JP5405330B2 - 磁気記録媒体 - Google Patents

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Description

本発明は、デジタルビデオテープ、コンピュータテープなどの高密度磁気テープに好適に用いることができる塗布型の磁気記録媒体に関する。特に、本発明は、非磁性支持体の少なくとも一方の主面上に、非磁性層と、磁性層とを有する磁気記録媒体に関する。
磁気記録媒体の一つである磁気テープは、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータテープなどの種々の用途に使用されている。特に、データバックアップ用のコンピュータテープの分野では、バックアップ対象となるハードディスクの大容量化に伴い、高容量の磁気テープが要求されている。
上記高容量化を達成するためには、記録密度の向上、すなわち記録信号の短波長化や記録トラック幅の狭幅化が必要とされる。このような記録密度の向上にあたって、短波長記録に対応するため、磁性粉末の微粒子化が図られてきている。しかしながら、微粒子化に伴って磁性粉末の分散性が低下し、磁性層中の磁性粉末の充填性や磁性層の表面平滑性が低下しやすい。そのため、磁性粉末を結合剤とともに、分散剤で表面処理することが提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
また、高密度記録化を目的として記録波長を短縮化していった場合、短波長領域においては磁性層の厚さに起因する厚み損失の影響が大きくなる。かかる観点から磁性層の厚みを低減することが検討されているが、非磁性支持体上に薄層の磁性層を直接形成した場合、非磁性支持体の表面粗さが磁性層表面に影響して、磁性層の表面平滑性が低下しやすい。そのため、非磁性支持体上に、非磁性粉末及び結合剤を含有する非磁性層を形成し、該非磁性層上に薄層の磁性層を形成した重層構成の磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献5)。
特開2005−259276号公報
特開2002−230736号公報
特開平9−231546号公報
特開昭64−064118号公報
特開平5−298653号公報
ところで、塗布型の磁気記録媒体においては、磁気記録媒体が記録再生ヘッドやガイドローラなどのカートリッジ構成部材と摺接した際に、磁性層が損傷し、耐久性が低下することから、磁性層中に脂肪酸や脂肪酸エステルなどの潤滑剤が添加されている。
しかしながら、上記のような高密度記録化を目的として薄層の磁性層を形成した場合、磁性層厚さの低減に伴い、必然的に磁性層中の潤滑剤量が減少するため、耐久性を確保することが難しい。
特許文献5に開示されているような重層構成の磁気記録媒体においては、下層の非磁性層にも脂肪酸や脂肪酸エステルなどの潤滑剤を添加し、非磁性層を潤滑剤供給部として使用することにより、耐久性を確保している。ところが、このような潤滑剤を含有する非磁性層を設けても、高出力を求めるために極めて平滑化された磁性層を形成する必要があるコンピュータテープなどの高密度磁気記録媒体では十分な耐久性を確保することができず、実用特性が不十分となってきている。例えば、LTO(Linear Tape Open)などのコンピュータテープの耐久性試験においては、45℃、10%RHの低湿環境下で磁気テープを略全長に渡って走行させるいわゆる長尺耐久性試験が行なわれている。そして、このような耐久性試験を行なった後でも、初回走行時の出力からの低下が少ないことが求められているが、非磁性層中に上記のような潤滑剤を添加しても、出力の低下を十分に抑えられないことが明らかとなってきた。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、低湿環境下での耐久性に優れる高密度磁気記録媒体を提供することにある。
本発明は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体の少なくとも一方の主面上に、非磁性粉末、結合剤、脂肪酸、及び2.1〜4.7、好ましくは2.1〜3.7の酸解離定数(pka)を有するクエン酸、セリン、及び乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸を含有する非磁性層と、磁性粉末、及び結合剤を含有する磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体である。また、非磁性層中の有機酸の含有量は、前記非磁性粉末100質量部に対して、0.2〜8質量部が好ましい。
本発明によれば、低湿環境下での耐久性に優れる高密度磁気記録媒体を提供することができる。
本発明の実施例に係る有機酸の酸解離定数(pka)と長尺耐久性との関係を示すグラフである。
本発明者等が、低湿環境下での耐久性試験で出力が低下する原因について詳細に検討したところ、ヘッドと磁気テープの摺動摩擦により、ヘッド表面に焼きつき汚れ(ステイン)が発生し、これが一定の高さを有することで、スペーシングロスとなって出力低下を引き起こしていることが確認された。
既述したように、潤滑剤は磁気記録媒体の耐久性を改善するための添加剤として使用されており、そのため、まずスチル耐久性の改善に効果がある脂肪酸エステルを非磁性層に添加し、その種類及び添加量を変更する検討を行なったところ、非磁性層に添加した脂肪酸エステルの磁性層表面への滲出は確認されたが、低湿環境下での耐久性の改善にはその効果が見られなかった。これは、上記低湿環境下での耐久性におけるヘッド焼きつき汚れの発生は記録再生ヘッドと接触する磁性層の摩擦係数の影響が大きく、それゆえスチル耐久性のような一定箇所での潤滑性に寄与し、摩擦係数低減の効果の小さい脂肪酸エステルでは、その効果が得られなかったためと考えられる。そこで、本発明者等は、潤滑剤の中でも磁性層の摩擦係数の低減に大きく寄与する脂肪酸に着目し、該脂肪酸を磁性層表面に良好に滲出させることができれば、低湿環境下での耐久性に優れる磁気記録媒体が得られると考えた。しかしながら、カルボキシル基を有する脂肪酸は、磁性粉末や非磁性粉末に吸着しやすい性質を有することが知られている。塗布型の磁気記録媒体の製造においては、潤滑剤は非磁性粉末及び結合剤を有機溶剤中に分散させた非磁性塗料や、磁性粉末及び結合剤を有機溶剤中に分散させた磁性塗料の調製時に添加されているため、塗料中で磁性粉末や非磁性粉末と脂肪酸とが接触し、それによってこれらの粉末に脂肪酸が吸着する。このような脂肪酸が吸着した状態の粉末を含有する塗料を塗布、乾燥して非磁性層や磁性層を形成した場合、非磁性層中及び磁性層中で、粉末に吸着せず自由に移動できる、フリーな状態で存在する脂肪酸量が減少し、磁性層表面に滲出する脂肪酸量が減少する。つまり、磁性層表面で潤滑機能を発揮すべき脂肪酸が減少することにより、耐久性への効果が低下する。
特に、薄層の磁性層を有する重層構成の磁気記録媒体においては、磁性層中に多量の潤滑剤を含有させることができないため、主として非磁性層中に潤滑剤を含ませておき、非磁性層から上層の磁性層表面に潤滑剤を供給する必要があるが、一旦非磁性粉末に吸着した脂肪酸は非磁性粉末から脱離し難いため、その非磁性粉末に吸着した脂肪酸分だけ磁性層に供給される脂肪酸量が低下することとなる。このような粉末への吸着による脂肪酸量を考慮して、塗料調製時に予め多量の脂肪酸を非磁性塗料や磁性塗料に添加することも考えられるが、脂肪酸は塗膜を可塑化するため、これらの塗料に多量の脂肪酸を添加すると、形成される塗膜が脆弱化し、塗膜剛性が低下して、むしろ耐久性を低下させることとなる。
上記観点から脂肪酸を円滑に非磁性層から磁性層に供給できる塗膜設計について検討した結果、非磁性粉末、結合剤、脂肪酸とともに、2.1〜4.7、好ましくは2.1〜3.7の酸解離定数(pka)を有する有機酸を使用すれば、極めて平滑な表面を有する薄層の磁性層が形成された高密度磁気記録媒体を低湿環境下で耐久性試験を行なっても、出力の低下が少なく、優れた耐久性を確保できることを見出した。
すなわち、上記の酸解離定数(pka)を有する有機酸を含む非磁性層を設けた磁気記録媒体は、このような有機酸を含有していない非磁性層を設けた磁気記録媒体に比べて、同量の脂肪酸を含有させた場合でも、磁気記録媒体から抽出される脂肪酸量を多くすることができる。従って、このような酸解離定数(pka)を有する有機酸は、脂肪酸よりも優先的に非磁性粉末に吸着する性質を有し、それによって脂肪酸の非磁性粉末への吸着が抑えられ、下層の非磁性層を潤滑剤供給部として十分に機能させることができると考えられる。また、上記有機酸は、脂肪酸に比べて、非磁性層を脆弱化させる作用も少ないと考えられる。有機酸の酸解離定数(pka)が2.1未満であると、非磁性粉末への吸着性は優れるが、結合剤の非磁性粉末への吸着が妨げられ、非磁性塗料の分散状態に悪影響が生じたり、非磁性層中にフリーな状態の脂肪酸が多くなりすぎて、磁性層表面に過剰量の脂肪酸が滲出し、テープ走行時の動摩擦の上昇によりテンション変動が生じて、走行安定性が低下したり、また塗膜剛性が低下し、耐久性の低下をもたらす。また、磁性粉末の耐食性も低下しやすくなる。一方、有機酸の酸解離定数(pka)が4.7より高いと、有機酸の非磁性粉末への吸着性が低下して、脂肪酸の非磁性粉末への吸着を十分に抑えることができないため、磁性層表面に滲出する脂肪酸量が低下し、耐久性が低下する。なお、上記有機酸を磁性層に添加することも考えられるが、既述したように薄層の磁性層は厚みが薄いため脂肪酸を多量に含有させることができず、それゆえ上記酸解離定数(pka)を有する有機酸を磁性層のみに添加しても、少量の脂肪酸の使用では、磁性層表面に滲出する脂肪酸量が少なくなる。また、磁性層表面へ滲出させる脂肪酸量を増加させるために磁性層中に多量の脂肪酸を含有させると、磁性層が可塑化し脆弱化する。そのため、いずれの場合においても低湿環境下での耐久性が不十分となる。
上記のような有機酸としては、具体的には、例えば、ギ酸(pka:3.6、以下同様)、酢酸(4.6)、プロピオン酸(4.7)、酪酸(4.6)、ヘキサン酸(4.6)、へプタン酸(4.7)などの脂肪族カルボン酸;マロン酸(2.7)、コハク酸(4.0)、グルタル酸(4.1)、アジピン酸(4.3)、ピメリン酸(4.3)、アゼライン酸(4.4)などの脂肪族ジカルボン酸;安息香酸(4.0)などの芳香族カルボン酸;p−ヒドロキシ安息香酸(4.6)などの芳香族ヒドロキシカルボン酸;クエン酸(2.9)、乳酸(3.7)、リンゴ酸(3.2)などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸;セリン(2.1)、トレオニン(2.2)、チロシン(2.2)などのアミノ酸などが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも、カルボン酸、アミノ酸、及びヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸が好ましく、炭素数が6以下の有機酸がより好ましい。特に、クエン酸、セリン、乳酸、プロピオン酸、及びヒドロキシ安息香酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、クエン酸が最も好ましい。なお、上記酸解離定数(pka)は、平成5年9月丸善(株)発行「改訂4版化学便覧基礎編」第II分冊、第317〜321頁の記載に基づくものである。
非磁性層中の有機酸の含有量は、使用する非磁性粉末や脂肪酸の種類及びそれらの含有量、磁気記録媒体の用途などにより異なるが、非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは0.2〜8質量部であり、より好ましく0.5〜8質量部であり、さらに好ましくは0.5〜5質量部である。有機酸の含有量が0.2質量部以上であれば、有機酸を十分に非磁性粉末に吸着させることができる。一方、有機酸の含有量が多いほど脂肪酸の非磁性粉末への吸着は抑えられるが、余りに有機酸の含有量が多いと、結合剤の非磁性粉末への吸着が妨げられ、その結果、フリーな状態の脂肪酸が多くなりすぎることにより、走行時のテンション変動が大きくなりやすく、また塗膜剛性の低下をもたらすため、カレンダ処理時において、高温のロール表面に塗膜成分が焼きついて、カレンダ汚れが発生しやすくなる。
非磁性層に用いられる非磁性粉末としては、酸化チタン、酸化鉄、アルミナなどが挙げられる。これらは、単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも、有機酸が吸着しやすい酸化鉄単独、または酸化鉄とアルミナの併用がより好ましい。また、上記の比較的硬質な非磁性粉末の代わりに、あるいはこれに加えて、比較的軟質な非磁性粉末を用いてもよい。このような非磁性粉末としては、具体的には、例えば、Na、Ca、Mg、Ca、Baなどの炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩;Cu、Zn、Pb、Snなどの酸化物;各種カーボンブラック;ITO(インジウム−スズ複合酸化物)粉末;有機溶媒に不溶なポリエチレン、ポリプロピレン、架橋ポリスチレン、ベンゾグアナミンなどの有機粉末などが挙げられる。
非磁性粉末の粒子形状は、球状、板状、針状、紡錘状のいずれでもあってもよい。針状または紡錘状の非磁性粉末の平均粒子径は、平均長軸径で10〜200nmが好ましく、平均短軸径で5〜100nmが好ましい。球状の非磁性粉末の平均粒子径は、5〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましい。板状の非磁性粉末の平均粒子径は、最も大きな板径で10〜200nmが好ましい。さらに、平滑且つ厚みムラの少ない非磁性層を形成するためにも、シャープな粒度分布を有する非磁性粉末が好ましく用いられる。なお、本明細書において粉末の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真中の300個の粉末の粒子径の数平均値を意味する。
非磁性層の結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などが挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アルキド系樹脂などが挙げられる。これらの結合剤は、非磁性粉末の分散性を向上し、充填性を上げるために、官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、具体的には、例えば、COOM、SOM、OSOM、P=O(OM)、O−P=O(OM)(Mは水素原子、アルカリ金属塩またはアミン塩)、OH、NR、NR(R,R,R,R及びRは、水素または炭化水素基であり、通常その炭素数が1〜10である)、エポキシ基などが挙げられる。2種以上の樹脂を併用する場合、官能基の極性が一致した樹脂を用いることが好ましく、中でも、SOM基を有する樹脂の組み合わせが好ましい。これらの結合剤の含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは7〜50質量部であり、より好ましくは10〜35質量部である。特に、塩化ビニル系樹脂5〜30質量部とポリウレタン系樹脂2〜20質量部の併用が好ましい。
また、結合剤として上記のような熱硬化性樹脂の代わりに、あるいはこれとともに放射線硬化性樹脂を用いてもよい。放射線硬化性樹脂としては、(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルオリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも分子内に2個以上の二重結合を有し、且つ二重結合1個当り50〜300の重量平均分子量を有する放射線硬化性樹脂が好ましい。このような放射線硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ノボラックジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグルコールジ(メタ)アクリレートなどの二官能(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの三官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの四官能以上の(メタ)アクリレート;上記のモノマーをポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタンなどの骨格で分子鎖延長したオリゴマーなどが挙げられる。非磁性層中の放射線硬化性樹脂の含有量は、他の結合剤と放射線硬化性樹脂の合計量に対して、好ましくは5〜30質量%である。
また、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基等と結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが挙げられる。架橋剤の含有量は、結合剤100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部である。
非磁性層に用いられる脂肪酸としては、従来公知の10〜30の炭素数を有する脂肪酸が挙げられる。脂肪酸は、直鎖型、分岐型、シス・トランス異性体のいずれであってもよいが、潤滑性能に優れる直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、具体的には、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。非磁性層中の脂肪酸の含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは0.2〜5質量部である。潤滑剤の含有量が0.2質量部以上であれば、非磁性層から磁性層へ脂肪酸を十分に滲出させることができ、低湿環境下での長尺耐久性をより向上することができる。脂肪酸の含有量が5質量部以下であれば、非磁性層の強靭性を確保することができる。
非磁性層は、上記脂肪酸とともに、脂肪酸エステルや脂肪酸アミドなどの従来公知の他の潤滑剤を含有してもよい。脂肪酸エステルとしては、具体的には、例えば、オレイン酸n−ブチル、オレイン酸ヘキシル、オレイン酸n−オクチル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸オレイル、ラウリン酸n−ブチル、ラウリン酸ヘプチル、ミリスチン酸n−ブチル、オレイン酸n−ブトキシエチル、トリメチロールプロパントリオレエート、ステアリン酸n−ブチル、ステアリン酸s−ブチル、ステアリン酸イソアミル、ステアリン酸ブチルセロソルブなどが挙げられる。脂肪酸アミドとしては、具体的には、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミドなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。非磁性層中の脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドの含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、合計で、好ましくは0.2〜10質量部である。
非磁性層は、上記の非磁性粉末、有機酸、結合剤、及び脂肪酸を含有していれば、さらに従来公知の分散剤などの添加剤を含有してもよい。このような分散剤としては、具体的には、例えば、上記脂肪酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる金属石けん:上記脂肪酸エステルのフッ素化物;ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル;レシチン;トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルの炭素数は1〜5個であり、オレフィンはエチレン、プロピレンなど);銅フタロシアニンなどが挙げられる。これらは、単独でまたは複数使用してもよい。分散剤の含有量は、非磁性粉末100質量部に対して、好ましくは0.2〜5質量部である。
非磁性層の厚さは、好ましくは0.1〜3μmであり、より好ましくは0.1〜1.2μmである。非磁性層の厚さが0.1μm以上であれば、耐久性の確保に十分な量の脂肪酸を非磁性層に含有させることができる。一方、非磁性層の厚さが3μm以下であれば、磁気記録媒体の全厚が不要に厚くなることが避けられ、体積当りの記録容量を向上させることができる。
磁性層に用いられる磁性粉末としては、具体的には、例えば、強磁性酸化鉄系磁性粉末、コバルト含有強磁性酸化鉄系磁性粉末、六方晶系フェライト磁性粉末、強磁性金属鉄系磁性粉末、窒化鉄系磁性粉末などが挙げられる。磁性粉末の平均粒子径は、好ましくは10〜50nmであり、より好ましくは15〜40nmである。平均粒子径が10nm以上であれば、分散性に優れた磁性塗料を調製することができる。一方、平均粒子径が50nm以下であれば、粒子ノイズを低減することができる。なお、磁性粉末の平均粒子径は、針状の場合は平均長軸径を、板状の場合は最も大きな板径を、長軸長と短軸長の比が1〜3.5である球状ないし楕円体状の場合は最大差し渡し径をそれぞれ意味する。
磁性層の結合剤としては、従来公知の結合剤を使用することができる。これらの中でも、磁性粉末の分散性及び磁性層の剛性を考慮すれば、非磁性層に用いられる結合剤と同様に、塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂と、ポリウレタン系樹脂などの熱硬化性樹脂とを含有する結合剤が好ましい。磁性層中の結合剤の含有量は、磁性粉末100質量部に対して、好ましくは7〜50質量部であり、より好ましく10〜35質量部である。特に、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂を併用する場合、塩化ビニル系樹脂を5〜30質量部、ポリウレタン系樹脂を2〜20質量部使用することが好ましい。また、非磁性層と同様に、結合剤を架橋して磁性層の強度を向上するため、ポリイソシアネートなどの架橋剤を使用することが好ましい。架橋剤の含有量は、結合剤100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部である。
磁性層は、磁性粉末及び結合剤を含有していれば、研磨剤、潤滑剤、分散剤など公知の添加剤をさらに含有してもよい。特に、耐久性の観点から、研磨剤及び潤滑剤が好ましく用いられる。研磨剤としては、具体的には、例えば、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素などが挙げられる。これらは、単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも、6以上のモース硬度を有する研磨剤がより好ましい。研磨剤の平均粒子径は、使用する研磨剤の種類にもよるが、好ましくは10〜200nmである。研磨剤の含有量は、磁性粉末100質量部に対して、好ましくは5〜20質量部であり、より好ましくは8〜18質量部である。潤滑剤としては、非磁性層で用いられる潤滑剤と同様の潤滑剤を使用することができる。これらの中でも、脂肪酸エステルが好ましい。特に、磁性層に潤滑剤を含有させる場合、磁性層中の磁性粉末、研磨剤などの全粉末の総量100質量部に対して、脂肪酸エステルを0.2〜2.5質量部使用することが好ましい。
また、磁性層は、必要により、導電性及び表面潤滑性の向上を目的として、従来公知のカーボンブラックを含有してもよい。このようなカーボンブラックとしては、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。カーボンブラックの平均粒子径は、好ましくは0.01〜0.1μmである。平均粒子径が0.01μm以上であれば、カーボンブラックが良好に分散された磁性層を形成することができる。一方、平均粒子径が0.1μm以下であれば、表面平滑性に優れた磁性層を形成することができる。また、必要により、平均粒子径の異なるカーボンブラックを2種以上用いてもよい。カーボンブラックの含有量は、磁性粉末100質量部に対して、好ましくは0.2〜5質量部であり、より好ましくは0.5〜4質量部である。
磁性層の厚さは、短波長記録特性の向上を目的として、好ましくは10〜150nmであり、より好ましくは20〜100nmであり、さらに好ましくは30〜90nmである。上記磁性層の厚さであれば、短波長記録においても自己減磁作用による記録再生時の厚み損失を低減することができる。このため、最短記録波長が0.5μm以下のシステムにおいても、高出力を得ることができる。特に、このような薄層の磁性層では潤滑剤を多量に含有させておくことができないため、本実施の形態の磁気記録媒体が好適である。
磁性層の長手方向の残留磁束密度と磁性層の厚さとの積は、好ましくは0.0018〜0.05μTmであり、より好ましくは0.0036〜0.05μTmであり、さらに好ましくは0.004〜0.05μTmである。前記積が小さすぎると、再生ヘッドとしてMRヘッドが用いられる場合、再生出力が小さくなる傾向がある。一方、前記積が大きすぎると、MRヘッドが飽和して、再生出力が歪みやすくなる。
磁性層の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で、好ましくは3.4nm以下である。なお、磁性層の表面平滑性が向上するほど、高出力が得られるが、余りに磁性層の表面が平滑化しすぎると、摩擦係数が高くなり、走行安定性が低下する。このため、磁性層の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で、好ましくは1.0nm以上である。
本実施の形態において、非磁性層及び磁性層から洗い出される脂肪酸量は、好ましくは6.0〜16.0mg/mである。上記範囲の脂肪酸量であれば、表面平滑性に優れた磁性層を形成しても低湿環境下で優れた耐久性を有する磁気記録媒体を得ることができる。また、記録再生ヘッドへの磁気記録媒体の貼り付きが抑えられ、テンション変動が抑えられるとともに、カレンダ処理時のカレンダ汚れも低減することができる。
非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体を使用できる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミドなどからなるプラスチックフィルムなどが挙げられる。
非磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、好ましくは1.5〜11μmであり、より好ましくは2〜7μmである。非磁性支持体の厚さが1.5μm以上であれば、成膜性が向上するとともに、高い強度を得ることができる。一方、非磁性支持体の厚さが11μm以下であれば、全厚が不要に厚くならず、高容量の磁気記録媒体が得られる。
非磁性支持体の長手方向のヤング率は、好ましくは5.8GPa以上であり、より好ましくは7.1GPa以上である。非磁性支持体の長手方向のヤング率が5.8GPa以上であれば、走行性を向上することができる。また、ヘリキャルスキャン方式に用いられる磁気記録媒体では、長手方向のヤング率(MD)と幅方向のヤング率(TD)との比(MD/TD)は、好ましくは0.6〜0.8であり、より好ましく0.65〜0.75であり、さらに好ましくは0.7である。上記比の範囲内であれば、磁気ヘッドのトラックの入り側と出側との間の出力のばらつき(フラットネス)を抑えることができる。リニアレコーディング方式に用いられる磁気記録媒体では、長手方向のヤング率(MD)と幅方向のヤング率(TD)との比(MD/TD)は、好ましくは0.7〜1.3である。
非磁性支持体の幅方向の温度膨張係数は、好ましくは−10〜10×10−6であり、幅方向の湿度膨張係数は、好ましくは0〜10×10−6である。上記の範囲内であれば、温度・湿度の変化によるオフトラックが抑えられ、エラーレートを低減することができる。
非磁性層、及び磁性層を形成するにあたっては、上記した各構成材料と有機溶剤とを混合した、非磁性塗料、及び磁性塗料がそれぞれ調製される。これらの非磁性塗料、及び磁性塗料の調製にあたっては、従来から公知の磁気記録媒体の製造で使用されている塗料製造方法を使用できる。具体的には、ニーダなどの混練機による混練工程と、サンドミル、ピンミルなどの分散機による一次分散工程の併用が好ましい。ただし、非磁性塗料の調製にあたっては、脂肪酸の添加前に、非磁性粉末と有機酸とを接触させることが好ましい。脂肪酸の添加前に非磁性粉末と有機酸とを接触させることにより、脂肪酸の非磁性粉末への吸着が抑えられ、非磁性層中にフリーな状態の脂肪酸を多く含有させることができる。このような非磁性塗料の調製方法として、例えば、非磁性粉末、結合剤、及び必要により他の添加剤と、有機溶剤とを混合して混合物を調製し、前記混合物に有機酸を添加し、前記有機酸を添加した後、脂肪酸をさらに添加する調製方法が挙げられる。なお、上記有機酸を添加する混合物は、脂肪酸の添加前であれば、混練工程で調製される混練物、これを有機溶剤で希釈したスラリー、あるいは一次分散工程で調製される分散液のいずれであってもよい。また、混練物、スラリー、分散液に分割して有機酸を添加してもよい。さらに、脂肪酸の添加は、有機酸の添加後であれば、一次分散工程の前後いずれであってもよい。各塗料を調製するにあたって使用される有機溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤;トルエンなどの芳香族系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は単独でまたは複数使用してもよい。
非磁性支持体上に、非磁性塗料及び磁性塗料を塗布するにあたっては、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布などの従来から磁気記録媒体の製造で使用されている塗布方法を使用できる。非磁性塗料及び磁性塗料の塗布は、逐次重層塗布方式(ドライオンウェット法)、同時重層塗布方式(ウェットオンウェット法)のいずれを使用してもよい。なお、本実施の形態の磁気記録媒体は、上記有機酸を含有する非磁性層を少なくとも1層有していれば、複数の非磁性層を有していてもよい。また、磁性層を形成するにあたっては、磁性層が未乾燥のうちに所定の方向に磁界を印加する配向処理を行うことが好ましい。配向処理は、面内配向処理、垂直配向処理いずれであってもよい。また、配向装置としては、永久磁石、ソレノイド磁石など公知の配向手段を単独でまたは複数組み合わせて使用することができる。
本実施の形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が設けられている面と反対面にバックコート層を有していてもよい。バックコート層の厚さは、好ましくは0.2〜0.8μmであり、より好ましくは0.3〜0.8μmである。バックコート層は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを含有することが好ましい。バックコート層の結合剤としては、非磁性層及び磁性層に用いられる結合剤と同様のものを用いることができる。これら中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上するため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂の併用が好ましい。バックコート層の形成は、非磁性層及び磁性層の形成前であってもよいし、形成後であってもよい。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
<実施例1>
[非磁性塗料の調製]
表1に示す非磁性塗料成分(1)を回分式ニーダで混練し、さらに表2に示す非磁性塗料成分(2)を添加して、混練物を調製した。得られた混練物と、表3に示す非磁性塗料成分(3)とをディスパを用いて撹拌して、混合液を調製した。得られた混合液をサンドミル(滞留時間:60分)で分散して分散液を調製した後、分散液と、表4に示す非磁性塗料成分(4)とをディスパを用いて撹拌し、これをフィルタでろ過して、非磁性塗料を調製した。
Figure 0005405330
Figure 0005405330
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[磁性塗料の調製]
表5に示す磁性塗料成分(1)を高速撹拌混合機で高速混合し、得られた混合物を連続式2軸混練機で混練した。次いで、連続式2軸混練機に、表6に示す磁性塗料成分(2)を2段階に分けて加えて混練物を希釈して、スラリーを調製した。このスラリーをサンドミル(滞留時間:45分)で分散した後、得られた分散液と、表7に示す磁性塗料成分(3)とをディスパを用いて撹拌し、これをフィルタでろ過して、磁性塗料を調製した。
Figure 0005405330
Figure 0005405330
Figure 0005405330
[バックコート層用塗料の調製]
下記表8に示すバックコート層用塗料成分を混合した混合液を、サンドミルで分散処理(滞留時間:45分)した。得られた分散液にポリイソシアネート15部を加え、撹拌し、これをフィルタでろ過して、バックコート層用塗料を調製した。
Figure 0005405330
[評価用磁気シートの作製]
非磁性支持体(ポリエチレンナフタレートフィルム,厚さ:6.1μm)上に、上記の非磁性塗料及び磁性塗料を、乾燥及びカレンダ処理後の厚さがそれぞれ1.5μm及び90nmとなるように、エクストルージョン型コータにて同時重層塗布し、非磁性層及び磁性層を形成した。なお、このとき、ソレノイド磁石を用いて配向磁界(400kA/m)を印加しながら、面内配向処理を行った。
次に、上記のバックコート層用塗料を、非磁性支持体の磁性層が形成された面の反対面に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが0.5μmとなるように塗布し、乾燥して、バックコート層を形成した。この非磁性支持体の一面側に非磁性層及び磁性層が、他面側にバックコート層が形成された原反ロールを、7段の金属ロールを有するカレンダ装置でカレンダ処理した(温度:100℃,線圧力:196kN/m)。その後、原反ロールを70℃で72時間硬化処理し、評価用の磁気シートを作製した。
<実施例2>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の配合量を0.2部に変更した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<実施例3>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の配合量を0.5部に変更した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<実施例4>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の配合量を2.0部に変更した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<実施例5>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の配合量を5.0部に変更した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<実施例6>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の配合量を8.0部に変更した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<実施例7>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の代わりに、セリン(SE)[pka:2.1]を使用した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<実施例8>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の代わりに、乳酸(LA)[pka:3.7]を使用した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<実施例9>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の代わりに、p−ヒドロキシ安息香酸(HBA)[pka:4.6]を使用した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<実施例10>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の代わりに、プロピオン酸(PA)[pka:4.7]を使用した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<比較例1>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<比較例2>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の代わりに、ミリスチン酸(MA)[pka:4.9]を使用した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<比較例3>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)のクエン酸の代わりに、シュウ酸(OXA)[pka:1.0]を使用した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<比較例4>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)を使用せず、磁性塗料の調製において、磁性塗料成分(2)の添加前にクエン酸(CA)1.0部を連続式2軸混練機に投入した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料及び磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料及び磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<比較例5>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(2)を使用せず、磁性塗料の調製において、磁性塗料成分(2)の添加前にクエン酸(CA)1.0部を連続式2軸混練機に投入し、磁性塗料成分(2)にステアリン酸を0.8部添加した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料及び磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料及び磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
<比較例6>
実施例1の非磁性塗料の調製において、非磁性塗料成分(3)のステアリン酸を使用せず、ステアリン酸ブチルを2.8部使用した以外は、実施例1と同様にして非磁性塗料を調製した。そして、この非磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用の磁気シートを作製した。
以上のように作製した各評価用磁気シートを用いて以下の評価を行った。表9及び10はこれらの結果を示す。なお、潤滑剤洗い出し量の評価には、評価用磁気シートを1/2インチ幅に裁断した評価用磁気テープを用い、再生出力、長尺耐久性、及びテンション変動の評価には、評価用磁気シートを1/2インチ幅に裁断した磁気テープをLTOカートリッジに組み込んだ評価用カートリッジを用いた。
〔潤滑剤洗い出し量〕
評価用磁気テープを室温下、n−ヘキサンが投入された容器中に25℃で、18時間浸漬した後、さらに1時間超音波処理した。次いで、評価用磁気テープを容器から取り出し、n−ヘキサン中に洗い出されてきた脂肪酸、脂肪酸エステルの各量をゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)により定量し、磁気テープ1m当たりの各潤滑剤洗い出し量を測定した。
〔磁性層の表面粗さ〕
評価用磁気シートの磁性層の表面を、汎用三次元表面構造解析装置(ZYGO社製,NewView5000)で、走査型白色光干渉法(Scan Length:5μm,測定視野:72μm×54μm,対物レンズの倍率:50倍,ズーム:2倍)により測定し、10箇所の平均値から中心線平均粗さ(Ra)求めた。
〔再生出力〕
日立マクセル社製リニアテープ電特測定装置を用い、これにHP社製LTO3ドライブのヘッドを取り付け、テープ速度1.5m/secで、記録波長390nmの信号を磁気テープに記録し、再生した信号を市販のMRヘッド用Readアンプで増幅した後、アジレントテクノロジー社製スペクトラムアナライザーN9020Aを用いて信号の基本波成分強度を測定した。そして、比較例1の再生出力を基準(0dB)として、相対値を評価した。
〔長尺耐久性〕
HP社製LTO3ドライブを用いて、45℃、10%RHの環境下で、評価用カートリッジの磁気テープ全長に渡って、全トラックの信号の書込みを1サイクル(22往復)とする全容量書込みを最大60サイクルまで繰り返した。そして、初回サイクル時の一往復目の平均再生出力から出力が3dB低下するまでのサイクル数を評価した。
〔テンション変動〕
日立マクセル社製動摩擦試験機にHP社製LTO3のヘッドを取りつけ、29℃、80%RHの環境下で、評価用カートリッジの磁気テープを長さ200mの区間で一往復走行させてヘッドの入り側および出側のテープテンションをテンションプローブを用いて測定した。この時の入り側と出側のテンション差をヘッド摩擦とし、往復それぞれの値の平均をとって1サイクル目のヘッド摩擦値を計測した。
次に、評価用カートリッジの磁気テープを長さ200mの区間で往復走行させるサイクルを繰り返し、2万サイクル目に上記と同様の測定を行って2万サイクル目のヘッド摩擦値を計測した。
そして、1サイクル目のヘッド摩擦値に対する2万サイクル目のヘッド摩擦値の割合をテンション変動とし、その値が50%未満の場合を「○」、50%以上200%未満の場合を「△」、200%以上の場合を「×」としてテンション変動を評価した。
〔カレンダ汚れ〕
各評価用磁気シートを作製したときのカレンダのロール汚れ(10,000m走行時)を目視により観察した。そして、汚れが見られない場合を、「○」、若干汚れが見られる場合を、「△」、顕著な汚れが見られる場合を、「×」としてカレンダ汚れを評価した。
Figure 0005405330
Figure 0005405330
上記表に示すように、有機酸の酸解離定数(pka)が低くなるに従って、脂肪酸の洗い出し量が増加することが分かる。これは、非磁性層に有機酸を添加することにより、脂肪酸の非磁性粉末への吸着が抑えられ、非磁性層中にフリーな状態で脂肪酸が含有されているためと考えられる。一方、脂肪酸エステルの洗い出し量は、有機酸の酸解離定数(pka)及びその添加量によって大きな変化が見られないことから、有機酸によって脂肪酸エステルの磁性層表面への滲出は影響されないことが分かる。
図1は、有機酸の酸解離定数(pka)と長尺耐久性との関係を示すグラフである。図に示すように、2.1〜4.7の酸解離定数(pka)を有する有機酸を含む非磁性層を形成した磁気テープは、磁性層が平滑な表面性を有しているが、低湿環境下での長尺耐久性試験において、初回走行時の出力からの低下が少なく、耐久性に優れていることが分かる。これは、これらの実施例の磁気テープにおける脂肪酸の洗い出し量が、非磁性層中に有機酸を含有しないか、あるいは4.7より高い酸解離定数(pka)を有する有機酸を含む磁気テープにおけるそれらと比べて多いことから、上記範囲の酸解離定数(pka)を有する有機酸を使用することにより、非磁性層中にフリーな状態で存在する脂肪酸が磁性層表面に滲出し、それによって非磁性層の潤滑剤供給部としての機能が良好に発揮されているためと考えられる。また、非磁性層中に2.1より低い酸解離定数(pka)を有する有機酸を含む磁気テープは、脂肪酸の洗い出し量は多いが、図1に示されるように非磁性層に有機酸を含有しない磁気テープと同程度の長尺耐久性しか得られないことが分かる。これは、この比較例のカレンダ汚れが顕著であったことから、低すぎる酸解離定数(pka)を有する有機酸は、脂肪酸の非磁性粉末への吸着を抑えることができるが、結合剤の非磁性粉末への吸着も妨げられることと、非磁性層中に過度にフリーな状態の脂肪酸が存在して、塗膜剛性が低下したためと考えられる。特に、2.1〜3.7の酸解離定数(pka)を有する有機酸を含む非磁性層を形成した磁気テープは、長尺耐久性試験において、出力の劣化を極めて抑えられることが分かる。
また、磁性層に有機酸を含有させても、低湿環境下での耐久性は改善されないことが分かる。これは、薄層の磁性層では、潤滑剤を多量に含有させることができないためと考えられる。さらに、磁性層中に有機酸を含有させ、磁性層中の脂肪酸を増量させても、耐久性は改善されないことが分かる。そして、非磁性層が潤滑剤として脂肪酸エステルのみ含有し、脂肪酸を含有していない場合、脂肪酸エステルの洗い出し量が多いにも拘らず、低湿環境下での長尺耐久性は改善されないことが分かる。このため、低湿環境下においては、脂肪酸エステルによる耐久性改善の効果が少ないと考えられる。なお、非磁性層中の有機酸の含有量が多くなっても耐久性は低下しないが、テンション変動、カレンダ汚れが若干劣化する。

Claims (3)

  1. 非磁性支持体と、前記非磁性支持体の少なくとも一方の主面上に、非磁性粉末、結合剤、脂肪酸、及び2.1〜4.7の酸解離定数(pka)を有する有機酸を含有し、前記有機酸が、クエン酸、セリン、及び乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である非磁性層と、磁性粉末、及び結合剤を含有する磁性層とをこの順に有する磁気記録媒体。
  2. 前記有機酸は、2.1〜3.7の酸解離定数(pka)を有する請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 前記非磁性層は、前記非磁性粉末100質量部に対して、前記有機酸を0.2〜8質量部含有する請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
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