本発明の実施の形態である成膜装置は、図1(図3のI−I’線に沿った断面図)に示すように平面形状が概ね円形である扁平な真空容器1と、この真空容器1内に設けられ、当該真空容器1の中心に回転中心を有する回転テーブル2と、を備えている。真空容器1は天板11が容器本体12から分離できるように構成されている。天板11はこの容器本体12の上面に設けられた封止部材、例えばOリング13を介して内部の減圧状態により容器本体12側に押し付けられ気密状態を維持している。天板11を容器本体12から分離するときには図示しない駆動機構により上方に持ち上げられるようになっている。
回転テーブル2は、中心部にて円筒形状のコア部21に固定され、このコア部21は、鉛直方向に伸びる回転軸22の上端に固定されている。回転軸22は真空容器1の底面部14を貫通し、その下端が当該回転軸22を鉛直軸回りにこの例では時計方向に回転させる駆動部23に取り付けられている。回転軸22及び駆動部23は、上面が開口した筒状のケース体20内に収納されている。このケース体20はその上面に設けられたフランジ部分が真空容器1の底面部14の下面に気密に取り付けられており、ケース体20の内部雰囲気と外部雰囲気との気密状態が維持されている。
回転テーブル2の表面部には、図2及び図3に示すように回転方向(周方向)に沿って複数枚例えば5枚の基板であるウエハWを載置するための円形状の凹部24が設けられている。なお図3には便宜上1個の凹部24だけにウエハWを描いてある。ここで図4は、回転テーブル2を同心円に沿って切断しかつ横に展開して示す展開図であり、凹部24は、図4(a)に示すようにその直径がウエハWの直径よりも僅かに例えば4mm大きく、またその深さはウエハWの厚みと同等の大きさに設定されている。従ってウエハWを凹部24に落とし込むと、ウエハWの表面と回転テーブル2の表面(ウエハWが載置されない領域)とが揃うことになる。ウエハWの表面と回転テーブル2の表面との間の高さの差が大きいとその段差部分で圧力変動が生じることから、ウエハWの表面と回転テーブル2の表面との高さを揃えることが、膜厚の面内均一性を揃える観点から好ましい。ウエハWの表面と回転テーブル2の表面との高さを揃えるとは、同じ高さであるかあるいは両面の差が5mm以内であることをいうが、加工精度等に応じてできるだけ両面の高さの差をゼロに近づけることが好ましい。凹部24の底面には、ウエハWの裏面を支えて当該ウエハWを昇降させるための例えば後述する3本の昇降ピンが貫通する貫通孔(図示せず)が形成されている。
凹部24はウエハWを位置決めして回転テーブル2の回転に伴う遠心力により飛び出さないようにするためのものであり、本発明の基板載置領域に相当する部位であるが、基板載置領域(ウエハ載置領域)は、凹部に限らず例えば回転テーブル2の表面にウエハWの周縁をガイドするガイド部材をウエハWの周方向に沿って複数並べた構成であってもよく、あるいは回転テーブル2側に静電チャック等のチャック機構を持たせてウエハWを吸着する場合には、その吸着によりウエハWが載置される領域が基板載置領域となる。
図2及び図3に示すように真空容器1内には、回転テーブル2における凹部24の通過領域と各々対向する位置に、本発明の実施の形態に係わるガスインジェクター31及び反応ガスノズル32と2本の分離ガスノズル41、42とが真空容器1の周方向(回転テーブル2の回転方向)に互いに間隔をおいて中心部から放射状に伸びている。この結果、ガスインジェクター31は、回転テーブル2の回転方向、即ち移動路と交差する方向に伸びた状態で配置されていることになる。これらガスインジェクター31、反応ガスノズル32及び分離ガスノズル41、42は、例えば真空容器1の側周壁に取り付けられており、その基端部であるガス供給ポート31a、32a、41a、42aは当該側壁を貫通している。
これらガスインジェクター31、反応ガスノズル32及び分離ガスノズル41、42は、図示の例では、真空容器1の周壁部から真空容器1内に導入されているが、後述する環状の突出部5から導入してもよい。この場合、突出部5の外周面と天板11の外表面とに開口するL字型の導管を設け、真空容器1内でL字型の導管の一方の開口にガスインジェクター31、(反応ガスノズル32、分離ガスノズル41、42)を接続し、真空容器1の外部でL字型の導管の他方の開口にガス供給ポート31a(32a、41a、42a)を接続する構成を採用することができる。
ガスインジェクター31及び反応ガスノズル32は、夫々第1の反応ガスであるBTBAS(ビスターシャルブチルアミノシラン)ガスのガス供給源及び第2の反応ガスであるO3(オゾン)ガスのガス供給源(いずれも図示せず)に接続されており、分離ガスノズル41、42はいずれも分離ガスであるN2ガス(窒素ガス)のガス供給源(図示せず)に接続されている。また、各ガスインジェクター31、反応ガスノズル32はN2ガスのガス供給源にも接続されており、成膜装置の運転開始時に圧力調節用のガスとして各処理領域P1、P2にN2ガスを供給することができるようになっている。この例では、反応ガスノズル32、分離ガスノズル41、ガスインジェクター31及び分離ガスノズル42がこの順に時計方向に配列されている。
図4に示すように、反応ガスノズル32には、下方側にO3ガスを吐出するためのガス吐出孔33がノズルの長さ方向に間隔をおいて配列されている。また分離ガスノズル41、42には、下方側に分離ガスを吐出するための吐出孔40が長さ方向に間隔をおいて配列されている。一方、BTBASガスを供給するためのガスインジェクター31の詳細な構成については後述する。ガスインジェクター31、反応ガスノズル32は夫々第1の反応ガス供給手段及び第2の反応ガス供給手段に相当し、その下方領域は夫々BTBASガスをウエハWに吸着させるための第1の処理領域P1及びO3ガスをウエハWに吸着させるための第2の処理領域P2となる。
分離ガスノズル41、42は、第1の処理領域P1と第2の処理領域P2との雰囲気を分離する分離領域Dを形成するためにN2ガスを供給する役割を果たし、この分離領域Dにおける真空容器1の天板11には図2〜図4に示すように、回転テーブル2の回転中心を中心としかつ真空容器1の内周壁の近傍に沿って描かれる円を周方向に分割してなる、平面形状が扇型で下方に突出した凸状部4が設けられている。分離ガスノズル41、42は、この凸状部4における前記円の周方向中央にて当該円の半径方向に伸びるように形成された溝部43内に収められている。即ち分離ガスノズル41、42の中心軸から凸状部4である扇型の両縁(回転方向上流側の縁及び下流側の縁)までの距離は同じ長さに設定されている。
なお、溝部43は、本実施形態では凸状部4を二等分するように形成されているが、他の実施形態においては、例えば溝部43から見て凸状部4における回転テーブル2の回転方向上流側が前記回転方向下流側よりも広くなるように溝部43を形成してもよい。
従って分離ガスノズル41、42における前記周方向両側には、前記凸状部4の下面である例えば平坦な低い天井面44(第1の天井面)が存在し、この天井面44の前記周方向両側には、当該天井面44よりも高い天井面45(第2の天井面)が存在することになる。この凸状部4の役割は、回転テーブル2との間への第1の反応ガス及び第2の反応ガスの侵入を阻止してこれら反応ガスの混合を阻止するための狭隘な空間である分離空間を形成することにある。
即ち、分離ガスノズル41を例にとると、回転テーブル2の回転方向上流側からO3ガスが侵入することを阻止し、また回転方向下流側からBTBASガスが侵入することを阻止する。「ガスの侵入を阻止する」とは、分離ガスノズル41から吐出した分離ガスであるN2ガスが第1の天井面44と回転テーブル2の表面との間に拡散して、この例では当該第1の天井面44に隣接する第2の天井面45の下方側空間に吹き出し、これにより当該隣接空間からのガスが侵入できなくなることを意味する。そして「ガスが侵入できなくなる」とは、隣接空間から凸状部4の下方側空間に全く入り込むことができない場合のみを意味するのではなく、多少侵入はするが、両側から夫々侵入したO3ガス及びBTBASガスが凸状部4内で交じり合わない状態が確保される場合も意味し、このような作用が得られる限り、分離領域Dの役割である第1の処理領域P1の雰囲気と第2の処理領域P2の雰囲気との分離作用が発揮できる。従って狭隘な空間における狭隘の程度は、狭隘な空間(凸状部4の下方空間)と当該空間に隣接した領域(この例では第2の天井面45の下方空間)との圧力差が「ガスが侵入できなくなる」作用を確保できる程度の大きさになるように設定され、その具体的な寸法は凸状部4の面積などにより異なるといえる。またウエハWに吸着したガスについては当然に分離領域D内を通過することができ、ガスの侵入阻止は、気相中のガスを意味している。
一方天板11の下面には、図5、図6に示すように回転テーブル2におけるコア部21よりも外周側の部位と対向するようにかつ当該コア部21の外周に沿って突出部5が設けられている。この突出部5は図5に示すように凸状部4における前記回転中心側の部位と連続して形成されており、その下面が凸状部4の下面(天井面44)と同じ高さに形成されている。図2及び図3は、前記天井面45よりも低くかつ分離ガスノズル41、42よりも高い位置にて天板11を水平に切断して示している。なお突出部5と凸状部4とは、必ずしも一体であることに限られるものではなく、別体であってもよい。
凸状部4及び分離ガスノズル41(42)の組み合わせ構造の作り方については、凸状部4をなす1枚の扇型プレートの中央に溝部43を形成してこの溝部43内に分離ガスノズル41(42)を配置する構造に限らず、2枚の扇型プレートを用い、分離ガスノズル41(42)の両側位置にて天板本体の下面にボルト締め等により固定する構成等であってもよい。
この例では分離ガスノズル41(42)は、真下に向いた例えば口径0.5mmの吐出孔40がノズルの長さ方向に沿って例えば10mmの間隔をおいて配列されている。また反応ガスノズル32についても、真下に向いた例えば口径0.5mmの吐出孔33がノズルの長さ方向に沿って例えば10mmの間隔をおいて配列されている。
この例では直径300mmのウエハWを被処理基板としており、この場合凸状部4は、回転中心から例えば140mm離れた後述の突出部5との境界部位においては、周方向の長さ(回転テーブル2と同心円の円弧の長さ)が例えば146mmであり、ウエハWの載置領域(凹部24)の最も外側部位においては、周方向の長さが例えば502mmである。なお図4(a)に示すように、当該外側部位において分離ガスノズル41(42)の両脇から夫々左右に位置する凸状部4の周方向の長さLでみれば、長さLは246mmである。
また図4(b)に示すように凸状部4の下面即ち天井面44における回転テーブル2の表面からの高さhは、例えば0.5mmから10mmであってもよく、約4mmであると好適である。この場合、回転テーブル2の回転数は例えば1rpm〜500rpmに設定されている。分離領域Dの分離機能を確保するためには、回転テーブル2の回転数の使用範囲等に応じて、凸状部4の大きさや凸状部4の下面(第1の天井面44)と回転テーブル2の表面との間の高さhを例えば実験等に基づいて設定することになる。なお分離ガスとしては、N2ガスに限られずArガス等の不活性ガスを用いることができるが、不活性ガスに限らず水素ガス等であってもよく、成膜処理に影響を与えないガスであれば、ガスの種類に関しては特に限定されるものではない。
真空容器1の天板11の下面、つまり回転テーブル2のウエハ載置領域(凹部24)から見た天井面は既述のように第1の天井面44とこの天井面44よりも高い第2の天井面45とが周方向に存在するが、図1では、高い天井面45が設けられている領域についての縦断面を示しており、図5では、低い天井面44が設けられている領域についての縦断面を示している。扇型の凸状部4の周縁部(真空容器1の外縁側の部位)は図2及び図5に示されているように回転テーブル2の外端面に対向するようにL字型に屈曲して屈曲部46を形成している。扇型の凸状部4は天板11側に設けられていて、天板11は容器本体12から取り外せるようになっていることから、前記回転テーブル2の外端面と屈曲部46の内周面、及び屈曲部46の外周面と容器本体12の内周面との間には僅かに隙間がある。そこでこの屈曲部46も凸状部4と同様に両側から反応ガスが侵入することを防止して、両反応ガスの混合を防止する目的で設けられており、屈曲部46の内周面と回転テーブル2の外端面との隙間は、例えば回転テーブル2の表面に対する天井面44の高さhと同様の寸法に設定されている。即ち、この例においては、回転テーブル2の表面側領域からは、屈曲部46の内周面が真空容器1の内周壁を構成していると見ることができる。
容器本体12の内周壁は、分離領域Dにおいては図5に示すように前記屈曲部46の外周面と接近して垂直面に形成されているが、分離領域D以外の部位においては、図1に示すように例えば回転テーブル2の外端面と対向する部位から底面部14に亘って縦断面形状が矩形に切り欠かれて外方側に窪んだ構造となっている。この窪んだ部位における、回転テーブル2の周縁と容器本体12の内周壁との隙間は、各々第1の処理領域P1及び第2の処理領域P2に連通していて、各処理領域P1、P2に供給された反応ガスを排気できるようになっている。これらの隙間を排気領域6と呼ぶことにすると、ここ排気領域6の底部、即ち回転テーブル2の下方側には、図1及び図3に示すように、夫々第1の排気口61及び第2の排気口62が形成されている。
これら排気口61、62は各々排気管63を介して真空排気手段である例えば共通の真空ポンプ64に接続されている。なお図1中、65は圧力調整手段であり、排気口61、62ごとに設けてもよいし、共通化されていてもよい。排気口61、62は、分離領域Dの分離作用が確実に働くように、平面で見たときに前記分離領域Dの前記回転方向両側に設けられ、各反応ガス(BTBASガス及びO3ガス)の排気を専用に行うようにしている。この例では一方の排気口61はガスインジェクター31とこのガスインジェクター31に対して前記回転方向下流側に隣接する分離領域Dとの間に設けられ、また他方の排気口61は、反応ガスノズル32とこの反応ガスノズル32に対して前記回転方向下流側に隣接する分離領域Dとの間に設けられている。
排気口の設置数は2個に限られるものではなく、例えば分離ガスノズル42を含む分離領域Dと当該分離領域Dに対して前記回転方向下流側に隣接する第2の反応ガスノズル32との間に更に排気口を設置して3個としてもよいし、4個以上であってもよい。この例では排気口61、62は回転テーブル2よりも低い位置に設けることで真空容器1の内周壁と回転テーブル2の周縁との間の隙間から排気するようにしているが、真空容器1の底面部に設けることに限られず、真空容器1の側壁に設けてもよい。また排気口61、62は、真空容器1の側壁に設ける場合には、回転テーブル2よりも高い位置に設けるようにしてもよい。このように排気口61、62を設けることにより回転テーブル2上のガスは、回転テーブル2の外側に向けて流れるため、回転テーブル2に対向する天井面から排気する場合に比べてパーティクルの巻上げが抑えられるという観点において有利である。
前記回転テーブル2と真空容器1の底面部14との間の空間には、図1、図7などに示すように加熱手段であるヒータユニット7が設けられており、回転テーブル2を介して回転テーブル2上のウエハWをプロセスレシピで決められた温度に加熱するように構成されている。前記回転テーブル2の周縁付近の下方側には、回転テーブル2の上方空間から排気領域6に至るまでの雰囲気とヒータユニット7が置かれている雰囲気とを区画するために、ヒータユニット7を全周に亘って囲むようにカバー部材71が設けられている。このカバー部材71は上縁が外側に屈曲されてフランジ形状に形成され、その屈曲面と回転テーブル2の下面との間の隙間を小さくして、カバー部材71内に外方からガスが侵入することを抑えている。
ヒータユニット7が配置されている空間よりも回転中心寄りの部位における底面部14は、回転テーブル2の下面の中心部付近、コア部21に接近してその間は狭い空間になっており、また当該底面部14を貫通する回転軸22の貫通穴についてもその内周面と回転軸22との隙間が狭くなっていて、これら狭い空間は前記ケース体20内に連通している。そして前記ケース体20にはパージガスであるN2ガスを前記狭い空間内に供給してパージするためのパージガス供給管72が設けられている。また真空容器1の底面部14には、ヒータユニット7の下方側位置にて周方向の複数部位に、ヒータユニット7の配置空間をパージするためのパージガス供給管73が設けられている。
このようにパージガス供給管72、73を設けることにより図6にパージガスの流れを矢印で示すように、ケース体20内からヒータユニット7の配置空間に至るまでの空間がN2ガスでパージされ、このパージガスが回転テーブル2とカバー部材71との間の隙間から排気領域6を介して排気口61、62に排気される。これによって既述の第1の処理領域P1と第2の処理領域P2との一方から回転テーブル2の下方を介して他方へのBTBASガスあるいはO3ガスの回り込みが防止されるため、このパージガスは分離ガスの役割も果たしている。
また真空容器1の天板11の中心部には分離ガス供給管51が接続されていて、天板11とコア部21との間の空間52に分離ガスであるN2ガスを供給するように構成されている。この空間52に供給された分離ガスは、前記突出部5と回転テーブル2との狭い隙間50を介して回転テーブル2のウエハ載置領域側の表面に沿って周縁に向けて吐出されることになる。この突出部5で囲まれる空間には分離ガスが満たされているので、第1の処理領域P1と第2の処理領域P2との間で回転テーブル2の中心部を介して反応ガス(BTBASガスあるいはO3ガス)が混合することを防止している。即ち、この成膜装置は、第1の処理領域P1と第2の処理領域P2との雰囲気を分離するために回転テーブル2の回転中心部と真空容器1とにより区画され、分離ガスがパージされると共に当該回転テーブル2の表面に分離ガスを吐出する吐出口が前記回転方向に沿って形成された中心部領域Cを備えているということができる。なおここでいう吐出口は前記突出部5と回転テーブル2との狭い隙間50に相当する。
更に真空容器1の側壁には図2、図3に示すように外部の搬送アーム10と回転テーブル2との間でウエハWの受け渡しを行うための搬送口15が形成されており、この搬送口15は図示しないゲートバルブにより開閉されるようになっている。また回転テーブル2におけるウエハ載置領域である凹部24はこの搬送口15に臨む位置にて搬送アーム10との間でウエハWの受け渡しが行われることから、回転テーブル2の下方側において当該受け渡し位置に対応する部位に、凹部24を貫通してウエハWを裏面から持ち上げるための受け渡し用の昇降ピン及びその昇降機構(共に図示せず)が設けられる。
以上に説明した構成を備えた本実施の形態に係る成膜装置において、例えばO3ガスを供給する反応ガスノズル32については、既述のように当該ノズル32の底部に、下方向きに設置された吐出孔33が間隔をおいて配列された構成の従来型のノズルとなっている。これに対して例えばBTBASガスを供給するガスインジェクター31は、背景技術にて説明した膜の波打ち現象を軽減するために、従来型のノズルとは異なった構成を備えている。以下、当該ガスインジェクター32の詳細な構成について図8〜図10を参照しながら説明する。
図8〜図10に示すように、反応ガスノズル32は、例えば石英製の細長い角筒状のインジェクター本体311と、このインジェクター本体311の側面に設けられた案内部材315とを備えている。インジェクター本体311の内部は空洞となっていて、当該空洞はインジェクター本体311の基端部に設けられたガス導入管317から供給されるBTBASガスを通流させるためのガス流路312を構成している。図7に示すようにインジェクター本体311は、基端部側を容器本体12の側壁側へ向け、ガス導入管317を既述のガス供給ポート31aと接続した状態で真空容器1内に配置され、回転テーブル2の表面からインジェクター本体311の底面までの高さは例えば1mm〜4mmとなっている。ガス導入管317は、インジェクター本体311の接続部にて開口し、当該開口部はガス流路312へ反応ガスを導入する導入口となっている。ここで反応ガスノズル32を構成する部材の材料は上述の石英の例に限定されず、例えばセラミック製であってもよい。
図8、図9及び図10(a)に示すように、インジェクター本体311の壁部である側壁部の一方側、例えば回転テーブル2の回転方向から見て上流側の側壁部には、例えば口径0.5mmのガス流出孔313がインジェクター本体311の長さ方向に沿って例えば5mmの間隔をおいて複数個、例えば67個配列されている。ガス流出孔313は、後述のガス吐出口316が伸びる方向へとガス流路312内のBTBASガスを均一に供給する役割を果たす。
ここで本実施の形態に係るインジェクター本体311は、既述のように角筒状に形成されているところ、ガス流出孔313の設けられている側壁部は平坦な平坦部分となっており、当該回転テーブルに対して垂直な状態で配置することが好ましい。ここで当該側壁部が回転テーブル2に対して垂直であるとは、厳密に垂直である場合のみに限定されず、回転テーブルに対する垂直面から、当該側壁部が±5°程度の傾きを持って配置されている場合も含んでいる。
さらにこれらガス流出孔313の配列されたインジェクター本体311の側壁部には、当該ガス流出孔313に対向するように案内部材315が固定されている。案内部材315は、例えば隙間調節部材314を介して前記側壁部に固定され、これら案内部材315と前記側壁部とは例えば互いに平行になるように固定されている。案内部材315は、例えば石英製の部材からなり、ガス流出孔313より吐出されたBTBASガスの流れ方向を回転テーブル2の設けられている方向に案内すると共に、当該ガスの流れを分散させて、成膜される膜へのガス流出孔313の転写を防止する役割を果たす。ここで案内部材315がガス流出孔313の設けられた側壁部に対して平行であるとは、両部材が厳密に平行に配置されている場合のみに限定されず、例えば案内部材315が前記側壁部に対して±5°程度の傾きを持って配置されている場合も含んでいる。この場合においても案内部材315はセラミック製であってもよい。
図10(a)は案内部材315を取り外した状態におけるガスインジェクター31の側面図である。隙間調節部材314は、例えば石英製の厚さの等しい複数の板材から構成され、インジェクター本体311の側壁部のガス流出孔313が配列されている領域を取り囲むように、例えば当該領域の上方側と左右側方側とに配置される。本例において隙間調節部材314の厚さは例えば0.3mmとなっており、案内部材315は、これら隙間調節部材314を介して例えばボルト締めなどによってインジェクター本体311に締結される。ここでも隙間調節部材314はセラミック製であってもよい。
これらの構成により、前記側壁部の外面と案内部材315との間には、例えば図10(b)の底面図に示すように、ガス流出孔313から吐出されたBTBASガスをウエハWへ向けて吐出するスリット状のガス吐出口316が平坦部分である側壁部の一縁側に沿って形成される。ガスインジェクター31はこのガス吐出口316を回転テーブル2に向けた状態でインジェクター本体311内に配置される。また、既述のように隙間調節部材314の厚さは0.3mmであることから、スリット状のガス吐出口316の幅も0.3mmとなっている。
さらにまた既述のようにボルト締めを利用する場合などには、隙間調節部材314や案内部材315がインジェクター本体311から着脱自在となるので、例えば、反応ガスの供給量や種類、回転テーブル2の回転速度など、運転条件の変更に合わせて厚さの異なる隙間調節部材314を用い、ガス吐出口316のスリットの幅を調節することもできる。また、案内部材315の着脱ができる場合には、図10(a)、図10(b)の右側の領域に図示したように、ガス流出孔313の一部を熱的、化学的安定性の高い例えばカプトン(登録商標)製のシール318で塞ぎ、また再度これを取り外すことなどが容易となる。これにより、反応ガスや運転条件の違いによってガス流出孔313の配置間隔を変更したり、ガスインジェクター31の基端側と先端側とでガス流出孔313の配置間隔を異ならせたりすることもできる。
成膜装置全体の説明に戻ると、図1、図3に示すように、この実施の形態の成膜装置には装置全体の動作のコントロールを行うためのコンピュータからなる制御部100が設けられ、この制御部100のメモリ内には装置を運転するためのプログラムが格納されている。このプログラムは後述の装置の動作を実行するようにステップ群が組まれており、ハードディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク、メモリカード、フレキシブルディスクなどの記憶媒体から制御部100内にインストールされる。
次に上述の実施の形態に係る成膜装置の作用について説明する。先ず図示しないゲートバルブを開き、搬送アーム10により搬送口15を介してウエハを外部から回転テーブル2の凹部24内に受け渡す。この受け渡しは、凹部24が搬送口15に臨む位置に停止したときに凹部24の底面の貫通孔を介して真空容器1の底部側から不図示の昇降ピンが昇降することにより行われる。そして回転テーブル2を間欠的に回転させながらこのようなウエハWの受け渡しを行い、回転テーブル2の5つの凹部24内に夫々ウエハWを載置する。続いて真空ポンプ64を稼動させ、圧力調節手段65の圧力調節弁を全開として各処理領域P1、P2を含む空間内を予め設定した圧力に真空引きすると共に、回転テーブル2を時計回りに回転させながらヒータユニット7によりウエハWを加熱する。詳しくは、回転テーブル2はヒータユニット7により予め例えば300℃に加熱されており、ウエハWはこの回転テーブル2に載置されることで加熱される。
このウエハWの加熱動作と並行して、真空容器1内に成膜開始後に供給される反応ガス、分離ガス並びにパージガスと等量のN2ガスを供給して、真空容器1内の圧力調節を行う。例えばガスインジェクター31からは100sccm、反応ガスノズル32からは10,000sccm、各分離ガスノズル41、42からは各々20,000sccm、分離ガス供給管51からは5,000sccmといった量のN2ガスを真空容器1内に供給し、各処理領域P1、P2内の圧力が既述の圧力設定値、例えば1,067Pa(8Torr)となるように、圧力調節手段65にて圧力調節弁の開閉動作を行う。なお、このとき各パージガス供給管72、73からも所定量のN2ガスが供給される。
次いで、ウエハWの温度が図示しない温度センサにより設定温度になったことを確認し、第1、第2の処理領域P1、P2の圧力が各々設定圧力になったことを確認したら、ガスインジェクター31及び反応ガスノズル32より供給するガスを夫々BTBASガス及びO3ガスに切り替え、ウエハWへの成膜動作を開始する。この時、真空容器1内に供給されるガスの総流量が急激に変化しないように各ガスインジェクター31、反応ガスノズル32におけるガスの切り替えはゆっくりと行うとよい。
そして回転テーブル2の回転により、ウエハWは第1の処理領域P1と第2の処理領域P2とを交互に通過するため、各ウエハWにはBTBASガスが吸着し、次いでO3ガスが吸着してBTBAS分子が酸化されて酸化シリコンの分子層が1層あるいは複数層形成され、こうして酸化シリコンの分子層が順次積層されて所定の膜厚のシリコン酸化膜が成膜される。
このとき、ガスインジェクター31より供給されるBTBASガスの挙動を詳細に説明すると、ガス導入管317から供給されたBTBASガスはインジェクター本体311の基端側から先端側へとガス流路312内を流れていくと共に、インジェクター本体311の側壁部に設けられた各ガス流出孔313より流出する。このとき各ガス流出孔313に対向する位置には案内部材315が設けられていることから、例えば図8に示すように、各ガス流出孔313から吐出したBTBASガスは流れ方向が下向きとなるように案内され、スリット状のガス吐出口316へ向けて流れていく。
このとき、ガス流出孔313から吐出されたBTBASガスは、案内部材315に衝突して流れ方向が変えられることから、例えば図9に模式的に示すように、当該ガスは案内部材315へ衝突した際にスリット状のガス吐出口316が伸びる方向に沿って左右に広がり、その後下向きに流れていく。既述のようにガス流出孔313はインジェクター本体311の長さ方向に互いに隣り合って配列されていることから、各ガス流出孔313から吐出されたガスの流れは、案内部材315に衝突して左右に広がる際に、ガスインジェクター31の長さ方向に互いに混じり合いながら流れていく。こうして当該ガスの流れは、ガスインジェクター31の長さ方向にガス濃度が均一化されながらスリット状のガス吐出口316に到達し、細長い帯状の流れとなって処理領域P1に供給される。
このように、BTBASガスはガスインジェクター31の長さ方向に混合されながら処理領域P1に供給されることから、背景技術にて説明した従来型のノズルを用いて同ガスを供給する場合に比べて濃淡差の少ない状態で処理領域P1を通過するウエハW表面に到達することができる。この結果、例えば回転テーブル2の回転速度が高く、反応ガスのウエハWへの吸着状態が平衡に達する前にウエハWが処理領域Pを通過してしまう場合であっても、BTBASガスは、ガス流出孔313が配置されている位置と、これらの間の位置との間での濃淡差の少ない状態でウエハW表面に吸着し、従来型のノズルと比較して波打ちの少ない膜を成膜することが可能となる。
またBTBASガスは例えば口径0.5mmの小さなガス流出孔313を通ってスリット状のガス吐出口316に供給されることから、インジェクター本体311内のガス流路312から当該ガス吐出口316へ向けて流れ出す際のコンダクタンスが小さい。このため、背景技術にて説明したように、例えば既述の波打ち現象の低減を目的として、従来のガスノズルの底面にスリットを設けた場合に生じる現象、即ちスリットを通過する際にBTBASに働くコンダクタンスが大きくなり、ノズルの先端側と基端側とで大きな濃度差が発生して、例えば成膜された膜の膜厚がガスノズルの伸びる方向に、基端側で厚く、先端側で薄くなるといった現象の発生を抑えることもできる。
次に真空容器1内全体のガスの流れについて説明すると、天板11の中心部に接続された分離ガス供給管51からは分離ガスであるN2ガスを供給し、これにより中心部領域Cから即ち突出部5と回転テーブル2の中心部との間から回転テーブル2の表面に沿ってN2ガスが吐出する。この例ではガスインジェクター31、反応ガスノズル32が配置されている第2の天井面45の下方側の空間に沿った容器本体12の内周壁においては、既述のように内周壁が切り欠かれて広くなっており、この広い空間の下方に排気口61、62が位置しているので、第1の天井面44の下方側の狭隘な空間及び前記中心部領域Cの各圧力よりも第2の天井面45の下方側の空間の圧力の方が低くなる。ガスを各部位から吐出したときのガスの流れの状態を模式的に図11に示す。反応ガスノズル32から下方側に吐出され、回転テーブル2の表面(ウエハWの表面及びウエハWの非載置領域の表面の両方)に当たってその表面に沿って回転方向上流側に向かうO3ガスは、その上流側から流れてきたN2ガスに押し戻されながら回転テーブル2の周縁と真空容器1の内周壁との間の排気領域6に流れ込み、排気口62より排気される。
また反応ガスノズル32から下方側に吐出され、回転テーブル2の表面に当たってその表面に沿って回転方向下流側に向かうO3ガスは、中心部領域Cから吐出されるN2ガスの流れと排気口62の吸引作用とにより当該排気口62に向かおうとするが、一部は下流側に隣接する分離領域Dに向かい、扇型の凸状部4の下方側に流入しようとする。ところがこの凸状部4の天井面44の高さ及び周方向の長さは、各ガスの流量などを含む運転時のプロセスパラメータにおいて当該天井面44の下方側へのガスの侵入を防止できる寸法に設定されているため、図4(b)にも示してあるようにO3ガスは扇型の凸状部4の下方側にほとんど流入できないかあるいは少し流入したとしても分離ガスノズル41付近までには到達できるものではなく、分離ガスノズル41から吐出したN2ガスにより回転方向上流側、つまり処理領域P2側に押し戻されてしまい、中心部領域Cから吐出されているN2ガスと共に、回転テーブル2の周縁と真空容器1の内周壁との隙間から排気領域6を介して排気口62に排気される。
またガスインジェクター31から下方側に供給され、回転テーブル2の表面に沿って回転方向上流側及び下流側に夫々向かうBTBASガスは、その回転方向上流側及び下流側に隣接する扇型の凸状部4の下方側に全く侵入できないかあるいは侵入したとしても第2の処理領域P1側に押し戻され、中心部領域Cから吐出されているN2ガスと共に、回転テーブル2の周縁と真空容器1の内周壁との隙間から排気領域6を介して排気口61に排気される。即ち、各分離領域Dにおいては、雰囲気中を流れる反応ガスであるBTBASガスあるいはO3ガスの侵入を阻止するが、ウエハに吸着されているガス分子はそのまま分離領域つまり扇型の凸状部4による低い天井面44の下方を通過し、成膜に寄与することになる。
このようにガスインジェクター31から供給されたBTBASガスは、周囲を流れるN2ガスの流れに乗って排気口61へと排気されるところ、例えば、BTBASガスの流れが回転テーブル2に対して大きな傾きを持って供給される場合には、BTBASガスは周囲を流れるN2ガスの流れに巻き上げられ易くなり、ウエハWの表面に到達せずに排気されてしまう場合もあり、成膜速度の低下に至るおそれもある。
この点、本実施の形態に係るガスインジェクター31は、例えば図8に示すようにガス流出孔313の設けられているインジェクター本体311の側壁部が回転テーブル2に対して垂直に配置されており、さらに案内部材315がこの側壁部に対して平行に配置されていることから、これらの間に形成されるガス吐出口316を通って処理領域P1に供給される帯状のBTBASガスの流れについても回転テーブル2に対して垂直に供給される。この結果、ガスインジェクター31のガス吐出口316から回転テーブル2までの距離は最短となり、またこの開口部を出たBTBASガスの流れに働く慣性力は回転テーブル2に向かおうとする垂直方向の力が最大となっていることから、回転テーブル2に対して傾いた状態で供給される場合と比較して、BTBASガスは周囲のN2ガスの流れに巻き上げられにくい状態で処理領域P1に供給されることとなる。
真空容器1全体のガスの流れの説明に戻ると、第1の処理領域P1のBTBASガス(第2の処理領域P2のO3ガス)は、中心部領域C内に侵入しようとするが、図6及び図11に示すように当該中心部領域Cからは分離ガスが回転テーブル2の周縁に向けて吐出されているので、この分離ガスにより侵入が阻止され、あるいは多少侵入したとしても押し戻され、この中心部領域Cを通って第2の処理領域P2(第1の処理領域P1)に流入することが阻止される。
そして分離領域Dにおいては、扇型の凸状部4の周縁部が下方に屈曲され、屈曲部46と回転テーブル2の外端面との間の隙間が既述のように狭くなっていてガスの通過を実質阻止しているので、第1の処理領域P1のBTBASガス(第2の処理領域P2のO3ガス)は、回転テーブル2の外側を介して第2の処理領域P2(第1の処理領域P1)に流入することも阻止される。従って2つの分離領域Dによって第1の処理領域P1の雰囲気と第2の処理領域P2の雰囲気とが完全に分離され、BTBASガスは排気口61に、またO3ガスは排気口62に夫々排気される。この結果、両反応ガスこの例ではBTBASガス及びO3ガスが雰囲気中においてもウエハ上においても混じり合うことがない。なおこの例では、回転テーブル2の下方側をN2ガスによりパージしているため、排気領域6に流入したガスが回転テーブル2の下方側を潜り抜けて、例えばガBTBASスがO3ガスの供給領域に流れ込むといったおそれは全くない。こうして成膜処理が終了すると、各ウエハは搬入動作と逆の動作により順次搬送アーム10により搬出される。
ここで処理パラメータの一例について記載しておくと、回転テーブル2の回転数は、300mm径のウエハWを被処理基板とする場合には例えば1rpm〜500rpm、プロセス圧力は例えば1,067Pa(8Torr)、ウエハWの加熱温度は例えば350℃、BTBASガス及びO3ガスの流量は例えば夫々100sccm及び10,000sccm、分離ガスノズル41、42からのN2ガスの流量は例えば20000sccm、真空容器1の中心部の分離ガス供給管51からのN2ガスの流量は例えば5,000sccmである。また1枚のウエハに対する反応ガス供給のサイクル数、即ちウエハWが処理領域P1、P2の各々を通過する回数は目標膜厚に応じて変わるが、多数回例えば6000回である。
上述の実施の形態によれば以下の効果がある。ガスインジェクター31を構成するインジェクター本体311の側壁部に設けられた複数のガス流出孔313より吐出されたBTBASガスを、案内部材315により案内して、インジェクター本体311の長さ方向に沿って伸びるスリット状のガス吐出口316を介して反応ガスを供給するようになっているので、案内部材315によって案内される際に、当該反応ガスをスリットの伸びる方向に分散させることができる。この結果、回転テーブル2の載置領域上に載置されたウエハWにガスインジェクター31から反応ガスを供給してウエハW表面に吸着させる本実施の形態に係る成膜装置において、インジェクター本体311の伸びる方向に均一な濃度のガスを供給することが可能となる。これにより、インジェクター本体の壁部に設けられたガス流出孔から吐出されたガスをウエハWに直接吹き付けるタイプのガスインジェクターを適用した場合と比較して、当該ガス流出孔の設けられた領域とそのほかの領域とで基板に吸着するガス量が異なるといった不具合の発生を抑制し、均一な膜を成膜することができる。
またBTBASガスを案内部材315に衝突させて案内する際に、インジェクター本体311の伸びる方向に配列されたガス流出孔313を介して当該ガスを流出させている。こうしたガス吐出孔313は例えばスリットなどと比較してコンダクタンスが小さいため、例えばBTBASガスの供給元に近いガスインジェクター31の基端側と、供給元から遠い先端側との間で濃度差を生じて、成膜された膜の膜厚がガスインジェクター31の伸びる方向に、基端側で厚く、先端側で薄くなるといった不具合の発生を抑えることもできる。
さらにまた、ガスインジェクター31は、ガス流出孔313の設けられているインジェクター本体311の側壁部が回転テーブル2に対して垂直に配置され、案内部材315がこの側壁部に対して平行に配置されていることから、BTBASガスの流れも回転テーブル2に対して垂直に供給される。この結果、回転テーブル2に対して傾いた状態で供給する場合と比較して、BTBASガスを周囲のN2ガスの流れに巻き上げられにくい状態で処理領域P1に供給し、ウエハW表面に効率的に吸着させることができる。
このほか、本実施の形態に係るガスインジェクター31は、インジェクター本体311に対して案内部材315や隙間調節部材314が着脱自在に構成されていることから、案内部材315を取り外し、ガス流出孔313の一部にシール318を貼るなどしてガス流出孔313の配置間隔を変更したり、隙間調節部材314の厚さを変更してガス吐出口316のスリットの幅を変更したりするなど、ガスインジェクター31の改造が容易となりBTBASガスの供給条件のフレキシビリティを高めることができる。
また本成膜装置は、回転テーブル2の回転方向に複数のウエハWを配置し、回転テーブル2を回転させて第1の処理領域P1と第2の処理領域P2とを順番に通過させていわゆるALD(あるいはMLD)を行うようにしているため、背景技術にて説明した枚葉式の成膜装置を用いる場合と比較して、反応ガスをパージする時間が不要となり、高いスループットで成膜処理を行うことができる。
次に、他の実施の形態に係るガスインジェクター31aについて説明する。当該他の実施の形態に係るガスインジェクター31aの適用される成膜装置は、図1〜図7を用いて説明したものと同様なので再度の説明を省略する。また、図8〜図10を用いて説明したガスインジェクター31と同様の役割を果たす構成要素については、これらと同じ符号を付した。
他の実施の形態に係るガスインジェクター31aは、図12、図13に示すようにインジェクター本体311を円筒状の部材にて構成した点と、案内部材315を断面が円弧状の部材にて構成した点とが、角筒状のインジェクター本体311に平板状の案内部材315を設けた既述の実施の形態に係るガスインジェクター31と異なっている。
本例において、例えば石英製の円管状のインジェクター本体311の側壁面には、例えば口径0.5mmのガス流出孔313がインジェクター本体311の長さ方向に沿って例えば10mmの間隔をおいて複数個、例えば34個配列されている。また案内部材315は、例えばインジェクター本体311よりも直径の大きな円筒を径方向に切り取って得られた縦断側面が円弧状の部材の長さ方向に伸びる一辺を、例えば溶接によってインジェクター本体311の外面に沿って固定した構成、即ち案内部材315の断面がインジェクター本体311の外面に沿って円弧状に形成された構成となっている。
ガス流出孔313の設けられているインジェクター本体311の壁部である側壁部の外面と案内部材315との間にはBTBASガスを吐出するスリット状のガス吐出口316が形成されており、例えば図13に示すようにガス流出孔313より吐出されたBTBASガスは案内部材315と衝突して左右に広がりながら下方に流れ、ガスインジェクター31aの長さ方向に混合されながらガス吐出口316を介して処理領域P1に供給される。この結果、当該他の実施の形態に係るガスインジェクター31aにおいても、従来型のノズルと比較して濃淡差の少ない状態で処理領域P1にBABASガスを供給することが可能となり、波打ちの少ない膜を成膜することが可能となる。
また、本例においてもガスインジェクター31aはコンダクタンスの小さなガス流出孔313を介してガス流路312からインジェクター本体311にBTBASガスを供給していることから、例えば波打ち現象の低減を目的として、従来のガスノズルの底面にコンダクタンスの大きなスリットを設けた場合と比較して、ガスインジェクター31aの先端側と基端側との濃度差が小さく、当該基端側と先端側との間で均一な厚さの膜を成膜することができる。
ここで、当該実施の形態に係るガスインジェクター31aにおいては、下方側から見たスリット状のガス吐出口316の幅は、図12に示すように例えば2mmとなっており、当該開口幅は案内部材315をインジェクター本体311に固定する際の角度やインジェクター本体311と案内部材315との径の差を変化させることにより調節することができる。図12に示すようにガスインジェクター31aから供給されるBTBASガスは、ガス吐出口316の開口する方向に斜めの傾きを持って処理領域P1に供給される。このため、ガス吐出口316から回転テーブル2に到達するまでの距離が長くなるほか、BTBASガスの流れには横方向への慣性力も働いているため、図9等に記載した記述のガスインジェクター31と比較して周囲のN2ガスの流れに巻き上げられやすい。この点においては図9等に記載したガスインジェクター31の方が、ウエハWにBTBASガスを供給する際の効率がよいといえる。また、隙間調整部材314を利用して開口部の開口幅を調整する既述のガスインジェクター31は、開口幅の調整などが簡便であるといった利点もある。
以上に説明した各実施の形態に係るガスインジェクター31、31aにおいては、反応ガスとしてBTBASガスを供給する第1の反応ガス供給手段に適用した場合について説明したが、当該ガスインジェクター31、31aを適用可能なガスはこれに限定されるものではない。例えばこれらのガスインジェクター31、31aを第2のガス供給手段に適用して、第2の反応ガスであるO3ガスを供給してもよいことは勿論である。
また、上述の各実施の形態においては、例えば図4(a)、図4(b)に示すようにガス吐出口316を回転テーブル2の回転方向上流側に配置した例を示しているが、当該ガス吐出口316の配置位置についてもこれら実施の形態中に示したものに限定されない。例えば、ガス流出孔313を配置する側壁部、隙間調節部材314及び案内部材315を、図8に示した例とは左右対称に配置してガスインジェクター31を構成し、ガス吐出口316を回転テーブル2の回転方向下流側に配してもよい。
本実施の形態に適用される反応ガスとしては、上述の例の他に、DCS[ジクロロシラン]、HCD[ヘキサジクロロシラン]、TMA[トリメチルアルミニウム]、3DMAS[トリスジメチルアミノシラン]、TEMAZ[テトラキスエチルメチルアミノジルコニウム]、TEMHF[テトラキスエチルメチルアミノハフニウム]、Sr(THD)2[ストロンチウムビステトラメチルヘプタンジオナト]、Ti(MPD)(THD)[チタニウムメチルペンタンジオナトビステトラメチルヘプタンジオナト]、モノアミノシランなどを挙げることができる。
そして前記分離ガス供給ノズル41(42)の両側に各々位置する狭隘な空間を形成する前記第1の天井面44は、図14(a)、図14(b)に前記分離ガス供給ノズル41を代表して示すように例えば300mm径のウエハWを被処理基板とする場合、ウエハWの中心WOが通過する部位において回転テーブル2の回転方向に沿った幅寸法Lが50mm以上であることが好ましい。凸状部4の両側から当該凸状部4の下方(狭隘な空間)に反応ガスが侵入することを有効に阻止するためには、前記幅寸法Lが短い場合にはそれに応じて第1の天井面44と回転テーブル2との間の距離も小さくする必要がある。更に第1の天井面44と回転テーブル2との間の距離をある寸法に設定したとすると、回転テーブル2の回転中心から離れる程、回転テーブル2の速度が速くなってくるので、反応ガスの侵入阻止効果を得るために要求される幅寸法Lは回転中心から離れる程長くなってくる。このような観点から考察すると、ウエハWの中心WOが通過する部位における前記幅寸法Lが50mmよりも小さいと、第1の天井面44と回転テーブル2との距離をかなり小さくする必要があるため、回転テーブル2を回転したときに回転テーブル2あるいはウエハWと天井面44との衝突を防止するために、回転テーブル2の振れを極力抑える工夫が要求される。更にまた回転テーブル2の回転数が高い程、凸状部4の上流側から当該凸状部4の下方側に反応ガスが侵入しやすくなるので、前記幅寸法Lを50mmよりも小さくすると、回転テーブル2の回転数を低くしなければならず、スループットの点で得策ではない。従って幅寸法Lが50mm以上であることが好ましいが、50mm以下であっても本発明の効果が得られないというものではない。即ち、前記幅寸法LがウエハWの直径の1/10〜1/1であることが好ましく、約1/6以上であることがより好ましい。なお、図14(a)においては図示の便宜上、凹部24の記載を省略してある。
ここで処理領域P1、P2及び分離領域Dの各レイアウトについて上記の実施の形態以外の他の例を挙げておく。図15はO3ガスを供給する反応ガスノズル32を搬送口15よりも回転テーブル2の回転方向上流側に位置させた例であり、このようなレイアウトであっても同様の効果が得られる。
また本実施の形態に係るガスインジェクター31、31a(図16中はガスインジェクター31だけを示してある)は、以下の構成の成膜装置にも適用することができる。即ち、分離ガスノズル41(42)の両側に狭隘な空間を形成するために低い天井面(第1の天井面)44を設けることが必要であるが、図16に示すようにガスインジェクター31、31a(反応ガスノズル32)の両側にも同様の低い天井面を設け、これら天井面を連続させる構成、つまり分離ガスノズル41(42)及びガスインジェクター31、31a(反応ガスノズル32)が設けられる箇所以外は、回転テーブル2に対向する領域全面に凸状部4を設ける構成としても同様の効果が得られる。この構成は別の見方をすれば、分離ガスノズル41(42)の両側の第1の天井面44がガスインジェクター31、31a(反応ガスノズル32)にまで広がった例である。この場合には、分離ガスノズル41(42)の両側に分離ガスが拡散し、ガスインジェクター31、31a(反応ガスノズル32)の両側に反応ガスが拡散し、両ガスが凸状部4の下方側(狭隘な空間)にて合流するが、これらのガスはガスインジェクター31、31a(反応ガスノズル32)と分離ガスノズル42(41)との間に位置する排気口61(62)から排気されることになる。
以上の実施の形態では、回転テーブル2の回転軸22が真空容器1の中心部に位置し、回転テーブル2の中心部と真空容器1の上面部との間の空間に分離ガスをパージしているが、本実施の形態に係るガスインジェクター31、31aを適用可能な成膜装置は、例えば図17に示すように構成してもよい。図17の成膜装置においては、真空容器1の中央領域の底面部14が下方側に突出していて駆動部の収容空間80を形成していると共に、真空容器1の中央領域の上面に凹部80aが形成され、真空容器1の中心部において収容空間80の底部と真空容器1の前記凹部80aの上面との間に支柱81を介在させて、ガスインジェクター31からのBTBASガスと反応ガスノズル32からのO3ガスとが前記中心部を介して混ざり合うことを防止している。
回転テーブル2を回転させる機構については、支柱81を囲むように回転スリーブ82を設けてこの回転スリーブ81に沿ってリング状の回転テーブル2を設けている。そして前記収容空間80にモーター83により駆動される駆動ギヤ部84を設け、この駆動ギヤ部84により、回転スリーブ82の下部の外周に形成されたギヤ部85を介して当該回転スリーブ82を回転させるようにしている。86、87及び88は軸受け部である。また前記収容空間80の底部にパージガス供給管74を接続すると共に、前記凹部80aの側面と回転スリーブ82の上端部との間の空間にパージガスを供給するためのパージガス供給管75を真空容器1の上部に接続している。図17では、前記凹部80aの側面と回転スリーブ82の上端部との間の空間にパージガスを供給するための開口部は左右2箇所に記載してあるが、回転スリーブ82の近傍領域を介してBTBASガスとO3ガスとが混じり合わないようにするために、開口部(パージガス供給口)の配列数を設計することが好ましい。
図17の実施の形態では、回転テーブル2側から見ると、前記凹部80aの側面と回転スリーブ82の上端部との間の空間は分離ガス吐出孔に相当し、そしてこの分離ガス吐出孔、回転スリーブ82及び支柱81により、真空容器1の中心部に位置する中心部領域が構成される。
以上述べた成膜装置を用いた基板処理装置について図18に示しておく。図18中、101は例えば25枚のウエハWを収納するフープと呼ばれる密閉型の搬送容器、102は搬送アーム103が配置された大気搬送室、104、105は大気雰囲気と真空雰囲気との間で雰囲気が切り替え可能なロードロック室(予備真空室)、106は、2基の搬送アーム107が配置された真空搬送室、108、109は本発明の成膜装置である。搬送容器101は図示しない載置台を備えた搬入搬出ポートに外部から搬送され、大気搬送室102に接続された後、図示しない開閉機構により蓋が開けられて搬送アーム103により当該搬送容器101内からウエハWが取り出される。次いでロードロック室104(105)内に搬入され当該室内を大気雰囲気から真空雰囲気に切り替え、その後搬送アーム107によりウエハWが取り出されて成膜装置108、109の一方に搬入され、既述の成膜処理がされる。このように例えば5枚処理用の本発明の成膜装置を複数個例えば2個備えることにより、いわゆるALD(MLD)を高いスループットで実施することができる。