JP5406748B2 - 電界放出型電子源及びその製造方法 - Google Patents
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本発明は、電界が印加されることにより電子を放出する電界放出型電子源とその製造方法に関する。
従来、電子顕微鏡、電子線管、X線管等に用いられる電界放出型電子源において、電界が印加されることにより電子を放出する冷陰極(エミッタ)を、グラファイト材に水素などのプラズマを照射してグラファイト材上にナノ構造体を形成した炭素材で形成することが知られている。その冷陰極を構成するグラファイト材料として、水素などのプラズマ処理を施すことにより作製されるナノメートルの針状構造を有するグラファイトナノクレータ(GRANC)がある。これは、カーボンナノチューブ等の炭素系電子放出材料に比べて、強電界領域での電子放出特性に優れていることが知られている。
このGRANCが良好な電子放出特性を有する理由として、ナノメートルの針状構造への強力な電界集中があげられるが、これに用いられる炭素材は、重金属を含む炭素材でなければならない。加えて、高効率で良好な電界放出特性を得るためには、電界集中係数を高める必要があり、そのためにプラズマ照射前処理として、予め機械加工等によりマイクロメートル領域にまで炭素材自体の先鋭化を図ることが必要である。更に、電子放出に好適なナノ構造を実現するためには、上記の前処理で先鋭化した炭素材について水素プラズマ等を用いてエッチング処理を行う必要がある(特許文献1参照)。
上記のように、従来のGRANCを冷陰極として用いる電界型電子放出源では、プラズマエッチング前の前処理として、炭素基材の先端を機械加工等でマイクロメートル領域まで先鋭化することが必要であり、原材料の加工にコストがかかる。この先鋭化は、化学的加工によっても実現できるが、その後にプラズマ照射等によるエッチング処理が必要とされるため、その処理に必要な装置とその使用にコストがかかっていた。
また、プラズマ照射を行うには真空装置が必須であり、素材を真空チャンバに装填するといった操作を必要とするため、歩留まりが低い原因となっていた。
本発明は、上記のような電界放出型電子源の製造に際し、冷陰極を構成する炭素材の表面に炭素のナノメートル構造(炭素シートが重なり合った構造)を形成することで炭素材の先鋭化を実現すると共に、その先鋭化を1回の工程で行うことで製造コストを抑えることができる製造方法と、この方法で製造された電界放出型電子源を提供することを目的とする。
本発明は、電界が印加されることにより電子を放出する冷陰極を備えた電界放出型電子源の製造方法であって、前記冷陰極の素材となる炭素材を水素酸素混合ガスの燃焼炎に暴露することで、該炭素材の表面に炭素のナノメートル構造を形成するエッチング処理を行い、得られた炭素材で前記冷陰極を形成することを特徴とする。
本発明の方法によれば、炭素材を水素酸素混合ガスの燃焼炎に暴露するという1回の工程(エッチング処理)で、該炭素材のマイクロメートル領域に至る先端の先鋭化と同時に、先鋭化された先端の表面に炭素のナノメートル構造が形成される。そして、この炭素材で電界放出型電子源の冷陰極を形成する。従って、従来の真空中でのプラズマ照射のように手間とコストがかかる工程が不要であり、歩留まりが良く低コストで、優れた電界放出特性を有する電界放出型電子源が得られる。
本発明のもう1つの態様は、電界が印加されることにより電子を放出する冷陰極を備えた電界放出型電子源であって、前記冷陰極の素材となる炭素材を水素酸素混合ガスの燃焼炎に暴露することで、該炭素材の表面に炭素のナノメートル構造を形成するエッチング処理を行い、得られた炭素材で前記冷陰極を形成したことを特徴とする。
本発明の電界放出型電子源では、冷陰極を構成する炭素材の先端をマイクロメートルの領域まで先鋭化すると同時に、その先鋭化された先端部の表面に数ナノメートル程度のナノ構造を形成することができるので、その製造工程を1回とすることができて製造コストを抑えることが可能となる。
本発明の電界放出型電子源において、前記冷陰極から放出された電子が向かうターゲットと該冷陰極との間で前記冷陰極の周囲に制御電極が配置され、前記ターゲットと前記制御電極との間に、前記ターゲットと前記冷陰極との間に印加するのと同じ電圧が印加されることが好ましい。
この構成によれば、制御電極が、ターゲットと冷陰極との間の距離よりもターゲットと制御電極との間の距離が短くなるように配置されるので、エミッタよりもそれを囲む制御電極の電界強度が強く、X線発生ターゲットで発生したイオンは、冷陰極に向かうより制御電極に向かっていく。このため、冷陰極の先端部におけるイオン衝撃頻度は従来の電界放出型電子源に比して圧倒的に小さくなり、該イオンによる冷陰極先端部の破壊を抑制することができる。
以下、本発明による電界放出型電子源の製造方法について説明する。
まず、電界放出型電子源の冷陰極(エミッタ)を形成する炭素材は、炭素を含有する材料であればよく、その形状は棒状(ロッド型)又は板状でよい。この炭素材を水素及び酸素の燃焼炎(トーチ)に暴露して600度C以上の高温に加熱することにより、上記燃焼炎中の水蒸気、残留酸素及び水素による炭素材のエッチング効果を利用して炭素材の先鋭化を達成することができる。
具体的には、図1に示すように、棒状又は板状の炭素材10を水素酸素混合ガス(モル比で水素:酸素= 4.5:1程度)の燃焼炎11内(高温加熱域)に暴露する。炭素材10が2000°C以上に加熱されると、炭素材中の炭素が酸化及び水素化などにより、エッチングされる。
この工程によれば、炭素材の水素酸素燃焼炎への暴露は大気圧中で実施できるので、簡便な設備で炭素材のマイクロメートル領域に至る先端の先鋭化とナノ構造の作製を実現できる。この先鋭化は、上記の燃焼炎による高温状態下で行うことにより、効率が高く機械加工による先鋭化に匹敵するものとなる。
このとき、水素燃焼炎によるエッチングの効果は、凡そ600度C(約900度K)以上では急激に失われるため、水素燃焼炎を用いることでは、上記のように機械加工に匹敵する炭素材の先鋭化を行うことができない。しかしながら、水素燃焼炎に酸素を加えて徐々に燃焼温度を上げていくと、燃焼炎中の主な分子種はH2Oとなり、この新たに生成されたH2Oは、約900度K以上では、炭素材料をエッチングする効果を有するようになる。更に2300度K以上では、非常に高い反応性を示すようになる。
上記のように炭素材が水素酸素燃焼炎に暴露されることにより、炭素材に含まれる炭素原子は、与えられた熱で分解及び再構成され、後述の図3(B)に示すように、数〜数十ナノメートル程度の炭素シートが炭素材の長尺方向に束ねられた構造を形成するようになる
このような炭素シートを備えた炭素材で冷陰極(エミッタ)を形成した電界放出型電子源において、冷陰極に強い電界が印加されると、電界放出により炭素シートの端部から電子が放出される。その電子放出による単位径あたりの電流は、GRANCよりも大きい。従って、上記の炭素シート構造は、大電流が要求される真空デバイス(X線管、電界放出ランプなど)に好適な炭素系電界放出材料となり得る。
このような炭素シートを備えた炭素材で冷陰極(エミッタ)を形成した電界放出型電子源において、冷陰極に強い電界が印加されると、電界放出により炭素シートの端部から電子が放出される。その電子放出による単位径あたりの電流は、GRANCよりも大きい。従って、上記の炭素シート構造は、大電流が要求される真空デバイス(X線管、電界放出ランプなど)に好適な炭素系電界放出材料となり得る。
また、一般的に、カーボンナノチューブ等の炭素系ナノ材料の作製には、重金属からなる触媒を用いなければならないが、本発明によれば、電子放出源に好適なナノ構造を作製するために触媒を用いる必要がない。従って、この点からも、製造コストを削減できる。
図2(A)及び(B)は、エッチング前及びエッチング後の炭素材の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。エッチングが施された時間は10秒である。この例では、グラファイト粒子を有機物系接着剤で固めたものを無酸素雰囲気化で炭化した炭素材を利用した。作製した炭素材中に重金属類は確認されなかった。写真から機械加工を施すことなく先端が先鋭化されていることが確認できる。
図3(A)及び(B)は、エッチング前後の炭素材の拡大写真である。図3(A)に示すエッチング前の状態では、炭素材を構成するグラファイトがランダムに配列していることを確認できる。一方、図3(B)に示すように、エッチングが施された炭素材表面には、数ナノメートル程度の炭素シートが長尺方向に向かって配向している。これは、高温エッチングに伴って、炭素材中の炭素原子が高温処理により炭素シートを形成したことによると考えられる。
次に、本発明の方法で製造される電界放出型電子源の使用例として、電界放出型X線管について説明する。これは、上記炭素材のような電界放出型電子材料からなる冷陰極(エミッタ)に強電界を印加して電子を放出させ、電子をX線発生ターゲットに照射することによってX線を発生させるものである。かかるX線管において、エミッタから電子を放出させるためには、X線発生ターゲットとエミッタとの間に高電圧を印加し、エミッタ先端から電子放出をさせるのに十分な電界強度を与えなければならない。
このタイプのX線管は、図4に模式的に示すように、電界放出型電子源を構成するエミッタ1とX線ターゲット3と制御電極4とをガラス管内に封入し、その内部を高真空状態に保持するように構成される。このX線ターゲット3とエミッタ1との間に電圧源2から高電圧VETを印加すると共に、エミッタ1の先端に強電界を印加することにより、エミッタ1から放出された電子がターゲット3に照射され、ターゲット3からX線が発生する。
図4に示したX線管に用いられている電界放出型電子源は、前述のように作製した炭素材10からなる棒状の冷陰極(エミッタ)1の上方に、制御電極4として円筒状の導電性材料をエミッタ1と心合せして配置した構造である。すなわち、エミッタ1は、制御電極4の中心の下方位置に配置されている。そして、制御電極4は、ターゲット3とエミッタ1との間の距離よりもターゲット3と当該制御電極4との間の距離が短くなるように配置されている。
この構造によれば、電界が図の矢印方向に印加されると、制御電極4の電界強度はエミッタ1のそれよりも強くなる。すなわち、この電界放出型電子源においては、エミッタ1を制御電極4で取り囲み、制御電極4は、これに印加される電界強度がエミッタ1よりも強くなるように配置される。
ここで、エミッタ1と制御電極4が同電位の状態でエミッタ‐ターゲット間に高電圧VETを印加すると、図5に示すように、電気力線がエミッタ1の先端部へ集中するのが緩和される。そして、より高い電界強度が印加された制御電極4へイオンが流れるため、エミッタ1へのイオン流入量が少なくなる。
なお、電気力線の数は、ターゲット・エミッタ間の距離、印加電圧、エミッタ1と制御電極4の幾何学的位置関係等によって変動する。
上記電界放出型電子源では、エミッタ1を囲む制御電極4は、エミッタ1に比べて仕事関数φの高い材料で構成することが好ましい。これにより、エミッタ1からの電子放出よりも制御電極4からの電子放出が優勢となる可能性をなくすことができる。
また、制御電極4は、イオン衝突によるスパッタを生じない材料が好適であり、原子番号の大きい材料或いは共有結合性の強い材料が好ましい。なぜなら、イオンは数10keVのエネルギーを有しているため、スパッタにより更なるイオンの発生が起こり得るからである。
本発明の電界放出型電子源は、図4の構成に限らず、図6に示すように、エミッタ1の上方周囲に針状の制御電極4を複数配置した構造でもよい。この場合、エミッタ1は、その上方円周上に配置した制御電極4からなる円の中心位置に配置されている。そして、制御電極4は、ターゲット3とエミッタ1との間の距離よりもターゲット3と当該制御電極4との間の距離が短くなるように配置されている。
従って、この構造の電界放出型電子源においても、電界が図の矢印方向に印加されると、制御電極4の電界強度はエミッタ1のそれよりも強くなる。このため、より高い電界強度を印加された制御電極4へイオンが流れるので、エミッタ1へのイオン流入量が少なくなり、エミッタ1における電子放出部のスパッタによる破壊が抑えられる。
以上のように、図4及び図6の電界放出型電子源においては、エミッタ1を制御電極4で取り囲み、制御電極4は、ターゲット3とエミッタ1との間の距離よりもターゲット3と制御電極4との間の距離が短くなるように配置されることで、制御電極4に印加される電界強度がエミッタ1に印加される電界よりも強くなる。このため、X線発生ターゲットで発生したイオンは、エミッタ1に向かうよりも多く制御電極4に向かうので、エミッタ1の先端部におけるイオン衝撃頻度は従来の電界放出型X線管に比して圧倒的に小さくなる。これにより、実用に供し得る寿命を有する電界放出型X線管が得られる。
また、別の実施形態として、図4又は図6の電界放出型電子源において、エミッタへのイオン衝突の頻度に応じて、制御電極へのイオンの引き込み量を調節可能とする。図7は、その構成例を示す。
これは、前述のようにエミッタ1と制御電極4を同電位とする構成においても、エミッタ1へのイオン衝突が問題となる場合に対処するものである。具体的には、例えば図4の電界放出型電子源において、エミッタ1と制御電極4との間に、図7に示すようにエミッタ1と制御電極4の間に電位差を設ける調節用可変電源6が接続される。
この電源6は、前述した制御電極4に印加される電界強度がエミッタ1に印加される電界強度よりも強いという電界強度の関係が反転しない(すなわち、エミッタ1に印加される電界強度が、制御電極4に印加される電界強度よりも強くならない)範囲で、電圧を印加するように調節される。こうして制御電極4の電位をエミッタ1の電位より低くする程度を調整することで、制御電極4へのイオンの引き込み量を調整することができ、ひいてはエミッタへのイオンの衝突を更に減少又は微調整することができる。
上記のようにして作製されたエッチング済み炭素材で冷陰極(エミッタ)を形成したX線管(図4)を製作し、その電界放出特性を評価した。このX線管の制御電極4の材料にはTi、X線発生ターゲット3にはBe窓にCuを堆積したものを用いた。また、制御電極4に対して、エミッタ1は1mm程度下方に位置するようにした。これは、制御電極4部分の電界強度をエミッタ1の先端よりも強くすることにより、X線発生ターゲット3から生じるイオンによるエミッタ1の先端部の破壊を抑制するためである。
このX線管内部の真空度は、ゲッター材等を用いて10−7 Pa以下の高真空状態とした。エミッタへのイオン衝撃頻度は真空度に比例するので、できるだけ高真空にすることが必要である。
図8は、上記X線管の電流−電圧特性を示している。この特性から、X線発生ターゲットに電圧を印加すると、閾値電圧4kVで電子放出が確認され、8kV以上の印加電圧で1mAを超える電界放出電流が得られることがわかる。本実施例においては、3mAの直流駆動も可能であることを確認しており、本発明の方法で作製された炭素材からなるエミッタは優れた電界放出特性を有することが明らかとなった。
以上のように、本発明によれば、従来の製造方法に比して遥かに簡便に且つ低コストで、良好な電子放出特性を有する電界放出型電子源を提供することができる。
上記実施形態では、電界放出型電子源をX線管に用いた場合について説明したが、本発明によって得られる電界放出型電子源は、X線管のほか、電界放出電子源を利用する全ての装置、例えば電子線管の電子線源部、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡の電子源部、電子線励起型蛍光灯の電子源部、電子線マイクロプローブアナライザの電子線源部、カソードルミネッセンス装置の電子線源部等に、好適に用いられる。
1・・・エミッタ、2…電圧源、3…ターゲット、4・・・制御電極、5…孔、6…調節電源、10…炭素材、11…水素酸素燃焼炎。
Claims (3)
- 電界が印加されることにより電子を放出する冷陰極を備えた電界放出型電子源の製造方法であって、前記冷陰極の素材となる炭素材を水素酸素混合ガスの燃焼炎に暴露することで、該炭素材の表面に炭素のナノメートル構造を形成するエッチング処理を行い、得られた炭素材で前記冷陰極を形成することを特徴とする製造方法。
- 電界が印加されることにより電子を放出する冷陰極を備えた電界放出型電子源であって、前記冷陰極の素材となる炭素材を水素酸素混合ガスの燃焼炎に暴露することで、該炭素材の表面に炭素のナノメートル構造を形成するエッチング処理を行い、得られた炭素材で前記冷陰極を形成したことを特徴とする電界放出型電子源。
- 請求項2に記載の電界放出型電子源において、該冷陰極から放出された電子が向かうターゲットと該冷陰極との間で、前記冷陰極の周囲に制御電極が配置され、前記ターゲットと前記制御電極との間に、前記ターゲットと前記冷陰極との間に印加するのと同じ電圧が印加されることを特徴とする電界放出型電子源。
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