JP5419061B2 - マグネシウム合金 - Google Patents
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主な強化手段である結晶粒微細化は、室温強度の改善に非常に有効だが、高温強度の改善は難しい。それに対し、マグネシウムと添加元素より構成される第2相の分散による強化は、分散させる相の種類や分布状態によって、幅広い温度域における強度の改善が可能である。
特に、時効析出は、過飽和固溶体を形成させる溶体化処理と、その後の時効処理の組み合わせによって、微細な析出物を粒内、および結晶粒界に分散させることができ、粒内に分散した析出物は転位の運動を阻害し、幅広い温度域における強度の向上が可能である。また、結晶粒界に分散した析出相は、それが熱的に安定であれば粒界すべりを抑制し、高温強度を改善することができる。
こうした時効析出現象の発現が期待できる合金系は、高温度域と低温度域にて、合金元素の溶解度差がある合金である。多くのMg-Al系、Mg-Zn系合金をはじめとした商用マグネシウム合金は時効析出型だが、時効析出により高融点の析出相を分散させることが出来る合金系は、マグネシウムと希土類金属より構成される高価な合金がほとんどであり、希土類金属を含まないMg-Al系、Mg-Zn系の商用マグネシウム合金では、粒界上にあえて破壊の起点となるような高融点の粗大な晶出物のネットワークを形成させ、延性を犠牲にすることで耐熱性を付与していた。
例えば、特許文献1~5の希土類金属を含むマグネシウム合金の生産コストは、希土類金属フリーのマグネシウム合金より高価になる。また、構成元素に高価な希土類金属元素が含まれるような特許文献1~5に示される合金では、ダイカスト鋳造が難しく、自動車部品の大量生産に非経済的である。
一方で、特許文献6〜11のような希土類金属を含まない合金では、高温強度向上のために高融点の金属間化合物を粒界上に分散させているが、粗大で破壊の起点となりやすく、延性低下や鋳造割れの原因となる。
また、特許文献12のように微細な粒子を母相中に分散させた形で高温強度を改善した例であっても、そのプロセスが複雑である場合には、コスト高を招く原因となる。
本発明のマグネシウム合金は、ビスマスを0.85原子%以下、亜鉛を0.5原子%以上2原子%未満含有し、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム合金であって、結晶粒径は100〜200μmであり、溶体化処理によってビスマスと亜鉛は母相に固溶して過飽和固溶体を形成すると共に、マグネシウムの柱面である(1120)面に板状の析出物が析出していることを特徴とする(ここで、(1120)面の表記として正しい表記は下記の数1に記載のものである)。
本発明のマグネシウム合金において、好ましくは、ビスマスリッチの結晶粒径が2〜3μmの第2相粒子が存在するとよい。 本発明のマグネシウム合金において、好ましくは、板状の析出物は、直径が40〜50nmで、厚さが10nmであるとよい。
本発明のマグネシウム合金において、好ましくは、時効処理を最大硬度に達するまでおこなうとよい。
また、Znを適当な量添加することで、析出物の形状をマグネシウム合金の強化に最も有効である(1120)面に析出する板状の析出物を多く分散させることが出来た。
以下の実験結果から次のことが明らかとなった。
Biの添加量:
少なくともこれを含み、その含有量が0.85原子%以下とするのが好ましい。
非特許文献1にあるように、Biは常温ではMg母相にほぼ固溶しないが、温度の増加と共に固溶限は急激に拡大し、550℃で0.96 原子%Mg中に固溶する。
しかし、通常、Mg合金の熱処理温度の上限は500〜530℃であり、それを溶体化処理温度の上限とした時に固溶させることが出来るBiの量は約0.85原子%なので、これが好ましい添加量の上限となる。
溶体化処理中にマグネシウム母相に固溶させることが出来るBiの量が溶体化処理の上限温度によって約0.85原子%に限定されるため、これ以上のBiを添加しても、時効析出による硬度、強度上昇の効果を見込むことは不可能であり、また、過剰に添加されたBiは粒界に粗大な晶出物を形成し、溶体化処理後の水冷時に鋳物が割れる原因となり、延性を損なう原因となる。
0.5原子%以上の添加が望ましい。より好ましくは、0.5原子%以上、2原子%未満。
Znは、Mg-Bi合金の時効硬化性を改善する添加元素である。実施例1、2に示すように、ビッカース硬さにして60 VHNの硬度を達成するためには、0.5原子%以上の添加が望ましい。
これは、Znの添加によって、析出物の微細化、形状、および分布状態の変化が起こることが原因であることは、図4、7より明らかである。
また、図8に示すとおり、2原子%のZnを添加した場合は、時効析出に起因する硬化量も1原子%添加した場合と大差ないだけでなく、図10に示すように溶体化処理後の水冷時に鋳物が割れる。そのため、Znのより好ましい添加量として、0.5原子%以上、2原子%未満とするのが良い。
Znを過剰に添加すると、含有元素を溶体化処理中に母相に固溶させることが出来ず、Bi、ZnとMgよりなる晶出物が粒界上に残存する事が原因であることは図9 (f)より容易に類推できる。
時効析出による強化の効果を最大限に高め、高い強度を有する状態にするために、時効処理を最大硬度に達するまで行うと良い。0.5原子%のZnを添加した合金の場合は25時間、1.0原子%以上のZnを添加した合金の場合は100時間とするのが好ましい。
実験は図1に示すフローチャートに沿って行った。
まず、高周波誘導溶解炉を用いて純マグネシウム、純ビスマス、純亜鉛を鉄るつぼ中で溶解し、鉄鋳型に鋳造した。
得られた鋳塊をパイレックス管にHe封入し、マッフル炉を用いて525℃で48時間の均質化処理を行い、水冷した。
次に、均質化処理材をパイレックス管に再度He封入し、マッフル炉を用いて525℃で48時間の溶体化処理を行い、水冷した。
その後オイルバスを用いて160℃で時効処理を行った。
時効処理中における硬さの変化を調べるために、ビッカース硬さ計を用いて硬さの経時変化を測定し、時効硬化曲線を作成した。時効硬化曲線の測定にあたって、ある一定時間経過後、合金をオイルバスから取り出し、荷重300g、荷重時間10秒で異なる任意の場所から10回測定を行い、その測定値のうち最大値と最小値を除いた8つの測定値の平均値をその時間における合金の硬さとした。
ミクロ組織の観察をOM(Optical microscope (光学顕微鏡))、およびSEM(Scanning electron microscope (走査型電子顕微鏡))を用いて行い、粒内の析出組織の観察をTEM(Transmission electron microscope (透過型電子顕微鏡))を用いて行った。
時効処理中最大硬度に達した材料の機械的特性を圧縮試験によって評価した。
表1の測定データに基づく図2の時効硬化曲線に示すように、溶体化処理後のビッカース硬さは47VHNであり、時効開始後30時間してピーク時効に達する。ピーク時効時におけるビッカース硬さは61VHN、時効処理による硬度の増加は14VHNであった。
注:灰色で塗りつぶした測定値は平均値の計算時に除外した測定データを示す。
図3(a)に示すように、結晶粒径は100〜200μm程度であり、図3(b)に示すように、溶体化処理によってBiおよびZnは母相に固溶し、過飽和固溶体を形成している。
TEMを用いて観察したピーク時効時の粒内の組織を図4に示す。図4(a)、(b)は(1120)および(0001)晶帯軸から微細組織を低倍率で観察したものであり、図4(c)、(d)は(1120)、および(0001)晶帯軸から微細組織を高倍率で観察したものである。
図4(a)および(b)に示すように、析出物は母相中に均一に分散している。また、図4(c)および(d)からトレース解析を行った結果、マグネシウムの柱面である(1120)面に析出する板状の析出物(直径100〜250nm×厚さ20nm)が多く観察された。
実施例1と同様、図1に示すフローチャートに沿った実験を行った。
まず、高周波誘導溶解炉を用いて純マグネシウム、純ビスマス、純亜鉛を鉄るつぼ中で溶解し、鉄鋳型に鋳造した。
得られた鋳塊をパイレックス管にHe封入し、マッフル炉を用いて525℃で48時間の均質化処理を行い、水冷した。
次に、均質化処理材をパイレックス管に再度He封入し、マッフル炉を用いて525℃で48時間の溶体化処理を行い、水冷した。
その後オイルバスを用いて160℃で時効処理を行った。
時効処理中における硬さの変化を調べるために、ビッカース硬さ計を用いて硬さの経時変化を測定し、時効硬化曲線を作成した。時効硬化曲線の測定にあたって、ある一定時間経過後、合金をオイルバスから取り出し、荷重300g、荷重時間10秒で異なる任意の場所から10回硬さ測定を行い、その測定値のうち最大の硬さと最小の硬さを除いた8つの測定値の平均値をその時間における合金の硬さとした。
ミクロ組織の観察をOM(Optical microscope (光学顕微鏡))、およびSEM(Scanning electron microscope (走査型電子顕微鏡))を用いて行い、粒内の析出組織の観察をTEM(Transmission electron microscope (透過型電子顕微鏡))を用いて行った。
時効処理中最大硬度に達した材料の機械的特性を圧縮試験によって評価した。
表2の測定データに基づく図5に示す時効硬化曲線のように、溶体化処理後のビッカース硬さは44VHNであり、時効開始後100時間でピーク時効に達する。ピーク時効時におけるビッカース硬さは68VHN、時効処理による硬度の増加は22VHNであった。また、圧縮試験により強度評価を行った結果、139MPaの降伏強度を示した。
注:灰色で塗りつぶした測定値は平均値の計算時に除外した測定データを示す。
TEMを用いて観察したピーク時効時のMg−0.8Bi−1.0Zn合金の最大硬度時の粒内の微細組織を図7(a)、(b)に示す。図7(a)、(b)は、それぞれ(0110)、および(0001)晶帯軸から低倍で観察したものである。析出物はMg−0.8Bi−0.5Znに比べて、微細化されている。また、図7(c)、(d)は、この組織をそれぞれ(0110)、および(0001)晶帯軸から低倍で観察したものであるMg−0.8Bi−0.5Zn合金と同様に、析出物の多くは、マグネシウムの柱面である(1120)面を晶癖面とする板状の析出物(直径40〜50nm×厚さ10nm)であった。
それらの合金の時効硬化曲線を図8に示し、表4に溶体化処理後、およびピーク時効時のビッカース硬さ、および時効処理による硬さの増分をまとめる。
注:灰色で塗りつぶした測定値は平均値の計算時に除外した測定データを示す。
しかし、表4、および図9(c)の光学顕微鏡像に示すように、Mg-0.8Bi-2.0Zn合金は他の実験例に示した合金よりも粗大な結晶粒より構成され、また、図9 (f)の反射電子像に示すように、粒界上に溶体化処理によっても母相に固溶させることが出来なかった晶出物が残っている。
Claims (5)
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ビスマスを0.85原子%以下、
亜鉛を0.5原子%以上2原子%未満含有し、
残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム合金であって、
結晶粒径は100〜200μmであり、まず溶体化処理によってビスマスと亜鉛は母相に固溶して過飽和固溶体を形成させ、その後の時効処理によって、マグネシウムの柱面である(1120)面に板状の析出物が析出していることを特徴とするマグネシウム合金(ここで、(1120)面の表記として正しい表記は下記の数1に記載のものである)。
- 前記板状の析出物は、直径が100〜250nmで、厚さが20nmであることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金。
- さらに、ビスマスリッチの結晶粒径が2〜3μmの第2相粒子が存在することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金。
- 前記板状の析出物は、直径が40〜50nmで、厚さが10nmであることを特徴とする請求項3に記載のマグネシウム合金。
- 時効処理を最大硬度に達するまでおこなったことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のマグネシウム合金。
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