JP5410685B2 - エタノール生産方法 - Google Patents

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Description

本発明はエタノールの生産方法に関し、エタノールを生成する能力を有するVeillonella属に属する微生物を用いて、エタノールを生産する方法に関する。
温暖化対策や、化石燃料の消費抑制のため、新たなエネルギーに関する研究が進められている。
産業排ガスや木質系バイオマスのガス化・改質にともなって排出されるガスに含まれる気体状の二酸化炭素や一酸化炭素などを原料として微生物による発酵を行い、酢酸やエタノールなどの有用物を回収する技術がある。
特に、エタノールは近年、燃料としての需要が高まっており、有用物としての価値が高い。さらに、二酸化炭素は温暖化ガスのひとつであるので、二酸化炭素を炭素源として利用できる菌が得られれば、温暖化ガスの削減効果が期待できる。
過去に、二酸化炭素や一酸化炭素を基質として酢酸やエタノールなどの有用物を生産する微生物としては、主にクロストリジウム属菌が知られているに過ぎなかった(特許文献1〜4)。
特開平1−98472号公報 アセトバクテリウム(Acetobacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属 米国特許第5173429号明細書 クロストリジウム(Clostridium)属 特表2004−504058号公報 クロストリジウム(Clostridium)属 特開2003−339371号公報 クロストリジウム(Clostridium)属又はその派生属 特開平7−184667号公報 クロストリジウム(Clostridium)属、アセトバクテリウム(Acetobacterium)属、デスルホビブリオ(Desulfovibrio)属
本発明者らは、微生物の単離とスクリーニングを重ね、二酸化炭素や一酸化炭素を基質として、酢酸やエタノールを生成する能力を有するバイロネラ(Veillonella)属に属するVeillonella sp. Strain G11微生物を選抜したが、この菌株も通常の培養環境では、エタノールより酢酸生成の方が上回ることが判った。
微生物が二酸化炭素などの気体状の炭化水素をエタノールにする経路は知られており、酸化還元物質を添加することでエタノール生産経路の化学的あるいは電気的均衡を調節し、エタノール生産性を向上させることができる場合があるので(特許文献3、5等)、参考にしたがエタノール生産性をあげることができなかった。
そこで、本発明者らは、さらに、研究を重ねた結果、Veillonella sp. Strain G11株に対して特異的に作用する酸化還元物質を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の課題は、エタノールを生成する能力を有するVeillonella属に属する微生物を用いて、エタノールを生産する方法を提供することにある。
本発明の他の課題は以下の記載によって明らかになる。
上記課題は以下の各発明によって解決される。
(請求項1)
一酸化炭素、または二酸化炭素と水素からなる合成ガスを基質として導入し、嫌気的環
境下で、エタノール生成能を有するバイロネラ(Veillonella)属に属する微
生物によってエタノールを生成するエタノールの生産方法において、
前記微生物が、Veillonella sp. Strain G11(寄託番号NITE P−471)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されているものであって、
前記微生物に特異的に酢酸生成阻害およびエタノール生成亢進作用を呈する酸化還元メディエータを添加することを特徴とするエタノールの生産方法。
(請求項
微生物に特異的な酸化還元メディエータが、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2−カルボン酸(メチルレッド)であることを特徴とする請求項記載のエタノールの生産方法。
(請求項
酸化還元メディエータとして、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2−カルボン酸(メチルレッド)を10ppm以上30ppm以下の濃度で添加することを特徴とする請求項1又は2記載のエタノールの生産方法。
本発明によれば、エタノールを生成する能力を有するVeillonella属に属する微生物を用いて、エタノールを生産する方法を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明で用いるバイロネラ(Veillonella)属に属する新規微生物は、以下、必要に応じて「本菌株」と称する。
本菌株は、福岡市下水処理場のメタン発酵処理分画より単離した菌株であり、二酸化炭素や一酸化炭素を基質として酢酸とエタノールを生成する能力を持つ、バイロネラ(Veillonella)属に属する新種である。
本菌株は、Veillonella sp. Strain G11(寄託番号NITE P−471)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されており、以下のような性質を有する。なお、+は陽性又は有を示し、−は陰性又は無を示している。
A.形態的性質
(1)細胞の形及び大きさ:約0.3μmの球菌
(2)運動性の有無:−
(3)胞子の有無:−
B.培養的性質
(1)Clostridium ljungdahlii(CL)培地寒天平板培養(※1)
37℃、培養日数2日で直径1〜2mmの円形のコロニーを形成する
i)色:灰白色
ii)表面の形状:スムーズ
iii)透明度:半透明
iv)変異によるコロニー形態の変化:−
v)培養条件や生理的状態によるコロニー形態の変化:−
※1 C.ljungdahlii培地の培地組成を下記に示す。
NHCl 1.00g
KCl 0.10g
MgSO 0.20g
NaCl 0.80g
KHPO 0.10g
CaCl 0.02g
NaWO 0.20mg
Yeast Extract 1.00g
NaHCO 1.00g
Fructose 5.00g
Cysteine−HCl 0.30g
NaS 0.30g
Trace element solution(I) 10ml
Vitamin solution (II) 10ml
Distilled water 1000ml
Agar 15g
pH 5.9
なお、上記の(I)Trace element solution及び(II)Vitamin solutionは以下の組成である。
(I)Trace element solution
Nitrilotriacetic acid 1.5g
MgSO 3.0g
MnSO 0.5g
NaCl 1.0g
FeSO 0.1g
CoSO 0.18g
CaCl 0.1g
ZnSO 0.18g
CuSO 0.01g
KAl(SO 0.02g
BO 0.01g
NaMoO 0.01g
NiCl 0.025g
NaSeO 0.3mg
Distilled water 1000ml
(II)Vitamin solution
Biotin 2.0mg
Folic asid 2.0mg
Pyridoxine−HCl 10mg
Thiamine−HCl 5.0mg
Riboflavin 5.0mg
Nicotinic acid 5.0mg
D−Ca−pantothenate 5.0mg
Vitamin B12 0.1mg
P−Aminobenzoic acid 5.0mg
Lipoic acid 5.0mg
Distilled water 1000ml
(2)ゼラチン穿刺培養
i)ゼラチン液化:−
(3)リトマス・ミルク
i)反応:リトマス還元
ii)凝固:+
(4)B.C.P.ミルク
i)反応:アルカリ性
C.生理学的性質
(1)グラム染色性:−
(2)硝酸塩の還元:+
(3)インドールの生成:−
(4)硫化水素の生成:−
(5)デンプンの加水分解:−
(6)ウレアーゼ:−
(7)カタラーゼ:−
(8)生育の範囲
i) 至適pH:7.2
ii)温度:20〜42℃で良好に生育
(9)酸素に対する態度:偏性嫌気性
(10)O−Fテスト:酸化型
(11)糖類からの酸及びガスの生成
i)L−アラビノース:酸(−)/ガス(−)
ii)D−キシロース:酸(−)/ガス(−)
iii)グルコース:酸(+)/ガス(−)
iv)D−マンノース:酸(−)/ガス(−)
v)フラクトース:酸(+)/ガス(−)
vi)マルトース:酸(−)/ガス(−)
vii)ラクトース:酸(−)/ガス(−)
viii)D−トレハロース:酸(−)/ガス(−)
ix)D−ソルビトール:酸(−)/ガス(−)
x)D−マンニトール:酸(−)/ガス(−)
xi)グリセリン:酸(−)/ガス(−)
xii)D−セロビオース:酸(−)/ガス(−)
xiii)エスクリン:酸(−)/ガス(−)
xiv)サリシン:酸(−)/ガス(−)
xv)D−メレチトース:酸(−)/ガス(−)
xvi)D−ラフィノース:酸(−)/ガス(−)
xvii)L−ラムノース:酸(+)/ガス(−)
D.その他の特徴 酵素反応
i)アルギニンジヒドロラーゼ:+
ii)α−ガラクトシダーゼ:−
iii)β−ガラクトシダーゼ:−
iv)β−ガラクトシダーゼ6−フォスフェート:−
v)α−グルコシダーゼ:−
vi)β−グルコシダーゼ:−
vii)α−アラビノシダーゼ:−
viii)N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:−
ix)グルタミン酸デカルボキシラーゼ:−
x)α−フッコシダーゼ:−
xi)アルカリフォスファターゼ:−
xii)アルギニンアリルアミダーゼ:−
xiii)Pプロリンアリルアミダーゼ:−
xiv)ロイシルグリシンアリルアミダーゼ:−
xv)フェニルアラニンアリルアミダーゼ:−
xvi)ロイシンアリルアミダーゼ:−
xvii)ピログルタミン酸アリルアミダーゼ:−
xviii)チロシンアリルアミダーゼ:−
xix)アラニンアリルアミダーゼ:−
xx)グリシンアリルアミダーゼ:−
xxi)ヒスチジンアリルアミダーゼ:−
xxii)グルタミルグルタミン酸アリルアミダーゼ:−
xxiii)セリンアリルアミダーゼ:−
E.16S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析
16S rDNAの塩基配列を決定し、DNAデータベース(DDBJ)にアクセスし、BRASTプログラムを用いて16S rDNAの塩基配列の相同性検索を行った結果、いずれのVeillonella属細菌とも16S rDNAの相同性が97%未満であった。
F.分類・同定の結果
本菌株の表現形質による分類学的性質に基づき、Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology,Vol.1,N.R.Krieg,J.G.Holt(ed),Williams&Wilkins,Baltimore(1984)およびBergey’s Manual of Determinate Bacteriology(9th ed.),J.G.Holt,N.R.Krieg,P.H.A.Sneath,J.T.Staley,S.T.Williams(ed),Williams&Wilkins,Baltimore(1994)を参考に分類・同定を行った結果、本菌株はVeillonella属と同定された。
Veillonella属には基準種V.parvulaの他に、V.atypica、V.disapar、V.criceti、V.rattiなどが知られている。知られているVeillonella属菌は、V.cricetiにのみフルクトース発酵能があるが、一般的には糖類を発酵することなく、ピルビン酸や乳酸などの有機酸の発酵能を有するのみである。
一方、本菌株は、フルクトースで生育可能(発酵能有)であり、さらにグルコースに対しても発酵能を有する点で他のVeillonella属菌と分類学的に異なる。
また、一般に、16S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析では、相同性が95%以上であれば同属、97%以上であれば類縁関係があり、99%以上であれば同種とみなすことができるとされている。
本菌株の16S rDNAの結果では他のVeillonella属の菌との相同性は97%未満であったので、公知のVeillonella属菌株とは分子生物学的にも別の種であることが示された。
本菌株は、グルコース、フラクトースから酢酸の他にエタノールを生成するほか、一酸化炭素、または二酸化炭素と水素を基質として、酢酸の他にエタノールを生成することを特徴とする。通常の状態では、酢酸生成に比べてエタノール生成量は少ないが、本菌株に特異的な酸化還元物質を添加することで、エタノール生成量を向上させることができる。
以下に、エタノールを生成する能力を有するVeillonella属に属する微生物を用いて、エタノールを生産する方法を説明する。
本発明のエタノールを生産する装置としては、例えば図1に示す装置を用いて行うことができる。
図1において、1は耐圧式の発酵槽であり、攪拌機11を備えている。2は、微生物に必要なビタミン等を補給する培地(ブイヨン)タンクであり、培地は、必要な際にポンプ21により発酵槽1内に供給される。
3はスパージャーであり、フィルター31を通して滅菌された合成ガス(基質)を発酵槽1内に供給する。32はブロワーである。
なお、図1は図示しないpH、温度、圧力を測定し調整する手段及び酸化還元電位測定手段を備えている。生産方式は、バッチ式でも連続生産式でもよい。
図1の装置における培養条件は、本菌株の生育に好ましい条件であり、温度は、25〜40℃、好ましくは30〜38℃、圧力(ゲージ圧)は0.1〜0.25MPa、好ましくは0.1〜0.2MPa、pHは6〜7.5、好ましくは6.5〜7である。
基質として提供するガスは、一酸化炭素、あるいは二酸化炭素と水素からなる合成ガスである。
図2は、本菌株が二酸化炭素等を資化して、エタノールを生成する経路の略式図である。この経路で、一酸化炭素は、図2の右側の経路、二酸化炭素は左右何れかの経路からアセチルCoAを経て、酢酸やエタノール、或いは細胞を形成する有機物を得る。
二酸化炭素を基質とした場合は、左右何れかの経路の上から反応が始まるので、二酸化炭素からアセチルCoAに至るまでには水素が必要である。一方、一酸化炭素を基質とした場合には、右経路の中段から反応が始まるので、水素は必要ない。
そのため、基質として一酸化炭素を用いる場合は、単独で供給しても良いし、二酸化炭素と混合してもよい。発酵槽内で起きる他の反応で生じた水素をエタノール生産に利用することができるからである。一酸化炭素:二酸化炭素の混合割合は、10:0〜8:2が好ましい。
二酸化炭素を基質とする場合、水素は必須である。二酸化炭素と水素からなる合成ガスの二酸化炭素:水素の混合割合は、1:1〜8:2が好ましい。
本発明では、発酵槽内のブイヨンに、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2−カルボン酸(メチルレッド)を10〜30ppm、好ましくは5〜15ppm添加することを特徴とする。
前述のように、一酸化炭素、または二酸化炭素と水素からなる合成ガスは、アセチルCoAを経て、酢酸やエタノール、或いは細胞を形成する有機物を得るが、通常は酢酸になる割合が最も高い。
4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2−カルボン酸(メチルレッド)を10〜30ppm、好ましくは5〜15ppm添加すると、アセチルCoAからの酢酸の合成を阻害(抑制)して、アセチルCoAからエタノールへの合成を促進する。
本菌株に対して、酢酸生成阻害およびエタノール生成亢進作用は、この4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2−カルボン酸(メチルレッド)が特異的であり、ほかの酸化還元物質を用いた場合はエタノール生成亢進作用は認められない。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
参考例1〈メチルレッド添加なしのエタノール生成〉
まず、本菌株を接種した滅菌済CL培地20mlを50ml耐圧バイアルに入れCO/COガス(CO:CO=8:2)を封入し、150rpmで振とうしながら37℃で24〜48時間培養し、培養液を作製した。
培養液を、図1に示す実験装置(発酵槽の実効体積1L)に加圧状態のまま移し、CO/COガスを再封入した。pHを7.0、温度37℃、攪拌を100rpmとし、CO/COガス循環が0.1vvmの条件で3日間エタノール生成実験を行った。
実施例1〈メチルレッド添加ありのエタノール生成〉
酸化還元電位調節剤として発酵槽内にメチルレッドを10ppm添加した以外は参考例1と同様にしてエタノール、酢酸の生成量を調査した。
比較例1
酸化還元電位調節剤として発酵槽内にパントテン酸カルシウムを10ppm添加した以外は参考例1と同様にしてエタノール、酢酸の生成量を調査した。
比較例2
酸化還元電位調節剤として発酵槽内にベンジルビオロゲンを10ppm添加した以外は参考例1と同様にしてエタノール、酢酸の生成量を調査した。
参考例1、実施例1、比較例1及び2の結果を表2に示す。
比較例1及び2では、エタノール生成亢進作用は認められない上、酢酸生成もみられなくなった。
Figure 0005410685
本発明を用いてエタノール生産を行うことができる装置の例を示す模式図 二酸化炭素等を資化して、エタノールを生成する経路の略式図
符号の説明
1:発酵槽
11:攪拌機
2:培地タンク
21:ポンプ
3:スパージャー
31:フィルター
32:ブロワー

Claims (3)

  1. 一酸化炭素、または二酸化炭素と水素からなる合成ガスを基質として導入し、嫌気的環
    境下で、エタノール生成能を有するバイロネラ(Veillonella)属に属する微
    生物によってエタノールを生成するエタノールの生産方法において、
    前記微生物が、Veillonella sp. Strain G11(寄託番号NITE P−471)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されているものであって、
    前記微生物に特異的に酢酸生成阻害およびエタノール生成亢進作用を呈する酸化還元メディエータを添加することを特徴とするエタノールの生産方法。
  2. 微生物に特異的な酸化還元メディエータが、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2−カルボン酸(メチルレッド)であることを特徴とする請求項記載のエタノールの生産方法。
  3. 酸化還元メディエータとして、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−2−カルボン酸(メチルレッド)を10ppm以上30ppm以下の濃度で添加することを特徴とする請求項1又は2記載のエタノールの生産方法。
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