JP5425702B2 - 落重特性に優れた高強度厚鋼板 - Google Patents
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Description
A値=0.34+2.2×[C]+3.3[Si]+6.1×[Al]…(1)
但し、[C],[Si]および[Al]は、夫々C,SiおよびAlの含有量(質量%)を示す。
Cは鋼板の強度を確保するために必要な元素であり、所望の強度を確保するためには0.03%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cを過剰に含有させると、落重特性が却って低下することになる。こうしたことから、その上限は0.150%とする必要がある。尚、C含有量の好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は0.13%である。
Siは鋼板の強度を確保するために有効な元素であり、必要により含有される。しかしながら、過剰に含有されると鋼材(母材)に島状マルテンサイト(MA)の粗大化を招き落重特性を劣化させる。こうしたことから、その上限を0.5%とした。尚、Si含有量の好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は0.25%である。
Mnは焼入れ性を向上させて鋼板強度を確保する上で有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには、Mnは1.0%以上含有させる必要がある。しかしながらMnを過剰に含有させると、鋼板の落重特性が劣化するので上限を2.0%とする。Mn含有量の好ましい下限は1.2%であり、好ましい上限は1.6%である。
Pは不可避的に混入してくる不純物であり、鋼板の落重特性に悪影響を及ぼすので、できるだけ少ない方が好ましい。こうした観点から、Pは0.015%以下に抑制するのが良い。P含有量の好ましい上限は0.010%である。
Sは、鋼板中の合金元素と化合して種々の介在物を形成し、鋼板の落重特性に有害に作用する不純物であるので、できるだけ少ない方が好ましく、実用鋼の清浄度の程度を考慮して0.01%以下(好ましくは0.005%以下)に抑制するのがよい。尚、Sは鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは工業生産上困難である。
Alは脱酸剤として有効な元素であると共に、鋼板のミクロ組織微細化による鋼板強度向上効果も発揮する。こうした効果を発揮させるためには、Al含有量は0.005%以上とする必要がある。しかしながら、過剰に含有されると島状マルテンサイト(MA)の粗大化を招き、落重特性を劣化させる。こうしたことから、その上限を0.06%とした。尚、Al含有量の好ましい下限は0.01%であり、好ましい上限は0.04%である。
Crは、鋼板の焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Cr含有量は0.10%以上とする必要がある。しかしながら、Crの含有量が過剰になると、落重特性を劣化させる。こうしたことから、Cr含有量は0.5%以下とする必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限は0.2%であり、好ましい上限は0.4%である。
Moは、微細炭化物を形成し、鋼板の強度を向上させる上で有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mo含有量は0.05%以上とする必要がある。しかしながら、その含有量が過剰になると、炭化物粗大化が促進され、落重特性が却って低下する。こうしたことから、Mo含有量は0.5%以下にする必要がある。尚、Mo含有量の好ましい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.3%である。
Vは焼入れ性を向上させて鋼板の強度を向上させる効果を発揮する。またVは焼戻し軟化抵抗を高くする効果もある。しかしながら、多量に含有されると落重特性が劣化するため、0.10%以下(より好ましくは0.05%以下)とするのが良い。尚、その効果を有効に発揮させるためのV含有量は、0.02%以上である。
Nは、Al等と結合し、窒化物を形成して鋼板組織を微細化させて落重特性を向上させる効果がある。こうした効果を発揮させるには、Nは0.0020%以上含有させる必要がある。しかし、N含有量が過剰になると落重特性が却って劣化するので、0.010%以下とする。尚、N含有量の好ましい下限は0.004%であり、好ましい上限は0.008%である。
Oは、不可避的不純物として含有されるが、鋼中では酸化物として存在する。しかしながら、その含有量が0.010%を超えると粗大な酸化物が生成して落重特性が劣化する。こうしたことから、O含有量の上限を0.010%とする。O含有量の好ましい上限は0.003%である。
CuおよびNiは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素であり、必要によって含有される。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、落重特性が却って低下するので、いずれも2%以下(より好ましくは1%以下)とするのがよい。上記効果を発揮させるための好ましい下限は、いずれも0.2%以上(より好ましくは0.3%以上)である。
NbおよびBは、焼入れ性を向上させて鋼板の強度を向上させる効果を発揮する。しかしながら、多量に含有されると炭化物や窒化物の生成が多くなり落重特性が劣化するため、上記の量までとするのが良い。より好ましくは、Nbで0.04%以下、Bで0.002%以下である。尚、これらの効果を有効に発揮させるための含有量は、Nbで0.01%以上、Bで0.0005%以上である。
MgおよびTiは、酸化物や窒化物を形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制することによって、HAZの特性を向上させる効果を有するため、必要によって含有される。しかしながらこれらの含有量が過剰になると、介在物が粗大化して落重特性が劣化するため、Mgで0.005%以下(より好ましくは0.003%以下)、Tiで0.030%以下(より好ましくは0.02%以下)にするのが良い。
を含まない)]
ZrおよびHfは、Nと窒化物を形成し、オーステナイト粒を微細化し、HAZ特性改善に有効な元素である。しかし、過剰に含有されると落重特性を却って低下させる。このため、これらの元素を含有するときには、Zrは0.1%以下(より好ましくは0.003%以下)、Hfは0.05%以下(より好ましくは0.01%以下)とする。
Caは硫化物の形態を制御してHAZ特性の向上に寄与する元素である。しかし、0.0035%を超えて過剰に含有させても落重特性が却って劣化する。尚、Ca含有量のより好ましい上限は0.0020%以下である。
まない)]
CoおよびWは、焼入れ性を向上させて鋼板の強度を高める効果を有するので、必要により含有される。しかしながら、過剰に含有するとHAZ靭性が劣化するため、上限をいずれも2.5%とする。尚、これらの含有量のより好ましい上限は、いずれも0.5%以下である。
希土類元素(REM)は、鋼材中に不可避的に混入してくる介在物(酸化物や硫化物等)の形状を微細化・球状化することによって、母材やHAZの靭性の向上に寄与する元素であり、必要によって含有される。こうした効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、REMの含有量が過剰になると、介在物が粗大化して落重特性が劣化するため、0.01%以下に抑えることが好ましい。尚、本発明において、REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。
鋼板の組織を一旦全てオーステナイト化する観点から900℃以上とする必要があるが、加熱温度が1300℃を超えるとオーステナイト粒が粗大化して後の工程で所望の組織を得ることは難しくなる。
この温度範囲での圧下率はベイナイトのラス幅に影響を与え、圧下率を10%以上とすることによって、後の工程との組合せによって、ベイナイトのラス幅の平均値を3.5μm以下にできる。圧下率が10%未満となると、ベイナイトのラス幅の平均値を3.5μm以下にできなくなる。
この温度範囲での圧下率はベイナイトのラス幅やMAサイズに影響を与え、温度が850℃を超えたり、圧下率が3%未満となると、ベイナイトのラス幅やMAサイズ(最大値)が規定値を超えることになる。またこのときの圧下率が10%を超えるような圧延は、仕上げ圧延では通常行なわれない。
仕上げ圧延を行なった後には、400℃までを0.1〜30℃/秒の平均冷却速度で直接冷却する必要がある。冷却時の平均冷却速度が0.1℃/秒未満或は30℃/秒超では、ベイナイト主体とすることができない。このときの冷却を400℃までとするのは、それ以上組織変態を生じないからである。また、直接冷却するのは、焼入れ前の組織を細かくしておくことで、焼入れ後も細かくするという観点からである。
オーステナイト化の観点から、再加熱温度は900℃以上とする必要があるが、再加熱温度が1000℃を超えると粗大オーステナイトとなる。尚、焼入れの効果を発揮させて所望の組織(ベイナイトを主体とする組織)を得るためには、上記の温度範囲に再加熱した後、0.5〜20℃/秒の平均冷却速度で冷却を行なって焼入れを行なう必要がある。即ち、焼入れ冷却時の平均冷却速度が0.5℃/秒未満となると、ベイナイト主体の組織とならずフェライト・パーライト主体の組織となり、20℃/秒を超えるような冷却では、マルテンサイトが主体の組織となる。
上記のような焼入れを行なった後は、焼戻しを行なうが、このときの焼戻し条件も適切に制御することが重要である。焼戻し条件は、ベイナイトのラス幅やMAサイズ(最大値)に影響を与え、焼戻し温度が550℃未満であったり、焼戻し回数が1回では、MAサイズ(最大値)が規定値を超えることになる。また焼戻し温度が700℃を超えると、ベイナイトのラス幅が規定値を超えることになる。
X=500×[C]+32×[Si]+8×[Mn]−9×[Nb]+14×[Cu]+17×[Ni]−5×[Cr]−25×[Mo]−34×[V] …(2)
但し、[C],[Si],[Mn],[Nb],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo]および[V]は、夫々C,Si,Mn,Nb,Cu,Ni,Cr,MoおよびVの含有量(質量%)を示す。
下記表1、2に化学成分組成を示す各種溶鋼を、通常の溶製法によって溶製し、この溶鋼を冷却してスラブ(厚み:300mm)とした後、下記表3、4に示した条件で熱間圧延、冷却および焼戻しを行ない、各種鋼板(厚み:100mm)を得た。尚、下記表1、2において、REMはCeを50%程度とLaを25%程度含有するミッシュメタルの形態で添加した。尚、下記表1、2中「−」の欄は元素を添加していないことを示している。
得られた厚鋼板について、t/4(t:板厚)の位置の光学顕微鏡観察を行ない、ベイナイト以外の部位に色を塗り、透明フィルムに映し、その後画像解析装置(Media Cybernetics製:Image−Pro Plus)による画像解析にて色付き部分の面積率を求め、全体100%から差し引いた分をベイナイト面積分率とした。このとき、顕微鏡観察は100倍の3視野で撮影し、その平均値を算出した。
得られた厚鋼板について、t/4(t:板厚)の位置から採取したサンプルを用いて、倍率:1000倍にて走査型顕微鏡(SEM)観察を行ない、3視野の平均値をその鋼種のラス幅とした。
各厚鋼板のt/4(t:板厚)の位置から幅方向にNK U14号試験片を採取し、JIS Z2241に従って引張試験を行うことによって、降伏応力YS(上降伏点YPまたは0.2%耐力σ0.2)および引張強度TSを測定した。合格基準は、3回での平均値で、降伏強度YS:415MPa以上、引張強度TS:620MPa以上である。
各厚鋼板のt/4(t:板厚)の位置から採取したサンプルを用いてレペラー腐食し、光学顕微鏡によって組織を観察し、倍率:1000倍、5視野を観察した(白い部分がMAと判断)。画像解析装置(Media Cybernetics製:Image−Pro Plus)による画像解析にて、MAのサイズ(平均円相当直径、最大円相当直径)を測定した。
ASTM E208(2006)に準拠して落重試験を実施し、各厚鋼板の無延性遷移温度NDTを測定した。このとき用いた試験片形状は、P−3タイプとして、厚鋼板のt/4(t:板厚)の位置からC方向(圧延方向に垂直な方向)に沿って採取したものを用いた。また試験片表面に形成するビードは、溶接棒(「NRL−S」 株式会社神戸製鋼所製:直径5mm)を用い、ストレートビードとした。このとき用いた試験片の形状を図1(平均図)に示す(L:50mm、W:130mm)。そして、NDTが−70℃以下を合格とした。
下記表7に化学成分組成を示す各種溶鋼を、通常の溶製法によって溶製し、この溶鋼を冷却してスラブ(厚み:300mm)とした後、下記表8に示した条件で熱間圧延、冷却および焼戻しを行ない、各種鋼板(厚み:100mm)を得た。尚、表7、8には、参考のために前記表1、3、5に示した試験No.24のものも同時に示した。
得られた厚鋼板について、t/4の位置(t:板厚)の位置を、倍率:60000倍にて透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行ない、観察視野:2.0×2.0(μm)、観察箇所:5箇所の条件で観察し、その各視野中でのTi系分散粒子の面積を測定して、この面積から各粒子の円相当直径を算出した。またTi系分散粒子であるかどうかは、TEMに付属するEDX(エネルギー分散型X線検出器)によって、各粒子がTiを含むか否かで判別した。また、1nm未満の粒子については測定から除外した。得られた各粒子の円相当直径を算術平均して得られる値を平均サイズ、得られた値で最も小さい値を最小サイズとした。
HAZ靭性については、得られた厚鋼板について、t/4の位置(t:板厚)の位置からシャルピー衝撃試験片(JIS Z 2201の4号試験片)を採取し、再現HAZ熱サイクルVノッチシャルピー試験を行った。再現HAZ熱サイクル条件は、入熱量:100kJ/mmの熱履歴を模擬した。HAZ靱性については、−15℃での吸収エネルギー(vE-15)を、3本の試験片について測定し、その平均値を求めた。
Claims (11)
- C:0.03〜0.150%(「質量%」の意味。化学成分組成について以下同じ)、Si:0.5%以下(0%を含む)、Mn:1.0〜2.0%、P:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.005〜0.06%、Cr:0.10〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、V:0.10%以下(0%を含まない)、N:0.0020〜0.010%およびO:0.010%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、表面から深さt/4〜t/2(tは、板厚を表す、以下同じ)の位置におけるミクロ組織において、ベイナイトの面積分率が90%以上であると共に、ベイナイトのラス幅の平均値が3.5μm以下であり、且つベイナイト中の島状マルテンサイトの円相当直径の最大値が3.0μm以下であることを特徴とする落重特性に優れた高強度厚鋼板。
- 島状マルテンサイトの平均円相当直径が1.0μm以下である請求項1に記載の厚鋼板。
- 更に、Cu:2%以下(0%を含まない)および/またはNi:2%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の高強度厚鋼板。
- 更に、Nb:0.05%以下(0%を含まない)および/またはB:0.005%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高強度厚鋼板。
- 更に、Mg:0.005%以下(0%を含まない)および/またはTi:0.030%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高強度厚鋼板。
- 更に、Ti:0.005〜0.030%を含有すると共に、鋼板中に存在するTi系分散粒子が平均円相当直径で40nm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の高強度厚鋼板。
- 前記Ti系分散粒子は円相当直径の最小値が10nm以上である請求項6に記載の高強度厚鋼板。
- 更に、Zr:0.1%以下(0%を含まない)および/またはHf:0.05%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜7のいずれかに記載の高強度厚鋼板。
- 更に、Ca:0.0035%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜8のいずれかに記載の高強度厚鋼板。
- 更に、Co:2.5%以下(0%を含まない)および/またはW:2.5%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜9のいずれかに記載の高強度厚鋼板。
- 更に、希土類元素:0.01%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜10のいずれかに記載の高強度厚鋼板。
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