本発明は、車両の走行中においてその車両の走行状態に応じて作動または停止させられるエンジンを備える車両用駆動装置の制御装置に係り、特に、エンジン始動時のショックを抑制するための技術に関するものである。
車両の走行中においてその車両の走行状態に応じて作動または停止させられるエンジンと、そのエンジンに連結された流体伝動装置と、その流体伝動装置と前記車両の駆動輪との間に設けられた変速機と、前記エンジンのクランク軸に連結された第1電動機とを備える車両用駆動装置の制御装置が知られている。例えば、特許文献1および2に記載されたものがそれである。
特許文献1の制御装置では、例えば登坂路において第1電動機の動力を流体伝動装置を介して駆動輪に伝達することにより、車両を停止状態に維持するようになっており、そのときに、流体伝動装置が有するロックアップクラッチを係合してその流体伝動装置の入出力部材を相互に連結することで、上記第1電動機の消費電力を低減することができるとされている。
また、特許文献2の制御装置では、シフトレバー装置の手動操作に基づく変速時には流体伝動装置のロックアップクラッチの締結を解除して第1電動機の回生を禁止することにより、変速ショックの発生を防止することができるとされている。
特開2000−179678号公報
特開2006−153161号公報
ところで、上記従来の車両用駆動装置の制御装置においては、車両走行中のエンジン停止時において例えばダウンシフトが行われることに起因して、駆動輪から流体伝動装置を介してクランク軸に作用するトルクが増加し、予め設定された始動位置に位置させられていたクランク軸の回転停止位置がその始動位置からずれる可能性があった。そのようにクランク軸が上記始動位置からずれている場合であっても、エンジン始動要求があるとエンジンが始動させられるために、エンジンで発生する始動ショックが大きくなるという問題が発生する可能性があった。
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、車両走行中のエンジン停止時においてエンジンが始動されるときにショックが発生するのを抑制することができる車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) 車両の走行中においてその車両の走行状態に応じて作動または停止させられるエンジンと、そのエンジンに連結された流体伝動装置と、その流体伝動装置と前記車両の駆動輪との間に設けられた変速機と、前記エンジンのクランク軸に連結された第1電動機とを備える車両用駆動装置の制御装置であって、(b) 前記車両走行中の前記エンジンの停止時に前記変速機がシフトされる際に、そのエンジンのクランク軸が予め設定された始動位置に位置するように前記第1電動機を制御するクランク軸位置制御手段を含むことにある。
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記クランク軸位置制御手段は、前記変速機のシフトの開始から終了までの間、そのシフト直前に前記始動位置に位置する前記クランク軸の回転角を維持するための回転ロック電流を、前記第1電動機に供給するものであることにある。
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項2にかかる発明において、前記クランク軸位置制御手段は、前記駆動輪から前記流体伝動装置を介して前記クランク軸に作用するトルクに応じて前記回転ロック電流を設定するものであることにある。
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、前記クランク軸位置制御手段は、前記変速機のシフト後において、前記クランク軸の前記始動位置からのずれを戻すものであることにある。
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項4にかかる発明において、前記クランク軸位置制御手段は、前記変速機のシフト要求と同時に前記エンジンの始動要求があった場合には、そのシフト後に前記クランク軸の前記始動位置からのずれを戻すクランク軸位置制御を実行しないことにある。
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれか1にかかる発明において、(a) 前記変速機の入力軸に連結された第2電動機と、(b) 前記変速機がシフトされる際に、前記第2電動機によりその変速機の入力軸の回転速度を上昇または下降させることによりその変速機の入力軸の回転速度と出力軸の回転速度とを同期させる回転同期手段とを、含むことにある。
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至6のいずれか1にかかる発明において、(a) 前記流体伝動装置は、前記クランク軸に連結されたポンプ翼車と、その流体伝動装置の出力部材に連結されたタービン翼車と、そのタービン翼車とポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータであり、(b) そのステータ翼車と非回転部材との間に設けられたブレーキと、(c) 前記エンジンの停止中にそのブレーキの係合トルクを制御して前記ステータ翼車の回転を抑制することにより前記流体伝動装置の容量係数を低下させる低容量化制御手段とを、含むことにある。
請求項1にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、前記車両走行中の前記エンジンの停止時に変速機がシフトされる際に、そのエンジンのクランク軸が予め設定された始動位置に位置するように第1電動機を制御するクランク軸位置制御手段を含むことから、車両走行中のエンジン停止時においてシフトが行われることに起因して駆動輪から流体伝動装置を介してクランク軸に作用するトルクが変化する場合であっても、そのシフト後にエンジン始動要求があったときにはクランク軸が前記始動位置に位置させられた状態でエンジンが始動されるので、車両走行中のエンジン停止時においてエンジンが始動されるときにショックが発生するのを抑制することができる。
また、請求項2にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、前記クランク軸位置制御手段は、変速機のシフトの開始から終了までの間、そのシフト直前に前記始動位置に位置するクランク軸の回転角を維持するための回転ロック電流を、第1電動機に供給するものであることから、車両走行中のエンジン停止時においてシフトが行われて変速機の入力軸の回転速度が上昇または下降する影響によりエンジンのクランク軸が回転させられようとする場合であっても、第1電動機によりクランク軸が前記始動位置において回転不能に固定されるので、上記シフト後のエンジン始動時にショックが発生するのを抑制することができる。
また、請求項3にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、前記クランク軸位置制御手段は、駆動輪から流体伝動装置を介してクランク軸に作用するトルクに応じて前記回転ロック電流を設定するものであることから、回転ロック電流が、クランク軸14が回転しないために最低限必要な値に設定されることで、エンジンのクランク軸の回転角を前記始動位置に維持するために第1電動機で消費される電力を最小限に抑えることができる。
また、請求項4にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、前記クランク軸位置制御手段は、変速機のシフト後において、クランク軸の前記始動位置からのずれを戻すものであることから、車両走行中のエンジン停止時においてシフトが行われて変速機の入力軸の回転速度が上昇または下降する影響によりエンジンのクランク軸が回転させられた場合であっても、第1電動機によりクランク軸が前記始動位置に位置させられるので、上記シフト後のエンジン始動時にショックが発生するのを抑制することができる。
また、請求項5にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、前記クランク軸位置制御手段は、変速機のシフト要求と同時にエンジンの始動要求があった場合には、そのシフト後にクランク軸の前記始動位置からのずれを戻すクランク軸位置制御を実行しないことから、エンジン始動前に上記クランク軸位置制御が終了するまでのタイムラグが生じることでエンジン始動の応答性が低下するということを防止することができる。
また、請求項6にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、変速機の入力軸に連結された第2電動機と、変速機がシフトされる際に、その第2電動機により変速機の入力軸の回転速度を上昇または下降させることにより変速機の入力軸の回転速度と出力軸の回転速度とを同期させる回転同期手段とを、含むことから、たとえば、上記シフトの際に変速機の係合側クラッチの摩擦係合によって入出力回転速度の同期が行われる場合と比較して、シフトにかかる時間を短縮させることができる。
また、請求項7にかかる発明の車両用駆動装置の制御装置によれば、流体伝動装置は、クランク軸に連結されたポンプ翼車と、その流体伝動装置の出力部材に連結されたタービン翼車と、そのタービン翼車とポンプ翼車との間に配設されたステータ翼車とを有するトルクコンバータであり、そのステータ翼車と非回転部材との間に設けられたブレーキと、エンジンの停止中にそのブレーキの係合トルクを制御してステータ翼車の回転を抑制することにより流体伝動装置の容量係数を低下させる低容量化制御手段とを含むことから、上記低容量化制御を実施しない場合と比較して、車両走行中のエンジン停止時においてシフトが行われることに起因して駆動輪から流体伝動装置を介してクランク軸に作用するトルクの変化量が小さくなるので、エンジンのクランク軸が前記始動位置に位置するように第1電動機を制御する際にその第1電動機で消費される電力が少なくなる。
図1は、本発明の一実施例の車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
図1に示す自動変速機において各変速段を成立させるための各油圧式摩擦係合装置の作動表である。
図1に示す自動変速機のシフトポジションを切り換えるためのシフト操作装置を示す図である。
図1に示す自動変速機の自動変速制御において用いられる変速マップを示す図である。
図1の車両用駆動装置を含む車両に設けられた各装置を制御するための制御系統を説明するブロック線図である。
図5の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
図6のクランク軸位置制御手段において用いられる、引き摺りトルクと回転ロック電流との関係として予め実験的に求められて記憶されるマップを示す図である。
図5の電子制御装置の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図5の電子制御装置の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートである。
本発明の他の実施例の車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
図10に示すトルクコンバータの逆駆動状態における、ブレーキのスリップ率とトルクコンバータの逆駆動時容量係数との関係を示す図である。
図10に示すトルクコンバータの逆駆動状態における速度比と逆駆動時トルク比との関係を示す図である。
図10に示すトルクコンバータの逆駆動状態における速度比と逆駆動容量係数との関係を示す図である。
図10の車両用駆動装置の制御装置として機能する電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
図14の電子制御装置の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図14の電子制御装置の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートである。
本発明の他の実施例の車両用駆動装置の制御装置として機能する電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
図17の電子制御装置の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図17の電子制御装置の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートである。
本発明の他の実施例の車両用駆動装置の制御装置として機能する電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
図20の電子制御装置の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートである。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例の車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。図1において、車両用駆動装置10は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両に好適に採用されるものであり、内燃機関から構成されるエンジン12と、そのエンジン12のクランク軸14に連結されたトルクコンバータ(流体伝動装置)16と、そのトルクコンバータ16と図示しない駆動輪との間に配設されてトルクコンバータ16に連結された自動変速機18と、エンジン12とトルクコンバータ16との間に配設されてクランク軸14に連結された第1電動機MG1と、トルクコンバータ16と自動変速機18との間に配設されて自動変速機18の入力軸20に連結された第2電動機MG2とを備えている。なお、トルクコンバータ16、自動変速機18、第1電動機MG1、および第2電動機MG2等はそれらの共通の軸心に対して対称的に構成されており、図1においてはその軸心の下半分が省略して図示されている。
トルクコンバータ16は、流体伝動装置であって、エンジン12のクランク軸14に連結され、そのエンジン12により回転駆動されることによってトルクコンバータ16内の作動油の流動による流体流を発生させるポンプ翼車16pと、自動変速機18の入力軸20に連結され、上記ポンプ翼車16pからの流体流を受けて回転させられるタービン翼車16tと、そのタービン翼車16tからポンプ翼車16pへの流体流中に配設され、一方向クラッチF1によってクランク軸14の正回転方向(エンジン12作動時のクランク軸14の回転方向)の回転可能且つ負回転方向の回転不能に支持されたステータ翼車16sとを備えている。上記自動変速機18の入力軸20は、トルクコンバータ16の出力部材としても機能するものである。
このトルクコンバータ16においては、エンジン12からのトルクによりポンプ翼車16pが回転させられると、このポンプ翼車16pの回転が作動油を介してタービン翼車16tに伝達されて、タービン翼車16tが回転させられる。この状態をトルクコンバータ16の正駆動状態という。これにより、エンジン12のトルクが入力軸20に伝達される。また、上記の場合とは逆に、例えばコースト走行時(アクセルオフの惰性走行時)において前記駆動輪からのトルクによりタービン翼車16tが回転させられると、このタービン翼車16tの回転が作動油を介してポンプ翼車16pに伝達されて、ポンプ翼車16pが回転させられる。この状態をトルクコンバータ16の逆駆動状態という。これにより、前記駆動輪からのトルクがエンジン12に伝達される。なお、トルクコンバータ16では、コンバータ領域においてステータ翼車16sが一方向クラッチF1を介して回転不能に固定されることによりトルク増幅作用が得られ、また、カップリング領域においてステータ翼車16sが自由回転状態とされることにより効率低下が抑制されるようになっている。
また、トルクコンバータ16は、上記ポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間に設けられたロックアップクラッチL/Cを備えている。このロックアップクラッチL/Cは、完全係合状態、スリップ状態、および解放状態のいずれか1の状態に制御される。ロックアップクラッチL/Cが解放状態とされた場合には、上記のようにクランク軸14と入力軸20との間のトルク伝達がトルクコンバータ16内の作動油を介して行われる。そして、ロックアップクラッチL/Cが完全係合状態とされた場合には、エンジン12のクランク軸14と自動変速機18の入力軸20とが相互に一体的に連結されて、それらクランク軸14と入力軸20との間のトルク伝達がトルクコンバータ16内の作動油を介さずに直接的に行われる。
第1電動機MG1および第2電動機MG2は、駆動トルクを発生させる電動モータとしての機能と回生トルクを発生させる発電機としての機能とが選択的に得られるように構成された回転機であって、例えば交流同期型のモータジェネレータにより構成される。これら電動機MG1、MG2は、その駆動によってクランク軸14および入力軸20に正回転方向の駆動トルクを付与することができ、また、その発電(回生)によってクランク軸14および入力軸20に負回転方向の負荷トルクすなわち制動トルクを付与すると共に車両に設けられたバッテリ(蓄電装置)を充電することができる。
ここで、車両用駆動装置10においては、車両のコースト走行時には、エンジン12への燃料供給が遮断される所謂フューエルカットが実施される。これにより、エンジン12の燃料消費が低減されて車両燃費が向上される。第1電動機MG1は、車両のコースト走行時に実施された上記フューエルカットが解除されるとき等、車両走行中のエンジン停止時においてエンジン12が始動されるときに、エンジン始動のためにクランク軸14に正回転方向の駆動トルクを付与するエンジンスタータモータとして用いられる。
自動変速機18は、トルクコンバータ16および第2電動機MG2の出力を変速して出力軸22から出力する装置である。この自動変速機18は、非回転部材としてのトランスミッションケース24内に収容された第1変速部26および第2変速部28を備えている。上記第1変速部26は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置30を主体として構成される。そして、上記第2変速部28は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置32及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置34を主体として構成される。
第1変速部26では、第1遊星歯車装置30のサンギヤS1がトランスミッションケース24に連結されて回転不能に固定される。また、第1遊星歯車装置30のキャリヤCA1が入力軸20に連結されると共に、第2遊星歯車装置32のサンギヤS2にクラッチC4を介して連結される。また、第1遊星歯車装置30のリングギヤR1が第3遊星歯車装置34のサンギヤS3にクラッチC1を介して連結されると共に、第2遊星歯車装置32のサンギヤS2にクラッチC3を介して連結される。
そして、第2変速部28では、第2遊星歯車装置32のサンギヤS2がトランスミッションケース24にブレーキB1を介して連結されて回転不能に固定される。また、第2遊星歯車装置32および第3遊星歯車装置34のキャリヤCA2がトランスミッションケース24にブレーキB2を介して連結されて回転不能に固定されると共に、入力軸20にクラッチC2を介して連結される。また、第2遊星歯車装置32および第3遊星歯車装置34のリングギヤR2が出力軸22に連結されて回転不能に固定される。
なお、上記クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2は、油圧シリンダと、その油圧シリンダに供給される油圧に応じて摩擦係合される多板式のクラッチあるいはブレーキとを、備える油圧式摩擦係合装置である。
この自動変速機18においては、各油圧式摩擦係合装置(クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2)が図2に示す所定の作動表に従ってそれぞれ係合または解放されることにより、変速比がそれぞれ異なる前進8段および後進2段の変速段が成立するようになっている。図2において、「○」は係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ示している。
また、自動変速機18は、図3に示すように、車両の運転者の手動操作により自動変速機18のシフトポジションを切り換えるためのシフト操作装置36を備えている。このシフト操作装置36は、例えば車両の運転席の側方等に配設され、複数のシフトポジションのいずれか1を選択するためのシフトレバー38を備えている。このシフトレバー38が複数の操作位置のいずれか1に操作されることで、「P(パーキング)」、「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」、「D(ドライブ)」、および「M(マニュアル)」のいずれか1のシフトポジションが選択されて設定される。
上記「P(パーキング)」は、自動変速機18における入力軸20と出力軸22との間の動力伝達経路を遮断しつつ、その出力軸22を回転不能に固定するための駐車ポジションである。また、上記「R(リバース)」は、自動変速機18の変速段を後進変速段に切り換えるための後進走行ポジションである。また、上記「N(ニュートラル)」は、自動変速機18における入力軸20と出力軸22との間の動力伝達経路を遮断するための中立ポジションである。また、上記「D(ドライブ)」は、自動変速機18の変速レンジが自動的に切り換えられる自動変速制御が実行される自動変速モードを成立させるための前進自動変速ポジションである。また、上記「M(マニュアル)」は、自動変速機18の変速レンジが運転者の手動操作に応じて切り換えられる手動変速モードを成立させるための前進手動変速ポジションである。
また、上記自動変速機18の自動変速制御は、図4に示すように車速軸と要求出力トルク軸との二次元座標内において設定された複数本の変速線から構成される予め記憶された変速線図に従って実行される。具体的には、図4に示す変速線図から、車速V[km/h]および要求出力トルクTOUT[N・m]に基づいて、自動変速機18の変速すべき変速段が決定され、その決定されたギヤ段が成立するように前記図2に示す作動表に従って各油圧式摩擦係合装置が作動させられる。
以上のように構成された車両用駆動装置10においては、車両の走行状態に応じて、エンジン12の動力により車両を走行させるエンジン走行と第2電動機MG2の動力により車両を走行させるモータ走行とが切り換えられて作動させられるようになっている。上記エンジン走行とモータ走行との切り換えは、車両の走行状態が前記図4において1点鎖線で区画されて示されたエンジン走行領域およびモータ走行領域のどちらに属するかに基づいて行われる。
車両の走行状態が図4においてエンジン走行領域に属する場合には、エンジン12から出力されたトルクがクランク軸14を介してトルクコンバータ16に入力され、そのトルクコンバータ16にて増幅されて自動変速機18の入力軸20に入力される。そして、上記入力軸20に入力されたトルクが自動変速機18において変速されて出力軸22から出力される。これにより、エンジン12からのトルクが車両の駆動輪に伝達される。また、車両用駆動装置10では、エンジン12から入力軸20に伝達された出力の一部が用いられて第2電動機MG2が駆動させられる場合には、その第2電動機MG2が発電機として機能することで前記バッテリが充電されるようになっている。
また、車両の走行状態が図4においてモータ走行領域に属する場合には、前記バッテリから第2電動機MG2に電力が供給されることでその第2電動機MG2が電動モータとして機能させられ、その第2電動機MG2から出力された車両走行用のトルクが自動変速機18の入力軸20に入力される。そして、上記入力軸20に入力されたトルクが自動変速機18において変速されて出力軸22から出力される。これにより、第2電動機MG2からのトルクが車両の駆動輪に伝達される。また、車両用駆動装置10では、車両の減速走行中に駆動輪からのトルクが用いられて第2電動機MG2が回生させられることにより、その第2電動機MG2が発電機として機能して前記バッテリが充電されるようになっている。
なお、車両用駆動装置10では、たとえば、車両の走行状態がモータ走行領域に属していても前記バッテリのSOC(state of charge:充電状態)が所定値以下である場合にはエンジン走行が行われる、また、車両の急発進時や急加速時などにはエンジン12および第2電動機MG2の両方の出力が用いられて車両が走行させられる等の制御が適宜行われる。
図5は、車両用駆動装置10を含む車両に設けられた各装置を制御するための制御系統を説明するブロック線図である。図5において、電子制御装置40は、車両用駆動装置10の制御装置として機能を有するものであって、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御、自動変速機18の変速制御、および電動機MG1、MG2の出力制御などを実行する。
電子制御装置40には、車両に設けられた図5に示す各センサにより検出された各種入力信号が供給される。上記入力信号には、例えば、MG回転数センサ42により検出される電動機MG1、MG2の回転速度を表す信号、エンジン回転数センサ44により検出されるエンジン回転速度Neを表す信号、車速センサ46により検出される車速Vを表す信号、AT油温センサ47により検出される自動変速機18およびトルクコンバータ16に供給される作動油(AT油)の油温TOILを表す信号、アクセル開度センサ48により検出されるアクセル開度Accを表す信号、車両加速度センサ50により検出される車両加速度Gを表す信号、タービン回転数センサ52により検出されるタービン回転速度Ntを表す信号、およびレゾルバ53により検出される第1電動機MG1の出力軸回転角を表す信号などがある。
そして、電子制御装置40からは、車両に設けられた図5に示す各装置に各種出力信号が供給される。上記出力信号には、たとえば、エンジン12の出力制御のために点火装置54や電子スロットル弁56等に供給される信号、第1電動機MG1の出力制御のためにその第1電動機MG1に供給される信号、第2電動機MG2の出力制御のためにその第2電動機MG2に供給される信号、自動変速機18の変速制御のためにATライン圧コントロールバルブ58、ATソレノイドバルブ60、62、および64等に供給される信号などがある。
図6は、電子制御装置40に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。図6において、変速制御手段66は、変速要求に応じて、自動変速機18の各油圧式摩擦係合装置(クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2)を図2に示す所定の作動表に従ってそれぞれ係合または解放することにより、変速比がそれぞれ異なる前進8段および後進2段の変速段を成立させる。上記変速要求は、図4に示す変速線図に従って判断されて出力される。
回転同期手段68は、変速制御手段66により自動変速機18がダウンシフトされる際に解放側の油圧式摩擦係合装置がある程度解放されて係合側の油圧式摩擦係合装置が係合開始されるとき、すなわち解放側の油圧式摩擦係合装置に供給される作動油の油圧値が所定値以下とされて係合側の油圧式摩擦係合装置に作動油が供給され始めるときに、第2電動機MG2によって自動変速機18の入力軸20の回転速度を上昇させることにより、自動変速機18の入力軸20の回転速度と出力軸22の回転速度とを同期させる。この第2電動機MG2による入力軸20の回転速度の上昇量は、例えばダウンシフト直前の入力軸20の回転速度(タービン回転速度Nt)とダウンシフトの種類とによって把握されるダウンシフト前後の入力軸20の回転速度差に基づいて設定される。
クランク軸位置制御手段70は、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときに自動変速機18が変速制御手段66によるダウンシフト中か否か、すなわちコーストダウン変速中か否かを判定する。なお、車両がコースト走行中であるか否かは、車速Vが零以上の車両走行中であり且つアクセル開度Accが零のアクセルオフ状態であるか、否かに基づいて判定される。
そして、クランク軸位置制御手段70は、車両がコースト走行中であってエンジン停止時であるときに自動変速機18がダウンシフト中であると判定された場合には、引き摺りトルクTd[N・m]が発生しているか否か、すなわち駆動輪からのトルク(逆駆動トルク)がトルクコンバータ16を介してエンジン12のクランク軸14に作用しているか否かを判定する。上記引き摺りトルクTdは、ダウンシフト直前の入力軸20の回転速度(タービン回転速度Nt)、ダウンシフトの種類、トルクコンバータ16の逆駆動時容量係数、およびトルクコンバータ16(自動変速機18)内の作動油の油温TOILなどに基づいて算出される。
そして、クランク軸位置制御手段70は、上記引き摺りトルクTdが発生していると判定された場合には、上記ダウンシフトの開始から終了までの間、そのダウンシフト直前に予め設定された始動位置に位置するクランク軸14の回転角を維持するための回転ロック電流ILOCK[A]を、第1電動機MG1に供給するクランク軸ロック制御を実行する。具体的には、第1電動機MG1のステータが有する複数のコイルと、それらに径方向に対向する、ロータが有する複数の永久磁石との間で、磁気的な引力が生じるように、上記複数のコイルにそれぞれ電流を供給する。これにより、上記ロータが固定されたクランク軸14が、上記ステータが固定されたトランスミッションケース24に対して、前記始動位置において回転不能に固定される。なお、クランク軸位置制御手段70は、図7に示す予め設定された関係から、駆動輪からトルクコンバータ16を介してクランク軸14に作用する引き摺りトルクTdに応じて回転ロック電流ILOCKを設定する。図7に示すマップは、クランク軸14に作用する引き摺りトルクTdと、クランク軸14が回転しないために最低限必要な回転ロック電流ILOCKとの関係として予め実験的に求められて記憶される。
このようにして、クランク軸位置制御手段70は、車両がコースト走行中であってエンジン停止時であるときに自動変速機18がダウンシフトされる際に、エンジン12のクランク軸14が予め設定された始動位置に位置するように第1電動機MG1を制御するクランク軸位置制御を実行する。
なお、上記予め設定された始動位置は、予め実験的に求められる位置であり、例えば、エンジン12が燃料を燃焼室内に直接噴射する所謂噴射系エンジンである場合には、そのエンジン12が有する複数の気筒のいずれか1のピストンの上死点に対応するクランク軸14の回転角から回転方向後方60度又はその付近に位置している。また、例えば、エンジン12が燃料を吸気路内で噴射する所謂吸気系エンジンである場合には、そのエンジン12が有する複数の気筒のいずれか1のピストンの上死点に対応するクランク軸の回転角から回転方向前方60度又はその付近に位置している。
図8は、電子制御装置40の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。このフローチャートは、電子制御装置40による制御作動のうちのクランク軸位置制御および回転同期制御のための制御作動を説明するためのものであり、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときに、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
図8において、先ず、クランク軸位置制御手段70に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)S1においては、自動変速機18がダウンシフト中か否かが判定される。
上記S1の判定が否定される場合には、本ルーチンが終了させられる。そして、上記S1の判定が肯定される場合には、回転同期手段68に対応するS2において、S1で判定されたダウンシフトにおける係合側の油圧式摩擦係合装置が係合開始されるときから、第2電動機MG2によって自動変速機18の入力軸20の回転速度を上昇させることにより、自動変速機18の入力軸20の回転速度と出力軸22の回転速度とを同期させる回転同期制御の実施が開始される。
上記S2に次いで、クランク軸位置制御手段70に対応するS3において、引き摺りトルクTdが発生しているか否か、すなわち駆動輪からのトルクがトルクコンバータ16を介してエンジン12のクランク軸14に作用しているか否かが判定される。上記引き摺りトルクTdは、ダウンシフト直前の入力軸20の回転速度(タービン回転速度Nt)、ダウンシフトの種類、トルクコンバータ16の逆駆動時容量係数、およびトルクコンバータ16(自動変速機18)内の作動油の油温TOILなどに基づいて算出される。
上記S3の判定が否定される場合には、本ルーチンが終了させられる。そして、上記S3の判定が肯定される場合には、クランク軸位置制御手段70に対応するS4において、図7に示す予め設定されたマップから、クランク軸14に入力される引き摺りトルクTdに基づいて、クランク軸14が回転しないために最低限必要な回転ロック電流ILOCKが算出される。
上記S4に次いで、クランク軸位置制御手段70に対応するS5において、ダウンシフトの開始から終了までの間、そのダウンシフト直前に予め設定された始動位置に位置するクランク軸14の回転角を維持するために、上記S4で算出された回転ロック電流ILOCKを第1電動機MG1に供給するクランク軸ロック制御が実行される。具体的には、第1電動機MG1のステータが有する複数のコイルと、それらに径方向に対向する、ロータが有する複数の永久磁石との間で、磁気的な引力が生じるように、上記複数のコイルにそれぞれ電流が供給される。これにより、上記ロータが固定されたクランク軸14が、上記ステータが固定されたトランスミッションケース24に対して、前記始動位置において回転不能に固定される。そして、本ルーチンが終了させられる。
図9は、電子制御装置40の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートであって、自動変速機18のシフトポジションが前進自動変速ポジションであり、車両が第2変速段でコースト走行中であり、且つエンジン停止中であるときにおいて、t1時点で第2変速段から第1変速段へのダウン変速指令が出力された場合のものである。図9において、t1時点直後から、t1時点直前に予め設定された始動位置に位置するクランク軸14の回転角を維持するための回転ロック電流ILOCK(1)が、第1電動機MG1に供給され始める。また、t1時点直後からダウンシフトが開始され、そのダウンシフトにおける解放側の油圧式摩擦係合装置であるブレーキB1の油圧シリンダに供給される作動油の油圧値PB1が低下され始める。
そして、ブレーキB1がある程度解放されたt2時点から、上記ダウンシフトにおける係合側の油圧式摩擦係合装置であるブレーキB2の油圧シリンダに作動油が供給され始めて、そのブレーキB2の油圧シリンダの油圧値PB2が上昇し始める。また、t2時点直後から、第2電動機MG2に連結された入力軸20の回転速度と出力軸22の回転速度とを同期させるために、第2電動機MG2の回転速度すなわちMG2回転速度NMG2[rpm]が上昇され始める。
そして、ブレーキB1が解放されてブレーキB2が完全に係合されるt3時点から、第1電動機MG1に供給される回転ロック電流ILOCK(1)が零に向けて低下させられる。また、t3時点において、自動変速機18の入出力回転同期のためのMG2回転速度NMG2の上昇が停止される。
本実施例の車両用駆動装置10の制御装置としての電子制御装置40によれば、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときにおいて自動変速機18がダウンシフトされる際に、エンジン12のクランク軸14が予め設定された始動位置に位置するように第1電動機MG1を制御するクランク軸位置制御手段70を含む。このクランク軸位置制御手段70は、上記ダウンシフトの開始から終了までの間、そのダウンシフト直前に前記始動位置に位置するクランク軸14の回転角を維持するための回転ロック電流ILOCKを、第1電動機MG1に供給するものである。そのため、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときにおいて、ダウンシフトが行われて自動変速機18の入力軸20の回転速度が上昇する影響によりクランク軸14が回転させられようとする場合であっても、第1電動機MG1によりクランク軸14が前記始動位置において回転不能に固定されるので、上記ダウンシフト後のエンジン始動時にショックが発生するのを抑制することができる。
また、本実施例の電子制御装置40によれば、クランク軸位置制御手段70は、前記回転ロック電流ILOCKを、駆動輪からトルクコンバータ16を介してクランク軸14に作用する引き摺りトルクTdによってはクランク軸14が回転しないために最低限必要な値に設定するものであることから、エンジン12のクランク軸14の回転角を前記始動位置に維持するために第1電動機MG1で消費される電力を最小限に抑えることができる。
また、本実施例の電子制御装置40によれば、自動変速機18の入力軸20に連結された第2電動機MG2と、自動変速機18がダウンシフトされる際に、その第2電動機MG2により入力軸20の回転速度を上昇させることにより自動変速機18の入出力回転を同期させる回転同期手段68とを、含むことから、たとえば、上記ダウンシフトの際に自動変速機18の係合側の油圧式摩擦係合装置の摩擦係合によって入出力回転の同期が行われる場合と比較して、ダウンシフトにかかる時間を短縮させることができる。
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、実施例相互に重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図10は、本発明の他の実施例の車両用駆動装置80の構成を説明する骨子図である。図10に示すように、車両用駆動装置80は、実施例1の車両用駆動装置10に設けられた一方向クラッチF1に代えて、ステータ翼車16sとトランスミッションケース24との間に配設されてそれらを連結するブレーキBsを備えている以外は、車両用駆動装置10と同様な構成のものである。
ブレーキBsは、前記ブレーキB1、B2と同様な油圧式摩擦係合装置である。このブレーキBsは、完全係合させられることでステータ翼車16sを非回転部材であるトランスミッションケース24に回転不能に固定する。また、ブレーキBsは、解放させられることでステータ翼車16sをトランスミッションケース24に対して自由回転状態にする。トルクコンバータ16では、その正駆動状態におけるコンバータ領域において上記ブレーキBsが完全係合させられてステータ翼車16sが固定されることによりトルク増幅作用が得られ、正駆動状態におけるカップリング領域において上記ブレーキBsが解放させられてステータ翼車16sが自由回転状態とされることにより効率低下が抑制されるようになっている。また、ブレーキBsは、その係合トルクが制御されることでトランスミッションケース24に対するスリップ率Rs[%]が連続的に変化させられる。なお、上記スリップ率Rsは、その値が小さいほどステータ翼車16sの回転を抑制することになる。そして、スリップ率Rsが零であるときには、ステータ翼車16sがトランスミッションケース24に回転不能に固定される。
図11は、トルクコンバータ16の逆駆動状態における、ブレーキBsのスリップ率Rsとトルクコンバータ16の容量係数(逆駆動時容量係数)C[N・m/rpm2]との関係を示す図である。図11に示すように、ブレーキBsのスリップ率Rsが小さいほどトルクコンバータ16の逆駆動時容量係数Cが小さくなる。これは、ステータ翼車16sの回転が抑制されることによって、トルクコンバータ16内の作動油の流れが阻害されることによる。
図12は、トルクコンバータ16の逆駆動状態における、速度比Ne/Ntとトルク比(逆駆動時トルク比)Tとの関係を示す図である。図13は、トルクコンバータ16の逆駆動状態における、速度比Ne/Ntと逆駆動容量係数Cとの関係を示す図である。上記速度比Ne/Ntは、エンジン回転速度Neとタービン回転速度(タービン翼車16tの回転速度)Ntとの比である。また、上記トルク比tは、タービン翼車16tのトルクTtとポンプ翼車16pのトルクTpとの比である。図12および図13において、破線で示すのはブレーキBsが解放させられたときの値であり、また、実線で示すのはブレーキBsが完全係合されたときの値である。これらの図に示すように、ブレーキBsの係合トルクが制御されてスリップ率Rsが小さくされるほど逆駆動時トルク比tが1.0に近づき、また、逆駆動時容量係数Cが低下する。そして、ブレーキBsが完全係合されることで逆駆動時トルク比tが1となり、また、逆駆動時容量係数Cが速度比Ne/Ntに応じた最小値となる。
このように、逆駆動時容量係数Cが低下させられた状態においては、その逆駆動時容量係数Cが比較的に大きい場合と比べて、タービン翼車16tとポンプ翼車16pとが相対回転し易い状態すなわち滑り易い状態とされて、車両の駆動輪からのトルク(逆駆動トルク)がエンジン12に伝達され難くなる。そのため、例えば、車両のコースト走行時において、駆動輪からのトルクがトルクコンバータ16を介してエンジン12に加わっても、その加えられたトルクよりもエンジン12のフリクショントルクの方が勝り、エンジン12が回転しないため、エンジン12の引き摺りトルクTdが低減され、その分第1電動機MG1の回生量を増やすことができる。また、逆駆動時容量係数Cが低下させられた状態においては、エンジン12において発生したショック、例えばエンジン停止時のショックが駆動輪へ伝達され難くなる。
図14は、車両用駆動装置80の制御装置として機能する電子制御装置82に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。図14において、低容量化制御手段84は、車両走行中においてエンジン12が停止させられている間、ブレーキBsを完全に係合させてステータ翼車16sを回転不能に固定することにより、トルクコンバータ16の逆駆動時容量係数Cを、ステータ翼車16sが非回転部材としてのトランスミッションケース24に対して自由回転状態であるときの値よりも低下させる。
図8および図15は、電子制御装置82の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。これらフローチャートは、電子制御装置40による制御作動のうちのクランク軸位置制御、回転同期制御、および低容量化制御のための制御作動を説明するためのものであり、同時並行して実行され得る。なお、図8のフローチャートは実施例1と同様であるので、その説明を省略する。図15のフローチャートは、車両走行中であるときに、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
図15において、先ず、低容量化制御手段84に対応するステップS11においては、エンジン12が停止されているか否かが判定される。
上記S11の判定が否定される場合には、本ルーチンが終了させられる。そして、上記S11の判定が肯定される場合には、低容量化制御手段84に対応するS12において、ブレーキBsを完全に係合させてステータ翼車16sを回転不能に固定することにより、トルクコンバータ16の逆駆動時容量係数Cを、ステータ翼車16sが非回転部材としてのトランスミッションケース24に対して自由回転状態であるときの値よりも低下させる低容量化制御が実施されて、本ルーチンが終了させられる。
図16は、電子制御装置82の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートであって、自動変速機18のシフトポジションが前進自動変速ポジションであり、車両が第2変速段でコースト走行中であり、且つエンジン停止中であるときにおいて、t11時点で第2変速段から第1変速段へのダウン変速指令が出力された場合のものである。図16において、t11時点直後から、t11時点直前に予め設定された始動位置に位置するクランク軸14の回転角を維持するための回転ロック電流ILOCK(2)が、第1電動機MG1に供給され始める。ここで、本実施例では、低容量化制御が実施されてブレーキBsへの作動油の油圧値PBSが所定値とされてトルクコンバータ16の逆駆動時容量係数Cが低下させられていることから、上記低容量化制御が実施されない実施例1の場合と比較して、駆動輪からトルクコンバータ16を介してクランク軸14に作用する引き摺りトルクTdが小さくなる。そのため、前記始動位置に位置するクランク軸14の回転角を維持するための回転ロック電流ILOCK(2)が、実施例1での回転ロック電流ILOCK(1)と比較して小さくなる。また、t11時点直後からダウンシフトが開始され、そのダウンシフトにおける解放側の油圧式摩擦係合装置であるブレーキB1の油圧シリンダに供給される作動油の油圧値PB1が低下され始める。
そして、ブレーキB1がある程度解放されたt12時点から、上記ダウンシフトにおける係合側の油圧式摩擦係合装置であるブレーキB2の油圧シリンダに作動油が供給され始めて、そのブレーキB2の油圧シリンダの油圧値PB2が上昇し始める。また、t12時点直後から、第2電動機MG2に連結された入力軸20の回転速度と出力軸22の回転速度とを同期させるために、MG2回転速度NMG2[rpm]が上昇され始める。
そして、ブレーキB1が解放されてブレーキB2が完全に係合されるt13時点から、第1電動機MG1に供給される回転ロック電流ILOCK(2)が零に向けて低下させられる。また、t13時点において、自動変速機18の入出力回転同期のためのMG2回転速度NMG2の上昇が停止される。
本実施例の車両用駆動装置80の制御装置としての電子制御装置82によれば、実施例1の電子制御装置40と同様に、クランク軸位置制御手段70を備える。そのため、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときにおいて、ダウンシフトが行われて自動変速機18の入力軸20の回転速度が上昇する影響によりクランク軸14が回転させられようとする場合であっても、第1電動機MG1によりクランク軸14が前記始動位置において回転不能に固定されるので、実施例1と同様に、上記ダウンシフト後のエンジン始動時にショックが発生するのを抑制することができる。
また、本実施例の電子制御装置82によれば、トルクコンバータ16のステータ翼車16sと非回転部材としてのトランスミッションケース24の間に設けられたブレーキBsと、エンジン停止中にそのブレーキBsを完全に係合させてテータ翼車16sを回転不能に固定することによりトルクコンバータ16の逆駆動時容量係数Cを低下させる低容量化制御手段84とを含むことから、上記低容量化制御を実施しない場合と比較して駆動輪からトルクコンバータ16を介してクランク軸14に作用する引き摺りトルクTdが小さくなるので、前記始動位置に位置するクランク軸14の回転角を維持するために第1電動機MG1に供給される回転ロック電流ILOCKが比較的に小さくなり、その第1電動機MG1で消費される電力が少なくなる。
図17は、本発明の他の実施例の車両用駆動装置90の制御装置として機能する電子制御装置92に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。なお、車両用駆動装置90は、実施例1の車両用駆動装置10と同じ構成のものである。図17において、クランク軸位置制御手段94は、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときに自動変速機18が変速制御手段66によるダウンシフト中か否か、すなわちコーストダウン変速中か否かを判定する。
そして、クランク軸位置制御手段94は、車両がコースト走行中であってエンジン停止時であるときに自動変速機18がダウンシフト中であると判定された場合には、引き摺りトルクTd[N・m]が発生しているか否か、すなわち駆動輪からのトルク(逆駆動トルク)がトルクコンバータ16を介してエンジン12のクランク軸14に作用しているか否かを判定する。上記引き摺りトルクTdは、ダウンシフト直前の入力軸20の回転速度(タービン回転速度Nt)、ダウンシフトの種類、トルクコンバータ16の逆駆動時容量係数、およびトルクコンバータ16(自動変速機18)内の作動油の油温TOILなどに基づいて算出される。
そして、クランク軸位置制御手段94は、上記引き摺りトルクTdが発生していると判定され、且つ上記ダウンシフトが終了したと判定される場合には、レゾルバ53により検出される第1電動機MG1の出力軸回転角に基づいて、エンジン12のクランク軸14の前記始動位置からのずれ量Sを算出する。ここで、クランク軸14は、引き摺りトルクTdの影響で前記正回転方向に回転させられても、ダウンシフト後期に負回転方向に戻される傾向がある。クランク軸位置制御手段94は、上記ダウンシフトにおいて係合側の油圧式摩擦係合装置が係合完了した時点から、上記ダウンシフト後期にクランク軸14が負回転方向に戻されて回転停止するまでにかかる所定時間ta(図19参照)が経過したときに、上記ダウンシフトが終了したと判定する。上記所定時間taは予め実験的に求められて算出される値である。
そして、クランク軸位置制御手段94は、上記ダウンシフト後において、第1電動機MG1を制御してクランク軸14の前記始動位置からのずれ量Sを略零としてずれを戻すクランク軸位置復帰制御を実行する。本実施例のクランク軸位置制御手段94は、ダウンシフト時において引き摺りトルクTdの影響で前記正回転方向に回転させられたクランク軸14の回転停止位置を前記負回転方向へ回転させて前記始動位置へ復帰させるために、第1電動機MG1を制御して負回転方向のトルク(MG1トルクTMG1)を出力させる。
このようにして、クランク軸位置制御手段94は、車両がコースト走行中であってエンジン停止時であるときに自動変速機18がダウンシフトされる際に、エンジン12のクランク軸14が予め設定された始動位置に位置するように第1電動機MG1を制御するクランク軸位置制御を実行する。なお、クランク軸位置制御手段94は、上記ダウンシフトの要求と同時にエンジン12の始動要求があった場合には、そのダウンシフト後にクランク軸位置制御を実行しない。
図18は、電子制御装置92の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。このフローチャートは、電子制御装置92による制御作動のうちのクランク軸位置制御および回転同期制御のための制御作動を説明するためのものであり、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときに、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
図18において、先ず、クランク軸位置制御手段94に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)S21においては、自動変速機18がダウンシフト中か否かが判定される。
上記S21の判定が否定される場合には、本ルーチンが終了させられる。そして、上記S21の判定が肯定される場合には、回転同期手段68に対応するS22において、S21で判定されたダウンシフトにおける係合側の油圧式摩擦係合装置が係合開始されるときから、第2電動機MG2によって自動変速機18の入力軸20の回転速度を上昇させることにより、自動変速機18の入力軸20の回転速度と出力軸22の回転速度とを同期させる回転同期制御の実施が開始される。
上記S22に次いで、クランク軸位置制御手段94に対応するS23において、引き摺りトルクTdが発生しているか否か、すなわち駆動輪からのトルクがトルクコンバータ16を介してエンジン12のクランク軸14に作用しているか否かが判定される。上記引き摺りトルクTdは、ダウンシフト直前の入力軸20の回転速度(タービン回転速度Nt)、ダウンシフトの種類、トルクコンバータ16の逆駆動時容量係数、およびトルクコンバータ16(自動変速機18)内の作動油の油温TOILなどに基づいて算出される。
上記S23の判定が否定される場合には、本ルーチンが終了させられる。そして、上記S23の判定が肯定される場合には、クランク軸位置制御手段94に対応するS24において、S21で判定されたダウンシフトの要求と同時にエンジン12の始動要求があったか否かが判定される。
上記S24の判定が肯定される場合には、S25において、エンジン始動制御が実施されて、本ルーチンが終了させられる。また、上記S24の判定が否定される場合には、クランク軸位置制御手段94に対応するS26において、S21で判定されたダウンシフトが終了したか否かが判定される。具体的には、上記ダウンシフトにおいて係合側の油圧式摩擦係合装置が係合完了した時点から予め設定された所定時間taが経過したときに、上記ダウンシフトが終了したことが判定される。
上記S26の判定が否定される場合には、S26以下が繰り返し実施される。そして、上記S26の判定が肯定される場合には、クランク軸位置制御手段94に対応するS27において、レゾルバ53により検出される第1電動機MG1の出力軸回転角に基づいて、エンジン12のクランク軸14の前記始動位置からのずれ量Sが算出される。
上記S27に次いで、クランク軸位置制御手段94に対応するS28において、第1電動機MG1が制御されてクランク軸14の前記始動位置からのずれ量Sを零とするクランク軸位置復帰制御が実行される。具体的には、ダウンシフト時において引き摺りトルクTdの影響で前記正回転方向に回転させられたクランク軸14の回転停止位置を前記始動位置へ復帰させるために、第1電動機MG1が制御されて前記負回転方向のMG1トルクTMG1が出力させられる。そして、本ルーチンが終了させられる。
図19は、電子制御装置92の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートであって、自動変速機18のシフトポジションが前進自動変速ポジションであり、車両が第2変速段でコースト走行中であり、且つエンジン停止中であるときにおいて、t21時点で第2変速段から第1変速段へのダウン変速指令が出力された場合のものである。図19において、t21時点直後からダウンシフトが開始され、そのダウンシフトにおける解放側の油圧式摩擦係合装置であるブレーキB1の油圧シリンダに供給される作動油の油圧値PB1が低下され始める。
そして、ブレーキB1がある程度解放されたt22時点から、上記ダウンシフトにおける係合側の油圧式摩擦係合装置であるブレーキB2の油圧シリンダに作動油が供給され始めて、そのブレーキB2の油圧シリンダの油圧値PB2が上昇し始める。また、t22時点直後から、第2電動機MG2に連結された入力軸20の回転速度と出力軸22の回転速度とを同期させるために、第2電動機MG2の回転速度すなわちMG2回転速度NMG2[rpm]が上昇され始める。また、t22時点直後から、第1電動機MG1の出力部材およびクランク軸14が、引き摺りトルクTdの影響により前記正回転方向に回転させられ始める。なお、上記前記正回転方向に回転させられたクランク軸14の回転角は、ブレーキB1が解放されてブレーキB2が完全に係合されるt23時点から前記始動位置側へ戻される。
そして、ブレーキB2が完全に係合されるt23時点から予め設定された所定時間taが経過したt24時点直後において、クランク軸14の回転停止位置を前記始動位置へ復帰させるために、第1電動機MG1が制御されて前記負回転方向のトルクすなわちMG1トルクTMG1(1)が出力開始される。このMG1トルクTMG1(1)の出力は、クランク軸14の前記始動位置からのずれ量S(1)が零とされるt25時点において停止される。
本実施例の車両用駆動装置90の制御装置としての電子制御装置92によれば、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときにおいて自動変速機18がダウンシフトされる際に、エンジン12のクランク軸14が予め設定された始動位置に位置するように第1電動機MG1を制御するクランク軸位置制御手段94を含む。このクランク軸位置制御手段94は、上記ダウンシフト時において引き摺りトルクTdの影響で前記正回転方向に回転させられたクランク軸14の回転停止位置を前記始動位置へ復帰させるために、第1電動機MG1を制御してクランク軸14の前記始動位置からのずれ量Sを略零としてずれを戻すものである。そのため、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときにおいて、ダウンシフトが行われて自動変速機18の入力軸20の回転速度が上昇する影響によりクランク軸14が回転させられる場合であっても、第1電動機MG1によりクランク軸14が前記始動位置に復帰させられるので、実施例1と同様に、上記ダウンシフト後のエンジン始動時にショックが発生するのを抑制することができる。なお、クランク軸位置制御においては、前記始動位置からのずれを完全に戻さなくても、ずれ量Sが零付近であれば効果がある。
また、本実施例の電子制御装置92によれば、クランク軸位置制御手段94は、自動変速機18のダウンシフト要求と同時にエンジン12の始動要求があった場合には、そのダウンシフト後にクランク軸14の前記始動位置からのずれ量Sを零とするクランク軸位置制御を実行しないことから、エンジン始動前に上記クランク軸位置制御が終了するまでのタイムラグが生じることでエンジン始動の応答性が低下するということを防止することができる。
図20は、本発明の他の実施例の車両用駆動装置100の制御装置として機能する電子制御装置102に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。なお、車両用駆動装置100は、実施例2の車両用駆動装置80と同じ構成のものである。図20に示すように、電子制御装置102は、実施例2の電子制御装置82が備える変速制御手段66、回転同期手段68、および低容量化制御手段84に加えて、実施例3の電子制御装置92が備えるクランク軸位置制御手段94を備えて構成されている。
図15および図18は、電子制御装置102の信号処理によって実行される制御作動の要部を説明するフローチャートである。これらのフローチャートは、電子制御装置102による制御作動のうちのクランク軸位置制御、回転同期制御、および低容量化制御のための制御作動を説明するためのものであり、同時並行して実行され得る。
図21は、電子制御装置102の制御作動の一例を説明するためのタイムチャートであって、自動変速機18のシフトポジションが前進自動変速ポジションであり、車両が第2変速段でコースト走行中であり、且つエンジン停止中であるときにおいて、t31時点で第2変速段から第1変速段へのダウン変速指令が出力された場合のものである。図21において、t31時点直後からダウンシフトが開始され、そのダウンシフトにおける解放側の油圧式摩擦係合装置であるブレーキB1の油圧シリンダに供給される作動油の油圧値PB1が低下され始める。
そして、ブレーキB1がある程度解放されたt32時点から、上記ダウンシフトにおける係合側の油圧式摩擦係合装置であるブレーキB2の油圧シリンダに作動油が供給され始めて、そのブレーキB2の油圧シリンダの油圧値PB2が上昇し始める。また、t32時点直後から、第2電動機MG2に連結された入力軸20の回転速度と出力軸22の回転速度とを同期させるために、第2電動機MG2の回転速度すなわちMG2回転速度NMG2[rpm]が上昇され始める。また、t32時点直後から、第1電動機MG1の出力部材およびクランク軸14が、引き摺りトルクTdの影響により前記正回転方向に回転させられ始める。なお、上記前記正回転方向に回転させられたクランク軸14の回転角は、ブレーキB1が解放されてブレーキB2が完全に係合されるt33時点から前記始動位置側へ戻される。ここで、本実施例では、低容量化制御が実施されてブレーキBsへの作動油の油圧値PBSが所定値とされてトルクコンバータ16の逆駆動時容量係数Cが低下させられていることから、上記低容量化制御が実施されない実施例3の場合と比較して、駆動輪からトルクコンバータ16を介してクランク軸14に作用する引き摺りトルクTdが小さくなる。そのため、クランク軸復帰制御(クランク軸位置制御)が開始されるt34時点におけるクランク軸14の前記始動位置からのずれ量S(2)が、実施例3でのずれ量S(1)と比較して小さくなる。
そして、ブレーキB2が完全に係合されるt33時点から予め設定された所定時間taが経過したt34時点において、クランク軸14の回転停止位置を前記始動位置へ復帰させるために、第1電動機MG1が制御されて前記負回転方向のトルクすなわちMG1トルクTMG1(2)が出力開始される。このMG1トルクTMG1(2)は、低容量化制御が実施されない実施例3でのMG1トルクTMG1(1)と比較して小さくなる。また、このMG1トルクTMG1(2)の出力は、クランク軸14の前記始動位置からのずれ量S(2)が零とされるt35時点において停止される。
本実施例の車両用駆動装置100の制御装置としての電子制御装置102によれば、実施例3の電子制御装置82と同様に、クランク軸位置制御手段94を備える。そのため、車両がコースト走行中であってエンジン停止中であるときにおいて、ダウンシフトが行われて自動変速機18の入力軸20の回転速度が上昇する影響によりクランク軸14が回転させられる場合であっても、第1電動機MG1によりクランク軸14が前記始動位置に復帰させられるので、実施例3と同様に、上記ダウンシフト後のエンジン始動時にショックが発生するのを抑制することができる。なお、クランク軸位置制御においては、前記始動位置からのずれを完全に戻さなくても、ずれ量Sが零付近であれば効果がある。
また、本実施例の電子制御装置102によれば、トルクコンバータ16の逆駆動時容量係数Cを低下させる低容量化制御手段84を含むことから、上記低容量化制御を実施しない場合と比較して駆動輪からトルクコンバータ16を介してクランク軸14に作用する引き摺りトルクTdが小さくなるので、クランク軸14の前記始動位置からのずれ量Sを零とするために第1電動機MG1から出力されるトルク(MG1トルクTMG1)が小さくなり、その第1電動機MG1で消費される電力が少なくなる。
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
例えば、前述の実施例1乃至4では、クランク軸14を固定するために或いは回転させるために、第1電動機MG1が用いられていたが、それに代えて、クランク軸14の前端に連結されたスタータモータが用いられてもよい。
また、回転同期手段68は、必ずしも備えられなくてもよい。
また、前述の実施例3および4において、クランク軸位置制御手段94は、引き摺りトルクTdの影響で正回転方向に回転させられたクランク軸14を負回転方向へ回転させて予め設定された始動位置へ復帰させるために、第1電動機MG1を制御して負回転方向のMG1トルクTMG1を出力させるものであったが、これに限らず、たとえば、クランク軸14の回転停止位置を正回転方向へ回転させて始動位置へ復帰させるために、第1電動機MG1を制御して正回転方向のMG1トルクTMG1を出力させるものであってもよい。
また、実施例1乃至4では、車両走行中のエンジン停止時に自動変速機18がダウンシフトされる場合のクランク軸位置制御が記載されていたが、自動変速機18がアップシフトされる場合であってもクランク軸位置制御を同様に適用できる。この場合には、ダウンシフトの場合と同様の効果が得られる。
また、低容量化制御手段84は、前述の実施例のものに限定されず、例えば、エンジン回転速度Neに応じてブレーキBsの係合トルクを制御することで、トルクコンバータ16の逆駆動時容量係数Cを連続的に変化させるように構成してもよい。
また、前述の実施例1および3において、車両用駆動装置10(90)にはトルクコンバータ16が備えられていたが、これに限らず、フルードカップリングが備えられていてもよい。
また、第2電動機MG2は、必ずしも備えられなくてもよい。
また、ブレーキBsは、油圧式摩擦係合装置から構成されていたが、例えば、電磁クラッチ等から構成されてもよい。
また、車両用駆動装置10(80,90,100)には、自動変速制御が実施される自動変速機18が備えられていたが、これに限らず、手動変速機が備えられてもよい。
また、車両用駆動装置10は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両に用いられるものに限らず、その他の駆動方式の車両に用いられるものであってもよい。
また、車両の走行状態によっては、エンジン12および第1電動機MG1の両方の出力を用いて車両を走行させるように構成されてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
10,80,90,100:車両用駆動装置
12:エンジン
14:クランク軸
16:トルクコンバータ(流体伝動装置)
16p:ポンプ翼車
16s:ステータ翼車
16t:タービン翼車
18:自動変速機(変速機)
20:入力軸(出力部材)
40,82,92,102:電子制御装置(制御装置)
68:回転同期手段
70,94:クランク軸位置制御手段
84:低容量化制御手段
Bs:ブレーキ
ILOCK:回転ロック電流
MG1:第1電動機
MG2:第2電動機
NMG2:MG2回転速度(変速機の入力軸の回転速度)
S,S(1),S(2):ずれ量
Td:引き摺りトルク(駆動輪から流体伝動装置を介してクランク軸に作用するトルク)