以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。以下の形態で説明する液圧制御機構は、液圧を制御する液圧回路であれば適用することが可能であり、例えば、車両用の電子制御式ブレーキシステムの液圧回路に用いると好適である。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
(液圧ブレーキ装置の概略)
図1は、本発明の一実施の形態に係る液圧ブレーキ装置のシステム構成を示す図である。本実施の形態の形態に係る液圧ブレーキ装置100は、電子制御ユニット10(以下、ECU10と称す)により制御される。液圧ブレーキ装置は、ブレーキペダル12を備えている。
ブレーキペダル12には、ストロークシミュレータ14を介してマスタシリンダ16が連結されている。ストロークシミュレータ14は、ブレーキペダル12が踏み込まれた場合に、ブレーキペダル12に、ブレーキ踏力に応じたストロークを付与する機構である。マスタシリンダ16は、その内部に2つの液圧室を備えている。これらの液圧室には、ブレーキ踏力に応じたマスタシリンダ圧PM/Cが発生する。
マスタシリンダ16の上部には、リザーバタンク18が配設されている。リザーバタンク18には、作動液としてのブレーキフルードが貯留されている。マスタシリンダ16の液圧室とリザーバタンク18とは、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されている場合に導通状態となる。マスタシリンダ16には、第1液圧通路20および第2液圧通路22が連通している。第1液圧通路20には、その内部に導かれる液圧、すなわち、マスタシリンダ圧PM/Cに応じた信号を出力するマスタ圧センサ24が配設されている。マスタ圧センサ24の出力信号pMCはECU10に供給されている。ECU10は出力信号pMCに基づいてマスタシリンダ圧PM/Cを検出する。
第1液圧通路20は、機械式増圧弁26および逆流抑制手段25に連通している。第1液圧通路20は、途中で2つの流路に分岐されており、第1流路20aには機械式増圧弁26が、第2流路20bには逆流抑制手段25を構成する2つのチェック弁(逆止弁)110,130がそれぞれ接続されている。機械式増圧弁26には、大気圧通路27、フロント液圧通路28、および、ポンプ液圧通路29が連通している。大気圧通路27は、リザーバタンク18に連通することにより大気圧に開放されている。フロント液圧通路28からは、機械式増圧弁26により生成された液圧が吐出される。また、ポンプ液圧通路29には、高圧のアキュムレータ圧PACCが供給される。
(液圧制御機構)
図2は、本実施の形態に係る液圧制御機構の概略を示す断面図である。図2に示すように、液圧制御機構200は、機械式増圧弁26および逆流抑制手段25を備える。機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16とホイールシリンダ53,56との間の、第1液圧通路20の一部を構成する第1流路20aに接続されている。そして、機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16で発生するマスタシリンダ圧PM/Cに対して所定の増圧比のホイールシリンダ圧PW/Cをホイールシリンダ53,56に発生させる。そのために、本実施の形態に係る機械式増圧弁26は、増圧時にアキュムレータ72からホイールシリンダ53,56側へブレーキフルードを導入可能なように構成されている。
また、逆流抑制手段25は、第1流路20aと並列にマスタシリンダ16とホイールシリンダ53,56との間に設けられた第2流路20bに接続されている。そして、逆流抑制手段25は、マスタシリンダ側がホイールシリンダ側より高圧な場合にマスタシリンダ側の圧力をホイールシリンダ側へ伝達するとともにホイールシリンダ側の作動液がマスタシリンダ側へ逆流することを抑制する。具体的には、本実施の形態に係る逆流抑制手段25は、開弁圧が実質的にゼロのチェック弁110,130が複数直列に設けられている。逆流抑制手段25におけるチェック弁110,130は、増圧時にマスタシリンダ16の液圧の増加に応じて開弁し、ホイールシリンダ53,56側へ作動液を供給するとともに、ホイールシリンダの液圧の増加に応じて閉弁する。以下に、機械式増圧弁26および逆流抑制手段25の構成について詳述する。
(機械式増圧弁)
機械式増圧弁26は、ハウジング30を備えている。ハウジング30には、第1流路20aに連通するマスタ圧導入孔31、フロント液圧通路28に連通する液圧吐出孔32、ポンプ液圧通路29に連通する高圧導入孔33、および、大気圧通路27に連通する大気導入孔34が設けられている。
ハウジング30の内部には、段付きピストン35が配設されている。段付きピストン35には、大きな断面積Sを有する大径部36と小さな断面積sを有する小径部37とが形成されている。段付きピストン35の内部には貫通孔38が形成されている。貫通孔38の下流側端部には、ニードルバルブ39が当接可能に配設されている。貫通孔38の内部には、ニードルバルブ39の弁座として機能する弁座38aが設けられている。ニードルバルブ39と段付きピストン35との間には、第1スプリング40が配設されている。第1スプリング40は、ニードルバルブ39を弁座38aから離座させる方向の付勢力を発生する。
ハウジング30の内部には、ボール弁41、第2スプリング42、および、第3スプリング43が配設されている。また、ハウジング30の内部には、ボール弁41の弁座44が形成されている。第2スプリング42は、ボール弁41を弁座44に向けて付勢する。第3スプリング43は、段付きピストン35をマスタ圧導入孔31側へ向けて付勢する。弁座44の中央部には、ニードルバルブ39の貫通を許容する貫通孔44aが設けられている。
ハウジング30の内部には、上述した段付きピストン35およびボール弁41によって、加圧室45、調圧室46、高圧室47およびドレン室48が形成されている。加圧室45は、マスタ圧導入孔31に連通しており、マスタシリンダ16から液圧の供給を受ける。調圧室46は、液圧吐出孔32に連通している。高圧室47は、高圧導入孔33に連通している。また、ドレン室48は、大気導入孔34に連通している。
ハウジング30の内部には、更に、ストッパ30aが形成されている。ストッパ30aは、調圧室46の内壁に、ニードルバルブ39の変位を規制するために設けられている。一方、ストッパ30bは、ドレン室48の内壁に、段付きピストン35の変位を規制するために設けられている。すなわち、ニードルバルブ39の、図2における右側変位端は、ニードルバルブ39がストッパ30aに当接する位置に規制される。また、段付きピストン35の、図2における左側変位端は、段付きピストン35がストッパ30bに当接する位置に規制される。
(逆流抑制手段)
逆流抑制手段25は、前述のように2つのチェック弁110,130を直列に備えている。図3は、チェック弁110の外観を示す斜視図である。図4は、第2流路20bにチェック弁110を設けた状態を示す断面図である。チェック弁110は、カップ式の環状のシール部材であり、弾性体からなるリップ部112と、第2流路20bの内部に配設されたプラグ20b1によって支持、固定される貫通部114とを有する。
チェック弁110のリップ部112は、差圧がない状態で第2流路20bの内壁にわずかに触れて第2流路20bを遮断するように形状や直径が設定されている。リップ部112は、流路に対して垂直な方向の直径が、マスタシリンダ16側からホイールシリンダ53側に向かって大きくなるように円錐状に構成されている。また、リップ部112は、貫通部114のホイールシリンダ側の周囲に凹溝116が環状に設けられている。加えて、リップ部112は、凹溝116側の面が流路に対して斜めの内周面112aと、内周面112aとほぼ平行な外周面112bと、を有する。
図5(a)は、チェック弁110のマスタシリンダ側の圧力が高い場合のリップ部の動きを模式的に示した断面図、図5(b)は、チェック弁110のホイールシリンダ側の圧力が高い場合のリップ部の動きを模式的に示した断面図である。
図5(a)に示すように、チェック弁110の上流側であるマスタシリンダ16の液圧が高い場合、マスタシリンダ16側から供給されるブレーキフルードによって外周面112bに圧力が加わり、リップ部112がチェック弁110の中心部に向かって撓む。そのため、それまで第2流路20bの内壁に触れていたリップ部112が内壁から離間することで、リップ部112と第2流路20bの内壁との間に隙間が生じ、ブレーキフルードは下流側であるホイールシリンダ53に向かって流れる。
一方、図5(b)に示すように、チェック弁110の下流側であるホイールシリンダ53の液圧が高い場合、ホイールシリンダ53側から供給されるブレーキフルードによって内周面112aに圧力が加わり、リップ部112がホイールシリンダ側へ撓む。そのため、それまで第2流路20bの内壁に触れていたリップ部112が更に内壁へ付勢されることによって、チェック弁110の上流側と下流側とのブレーキフルードの流れが遮断される。つまり、チェック弁110は、ホイールシリンダ側からマスタシリンダ側へのブレーキフルードの逆流を防止する、開弁圧が実質的にゼロの逆止弁として機能することになる。
次に、チェック弁130について説明する。図6は、チェック弁130の断面図である。図7は、図6に示すチェック弁130をA方向から見た場合の正面図である。なお、図6に示す断面図は、図7に示すチェック弁130のB−B’断面図である。
チェック弁130は、筒状のハウジング132と、ハウジング132の一方の端部に設けられたボール室134内に収容されている弁体としてのボール136と、を有する。ハウジング132は、内部を貫通する貫通路138が形成されている。貫通路138のマスタシリンダ16側の流路は、ボール室134の内周よりも小径な小径部140となっている。また、小径部140とボール室134との間の領域には、ボール136が当接することで流路がシールされる円錐状の弁座142が形成されている。
ハウジング132のホイールシリンダ側の端部は、ボール室134からボール136が脱落しないように、その一部132aが中心に向かって曲げられている。このようなチェック弁130においては、マスタシリンダ16からブレーキフルードが流入すると、ボール室134が弁座142から容易に離間する。一方、ホイールシリンダ53側の液圧がマスタシリンダ16側の液圧より高い場合、チェック弁130においては、図6の右から左へ向かうブレーキフルードの流れによりボール136が弁座142に着座し、ブレーキフルードの流れが遮断される。つまり、チェック弁110は、ホイールシリンダ側からマスタシリンダ側へのブレーキフルードの逆流を防止する、開弁圧が実質的にゼロの逆止弁として機能することになる。
(液圧制御機構の動作)
以下、機械式増圧弁26および逆流抑制手段25を備える液圧制御機構200の動作について説明する。機械式増圧弁26は、マスタシリンダ圧PM/Cが発生していない場合は図2に示す状態に維持される。かかる状況下でブレーキ操作が開始されると、マスタ圧導入孔31から加圧室45へブレーキフルードが流入する。加圧室45に流入したブレーキフルードは、貫通孔38を通って調圧室46に到達する。このため、ブレーキ操作が開始された後、加圧室45の内圧、および、調圧室46の内圧は共にマスタシリンダ圧PM/Cまで上昇する。
加圧室45および調圧室46に、共にマスタシリンダ圧PM/Cが発生すると、段付きピストン35には、F=S・PM/C−s・PM/Cで表され、かつ、調圧室46側へ向かう付勢力が作用する。その結果、ブレーキ操作が開始された後、段付きピストン35は、速やかに図2に示す位置から調圧室46側へ向かって変位し始める。
段付きピストン35の調圧室46側へ向かう変位量が所定量に到達すると、ニードルバルブ39が貫通孔38を閉塞する状態が形成される。かかる状態が形成されると、以後、段付きピストン35に作用していた付勢力Fが、ニードルバルブ39を介してボール弁41に伝達され始める。このため、段付きピストン35の変位が上記の所定量に到達すると、その後、ボール弁41が弁座44から離座する状態が形成される。
ボール弁41が弁座44から離座すると、高圧室47と調圧室46とが導通状態となる。このため、ボール弁41が開弁すると、その後、調圧室46の内圧は、マスタシリンダ圧PM/Cに比して高圧となる。この際、調圧室46に生ずる液圧をPcとすると、段付きピストン35に作用する付勢力の大きさは、F=S・PM/C−s・Pcと表すことができる。段付きピストン35は、上記の付勢力Fが正の値である場合は、ボール弁41を開弁させる方向に変位し続ける。
調圧室46の液圧Pcが充分に大きな値となると、段付きピストン35に作用する付勢力Fは負の値となる。付勢力Fが負の値となると、段付きピストン35は、ボール弁41を閉弁させる方向に変位し始める。そして、ボール弁41が弁座44に着座すると、調圧室46の内圧Pcの上昇が停止される。機械式増圧弁26においては、運転者によってブレーキ操作が実行された後に上記の動作が繰り返し実行されることにより、調圧室46の内圧Pcが、Pc=(S/s)・PM/Cで表される液圧に制御される。調圧室46に発生する液圧Pcは、液圧吐出孔32からフロント液圧通路28に吐出される。このように、機械式増圧弁26によれば、運転者によってブレーキ操作が実行された場合に、マスタシリンダ圧PM/Cに対して所定の倍力比(増圧比)S/sを有する液圧Pcを、フロント液圧通路28に供給することができる。
上述のように、本実施の形態に係る機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16から液圧の供給を受ける加圧室45と、加圧室45の液圧により図2の左方向に付勢される段付きピストン35と、段付きピストン35を図2の右方向に付勢する液圧を蓄える調圧室46と、段付きピストン35が図2の左方向に所定距離を超えて変位する場合にアキュムレータ72と調圧室46とを連通状態とし、かつ、段付きピストン35が図2の右方向に所定距離を超えて変位する場合にアキュムレータ72と調圧室46とを遮断状態とする連通制御機構と、を有している。また、段付きピストン35は、調圧室46側の小径部37の端面の面積sに対する加圧室45側の大径部36の端面の面積Sの比が増圧比と同じになるように構成されている。このように、段付きピストン35の調圧室46側の小径部37の面積sと加圧室側の大径部36の面積Sとの比が調整されることで、機械式増圧弁26において所望の増圧比が簡便な構成で実現される。
一方、高圧室47に適正にアキュムレータ圧PACCが導かれていない場合は、ボール弁41を弁座44に向けて付勢する力が第2スプリング42の付勢力だけとなる。この場合、ブレーキ操作が開始された後、段付きピストン35が調圧室46側へ変位する際に、第2スプリング42の付勢力は第1スプリング40の付勢力より小さくされているため、ニードルバルブ39は、貫通孔38を閉塞することなくボール弁41を弁座44から離座させる。段付きピストン35の変位は、段付きピストン35がストッパ30bに当接するまで継続される。この際、ニードルバルブ39は、常に貫通孔38を導通状態に維持する。
このため、高圧室47の内圧が適正に昇圧されていない場合は、ブレーキ操作の実行中、調圧室46の内圧が常にマスタシリンダ圧PM/Cと等圧となる。したがって、機械式増圧弁26によれば、高圧室47の内圧が適正に昇圧されていない状況下でブレーキ操作が実行された場合に、フロント液圧通路28からマスタシリンダ圧PM/Cと等しい液圧を吐出することができる。なお、機械式増圧弁26の調圧室46に上記のようにマスタシリンダ圧PM/Cが導かれる場合は、そのマスタシリンダ圧PM/Cが、高圧室47および高圧導入孔33を介してポンプ液圧通路29にも供給される。
上述のように、本実施の形態に係る液圧制御機構200を備えた液圧ブレーキ装置では、ブレーキシステムの異常時などにおいても、アキュムレータ72などに蓄圧されているブレーキフルードを用いてマスタシリンダ16の液圧に対して所定の増圧比の液圧をホイールシリンダに発生させることができる。
ところで、本実施の形態に係る機械式増圧弁26は、上述のように、段付きピストン35の調圧室46側へ向かう変位量が所定量に到達すると、ニードルバルブ39が貫通孔38を閉塞する状態が形成される。かかる状態が形成されてから、付勢力Fにより段付きピストン35が更に変位しニードルバルブ39を介してボール弁41が弁座44から離座する状態が形成されるまでの間、調圧室46にはブレーキフルードが流入しないことになる。そのため、第1液圧通路20に機械式増圧弁26だけが接続されている場合、マスタシリンダ圧の上昇がホイールシリンダへ伝達されるまでの間にタイムラグが生じる。
しかしながら、本実施の形態に係る液圧制御機構200は、機械式増圧弁26においてアキュムレータ72とマスタシリンダ16とホイールシリンダ53との間の連通が一時的に遮断するような場合であっても、マスタシリンダ16の液圧を機械式増圧弁26を介さずに第2流路20bを経由して直接ホイールシリンダ53へ伝達することができる。その際、第2流路20bには開弁圧が実質的にゼロのチェック弁が設けられているため、マスタシリンダ16とホイールシリンダ53との間に差圧が生じさえすれば、容易にチェック弁110,130は開弁する。
つまり、マスタシリンダ16における液圧が直接ホイールシリンダ53へ伝達されている状態から、マスタシリンダ16の液圧に対して所定の増圧比の液圧がホイールシリンダ53で発生するまでの間に、機械式増圧弁26を介したマスタシリンダ16からホイールシリンダ53への液圧の伝達が一時的に遮断されるような場合であっても、第2流路20bを経由してマスタシリンダ16の液圧をホイールシリンダ53へ伝達することが可能となる。その結果、マスタシリンダ16における圧力の変化に対してホイールシリンダ53の圧力の変化が対応しない、いわゆる不感帯の発生が抑制され、ブレーキフィーリングの向上が図られる。
その後、ブレーキペダルの操作により段付きピストン35が更に変位し、ボール弁41が弁座44から離座すると、高圧室47と調圧室46とが導通状態となり、調圧室46の内圧はマスタシリンダ圧PM/Cに比して高圧となる。そのため、調圧室46とホイールシリンダ53との間のフロント液圧通路28を経由して、ブレーキフルードが第2流路20bを逆流しようとするが、チェック弁110,130が差圧により閉弁することで、ホイールシリンダ53からマスタシリンダ16への流れが遮断される。
なお、本実施の形態に係る逆流抑制手段25は、複数のチェック弁110,130が直列に設けられている。そのため、一方のチェック弁が閉じるタイミングが遅れても、他方のチェック弁が閉じることで、ホイールシリンダ53からマスタシリンダ16への作動液の逆流がより確実に抑制され、ひいては制動力の一時的な低下が抑制される。
また、逆流抑制手段25は、第2流路20bのマスタシリンダ側に、リップ部112が差圧により変形することで流路を遮断または連通させるシール部材から構成されるチェック弁110(図3乃至図5参照)が配置されている。同様に、逆流抑制手段25は、第2流路20bのホイールシリンダ側に、ボール136がストロークによって弁座と当接または離間することで流路を遮断または連通させるボール弁から構成されるチェック弁130(図6および図7参照)が配置されている。
カップ式のチェック弁110は、図4に示すように、差圧が生じていない状態でリップ部112が第2流路20bの内壁にわずかに触れるように設けられている。そのため、チェック弁110は、ホイールシリンダ53側の圧力がマスタシリンダ16側の圧力よりわずかに大きくなった場合であっても、すぐにリップ部112が第2流路20bの内壁に押し付けられることで応答性良く流路を遮断することができる。一方、チェック弁110は、ホイールシリンダ53側の圧力がマスタシリンダ16側の圧力より大きく、差圧がかなり大きい場合、逆流する多量のブレーキフルードにより環状のリップ部112に均一に圧力が加わることは困難である。そのため、チェック弁110は、リップ部112で振動が発生するとその振動が持続しやすいという特性がある。
ボール式のチェック弁130は、ボール136が弁座142に当接することで流路を遮断するものであり、差圧が大きくブレーキフルードの流量が多い状態では、ボール136が容易に動くため、比較的振動もなく閉弁する。一方、チェック弁130は、図6に示すように、差圧が生じていない状態ではボール室134の中でボール136が自由に動く状態となっている。そのため、差圧が小さくブレーキフルードの流量が少ない場合、ボール136は弁座142と当接する所定の位置に移動しにくくなるため、完全に弁座142に着座するまでに振動しやすい。
そこで、本実施の形態に係る逆流抑制手段25においては、上述の異なる特性を有するチェック弁110,130を直列に第2流路20bに設ける場合、チェック弁110がマスタシリンダ16側へ、チェック弁130がホイールシリンダ53側へ位置するように設けられている。これにより、応答性が高く振動の発生しにくい液圧制御機構200が実現される。具体的には、マスタシリンダ16とホイールシリンダ53との差圧が小さい場合には、差圧が小さくても応答性の高いチェック弁110のリップ部112がより確実に流路を遮断することで、ボール式のチェック弁130の応答遅れの影響が緩和される。一方、マスタシリンダ16とホイールシリンダ53との差圧が大きい場合には、遮断時の振動が発生しにくいボール式のチェック弁130がより確実に作動し流路を遮断する。そのため、マスタシリンダ16側に設けられているチェック弁110にはそれ以上ブレーキフルードが供給されないため、流量が大きいときに発生しやすいリップ部112の振動が抑制される。
なお、チェック弁130のボール136がボール室134で弁座142から大きく離間することを規制することで、より応答性の高い遮断の実現も可能である。図8は、規制部材を備えたチェック弁150の断面図である。ボール式のチェック弁130と同様に、チェック弁150は、ボール室134に弁体として機能するボール136を収容しているが、これとは別にボール136がボール室134の中でストロークする範囲をある程度規制するための規制部材としてのボール152がボール室134に収容されている。これにより、チェック弁150に差圧が生じていない場合であっても、ボール136が弁座142から遠いボール室の右端に移動することが規制される。その結果、差圧が発生していない状態からボール136が弁座142に当接するまでのストロークが規制されるため、開弁圧を生じさせないためにボールを付勢せずに保持しているチェック弁150においても、応答性を高めることができる。
また、チェック弁110とチェック弁130との間の流路の形状を工夫することで、一方のチェック弁から他方のチェック弁へ伝達される圧力変化を抑えることができる。図9は、チェック弁110とチェック弁130との間の流路の一部に断面積の大きな大径部160を設けた状態を示す模式図である。図10は、チェック弁110とチェック弁130との間の流路の一部にオリフィス170を設けた状態を示す模式図である。
図9に示すように、大径部160が設けられることで、大径部160が設けられていない場合と比較してチェック弁110とチェック弁130との間の容積Vは増加する。そのため、同じ量のブレーキフルードが2つのチェック弁の間に流入した際の圧力変化dPは小さくなり、下流側にあるチェック弁の振動が抑制される。
一方、図10に示すように、オリフィス170が設けられることで、オリフィス170が設けられていない場合と比較してチェック弁110とチェック弁との間に流入するブレーキフルードの量dVは小さくなる。そのため、下流側のチェック弁へ伝達される圧力の変化は小さくなり、下流側にあるチェック弁の振動が抑制される。つまり、ホイールシリンダ53からマスタシリンダ16への液圧の伝達がより確実に防止される。上述の大径部160やオリフィス170は、チェック弁の種類や構成に応じて、どちらか一方あるいは両方を組み合わせて第2流路20bに設けられていてもよい。
(液圧ブレーキ装置の構成および動作)
図1に示す液圧ブレーキ装置において、フロント液圧通路28には、Frメインカット弁50が配設されている。Frメインカット弁50は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置の電磁弁である。フロント液圧通路28は、Fr第1連通路51およびFr第2連通路52に分岐している。Fr第1連通路51には、右前輪FRに配設されるホイールシリンダ53が連通している。また、Fr第1連通路51には、その内部に発生する液圧、すなわち、右前輪FRのホイールシリンダ圧PM/Cに応じた信号を出力するFR圧力センサ54が連通している。FR圧力センサ54の出力信号pFRはECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pFRに基づいて右前輪FRのホイールシリンダ圧PM/Cを検出する。
Fr第2連通路52には、Frサブカット弁55が配設されている。Frサブカット弁55は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置の電磁弁である。Fr第2連通路52には、左前輪FLに配設されるホイールシリンダ56が連通している。更に、Fr第2連通路52には、左前輪FLのホイールシリンダ圧PM/Cに応じた信号を出力するFL圧力センサ57が連通している。FL圧力センサ57の出力信号pFLはECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pFLに基づいて左前輪FLのホイールシリンダ圧PM/Cを検出する。
マスタシリンダ16に連通する第2液圧通路22には、Rrメインカット弁58が配設されている。Rrメインカット弁58は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置の電磁弁である。第2液圧通路22は、Rr第1連通路59およびRr第2連通路60に分岐している。Rr第1連通路59には、右後輪RRに配設されるホイールシリンダ61が連通している。また、Rr第1連通路59には、その内部に発生する液圧、すなわち、右後輪RRのホイールシリンダ圧PM/Cに応じた信号を出力するRR圧力センサ62が連通している。RR圧力センサ62の出力信号pRRはECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pRRに基づいて右後輪RRのホイールシリンダ圧PM/Cを検出する。
Rr第2連通路60には、Rrサブカット弁63が配設されている。Rrサブカット弁63は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置の電磁弁である。Rr第2連通路60には、左後輪RLに配設されるホイールシリンダ64が連通している。更に、Rr第2連通路60には、左後輪RLのホイールシリンダ圧PM/Cに応じた信号を出力するRL圧力センサ65が連通している。RL圧力センサ65の出力信号はECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pRLに基づいて右後輪RLのホイールシリンダ圧PM/Cを検出する。
液圧ブレーキ装置は、リザーバタンク18に連通するリザーバ通路66を備えている。上述した大気圧通路27は、リザーバ通路66を介してリザーバタンク18に連通している。リザーバ通路66は、逆止弁67を介してポンプ機構68の吸入側に連通している。ポンプ機構68の吐出側は、逆止弁69を介して高圧通路70に連通している。
高圧通路70には、逆止弁71を介して上述したポンプ液圧通路29が連通している。逆止弁71は、高圧通路70側からポンプ液圧通路29側へ向かう流体の流れのみを許容する一方向弁である。高圧通路70の内圧が適正に上昇しない場合は、機械式増圧弁26の高圧室47の内圧が適正に上昇しない。この場合、上述のように、ブレーキ操作が実行されることによりポンプ液圧通路29にマスタシリンダ圧PM/Cが導かれる。逆止弁71によれば、かかる状況下で、機械式増圧弁26を介してポンプ液圧通路29に導かれるマスタシリンダ圧PM/Cが、高圧通路70側に開放されるのを防止することができる。
高圧通路70には、アキュムレータ72が連通している。アキュムレータ72は、ポンプ機構68から吐出される液圧をその内部にアキュムレータ圧PACCとして蓄えることができる。高圧通路70には、アキュムレータ圧PACCに応じた電気信号を出力するACC圧力センサ73が配設されている。ACC圧力センサ73の出力信号pACCはECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pACCに基づいてアキュムレータ圧PACCを検出する。
高圧通路70には、更に、アキュムレータ圧PACCが上限値を超える場合にオン信号を発生するULスイッチ74、および、アキュムレータ圧PACCが下限値を超える場合にオン信号を出力するLLスイッチ76が連通している。ポンプ機構68は、ULスイッチ74の状態、および、LLスイッチ76の状態に基づいて、アキュムレータ圧PACCが常にその上限値と下限値との間に収まるように駆動される。
高圧通路70とリザーバ通路66との間には、定圧開放弁78が配設されている。定圧開放弁78は、高圧通路70側の液圧がリザーバ通路66側の液圧に比して、所定の開弁圧を超えて高圧となった場合に、高圧通路70側からリザーバ通路66側へ向かう流体の流れを許容する一方向弁である。高圧通路70には、FR増圧用リニア制御弁80(以下、FR増リニア80と称す)およびFL増圧用リニア制御弁82(以下、FL増リニア82と称す)が連通している。また、高圧通路70には、Rr増圧カット弁84を介してRR増圧用リニア制御弁86(以下、RR増リニア86と称す)およびRL増圧用リニア制御弁88(以下、RL増リニア88と称す)が連通している。Rr増圧カット弁84は、常態で閉弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより開弁状態となる2位置の電磁開閉弁である。以下、上述した増圧用リニア制御弁を総称する場合は「**増リニア」と称す。
FR増リニア80はFr第1連通路51に連通している。また、FL増リニア82はFr第2連通路52に連通している。同様に、RR増リニア86およびRL増リニア88は、それぞれ、Rr第1連通路59およびRr第2連通路60に連通している。**増リニアはECU10から駆動信号が供給されていない場合は閉弁状態に維持される。また、**増リニアは、ECU10から駆動信号が供給された場合に、高圧通路70側からFr第1連通路51,Fr第2連通路52,Rr第1連通路59,Rr第2連通路60側へ、駆動信号に応じたホイールシリンダ圧が発生するようにブレーキフルードを流入させる。
Fr第1連通路51,Fr第2連通路52,Rr第1連通路59およびRr第2連通路60には、それぞれ、FR減圧用リニア制御弁90、FL減圧用リニア制御弁92、RR減圧用リニア制御弁94およびRL減圧用リニア制御弁96が連通している。以下、これらの減圧用リニア制御弁を、それぞれ、FR減リニア90、FL減リニア92、RR減リニア94およびRL減リニア96と称す。また、これらの減圧用リニア制御弁を総称する場合は「**減リニア」と称す。
**減リニアには、リザーバタンク18に連通するリザーバ通路66が連通している。**減リニアは、ECU10から駆動信号が供給されていない場合は閉弁状態に維持される。また、**減リニアは、ECU10から駆動信号が供給された場合に、Fr第1連通路51,Fr第2連通路52,Rr第1連通路59,Rr第2連通路60側から、すなわち、ホイールシリンダ53,56,61,64側からリザーバ通路66側へ、駆動信号に応じたホイールシリンダ圧が発生するようにブレーキフルードを流出させる。
次に、本実施の形態の液圧ブレーキ装置の動作について説明する。本実施の形態のシステムにおいて、システムが備えるすべての制御弁をオフ状態、すなわち、図1に示す状態に維持すると、各輪のホイールシリンダ53,56,61,64を、アキュムレータ72から遮断し、かつ、機械式増圧弁26、逆流抑制手段25およびマスタシリンダ16と導通させることができる。この場合、左右前輪FR,FLのホイールシリンダ53,56には、機械式増圧弁26で増圧された液圧Pcが導かれる。また、左右後輪RR,RLのホイールシリンダ61,64にはマスタシリンダ16で発生されたマスタシリンダ圧PM/Cが導かれる。
上述のように、機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16が発生するマスタシリンダ圧PM/Cをパイロット圧として、機械的な機構により液圧Pcを発生する。したがって、上記の状況下では、すべてのホイールシリンダ53,56,61,64のホイールシリンダ圧PM/Cを、何ら電気的な制御を介在させることなく、マスタシリンダ16を液圧源として制御することができる。以下、上述のように、マスタシリンダ16を液圧源として(すなわち、電気的な制御を介在させることなく)ホイールシリンダ圧PM/Cを制御する手法をマスタ加圧と称す。
本実施の形態のシステムにおいて、システムが備えるすべての開閉弁をオン状態とすると、すなわち、Frメインカット弁50、Frサブカット弁55、Rrメインカット弁58およびRrサブカット弁63を閉弁状態とし、かつ、Rr増圧カット弁84を開弁状態とすると、すべてのホイールシリンダ53,56,61,64を機械式増圧弁26、逆流抑制手段25およびマスタシリンダ16から遮断し、かつ、すべての**増リニアの上流側にアキュムレータ圧PACCを導くことができる。
上記の状況下で、各車輪に対応する出力信号pFR,pFL,pRR,pRLが目標のホイールシリンダ圧PW/C と一致するように**増リニアおよび**減リニアを制御すると、各車輪のホイールシリンダ圧PM/Cを、アキュムレータ72を液圧源として目標のホイールシリンダ圧PM/Cに制御することができる。このように、本実施の形態のシステムによれば、すべての開閉弁をオン状態とし、かつ、**増リニアおよび**減リニアを適当に制御することで、マスタシリンダ16を液圧源として用いることなく、アキュムレータ72を液圧源として、各車輪のホイールシリンダ圧PM/Cを電気的な制御のみを用いて適正に制御することができる。以下、このような制御手法を、ブレーキバイワイヤ加圧(BBW加圧)と称す。
本実施の形態の液圧ブレーキ装置は、システムが正常に機能している場合は、上述したBBW加圧によって各車輪のホイールシリンダ圧PM/Cを調圧する。そして、システムに、BBW加圧の実行を妨げる故障が発生した場合は、マスタ加圧によりホイールシリンダ圧PM/Cを調圧する。上述のように、本実施の形態の液圧ブレーキ装置は、アキュムレータ圧PACCが正常に昇圧されている場合には、マスタ加圧の実行中においてもアキュムレータ圧PACCを利用して、左右前輪FR,FLのホイールシリンダ53,56にマスタシリンダ圧PM/Cに比して高圧の液圧Pcを導くことができる。このため、本実施の形態の液圧ブレーキ装置によれば、システムの故障時においてもアキュムレータ圧PACCを有効利用を図ることができる。
また、本実施の形態の液圧ブレーキ装置は、アキュムレータ圧PACCが正常に昇圧されていない場合には、機械式増圧弁26側から高圧通路70側へ液圧が開放されるのを防止しつつ、マスタシリンダ16で発生されるマスタシリンダ圧PM/Cを、左右後輪RR,RLのホイールシリンダ61,64のみならず、左右前輪FR,FLのホイールシリンダ53,56にも導くことができる。このため、本実施の形態の液圧ブレーキ装置によれば、システムの故障に対して優れたフェールセーフ機能を実現することができる。
なお、上記の実施の形態においては、ポンプ機構68およびアキュムレータ72が「高圧源」に、機械式増圧弁26の段付きピストン35が「移動部材」に、ボール弁41、弁座44およびニードルバルブ39が「連通制御機構」に、それぞれ相当している。また、ECU10は、BBW加圧の実行を妨げる故障を検出した際に、マスタ加圧を実行することによりフェールセーフが実現されている。
ところで、上記の実施の形態においては、移動部材および連通制御機構を、段付きピストン35、ボール弁41、弁座44およびニードルバルブ39等を用いて実現しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、加圧室45の液圧と高圧室47の液圧とのバランスで変位し、高圧導入孔33および大気導入孔34の一方を選択的に調圧室46に導通させるスプールバルブを用いて移動部材および連通制御機構を実現してもよい。
また、上記の実施の形態において、機械式増圧弁26は、ドレン室48が大気導入孔34から大気圧通路27を介してリザーバタンク18に連通させられていたが、大気導入孔34に大気圧通路27を接続せず、単純に大気開放するようにしてもよい。つまり、ドレン室48が常に大気圧に保たれていればよい。
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。