JP5412746B2 - 溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車、建材、家電製品などに適する溶接性、伸びフランジ性及び延性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に関する。
近年、自動車分野においては、衝突時に乗員を保護するような機能の確保、及び、燃費向上を目的とした軽量化を両立させるために、高強度鋼板が適用されている。特に、衝突安全性確保に関しては、その安全意識の高まりに加え、法規制の強化から、これまで低強度の鋼板しか用いられてこなかったような複雑形状を有する部品へまで、高強度鋼板を適用しようとするニーズがある。自動車の部材の多くは、スポット溶接、アーク溶接、レーザー溶接等の溶接によって接合されるため、衝突安全性を高める上では、衝突時にこれら接合部で破断しないことが求められる。即ち、衝突時に溶接部で破断すると、鋼板の強度が十分であっても、衝突エネルギーを十分に吸収することが出来ず、所定の衝突エネルギー吸収性能を得ることが出来ない。
そこで、自動車部品は、スポット溶接、アーク溶接、レーザー溶接等の優れた継ぎ手強度を兼備することが求められている。しかしながら、鋼板の高強度化に伴って、C、Si、Mn等の含有量が増加し、それに伴い溶接部強度が低下するという問題点があり、含有する合金元素量を極力増やさずに高強度化させることが望まれていた。
例えば、スポット溶接部強度を評価する指標としては、溶接部にせん断応力を付与するせん断引張強度(TSS)と、剥離方向に応力を付与する十字引張強度(CTS)がある。TSSは、鋼板強度と共に増加するものの、CTSは、鋼板強度が増加しても増加しないことが知られている。その結果、TSSとCTSの比である延性比は、Ceqの増加と共に低下する。即ち、C含有量の高い高強度鋼板のスポット溶接性には課題があることが知られている(非特許文献1)。
一方で、材料の成形性は強度が上昇するのに伴って劣化するので、複雑形状を有する部材へ高強度鋼板を適用するにあたっては、成形性と高強度の両方を満足する鋼板を製造する必要がある。一口に、成形性と言っても、自動車部材のような複雑形状を有する部材に適用するに当たっては、例えば、延性、張り出し成形性、穴拡げ性、伸びフランジ性の異なる成形性を同時に具備することが求められる。
延性や張り出し成形性は、加工硬化指数(n値)と相関があることが知られており、n値が高い鋼板が成形性に優れる鋼板として知られている。例えば、延性や張り出し成形性に優れる鋼板として、鋼板組織がフェライト及びマルテンサイトから成るDP(Dual Phase)鋼板や、鋼板組織中に残留オーステナイトを含むTRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼板がある。一方、穴拡げ性に優れる鋼板としては、鋼板組織を析出強化したフェライト単相組織とした鋼板やベイナイト単相組織とした鋼板が知られている(特許文献1〜3、非特許文献2)。
DP鋼板は、延性に富むフェライトを主相とし、硬質組織であるマルテンサイトを鋼板組織中に分散させることで、優れた延性を得ている。また、軟質なフェライトは変形し易く、変形と共に多量の転位が導入され、硬化することから、n値も高い。しかしながら、鋼板組織を軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトより成る組織とすると、両組織の変形能が異なることから、穴拡げ加工のような大加工を伴う成形においては、両組織の界面に微小なマイクロボイドが形成し、穴拡げ性が著しく劣化するという問題を有する。特に、引張最大強度590MPa以上のDP鋼板中に含まれるマルテンサイト体積率は比較的多く、フェライトとマルテンサイト界面も多く存在することから、界面に形成したマイクロボイドは容易に連結し、亀裂形成、破断へと至る。このことから、DP鋼板の穴拡げ性は劣位である(例えば、非特許文献3)。
鋼板組織が、フェライト及び残留オーステナイトより成るTRIP鋼板においても同様に穴拡げ性は低い。これは、自動車部材の成形加工である穴拡げ加工や伸びフランジ加工が、打ち抜き、あるいは、機械切断後、加工を行うことに起因している。TRIP鋼板に含まれる残留オーステナイトは、加工を受けるとマルテンサイトへと変態する。例えば、引張加工や張り出し加工であれば、残留オーステナイトがマルテンサイトへと変態することで、加工部を高強度化し、変形の集中を抑制することで、高い成形性を確保可能である。
しかし、一旦、打ち抜きや切断等を行うと、端面近傍は加工を受けるため、鋼板組織中に含まれる残留オーステナイトがマルテンサイトへと変態してしまう。この結果、DP鋼板と類似の組織となり、穴拡げ性や伸びフランジ成形性は劣位となる。あるいは、打ち抜き加工そのものが大変形を伴う加工であることから、打ち抜き後に、フェライトと硬質組織(ここでは、残留オーステナイトが変態したマルテンサイト)界面に、マイクロボイドが存在し、穴拡げ性を劣化させていることが報告されている。
あるいは、粒界にセメンタイトやパーライト組織が存在する鋼板も、穴拡げ性は劣位である。これはフェライトとセメンタイトの境界が微小ボイド生成の起点となるためである。
その結果、特許文献1〜3に示されるように、穴拡げ性に優れた鋼板の開発は、鋼板の主相をベイナイトもしくは析出強化したフェライトの単相組織とし、かつ、粒界でのセメンタイト相の生成を抑えるため、Ti等の合金炭化物形成元素を多量に添加し、鋼中に含まれるCを合金炭化物とすることで、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板が開発されてきた。
鋼板組織をベイナイト単相組織とする鋼板は、鋼板組織をベイナイト単相組織とするため、冷延鋼板の製造にあたっては、一旦、オーステナイト単相となる高温まで加熱せねばならず、生産性が悪い。また、ベイナイト組織は転位を多く含む組織であることから、加工性に乏しく、延性や張り出し性を必要とする部材へは適用し難いという欠点を有していた。
析出強化したフェライトの単相組織とした鋼板は、Ti、NbあるいはMo等の炭化物による析出強化を利用して鋼板を高強度化すると共に、セメンタイト等の形成を抑制することで、780MPa以上の高強度と、優れた穴拡げ性の両立が可能なものの、冷延及び焼鈍工程を経る冷延鋼板では、その析出強化が活用し難いという欠点を有する。即ち、析出強化は、フェライト中に、NbやTi等の合金炭化物が整合析出することで成し遂げられる。冷延及び焼鈍を伴う冷延鋼板においては、フェライトは加工され、焼鈍時に、再結晶することから、熱延板段階で整合析出していたNbやTi析出物との方位関係が失われるため、その強化能が大幅に減少してしまい強度確保が難しい。また、NbやTiは、再結晶を大幅に遅延することが知られており、優れた延性確保のためには、高温焼鈍が必要となり生産性が悪い。また、熱延鋼板並みの延性が得られたとしても、析出強化鋼は、その延性や張り出し成形は、DP鋼板に比較し劣位であり、大きな張り出し性を必要とする部位への適用はできない。
これら欠点を克服し、延性と穴拡げ性確保を図った鋼板として、特許文献4及び5の鋼板が知られている。これらは、鋼板組織を、一旦、フェライトとマルテンサイトよりなる複合組織とし、その後、マルテンサイトを焼き戻し軟質化することで、組織強化により得られる強度-延性バランスの向上と穴拡げ性の向上を同時に得ようとするものである。しかしながら、マルテンサイトの焼き戻しによる硬質組織の軟化により、穴拡げ性や伸びフランジ性の改善が図れたとしても、780MPa以上の高強度鋼板への適用を考えた場合、スポット溶接性が劣化するという課題を有していた。例えば、マルテンサイトを焼き戻すことで硬質組織の軟化が可能であり、穴拡げ性は向上する。しかしながら、同時に、強度低下も引き起こすことから、強度低下を補うためマルテンサイト体積率を増加させねばならず、そのために多量のC添加を行わねばならない。この結果、スポット等の溶接性が劣化する。また、溶融亜鉛めっき設備のように焼き入れと焼き戻しが同時に行えない設備では、一旦、フェライト及びマルテンサイト組織とした後、別途、熱処理をせねばならず生産性に劣る。
一方、溶接継ぎ手の強度は、鋼板に含まれる合金量、特に、C量に依存することが知られていることから、鋼板へのC添加を抑えながら、鋼板を強化することで、強度と溶接性(ここでは溶接部の継ぎ手強度の確保)の両立が可能なことが知られている。特に、溶接部は一旦溶融され、高い冷却速度にて冷却されることになるため、硬質部は、マルテンサイト主体の組織となるため、極めて硬く、変形能に乏しい。また、鋼板の組織を制御したとしても、一旦溶融させるため、溶接部の組織制御は難しい。この結果、鋼板成分を制御することで、その特性向上が図られてきた(例えば、特許文献6〜8)。
特許文献6では、鋼板へMoを添加することにより、Cが0.1%を超えるような鋼板でも、良好なスポット溶接性が得られることが知られている。しかしながら、上記鋼板は、鋼板中へMoを添加することで、スポット溶接部に生じる空孔形成や割れを抑制し、これら欠陥が発生し易い溶接条件下での溶接継ぎ手の強度向上を図った鋼板であり、上記欠陥が発生しない条件下で溶接した継ぎ手の特性向上はできない。また、780MPa以上の強度確保を考えた場合、Cの多量添加は不可欠であり、スポット溶接性と優れた成形性を同時に具備することは難しいという問題を有していた。また、硬質組織として残留オーステナイトを含むことから、穴拡げや伸びフランジ加工において、主相である軟質なフェライトと硬質組織である残留オーステナイトの間に歪が集中し、マイクロボイドの形成と連結を伴うことから、これら特性が劣位であった。
780MPa以上の引張最大強度とスポット溶接性を具備した鋼板としては、特許文献7や特許文献8に開示の鋼板が知られている。これら鋼板は、NbやTi添加を用いた析出強化、細粒強化、未再結晶フェライトを活用した転位強化を併用することで、鋼板へのC添加量0.1%以下としながらも、780MPa以上の強度と、延性、曲げ性、穴拡げ性確保を同時に具備する鋼板である。しかしながら、更なる複雑形状を有する部材への適用にあたっては、延性と穴拡げ性の更なる向上が必要であった。
このように延性、穴拡げ性、スポット溶接性の両立は、極めて難しい。
日産技報,No57,(2005-9),p4 CAMP-ISIJ,vol.13,(2000),p411 CAMP-ISIJ,vol.13,(2000),p391 特開2003−321733号公報 特開2004−256906号公報 特開平11−279691号公報 特開昭63−293121号公報 特開昭57−137453号公報 特開2001−152287号公報 特開2005−105367号公報 特開2007−231369号公報
本発明は、自動車部材として必要不可欠なスポット溶接性をはじめとする溶接性、延性及び穴拡げ性を具備する鋼板を、安価に、製造する方法を提供することにある。
本発明者等は、鋭意検討を進めた結果、溶接性、延性及び穴拡げ性を具備するためには、硬質組織として、C含有量を0.25%以下とするマルテンサイトやベイナイト組織を出せば良いことを見出した。即ち、C含有量の低いマルテンサイトを活用することで、鋼板へのC添加を抑えながらも、高強度化が可能である。一方、マルテンサイト硬さは、内部に含まれるV量に依存することが知られていることから、C含有量の低いマルテンサイトはあまり硬くなく、穴拡げ性や伸びフランジ性を劣化させない。即ち、焼き戻し処理を行わないにも係らず、主相であるフェライトとの硬度差の低減が可能であり、延性と穴拡げ性の両立が可能である。
即ち、スポット溶接性、延性及び穴拡げ性を具備する鋼板であり、その要旨は以下の通りである。
(1) 質量%で、C:0.03%〜0.10%、Si:0.3〜0.80%未満、Mn:1.7〜2.6%、B:0.0003〜0.01%未満、Ti:0.001〜0.14%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:0.10%未満、N :0.0005〜0.010%、O:0.0005〜0.007%、を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼であり、鋼板組織が体積率40%以上のフェライトと、C含有量がそれぞれ0.224%以下のベイナイト及びマルテンサイト組織からなり、引張最大強度780MPa以上を有し、スポット溶接性の特性評価指標であるせん断引張強度(TSS)と十字引張強度(CTS)の比である延性比が0.5以上となる溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板。
(2) さらに、質量%で、Cr:0.01〜2.0%、Ni:0.01〜2.0%、Cu:0.01〜1.0%の1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板。
(3) さらに、質量%で、Ca、Ceの1種または2種を合計で0.0001〜0.5%含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板。
(4) (1)〜(3)のいずれか1項に記載の高強度鋼板の表面に亜鉛系めっきを有することを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板。
(5) (1)〜(3)に記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜620℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度を(Ac1+Ac3)/2℃以上Ac3℃以下で焼鈍した後、760〜680℃間で21〜30秒の保持を行い、680℃〜550℃間を平均冷却速度1℃/秒以上で冷却することを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板の製造方法。
(6) (1)〜(3)に記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜620℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度を(Ac1+Ac3)/2℃以上Ac3℃以下で焼鈍した後、760〜680℃間で21〜30秒の保持を行い、680℃〜550℃間を平均冷却速度1℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度−40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬し、室温まで冷却することを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(7) (1)〜(3)に記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜620℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度を(Ac1+Ac3)/2℃以上Ac3℃以下で焼鈍した後、760〜680℃間で21〜30秒の保持を行い、680℃〜550℃間を平均冷却速度1℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度−40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、めっき浴に浸漬し、460〜580℃の温度で合金化処理を施し、室温まで冷却することを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(8) (5)に記載の製造方法で冷延鋼板を製造したのち、亜鉛系の電気めっきを施すことを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度電気亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
本発明によれば、鋼板成分、焼鈍条件を制御することで、引張り最大強度で780MPa以上の優れたスポット溶接性、延性及び穴拡げ性を具備する高強度鋼板を安定して得ることができる。
発明者等は、引張り最大強度780MPa以上の高強度鋼板において、溶接性、延性及び穴拡げ性を両立させることを目的として鋭意検討を行った。この結果、鋼板組織をフェライトと硬質組織よりなる複合組織としながらも、マルテンサイトやベイナイトの硬質組織のC含有量を0.25%以下とすることで、780MPa以上の引張最大強度と優れた伸びフランジ性を確保しながらも、優れたスポット溶接性や延性が確保可能なことを見出した。
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、鋼板の組織の限定理由について述べる。
本発明者等は、様々な成分を有する鋼を種々の製造条件にて試作し、特性調査を行ったところ、主相をフェライトとし、硬質組織をC含有量0.25%以下のベイナイト及びマルテンサイト組織とすることで、スポット溶接をはじめとする溶接性、780MPa以上の強度、並びに、優れた伸びフランジ性が具備できることを見出した。特に、本発明において、硬質組織であるマルテンサイト及びベイナイト組織中に含まれるC含有量を0.25%以下に抑えることが最も重要である。ここで言うマルテンサイト及びベイナイト組織とは、ラス状あるいは、塊状の形態をした組織であり、内部に高密度の転位やセメンタイトを含有する場合がる。加えて、マルテンサイトは、C拡散伴わないような低温にて変態することから、内部にCを過飽和に含むため、特に硬い。
また、本発明で活用しているマルテンサイト内部に含まれるC含有量は、0.25%以下と極めて少ないことから、マルテンサイト変態開始温度は、通常のDP鋼に含まれるマルテンサイトに比較して高い。この結果、冷却過程で、マルテンサイト内部にセメンタイトをはじめとする鉄基炭化物が生じる、あるいは、ラスや塊状のマルテンサイト間に残留オーステナイトが残る場合があるが、いずれの形態をしていたとしても、C含有量を0.25%以下とする限り、本発明の効果は発揮される。
なお、マルテンサイトやベイナイト組織中のC含有量とは、組織内部のC量を意味する。即ち、マルテンサイト内部に炭化物が含まれる場合であれば、炭化物も合わせた組成とする。マルテンサイト硬度は、内部に含まれるC量だけに依存するのではなく、変態により導入された転位の量、析出した炭化物による析出強化、微細なラスによる粒界強化の合計で決まる。内部に含まれる転位の量は、変態温度に依存することが知られており、かつ、変態温度がC量に依存することが知られている。あるいは、冷却過程でマルテンサイト中に生じる炭化物も、高温側ほど形成し易いことから、C含有量が低く、マルテンサイト変態開始温度の高いマルテンサイト中で生じ易い。このことから、マルテンサイトやベイナイト組織中のC量を管理することで、マルテンサイト硬度を制御することができることを見出した。
そこで、本発明では、マルテンサイトあるいはベイナイト組織中のC含有量を制御した。
マルテンサイト及びベイナイト組織中のC含有量を0.25%以下としたのは、主相であるフェライトとの硬度差を低減し、優れた伸びフランジ性を発揮させるためである。同時に、マルテンサイト及びベイナイト組織中へのC濃化を抑制することで、引張最大強度780MPa以上の強度が確保に必要な量の硬質組織体積率を確保することが可能となった。この結果、優れたスポット溶接性を兼備することができる。C含有量が0.25%超となると、硬質組織と軟質組織の硬度差が大きくなりすぎてしまい、優れた伸びフランジ性が発揮されない。また、鋼板へのC添加量を0.1%以下とした場合、780MPa以上の強度が困難となる。そこで、0.25%以下とする必要がある。一方で、硬質組織中のC含有量を0.1%未満とすると、硬質組織が柔らかくなりすぎてしまい、780MPa以上の強度確保を考えた場合、組織の大部分がマルテンサイトやベイナイト組織となるため、穴拡げ性は向上するものの、延性が大幅劣化することから好ましくない。このことから、マルテンサイト中のC量として望ましい範囲は、0.1〜0.25%である。
硬質組織をマルテンサイト及びベイナイト組織としたのは、これら硬質組織中のC濃度が本発明の範囲にあれば、同様の特性が発揮されるためである。即ち、C含有量が0.25%以下とするマルテンサイトやベイナイト組織は、通常のDP鋼に含まれるマルテンサイトに比較し、かなり軟らかく穴拡げ性を劣化させることなく、高強度化が可能なためである。ただし、ベイナイト組織は、マルテンサイト組織に比較し高温で生成するため、内部に含まれるC含有量がマルテンサイトと同じであっても、軟らかい。このことから、硬質組織をベイナイト組織のみとした場合、780MPa以上の強度確保が難しくなる。あるいは、強度確保が可能であったとしても、硬質組織体積率が多すぎてしまい延性に劣る。このことから、硬質組織としては、マルテンサイトを含有することが望ましい。
マルテンサイトやベイナイトの形態としては、ラスあるいは塊状の形態のいずれでも構わない。また、内部、あるいは、その間に炭化物や残留オーステナイトを含有しても構わない。特に、本発明の鋼板中に含まれるマルテンサイトは、変態開始温度が高く、冷却過程でその内部に炭化物が形成する場合が多い。また、冷却後に、直ちに、過時効処理を行うような設備においては、過時効帯にて焼き戻し処理を受けることになることから、内部やその間に、炭化物を含む場合が多い。
鋼板組織として、主相はフェライトとする必要がある。これは、延性に富むフェライトを主相とすることで、延性と穴拡げ性を両立させるためである。このことから、フェライト体積率は、40%以上とする必要がある。一方、体積率を85%超とすると、マルテンサイト中のC量を0.25%以下とすることが難しくなるため、体積率は85%以下とすることが望ましい。
フェライトとしては、転位を多く含む未再結晶のフェライト、焼鈍過程で生じた再結晶フェライト、冷却過程で生じる変態フェライトが存在するが、いずれであっても構わない。特に、本発明鋼は、鋼板のC含有量が少なく、かつ、硬質組織の硬さも低いことから、780MPa以上の強度確保のためには、転位を多く含むフェライト、あるいは、粒径の小さい粒界強化されたフェライトを活用することが望ましい。また、フェライトの硬度上昇は、硬質組織との硬度差低減をもたらすことから、穴拡げ性向上の観点からも望ましい。
また、フェライトの結晶粒径については特に限定しないが、強度伸びバランスの観点から公称粒径で7μm以下であることが望ましい。ただし、本発明の鋼板では、Tiを添加していることから、フェライト、マルテンサイト、ベイナイトの結晶粒径は極めて小さく、公称粒径で4μm以下となる傾向が強い。
また、上記、ベイナイト及びマルテンサイト以外に、残留オーステナイト、パーライトあるいは鉄基炭化物を含有しても良い。これは、硬質組織の大部分を、上記、比較的軟質なマルテンサイト及びベイナイト組織とすることで、これ以外の硬質組織が存在し、フェライト及び硬質組織界面での歪集中、マイクロボイド形成を招いたとしても、その頻度は小さく、穴拡げ性を劣化させないためである。
上記ミクロ組織の各相、フェライト、パーライト、セメンタイト、マルテンサイト、ベイナイト、オーステナイトおよび残部組織の同定、存在位置の観察および面積率の測定は、ナイタール試薬および特開59−219473号公報に開示された試薬により鋼板圧延方向断面または圧延方向直角方向断面を腐食して、1000倍の光学顕微鏡観察及び1000〜100000倍の走査型および透過型電子顕微鏡により定量化が可能である。
本発明では、2000倍の操作型電子顕微鏡観察を用い、各20視野を測定し、ポイントカウント法にて体積率を測定した。
硬質組織中に含まれるC含有量は、EPMAやCMAを用いて定量化可能である。ただし、引張最大強度780MPa以上の高強度鋼板に含まれる硬質組織の粒径は4μm未満と小さいことから、FE-SEMと併設したEPMAを用い分析を行うことが望ましい。なお、本手法においては、硬質組織中に含まれるC含有量は、平均値として求めることから、内部に炭化物や残留オーステナイトを含む場合は、それらに含まれるC含有量も同時に測定されることになる。
次に、引張最大強度TSを780MPa以上としたのは、この強度未満であれば、スポット溶接性を劣化させることなく、即ち、鋼板へのC添加量0.1%以下としながら、強度確保が可能なためである。しかしながら、本発明に係る条件である硬質組織中のC含有量0.25%以下を確保する限り、優れた溶接性、延性、穴拡げ性のバランスが得られる。
また、スポット溶接性の特性評価指標であるせん断引張強度(TSS)と十字引張強度(CTS)との比である延性比は、0.5以上が好ましい。延性比が0.5未満になると、スポット等の溶接性が劣化するので好ましくない。
次に、本発明の成分限定理由について述べる。
(C:0.03%〜0.10%)
Cは、ベイナイトやマルテンサイトを用いた組織強化を行う場合、必須の元素である。Cが0.03%未満では、780MPa以上の強度確保が難しいことから、下限値を0.03%とした。一方、Cの含有量を0.10%以下とする理由は、Cが0.10%を超えると、せん断引張試験と十字引張試験の継ぎ手強度の比で表される延性比の低下が顕著となるためである。このことからC含有量は、0.03〜0.10%のする必要がある。
(Si:0.3〜1.50%)
Siは強化元素であるのに加え、セメンタイトに固溶しない事から、粒界での粗大セメンタイトの形成を抑制する。0.3%未満の添加では、固溶強化による強化が期待できない、あるいは、粒界への粗大セメンタイトの形成が抑制できないことから0.3%以上添加する必要がある。一方で、1.5%を越える添加は、残留オーステナイトを過度に増加せしめ、打ち抜きや切断後の穴拡げ性や伸びフランジ性を劣化させる。このことから上限は1.5%とする必要がある。加えて、Siの酸化物は、溶融亜鉛めっきとの濡れ性が悪いことから、不メッキの原因となる。そこで、溶融亜鉛めっき鋼板の製造にあたっては、炉内の酸素ポテンシャルを制御し、鋼板表面へのSi酸化物形成を抑制するなどが必要となる。
(Mn:1.7〜2.6%)
Mnは、固溶強化元素であるのと同時に、オーステナイト安定化元素であることから、オーステナイトがフェライトへと変態するのを抑制することから極めて重要な元素である。特に、760〜680℃で付加的な熱処理を行うことで、焼鈍中のオーステナイトとフェライト界面へと濃化させ、その後のフェライト変態を抑制可能であることから添加する必要がある。1.7%未満ではフェライト変態の速度が速すぎてしまい十分な量のマルテンサイトやベイナイト組織を確保できず、780MPa以上のTSが確保出来ない。また、これら硬質組織中に多量のCが濃化するため、C含有量を0.25%以下とすることが出来ず、穴拡げ性に劣る。このことから、下限値を1.7%以上とする。一方、Mnを多量に添加すると、P、Sとの共偏析を助長し、加工性の著しい劣化を招くことから、その上限を2.6%とした。
(B:0.0003〜0.01%未満)
Bは、焼鈍後のフェライト変態を抑制することから、特に、重要な元素である。添加量が、0.0003%以上の添加でその効果が顕著になることから、0.0003%以上添加する必要がある。その添加量が0.010%を超えると、その効果が飽和するばかりでなく、熱延時の製造製を低下させることから、その上限を0.010%とした。
(Ti:0.001〜0.14%)
Tiは、強化元素であることに加え、Bと複合で添加することで、Bのフェライト変態遅延効果を引き出すことから、極めて重要な元素である。Tiは、Bに比較し、より強い窒化物形成元素であることから、窒化物を形成し、BNの形成を抑制し、Bのフェライト変態遅延効果を強化することから添加する必要がある。また、析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与することから重要である。添加量が0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
(P:0.001〜0.03%)
Pは鋼板の板厚中央部に偏析する傾向があり、溶接部を脆化させる。0.03%を超えると溶接部の脆化が顕著になるため、その適正範囲を0.03%以下に限定した。Pの下限値は特に定めないが、0.001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。
(S:0.0001〜0.01%)
Sは、溶接性ならびに鋳造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼす。このことから、その上限値を0.01%以下とした。Sの下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。また、SはMnと結びついて粗大なMnSを形成することから、穴拡げ性を低下させる。このことから、穴拡げ性向上のためには、出来るだけ少なくする必要がある。
(Al:0.10%未満)
Alは、フェライト形成を促進し、延性を向上させるので添加しても良い。また、脱酸材としても活用可能である。しかしながら、過剰な添加はAl系の粗大介在物の個数を増大させ、穴拡げ性の劣化や表面傷の原因になる。このことから、Al添加の上限を0.1%とした。下限は、特に限定しないが、0.0005%以下とするのは困難であるのでこれが実質的な下限である。
(N:0.0005〜0.010%)
Nは、粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。これは、Nが0.01%を超えると、この傾向が顕著となることから、N含有量の範囲を0.01%以下とした。加えて、溶接時のブローホール発生の原因になることから少ない方が良い。下限は、特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、N含有量を0.0005%未満とすることは、製造コストの大幅な増加を招くことから、これが実質的な下限である。
(O:0.0005〜0.007%)
Oは、酸化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。特に、酸化物は介在物として存在する場合が多く、打抜き端面、あるいは、切断面に存在すると、端面に切り欠き状の傷や粗大なディンプルを形成することから、穴拡げ時や強加工時に、応力集中を招き、亀裂形成の起点となり大幅な穴拡げ性あるいは曲げ性の劣化をもたらす。これは、Oが0.007%を超えると、この傾向が顕著となることから、O含有量の上限を0.007%以下とした。0.0005%と未満とすることは、過度のコスト高を招き経済的に好ましくないことから、これを下限とした。ただし、Oを0.0005%未満としたとしても、本発明の効果は発揮される。
Mnと同様に、Cr、Ni、Cu、Moも焼鈍中に、オーステナイト及びフェライト界面に濃化することで、引き続いて行われる冷却過程でのフェライト変態を遅延することから、添加しても良い。
(Cr:0.01〜2.0%)
Crは、強化元素であるとともに付加的な熱処理を行うことで、オーステナイトとフェライト界面へと濃化し、引き続いて行われる冷却過程でのフェライト変態を遅延することから、添加しても良い。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。2%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限を2%とした。より好ましい上限は1%以下である。
(Ni:0.01〜2.0%)
Niは、強化元素であるとともに付加的な熱処理を行うことで、オーステナイトとフェライト界面へと濃化し、引き続いて行われる冷却過程でのフェライト変態を遅延することから、添加しても良い。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。2%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限を2%とした。より好ましい上限は1%以下である。
(Cu:0.01〜1.0%)
Cuは、強化元素であるとともに付加的な熱処理を行うことで、オーステナイトとフェライト界面へと濃化し、引き続いて行われる冷却過程でのフェライト変態を遅延することから、添加しても良い。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。逆に、1%超含有すると製造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼすため、上限値を1%とした。
(Mo:0.01〜1.0%)
Moは、強化元素であるとともに付加的な熱処理を行うことで、オーステナイトとフェライト界面へと濃化し、引き続いて行われる冷却過程でのフェライト変態を遅延することから、添加しても良い。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。1%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限を1%とした。
(Nb:0.001〜0.14%)
Nbは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。Nbの添加量がVとの合計で0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。Nbの添加量がVとの合計で0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
(V:0.001〜0.14%)
Vは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。Vの添加量がNbとの合計で0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。Vの添加量がNbとの合計で0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
Ca、Ce、Mg、REMから選ばれる1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%添加できる。Ca、Ce、Mg、REMは脱酸に用いる元素であり、1種または2種以上を合計で0.0001%以上含有することで、脱酸後の酸化物サイズを低下可能であり、穴拡げ性向上に寄与する。しかしながら、含有量が合計で0.5%を超えると、成形加工性の悪化の原因となる。そのため、含有量を合計で0.0001〜0.5%とした。
なお、REMとは、Rare Earth Metalの略であり、ランタノイド系列に属する元素をさす。本発明において、REMやCeはミッシュメタルにて添加されることが多く、LaやCeの他にランタノイド系列の元素を複合で含有する場合がある。不可避不純物として、これらLaやCe以外のランタノイド系列の元素を含んだとしても本発明の効果は発揮される。ただし、金属LaやCeを添加したとしても本発明の効果は発揮される。
次に、本発明鋼板の製造条件の限定理由について説明する。
マルテンサイトやベイナイトは、オーステナイトから変態することから、これら硬質組織内部に含まれるC含有量を0.25%以下に制御するためには、変態前のオーステナイト中のC含有量を0.25%以下に制御する必要がある。一方、フェライトは、Cをあまり含まないことから、フェライトを主相とする複相組織鋼板において、オーステナイト中のC含有量を制御するためには、フェライト体積率を制御する必要がある。特に、オーステナイト中のC含有量を0.25%以下と極めて低く抑える必要があることから、フェライト体積率を大幅に低下させねばならない。
従来、自動車用鋼板の分野では、特に延性が重視されることから、延性に富むフェライト体積率を増加させ、少量の硬質組織にて鋼板を効率よく高強度化してきたことから、硬質組織は極めて硬かった。また、多量のフェライトを出すことで、優れた延性を確保してきた。本発明の鋼板では、あえて延性に富むフェライト体積率を少なくし、硬質組織を軟化させ、伸びフランジ性を向上させるという従来とは逆の思想に基づいて設計されている。一方では、良好な延性を確保するために、体積率50%以上のフェライトを確保しながら、硬質組織であるマルテンサイト、ベイナイトを微細化し、延性と穴拡げ性の両立を図っている。
次に、フェライト体積率の具体的な制御方法について述べる。
フェライト変態は、核生成と成長という2つの機構を経て進行することから、この両方を制御する必要がある。
熱間圧延のようなオーステナイト単相域から冷却する場合、Mnをはじめとするオーステナイト安定化元素を添加すると、フェライトの核生成も成長も抑制可能であることから、フェライト体積率の制御が行い易い。一方、連続焼鈍設備や溶融亜鉛めっき設備での製造を考えた場合、焼鈍温度がフェライト及びオーステナイトよりなる二相域になる場合が多く、既に、フェライトが形成しており、新たな核生成を行わなくとも、フェライト体積率の増加が可能である。この結果、二相域焼鈍を行いながら、フェライト変態を抑制する場合、成長を抑制せねばならず、多量の合金元素の添加や、大幅な冷却速度の増加が必須であった。
加えて、オーステナイトからフェライトへの変態は、オーステナイト中のC含有量が少ないほど速く、冷却過程でのフェライト変態を抑制し難い。また、本鋼板は、C含有量を0.1%以下と低く抑えていることから、オーステナイト単相域温度が高く、焼鈍時の最高到達温度が高くなり易い。この結果、フェライト及びオーステナイトの二相域での焼鈍になることから、更にフェライトが形成し易く、特に、連続溶融亜鉛めっき設備のような冷却速度が遅い設備では、オーステナイト中のC含有量を0.25%以下に抑えることが出来なかった。また、オーステナイト中のC含有量が少ない程、冷却過程でのフェライト変態が起こり難く、冷却速度を高めたとしても、フェライト変態の抑制が出来ず、オーステナイト中のC含有量、即ち、この後の変態によって形成するベイナイトやマルテンサイト組織中のC含有量を0.25%以下とすることが難しい。
本発明者等が鋭意検討を進めた結果、鋼板中にTiやBを添加しつつ、二相域焼鈍後に付加的な熱処理を行うことで、C含有量を0.25%以下とする軟質な硬質組織を形成可能であり、780MPa以上の引張最大強度、延性及び穴拡げ性を確保可能なことを見出した。特に、本発明では、従来は冷却速度を上げることで、フェライト変態の抑制を行うのに対し、760〜680℃で付加的な熱処理を行うこと、即ち、冷却速度を低減することでフェライト変態を遅延するという従来とは全く異なる手法にて、フェライト変態が抑制可能なことを見出した。これは、付加的な熱処理により、オーステナイトとフェライト界面に、Mn、Cr、Mo等の元素を濃化させ、界面のみをあたかも多量の合金を含む鋼とすることで、フェライト変態を抑制しようとするものである。
以下に詳細な製造条件の限定理由に関して述べる。
熱間圧延に供するスラブは、上記の化学成分を含有するものであれば特に限定するものではない。すなわち、連続鋳造スラブや薄スラブキャスターなどで製造したものであればよい。また、鋳造後に直ちに熱間圧延を行う連続鋳造−直接圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。
熱延スラブ加熱温度は、1200℃以上にする必要がある。スラブ加熱温度が過度に低いと、仕上げ圧延温度がAr3点を下回ってしまいフェライト及びオーステナイトの二相域圧延となり、熱延板組織が不均一な混粒組織となり、冷延及び焼鈍工程を経たとしても不均一な組織は解消されず、延性や穴拡げ性に劣る。また、本鋼板は、焼鈍後に780MPa以上の引張最大強度を確保するため、比較的多量の合金元素を添加していることから、仕上げ圧延時の強度も高くなりがちである。スラブ加熱温度の低下は、仕上げ圧延温度の低下を招き、更なる圧延荷重の増加を招き、圧延が困難となったり、圧延後の鋼板の形状不良を招く懸念があることから、スラブ加熱温度は、1200℃以上とする必要がある。スラブ加熱温度の上限は特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、加熱温度を過度に高温にすることは、経済上好ましくないことから、加熱温度の上限は1300℃未満とすることが望ましい。
仕上げ圧延温度は、Ar3変態点以上にする必要がある。仕上げ圧延温度がオーステナイト+フェライトの2相域になると、鋼板内の組織不均一性が大きくなり、焼鈍後の成形性が劣化するので、Ar3変態温度以上が望ましい。
なお、Ar3変態温度は次の式により計算する。但し、下記式におけるC、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Moは、鋼板中の各元素の含有率(質量%)である。
Ar3=901−325×C+33×Si−92×(Mn+Ni/2+Cr/2+Cu/2+Mo/2)
一方、仕上げ圧延温度の上限は特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、仕上げ圧延温度を過度に高温と使用とした場合、その温度を確保するため、スラブ加熱温度を過度に高温にせねばならない。このことから、仕上げ圧延温度の上限温度は、1000℃以下とすることが望ましい。
次に、巻き取り温度は620℃以下にすることが望ましい。620℃を超えると熱延組織中に粗大なフェライトやパーライト組織が存在するため、焼鈍後の組織不均一性が大きくなり、最終製品の延性が劣化する。焼鈍後の組織を微細にして強度延性バランスを向上させる、更には、第二相を均一分散させ穴拡げ性を向上させる観点からは600℃以下で巻き取ることがより好ましい。また、620℃を超える温度で巻き取ることは、鋼板表面に形成する酸化物の厚さを過度に増大させるため、酸洗性が劣るので好ましくない。下限については特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、400℃未満の温度で巻き取ると、熱延強度が過度に増大し、冷間圧延が困難となることから、巻き取り温度の下限値を400℃以上とすることが望ましい。なお、熱延時に粗圧延板同士を接合して連続的に仕上げ圧延を行っても良い。また、粗圧延板を一旦巻き取っても構わない。
このようにして製造した熱延鋼板に、酸洗を行う。酸洗は鋼板表面の酸化物の除去が可能であることから、最終製品の冷延高強度鋼板の化成性や、溶融亜鉛あるいは合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の冷延鋼板の溶融めっき性向上のためには重要である。また、一回の酸洗を行っても良いし、複数回に分けて酸洗を行っても良い。
酸洗した熱延鋼板を圧下率40〜70%で冷間圧延して、連続焼鈍ラインや連続溶融亜鉛めっきラインを通板する。圧下率が40%未満では、形状を平坦に保つことが困難である。また、最終製品の延性が劣悪となるのでこれを下限とする。一方、70%を越える冷延は、冷延荷重が大きくなりすぎてしまい冷延が困難となることから、これを上限とする。圧下率は45〜65%がより好ましい範囲である。圧延パスの回数、各パス毎の圧下率については特に規定することなく本発明の効果は発揮される。
次に、連続焼鈍設備を通板する場合の加熱速度は、特に、規定することなく本発明の効果である溶接性、延性並びに穴拡げ性に優れる780MPa以上の引張最大強度を製造可能である。ただし、過度に加熱速度を落とすことは、生産性が悪いことから、加熱速度は0.1℃/秒未満とすることが望ましい。一方、過度に加熱速度を上げると、経済性が劣化することから好ましくない。
最高加熱温度を(Ac1+Ac3)/2℃以上、Ac3℃以下の範囲としたのは、(Ac1+Ac3)/2未満では、焼鈍時にフェライト体積率が50%を超えるため、後の冷却過程で形成するフェライトを考慮すると、オーステナイト中のC含有量を0.25%以下とすることが出来ないためである。加えて、焼鈍温度が低いと、セメンタイトやパーライトからオーステナイトへの逆変態に過度の時間をし、場合によっては、セメンタイトやパーライトの一部がオーステナイトへと変態できず、焼鈍後も鋼板組織中に残存してしまう。この結果、オーステナイトは、セメンタイトやパーライトから変態することによって生じることから、セメンタイトやパーライト組織が残存すると、オーステナイト体積率、ひいては、硬質組織体積率が低減し、780MPa以上の引張最大強度を確保できないことから好ましくない。このことから、最高加熱温度の下限は(Ac1+Ac3)/2℃とする必要がある。
一方、過度に加熱温度を上げることは、経済上好ましくない。このことから加熱温度の上限をAc3℃とすることが望ましい。なお、Ac1点及びAc3点はそれぞれ、下記式にて決定される。但し、下記式におけるSi、Mn、Ni、Cr、C、P、Al、Cu、Mo、Tiは、鋼板中の各元素の含有率(質量%)である。
Ac1=723+29.1Si−10.7Mn−16.9Ni+16.9Cr
Ac3=910−203×√(C)+44.7×Si−30×Mn+700×P+400×Al−11×Cr−20×Cu−15.2×Ni+31.5×Mo+400×Ti
焼鈍の保持時間が短すぎると、未溶解炭化物が残存する可能性が高く、オーステナイト体積率が少なくなるため、10秒以上とすることが望ましい。一方、保持時間が長すぎると、結晶粒が粗大化する可能性が高くなり強度、延性および穴拡げ性が低下するため、その上限は1000秒とすることが好ましい。
その後、680〜760℃で10秒以上の付加的な熱処理を行う必要がある。これは、その後に引き続いて行われる冷却過程で形成するフェライト変態を抑制するためである。フェライト界面の移動速度は、750℃程度の高温側に比較し、650〜550℃での低温側の移動速度が大きいことが知られている。このことから、フェライト変態を遅延するためには、移動速度の高い温度域での成長抑制が重要となる。保持温度を680〜760℃としたのは、この温度域で保持を行うことで、オーステナイトとフェライト界面のオーステナイト側あるいは界面に、Mn、Cr、Mo、Ni、Cuといった元素を濃化させ、引き続き行われる低温側でのフェライト界面の移動を抑制するためである。保持温度が760℃超では、界面に濃縮可能なこれら元素の濃度が低すぎるため、フェライト変態を抑制出来ないことから望ましくない。一方、680℃未満の温度域では、フェライト界面の移動速度が大きく、保持中に多量のフェライトが形成してしまい、オーステナイト中のC含有量を0.25%以下とすることが出来ない。このことから下限温度は680℃とする必要がある。
保持時間が10秒未満では、粒界へのMn、Cr、Mo、Ni、Cuといった元素が十分に拡散しないことから、引き続き低温域で起こるフェライトを抑制できず、オーステナイト中のC濃度を0.25%以下とすることが出来ない。このことから、10秒以上の保持を行う必要がある。一方で、保持時間が長すぎると、経済性に劣ることから好ましくない。
なお、保持とは等温保持を指すのではなく、この温度域での滞留を意味し、除冷却や除加熱も含む。
680〜550℃での冷却速度は、出来るだけ大きくすることが望ましい。760〜680℃で保持を行うことにより、フェライト変態を遅延したとしても、成長速度を0にすることは出来ない。このことから、冷却速度は1℃/秒以上にする必要がある。冷却速度を大きくしたとしても、材質上なんら問題はないが、過度に冷却速度を上げる事は、製造コスト高を招くこととなるので、上限を200℃/秒とすることが好ましい。冷却方法については、ロール冷却、空冷、水冷およびこれらを併用したいずれの方法でも構わない。
引き続き450℃〜250℃の温度域で保持を行っても良い。本発明の鋼板は、ベイナイト及びマルテンサイト組織中のC含有量が0.25%以下と極めて少ないことから、ベイナイト変態開始温度やマルテンサイト変態開始温度がかなり高く、冷却過程で生じたマルテンサイトやベイナイトであっても、冷却過程で焼き戻しを受ける場合が多い。このことから、付加的な熱処理の有無に係らず、マルテンサイト中には、鉄基炭化物が存在する場合が多い。このことから、付加的な等温保持を行ったとしても、引張特性や穴拡げ性は、あまり変化しない。
熱処理後には、表面粗度の制御、板形状制御、あるいは、降伏点伸びの抑制のためには、スキンパス圧延を行うことが望ましい。その際のスキンパス圧延の圧下率は、0.1〜1.5%の範囲が好ましい。スキンパス圧延率は、0.1%未満では効果が小さく、制御も困難であることから、これが下限となる。1.5%超えると生産性が著しく低下するのでこれを上限とする。スキンパスは、インラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一度に目的の圧下率のスキンパスを行っても良いし、数回に分けて行っても構わない。
冷延後に溶融亜鉛めっき設備を通板する場合の加熱速度も、連続焼鈍設備を通板する場合と同様に、0.1℃/秒以上とすることが望ましい。焼鈍温度も連続焼鈍設備を通板する場合と同様に、(Ac1+Ac3)/2℃〜Ac3℃の範囲で、10秒以上行う必要がある。
その後、連続焼鈍設備と同様の理由から、680〜760℃で10秒以上の保持を行う必要がある。
保持後の冷却に関しても、連続焼鈍設備を通板する場合と同様の理由により、680〜550℃間を1℃/秒以上で冷却する必要がある。
めっき浴浸漬板温度は、溶融亜鉛めっき浴温度より40℃低い温度から溶融亜鉛めっき浴温度より50℃高い温度までの温度範囲とすることが望ましい。浴浸漬板温度が溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回ると、めっき浴浸漬進入時の抜熱が大きく、溶融亜鉛の一部が凝固してしまいめっき外観を劣化させる場合があることから、下限を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃とする。ただし、浸漬前の板温度が(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回っても、めっき浴浸漬前に再加熱を行い、板温度を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃以上としてめっき浴に浸漬させても良い。また、めっき浴浸漬温度が(溶融亜鉛めっき浴温度+50)℃を超えると、めっき浴温度上昇に伴う操業上の問題を誘発する。また、めっき浴は、純亜鉛に加え、Fe、Al、Mg、Mn、Si、Crなどを含有しても構わない。
また、めっき層の合金化を行う場合には、460℃以上で行う。合金化処理温度が460℃未満であると合金化の進行が遅く、生産性が悪い。上限は特に限定しないが、580℃を超えると、炭化物が形成し硬質組織(マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト)体積率を減少させ、780MPa以上の強度確保が難しくなるので、これが実質的な上限である。
めっき浴浸漬前で、(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度域で付加的な熱処理を行っても良い。めっき浴前で付加的な熱処理を行うことで、板幅方向の温度分布の均一化が為され、幅方向のめっき層厚みやめっき層の合金化(Fe%)を均一化することから、行っても良い。
熱処理後には、表面粗度の制御、板形状制御、あるいは、降伏点伸びの抑制のためには、スキンパス圧延を行うことが望ましい。その際のスキンパス圧延の圧下率は、0.1〜1.5%の範囲が好ましい。スキンパス圧延率は、0.1%未満では効果が小さく、制御も困難であることから、これが下限となる。1.5%超えると生産性が著しく低下するのでこれを上限とする。スキンパスは、インラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一度に目的の圧下率のスキンパスを行っても良いし、数回に分けて行っても構わない。
また、めっき密着性をさらに向上させるために、焼鈍前に鋼板に、Ni、Cu、Co、Feの単独あるいは複数より成るめっきを施しても本発明を逸脱するものではない。
さらには、めっき前の焼鈍については、「脱脂酸洗後、非酸化雰囲気にて加熱し、H及びNを含む還元雰囲気にて焼鈍後、めっき浴温度近傍まで冷却し、めっき浴に侵漬」というゼンジマー法、「焼鈍時の雰囲気を調節し、最初、鋼板表面を酸化させた後、その後還元することによりめっき前の清浄化を行った後にめっき浴に侵漬」という全還元炉方式、あるいは、「鋼板を脱脂酸洗した後、塩化アンモニウムなどを用いてフラックス処理を行って、めっき浴に侵漬」というフラックス法等があるが、いずれの条件で処理を行ったとしても本発明の効果は発揮できる。また、めっき前の焼鈍の手法によらず、加熱中の露点を−20℃以上とすることで、めっきの濡れ性やめっきの合金化の際の合金化反応に有利に働く。
なお、本冷延鋼板を電気めっきしても鋼板の有する引張強度、延性及び穴拡げ性を何ら損なうことはない。すなわち、本発明鋼板は電気めっき用素材としても好適である。有機皮膜や上層めっきを行ったとしても、本発明の効果は得られる。
また、本発明の成形性と穴拡げ性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の素材は、通常の製鉄工程である精錬、製鋼、鋳造、熱延、冷延工程を経て製造されることを原則とするが、その一部あるいは全部を省略して製造されるものでも、本発明に係わる条件を満足する限り、本発明の効果を得ることができる。
次に、本発明を実施例により詳細に説明する。
表1に示す成分を有するスラブを、1250℃に加熱し、仕上げ熱延温度900℃にて熱間圧延を行い、水冷帯にて水冷の後、表2に示す温度で巻き取り処理を行った。熱延板を酸洗した後、厚み3mmの熱延板を1.2mmまで冷間圧延を行い(圧下率60%)、冷延板とした。なお、表2以降において、例えば鋼No.A−1〜A−17は、表1に示す組成の鋼Aを用いた例である。以下、他の鋼B〜Mについても同様である。
Figure 0005412746
Figure 0005412746
これらの冷延板に表2に示す条件で焼鈍熱処理を行い、焼鈍設備により焼鈍を行った。
炉内雰囲気は、COとH2を複合した気体を燃焼させ発生したH2O、CO2を導入する装置を取り付け、露点を−40℃としたH2を10体積%含むN2ガスを導入し、表2で示す条件で焼鈍を行った。
また、めっき鋼板に関しては、連続溶融亜鉛めっき設備により焼鈍とめっきを行った。
焼鈍条件並びに炉内雰囲気は、めっき性を確保するため、COとH2を複合した気体を燃焼させ発生したH2O、CO2を導入する装置を取り付け、露点を−10℃としたH2を10体積%含むN2ガスを導入し、表2で示す条件で焼鈍を行った。Siを多く含む鋼番号B、C、D、E、G、J、Kにおいて、上記、炉内雰囲気制御を行わないと、不めっきや合金化の遅延を生じ易いことから、Si含有量が高い鋼に溶融めっき、及び、合金化処理を行う場合、雰囲気(酸素ポテンシャル)制御を行う必要がある。その後、一部の鋼板については、480〜620℃の温度範囲にて合金化処理を行った。めっき鋼板の溶融亜鉛めっきの目付け量としては、両面とも約50g/mとした。最後に、得られた鋼板について0.4%の圧下率でスキンパス圧延を行った。
得られた冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、上記手法を用いて行い、ミクロ組織の同定と硬質組織中に含まれるC含有量の測定を行った。
また、スポット溶接性は次の条件で行った。まず、電極(ドーム型):先端径6mmφの電極を用い、加圧力:4.3kN、溶接電流:散り発生直前の電流(CE)に対し0.5kA低い(CE-0.5)kAとし、溶接時間:14サイクル、保持時間:10サイクルにて溶接を行った。溶接後、JIS Z 3137に従って、せん断引張試験並びに十字引張試験を行った。溶接電流を(CE-0.5)kAとする溶接を各5回行い、それらの平均値を、それぞれせん断引張強度(TSS)、十字引張強度(CTS)とし、延性比(=CTS/TSS)を求めた。この値を元に下記のような評価を行い、延性比が0.5以上の鋼板をスポット溶接性が良好な鋼板とした。
◎:延性比0.6以上、
○:延性比0.5以上0.6未満、
△:延性比0.4以上0.5未満、
×:延性比0.4未満。
引張特性は、引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張最大応力(TS)、全伸び(El)を測定した。なお、本鋼板は、フェライトと硬質組織より成る複合組織鋼板であり、降伏点伸びが出現しない場合が多い。このことから、降伏応力は0.2%オフセット法により測定した。TS×Elが、16000(MPa×%)以上となるものを強度-延性バランスが良好な高強度鋼板とした。
穴拡げ率(λ)は、直径10mmの円形穴を、クリアランスが12.5%となる条件にて打ち抜き、かえりがダイ側となるようにし、60°円錐ポンチにて成形し、評価した。各条件とも、5回の穴拡げ試験を実施し、その平均値を穴拡げ率とした。TS×λが、40000(MPa×%)以上となるものを、強度-穴拡げ性バランスが良好な高強度鋼板とした。結果を表3及び表4に示す。
Figure 0005412746
Figure 0005412746
表3〜4に示すように、780MPa以上の引張最大強度と良好なスポット溶接性、良好な強度-延性バランス、並びに、良好な強度-穴拡げ性バランスを同時に具備するものを、780MPa以上の引張最大強度を有する延性と穴拡げ性に優れた本発明例の高強度鋼板とした。
A−1〜A−17、F−1は、鋼の化学成分は本発明の範囲にあるが、このうち製造条件が本発明の範囲から外れたものについては、硬質組織中のC濃度、TS・ElまたはTS・λのいずれかが満足する値ではなかった。
また、I−1、J−1では、鋼板中のC量が多いため、硬質組織中のC濃度が0.25%超となり、また延性比がいずれも0.5未満となり、スポット溶接性が低下した。
更に、K−1では、B及びTiが添加されていないため、硬質組織中のC濃度が0.25%超となった。
更にまた、L−1及びL−2では、Siが少なく、またB及びTiが添加されていないため、組織中に硬質組織が生成されなかった。
また、M−1では、Mn量が過剰となり、TS・Elの値が十分な値を示さなかった。

Claims (8)

  1. 質量%で、
    C :0.03%〜0.10%、
    Si:0.3〜0.80%未満
    Mn:1.7〜2.6%、
    B:0.0003〜0.01%未満、
    Ti:0.001〜0.14%、
    P :0.001〜0.03%、
    S :0.0001〜0.01%、
    Al:0.10%未満、
    N :0.0005〜0.010%、
    O :0.0005〜0.007%、
    を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼であり、鋼板組織が体積率40%以上のフェライトと、C含有量がそれぞれ0.224%以下のベイナイト及びマルテンサイト組織からなり、引張最大強度780MPa以上を有し、スポット溶接性の特性評価指標であるせん断引張強度(TSS)と十字引張強度(CTS)の比である延性比が0.5以上となる溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板。
  2. さらに、質量%で、
    Cr:0.01〜2.0%、
    Ni:0.01〜2.0%、
    Cu:0.01〜1.0%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板。
  3. さらに、質量%で、Ca、Ceの1種または2種を合計で0.0001〜0.5%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度鋼板の表面に亜鉛系めっきを有することを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板。
  5. 請求項1〜3に記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜620℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度を(Ac1+Ac3)/2℃以上Ac3℃以下で焼鈍した後、760〜680℃間で21〜30秒の保持を行い、680℃〜550℃間を平均冷却速度1℃/秒以上で冷却することを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度鋼板の製造方法。
  6. 請求項1〜3に記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜620℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度を(Ac1+Ac3)/2℃以上Ac3℃以下で焼鈍した後、760〜680℃間で21〜30秒の保持を行い、680℃〜550℃間を平均冷却速度1℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度−40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬し、室温まで冷却することを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  7. 請求項1〜3に記載の化学成分を有する鋳造スラブを直接又は一旦冷却した後1200℃以上に加熱し、Ar3変態点以上で熱間圧延を完了し、400〜620℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度を(Ac1+Ac3)/2℃以上Ac3℃以下で焼鈍した後、760〜680℃間で21〜30秒の保持を行い、680℃〜550℃間を平均冷却速度1℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度−40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、めっき浴に浸漬し、460〜580℃の温度で合金化処理を施し、室温まで冷却することを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  8. 請求項5に記載の製造方法で冷延鋼板を製造したのち、亜鉛系の電気めっきを施すことを特徴とする溶接性と伸びフランジ性の良好な高強度電気亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
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