以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1には、本発明に従う内視鏡下手術用デバイスの一例として、胆のう摘出術、子宮筋腫、卵巣脳腫摘出術、大腸・直腸切除術などの腹腔鏡下手術に際して止血に用いられる腹腔鏡下手術用デバイス10が、正面形態において示されている。また、図2には、その軸方向断面図が、更に、図3には、その分解図が、それぞれ示されている。
それらの図から明らかなように、腹腔鏡下手術用デバイス10は、基端部から先端部側に向かって延びる、デバイス本体としての外シース12と、この外シース12内に同軸的に挿入された内シャフト14と、それら外シース12と内シャフト14との間に挿入された、押出部材としてのスライド部材15とを有している。なお、本明細書中、「先端」とは、患者の体内に挿入される側(図1中、右側)を言い、また「基端」とは、患者の体外に配置される側(図1中、左側)を言う。
より具体的には、外シース12は、ストレートな長手円筒形状を呈している。この外シース12の外径は、特に限定されるものではないものの、トロッカーの内孔を通過し得るように、トロッカーの内孔径(通常、φ5〜10mm程度)に応じて、φ5〜10mm程度の範囲内で設定されることが望ましい。また、外シース12の形成材料としては、十分な機械的強度を有する材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン又はチタン合金、銅又は銅系合金などの各種金属材料の他、射出成形などによって成形され得るポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、アクリル系樹脂、ABS樹脂、アイオノマー、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの各種樹脂材料が、用いられ得る。本実施形態では、外シース12の形成材料として、操作性の点から、剛性を有する金属材料が採用されている。
外シース12の基端部には、把持ハウジング16が固定的に取り付けられている。図5に示されるように、この把持ハウジング16は、全体として、外シース12の外径よりも十分に大きな内径を有する片側(図1中の右側)が有底の円筒形状を呈し、ここでは、例えば樹脂材料を用いて形成されている。このような把持ハウジング16の底部18の中心部には、凹部19が設けられ、また、この凹部19の中心には挿通孔20が形成されている。そして、外シース12の基端部が、その内孔を挿通孔20に連通させた状態で、凹部19内に同軸的に嵌め込まれて、固着されている。これにより、外シース12の基端側開口部21が、凹部19の挿通孔20を通じて、把持ハウジング16内に連通している。また、把持ハウジング16が、外シース12の基端部から、その先端部側とは反対側(図1中の左側)に延び、且つかかる延出部において軸方向外方に向かって開口する開口部17を形成している。
一方、図3から明らかなように、内シャフト14は、中間シース22と、それに内挿された内シース24とからなる二重筒構造を有している。そして、中間シース22が、外シース12よりも細長い円筒状を有して、外シース12内に同軸的に挿入されている。これにより、図2及び図4に示されるように、中間シース22の外周面と外シース12の内周面との間に、それらの全周に延びる外側間隙部26が、軸方向に連続して延びるように形成されている。
また、図5に示されるように、中間シース22は、その基端側部分が、外シース12の基端側開口部21と、把持ハウジング16の凹部19の挿通孔20と、把持ハウジング16の外部への開口部17とを通じて、外シース12内から突出し、更に把持ハウジング16から外部に突出する後退位置(図2参照)と、先端側部分が、外シース12の先端側開口部25から外部に突出する前進位置(図8参照)との間において、外シース12に対して、軸方向に相対移動可能とされている。換言すれば、外シース12に対して、その先端側を前側及び基端側を後側とした前後方向にスライド可能とされている。
このような中間シース22の外径は、特に限定されるものではなく、中間シース22と外シース12との間の外側間隙部26内に、後述する第1の止血用シート28を巻き付け状態で収容し得るように、外シース12の内径や、第1の止血用シート28の厚さ及び大きさなどに応じて適宜に決定される。具体的には、中間シース22の外径は、外側間隙部26の幅(外シース12の内径と中間シース22の外径との差の1/2の大きさ)が2〜4mm程度の大きさとなるように設定されるのが、一般的である。この中間シース22の形成材料も、十分な機械的強度を有するものであれば特に限定されるものではなく、外シース12と同様な材料を採用することができる。本実施形態では、中間シース22が、操作性の点から、外シース12と同様に、剛性を有する金属材料を用いて形成されている。
そして、図2に示されるように、ここでは、中間シース22と外シース12との間に形成される外側間隙部26内に、スライド部材15が同軸的に挿入されている。このスライド部材15は、全体として、半割円筒形状を呈し、中間シース22の長さよりも小さく、且つ外シース12と略同じ長さか又はそれよりも所定寸法大きな長さをしている。このスライド部材15の基端部には、その外周面上に、軸直角方向に突出する摘み部27が、一体的に設けられている。
スライド部材15は、外側間隙部26内への挿入状態下で、外シース12と内シャフト14の両方に対して、軸方向、換言すれば、外シース12の先端側を前側及び基端側を後側とした前後方向に相対移動可能(スライド可能)とされている。このスライド部材15の相対移動は、その基端側部分を、外シース12の基端部に取り付けられた把持ハウジング16の開口部17から外部に突出させた後退位置(図2参照)と、先端側部分を、外シース12の先端側開口部25から突出させることなく、外シース12の先端側部位の内部に位置させた前進位置(図13参照)との間において行われる。
なお、スライド部材15の形成材料も、十分な機械的強度を有するものであれば特に限定されるものではなく、外シース12と同様な材料を採用することができる。本実施形態では、高い機械的強度を有することに加えて、摘み部27が基端部に容易に形成され得るように、上記に例示した樹脂材料を用いて、スライド部材15が形成されている。
一方、図3及び図6に示されるように、中間シース22と共に内シャフト14を構成する内シース24は、中間シース22よりも更に細い円筒状を有して、中間シース22内に同軸的に挿入されている。これにより、内シース24の外周面と中間シース22の内周面との間に、それらの全周に延びる内側間隙部30が、内シース24と中間シース22の軸方向に連続して延びるように形成されている。
また、図5に示されるように、内シース24は、その基端部において、後述するスライドハウジング32に対して、中間シース22と共に固定されている。それによって、中間シース22と共に、外シース12に対して、軸方向、換言すれば、外シース12の先端側を前側及び基端側を後側とした前後方向に相対移動可能(スライド可能)とされている。この内シース24の外シース12に対する相対移動は、内シース24の基端側部分が、外シース12の基端部に取り付けられた把持ハウジング16の開口部17から外部に突出する後退位置(図2参照)と、先端側部分が、外シース12の先端側開口部25から、中間シース22と共に外部に突出する前進位置(図8参照)との間において行われるようになっている。
内シース24の形成材料も、十分な機械的強度を有するものであれば特に限定されるものではなく、外シース12や中間シース22と同様な材料を採用することができる。本実施形態では、内シース24が、操作性の点から、外シース12や中間シース22と同様に、剛性を有する金属材料を用いて形成されている。
そして、本実施形態では、図5及び図7に示されるように、内シャフト14の基端部にスライドハウジング32が固定されている。より詳細には、スライドハウジング32は、把持ハウジング16に挿入可能な外径を有する小径部34と、それよりも径の大きな大径部36とを有している。
また、スライドハウジング32内には、固定用筒部38が、大径部36側から小径部34側に向かって同軸的に延びるように配置されている。この固定用筒部38は、内シャフト14の中間シース22が挿入可能な内径を有する円筒形状を呈している。そして、かかる固定用筒部38が、スライドハウジング32の大径部36に対して、その内周面から径方向内方に延びる連結板部40を介して一体的に連結されている。また、固定用筒部38の軸方向中間部には、径方向内方に突出し且つ全周に延びる突起部42が設けられている。これによって、突起部42が設けられた軸方向中間部の内径が、中間シース22は挿入不可能ではあるものの、内シース24が挿入可能な大きさに小径化されている。
そして、外シース12の基端側開口部21や把持ハウジング16の開口部17を通じて外部に突出する内シャフト14の基端部が、スライドハウジング32内に、小径部34側の開口部を通じて同軸的に挿入されている。また、そのような状態下で、内シャフト14の中間シース22の基端部が、固定用筒部38の先端側(スライドハウジング32の小径部34側)の開口部から挿入されて、その先端側開口部の内周面に固着されている。更に、中間シース22の基端側開口部から突出する内シース24の基端部は、固定用筒部38の内孔内を、固定用筒部38の基端部(スライドハウジング32の大径部36側の端部)に達するまで挿通されて、固定用筒部38の突起部42の突出面に固着されている。
これにより、内シャフト14がスライドハウジング32に固定されており、以て、スライドハウジング32が軸方向に移動したときに、それに伴って、中間シース22と内シース24とが、共に、外シース12内を、外シース12に対して、その軸方向(前記した前後方向)に相対的に移動するようになっている。なお、スライドハウジング32は、内シャフト14の外シース12内への挿入状態下で、把持ハウジング16から軸方向に離間した後退位置から、小径部34が把持ハウジング16内に挿入されて、外周面における小径部34と大径部36との段差面が、把持ハウジング16の開口側端面に当接する前進位置までの間において、内シャフト14の軸方向に移動されるようになっている。
また、スライドハウジング32の小径部34の先端部位には、返り形状を呈する係合爪43が形成されている。一方、把持ハウジング16の開口部17の内周縁部位には、径方向内方に突出し且つ周方向に延びる内側突条44が一体形成されている。そして、スライドハウジング32の小径部34の先端側部位が、把持ハウジング16内に挿入された状態下で、係合爪43が内側突条44と係合するようになっている。これにより、スライドハウジング32の小径部34の先端部が、把持ハウジング16の開口側端部内に挿入されたときに、係合爪43が内側突条44に係合する。そうして、スライドハウジング32の小径部34の先端部が把持ハウジング16内に一旦はめ込まれると、そこから容易に離脱しないようになっている(図11参照)。
さらに、図7に示されるように、中間シース22は、固定用筒部38に固着された状態下で、基端側端面が、固定用筒部38の突起部42の先端側端面(スライドハウジング32の小径部34側に位置する端面)に当接している。これにより、スライドハウジング32に固定された中間シース22と内シース24との間に形成される内側間隙部30の基端側開口部が、固定用筒部38の突起部42の先端側端面にて閉塞されている。一方、内シース24の基端側開口部は、固定用筒部38の基端側開口部(スライドハウジング32の大径部36側の開口部)を通じて、外部に連通している。
また、それら中間シース22や内シース24が固定される固定用筒部38には、突起部42が形成された軸方向中間の内孔部分を外部に連通させる分岐部45が設けられている。更に、突起部42の先端側部位(スライドハウジング32の小径部34側の部位)の内周面には、突起部42の突出面と分岐部45の内周面とにおいてそれぞれ開口する溝部46が形成されている。そして、この溝部46を通じて、中間シース22と内シース24との間に形成される内側間隙部30と分岐部45の内孔とが互いに連通しており、また、それによって、内側間隙部30が、溝部46と分岐部45の内孔とを通じて、外部に連通している。そして、分岐部45の外部への開口部には、逆止弁41が取り外し可能に取り付けられており、また、この逆止弁41を介して、図示しないシリンジなどが接続されて、かかるシリンジから空気等の流体が、内側間隙部30内に導入されるようになっている。
一方、固定用筒部38の基端側開口部を通じて外部に開口する内シース24の基端側開口部には、生理食塩水が内部に収容された、図示しないシリンジなどが接続されるようになっている。これにより、かかるシリンジから、内シース24の内孔47内に生理食塩水が導入されて、それが、内孔47内を流通して、内シース24の先端開口部から外部に吐出されるようになっている。なお、本実施形態では、かかる内シース24の内孔47にて、シート用液供給路が構成されている。
また、図5から明らかなように、スライドハウジング32の小径部34内には、外シース12の基端側開口部21と把持ハウジング16の開口部17とを通じて外部に突出するスライド部材15の基端部も同軸的に挿入されている。そして、スライド部材15の基端部に一体形成された摘み部27は、スライドハウジング32の小径部34の周上の一箇所に、小径部34の全長に亘って軸方向に延びるように形成された広幅のスリット48内に、嵌入されている(図1参照)。この摘み部27が、スリット48にて案内されつつ、小径部34の軸方向に移動させられることにより、スライド部材15が、内側間隙部30内を、内シャフト14と外シース12とに対して、軸方向、換言すれば、外シース12の先端側を前側及び基端側を後側とした前後方向に相対移動するようになっている。
一方、把持ハウジング16にも、その周上の一箇所に、摘み部27が嵌入可能な広幅のスリット50が、全長に亘って軸方向に延びるように形成されている。これによって、スライドハウジング32の小径部34が把持ハウジング16内に挿入されたときにも、スライドハウジング32と把持ハウジング16のそれぞれのスリット48,50が周方向の同一位置に配置されることで、摘み部27の軸方向への移動が許容されるようになっている(図11参照)。そして、そのような摘み部27の軸方向への移動は、摘み部27がスライドハウジング32のスリット48の大径部36側の端縁部に位置する後退位置から、スライドハウジング32の小径部34が把持ハウジング16内に挿入された状態で、摘み部27が把持ハウジング16の底部18に接触する前進位置の間で行われるようになっている。
スライド部材15の摘み部27は、自由端とされた先端部を有する屈曲板からなり、それによって、撓み変形可能とされている。また、そのような摘み部27の自由端とされた先端部には、返り形状を呈する係合爪52が一体的に設けられている。そして、このような摘み部27が前記後退位置に配置されているときに、係合爪52が、スライドハウジング32の大径部36の内周面に係合されて、無用な移動が阻止されるようになっている。なお、この大径部36の内周面に対する係合爪52の係合は、摘み部27の撓み変形によって容易に解除されるようになっている。
一方、図6から明らかなように、中間シース22の先端側の筒壁部には、複数の貫通孔54が、周方向と軸方向に並んで設けられている。これにより、中間シース22と内シース24との間に形成される内側間隙部30が、それら複数の貫通孔54を通じて、中間シース22の外部に連通している。
さらに、中間シース22の先端部には、圧迫部としてのチューブ状のバルーン56が、複数の貫通孔54の全てを覆うように、外挿されて、取り付けられている。このバルーン56は、膨張及び収縮可能な材質からなっている。バルーン56の形成材料としては、膨張及び収縮可能なものの中でも、患者の臓器などを傷付けないような柔軟性を有するものが好ましい。そのような材料としては、例えば、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、スチレンーブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
そして、図6及び図8から明らかなように、バルーン56の軸方向両側の端部のうち、中間シース22の基端側に位置する端部の開口部が、その内周面において中間シース22の先端から軸方向内方に所定距離だけ離れた位置の外周面に対して固着されている。また、中間シース22の先端側に位置する端部は、バルーン56の先端側を部分的に二重構造とするように内側に折り返されており、そして、折り返し前に外周面とされた面において、中間シース22の先端側の開口部から突出した内シース24の先端部の外周面に固着されている。
それ故、前記分岐部45から内側間隙部30内に導入された空気などの流体が、複数の貫通孔54を通じてバルーン56内に供給されることにより、バルーン56が、中間シース22に固着されていない部分において膨張され、特に、内側に折り返された部分において、軸直角方向だけでなく、軸方向外方(先端側)を含めた各方向に向かって膨張され得るようになっている。また、膨張したバルーン56内の流体が内側間隙部30を経て、分岐部45から外部に排出されることにより、バルーン56が収縮されるようになっている。このことから明らかなように、本実施形態では、内側間隙部30によって、バルーン用流体供給路が構成されている。なお、ここでは、流体をバルーン56内に導入するための複数の貫通孔54が、中間シース22の先端側筒壁部の所定長さの領域に亘って設けられているため、バルーン56の軸方向長さを容易に長く確保することができ、以て、圧迫時の圧迫面積を大きく設定することが可能となっている。また、バルーン56内に供給された空気などの流体は、分岐部45に取り付けられた逆止弁41を取り外さない限り、バルーン56内から排出されることがなく、バルーン56の膨張状態が維持されるようになっている。
図4に示されるように、中間シース22のバルーン56の取付部位よりも基端側の部位には、軟質の樹脂やエラストマー、ゴムなどからなる蓋部材としての中間キャップ58が外挿されて、固定されている。この中間キャップ58は、外シース12の内径と略同一の外径を有する円筒形状を呈している。このため、中間シース22と前記スライドハウジング32とが、前記したそれぞれの後退位置に配置されて、中間シース22のバルーン56が取り付けられる先端側部位が外シース12内に位置している状態下では、中間シース22と外シース12との間の外側間隙部26が、中間キャップ58により、外シース12の先端側の部分と基端側の部分とに二つに仕切られるようになっている。
そして、図4に示されるように、本実施形態では、スライドハウジング32が、把持ハウジング16から離間した後退位置に配置された状態下で、外シース12の先端側部位の内部に、中間シース22と内シース24(内シャフト14)が挿入されていない空間部分が形成されるようになっており、この空間部分が、先端側収納領域としての先端側収納部60とされている。また、そのような後退位置にスライドハウジング32が配置されている状態や、スライドハウジング32の小径部34の先端が把持ハウジング16内に挿入されて、小径部34の先端の係合爪43が把持ハウジング16の内側突条44に係合する位置に、スライドハウジング32が配置されている状態において、中間キャップ58とスライド部材15の先端面との間に位置する外側間隙部26部分が、収納領域としての基端側収納部62とされている。
そして、基端側収納部62は、第1の止血用シート28の複数(ここでは、四つ)が、収納可能とされている。基端側収納部62内に収納される四つの第1の止血用シート28は、中間シース22の先端側部位の軸方向に互いに距離を隔てた4箇所に、それぞれ、巻き付けられて、軸方向に相互に配置される。これにより、四つの第1の止血用シート28が、外シース12の先端側開口部25に向かって直列に並んだ状態で、基端側収納部62内に収納されるようになっている。
一方、先端側収納部60には、第2の止血用シート64が一つだけ収納可能とされている。先端側収納部60内に収納される第2の止血用シート64は、巻回された(丸められた)状態で、内シャフト14の先端よりも外シース12の先端側に配置されるようになる。そうして、一つの第2の止血用シート64が、複数の第1の止血用シート28よりも外シース12の先端側に配置されるようになっている。
それら基端側及び先端側収納部62,60内にそれぞれ収納される第1の止血用シート28及び第2の止血用シート64としては、内視鏡下手術において止血などの処置に用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、体内留置用シートやガーゼを挙げることができる。また、体内留置用シートとしては、例えば、術部の止血を行うシート状止血剤や臓器同士の癒着を防止するシート状癒着防止剤などがある。具体例としては、繊維性コラーゲンや、酸化セルロース、コラーゲンシートの支持体に乾燥したフィブリノーゲン、トロンビン、アプロチニンなどの粘着性を発揮する成分が固着されたシート(例えば、タココンブ(登録商標))などを例示することができる。中でも、第1及び第2の止血用シート28,64として、片側の面がフィブリノーゲンなどの止血剤成分からなる止血剤層を有する活性面とされたものを用いる場合には、それらの各シート28,64が、先端側及び基端側収納部60,62内において、活性面を外側にして、巻回された状態や中間シース22に巻き付けられた状態で配置されていることが望ましい。それによって、第1及び第2の止血用シート28,64が外シース12の外部に押し出された際に、腹腔鏡の光源の強さによって、各止血用シート28,64の表裏を確認し難い場合であっても、活性面を傷口に向けて接触させることができる。
第1の止血用シート28や第2の止血用シート64の大きさや形状なども、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜に変更され得る。ここでは、第1の止血用シート28として、バルーン56の軸方向長さよりも小さな幅を有する正方形で、20mm×20mm程度の大きさを有するものが、用いられている。また、第2の止血用シート64には、バルーン56の軸方向長さよりも小さな幅を有し、且つ第1の止血用シート28よりも大きな長方形で、32mm×48mm程度の大きさを有するものが、用いられている。
ところで、上述の如き構造を有する本実施形態の腹腔鏡下手術用デバイス10は、腹腔鏡下手術において、例えば、腹腔内の術部などにウージングや緊急的な出血が生じた際の止血処置などに使用されるのであるが、ウージングを止血処置する場合と、緊急出血を止血処置する場合とにおいて、以下のように使い分けて、使用される。
すなわち、ウージングの止血処置に使用する場合には、先ず、図1に示されるように、スライドハウジング32を把持ハウジング16から離間する後退位置に配置させて、図4に二点鎖線で示されるように、外シース12内の先端側収納部60内に第2の止血用シート64を巻回した状態で収納する。このとき、スライド部材15の摘み部27の係合爪52をスライドハウジング32の大径部36に係合させておく。
次いで、把持ハウジング16を把持しつつ、腹腔鏡下手術用デバイス10の先端部を、トロッカーの内孔を通じて、腹腔鏡下手術の術部近傍まで挿入する。
その後、図9に示されるように、スライドハウジング32を前進位置まで前進させる。即ち、スライドハウジング32を把持ハウジング16の先端側に移動させて、スライドハウジング32の小径部34が小径部34が把持ハウジング16内に挿入されて、外周面における小径部34と大径部36との段差面が、把持ハウジング16の開口側端面に当接する前進位置まで移動させる。それに伴って、内シャフト14の中間シース22と内シース24とを、図8に示されるように、それぞれの先端部が外シース12の先端側開口部25から外部に突出する前進位置まで移動させる。これにより、内シャフト14の中間シース22の先端部に取り付けられたバルーン56を外部に露出させると共に、外シース12内の先端側収納部60内に収納された第2の止血用シート64を、内シャフト14にて、外シース12の先端側開口部25から外部に押し出す。
そして、外部に押し出された第2の止血用シート64は、巻回状態が解除されて、ウージングを生じている術部に適用される。このように、本実施形態の腹腔鏡下手術用デバイス10では、第2の止血用シート64が外シース12に収納された状態で体内に挿入されてから、術部近傍で外シース12から取り出されるようになっている。そのため、第2の止血用シート64が、ウージングを生じている術部に迅速に適用される。また、第2の止血用シート64が、術部に適用される前に、体液に触れて使いものにならなくなってしまうようなことが有利に防止され得る。
その後、中間シース22の基端側の分岐部45に接続したシリンジ(図示せず)のプランジャを押圧して、シリンジのバレル内の空気を内側間隙部30内に送り込む。そして、この内側間隙部30内に送り込まれた空気を、中間シース22の先端部に設けられた複数の貫通孔54を通じて、バルーン56内に供給して、図8に示されるように、バルーン56を膨張させる。このとき、前記したように、バルーン56の先端側部分が全方向に膨張する。また、分岐部45に取り付けられた逆止弁41により、バルーン56内や内側間隙部30内の空気の逆流が防止されて、バルーン56の膨張状態が維持される。
引き続き、図10に示されるように、膨張したバルーン56にて、第2の止血用シート64を術部に圧迫する。バルーン56は、術部の形状に追従し得る柔軟性を有しており、術部を傷つけることなく、第2の止血用シート64を術部に圧迫することができる。また、バルーン56は第2の止血用シート64よりも大きな幅を有しているため、術部に適用された第2の止血用シート64を、十分な圧迫面積で圧迫することができる。これにより、術部の出血をより一層効率的に止めることができるようになっている。その結果、腹腔鏡下手術におけるウージング止血の処置の困難性が、大幅に改善され得る。
なお、第2の止血用シート64として、タココンブ(登録商標)などのように、生体に貼り付けるために水分が必要となる体内留置用シートを用いる場合には、必要に応じて、上記圧迫操作を行う際に、第2の止血用シート64に対して生理食塩水を供給する。
具体的には、図示されてはいないものの、内部に生理食塩水が収容されたシリンジを内シース24の基端側開口部に接続する。そして、第2の止血用シート64を外シース12の外部に押し出して、術部に接触させた後、かかるシリンジのプランジャを押圧して、生理食塩水を内シース24の内孔47内に送り込み、内シース24の先端側開口部から生理食塩水を吐出させる。これにより、生理食塩水を第2の止血用シート64にかけて湿らせることができる。そして、膨張したバルーン56で第2の止血用シート64を術部に圧迫することで、第2の止血用シート64を術部へ圧迫及び貼り付けする。
第2の止血用シート64を術部に圧迫して、止血などの処置が終了したら、分岐部45に取り付けられた逆止弁41を取り外して、バルーン56内の空気を排出する(例えば、プランジャにて吸引する)ことにより、バルーン56を収縮させる。そして、腹腔鏡下手術用デバイス10をトロッカーから引き抜いて、患者の腹腔内から取り出す。
一方、本実施形態の腹腔鏡下手術用デバイス10を腹腔鏡下手術における術部の緊急止血に使用する場合には、先ず、図4に二点鎖線で示されるように、中間キャップ58とスライド部材15の先端面との間に位置する外側間隙部26部分にて形成される基端側収納部62内に、複数(ここでは四つ)の第1の止血用シート28を、中間シース22に巻き付けた状態で収納する。このとき、通常では、先端側収納部60内への第2の止血用シート64の収納は省略される。また、スライド部材15の摘み部27の係合爪52をスライドハウジング32の大径部36に係合させておく。
次に、図11に示されるように、スライドハウジング32の小径部34の先端を把持ハウジング16内に挿入した位置に配置して、小径部34の先端に設けられた係合爪43を把持ハウジング16の内側突条44に係合させる。これにより、内シャフト14のバルーン56が取り付けられた先端側部位を、外シース12の先端側開口部25から外部に突出させると共に、中間キャップ58にて、外シース12の先端側開口部25を閉塞する。
次いで、把持ハウジング16を把持しつつ、腹腔鏡下手術用デバイス10の先端部を、トロッカーの内孔を通じて、腹腔鏡下手術の術部近傍まで挿入する。
その後、図12に示されるように、スライドハウジング32を前進位置まで前進させる。即ち、スライドハウジング32を把持ハウジング16の先端側に移動させて、スライドハウジング32の小径部34が小径部34が把持ハウジング16内に挿入されて、外周面における小径部34と大径部36との段差面が、把持ハウジング16の開口側端面に当接する前進位置まで移動させる。これにより、図13に示されるように、中間キャップ58が外シース12よりも軸方向外側に押し出されて、中間キャップ58による基端側収納部62の覆蓋が解除されて、基端側収納部62が開放される。そして、スライド部材15の先端にて、外シース12内の基端側収納部62内に収納された四つの第1の止血用シート28のうち、外シース12の先端側開口部25から最も遠い(基端側の)位置に収納された第1の止血用シート28を先端側に押し付けて、ところてん式に四つの第1の止血用シート28を外シース12の先端側開口部25側に全体的に移動させ、外シース12の先端側開口部25に最も近い位置に収納された第1の止血用シート28を、外シース12の先端側開口部25から外部に押し出す。そして、外部に押し出された第1の止血用シート28は、中間シース22に対する巻付け状態が解除されて展開され、緊急的な出血を生じている術部に適用される。
その後、図14に示されるように、先端側収納部60内から第2の止血用シート64を押し出したときと同様に、バルーン56を膨張させて、このバルーン56にて、第1の止血用シート28を術部に圧迫する操作を行う。この圧迫操作の実施時にも、必要に応じて、生理食塩水を内シース24の内孔47内に送り込み、内シース24の先端側開口部から生理食塩水を吐出させて、第1の止血用シート28に生理食塩水を供給することができる。
次に、スライド部材15の摘み部27を撓み変形させて、スライドハウジング32の大径部36に対する摘み部27の係合爪52の係合を解除する。その後、図15に示されるように、摘み部27を摘んで、スライド部材15を外シース12に対して、その先端側に相対的に移動させる。そして、その移動量に応じて、未だ基端側収納部62内に収納される三つの第1の止血用シート28を、外シース12の先端側開口部25に近いものから順番に、一つずつ、玉突き状態で、外シース12の外部に押し出す。その後、それら順に押出された第1の止血用シート28に対しても、バルーン56による術部への圧迫操作や各第1の止血用シート28に対する生理食塩水の供給を必要に応じて、上記と同様にして実施する。
そして、複数の第1の止血用シート28を用いた緊急止血処置が終了したら、バルーン56内の空気を排出して、バルーン56を収縮させる。その後、腹腔鏡下手術用デバイス10をトロッカーから引き抜いて、患者の腹腔内から取り出す。
このように、本実施形態の腹腔鏡下手術用デバイス10を用いれば、一つの第2の止血用シート64と複数の第1の止血用シート28を、何れも、外シース12内に収納し、それにより、体液に接触させることなく体内に挿入することができる。しかも、外シース12の先端側開口部25から内シャフト14を必要以上に突出させずに、また、スライド部材15の先端部を外シース12の先端側開口部25を通じて外部に突出させることなしに、複数の第1の止血用シート28を外シース12内から一つずつ押し出して、術部に適用することができる。
従って、本実施形態の腹腔鏡下手術用デバイス10は、一つの第2の止血用シート64を用いたウージング止血処置を実施する際と、複数の第1の止血用シート28を必要とする緊急止血処置を実施する際の両方に対して、有利に対応可能となる。そして、特に、複数の第1の止血用シート28を必要とする緊急止血処置を行う際には、体腔内の限られたスペースの中で、複数の第1の止血用シート28を、体腔内に挿入されたデバイスの先端近傍から押し出すことが出来、術部に対して一つずつスムーズに且つ確実に適用することができる。その結果、緊急止血処置の困難性を大幅に改善することができる。
また、かかる腹腔鏡下手術用デバイス10では、第2の止血用シート64が収納される先端側収納部60が、内シャフト14が挿入されていない外シース12の内孔部分にて構成されている。それにより、先端側収納部60の容積が十分に大きくされて、そのような先端側収納部60内に収納される第2の止血用シート64として、大型のものを使用することが可能となっている。その結果として、ウージングの止血処置を、より効率的に且つ確実に行うことができる。
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
例えば、図16に示されるように、内シャフト14を中実の丸棒材にて構成して、その内部に、全長に亘って軸方向に連続して延びる、互いに独立した2個のルーメン66a,66bを形成する。そして、バルーン56を膨張、収縮させるのに使用される給排路(バルーン用流体供給路)を、ルーメン66aにて構成し、また、止血用シート28,64に生理食塩水を供給する供給路(シート用液供給路)を、ルーメン66bにて構成しても良い。これによって、内シャフト14の構造、ひいては腹腔鏡下手術用デバイス10の構造の簡略化が有利に達成され得る。
また、本発明に従う構造とされた内視鏡下手術用デバイスの使用方法は、前述の記載によって限定されるものでない。例えば、前記実施形態において、先端側収納部60に第2の止血用シート64を収納すると同時に基端側収納部62に第1の止血用シート28を収納させた状態で、腹腔鏡下手術用デバイス10を使用することもできる。この場合には、腹腔鏡下手術用デバイス10を腹腔内に挿入した状態で、先ず、先端側収納部60内に収納された第2の止血用シート64を内シャフト14にて体内に挿入し、次いで、基端側収納部62内の第1の止血用シート28をスライド部材15にて体内に挿入することができる。
さらに、デバイス本体は、トロッカーの内孔などを通じて体内に挿入可能なものであれば、例示される外シース12に、何等限定されるものではなく、各種の構造や形状において構成され得る。
また、押出部材も、必ずしも、例示されるスライド部材15にて構成されるものではなく、各種の構造が採用され得る。例えば、押出部材を単純な棒材や筒体にて構成することもできる。また、デバイス本体内に一部が挿入された挿入部と、デバイス本体に軸方向に延びるように設けられたスリットを通じて外部に突出する突出部とを有し、この突出部がスリットにて案内されつつデバイス本体を軸方向に相対移動するのに伴って、挿入部にて、デバイス本体内のシートを外部に押し出すようにした構造において、押出部材を構成することもできる。
また、本発明では、デバイス本体内に収納されるシートとして、例示された止血用シートの他、例えば、術部付近の余分な体液を除去する処置に使用されるシートや、特定の薬液を術部に接触させる処置に用いられるシート等の各種の医療用シートが採用可能である。
加えて、前記実施形態では、本発明を、腹腔鏡下手術に用いられる腹腔鏡下手術用デバイスに適用したものの具体例を示したが、本発明は、腹腔鏡下手術以外の各種の内視鏡下手術に用いられる内視鏡下手術用デバイスの何れに対しても、有利に適用されるものであることは、勿論である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。