JP5406946B2 - レーシング用バケットシート及びそれを備えたレーシング用クーリングシステム - Google Patents
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Description
しかしながら、乗用車に使用されるシートのクッション材に比べてバケットシートのクッション材は極めて薄いため、その中を配策するホースの径には制限がある。よって、このような制限のある配管内を空気が流通する際、空気抵抗が極めて大きかった。加えて、バケットシートの内側にホースを配策するため、ドライバの体重がかかると、ホース自体が潰れてしまい、更に空気抵抗が大きくなるという問題があった。この空気抵抗に打ち勝って所定流量の空気を供給するには、かなり大型のエアポンプ等が必要となり、軽量化が要求されるレースシーンでは採用が極めて困難であった。
2 ダッシュパネル
3 車室
4 ウインドウシールド
5 ヘルメット
6 レーシング用バケットシート
6a ホース
9 クッション材
9a クッション材貫通孔
10 表皮材
51 空気取り入れ口
52 冷却カバー
53 ホース
54 冷気空間
60 シートシェル
60a シェル貫通孔
64 背もたれ部
66 座面部
70 アウターシェル
73,74 アッパ側空気導入口
75 ロア側空気導入口
79 蓋部材
81 ホース
82 バンド
100 流路
A 第1供給口
B 第2供給口
C 第3供給口
図1は実施例1のレーシング用クーリングシステムを表す概略図である。尚、図1はレース用車両の内部が理解しやすいように模式的に示した図であり、詳細な部分についての説明は省略する。レース用車両の車両前方にはエンジンルーム1が設けられ、内燃機関であるエンジンEngが搭載されている。尚、実施例1ではドライバの前方にエンジンEngが配置された構成を示すが、ドライバの後方にエンジンEngが搭載されていてもよく、特に限定しない。エンジンEngの出力は図外のトランスミッション等を介して駆動輪に伝達される。レース用車両の車室3とエンジンルーム1とは、ダッシュパネル2を介して隔成されている。普通乗用車の場合、ダッシュパネル2には防音・断熱材等が貼り付けられているが、レース用車両の場合には、火災時の安全性と軽量化の観点から防音・断熱材等は全て取り外されている。よって、車室3内にはエンジンルーム1の熱が伝達されやすく、ウインドウシールド4からの太陽光と相俟って、密閉された車室3内の温度は60℃以上に達する。
(エアコン)
レース用車両には、エアコンが搭載されている。このエアコンは、コンデンサ101と、コンプレッサ103と、クーリングユニット104とを有し、空気を冷却して冷気を供給する周知の構成である。実施例1の場合、クーリングユニット104は車室3内の助手席側のフロア面に設置されている。コンデンサは車両後方の床面に低く置かれ、トランク上面から冷却風を導入して冷却する。コンプレッサ103の駆動は図外の駆動軸からプーリを介して動力を取り出し、これにより駆動する。尚、エンジンEngから直接動力を取り出してもよく特に限定しない。
実施例1のレース用車両では、レース中において車室3内の温度が60℃以上に達するため、車室3内全体を冷却しようとすると、極めて大型のエアコンを搭載する必要がある。この場合、エアコン自体の重量増を招くほか、大型コンプレッサの駆動に駆動力を取られてしまい、走行性能の悪化を招く。しかし、実施例1の場合、特定の箇所のみ冷却する構成であるため、小型容量のエアコンで対応可能である。
ヘルメット5には、外気とヘルメット内部との間の空気を流通する空気取り入れ口51が複数形成されている。ヘルメット5には、複数の空気取り入れ口51を取り囲み、ヘルメット上部に冷気空間54を形成する冷却カバー52が取り付けられている。この冷却カバー52はヘルメット5の上部に外側から嵌め込むタイプであり、容易に着脱可能に構成されている。冷却カバー52には第2供給口(B)に接続されたホース53が接続され、冷気空間54内に冷気を供給する。これにより、冷気空間54から空気取り入れ口51に冷気が導入され、ヘルメット内部の温度と湿度を低下させることができる。
ドライバの胸部分には、第3供給口(C)に接続されたホース81が取り付けられている。ホース81は、レーシングスーツに取り付けられたバンド82により固定される。ホース81の開口83は、ヘルメット5の下方であって、ドライバの首元とヘルメット内部との隙間に冷気を供給可能に取り付けられる。これにより、エアコンからの冷気がドライバの口を中心に、顔面と首筋に送られる。首筋を冷却することは、血流が盛んな箇所を冷却することに繋がり、体温の低下に効果的であることは言うまでもないが、それ以上に、ドライバが冷気を吸気することが極めて大きな冷却効果をもたらす。すなわち、呼吸によって冷気を口腔内、鼻腔内を冷却することで、脳内の中枢神経近傍を直接冷却することができ、更に、冷気を肺の中に取り込むことで、体内から冷却する効果も得られるのである。
・レーシング用バケットシートの構成
次にレーシング用バケットシートへの冷気供給について説明する。図2から図8は実施例1のレーシング用バケットシートの構成を表す図である。レーシング用バケットシート6は、カーボン素材によって一体的に形成され、シートの基本骨格を形成するシートシェル60と、シートシェル60のドライバ着座側に設置されたクッション材9(図8参照)と、クッション材9を表面から全体的に覆う表皮材10を有する。クッション材9は立体成形されたシートシェル60とドライバとの間を隙間無く密着させるために取り付けられるものであり、スポンジなどの低反発素材が用いられる。表皮材10は通気性に優れた布素材が用いられている。
ホース6aから冷気が供給されると、アッパ側空気導入口73からアッパ側チャンバー78に冷気が導入される。この冷気はアッパ側チャンバー78から層状の流路100内にバランスよく供給される。層状の流路100は幅250mm以上、厚さ10mm以上の断面形状を有することから、2〜3mm程度の径を有する長いパイプを配管する構成に比べて流路抵抗がはるかに小さい。層状の流路100にはシェル貫通孔60a及びクッション材貫通孔9aから表皮材10を通ってドライバに供給される。シェル貫通孔60a及びクッション材貫通孔9aの直径は10mmであり、また、流路も極めて短いため、やはり流路抵抗は小さい。シートシェル自体に貫通孔を形成するため、パイプを配管する場合よりも太い冷気供給口を形成することができ、また、ドライバによって押しつぶされるようなこともない。
実施例1のレーシング用クーリングシステムをレース用車両に搭載し、実際のレースと同様に走行試験を行った。その結果、ヘルメットへの冷却によってドライバの頭部は走行試験後、ほぼ乾いた状態であった。また、レーシング用バケットシートによって胴体だけでなく、大腿部まで冷却することができた。よって、走行試験終了後も、通常のシートであればドライバの汗でクッション材までびっしょりと濡れているのが普通であるが、このシステムによってほぼ乾いた状態を保つことができた。また、頚部への冷気供給により、ドライバの背面側からだけでなく、肺の中から冷却することができ、正面側においても十分に冷却することができた。以上より、実施例1のクーリングシステムによって過酷な環境下であってもドライバを十分に冷却することができ、ドライバの熱中症をほぼ完璧に予防することができた。
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)座面部と背もたれ部が一体成形されたシートシェル60と、シートシェル60のドライバ着座側である表面側に設置されたクッション材9と、クッション材9を覆う表皮材10と、シートシェル60に形成された複数のシェル貫通孔60aと、クッション材9のシェル貫通孔60aに対応する位置に形成されたクッション材貫通孔9aと、シートシェル60に固着されシェル貫通孔60aをシートシェル60の裏面側から覆うと共にシートシェル60の裏面との間に層状の流路100を形成するアウターシェル70と、流路100に空気を導入する空気導入口73と、を備えた。
よって、ドライバの体表面温度及び湿度を効果的に低下させることができる。また、層状の流路100を形成することで、径に制限があるパイプを配管して冷気を供給する場合に比べて、はるかに小さな流路抵抗とすることができる。また、シートシェル60にシェル貫通孔60aが設けられているため、ドライバの体重によって配管が押しつぶされることがなく、安定した供給口を提供できる。また、シェル貫通孔60aは、径の制限があるパイプを配管する場合よりも径を大きくすることができ、多くの空気を供給することができる。
(3)上記(1)または(2)に記載のレーシング用バケットシートにおいて、アウターシェル70は、座面部66から背もたれ部64にかけて配置されている。よって、ドライバを広範囲に亘って冷却することができる。尚、実施例1のようにアウターシェル70を一体成形することで、部品点数を削減できるとともに、レーシング用バケットシートの強度を向上することができる。
(4)上記(1)ないし(3)いずれか一つに記載のレーシング用バケットシートにおいて、空気導入口73,74,75は、流路100の端部に形成されている。これにより、導入した冷気を効率的に全体に供給することができる。
(6)上記(5)に記載のレーシング用バケットシートにおいて、複数の空気導入口のうち、空気が導入されない空気導入口を塞ぐ蓋部材79を有する。これにより、他の空気導入口から冷気が漏れることがなく、導入された冷気を効率よくドライバに供給することができる。
(8)上記(7)に記載のレーシング用クーリングシステムにおいて、エアコンは、ヘルメット内に冷気を供給する第2供給口(B)を有する。これにより、冷気空間54から空気取り入れ口51に冷気が導入され、ヘルメット内部の温度と湿度を低下させることができる。
(9)上記(7)または(8)に記載のレーシング用クーリングシステムにおいて、エアコンは、ドライバの口元へ冷気を供給する第3供給口(C)を有する。これにより、呼吸によって冷気を口腔内、鼻腔内を冷却することが可能となり、脳内の中枢神経近傍を直接冷却することができる。更に、冷気を肺の中に取り込むことで、体内から冷却することができる。
以上、実施例1について説明したが、他の構成を採用しても本発明に含まれる。実施例1では、エアコンを使用したレーシング用クーリングシステムとしたが、エアコンを使用せず、外気を導入してレーシング用バケットシート等に空気を導入することとしてもよい。車室内温度は60℃以上にもなることから、例え外気温が35℃以上といった高温地域でのレースであっても、外気を積極的に導入することでドライバにとっての体感温度を下げることができるからである。また、空気をドライバの体表に流通させることで、汗を積極的に乾かすことができ、気化熱によって体表を冷却することができる。また、汗を乾かすことで更に汗をかくことが可能となるため、ドライバの体温を低下することができる。
Claims (9)
- 座面部と背もたれ部が一体成形されたシートシェルと、
前記シートシェルのドライバ着座側である表面側に設置されたクッション材と、
該クッション材を覆う表皮材と、
前記シートシェルに形成された複数のシェル貫通孔と、
前記クッション材の前記シェル貫通孔に対応する位置に形成されたクッション材貫通孔と、
前記シートシェルに固着され前記シェル貫通孔を前記シートシェルの裏面側から覆うと共に前記シートシェルの裏面との間に層状の流路を形成するアウターシェルと、
前記流路に空気を導入する空気導入口と、
を備えたことを特徴とするレーシング用バケットシート。 - 請求項1に記載のレーシング用バケットシートにおいて、
前記シェル貫通孔は、前記座面部から前記背もたれ部にかけて配置されていることを特徴とするレーシング用バケットシート。 - 請求項1または2に記載のレーシング用バケットシートにおいて、
前記アウターシェルは、前記座面部から前記背もたれ部にかけて配置されていることを特徴とするレーシング用バケットシート。 - 請求項1ないし3いずれか一つに記載のレーシング用バケットシートにおいて、
前記空気導入口は、前記流路の端部に形成されていることを特徴とするレーシング用バケットシート。 - 請求項4に記載のレーシング用バケットシートにおいて、
前記空気導入口は、複数形成されていることを特徴とするレーシング用バケットシート。 - 請求項5に記載のレーシング用バケットシートにおいて、
前記複数の空気導入口のうち、空気が導入されない空気導入口を塞ぐ蓋部材を有することを特徴とするレーシング用バケットシート。 - 座面部と背もたれ部が一体成形されたシートシェルと、前記シートシェルのドライバ着座側である表面側に設置されたクッション材と、該クッション材を覆う表皮材と、前記シートシェルに形成された複数のシェル貫通孔と、前記クッション材の前記シェル貫通孔に対応する位置に形成されたクッション材貫通孔と、前記シートシェルに固着され前記シェル貫通孔を前記シートシェルの裏面側から覆うと共に前記シートシェルの裏面との間に層状の流路を形成するアウターシェルと、前記流路に空気を導入する空気導入口と、を備えたレーシング用バケットシートと、
動力源によって駆動され冷気を前記空気導入口に供給する第1供給口を有するエアコンと、
を備えたことを特徴とするレーシング用クーリングシステム。 - 請求項7に記載のレーシング用クーリングシステムにおいて、
前記エアコンは、ヘルメット内に冷気を供給する第2供給口を有することを特徴とするレーシング用クーリングシステム。 - 請求項7または8に記載のレーシング用クーリングシステムにおいて、
前記エアコンは、ドライバの口元へ冷気を供給する第3供給口を有することを特徴とするレーシング用クーリングシステム。
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