot_y_cmd=K1_y・θbe_y_s+K2_y・θbdot_y_s
+K3_y・(Vb_y_s−Vb_y_mdfd) ……式07y
従って、本実施形態では、Y軸方向から見た倒立振子モデルの質点60_xの運動(ひいては、Y軸方向から見た車両系重心点の運動)を制御するための操作量(制御入力)としての仮想車輪回転角加速度指令ωdotw_x_comと、X軸方向から見た倒立振子モデルの質点60_yの運動(ひいては、X軸方向から見た車両系重心点の運動)を制御するための操作量(制御入力)としての仮想車輪回転角加速度指令ωdotw_y_comとは、それぞれ、3つの操作量成分(式07x,07yの右辺の3つの項)を加え合わせることによって決定される。
式07xにおける第iゲイン係数Ki_x(i=1,2,3)と、式07yにおける第iゲイン係数Ki_y(i=1,2,3)とは、図14中にただし書きで示した如く、次式09x、09yにより、ゲイン調整パラメータKr_x,Kr_yに応じて決定される。
Ki_x=(1−Kr_x)・Ki_a_x+Kr_x・Ki_b_x ……式09x
Ki_y=(1−Kr_y)・Ki_a_y+Kr_y・Ki_b_y ……式09y
(i=1,2,3)
ここで、式09xにおけるKi_a_x、Ki_b_xは、それぞれ、第iゲイン係数Ki_xの最小側(“0”に近い側)のゲイン係数値、最大側(“0”から離れる側)のゲイン係数値としてあらかじめ設定された定数値である。このことは、式09yにおけるKi_a_y、Ki_b_yについても同様である。
同様に、式07yの演算に用いる各第iゲイン係数Ki_y(i=1,2,3)は、それぞれに対応する定数値Ki_a_y、Ki_b_yの重み付き平均値として決定される。そして、この場合、Ki_a_y、Ki_b_yにそれぞれ掛かる重みが、ゲイン調整パラメータKr_yに応じて変化させられる。このため、Ki_xの場合と同様に、Kr_yの値が“0”から“1”の間で変化するに伴い、第iゲイン係数Ki_yの値が、Ki_a_yとKi_b_yとの間で変化する。
姿勢制御演算部80は、上記の如く決定した第1〜第3ゲイン係数K1_x,K2_x,K3_xを用いて前記式07xの演算を行うことで、X軸方向に輪転する仮想車輪62_xに係わる仮想車輪回転角加速度指令ωwdot_x_cmdを算出する。
さらに詳細には、図14を参照して、姿勢制御演算部80は、基体傾斜角度偏差計測値θbe_x_sに第1ゲイン係数K1_xを乗じてなる操作量成分u1_xと、基体傾斜角速度計測値θbdot_x_sに第2ゲイン係数K2_xを乗じてなる操作量成分u2_xとをそれぞれ、処理部80a,80bで算出する。さらに、姿勢制御演算部80は、重心速度推定値Vb_x_sと制御用目標重心速度Vb_x_mdfdとの偏差(=Vb_x_s−Vb_x_mdfd)を演算部80dで算出し、この偏差に第3ゲイン係数K3_xを乗じてなる操作量成分u3_xを処理部80cで算出する。そして、姿勢制御演算部80は、これらの操作量成分u1_x,u2_x,u3_xを演算部80eにて加え合わせることにより、仮想車輪回転角加速度指令ωwdot_x_comを算出する。
この場合には、姿勢制御演算部80は、基体傾斜角度偏差計測値θbe_y_sに第1ゲイン係数K1_yを乗じてなる操作量成分u1_yと、基体傾斜角速度計測値θbdot_y_sに第2ゲイン係数K2_yを乗じてなる操作量成分u2_yとをそれぞれ、処理部80a,80bで算出する。さらに、姿勢制御演算部80は、重心速度推定値Vb_y_sと制御用目標重心速度Vb_y_mdfdとの偏差(=Vb_y_s−Vb_y_mdfd)を演算部80dで算出し、この偏差に第3ゲイン係数K3_yを乗じてなる操作量成分u3_yを処理部80cで算出する。そして、姿勢制御演算部80は、これらの操作量成分u1_y,u2_y,u3_yを演算部80eにて加え合わせることにより、仮想車輪回転角加速度指令ωwdot_y_comを算出する。
また、式07xの右辺の第3項(=第3操作量成分u3_x)は、重心速度推定値Vb_x_sと目標重心速度Vb_x_mdfdとの偏差をフィードバック制御則としての比例則により“0”に収束させる(Vb_x_sをVb_x_mdfdに収束させる)ためのフィードバック操作量成分としての意味を持つ。これらのことは、式07yの右辺の第1〜第3項(第1〜第3操作量成分u1_y,u2_y,u3_y)についても同様である。
姿勢制御演算部80は、上記の如く、仮想車輪回転角加速度指令ωwdot_x_com,ωwdot_y_comを算出した後、次に、これらのωwdot_x_com,ωwdot_y_comをそれぞれ積分器80fにより積分することによって、前記仮想車輪回転速度指令ωw_x_com,ωw_y_comを決定する。
以上が姿勢制御演算部80の処理の詳細である。
また、本実施形態では、車両系重心点の挙動を制御するための操作量(制御入力)として、仮想車輪62_x,62_yの回転角加速度指令ωw_x_cmd,ωw_y_cmdを用いるようにしたが、例えば、仮想車輪62_x,62_yの駆動トルク、あるいは、この駆動トルクに各仮想車輪62_x,62_yの半径Rw_x,Rw_yを乗じてなる並進力(すなわち仮想車輪62_x,62_yと床面との間の摩擦力)を操作量として用いるようにしてもよい。
具体的には、モータ指令演算部82は、前記式01a,01bのωw_x,ωw_y,ω_R,ω_Lをそれぞれ、ωw_x_com,ωw_y_com,ω_R_cmd,ω_L_cmdに置き換えて得られる連立方程式を、ω_R_cmd,ω_L_cmdを未知数として解くことによって、電動モータ31R,31Lのそれぞれの速度指令ω_R_com,ω_L_comを決定する。
以上により前記ステップS9の車両制御演算処理が完了する。
このため、例えば、Y軸周り方向で、実際の基体傾斜角度θb_xが目標値θb_x_objから前傾側にずれると、そのずれを解消すべく(θbe_x_sを“0”に収束させるべく)、車輪体5F及び車輪体5Rが前方に向かって移動する。同様に、実際のθb_xが目標値θb_x_objから後傾側にずれると、そのずれを解消すべく(θbe_x_sを“0”に収束させるべく)、車輪体5F及び車輪体5Rが後方に向かって移動する。
さらに、実際の基体傾斜角度θb_x,θb_yの両方が、それぞれ目標値θb_x_obj,θb_y_objからずれると、θb_xのずれを解消するための車輪体5F及び車輪体5Rの前後方向の移動動作と、θb_yのずれを解消するための車輪体5F及び車輪体5Rの左右方向の移動動作とが合成され、車輪体5F及び車輪体5RがX軸方向及びY軸方向の合成方向(X軸方向及びY軸方向の両方向に対して傾斜した方向)に移動することとなる。
なお、制御用目標重心速度Vb_x_mdfd,Vb_y_mdfdが“0”である場合には、基体2の姿勢が基本姿勢に収束すると、車輪体5F及び車輪体5Rの移動もほぼ停止する。また、例えば、基体2のY軸周り方向の傾斜角度θb_xを基本姿勢から傾いた一定の角度に維持すると、車輪体5F及び車輪体5RのX軸方向の移動速度は、その角度に対応する一定の移動速度(制御用目標重心速度Vb_x_mdfdと一定の定常偏差を有する移動速度)に収束する。このことは、基体2のX軸周り方向の傾斜角度θb_yを基本姿勢から傾いた一定の角度に維持した場合も同様である。
このような場合には、基体傾斜角度θb_xy_sと、基体傾斜角度θb_xyの目標値θb_xy_objとのずれにより(乗員が無意識にその状態をシート部12及び基体2と共に傾けた状態となっており)、車輪体5F及び車輪体5Rが移動することになる。
すなわち、スライダー制御部75が、重心速度推定値Vb_xy_sに基づいてアクチュエータ422を駆動して車輪体5F及び車輪体5Rそれぞれを相対移動させると共に、制御用目標重心速度補正値Vb_y_cancel_cmdを算出して、重心速度制限部76により算出された制御用目標重心速度Vb_xy_mdfd0を補正する。姿勢制御演算部80は、補正された制御用目標重心速度Vb_xy_mdfdに基づいて、仮想車輪回転角速度指令ωw_xy_cmdを決定する。
具体的には、制御ユニット50は、図15のフローチャートに示す処理を所定の制御処理周期で逐次実行することによって、スライダー駆動指令S_cmdを更新すると共に、更新したスライダー駆動指令S_cmdと共に算出された制御用目標重心速度補正値Vb_y_cancel_cmdを用いて、仮想車輪回転角速度指令ωw_xy_cmdを決定する。
具体的な条件としては、種々のものが考えられるが、例えば、電動車両1に乗員が搭乗している状態において操作を許容するように基体2及びシート部12の所定位置に設けられたボタン型のスイッチの出力がON状態となっている場合や、加重センサ54の出力により示される荷重の計測値が乗員の搭乗を示したときから一定時間内(搭乗時からタイマがタイムアップするまでの所定時間内)であること等である。このとき、スライダー動作切替部752は、スライダー動作を行うモードとなる。
ここで、本実施形態における第1モードは、スライダー駆動指令S_cmdを更新しつつ、仮想車輪回転角速度指令ωw_xy_cmdを決定する演算処理であり、第2モードは、第1モードで相対移動により移動した位置において車輪体5F及び車輪対5Rを駆動する仮想車輪回転角速度指令ωw_xy_cmdを決定する演算処理である。
なお、第1モード及び第2モードのいずれの演算処理においても、制御ユニット50の姿勢制御演算部80が前述の如く仮想車輪回転角速度指令ωw_xy_cmdを決定し、決定した仮想車輪回転角速度指令ωw_xy_cmdをモータ指令演算部82に入力し、該モータ指令演算部82が処理を実行する一連の処理を継続している。
第1モードの演算処理において、姿勢制御演算部80は、前式07x,07yにより仮想車輪回転角加速度指令ωwdot_xy_cmdを決定する処理において、スライダー制御部75が算出した制御用目標重心速度補正値Vb_y_cancel_cmdにより補正された目標重心速度Vb_xy_mdmfを用いる。なお、スライダー駆動指令S_cmdの初期値は、”0”に設定されている。
制御ユニット50において、スライダー制御部75が重心速度推定値Vb_y_sをより”0”に近づけるように、スライダー制御指令S_cmdを算出する。また、スライダー制御部75は、車輪体5F及び車輪体5Rを相対移動させることにより生じるずれを制御用目標重心速度補正値Vb_y_cancel_cmdを算出し、制御用目標重心速度Vb_y_mdmfを補正する。
なお、第1モードの演算処理は、ステップS21の判断が”YES”である限り、継続して実行される。すなわち、スライダー制御指令S_cmdを更新する更新条件が成立する限り継続して実行され、更新条件が成立しなくなった時点で第1モードの演算処理が終了される。そのため、基体2又はシート部12の所定位置に設けられたボタン型のスイッチの出力が更新条件となる場合には、電動車両1に搭乗した乗員によりスイッチが押し続けられる限り、第1モードの演算処理が実行され、(重心速度推定値Vb_xy_sが0に収束して電動車両1が停止して)乗員がスイッチから手を離したタイミングで、第1モードの演算処理が終了される。
なお、第1モードの演算処理の終了条件を更新条件とは別に設定するようにしてもよい。例えば、第1モードの演算処理の結果、電動車両1の重心速度推定値Vb_xy_sが”0”又はほぼ”0”に等しい状態であることを第1モードの演算処理の終了条件としてもよい。
なお、本実施形態において、乗員等による電動車両1の操縦操作(電動車両に推進力を付加する操作)によって要求されていると推定される上記重心速度Vb_xyの要求値として要求重心速度Vb_xy_aimがない場合、すなわち、要求重心速度Vb_xy_aimが”0”の場合について説明したが、要求重心速度Vb_xy_aimが存在しえる場合には、図15のステップS21の判定処理の前に、要求重心速度Vb_xy_aimの有無を判断する判断ブロックを設けて、要求重心速度Vb_xy_aimがない場合(要求重心速度Vb_xy_aimが”0”の場合)にのみ、前記第1モード及び前記第2モードの演算処理を行うように構成してもよい。
また、既に第1モードの演算処理が実行されている状態で、要求重心速度Vb_xy_aimを検出した場合には、該第1モードの演算処理を終了し、該第1モードで更新された車輪体5F及び車輪体5Rの相対移動後の位置により、第2モードの演算処理を実行するように構成してもよい。
この場合、前記式09xにより算出される各第iゲイン係数Ki_x(i=1,2,3)は、Kr_xが“1”に近づくほど、最小側の定数値Ki_a_xから最大側の定数値Ki_b_xに近づく。このことは、前記式09yにより算出される各第iゲイン係数Ki_y(i=1,2,3)についても同様である。
また、搭乗モードにおいて、要求重心速度生成部74が、乗員等の操縦操作による要求に応じて要求重心速度Vb_x_aim,Vb_y_aim(Vb_x_aim,Vb_y_aimの一方又は両方が“0”でない要求重心速度)を生成した場合には、電動モータ31R,31Lの一方又は両方の回転角速度が許容範囲を逸脱するような高速の回転角速度にならない限り(詳しくは図12に示すVw_x_lim2,Vw_y_lim2がVb_x_t,Vb_y_tにそれぞれ一致する限り)、要求重心速度Vb_x_aim,Vb_y_aimがそれぞれ前記制御用目標重心速度Vb_x_mdfd,Vb_y_mdfdとして決定される。このため、要求重心速度Vb_x_aim,Vb_y_aimを実現するように(実際の重心速度が要求重心速度Vb_x_aim,Vb_y_aimに近づくように)、車輪体5F及び車輪体5Rの移動速度が制御される。
本実施形態では、車両1に搭乗する乗員の前後方向(X軸方向)、左右方向(Y軸方向)が、それぞれ、本発明における第1の方向、第2の方向に相当する。
そして、前記要求重心速度生成部74により、本発明における目標速度決定手段が実現される。この場合、本実施形態では、車両系重心点(より正確には車両・乗員全体重心点)が、本発明における車両の所定の代表点に相当し、この車両系重心点の速度ベクトル↑Vbの目標値である要求重心速度ベクトル↑Vb_aimが、本発明における目標速度ベクトルに相当する。
また、前記重心速度制限部76、姿勢制御演算部80及びモータ指令演算部82により、本発明における移動動作部制御手段が実現される。
前記実施形態では、前輪3及び後輪4は、図3から図6において示した全方向駆動車輪
である場合について説明したが、前輪3及び後輪4のいずれか一方が全方向駆動車輪であってもよい。
また、前記実施形態では、前輪3及び後輪4共にスライダー機構により左右方向(Y方向)に基体に対して相対移動可能となっている場合について説明したが、前輪3及び後輪4のいずれか一方のみが相対移動可能となっていてもよい。例えば、図16に示すように、前輪4のみがスライダー機構により左右方向に相対移動可能となっていてもよい。この場合も、図16(b)に示すように、実施形態と同様に前輪3を相対移動させることにより、前輪3と後輪4とがそれぞれ有する移動動作部(5F,5R)の中心位置を結ぶ直線の真上に重心点Gを位置させることになる。
具体的には、本実施形態の車両1の移動動作部としての車輪体5F及び車輪体5Rは一体構造のものであるが、例えば、前記特許文献2の図10に記載されているような構造のものであってもよい。すなわち、剛性を有する円環状の軸体に、複数のローラをその軸心が該軸体の接線方向に向くようにして回転自在に外挿し、これらの複数のローラを軸体に沿って円周方向に配列させることによって、車輪体を構成してもよい。
さらに移動動作部は、例えば、特許文献1の図3に記載されているようなクローラ状の構造のものであってもよい。
また、本実施形態では、乗員の搭乗部として着座部7を備えた車両1を例示したが、本発明における全方向移動車両は、例えば特許文献2の図8に見られるように、乗員が両足を載せるステップと、そのステップ上で起立した乗員が把持する部分とを基体に組付けた構造の車両であってもよい。
このように本発明は、前記特許文献1〜3等に見られる如き、各種の構造の全方向移動車両に適用することが可能である。
2 基体
5F 車輪体(移動動作部)
5R 車輪体(移動動作部)
52 傾斜センサ(傾斜検出部)
50 制御ユニット(制御部)
422 アクチュエータ(相対駆動部)
Claims (4)
- 基体と、
前記基体に取り付けられ、床面上を全方向に駆動可能な全方向移動車輪を含む複数の車輪からなる移動動作部と、
前記複数の車輪のうち少なくとも1つの全方向移動車輪を前記基体に対して該全方向移動車輪の軸方向に相対移動させる相対駆動部と、
前記基体の傾斜角度及び該傾斜角度の変化量を検出する傾斜検出部と、
前記傾斜角度及び前記傾斜角度の変化量に応じて前記相対駆動部に駆動指令を出力する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記基体の重心移動速度が0に近づくように、少なくとも1つの前記全方向移動車輪を前記基体に対して該全方向移動車輪の軸方向に相対移動させる駆動指令値を決定する
ことを特徴とする倒立振子型移動体。 - 前記制御部は、前記複数の車輪それぞれが有する前記移動動作部の中心位置を結ぶ直線上に、或いは、前記複数の車輪それぞれが有する前記移動動作部の中心位置を結ぶ多角形の内側に重心点を位置させるように、少なくとも1つの前記全方向移動車輪を前記基体に対して該全方向移動車輪の軸方向に相対移動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の倒立振子型移動体。 - 前記倒立振子型移動体は、
前記基体に加えられる加重の変化を検出する加重センサを有し、
前記制御部は、前記加重センサにより加重の変化に応じて前記相対駆動部を駆動させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の倒立振子型移動体。 - 前記制御部は、前記相対駆動部によって前記複数の車輪のうち少なくとも1つの前記全方向移動車輪を相対移動させる場合、前記相対駆動部によって該車輪を相対移動させる量及び方向と同じ量及び方向に該車輪を前記移動動作部によって駆動させる
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の倒立振子型移動体。
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